(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高融点化剤配置工程において、前記高融点化剤を有する液体を前記種結晶の前記凹凸表面に供給する請求項1〜5のいずれかに記載のシリコンインゴットの製造方法。
表面が凹凸表面とされておりシリコン種結晶からなる種結晶層と、前記凹凸表面から延びる複数の結晶粒からなる多結晶シリコンと、前記多結晶シリコンと前記種結晶層との間に介在するとともに前記シリコン種結晶よりも融点が高い高融点部とを有することを特徴とするシリコンインゴット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るシリコンインゴット及びその製造方法について詳細に説明する。
【0014】
シリコンインゴットの製造方法は、種結晶配置工程と、高融点化剤配置工程と、原料配置工程と、成長工程と、を有する。
【0015】
種結晶配置工程では、坩堝の底面に、シリコン種結晶を配置して、凹凸表面を有する種結晶層を形成する。種結晶層の表面は凹凸表面であるので、成長工程において、凹凸表面から粒界間ピッチの小さい結晶粒が成長する。粒界間ピッチの小さい結晶粒では、転位が発生しにくいため、転位密度の増加を抑制できる。また、結晶粒界がランダム粒界となる場合が多く、結晶粒界から転位が発生しにくく、また転位が結晶粒内を伝播しにくい。したがって、転位の少ないシリコンインゴットを得ることができる。
【0016】
シリコン種結晶はシリコン粒子からなるとよい。種結晶層は、複数のシリコン粒子を敷設した種結晶集合層であるとよい。複数のシリコン粒子を坩堝底面に敷設すると、表面にシリコン粒子の形状を反映した凹凸表面を有する種結晶層が形成される。即ち、シリコン粒子間は凹凸表面の凹部となり、シリコン粒子の存在する部分は凹凸表面の凸部となる。
【0017】
シリコン粒子の形状は、球状、長尺状、扁平状などがあるが、好ましいのは球状である。球状のシリコン粒子は、坩堝底面に敷き詰めることで、表面のどの部分も等しく成長核となり得る。このため、粒界間ピッチの小さい結晶粒が同時に成長し、一方向に延びる複数の結晶粒からなる多結晶が生成される。各結晶粒間のピッチは小さいため、各結晶粒に大きな転位が発生しにくく、多結晶全体の転位発生を抑制できる。複数のシリコン粒子は互いに接触させて敷き詰めると良い。
【0018】
シリコン粒子がどのような形状であるかにかかわらず、シリコン粒子の最大直径は、0.2mm〜1cmがよく、0.5mm〜5mmが好ましく、更に、0.7mm〜3mmが望ましい。シリコン粒子の最大直径は、成長したインゴットの転位密度を蛍光イメージング法などにより計測することにより測定される。シリコン粒子の最大直径が過大である場合には、成長する結晶粒が大きくなり、結晶粒に転位が発達しやすく、転位密度が大きくなるおそれがある。シリコン粒子の最大直径が過小の場合には、シリコン粒子が取り扱いにくくなるおそれがある。
【0019】
シリコン種結晶がシリコン粒子からなる場合、種結晶層の凹凸表面の凹凸ピッチは、例えば、シリコン粒子の直径とほぼ同じとなり、凹凸表面の高低差はシリコン粒子の半径とほぼ同じとなる。例えば、種結晶層の凹凸表面の凹凸ピッチは、0.2mm〜1cmがよく、0.5mm〜5mmが好ましく、更に、0.7mm〜3mmが望ましい。凹凸表面の高低差は0.1mm〜0.5cmがよく、0.25mm〜2.5mmが好ましく、更に、0.35mm〜1.5mmが望ましい。
【0020】
