【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [刊行物]・日本化学会第95春季年会 2015年 講演予稿集II,第2PA−091頁,公益社団法人日本化学会
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態におけるポリマーの製造方法は、下記一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体の存在下、ビニル系モノマーを重合させてポリマーを得る工程を含む。
【0018】
(上記一般式(1)中、L
1、L
2、L
3、L
4およびL
5は配位子を示し、互いに異なっていてもよいし同一のものを含んでいてもよい。L
1、L
2、L
3、L
4およびL
5はいずれもNOではない。L
2とL
5とが、または、L
3とL
4とが互いに連結して2座配位子を形成していてもよい。あるいは、L
3、L
4およびL
5がL
3−L
5−L
4の順に連結し、または、L
2、L
4およびL
5がL
2−L
5−L
4の順に連結して3座配位子を形成していてもよい。nはRuならびにL
1、L
2、L
3、L
4およびL
5の価数により決定される0または正の整数である。)
【0019】
はじめに、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体について説明する。なお、本明細書において、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体を適宜「[Ru(NO)L
1L
2L
3L
4L
5]
n+」のように略記する。
【0020】
(ニトロシルルテニウム錯体)
一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体は、1つのニトロシル配位子を有する6配位のルテニウム錯体であり、配位子としてNO(ニトロシル)およびL
1〜L
5を含む。
本発明者らが検討した結果、配位子として1つのニトロシルを有する一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体を、ビニル系モノマーのポリマーの製造のために使用することができることが初めて見出された。すなわち、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体は、ビニル系モノマーの重合触媒として好適に用いることができる。
【0021】
ここで、中心金属であるRuに配位する配位子は、(A)構造を安定化する機能を有する配位子(以下、「支持配位子」とも呼ぶ。)および(B)錯体の反応性や電子状態を制御する配位子に大別される。
このうち、一酸化窒素配位子NOは、上記(B)に属する配位子として機能する。金属錯体に配位した一酸化窒素(NO)は、3つの酸化状態(NO
+、NO
0、NO
-)をとり得る。この酸化状態が錯体の構造や物性に影響を与える。一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体中のNOは、このうち高い酸化状態(NO
+)に分類され、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体の赤外吸収スペクトルにおいて、ニトロシル配位子由来の特性伸縮振動の振動数ν(NO)は、1900cm
-1付近に観測される(非特許文献1)。
【0022】
また、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体は、上記(A)に属する配位子および上記(B)に属する配位子の両方を含むことが好ましい。こうすることにより、錯体の安定性およびビニル系モノマーとの反応性の効果のバランスを向上させることができる。
具体的には、一般式(1)における配位子L
1〜L
5の1つ以上が上記(A)に属する配位子であることが好ましく、配位子L
1〜L
5の1つ以上が上記(A)に属する配位子であるとともに配位子L
1〜L
5の他の1つ以上が上記(B)に属する配位子であることがより好ましい。
【0023】
上記(A)に属する配位子の具体例として、NまたはOを介して中心金属Ruに配位する2座または3座の配位子が挙げられる。一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体が1種または2種の上記2座配位子を含んでもよい。
このうち、ルテニウム錯体の安定性を高める観点およびビニル系モノマーを安定的に重合する観点から、1または2以上のピリジン環を含む2座または3座の配位子を支持配位子とすることが好ましい。
