特許第6562632号(P6562632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6562632心血管疾患および他の状態のためのパラクリン遺伝子の全身送達および制御された発現
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562632
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】心血管疾患および他の状態のためのパラクリン遺伝子の全身送達および制御された発現
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20190808BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20190808BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20190808BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20190808BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20190808BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   A61K31/7088
   A61K38/22
   A61K48/00
   A61K35/76
   A61P9/04
   A61P3/10
【請求項の数】25
【全頁数】56
(21)【出願番号】特願2014-556826(P2014-556826)
(86)(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公表番号】特表2015-508760(P2015-508760A)
(43)【公表日】2015年3月23日
(86)【国際出願番号】US2013025997
(87)【国際公開番号】WO2013123094
(87)【国際公開日】20130822
【審査請求日】2016年2月12日
(31)【優先権主張番号】61/598,772
(32)【優先日】2012年2月14日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ハモンド, エイチ. カーク
(72)【発明者】
【氏名】ガオ, メイ フア
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−538828(JP,A)
【文献】 特表2011−512326(JP,A)
【文献】 DAVIS,M.E. et al.,"Urocortin 2 infusion in human heart failure",Eur. Heart J.,2007年11月,Vol.28,No.21,P.2589-2597,ISSN 1522-9645,doi:10.1093/eurheartj/ehm340
【文献】 PEPE,M. et al.,"Intramyocardial VEGF-B167 Gene Delivery Delays the Progression Towards Congestive Failure in Dogs With Pacing-Induced Dilated Cardiomyopathy",Circ. Res.,2010年 6月25日,Vol.106,No.12,P.1893-1903,ISSN 1524-4571,doi:10.1161/CIRCRESAHA.110220855
【文献】 別冊・医学のあゆみ 血液疾患 State of arts Ver.3,2005年,pp.541-544
【文献】 Human gene therapy,2011年10月21日,Vol.23,pp.255-261
【文献】 NATURE BIOTECHNOLOGY,2005年,Vol.23, No.3,pp.321-328
【文献】 RADEMARKER,M.T. et al.,"Prolonged Urocortin 2 Administration in Experimental Heart Failure",Hypertension,2011年 6月,Vol.57,No.6,P.1136-1144,ISSN 1524-4563,doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.111.173203
【文献】 MELLI-BUTZ,S. et al.,"Abstract 3830: Chronic Administration of Urocortin 2 in Hypertension-Induced Hypertrophy: Effects on Intracellular Calcium Handling and Hemodynamics",Circulation,2009年11月 3日,Vol.120,Suppl.18,P.S868
【文献】 RADEMARKER,M.T. et al.,"Four-day urocortin-I administration has sustained beneficial haemodynamic, hormonal, and renal effects in experimental heart failure",Eur. Heart J.,2005年10月,Vol.26,No.19,P.2055-2062,ISSN 1522-9645,doi:10.1093/eurheartj/ehi351
【文献】 Biochemical and Biophysical Research Communications,2009年,Vol.390,pp.887-891
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
A61K 38/00−38/58
A61K 48/00
A61K 35/76
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結されているウロコルチン−2(UCn−2)をコードする核酸配列を含むベクターを含む組成物であって、
(a)前記組成物が、うっ血性心不全(CHF)を有する被験体または患者における左心室収縮機能を増大するために使用され、
(b)前記ベクターがAAV血清型AAV8またはAAV9ベクターであ
組成物。
【請求項2】
患者または個体において糖尿病または前糖尿病を処置する、改善するまたは保護する(予防する)ための、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結されているウロコルチン−2(UCn−2)をコードする核酸配列を含むベクターを含む組成物であって、前記ベクターがAAV血清型AAV8またはAAV9ベクターである、組成物。
【請求項3】
前記組成物が、経口、筋肉内(IM)注射により、静脈内(IV)注射により、皮下(SC)もしくは皮内注射により、髄腔内注射により、動脈内(IA)注射により、冠動脈内注射により、吸入により、エアロゾルにより、または微粒子銃粒子送達システムにより、または「遺伝子銃」、エアピストルもしくはHELIOS(商標)遺伝子銃(Bio−Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を使用することにより、それを必要とする個体または患者に投与または送達される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、小胞、リポソーム、ナノ粒子もしくはナノ脂質粒子(NLP)中でまたは小胞、リポソーム、ナノ粒子もしくはナノ脂質粒子(NLP)として製剤化されるか、経口投与、筋肉内(IM)注射、静脈内(IV)注射、皮下(SC)もしくは皮内注射、髄腔内注射、動脈内(IA)注射、冠動脈内注射、吸入、またはエアロゾルによる投与のために製剤化される、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、液体、ゲル、ヒドロゲル、粉末または水性もしくは食塩水製剤中で製剤化される、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、小胞、リポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子(NLP)中で製剤化される、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、単離または培養細胞中で製剤化される、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、医薬として製剤化される、または無菌である、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