シリコン粒子は、シリコンからなる粒子であればよく、例えば、単結晶からなる粒子であっても、多結晶からなる粒子であってもよい 。シリコン粒子は、例えば、FBR法、滴下法により作製することができる。FBR法とは流動床炉にシリコンの種結晶、シラン及び水素を注入し、種結晶を気流で巻き上げながら表面にシリコンを析出させて顆粒状のシリコンを得る方法である。滴下法は先端に微小な穴があいたノズルにシリコン融液を保持し、不活性ガスなどで周期的に加圧することで定量のシリコン融液を滴下させ、その過程で結晶化させる方法である。
【0021】
種結晶集合層は、坩堝底に、複数のシリコン粒子を敷設することで形成される。種結晶集合層は、シリコン粒子を厚み方向で重ねることなくシリコン粒子を一層分敷き詰めた層であることが好ましい。これにより、種結晶集合層は、シリコン粒子1つ分の厚みとなる。このように薄い種結晶集合層であることにより、坩堝内に入れるシリコン原料を増やすことができ、製品部分を大きくすることができる。種結晶集合層は、シリコン粒子の1層分の薄い厚みであっても、成長工程の加熱時にその凹凸表面の形状を維持することができる。このため、種結晶集合層の凹凸表面から粒界間ピッチの小さい結晶粒が成長し、転位発生の抑制されたシリコンインゴットを製造できる。
【0022】
種結晶集合層は、シリコン粒子を1層分敷き詰めたものであってもよいが、2層、更には3層以上積み重ねたものであってもよい。
【0023】
また、シリコン種結晶は、凹凸表面を有するシリコン薄板であってもよい。この場合、種結晶層は、1又は2以上のシリコン薄板からなるとよい。シリコン薄板は、単結晶又は多結晶体のいずれでもよい。シリコン薄板の凹凸表面は、例えば、インゴットをマルチワイヤーによりスライスしたスライス痕により形成できる。シリコン薄板は、その1枚又は複数枚が坩堝底面の全体にわたって敷き詰められる。
【0024】
種結晶層の厚みは、0.2mm以上2cm未満がよく、更に、0.5mm以上1cm以下が好ましく、0.7mm以上5mm以下が望ましい。この場合には、坩堝内に入れられるシリコン原料又はシリコン融液を増やすことができ、製品部分の大きなシリコンインゴットを製造できる。
【0025】
高融点化剤配置工程は、種結晶層の凹凸表面に高融点化剤を配置する。加熱時に高融点化剤は種結晶シリコンよりも融点が高い高融点部を形成させる。高融点部が、高温時に多結晶シリコンと種結晶層との間に介在して、種結晶層の凹凸表面を被覆する。高温時に高融点部が溶けず固体状態を維持するため、種結晶層の凹凸表面形状が維持される。種結晶層の凹凸表面から粒界間ピッチの小さい結晶粒が成長するため、転位の発達を抑制できる。
【0026】
また、種結晶層が薄くても高温時に凹凸形状が維持される。このため、種結晶層を薄くすることができ、坩堝においてシリコン種結晶が占める体積を減少させることができる。坩堝内において、シリコン種結晶から成長する結晶粒の体積を増やすことができ、生産効率を高くすることができる。
【0027】
高融点化剤を種結晶層の凹凸表面に配置することで、成長工程において、種結晶層の凹凸表面に高融点部が形成される。少なくとも凹凸表面は高融点部により被覆される。シリコン原料の加熱温度を高くしても高融点部は溶融しにくい。また、原料配置工程において高温のシリコン融液を凹凸表面に配置した場合でも、種結晶層は高温のシリコン融液との間を高融点部で遮られる。このため、種結晶層は溶融しにくく、凹凸表面を保持できる。
【0028】
更に、成長工程において、シリコン種結晶の表面は、高融点部により被覆されることが好ましい。シリコン種結晶がシリコン粒子からなる場合には、シリコン粒子の表面が高融点部により被覆されていることが好ましい。この場合には、シリコン種結晶は更に溶融しにくくなる。シリコン原料加熱時にシリコン種結晶が高温に晒されても、シリコン種結晶は溶融しにくい。また、加熱時間が通常のシリコン原料の加熱時間より長くても、シリコン種結晶はその形状を保持できる。ゆえに、本発明のシリコンインゴットの製造方法によれば、従来よりも厳密な温度管理が必要ではなく、また高温かつ短時間でシリコン原料を加熱することが可能である。加熱時間を短くすることで、坩堝側壁からの不純物の混入も抑えることが可能である。
