特許第6562376号(P6562376)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562376
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】転写用加飾フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-93552(P2014-93552)
(22)【出願日】2014年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-231221(P2014-231221A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-96960(P2013-96960)
(32)【優先日】2013年5月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 佳明
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁宣
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 浩壽
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−063175(JP,A)
【文献】 特開昭63−126797(JP,A)
【文献】 特開2012−040815(JP,A)
【文献】 特開2005−305382(JP,A)
【文献】 特開平10−058895(JP,A)
【文献】 特開平09−057792(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0260982(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00−7/26
B29C 45/00−45/84
B44C 1/16−1/175
C08F 283/01、290/00−290/14
C08F 299/00−299/08
C09D 1/00−10/00、101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードコート層を有する転写用加飾フィルムであって、
該ハードコート層が、活性エネルギー線により半硬化させた樹脂組成物を基材フィルムに接して形成したものであり、
該樹脂組成物が、活性エネルギー線硬化型樹脂(A)及び光重合開始剤(B)からなるか、又は
活性エネルギー線硬化型樹脂(A)、光重合開始剤(B)及び無機フィラーからなり、
該活性エネルギー線硬化型樹脂(A)が、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、及びビニルシクロヘキセンモノオキサイドからなる群から選択されるエポキシ基含有(メタ)アクリレート系モノマーのラジカル重合体に、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるか、
又は
グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、及びビニルシクロヘキセンモノオキサイドからなる群から選択されるエポキシ基含有(メタ)アクリレート系モノマー
並びに
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、及び、アクリロニトリルからなる群から選択される1種以上の共重合可能なモノマーのラジカル重合体に、(メタ)アクリル酸を反応させて得られる、
重量平均分子量10,000〜100,000であり、(メタ)アクリロイル基1つあたりの分子量が200〜400である多官能(メタ)アクリレートであり、
該光重合開始剤(B)が、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノン、1−[4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)ファニル]−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルホニル)プロパン−1−オン、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)フェニル,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、及びエタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(0−アセチルオキシム)からなる群から選択される1種以上のものであり、
該無機フィラーが、シリカ微粒子、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、及び酸化インジウムからなる群から選択される1種以上のものであり、
