(54)【発明の名称】レーザーマイクロダイセクション装置、レーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置、試料採取方法、及レーザーマイクロダイセクション装置に用いられるデバイス
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23〜25年度JST研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)委託研究の産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【文献】
科学技術振興機構, 名古屋大学,アルツハイマー病関連分子の脳内分布を3次元で測定することに成功 〜LMD−MS法:新しい質量分析イメ,科学技術振興機構プレスリリース,日本,科学技術振興機構,2014年 5月20日,インターネット [検索日2016.6.6],URL,http://www.jst.go.jp/pr/announce/20140520/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱溶融性フィルムの表面は親水度の異なる領域で形成され、親水度の高い領域が親水度の低い領域で囲まれている請求項6に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
前記分析装置が、質量分析装置、クロマトグラフィーを含む分析装置、元素分析装置、核酸配列分析装置、及びマイクロチップ分析装置から選ばれる1種である請求項8に記載の分析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載されているLMDは、試料の連続した微小領域を熱溶融性フィルムに所望の間隔で、且つ試料の位置座標及び熱溶融性フィルムの位置座標を関連付けて配置できることから、2次元及び3次元の質量イメージングを行うことができる。
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1に記載されているLMDは、マトリックス支援レーザー離脱イオン化飛行時間質量分析装置(MALDI−TOF−MS)に用いることを念頭に、倒立顕微鏡をベースに開発している。倒立顕微鏡の試料を観察する光学系は装置の下側に配置されていることから、非特許文献1に記載されているLMDは、試料を載置したスライドの上に採取試料を接着する熱溶融性フィルムを配置し、ダイセクションレーザー光の光源は上方に配置している。
【0009】
そのため、熱溶融性フィルムの試料の接着面は下方に向くことから、接着した試料に分析用試薬液等を滴下する場合、熱溶融性フィルムを一度LMDから取出し、熱溶融性フィルムの試料の接着面を上側に向ける必要がある。したがって、作業が煩雑になり分析効率が悪いという問題がある。
【0010】
また、非特許文献1に記載されているLMDは、熱溶融性フィルムを試料に当接してレーザー光を照射している。しかしながら、例えば、包埋剤を用いて作製した凍結ブロックの切片等を試料として用いる場合、ミクロのレベルでは試料表面は凹凸があり、熱溶融性フィルムと試料の間に隙間が生じ、その結果、試料の熱溶融性フィルムへの転写にばらつきができる可能性がある。
【0011】
ところで、市販されている熱溶融性フィルムは、仕切り等のない平面上のフィルムである。そのため、試料が接着した熱溶融性フィルムに分析用試薬液を滴下する場合、熱溶融性フィルム上で分析用試薬液が拡散し、コンタミのおそれがある。コンタミを防止するためには、試料を接着する間隔を広くすることが考えられるが、試料を接着する間隔を広くすると熱溶融性フィルム1枚当たりで分析できるサンプルのスポット数が少なくなり、分析効率が低下するという問題がある。
【0012】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされた発明であり、鋭意研究を行ったところ、LMDにおいて、試料を上側、採取した試料を接着する熱溶融性フィルムを有するデバイスを下側に配置する。そして、ダイセクションレーザー光をデバイスの下方から照射すると、採取試料はデバイスの上側の面に接着するので、分析用試薬液を直接滴下できること、を新たに見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の目的は、レーザーマイクロダイセクション装置、レーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置、試料採取方法、及レーザーマイクロダイセクション装置に用いられるデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下に示す、レーザーマイクロダイセクション装置、レーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置、試料採取方法、及レーザーマイクロダイセクション装置に用いられるデバイスに関する。
【0015】
(1)試料が載置したスライドを保持し、前記スライドを水平方向及び垂直方向に移動することができる試料移動手段、
試料を転写するための熱溶融性フィルムを有するデバイスを載置することができ、前記デバイスを水平方向に移動できるデバイス移動手段、
