特許第6562460号(P6562460)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NECプラットフォームズ株式会社の特許一覧 ▶ 日本電気株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6562460-等化装置及び等化方法 図000002
  • 特許6562460-等化装置及び等化方法 図000003
  • 特許6562460-等化装置及び等化方法 図000004
  • 特許6562460-等化装置及び等化方法 図000005
  • 特許6562460-等化装置及び等化方法 図000006
  • 特許6562460-等化装置及び等化方法 図000007
  • 特許6562460-等化装置及び等化方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562460
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】等化装置及び等化方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/10 20060101AFI20190808BHJP
   H03H 15/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   H04B3/10 C
   H03H15/00
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-209669(P2015-209669)
(22)【出願日】2015年10月26日
(65)【公開番号】特開2017-85267(P2017-85267A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100147809
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 順一
(72)【発明者】
【氏名】宮 勲
(72)【発明者】
【氏名】永井 大介
(72)【発明者】
【氏名】井倉 裕之
【審査官】 岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−060451(JP,A)
【文献】 特表2004−519971(JP,A)
【文献】 特開2000−332658(JP,A)
【文献】 特開平03−250818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/06
H04B 1/16
H04B 1/69−1/719
H04B 1/76−3/44
H04B 3/50−3/60
H04B 7/005−7/015
H03H 15/00−15/02
H03H 19/00−21/00
H04L 1/00
H04L 1/08−1/24
H04L 5/00−5/12
H04L 27/00−27/38
H04J 1/00−1/20
H04J 4/00−13/22
H04J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のフィルタ係数とシンボルパターンを使用して、シンボルが抽出された受信信号の等化処理を行う判定帰還型等化部と、
前記判定帰還型等化部の等化処理により得られた等化結果と前記シンボルの候補との距離を演算する距離計算部と、
前記距離計算部で演算された距離から前記フィルタ係数を演算する係数計算部と、
前記シンボルパターンと前記フィルタ係数のフィードバック制御を行うと共に、前記演算された距離の累積距離から尤度判定を行って判定結果を出力する最尤系列推定処理部と、
を有することを特徴とする等化装置。
【請求項2】
前記判定帰還型等化部は、
前記シンボルを保存する複数の前方レジスタと、前記前方レジスタの値に対して所定の演算処理を行うために使用する前方フィルタ係数をそれぞれ保存する複数の前方フィルタ係数設定部を有する前方等化部と、
前記シンボルパターンをそれぞれ保存する複数の後方レジスタと、前記後方レジスタの値に対して所定の演算処理を行うために使用する後方フィルタ係数をそれぞれ保存する複数の後方フィルタ係数設定部を有する後方等化部と、
を有し、
前記前方等化部の出力結果と前記後方等化部の出力結果との和を前記等化結果として出力することを特徴とする請求項1に記載の等化装置。
【請求項3】
前記最尤系列推定処理部は、
前記距離計算部で演算された距離と、前記係数計算部で演算されたフィルタ係数がそれぞれ与えられ、かつ複数の帰還シンボルパターンを保存し、
前記フィルタ係数を前記前方フィルタ係数設定部と前記後方フィルタ係数設定部にそれぞれフィードバックすることにより前記前方フィルタ係数と前記後方フィルタ係数をそれぞれ更新し、
