特許第6562342号(P6562342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6562342放射性物質採取装置及び放射性物質分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562342
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】放射性物質採取装置及び放射性物質分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/167 20060101AFI20190808BHJP
   G01T 1/169 20060101ALI20190808BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   G01T1/167 C
   G01T1/169 A
   G21F9/28 501B
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-42555(P2015-42555)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2016-161491(P2016-161491A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年3月2日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム「海底土放射能分布測定ロボットの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】大西 世紀
(72)【発明者】
【氏名】ソーントン ブレア
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−257159(JP,A)
【文献】 特開2007−333419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/167−1/169
G01T 7/00
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に局所的に存在する放射性物質を採取する放射性物質採取装置であって、
平面視における特定の領域である検出領域内における放射線の強度を測定する放射線検出手段と、
前記検出領域内の物質を採取する放射性物質採取手段と、
前記放射線検出手段において検出された放射線の検出強度が、前記放射線検出手段について定められた第1の閾値を超えた場合に、前記検出領域内の物質を前記放射性物質採取手段に採取させる制御を行う制御手段と、を具備し、
前記放射線検出手段と前記放射性物質採取手段とが連動して水中を移動可能とされたことを特徴とする放射性物質採取装置。
【請求項2】
前記放射線を発した放射性物質が前記検出領域内において存在する位置である領域内位置を推定する領域内位置推定手段を具備し、
前記制御手段は、前記放射性物質採取手段に、前記領域内位置における物質を採取させることを特徴とする請求項1に記載の放射性物質採取装置。
【請求項3】
前記放射線検出手段において、平面上に離散的に配置された複数の放射線検出器が用いられ、前記領域内位置推定手段は、複数の前記放射線検出器のうち検出出力が極大値をとった前記放射線検出器の前記検出領域に対する位置関係より前記領域内位置を推定することを特徴とする請求項2に記載の放射性物質採取装置。
【請求項4】
前記放射線検出手段において、一次元配列された複数の前記放射線検出器が用いられたことを特徴とする請求項3に記載の放射性物質採取装置。
【請求項5】
前記放射線検出手段は、前記放射線検出器の配列方向が互いに交差するように、複数の前記放射線検出器がそれぞれ一次元配列された2つの測定ヘッドを具備し、
前記検出領域は、2つの前記測定ヘッドそれぞれにおいて前記放射線検出器が配列された区間によって規定され、
前記領域内位置推定手段は、2つの前記測定ヘッドのそれぞれにおいて前記検出出力が極大値をとった前記放射線検出器の前記測定ヘッドにおける位置より、前記領域内位置を推定することを特徴とする請求項4に記載の放射性物質採取装置。
【請求項6】
前記放射線検出手段において、
平面視において環状に配列された複数の前記放射線検出器が用いられ、
前記検出領域は、複数の前記放射線検出器に囲まれた領域であることを特徴とする請求項3に記載の放射性物質採取装置。
【請求項7】
前記放射線検出器は、前記放射線を吸収することにより発光するシンチレータと、前記シンチレータが発した光を検出するフォトダイオードとを具備することを特徴とする請求項3から請求項6までのいずれか1項に記載の放射性物質採取装置。
【請求項8】
前記放射線検出手段の位置である装置位置を認識する装置位置認識手段を具備し、
前記制御手段は、前記領域内位置及び前記装置位置から、前記放射線を発した放射性物質の位置である放射性物質位置を認識することを特徴とする請求項2から請求項7までのいずれか1項に記載の放射性物質採取装置。
【請求項9】
前記放射性物質位置を記憶する放射性物質位置記憶手段を具備することを特徴とする請求項8に記載の放射性物質採取装置。
【請求項10】
前記放射性物質採取手段は、前記検出領域内における物質を吸引する可撓性の吸引ホースを具備し、前記吸引ホースの吸引口が、前記領域内位置に制御されることを特徴とする請求項2から請求項9までのいずれか1項に記載の放射性物質採取装置。
【請求項11】
前記放射性物質採取手段によって採取された前記検出領域内の物質から発せられた放射線の強度を測定する試料確認手段を具備し、
前記制御手段は、前記試料確認手段において検出された放射線の検出強度が、前記試料確認手段に対して予め定められた第2の閾値以下である場合に、前記検出領域内の物質を前記放射性物質採取手段に再度取得させる制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の放射性物質採取装置。
【請求項12】
前記放射線検出手段の出力にマルチチャンネルアナライザ(MCA)及び/又はマルチチャンネルスケーラ(MCS)が接続されたことを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の放射性物質採取装置。
【請求項13】
水底に沿って移動可能とされたことを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の放射性物質採取装置。