1または2以上のピリジン環を含み、2座または3座の配位子として用いられる化合物の具体例を以下に示す。
【0025】
上記式中、Rは炭化水素基であり、好ましくはアルキル基である。また、上記式中、mは正の整数であり、錯体の構造の安定性を高める観点から、好ましくは1または2の整数である。
なお、本明細書中、上記例示における「N,N−ビスピリジルアルキルアミン」(bpa)を、「アルキルビス(2−ピリジルアルキル)アミン」とも表記する。また、「N−ピリジルアルキルアミノ酢酸」を「アルキル(2−ピリジンアルキル)アミノ酢酸」とも表記する。
【0026】
また、上記(B)に属する配位子の具体例として、CH
3CN、(CH
3)
2SO、H
2O、OH
-、OR
-(ここで、Rはアルキル基である。)などの配位性溶媒由来の分子あるいはイオン;
NO
3-、NO
2-などの窒素酸化物;
F
-、Cl
-、Br
-、I
-のハロゲン;
アクリルアミド、アセトアミド、アニリン、酢酸イオン、ギ酸イオンなどの有機分子あるいはイオンが挙げられる。
【0027】
本実施形態において、上記(A)および(B)の両方を含むニトロシルルテニウム錯体の具体例として、下記一般式(2)、(3)または(4)で表される錯体が挙げられる。
【0029】
(上記一般式(2)中、Ruに結合するXを含む前記L
3とRuに結合するNを含む前記L
4とが互いに連結して2座配位子を形成しているとともに、Ruに結合するNを含む前記L
2とRuに結合するYを含む前記L
5とが互いに連結して2座配位子を形成しており、XおよびYは、それぞれ独立してNまたはOである。L
1およびnはそれぞれ前記一般式(1)におけるL
1およびnと同じである。)
一般式(2)で表されるニトロシルルテニウム錯体においては、L
2〜L
5が上記(A)に属する配位子であり、L
1が上記(B)に属する配位子である。
なお、本明細書において、一般式(2)で表されるニトロシルルテニウム錯体を適宜「[Ru(NO)L
1(N−X)(N−Y)]
n+」のように略記する。
【0031】
(上記一般式(3)中、Ruに結合するXを含む前記L
3、および、Ruに結合するNを含む前記L
4が、前記L
5中のRuに結合するNに結合して、L
3、L
4およびL
5がL
3−L
5−L
4の順に連結した3座配位子を形成している。Xは、NまたはOである。L
1、L
2およびnはそれぞれ前記一般式(1)におけるL
1、L
2およびnと同じである。)
一般式(3)においては、L
3〜L
5が上記(A)に属する配位子であり、L
1およびL
2が上記(B)に属する配位子である。
【0033】
(上記一般式(4)中、Ruに結合するXを含む前記L
2、および、Ruに結合するNを含む前記L
4が、前記L
5中のRuに結合するNに結合して、L
2、L
4およびL
5がL
2−L
5−L
4の順に連結した3座配位子を形成している。Xは、NまたはOである。L
1、L
3およびnはそれぞれ前記一般式(1)におけるL
1、L
3およびnと同じである。)
一般式(4)においては、L
2、L
4およびL
5が上記(A)に属する配位子であり、L
1およびL
3が上記(B)に属する配位子である。
【0034】
一般式(2)〜(4)で表されるニトロシルルテニウム錯体は、たとえば以下の構成とすることができる。
たとえば、一般式(2)〜(4)で表されるニトロシルルテニウム錯体中の上記(A)に属する配位子中のNが中心金属Ruに結合しているとき、かかるNがピリジン環等の複素環を構成する窒素原子であってもよい。
さらに具体的には、ニトロシルルテニウム錯体が一般式(2)で表される錯体であるとき、L
2、L
3、L
4またはL
5に含まれてRuに結合する1または2以上のNが、ピリジン環を構成しており;
ニトロシルルテニウム錯体が一般式(3)で表される錯体であるとき、L
3、L
4またはL
5に含まれてRuに結合する1または2以上のNが、ピリジン環を構成しており;
ニトロシルルテニウム錯体が一般式(4)で表される錯体であるとき、L
2、L
4またはL
5に含まれてRuに結合する1または2以上のNが、ピリジン環を構成していてもよい。
【0035】
また、一般式(2)〜(4)で表されるニトロシルルテニウム錯体中の上記(A)に属する配位子中のOが中心金属Ruに結合しているとき、かかるOがカルボキシラートアニオンを構成していてもよい。
さらに具体的には、ニトロシルルテニウム錯体が一般式(2)で表される錯体であるとき、L
2、L
3、L
4またはL
