【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の範囲は下記実施例に限定されることはない。
【0050】
実施例1(化合物(1a)の合成)
【0051】
【化4】
【0052】
(1)2−アミノ−6−ブロモベンゾチアゾール(前記反応式中(2)、1.39g,6.07mmol)を溶解したジメチルホルムアミド(DMF)にヨードメタン(1.96mL,31.48mmol)を加え、80℃で15時間撹拌した。その反応液を室温に冷却後、冷ジエチルエーテルで希釈し、懸濁液をろ過した。得た析出物を冷ジエチルエーテルで洗浄、減圧下乾燥することで、N−メチル−2−アミノ−6−ブロモベンゾチアゾリウムヨード塩(反応式中(4))(2.19g,97%)を得た。白色固体;
1H NMR(400MHz,DMSO)δ:10.08(br,2H),8.23(d,J=2.3Hz,1H),7.76(dd,J=9.2,2.3Hz,1H),7.62(d,J=9.2Hz,1H),3.68(s,3H);LRMS(ESI):m/zcalcd[M]
+243.0,found242.9.
【0053】
(2)N−メチル−2−アミノ−6−ブロモベンゾチアゾリウムヨード塩(2.19g,5.90mmol)に10M KOH水溶液(29mL)とエチレングリコール(7.3mL)を加え、14時間還流した。その反応液を室温に冷却後、塩酸で中和し、クロロホルムで抽出した。その有機相を飽和食塩水で洗浄、Na
2SO
4で乾燥、減圧下乾燥することで、5−ブロモ−2−メチルアミノ−チオフェノール(反応式中(5))(1.26g)を得た。
【0054】
(3)5−ブロモ−2−メチルアミノ−チオフェノール(10mg)を溶解したエタノール(4mL)に対し、水(20μL)に溶解したトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(6.6mg,0.023mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で30分間撹拌した。その混合液に9−ジュロリジンカルボキサルデヒド(10.2mg,0.051mmol)を加え、80℃で2時間撹拌した。その反応液を室温に冷却後、冷ジエチルエーテルで希釈し、懸濁液をろ過した。得た析出物を冷ジエチルエーテルで洗浄、減圧下乾燥することで、化合物(1a)(7.5mg,37% from 8)を得た。黄色固体;
1H NMR(500MHz,CDCL
3)δ:8.21(d,J=1.8Hz,1H),8.18(d,J=9.2Hz,1H),7.83(dd,J=9.2,1.8Hz,1H),7.41(s,2H),4.59(s,3H),3.37−3.39(m,4H),2.83−2.85(m,4H),1.97−2.00(m,4H);HRMS(ESI):m/z calcd for C
20H
20BrN
2S
+[M]
+399.0525,found 399.0511;HPLC:t
R=27.8分(YMC−Pack ODS−AM);純度:>95%(HPLC analysis at 230nm).
【0055】
実施例2(化合物(1b)、(1c)、(1d)、(1e)の合成)
【0056】
【化5】
【0057】
(1)1,2,3,4−テトラヒドロキノリン(0.50mL,3.98mmol)とメチル 6−ブロモヘキサノエート(0.76mL,4.78mmol)を、KI(1.59g,9.58mmol)とK
2CO
3(1.10g,7.96mmol)を溶解したMeCN(30mL)に加え、その懸濁液をアルゴン雰囲気下、100℃で21時間撹拌した。その反応液を室温に冷却後、水で希釈して酢酸エチルで抽出した。その有機相を飽和食塩水で洗浄、Na
2SO
4で乾燥、減圧下乾燥した。その残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(hexane/EtOAc=100/0 to 80/20)により精製してN−メトキシカルボニルペンチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン(1.10g,100%)を得た。無色油状物;
1H NMR(500MHz,CDCL
3)δ:7.02(t,J=7.5Hz,1H),6.91(d,J=7.5Hz,1H),6.51−6.54(m,2H),3.66(s,3H),3.20−3.26(m,4H),2.73(t,J=6.3Hz,2H),2.31(t,J=7.5Hz,2H),1.90−1.94(m,2H),1.63−1.69(m,2H),1.56−1.62(m,2H),1.32−1.38(m,2H);LRMS(ESI):m/z calcd[M+H]
+ 262.2,found 262.0.
【0058】
(2)N−メトキシカルボニルペンチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン(1.10g,4.2mmol)を溶解した無水ジクロロメタン(40mL)に対し、無水DMF(3.3mL,42mmol)およびPOCl
3(1.3mL,14mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で90分間撹拌した。その反応液を水で希釈、NaOH水溶液で中和、減圧下濃縮し、酢酸エチルで抽出した。その有機相を水で洗浄、飽和食塩水で洗浄、Na
2SO
4で乾燥、減圧下乾燥した。その残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(hexane/EtOAc=75/25 to 55/45)により精製してN−メトキシカルボニルペンチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−6−カルボキサルデヒド(887.4mg,73%)を得た。淡黄色油状物;
1H NMR(500MHz,CDCL
3)δ:9.63(s,1H),7.51(d,J=8.6Hz,1H),7.43(s,1H),6.53(d,J=8.6Hz,1H),3.65(s,3H),3.35(t,J=5.8Hz,2H),3.30(t,J=7.5Hz,2H),2.75(t,J=6.3Hz,2H),2.32(t,J=7.5Hz,2H),1.90−1.95(m,2H),1.59−1.70(m,4H),1.33−1.40(m,2H);LRMS(ESI):m/zcalcd[M+H]
+ 290.2,found 290.2.