うっ血性心不全に罹患している被験体を処置するための、パラクリン活性を有するタンパク質またはペプチドをコードする核酸配列を含むベクターを含む組成物であって、前記組成物が提供され、前記被験体の細胞またはそれを必要とする被験体に静脈内もしくは筋肉内投与または送達され、前記タンパク質またはペプチドが、ウロコルチン−2(UCn−2)であるか、またはこれを含み、前記ベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)であり、前記核酸が肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結されている、組成物。
【請求項10】
前記タンパク質またはペプチドが、哺乳動物ウロコルチン−2(UCn−2)、または哺乳動物ウロコルチン−2と、哺乳動物強心性ペプチド、哺乳動物成長因子、哺乳動物セレラキシン、哺乳動物リラキシン−2、哺乳動物ウロコルチン−1(UCn−1)、哺乳動物ウロコルチン−3(UCn−3)、哺乳動物脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、哺乳動物プロスタサイクリンシンターゼ、哺乳動物成長ホルモン、および哺乳動物インスリン様成長因子−1からなる群から選択されるポリペプチドまたはペプチドとの組み合わせであるか、これらを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記タンパク質またはペプチドが、哺乳動物ウロコルチン−2である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記ベクターが、医薬製剤中に製剤化される、請求項9から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ベクターが、小胞、リポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子(NLP)中で製剤化される、請求項9から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記ベクターが単離または培養細胞中にある、請求項9から11および13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
前記ベクターが、in vitroまたはex vivoで前記タンパク質またはペプチドを発現する、請求項9から14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
糖尿病または前糖尿病に罹患している被験体を処置するための、ウロコルチン−2(UCn−2)タンパク質またはペプチドをコードする核酸配列を含むベクターを含む組成物であって、
前記組成物が提供され、それを必要とする被験体に投与または送達され、前記ベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)である、組成物。
【請求項17】
前記ベクターが、小胞、リポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子(NLP)中でまたは小胞、リポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子(NLP)として製剤化される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記ベクターが、経口投与、筋肉内(IM)注射、静脈内(IV)注射、皮下(SC)もしくは皮内注射、髄腔内注射、動脈内(IA)注射、冠動脈内注射、吸入、またはエアロゾルによる投与のために製剤化される、請求項16または17に記載の組成物。
【請求項19】
前記AAVベクターが、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9またはAAVrh.10から選択される、請求項16から18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
前記AAVベクターが、AAV8またはAAV9である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
糖尿病または前糖尿病に罹患している被験体を処置する方法における使用のための、ウロコルチン−2(UCn−2)タンパク質またはペプチドをコードする核酸配列を含むベクターを含む組成物であって、
前記方法は、前記ベクターを提供して、それを必要とする被験体に投与または送達する工程を含み、前記ベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)である、組成物。
【請求項22】
前記ベクターが、小胞、リポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子(NLP)中でまたは小胞、リポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子(NLP)として製剤化される、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記ベクターが、経口投与、筋肉内(IM)注射、静脈内(IV)注射、皮下(SC)もしくは皮内注射、髄腔内注射、動脈内(IA)注射、冠動脈内注射、吸入、またはエアロゾルによる投与のために製剤化される、請求項21または22に記載の組成物。
【請求項24】
前記AAVベクターが、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9またはAAVrh.10から選択される、請求項21から23のいずれかに記載の組成物。
【請求項25】
前記AAVベクターが、AAV8またはAAV9である、請求項24に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府によって資金供与を受けた研究の下でなされた発明に対する権利についての声明
本発明は、National Institutes of Health(NIH)、DHHSによって付与された助成金番号第HL088426号の下、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、細胞および分子生物学ならびに医学に関する。本発明は、組成物ならびにin vitroおよびex vivo方法を提供する。代替実施形態において、本発明は、個体または患者を、in vivoで増大または持続したパラクリンポリペプチドレベルに応答する疾患、感染症または状態に対して処置する、改善するまたは保護する(予防する)ための方法を提供し、該方法は、転写制御配列に作動的に連結された、パラクリンポリペプチドをコードする核酸もしくは遺伝子;またはパラクリンをコードする核酸、遺伝子、転写産物もしくはメッセージをその中に含有している発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物であって、前記パラクリンをコードする核酸(paracrine−encoding encoding nucleic acid)、遺伝子、転写産物もしくはメッセージを細胞においてもしくはin vivoで発現することができる前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物を提供する工程;および前記転写制御配列に作動的に連結された、パラクリンポリペプチドをコードする核酸、遺伝子、転写産物もしくはメッセージ、または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物を、それを必要とする個体または患者に投与または送達する工程を含み、それによって、前記個体または患者を増大したパラクリンポリペプチドレベルに応答する前記疾患、感染症または状態に対して処置する、改善するまたは保護する(予防する)。
【背景技術】
【0003】
血友病Bの場合に欠乏するヒト第IX因子をコードするウイルスベクターの静脈内注射は、血友病Bを有する被験体の血清中の第IX因子濃度を、彼らの外因性第IX因子注入の要件を低下させる程度に増大させることが、最近、証明された。しかし、1)このタンパク質は、制御性発現下になく、したがって、血清中の導入遺伝子のレベルを最適に調整することができなかった、2)このシステムは、望ましくないまたは予想外の効果の場合に導入遺伝子発現をオフするための手段を提供していなかった、および3)遺伝子、第IX因子、は、パラクリン遺伝子ではなく、有益な心血管効果を有さず、したがって、心疾患の処置に使用することができなかった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、個体または患者を、in vivoで増大したパラクリンポリペプチドレベルに応答する任意の疾患、感染症または状態に対して処置する、改善するまたは保護する(予防する)ための方法を提供する。代替実施形態において、本発明は、in vivoで増大または持続したペプチドもしくはパラクリンポリペプチドのレベルに応答する疾患、感染症または状態に対して処置、改善または保護(予防)するための方法を提供し、該方法は:
(a)(i)転写制御配列に作動的に連結された、パラクリンポリペプチドをコードする核酸または遺伝子;あるいはパラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはパラクリンポリペプチド発現性核酸、転写産物もしくはメッセージ、をその中に含有している発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスまたは等価物であって、前記パラクリンをコードする核酸、遺伝子、転写産物もしくはメッセージを細胞においてまたはin vivoで発現することができる前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスまたは等価物を提供する工程;および
(ii)前記転写制御配列に作動的に連結された、パラクリンポリペプチドをコードする核酸、遺伝子、転写産物もしくはメッセージ、または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物を、前記細胞、またはそれを必要とする個体もしくは患者に投与または送達し、それによって、前記個体または患者を、増大または持続したパラクリンポリペプチドレベルに応答する前記疾患、感染症または状態に対して処置する、改善するまたは保護する(予防する)工程を包含する、方法;
(b)前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルス、または等価物が、
アデノ随伴ウイルス(adeno−associated virus:AAV)、レンチウイルスベクターまたはアデノウイルスベクター、
AAV血清型AAV5、AAV6、AAV8またはAAV9、
アカゲザル由来AAV、またはアカゲザル由来AAV AAVrh.10hCLN2、
AAVカプシド変異体またはAAVハイブリッド血清型、
臓器指向性AAV、または心臓指向性AAV、または心臓指向性AAVM41変異体
であるか、またはこれらを含み、
場合により、前記AAVが、野生型(wt)AAVを許容しない特異的細胞タイプに標的化することにおける効率を増大させるように、および/または対象となる細胞タイプのみを感染させることでの効力を改善させるように操作されている、ならびに
場合により、前記ハイブリッドAAVが、1)カプシド転換、2)カプシド表面への二重特異性抗体の吸着、3)モザイクカプシドの操作、および/または4)キメラカプシドの操作を含む1つ以上の修飾によってハイブリッド血清型として再標的化または操作されている、(a)に記載の方法;
(c)前記パラクリンをコードする核酸、遺伝子、転写産物またはメッセージが、制御性または誘導性転写制御配列に作動的に連結されている、(a)に記載の方法;
(d)前記制御性または誘導性転写制御配列が、制御性または誘導性プロモーターであり、
場合により、転写および/または翻訳の陽性モジュレーター(アクチベーター)および/または陰性モジュレーター(リプレッサー)が、前記パラクリンポリペプチドをコードする核酸、遺伝子、転写産物またはメッセージに作動可能に連結されている、(c)に記載の方法;
(e)転写制御配列に作動的に連結された、前記パラクリンポリペプチドをコードする核酸、遺伝子、転写産物もしくはメッセージ、または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物の、それを必要とする個体または患者への投与が、結果として、パラクリンタンパク質を血流もしくは全身循環に放出させることになり、または前記細胞において前記パラクリンタンパク質の増大もしくは持続した発現を生じさせることになり、
場合により、前記パラクリンタンパク質の前記放出または増大もしくは持続した発現が、前記パラクリンポリペプチドをコードする核酸、遺伝子、転写産物またはメッセージに作動可能に連結された、誘導性プロモーターの活性化、またはリプレッサーの抑制解除に依存する、(a)から(d)のいずれかに記載の方法;あるいは
(f)in vivoで増大したパラクリンポリペプチドレベルに応答する前記疾患、感染症または状態が、心収縮機能不全;うっ血性心不全(CHF);心線維症;心筋細胞疾患、機能不全もしくはアポトーシス;肺高血圧;心臓、皮膚、肝臓、肺、筋肉、神経、脳もしくは腎臓の疾患、癌もしくは機能不全;癌もしくは新生物;または血友病もしくは血友病Bである、(a)から(e)のいずれかに記載の方法
を含む。
【0005】
本発明の方法の代替実施形態において、
(a)前記転写制御配列に作動的に連結された、前記パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子;または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物は、経口、筋肉内(IM)注射により、静脈内(IV)注射により、皮下(SC)もしくは皮内注射により、髄腔内注射により、動脈内(IA)注射により、冠動脈内注射により、吸入により、エアロゾルにより、または微粒子銃(biolistic)粒子送達システムにより、または「遺伝子銃」、エアピストルもしくはHELIOS(商標)遺伝子銃(Bio−Rad lAboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を使用することにより、それを必要とする個体または患者に投与または送達される;あるいは
(b)前記転写制御配列に作動的に連結された、前記パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子;または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物は、それを必要とする個体または患者に、血流に隣接しているもしくは血流が流れ込む体内の任意の組織または液腔への導入により、そのコードされているタンパク質を前記組織内の細胞から分泌して血流に放出することができるように投与または送達される。
【0006】
本発明の方法の代替実施形態において、前記パラクリンポリペプチドまたはペプチドは、哺乳動物強心性ペプチド、成長因子、セレラキシン、リラキシン−2、ウロコルチン−2(UCn−2)、ウロコルチン−1(UCn−1)、ウロコルチン−3(UCn−3)、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1、もしくはこれらの任意の組み合わせ;またはヒト強心性ペプチド、ヒト成長因子、セレラキシン、リラキシン−2、ウロコルチン−2、ウロコルチン−1、ウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−11、もしくはこれらの任意の組み合わせであるか、またはそれらを含む。
【0007】
本発明の方法の代替実施形態において、前記パラクリンポリペプチドは、ウロコルチン、ウロコルチン−2、ウロコルチン−1、ウロコルチン−3、リラキシン−2もしくは脳ナトリウム排泄増加性ペプチドであり、かつ前記疾患もしくは状態は、うっ血性心不全(CFH)である;または前記パラクリンポリペプチドは、プロスタサイクリンシンターゼであり、ならびに前記疾患もしくは状態肺高血圧および前記疾患もしくは状態は、うっ血性心不全(CFH)である;または前記パラクリンポリペプチドは、プロスタサイクリンシンターゼであり、かつ前記疾患もしくは状態は、肺高血圧である。
【0008】
本発明の方法の代替実施形態において、
(a)前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子の発現を誘導する刺激もしくはシグナル、または前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子の発現を誘導するプロモーター(例えば、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子に作動可能に連結されたもの)を誘導もしくは活性化する刺激もしくはシグナルを、前記個体、患者または被験体に投与する;
(b)プロモーター、場合により、パラクリン発現性核酸または遺伝子特異的プロモーター(例えば、前記パラクリン発現性核酸または遺伝子に作動可能に連結されたもの)のアクチベーターの合成を誘導する刺激またはシグナルを、前記個体、患者または被験体に投与する;