試料にダイセクションレーザー光を照射し、該ダイセクションレーザー光を照射した箇所の試料を切り出し、熱溶融性フィルムに採取試料として接着するためのレーザー照射部、
ダイセクションレーザー光を照射する箇所の試料の位置座標及び採取試料が接着する箇所の熱溶融性フィルムの位置座標を関連付けて記憶する記憶手段、及び
前記記憶手段に記憶された試料の位置座標及び熱溶融性フィルムの位置座標に基づき、前記試料移動手段及び前記デバイス移動手段を駆動制御する移動手段駆動制御部、
を含み、
前記ダイセクションレーザー光が前記デバイスの下方からデバイスを通して試料に照射する、
レーザーマイクロダイセクション装置。
(2)前記スライドと前記熱溶融性フィルムを有するデバイスを圧着する押圧手段を含む上記(1)に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
(3)前記押圧手段が、前記スライドを保持する枠体である上記(2)に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
(4)前記試料移動手段が、前記枠体を保持するアームを有し、
前記押圧手段が、前記アームを含む上記(2)又は(3)に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
(5)前記試料移動手段が、前記スライドを保持するアームを駆動するモーターを有し、
前記押圧手段が、少なくとも前記モーターと前記アームを含み、前記モーターで前記アームを前記デバイス方向に付勢する上記(3)又は(4)に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
(6)基板、該基板上に形成された試料を転写するための熱溶融性フィルムを有するデバイスを含む上記(1)〜(5)の何れか一に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
(7)前記熱溶融性フィルムの表面は親水度の異なる領域で形成され、親水度の高い領域が親水度の低い領域で囲まれている上記(6)に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
(8)上記(1)〜(7)の何れか一に記載のレーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置。
(9)前記分析装置が、質量分析装置、クロマトグラフィーを含む分析装置、元素分析装置、核酸配列分析装置、及びマイクロチップ分析装置から選ばれる1種である上記(8)に記載の分析装置。
(10)レーザーマイクロダイセクション装置を用い、熱溶融性フィルムを有するデバイスに試料を採取する試料採取方法であって、
前記デバイスの熱溶融性フィルムの試料を転写する位置の上に、採取すべき試料の位置を重ねるステップ、
前記デバイスの熱溶融性フィルムと試料を圧着する押圧ステップ、
前記デバイスの下方からダイセクションレーザー光を照射し、該ダイセクションレーザー光を照射した箇所の試料を切り出し、熱溶融性フィルムに採取試料として接着する試料採取ステップ、
を含む試料採取方法。
(11)レーザーマイクロダイセクション装置に用いられるデバイスであって、
前記デバイスは、基板、及び該基板上に形成され試料を転写するための熱溶融性フィルムを含み、
前記熱溶融性フィルムの表面は親水度の異なる領域で形成され、親水度の高い領域が親水度の低い領域で囲まれているデバイス。
(12)前記熱溶融性フィルムと基板の間に、導電層が形成されている上記(11)に記載のデバイス。
【発明の効果】
【0016】
本発明のLMDは、試料を上側、採取した試料を接着する熱溶融性フィルムを有するデバイスを下側に配置している。そのため、採取試料はデバイスの上側の面に接着するので、LMDの後は反転等の作業をすることなく分析用試薬液の滴下等を行うことができる。したがって、装置の構成を簡単にできるとともに、作業効率が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明のレーザーマイクロダイセクション装置、レーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置、試料採取方法、及レーザーマイクロダイセクション装置に用いられるデバイスについて詳しく説明する。
【0019】
図1は、本発明のLMD1(
図1中の点線で囲った部分)の概略を示す図で、LMD1は、(a)試料を転写するための熱溶融性フィルムを有するデバイスを載置することができ、デバイスを水平方向に移動できるデバイス移動手段2、(b)試料が載置したスライドを保持し、スライドを水平方向及び垂直方向に移動することができる試料移動手段3、(c)試料にダイセクションレーザー光を照射し、ダイセクションレーザー光を照射した箇所の試料を切り出し、熱溶融性フィルムに採取試料として接着するためのレーザー照射部4、図示しない記憶手段及び移動手段駆動制御部を少なくとも含んでいる。本発明のLMD1は、ダイセクションレーザー光をデバイスの下方から照射するため、レーザー照射部4は、デバイスをセットする位置より下方に配置されている。
図1に示すLMD1は、更に、採取した試料を観察するための光を照射する光源5、画像を取得するためのCCD等の撮像装置6を含んでいる。
【0020】
本発明のLMD1により採取した試料は公知の分析方法(装置)により分析をすればよい。
