特許第6562380号(P6562380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6562380非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562380
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20190808BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20190808BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20190808BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
   H01M4/48
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-108886(P2015-108886)
(22)【出願日】2015年5月28日
(65)【公開番号】特開2016-225079(P2016-225079A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 洋明
(72)【発明者】
【氏名】河本 真理子
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−207196(JP,A)
【文献】 特開2013−069681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO(1≦x<2)を含む活物質、及びバインダーを含有する非水電解質二次電池用負極であって、前記バインダーは、弾性率が8GPa以上で伸び率が8〜25%のポリイミドであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
請求項1に記載の負極を備えた非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極、特にSiとOとを構成元素に含む高容量な活物質を用いた負極、及び、その負極を備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池は、携帯用端末、電気自動車、ハイブリッド自動車等に広く用いられており、今後もエネルギー密度の向上が期待されている。現在、実用化されている非水電解質二次電池の負極活物質には炭素材料が、正極活物質にはリチウム遷移金属酸化物が主に用いられている。
【0003】
しかし、負極に使用する炭素材料の利用率は、その理論値近くにまで至っていることから、正極および負極に用いる活物質の重量を、従来の電池と同程度にしたままで、今後の電池の放電容量を10%以上向上させることは、困難な状況になってきている。
このため、近年、負極活物質として、炭素材料に置き代わる、大放電容量を有するSiやSnなどの材料の研究が盛んに行われている(特許文献1〜7参照)。
【0004】
特許文献1〜7には、非水電解質二次電池において、体積膨張の大きな負極活物質としてSiやSnを含み、バインダーとしてポリイミド、ポリアミドイミドを含む負極が開示されている。より具体的には、以下のような開示がある。
【0005】
特許文献1には、「ケイ素及び/またはケイ素合金を含む活物質粒子とバインダーとを含む活物質層を導電性金属箔からなる集電体の表面上に配置したリチウム二次電池用負極であって、 前記バインダーが、引張強さ50N/mm以上、破断伸び10%以上、歪みエネルギー密度2.5×10−3J/mm以上、及び弾性率10000N/mm以下の機械的特性を有することを特徴とするリチウム二次電池用負極。」(請求項1)、「前記バインダーがポリイミドであることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用負極。」(請求項17)の発明が記載されている。
また、特許文献1には、「本発明においては、負極の作製が完了した時点において、集電体及びバインダーが、それぞれ上記機械的特性を有している。集電体及びバインダーが上記機械的特性を有することにより、リチウムの吸蔵・放出に伴い、活物質層の体積が膨張・収縮しても、活物質層が集電体から剥離するのを抑制することができ、電極内における集電性の低下を抑制することができる。従って、充放電サイクル特性を向上させることができる。・・・破断伸びは、さらに好ましくは50%以上であり、特に好ましくは100%以上である。・・・また本発明において、バインダーの弾性率は、上述のように、10000N/mm以下であるが、さらに好ましくは7000N/mm以下である。バインダーの弾性率が大き過ぎると、バインダーが、活物質粒子の体積の膨張・収縮によって起きる応力を緩和することが難しくなり、電極内の集電性の低下が生じる。」(第4頁)と記載されている。
そして、実施例においては、活物質粒子がケイ素粉末である負極のバインダーとして、破断伸び103%、弾性率3900N/mmのポリイミド、破断伸び16%、弾性率2800N/mmのポリイミド、破断伸び98%、弾性率2400N/mmのポリイミド、破断伸び95%、弾性率2700N/mmのポリイミド、破断伸び56%、弾性率3700N/mmのポリイミドを用いることが示されている(表2、表6、表19参照)。
【0006】
特許文献2には、「活物質粒子及びバインダーを含む合剤層を集電体上に設けたリチウム二次電池用負極であって、前記活物質粒子としてSnを含む合金粉末を用い、前記バインダーとして弾性率が3.0GPa以上である樹脂を用いることを特徴とするリチウム二次電池用負極。」(請求項1)、「前記合金粉末が、SnとSiを含む合金粉末であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用負極。」(請求項2)、「前記バインダーが、ポリイミドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用負極。」(請求項6)の発明が記載されている。