(c)前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子のまたは前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子特異的プロモーターの天然もしくは合成アクチベーターの合成を誘導する刺激またはシグナルを、前記個体、患者または被験体に投与し、
場合により、前記天然アクチベーターは、内因性転写因子である;
(d)(c)に記載の方法において、前記合成アクチベーターは、内因性または外因性標的遺伝子を特異的にかつ選択的にオンにするように設計されたジンクフィンガーDNA結合タンパク質であり、場合により、前記内因性標的が、遺伝子パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子である、またはパラクリン発現性核酸もしくは遺伝子のアクチベーターである、またはパラクリン発現性核酸もしくは遺伝子に作動的に連結されたプロモーターのアクチベーターである;
(e)(a)から(c)のいずれかに記載の方法において、前記刺激またはシグナルは、生物学的、光、化学的または薬学的刺激またはシグナルを含む;
(f)パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子の転写後アクチベーター、またはパラクリン発現性核酸もしくは遺伝子に作動的に連結されたプロモーターのアクチベーター、の発現を刺激または誘導する刺激またはシグナルを、前記個体、患者または被験体に投与する;あるいは
(g)パラクリン発現性核酸または遺伝子の転写リプレッサーまたは転写後リプレッサーを阻害するまたはその阻害を誘導する刺激またはシグナルを、前記個体、患者または被験体に投与する。
【0009】
本発明の方法の代替実施形態において、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子の発現を誘導する、または前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子に作動的に連結された制御性もしくは誘導性プロモーターの発現を誘導する、前記化学物質または医薬は、経口抗生物質、ドキシサイクリンまたはラパマイシンである;あるいはドキシサイクリンを使用するtet−制御システムを、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子またはそれらの等価物の発現を誘導するために使用する。
【0010】
本発明の方法の代替実施形態において、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物は、液体、ゲル、ヒドロゲル、粉末または水性製剤中に製剤化される。
【0011】
本発明の方法の代替実施形態において、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物、または前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドは、小胞、リポソーム、ナノ粒子もしくはナノ脂質粒子(nanolipid particle:NLP)もしくは等価物中で製剤化されるか、または小胞、リポソーム、ナノ粒子もしくはナノ脂質粒子(NLP)もしくは等価物を使用する送達のために製剤化される。
【0012】
本発明の方法の代替実施形態において、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物は、単離もしくは培養された細胞中で製剤化され、または単離もしくは培養された細胞に挿入もしくはトランスフェクトされ、および場合により、前記細胞は、哺乳動物細胞、心臓細胞、またはヒト細胞、非ヒト霊長類細胞、サル細胞、マウス細胞、ラット細胞、モルモット細胞、ウサギ細胞、ハムスター細胞、ヤギ細胞、ウシ細胞、ウマ細胞、ヒツジ細胞、イヌ細胞またはネコ細胞である。
【0013】
本発明の方法の代替実施形態において、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物、または前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドは、医薬または滅菌製剤として製剤化される。
【0014】
本発明の方法の代替実施形態において、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物、または前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドは、製品、人工臓器もしくインプラントとともに製剤化もしくは送達されるか、または製品、人工臓器もしくインプラント上で製剤化もしくは送達されるか、または製品、人工臓器もしくインプラントと組み合わせて製剤化もしくは送達される。
【0015】
本発明の方法の代替実施形態において、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物は、in vitroまたはex vivoでパラクリンポリペプチドを発現する。
【0016】
代替実施形態において、本発明は、本発明の方法を実施することを含む、個体または患者を、パラクリン応答性病態、感染症、疾患、病気または状態に対して処置する、改善するまたは保護する(予防する)ための方法を提供する。
【0017】
代替実施形態において、本発明は、本発明の方法を実施することを含む、心収縮機能不全;うっ血性心不全(CHF);心線維症;心筋細胞疾患、機能不全もしくはアポトーシス;肺高血圧;心臓、皮膚、肝臓、肺、筋肉、神経、脳もしくは腎臓の疾患、癌もしくは機能不全;癌もしくは新生物;または血友病もしくは血友病Bを処置する、改善するまたは防ぐ(予防する)ための方法を提供する。
【0018】
代替実施形態において、本発明は、患者または個体において糖尿病または前糖尿病を処置する、改善するまたは防ぐ(予防する)方法を提供し、該方法は、
(a)前記パラクリンポリペプチドまたはペプチドが、ウロコルチン−2(UCn−2)を含むまたはそれから成る、本発明の方法を実施する工程;および
(b)ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、またはウロコルチン−2(UCn−2)をコードする核酸、遺伝子、メッセージもしくは転写産物を、それを必要とする個体または患者に投与する工程であって、
場合により、前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドまたはポリペプチドが、単離、組換え、合成および/もしくはペプチド模倣ペプチドもしくはポリペプチドまたはそれらの改変体である、工程;
を含み、それにより、前記患者または個体において糖尿病または前糖尿病を処置する、改善するまたは防ぐ(予防する)。
【0019】
代替実施形態において、本発明は、患者または個体において肥満症を処置する、改善するまたは防ぐ(予防する)方法を提供し、該方法は、
(a)前記パラクリンポリペプチドまたはペプチドが、ウロコルチン−2(UCn−2)を含むまたはそれから成る、本発明の方法を実施する工程;および
(b)ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、またはウロコルチン−2(UCn−2)をコードする核酸、遺伝子、メッセージもしくは転写産物を、それを必要とする個体または患者に投与する工程であって、
場合により、前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドまたはポリペプチドが、単離、組換え、合成および/もしくはペプチド模倣ペプチドもしくはポリペプチドまたはそれらの改変体である工程;
を含み、それにより、前記患者または個体において肥満症を処置する、改善するまたは防ぐ(予防する)。
【0020】
代替実施形態において、本発明は、患者または個体において体重増加を抑制する、または食欲を抑制する、または体重減少を刺激するもしくは開始させる方法を提供し、該方法は、
(a)前記パラクリンポリペプチドまたはペプチドが、ウロコルチン−2(UCn−2)を含むまたはそれから成る、本発明の方法を実施する工程;および
(b)ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、またはウロコルチン−2(UCn−2)をコードする核酸、遺伝子、メッセージもしくは転写産物を、それを必要とする個体または患者に投与する工程であって、
