(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6562407
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】絵画の修復方法
(51)【国際特許分類】
B44D 7/00 20060101AFI20190808BHJP
B44D 2/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
B44D7/00
B44D2/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-222692(P2018-222692)
(22)【出願日】2018年11月28日
【審査請求日】2019年5月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518389277
【氏名又は名称】岩井 希久子
(73)【特許権者】
【識別番号】518389288
【氏名又は名称】岩井 貴愛
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】岩井 希久子
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貴愛
【審査官】
柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−319682(JP,A)
【文献】
特開2016−93977(JP,A)
【文献】
特開2011−189104(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第0686512(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44D 7/00
B44D 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
退色、剥落、欠損の少なくとも何れかを含む劣化が生じた劣化部を有する絵画の画像データを取得する工程と、
コンピュータを用いたデジタルシュミレーションにより、前記画像データの前記劣化部を修復したデジタル修復データを生成する工程と、
前記デジタル修復データを、インクを用いて、絵画の裏打ち材にプリントする工程と、
前記プリント後の裏打ち材を絵画の裏面に積層する工程、を有する絵画の修復方法。
【請求項2】
前記画像データを取得する工程の前工程として、前記絵画の平面化処理を行う工程を有する、請求項1に記載の絵画の修復方法。
【請求項3】
前記画像データを取得する工程の前工程として、前記絵画の表面の汚れを落とすクリーニングを行う工程を有する、請求項1又は2に記載の絵画の修復方法。
【請求項4】
前記デジタル修復データが、絵画の全画面をデジタル修復した全画面修復データを含む、請求項1〜3の何れかに記載の絵画の修復方法。
【請求項5】
前記全画面修復データを、前記全画面のデジタル修復後に、輪郭のぼかし処理を施して得る、請求項4に記載の絵画の修復方法。
【請求項6】
前記全画面修復データを、前記劣化部の欠損及び/又は剥落をデジタル上で修復したデータに対し、色を薄くする加工を施して得る、請求項4又は5に記載の絵画の修復方法。
【請求項7】
前記絵画が、欠損の生じた劣化部を有し、
前記デジタル修復データが、前記欠損を補う欠損部修復データを含む、請求項1〜6の何れかに記載の絵画の修復方法。
【請求項8】
前記欠損部修復データを、前記劣化部の欠損をデジタル上で修復したデータに対し、色を薄くする加工を施して得る、請求項7に記載の絵画の修復方法。
【請求項9】
前記積層を、接着剤を塗布してなる接着剤層を介して行う、請求項1〜8の何れかに記載の絵画の修復方法。
【請求項10】
前記積層を、接着剤を塗布してなる接着剤層を介さずに行う、請求項1〜8の何れかに記載の絵画の修復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絵画の修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絵画は、支持体に絵具層を重ねて構成される。絵画の構成として、例えば、支持体としてのキャンバスに油絵具を重ねて構成された油彩画、支持体としての和紙に水溶性絵具を重ねて構成された水彩画、支持体としての絹に水溶性絵具を重ねて構成された絹絵等が例示される。