また、特許文献2には、「本発明においては、バインダーとして弾性率が3.0GPa以上である樹脂を用いている。このような弾性率を有する樹脂をバインダーとして用いることにより、初期充放電効率及び充放電サイクル特性を向上させることができる。バインダーの弾性率を高くすることにより、活物質粒子が充放電により膨張・収縮した際に合剤層全体の変形を小さくすることができ、活物質粒子同士の接触及び活物質粒子と集電体との接触状態を良好に保つことができ、初期充放電効率及び充放電サイクル特性を高めることができるものと考えられる。」(段落[0007])と記載されている。
そして、実施例においては、活物質がSi−Sn合金粉末である負極のバインダーとして、バインダー弾性率3.0GPa、3.7GPaのポリイミドを用いることが示されている(表1参照)。
【0007】
特許文献3には、「集電体と、活物質および結着剤を有する活物質層と、を含み、前記結着剤の引張り弾性率が2000MPa以上であり、前記活物質層中に含まれる導電性材料の重量(We)と前記結着剤の重量(Wb)との比(We/Wb)が0.2〜20である、電極。」(請求項1)、「前記活物質の表面が炭素材料で被覆されている、請求項1または2に記載の電極。」(請求項3)、「前記活物質が、グラファイトおよびSiOの少なくとも1つを含み、前記結着剤が、ポリイミドを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極を用いた負極。」(請求項4)の発明が記載されている。
また、特許文献3には、「結着剤は、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。本発明においては、結着剤の引張り弾性率が2000MPa以上である。好ましくは2300MPa以上であり、より好ましくは2500MPa以上である。結着剤の引張り弾性率が2000MPa未満である場合には、電極の膨張収縮に伴い、電極構造に歪みが生じ、導電ネットワーク構造を維持することができず、電極の抵抗値が上昇するおそれがある。結着剤の引張り弾性率を上記範囲とすることにより、膨張収縮を繰り返した場合であっても電極構造が保持され、導電ネットワークを維持することができる。その結果、抵抗値の上昇を抑制することができ、サイクル特性の優れた電極が得られる。結着剤の引っ張り弾性率の上限値は特に制限されないが、3800MPa以下であることが好ましく、3600MPa以下であることがより好ましい。3800MPaを超える場合には、結着剤が硬いために膨張収縮時において電極に割れが生じ、導電ネットワークが崩壊するおそれがある。」(段落[0039])と記載されている。
そして、実施例においては、負極活物質が炭素被覆したSiOである負極の結着剤として、弾性率3000〜3700MPaのポリイミドを用いることが示されている(表2参照)。
【0008】
特許文献4には、「集電体上に形成された負極活物質層を備える負極であって、前記負極活物質層はリチウムと合金化が可能な負極活物質とバインダーを含み、前記バインダーは、フィルムにしたときの引っ張り強度が100MPa以上、引っ張り伸度が30%以上、引っ張り弾性率が2.5GPa以上のポリアミドイミド樹脂を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。」(請求項1)の発明が記載されている。
また、特許文献4には、「本発明のリチウムイオン二次電池用負極に使用するポリアミドイミド樹脂は、その強靭性をもって充放電時の負極活物質の膨張、収縮に耐えることが可能である。本発明に用いるポリアミドイミド樹脂は、フィルムにしたときの・・・引っ張り伸度が30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上であり、引っ張り弾性率が2.5GPa以上、好ましくは3.5GPa以上、より好ましくは5GPa以上である。・・・伸度が30%未満であったり、引っ張り弾性率が2.5GPa未満であるポリアミドイミド樹脂をバインダーに用いた場合には、繰り返し充放電時の膨張、収縮に耐えられず、活物質が剥落したりしてサイクル特性が著しく低下する。」(段落[0015])と記載されている。
そして、実施例においては、活物質がSiOである負極のバインダーとして、引っ張り伸度78%、引っ張り弾性率2.8GPaのポリアミドイミド、引っ張り伸度59%、引っ張り弾性率3.9GPaのポリアミドイミド、引っ張り伸度38%、引っ張り弾性率7.5GPaのポリアミドイミド、引っ張り伸度62%、引っ張り弾性率6.6GPaのポリアミドイミドを用いることが示されている(段落[0034]〜[0038]参照)。
【0009】
特許文献5には、「テトラカルボン酸成分とジアミン成分とが反応して得られる、下記化学式(1)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸が、前記ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分に対して1.6倍モル以上のイミダゾール類と共に、水溶媒中に溶解してなる電極用バインダー樹脂組成物。・・・」(請求項1)の発明が記載され、その発明の目的として、「水溶媒を使用することによって環境適応性が良好であって、しかも、それを用いて得られる芳香族ポリイミドは高い結晶性を有するために耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れ、電池環境下でも膨潤度が小さく、また優れた靱性を有する、好ましくは高分子量であって水溶媒が水以外の有機溶媒を含まない、電極用バインダー樹脂組成物を提供すること」(段落[0010])が記載されている。