前記帰還シンボルパターンを前記後方レジスタにそれぞれフィードバックすることにより前記後方レジスタのシンボルパターンをそれぞれ更新することを特徴とする請求項2に記載の等化装置。
【請求項4】
前記最尤系列推定処理部は、
最尤系列推定を用いて全てのシンボルパターンについて等化処理した結果の内、各シンボルパターンの理想信号点と受信信号点との距離の累積値が最も小さいものを前記シンボルパターンとして選択する最小距離判定部を有することを特徴とする請求項3に記載の等化装置。
【請求項5】
前記判定帰還型等化部は、
新たに受信信号を等化処理する場合に、直前に判定したシンボルパターンと反対極性となるシンボルパターンに繋がるパスを全て破棄して、残ったパスに前記新たな信号の想定される理想信号点を繋いで新しいパスの系列を生成して等化処理を行う際に、想定される全理想信号点ではなく、前記理想信号点と受信信号点との距離に応じて選択した信号点についてのみパスを生成して前記等化処理を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の等化装置。
【請求項6】
判定帰還型等化部の受信信号のシンボルパターンをトラッキングモードで処理し、
最尤系列推定を用いて、複数の候補点をトラッキングし、
複数のシンボルパターンのトラッキング結果のうち、理想信号点との平均誤差が最も小さいものを選択することにより、前記受信信号の等化処理を行うことを特徴とする等化方法。
【請求項7】
前記判定帰還型等化部のフィードバックレジスタのシンボルパターンを複数用意し、前記フィードバックレジスタのフィルタ係数及び前記等化部の出力値と理論値との累積距離とをセットとして保存し、
前記シンボルパターンのフィルタ係数を使用して前記等化部の出力を計算し、
前記判定帰還型等化部の出力と前記理想信号点の距離を累積距離に加算して前記フィルタ係数を更新し、
全てのシンボルパターンに対する計算完了後、最も小さい累積距離のシンボルパターンを選択して、前記フィードバックレジスタに最も古いシンボルパターンを出力することを特徴とする請求項6に記載の等化方法。
【請求項8】
所定のシンボルパターンより前のシンボルパターンを、このシンボルパターンより前の二乗距離の和を使用して硬判定することによって、トラッキングパターン数を一定数に抑えることを特徴とする請求項6又は7に記載の等化方法。
【請求項9】
前記判定帰還型等化部の受信信号は、既知トレーニングデータと伝送データで構成されるフレームの変調波であり、
前記既知トレーニングデータのシンボル部分は候補点の数を一つに絞るトレーニングモードで処理され、
前記伝送データのシンボル部分は、前記トラッキングモードで処理され、前記最尤系列推定を用いて複数の候補点をトラッキングすることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の等化方法。
【請求項10】
前記最尤系列推定を用いることにより、移動体通信のマルチパスフェージング環境下での遅延を抑制することを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載の等化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等化装置及び等化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信におけるマルチパスによる遅延波の影響を抑える方法として、判定帰還型等化器(DFE: Decision Feedback Equalizer)が挙げられる。
【0003】
通常、判定帰還型等化器は、入力信号をフィルタリングする前方等化器(Feed-forwardフィルタ)と、判定帰還値をフィルタリングする後方等化器(Feed-backフィルタ)を有する。
【0004】
トレーニング信号もしくは判定帰還値と判定帰還型等化器の出力信号から誤差を計算し、それを用いて、LMS(Least Mean Square)やRLS(Recursive Least Square)などの適応処理アルゴリズムにより各フィルタの係数を更新し、徐々に収束させる。
【0005】
最初は、既知のトレーニングシンボルを用いて各フィルタの係数を収束させ、その後は、データシンボルの判定帰還値でチャネルの変動に対するトラッキングを行う。
【0006】
これに関連する技術として、例えば、特開2012−60451号公報(特許文献1)、特開平5−335893号公報(特許文献2)、IEEE Transactions on Consumer Electronics, Vol. 42, No. 3. (非特許文献1)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−60451号公報
