(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
<昇降機能付き車椅子>
図1は、実施形態における車椅子100を例示する図である。
図1(A)は車椅子100を前方から見た斜視図、
図1(B)は車椅子100を後方から見た斜視図である。車椅子100は、後述する各機構により使用者が自力で階段等の段差を昇降できる段差昇降機能を有する。
【0012】
図1に示すように、車椅子100は、車体フレーム10、座シート11、背凭れ12、駆動輪20、回転軸30、キャスタ41、回転脚50、レバー60を有する。
【0013】
車体フレーム10は、
図1(B)に示すように、右側板10R、左側板10Lを有する。右側板10R及び左側板10Lは、それぞれ板状の部材である。右側板10Rと左側板10Lとは、複数の支柱により支持されて平行に配置されている。また、車体フレーム10の前方には、車椅子100の使用者が足を乗せるフットプレート70が設けられている。
【0014】
座シート11及び背凭れ12は、車椅子100の使用者が座る座席を構成する。座シート11及び背凭れ12は、後述する回動支持機構により回動可能に支持されている。本実施形態では、背凭れ12が座シート11に対して後傾するようにリクライニング可能に設けられている。
【0015】
座シート11の両側には、それぞれ車体フレーム10に回転可能に支持されている一対の駆動輪20が設けられている。駆動輪20は、座シート11とは反対側にハンドリム21が固定されている。車椅子100の使用者は、座シート11に座り、ハンドリム21を回して駆動輪20を回転させることで、任意の方向に走行できる。
【0016】
回転軸30は、車体フレーム10に回転可能に支持されている。回転軸30は、両端部が右側板10R及び左側板10Lに回転可能に支持されている。
【0017】
キャスタ41は、走行車輪の一例であり、回転軸30に回転自在に取り付けられている走行支持部材40に設けられている。走行支持部材40には、2つのキャスタ41が設けられている。走行支持部材40は、キャスタ41を含む自重により、キャスタ41が鉛直方向において下方に位置するように回転する。本実施形態では、回転軸30の両端部に、それぞれ走行支持部材40及びキャスタ41が設けられている。
【0018】
車椅子100は、平地及び緩やかな傾斜面を含む路面を走行する場合には、駆動輪20及びキャスタ41が接地する。キャスタ41は、車椅子100の走行時に進行方向に沿って旋回しながら回転する。
【0019】
回転脚50は、放射状に突出する複数のロッドを有し、回転軸30に固定されている。本実施形態では、回転軸30の両端部に、それぞれ回転脚50が固定されている。回転脚50は、段差昇降時に複数のロッドの何れかが段差面に接しながら回転軸30と共に回転する。車椅子100は、回転脚50が段差面に接して昇り降りするように回転することで、階段等の段差を昇降できる。回転脚50の構成については後述する。
【0020】
レバー60は、一方向に回転力を伝達する機構としてのワンウェイクラッチ61を介して回転軸30に連結されている。レバー60は、回転軸30から座シート11の側部に向かって延伸するように設けられている。本実施形態では、座シート11の両側に、それぞれレバー60が設けられている。なお、レバー60と回転軸30とを連結する機構は、回転軸30に一方向に回転力を伝達可能あれば、ワンウェイクラッチ61に限られるものではない。
【0021】
レバー60が
図1において上方に引き上げられると、ワンウェイクラッチ61を介して一方向への回転力が回転軸30に伝達され、回転軸30及び回転軸30に固定されている回転脚50が一方向に回転する。レバー60が
図1において下方に引き下げられると、ワンウェイクラッチ61が滑って回転力が回転軸30に伝達されず、回転軸30及び回転脚50は回転しない。
【0022】
このような構成により、車椅子100の使用者は、座シート11に座ってレバー60の引き上げと引き下げとを交互に繰り返し行うことで、回転軸30及び回転脚50を一方向に回転させ、段差を昇降することができる。
【0023】
<回動支持機構>
次に、座シート11及び背凭れ12を回動可能に支持する回動支持機構について説明する。
図2は、実施形態における車椅子100の回動支持機構を例示する概略図である。
【0024】
回動支持機構は、座シート11及び背凭れ12を、
