特許第6562476号(P6562476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562476
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】フェライト系耐熱鋼とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20190808BHJP
   C22C 38/26 20060101ALI20190808BHJP
   C22C 38/32 20060101ALI20190808BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20190808BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/26
   C22C38/32
   C21D8/00 D
   C21D6/00 101A
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-502473(P2017-502473)
(86)(22)【出願日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2016055660
(87)【国際公開番号】WO2016136888
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2017年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-39185(P2015-39185)
(32)【優先日】2015年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】木村 一弘
(72)【発明者】
【氏名】澤田 浩太
(72)【発明者】
【氏名】九島 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】谷内 泰志
(72)【発明者】
【氏名】大場 敏夫
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−350076(JP,A)
【文献】 特開昭62−103345(JP,A)
【文献】 特開平06−010041(JP,A)
【文献】 特開2010−156011(JP,A)
【文献】 特開平02−267217(JP,A)
【文献】 特開2009−235466(JP,A)
【文献】 特開2012−140667(JP,A)
【文献】 特開平10−088291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 6/00− 6/04
C21D 8/00− 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.03〜0.15
Si:0〜0.8
Mn:0.1〜0.8
Cr:8.0〜11.5
Mo:0.2〜1.5
W:0.4〜3.0
B:0.002〜0.010
V:0.1〜0.4
Nb:0.02〜0.12
N:0.02〜0.10を含み、
残部:鉄および不可避的不純物からなるフェライト系耐熱鋼であって、
焼き戻しマルテンサイトの微細組織を有すると共に、
前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材に700℃で60MPaの応力を負荷した場合において、クリープ破断延びが16%以上で、クリープ破断絞りが28%以上のクリープ破断延性を有することを特徴とするフェライト系耐熱鋼。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト系耐熱鋼であって、前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材に700℃で50MPaの応力を負荷した場合、又は、650℃で90MPaの応力を負荷した場合において、クリープ破断延びが20%以上で、クリープ破断絞りが50%以上のクリープ破断延性を有することを特徴とするフェライト系耐熱鋼。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフェライト系耐熱鋼であって、さらに、質量%で、
Co:0.0〜2.0未満
Ta:0.05〜0.12
からなる群の元素から選ばれた少なくとも1つ以上含むことを特徴とするフェライト系耐熱鋼。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフェライト系耐熱鋼の製造方法であって、
(a) 前記化学組成からなるフェライト系耐熱鋼よりなる鋼材をオーステナイト化温度で溶体化熱処理する溶体化熱処理工程、
(b) 前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材を前記オーステナイト化温度から一部がマルテンサイト変態することにより、マルテンサイトと未変態オーステナイトの二相状態となる温度まで冷却する焼ならし工程、ここで当該二相状態温度はマルテンサイト変態開始温度(Ms)よりも低く、マルテンサイト変態終了温度(Mf)よりも高く定められていること、
(c) 当該二相状態温度から中間焼もどし熱処理温度まで加熱する工程、ここで当該中間焼もどし熱処理温度はマルテンサイト変態開始温度(Ms)よりも高く最終焼もどし熱処理温度よりも低く定められていること、
(d) 一旦、マルテンサイト変態終了温度(Mf)以下の温度まで冷却することにより、残りの未変態オーステナイト相をマルテンサイト変態させる工程、
及び、(e) 前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材の使用温度よりも高く定められた前記第2の最終焼もどし熱処理温度での最終焼もどし熱処理を行なう工程を有することを特徴とするフェライト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のフェライト系耐熱鋼の製造方法であって、
前記(a)の溶体化熱処理工程における前記オーステナイト化温度での熱処理温度は1030℃から1120℃の範囲であり0.5時間以上保持するものであることを特徴とするフェライト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のフェライト系耐熱鋼の製造方法であって、前記(b)の焼ならし工程における前記二相状態温度は240℃から400℃の範囲であることを特徴とするフェライト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか1項に記載のフェライト系耐熱鋼の製造方法であって、前記(b)の焼ならし工程における前記オーステナイト化温度から一部がマルテンサイト変態することにより、マルテンサイトと未変態オーステナイトの二相状態温度まで冷却する冷却速度は、マルテンサイト変態開始温度(Ms)まではフェライト相への変態を抑制できる程度に速く冷却し、マルテンサイト変態開始温度(Ms)から二相状態温度までは徐冷することを特徴とするフェライト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項8】
請求項4乃至7のいずれか1項に記載のフェライト系耐熱鋼の製造方法であって、前記(c)の二相状態温度から中間焼もどし熱処理温度まで加熱する工程における当該中間焼もどし熱処理温度は550℃から600℃の範囲であり1時間以上保持するものであることを特徴とするフェライト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項9】