【請求項14】
請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の放射性物質採取装置を用いて採取された前記検出領域内の物質に含まれる放射性物質の分析を行うことを特徴とする放射性物質分析方法。
【請求項15】
前記放射性物質採取装置を用いて水中における複数の測定箇所でそれぞれ前記検出領域内の物質を採取し、複数の前記測定箇所でそれぞれ採取された前記検出領域内の物質に含まれる放射性物質の水底における分布を測定することを特徴とする請求項14に記載の放射性物質分析方法。
【請求項16】
請求項9に記載の放射性物質採取装置を用いて水中における複数の測定箇所でそれぞれ前記検出領域内の物質を採取し、
複数の前記測定箇所において前記放射性物質位置記憶手段に記憶された複数の前記放射性物質位置に基づいて、複数の前記測定箇所でそれぞれ採取された前記検出領域内の物質に含まれる放射性物質の水底における分布を測定することを特徴とする放射性物質分析方法。
【請求項17】
請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の放射性物質採取装置における前記放射線検出手段を用いて複数の測定箇所に対応した複数の前記検出領域内における放射線の強度を測定し、
複数の前記測定箇所に対応した複数の前記検出領域のうち、検出された放射線の検出強度が最も高かった前記検出領域内の物質が前記放射性物質採取手段によって採取されるように前記第1の閾値を設定し、検出された放射線の強度が最も高かった前記検出領域内の物質を前記放射性物質採取手段を用いて採取し、採取された物質に含まれる放射性物質の分析を行うことを特徴とする放射性物質分析方法。
【請求項18】
水中を移動する移動体に前記放射性物質採取装置を固定し、前記放射性物質採取装置を水底における複数の前記測定箇所間で移動させることを特徴とする請求項15から請求項17までのいずれか1項に記載の放射性物質分析方法。
【請求項19】
前記移動体は遠隔操作無人探査機(ROV)であることを特徴とする請求項18に記載の放射性物質分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の海底等における放射性物質を採取する放射性物質採取装置、これを用いた放射性物質分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性同位元素を含んだ放射性物質が飛散した場合には、その分布を測定することが重要であり、このためには、放射性同位元素が発する放射線(ガンマ線等)を放射線検出器によって計測することが有効である。例えば放射線関連施設から飛散した放射性物質を対象とする場合には、地上においては、こうした放射性物質は地表付近に集中的に存在することは明らかである。このため、その水平方向の分布を知ることが特に重要となる。
【0003】
一方、放射性物質は、地上だけでなく海にも飛散し、この場合には海底(水底)に堆積し、例えば粒子状の放射性物質片が海底における特定の場所に存在する。海底においてこうした放射性物質片の分布を測定するためには、海中に投入された小型の測定装置を用いて海底における放射線の測定を行い、これを海上の船舶等から遠隔操作によって行うことが必要となる。具体的には、例えば、特許文献1に記載されるように、放射線検出器が搭載された機器を海底で走査する方式を用いることができる。また、特許文献2に記載されるように、測定装置を海中に投下し、海底の放射線を測定した後に測定装置を浮上させる方式も用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3181739号公報
【特許文献2】特開2013−242219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、小さな粒子状の形態で極めて局所的に存在している放射性物質片を検出するためには、海底における広い範囲において数多くの測定を行う必要があった。すなわち、効率的な測定を行うことが困難であった。
【0006】
更に、仮に上記の方法によって放射性物質片を検出した(放射線強度が高い狭い領域を認識した)場合には、その場所を正確に認識することが重要である。地上においては、GPS(Global Positioning System)等を用いてこの場所を正確に認識するのが容易であるのに対して、海底ではGPS信号を受信することが困難であるために、こうした放射性物質片の正確な位置情報を正確に得ることも困難であった。
【0007】
従って、水中の局所的に分布する放射性物質の分析を効率的に行うことは困難であった。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、水中における放射性物質の検出を高精度で行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の請求項1に係る放射性物質採取装置は、水中に局所的に存在する放射性物質を採取する放射性物質採取装置であって、平面視における特定の領域である検出領域内における放射線の強度を測定する放射線検出手段と、前記検出領域内の物質を採取する放射性物質採取手段と、前記放射線検出手段において検出された放射線の検出強度が、前記放射線検出手段について定められた第1の閾値を超えた場合に、前記検出領域内の物質を前記放射性物質採取手段に採取させる制御を行う制御手段と、を具備し、前記放射線検出手段と前記放射性物質採取手段とが連動して水中を移動可能とされたことを特徴とする。
この発明においては、放射線検出部によって、水中における特定の検出領域内に放射性物質が存在していると認識された場合に、この検出領域内の物質が放射性物質採取手段によって採取される。この際、放射線検出手段と放射性物質採取手段は、放射性物質の分布を測定すべき水中を連動して移動可能とされる。
本発明の請求項2に係る放射性物質採取装置は、前記放射線を発した放射性物質が前記検出領域内において存在する位置である領域内位置を推定する領域内位置推定手段を具備し、前記制御手段は、前記放射性物質採取手段に、前記領域内位置における物質を採取させることを特徴とする。
この発明においては、検出領域内における放射性物質の位置(領域内位置)が推定され、この位置における物質が選択されて放射性物質採取手段に採取される。ここで推定される領域内位置とは、放射線検出手段に対する放射性物質の相対的な位置関係であり、検出された放射性物質の絶対的な位置座標ではない。