図2(A)に示す走行姿勢と、
図2(B)に示すように使用者Pが背凭れ12側に後傾する段差昇降姿勢との間で回動可能に支持する。回動支持機構は、車体フレーム10、支持脚13、ガススプリング15を含んで構成されている。
【0025】
支持脚13は、一端が車体フレーム10に回動可能に支持され、他端が座シート11の座面とは反対側の背面の前方側(
図2における左側)端部に固定されている。本実施形態では、2つの支持脚13で座シート11及び背凭れ12が回動可能に支持されている。各支持脚13は、車体フレーム10の右側板10R又は左側板10Lに支軸14を中心に回動可能に支持されている。
【0026】
ガススプリング15は、一端が座シート11と車体フレーム10との間で支持脚13に連結され、他端が支持脚13よりも後方側(
図2における右側)で車体フレーム10に連結されている。ガススプリング15は、車椅子100の使用者Pの操作により伸縮し、
図2(A)に示す走行姿勢と
図2(B)に示す段差昇降姿勢との間で、座シート11及び背凭れ12を回動可能に支持する。
【0027】
ガススプリング15は、伸長すると支持脚13を付勢して
図2において反時計回り方向に回動させ、座シート11及び背凭れ12を
図2(A)に示す走行姿勢に保つ。また、ガススプリング15は、収縮すると支持脚13を
図2において時計回り方向に回動させ、座シート11及び背凭れ12を
図2(B)に示す段差昇降姿勢に保つ。
【0028】
本実施形態では、
図3(A)に示すように走行姿勢で路面Gdと座シート11の座面とがほぼ平行となり、
図3(B)に示すように段差昇降姿勢で路面Gdと座シート11の座面とのなす角度θが25度となるように回動支持機構が設けられている。なお、座シート11が回動する角度θは、本実施形態において例示される角度に限られるものではない。
【0029】
車椅子100の使用者Pは、平地及び緩やかな傾斜面を含む路面を走行する場合には走行姿勢となり、階段等の段差を昇降する場合には段差昇降姿勢となるように、ガススプリング15を自重やロック機構等により伸縮させる。使用者Pは、走行時に座シート11及び背凭れ12を走行姿勢とすることで、駆動輪20を操作し易くなる。また、使用者Pは、段差昇降時に座シート11及び背凭れ12を後傾するように回動させ、段差昇降時に座シート11の座面を段差面に近付けることで、落下に対する不安感・恐怖感を軽減できる。
【0030】
また、座シート11及び背凭れ12が走行姿勢から段差昇降姿勢となるように回動することで、
図3に示すように、使用者Pを含む車椅子100全体の重心Gcの位置が、鉛直方向において下方に変化する。このように重心Gcが下方に移動して路面又は段差面に近付くことで、段差昇降時における使用者Pの落下に対する不安感が軽減される。
【0031】
なお、回動支持機構には、使用者Pが走行姿勢と段差昇降姿勢との間の任意の角度で座シート11及び背凭れ12の回動位置を保つことができるように、姿勢維持機構を備えてもよい。使用者Pが階段等の段差の傾斜角度に応じて、任意の角度に姿勢を保ち、より安定して段差を昇降することが可能になる。
【0032】
ここで、
図4に示すグラフは、回転脚接地点から重心位置までの距離dに対して、回転脚50が接地面から受ける反力及び回転脚50と接地面との間の最大摩擦力を求めた結果である。回転脚接地点から重心位置までの距離dは、
図5に示すように、段差昇降姿勢で回転脚50が後方側のロッドで路面Gdに接地した状態で、回転脚50と路面Gdとの接地点Gpから車椅子100の重心Gcまでの路面Gdに平行な方向における距離である。
【0033】
回転脚50が接地面から受ける反力及び回転脚50と接地面との間の最大摩擦力は、回転脚50と接地点の静止摩擦係数を0.5、使用者Pの重量を65kg、車椅子100の重量を24kgとして求めた。また、回転脚50が接地面から受ける反力は、段差の高さhが100mm、130mm、160mm、190mm、220mmの場合についてそれぞれ求めた。
【0034】
図4に示されるように、距離dが大きくなるほど、回転脚50が接地面から受ける反力は大きくなり、回転脚50と接地面との最大摩擦力は小さくなる。また、段差の高さhが大きいほど、回転脚50が接地面から受ける反力は大きくなる。
【0035】