5に含まれてRuに結合する1または
2のOが、カルボキシラートアニオンを構成していてもよい。
【0036】
以下、一般式(2)〜(4)で表されるニトロシルルテニウム錯体の具体例として、ピリジル基を有する有機化合物が配位したニトロシルルテニウム錯体の例を示す。
【0038】
上記式中、Rは炭化水素基であり、好ましくはアルキル基である。
また、上記式中、mは正の整数であり、錯体の構造の安定性を高める観点から、好ましくは1または2の整数である。
また、上記式中、lはRuならびにL
1、L
2、L
3、L
4およびL
5の価数により決定される正の整数であり、さらに具体的には、L
1およびL
2、あるいは、L
1およびL
3の価数により決定される正の整数である。
【0039】
次に、一般式(1)におけるnについて説明する。nは、RuならびにL
1、L
2、L
3、L
4およびL
5の価数により決定される0または正の整数であって、好ましくは正の整数であり、より好ましくは1以上3以下の整数である。
【0040】
また、本実施形態において、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体を含む化合物として、たとえば下記一般式(11)で表される化合物を用いることができる。
【0042】
(上記一般式(11)中、L
1、L
2、L
3、L
4、L
5およびnは、それぞれ、一般式(1)におけるL
1、L
2、L
3、L
4、L
5およびnと同じである。nが0であるとき、Zは存在しない。nが正の整数であるとき、Z
wはw個の陰イオンを示し、wは1以上n以下の正の整数である。)
一般式(11)において、wが2以上であるとき、w個のZは同一であってもよいし、異なる2種以上であってもよい。
【0043】
一般式(11)中、対アニオンであるZの具体例として、ホウ素、炭素、窒素、リン、硫黄または塩素を中心元素とするアニオンあるいはハロゲンアニオンが挙げられる。
【0044】
一般式(11)で表される錯体化合物の具体例、および、錯体化合物の赤外線吸収スペクトルにおけるニトロシル配位子由来の特性伸縮振動の振動数ν(NO)(cm
-1)を表1に示す。
本実施形態において、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体の上記ν(NO)は、錯体の触媒活性を向上させる観点から、たとえば1850cm
-1以上1970cm
-1以下であり、1900cm
-1以上であることが好ましい。
【0046】
次に、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体の製造方法を説明する。
一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体は、配位子の構成に応じた方法により得ることができ、たとえば、亜硝酸ナトリウム、硝酸、一酸化窒素ガスを用いて非特許文献1に記載の方法を用いて合成できる。また、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体は、たとえばペンタクロリドニトロシルルテニウム錯体K
2[RuCl
5(NO)]を原料として非特許文献1に記載の方法を用いて合成することもできる。
【0047】
たとえば、支持配位子として、2,2'−ビピリジン(bpy)、2−ピリジンカルボン酸イオン(pyc)、アルキルビス(2−ピリジルアルキル)アミン(bpa)またはアルキル(2−ピリジルアルキル)アミノ酢酸イオン(paa)を有するニトロシルルテニウム錯体は、下記式(21)〜(25)に要約される経路で得られる。
【0049】
なお、式(21)〜(25)において、L
1、L
2およびnは、それぞれ、一般式(1)におけるL
1、L
2およびnと同じであり、lは正の整数である。
なお、錯体の合成方法については、実施例の項でさらに具体的に説明する。
【0050】
次に、本実施形態においてポリマーの製造に用いられるビニル系モノマーについて説明する。
【0051】
(ビニル系モノマー)
本実施形態において用いられるビニル系モノマーは、電子吸引性基を有するビニル系モノマーと電子供与性基を有するビニル系モノマーのいずれであってもよい。
ビニル系モノマーの具体例として、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、メチレンコハク酸、マレイン酸等のカルボキシを含有するビニル系モノマーおよびその無水物;