本発明の請求項3に係る放射性物質採取装置は、前記放射線検出手段において、平面上に離散的に配置された複数の放射線検出器が用いられ、前記領域内位置推定手段は、複数の前記放射線検出器のうち検出出力が極大値をとった前記放射線検出器の前記検出領域に対する位置関係より前記領域内位置を推定することを特徴とする。
この発明においては、放射線検出手段において用いられた複数の放射線検出器において放射線の検出強度が極大であったものと、検出領域との間の位置関係に基づいて領域内位置が推定される。
【0010】
本発明の請求項4に係る放射性物質採取装置は、前記放射線検出手段において、一次元配列された複数の前記放射線検出器が用いられたことを特徴とする。
この発明においては、一次元配列された複数の放射線検出器が放射線検出手段において用いられる。
本発明の請求項5に係る放射性物質採取装置において、前記放射線検出手段は、前記放射線検出器の配列方向が互いに交差するように、複数の前記放射線検出器がそれぞれ一次元配列された2つの測定ヘッドを具備し、前記検出領域は、2つの前記測定ヘッドそれぞれにおいて前記放射線検出器が配列された区間によって規定され、前記領域内位置推定手段は、2つの前記測定ヘッドのそれぞれにおいて前記検出出力が極大値をとった前記放射線検出器の前記測定ヘッドにおける位置より、前記領域内位置を推定することを特徴とする。
この発明においては、放射線検出手段において、交差する2つの測定ヘッドが用いられ、検出領域は、この測定ヘッドによって規定される。また、領域内位置は、2つの測定ヘッドそれぞれの中における検出強度が極大となった放射線検出器の位置に基づいて推定される。
本発明の請求項6に係る放射性物質採取装置は、前記放射線検出手段において、平面視において環状に配列された複数の前記放射線検出器が用いられ、前記検出領域は、複数の前記放射線検出器に囲まれた領域であることを特徴とする。
この発明においては、放射線検出手段において、環状に配列された放射線検出器が用いられる。また、検出領域は、この複数の放射線検出器で囲まれた領域となる。
本発明の請求項7に係る放射性物質採取装置において、前記放射線検出器は、前記放射線を吸収することにより発光するシンチレータと、前記シンチレータが発した光を検出するフォトダイオードとを具備することを特徴とする。
この発明においては、シンチレータとフォトダイオードとが組み合わされた放射線検出器が用いられる。
【0011】
本発明の請求項8に係る放射性物質採取装置は、前記放射線検出手段の位置である装置位置を認識する装置位置認識手段を具備し、前記制御手段は、前記領域内位置及び前記装置位置から、前記放射線を発した放射性物質の位置である放射性物質位置を認識することを特徴とする。
この発明においては、放射線検出手段の絶対的な位置である装置位置が装置位置認識手段によって認識される。このため、この装置位置と領域内位置に基づいて、放射性物質が存在すると推定される絶対的な位置(放射性物質位置)が推定される。
本発明の請求項9に係る放射性物質採取装置は、前記放射性物質位置を記憶する放射性物質位置記憶手段を具備することを特徴とする。
この発明においては、放射性物質位置が放射性物質位置記憶手段によって記憶される。このため、放射性物質が採取されると同時に、放射性物質が存在した位置(絶対的な位置)の情報も放射性物質採取装置内において記憶される。
本発明の請求項10に係る放射性物質採取装置において、前記放射性物質採取手段は、前記検出領域内における物質を吸引する可撓性の吸引ホースを具備し、前記吸引ホースの吸引口が、前記領域内位置に制御されることを特徴とする。
この発明においては、可撓性の吸引ホースによって、検出領域内の領域内位置における物質が吸引される。
本発明の請求項11に係る放射性物質採取装置は、前記放射性物質採取手段によって採取された前記検出領域内の物質から発せられた放射線の強度を測定する試料確認手段を具備し、前記制御手段は、前記試料確認手段において検出された放射線の検出強度が、前記試料確認手段に対して予め定められた第2の閾値以下である場合に、前記検出領域内の物質を前記放射性物質採取手段に再度取得させる制御を行うことを特徴とする。
この発明においては、採取された物質内における放射性物質の有無が判定され、放射性物質が存在しないと判定されると、物質の採取が再度行われる。
本発明の請求項12に係る放射性物質採取装置は、前記放射線検出手段の出力にマルチチャンネルアナライザ(MCA)及び/又はマルチチャンネルスケーラ(MCS)が接続されたことを特徴とする。
この発明においては、マルチチャンネルアナライザ(MCA)、マルチチャンネルスケーラ(MCS)が用いられることにより、同時に複数種類のエネルギーの放射線の強度を測定することができる。
本発明の請求項13に係る放射性物質採取装置は、水底に沿って移動可能とされたことを特徴とする。
この発明においては、放射性物質採取装置が水底に沿って移動可能とされるため、放射性物質採取装置が水底を走査することができる。
【0012】
本発明の請求項14に係る放射性物質分析方法は、前記放射性物質採取装置を用いて採取された前記検出領域内の物質に含まれる放射性物質の分析を行うことを特徴とする。
この発明においては、上記の放射性物質採取装置を用いて採取された放射性物質が、地上等で分析される。
本発明の請求項15に係る放射性物質分析方法は、前記放射性物質採取装置を用いて水中における複数の測定箇所でそれぞれ前記検出領域内の物質を採取し、複数の前記測定箇所でそれぞれ採取された前記検出領域内の物質に含まれる放射性物質の水底における分布を測定することを特徴とする。
この発明においては、複数の測定箇所においてそれぞれ検出領域内の物質が採取される。これによって、放射性物質の水底における分布が測定される。
本発明の請求項16に係る放射性物質分析方法は、前記放射性物質採取装置を用いて水中における複数の測定箇所でそれぞれ前記検出領域内の物質を採取し、複数の前記測定箇所において前記放射性物質位置記憶手段に記憶された複数の前記放射性物質位置に基づいて、複数の前記測定箇所でそれぞれ採取された前記検出領域内の物質に含まれる放射性物質の水底における分布を測定することを特徴とする。
この発明においては、複数の測定箇所においてそれぞれ検出領域内の物質が採取されるだけでなく、複数の測定箇所のそれぞれにおける放射性物質位置も認識される。これによって、放射性物質の水底における分布が測定される。