該基材フィルムと該ハードコート層との剥離強度が30〜500mN/24mmであることを特徴とする転写用加飾フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写用加飾フィルムに関する。詳しくは、プラスチック成形品の表面に機能性やデザイン性を付与する為のインモールド射出成型同時転写加飾法で用いられる転写用加飾フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品の表面に絵柄や風合いなどの装飾や傷付き難さ(ハードコート性)の付与を施す製造工法として、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のプラスチックフィルムに接着層や絵柄層、ハードコート層を積層した加飾フィルムを金型内に挿入し、射出成型と同時に成型品に貼り付けるインモールド射出成型工法が用いられている。
【0003】
このようなインモールド射出成型工法は、樹脂成型品に貼り付ける加飾フィルムの構成の違いによって、射出成型同時転写加飾法と射出成型同時ラミネート加飾法に分類される。
【0004】
射出成型同時転写加飾法は、基材フィルムの片面に離型層を形成し、離型層上に転写層(ハードコート層、絵柄層、接着層等の順で積層した層)を積層した転写用加飾フィルムを金型内に挿入し、基材フィルム側を金型内面に密着するように設置し、金型を閉じた後に溶融した熱可塑性樹脂を金型内に転写層側から射出充填させた後、金型を開き成形物を取り出す際に、離型層とハードコート層が剥離することで、最表面に転写層を転写して成型品を得るものである。このような射出成型同時転写加飾法は、転写時にハードコート層と剥離層との界面で剥がしムラが起こりやすく、さらに離型層とハードコート層との界面で剥離が起こりやすく、転写用加飾フィルムの搬送時などに離型層とハードコート層が剥離してしまうという問題があった。
【0005】
これに対しては、基材上に、離型層、保護層、着色層及び接着剤層をこの順に積層してなる、転写加飾フィルムであって、該保護層が重合性(メタ)アクリレートオリゴマーを含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、かつ転写後の該離型層と該保護層との剥離強度が0.1〜1.0N/25mmである転写加飾フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、基材と、基材の一方の面へ離型層、ハードコート層及び接着層を設けてなるハードコート層転写箔において、上記離型層がメラミン系樹脂であり、上記ハードコート層が電離放射線硬化性樹脂の硬化物及びポリエチレンワックスを含んでいるハードコート層転写箔も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、これらの離型層を有する転写用加飾フィルムは、離型層を積層しなければならないため、コスト悪化につながり、製造に要する工程数が増えることで生産効率低下の原因となっている。
【0007】
また、特許文献2に記載されたハードコート層転写箔は、ハードコート層と成型物との密着性が低下し、成型物にハードコート層と柄インキ層を同時に加飾する場合には、ハードコート層と柄インキ層の密着が悪くなるという問題があった。
【0008】
このように、射出成型同時転写加飾法においては、ハードコート性と装飾等を付与する転写層(ハードコート層、絵柄層及び接着層)と基材フィルムとが容易に剥離しつつ、ハードコート層と絵柄層とが剥離せず、容易かつ低コストで射出成型できる転写用加飾フィルムの開発が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開2011−8421号公報
【特許文献2】特開2008−6708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、インモールド射出成型同時転写加飾法において、従来は必要であった離型層を基材フィルム上に形成することなく、転写時に容易に基材フィルムとハードコート層との界面で剥離可能であり、優れた塗膜伸度を有し、完全硬化後のハードコート層が優れた耐擦傷性、硬度を有する転写用加飾フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の末、ハードコート層の樹脂組成と硬化性のコントロールにより、離型層が無くとも基材フィルムとハードコート層の界面の剥離強度を適切な範囲に設定することができる知見を得た。すなわち、本発明は、ハードコート層を有する転写用加飾フィルムであって、該ハードコート層が、活性エネルギー線により半硬化させた樹脂組成物を基材フィルムに接して形成したものであり、該樹脂組成物が活性エネルギー線硬化型樹脂(A)(以下「(A)成分」ともいう)及び光重合開始剤(B)(以下「(B)成分」ともいう)を含有し、該活性エネルギー線硬化型樹脂(A)が、重量平均分子量10,000〜100,000であり、(メタ)アクリロイル基1つあたりの分子量が200〜400である多官能(メタ)アクリレートであることを特徴とする転写用加飾フィルムである。(以下、本発明1という)。