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の炭素数1以上10以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどのカルボキシを含有するビニル系モノマーのエステル(α,β−不飽和カルボン酸エステル);
(メタ)アクリルアミド等のアミド基を含有するビニル系モノマー;
(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のヒドロキシ基を含有するビニル系モノマー;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等の炭素数1以上10以下のアルキル基を有するアルキルビニルエーテル;
(メタ)アクリロニトリル、2−メチレンマロノニトリル等のシアノ基を含有するビニル系モノマー(α,β−不飽和ニトリル);
鎖状オレフィン、環状オレフィン等のオレフィン;
ブタジエン、イソプレン等の、炭素数4以上20以下の共役ジエン;
スチレン等の芳香族ビニルモノマー;
ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン等の複素環を含有するビニル系モノマー;ならびにこれらの誘導体が挙げられる。これらのビニル系モノマーは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0052】
(重合条件)
本実施形態において、ビニル系モノマーの重合条件は、モノマーおよび触媒として用いるニトロシルルテニウム錯体の構成等に応じて適宜設定できる。
【0053】
たとえば、ビニル系モノマーの重合は、溶媒中でまたは無溶媒でおこなうことができる。
溶液中でビニル系モノマーを重合する、すなわちビニル系モノマーを溶液重合する場合、モノマーまたはニトロシルルテニウム錯体の溶解性の向上およびポリマーの不溶性とのバランスを高める観点から、重合溶媒は、好ましくは極性溶媒を含み、より好ましくは重合溶媒が極性溶媒である。同様の観点から、本実施形態においてはポリマーを得る工程を、極性溶媒を含む重合溶液中でおこなうことが好ましい。
また、錯体の溶解性および重合反応の反応性を向上させる観点から、上記極性溶媒は、好ましくは、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒である。
また、無溶媒でのビニル系モノマーの重合は、さらに具体的にはバルク重合である。
【0054】
ビニル系モノマーおよび一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体を含む重合性組成物中の一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体の濃度は、重合反応を効率よく進行させる観点から、たとえば5×10
-4mmoldm
-3以上であり、より好ましくは8×10
-4mmoldm
-3以上である。また、穏やかな条件で重合反応を進行させる観点から、上記重合性組成物中の一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体の濃度は、たとえば2×10
-2mmoldm
-3以下であり、好ましくは8×10
-3mmoldm
-3以下である。
【0055】
一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体とビニル系モノマーとの配合モル比は、たとえば1:10〜1:1×10
5程度、好ましくは1:10
3〜1:10
4とする。
【0056】
重合時間は、ポリマーの収量を増す観点から、たとえば30分以上であり、好ましくは2時間以上、より好ましくは5時間以上である。また、ポリマーを効率よく製造する観点から、重合時間は、たとえば10時間以下であり、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0057】
重合温度は、ポリマーを効率よく製造する観点から、たとえば60℃以上であり、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。また、穏やかな条件で重合反応を進行させる観点から、重合温度はたとえば120℃以下であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。
【0058】
また、本実施形態において得られるポリマーはコポリマーであってもよい。また、コポリマーの態様に制限はなく、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーなどでもよい。