【0059】
(3)メタノール(54mL)中の5−ブロモ−2−メチルアミノ−チオフェノール(308.0mg)に、水(1.9mL)に溶解したトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(270.0mg,0.94mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で60分間撹拌した。その混合液に、メタノール(5mL)に溶解したN−メトキシカルボニルペンチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−6−カルボキサルデヒド(340.7mg,1.18mmol)を加え、70℃で7時間撹拌した。その反応液を室温に冷却後、減圧下濃縮、水で希釈、酢酸エチルで洗浄、NaClで飽和させ、クロロホルムで抽出した。その有機相をNa
2SO
4で乾燥、減圧下乾燥して化合物(1b)(288.9mg)を得た。
(4)化合物(1b)(288.9mg)を溶解したメタノール(50mL)に、1M NaOH水溶液(8.28mL)を氷浴中でゆっくりと加え、室温で10時間撹拌した。その反応液を2M塩酸で中和、減圧下濃縮、NaClで飽和させ、酢酸エチルで抽出した。その有機相をNa
2SO
4で乾燥、減圧下乾燥した。その残渣を分取用HPLC(0.1% aqueous TFA/MeCN=80/20 to 30/70,50分間)により精製して化合物(1c)(48.6mg,エステル体から7%)を得た。黄色固体;
1H NMR(500MHz,CDCL
3)δ:8.06(d,J=1.8Hz,1H),7.86(dd,J=8.6,1.7Hz,1H),7.80(d,J=9.2Hz,1H),7.60(dd,J=9.2,2.3Hz,1H),7.35(d,J=2.3Hz,1H),6.75(d,J=8.6Hz,1H),4.31(s,3H),3.46(t,J=6.3Hz,2H),3.41(t,J=7.5Hz,2H),2.81(t,J=6.3Hz,2H),2.37(t,J=6.9Hz,2H),1.97−1.99(m,2H),1.65−1.71(m,4H),1.39−1.45(m,2H);HRMS(ESI):m/z calcd for C
23H
26BrN
2O
2S
+
[M]
+ 473.0893,found 473.0904.
【0060】
(5)化合物(1c)(13.5mg,0.023mmol)、N−ヒドロキシスクシンイミド(9.6mg,0.083mmol)及び1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(10.6mg,0.055mmol)を溶解したDMF/DCM(1:1,4mL)に、トリエチルアミン(15μL,0.108mmol)を加え、室温で4日間撹拌した。その混合液にD−[K(Boc)LVF(4−phenyl)F]〔TFA塩,25mg,0.027mmol:Fmoc固相ペプチド合成法によって得た。MALDI−TOF MS:m/z calcd[M+Na]
+ 851.5, found 851.7.〕とトリエチルアミン(20μL,0.1435mmol)を加え、室温で2日間撹拌した。その反応液(化合物(1d))を減圧下濃縮した後、4M HCl/dioxaneを加え、室温で9時間撹拌した。その反応液を分取用HPLC(0.1% aqueous TFA/MeCN=80/20 to 30/70,50分間)により精製して化合物(1e)(Pept.=D-[KLVF(4-Ph)F(配列番号1)])(2.0mg,6%化合物(1c)から)をTFA塩として得た。黄色固体;MALD−TOF MS:m/z calcd [M]
+ 1185.5,found 1186.7;HPLC:t
R=27.7min(YMC−Pack ODS−AM);純度:>95%(HPLC analysis at 230nm).