【0003】
絵画の主な劣化要因として、絵具層における退色、絵具層における剥落、支持体の欠損などがあげられる。前記の退色や剥落は主に長い年月の経過によって生じ、前記の欠損は事故や災害等に起因することが多い。
以下、絵画の退色箇所を退色部、剥落箇所を剥落部、欠損箇所を欠損部という。
【0004】
劣化した絵画を修復する手段として、充填や補彩といった手法が広く用いられている(非特許文献1)。
【0005】
充填とは、欠損部や剥落部に充填材を入れ、高さを周辺のオリジナルの絵具層と合わせる処置である。絵具層の充填には、一般的に、炭酸カルシウムと膠を混ぜたものや、炭酸カルシウムと合成樹脂を混ぜたものが使用され、支持体の充填には、一般的に、オリジナルと同じ素材のキャンバス、和紙、絹などが使用される。
補彩とは、剥落部に色を入れる処置である。補彩では、オリジナルの絵具を傷めずに除去することができ、かつなるべく安定な修復用の色材が使用される。補彩は、オリジナルの絵具層の上にはかからないようにして、剥落部のみに施される。
【0006】
これらの従来手法による修復作業は、修復を要する箇所ごとに手作業で行われるため、修復箇所が多数存在する場合には膨大な時間が必要となる。従来の手作業による修復では、修復家の技量により仕上がりにバラつきが生じやすく、絵画の価値が損なわれるケースもある。
なお、退色した絵画の表面から補彩を行うことは、オリジナルの絵画の価値を損なうため修復手法としては採用できず、これまで、退色を修復する手法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】瀬木慎一(著):名画修復_講談社、P81(1995年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、前記従来技術の課題を解決し、修復作業の時間を短縮することができる絵画の修復方法の提供を目的とする。本発明は、また、修復家の技量によるバラつきを抑制することができる絵画の修復方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]〜[10]を提供する。
[1] 退色、剥落、欠損の少なくとも何れかを含む劣化が生じた劣化部を有する絵画の画像データを取得する工程(以下、画像データ取得工程という)と、コンピュータを用いたデジタルシュミレーションにより、前記画像データの前記劣化部を修復したデジタル修復データを生成する工程(以下、デジタル修復データ生成工程という)と、前記デジタル修復データを、インクを用いて、絵画の裏打ち材にプリントする工程(以下、プリント工程という)と、前記プリント後の裏打ち材を絵画の裏面に積層する工程(以下、裏打ち工程という)を有する絵画の修復方法。
[2] 前記画像データ取得工程の前工程として、前記絵画の平面化処理を行う工程(以下、平面化処理工程という)を有する、[1]の絵画の修復方法。
[3] 前記画像データ取得工程の前工程として、前記絵画の表面の汚れを落とすクリーニングを行う工程(以下、クリーニング工程という)を有する、[1]又は[2]の絵画の修復方法。
[4] 前記デジタル修復データが、絵画の全画面をデジタル修復した全画面修復データを含む、[1]〜[3]の何れかの絵画の修復方法。
[5] 前記全画面修復データを、前記全画面のデジタル修復後に、輪郭のぼかし処理を施して得る、[4]の絵画の修復方法。
[6] 前記全画面修復データを、前記劣化部の欠損及び/又は剥落をデジタル上で修復したデータに対し、色を薄くする加工を施して得る、[4]又は[5]に記載の絵画の修復方法。
[7] 前記絵画が、欠損の生じた劣化部を有し、前記デジタル修復データが、前記欠損を補う欠損部修復データを含む、[1]〜[6]に記載の絵画の修復方法。
[8] 前記欠損部修復データを、前記劣化部の欠損をデジタル上で修復したデータに対し、色を薄くする加工を施して得る、[7]に記載の絵画の修復方法。
[9] 前記積層を、接着剤を塗布してなる接着剤層を介して行う、[1]〜[8]に記載の絵画の修復方法。