また、特許文献5には、「充放電により可逆的にリチウムイオンを挿入・放出できる例えば炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、またはケイ素若しくはスズを含む合金粉末のような電極活物質を用いて得られる電極合剤ペーストを、銅などの導電性の集電体上に流延あるいは塗布する場合、80〜300℃、より好ましくは120〜280℃、特に好ましくは150〜250℃の温度範囲で加熱処理して溶媒を除去するとともにイミド化反応することにより電極を得ることができる。・・・得られる電極はリチウムイオン二次電池の負極として特に好適に用いることができる。」(段落[0056])と記載されている。
そして、実施例においては、「得られた電極用バインダー樹脂組成物8.89g(イミド化後の固形分質量0.8g)と300メッシュのケイ素粉末9.2gを乳鉢中で磨り潰すように混練し、電極合剤ペーストを調製した。得られたペーストは、ガラス棒で銅箔上に薄く延ばすことが可能であった。ペーストを塗布した銅箔を基板上に固定し、窒素雰囲気下で、120℃で1時間、200℃で10分、220℃で10分、250℃で10分加熱することにより、活物質層の厚みが100μmの電極を好適に作成することができた。」(段落[0067])と記載され、電極用バインダーポリイミドの特性として、引張弾性率7.8GPa、引張破断伸び15%のもの、引張弾性率8.6GPa、引張破断伸び16%のもの、引張弾性率8.6GPa、引張破断伸び18%のもの、引張弾性率8.2GPa、引張破断伸び17%のもの、引張弾性率4.5GPa、引張破断伸び18%のもの、引張弾性率3.9GPa、引張破断伸び27%のもの、引張弾性率3.5GPa、引張破断伸び30%のもの、引張弾性率3.8GPa、引張破断伸び20%のものが示されている(表1参照)。
【0010】
特許文献6には、「ポリイミドまたはその前駆体からなる樹脂(A)と、下記一般式(1)〜(3)のいずれかに表される構造を有する架橋性イミド化合物(B)とを含む、リチウム二次電池用バインダー樹脂組成物。」(請求項1)、「請求項1〜7のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用バインダー樹脂組成物と、ケイ素原子、スズ原子またはゲルマニウム原子を含むリチウムイオン電池負極活物質と、溶剤とを含む、電極ペースト。」(請求項8)の発明が記載されている。
また、特許文献6には、「本発明の二次電池用バインダー樹脂組成物は、ポリイミド樹脂に、架橋性イミド化合物(B)を配合していることから、ポリイミド樹脂に熱可塑性を付与することが出来、またその後の硬化により硬化物を含む樹脂組成物は十分な機械強度を有する。そのため、この二次電池用バインダー樹脂組成物に活物質を配し、リチウム二次電池の活物質層を形成した場合、アンカー効果により高い接着強度を有し、且つ高弾性率であるために、活物質が膨張・収縮を繰り返したとしても、バインダー樹脂が伸びきってしまうことを抑えられ、活物質を十分に支持することができ、活物質が脱離することを抑制し得る。したがって、本発明によれば、活物質の脱離が生じ難い、充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池が提供される。」(段落[0017])と記載されている。
そして、実施例においては、負極活物質がシリコン粒子である負極のバインダーとして、弾性率7.2〜12.5GPaのポリイミドを用いることが示されている(段落[0157]、表1参照)。
【0011】
特許文献7には、「芳香族ジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸二無水物 とを反応させてなる芳香族ポリアミド酸を含むバインダー用樹脂組成物と、ケイ素原子、スズ原子およびゲルマニウム原子の中から選ばれた少なくとも1種を含む負極活物質と、を含むリチウムイオン二次電池電極合材ペーストであって、前記芳香族ジアミン化合物は、その75〜50モル%がp−フェニレンジアミンであり、その25〜50モル%が下記化学式1・・・で表される化合物であり、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物 は、下記化学式2・・・で表される化合物であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極合材ペースト。」(請求項1)の発明が記載されている。
また、特許文献7には、「以上をまとめると、ケイ素原子やスズ原子等リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が非常に大きい活物質には、活物質に対する結着性が優れ、且つ引張弾性率と破断伸度のいずれもが高い値を示す樹脂がバインダーとして適している。・・・は、ポリイミドの化学構造を具体的に開示した樹脂バインダーが提案されている。しかしながら、本発明者の検討によれば、・・・に記載のポリイミドは、引張弾性率と破断伸度のいずれかが高い値を示すものの、もう一方の物性が不十分であったり、活物質に対する結着性が不十分であった。・・・では、・・・を用いた負極活物質についての検討は不十分であった。他にも・・・には、所定のジアミンをジアミン全体の40質量%以下で含有することが望ましいとするポリイミド樹脂が開示されてはいるものの、上述の課題の解決には至っていなかった。」(段落[0007])、「本発明は、引張弾性率と破断伸度のバランスに優れた、リチウムイオン二次電池用電極合材ペースト及び電極、さらにはこれからなるサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池の提供を目的とする。」(段落[0009])と記載されている。