図1は、LC−MSと組み合わす例を示しており、試料を採取した後のデバイスは、デバイス移動手段2によりリキッドハンドリング部7に送られ、LC−MS分析用の溶液がデバイスに滴下され、引き続き、LC−MSで分析される。LC−MS以外の分析方法(装置)としては、例えば、熱溶融性フィルムに接着した試料を液化することで、HPLC−蛍光分光機、HPLC−電気化学的検出器等のクロマトグラフィーを含む分析装置、電子線マイクロアナライザ、X線光電子分光装置等の元素分析装置、PCRまたはLCRで遺伝子を増幅しシークエンサーを用いて試料に含まれるDNA配列の解析を行う核酸配列分析装置、試料に含まれる核酸を鋳型にDNAをハイブリダイズするDNAチップ、タンパク質に抗体を反応させる抗体チップ等のマイクロチップ分析装置、等が挙げられる。
【0021】
また、本発明のLMD1は、上記の質量分析装置、クロマトグラフィーを含む分析装置、元素分析装置、核酸配列分析装置、マイクロチップ分析装置の試料採取装置として、当該分析装置に組み込むこともできる。更に、本発明のLMD1を用いると、採取した試料を所望の間隔で熱溶融性フィルムに接着・配列できることから、例えば、DNAチップや抗体チップを製造するための製造装置として使用することもできる。
【0022】
図1に示すデバイス移動手段2は、デバイスを載置することができるデバイス載置台と、デバイス載置台を水平方向(X,Y軸方向)に移動するための図示しない駆動原及び該駆動原の駆動力をデバイス載置台に伝達する駆動力伝達機構を含んでいる。駆動原としては、パルスモーター、超音波モーター等を用いればよい。また、駆動力伝達機構は、例えば、顕微鏡等に使われているデバイス(チップ)載置台を水平方向に駆動するための駆動力伝達機構等、公知のものを用いればよい。
【0023】
図2は、試料移動手段3の概略を示す写真である。
図2に示す試料移動手段3は、試料が載置したスライドを一端に載置することができ他端はアーム支柱31に取り付けることができるアーム32、該アーム32を水平方向(X,Y軸方向)に回転及び垂直方向(Z軸方向)に移動することができるアーム支柱31が含まれている。また、
図2中の楕円部分には、アーム32を水平方向に回転及び垂直方向に移動するための駆動原及び該駆動原の駆動力を伝達してアーム32を回転及び垂直方向に移動するための駆動力伝達機構が含まれている。駆動原としては、パルスモーター、超音波モーター等を用いればよい。また、駆動力伝達機構は、例えば、自動分析装置のサンプル移動用のアーム機構等、水平方向に回転及び垂直方向に移動することができる公知のアーム機構を用いればよい。なお、試料移動手段3は、
図2に例示した実施形態に限定されず、試料を水平方向及び垂直方向に移動することができれば特に制限は無い。
【0024】
デバイスの熱溶融性フィルムと試料に隙間があると、採取試料が熱溶融性フィルムに接着し難くなる。そのため、本発明のLMD1は、試料が載置したスライドと熱溶融性フィルムを有するデバイスを圧着する押圧手段を含んでいる。
図2は、ステンレス、チタン等の金属等で作製した重量のある枠体33で押圧手段を形成した例を示している。
【0025】
図3は、押圧手段の第1実施形態の動作例を示す図である。
図3(1)は押圧前の状態を示す側面図で、押圧手段である枠体33は断面が略凸状になっており、アーム32の先端に形成された枠体挿入孔に摺動可能となるように挿入されている。枠体33の下方部は、試料34が載置したスライド35を着脱自在に取り付け可能となっており、例えば、係止溝、係止バネ機構等が形成されている。一方、LMD1のデバイス移動手段2には、基板21及び該基板21上に形成された試料を転写するための熱溶融性フィルム22を含むデバイス20が載置されている。
【0026】
図3(1)に示す押圧前の状態では、枠体33の上部331は枠体挿入孔より大きく形成することで、枠体33はアーム32に係止される。そして、
図3(2)に示すように、アーム32を下方に下げることで枠体33も下がり、試料34が熱溶融性フィルム22に当接した後でもアーム32を下げることで、枠体33の重量により試料34を熱溶融性フィルム22に圧着することができる。試料34と熱溶融性フィルム22の圧着の程度は、枠体33の重量で調整すればよい。枠体33の形状は、アーム32に摺動可能に挿入できれば特に制限は無く、試料を載置するスライドの形状に応じて円形、正方形、長方形等、適宜調整すればよい。また、試料の採取状況等を観察する場合は、枠体33を中空形状とし、枠体33の上方から観察できるようにしてもよい。また、
図3(3)に示すように、試料34が熱溶融性フィルム22に当接した際のズレを防止するために、枠体33に、シリコンゴム、合成ゴム等で作製したズレ防止部材を設けてもよい。
【0027】
図4は、押圧手段の第2実施形態を示す図である。
図4に示す実施形態では、アーム32に試料34が載置したスライド35を着脱自在に取り付け可能な係止溝等が形成されている。アーム32を下方に下げることで試料34が熱溶融性フィルム22に当接する。当接した後は、アーム32と駆動力伝達機構の伝達を解除することで、アーム32の自重により、試料34を熱溶融性フィルム22に圧着することができる。なお、
図4に示す第2実施形態は、試料34が載置したスライド35をアーム32に取り付けているが、スライド35を枠体33に取り付け、枠体33をアーム32に着脱自在となるように取り付けた形態を第3実施形態としてもよい。第1実施形態とは異なり、第3実施形態は枠体33がアーム32に対して摺動する必要はなく、アーム32に固定する必要がある。第3実施形態の場合、枠体33とアーム32で押圧手段を構成することから、試料34を熱溶融性フィルム22により圧着することができる。