【特許文献2】特開平5−335893号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kim, D.W. ; Han, S.H.; Eun, M.S.; Choi, J.S.著、「An adaptive decision feedback equalizer using error feedback」IEEE Transactions on Consumer Electronics, Vol. 42, No. 3. 1996年8月、p 468 - 477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記従来技術では、電波状況が悪く、マルチパス間の遅延が大きい場合、トレーニング等化後のブラインド等化段階で、判定帰還型等化器の等化結果にバーストエラーが発生する影響で受信性能が落ちるという問題がある。
【0010】
その理由は、以下の通りである。
つまり、等化処理の途中でバーストエラー(1回の硬判定結果の誤り)が起こると、判定帰還値と出力信号の誤差計算結果が誤ってしまう。この結果、各フィルタの係数がずれる方向に更新されてしまい、さらに次の出力信号も誤りエラーが連鎖して発生するためである。
【0011】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するための技術を提供するものである。その目的は、受信環境が高速で変化する状況下でも、バーストエラーによるエラーの連鎖を抑えて伝送効率を向上することが可能な等化装置及び等化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る一態様の等化装置は、
所定のフィルタ係数とシンボルパターンを使用して、シンボルが抽出された受信信号の等化処理を行う判定帰還型等化部と、
前記判定帰還型等化部の等化処理により得られた等化結果と前記シンボルの候補との距離を演算する距離計算部と、
前記距離計算部で演算された距離から前記フィルタ係数を演算する係数計算部と、
前記シンボルパターンと前記フィルタ係数のフィードバック制御を行うと共に、前記演算された距離の累積距離から尤度判定を行って判定結果を出力する最尤系列推定処理部と、
を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る一態様の等化方法は、
判定帰還型等化部の受信信号のシンボルパターンをトラッキングモードで処理し、
最尤系列推定を用いて、複数の候補点をトラッキングし、
複数のシンボルパターンのトラッキング結果のうち、理想信号点との平均誤差が最も小さいものを選択することにより、前記受信信号の等化処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、受信環境が高速で変化する状況下でも、バーストエラーによるエラーの連鎖を抑えて伝送効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態が適用される移動体通信システムの全体構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態の伝送フレームの一例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態の等化部の構成を示す図である。
図4】本発明の実施の形態の候補点の絞り込み方式を示す図である。
図5】本発明の実施の形態の二乗距離の計算とノードの追加方式を示す図である。
図6】本発明の実施の形態の最小距離パスの選択方式を示す図である。
図7】本発明の実施の形態の動作について説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
最初に、図1を参照して、本発明の実施の形態が適用される移動体通信システム100の全体構成について説明する。
【0018】
図1に示すように、移動体通信システム100は、アンテナ10、A/D変換部11、同期検出・シンボル抽出部12、等化部13及び復調部14を有する。
【0019】
ここで、A/D変換部11は、アンテナ10より受信したアナログ受信信号をデジタルに変換する。同期検出・シンボル抽出部12は、デジタル受信信号より同期シンボルを検出し、フレーム抽出を行う。等化部13は、マルチパスフェージング信号から遅延等化処理を行う。復調部14は、等化処理された信号の復調を行う。
【0020】
尚、等化部13に入力されるデータは、図2に示すように、既知トレーニングデータと伝送データで構成されるフレームの変調波である。
【0021】
次に、図3を参照して、本発明の実施の形態に係る等化部13の構成について説明する。
【0022】
図3に示すように、等化部13は、判定帰還型等化部(DFE部)31、距離計算部32、係数計算部33及びMLSE(Maximum Likelihood Sequence Estimation:最尤系列推定)処理部34を有する。
【0023】