そして、実施例においては、負極活物質がシリコン粒子である負極のバインダーとして、引張弾性率5.4GPa、破断伸度34%のポリイミド、引張弾性率7.6GPa、破断伸度29%のポリイミド、引張弾性率5.3GPa、破断伸度40%のポリイミド、引張弾性率7.4GPa、破断伸度29%のポリイミドを用いることが示されている(段落[0066]、表1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2004/004031
【特許文献2】特開2007−149604号公報
【特許文献3】特開2010−205609号公報
【特許文献4】特開2011−48969号公報
【特許文献5】特開2012−207196号公報
【特許文献6】特開2013−58361号公報
【特許文献7】特許第5358754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、特許文献1〜3には、体積膨張の大きな負極活物質を用いた場合の活物質層の集電体からの剥離、集電性の低下を改善するために「負極活物質としてSiやSnを含み、バインダーとしてポリイミドを含む負極」が開示されている。そして、実施例には、負極活物質が、ケイ素(Si)粉末、Si−Sn合金粉末、炭素被覆したSiOである負極のバインダーとして、弾性率2〜4GPaのポリイミドを用いたことが記載されているが、サイクル性能の向上は不十分である。
【0014】
特許文献4には、活物質がSiOである負極のバインダ−として、弾性率7.5GPaと高いポリアミドイミドを用いることが示されているが、このポリアミドイミドは、引っ張り伸度も38%(30%以上)と高いものであり、この場合もサイクル性能の向上は不十分である。
【0015】
特許文献5に記載された発明の解決課題(目的)は、電極ペーストの分散媒に水を使用することができるバインダーを提供することにあり、そのためにバインダー成分として特定の構造を有するポリイミドを使用するものである。また、特許文献5には、電極(負極)用バインダーとして、弾性率3.5〜8.6GPa、伸び率15〜30%の範囲のポリイミドが示されている。しかし、この数値範囲はいずれも実施例であり、バインダーとして用いるポリイミドの弾性率を高くし、伸び率を抑えて、非水電解質二次電池のサイクル性能を向上させるという技術思想は示唆されていない。上記のポリイミドをバインダーとして、ケイ素(Si)粉末を用いて電極を作製することが示されているが、充放電試験は行われていないから、充放電サイクル後の容量維持率の点でどのポリイミドを用いた場合が良くて、どのポリイミドを用いた場合が良くないのかという知見は導けない。また、Si粉末以外の材料を負極活物質とすることは示されていない。
【0016】
特許文献6には、活物質としてSiを含む負極のバインダーとして、弾性率7.2〜12.5GPaのポリイミドを用いることが示されているが、伸び率については示されていない。
特許文献7には、SiやSn等リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が非常に大きい活物質には、活物質に対する結着性が優れ、且つ弾性率と破断伸度(伸び率)のいずれもが高い値を示す樹脂がバインダーとして適していると記載され、弾性率が7.6GPaと高い場合、伸び率も29%と高いポリイミドを負極のバインダーとすることが示されている。したがって、弾性率が8GPa以上で、伸び率が29%を下回るようなポリイミドを負極のバインダーとして用いることが示されているとはいえない。
【0017】
本発明は、上記の従来技術に鑑みなされたものであり、SiとOとを構成元素に含む材料を活物質とする高容量な負極を備えた非水電解質二次電池において、サイクル性能を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)SiO(1≦x<2)を含む活物質、及びバインダーを含有する非水電解質二次電池用負極であって、前記バインダーは、弾性率が8GPa以上で伸び率が8〜25%のポリイミドであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
(2)前記(1)の負極を備えた非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、SiとOとを構成元素に含む材料を活物質とする高容量な負極を備えた非水電解質二次電池において、ポリイミドバインダーを含有する場合に、ポリイミドとして、弾性率が8GPa以上で伸び率が8〜25%のバインダーを用いることにより、サイクル性能が良好な電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例及び比較例に用いたポリイミドの弾性率と伸び率を示す図
図2】本発明に係る非水電解質二次電池の一実施形態を示す外観斜視図
図3】本発明に係る非水電解質二次電池を複数個集合した蓄電装置を示す概略図
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(負極活物質)
本発明は、非水電解質二次電池の負極活物質として、SiとOとを構成元素に含む材料を用いる。負極活物質としてSiとOとを構成元素に含む材料を用いることにより、放電容量の大きい、高エネルギー密度の非水電解質二次電池を得ることができる。SiとOとを構成元素に含む負極活物質は、Liイオンと固溶体や金属間化合物を形成することにより、Liイオンを多量に貯蔵することができる。
SiとOとを構成元素に含む材料は、一般式SiO(x<2)で表される物質が好ましい。
Siを負極活物質として用いた場合、リチウムが吸蔵された充電状態において、Siの表面に、SiLi4.4が形成されていると推定される。一方、SiO等のSiOを負極活物質として用いた場合、SiO粒子の表面に、SiLi4.4及びLiOが点在して形成されていると推定される。LiOは、SiLi4.4に比べて、電解液との界面においてより安定して存在できることから、SiOは、Siよりも、フロート充電性能及び充放電効率が優れる。