【0012】
本発明2は、活性エネルギー線硬化型樹脂(A)が、少なくともエポキシ基含有(メタ)アクリレート系モノマーを含むモノマー成分のラジカル重合体に、α,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる反応生成物である転写用加飾フィルムである。
【0013】
本発明3は、本発明1又は2において、基材フィルムとハードコート層との剥離強度が30〜500mN/24mmである転写用加飾フィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インモールド射出成型同時転写加飾法において、従来は必要であった基材フィルム上に離型層を形成することなく、搬送時などに基材フィルムと転写層が剥がれ難く、転写成型時にはムラ無く基材フィルムより転写層が剥がれる、最適な剥離強度に調節可能な転写用加飾フィルムを低コストで得ることができ、活性エネルギー線により完全にハードコート層を硬化させると、優れた耐擦傷性、硬度を成型物表面に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明における転写用加飾フィルムは、プラスチック成形品の表面に機能性やデザイン性を付与する為に用いられるインモールド射出成型同時転写加飾法において使用されるものである。本発明の転写用加飾フィルムは、基材フィルムに接してハードコート層が形成されたものであり、基材フィルムとハードコート層の間に従来必須であった剥離層は不要である。
【0016】
上記ハードコート層は、(A)成分及び(B)成分を含有する樹脂組成物(ハードコート剤)を活性エネルギー線により半硬化物としたものである。
【0017】
上記(A)成分は、(メタ)アクリロイル基1つあたりの分子量が200〜400であり、重量平均分子量10,000〜100,000である多官能(メタ)アクリレートである。(メタ)アクリロイル基1つあたりの分子量が200未満であると実際の合成が困難であり、400を超えるとハードコート性が低下し、成形物の表面が容易に傷付く。好ましくは、200〜300である。重量平均分子量が10,000未満であると、剥離強度が高くなり基材フィルムとハードコート層の剥離が困難となり、さらには表面タックが大きく耐ブロッキング性の低下となり、100,000を超えると、樹脂の粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となる。好ましくは、100,000〜90,000である。ここでいう重量平均分子量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値で得られた重量平均分子量から測定した値である。また(メタ)アクリロイル基1つあたりの分子量は、{(A)成分の重量平均分子量/アクリロイル基の和}から算出される値である。
【0018】
上記(A)成分は、少なくともエポキシ基含有(メタ)アクリレート系モノマーを含むモノマー成分のラジカル重合体に、α,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる反応生成物であることが好ましい。これにより、高い硬度、優れた耐擦傷性を有するハードコート層を得ることができる。
【0019】
上記モノマー成分に含まれる上記エポキシ基含有(メタ)アクリレート系モノマーとは、分子内に少なくとも1個のエポキシ基と1個の不飽和二重結合を有する化合物である。具体的には、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、ビニルシクロヘキセンモノオキサイド(すなわち、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン)などが挙げられる。これらのうち、入手容易性と調達コストの面から、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0020】
上記(A)成分におけるモノマー成分は、エポキシ基含有(メタ)アクリレート系モノマーの他に共重合可能なモノマーを含むことができる。
【0021】
上記共重合可能なモノマーとして、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、いずれか一方の末端に不飽和二重結合を有し、エポキシ基及びカルボキシル基を含有しないマクロモノマー等が挙げられる。これらのうち1種又は2種以上をモノマー成分として含有することができる。
【0022】
上記マクロモノマーの具体例としては、例えば、東亞合成(株)マクロモノマーAA−6、AB−6、AS−6、AY−707S、チッソ(株)サイラプレーンFM−0711、FM−0721、ダイセル化学工業(株)プラクセルFA10L、日油(株)ブレンマーPME−4000、PSE−1300等が挙げられる。
【0023】
