特許第6562379号(P6562379)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562379
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】脂肪酸クロライドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/64 20060101AFI20190808BHJP
   C07C 53/42 20060101ALI20190808BHJP
   C07C 51/60 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   C07C51/64
   C07C53/42
   C07C51/60
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-82214(P2015-82214)
(22)【出願日】2015年4月14日
(65)【公開番号】特開2015-212256(P2015-212256A)
(43)【公開日】2015年11月26日
【審査請求日】2018年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-82538(P2014-82538)
(32)【優先日】2014年4月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博也
(72)【発明者】
【氏名】小原 慎司
(72)【発明者】
【氏名】円山 圭一
(72)【発明者】
【氏名】岩田 智喜
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−287611(JP,A)
【文献】 特開平04−321656(JP,A)
【文献】 特開平01−050840(JP,A)
【文献】 特開平01−211547(JP,A)
【文献】 特開昭63−316753(JP,A)
【文献】 特開平11−255703(JP,A)
【文献】 特開2014−058458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1および工程2を順に行うことを特徴とする、脂肪酸クロライドの製造方法。

工程1:
炭素数8〜22の脂肪酸と、前記脂肪酸に対して1/3〜2/3当量の三塩化リンとを反応させて脂肪酸クロライドを生成させ、副生物である亜リン酸を除去して反応生成物を得る工程

工程2:
前記工程1で得られた前記反応生成物を20〜40℃の温度、1.0×10−4〜1.0×10−2/kg・hrの窒素流量、133.3×10−2 〜 133.3×10Paの圧力で処理し、未反応の三塩化リンを前記脂肪酸および前記脂肪酸クロライドと反応させて有機リン化合物を生成させると共に、未反応の三塩化リンを留去し、脂肪酸クロライドを得るのに際して、前記工程2で得られた前記脂肪酸クロライドに含有される無機リン化合物のリン含有量が0.10〜0.20重量%であり、前記工程2で得られた前記脂肪酸クロライドに含有される有機リン化合物のリン含有量が0.06〜0.08重量%である工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三塩化リンと脂肪酸を用いて製造する脂肪酸クロライドの製法、および得られた脂肪酸クロライドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸クロライドはアルキルケテンダイマーや有機過酸化物、界面活性剤、医薬中間体などの合成に用いられている。一般的に、脂肪酸クロライドは脂肪酸と塩素化剤を反応させて得ることが出来る。塩素化剤としては、三塩化リンや塩化カルボニルなどが用いられる。
【0003】
三塩化リンを用いる脂肪酸クロライドの製造方法は、製造が比較的簡便であるという利点がある一方で、反応によって副生する亜リン酸や未反応の三塩化リンなどのリン化合物や、未反応の脂肪酸が脂肪酸クロライド中に不純物として存在するという欠点があった。
【0004】
このような不純物の問題を解決するため、 蒸留によってリン化合物や脂肪酸を取り除くという方法がとられてきたが、蒸留した脂肪酸クロライドは経時で着色するという問題があった。
【0005】
特許文献1(特開平11−255703)には、三塩化リンと錯体を形成する添加物を加え、脂肪酸クロライドを蒸留し、三塩化リンを低減した脂肪酸クロライドの製法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2(特開平6−41000)には、金属ハロゲン化合物を添加し精製することで、リン分を含まない脂肪族カルボン酸クロライドを得る製造方法が記載されている。これらは、添加剤を用いて精製を行い、リン分を脂肪酸クロライド中から排除することで、色相の安定な脂肪酸クロライドを得るというものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−255703