【0028】
上記の第2実施形態及び第3実施形態は、枠体33及び/又はアーム32で押圧手段を形成しているが、第4実施形態として、枠体33及び/又はアーム32に加え、駆動原及び駆動力伝達機構を含めて押圧手段を構成してもよい。第4実施形態の場合、アーム32を下げ、試料34が熱溶融性フィルム22に当接した後もアーム32と駆動力伝達機構の伝達を解除せず、アーム32を下方向に付勢し続ければよい。
【0029】
上記第1〜第4実施形態は、LMD1を構成する部材を用いて押圧手段を構成する実施形態であるが、押圧手段は試料34と熱溶融性フィルム22が圧着すれば特に制限はない。例えば、スライド35をデバイス20上の配置した後、スライド35及びデバイス20を上下から挟む挟持手段等により押圧手段を形成してもよい。押圧手段を設けることで、試料34と熱溶融性フィルム22を密着させることができる。その結果、ダイセクションレーザー光を照射する際に、試料34と熱溶融性フィルム22の隙間をなくすことができるので、試料の切り出し精度を向上できる。
【0030】
図5は、本発明のデバイス20の上面図である。本発明のデバイス20は、熱溶融性フィルム22の表面が親水度の異なる領域で形成されていることを特徴としている。
図5に示す例では、親水度の高い領域221が円形状に形成され、親水度の高い領域221の周りは、親水度の低い領域222で囲まれている。
【0031】
なお、本発明の「親水度の高い領域」及び「親水度の低い領域」とは、親水度の絶対値ではなく、2つの領域の親水度の相対的な高低を意味する。本発明のデバイス20は、親水度の高い領域の周りに相対的に親水度の低い領域が形成されていれば特に制限は無い。例えば、基板21上に熱溶融性フィルム22の層を形成後、親水度の高い領域に相当する個所に穴を有するマスクを被せ親水化処理をすればよい。逆に、親水度の低い領域に相当する個所に穴を有するマスクを被せ疎水化処理をしてもよい。また、親水化処理と疎水化処理の両方を行ってもよい。
【0032】
親水化処理は公知の方法で行えばよく、プラズマ処理、界面活性剤処理、PVP(ポリビニルピロリドン)処理、光触媒等が挙げられる。例えば、マスクから露出している熱溶融性フィルム22を10〜30秒間プラズマ処理することで、表面に水酸基を導入することができる。疎水化処理も公知の方法で行えばよく、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)処理、トリフルオロメチル基等のフッ素化合物処理が挙げられる。
【0033】
マスクを用いた親水化処理及び/又は疎水化処理以外の方法としては、フッ素樹脂系インク、オルガノシラン、シリコン系インク、アルカリ可溶性レジストインク等の撥水性インクをインクジェットプリンター等により印刷してもよい。
【0034】
熱溶融性フィルム22の表面を親水化処理及び/又は疎水化処理することで、ウェルを作製することがでる。なお、本発明のデバイス20のウェルは、熱溶融性フィルム22の表面を原子レベルで改質、又はコーティングすることで作製した略平面状のウェルであり、溶液等を挿入するくぼみ(ウェル)のある公知のマイクロプレートとは異なる物である。そして、熱溶融性フィルム22の表面はほぼ平面状態であることから、ダイセクションの際に試料との密着性を阻害することがない。また、LMDにより試料を親水度の高い領域に接着した後に分析用試薬液を当該親水度の高い領域に滴下してもウェルの外に分析用試薬液が流れないのでコンタミは発生しない。
【0035】
親水度の高い領域の大きさ及び形状は、LMDにより採取した試料の分析方法に応じて適宜調整すればよい。例えば、LC−MSや、核酸増幅を行う場合は、少なくとも分析に必要な量の分析用試薬液が表面張力により親水度の高い領域内に留まる大きさとすればよい。
【0036】
基板21は、ダイセクションレーザー光が通過でき、熱溶融性フィルム22を形成できれば特に制限は無く、例えば、ガラスや光透過性樹脂で作製すればよい。熱溶融性フィルム22は基板21の上にスピンコート等を用いて積層すればよい。
【0037】
熱溶融性フィルム22としては、後述するレーザー照射部4から照射したダイセクションレーザー光により溶解し、採取試料を変性させずに接着できるものであれば特に制限は無い。熱溶融性フィルムとしては、融点が低い方が試料の熱変性を防止できることから、融点が約50−70℃程度までの熱溶融性フィルムを原料に用いることが好ましく、例えば、エチルビニルアセテート(EVA)、ポリオレフィン、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン等が挙げられる。また、熱溶融性フィルムには、ダイセクションレーザー光源の波長域のスペクトルを選択的に吸収するため、ナフタレンシアニン染料等の有機染料を添加してもよく、用いるダイセクションレーザー光源の波長域に応じて好適な有機染料を選択すればよい。熱溶融性フィルム22としては、上記の熱溶融性フィルム及び有機染料を適宜配合して作製してもよいし、市販の熱溶融性フィルムを用いることもできる。市販されている熱溶融性フィルムとしては、例えば、熱溶融性トランスファフィルム(エレクトロシール社製)、熱溶融性EVAフィルム(シグマ−アルドリッチジャパン社製)等が挙げられる。