請求項4乃至8のいずれか1項に記載のフェライト系耐熱鋼の製造方法であって、前記(e)の第2の最終焼もどし熱処理温度は730℃から800℃の範囲であり0.5時間から24時間保持するものであることを特徴とするフェライト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフェライト系耐熱鋼の使用方法であって、
蒸気温度が600℃級を超える火力発電所の発電設備に使用されることを特徴とするフェライト系耐熱鋼の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温に加熱されたフェライト鋼を水冷等により急冷して、マルテンサイト変態させた後、焼き戻し熱処理を行い、引張強度や耐摩耗性又は疲労強度やクリープ強度を向上させた高強度鋼とその製造方法に関し、特にクリープ強度と破断延性に優れたフェライト系耐熱鋼とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国ではエネルギー価格の上昇や京都議定書の発効を受けて、熱併給発電を行うコジェネレーション型のエネルギー供給システムを採用して、温室効果ガスを低減させることが行われている。他方で、発電のみを行う従来型火力発電では、蒸気温度と蒸気圧力を向上させることにより熱効率を高めた超々臨界圧(Ultra Super Critical)発電等の新技術が開発されてきたが、さらなる熱効率を高めるための新技術の開発が行われている(非特許文献1)。即ち、従来型発電の中では優れた熱効率である超々臨界圧発電では、蒸気温度は630℃程度が限界で、熱効率も42〜43%[送電端高位発熱量(HHV:Higher
Heating Value)]が原理的限界と言われてきた。しかしながら、近年の材料技術の進歩により700℃以上、蒸気圧力24.1MPa以上の蒸気条件を達成できる可能性が見えてきた。そこで、これらの材料を活用した先進超々臨界圧発電(A−USC)を開発し、エネルギーセキュリティの確保及びCO排出量の削減による環境適合を図ることが計画されている。
【0003】
A−USCは、蒸気温度700℃級で46%、750℃級で48%、800℃級で49%の高い熱効率(送電端HHV)の達成が可能な技術であり、2020年以降増大する経年火力発電のリプレース需要に対応するため、早急に技術開発を進める必要がある。この一環として、高温耐熱材料の開発が行われている(非特許文献2、3)。
なお、この高温耐熱材料は、用途として上述のA−USCに加えて、従来の蒸気温度600℃級のような火力発電用や各種のエネルギー供給設備に用いることができる。
【0004】
このような高温耐熱材料の一種として、例えば高強度フェライト耐熱鋼が知られている。そして、例えば非特許文献4では、高強度フェライト耐熱鋼の材料規格として、火STPA29(発電配管用合金鋼鋼管)および火STBA29(発電ボイラー用合金鋼鋼管)が掲げられている。また、このような材料規格の対応規格として、例えば非特許文献5が知られている。しかし、米国機械学会(ASME)ボイラ圧力容器規格においては、火STPA29および火STBA29の相当材であるGrade P92およびGrade T92は、クリープ破断延性の低下の程度が大きいため、現在の状況では本体規格への取入れが見合わされている。高温高圧の条件下で使用される構造部材の信頼性および安全性を維持するためには、クリープ破断延性の低下を抑制することが必要である。さらに、風力や太陽光発電等の再生可能エネルギーの普及に伴い、火力発電プラントには急激かつ頻繁な負荷変動運転が求められる。そのような負荷変動運転に伴う温度の変化は、熱膨張の繰返しにより高温構造部材の寿命を短くするが、クリープ破断延性を向上させることにより、熱膨張の繰返しによる寿命低下を抑制することもできる。
【0005】
即ち、高強度フェライト耐熱鋼は高温で優れたクリープ強度を有するが、長時間使用条件ではクリープ破断延性が大きく低下することが知られている。そのため、高温構造機器の安全性および信頼性を損なうことが懸念されている。クリープ破断延性が低下する原因としては、粗大な析出物や非金属介在物によるボイドの形成、不純物元素の影響等が考えられている。
【0006】
高強度フェライト耐熱鋼のクリープ強度を向上させる点に関しては、以下のような非特許文献6−9が知られているが、経年火力発電のリプレース需要に対応するための重要な特性であるクリープ破断延性に関しては、沈黙している。
即ち、非特許文献6では、加工熱処理を行うことにより、高強度フェライト耐熱鋼のクリープ強度を向上させることが記載してある。オーステナイト単相温度域で加工熱処理を行うことにより強化因子である第二相を微細分散析出させることによりクリープ強度を向上させるものだが、開示された熱処理の条件がクリープ破断延性を向上させるか明らかでない。
非特許文献7では、熱処理条件としてASTM標準の焼ならし温度よりも高くすると共に焼戻し温度を低くすることにより、高強度フェライト耐熱鋼のクリープ強度を向上させることが記載してある。通常よりも高い温度で焼ならし熱処理を行い、通常よりも低い温度で焼もどし熱処理を行うことにより、強化因子である第二相を微細分散析出させてクリープ強度を向上させるものだが、開示された熱処理の条件がクリープ破断延性を向上させるか明らかでない。
【0007】
非特許文献8では、Si−Mn鋼について、部分変態したマルテンサイトと未変態オーステナイトの間の組成分配が機械的性質に及ぼす影響を検討した結果が記載してある。マルテンサイトから未変態オーステナイトに炭素が移動して、高炭素オーステナイト相が残留オーステナイトとして残存することにより、強度−延性バランスを向上させるものだが、開示された熱処理の条件がクリープ破断延性を向上させるか明らかでない。
非特許文献9では、高強度フェライト耐熱鋼である改良9Cr−1Mo鋼について、マルテンサイトに部分変態させた後、室温まで冷却せずに、焼もどし熱処理を行うものである。本文献では強化因子である析出物のサイズを小さくし、マルテンサイトブロックのサイズを大きくすることにより、クリープ強度を向上させるものであるが、開示された熱処理の条件がクリープ破断延性を向上させるか明らかでない。
【0008】
他方、特許文献1、2では、Ti添加と通常よりも高温の焼ならし熱処理により、高強度フェライト耐熱鋼のクリープ強度を向上させることが提案されている。しかし、開示された高強度フェライト耐熱鋼の化学組成や熱処理の条件がクリープ破断延性を向上させるか明らかでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8246767号
【特許文献2】米国特許第8317944号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】次世代電力供給システムに係る技術に関する施策・事業評価報告書、産業構造審議会 産業技術分科会 評価小委員会 (第34回)配布資料、平成23年3月
【非特許文献2】火力発電材料の飛躍、NIMS NOW、第9巻7号、2009
【非特許文献3】高効率火力発電用耐熱材料の最近の動向、電気製鋼、第83巻1号、2012
【非特許文献4】発電用火力設備の技術基準の解釈(経済産業省 20130708商局第6号)、別表第一、備考21(発電配管用合金鋼鋼管)
【非特許文献5】ASME-SA335;SPECIFICATION FOR SEAMLESS FERRITIC ALLOY STEEL PIPE FOR HIGH TEMPERATURE;American Society of Mechanical Engineers (2013)
【非特許文献6】R. L. Klueh, et al.,Scripta Materialia, 53 (2005), pp.275-280.
【非特許文献7】Y. F. Yin, et al.,Energy Materials, Vol. 3, No. 4 (2008), pp.232-242.
【非特許文献8】E. De Moor, et al.,ISIJ International, Vol. 51, No. 1 (2011), pp.137-144.