【0022】
SiとOとを構成元素に含む材料は、粒子表面の少なくとも一部を導電性物質で被覆して負極活物質とすることが好ましい。SiとOとを構成元素に含む材料を導電性物質で被覆した負極活物質を用いることにより、充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0023】
SiとOとを構成元素に含む材料を被覆する導電性物質としては、Cu、Ni、Ti、Sn、Al、Co、Fe、Zn、Ag若しくはこれらの二種以上の合金又は炭素材料が挙げられる。なかでも、炭素材料を用いることが好ましい。
【0024】
SiとOとを構成元素に含む材料を、炭素材料で被覆する方法としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタンなどを炭素源として気相中で分解し、粒子の表面に化学的に蒸着させるCVD方法、ピッチ、タールあるいはフルフリルアルコールなどの熱可塑性樹脂を粒子の表面に塗布した後に焼成する方法、あるいは粒子と炭素材料との間に機械的エネルギーを作用させて複合体を形成するメカノケミカル反応を用いた方法を用いることができる。なかでも、均一に炭素材料を被覆できることからCVD法を用いることが好ましい。
【0025】
また、SiとOとを構成元素に含む材料が導電性物質で被覆された活物質において、活物質に対する導電性物質の割合は、2〜20質量%であることが好ましい。導電性物質の被覆量は、導電性を充分に確保しサイクル性能を向上させるためには2質量%以上であることが好ましく、また、大きな放電容量を得るためには20質量%以下であることが好ましい。
【0026】
SiとOとを構成元素に含み、導電性物質で被覆された活物質に、さらに炭素材料を混合して負極とすることが好ましい。炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維などが挙げられる。なかでも、導電性を充分に確保できることから、黒鉛、例えば、平均粒径(D50)が1〜15μmの鱗片状黒鉛を含有することがより好ましい。SiとOとを構成元素に含み、導電性物質で被覆された活物質:炭素材料の比は、質量比で20:80〜90:10とすることが好ましく40:60〜80:20とすることがより好ましい。
【0027】
(負極バインダー)
本発明においては、上記のような負極活物質を集電体(集電箔)に塗布して結着するためのバインダーとして、弾性率が8GPa以上で伸び率が8〜25%のポリイミドを用いる。弾性率は9Gpa以上が好ましく、10GPa以上がより好ましい。弾性率の上限値は、特に制限されないが、14GPa以下であることが好ましく、13GPa以下であることがより好ましい。伸び率は8〜23%が好ましく、8〜21%がより好ましく、12〜21%が特に好ましい。上記のような弾性率が高く、伸び率が低いバインダーを用いることによりサイクル性能が良好となる。
上記のように、ポリイミドの弾性率を8Gpa以上とすることによって、活物質の体積膨張による電極膨れが抑制され、集電性が確保されるため、容量保持率(サイクル性能)が向上すると推察される。
一方、特許文献7に示されているように、従来、SiやSn等、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が非常に大きい活物質には、高い弾性率と共に、高い伸び率を有するバインダーが必要とされてきた。しかし、本発明において、SiとOとを構成元素に含む活物質を用いる場合、図1及び実施例に示すように、容量保持率(サイクル性能)を向上させるために、高い伸び率は必要ないことが分かった。伸び率が高いと、合剤層が大きく体積変化した場合であっても、バインダーが前記体積変化に追随しようとするため、負極板を変形させる原因となり、容量保持率が低下する原因になると推察される。また、負極板が変形すると、正極板との対向距離が不均一となり、正負極の容量バランスの不均衡を生じる原因となるため、Liが析出する虞がある。
【0028】
弾性率が8GPa以上で伸び率が8〜25%のポリイミドは、以下のような方法で作製することができる。
まず、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを重合することにより、ポリイミドの前駆体である芳香族ポリアミド酸(ポリアミック酸)を作製する。この芳香族ポリアミド酸を、200℃以上の加熱により、脱水・環化(イミド化)反応を進め、ポリイミドを得る。本発明において、この加熱は、後述するように、集電体に塗布した芳香族ポリアミド酸を含有する負極合剤ペーストの加熱により行うことが好ましい。
【0029】
芳香族ポリアミド酸の一方の原料である芳香族テトラカルボン酸二無水物 としては、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、などが挙げられる。中でも、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましく、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がより好ましい。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
芳香族ポリアミド酸の他方の原料である芳香族ジアミンは、p−フェニレンジアミンと、以下に示すp−フェニレンジアミン以外の他の芳香族ジアミンとの混合物であることが好ましい。
p−フェニレンジアミン以外の他の芳香族ジアミンとしては、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホンが好ましく、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホンがより好ましい。