【0061】
実施例3(本発明化合物の特性、薬理試験1)
A.方法
(1)酸化反応
Aβ1−42(20μM)、アミリン(5μM)、アンジオテンシンIV(30μM)又はメチオニンエンケファリン(30μM)を含むリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)に、チオフラビンT(20μM)、リボフラビン(4μM)、化合物a(20μM)又は化合物(1a)(20μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃でインキュベートした後、質量分析装置(MALDI−TOF MS)又はLC/MS(ESI−Q)にて反応を追跡した。
【0062】
【化6】
【0063】
(2)Aβ1−42及びアミリンにおける酸素化部位の同定
酸化Aβ1−42及び酸化アミリンのアミノ酸分析(ペプチド研究所によって実施)を行った。また、酸化Aβ1−42及び酸化アミリンをそれぞれエンドペプチダーゼLys−C及びキモトリプシンで酵素消化し、得られた消化物を質量分析装置(MALD−TOF MS)及びLC/MS/MS(ESI−Q−TOF)にて分析した。
【0064】
(3)吸光及び蛍光スペクトル
リン酸緩衝液(10mM,pH7.4)中、Aβ1−42(20μM)共存下又は非共存下でチオフラビンT(20μM)又は化合物(1a)(20μM)を溶解し、37℃にて3時間インキュベートした後、吸光及び蛍光スペクトルを測定した。チオフラビンT及び化合物(1a)の励起波長はそれぞれ420及び460nmとした。
【0065】
(4)Aβ親和性
予め凝集させたAβ1−42(凝集条件:20μM、リン酸緩衝液(10mM,pH7.4)、37℃、3時間)を、チオフラビンT又は化合物(1a)を含むリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)に加え(Aβの最終濃度:0.5μM、チオフラビンT又は化合物(1a)の最終濃度:0〜20μM)、室温で1時間インキュベート後に蛍光強度を測定した。チオフラビンTについては励起波長420nm、蛍光波長485nmとし、化合物(1a)については励起波長460nm、蛍光波長515nmとした。蛍光強度からKaleidaGraph 4.5(Synergy Software, Reading, PA)を用いてKd結合曲線を得た。
【0066】
(5)計算
チオフラビンT及び化合物(1a)について、基底状態の各二面角における構造最適化及びエネルギー計算はB3LYP/LAV3P*(Maestro 9.3/Jaguar 7.9;Schrodinger,LLC,New York,NY,2012)を用いたDFT計算によって行った。励起状態の各二面角におけるエネルギー計算は、B3LYP/LAV3P*を用いたTDDFT計算によって行った。励起状態(S
1)のエネルギーは、基底状態(S
0)のエネルギーと遷移エネルギーの和として算出した。
【0067】
(6)グリセロール/水混合溶媒系における蛍光、一重項酸素産生及び酸化反応
グリセロール/水(0:100、12.5:87.5、50:50、62.5:37.5又は75:25)にチオフラビンT(20μM)又は化合物(1a)(20μM)を加え、蛍光スペクトルを測定した。チオフラビンT及び化合物(1a)の励起波長はそれぞれ420及び460nmとした。
また、フルフリルアルコール(200μM)またはベンゾイルメチオニン(200μM)を溶解した上記グリセロール/水の溶液に、リボフラビン(4μM)又は化合物a(20μM)を加え、室温でLED照射(波長500nm)した後、LC/MS(ESI−Q)にて反応を追跡した。
【0068】
(7)ナイルレッド蛍光アッセイの実験
Aβ1−42(20μM)又はアミリン(5μM)が溶解したリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)に化合物(1a)(20μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃でインキュベートした。その溶液の一部を、ナイルレッドを含むリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)に加え(Aβ1−42又はアミリンの最終濃度:0.5μM、ナイルレッドの最終濃度:5μM)、室温で1時間インキュベート後、ナイルレッドの蛍光強度(励起波長:530nm、蛍光波長:610nm)を測定した。
【0069】
(8)原子間力顕微鏡分析の実験
Aβ1−42(20μM)が溶解したリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)に化合物(1a)(20μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃でインキュベートした。その溶液の一部をマイカ上にのせ、室温で3分間インキュベートした後、水(20μL)で洗浄し、風乾した。測定は、Nano Wizard II(JPK instruments AG,Berlin,Germany)を使用し、空気中室温でタッピングモードにより行った。
【0070】
(9)円二色性分光分析の実験