【非特許文献9】M. Tamura, et al.,Materials Transactions, Vol. 52, No. 4 (2011), pp.691-698.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、高強度フェライト系耐熱鋼を高い熱効率を有する先進超々臨界圧発電設備等に用いる場合に、フェライト系耐熱鋼は高温で優れたクリープ強度を有するものの、長時間使用条件ではクリープ破断延性が大きく低下して、高温構造機器の安全性および信頼性を損なう懸念があるという課題があった。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するもので、ステンレス鋼やニッケル基超合金と比較すると合金元素の調達が容易なフェライト系耐熱鋼を用いることで、火力発電プラントのような民生用発電プラントの熱エネルギー効率の高さとプラント建設コストを調和できるフェライト系耐熱鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のフェライト系耐熱鋼は、化学組成が、質量%で、
C:0.03〜0.15
Si:0〜0.8
Mn:0.1〜0.8
Cr:8.0〜11.5
Mo:0.2〜1.5
W:0.4〜3.0
B:0.002〜0.010
V:0.1〜0.4
Nb:0.02〜0.12
N:0.02〜0.10を含み、
残部:鉄および不可避的不純物からなるフェライト系耐熱鋼であって、焼き戻しマルテンサイトの微細組織を有すると共に、前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材に700℃で60MPaの応力を負荷した場合において、クリープ破断延びが16%以上で、クリープ破断絞りが28%以上のクリープ破断延性を有することを特徴とする。
また、前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材に700℃で50MPaの応力を負荷した場合、又は、650℃で90MPaの応力を負荷した場合において、クリープ破断延びが20%以上で、クリープ破断絞りが50%以上のクリープ破断延性を有することを特徴とする。
上記においては、前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材の試験温度として700℃又は650℃を設定しているが、前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材の使用温度での当該フェライト系耐熱鋼の弾性限度内の負荷が作用する場合において、クリープ破断延びが16%以上で、クリープ破断絞りが28%以上のクリープ破断延性を有すればよい
クリープ破断延びが18%以上で、クリープ破断絞りが28%以上のクリープ破断延性を有することが好ましく、クリープ破断延びが20%以上で、クリープ破断絞りが40%以上のクリープ破断延性を有することがより好ましく、クリープ破断延びが20%以上で、クリープ破断絞りが50%以上のクリープ破断延性を有することが特に好ましい。
ここで、「前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材の使用温度」は、例えば、600℃以上の高温を意味し、「当該フェライト系耐熱鋼の弾性限度内の負荷」は、後述する耐力比が0.5以下の低応力域を意味する。
【0014】
本発明のフェライト系耐熱鋼は、前述の化学組成を有し、焼き戻しマルテンサイトの微細組織を有すると共に、ASMEボイラ圧力容器規格又はこれに相当する規格のフェライト系耐熱鋼の熱処理条件に定められた溶体化熱処理工程、焼ならし工程および焼もどし熱処理工程で熱処理されたフェライト系耐熱鋼の旧オーステナイト結晶粒と比較して、マルテンサイト変態により導入された内部ひずみ又は内部応力の少なくとも一方が緩和されている旧オーステナイト結晶粒を有する組織であることを特徴とする。
【0015】
本発明のフェライト系耐熱鋼は、前述の化学組成を有すると共に、さらに以下の熱処理
工程(a)〜(e)による熱処理を受けて製造されることを特徴する。

(a) 当該フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材をオーステナイト化温度で溶体化熱処理する溶体化熱処理工程、
(b) 前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材を前記オーステナイト化温度から一部がマルテンサイトに変態することにより、マルテンサイトと未変態オーステナイトの二相状態温度まで冷却する焼ならし工程、ここで当該二相状態温度はマルテンサイト変態開始温度(Ms)よりも低く、マルテンサイト変態終了温度(Mf)よりも高く定められていること、
(c) 当該マルテンサイトと未変態オーステナイトの二相状態温度から中間焼もどし熱処理温度まで加熱して一定時間保持することにより、マルテンサイト変態により導入された内部ひずみ、あるいは内部応力を緩和する工程、ここで当該中間焼もどしの熱処理温度はマルテンサイト変態開始温度(Ms)よりも高く第2の最終焼もどし熱処理温度よりも低く定められていること、
(d) 一旦、マルテンサイト変態終了温度(Mf)以下の温度まで冷却することにより、残りの未変態オーステナイト相をマルテンサイトに変態させる工程、
(e) 前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材の使用温度よりも高く定められた前記第2の最終焼もどし熱処理温度での最終焼もどし熱処理を行なうこと。
ここで、本発明のフェライト系耐熱鋼は、従来のフェライト系耐熱鋼にはない新規な微細組織と物理的・機械的性質を有するものであるが、その微細組織と物理的・機械的性質を、上記の本発明の態様では正確に定義していないと認定される場合もありえる。そこで、便宜的に上述の熱処理条件を用いて新規な物質である本発明のフェライト系耐熱鋼を規定したものである。
【0016】
本発明のフェライト系耐熱鋼において、好ましくは、前述の化学組成元素に加えて、質量%で、
Co:0〜2.0未満
Ta:0.05〜0.12
からなる群の元素から選ばれた少なくとも1つ以上含むとよい。
【0018】
本発明のフェライト系耐熱鋼の製造方法は、上記の化学組成と焼き戻しマルテンサイトの微細組織を有すると共に、上記のクリープ破断延性を有するか、又は、上記の内部ひずみ又は内部応力の少なくとも一方が緩和されている旧オーステナイト結晶粒を有するフェライト系耐熱鋼の製造方法であって、
(a) 上記の化学組成からなるフェライト系耐熱鋼よりなる鋼材をオーステナイト化温度で溶体化熱処理する溶体化熱処理工程、
(b) 前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材を前記オーステナイト化温度から一部がマルテンサイトに変態することにより、マルテンサイトと未変態オーステナイトの二相状態温度まで冷却する焼ならし工程、ここで当該二相状態温度はマルテンサイト変態開始温度(Ms)よりも低く、マルテンサイト変態終了温度(Mf)よりも高く定められていること、