場合により、前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドまたはポリペプチドが、単離、組換え、合成および/もしくはペプチド模倣ペプチドもしくはポリペプチドまたはそれらの改変体である工程;
を含み、それにより、前記患者または個体において体重増加を抑制する、または食欲を抑制する、または体重減少を刺激するもしくは開始させる。
【0021】
代替実施形態において、前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドまたはポリペプチドは、小胞、リポソーム、ナノ粒子もしくはナノ脂質粒子(NLP)中でまたは小胞、リポソーム、ナノ粒子もしくはナノ脂質粒子(NLP)として製剤化されるか、経口投与、筋肉内(IM)注射、静脈内(IV)注射、皮下(SC)もしくは皮内注射、髄腔内注射、動脈内(IA)注射、冠動脈内注射、吸入、またはエアロゾルによる投与のために製剤化される。
本発明は、例えば、以下の項目も提供される。
(項目1)
個体または患者を、in vivoで増大または持続したペプチドもしくはパラクリンポリペプチドのレベルに応答する疾患、感染症または状態に対して処置する、改善するまたは保護する(予防する)ための方法であって、
(a)(i)転写制御配列に作動的に連結された、パラクリンポリペプチドをコードする核酸または遺伝子;あるいはパラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはパラクリンポリペプチド発現性核酸、転写産物もしくはメッセージ、をその中に含有している発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスまたは等価物であって、前記パラクリンをコードする核酸、遺伝子、転写産物もしくはメッセージを細胞においてまたはin vivoで発現することができる、発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスまたは等価物を提供する工程;および
(ii)転写制御配列に作動的に連結された、前記パラクリンポリペプチドをコードする核酸、遺伝子、転写産物もしくはメッセージ、または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物を、前記細胞、またはそれを必要とする個体もしくは患者に投与または送達し、それによって、前記個体または患者を、増大または持続したパラクリンポリペプチドレベルに応答する前記疾患、感染症または状態に対して処置する、改善するまたは保護する(予防する)工程を包含する、方法;
(b)前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルス、または等価物が、
アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルスベクターまたはアデノウイルスベクター、
AAV血清型AAV5、AAV6、AAV8またはAAV9、
アカゲザル由来AAV、またはアカゲザル由来AAV AAVrh.10hCLN2、
AAVカプシド変異体またはAAVハイブリッド血清型、
臓器指向性AAV、または心臓指向性AAV、または心臓指向性AAVM41変異体であるか、またはこれらを含み、
場合により、前記AAVが、野生型(wt)AAVを許容しない特異的細胞タイプに標的化することにおける効率を増大させるように、および/または対象となる細胞タイプのみを感染させることでの効力を改善させるように操作される、ならびに
場合により、前記ハイブリッドAAVが、1)カプシド転換、2)カプシド表面への二重特異性抗体の吸着、3)モザイクカプシドの操作、および/または4)キメラカプシドの操作を含む1つ以上の修飾によってハイブリッド血清型として再標的化または操作される、(a)に記載の方法;
(c)前記パラクリンをコードする核酸、遺伝子、転写産物またはメッセージが、制御性または誘導性転写制御配列に作動的に連結されている、(a)に記載の方法;
(d)前記制御性または誘導性転写制御配列が、制御性または誘導性プロモーターであり、
場合により、転写および/または翻訳の陽性モジュレーター(アクチベーター)および/または陰性モジュレーター(リプレッサー)が、前記パラクリンポリペプチドをコードする核酸、遺伝子、転写産物またはメッセージに作動可能に連結されている、(c)に記載の方法;
(e)転写制御配列に作動的に連結された、前記パラクリンをコードする核酸、遺伝子、転写産物もしくはメッセージ、または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物の、それを必要とする個体または患者へ投与する工程が、結果として、パラクリンタンパク質を血流もしくは全身循環に放出させることになり、または前記細胞において前記パラクリンタンパク質の増大もしくは持続した発現を生じさせることになり、
場合により、前記パラクリンタンパク質の前記放出または増大もしくは持続した発現が、前記パラクリンポリペプチドをコードする核酸、遺伝子、転写産物またはメッセージに作動可能に連結された、誘導性プロモーターの活性化、またはリプレッサーの抑制解除に依存する、(a)から(d)のいずれかに記載の方法;あるいは
(f)in vivoで増大したパラクリンポリペプチドレベルに応答する前記疾患、感染症または状態が、心収縮機能不全;うっ血性心不全(CHF);心線維症;心筋細胞疾患、機能不全もしくはアポトーシス;肺高血圧;心臓、皮膚、肝臓、肺、筋肉、神経、脳もしくは腎臓の疾患、癌もしくは機能不全;癌もしくは新生物;または血友病もしくは血友病Bである、(a)から(e)のいずれかに記載の方法
を含む、方法。
(項目2)
(a)前記転写制御配列に作動的に連結された、前記パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子;または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物が、経口、筋肉内(IM)注射により、静脈内(IV)注射により、皮下(SC)もしくは皮内注射により、髄腔内注射により、動脈内(IA)注射により、冠動脈内注射により、吸入により、エアロゾルにより、または微粒子銃粒子送達システムにより、または「遺伝子銃」、エアピストルもしくはHELIOS(商標)遺伝子銃(Bio−Rad lAboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を使用することにより、それを必要とする個体または患者に投与または送達される;あるいは
(b)前記転写制御配列に作動的に連結された、前記パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子;または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物が、それを必要とする個体または患者に、血流に隣接しているもしくは血流が流れ込む体内の任意の組織または液腔への導入によって、そのコードされているタンパク質を前記組織内の細胞から分泌して血流に放出することができるように投与または送達される、
項目1に記載の方法。
(項目3)
前記パラクリンポリペプチドまたはペプチドが、哺乳動物強心性ペプチド、成長因子、セレラキシン、リラキシン−2、ウロコルチン−2(UCn−2)、ウロコルチン−1(UCn−1)、ウロコルチン−3(UCn−3)、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1、もしくはこれらの任意の組み合わせ;またはヒト強心性ペプチド、ヒト成長因子、セレラキシン、リラキシン−2、ウロコルチン−2、ウロコルチン−1、ウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−11、もしくはこれらの任意の組み合わせであるか、またはそれらを含む、項目1または項目2に記載の方法。
(項目4)
前記パラクリンポリペプチドが、ウロコルチン、ウロコルチン−2、ウロコルチン−1、ウロコルチン−3、リラキシン−2もしくは脳ナトリウム排泄増加性ペプチドであり、かつ前記疾患もしくは状態が、うっ血性心不全(CHF)である;または前記パラクリンポリペプチドが、プロスタサイクリンシンターゼであり、かつ前記疾患もしくは状態が肺高血圧である、項目3に記載の方法。
(項目5)
(a)前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子の発現を誘導する刺激もしくはシグナル、または前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子の発現を誘導するプロモーター(例えば、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子に作動可能に連結されたもの)を誘導もしくは活性化する刺激もしくはシグナルを、前記個体、患者または被験体に投与する;