Aβ1−42(20μM)又はアミリン(5μM)が溶解したリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)に化合物(1a)(20μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃でインキュベートした。その溶液の一部を、Model 202SF(AVIV Biomedical,Inc.,Lakewood,NJ)を使用して分析した。
【0071】
(10)細胞実験
Aβ1−42(20μM)が溶解した0.1%ウマ血清を含むダルベッコ変法イーグル培地に化合物(1e)(10μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃で30分間インキュベートした後、質量分析装置(MALD−TOF MS)にて反応を追跡した。
ポリDリジンコート96穴プレートに播種したラット副腎髄質由来褐色細胞腫PC12細胞(理化学研究所から購入)に、50μLの上記溶液を加えて同様に反応させた。50μLの0.1%ウマ血清を含むダルベッコ変法イーグル培地で希釈した後(Aβ最終濃度:10μM)、5%CO
2雰囲気下、37℃で48時間インキュベートした。WST−8を含む生細胞数測定試薬SF(10μL:ナカライから購入)を加え、5%CO
2雰囲気下、37℃で3時間インキュベートした後、450nm(参照波長:655nm)における吸光度から細胞生存率を測定した。
【0072】
B.結果
(1)合成した化合物(1a)の最大吸光波長(456nm)は、ジュロリジンのより強い電子供与性に起因して、チオフラビンTと比べて50nm程度長波長シフトしていた(
図1a左)。Aβ存在下では、Aβ非存在下の場合と比べて、吸光波長のわずかな長波長化が観察されるとともに、顕著に高い蛍光が観測された(
図1a)。本結果より、化合物(1a)はチオフラビンTと同様、Aβと結合して分子内のねじれが阻害される結果、蛍光を放出することが示唆された。蛍光強度に基づく結合曲線より、化合物(1a)がAβに対してチオフラビンTと同程度のKd値(1:2.9μM,4:1.1μM)を有することも明らかとなった(
図1b)。
【0073】
次に、Aβに化合物(1a)(100mmol%)を添加し、生理的条件下(pH7.4,37℃)光照射(波長:500nm)を行ったところ、経時的にネイティブAβが減少するとともに、酸素原子が1〜4個付加した酸素化Aβが増加した(
図2a)。化合物(1a)によるAβの酸化効率はチオフラビンTと比べて顕著に高かった(
図3b)。アミノ酸分析およびLC/MS/MS解析の結果、化合物(1a)による酸素化反応においては、13位および14位His残基において顕著に酸素化が進行し、35位Met残基においても若干酸素化が進行していることが明らかとなった(
図2a〜
図2d、
図3a)。尚、リボフラビンを用いた酸素化とは異なり、10位Tyr残基での酸化は認められなかった。
【0074】
(2)次に、酸素化反応のAβ選択性について検討を行った(
図3c)。リボフラビン(20mmol%)、化合物a(100mmol%)、化合物(1a)(100mmol%)は、中性緩衝液中(37℃)1.5時間の光照射条件にてAβを同程度(65〜70%)酸素化した。一方、同条件において、リボフラビン及び化合物aはアンギオテンシンIV(VYIHPF(配列番号2))およびメチオニンエンケファリン(YGGFM(配列番号3))をそれぞれ40%、60%程度酸素化(アンギオテンシンIにおいてはHis,Tyr残基、メチオニンエンケファリンにおいてはMet,Tyr残基が酸素化)したのに対し、化合物(1a)を用いた反応においては酸素化体の生成はそれぞれ5%以下に抑えられた。本結果より、リボフラビン及び化合物(a)は光照射によって、アミロイド性・非アミロイド性に関わらず様々な基質を酸素化するのに対し、化合物(1a)は、通常の基質に対しては酸化活性をほとんど有さず、アミロイド分子に対して選択的に酸素化することが示唆された。Aβ、アンギオテンシンIVおよびメチオニンエンケファリンを共存させた反応条件においても、リボフラビン及び化合物(a)は全ての基質を非選択的に酸素化したのに対し、化合物(1a)を用いた場合は、依然としてAβに対する高選択的な酸素化が観察された(
図3c)。
【0075】
このように高いアミロイド選択性を発現する理由として、TICTと項間交差に基づく
図3dの機構を想定している。すなわち、化合物(1a)が吸光(
図1a左)によりS
1 stateに励起された際、Aβ非存在下においてはS
1’ stateへの分子内の回転(TICT)を経由して基底状態(S
0 state)に戻る。実際、計算科学に基づいて、基底状態と励起状態のポテンシャルエネルギーを、ベンゾチアゾール部位とジュロリジン部位の二面角について算出したところ(
図3dのA)、基底状態では約30度が最安定なのに対して、励起状態では約90度が最安定であることから、励起直後のS
1 state(二面角:約30度)はS
1’ state(二面角:約90度)へと自発的に分子内ねじれを起こすことが示唆された。また90度におけるS
1’stateとS
0’stateのエネルギーギャップは小さいことから、S
1’stateは容易に基底状態S
0’stateに緩和することが示唆された。一方、Aβ存在下においては、Aβとの結合(
図1b)によって分子内の回転が阻害されるためにTICTが起こらないと考えられる。グリセロール/水混合溶媒において、粘度の高いグリセロールの濃度増加にしたがって、化合物(1a)による蛍光強度が増大したことから、化合物(1a)の分子内回転運動の低下によってTICTが抑制されたことが実験的にも支持された(