【0038】
また、LMDにより試料を採取後、MALDI−TOF−MSを用いる場合は、デバイス20を導電性処理しておいてもよく、例えば、基板21と熱溶融性フィルム22の間に金属等の導電性材料の層を形成すればよい。また、各々の親水度が高い領域221に導電性金属で電極を形成し、分析用試薬液を滴下した後の電流変化を測定する等、本発明のデバイス20はLMDによる試料の採取のみに用いられるのではなく、採取した試料をデバイス20上で直接分析する等、多様な分析に用いることができる。
【0039】
レーザー照射部4に含まれるダイセクションレーザー光源としては、照射スポットを最小にするためにシングルモードファイバー出力のレーザー光を用いることが好ましく、また、集光の為の近赤外用高NA長焦点対物レンズを用いることが好ましい。また、パルス幅は0.1ミリ秒〜100ミリ秒、好ましくは5ミリ秒、波長は785ナノメートル〜900ナノメートル、好ましくは808ナノメートル、出力は0.2ワット〜0.3ワット、照射レーザーパワーは0.1%〜100%、好ましくは80%〜100%のパルスレーザー光を発生できるものが好ましく、具体的には、Z−808−200−SM(ルシール社製)等が挙げられる。
【0040】
図6は、ダイセクションレーザー光を照射する箇所の試料の位置座標と採取試料が接着する熱溶融性フィルム22の位置座標の関係を表す図で、試料を連続的に切り出す場合の例を示している。例えば、
図6(1)の試料34をa、b、cのように連続的に切り出す場合、(i)デバイス移動手段2により、デバイス20をダイセクションレーザー光が照射される位置に移動する。(ii)次に、試料移動手段3により、試料34のaが
図6(2)に示す熱溶融性フィルム22の採取試料aが接着する箇所a′に重なる位置に移動し、アーム32を垂直方向に下げることで試料34を熱溶融性フィルム22に圧着させる。(iii)ダイセクションレーザー光を照射することで、試料34のaの箇所から採取した試料を熱溶融性フィルム22のa′の位置に接着し、次いで、アーム32を垂直方向に上げることで試料34を熱溶融性フィルム22から離し、熱溶融性フィルム22の予め決められた箇所に、試料34aを接着する。試料34b、cについても、上記(i)〜(iii)の手順を繰り返すことで、試料34b、cを、熱溶融性フィルム22のb′、c′に接着することができる。
【0041】
試料34から採取する試料の大きさAは、対象とする組織切片や目的に応じて切り出す試料の大きさを変えればよい。例えば、細胞下構造体の分析や高空間分解能を得たい場合には1μm〜5μm、単一細胞を採取する場合には15μm〜30μm、癌や変性部位などを採取する場合は50μm〜100μmの大きさの試料を、ダイセクションレーザー光を照射して試料34から切り出し採取すればよい。切り出す試料の大きさは、照射するダイセクションレーザー光の直径および強度を調整することで、ダイセクションレーザー光の直径と同じ大きさの試料を切り出すこともできるし、ダイセクションレーザー光の強度を強くしたり照射時間を長くすることで、ダイセクションレーザー光の直径より大きな試料を切り出すこともできる。採取する試料に応じて、ダイセクションレーザー光の直径や強度を適宜調整すればよい。ダイセクションレーザー光の直径は、光学絞りや集光レンズ等を用いて焦点を絞ればよい。ダイセクションレーザー光の強度は、可変抵抗などを用いてレーザーの発振体の電圧を変化させれば良い。
【0042】
本発明においては、試料34から採取した試料を、採取する前の試料の間隔より大きな任意の間隔で熱溶融性フィルム22に接着できる。したがって、採取した試料を分析する分析装置の空間分解能や試料の前処理等に応じて、採取した試料を接着する間隔を調製することで、分析の空間分解能を向上することができる。
【0043】
図7は、本発明のLMD1の一例の断面図及びシステムの概略を示す図である。
図7に示すLMD1は、デバイス移動手段2の下方にレーザー照射部4が設けられている。レーザー照射部4には、図示しないダイセクションレーザー光源とダイセクションレーザー光源から出力されるダイセクションレーザー光の光軸上に配置されるコリメータレンズ41が設けられている。ダイセクションレーザー光源から出力されるダイセクションレーザー光は、コリメータレンズ41を通ってデバイスの基板21、熱溶融性フィルム22を進んで試料34に照射されるようになっている。
【0044】
なお、
図7に示す実施形態では、レーザー照射部4はデバイス移動手段2の下方に設けられているが、レーザー照射部4をデバイス移動手段2の上方に設け、ミラー系を用いてデバイス基板21側からダイセクションレーザー光を照射できるようにしてもよい。また、枠体33を中空となるように形成し、試料を載置するスライド35も光透過性の材料を用いることで、試料を介してダイセクションレーザー光を照射できるようにしてもよい。更に、
図4に示す実施形態の場合は、アーム32を光透過性の材料で形成、または試料が位置する部分に切欠きを形成することで、試料を介してダイセクションレーザー光を照射できるようにしてもよい。試料34を上側、採取した試料を接着する熱溶融性フィルム22を有するデバイス20を下側に配置し、ダイセクションレーザー光を照射することで試料を切り出し、熱可塑性フィルム22に接着できれば、その他の形態であってもよい。
【0045】