本発明の請求項17に係る放射性物質分析方法は、前記放射性物質採取装置における前記放射線検出手段を用いて複数の測定箇所に対応した複数の前記検出領域内における放射線の強度を測定し、複数の前記測定箇所に対応した複数の前記検出領域のうち、検出された放射線の検出強度が最も高かった前記検出領域内の物質が前記放射性物質採取手段によって採取されるように前記第1の閾値を設定し、検出された放射線の強度が最も高かった前記検出領域内の物質を前記放射性物質採取手段を用いて採取し、採取された物質に含まれる放射性物質の分析を行うことを特徴とする。
この発明においては、前記の放射性物質採取装置において、まず、放射線検出手段のみを用いて複数の測定箇所に対応した複数の検出領域で測定が行われる。測定が行われた検出領域のうち、最も放射線の検出強度が高かった検出領域における検出強度に基づいて、第1の閾値が設定される。その後、放射性物質採取手段を用いて、この検出領域内の物質が採取される。
本発明の請求項18に係る放射性物質分析方法は、水中を移動する移動体に前記放射性物質採取装置を固定し、前記放射性物質採取装置を水底における複数の前記測定箇所間で移動させることを特徴とする。
この発明においては、移動体を用いて上記の放射性物質採取装置を水底で走査することによって、複数の測定箇所における放射性物質が採取される。
本発明の請求項19に係る放射性物質分析方法において、前記移動体は遠隔操作無人探査機(ROV)であることを特徴とする。
この発明においては、遠隔操作無人探査機(ROV)を用いて上記の移動が行われる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の放射性物質採取装置は以上のように構成されているので、特に水底に局所的に存在する小さな放射性物質片を高効率で採取することができ、この放射性物質片の分析を採取後に地上等で高精度で行うことができる。
この際、領域内位置推定手段が用いられることによって、小さな放射性物質片を領域内位置において、より効率的に採取することができる。また、領域内位置(検出領域内における放射性物質片の相対的位置)と装置位置(放射線検出手段等の絶対的な位置)とを組み合わせて用いることによって、採取された放射性物質片の存在した絶対的な位置を正確に認識することができる。また、放射性物質の分布を正確に求めることができる。
また、一次元配列された放射線検出器を放射線検出手段において用いることによって、簡易な構成で放射性物質片の領域内位置を推定でき、特に2つの測定ヘッドを用いることによって、領域内位置の推定をより容易に行うことができる。放射線検出手段をこうした簡易な構成とすることによって、放射線検出手段を小型軽量とすることができ、その移動(走査)がより容易となる。特に、シンチレータとフォトダイオードを組み合わせた放射線検出器を用いれば、個々の放射線検出器を小型軽量とすることができ、低出力の電源を用いても放射線検出器を動作させることができるため、水中等で用いる場合に特に好ましい。
また、吸引口の位置を変えることが容易である可撓性の吸引ホースが用いられる場合には、放射性物質片が存在すると推定された領域内位置における物質を選択的に吸引する動作を特に容易に行うことができる。試料確認手段を用いた場合には、より確実に放射性物質片を採取することができる。
また、放射線検出手段においてMCAやMCSを用いることにより、特定の核種を含む放射性物質を選択的に採取する、あるいは存在すると認識された放射性物質に含まれる核種を認識することができる。
【0014】
また、本発明の放射性物質分析方法においては、上記の放射性物質採取装置を用いることによって、採取された放射性物質片を地上等で高精度で分析することができ、かつその分布状況も正確に調べることができる。特に、こうした放射性物質分析方法は、放射性物質片の採取が困難でありかつその正確な位置を求めることが困難である水中(海中)における放射性物質を調べる際に好適である。
この際、初めに放射線検出手段のみを用いて複数の測定箇所において放射線強度を検出し、最も高い放射線強度が得られた測定箇所における放射線強度から第1の閾値を設定してから、改めて放射性物質採取手段に検出領域内の物質を採取させれば、特に放射線強度の高い土壌を選択的かつ効率的に採取することができる。
この場合に、ROVをこの放射性物質採取装置と組み合わせることによって、水中等における放射性物質片の採取を精密かつ容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る放射性物質採取装置が使用される際の形態を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る放射性物質採取装置における放射線検出手段の構成を示す側面図(a)、上面図(b)である。
図3】本発明の実施の形態に係る放射性物質採取装置における放射性物質採取手段の構成を示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る放射性物質採取装置の構成とROV等との接続を示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る放射性物質採取装置における放射線検出手段及び放射性物質採取手段の変形例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態となる放射性物質採取装置、放射性物質分析方法について説明する。この放射性物質採取装置は、海底において特に局所的に存在する放射性物質を測定するために好適に用いられる。この放射性物質採取装置は、例えばROV(Remotely Operated Vechle:遠隔操作無人探査機)等の移動体に搭載(固定)されて用いられる。このため、この放射性物質採取装置は、移動体と共に海底を移動することができる。
【0017】
図1は、この放射性物質採取装置1がROV100に固定されて使用される場合の構成を示す。ROV100は、ROV100の周囲においてこれを保護するために設けられた篭状のフレーム110内に搭載され、海面S下に投入され、フレーム110が海底Bに着底することによって、ROV100の位置は海底Bに対して定まる。ただし、この状態でROV100は海底B上を移動することができる。
【0018】