【特許文献2】特開平6−041000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、所定の簡便な操作を行い、リン分を所定量残存させることで、経時における色相の安定な、かつにごりがない脂肪酸クロライドを得ることができることを見出した。
【0009】
本発明の課題は、簡便な製法によって、にごりがなく、経時における色相が安定な脂肪酸クロライドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下の工程において製造された脂肪酸クロライドは、にごりがなく、経時における色相が安定であることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 下記工程1および工程2を順に行うことを特徴とする、脂肪酸クロライドの製造方法。

工程1:
炭素数8〜22の脂肪酸と、前記脂肪酸に対して1/3〜2/3当量の三塩化リンとを反応させて脂肪酸クロライドを生成させ、副生物である亜リン酸を除去して反応生成物を得る工程

工程2:
前記工程1で得られた前記反応生成物を20〜40℃の温度、1.0×10−4〜1.0×10−2/kg・hrの窒素流量、133.3×10−2 〜 133.3×10Paの圧力で処理し、未反応の三塩化リンを前記脂肪酸および前記脂肪酸クロライドと反応させて有機リン化合物を生成させると共に、未反応の三塩化リンを留去し、脂肪酸クロライドを得るのに際して、前記工程2で得られた前記脂肪酸クロライドに含有される無機リン化合物のリン含有量が0.10〜0.20重量%であり、前記工程2で得られた前記脂肪酸クロライドに含有される有機リン化合物のリン含有量が0.06〜0.08重量%である工程
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便な製法によって、にごりがなく、経時における色相が安定な脂肪酸クロライドを得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、工程1〜2を順に行うことを特徴とする脂肪酸クロライドの製造方法に関するものである。以下、各工程について説明する。
【0014】
<工程1>
炭素数8〜22の脂肪酸と、前記脂肪酸に対して1/3〜2/3当量の三塩化リンとを反応させて脂肪酸クロライドを生成させ、静置分層の後、副生物である亜リン酸を除去する工程である。
【0015】
本発明に用いる脂肪酸は、炭素数8から22の飽和または不飽和の脂肪酸である。具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸などの単一組成の脂肪酸や、ヤシ油脂肪酸、パーム核脂肪酸、牛脂脂肪酸などの混合組成の脂肪酸を使用することができる。好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、ヤシ油脂肪酸、パーム核脂肪酸であり、特に好ましくは、ラウリン酸、ヤシ油脂肪酸である。
【0016】
三塩化リン含有量は、(三塩化リン/脂肪酸)の当量比として、1/3〜2/3当量とする。(三塩化リン/脂肪酸)の当量比は、好ましくは1.1/3〜1.8/3当量であり、より好ましくは1.3/3〜1.7/3当量である。
【0017】
三塩化リンと脂肪酸との反応温度は、好ましくは40〜90℃とし、より好ましくは45〜80℃、さらに好ましくは50〜70℃とする。三塩化リンの添加は段階的に行うことが好ましく、滴下によって行うことがより好ましい。三塩化リンの投入後、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは1〜4時間、さらに好ましくは1〜3時間熟成する。
【0018】
得られた反応物を静置分層し、下層(水層)を分離することによって、水層に溶解する亜リン酸を除去する。この静置分層に掛かる時間は2〜12時間が好ましく、3〜11時間が更に好ましく、4〜10時間が最も好ましい。静置分層時の温度は、40〜90℃が好ましく、45〜80℃がより好ましく、50〜70℃が最も好ましい。
【0019】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた反応生成物を10〜60℃の温度、1.0×10−4〜1.0×10−2/kg・hrの窒素流量、133.3×10−2 〜 133.3×10Paの圧力で処理し、未反応の三塩化リンを前記脂肪酸および前記脂肪酸クロライドと反応させて有機リン化合物を生成させると共に、未反応の三塩化リンの一部を留去する工程である。
【0020】
これによって、得られた生成物における無機リン化合物のリン含有量を0.03〜0.3重量%とし、かつ有機リン化合物のリン含有量を0.04〜0.1重量%とすることが可能になる。
【0021】
工程2を行う前の脂肪酸クロライド(分層後の有機層)について、無機リン化合物のリン含有量は、脂肪酸クロライドに対して0.3〜2.0重量%が好ましく、0.5〜1.7重量%が更に好ましく、0.7〜1.5重量%が特に好ましい。
【0022】
工程2を行う前の脂肪酸クロライド(分層後の有機層)について、無機リン化合物のリン含有量を0.3重量%以上とすることによって、有機リン化合物を十分量生成させやすくなり、未反応脂肪酸も低減させやすくなる。また、これを2.0重量%以下とすることによって、未反応の三塩化リンの除去に要する時間が短く済み、脂肪酸クロライドの色相の悪化を抑制することができる。