【0029】
高融点化剤としては、窒素を含む窒素含有化合物、ボロンを含むボロン含有化合物を用いることが可能である。この中、窒素含有化合物を用いるとよい。窒素含有化合物としては、窒化珪素(Si
3N
4)が好ましい。窒素はシリコンの粒成長に影響を及ぼさないためである。
【0030】
高融点化剤配置工程において、種結晶層の凹凸表面に高融点化剤を配置するために、高融点化剤の分散液を種結晶層の凹凸表面に供給することがよい。この場合には、高融点化剤を種結晶層の凹凸表面全体に均一に配置することができる。高融点化剤の分散液は、高融点化剤を水などの液体に分散又は溶かしたものである。高融点化剤の分散液を前記シリコン種結晶の前記凹凸表面に供給する具体的手法としては、噴霧、ハケ塗り、滴下などが挙げられる。
【0031】
高融点化剤が窒化珪素粉末である場合、窒化珪素粉末は水などの液体に分散する。窒化珪素粉末が液体に分散した分散液において、窒化珪素粉末の含有量は50〜400g/Lであることがよく、更に100〜350g/Lが好ましい。
【0032】
高融点化剤の分散液は、種結晶層の凹凸表面の全体に供給するとよい。種結晶層が複数のシリコン粒子を敷設した種結晶集合層である場合には、種結晶集合層の内部まで浸透する程度の十分な量の高融点化剤の分散液を供給するとよい。この場合には、シリコン種結晶の表面全体に均一に高融点化剤で被覆することができる。
【0033】
更に、高融点化剤が窒化珪素を有する場合には、分散液は、種結晶層の凹凸表面の全体に供給すると共に、種結晶層を配置している坩堝底面にまで浸透させるとよい。窒化珪素は坩堝壁面からのシリコンインゴットの剥離性をよくする性能も持ち合わせている。分散液を坩堝底面まで浸透させることにより、坩堝底面からのシリコンインゴットの剥離性もよくなる。
【0034】
原料配置工程では、高融点化剤を配置した種結晶層の凹凸表面に、シリコン融液又はシリコン原料を配置する。シリコン融液は、既に溶融状態にあるシリコンである。シリコン原料は、固体のシリコンであり、例えば、シリコン粉末又はシリコンブロックである。
【0035】
成長工程では、原料配置工程において種結晶層の凹凸表面に配置されたシリコン融液又はシリコン原料を用いて結晶粒を成長させる。
【0036】
原料配置工程において種結晶層の凹凸表面にシリコン原料が配置された場合には、シリコン原料は昇温中ないし加熱保持中において溶融し、シリコン融液となる。シリコン融液を冷却すると、種結晶側からシリコン結晶が成長する。
【0037】
成長工程において、シリコン原料の加熱は炉内で行うとよい。炉内の昇温時間は1〜5時間がよく、更に1.5〜4時間が好ましい。炉内の昇温速度は3〜15分/℃がよく、更に5〜10分/分が好ましい。
【0038】
シリコン原料の加熱保持時間は10分〜5時間がよく、30分〜2時間が好ましい。加熱保持時間が短すぎると、シリコン融液の生成が不十分となる。加熱保持時間が長すぎると、坩堝側壁からシリコン融液に不純物の混入が多くなるおそれがある。
【0039】
シリコン原料の加熱保持温度は、1200〜1600℃がよく、更に1250〜1500℃が好ましい。加熱保持温度が低すぎると、シリコン融液の生成が不十分となるおそれがある。加熱保持温度が高すぎると、種結晶層が溶融ないし分解するおそれがある 。
【0040】
原料配置工程において種結晶層の凹凸表面にシリコン融液を配置した場合にも、シリコン原料と同様に加熱保持を行うとよい。
【0041】