【0059】
(錯体の再生)
本実施形態において、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体を用いて重合後、錯体を再生し、再度の重合に用いてもよい。
このとき、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体を用いるポリマーの製造工程およびその後の工程をたとえば以下の手順でおこなう。
(工程1)一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体の存在下、ビニル系モノマーを重合させて、ポリマーおよびルテニウム錯体を含む組成物を得る工程;
(工程2)工程1で得られた組成物中のポリマーとルテニウム錯体とを分離する工程;ならびに
(工程3)分離されたルテニウム錯体をニトロシル化してニトロシルルテニウム錯体を得る工程。
また、上記工程3の後、さらに以下の工程4をおこなうこともできる。
(工程4)上記工程3で得られたニトロシルルテニウム錯体の存在下、ビニル系モノマーを重合させて、ポリマーおよびルテニウム錯体を含む組成物を得る工程。
【0060】
上記工程1および4にて用いられる一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体およびビニル系モノマーの構成および重合条件は上述したとおりである。
【0061】
上記工程2は、たとえばポリマーの再沈殿によりおこなうことができる。さらに具体的には、工程1で得られた組成物を含む溶液を適宜濃縮後、ポリマーの貧溶媒中に滴下してポリマーを析出させて、析出したポリマーをろ過等により分離除去し、ルテニウム錯体を含む溶液を得る。
【0062】
また、上記工程3において、ルテニウム錯体のニトロシル化は、たとえば、非特許文献1に記載の方法を用いて、ニトロシル配位子源として一酸化窒素ガス、亜硝酸イオンまたは硝酸イオンを用いておこなうことができる。
なお、上記工程3において得られる再生後のニトロシルルテニウム錯体は、六配位八面体型の構造を有していればよく、工程1で用いたニトロシルルテニウム錯体と同一の組成を有していても異なる組成を有していてもよい。
【0063】
次に、本実施形態の効果を説明する。
本実施形態においては、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体の存在下でビニル系モノマーを重合させることにより、簡便な方法により高分子量で分子量分布の狭いポリマーを製造することができる。
たとえば、本実施形態においては、重合開始剤や助触媒を用いることなく、ビニル系モノマーを重合させることができるため、重合系を単純化できる。また、このため、たとえば得られるポリマー組成物中の不純物濃度を低減することも可能となる。
また、本実施形態においては、重合環境を不活性ガス雰囲気下または嫌気下としない場合にも、ビニル系モノマーを重合させることができるため、簡便な方法により高分子量で分子量分布の狭いポリマーを製造することができる。
また、たとえば、本実施形態における一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体を用いることにより、汎用ポリマーの合成をおこなうことも可能となる。
【0064】
また、本実施形態において、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体を用いて重合後、ポリマー組成物中のポリマーとルテニウム錯体とを分離してルテニウム錯体のニトロシル化をおこなってもよく、これにより、たとえば触媒を再生して再利用することも可能となる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 下記一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体の存在下、ビニル系モノマーを重合させてポリマーを得る工程を含む、ポリマーの製造方法。
(上記一般式(1)中、L1、L2、L3、L4およびL5は配位子を示し、互いに異なっていてもよいし同一のものを含んでいてもよい。L1、L2、L3、L4およびL5はいずれもNOではない。L2とL5とが、または、L3とL4とが互いに連結して2座配位子を形成していてもよい。あるいは、L3、L4およびL5がL3−L5−L4の順に連結し、または、L2、L4およびL5がL2−L5−L4の順に連結して3座配位子を形成していてもよい。nはRuならびにL1、L2、L3、L4およびL5の価数により決定される0または正の整数である。)