上記α,β−不飽和カルボン酸としては、各種公知のものを特に限定なく使用することができる。具体的には、例えば(メタ)アクリル酸等のα,β−不飽和モノカルボン酸、(メタ)アクリル酸ダイマー等のα,β−不飽和ジカルボン酸などが挙げられる。これらのうち、上記樹脂組成物を完全硬化させたハードコート層ハードコート性の観点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0024】
上記(B)成分は、活性エネルギー線によりラジカルを発生させて重合を開始させることができるものであれば、特に限定されず公知のものを用いることができる。(B)成分の具体例としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノン、1−[4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルホニル)プロパン−1−オン、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)フェニル,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(0−アセチルオキシム)等が挙げられる。(B)成分は、これらを単独、あるいは2種以上を組み合せて用いることができる。
【0025】
上記樹脂組成物における(A)成分と(B)成分の配合量は、(A)成分の樹脂固形分100重量部に対して、(B)成分を0.1〜10重量部程度とすることが好ましい。この配合量とすることで、硬化性をコントロールして半硬化させたハードコート層を形成しやすく、転写後に活性エネルギー線を照射してハードコート層を完全硬化させる際も硬化不良が生じにくい。
【0026】
上記樹脂組成物は、耐摩耗性向上や耐ブロッキング性向上を目的に無機フィラーを配合しても良い。無機フィラーとしては、シリカ微粒子や金属酸化物微粒子などの公知のものを限定なく使用することができる。金属酸化物微粒子としては、例えば酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化インジウム等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、商業的に製品群が充実しており入手容易で、安価であることから、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび酸化亜鉛の微粒子が好ましい。また、優れた耐ブロッキング性を有する転写用加飾フィルムを提供できる点で、特に表面処理を行ったシリカ微粒子が好ましい。無機フィラーを樹脂組成物に配合する場合は、(A)成分の樹脂固形分100重量部に対して、無機フィラーが1〜30重量部程度であることが好ましい。この範囲とすることで優れた耐ブロッキング性を有する転写用加飾フィルムとすることができる。
【0027】
上記表面処理シリカは、シリカ微粒子:メチルイソブチルケトン:メチルエチルケトン=1:3:6の混合溶液10gにノルマルヘキサンを添加した液の全光線透過率が60〜70%となるために必要なノルマルヘキサンの滴下量が10g以上である疎水表面処理シリカ微粒子であることが好ましい。この範囲とすることで、耐ブロッキング性が優れた転写用加飾フィルムを得ることができる。
【0028】
上記無機フィラーの平均粒子径は1〜200nm(レーザー回折・散乱法による)程度に制御されたものを使用することが好ましい。平均粒子径が1nm未満の場合には、保存安定性が悪く、平均粒子径が200nmを超えると硬化膜に白化が生じ易くヘイズや透過効率などの光学特性を損ねる恐れがある。より好ましくは、平均粒子径が1〜100nmである。
【0029】
本発明の転写用加飾フィルムは、(A)成分の原料であるモノマー成分が上記マクロモノマーを含む場合、及び/又は上記樹脂組成物が疎水表面処理シリカ粒子を含む場合に、耐ブロッキング性が特に優れる点で好ましい。
【0030】
上記樹脂組成物は、塗工性の改良のためにレベリング剤や消泡剤、耐光性を改善するために市販の紫外線吸収剤、基材フィルムからの剥離強度を調整する目的でグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド等をも配合することができる。
【0031】
上記基材フィルムは、特に制限はなく、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等を用いることができる。
【0032】
本発明は、上記基材フィルムに接して形成されたハードコート層が樹脂組成物を活性エネルギー線により半硬化させたものである。
【0033】
上記半硬化とは、活性エネルギー線硬化型樹脂中の(メタ)アクリロイル基の一部が架橋反応し、未反応の(メタ)アクリロイル基が残存している状態である。これは、赤外線分光測定による反射ATR測定法にて測定を行い、波長1620cm−1付近のピーク面積P1620と、波長1720cm−1付近のピーク面積P1720の比(P1620/P1720)の値から、下記式(1)で表わされる硬化度が、0.7以上0.95以下を意味する。
硬化度=(UV照射後P1620/UV照射後P1720)/(UV照射前P1620/UV照射前P1720)
【0034】