ポリイミドは、p−フェニレンジアミン単位が多いほど、弾性率が高くなり、上記の他の芳香族ジアミン単位が多いほど、伸び率が高くなるので、本発明においては、芳香族ジアミン中のp−フェニレンジアミン単位を80〜95モル%、他の芳香族ジアミン単位を20〜5モル%とすることが好ましく、p−フェニレンジアミン単位を85〜95モル%、他の芳香族ジアミン単位を15〜5モル%とすることがより好ましい。
【0031】
上記の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを有機溶媒に溶解させて重合することにより、芳香族ポリアミド酸を作製することができる。有機溶媒の種類は、非水電解質二次電池用電極バインダー樹脂組成物と活物質等を均一に溶解もしくは分散可能なものであれば特に制限されない。このような有機溶媒として、非プロトン性極性溶媒が好ましく、非プロトン性アミド系溶媒がより好ましい。非プロトン性アミド系溶媒の例には、N、N―ジメチルホルムアミド、N,N―ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、および1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが含まれる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、二種類以上組み合わせてもよい。
【0032】
上記の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの仕込み比は、M1:M2=0.90〜1.10:1.00(M1:テトラカルボン酸二無水物のモル数、M2:ジアミンのモル数)を満たすようにすることが好ましい。M1:M2は、0.92〜1.08:1.00であることがより好ましく、0.95〜1.05:1.00であることがさらに好ましい。芳香族ポリアミド酸の質量平均分子量は、1.0×10〜5.0×10であることが好ましい。
また、上記芳香族ポリアミド酸は、アミノプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、トリメトキシグリシドキシシランなどのシランカップリング剤、トリアジン系化合物、フェナントロリン系化合物、トリアゾール系化合物などを、芳香族ポリアミド酸の総量100質量部に対して0.1〜20質量部含有してもよい。これらを含有することにより、活物質や集電体との接着性をさらに高めることができる。
【0033】
芳香族ポリアミド酸の調製は、芳香族ジアミンを溶媒に溶解した溶液に芳香族テトラカルボン酸二水物を一度に、あるいは、多段階で添加し、攪拌することにより行うことができる。反応温度は10℃〜60℃が好ましく、15℃〜55℃がさらに好ましく、15℃〜50℃が特に好ましい。反応時間は、0.5時間〜72時間の範囲が好ましく、1時間〜60時間がさらに好ましく、1.5時間〜48時間が特に好ましい。
【0034】
このとき、芳香族ポリアミド酸溶液の濃度は5質量%〜45質量%とすることが好ましく、7質量%〜40質量%がさらに好ましく、10質量%〜35質量%が特に好ましい。溶液の25℃での粘度は、1ポイズ〜300ポイズであることが好ましく、5ポイズ〜275ポイズがさらに好ましく、10ポイズ〜250ポイズが特に好ましい。
【0035】
(負極)
前述したSiとOとを構成元素に含む負極活物質に、上記のようにして作製した芳香族ポリアミド酸の溶液を、負極合剤の総質量に対して、好ましくは2〜40質量%(固形分の質量)、より好ましくは2〜20質量%混合し、さらに、炭素材料を、負極合剤の総質量に対して、好ましくは80〜20質量%、より好ましくは90〜30質量%混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、トルエン等の有機溶媒と混練した後、得られた負極合剤ペーストを銅箔等の集電体の上に塗布し、プレスして目標の多孔度を形成した後、200〜350℃の温度で、5〜24時間加熱硬化し、集電体上に負極合剤層が形成された負極を作製する。加熱硬化により、芳香族ポリアミド酸は、脱水環化してポリイミドとなる。
負極合剤層の塗布質量は、1〜20mg/cmとすることが好ましく、負極の多孔度は、10〜50%とすることが好ましい。
前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0036】
(正極)
正極活物質としては、二酸化マンガン、五酸化バナジウムのような遷移金属化合物や、硫化鉄、硫化チタンのような遷移金属カルコゲン化合物、LiMeO(MeはCo、Ni及びMnから選択される一種以上の遷移金属)で表されるα−NaFeO型、又はLiMn等のスピネル型のリチウム遷移金属複合酸化物、これらの複合酸化物の遷移金属サイト又はリチウムサイトをAl、V、Fe、Cr、Ti、Zn、Sr、Mo、W、Mgなどの金属元素、若しくはP、Bなどの非金属元素で置換した化合物、LiFePO等のオリビン型のリン酸化合物を用いることができる。
この中では、Li1+αMe1−α(0<α、MeはCo、Ni及びMnから選択される一種以上の遷移金属)で表されるリチウムが過剰なα−NaFeO型の正極活物質が、負極活物質の高容量性を活かす組み合わせとして好ましい。
【0037】
正極のバインダーには、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。負極と同じ樹脂材料を用いてもよい。また、バインダーの添加量は、正極の総質量に対して1〜50質量%が好ましく、特に2〜30質量%が好ましい。
正極活物質及びバインダーに、必要に応じて導電剤、増粘剤、フィラー等の他の構成成分を混練し、溶媒と混合した後、負極と同様の手段を用いてアルミニウム箔等の集電体の上に塗布又は圧着し、80〜200℃の温度で加熱乾燥処理して正極を作製することができる。