(c) 当該マルテンサイトと未変態オーステナイトの二相状態温度から中間焼もどし熱処理温度まで加熱する工程、ここで当該中間焼もどし熱処理温度はマルテンサイト変態開始温度(Ms)よりも高く最終焼もどし熱処理温度よりも低く定められていること、
(d) 一旦、マルテンサイト変態終了温度(Mf)以下の温度まで冷却することにより、残りの未変態オーステナイト相をマルテンサイトに変態させる工程、
及び、(e) 前記フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材の使用温度よりも高く定められた第2の最終焼もどし熱処理温度での最終焼もどし熱処理を行なう工程を有することを特徴とする。
【0019】
本発明のフェライト系耐熱鋼の製造方法は、前記フェライト系耐熱鋼の製造方法であって、前記(a)の溶体化熱処理工程における前記オーステナイト化温度での熱処理温度が1030℃から1120℃の範囲であり0.5時間から24時間保持するものであることを特徴とする。
【0020】
本発明のフェライト系耐熱鋼の製造方法は、前記フェライト系耐熱鋼の製造方法であって、前記(b)の焼ならし工程における前記マルテンサイトと未変態オーステナイトの二相状態温度が約240℃から約400℃の範囲であることを特徴とする。
【0021】
本発明のフェライト系耐熱鋼の製造方法は、前記フェライト系耐熱鋼の製造方法であって、前記(b)の焼ならし工程におけるオーステナイト化温度から二相状態温度まで冷却する冷却速度が、マルテンサイト変態開始温度(Ms)まではフェライト相への変態を抑制できる程度に速く冷却し、マルテンサイト変態開始温度(Ms)から二相状態温度までは徐冷することを特徴とする。
【0022】
本発明のフェライト系耐熱鋼の製造方法は、前記フェライト系耐熱鋼の製造方法であって、前記(c)の二相状態温度から中間焼もどし熱処理温度まで加熱する工程における当該中間焼もどし熱処理温度が、550℃から600℃の範囲であり1時間から24時間保持するものであることを特徴とする。
【0023】
本発明のフェライト系耐熱鋼の製造方法は、前記フェライト系耐熱鋼の製造方法であって、前記(e)の最終焼もどし熱処理工程における当該第2の最終焼もどし熱処理温度が、730℃から800℃の範囲であり1時間から24時間保持するものであることを特徴とする。
【0024】
本発明のフェライト系耐熱鋼の使用方法は、上記の化学組成と焼き戻しマルテンサイトの微細組織を有すると共に、上記のクリープ破断延性を有するか、又は、上記の内部ひずみ又は内部応力の少なくとも一方が緩和されている旧オーステナイト結晶粒を有するフェライト系耐熱鋼の使用方法であって、蒸気温度が600℃級以上の火力発電所の発電設備に使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明のフェライト系耐熱鋼によれば、フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材の使用温度での当該フェライト系耐熱鋼の弾性限度内の負荷が作用する場合でも、旧オーステナイト粒界近傍等の局所的な領域でクリープ変形が促進される現象が抑制されるようなミクロ組織を有する。そこで、例えば火力発電プラントの高温蒸気用の圧力配管に用いる場合に、稼働時間が10万時間を超すような場合についても、長時間域におけるクリープ破断延性の大幅な低下がなく、フェライト系耐熱鋼の弾性限度を超える負荷が作用する場合と同様に優れたクリープ破断延性を示し、火力発電プラントの長期間稼動が安定して確保できる。
また、本発明のフェライト系耐熱鋼の製造方法によれば、マルテンサイト変態により導入され、とくに旧オーステナイト粒界近傍等に集中して発生する変態ひずみを緩和させることができる。したがって、この製造方法により、焼もどしマルテンサイト組織を有する高強度フェライト系耐熱鋼の長時間使用条件下におけるクリープ破断延性を改善でき、例えば火力発電プラントのような長期間安定した運転を確保すべき用途に用いるのに好適なフェライト系耐熱鋼が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の実施形態に係る供試材(火STPA29)の連続冷却変態(CCT)曲線である。
図2図2は、本発明の一実施例の熱処理条件を示すグラフである。
図3図3は、比較材の熱処理条件を示すグラフである。
図4図4は、650℃−90MPaにおける、本発明の一実施例と比較材のクリープ破断時間の比較を示すグラフである。
図5図5は、700℃−50MPaにおける、本発明の一実施例と比較材のクリープ破断時間の比較を示すグラフである。
図6図6は650℃−90MPaにおける、本発明の一実施例と比較材のクリープ破断試験片の比較を示す写真である。
図7図7は、700℃−50MPaにおける、本発明の一実施例と比較材のクリープ破断試験片の比較を示す写真である。
図8図8は、本発明の実施例と比較材のクリープ破断伸びの比較を示すグラフである。
図9図9は、本発明の実施例と比較材のクリープ破断絞りの比較を示すグラフである。
図10図10は、650℃−140MPaにおける、高強度フェライト耐熱鋼(火STPA29)のクリープ破断試験片を示す写真で、破断時間は66.0時間である。
図11図11は、650℃−70MPaにおける、高強度フェライト耐熱鋼(火STPA29)のクリープ破断試験片を示す写真で、破断時間は50871.2時間である。
図12図12は、各種のクリープ試験温度における、高強度フェライト耐熱鋼(火STPA29)のクリープ破断伸びとクリープ破断時間の関係を示すグラフである。
図13図13は、各種のクリープ試験温度における、高強度フェライト耐熱鋼(火STPA29)のクリープ破断絞りとクリープ破断時間の関係を示すグラフである。
図14図14は、クリープ試験条件に対応したフェライト系耐熱鋼のミクロ組織の違いを示す模式図で、(A)は旧オーステナイト結晶粒の内部構造を示し、(B)は応力と破断時間との相関における破断時のミクロ組織を示している。
図15図15は、各種のクリープ試験温度における、高強度フェライト耐熱鋼(火STPA29)のクリープ破断絞りと試験応力の耐力比との関係を示すグラフである。
図16図16は、各種のクリープ試験温度における、高強度フェライト耐熱鋼(火STBA29)のクリープ破断絞りと試験応力の耐力比との関係を示すグラフである。
図17図17は、各種のクリープ試験温度における、高強度フェライト耐熱鋼(火SUS410J3TP)のクリープ破断絞りと試験応力の耐力比との関係を示すグラフである。
図18図18は、各種のクリープ試験温度における、強度フェライト耐熱鋼(火STBA24J1)のクリープ破断絞りと試験応力の耐力比との関係を示すグラフである。
図19図19は、600℃−100MPaにおける、高強度フェライト耐熱鋼(火STBA28)のクリープ破断材の透過電顕組織を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の析出強化型フェライト系耐熱鋼を形成する耐熱鋼の組成及びその含有量について、上記のように限定した理由を下記に記す。なお、以下の説明において、含有量を表す%は、質量%である。
【0028】