回転脚接地点から重心位置までの距離dが大きくなり、回転脚50と接地面との最大摩擦力が、回転脚50が接地面から受ける反力よりも小さくなると、回転脚50が接地面で滑って段差の昇降が困難になる。そこで、本実施形態に係る車椅子100は、高さhが110mm程度の段差を昇降できるように、段差昇降姿勢において回転脚接地点から重心位置までの距離dが150mmとなるように、座シート11及び背凭れ12が回動支持機構により支持されている。
【0036】
なお、回転脚接地点から重心位置までの距離dは、本実施形態において例示される150mmに限られるものではなく、上記した様に回転脚50が接地面から受ける反力や回転脚50と接地面との最大摩擦力等に基づいて適宜設定される。
【0037】
<段差昇降機構>
次に、車椅子100での段差昇降を可能とする段差昇降機構について説明する。
図6は、実施形態における段差昇降機構を例示する図である。
図6(A)は段差昇降機構の上面図であり、
図6(B)は段差昇降機構の側面図である。
【0038】
段差昇降機構は、回転軸30、回転脚50、レバー60、ワンウェイクラッチ61を含んで構成されている。
【0039】
回転軸30は、車体フレーム10に回転可能に支持されている。回転脚50は、回転軸30の端部に固定され、回転軸30と共に回転する。回転脚50は、
図6(B)に示すように、3つのロッド51を有し、段差昇降時に何れかのロッドが段差面に接しながら回転する。
【0040】
レバー60は、ワンウェイクラッチ61を介して回転軸30に連結され、座シート11の側部に延伸するように設けられている。
図6(B)に示すように、車椅子100の使用者Pが座シート11に座ってレバー60をA方向に引き上げると、ワンウェイクラッチ61が回転軸30にレバー60の回転力を伝達し、回転軸30と共に回転脚50がR1方向に回転する。また、使用者Pがレバー60をB方向に引き下げた場合には、ワンウェイクラッチ61が滑って回転軸30にレバー60の回転力を伝達せず、回転軸30及び回転脚50は回転しない。
【0041】
車椅子100の使用者Pは、座シート11に座ってレバー60をA方向及びB方向に交互に回動させることで、回転軸30及び回転脚50をR1方向に一方向に回転させることができる。
【0042】
回転軸30には、2つのキャスタ41を有する走行支持部材40が、ワンウェイクラッチ61と回転脚50との間に設けられている。走行支持部材40は、
図6(B)に示すように、R2方向に回転自在に回転軸30に取り付けられており、キャスタ41を含む自重によってキャスタ41が下方に位置する姿勢に保たれる。キャスタ41は、走行支持部材40に旋回可能に設けられ、車椅子100の走行時に路面Gdに接して進行方向に沿うように旋回しながら回転する。
【0043】
図6(A)に示すように、走行支持部材40、回転脚50、ワンウェイクラッチ61及びレバー60は、回転軸30の両端部に1組ずつ設けられている。車椅子100の使用者Pは、座シート11に座って両方の手でそれぞれレバー60を把持して回動させ、回転軸30及び回転脚50を回転させる。
【0044】
車椅子100の使用者Pは、路面Gdを走行する時には、
図6(B)に示すように、キャスタ41が路面Gdに接し、回転脚50の各ロッド51が路面Gdに接しないようにレバー60を操作する。また、使用者Pは、このようにキャスタ41を路面Gdに当接させた状態で駆動輪20を回転させることで、路面Gdの上を走行する。
【0045】
また、車椅子100の使用者Pは、階段等の段差を昇降する時には、段差に回転脚50を近づけた状態でレバー60を回動させ、回転軸30と共に回転脚50を回転させる。段差において回転脚50を回転させると、ロッド51の何れかが段差面に当接しながら回転して、車椅子100が段差を昇降する。
【0046】
(回転脚)
図7は、実施形態における回転脚50を例示する図である。
【0047】
図7に示すように、回転脚50は、回転軸30に固定される中心部Cから放射状に突出する同一長さの3つのロッド51を有する。3つのロッド51は、中心部Cの周方向に等間隔(θr=120°)に設けられている。各ロッド51は、それぞれ中心部Cから延伸するアーム部52、アーム部52の先端に設けられている円形状の接地部53を有する。回転脚50が回転すると、各ロッド51の接地部53の何れかが路面Gd又は段差面に当接する。
【0048】
ロッド51の長さL(中心部Cから接地部56の中心までの距離)は、高さhの段差を昇降できるように、例えば以下の式(1)を満足するように設定される。
【0049】
【数1】