上記半硬化させた樹脂組成は、半硬化塗膜表面を指触した際に指に樹脂成分が付着しない低タック性と耐ブロッキング性、優れた塗膜伸度を有する。
【0035】
上記基材フィルムに半硬化膜(ハードコート層)を積層させる方法としては、(1)公知の方法で塗布して上記の硬度を満たすように乾燥するか、又は、(2)塗布して乾燥後に上記の硬度を満たすようにエネルギー線を照射して硬化させることにより、行う。ハードコート剤の塗布方法としては、例えばバーコーター塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷法等が挙げられる。なお、塗布量は特に限定されないが、通常は、乾燥後の重量が0.1〜20g/m、好ましくは0.5〜10g/mになる範囲である。
【0036】
上記転写用加飾フィルムは、通常、転写される柄インキ層、アンカー層、接着層、低反射層、帯電防止層、紫外線吸収層、近赤外線遮断層、電磁波吸収層などの転写層を、上記半硬化物であるハードコート層の上に、任意の順番で積層してもよい。
【0037】
上記柄インキ層は、適切な色の顔料や染料を、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース系樹脂、アルキド樹脂などに配合した着色インキを、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、オフセット印刷、スクリーン印刷などの印刷方法を用い積層したものである。この柄インキ層は、単色、または、多色重ね塗りをしても良い。また、金属蒸着を全面もしくは部分的に行うこともできる。
【0038】
上記アンカー層は、各転写層間の密着性を高めるため、例えば、二液硬化性ウレタン樹脂、メラミンやエポキシ系熱硬化性樹脂、塩化ビニル系樹脂やポリアクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができ、公知の印刷方法で積層したものである。
【0039】
上記接着層は、成型品表面に転写層を密着させるために必要である。全面もしくは、転写させたい箇所のみ積層するものである。接着層としては、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、インデン樹脂等、成形物の材質によって、親和性が適切なものを一種または二種以上を配合して用いることができる。
【0040】
上述の転写用加飾フィルムを、インモールド射出成型同時転写加飾工法に用いることができる。例えば、固定金型と可動金型よりなる金型内に搬送ロールなどで転写用加飾フィルムが連続的に搬送され、基材フィルム側が固定金型面と接し、適切な位置調整がなされた後に、可動金型が移動して型締めする。そして、あらかじめ熱により溶解させた熱可塑性樹脂を、高温高圧で金型内に転写用加飾フィルムの転写層側より射出充填し、急冷した後で金型を開き、転写層が最表面に転写された成形物を取り出す。
【0041】
上記基材フィルムとハードコート層との剥離強度が30〜500mN/24mmであることが好ましい。剥離強度をこの範囲とすることで、金型内への搬送時に基材フィルムとハードコート層が剥離することなく取り扱え、かつ、転写と同時に基材フィルムをハードコート層から剥離する際に剥がしムラが起ることなく、転写性に優れたものとすることができる。より好ましくは40〜300mN/24mm、更に好ましくは、50〜200mN/24mmである。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら各例に限定されるものではない。なお、各例中、部および%は特記しない限りすべて重量基準である。
【0043】
<活性ネネルギー線硬化型樹脂(多官能(メタ)アクリレート)の調製>
<合成例1>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口を取り付けた四つ口フラスコに、酢酸ブチル48.6部、グリシジルメタクリレート(以下、GMA)32.6部、アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBN)1.6部を仕込んで攪拌し、窒素気流化で100℃まで昇温したのち10時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却して、アクリル酸16.6部、トリフェニルフォスフィン 0.1部、メトキノン 0.5部を仕込み、窒素流入口をエアーバブリング装置に取り換えて空気を反応液中にバブリングしながら攪拌して、110℃まで昇温させ9時間保温反応させることで、樹脂固形分50%の樹脂1を得た(表1)。なお、重量平均分子量(GPCによるポリスチレン換算値)は12,000であり、アクリル基一つあたりの分子量は214と算出された。重量平均分子量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製、商品名「HLC−8220」、カラム:東ソー(株)製、商品名「TSKgel superHZ2000」を3本直列に連結して測定した値を示す。
【0044】