この放射性物質採取装置1は、放射線検出部(放射線検出手段)10と、放射性物質採取部(放射性物質採取手段)20を具備する。これらは、フレーム110を介してROV100に固定されている。このため、放射線検出部10と放射性物質採取部20は、一体化されてROV100と共に海底B上を移動する。なお、後述する放射性物質採取装置制御部(制御手段)30は、放射性物質採取部20内に搭載されている。放射線検出部10は、海底Bにおける放射性物質片(局所的に放射線強度の高い領域)の有無を認識し、放射性物質片が認識された場合に、その周囲の土壌や海水とともに放射性物質採取部20によって採取する。
【0019】
図2は、放射線検出部10の構成を示す側面図(a)、上面図(b)である。ここで、側面図、上面図とは、実際にこの放射線検出部10が使用される際の状態に対応している。この放射線検出部10は、基部11と、基部11との連結部で90°の角度で交差する測定ヘッド12A、12Bとで構成される。ヘッド12A、12Bの長手方向が含まれる平面は、放射線検出部10が載置された海底Bと重複する、あるいは海底Bと近接するように構成される。測定ヘッド12A、12Bには、図2(b)において模式的に示されるようにそれぞれ放射線検出器121が長手方向にわたり12個ずつ配列されている。
【0020】
ここで、測定ヘッド12A、12Bは90°の角度で交差するために、図2(b)に示されるように、12個ずつの放射線検出器121に対応させて、ヘッド12A、12Bの長手方向が含まれる平面上における仮想的な格子で形成される検出領域Rを設定することができる。図2(b)においては、この検出領域R中に図示された箇所に放射性物質片Pが存在するものとする。この場合における測定ヘッド12A中の12個の放射線検出器121で検出される放射線強度、測定ヘッド12B中の12個の放射線検出器121で検出される放射線強度が、それぞれ、図2(b)において測定ヘッド12A、12Bに隣接して模式的に示されている。すなわち、格子上の図示された位置に放射性物質片Pが存在した場合には、測定ヘッド12A中の放射線検出器121、測定ヘッド12B中の放射線検出器121によって放射性物質片Pが発する放射線が検出され、測定ヘッド12Aにおいては放射性物質片Pと最も近い距離に設けられた左から5番目の放射線検出器121、測定ヘッド12Bにおいては放射性物質片Pと最も近い距離に設けられた左から6番目の放射線検出器121における検出強度が最も高くなる。すなわち、測定ヘッド12Aにおいて最も検出強度の高かった放射線検出器121の位置と、測定ヘッド12Bにおいて最も検出強度の高かった放射線検出器121の位置に対応した位置に放射性物質片Pが存在すると推定することができる。
【0021】
また、図2(b)中に示された検出領域R内に放射性物質片Pが存在すれば、測定ヘッド12A中の少なくともいずれかの放射線検出器121、及び測定ヘッド12B中の少なくともいずれかの放射線検出器121の検出強度が高くなる。例えば、図2(b)において放射性物質片Pが測定ヘッド12Aの上側に存在した場合には、測定ヘッド12A中のいずれかの放射線検出器121における検出強度は高くなるものの、放射性物質片Pの発する放射線は測定ヘッド12Aによって遮られるために、測定ヘッド12Bにおけるどの放射線検出器121における検出強度も高くならない。このため、放射線検出器121における検出強度に閾値(第1の閾値)を設定し、測定ヘッド12A中の少なくともいずれかの放射線検出器121、及び測定ヘッド12B中の少なくともいずれかの放射線検出器121の検出強度がこの閾値を超えた場合には、検出領域R内のどこかに放射性物質片Pが存在していると推定できる。以下では、放射線検出器121等の検出強度がこの閾値を超えた場合を「放射線が検出された」とする。
【0022】
ここで、測定ヘッド12A、12Bの長さは例えば30cm程度とすることができる。この場合には、上記の構成により、30cm角の検出領域R内に例えば1cm以下の大きさの小さな放射性物質片Pが存在した場合にも、放射性物質片Pがこの検出領域R内に存在することを認識し、検出領域R内における位置(領域内位置)を推定することができる。ここで、この位置は、測定ヘッド12A、12B(放射線検出部10)に対する相対的な位置である。
【0023】
検出領域R内に放射性物質片Pが存在すると認識されたら、放射性物質採取部20は、前記の通りに放射性物質片Pが存在すると推定された領域の物質を吸引する。放射性物質採取部20と放射線検出部10の位置関係が固定されていれば、放射性物質片Pの絶対的な位置情報が不明でも、上記の領域内位置が判明すれば、こうした制御が可能である。ここで、放射性物質片Pは海底Bの土壌に混在しているが、海底Bの土壌だけでなく海水も同時に吸引される。図3は、この放射性物質採取部20の構成を示す図である。放射性物質採取部20においては、可撓性の吸引ホース21から吸引ポンプ22によって、海底Bの土壌を海水と共に吸引する。吸引ホース21の先端の吸引口21Aの位置は、図1に示されたマニピュレータ23(図3においては図示せず)によって、調整される。吸引された物質は、分離部24によって、比重の大きな土壌と、比重の軽い海水とに分離され、海水は上側の海水排出部25から再び海中に排出される。一方、放射性物質片Pを含む土壌は、下側の試料タンク26に沈殿した状態で溜められる。
【0024】
ここで、試料タンク26には、前記の放射線検出器121と同様に試料タンク26内の物質の発する放射線を検出する試料確認用放射線検出器(試料確認手段)27が設けられている。前記の放射線検出器121と同様に、試料確認用放射線検出器27による検出強度が、試料確認用放射線検出器27について予め定められた第2の閾値を超えた場合に、試料タンク26内に放射性物質が存在する、すなわち、放射性物質片Pが試料タンク26中に採取されたと認識することができる。
【0025】
図4は、上記の放射線検出部10、放射性物質採取部20を含めた図1の構成における制御系統の構成を示す図である。ここでは、ROV100を制御するために用いられる船舶300内の構成についても示されている。図4においては、船舶300のみが海上(海面Sの上側)にあり、これ以外は海中(海面Sの下側)に存在する。
【0026】
船舶300においては、作業者によって操作され全体の制御を行う全体制御部301と、これに電力を供給する電源302が設けられている。全体制御部301としては、例えばパーソナルコンピュータ等を用いることができる。また、船舶300は海上に位置するために、GPS信号を受信して自身の位置を正確に認識することができる。こうした機能を有する位置情報取得部303も船舶300に搭載され、この位置を全体制御部301が認識することができる。
【0027】