一方、試料34の上部には、光源5及び撮像装置6が配置されている。光源5より放射された光は、図示しない光学レンズ、集光レンズ、枠体33の中空形状部分を通して試料34に照射されるようになっている。また、光源5から照射される光軸上にはハーフミラー51が設けられ、ハーフミラー51の分光光軸上の観察光の結像位置に撮像面が位置するように撮像装置6が配置されている。
【0046】
レーザー照射部4にはレーザーコントローラ62が接続され、このレーザーコントローラ62は、制御用コンピュータ64に接続されている。また、制御用コンピュータ64には、表示部65、例えばマウス等のポインティングデバイス66、撮像装置6、デバイス移動手段2及び試料移動手段3の駆動制御を行う移動手段駆動制御部67が接続されている。
【0047】
制御用コンピュータ64は、本発明のLMD1専用のソフトウェアを組み込んだパーソナルコンピュータ等で、この制御用コンピュータ64の命令に基づいて、レーザーコントローラ62により、ダイセクションレーザー光源から出力されるダイセクションレーザー光の出力状態が制御されるとともに、移動手段駆動制御部67により、デバイス移動手段2及び試料移動手段3の駆動原に対する電源供給とパルス信号が制御されるようになっている。
【0048】
移動手段駆動制御部67には、ジョイスティックコントローラ68が接続されている。このジョイスティックコントローラ68には、図示しないジョイスティックが組み込まれ、このジョイスティックの操作に応じたパルス信号を試料移動手段3に与えるようにしている。ここでは、例えば、ジョイスティックの傾き方向で、パルス信号を送る試料移動手段3の駆動原の選択と、駆動原の回転方向が決まり、傾き角度に応じた周波数でパルス信号が発振されて駆動原が回転し、試料移動手段3が移動するようにしている。なお、ジョイスティックコントローラ68は必須ではなく、例えば、撮像装置6で撮影した画像を表示部65に表示し、ポインティングデバイス66を差した箇所が表示部65の中心となるように、また、表示部65をタッチ機能を有する画面で作製してタッチした箇所が表示部65の中心となるように制御することで、ジョイスティックを使用することなく、試料移動手段3の駆動原の選択と、駆動原の回転方向を制御してもよい。
【0049】
次に、本発明のLMD1により試料を切り出す手順と制御用コンピュータ64に組み込まれた専用ソフトウェアによる動作について説明する。
【0050】
まず、LMD1の電源を投入して制御用コンピュータ64の専用ソフトウェアを起動し、自動的に実行される初期化動作に従って、デバイス移動手段2を初期化のために所定の位置に移動する。そして、図示していない原点検出器により原点位置検出を行って、原点から所定の距離だけ離れたダイセクションレーザー光の照射領域へ移動して待機する。待機する時のデバイス移動手段2の位置は、デバイス移動手段2上に固定したデバイス20の熱溶融性フィルム22の親水度の高い領域が、ダイセクションレーザー光の照射領域と照明光の照射領域に入る位置である。この状態で、試料34を固定したスライド35を枠体33を介し、又は直接アーム32に取り付ける。
【0051】
次に、光源5から照明光をスライド35上の試料34に照射し、ハーフミラー51を通して試料34の観察光を撮像装置6で撮像し、表示部65上に映し出す。その際、ジョイスティックコントローラ68又は表示部65のタッチ機能等により試料移動手段3の位置を微調整し、試料34の採取したい位置を表示部65に表示できるようにする。
【0052】
次に、
図6に示すように、試料34から連続的に試料を切り出す場合には、表示部65に表示された試料34の採取したい範囲をポインティングデバイス66等により設定する。制御用コンピュータ64は、照射するダイセクションレーザー光の直径に基づき、設定された範囲の試料34を連続的に切り出せるよう、ダイセクションレーザー光を照射する試料の位置座標を算出する。なお、前記の例は、試料34を連続的に切り出す場合であるが、例えば、設定した範囲の試料を任意の間隔をおいて切り出せるように、ダイセクションレーザー光を照射する試料の位置座標を設定してもよい。
【0053】
次に、採取試料を熱溶融性フィルム22の親水度の高い領域221に接着する際の位置座標を設定する。位置座標の設定は、例えば、96ウェル、384ウェル等、使用するデバイスの設計に応じて予め制御用コンピュータ64に記憶したリストの中から選択してもよいし、制御用コンピュータ64に、所望の間隔値を入力することで座標位置を制御用コンピュータ64で計算させてもよい。制御用コンピュータ64は、選択又は計算した位置座標を、制御用コンピュータ64の図示しない記憶手段に、撮像装置6で撮像した試料の画像、ダイセクションレーザー光を照射する試料の位置座標及びダイセクションレーザー光の照射により採取した試料を熱溶融性フィルム22の親水度の高い領域221に接着する位置座標を関連付けて記憶手段に記憶しておく(以下、記憶した情報を「採取情報」と記載することがある。)。
【0054】
また、試料34の採取する位置を任意に設定する場合は、表示部65に表示された試料34のダイセクションレーザー光を照射して採取したい箇所をポインティングデバイス66等により設定、もしくは画像解析ソフトにより色情報、染色強度、目的物の面積、周囲長、長径、形状などを利用して自動的に識別してそれぞれの位置座標を設定し、制御用コンピュータ64の記憶手段に設定した箇所の位置座標を記憶しておく。その際、表示部65に表示されている試料34のポインティングデバイス66で設定した箇所にも、例えば、マークを表示又は設定した順番毎に数字を表示したりする等、どの箇所の試料を切り出すのか表示することが好ましい。