ここで、判定帰還型等化部31は、シンボル抽出された信号の等化処理を行う。距離計算部32は、判定帰還型等化部31と等化結果とシンボル候補との距離を演算する。係数計算部33は、距離計算部32で演算された距離から判定帰還型等化部31の係数を演算する。MLSE処理部34は、判定帰還型等化部(DFE部)31の帰還シンボルパターンとフィルタ係数の制御や距離の累積結果から尤度判定を行い、等化結果を出力する。
【0024】
このように、判定帰還型等化部31は、所定のフィルタ係数とシンボルパターンを使用して、シンボルが抽出された受信信号の等化処理を行う。距離計算部32は、判定帰還型等化部31の等化処理により得られた等化結果とシンボルの候補との距離を演算する。係数計算部33は、距離計算部32で演算された距離からフィルタ係数を演算する。MLSE処理部34は、シンボルパターンとフィルタ係数のフィードバック制御を行うと共に、演算された距離の累積距離から尤度判定を行って判定結果を出力する。
【0025】
ここで、判定帰還型等化部31は、前方等化部301と後方等化部302を有する。
【0026】
前方等化部301は、シンボルを保存する複数の前方レジスタ(Feed-forwardレジスタ)303と、前方レジスタ303の値に対して所定の演算処理(乗算処理)を行うために使用する前方フィルタ係数(P1〜PL)をそれぞれ保存する複数の前方フィルタ係数設定部304を有する。
【0027】
一方、後方等化部302は、シンボルパターンをそれぞれ保存する複数の後方レジスタ(Feed-backレジスタ)305と、後方レジスタ305の値に対して所定の演算処理(乗算処理)を行うために使用する後方フィルタ係数(PL+N〜PL+1)をそれぞれ保存する複数の後方フィルタ係数設定部306を有する。
【0028】
このような構成の下、判定帰還型等化部31は、前方等化部301の出力結果と後方等化部302の出力結果との和(Σ)を等化結果として出力する。
【0029】
また、MLSE処理部34は、距離計算部32で演算された距離と、係数計算部33で演算されたフィルタ係数がそれぞれ与えられ、複数の帰還シンボルパターンを保存する。
【0030】
ここで、係数計算部33で演算されたフィルタ係数は、係数セットとして係数セット設定部307に保存される。また、複数の帰還シンボルパターンは、帰還シンボルパターン(FBパターン)としてFBパターン設定部308に保存される。また、距離計算部32で演算された距離は、累積距離として累積距離セット設定部309に保存される。
【0031】
このような構成の下、フィルタ係数を前方フィルタ係数設定部304と後方フィルタ係数設定部306にそれぞれフィードバックすることにより、前方フィルタ係数と後方フィルタ係数をそれぞれ更新する。
【0032】
さらに、帰還シンボルパターンを後方レジスタ305にそれぞれフィードバックすることにより、後方レジスタ305のシンボルパターンをそれぞれ更新する。
【0033】
さらに、MLSE処理部34は、最小距離判定部310を有する。最小距離判定部310は、最尤系列推定を用いて全てのシンボルパターンについて等化処理する。この等化処理の結果の内、各シンボルパターンの理想信号点と受信信号点との距離の累積値が最も小さいものをシンボルパターンとして選択する。
【0034】
また、判定帰還型等化部31は、新たに受信信号を等化処理する場合に、直前に判定したシンボルパターンと反対極性となるシンボルパターンに繋がるパスを全て破棄する。そして、残ったパスに前記新たな信号の想定される理想信号点を繋いで新しいパスの系列を生成して等化処理を行う。この際に、想定される全理想信号点ではなく、前記理想信号点と受信信号点との距離に応じて選択した信号点についてのみパスを生成して等化処理を行う。
【0035】
次に、本発明の実施の形態に係る等化部13の動作について説明する。
【0036】
等化部13に入力されるデータは、図2に示すように、既知トレーニングデータと伝送データで構成されるフレームの変調波である。
【0037】
受信フレームの既知トレーニングシンボル部分はトレーニングモード(図7のR1参照)で処理される。この処理は、一般的な判定帰還型等化器の動作と同等である。具体的には、候補点の数を一つに絞り、等化結果と既知のトレーニングシンボルの誤差を計算して、係数を更新する。
【0038】
一方、受信フレームの伝送データシンボル部分は、トラッキングモード(図7のR2参照)で処理され、最尤系列推定を用いて、複数の候補点をトラッキングする。
【0039】
図3に示すように、MLSE処理部34に、後方レジスタ(Feed-backレジスタ)305にフィードバックされるシンボルパターン(FBパターン)を複数用意してFBパターン設定部308に保存する。また、それぞれのフィルタ係数を係数セットとして係数セット設定部307に保存する。さらに、判定帰還型等化部31の出力と理想信号点の累積距離を累積距離セット設定部309に保存する。このように、MLSE処理部34は、シンボルパターン(FBパターン)、フィルタ係数及び累積距離をセットで保存する。