炭素(C):Cは、重要なオーステナイト生成元素であり、δ−フェライト相の抑制効果を有する。また、鋼の焼き入れ性を著しく高め、マルテンサイト相母相を形成するのに必要不可欠な元素でもある。MX型(炭窒化物M(C、N)という形態をとることもある。なお、MはV、Nb等の合金元素である。)、M型、及びM23型の炭化物を形成する。鋼が630℃を超える高温下で焼き戻し熱処理されると、微細なこれら炭窒化物(たとえばVN、NbC)の析出が進行し、長時間クリープ強度を維持する働きをする。この効果を得るには、含有率0.06%以上が必要である。一方、0.12%を超えると、炭化物の凝集と粗大化が起こり、長時間クリープ強度を逆に低下させてしまう。他方で、効果重視だと製造上の材料組成の選択範囲が過度に狭くなる弊害を生ずるため、Cの含有率の下限値は0.03%でもよく、またその上限値は0.15%でもよい。このため、Cの含有率は、0.03〜0.15%がよく、特に好ましくは0.06〜0.12%が適当である。
【0029】
珪素(Si):Siは、溶鋼の脱酸剤であると同時に、高温における耐水蒸気酸化性を向上させるのに有効な元素でもある。だが、過剰となる場合には、鋼の靱性を低下させるので、含有率は0.8%以下、好ましくは0.5%以下が適当である。なお、近年、真空カーボン脱酸法やエレクトロスラグ再溶解法が適用され、必ずしもSi脱酸を行なう必要がなくなって来ており、そのときの含有量は0.1%以下でありSi量は低減できる。したがって、Siの含有率は、好ましくは0〜0.8%、さらに好ましくは0〜0.5%とする。
【0030】
マンガン(Mn):Mnは、通常、SをMnSとして固定し、鋼の熱間加工性を向上させるために添加される元素であり、またδ−フェライトおよびBNの生成を抑制し、M型炭化物の析出を促進する元素としても有効であるため、下限値を0.1質量%とする。だが、Mn量増加と共にクリープ破断強度を低下させるので、上限値を0.8%とする。そこで、Mnの含有率は、0.1〜0.8%が適当である。
【0031】
クロム(Cr):Crは、高温における耐食性、耐酸化性、特に耐水蒸気酸化性を確保する上で必要不可欠な元素である。Crの含有により、鋼表面には、Cr酸化物を主体とする緻密な酸化皮膜が形成され、この酸化皮膜が、鋼に高温における耐食性、耐酸化性(耐水蒸気酸化性を含む)を与える。
また、Crは、炭化物を形成してクリープ強度を向上させる働きも持っている。これらの効果を得るためには、含有率8.0%以上は必要である。ただし、11.5%を超えると、δ−フェライト相が生成しやすくなり、クリープ破断強度や靱性の低下が起こる。Crの含有率は、8.0〜11.5%が適当である。
【0032】
タングステン(W):Wは、クリープ強度を高め、高温での維持に有効な元素の一つである。固溶状態にあってはマルテンサイト相母相を強化し、高温下でFe型のμ相、FeW型のLaves相等を主体とする金属間化合物を形成し、これが微細に析出して長時間クリープ強度を向上させる。また、Cr炭化物中にも一部固溶し、M23型炭化物の凝集、粗大化を抑制する。
微量添加では固溶強化、1.0%を超える添加では析出強化が顕著となる。一方、3.0%を超えると、δ−フェライト相が生成しやすくなり、靱性の低下が起こる。なお、他の強化元素(Mo)で十分強化されている場合には、Wは省略することも可能である。したがって、Wの含有率は、0〜3.0%が適当であり、特に好ましくは0.4〜3.0%である。
【0033】
モリブデン(Mo):Moは、Wと同様に、0.2%を超える微量添加では固溶強化、1.0%を超える添加では析出強化に寄与し、クリープ強度を高める。Moの析出強化は、Wに比べ600℃以下の低温側で顕著である。他の強化元素(W)で十分強化されている場合には、Moは省略することも可能である。また、Moは、M23型及びM型炭化物という形態では、高温で安定であり、長時間クリープ強度の確保にも有効となる。1.5%を超えると、δ−フェライト相が生成しやすくなり、靱性が低下するため、含有率は、0〜1.5%が適当であり、特に好ましくは0.2〜1.5%である。なお、W及びMoを同時含有する場合には、含有率は、好ましくは、0.5≦W+2Mo≦4.0%とする。
【0034】
バナジウム(V):Vは常温における強度(引張強さ,耐力)の向上に有効な元素である。さらに、Vは固溶強化元素として、又、Vの微細な炭窒化物をマルテンサイトラス内に生成させる。これら微細な炭窒化物は、クリープ中の転位の回復を制御してクリープ強度やクリープ破断強度など高温強度を増加させるため、Vは析出強化元素として重要な元素である。更に、Vはある程度の添加範囲(0.1〜0.4%)の添加量であれば、結晶粒を微細化させて、靱性向上にも有効である。しかし、あまりにも多量に添加すると、靱性を害するとともに、炭素を過度に固定し、M23型炭化物の析出量を減じて逆に高温強度を低下させるので、その含有量は0.1〜0.4%とした。
【0035】
ニオブ(Nb):Nbは、Vと同様に引張強さや耐力などの常温強度、並びにクリープ強度やクリープ破断強度などの高温強度の増大に有効な元素であると同時に微細なNbCを生成して結晶粒を微細化させ、靱性向上に非常に有効な元素である。また、一部は焼入れの際、固溶して焼戻し過程で上記のV炭窒化物と複合したMX型炭窒化物を析出し、高温強度を高める作用があり、この作用を発揮させるためには最低0.02%必要である。他方で、0.12%を超えるとVと同様炭素を過度に固定してM23型炭化物の析出量を減少し、高温強度の低下を招く。そこで、Nbの含有率は、0.02〜0.12%が適当であり、特に好ましくは0.04〜0.10%である。
【0036】
窒素(N):Nは、Cと同様に、重要なオーステナイト生成元素であり、δ−フェライト相の生成を抑制する効果を有する。また、鋼の焼き入れ性を高め、マルテンサイト相を形成する元素でもある。さらには、M(C、N)型炭窒化物を形成する。
このようなNは、C等によりδ−フェライト相の生成が十分抑制され、かつ、650℃を超える高温におけるクリープ強度を重視する場合には、添加は特に必要でない。一方、焼き入れ性を十分高め、δ−フェライト相の生成抑制を重視する場合には、好ましく添加される。多量の添加は、窒化物の粗大化につながり、靱性の低下が著しくなる。しがって、Nの含有率は、0.02〜0.10%が適当である。
【0037】
ボロン(B):Bは、微量の含有で、主にM23型等の炭化物を微細に分散析出させ、凝集粗大化を抑制する。高温長時間クリープ強度の向上に効果がある。また、厚肉材などで熱処理後の冷却速度が遅い場合には、焼き入れ性を高め、高温強度を向上させる。
このようなBは、主として高い高温強度が望まれる場合に含有することができ、省略することも可能である。含有する場合には、上記効果は、含有率0.002%以上で顕著となる。含有率が0.010%を超えると、溶接性を低下させるとともに、粗大なBN等の第二相を生成し、靱性低下を引き起こすので、上限は0.010%とする。したがって、Bの含有率は、0.002〜0.010%が適当である。
【0038】
コバルトCo:Coは、焼き入れ性を向上させる効果を持ち、且つ、クリープ強度の向上の点でも効果を持つが、非常に高価であり、添加量が多くなれば材料コストが上昇する。材料コストを低くすることが求められ、且つ、十分なクリープ強度が得られ、且つ、鋼の焼き入れ性が十分に得られる条件で製造される場合には、Coは必須ではない。