【0023】
工程2を実施することによって得られた脂肪酸クロライドの無機リン化合物のリン含有量は、好ましくは0.03〜0.3重量%であり、より好ましくは0.07〜0.25重量%、さらに好ましくは0.10〜0.20重量%である。これが0.3重量%を越えると、脂肪酸クロライドの白濁の要因となることがあり、0.03重量%未満では経時における色相の安定化効果が乏しくなることがある。
【0024】
また、工程2によって得られた脂肪酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は、好ましくは0.04〜0.1重量%、より好ましくは0.05〜0.09重量%、さらに好ましくは0.06〜0.08重量%である。これが0.1重量%を越えると、脂肪酸クロライドのにごりや純度悪化の原因となることがあり、0.04重量%未満では経時における色相の安定化効果が乏しくなることがある。
【0025】
工程1で得られた脂肪酸クロライドの未反応脂肪酸は1.0〜5.0重量%であり、この脂肪酸クロライドを工程2で処理すると未反応脂肪酸の含有量は0.5〜2.0重量%である。好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0026】
本工程の温度は10〜60℃とする。これが10℃より低い場合には、有機リン化合物を十分量生成させることが困難となるおそれがある。この観点からは、本工程の温度は、15℃以上が好ましく、20℃以上が更に好ましい。また、本工程の温度が60℃を越えると脂肪酸クロライドの色相が悪化する。この観点からは、本工程の温度は、50℃以下が好ましく、40℃以下が更に好ましい。
【0027】
本工程の窒素吹き込み量は1.0×10−4〜1.0×10−2/kg・hr、好ましくは1.0×10−3〜7.0×10−3/kg・hr、より好ましくは3.0×10−3〜5.0×10−3/kg・hrである。1.0×10−4/kg・hrを下回ると未反応の三塩化リンの除去に要する時間が長くなり、脂肪酸クロライドの色相が悪化するおそれがある。1.0×10−2/kg・hrを上回ると飛沫同伴によって収率が低下する恐れがある。
【0028】
本工程の圧力は133.3×10−2 〜133.3×10Paで、好ましくは133.3×10−1 〜 66.7×10Pa、より好ましくは133.3 〜 26.7×10Paである。133.3×10Paを越えると未反応の三塩化リンの除去に要する時間が長くなり、脂肪酸クロライドの色相が悪化するおそれがある。133.3×10−2Pa未満では留去される脂肪酸クロライドが多くなる可能性があり、効率的でない。
【0029】
本工程に掛かる時間は通常1〜13時間で、脂肪酸クロライド中の有機リン化合物のリン含量及び無機リン化合物のリン化合物含量を目的の量に調整することができる。
【0030】
脂肪酸クロライド中の無機リン化合物とは、エチルエーテルと飽和食塩水を用いた油水分離操作において、飽和食塩水層に分配されるリン化合物のことであり、三塩化リンや亜リン酸、またその反応物などが挙げられる。脂肪酸クロライド中の無機リン化合物のリン含有量とは、エチルエーテルと飽和食塩水を用いた油水分離操作において、飽和食塩水層に分配されるリン化合物に含まれるリン含有量のことである。
【0031】
脂肪酸クロライド中の有機リン化合物とは、エチルエーテルと飽和食塩水を用いた油水分離操作において、エチルエーテル層に分配されるリン化合物のことであり、主に三塩化リン等の無機リン化合物と脂肪酸及び脂肪酸クロライドとの反応物である。脂肪酸クロライド中の有機リン化合物のリン含有量とは、エチルエーテルと飽和食塩水を用いた油水分離操作において、エチルエーテル層に分配されるリン化合物に含まれるリン含有量のことである。
【実施例】
【0032】
(リン含有量の測定方法)
検量線の作成
標準試料としてリン酸1カリウム(試薬特級)を用いて2μg/mlのリンに相当する水溶液を作成した。この水溶液をホールピペットで適量(0〜70μgの間で数種)を分液ロートに分取し、水で全量を50mlとした。10%硝酸水溶液15mlと5%モリブデン酸アンモニウム溶液5mlおよび酢酸n-ブチル10mlを加えて、3分間振とうした後、静置した。下層を別の分液ロートに分取し、酢酸n-ブチル10mlを加え3分間振とうしたのち静置した。分液ロートの酢酸n−ブチル層を50mlメスフラスコに移した。3%塩化第1スズ溶液2mlを加え、エチルアルコールで定容した。分光光度計を用いて725nmの吸光度を測定した(10mmガラスセル)。
【0033】
前処理方法
飽和食塩水50mLとエチルエーテル20mLを分液ロート(A)へ加え、そこに脂肪酸クロライドを0.1〜0.5g量りとった。分液漏斗(A)を3分間振とう、静置し、分層させた。分層した下層の飽和食塩水層は別の分液漏斗(B)に分取した。この分液漏斗(B)にエチルエーテル20mLを加え、分液漏斗(B)を3分間振とう、静置し、分層させた。また、エチルエーテル層の残った分液漏斗(A)に飽和食塩水25mLを加え、3分間振とう、静置し、分層させた。その後、分液漏斗(A)および(B)の下層を同一のコニカルビーカー(C)に分取し、飽和食塩水層を得た。また、分液漏斗(A)および(B)に残った溶液を同一のケルダールフラスコ(D)へ分取し、エチルエーテル層を得た。