【0040】
そして、等化部13に入力シンボルが入り、前方レジスタ(Feed-forwardレジスタ)303が更新され、MLSE処理部34にて各シンボルパターンのフィルタ係数を設定する。そして、前方レジスタ(Feed-forwardレジスタ)303と後方レジスタ(Feed-backレジスタ)305の値を利用して、判定帰還型等化部31の出力を計算する。
【0041】
次に、距離計算部32で判定帰還型等化部31の出力と理想信号点の距離を計算する。そして、距離計算部32で計算された距離を利用して、係数計算部33で適応処理アルゴリズムにより各フィルタの係数を更新する。
【0042】
具体的には、前方フィルタ係数設定部304及び後方フィルタ係数設定部306に保存された係数が更新される。この場合、新しいフィルタ係数、シンボルパターン及び距離の累積結果はセットで更新される。
【0043】
全てのシンボルパターンについて計算を行った後、最も小さい累積距離のシンボルパターンを選択し、後方レジスタ(Feed-backレジスタ)305に最も古いシンボルを出力する。
【0044】
ただし、全シンボルパターンに対してトラッキングすると、計算が膨大になる。そこで、一定シンボルより前のシンボルパターンを、それまでの二乗距離の和を用いて硬判定する。これにより、トラッキングパターン数を一定数に抑える。
【0045】
次に、図4を参照して、本発明の実施の形態の候補点の絞り込み方式について説明する。
【0046】
図4に示すように、各シンボルパターンに対応するフィルタ係数(DFE係数)を利用して等化値を計算する。この場合、等化値に対する最近接理想信号点と、その次に近い理想信号点の2点を候補点(候補点1、候補点2)とする。
【0047】
次に、図5を参照して、本発明の実施の形態の二乗距離の計算とノードの追加方式について説明する。
【0048】
図5に示すように、等化値と候補点との距離の2乗をその二乗距離とする。二乗距離はその候補点が送信値と一致する対数尤度に比例する。ノード追加ごとに、そのパスの二乗距離合計値に新しい二乗距離を加算する。
【0049】
次に、図6(a)、(b)を参照して、本発明の実施の形態の最小距離パスの選択方式について説明する。
【0050】
図6(a)に示すように、各シンボルパターンの最近接候補点とこの候補点の二乗距離を計算して、累積のパスに追加する。
【0051】
最も二乗距離の合計値が小さいパスを選択し、最も小さいパスが存在しない方の半分(上半分又は下半分)のパスを破棄する。
【0052】
現在の等化値の最近接点と、その次の点で別々のノードを追加して、それぞれのパスを生成し、各シンボルパターンのフィルタ係数(DFE係数)を更新する。
【0053】
具体的には、図6(b)のフローチャートに示すように、最初に、最も二乗距離の合計値が小さいパスを選択する(S601)。
次に、最も小さいパスが存在しない方の半分(上半分又は下半分)のパスを破棄する(S602)。
次に、現在の等化値の最近接点と、その次の点で別々のノードを追加して、それぞれのパスを生成する(S603)。
最後に、次のシンボルに対し、各パス毎に等化処理を実施し、上記処理(S601〜S603)を繰り返し実施する(S604)。
【0054】
次に、図7のフローチャートを参照して、本発明の実施の形態の動作について説明する。
【0055】
最初に、入力シンボルが入り、前方レジスタ(Feed-forwardレジスタ)303が設定される(S701)。
次に、処理モードが、トレーニングモードが否かを判定する(S702)。
【0056】
トレーニングモード(R1)と判定された場合には、既知トレーニングシンボル(図2参照)で後方レジスタ(Feed-backレジスタ)305を設定・更新し、フィルタ係数が収束する方向に更新される。
【0057】
具体的には、既知トレーニングシンボル(図2参照)で後方レジスタ(Feed-backレジスタ)305を設定する(S703)。
次に、フィルタ係数(DFE係数)を設定する(S704)。
次に、等化結果を計算する(S705)。
次に、フィルタ係数(DFE係数)を更新する(S706)。
このようにして、トレーニングモード(R1)では、フィルタ係数が収束する方向に更新される。
最後に、等化結果を出力する(S707)。
【0058】
次に、(S702)で、処理モードが、トレーニングモード以外のトラッキングモード(R2)と判定された場合の処理について説明する。
【0059】
トレーニングモード以外のトラッキングモード(R2)では、後方レジスタ(Feed-backレジスタ)305のシンボルパターンを複数用意する。そして、全てのシンボルパターンの累積距離を計算する。その後、最も小さい累積距離のシンボルパターンを選択して候補点を更新し、次の計算に必要なフィルタ係数(DFE係数)を更新する。最後に、選択されたシンボルパターンを出力し、次の入力シンボルの処理に入る。トラッキング終了時は、残りのシンボルについて最も二乗距離が小さなパスの候補点を適用する。