【0038】
(非水電解質)
本発明に係るリチウム二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF6,LiPF,LiB(C,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,LiB10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CH)4NBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n−CNClO,(n−CNI,(CN−maleate,(CN−benzoate,(C)4N−phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0040】
LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができる。
【0041】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0042】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質二次電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/Lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/Lである。
【0043】
(セパレータ)
セパレータとしては、織布、不織布、合成樹脂微多孔膜等を用いることができ、特に、合成樹脂微多孔膜が好適に用いることができる。その材質としては、ナイロン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、およびポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィンが例示される。なかでもポリエチレンおよびポリプロビレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜などのポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗等の面で好適に用いられる。
【0044】
その他の電池の構成要素としては、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、これらの部品は従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【0045】
(非水電解質二次電池の構成)
図2に、本発明に係る非水電解質二次電池の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1の外観斜視図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図2に示す非水電解質二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0046】
本発明に係る非水電解質二次電池の形状については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質二次電池を複数個集合した蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図3に示す。図3において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数のリチウム二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0047】
<実施例1〜3>
(負極の作製)
活物質として、カーボンで被覆されたSiO(xは約1、カーボン含有率6質量%、D50=5μm、以下「SiO」という。)、炭素材料として、流動法窒素ガス吸着法により測定されたBET比表面積が7.7m/gであり、粒径(D50)が10μmの鱗片状黒鉛(TIMCAL Ltd.製、SFG−15)を使用した。
まず、質量比で、SiO:鱗片状黒鉛=4:6となるように混合した。
【0048】
次に、バインダー樹脂組成物を以下のようにして準備した。
芳香族ジアミンとしてp−フェニレンジアミンを85〜95モル%、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、又は4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルを15〜5モル%の割合で混合し、溶媒としてNMPを用い、これらの芳香族ジアミンが溶解するまで撹拌した。この溶液に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの仕込み比(モル比)が約1:1となるように、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を投入し、NMPをさらに加え、攪拌して、ポリアミド酸を含有するバインダー樹脂組成物(固形分濃度:14〜18%)を得た。
【0049】
得られたバインダー樹脂組成物を、ガラス板上に塗布し、窒素雰囲気にて330℃で乾燥・硬化させて、上記のバインダー樹脂組成物に含有されるポリアミド酸を脱水・環化(イミド化)し、厚さが40μmのポリイミドA〜Cからなる塗膜を形成した。その後、形成された塗膜をガラス板より剥離し、引張試験機を用いて引張速度5mm/minにて、ポリイミドA〜Cの弾性率、伸び率の測定を行った。測定条件は、JIS K712に準拠した。
【0050】