ROV100側と船舶300(全体制御部301)との間の制御信号等のやりとりは、光ファイバ304を介して海水中で行われる。ROV100内の構成要素や放射線検出部10、放射性物質採取部20に対する電力の供給は、ROV100内に設けられたROV側電源101によって行われ、ROV100は、船舶300とは異なる動力源によって動作する。また、ROV100自身、放射性物質採取装置(放射線検出部10、放射性物質採取部20)の制御は、ROV100に搭載されたROV制御部102によって行われる。ROV100は、海底B上を移動することができ、この制御もROV制御部102によって行われる。
【0028】
ROV100の海中における動作は、ROV制御部102によって、制御される。このため、ROV制御部102には、センサ部103の出力が入力される。センサ部103には、ROV100の深度を認識するための深度センサ、移動加速度を認識する加速度センサ、姿勢を認識する姿勢センサ、海水の状況を認識するための塩分計等が設けられる。また、前記の通り、ROV制御部102には船舶300側から船舶300の正確な位置情報が入力される。このため、初期状態におけるROV100の船舶300に対する位置が正確に認識されれば、その後にROV100が移動した場合でも、ROV制御部102はROV100の正確な位置を認識することができる。また、ROV100の正確な位置の認識には、慣性航法装置やドップラーソナーを用いてもよい。
【0029】
移動/姿勢制御用スラスタ104は、ROV100を海底B上で移動させる、あるいはその姿勢(方向)を制御するための動力機関である。ROV制御部102は、船舶300側からの信号により、移動/姿勢制御用スラスタ104を用いて、ROV100を海底B上で移動させ、その姿勢(方向)を制御することができる。この際、ROV100にフレーム110を介して固定された放射線検出部10、放射性物質採取部20も同時に移動する。このため、ROV制御部102は、放射線検出部10も移動させ、センサ部103によって放射線検出部10の位置や姿勢も正確に認識することができる。
【0030】
放射線検出部10において測定ヘッド12A、12B中に設けられる放射線検出器121としては、検出対象とする放射性物質片Pが発する放射線(特性γ線等)を検出することができ、かつ、この電源としてROV側電源101を用いることができるものであれば、任意のものを用いることができる。例えば、放射線を吸収することによって可視光域での発光をするシンチレータと、この可視光を検出するフォトダイオード等を組み合わせた放射線検出器121を用いることができる。シンチレータとしては、例えば1辺が1cm程度のCsI(Tl)結晶が用いられる。また、各フォトダイオードには、検出信号を増幅するプリアンプも接続されている。
【0031】
この場合、シンチレータが吸収した放射線は、フォトダイオードの出力におけるパルスとして認識され、そのパルス高は、放射線のエネルギーに対応する。このため、放射線検出器121の出力は、図2における基部11内に設けられたMCA(マルチチャンネルアナライザ)122に入力され、MCA122を用いることにより、複数種のエネルギー毎の放射線を計数することができる。これにより、例えば特定のエネルギーのγ線の計数を行うことによってこのエネルギーのγ線を発する特定の核種を選択的に検出することもでき、例えば22Naの発する特性ガンマ線に対応する511keV、137Csが発する特性ガンマ線に対応する662keVのガンマ線の強度を、単一の放射線検出器121においてそれぞれ別個に検出することができる。また、放射線検出器121の検出出力におけるエネルギー毎の検出強度(カウント数)のデータをROV制御部102を介して海上の全体制御部301に送信し、作業者が、認識された放射性物質片Pに含まれる放射性の核種を認識することができる。なお、放射性物質採取部20に設けられた試料確認用放射線検出器27としても、放射線検出器121と同様の構成のものを用いることができる。
【0032】
MCA122に加え、あるいはMCA122に変わって、MCS(マルチチャンネルスケーラ)を用いることもできる。この場合には、放射線検出器121の検出スペクトル(出力パルス高の分布)の時間変化を検出することができる。このため、上記と同様の解析が可能であることに加え、例えばROV100の移動中における放射線検出器121の測定結果より、検出強度の高い位置にROV100を移動させる制御をROV制御部102が行うことも可能である。
【0033】
また、放射性物質採取部20や放射線検出部10の動作を制御するための放射性物質採取装置制御部(制御手段)30が設けられている。前記の通り、実際には放射性物質採取装置制御部30は、放射性物質採取部20内に設けられているが、放射性物質採取装置制御部30を放射線検出部10やROV100に設置してもよい。あるいは、ROV制御部102が放射性物質採取装置制御部30を兼ねてもよい。
【0034】
MCA122を介した各放射線検出器121の出力は、放射性物質採取装置制御部30に入力する。前記の通り、測定ヘッド12A、12Bで規定された検出領域内に放射性物質片Pが存在すると認識され、かつ測定ヘッド12Aにおける放射線検出器121のうち検出強度が最大となったものが存在し、測定ヘッド12Bにおける放射線検出器121のうち検出強度が最大となったものが存在した場合には、放射性物質採取装置制御部30は、測定ヘッド12A、12Bのそれぞれにおいてどの放射線検出器121の検出強度が最も高くなったかを認識し、放射性物質片Pの領域内位置を認識する。
【0035】
放射性物質採取装置制御部30には、ROV制御部102を介して放射線検出部10の位置や姿勢の情報が入力される。このため、放射性物質採取装置制御部30は、放射線検出部10の位置(装置位置)を認識する装置位置認識手段としても機能する。このため、結局、放射性物質採取装置制御部30は、装置位置と領域内位置より、放射性物質片Pが存在すると推定される位置を認識することができる。ここで認識される放射性物質片Pの位置(放射性物質位置)は、GPS信号等を基準とした絶対的な位置である。この放射性物質位置は、不揮発性メモリ等で構成された放射性物質位置記憶部(放射性物質記憶手段)31に記憶される。これにより、この放射性物質採取装置1においては、放射性物質片Pが採取されると同時に、放射性物質片Pが存在した位置も放射性物質位置記憶部31に記憶される。
【0036】