<合成例2>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口を取り付けた四つ口フラスコに、酢酸ブチル49.2部、GMA33.0部、AIBN0.3部を仕込んで攪拌し、窒素気流化で85℃まで昇温したのち10時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却して、アクリル酸16.8部、トリフェニルフォスフィン 0.1部、メトキノン 0.5部を仕込み、窒素流入口をエアーバブリング装置に取り換えて空気を反応液中にバブリングしながら攪拌して、110℃まで昇温させ9時間保温反応させることで、樹脂固形分50%の樹脂2を得た(表1)。なお、重量平均分子量(GPCによるポリスチレン換算値)は60,000で、算出されるアクリル基一つあたりの分子量は214であった。
【0045】
<合成例3>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口を取り付けた四つ口フラスコに、酢酸ブチル48.8部、GMA28.0部、アクリル酸エチル(EA)3.5部、メチルメタクリレート(MMA)3.5部、AIBN1.4部を仕込んで攪拌し、窒素気流化で90℃まで昇温したのち10時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却して、アクリル酸14.2部、トリフェニルフォスフィン 0.1部、メトキノン 0.5部を仕込み、窒素流入口をエアーバブリング装置に取り換えて空気を反応液中にバブリングしながら攪拌して、110℃まで昇温させ9時間保温反応させることで、樹脂固形分50%の樹脂3を得た(表1)。なお、重量平均分子量(GPCによるポリスチレン換算値)は20,000で、算出されるアクリル基一つあたりの分子量は250であった。
【0046】
<合成例4>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口を取り付けた四つ口フラスコに、酢酸ブチル48.7部、GMA25.4部、ポリスチレンマクロモノマー(商品名「AS−6」東亞合成株式会社)10.9部、AIBN1.5部を仕込んで攪拌し、窒素気流化で90℃まで昇温したのち10時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却して、アクリル酸12.9部、トリフェニルフォスフィン 0.1部、メトキノン 0.5部を仕込み、窒素流入口をエアーバブリング装置に取り換えて空気を反応液中にバブリングしながら攪拌して、110℃まで昇温させ9時間保温反応させることで、樹脂固形分50%の樹脂4を得た(表1)。なお、重量平均分子量(GPCによるポリスチレン換算値)は40,000で、算出されるアクリル基一つあたりの分子量は275であった。
【0047】
<合成例5>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口を取り付けた四つ口フラスコに、酢酸ブチル49.1部、GMA12.9部、メチルメタクリレート30.0部、AIBN1.3部を仕込んで攪拌し、窒素気流化で90℃まで昇温したのち10時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却して、アクリル酸6.5部、トリフェニルフォスフィン 0.1部、メトキノン 0.5部を仕込み、窒素流入口をエアーバブリング装置に取り換えて空気を反応液中にバブリングしながら攪拌して、110℃まで昇温させ9時間保温反応させることで、樹脂固形分50%の樹脂5を得た(表1)。なお、重量平均分子量(GPCによるポリスチレン換算値)は30,000で、算出されるアクリル基一つあたりの分子量は545であった。
【0048】
【表1】
GMA:グリシジルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
EA:アクリル酸エチル
AS−6:東亞合成株式会社製 ポリスチレンマクロモノマー
【0049】
<ハードコート剤(樹脂組成物)の調製>
表2に示す処方で各材料を配合して、メチルエチルケトン(以下、MEK)にて固形分40%になるように希釈し、ハードコート剤T1〜T9を調製した。なお、表2中は全て固形分に換算した数値(単位は特記がない場合は重量部)を示す。
【表2】
樹脂1〜5:合成例1〜5で合成した表1記載の活性エネルギー線硬化型樹脂
UA−306H:ペンタエリスリトールトリアクリレート/ヘキサメチレンジイソシアネートのウレタンプレポリマー(商品名 UA−306H 固形分100% 共栄社化学株式会社製 重量平均分子量1,000)
シリカ微粒子:商品名 IPA−ST−L(日産化学工業株式会社製) 固形分30%