[10] 前記積層を、接着剤を塗布してなる接着剤層を介さずに行う、[1]〜[8]に記載の絵画の修復方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、修復作業の時間を短縮することができる。また、本発明によれば、修復家の技量によるバラつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る絵画の修復方法の流れを説明する図である。
【
図2】本発明の一実施形態に用いるデジタル修復データ生成装置のハードウェア構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態の各工程を詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の修復方法は、あらゆる絵画が対象となるが、特に、キャンバスに油絵具を重ねて構成された油彩画においてキャンバスが欠損した作品、紙や和紙や絹に水溶性絵具を重ねて構成された水彩画において紙や和紙や絹が欠損した作品、絵具が退色した作品、絵具が剥落した作品の修復に好適に用いることができる。
【0014】
以下の実施形態では、欠損部1と退色部2を有する絹絵の修復方法を、
図1を用いて説明する。
【0015】
(画像データ取得工程:ST1)
画像データ取得工程では、退色、剥落、欠損の少なくとも何れかを含む劣化が生じた劣化部を有する絵画の画像データを取得する。
画像データを取得する方法は特に限定されないが、例えば、スキャナを用いて行うことができる。絵画の画面を直接スキャンしてもよいし、絵画の画面を撮影した写真をスキャンしてもよい。
【0016】
本実施形態で修復対象とする絹絵は、
図1に示すように、欠損部1と退色部2を有する。
図1に示すように、本実施形態の画像データ取得工程(ST1)では、欠損部1と退色部2を有する絵画の画像データ3を取得する。本実施形態の欠損部1は、絵画の支持体である絹地に穴が開いた箇所であり、退色部2は、絵具の色が退色して色あせてみえる箇所である。
【0017】
(デジタル修復データ生成工程:ST2)
デジタル修復データ生成工程では、コンピュータを用いたデジタルシュミレーションにより、画像データ取得工程で取得した画像データから、劣化部(本実施形態では、欠損部1と退色部2)を修復したデジタル修復データを生成する。本発明において、デジタル修復とは、コンピュータを用いたデジタルシュミレーションにより修復画像を生成することを意味する。
デジタル修復データは、絵画の全画面をデジタル修復した全画面修復データ及び/又は欠損部を補う欠損部修復データを含むことが好ましい。
全画面修復データは、全画面のデジタル修復後に、輪郭のぼかし処理を施して得たものであることが好ましい。
デジタル修復データは、後述のように、絵画の裏打ち材にプリントして、プリント後の裏打ち材を絵画の裏面に積層して使用されるため、現在の色調をベースにして、劣化部をデジタル上で修復したデータ(以下、劣化部等修復データという)に対し、色を薄くする加工を施したものであることが好ましい。色を薄くする加工を施した全画面修復データを裏打ち材にプリントして絵画の裏面に積層することで、例えば、退色した水彩画や絹絵を、オリジナル画面に補彩することなく修復することができる。
色を薄くする加工は、例えばアドビシステム社製フォトショップ(登録商標)等の市販のイメージ処理ソフトにより行うことができる。色を薄くする加工の程度は、絵画の画風や、裏打ち材の素材や、どのような修復を目指すか(例えば、作成時のオリジナルの再現を目指すのか、経年変化を加味した修復を目指すのか等)により適宜調整し得るが、劣化部等修復データの10〜90%の濃さとなるように加工を施すことが好ましく、劣化部等修復データの30〜70%の濃さとなるように加工を施すことがより好ましい。
デジタル修復データが全画面修復データ及び欠損部修復データを含む場合、全画面修復データと欠損部修復データを積層した状態で、劣化部等修復データの10〜90%の濃さとなるように、全画面修復データと欠損部修復データのそれぞれに対し、色を薄くする加工を施すことが好ましく、画面修復データと欠損部修復データを積層した状態で、劣化部等修復データの30〜70%の濃さとなるように、全画面修復データと欠損部修復データのそれぞれに対し、色を薄くする加工を施すことがより好ましい。
裏打ち材が色味を有する素材の場合、劣化部等修復データの作成時に、裏打ち材の色味を加味して、色相及び/又は彩度を適宜調整することもできる。
【0018】