次いで、質量比で、SiOと鱗片状黒鉛との混合物:上記バインダー樹脂組成物(固形分)=9:1となるように混合した。さらに、分散媒としてNMPを適量追加して混練分散し、スラリーを調製した。このスラリーを厚さ20μmの銅箔集電体の片面に塗布し、ロールプレスを行った後に、銅箔の酸化を避けるため、減圧下、350℃で5時間、乾燥・硬化させた。SiOと鱗片状黒鉛との混合物、及びポリイミドA〜Cを含有する合剤層の乾燥・硬化後の塗布質量は3.2mg/cm、多孔度は34%であった。このようにして、実施例1〜3に係る非水電解質二次電池用負極を作製した。
【0051】
<比較例1及び2>
バインダー樹脂組成物として、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエ−テル及び4,4‘−ジアミノジフェニルエ−テルの混合物とピロメリット酸二無水物から得られたポリアミック酸溶液(固形分濃度:20%、粘度:10Pa・s、溶媒:NMP)、並びに2,3’−ジアミノジフェニルエ−テル及び4,4‘−ジアミノジフェニルエ−テルの混合物と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物から得られたポリアミック酸溶液(固形分濃度:20%、粘度:5Pa・s、溶媒:NMP)を用いた他は、実施例1〜3と同様にして、比較例1及び2に係る非水電解質二次電池用負極を作製した。
上記のポリアミック酸溶液を、ガラス板上に塗布し、窒素雰囲気にて330℃で乾燥・硬化させて、含有されるポリアミック酸(ポリアミド酸)を脱水・環化(イミド化)し、厚さが40μmのポリイミドD及びEからなる塗膜を形成し、ポリイミドA〜Cと同様に弾性率、伸び率の測定を行った。
【0052】
<比較例3>
バインダー樹脂組成物として、4,4‘−ジアミノジフェニルエ−テルと3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から得られたポリアミック酸のNMP溶液(濃度:20%、粘度:5±1Pa・s)を用いた他は、実施例1〜3と同様にして、比較例3に係る非水電解質二次電池用負極を作製した。
上記のポリアミック酸のNMP溶液を、ガラス板上に塗布し、窒素雰囲気にて330℃で乾燥・硬化させて、含有されるポリアミック酸(ポリアミド酸)を脱水・環化(イミド化)し、厚さが40μmのポリイミドFからなる塗膜を形成し、ポリイミドA〜Cと同様に弾性率、伸び率の測定を行った。
【0053】
(試験セルの作製)
上記のポリイミドA〜Fをバインダーとして含有する負極を作用極とし、対極及び参照極をLi金属とし、非水電解質として、1MのLiClOをエチレンカーボネートとジエチルカーボネート(体積比1:1)の混合溶媒に溶解した非水電解液を用い、試験セル(非水電解質電池)を作製した。
【0054】
(初期充放電工程)
上記のようにして作製された試験セルを、25℃に設定したArボックス中で、以下の初期活性化工程に供した。
充電条件は、電流値0.1CmA、電圧0.02Vの定電流定電圧充電とした。充電時間は通電開始から16時間とした。放電条件は、電流0.2CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。
【0055】
(容量確認試験)
その後、0.2CmA、0.02Vの定電流定電圧充電を8時間、0.2CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電を3サイクル行った。3サイクル目の放電容量を初期放電容量とした。
【0056】
(充放電サイクル性能試験)
上記の容量確認試験の後、さらに、0.2CmA、0.02Vの定電流定電圧充電を8時間、0.5CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電を1サイクル、0.2CmA、0.02Vの定電流定電圧充電を8時間、1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電を1サイクル行った。
その後、0.2CmA、0.02Vの定電流定電圧充電を8時間、0.5CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電の充放電を25サイクル繰り返した。25サイクル目の放電容量を30サイクル後の放電容量とした。
初期放電容量に対する30サイクル後の放電容量の比から、30サイクル後容量保持率(%)を求めた。
【0057】
負極のバインダーとして用いたポリイミドA〜Fの弾性率(GPa)及び伸び率(%)を図1に、上記のようにして作製した非水電解質二次電池用負極を備えた試験セルの30サイクル後容量保持率(%)を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1及び図1より、負極バインダーとして、弾性率が8GPa以上で伸び率が8〜25%のポリイミドを用いることにより、非水電解質二次電池の30サイクル後容量保持率が顕著に向上し、サイクル性能が向上することがわかる(実施例1〜3参照)。弾性率が7GPa以上であっても、伸び率が26%以上のポリイミドを負極バインダーとした場合、30サイクル後容量保持率の向上は十分ではない(比較例1、3参照)。弾性率が低くても、伸び率が顕著に高いポリイミドを負極バインダーとした場合、30サイクル後容量保持率は高くなるが、弾性率が8GPa以上で伸び率が8〜25%のポリイミドを負極バインダーとした場合に及ばない(比較例2参照)。したがって、SiとOとを構成元素に含む負極活物質を用いた場合、負極バインダーとして、弾性率が8GPa以上で伸び率が8〜25%のポリイミドを用いることにより、サイクル性能が予想外に向上するという効果を奏するといえる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のSiとOとを構成元素に含む活物質、ポリイミドバインダーを含有する負極を備えた非水電解質二次電池は、サイクル性能が良好であるので、車載用・定置用などの幅広い用途の非水電解質二次電池として有用である。
図1
図2
図3