2. 1.に記載のポリマーの製造方法において、前記ニトロシルルテニウム錯体が下記一般式(2)、(3)または(4)で表される錯体である、ポリマーの製造方法。
(上記一般式(2)中、Ruに結合するXを含む前記L3とRuに結合するNを含む前記L4とが互いに連結して2座配位子を形成しているとともに、Ruに結合するNを含む前記L2とRuに結合するYを含む前記L5とが互いに連結して2座配位子を形成しており、XおよびYは、それぞれ独立してNまたはOである。L1およびnはそれぞれ前記一般式(1)におけるL1およびnと同じである。)
(上記一般式(3)中、Ruに結合するXを含む前記L3、および、Ruに結合するNを含む前記L4が、前記L5中のRuに結合するNに結合して、L3、L4およびL5がL3−L5−L4の順に連結した3座配位子を形成している。Xは、NまたはOである。L1、L2およびnはそれぞれ前記一般式(1)におけるL1、L2およびnと同じである。)
(上記一般式(4)中、Ruに結合するXを含む前記L2、および、Ruに結合するNを含む前記L4が、前記L5中のRuに結合するNに結合して、L2、L4およびL5がL2−L5−L4の順に連結した3座配位子を形成している。Xは、NまたはOである。L1、L3およびnはそれぞれ前記一般式(1)におけるL1、L3およびnと同じである。)
3. 2.に記載のポリマーの製造方法において、
前記ニトロシルルテニウム錯体が前記一般式(2)で表される錯体であるとき、L2、L3、L4またはL5に含まれてRuに結合する1または2以上のNが、ピリジン環を構成しており、
前記ニトロシルルテニウム錯体が前記一般式(3)で表される錯体であるとき、L3、L4またはL5に含まれてRuに結合する1または2以上のNが、ピリジン環を構成しており、
前記ニトロシルルテニウム錯体が前記一般式(4)で表される錯体であるとき、L2、L4またはL5に含まれてRuに結合する1または2以上のNが、ピリジン環を構成している、ポリマーの製造方法。
4. 2.または3.に記載のポリマーの製造方法において、前記ニトロシルルテニウム錯体が前記一般式(2)で表される錯体であるとき、L2、L3、L4またはL5に含まれてRuに結合する1または2以上のOが、カルボキシラートアニオンを構成している、ポリマーの製造方法。
5. 1.乃至4.いずれか一項に記載のポリマーの製造方法において、前記一般式(1)におけるnが、1以上3以下の整数である、ポリマーの製造方法。
6. 1.乃至5.いずれか一項に記載のポリマーの製造方法において、ポリマーを得る前記工程を、極性溶媒を含む重合溶液中でおこなう、ポリマーの製造方法。
7. ビニル系モノマーのポリマーの製造のための、下記一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体の使用。
(上記一般式(1)中、L1、L2、L3、L4およびL5は配位子を示し、互いに異なっていてもよいし同一のものを含んでいてもよい。L1、L2、L3、L4およびL5はいずれもNOではない。L2とL5とが、または、L3とL4とが互いに連結して2座配位子を形成していてもよい。あるいは、L3、L4およびL5がL3−L5−L4の順に連結し、または、L2、L4およびL5がL2−L5−L4の順に連結して3座配位子を形成していてもよい。nはRuならびにL1、L2、L3、L4およびL5の価数により決定される0または正の整数である。)
8. 7.に記載の使用であって、
前記ニトロシルルテニウム錯体の存在下、前記ビニル系モノマーを重合させて、前記ポリマーおよびルテニウム錯体を含む組成物を得る工程と、
前記組成物中の前記ポリマーと前記ルテニウム錯体とを分離する工程と、
分離された前記ルテニウム錯体をニトロシル化してニトロシルルテニウム錯体を得る工程と、
を含む、使用。
【実施例】
【0066】
以下の例において、得られたポリマーの分子量測定方法および赤外線吸収スペクトルの測定方法は、以下のとおりである。
【0067】
(1)分子量測定
ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)法により、東ソー社製TOSOH Eco SEC HLC-8320を用いて以下の条件で測定した。
ガードカラム:東ソー社製TOSOH, TSK gel guardcolumn SuperMP(HZ)-M(溶媒がTHFの場合);および
昭和電工社製shodex(登録商標) GPC LF-G(溶媒がDMFの場合)
標準物質:スチレン(Mn:100000、25000、6000、1800および600)