図1に示すように、本実施形態のデジタル修復データ生成工程(ST2)では、絵画の全画面をデジタル修復したのちに、輪郭のぼかし処理を施して得た全画面修復データ4と、欠損部1を補う欠損部修復データ5からなるデジタル修復データを生成する。
本明細書において「ぼかし処理」とは、絵画の外輪郭の内側と外側との間の境界を曖昧とし、それらの色合いや輝度等を互いに平滑にする処理を意味し、例えばアドビシステム社製フォトショップ(登録商標)等の市販のイメージ処理ソフトにより行うことができる。
【0019】
(プリント工程:ST3)
プリント工程では、前記デジタル修復データ生成工程で生成したデジタル修復データを、インクを用いて、絵画の裏打ち材にプリントする。
例えば、本実施形態のように、絹絵を修復対象とする場合、非水溶性インクを用いて和紙にプリントをすることが好ましい。
【0020】
画像データ取得工程〜デジタル修復データ生成工程〜プリント工程を実施する装置構成は特に限定されないが、例えば、
図2に示すハードウェア構成からなるデジタル修復データ生成装置10により行うことができる。
図2のデジタル修復データ生成装置10は、CPU11と、RAM(Random Access Memory)12と、ROM(Read Only Memory)13と、HDD14と、操作パネル15と、画像データ取得部16と、画像形成部17と、通信I/F18とを備える。そしてこれらがバスBを介して必要なデータのやりとりを行なう。
【0021】
CPU11は、ROM13等に記憶された各種プログラムをRAM12にロードして実行することにより機能を実現する。
RAM12は、CPU11の作業用メモリ等として用いられるメモリである。
ROM13は、CPU11が実行する各種プログラム等を記憶するメモリである。
HDD14は、画像データ取得部16が読み取った画像データや、画像形成部17における画像形成にて用いるデジタル修復データ等を記憶する例えば磁気ディスク装置である。
操作パネル15は、各種情報の表示やユーザからの操作入力の受付を行なう例えばタッチパネルである。
通信I/F18は、ネットワークを介して他の装置との間で各種情報の送受信を行なう。
画像データ取得部16は、絵画の画像を読み取る。ここで、画像データ取得部16は、例えばスキャナであり、光源から絵画の画面に照射した光に対する反射光をレンズで縮小してCCD(Charge Coupled Devices)で受光するCCD方式や、LED光源から絵画の画面に順に照射した光に対する反射光をCIS(Contact Image Sensor)で受光するCIS方式のものを用いるとよい。
画像形成部17は、裏打ち材に画像を形成する印刷機構の一例である。ここで、画像形成部17は、例えばプリンタであり、インクを裏打ち材に吐出して像を形成するインクジェット方式のものを用いることができる。
【0022】
(裏打ち工程:ST4)
裏打ち工程では、前記プリント工程でプリントされた裏打ち材を、絵画の裏面に積層する。前記積層は、接着剤を塗布してなる接着剤層を介して行うこともできる。
裏打ちとは、布等の裏打ち材を、オリジナルの支持体の裏に積層する処置である。裏打ちは、通常、オリジナルの支持体の裏に裏打ち材を当て、接着剤を塗布してなる接着層を介して熱をかけて押し当てて行われる。その際、支持体に加えられる熱と圧力により、絵画層のオリジナルの風合いが損なわれやすく、具体的には、絵画層において絵具の筆跡が平らになったり、暗色化したり、火ぶくれを起こしたりすることがある。
本発明の裏打ち工程では、前記プリント工程でプリントされた裏打ち材を、熱をかけずに、絵画の裏面に積層することで、上記従来技術の欠点を克服している。
本発明の裏打ち工程として、例えば、裏打ち材を絵画の裏面に水溶性接着剤で貼付して積層する方法や、接着剤を塗布してなる接着剤層を介さずに、支持体を保持するパネルや木枠等の縁に止め付けて積層する方法等を例示することができる。
【0023】
このように、デジタル修復により得たデジタル修復データを裏打ち材にプリントして、絵画の裏面に積層して修復を行う本発明の修復方法によれば、従来に比べて、修復作業の時間を大幅に短縮することができる。また、修復家の技量によるバラつきを抑制することができる。なお、絵画の修復は定期的に行うことが好ましいが、デジタル修復データを保存しておくことで、定期的な修復作業に要する手間やコストを大幅に削減することができる。