【0034】
無機リン化合物のリン含有量の測定方法
(C)コニカルビーカーの飽和食塩水層は10%硝酸水溶液1mlおよび2%過マンガン酸カリウム溶液5mlを加えて、200℃で加熱し、含まれるリンを酸化した。酸化して酸化マンガンの褐色沈殿が生成した後、約10分間加熱を続け、10%亜硫酸ナトリウム溶液を滴下し還元した。室温まで放冷後、ブロムフェノールブルー指示薬を数滴加え、14%アンモニア水で中和した。この溶液を200mlメスフラスコに移し、水で定溶した。この溶液50mlをホールピペットで分液ロートに分取した。10%硝酸水溶液15mlと5%モリブデン酸アンモニウム溶液5mlおよび酢酸n-ブチル10mlを加えて、3分間振とうした後、静置した。下層を別の分液ロートに分取し、酢酸n-ブチル10mlを加え3分間振とうしたのち静置した。分液ロートの酢酸n-ブチル層を50mlメスフラスコに移した。3%塩化第1スズ溶液2mlを加え、エチルアルコールで定容した。分光光度計を用いて725nmの吸光度を測定した(10mmガラスセル)。あらかじめ作成した検量線よりリンの含有量を求めた。
なお、本試験と平行して空試験を行った。
【0035】
有機リン化合物のリン含有量の測定方法
(D)ケルダールフラスコ中のエチルエーテルを完全に留去した。これに硫酸5mlを加え、ケルダール分解装置で炭化させた。フラスコ内を室温まで冷却後、滴下ロートより過酸化水素水約5mlをゆっくりと加え、ケルダール分解装置で分解した。次に、滴下ロートより過酸化水素水を1分間あたり約1.5mlの割合で約15ml連続的に滴下した。この溶液を濃縮してほとんどの過酸化水素水を追い出し、硫酸の白煙が発生した後、溶液が無色透明になった。室温まで放冷後、水50mlおよび2%過マンガン酸カリウム溶液1mlを加え、ケルダール分解装置内で過酸化水素を分解すると同時に酸化し、酸化マンガンの褐色沈殿が生成した後、約10分間加熱を続け、10%亜硫酸ナトリウム溶液を滴下して還元した。室温まで放冷後、ブロムフェノールブルー指示薬を数滴加え、14%アンモニア水で中和した。この溶液を200mlメスフラスコに移し、水で定溶した。この溶液50mlをホールピペットで分液ロートに分取した。10%硝酸水溶液15mlと5%モリブデン酸アンモニウム溶液5mlおよび酢酸n-ブチル10mlを加えて、3分間振とうした後、静置した。下層を別の分液ロートに分取し、酢酸n-ブチル10mlを加え3分間振とうしたのち静置した。分液ロートの酢酸n−ブチル層を50mlメスフラスコに移した。3%塩化第1スズ溶液2mlを加え、エチルアルコールで定容した。分光光度計を用いて725nmの吸光度を測定した(10mmガラスセル)。あらかじめ作成した検量線よりリンの含有量を求めた。
なお、本試験と平行して空試験を行った。
【0036】
無機リン化合物のリン含有量(重量%)
=(検量線より求めたリン含有量(g)/試料採取量(g))×希釈倍率×100

有機リン化合物のリン含有量(重量%)
=(検量線より求めたリン含有量(g)/試料採取量(g))×希釈倍率×100
【0037】
(実施例1:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸(400.0g)に対し1.5/3当量の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(57.0g)を除去し、反応溶液(473.0g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.02重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.90重量%であった。
【0038】
その後、30℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力665Paで2時間処理し、未反応の三塩化リンを除去して目的とするヤシ油脂肪酸クロライド(452.6g)を得た。得られたヤシ油脂肪酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.06重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.15重量%であった。
【0039】
(実施例2:ラウリン酸クロライド)
ラウリン酸(400.0g)に対し1.5/3当量(130.7g)の三塩化リンを50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(58.2g)を除去し、反応溶液(472.5g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.02重量%、無機リン化合物のリン含有量は1.00重量%であった。
【0040】