種結晶上に配置されたシリコン融液又はシリコン原料が溶融したシリコン融液は、その後冷却される。これにより、種結晶の凹凸表面から複数の結晶粒が成長して、シリコンインゴットが得られる。
【0042】
シリコン融液を冷却する冷却速度は0.5〜5℃/分がよく、更に1〜3.5℃/分が好ましい。結晶粒の成長速度は0.1〜1.0mm/分がよく、更に0.2〜0.5mm/分が好ましい。
【0043】
成長工程において、坩堝が配置されている炉の内部は、非酸化雰囲気がよい。たとえば、炉内に、アルゴン、窒素などを流通させるとよい。
【0044】
製造されたシリコンインゴットは、表面が凹凸表面とされておりシリコン種結晶からなる種結晶層と、凹凸表面から延びる複数の結晶粒からなる多結晶シリコンと、多結晶シリコンと種結晶層との間に介在するとともにシリコン種結晶よりも融点が高い高融点部とを有する。
【0045】
高融点部は、多結晶シリコンと種結晶層との間に介在しており、高融点部は種結晶シリコンよりも融点が高い。高融点部は、製造過程における加熱時に種結晶層の凹凸表面を維持させる。このため、種結晶層の凹凸表面から粒界間ピッチの小さい結晶粒が成長し、転位の発達を抑制できる。
【0046】
また、種結晶層の厚みを薄くしても、製造過程中の加熱時に種結晶層の溶融が抑えられる。このため、種結晶層を薄くすることができ、シリコンインゴットにおいて種結晶層が占める体積を減少させることができる。シリコンインゴットにおける製品部分の体積が増え、製品部分の収率を高くすることができる。
【0047】
高融点部は、種結晶シリコンの融点よりも高い融点をもつ。高融点部は、高融点化剤由来の化合物である。高融点部は、高融点化剤自体であってもよいし、高融点化剤の成分と、シリコン種結晶の成分であるシリコン(Si)とを含む化合物であってもよい。高融点部は、窒素含有部、又は/及びボロン含有部であることがよい。このうち、窒素含有部が好ましい。高融点化剤が窒素含有化合物である場合には、高融点部は、窒素とシリコンを含む化合物であるとよい。
【0048】
シリコン種結晶は、複数のシリコン粒子からなるとよい。そして、高融点部は、シリコン粒子の表面を被覆していることが好ましい。製造過程での加熱中にシリコン粒子の表面近傍の溶融を抑えることができ、シリコン粒子の形状を保持できる。
【0049】
高融点部は、網目構造を有することが好ましい。特に、高融点部は、シリコン種結晶の表面を網目状に被覆していることが好ましい。高融点部が網目構造をもつことにより、シリコン粒子と高融点点部間に発生する応力を緩和する効果が得られる。
【0050】
本発明のシリコンインゴットは、太陽電池材料に好適に用いられる。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
以下の方法によりシリコンインゴットを製造した。
【0052】
種結晶配置工程において、直径8cm、高さ15cmの有底円筒形状の坩堝を準備した。また、シリコン種結晶として、シリコン粒子粉末を準備した。シリコン粒子粉末は、直径1mmの複数の球状のシリコン粒子からなる。シリコン粒子粉末は、FBR法で得られたものである。
【0053】
図1に示すように、坩堝5の底面51上に複数のシリコン粒子2を配置した。複数のシリコン粒子2は、底面51上に1層分敷き詰めた。これにより、厚み1mmの種結晶層20を形成した。種結晶層20の表面は、凹凸表面21であり、シリコン粒子2間に凹部21aが、シリコン粒子2の存在部分に凸部21bが形成された。
【0054】
高融点化剤配置工程において、高融点化剤としての窒化珪素粉末を含む分散液を準備した。分散液は、窒化珪素(Si
3N
4)、ポリビニルアルコール、及び水からなる。分散液の成分比は、Si
3N
4:ポリビニルアルコール:水=150g:150ml:325mlであった。