(b)プロモーター、場合により、パラクリン発現性核酸または遺伝子特異的プロモーター(例えば、前記パラクリン発現性核酸または遺伝子に作動可能に連結されたもの)のアクチベーターの合成を誘導する刺激またはシグナルを、前記個体、患者または被験体に投与する;
(c)前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子のまたは前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子特異的プロモーターの天然もしくは合成アクチベーターの合成を誘導する刺激またはシグナルを、前記個体、患者または被験体に投与し、
場合により、前記天然アクチベーターが、内因性転写因子である;
(d)(c)に記載の方法において、前記合成アクチベーターが、内因性または外因性標的遺伝子を特異的にかつ選択的にオンにするように設計されたジンクフィンガーDNA結合タンパク質であり、場合により、前記内因性標的が、遺伝子パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子である、またはパラクリン発現性核酸もしくは遺伝子のアクチベーターである、またはパラクリン発現性核酸もしくは遺伝子に作動的に連結されたプロモーターのアクチベーターである;
(e)(a)から(c)のいずれかに記載の方法において、前記刺激またはシグナルが、生物学的、光、化学的または薬学的刺激またはシグナルを含む;
(f)パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子の転写後アクチベーター、またはパラクリン発現性核酸もしくは遺伝子に作動的に連結されたプロモーターのアクチベーター、の発現を刺激または誘導する刺激またはシグナルを前記個体、患者または被験体に投与する;あるいは
(g)パラクリン発現性核酸または遺伝子の転写リプレッサーまたは転写後リプレッサーを阻害するまたはその阻害を誘導する刺激またはシグナルを前記個体、患者または被験体に投与する、
項目1から4のいずれかに記載の方法。
(項目6)
前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子の発現を誘導する、または前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子に作動的に連結された制御性もしくは誘導性プロモーターの発現を誘導する、前記化学的または薬学的刺激またはシグナルが、経口抗生物質、ドキシサイクリンまたはラパマイシンである;あるいはドキシサイクリンを使用するtet−制御システムが、前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子またはそれらの等価物の発現を誘導するために使用される、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物が、液体、ゲル、ヒドロゲル、粉末または水性もしくは食塩水製剤中で製剤化される、項目1から4のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物が、小胞、リポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子(NLP)中で製剤化される、項目1から4のいずれかに記載の方法。
(項目9)
前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物が、単離または培養細胞中で製剤化され、および場合により、前記細胞が、哺乳動物細胞、心臓細胞、またはヒト細胞、非ヒト霊長類細胞、サル細胞、マウス細胞、ラット細胞、モルモット細胞、ウサギ細胞、ハムスター細胞、ヤギ細胞、ウシ細胞、ウマ細胞、ヒツジ細胞、イヌ細胞またはネコ細胞である、項目1から8のいずれかに記載の方法。
(項目10)
前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物が、医薬として製剤化される、または無菌である、項目1から8のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物が、製品、人工臓器もしくインプラントとともに製剤化もしくは送達されるか、または製品、人工臓器もしくインプラント上で製剤化もしくは送達されるか、または製品、人工臓器もしくインプラントと組み合わせて製剤化もしくは送達される、項目1から8のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記パラクリン発現性核酸もしくは遺伝子または前記発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスもしくは等価物が、in vitroまたはex vivoでパラクリンポリペプチドを発現する、項目1から11のいずれかに記載の方法。
(項目13)
項目1から12のいずれかに記載の方法を実施することを含む、個体または患者を、パラクリン応答性病態、感染症、疾患、病気または状態に対して処置する、改善するまたは保護する(予防する)ための方法。
(項目14)
項目1から12のいずれかに記載の方法を実施することを含む、心収縮機能不全;うっ血性心不全(CHF);心線維症;心筋細胞疾患、機能不全もしくはアポトーシス;肺高血圧;心臓、皮膚、肝臓、肺、筋肉、神経、脳もしくは腎臓の疾患、癌もしくは機能不全;癌もしくは新生物;または血友病もしくは血友病Bを処置する、改善するまたは防ぐ(予防する)ための方法。
(項目15)
患者または個体において糖尿病または前糖尿病を処置する、改善するまたは防ぐ(予防する)方法であって、
(a)パラクリンポリペプチドまたはペプチドが、ウロコルチン−2(UCn−2)を含むまたはそれから成る、項目1から12のいずれかに記載の方法を実施する工程;および
(b)ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、またはウロコルチン−2(UCn−2)をコードする核酸、遺伝子、メッセージもしくは転写産物を、それを必要とする個体または患者に投与し、それにより、前記患者または個体において前記糖尿病または前糖尿病を処置する工程を含み、ここで
場合により、前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドまたはポリペプチドが、単離、組換え、合成および/もしくはペプチド模倣ペプチドもしくはポリペプチドまたはそれらの改変体である、方法。
(項目16)
患者または個体において肥満症を処置する、改善するまたは防ぐ(予防する)方法であって、
(a)パラクリンポリペプチドまたはペプチドが、ウロコルチン−2(UCn−2)を含むまたはそれから成る、項目1から12のいずれかに記載の方法を実施する工程;および
(b)ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、またはウロコルチン−2(UCn−2)をコードする核酸、遺伝子、メッセージもしくは転写産物を、それを必要とする個体または患者に投与し、それにより、前記患者または個体において肥満症を処置する、改善するまたは防ぐ(予防する)工程を含み、ここで、
場合により、前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドまたはポリペプチドが、単離、組換え、合成および/もしくはペプチド模倣ペプチドもしくはポリペプチドまたはそれらの改変体である、方法。
(項目17)
患者または個体において体重増加を抑制する、または食欲を抑制する、または体重減少を刺激するもしくは開始させる方法であって、
(a)パラクリンポリペプチドまたはペプチドが、ウロコルチン−2(UCn−2)を含むまたはそれから成る、項目1から12のいずれかに記載の方法を実施する工程;および
(b)ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、またはウロコルチン−2(UCn−2)をコードする核酸、遺伝子、メッセージもしくは転写産物を、それを必要とする個体または患者に投与し、それにより、前記患者または個体において体重増加を抑制する、または食欲を抑制する、または体重減少を刺激するもしくは開始させる工程を含み、ここで、
場合により、前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドまたはポリペプチドが、単離、組換え、合成および/もしくはペプチド模倣ペプチドもしくはポリペプチドまたはそれらの改変体である、方法。
(項目18)