その後、60℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力133.3×10Paで2時間処理し、未反応の三塩化リンを除去して目的とするラウリン酸クロライド(452.5g)を得た。得られたラウリン酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.10重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.10重量%であった。
【0041】
(実施例3:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸(400.0g)に対し1.8/3当量の三塩化リン(156.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(57.1g)を除去し、反応溶液(498.9g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.04重量%、無機リン化合物のリン含有量は1.50重量%であった。
【0042】
その後、15℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力133.3×10Paで4時間処理し、未反応の三塩化リンを除去して目的とするヤシ油脂肪酸クロライド(476.9g)を得た。得られたヤシ油脂肪酸クロライドについて、有機リン化合物のリン含有量は0.10重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.30重量%であった。
【0043】
(実施例4:ステアリン酸クロライド)
ステアリン酸(435.0g)に対し2.0/3当量の三塩化リン(131.0g)を60〜65℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(45.0g)を除去し、反応溶液(521.0g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.05重量%、無機リン化合物のリン含有量は1.8重量%であった。
【0044】
その後、40℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力133.3Paで2時間処理し、未反応の三塩化リンを除去して目的とするステアリン酸クロライド(445.0g)を得た。得られたステアリン酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.08重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.11重量%であった。
【0045】
(実施例5:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸(400g)に対し1.3/3当量の三塩化リン(112.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(56.6g)を除去し、反応溶液(455.4g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.02重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.62重量%であった。
【0046】
その後、30℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力665Paで2時間処理し、未反応の三塩化リンを除去して目的とするヤシ油脂肪酸クロライド(432.6g)を得た。得られたヤシ油脂肪酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.05重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.11重量%であった。
【0047】
(実施例6:ラウリン酸クロライド)
ラウリン酸(400.0g)に対し1.5/3当量(130.7g)の三塩化リンを50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(58.2g)を除去し、反応溶液(472.5g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.02重量%、無機リン化合物のリン含有量は1.00重量%であった。
【0048】
その後、60℃、窒素流量8.0×10−3/kg・hr、圧力133.3×10Paで1.5時間処理し、未反応の三塩化リンを除去して目的とするラウリン酸クロライド(448.5g)を得た。得られたラウリン酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.08重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.08重量%であった。
【0049】
(実施例7:ステアリン酸クロライド)