他方で、Coはオーステナイト生成元素であり、δフェライト相の生成を抑制する効果が期待される元素である。その効果を得るためには、含有率0.5%以上が必要である。
したがって、Co含有率は0〜2.0%未満とした。
【0039】
ニッケルNi:Niは、焼き入れ性を向上させる効果を持つが、クリープ強度に対して悪影響を及ぼす。Niの添加量は、0.4%以下に低減すべきである。
【0040】
タンタルTa:Taは、Nと結びついて、MNといわれる窒化物を形成して析出強化に寄与する。更に、鋼中に含まれるCと結合し炭化物を形成して、析出強化に寄与する。このような析出により母相中のCの濃度が低減され、MCペアの形成を阻害する効果があると強く推定されている。これらの元素の過剰な添加は、熱処理によりMNを母相に十分に溶かすことができないので、MNの微細分散析出を阻止して、MNの析出強化寄与を減殺する。Taの適正添加量は、加工熱処理組織制御の場合には、0.01〜0.5%であり、好ましくは、0.05〜0.12%である。
【0041】
酸可溶Al(sol.Al):Alは、主に溶鋼の脱酸剤として添加される。鋼中では、Alは、酸化物とこれ以外の形態で存在し、後者は、分析上、酸可溶Al(sol.Al)と呼ばれている。上記脱酸効果が得られれば、sol.Alは、特に必要ない。一方、0.020%を超えると、クリープ強度の低下を招く。sol.Alの含有率は、0.020%以下が適当である。
【0042】
リンP:Pは不可避的不純物として含有されるが、クリープ強度と破断延性に対して有害な元素であるから、0.020%以下が好ましい。
【0043】
硫黄S:Sも不可避的不純物として含有されるが、クリープ強度と破断延性に対して有害な元素であるから、0.010%以下が好ましい。
【0044】
Ti:Tiも不可避的不純物として含有されるが、強度向上に対して効果の少ない窒化物を形成し、強度向上に有効なM(C、N)型炭窒化物の形成を阻害するため、0.01%以下が好ましい。
【0045】
酸素O:Oも不可避的不純物として含有されるが、粗大な酸化物となって偏在すると、靱性等に悪影響を及ぼす。靱性を確保する上では、極力含有率を抑えるのが好ましい。含有率0.010%以下であれば靱性への影響は十分小さい。そこで、Oの含有率は、0.010%以下とする。
【0046】
また、この発明のフェライト系耐熱鋼については、工業的に用いられている通常の製造設備及び製造プロセスにより製造することができる。
たとえば、電気炉、転炉等の炉で精錬し、脱酸剤及び合金元素を添加して成分調整を行う。特に厳密な成分調整が必要な場合には、合金元素を添加する前に、溶鋼に真空処理を行うことができる。
【0047】
こうして所定の化学組成に調整された溶鋼を、次いで、連続鋳造法又は造塊法によりスラブ、ビレット又は鋼塊に鋳造した後、鋼管、鋼板等に成形する。
継ぎ目無し鋼管を製造する場合には、たとえばビレットを押出し、又は鍛造によって製管することができる。鋼板の場合には、スラブを熱間圧延し、熱延鋼板とすることができる。この熱延鋼板を冷間圧延すると冷延鋼板が得られる。熱間加工後に冷間圧延等の冷間加工を行う場合には、通常の冷間加工に先立って、焼き鈍し及び酸洗処理を行うのが好ましい。
【0048】
次に、溶体化熱処理温度について説明する。本発明に係わるフェライト系耐熱鋼はMX型炭窒化物を析出させ高温強度を高める効果からNbを0.02〜0.12%添加している。この効果を発揮させるためには、溶体化熱処理時にNbを完全にオーステナイト母相に固溶させることが不可欠である。しかしながら、Nbは、焼入温度を1030℃未満にした場合、凝固時に析出した粗大な炭窒化物が熱処理後も残存し、クリープ破断強度の増加に対し、完全に有効には働き得ない。この粗大な炭窒化物を一旦固溶させ、微細な炭窒化物として高密度に析出させるためには、Nb炭窒化物の固溶がより進行する1030℃以上のオーステナイト化温度からの焼入れが必要になる。一方、1120℃を越えると本発明に係わる耐熱鋼の場合、δ−フェライトが生成しやすい温度域に入り、かつ結晶粒径の大幅な粗大化を生じ靭性を低下させるため、溶体化熱処理温度範囲は1030〜1120℃が好ましい。
【0049】
続いて、溶体化熱処理工程に続く中間の焼ならし工程では、フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材をオーステナイト化温度からオーステナイト相の一部がマルテンサイト相に変態して、未変態オーステナイトとマルテンサイトの二相状態になる温度まで冷却する。このオーステナイトとマルテンサイトの二相状態温度はマルテンサイト変態開始温度(Ms)よりも低く、マルテンサイト変態終了温度(Mf)よりも高く定められている点が、本発明に係わる耐熱鋼の特徴である。このマルテンサイトと未変態オーステナイトの二相状態温度は、供試材の一部がマルテンサイト変態するような温度であり、オーステナイトとマルテンサイトの二相状態で、後続の中間焼もどし熱処理によって、マルテンサイト変態により導入されたひずみを緩和させる点が肝要である。
【0050】
次に中間焼もどしの熱処理温度について説明する。中間焼もどしの熱処理温度が550℃未満であると、マルテンサイト変態により導入されたひずみを緩和する効果が小さく、600℃を越えると、未変態オーステナイト相がフェライト相に変態してしまう危険性があるため、中間焼もどしの熱処理は550〜600℃の温度範囲とし、熱処理時間を1時間から24時間、あるいはそれ以上の時間保持するものとした。
【0051】
その後、供試材を一旦、マルテンサイト変態終了温度(Mf)以下の温度まで冷却して、未変態オーステナイト相をマルテンサイトに変態させる。
次に、フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材の使用温度よりも高く定められた第2の焼もどし温度での最終焼もどし熱処理により、マルテンサイト相の焼き戻し熱処理を行なう。
最終焼もどしの熱処理温度は、M23型炭化物および金属間化合物を主に結晶粒界及びマルテンサイトラス境界に析出させ、かつMX型炭窒化物をマルテンサイトラス内へ析出させることができる熱処理温度範囲である730〜800℃の温度範囲とする。
最終焼もどし熱処理温度が730℃未満であると、上記のM23型炭化物およびMX型炭窒化物の析出が十分に平衡値まで到達することができず、析出物の体積率が相対的に低下する。しかも、730℃未満の温度ではマルテンサイト相を十分に焼き戻しすることができず、不安定な状態にあるため、高温で長時間の使用中に金属組織の回復、軟化現象が急速に進行し、クリープ強度が大きく低下する要因となる。
一方、最終焼もどし熱処理温度がオーステナイトへの変態温度であるAC点(約820℃)に近い800℃を超えると、マルテンサイト相の著しい回復、軟化やオーステナイト相への変態が生じてしまい、クリープ強度が大きく低下するため、最終焼もどし熱処理の温度範囲は730〜800℃が好ましい。
【0052】