また、前記のように従来、退色を修復する手法は確立されていなかったが、本発明の修復方法によれば、退色を補う修復データをプリントした裏打ち材を、退色部の裏面に積層して退色部の修復を行うこともできる。具体的には、支持体として絹を用いた絹絵や、支持体として和紙を用いた日本画など、裏打ち材にプリントした修復データが、裏打ち後の絵画の表面から透けて見えるものについて、本発明の修復方法で、退色の補彩を行うことができる。
【0024】
(補彩工程:ST5)
図1のように、欠損部1を有する絵画に裏打ちを行う場合、欠損部修復データをプリントした裏打ち材Bを貼付した後、絵具層側から欠損部1の輪郭部分に色を入れて、欠損部1が目立たないようにする処理を施すこともできる。
【0025】
(画像データ取得工程の前工程:ST0)
前記画像データ取得工程の前工程として、絵画の平面化処理を行う平面化処理工程及び/又は絵画の表面の汚れを落とすクリーニングを行うクリーニング工程を設けることが好ましい。
【0026】
平面化処理工程は、絵画の歪みやたるみ、及び/又は絵画の亀裂に伴う変形を解消して画面の平面性を回復することを目的とする工程である。例えば、絵画に湿気を与えて、絵具層に発生した多数の亀裂や支持体を平らにする方法を採用することができる。
例えば、支持体としてキャンバスを用いた油彩画を対象とする場合、面ファスナを用いてなるベルト状部材とキャンバスを保持する保持部材とを有する保持ベルトをキャンバスの外縁に取り付ける工程と、前記キャンバスを配置できる空間を有する枠体の前記空間に、前記保持ベルトを取り付けたキャンバスを配置する工程と、前記保持ベルトを前記枠体に設置する工程と、前記枠体を低ガス透過性のシート材で被覆して、前記枠体の下方に閉空間を形成し、該閉空間を加湿して80%RH以上のピーク湿度まで昇湿する工程と、前記ピーク湿度に達した後、加湿を停止し、前記保持ベルトの貼付位置を微調整しながら、前記キャンバスを前記閉空間内で2〜5時間、放置する工程と、前記シート材を取り除いた後、前記保持ベルトを前記放置する工程と同位置に保持した状態で、前記キャンバスを6〜12時間、自然乾燥する工程からなる平面化処理工程を例示することができる。
また、支持体として紙、和紙を用いた水彩画や、支持体として絹を用いた絹絵を対象とする場合、支持体である紙、和紙又は絹を、加湿して仮張りに張り、自然乾燥させて平面化処理を行う平面化処理工程を例示する事ができる。
【0027】
クリーニング工程は、表面の埃の除去やニスの除去を行うことを目的とする工程である。
作品に応じて、溶剤を用いずに乾式でクリーニングを行う方法、あるいは、溶剤を調合してクリーニングを行う方法から最適な方法を採用することができる。乾式のクリーニングでは、筆やスポンジを用いて取れる汚れを除去する。溶剤を調合して行うクリーニングでは、表面の汚れやニスを除去することができる。
クリーニングにより、オリジナルの色調や形を回復させることができる。変色した補彩や付着物の除去などを行うこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、油彩画のキャンバスが欠損した作品、水彩画の紙や和紙や絹が欠損した作品及び/又は絵具が退色した作品及び/又は絵具が剥落した作品の修復に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 欠損部
2 退色部
3 画像データ
4 全画面修復データ
5 欠損部修復データ
10 デジタル修復データ生成装置
11 CPU
12 RAM
13 ROM
14 HDD
15 操作パネル
16 画像データ取得部
17 画像形成部
18 通信I/F
【要約】
【課題】修復作業の時間を短縮することができる絵画の修復方法の提供を目的とする。本発明は、また、修復家の技量によるバラつきを抑制することができる絵画の修復方法の提供。
【解決手段】退色、剥落、欠損の少なくとも何れかを含む劣化が生じた劣化部を有する絵画の画像データを取得する工程と、コンピュータを用いたデジタルシュミレーションにより、前記画像データの前記劣化部を修復したデジタル修復データを生成する工程と、前記デジタル修復データを、インクを用いて、絵画の裏打ち材にプリントする工程と、前記プリント後の裏打ち材を絵画の裏面に積層する工程、を有する絵画の修復方法。
【選択図】
図1