図3dのB)。TICTが起こらない場合、一部のS
1 stateはT
1 stateへの遷移(項間交差)を起こし、T
1 stateは分子酸素を一重項酸素に変換すると考えられる。グリセロールを含む水液中、化合物(1a)およびフルフリルアルコール(一重項酸素と特異的に反応することが知られている)存在下、光照射したところ、グリセロールの濃度増加にしたがったフルフリルアルコールの減少、すなわち一重項酸素の産生が認められた(グリセロールが一重項酸素産生に関与しないことはコントロール実験により確認した。)(
図3dのC)。さらに、同様の反応条件においてグリセロール濃度依存的にベンゾイルメチオニンが酸化されることを確認した(グリセロールが酸化反応を促進しないことはコントロール実験により確認した。)(
図3dのD)。
以上の結果より、Aβ非存在下においては、TICTが進行して酸素化が起こらない一方、Aβ結合時においては、S
1 stateからT
1 stateへの項間交差が進み、T
1 stateによる一重項酸素の産生と、続く一重項酸素によるAβの酸素化が進行した結果、高いAβ選択的酸素化が実現できたものと考えられる(
図3d)。
【0076】
(3)さらに、本酸素化Aβの凝集性はネイティブAβと比べて顕著に低いことが明らかとなった。すなわち、生理条件下(pH7.4,37℃)にてインキュベートし、経時的にナイルレッド蛍光アッセイ(凝集の程度と相関)(
図4a)、原子間力顕微鏡分析(
図4b)、円偏光二色性スペクトル分析(
図4c)をそれぞれ行ったところ、ネイティブAβにおいては凝集による蛍光強度の上昇、線維形成およびβシートへの二次構造変化が観察された一方、酸素化Aβではほとんど変化が認められなかった。本結果より、13位His、14位His、35位Met残基(D.A.Butterfield,D.Boyd Kimball,Biochim.Biophys.Acta Proteins Proteomics 2004,1703,149−156.)のいずれかが酸素化されることによりAβの凝集性が著しく低下することが示された。
【0077】
(4)次に細胞存在下でのAβ酸素化について検討を行った。化合物(1a)のジュロリジン構造を1,2,3,4−テトラヒドロキノリン構造に置換し、さらにNアルキルリンカーを経てAβ親和性ペプチド、D−[Lys−Leu−Val−Phe(4−phenyl)−Phe](A.Taniguchi,D.Sasaki,A.Shiohara,T.Iwatsubo,T.Tomita,Y.Sohma,M.Kanai,Angew.Chem.Int.Ed.,2014,53,1382−1385.)を結合した化合物(1e)を設計した。化合物(1e)(50mmol%)は細胞培地中、30分の光照射(波長:500nm)にて40%程度Aβを酸素化する活性を有していた(
図5)。化合物aは培地を含む同一の条件においてAβをほとんど酸素化することができなかったが(A.Taniguchi,D.Sasaki,A.Shiohara,T.Iwatsubo,T.Tomita,Y.Sohma,M.Kanai,Angew.Chem.Int.Ed.,2014,53,1382−1385.)、化合物(1e)は、よりAβに近いところで一重項酸素を産生するために、培地中の成分に干渉されることなく効率的にAβを酸素化できたものと考えられる。細胞存在下酸素化反応を行い、二日間インキュベートした後の細胞生存率を調べたところ、化合物(1e)による光毒性は観察されず(
図4d,F)、これはAβ非存在下において酸化活性を有しない性質に由来するものと考えられる。一方、Aβ存在下では(
図4dのGとHとの比較)、光照射した場合、光がない時と比べ細胞生存率が有意に上昇した。これは、Aβが酸素化反応を受けて低毒性化したために、細胞死が回避されたと考えられる。
【0078】
(5)ミスフォールディングによりアミロイド化するタンパク質も、ほとんどの場合、本来の正しいフォールディングにより生理的な役割を担う。例えば、アミリンは血糖維持に必須のホルモンであるが、アミロイド化することにより膵β細胞の破壊と糖尿病の発症に関与する。したがって、病原性アミロイドに対する酸素化改変を行う場合、生理機能を担う機能性タンパク質には影響を与えないことが肝になる。一方、TICTと項間交差の機構に基づく今回の酸素化触媒戦略は、アミロイドに特徴的なβシート構造との結合によって酸化活性が誘起されるため、機能性タンパク質には反応せずアミロイドのみを酸素化する性質を持ち合わせていると考えられた。アミリンに化合物(1a)(100mmol%)を添加し、生理的条件下(pH7.4,37℃)光照射を行ったところ、18位His残基における経時的な酸素化が観察された(
図6a,
図7a〜c)。そこで次にアミロイド選択性について検討を行った(
図6b)。主にモノマー状態のアミリンからなるサンプル(pre−incubation=0h)においてはtrace量の酸素化体しか検出されなかった。一方、酸素化反応前にあらかじめpre−incubationによって凝集したアミリンを使用した際、pre−incubation時間を1時間、2時間と延長するのにしたがって、化合物(1a)による反応後、酸素化アミリンの割合が上昇した。本結果より、化合物(1a)はモノマーのアミリンには作用せず、凝集したアミリンに対して選択的に反応することが示唆された。対照的に、リボフラビンを用いた際は、選択性はなく、むしろモノマーのアミリンに対して高い酸化活性を有していた。さらに、ナイルレッドを用いた蛍光アッセイより、His