【0055】
上記の手順により採取情報を記憶した後、移動手段駆動制御部67は、採取情報の位置座標情報に基づき、最初にダイセクションレーザー光を照射する試料34の箇所がダイセクションレーザー光の光軸上に位置するように試料移動手段3を駆動制御する。次に、移動手段駆動制御部67は、該記憶手段に記憶された位置座標情報に基づき、試料34の最初に採取した箇所が接着する熱溶融性フィルム22の親水度の高い領域の箇所をダイセクションレーザー光の光軸上に位置し、次いで試料34が熱溶融性フィルム22に圧着するように試料移動手段3を駆動制御する。
【0056】
次に、制御用コンピュータ64からの指示により、レーザーコントローラ62はダイセクションレーザー光源からダイセクションレーザー光を照射するよう制御する。ダイセクションレーザー光照射後は、移動制御手段67は、試料34を上方に移動するよう試料移動手段3を駆動制御することで、最初に採取した試料34を熱溶融性フィルム22の親水度の高い領域221に接着させた状態で剥離する。その後は、予め設定した採取する試料の全てを熱溶融性フィルム22の親水度の高い領域221に接着剥離するまで上記手順を繰り返す。熱溶融性フィルム22に接着した試料34は、上記のとおり公知の手法により分析を行えばよい。
【0057】
分析により得られた採取試料34の分析結果を記憶手段に記憶する場合には、それぞれの採取試料34の位置座標と分析結果を関連付けて記憶手段に記憶する(以下、記憶した情報を「分析情報」と記載することがある。)。そして、記憶手段に記憶された採取情報及び分析情報に基づき画像構成を行うことで、試料の画像を表示するとともに、試料を採取した箇所に含まれていた試料の分析結果を併せて表示することができる。
【0058】
試料画像と分析結果の表示は、LMD1と分析装置が別体の場合は、例えば、LMD1の制御用コンピュータ64により分析情報を読み込み、LMD1の記憶手段に記憶されている採取情報と読み込んだ分析情報に基づき画像構成を行い、表示部65に試料画像と分析結果を併せて表示すればよい。分析装置の表示部に表示を行いたい場合は、分析装置の制御用コンピュータにより採取情報を読み込み、分析装置の記憶手段に記憶されている分析情報と読み込んだ採取情報に基づき画像構成を行い、分析装置の表示部に試料画像と分析結果を併せて表示すればよい。
【0059】
LMD1を組み込んだ分析装置の場合は、採取情報と分析情報に基づき画像構成を行い、表示部に試料画像と分析結果を併せて表示すればよい。また、採取情報と分析情報を、LMD1と分析装置とは別のパーソナルコンピュータ等に読み込ませ、当該パーソナルコンピュータの表示部に試料画像と分析結果を併せて表示してもよい。また、本装置は、自動化することも可能であることから遠隔操作、解析をすることもでき、離れた場所から分析をしたり、検査を行ったりすることもできる。
【0060】
上記の例は、採取試料から2次元の分析を行う例を示しているが、本発明のLMD1又はLMD1を組み込んだ分析装置を用いて、3次元イメージングを行うこともできる。例えば、同じ組織から複数枚の試料切片を作製し、試料切片毎に上記と同様の手順で採取情報と分析情報を取得する際に、当該試料切片が組織から作製した何枚目の試料切片であるのかを関連付けて記憶することで、簡単に3次元イメージングを行うことができる。このとき各切片の画像の位置ずれをおこさない手段として、(1)検体の包埋時に包埋剤のしかるべき場所に有色ナイロンフロス等を位置マーカとして刺入する、(2)検体中の複数の特定箇所に墨汁等によるマーキングもしくは微小切削によるメスマークを作る等により位置マーカを作成し、制御用コンピュータ64に組み込んだ画像処理機能により試料採取前に位置補正をした画像を表示すればよい。なお、各切片の厚みは非常に薄い場合には、組織から切り出した連続した試料切片はほとんど同じ大きさであるため、1枚目の試料を上記手順により採取情報を取得した後、2枚目の試料の撮像装置6で撮像した画像を表示部65に表示する際に、1枚目の画像に重ね合うようにして表示し、1枚目の画像で設定した試料の採取範囲と同じになるように2枚目の画像で試料の採取範囲を設定してもよい。
【0061】
また、熱溶融性フィルム22は、ダイセクションレーザー光を吸収することで溶解し、ダイセクションレーザー光の照射を止めることで再び固化し、固化する際にダイセクションレーザー光により切り出された試料と接着する。そのため、試料34のダイセクションレーザー光を照射する位置座標を同じにしておき、1回目のダイセクションレーザー光の照射により採取された試料を熱溶融性フィルム22の予め設定した位置に接着した後、試料34は移動させず、熱溶融性フィルム22のみを次に採取する試料の接着位置に移動し、ダイセクションレーザー光を照射する。そうすると、溶解した熱溶融性フィルム22は、既に試料が採取された凹部に染み込むが、熱溶融性フィルム22は粘性があることから、溶解した熱溶融性フィルム22は固化する際には溶解していない熱溶融性フィルム22に引き戻されるように固化するので、ダイセクションレーザー光で切り出された試料を接着してスライド21に固定した試料34から採取することができる。
【0062】