上述の熱処理を施すことにより、マルテンサイト変態により導入された内部ひずみ又は内部応力が、大幅に緩和されるとともに、旧オーステナイト粒界近傍等への内部ひずみ又は内部応力の少なくとも一方の集中も緩和される。そこで、フェライト系耐熱鋼よりなる鋼材の使用温度での当該フェライト系耐熱鋼の弾性限度内の負荷が作用する場合でも、旧オーステナイト粒界近傍等の局所的な領域でクリープ変形が促進される現象が抑制されるため、長時間域においても当該フェライト系耐熱鋼の弾性限度を超える負荷が作用する場合と同様に、優れたクリープ破断延性を有する。
【0053】
<実施例1>
表1は、本発明の一実施例に用いた材料の化学組成を示すものである。本実施例では比較材と同じ化学組成である火STPA29を用い、本発明の熱処理条件での熱処理を施すことにより、本発明の熱処理がクリープ破断延性に及ぼす効果を調べた。本実施例と比較材の違いは熱処理条件だけであり、化学成分や非金属介在物等には違いはないため、本発明の熱処理の効果のみを検証することが可能である。
【0054】
【表1】
【0055】
図1は、火STPA29の焼ならし熱処理温度に相当する1070℃からの連続冷却変態(CCT)曲線である。図1のCCT曲線から、本供試材である火STPA29は、焼ならし温度からの冷却中に約400℃でマルテンサイト変態を開始して、240〜260℃でマルテンサイト変態が完了することがわかる。そこで、マルテンサイト変態が開始して完了するまでの温度域の途中まで焼ならし温度から冷却し、供試材の一部をマルテンサイトに変態させた後、未変態オーステナイト相のフェライト変態が生じない程度の高温度域まで加熱して、マルテンサイト変態により導入されたひずみを緩和させた後、残りの未変態オーステナイト相をマルテンサイト変態させる熱処理条件を設定した。
【0056】
表2および図2は、本実施例で採用した熱処理条件を示している。本発明のポイントは以下のとおりである。
(1)焼ならし温度からの冷却途中でマルテンサイトに部分変態させた後、中間焼もどし熱処理を行った後、マルテンサイト変態終了温度(Mf)以下の温度(例えば、室温)まで冷却して、未変態オーステナイト部分をマルテンサイトに変態させること。
(2)焼ならし温度からの冷却途中の、マルテンサイト変態が開始する温度域の冷却速度を小さくすること。
【0057】
【表2】
【0058】
本実施例では、部分変態温度を320℃と350℃の2条件とし、中間焼もどし熱処理を570℃と590℃の2条件で行った。さらに、通常の焼もどし熱処理に相当する最終焼もどしを730℃と780℃で行った。表3および図4図8は、本実施例のクリープ試験結果を比較材の結果と併せて示したものである。なお、比較材のクリープ破断時間の平均値および最小値は、許容引張応力の見直しに際して得られた再評価結果であり、当該鋼種のクリープ強度レベルを示すものである。
【0059】
【表3】
【0060】
<比較例1>
表4および図3は、比較例で採用した高強度フェライト耐熱鋼の熱処理条件を示したものである。比較例で採用した熱処理条件は、前述のASMEボイラ圧力容器規格に準拠したもので、本発明の熱処理条件と比較すると、中間焼もどし熱処理がない点と、焼ならし温度から室温への冷却途中での、マルテンサイト変態が開始する温度域の冷却速度が通常の早い値となっている点が相異する。
すなわち、最初に溶体化熱処理工程があり、当該フェライト耐熱鋼よりなる鋼材をオーステナイト化温度で溶体化熱処理する。次に、焼ならし工程で、当該鋼材をオーステナイト化温度から室温まで冷却する。最後に、焼もどし熱処理工程で、当該鋼材の使用温度よりも高く定められた焼もどし温度で焼き戻す。
【0061】
【表4】
【0062】
図10および図11は、高強度フェライト耐熱鋼の中でもとくにクリープ強度に優れている火STPA29(発電配管用合金鋼鋼管)のクリープ破断試験片の写真を示すものである。短時間の66.0時間クリープ破断した試験片(図10)は、破断部の断面減少が大きく、大きなクリープ破断絞りを示している。一方、長時間の50871.2hでクリープ破断した試験片(図11)は、破断部近傍においても断面減少がほとんど認められず、クリープ破断絞りは小さくなっている。
図12および図13は、火STPA29のクリープ破断伸びとクリープ破断絞りをクリープ破断時間に対して整理してそれぞれ示すものである。クリープ破断伸び(図12)およびクリープ破断絞り(図13)ともに短時間域では大きな値を示すが、長時間域では大きく低下しており、クリープ破断延性の低下の程度は、クリープ破断伸びに比べてクリープ破断絞りで顕著に認められる。
【0063】
図14は、クリープ試験条件に対応したフェライト系耐熱鋼のミクロ組織の違いを示す模式図で、(A)は旧オーステナイト結晶粒の内部構造を示し、(B)は応力と破断時間との相関における破断時のミクロ組織を示している。
旧オーステナイト結晶粒の内部構造は、パケット、ブロック、ラスという3階層となっている。旧オーステナイト結晶粒は、その大きさが数十μmで、その粒界は大角粒界になっている。パケットは、旧オーステナイト結晶粒の内部に詰まっているもので、その大きさが数μmで、その境界は大角粒界になっている。ブロックは、パケットの内部に平行に並んだもので、約1μm程度の細長い板状をしており、その境界は大角粒界になっている。ラスは、約0.2μm程度の小角粒界で、ブロックは結晶方位が同じラスの集団となっている。ラスの内部や境界には炭化物や窒化物が析出している。
【0064】
比較材について、クリープ試験条件として高応力・短時間の破断では、旧オーステナイト結晶粒の内部構造はクリープ試験を開始する前と同様なミクロ組織を有している。これに対して、クリープ試験条件として低応力・長時間の破断では、クリープ試験を開始する前と比較すると、旧オーステナイト結晶粒の内部構造は、マルテンサイト組織のラスが穏やかに回復した状態にあるが、旧オーステナイト結晶粒の粒界付近は粒内と全く様相が異なり、微細析出物や転位が非常に少ない、回復が極端に進んだ組織となっている。
【0065】
<比較例2>
<高強度フェライト耐熱鋼の長時間域におけるクリープ破断延性低下のメカニズム解明>
本発明者らは、高強度フェライト耐熱鋼の長時間域におけるクリープ破断延性低下のメカニズム解明を目的として検討を行った結果、クリープ試験応力がクリープ試験温度における0.2%耐力の2分の1以下でクリープ破断延性が大きく低下することを見出した。図15は、火STPA29のクリープ破断絞りを耐力比(試験応力を0.2%耐力で除した値)に対して整理して示した図である。耐力比が0.5を超える範囲ではクリープ破断絞りは大きな値を示すが、耐力比が0.5以下に低下するといずれの試験温度でもクリープ破断絞りは大きく低下する。
【0066】
図16図17および図18は、火STBA29、火SUS410J3TP(発電配管用ステンレス鋼管)および火STBA24J1(発電ボイラー用合金鋼鋼管)について、クリープ破断絞りを耐力比に対して整理した結果を、それぞれ示す図である。いずれの鋼種でも、耐力比が0.5を超える範囲では大きなクリープ破断絞りを示すが、耐力比が0.5以下に低下すると、試験温度によらずクリープ破断絞りは大きく低下している。したがって、耐力比が0.5以下に低下するとクリープ破断絞りが大きく低下する現象は、いずれの高強度フェライト系耐熱鋼でも認められる共通の現象である。
【0067】