18酸素化アミリンは、ネイティブのアミリンと比べて凝集性は顕著に低かった(
図6c)。また、ネイティブアミリンと比べてβシート構造への転移も抑えられた(
図6d)。これらの結果より、化合物(1a)は生理的役割を有するタンパク質へ作用することなく、病的なアミロイドタンパク質に対して選択的に酸素化できることが明らかとなり(
図6e)、本発明化合物がアミロイド全般に対して広く適用できることが示された。
【0079】
実施例4(本発明化合物による酸素化反応の選択性)
予め37℃で6時間インキュベートさせたAβ1−42(20μM)、アンジオテンシンIV(20μM)、メチオニンエンケファリン(20μM)、デスアシルグレリン(20μM)又はソマトスタチン(20μM)を含むリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)に、リボフラビン(4μM)、化合物(a)(20μM)又は化合物(1a)(4μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃で60分インキュベートした後、質量分析装置(MALDI−TOF MS)又はLC/MS(ESI−Q)にて反応を追跡した。
【0080】
酸素化反応のAβ選択性について検討を行った結果を
図8に示す。リボフラビン(20mmol%)、化合物(a)(100mmol%)、化合物(1a)(20mmol%)は、中性緩衝液中(37℃)1時間の光照射条件にてAβを同程度(50〜70%)酸素化した。一方、同条件において、リボフラビン及び化合物(a)はアンギオテンシンIV(VYIHPF(配列番号2))、メチオニンエンケファリン(YGGFM(配列番号3))、デスアシルグレリン(GSSFLSPEHQRVQQRKESKKPPAKLQPR(配列番号4))、ソマトスタチン(AGCKNFFWKTFTSC(配列番号5))をそれぞれ20〜35%、40〜70%、15〜30%、60〜80%程度酸素化したのに対し、化合物(1a)を用いた反応においては酸素化体の生成はそれぞれ2%以下に抑えられた。本結果より、リボフラビン及び化合物(a)は光照射によって、アミロイド性・非アミロイド性に関わらず様々な基質を酸素化するのに対し、化合物(1a)は、通常の基質に対しては酸化活性をほとんど有さず、凝集したAβに対して選択的に酸素化することが示唆された。
【0081】
実施例5(本発明化合物が、クロスβシート構造に選択的に結合して酸素化すること)
(1)リン酸緩衝液(10mM,pH7.4)中のAβ1−42(20μM)を37℃で0、1、3、6時間インキュベートして調製した4種類の凝集Aβ1−42それぞれにチオフラビンTを加え、この蛍光強度を測定した。また、原子間力顕微鏡を用いて形状を解析した。
その結果、
図9aに示すように、インキュベートしなかったもの(0時間)に対しては蛍光を示さなかったが、1、3、6時間インキュベートしたものに対してはいずれについても蛍光を示し、インキュベート時間が長いほうがより強い蛍光を示した。また、インキュベートしなかったもの(0時間)は凝集が観測されなかったが、1、3、6時間インキュベートしたものについてはそれぞれオリゴマー(1時間)、前原線維(3時間)及び強硬な線維(6時間)が観測された。
【0082】
(2)リン酸緩衝液(10mM,pH7.4)中のAβ1−42(20μM)を37℃で0、1、3、6時間インキュベートして調製した4種類の凝集Aβ1−42(0.5μM)を含む溶液それぞれに、化合物(1a)(10μM)を加え、化合物(1a)の蛍光強度を測定した。
【0083】
その結果、
図9bに示すように、インキュベートしなかったもの(0時間)に対しては蛍光を示さなかったが、1、3、6時間インキュベートしたものに対してはいずれについても蛍光を示し、インキュベート時間が長いほうがより強い蛍光を示した。化合物(1a)が凝集したAβ1−42のクロスβシート構造に結合していることが明らかとなった。
【0084】
(3)リン酸緩衝液(10mM,pH7.4)中のAβ1−42(20μM)を37℃で0、1、3、6時間インキュベートして調製した4種類の凝集Aβ1−42(0.5μM)を含む溶液それぞれに、リボフラビン(4μM)及び化合物(1a)(10μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、室温で10分インキュベートした後、質量分析装置(MALDI−TOF MS)にて反応を追跡した。また、調製したそれぞれの凝集Aβ1−42にチオフラビンTを加え、この蛍光強度を測定した。
酸素化強度率(%)の増加は、(凝集Aβ1−42の酸素化強度率(37℃、所定時間インキュベート))−(凝集Aβ1−42の酸素化強度率(37℃、0時間インキュベート))で算出した。
酸素化強度率(%)は、(酸素付加体の強度の合計)/((非酸素付加体(Native)の強度)+(酸素付加体の強度の合計))で算出した。
【0085】
その結果、
図9cに示すように、化合物(1a)を用いた場合には、チオフラビンTの蛍光強度(クロスβ構造の含有度に相当)が増加するにともない酸素化強度率の増大が観測された。リボフラビンを用いた場合には、酸素化強度率の増加は観測されなかった。
【0086】
以上の結果(1)〜(3)より、化合物(1a)は、クロスβ構造の含有度の増加にともない酸素化効率が増加していることが明らかとなり、このような特性はリボフラビンにはない化合物(1a)に特有の機能であることが裏付けられた。