なお、上記の方法により試料を採取する場合、凹部の深さにより採取できる試料の量が異なる可能性がある。3次元イメージングをする際の定量性を向上するために、採取後の試料34の深さを測定するための測定装置を設けてもよい。凹部の深さを測定し、採取された試料の量を求めることができるので、定量性が向上する。
【0063】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0064】
<実施例1>
〔LMDの作製〕
正立顕微鏡をベースに、駆動原としてステッピングモータ(Bio Precision;ルードル社製)、移動手段駆動制御部として3D−A−LCSソフトウエア(ルシール社製)、ダイセクションレーザー光源としてZ−808−200−SM(ルシール社製)を取り付けることで、本発明のLMDを作製した。
【0065】
<実施例2>
〔デバイスの作製〕
スライドガラス上にEVA(東洋アドレ社製)をスピンコートすることで熱溶融性フィルムを形成した。熱溶融性フィルムの厚さは約5μmであった。次に、インクジェットプリンターを用い、熱溶融性フィルムの親水度の低い領域に相当する部分を撥水性インキ(東洋アドレ社製:SS25)で印刷して本発明のデバイスを作製した。
図8は、作製したデバイスの親水度の高い領域に水を滴下した写真である。写真から明らかなように、滴下した水は親水度の高い領域内に留まっていた。
【0066】
〔押圧手段の作製〕
<実施例3>
押圧手段は、中空状のステンレスで作製した。
図9(1)は側面から撮影した写真、
図9(2)は底面から撮影した写真である。中空部分の直径は約9mmで、重量は約33gであった。また、中空部分の外側に凹部を設け、ゴム製の滑り止めを挿入した。
【0067】
<実施例4>
実施例3の押圧手段の上部の厚みを薄くすることで、実施例3の重量の約半分の押圧手段を作製した。
【0068】
〔押圧を変化させた際のLMDによる試料の採取〕
<実施例5>
以下の手順により、LMDを用いて試料を切り出し、デバイスに接着させた。
〔分析組織の取得〕
分析組織には、以下の手順で取得したAPP/PS1マウス(10ヶ月齢、約25g)の脳を用いた。
1.マウスをジエチルエーテルで麻酔後、仰臥位にし、四肢を固定した。
2.開腹後、横隔膜を切開し、左右の肋骨を頭部方向へ切開した。
3.剣状突起をつまんで頭部方向へ反転し、鉗子で固定し、心臓を露出させた。
4.左心室に翼状針を刺し、1×PBS溶液(生理食塩水)を注入した。
5.剪刀で右心耳を切開し、約70mlの生理食塩水で脱血・灌流した。
6.灌流後、頭部を切断し、開頭後脳を摘出した。
7.摘出した脳は矢状断で半切し切断面を下面(切削面)に配置後、包埋剤(OCTコンパウンド)に入れ凍結し、凍結ブロックを作製した。
【0069】
〔試料切片の作製〕
上記の手順で得られた凍結ブロックから、以下の手順で試料切片を作製した。
1.凍結ブロックから10μmの厚さで切片を作製した。なお、スライドガラスはコートなしのものを使用した。
2.凍結切片を以下の手順で乾燥させた。
(1)100%アセトン 10分
(2)PBS 1分
(3)70%エタノール 1分
(4)100%エタノール 1分
(5)100%エタノール 1分
(6)100%キシレン 2分
(7)100%キシレン 2分
【0070】
〔切片から試料の切出し及び熱可塑性フィルムへの接着〕
以下の手順により、作製した凍結切片から設定した箇所の試料を採取し、デバイスに接着させた。
(1)実施例1で作製したLMDの電源を入れ、デバイス移動手段の初期化を行った後、デバイスをデバイス移動手段にセットした。また、実施例3で作製した押圧手段を試料移動手段のアームの先端の孔に挿入した後、押圧手段の先端に試料切片が付着しているスライドガラスを試料面を下に向けて取付けた。
(2)凍結切片の画像を表示部に表示し、試料にダイセクションレーザー光を照射する位置座標を設定した。
(3)採取した試料をデバイスの所定の位置に接着するように、位置座標を設定した。
(4)Live Cell Imaging System V7(ルシール社製)のプログラムに従い、上記(2)及び(3)の位置座標にしたがって、試料にダイセクションレーザー光(出力:300mA、照射時間:5msec、照射径:30μm)を照射し、切り出した試料をデバイスの予め設定した箇所に接着・回収した。当該実施例で採取した試料の直径は60μmとなるようにレーザー強度を調節した。なお、作製したデバイスの親水度の高い領域の大きさとプログラムの関係上、デバイスの親水度の高い一つの領域内に採取した複数の試料が接着するように位置関係を調整した。
図10(1)は実施例5で切り出した試料の接着面の拡大写真である。
【0071】
<実施例6>
実施例3の押圧手段に代え、実施例4で作製した押圧手段を用いた以外は、実施例5と同様の手順で試料を切り出した。
図10(2)は実施例6で切り出した試料を接着したデバイス表面の拡大写真である。
【0072】
<比較例1>
押圧手段を用いず試料切片が付着しているスライドガラスを直接試料移動手段のアームに取付け、押圧のない状態でアームを操作して実施例5と同様にダイセクションレーザー光を照射した。
図10(3)は比較例1のデバイス表面の拡大写真である。
【0073】
図10(1)〜(3)から明らかなように、LMDの際に押圧手段を用いて試料とデバイスの熱溶融性フィルムを密着させることで試料を熱溶融性フィルムへ転写できること、更に、押圧の程度により、転写する試料の量が異なることが明らかとなった。