放射性物質採取部20には、吸引ホース21に係止されその先端の位置によって吸引ホース21の吸水口21Aの位置を平面上で移動させることのできるマニピュレータ23が設けられている。上記のように強度が最大となった放射線検出器121が認識されたら、放射性物質採取装置制御部30は、これによって推定される放射性物質片Pの位置に吸引ホース21の吸水口が位置するように、マニピュレータ28を制御する。その後、検出器制御部27は、吸引ポンプ22をオンさせることによって、試料タンク25内に、この位置を含む領域の土壌を溜めることができる。
【0037】
この際、試料確認用放射線検出器27が放射線を検出した場合には、放射性物質採取装置制御部30は、放射性物質片Pが試料タンク26に収容されたと認識することができ、その旨と、放射性物質Pの位置(あるいは領域内位置)をROV制御部102を介して海上の全体制御部301に伝えることができる。仮に試料確認用放射線検出器27が放射線を検出できなかった場合には、放射性物質片Pの採取に失敗したと認識し、放射性物質採取装置制御部30は、再度同じ場所を吸引させる、あるいは、隣接する領域を順次吸引させる等の動作を行わせることができる。試料確認用放射線検出器27が放射線を検出するまでこの動作を繰り返し、ある所定の回数この動作を行った場合でも試料確認用放射線検出器27が放射線を検出できなかった場合には、放射性物質採取装置制御部30は、その旨をROV制御部102を介して海上の全体制御部301に伝えることができる。また、試料確認用放射線検出器27で確認された核種と放射線測定器10の放射線検出器121で確認された核種が異なる場合には、土壌の採取を再び行わせることができる。あるいは、その旨を全体制御部301に伝えることのみを行わせ、土壌の再採取は行わせなくともよい。
【0038】
また、測定ヘッド12A、12Bにおける放射線検出器121が放射線を検出したが、その検出強度にピークが複数箇所存在した場合には、その旨をROV制御部102を介して海上の全体制御部301に伝えることができ、どのピークに対応した位置を吸引するかの指示を全体制御部301から受けることができる。また、測定ヘッド12A、12Bにおける放射線検出器121が放射線を検出したが、測定ヘッド12A、12Bの少なくともいずれかにおいて一様な検出強度が得られ、ピークが認識されなかった場合には、図2(b)の格子領域内の広い範囲で一様に放射性物質が分布していると認識され、その旨もROV制御部102を介して海上の全体制御部301に伝えることができる。この場合には、少なくとも放射性物質が分布していると認識される領域から同様に土壌を採取することができる。
【0039】
放射性物質片Pが試料タンク26に収容されたと認識された場合には、船舶300にいる作業者は、全体制御部301からの情報によって、この旨と放射性物質片Pの位置を知ることができる。これによって、作業者は、全体制御部301を操作し、ROV100等を回収し、その後で放射性物質採取部20(試料タンク26)から放射性物質片Pを含む土壌を回収することができる。その後、この土壌(放射性物質片)の分析は、地上において各種の分析方法によって行うことができる。
【0040】
その後、同様の作業を複数の測定箇所においてそれぞれ行い、各測定箇所において放射性物質片Pが含まれる物質(土壌)を採取することができる。この物質を地上で試料タンク26から取り出し、放射性物質片P(放射性物質)の分析(組成分析等)を改めて行うことができる。この際、複数の測定箇所で得られた分析結果から、放射性物質の海底Bにおける分布を測定することができる。この際、放射性物質位置記憶部31に記憶された放射性物質位置を用いることによって、この分布を高精度で求めることができる。
【0041】
あるいは、放射性物質採取部20において試料タンク26を複数設け、各測定箇所において吸引した土壌を各試料タンク26に順次収容する構成とし、全ての試料タンク26に放射性物質片Pが収容された場合に、ROV100を海上に回収することもできる。この際、測定箇所毎に求められた放射性物質位置を各試料タンク26に対応させて放射性物質位置記憶部31に記憶させることによって、放射性物質の分布を容易かつ高精度で求めることができる。
【0042】
上記の放射線検出部10においては、図2(b)における検出領域R内に放射性物質片Pが存在することを認識するために、互いに交差する測定ヘッド12A、12Bが用いられた。しかしながら、放射線検出部としては、吸引可能な特定の領域(検出領域)内に放射性物質片Pが存在することを認識できるものであれば、図2以外の構成のものを用いることもできる。例えば、図2の構成において、測定ヘッド12A、12Bのうちの一方のみが後いられ、基部11に対するその設定角度が切り替えられる構成とすることもできる。こうした構成においても、放射性物質片Pの位置が時間的に変動することがなければ、角度を切り替えた前後の検出結果を上記と同様に用いて、放射性物質片Pの有無及びその位置を推定することができる。更に、単一の放射線検出器を用い、これを図2(b)における測定ヘッド12A、12Bの長手方向に沿って走査させることによっても、同様の動作を行うことができる。こうした場合においては、放射線検出器の数をより少なくして検出領域Rを図2(b)と同様に設定することができる。
【0043】
あるいは、放射線を検出することのできる画素(ピクセル)が2次元に配列された配列型放射線検出器を用いることもできる。この場合には、放射性物質位置、あるいは放射性物質の分布をより正確に求めることができる。ただし、この場合には、放射性物質片Pに最も近いと推定された画素が存在した箇所の土壌を吸引するためには、配列型放射線検出器を移動させることが必要となる。また、この場合には、検出信号の処理が複雑になるため、これに対応した処理部も放射線検出部に搭載する必要がある。
【0044】
また、放射性物質検出部として、図5に示されたように、放射線検出器121を平面視における環状に配置した構成のものを用いることができる。この場合には、マニピュレータが用いられず、吸引ホース21における吸引口21Aが円形状とされ、これに対応した広い円形の広い領域(検出領域R)の土壌を吸引することができる。検出領域Rの外周上(円周上)に、複数の放射線検出器121が配置されている。この場合には、配列された全ての放射線検出器121が放射線を検出した場合において、この検出領域R内に放射性物質片Pが存在すると認識することができる。
【0045】
この場合においても、放射性物質片Pに最も近い放射線検出器121の検出出力が最も高くなる。例えばこの検出出力と、この放射線検出器121に対向する位置にある放射線検出器121の検出出力との比率を解析することによって、検出領域R内における放射性物質片Pの位置(領域内位置)を推定することができる。