【0055】
分散液を種結晶層20の凹凸表面21の全体にスプレー掛けした。分散液が種結晶層20の底部51まで十分に浸透する程度に、種結晶層20の凹凸表面21にスプレー掛けした。これにより、種結晶層20の凹凸表面21に窒化珪素粉末1を配置した。シリコン粒子表面の窒化珪素粉末の重量は0.06mg/mm
2であった。また、坩堝の側壁にも分散液をスプレー掛けした。
【0056】
原料配置工程において、種結晶層20の凹凸表面21に、シリコン原料3を配置した。シリコン原料3は、シリコンブロックである。凹凸表面21には、複数のシリコンブロックを配置した。
【0057】
成長工程において、坩堝を炉内に配置した。炉内にアルゴンガス及び窒素ガスを供給した。アルゴンガスの供給速度は3リットル/分とし、窒素ガスの供給速度は2リットル/分とした。炉昇温速度2〜15℃/分、昇温時間3時間の条件で炉内を加熱した。炉内の坩堝の温度を1470℃に1時間保持した。その後、炉内を冷却速度2℃/分で冷却した。炉内の温度が下降すると次第に結晶粒が種結晶層側から成長した。結晶粒の成長速度は0.3mm/分であった。
【0058】
得られたシリコンインゴットを
図3〜
図7に示した。
図3は、シリコンインゴットの縦断面写真であり、
図4は、シリコンインゴットの成長した結晶粒部分の水平断面写真である。
図5は、シリコンインゴットの裏面の写真である。
図6は、シリコンインゴットの縦断面のエッチピット像を示す図であり、
図7は、シリコンインゴットの底部近傍の水平断面のエッチピット像を示す図である。
【0059】
図3、
図4に示すように、結晶層からz方向に多数の結晶粒が成長して多結晶シリコンが形成された。結晶粒の粒界間ピッチは1〜5mmであった。
図3には、シリコンインゴットの底部の種結晶層が切断除去されていて、種結晶層は撮影されていない。
【0060】
図5に示すように、シリコンインゴットの底部にはシリコン粒子1層分の種結晶層が存在していた。
図6、
図7に示すように、結晶粒には転位が殆ど生成しなかった。粒界はランダム粒界であり、粒界を挟んで隣合う結晶粒間では、転位は引き継がれず、大きな転位は発生しなかった。
【0061】
シリコンインゴットの底部に残ったシリコン粒子表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で撮影した写真を
図8に示した。
図8は、シリコンインゴット成長後のシリコン粒子表面のSEM像であり、シリコン粒子の表面には、網目構造が形成されていた。網目構造の穴の大きさは1〜10μmであった。
【0062】
シリコンインゴット製造に用いる前のシリコン粒子及び、シリコンインゴット製造後にシリコンインゴットの底部に残る種結晶のシリコン粒子の表面の元素分析を走査型電子顕微鏡装置(製造会社:日本電子株式会社、商品名:JSM7001FA)に付属するエネルギー分散型X線分光装置で行った。各シリコン粒子の最表面から数μmの深さまでの表層に含まれる全元素を100%としたときのC、N、O、Siの組成比を測定した。n数は、それぞれ3とし、これらの平均値をもとめた。その結果を、表1及び表2に示した。表1は、シリコンインゴット製造に用いる前のシリコン粒子の表面の元素分析結果を示し、表2は、シリコンインゴット製造後にシリコンインゴットの底部に残る種結晶のシリコン粒子の表面の元素分析結果を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
製造前のシリコン粒子の表面には、窒素(N)は検出されなかったが、製造後のシリコン粒子の表面には窒素が検出され、シリコン(Si)の配合比が製造前よりも減少していた。このことから、製造されたシリコンインゴットにおいて、シリコン粒子表面に形成された網目構造は、窒素を含有する高融点層であることがわかった。