【0068】
(2)赤外線吸収スペクトル測定
島津社製フーリエ変換赤外分光光度計IR Affinity-1を用いたKBr錠剤法により、以下の条件で測定した。
測定範囲:400cm
-1〜4000cm
-1
分解能:1cm
-1
【0069】
(実施例1)支持配位子の異なるニトロシルルテニウム錯体による重合
本実施例では、一般式(1)における配位子L
1がH
2Oであって、2,2'−ビピリジン(bpy)または2−ピリジンカルボン酸イオン(pyc)を支持配位子とし、これらの組み合わせの異なる以下の3種類のルテニウム錯体を触媒としてアクリロニトリルの重合をおこなった。
錯体1:[Ru(NO)(OH
2)(bpy)
2](ClO
4)
3
錯体2:[Ru(NO)(OH
2)(pyc)(bpy)](ClO
4)
2
錯体3:[Ru(NO)(OH
2)(pyc)
2]ClO
4
【0070】
(ニトロシルルテニウム錯体の合成)
錯体1〜錯体3の合成は、非特許文献1に記載の方法を用いて前述した式(21)〜(23)に従っておこなった。具体的な合成方法は以下の通りである。
【0071】
(合成例1)錯体1の合成
[Ru(NO
2)
2(bpy)
2]を水に懸濁し、過塩素酸水溶液を加えた。溶液を濃縮後、過塩素酸ナトリウム水溶液を加え、生成する錯体をろ別すると錯体1が得られた。
【0072】
(合成例2)錯体2の合成
[Ru(NCCH
3)
2(pyc)(bpy)]
+をエタノールに溶解し、亜硝酸ナトリウムを加え加熱還流した。過塩素酸ナトリウムを加え生成する錯体をろ別した。得られた錯体の水溶液に過塩素酸を加え撹拌した。過塩素酸ナトリウムを加え、生成する錯体をろ別すると錯体2が得られた。
【0073】
(合成例3)錯体3の合成
K
2[RuCl
5(NO)]を水に溶解し、2−ピリジンカルボン酸を加え、加熱還流した。得られた錯体をエタノールに懸濁し、亜硝酸ナトリウム水溶液を加え加熱還流した。析出した錯体を水に溶解し、過塩素酸水溶液を加え煮沸加熱後、濃縮し過塩素酸ナトリウムを加えると錯体3が得られた。
【0074】
(ポリアクリロニトリルの合成)
ニトロシルルテニウム錯体および蒸留したアクリロニトリル(AN)をDMFに溶解した。温度を一定として加熱還流あるいは加温攪拌した。重合条件を以下に示す。
ニトロシルルテニウム錯体物質量:6.5×10
-3mmol
アクリロニトリル量:4cm
3(61.6mmol)
DMF:12cm
3
重合時間:8時間
【0075】
重合反応終了後、重合溶液を水に注ぎ、ポリアクリロニトリル(PAN)を得た。吸引ろ過によりPANを集め、水、エタノール、ジエチルエーテルの順に洗浄、乾燥させた。さらに、DMFと水を用いてPANを再沈殿し、減圧乾燥した。
DMF1.2mLに得られたPAN2.0mgを溶解した。GPCにより、PANの分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)を測定した。重合条件および得られたPANの評価結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2より、錯体1〜錯体3のいずれを用いた場合にも、分子量分布Mw/Mnが2未満のPANが得られた。また、これらの錯体の中でも、錯体1の触媒としての活性が高いことがわかった。
【0078】
(実施例2)[Ru(NO)(OH
2)(bpy)
2](ClO
4)
3による重合
実施例1における錯体1を触媒として用い、以下の条件とする他は実施例1の方法に準じてANを重合した。
ニトロシルルテニウム錯体質量(物質量):5mg(6.5×10
-3mmol)
AN:4cm
3
重合温度:80℃
【0079】
重合条件および得られたPANの評価結果を表3に示す。
また、
図1は、触媒量が同じ重合における重合時間とポリマーの分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)との関係を示す図である。
図1中、ポリマーの分子量(Mn)を「●」で示し、分子量分布(Mw/Mn)を「×」で示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3および
図1より、この重合反応が分子量分布が狭い反応であることがわかる。
【0082】
(実施例3)[Ru(NO)L
1(bpy)
2]Zwによる重合
実施例1で用いた錯体1における配位子L
1が異なる錯体を実施例1に記載の方法に準じて合成した。得られた錯体を触媒として用い、以下の条件とする他は実施例1の方法に準じてANを重合した。