ステアリン酸(435.0g)に対し2.0/3当量の三塩化リン(131.0g)を60〜65℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(45.0g)を除去し、反応溶液(521.0g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.05重量%、無機リン化合物のリン含有量は1.8重量%であった。
【0050】
その後、40℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力133.3×10−1Paで2時間処理し、未反応の三塩化リンを除去して目的とするステアリン酸クロライド(443.0g)を得た。得られたステアリン酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.07重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.08重量%であった。
【0051】
(比較例1:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸(400.0g)に対し1.5/3当量の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(57.5g)を除去し、反応溶液(472.5g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.02重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.9重量%であった。
【0052】
その後、薄膜蒸留器で蒸留し蒸留ヤシ脂肪酸クロライド(452.4g)を得た。得られたヤシ油脂肪酸クロライド中の有機リン化合物のリン含有量は0.01重量%であり、無機リン化合物のリン含有量はN.D.(0.01重量%未満)であった。
【0053】
(比較例2:ラウリン酸クロライド)
ラウリン酸(400.0g)に対し2.5/3当量の三塩化リン(218.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(58.2g)を除去し、反応溶液(558.6g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.08重量%、無機リン化合物のリン含有量は3.00重量%であった。
【0054】
その後、40℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力665Paで3時間処理し、未反応の三塩化リンを除去して目的とするラウリン酸クロライド(542.1g)を得た。得られたラウリン酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.20重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.17重量%であった。
【0055】
(比較例3:パーム核脂肪酸クロライド)
パーム核脂肪酸(400.0g)に対し1.5/3当量の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(57.0g)を除去し、パーム核脂肪酸クロライド(472.5g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.02重量%、無機リン化合物のリン含有量は1.0重量%であった。
【0056】
その後、60℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力200×10Paで25時間処理し、未反応の三塩化リンを除去しパーム核脂肪酸クロライド(445.8g)得た。得られたパーム核脂肪酸クロライドについて、有機リン化合物のリン含有量は0.15重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.02重量%であった。
【0057】
(比較例4:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸(240.0g)に対し0.9/3当量の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(34.1g)を除去し、ヤシ油脂肪酸クロライド(335.2g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量はN.D.(0.01重量%未満)、無機リン化合物のリン含有量は0.4重量%であった。
【0058】
その後、30℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力665Paで2時間処理し、未反応の三塩化リンを除去した。得られたヤシ油脂肪酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.02重量%、無機リン化合物の含有量は0.10重量%であった。
【0059】
(比較例5:ラウリン酸クロライド)