【0066】
図2に示すように、製造したシリコンインゴット4の底部にシリコン粒子2が残っていた。シリコン粒子2の表面は、網目構造の窒素含有部10により被覆されていた。窒素含有部10は成長工程での高温時にも溶融しない高融点部である。窒素含有部10でシリコン粒子2が被覆されているため、シリコン粒子2がその形状を維持し続けることができた。このため、シリコン粒子2を1層分しか敷いていないにもかかわらず、種結晶層20はその形状を維持し続けることができ、その後の冷却時の粒成長時の成長核の役割を果たすことができた。ゆえに、種結晶層20から粒界間ピッチの小さい多数の結晶粒31が成長して、転位発生が抑制された。また、種結晶層20を薄くすることができ、坩堝5において種結晶層20が占める体積を減少させることができた。シリコンインゴット4において、シリコン多結晶30の体積を増やすことができた。
【0067】
高融点化剤配置工程において、高融点化剤の分散液は、種結晶層の内部に浸透させて坩堝の底面にまで至らしている。また、分散液は坩堝の側壁にもスプレー掛けして高融点化剤を側壁にも配置している。本実施例で用いた高融点化剤は窒化珪素である。窒化珪素は剥離作用がある。このため、シリコンインゴットを坩堝から剥離しやすくなった。坩堝の底面に予め窒化珪素を配置することなく、種結晶層配置後に窒化珪素を種結晶層の凹凸表面から浸透させて底面に至らしめることで、シリコンインゴットの剥離性がよくなり、且つ非常に薄い厚みの種結晶層でシリコン多結晶の転位発生を抑制できた。
【0068】
<加熱試験>
シリコンインゴットの底部に残った種結晶層について加熱試験を行った。加熱試験では、1470℃で種結晶層を加熱した。加熱試験は、シリコンインゴットから種結晶層を切断して取り出した。取り出した種結晶層片を各種温度で加熱した。その結果、1470℃までの温度に曝しても、種結晶層においてシリコン粒子を被覆している窒素含有部は溶融ないし分解しなかった。しかも、シリコン粒子もその形状を保持した。
【0069】
シリコンインゴットの製造過程において、成長工程で曝される一般の加熱温度は1450〜1500 ℃である。上記の試験結果より、窒素含有部は、一般の加熱温度に曝されても分解ないし溶融しないことが明らかになった。
【0070】
(比較例1)
比較例1のシリコンインゴットの製造方法は、種結晶配置工程及び高融点化剤配置工程を行わない点が、実施例1と相違する。即ち、比較例1では、シリコン種結晶を坩堝底に配置しなかった。そして、実施例1と同様に、シリコン原料配置工程及び成長工程を行って、シリコンインゴットを得た。
【0071】
得られたシリコンインゴットを
図9〜
図11に示した。
図9は、シリコンインゴットの縦断面写真であり、
図10は、シリコンインゴットの縦断面のエッチピット像を示す図であり、
図11は、シリコンインゴットの水平断面のエッチピット像を示す図である。
【0072】
図9に示すように、成長した結晶粒の粒界間ピッチは、3〜12mmであった。
図9に示される比較例1のシリコンインゴットと
図3に示される実施例1のシリコンインゴットとを比較すると、種結晶を用いずに製造されたシリコンインゴットの粒界間ピッチが、種結晶を用いた実施例1のシリコンインゴットの粒界間ピッチよりも大きかった。種結晶を用いることで、結晶粒の粒界間ピッチが小さくなることがわかった。
【0073】
図10,
図11と
図6,
図7を比較すると、種結晶を用いて作製された実施例1のシリコンインゴットは、種結晶を用いずに作製された比較例1のシリコンインゴットに比べて、転位が少なかった。なお、
図10に示される斜線は、双晶粒界である。