ニトロシルルテニウム錯体物質量:6.5×10
-3mmol
アクリロニトリル量:4cm
3(61.6mmol)
DMF:4cm
3
重合温度:80℃
重合時間:8時間
重合条件および得られたPANの評価結果を表4に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
表4より、配位子L
1の構成を変化させた場合にも、分子量分布の小さいPANが得られた。
【0085】
(比較例1)
本例では、ニトロシル配位子を持たないルテニウム錯体を用いてアクリロニトリルの重合を試みた。
[Ru
IIICl
2(bpy)
2]Cl・2H
2O(*1)3.6mgをそれぞれDMF4cm
3、アクリロニトリル4cm
3に溶解し、80℃で8時間加温撹拌を行った。
*1 [Ru
IIICl
2(bpy)
2]Cl・2H
2O:Ru
III/IIE
1/2:0.04V、Ru
III/IV E
1/2:0.65V
反応後の溶液を水に添加したが、PANの生成は見られなかった。
【0086】
(比較例2)
比較例1において、[Ru
IIICl
2(bpy)
2]Cl・2H
2O3.6mgにかえて[Ru
II(NO
2)
2(bpy)
2](*2)3.3mgを用いた他は、比較例1の方法に準じてアクリロニトリルの重合を試みた。
*2 [Ru
II(NO
2)
2(bpy)
2]:Ru
II/III E
pa:0.61V
反応後の溶液を水に添加したが、PANの生成は見られなかった。
【0087】
(実施例4)スチレンの重合
本実施例では、実施例1における錯体1を用い、以下の条件とする他は実施例1の方法に準じてスチレンを重合した。
触媒[Ru(NO)(OH
2)(bpy)
2](ClO
4)
3:5mg(錯体:スチレン=1:4000)
溶媒:DMF3cm
3またはニトロメタン3cm
3
スチレン:3cm
3
重合温度:80℃
重合時間:8時間
【0088】
重合反応終了後、反応溶液をメタノール30cm
3に添加することでポリマーを得た。生成したポリスチレン(PS)をクロロホルム3cm
3に溶解し、その溶液をメタノール30cm
3に添加することで再沈殿させた後、吸引ろ過にて集め、減圧乾燥した。
【0089】
(実施例5)メタクリル酸メチル(MMA)の重合
本実施例では、実施例1における錯体1を用い、以下の条件とする他は実施例1の方法に準じてMMAを重合した。
触媒[Ru(NO)(OH
2)(bpy)
2](ClO
4)
3:5mg(錯体:MMA=1:4300)
溶媒:DMF3cm
3またはニトロメタン3cm
3
MMA:3cm
3
重合温度:80℃
重合時間:8時間
【0090】
重合反応終了後、反応溶液をメタノール30cm
3に添加することでポリマーを得た。生成したポリメタクリル酸メチル(PMMA)をクロロホルム3cm
3に溶解し、その溶液をメタノール30cm
3に添加することで再沈殿させた後、吸引ろ過にて集め、減圧乾燥した。
【0091】
(実施例6)ANおよびMMAの共重合
本実施例では、実施例1における錯体1を用い、以下の条件とする他は実施例1の方法に準じてANおよびMMAを共重合した。
触媒[Ru(NO)(OH
2)(bpy)
2](ClO
4)
3:5mg(錯体:AN:MMA=1:4700:2200)
溶媒:DMF4cm
3
AN:2cm
3
MMA:2cm
3
重合温度:80℃
重合時間:8時間
重合反応終了後、反応溶液をメタノール40cm
3に添加することでポリマーを得た。生成したポリマーをDMF4cm
3に溶解し、その溶液をメタノール40cm
3に添加することで再沈殿させた後、吸引ろ過にて集め、減圧乾燥した。
【0092】
(実施例7)
以上の実施例において、重合後の反応溶液中のポリマーを再沈殿させ、吸引ろ過により得られるろ液から、触媒を回収し、リサイクルすることができる。
触媒の回収および再生は、ポリマー分離後のろ液を濃縮して得られる錯体溶液のニトロシル化反応によりおこなうことができる。得られたニトロシルルテニウム錯体は、再度の重合反応における触媒として用いることができる。
【0093】
(実施例8)バルク重合
[Ru(NO)(OH
2)(bpy)
2](ClO
4)
35mgをアクリロニトリル4cm
3に溶解し、80℃で8時間加温攪拌を行った。析出していたPANを吸引ろ過により得た。
【0094】
得られたPANの評価結果を以下に示す。
Mn:370000
Mw/Mn:1.1
収量:556mg
本実施例より、一般式(1)で表されるニトロシルルテニウム錯体はバルク重合における触媒としても好適であり、分子量分布の狭いポリマーを得ることができた。