【0060】
具体的には、シンボルパターンの対応パラメータで後方レジスタ(Feed-backレジスタ)305とフィルタ係数(DFE係数)を設定する(S708)。
【0061】
具体的には、MLSE処理部34は、距離計算部32で演算された距離と、係数計算部33で演算されたフィルタ係数がそれぞれ与えられ、複数の帰還シンボルパターンを保存する。
【0062】
係数計算部33で演算されたフィルタ係数は、係数セットとして係数セット設定部307に保存される。また、複数の帰還シンボルパターンは、帰還シンボルパターン(FBパターン)としてFBパターン設定部308に保存される。また、距離計算部32で演算された距離は、累積距離として累積距離セット設定部309に保存される。
【0063】
次に、等化結果を計算する(S709)。
次に、硬判定処理を行う(S710)。
次に、各シンボルルパターンの2乗距離を累積する(S711)。
次に、全シンボルルパターンの計算が完了したか否かを判定する(S712)。
【0064】
この判定の結果、全シンボルルパターンの計算が完了していない場合には、S708の処理に戻る。
この判定の結果、全シンボルルパターンの計算が完了している場合には、最小2乗距離のシンボルルパターンを選択する(S713)。
【0065】
次に、候補点を更新する(S714)。
次に、候補点のフィルタ係数(DFE係数)、後方レジスタ(Feed-backレジスタ)305等のパラメータを更新する(S715)。
【0066】
具体的には、フィルタ係数を前方フィルタ係数設定部304と後方フィルタ係数設定部306にそれぞれフィードバックすることにより、前方フィルタ係数と後方フィルタ係数をそれぞれ更新する。さらに、帰還シンボルパターンを後方レジスタ305にそれぞれフィードバックすることにより後方レジスタ305のシンボルパターンをそれぞれ更新する。
【0067】
次に、等化結果を出力する(S707)。
最後に、シンボル処理が完了したか否かを判定する(S716)。
【0068】
この判定の結果、シンボル処理が完了していなければ、S701の処理に戻る。
一方、この判定の結果、シンボル処理が完了していれば、処理は完了する。
【0069】
このように、本実施形態によれば、一般的な判定帰還型等化器の一回の判定誤りと比べて連鎖的なエラーの発生を抑え、より正確にシンボルを復元できる。
【0070】
なお、本実施形態では、トラッキングするシンボル数は1からフレームの全シンボルまで適用可能である。
【0071】
また、1シンボルの候補点の数も変調方式の最大シンボルパターンまで適用可能である。
【0072】
さらに、フレーム中トレーニングシンボルの位置は任意で、中間と後部に配置した場合、シンボルを逆順で適用可能である。
【0073】
上述のように、移動体通信において電波状況が悪い場合、判定帰還型等化器の等化結果はバーストエラーが発生する。等化処理の途中でバーストエラー(1回の硬判定結果の誤り)が起こると、判定帰還値と出力信号の誤差計算結果が誤ってしまう。この結果、各フィルタの係数が誤った値に更新され、さらに次の出力信号も誤り、エラーが連鎖して発生してしまう。
【0074】
そこで、本発明の実施形態では、移動体通信のマルチパスフェージングによる受信感度劣化を抑えるような構成を採用した。つまり、判定帰還型等化器の信号列を最尤系列を用いて推定する。そして、複数のシンボルパターンのトラッキング結果のうち、理想信号点との平均誤差が最も小さいものを選択する等化手段を備えた等化器として構成した。
【0075】
具体的には、上述のように、DFE方式のFeed-backレジスタのシンボルパターンを複数用意し、それぞれのフィルタ係数、DFE出力値と理論値の累積距離とセットで保存する。このような構成の下、Feed-forwardレジスタに入力シンボルが更新され、各シンボルパターンのフィルタ係数でDFE出力を計算し、出力と理想信号点の距離を累積距離に加算してフィルタ係数を更新する。全てのシンボルパターンが計算完了後、最も小さい累積距離のシンボルパターンの最も古いシンボルを出力する。
【0076】
ただし、全シンボルパターンに対してトラッキングすると、シンボルパターンの数が膨大になってしまう。そこで、一定シンボルより前のシンボルパターンを、それまでの二乗距離の和を用いて硬判定することによって、トラッキングパターン数を一定数に抑える構成とする。上記の構成により、バーストエラーが発生しづらく、発生しても連鎖的に誤ることを防ぐ遅延等化器を構成できる。
【0077】
この結果、本発明の実施形態では、判定帰還型等化器もしくは判定帰還型等化器の信号列を最尤系列を用いて推定することにより、マルチパスフェージング環境での遅延等化性能を改善する。