前記ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドまたはポリペプチドが、小胞、リポソーム、ナノ粒子もしくはナノ脂質粒子(NLP)中でまたは小胞、リポソーム、ナノ粒子もしくはナノ脂質粒子(NLP)として製剤化されるか、経口投与、筋肉内(IM)注射、静脈内(IV)注射、皮下(SC)もしくは皮内注射、髄腔内注射、動脈内(IA)注射、冠動脈内注射、吸入、またはエアロゾルによる投与のために製剤化される、項目15から17のいずれかに記載の方法。
【0022】
本発明の1つ以上の実施形態についての詳細を、添付の図面および下の説明の中で示す。本発明の他の特徴、目的および利点は、その説明およびそれらの図面から、ならびに本請求項から明らかになる。
【0023】
本明細書において引用するすべての出版物、特許および特許出願は、あらゆる目的のために参照により本明細書に明示的に援用されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、IGF1をコードするAAV5を含む本発明の例示的構築物を例証するものであり、これを下の実施例2において説明する。
図2図2Aおよび図2Bは、培養新生仔ラット心筋細胞を本発明の例示的AAV5.IGFI.tet構築物に感染させ、IGFIを誘導し、発現させ、その後、測定した研究からのデータを例証するものであり、これらを下の実施例2において説明する。
図3図3は、例示的AAV5.IGFI.tetでの遺伝子導入後、ドキシサイクリンを添加し、その後、除去する、培養新生仔ラット心筋細胞におけるIGFI mRNA発現についての制御性発現をグラフで例証するものであり、これを下の実施例2において説明する。
図4A図4Aは、AAV5.EGFP遺伝子導入の3週間後のラットの片側前脛骨筋におけるEGFP発現を示す顕微鏡写真を図示するものであり;および図4Bは、CHFにおける骨格筋IGFI発現の効果を測定する心エコー検査からのデータを要約する表4であり、これらを下の実施例2において説明する。
図4B図4Aは、AAV5.EGFP遺伝子導入の3週間後のラットの片側前脛骨筋におけるEGFP発現を示す顕微鏡写真を図示するものであり;および図4Bは、CHFにおける骨格筋IGFI発現の効果を測定する心エコー検査からのデータを要約する表4であり、これらを下の実施例2において説明する。
図5図5は、CHFの際の骨格筋における本発明の例示的AAV5.IGFI.tetの遺伝子導入のための実験プロトコルを図示するものであり、これを下の実施例2において説明する。
図6図6は、心臓アポトーシスおよび心線維症に対するAAV5.IGFI−tet遺伝子導入の効果を例証するものである:図6Aは、IGFI発現の活性化(IGF−オン)が、心筋細胞アポトーシス低減と関連づけられることを示したTUNEL染色からのデータをグラフで例証するものであり;図6Bは、低減された心線維症、およびコラーゲン面積率が低減されたことを示した、IGF−オフおよびIGF−オンラットからの非梗塞心室内中隔のピクロシリウスレッド染色切片を図示するものであり;ならびに図6Cは、IGF−オフおよびIGF−オンラットからのこのデータをグラフで示すものであり、これらを下の実施例2において説明する。
図7図7は、本発明のAAV5構築物を投与したときの具体例としての、マウスにおける静脈内送達、ラットにおける筋肉内送達時に、IGFIの血清レベルを増大させる点で静脈内投与のほうが筋肉内投与より良好な結果をもたらすことをグラフで例証するものであり、これを下の実施例2において説明する。
図8図8は、肝臓および心臓におけるコピー数および導入遺伝子発現をエンドポイントとして使用する本発明の例示的AAV5およびAAV9構築物の静脈内送達の相対的効力を示すデータをグラフでおよび画像により例証するものであり、これを下の実施例2において説明する。
図9図9は、本発明の方法を実施するときに所望のまたは特定の適応症に使用するために最も適切なベクターを決定および試験するための例示的プロトコルを図示するものであり、これを下の実施例2において論ずる。
図10図10A、10B、10C、10D、10Eおよび10Fは、本発明の例示的ベクター構築物を例証するものであり、これらを下の実施例2において説明する。
図11図11は、IV AAV8が、パラクリンアプローチについての持続して増大したレベルの血清ウロコルチン−2(UCn−2)を達成するために最適なベクターおよび送達経路であることを示すデータをグラフで例証するものであり、これを下の実施例3において説明する。
図12図12Aは、例示的AAV8.CBA.UCn2構築物のIV投与後の肝臓におけるUCn2 mRNA発現の時間経過をグラフで例証するものであり;および図12Bは、AAV8.CBA.UCn2 IV投与の6週間後のLVにおけるUCn2 mRNA発現を示すデータをグラフで例証するものであり、これらを下の実施例3において説明する。
図13図13は、UCn2遺伝子導入が、正常マウスにおいて静脈内(IV)送達による本発明の例示的AAV8.UCn2構築物の送達によってLV機能を上昇させたかどうかを決定するための研究からのデータをグラフで例証するものである:図13Aは、UCn2遺伝子導入がLV収縮機能を上昇させたことを示すデータをグラフで例証するものであり;図13Bは、−dP/dtもまた低減されたこと(これは、LV弛緩増進を示す)を示すデータをグラフで例証するものであり、これらを下の実施例3において説明する。
図14図14は、不全心臓に対するUCn2導入の効果を示すデータを例証するものである:図14Aは、研究プロトコルを図示するものであり;ならびに図14Bおよび14Cは、不全心臓に対するUCn2導入の効果を示すデータを例証するものであり、これらを下の実施例3において説明する。
図15図15は、正常マウスに例示的AAV8.CBA.UCn2のIV送達を施し、そして4週間後、そのUCn2遺伝子導入群からのLV試料が、SERCA2aタンパク質発現の2倍増大を示したデータを、図15Aはグラフにより、図15Bは免疫ブロットにより、例証するものであり、これらを下の実施例3において説明する。
図16図16は、UCn2遺伝子導入後のCa2+トランジェントのデータを示す:図16Aは、UCn2遺伝子導入が、Ca2+低下速度を増大させたことをグラフで例証するものであり;図16Bは、4週間前にUCN2遺伝子導入を施したマウスからの心筋細胞において時間対Ca2+トランジェント減衰が短縮されたことをグラフで例証するものであり、これらを下の実施例3において説明する。
図17図17は、UCn2が、培養新生仔ラット心筋細胞を低酸素傷害から保護するデータを示す:図17Aは、UCn2が、NaN処理の24時間後に形態学的正常性を維持することを例証するものであり;図17Bは、UCn2が、NaN処理後のLDH放出を低減させることをグラフで例証するものであり、これらを下の実施例3において説明する。
図18図18は、CREB(図18A)およびβ−カテニン(図18B)両方のリン酸化が、本発明の例示的UCn2.CBA.UCn2構築物のIV送達の4週間後のLV試料において検出されたことをグラフで例証するものであり、これを下の実施例3において説明する。
図19図19は、UCn2がグルコース制御に影響を及ぼすことを示すデータを例証するものである:マウスに例示的AAV8.CBA.UCn2のIV送達を施した:図19Aは、空腹時血糖の小規模の減少が、UCn2群において見られたことを例証するものであり:図19Bは、UCn2遺伝子導入が、グルコース利用を促進し、食事誘導高血糖を防ぐことを示す結果を例証するものであり、これらを下の実施例3において説明する。
図20図20A、20B、20C、20D、20Eおよび20Fは、本発明の例示的構築物を例証するものであり、これらを下の実施例3において説明する。これらの様々な図面において、同様の参照記号は、同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、個体をin vivoで増大したパラクリンレベルに応答する疾患、感染症または状態に対して処置するための、改善するための、または保護するための(予防法としての)、組成物ならびにin vivoおよびex vivo方法を提供し、該方法は、パラクリンをコードする核酸、遺伝子、転写産物またはメッセージの投与を含む。代替実施形態において、本発明は、任意のパラクリンポリペプチドまたはペプチド、例えば、哺乳動物強心性ペプチド、セレラキシン、リラキシン−2、ウロコルチン−2、ウロコルチン−1、ウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1、もしくはこれらの任意の組み合わせ;またはヒト強心性ペプチド、セレラキシン、リラキシン−2、ウロコルチン−2、ウロコルチン−1、ウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1、もしくはこれらの任意の組み合わせのin vivoもしくはin situ送達および/またはin vivo発現ならびに被調節発現のための、組成物および方法を提供する。