【0087】
実施例6(Aβオリゴマー及びAβ凝集体への選択的酸素化)
(1)リン酸緩衝液(10mM,pH7.4)中のAβ1−42(20μM)を0℃(サンプルE)及び室温(サンプルF)で24時間インキュベートして調製した2種類のAβ1−42それぞれについて、原子間力顕微鏡を用いてサイズ分布を解析した。
その結果、
図10aに示すように、0℃及び室温でインキュベートして調製したAβ1−42のいずれについても均一なオリゴマーが観測された。尚、室温でインキュベートして調製したAβ1−42オリゴマーのほうがより大きなサイズのオリゴマーが観測された。
【0088】
(2)リン酸緩衝液(10mM,pH7.4)中のAβ1−42(20μM)を0℃及び室温で24時間インキュベートして調製した2種類のAβ1−42オリゴマー(0.5μM)を含む溶液それぞれに、化合物(1a)(10μM)を加え、化合物(1a)の蛍光強度を測定した。
その結果、
図10bに示すように、0℃及び室温でインキュベートして調製したAβ1−42オリゴマーのいずれについても蛍光を示し、化合物(1a)がAβ1−42オリゴマーに結合していることが明らかとなった。また、室温でインキュベートして調製したAβ1−42オリゴマーのほうがより強い蛍光を示した。
【0089】
(3)リン酸緩衝液(10mM,pH7.4)中のAβ1−42(20μM)を0℃及び室温で24時間インキュベートして調製した2種類のAβ1−42オリゴマー(0.5μM)を含む溶液それぞれに化合物(1a)(4μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、室温で10分インキュベートした後、質量分析装置(MALDI−TOF MS)にて反応を追跡した。
酸素化強度率(%)は、(酸素付加体の強度の合計)/((非酸素付加体(Native)の強度)+(酸素付加体の強度の合計))で算出した。
その結果、
図10cに示すように、0℃及び室温でインキュベートして調製したAβ1−42オリゴマーのいずれについても、化合物(1a)が酸素化できることが明らかとなった。また、室温でインキュベートして調製したAβ1−42オリゴマーのほうがより大きな酸素化強度を示した。
【0090】
(4)リン酸緩衝液(10mM,pH7.4)中のAβ1−42(20μM)を0℃及び室温で24時間インキュベートして調製した2種類のAβ1−42オリゴマー(0.5μM)を含む溶液それぞれに化合物(1a)(4μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、室温で1時間インキュベートした。その後、それぞれの溶液を37℃でインキュベートし、Nile redを加え、この蛍光強度を測定した。6時間インキュベートしたものについては、原子間力顕微鏡分析による形状も解析した。非酸素化Aβ1−42オリゴマー(Native)は光照射しないことで調製した。
その結果、
図10dに示すように、0℃及び室温でインキュベートして調製したAβ1−42オリゴマーのいずれについてもNativeと比較して弱い蛍光強度を示し、化合物(1a)がAβ1−42オリゴマーのクロスβ構造の増加を抑えていることが明らかとなった。また、線維化も同様に抑えられていた。
【0091】
以上の結果(1)〜(4)より、化合物(1a)がAβ1−42の線維構造に加えてオリゴマー構造を酸素化し凝集及び線維化を抑えることが明らかとなった。
【0092】
実施例7(本発明化合物Aβアミロイド以外のアミロイド凝集に対する酸素化作用)
(1)25mM塩酸溶液中のインスリン(400μM)を60℃で撹拌(1000rpm)しながらインキュベートして調製した非凝集(0時間インキュベート)及び凝集(12時間インキュベート)インスリン(160μM)を含む中性緩衝液に、化合物(1a)(20μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃で30分インキュベートした後、質量分析装置(MALDI−TOF MS)にて反応を追跡した。
その結果、
図11aに示すように、非凝集インスリンでは酸素化の進行は認められず、凝集インスリンにおいては酸素化の進行が観察された。尚、光照射を行わなかった場合、凝集インスリンの酸素化は観測されなかった。
【0093】
(2)1M塩酸溶液中のβ2ーミクログロブリン(114μM)を37℃で撹拌(1000rpm)しながらインキュベートして調製した非凝集(0時間インキュベート)及び凝集(24時間インキュベート)β2ーミクログロブリン(88μM)を含む中性緩衝液に、化合物(1a)(20μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃で30分インキュベートした後、エンドプロテイナーゼ(Lys−C)で消化し、質量分析装置(MALDI−TOF MS)にて反応を追跡した。
その結果、
図11bに示すように、非凝集β2ーミクログロブリンでは酸素化の進行は認められず、凝集β2ーミクログロブリンの酸素化が観察された。尚、光照射を行わなかった場合は、凝集β2ーミクログロブリンの酸素化は観測されなかった。
【0094】