【0078】
さらに、本発明の実施形態によれば、特性・性能が向上するだけでなく、伝送効率も向上する。具体的には、受信環境が高速で変化する状況で、バーストエラーによるエラー伝搬を抑えて伝送効率が向上する。さらに、不安定な受信環境で、伝送誤り率が下がり信頼性が向上する。
【0079】
このように、本発明の実施形態によれば、一般的な判定帰還型等化器の一回の判定に比べて、エラーの発生を抑えることができる。その理由は、一定シンボルより前のシンボルパターンを用い、それまでの二乗距離の和を用いて硬判定を行うことで、より正確なシンボルを復元できるためである。
【0080】
さらに、本発明の実施形態によれば、連鎖的なエラー発生を抑えることができる。その理由は、一度判定を誤った場合にも、次のシンボルの判定時には複数の候補点の内、二乗距離の和からその都度判定を行うため、誤りに引きずられずにフィルタ係数を更新できるためである。
【0081】
ここで、上記MLSE処理部34は、コンピュータシステムのハードウェアとソフトウェアの組み合わせを用いて実現すればよい。また、このプログラムは、記録媒体に非一時的に記録されて頒布されても良い。当該記録媒体に記録されたプログラムは、有線、無線、又は記録媒体そのものを介してメモリーに読込まれ、プロセッサー等を動作させる。
【0082】
なお、実施形態及び/又は実施例を例示して本発明を説明した。しかし、本発明の具体的な構成は前述の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があってもこの発明に含まれる。例えば、上述した実施形態及び/又は構成例のブロック構成の分離併合、手順の入れ替えなどの変更は本発明の趣旨および説明される機能を満たせば自由であり、上記説明が本発明を限定するものではない。
【0083】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが以下には限られない。
【0084】
(付記1)
所定のフィルタ係数とシンボルパターンを使用して、シンボルが抽出された受信信号の等化処理を行う判定帰還型等化部と、
前記判定帰還型等化部の等化処理により得られた等化結果と前記シンボルの候補との距離を演算する距離計算部と、
前記距離計算部で演算された距離から前記フィルタ係数を演算する係数計算部と、
前記シンボルパターンと前記フィルタ係数のフィードバック制御を行うと共に、前記演算された距離の累積距離から尤度判定を行って判定結果を出力する最尤系列推定処理部と、
を有することを特徴とする等化装置。
【0085】
(付記2)
前記判定帰還型等化部は、
前記シンボルを保存する複数の前方レジスタと、前記前方レジスタの値に対して所定の演算処理を行うために使用する前方フィルタ係数をそれぞれ保存する複数の前方フィルタ係数設定部を有する前方等化部と、
前記シンボルパターンをそれぞれ保存する複数の後方レジスタと、前記後方レジスタの値に対して所定の演算処理を行うために使用する後方フィルタ係数をそれぞれ保存する複数の後方フィルタ係数設定部を有する後方等化部と、
を有し、
前記前方等化部の出力結果と前記後方等化部の出力結果との和を前記等化結果として出力することを特徴とする付記1に記載の等化装置。
【0086】
(付記3)
前記最尤系列推定処理部は、
前記距離計算部で演算された距離と、前記係数計算部で演算されたフィルタ係数がそれぞれ与えられ、かつ複数の帰還シンボルパターンを保存し、
前記フィルタ係数を前記前方フィルタ係数設定部と前記後方フィルタ係数設定部にそれぞれフィードバックすることにより前記前方フィルタ係数と前記後方フィルタ係数をそれぞれ更新し、
前記帰還シンボルパターンを前記後方レジスタにそれぞれフィードバックすることにより前記後方レジスタのシンボルパターンをそれぞれ更新することを特徴とする付記2に記載の等化装置。
【0087】
(付記4)
前記最尤系列推定処理部は、
最尤系列推定を用いて全てのシンボルパターンについて等化処理した結果の内、各シンボルパターンの理想信号点と受信信号点との距離の累積値が最も小さいものを前記シンボルパターンとして選択する最小距離判定部を有することを特徴とする付記3に記載の等化装置。
【0088】
(付記5)
前記判定帰還型等化部は、
新たに受信信号を等化処理する場合に、直前に判定したシンボルパターンと反対極性となるシンボルパターンに繋がるパスを全て破棄して、残ったパスに前記新たな信号の想定される理想信号点を繋いで新しいパスの系列を生成して等化処理を行う際に、想定される全理想信号点ではなく、前記理想信号点と受信信号点との距離に応じて選択した信号点についてのみパスを生成して前記等化処理を行うことを特徴とする付記1から付記4のいずれかに記載の等化装置。
【0089】
(付記6)
判定帰還型等化部の受信信号のシンボルパターンをトラッキングモードで処理し、