耐力比の0.5(0.2%耐力の2分の1)は、その温度における弾性限に相当することが知られている。0.2%耐力の2分の1以下の低応力でクリープ破断した試験片では、図19に示すように、旧オーステナイト結晶粒界近傍の局所的な領域で、焼もどしマルテンサイト組織の回復現象が進行し、軟化したクリープ強度の低い領域の形成が認められる。このように焼もどしマルテンサイト組織の回復現象が不均一に進行した組織は、耐力比が0.5を超える高応力域でクリープ破断した試験片では観察されない。耐力比が0.5以下の低応力域では、旧オーステナイト結晶粒界近傍の局所的な回復領域で優先的にクリープ変形が進行し、クリープ破断を引き起こすため、クリープ破断までのクリープ変形量が少なく、クリープ破断延性が低下すると考えられる。
【0068】
<焼もどしマルテンサイト組織の回復現象が旧オーステナイト結晶粒界近傍で促進される原因>
そこで、耐力比が0.5以下の低応力域において、焼もどしマルテンサイト組織の回復現象が旧オーステナイト結晶粒界近傍で促進される原因について検討した。
高強度フェライト系耐熱鋼は、焼ならし熱処理によりオーステナイト相からのマルテンサイト変態によりマルテンサイト相とした後、焼もどし熱処理により焼もどしマルテンサイト組織として、使用に供される。オーステナイト相からのマルテンサイト変態時には体積膨張を伴うため、先に変態したマルテンサイト領域の周囲の未変態オーステナイト領域には、ひずみが発生する。そのため、旧オーステナイト結晶粒界等には、マルテンサイト変態によって導入されたひずみが集中する。
【0069】
そこで、本発明者は、マルテンサイト変態によって導入された変態ひずみが、旧オーステナイト結晶粒界近傍等の局所領域で回復現象を促進する現象を抑制するようなミクロ組織と、これを実現する熱処理条件を見出すことが肝要であることに気付いて、本発明を発案した。
即ち、本発明の実施例では、供試材の一部がマルテンサイト変態した二相状態で中間焼もどし熱処理を行い、マルテンサイト変態により導入されたひずみを緩和させた後、残りの未変態オーステナイト相をマルテンサイト変態させる熱処理条件を供試材に適用している。その結果、上記のような中間焼きもどし熱処理を行っていない、従来の溶体化熱処理工程、焼ならし工程および焼もどし熱処理工程で熱処理されたフェライト系耐熱鋼と比較して、マルテンサイト変態により導入されるひずみを低減させたミクロ組織を得ることができる。
【0070】
<クリープ破断時間>
図4は、実施例と比較材について、試験温度650℃、試験応力90MPaでクリープ試験を行って求めたクリープ破断時間を示す図である。実施例のDTAとDTBのクリープ破断時間は、比較材のMJPに比べてわずかに短いが、当該鋼種の平均値と最小値の間であり、当該鋼種の標準的なクリープ破断時間の範囲内である。実施例のDTCとDTDのクリープ破断時間は,比較材であるMJPのクリープ破断時間の96〜98%であり、当該鋼種の平均的なクリープ破断時間である。
【0071】
図5は、実施例と比較材について、試験温度700℃、試験応力50MPaでクリープ試験を行って求めたクリープ破断時間を示す図である。実施例のDTA〜DTDのクリープ破断時間は、いずれも比較材のMJPに比べてわずかに短いが、当該鋼種の標準的なクリープ破断時間の範囲内である。
【0072】
<クリープ破断延性>
図6は、実施例と比較材について、試験温度650℃、試験応力90MPaでクリープ破断した試験片の写真を示す図である。比較材のMJPに比べて、実施例のDTA、DTB、DTCおよびDTDは、いずれも破断部近傍の断面減少の程度が大きく、実施例のほうが比較材よりもクリープ破断延性が高いことがわかる。
【0073】
図7は、実施例と比較材について、試験温度700℃、試験応力50MPaでクリープ破断した試験片の写真を示す図である。比較材のMJPに比べて、実施例はいずれも破断部近傍の断面減少の程度が大きく、実施例のほうが比較材よりもクリープ破断延性が高いことがわかる。
図8は、実施例と比較材について、試験温度650℃、試験応力90MPaおよび試験温度700℃、試験応力50MPaで求めたクリープ破断伸びを比較して示す図(DTTおよびMJT:試験温度700℃、試験応力60MPaについては表3参照)である。実施例は、比較材よりも大きなクリープ破断伸びを示すことがわかる。
【0074】
図9は、実施例と比較材について、試験温度650℃、試験応力90MPaおよび試験温度700℃、試験応力50MPaで求めたクリープ破断絞りを比較して示す図(DTTおよびMJT:試験温度700℃、試験応力60MPについては表3参照)である。実施例は、比較材よりも大きなクリープ破断絞りを示すことがわかる。
【0075】
表3、図8および図9から明らかなように、本発明のフェライト系耐熱鋼は、クリープ破断延びが16%以上で、且つ、クリープ破断絞りが28%以上のクリープ破断延性を有する。クリープ破断延びが18%以上で、且つ、クリープ破断絞りが28%以上であることが好ましく、クリープ破断延びが20%以上で、且つ、クリープ破断絞りが40%以上であることがより好ましく、クリープ破断延びが20%以上で、且つ、クリープ破断絞りが50%以上であることが特に好ましい。
以上の結果から、本発明の熱処理条件を適用することにより、クリープ破断強度を損なうことなく、高強度フェライト系耐熱鋼の長時間域のクリープ破断延性を向上させることができることが実証された。
【0076】
なお、本発明の実施例と比較材として火STPA29の場合を説明したが、本発明の化学組成はこれに限定されるものではない。例えば、ボイラ用耐熱鋼として通常使用される9Crフェライト耐熱鋼として、JIS規格のSTBA26(ASME T9)、火STBA27、火STBA28(ASME T91)、火STBA29(ASME T92)でもよく、また12Crフェライト耐熱鋼として、JIS規格の火SUS410J2TB、火SUS410J3TB(ASME T122)、DIN規格のDINX20CrMoV121、DINX20CrMoWV121に含まれる各種のフェライト耐熱鋼でもよい。表5にこれら各種のフェライト耐熱鋼の化学組成を掲げる。
【0077】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の高強度フェライト系耐熱鋼によれば、その熱処理条件を適切に選定することで、本発明のミクロ組織を有する高強度フェライト系耐熱鋼が得られる。本発明の高強度フェライト系耐熱鋼によれば、マルテンサイト変態により導入されるひずみを緩和させた焼き戻しマルテンサイト組織を有する高強度フェライト系耐熱鋼の長時間使用条件下におけるクリープ破断強度を損なうことなく、クリープ破断延性を改善している。その結果として、例えば火力発電プラントのような長期間安定した運転を確保すべき用途に用いるのに好適である。また、マルテンサイト変態によって導入される変態ひずみを低減させる本発明の熱処理方法を用いることにより、マルテンサイト組織を利用した高強度フェライト系耐熱鋼のクリープ破断延性を向上させるだけでなく、マルテンサイト組織を有する高強度鋼における、破壊靱性の低下、遅れ破壊の発生、水素脆化の促進、疲労強度の限界等の各種の課題の解決にも、効果があると期待される。
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