ラウリン酸(400g)に対し1.5/3当量の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(56.9g)を除去して474.6gのラウリン酸クロライドを得た。得られたラウリン酸クロライドについて、有機リン化合物のリン含有量は0.02重量%、無機リン化合物のリン含有量は1.00重量%であった。
【0060】
(比較例6:ステアリン酸クロライド)
ステアリン酸(435.0g)に対し2.0/3当量の三塩化リン(130.7g)を60〜65℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(44.7g)を除去して反応溶液(521.0g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.05重量%、無機リン化合物のリン含有量は1.8重量%であった。
【0061】
その後、80℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力266.6×10Paで1.5時間処理し、未反応の三塩化リンを除去して目的のステアリン酸クロライド(446.2g)を得た。得られたステアリン酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.07重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.02重量%であった。
【0062】
(比較例7:ヤシ油脂肪酸クロライド)
ヤシ油脂肪酸に対し1.5/3当量(400.0g)の三塩化リン(130.0g)を50〜60℃で滴下しクロル化反応を行った。2時間の静置分層後、下層の亜リン酸(57.0g)を除去し、反応溶液(472.6g)を得た。亜リン酸除去後の反応溶液の有機リン化合物のリン含有量は0.02重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.90重量%であった。
【0063】
その後、70℃、窒素流量3.0×10−3/kg・hr、圧力133.3×10−1Paで1時間処理し、未反応の三塩化リンを除去して目的とするヤシ油脂肪酸クロライド(452.6g)を得た。得られたヤシ油脂肪酸クロライドの有機リン化合物のリン含有量は0.02重量%、無機リン化合物のリン含有量は0.01重量%であった。
【0064】
(比較例8−14)
比較例1の蒸留ヤシ脂肪酸クロライドにホスホン酸(特級、和光純薬工業製)およびドデシルリン酸(和光純薬工業製)を添加し、無機リン化合物および有機リン化合物のリン含有量を測定した。
【0065】
(脂肪酸クロライドのにごりの評価)
得られた各脂肪酸クロライドの溶液100mlガラス製サンプル瓶にいれ、25℃で外観を観察し、以下の基準で評価した。

◎: 透明
○: わずかなにごりあり
△: にごりあり
×: 沈殿あり
【0066】
(脂肪酸クロライドの色相の評価(経時安定性))
得られた各脂肪酸クロライドを100mlガラス製サンプル瓶に蓋をして、25℃、1ヶ月保存したときの、25℃における色相の変化(ΔAPHA)を評価した。

ΔAPHA=(経時安定性試験後のAPHAの値)−(経時安定性試験前のAPHAの値)

◎: ΔAPHAが0〜29
○: ΔAPHAが30〜59
△: ΔAPHAが60〜89
×: ΔAPHAが90以上
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
表1〜2の実施例においては、脂肪酸クロライドのにごりが少なく、経時による色相変化が抑制されている。
【0073】
表3の比較例1は、脂肪酸クロライドから蒸留器によってリン化合物を蒸発させたものであり、無機リン化合物のリン含有量、有機リン化合物のリン含有量が少なく、経時による色相変化が大きい。
比較例2では、三塩化リンの当量が多く、有機リン化合物のリン含有量が多く、にごりがある。
比較例3では、工程2での圧力が高く、無機リン化合物のリン含有量が少なく、有機リン化合物のリン含有量が多く、経時による色相変化が大きい。
比較例4では、三塩化リンの当量が少なく、有機リン化合物のリン含有量が少なく、経時による色相変化が大きい。
【0074】
表4の比較例5では、工程2を行っておらず、無機リン化合物のリン含有量が多く、有機リン化合物のリン含有量が少なく、沈殿物がある。
比較例6では、工程2における温度が高く、無機リン化合物のリン含有量が少なく、経時による色相変化が大きい。
比較例7では、工程2における温度が高く、無機リン化合物のリン含有量、有機リンの化合物のリン含有量が少なく、経時による色相変化が大きい。
【0075】
表5の比較例8〜14は、リンを蒸留によって除去した比較例1の脂肪酸クロライドに対して、無機リン化合物、有機リン化合物を外部から添加することによって、無機リン化合物のリン含有量、有機リン化合物のリン含有量を調整したものである。
そして、比較例8〜10では、有機リン化合物のリン含有量が少なく、経時による色相変化が大きい。
比較例11〜13では、無機リン化合物のリン含有量が少なく、経時による色相変化が大きい。
比較例14では、無機リン化合物のリン含有量、有機リン化合物のリン含有量ともに本発明実施例と変わらないが、しかし経時による色相変化が大きい。