また、ロッド51の長さLは、一つのロッド51が段差面に接地した状態で他のロッド51が次の段差面に接地できるように、例えば以下の式(2)を満足するように設定される。
【0050】
【数2】
ここで、rは接地部53の半径であり、Zは段差面の奥行きである。
【0051】
ロッド51が式(1)及び式(2)を満足する長さLを有することで、一つのロッド51が段差面に接地した状態で他のロッド51が次の段差面に接地し、回転脚50が高さhの段差を乗り越えることが可能になる。
【0052】
本実施形態では、高さhが220mmで、段差面の奥行きZが195mmの段差を昇降できるように、接地部53の半径rが40mm、ロッド51の長さLが160mmに設定されている。
【0053】
なお、回転脚50に設けられるロッド51の数、ロッド51の形状等は、本実施形態において例示される構成に限られるものではない。
【0054】
本実施形態における車椅子100は、上記した段差昇降機構により回転脚50が段差において回転することで段差を昇降できる。
【0055】
<段差昇降動作>
次に、車椅子100が階段を昇降する際の動作について説明する。
図8は、実施形態における車椅子100が階段を上る様子を例示する図である。
【0056】
図8に示すように車椅子100が階段に近付くと、使用者Pは、階段に背を向けるように車椅子100を反転させる。次に、使用者Pは、回動支持機構に設けられているガススプリング15を操作して、走行姿勢から段差昇降姿勢となるように座シート11及び背凭れ12を後方に倒すように回動させる。
【0057】
続いて、使用者Pは、レバー60を操作して回転脚50のロッドを段差面に接地させるように回転脚50を回転させる。使用者Pは、一つのロッド51が段差面に接地した状態で隣のロッド51を一段上の段差面に接地させ、回転脚50をさらに回転させることで、自力で車椅子100に乗ったまま後ろ向きに階段を上っていくことができる。
【0058】
階段を上りきった後は、使用者Pが再びガススプリング15を操作して、段差昇降姿勢から走行姿勢となるように座シート11及び背凭れ12を前方に起こすように回動させる。使用者Pは、走行姿勢に戻した状態で、階段に背を向けるように車椅子100を反転させ、駆動輪20を回転させて目的地に向かって走行できる。
【0059】
階段を下る場合には、使用者Pが、階段の手前で階段に背を向けるように車椅子100を反転させ、走行姿勢から段差昇降姿勢となるようにガススプリング15を操作する。次に、使用者Pは、レバー60を操作して回転脚50を回転させ、後ろ向きに階段を下って行く。
【0060】
階段を下りきった後は、使用者Pが再びガススプリング15を操作して、段差昇降姿勢から走行姿勢となるように座シート11及び背凭れ12を前方に起こすように回動させる。使用者Pは、走行姿勢に戻した状態で、階段に背を向けるように車椅子100を反転させ、駆動輪20を回転させて目的地に向かって走行できる。
【0061】
以上で説明したように、本実施形態における車椅子100によれば、使用者Pがレバー60を操作して回転脚50を段差において回転させることで、自力で階段等の段差を昇降することができる。電動式の装置等を設ける必要がないため、重量の増加や大型化を招くことなく、簡易な構成で段差の自力昇降が可能になる。
【0062】
また、本実施形態における車椅子100は、走行姿勢と段差昇降姿勢との間で座シート11及び背凭れ12が回動可能に設けられており、使用者Pは段差昇降時に座シート11及び背凭れ12を後方に倒すように回動させることができる。段差昇降時に座シート11及び背凭れ12を後方に倒す段差昇降姿勢とすることで、使用者Pは、自身の体を段差の斜面に近付けると共に目線を下げ、段差昇降時の不安感や恐怖感を軽減することが可能になる。
【0063】
以上、実施形態に係る段差昇降機能付き車椅子について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。
【0064】
例えば、ワンウェイクラッチ61を介して回転軸30及び回転脚50を一方向に回転させるレバー60に加えて、ワンウェイクラッチを介して回転軸30及び回転脚50を他方向に回転させるレバー60を設けてもよい。このような構成により、使用者Pは回転軸30及び回転脚50を任意の方向に回転させることが可能になり、後ろ向きで段差を昇降するだけでなく、前向きで段差を昇降することが可能になる。