最尤系列推定を用いて、複数の候補点をトラッキングし、
複数のシンボルパターンのトラッキング結果のうち、理想信号点との平均誤差が最も小さいものを選択することにより、前記受信信号の等化処理を行うことを特徴とする等化方法。
【0090】
(付記7)
前記判定帰還型等化部のフィードバックレジスタのシンボルパターンを複数用意し、前記フィードバックレジスタのフィルタ係数及び前記等化部の出力値と理論値との累積距離とをセットとして保存し、
前記シンボルパターンのフィルタ係数を使用して前記等化部の出力を計算し、
前記判定帰還型等化部の出力と前記理想信号点の距離を累積距離に加算して前記フィルタ係数を更新し、
全てのシンボルパターンに対する計算完了後、最も小さい累積距離のシンボルパターンを選択して、前記フィードバックレジスタに最も古いシンボルパターンを出力することを特徴とする付記6に記載の等化方法。
【0091】
(付記8)
所定のシンボルパターンより前のシンボルパターンを、このシンボルパターンより前の二乗距離の和を使用して硬判定することによって、トラッキングパターン数を一定数に抑えることを特徴とする付記6又は付記7に記載の等化方法。
【0092】
(付記9)
前記判定帰還型等化部の受信信号は、既知トレーニングデータと伝送データで構成されるフレームの変調波であり、
前記既知トレーニングデータのシンボル部分は候補点の数を一つに絞るトレーニングモードで処理され、
前記伝送データのシンボル部分は、前記トラッキングモードで処理され、前記最尤系列推定を用いて複数の候補点をトラッキングすることを特徴とする付記6から付記8のいずれかに記載の等化方法。
【0093】
(付記10)
前記最尤系列推定を用いることにより、移動体通信のマルチパスフェージング環境下での遅延を抑制することを特徴とする付記6から付記9のいずれかに記載の等化方法。
【0094】
(付記11)
判定帰還型等化部の受信信号のシンボルパターンをトラッキングモードで処理するステップと、
最尤系列推定を用いて、複数の候補点をトラッキングするステップと、
複数のシンボルパターンのトラッキング結果のうち、理想信号点との平均誤差が最も小さいものを選択することにより、前記受信信号の等化処理を行うステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【0095】
(付記12)
前記判定帰還型等化部のフィードバックレジスタのシンボルパターンを複数用意し、前記フィードバックレジスタのフィルタ係数及び前記等化部の出力値と理論値との累積距離とをセットとして保存するステップと、
前記シンボルパターンのフィルタ係数を使用して前記等化部の出力を計算するステップと、
前記判定帰還型等化部の出力と前記理想信号点の距離を累積距離に加算して前記フィルタ係数を更新するステップと、
全てのシンボルパターンに対する計算完了後、最も小さい累積距離のシンボルパターンを選択して、前記フィードバックレジスタに最も古いシンボルパターンを出力するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする付記11に記載のプログラム。
【0096】
(付記13)
所定のシンボルパターンより前のシンボルパターンを、このシンボルパターンより前の二乗距離の和を使用して硬判定することによって、トラッキングパターン数を一定数に抑えることを特徴とする付記11又は付記12に記載のプログラム。
【0097】
(付記14)
前記判定帰還型等化部の受信信号は、既知トレーニングデータと伝送データで構成されるフレームの変調波であり、
前記既知トレーニングデータのシンボル部分は候補点の数を一つに絞るトレーニングモードで処理され、
前記伝送データのシンボル部分は、前記トラッキングモードで処理され、前記最尤系列推定を用いて複数の候補点をトラッキングすることを特徴とする付記11から付記13のいずれかに記載のプログラム。
【0098】
(付記15)
前記最尤系列推定を用いることにより、移動体通信のマルチパスフェージング環境下での遅延を抑制することを特徴とする付記11から付記14のいずれかに記載のプログラム。
【符号の説明】
【0099】
10 アンテナ
11 A/D変換部
12 同期検出・シンボル抽出部
13 等化部
14 復調部
31 判定帰還型等化部(DFE部)
32 距離計算部
33 係数計算部
34 MLSE(最尤系列推定)処理部
100 移動体通信システム
301 前方等化部
302 後方等化部
303 前方レジスタ(Feed-forwardレジスタ)
304 前方フィルタ係数設定部
305 後方レジスタ(Feed-backレジスタ)
306 後方フィルタ係数設定部
307 係数セット設定部
308 FBパターン設定部
309 累積距離セット設定部
310 最小距離判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7