【0046】
このため、吸引口21A及び複数の放射線検出器121を連動させて海底B上を移動できる構成とすれば、上記と同様に放射性物質片Pの位置を求め、これを採取することができる。この場合には、マニピュレータを用いずに、吸引ホース21(放射性物質採取部)と放射線検出器121(放射線検出部)は共にROV100の移動に伴って海底B上を移動するため、ROV100の移動に伴って放射性物質採取装置が海底B上を走査することができる。また、ROV100が移動をすることなく、吸引口21Aを移動させて放射性物質片Pの位置に臨ませ試料を採取することもできる。あるいは、マニピュレータを用い、マニピュレータによって吸引ホース21と共に、図5の構成を維持した状態で複数の放射線検出器212が移動する構成としてもよい。
【0047】
また、図5に示されるように、放射線検出器121を環状に配置した構成の場合、全ての放射線検出器121の検出強度が同等となった場合には、検出領域R(吸引口21A)の中央に放射性物質片Pが存在すると推定できる。このため、こうした検出出力が得られるようにROV100を移動させ、放射性物質片Pが吸引口21Aの中央に来るようにしてから吸引を行うことにより、放射性物質片Pをより効率的に採取することができる。
【0048】
上記の放射線検出部10における各放射線検出器121に対しては、放射線検出器121間における検出強度の大小関係が認識できることと、検出強度が第1の閾値を超えたか否かを認識できることが要求され、例えば放射性物質片Pの発する放射線強度に対する精密な測定精度は要求されない。このため、放射線検出器121としては、上記のとおり、シンチレータとフォトダイオードとを組み合わせた小型軽量のものを用いることができる。また、放射性物質採取部20も、吸引ポンプ22等を用いた単純な構成とされる。このため、放射線検出部10と放射性物質採取部20を共に小型軽量とすることができ、これらをROV100に装着して海底B上を走査することは容易である。
【0049】
なお、上記の構成では、放射性物質採取装置制御部30は、放射線検出部10の出力に基づいて放射性物質採取部20を動作させる制御手段、検出領域R内における放射性物質片Pの位置(領域内位置)を推定する領域内位置推定手段、放射線検出部10の位置情報を外部から入手し認識する装置位置認識手段の全てとして機能している。しかしながら、これらの各手段として、分離された別々の構成要素を用いてもよい。この場合、各構成要素を海中、地上のどこに配置するかは、適宜設定することができる。放射性物質記憶部31についても同様であり、これをどこに配置してもよい。
【0050】
また、例えば図5の構成において、放射性物質片Pの位置(領域内位置)を推定しない構成としてもよい。この場合においても、例えば装置位置認識手段を具備すれば、放射性物質Pの位置を装置位置に対応させることが可能である。この場合においても、精度は低くなるものの、放射性物質の分布を測定することが可能である。
【0051】
その他、同様に領域内の放射性物質片Pを認識することができ、かつこの領域内における放射性物質片Pを含む土壌等を吸引できる構成であれば、放射線検出手段、放射性物質採取手段として、他の構成のものを用いることができる。
【0052】
また、上記の放射性物質採取装置1においては、放射線検出部10において設定された第1の閾値に応じて、検出領域R内の物質が採取される。このため、第1の閾値の設定は重要であり、これを放射線検出器121における実際の検出強度に応じて定めることができる。この場合には、例えば、放射線検出部10(放射性物質採取装置1)を、放射性物質採取部20を動作させずに複数の測定箇所にわたり移動させ、この間における放射線検出器121の出力を実際にモニターし、これを見た上で、第1の閾値を設定することができる。この場合には、例えば最も高い検出強度が得られた測定箇所(検出領域R)の物質のみが放射性物質採取部20によって採取されるように、第1の閾値を設定することができ、この第1の閾値を設定した上で放射性物質採取部20をこの測定箇所で動作させることができる。また、複数の測定箇所の検出強度のうち最低のものを基準として所定倍数を第1の閾値として設定することもできる。これらの場合は、物質の採取は複数の測定箇所(検出領域R)で行うこともあり得る。これによって、このように高い放射線を発した測定箇所(検出領域R)の物質のみを選択的かつ効率的に採取することができる。この放射線を発する放射性物質の位置(放射性物質位置)も正確に求めることができる。こうした測定は、例えば水底における放射線のバックグラウンド強度が高い場合に有効である。放射線のバックグラウンド強度が高くない場合には、予め検出強度の値を定めて第1の閾値とすることもできる。
【0053】
上記の放射性物質採取装置、放射性物質分析方法によって、特に海底に局所的に存在する放射性物質、及びその分布を詳細に調べることができる。しかしながら、海底だけでなく、湖底等、海底と類似の状況の箇所における放射性物質の測定も同様に行うことができることは明らかである。更に、水底ではなく地上においても、調査者が立ち入ることが困難である場所において同様の測定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上記のとおり、上記の放射性物質採取装置、放射性物質分析方法は、水中における様々な場所に存在する放射性物質の測定を行う際に有効であるため、環境管理や土木・建築分野等、産業上の広い領域において極めて有効である。
【符号の説明】
【0055】
1 放射性物質採取装置
10 放射線検出部(放射線検出手段)
11 基部
12A、12B 測定ヘッド
20 放射性物質採取部(放射性物質採取手段)
21 吸引ホース
21A 吸引口
22 吸引ポンプ
23 マニピュレータ
24 分離部
25 海水排出部
26 試料タンク
27 試料確認用放射線検出器(試料確認手段)
30 放射性物質採取装置制御部(制御手段、領域内位置推定手段、装置位置認識手段)
31 放射性物質位置記憶部(放射性物質記憶手段)
100 遠隔操作無人探査機(ROV)
101 ROV側電源
102 ROV制御部
103 センサ部
104 移動/姿勢制御用スラスタ
110 フレーム
121 放射線検出器
122 マルチチャンネルアナライザ(MCA)
300 船舶
301 全体制御部
302 電源
303 位置情報取得部
304 光ファイバ
B 海底
P 放射性物質片
R 検出領域
S 海面
図1
図2
図3
図4
図5