(3)10mM塩酸溶液中のトランスサイレチン(80μM、100mM NaCl含む)を室温でインキュベートして調製した非凝集(0時間インキュベート)及び凝集(3時間インキュベート)トランスサイレチン(36μM)を含む中性緩衝液に、化合物(1a)(20μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃で30分インキュベートした後、エンドプロテイナーゼ(Lys−C)で消化し、質量分析装置(MALDI−TOF MS)にて反応を追跡した。
その結果、
図11c〜
図11eに示すように、非凝集ランスサイレチンでは酸素化の進行は認められず、凝集トランスサイレチンの酸素化が観察された。尚、光照射を行わなかった場合は、凝集トランスサイレチンの酸素化は観測されなかった。
【0095】
(4)20mMトリス緩衝液中(pH7.5,100mM NaCl及び1mM MgCl
2含む)のαーシヌクレイン(69μM)を37℃で撹拌(1000rpm)しながらインキュベートして調製した非凝集(0時間インキュベート)及び凝集(24時間インキュベート)αーシヌクレイン(69μM)を含む本緩衝液に、化合物(1a)(20μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃で30分インキュベートした後、エンドプロテイナーゼ(Lys−C)で消化し、質量分析装置(MALDI−TOF MS)にて反応を追跡した。
その結果、
図11f及び
図11gに示すように、非凝集αーシヌクレインでは酸素化の進行は認められず、凝集αーシヌクレインの酸素化が観察された。尚、光照射を行わなかった場合は、凝集αーシヌクレインの酸素化は観測されなかった。
【0096】
実施例8(本発明化合物がクロスβシート構造の形成を伴うアミロイド凝集に特異的である)
(1)ヌクレオシドホスホリラーゼ(0.1mg/mL)を含むリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)を60℃でインキュベートし蛍光アッセイキット(Protein Stability and Aggregation Assay Kit(ProFoldin、Hudson、MO、USA))を用いて熱凝集度を追跡した。
その結果、
図12aに示すように、ヌクレオシドホスホリラーゼを含むリン酸緩衝液をインキュベートしたところ、時間経過に伴いキットの蛍光強度(熱凝集度)の増加が観測された。0時間及び1時間インキュベートして調製したものをそれぞれ非凝集及び凝集ホスホリラーゼとして酸素化反応解析に用いた。
【0097】
(2)予め37℃でインキュベートさせたAβ1−42(20μM)を含むリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)を37℃でインキュベートして調製した非凝集(0時間インキュベート)及び凝集(6時間インキュベート)Aβ1−42に、リボフラビン(4μM)又は化合物(1a)(4μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、室温で10分インキュベートした後、質量分析装置(MALDI−TOF MS)にて反応を追跡した。
ヌクレオシドホスホリラーゼ(0.1mg/mL)を含むリン酸緩衝液(10mM,pH7.4)を60℃でインキュベートして調製した非凝集(0時間インキュベート)及び凝集(1時間インキュベート)ヌクレオシドホスホリラーゼに、リボフラビン(4μM)又は化合物(1a)(4μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、室温で10分インキュベートした後、エンドプロテイナーゼ(Lys−C)で消化し、質量分析装置(MALDI−TOF MS)にて反応を追跡した。
それぞれの酸素化率の比は、(凝集Aβ1−42の酸素化強度率)/(非凝集Aβ1−42の酸素化強度率)及び(凝集ヌクレオシドホスホリラーゼの酸素化強度率)/(非凝集ヌクレオシドホスホリラーゼの酸素化強度率)として算出した。
【0098】
その結果、
図12bに示すように、非凝集及び凝集Aβ1−42にリボフラビン(20.0mmol%)及び化合物(1a)(20.0mmol%)を添加し、生理的条件下(pH7.4、室温)光照射を行ったところ、リボフラビンを用いた場合の酸素化率比は0.8程度であり、化合物(1a)を用いた場合の酸素化率比は4.2程度であった。
非凝集及び凝集ヌクレオシドホスホリラーゼにリボフラビン及び化合物(1a)を添加し、生理的条件下(pH7.4、室温)光照射を行ったところ、リボフラビンを用いた場合の酸素化率比は1.4程度であり、化合物(1a)を用いた場合の酸素化率比は1.2程度であった。
【0099】
以上の(1)及び(2)の結果より、化合物(1a)は(熱凝集ではなく)クロスβ構造の形成を伴うアミロイド凝集特異的に作用することが明らかとなった。
【0100】
実施例9
L−アスコルビン酸(500μM)を含む培養培地に、化合物(1a)(20μM)又はリボフラビン(4μM)を加え、LED照射下(波長500nm)、37℃で30分インキュベートした後、質量分析装置(LC−MSMS)にて反応を追跡した。
その結果、
図13に示すように、L−アスコルビン酸に化合物(1a)(4.0mmol%)又はリボフラビン(0.8mmol%)を添加し、光照射を行ったところ、化合物(1a)を用いた場合にL−アスコルビン酸は100%残存していた。一方で、リボフラビンを用いた場合はL−アスコルビン酸は完全に消失していた。
この結果から、本発明化合物は、単に光照射を受けただけでは酸化作用を示さず、アミロイド凝集のようなクロスβシート構造に結合して初めて酸化作用を示すことが明らかになった。