疎水表面処理シリカ微粒子:攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却コンデンサー及び減圧蒸留装置を取り付けた四つ口フラスコに、IPA−ST−Lを100g、ヘキサメチレンジシラザンを1.5g仕込んで60℃まで加熱し10時間反応させヘキサメチルジシロキサンで表面処理したシリカゾルを得た。その後、メチルイソブチルケトン(以下、MIBK)を滴下しながら減圧(0.02MPa)しながら溶剤置換を行い、MIBK分散ヘキサメチレンジシラザン表面処理シリカの固形分30%を得た。この表面処理したシリカとMIBK、MEKの重量比率を1:3:6にした混合溶液10gの全光線透過率が60〜70%になるのに用したノルマルヘキサンの滴下量は18.5gだった。
グリセリン脂肪酸エステル:商品名 リケマールS−100A(理研ビタミン株式会社製)
光重合開始剤:商品名 イルガキュア184(BASF社製) 固形分100%
【0050】
<プラスチック基材へのハードコート層の積層>
表3及び表4に示すプラスチックフィルム基材の片面に上記の調製したハードコート剤T1〜T8をバーコーター#12にて塗工した。80℃60秒間乾燥させ有機溶剤を揮発させた後、高圧水銀灯にて積算光量0〜300mJ/cmのUV線(UV照射条件(1))を照射し半硬化状態にした。
【0051】
得られた転写用加飾フィルムの半硬化状態のハードコート層のタック性、耐ブロッキング性、塗膜伸度を以下のように評価した。その結果を表3と表4に示す。
【0052】
<タック性>
半硬化状態のハードコート層を指触し、以下の基準で評価した。
○=樹脂成分が指に付着しない。
×=樹脂成分が指に付着する。
【0053】
<耐ブロッキング性>
半硬化状態のハードコート層を有する転写用加飾フィルムを5×5cmの大きさに切り出し、ポリエチレンテレフタレートフィルムを乾燥膜面側に貼り合せ、ガラス板に挟み100g/cmの荷重を掛け、40℃保温庫に24時間静置して乾燥膜とポリエチレンテレフタレートフィルムとの貼り付き具合によって、耐ブロッキング性を以下に示す4段階で評価した。
4;全く貼りついて無い状態
3;貼りついていない箇所があり、貼り付いている箇所も容易に剥離する
2;全体が貼りついているものの、容易に剥離する
1;全体が貼り付き、剥離するのが困難
【0054】
<塗膜伸度>
半硬化状態のハードコート層を有する転写用加飾フィルムを長さ100mm、幅7mmの短冊状に切り出し、引張試験機(型番「RTC−1250A」株式会社オリエンテック)にチャック間距離50mmでセットし、室温25℃、湿度45%RHの環境の下、引張り速度10mm/minで実施し、ハードコート層にクラックが生じるまでの伸度を測定した。
【0055】
<転写用加飾フィルムの製造>
前述の通り作成した半硬化状態のハードコート層の上に、接着層として日本合成化学会社製ポリエステル樹脂(商品名P−170)をトルエン:メチルエチルケトン=1:1の混合溶媒で固形分30%に希釈したものを、バーコーターを用いて乾燥膜厚さ1μm程度になるよう塗布し、100℃60秒間乾燥させて転写用加飾フィルムを得た。
<インモールド射出成型>
金型内に作成した上記各転写用加飾フィルムを配置して、熱可塑性樹脂(三菱レイヨン社製、商品名 アクリペットVH)の溶融物を射出成型し、ハードコート層を最表面に転写させた成形物を得た。その後、成形物高圧水銀灯にて積算光量300mJ/cmのUV線を成形物に照射し(UV照射条件(2))、ハードコート層を完全硬化させた。
【0056】
転写用加飾フィルムが有する完全硬化したハードコート層の鉛筆硬度、耐擦傷性を以下のように評価した。その結果を表3と表4に示す。
【0057】
<剥離強度>
作成した転写用加飾フィルムのハードコート層側に、幅24mmのセロハンテープ(ニチバン株式会社 商品名 エルパック LP−24)を張付け、セロハンテープ端部に沿ってカッターで切れ目を入れて、所定長さにプラスチックフィルム基材とハードコート層間を剥がして、バネ計りで剥離強度を測定した。
【0058】
<鉛筆硬度>
作成したインモールド射出成型物にて評価した。JIS−K−5600の試験方法に則って行った。鉛筆硬度2Hのものを優れたハードコート性を有しているとし、逆に、鉛筆硬度Hのものはハードコート剤として使用できるもののややハードコート性に劣るもの、鉛筆硬度Fはハードコート性が明らかに劣るものと判断した。
【0059】
<耐擦傷性>
作成したインモールド射出成型物にて評価した。#0000スチールウールを使用し、500g/cm荷重をかけて、硬化膜表面を10往復擦傷し、目視にて傷の有無を確認し、以下のように評価した。
○=傷無し
×=傷有り
【0060】
【表3】
PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム
PC:ポリカーボネートフィルム
ABS:アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂フィルム
AC:アクリル樹脂フィルム
【0061】
【表4】
剥離PET:ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面(後にハードコート層を積層する側)にバーコーター塗工により熱硬化性メラミン樹脂 商品名;TCM−01メジューム(DIC株式会社)を乾燥膜厚1μmになるように塗工し、80℃60秒熱乾燥させ、離型層を形成させたPET基材。