【0026】
代替実施形態において、本発明は、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子の、またはパラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子を含む(その中に含有している)発現ビヒクル(例えば、ベクター、組換えウイルスおよびこれらに類するもの)の、送達および被調節発現であって、パラクリンタンパク質が、体内の、例えば、心血管疾患を処置する場合には心臓に対して、または肺もしくは腎臓などに対して、あるいは他の標的に対して有益な効果を及ぼすことができる血流もしくは全身循環に放出される結果となる送達および被調節発現のための組成物および方法を提供する。
【0027】
代替実施形態において、本発明は、本発明の方法を実施するための、パラクリンをコードする核酸または遺伝子のin vivo発現のための、発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスおよびこれらに類するものを提供する。代替実施形態では、前記パラクリンをコードする核酸または遺伝子を発現する発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスおよびこれらに類するものを、筋肉内(IM)注射により、静脈内(IV)注射により、皮下注射により、吸入により、微粒子銃粒子送達システム(例えば、いわゆる「遺伝子銃」)、およびこれらに類するものにより、例えば、外来患者として、例えば外来診療中に、送達することができる。
【0028】
代替実施形態において、この「末梢」送達モード、例えば、IMまたはIV注射される発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスおよびこれらに類するものは、遺伝子または核酸が臓器(例えば、心臓、肺または腎臓)自体で直接発現されるときに遭遇する問題を回避することができる。血流または全身循環内への所望のパラクリンタンパク質(単数または複数)の持続分泌は、体内で非常に短い半減期を呈示する多くのタンパク質について特に問題になり得る、注入によるタンパク質投与の難しさおよび費用も回避し、このことを下の表1に要約する:
【0029】
【表1】
代替実施形態において、本発明は、調整された処置および最適な安全性の保険のための、パラクリン発現性核酸または遺伝子の発現を容易にかつ効率的にオンにするおよびオフにすることができる方法を提供する。
【0030】
代替実施形態において、前記パラクリン発現性核酸(単数もしくは複数)または遺伝子(単数もしくは複数)によって発現されるパラクリンタンパク質(単数または複数)は、組織もしくは臓器、例えば心臓、血管、肺、腎臓、または他の標的に対して、それらの作用部位(単数または複数)から距離を隔てた(例えば、解剖学的に遠隔の)位置で血液または全身循環に分泌されたとしても、有益なまたは好適な効果(例えば、治療または予防効果)を及ぼす。
【0031】
本発明の例示的実施形態では、例えばうっ血性心不全(CHF)または肺高血圧を処置するための方法を含むがこれらに限定されない本発明の方法を実施するために、ウロコルチン−2をコードするパラクリン発現性核酸または遺伝子を使用するが、他のパラクリン発現性核酸または遺伝子:ウロコルチン−1およびウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド(CHFのために)、プロスタサイクリンシンターゼ(肺高血圧のために)、成長ホルモンおよび/もしくはインスリン様成長因子−1、またはこれらの任意の組み合わせ、を使用してもよい。
【0032】
代替実施形態において、本発明は、心臓または肺疾患、例えば、うっ血性心不全(CHF)または肺高血圧を処置するためのパラクリン型遺伝子の被調節発現を提供する、制御性発現システムへの適用ならびに該発現システムのための組成物および方法を提供する。
【0033】
例えば、代替実施形態において、組換えウイルス(例えば、長期ウイルスもしくはウイルスベクター)、またはベクター、または発現ベクター、およびこれらに類するものを、例えば、体静脈に(例えば、IV)、または筋肉内(IM)注射により、吸入により、または微粒子銃粒子送達システム(例えば、いわゆる「遺伝子銃」)により、例えば、外来患者として、例えば医院で注射することができる。代替実施形態では、数日または数週間後(例えば、4週間後)、その個体、患者または被験体は、パラクリン発現性核酸または遺伝子の発現を誘導する化学物質または医薬を投与される(例えば、吸入する、注射される、または嚥下する);例えば、経口抗生物質(例えば、ドキシサイクリンまたはラパマイシン)が1日1回(またはより高もしくは低頻度)投与され、これは、前記遺伝子の発現を活性化することになる。代替実施形態では、前記核酸または遺伝子の発現の(例えば、誘導性プロモーターによる)「活性化」または誘導後、パラクリンタンパク質が合成され、前記被験体の循環に(例えば、血液中に)放出され、そしてその後、発現されるパラクリンタンパク質(単数または複数)に依存してその個体または患者に恩恵をもたらす(例えば、心臓、腎臓または肺機能に恩恵をもたらす)好適な生理効果、例えば、治療または予防効果を及ぼす。医師または被験体が処置の中止を望む場合、その被験体は、前記活性化化学物質または医薬、例えば抗生物質の摂取をやめる。
【0034】
本発明者らは、ウロコルチン−2をコードするAAVベクターを使用し、静脈内送達を用いてこのベクターをマウスに投与した。結果は、1)前記ベクターの静脈内送達の4〜6週間後、導入遺伝子の血清レベルの17倍増大;2)心収縮機能(収縮機能)に対する好ましい顕著な効果;および3)心臓弛緩(拡張機能)に対する好ましい顕著な効果を示した。
【0035】
代替実施形態において、本発明の適用としては、重症、低駆出率心不全の処置;肺高血圧の処置;駆出率が保たれている心不全の処置;肺高血圧および心不全の処置のために入院および血管作用性ペプチドの持続静脈内注入を必要とする現行治療の置き換え;ならびに他の状態の処置(この場合、パラクリン型遺伝子の被調節発現を用いて体内の一定の距離を隔てた位置での好ましい効果を促進することができる)が挙げられる。
【0036】
核酸の生成および操作
代替実施形態において、本発明の方法を実施するために、本発明は、パラクリンポリペプチドをコードする単離、合成および/または組換え核酸または遺伝子を提供する。代替実施形態において、本発明の方法を実施するために、本発明は、in vivo発現用の発現ビヒクル内の(例えば、該ビヒクルにスプライシングされた)、例えば、ベクターまたは組換えウイルス内の、組換え形態のパラクリン発現性核酸または遺伝子を提供する。他の代替実施形態において、本発明は、例えば、所望のパラクリン遺伝子の発現を阻害する遺伝子またはメッセージ(mRNA)の発現を阻害することができる阻害核酸(例えば、siRNA、マイクロRNA、アンチセンス、リボザイム)をコードする単離、合成および/または組換え核酸を提供する。
【0037】
代替実施形態では、本発明の核酸を、例えば、cDNAライブラリーのクローニングおよび発現、メッセージまたはゲノムDNAのPCRによる増幅、ならびにこれらに類するものによって、作製、単離および/または操作する。DNA、RNA、iRNA、アンチセンス核酸、cDNA、ゲノムDNA、ベクター、ウイルスまたはそれらのハイブリッドをはじめとする、本発明を実施するために使用する核酸および遺伝子を、様々な源から単離し、遺伝子操作し、増幅させ、および/または組換え発現/生成することができる。これらの核酸から生成される組換えポリペプチド(例えば、本発明を実施するために使用するパラクリンキメラタンパク質)を個々に単離またはクローニングし、所望の活性について試験することができる。例えば、ウイルス(例えば、AAV構築物もしくはハイブリッド)細菌、真菌、哺乳動物、酵母、昆虫または植物細胞発現システムまたは発現ビヒクルをはじめとする、任意の組換え発現システムまたは遺伝子療法送達ビヒクルを使用することができる。
【0038】
あるいは、本発明を実施するために使用する核酸を、例えば、Adams(1983)J.Am.Chem.Soc.105:661;Belousov(1997)Nucleic Acids Res.25:3440−3444;Frenkel(1995)Free Radic.Biol.Med.19:373−380;Blommers(1994)Biochemistry 33:7886−7896;Narang(1979)Meth.Enzymol.68:90;Brown(1979)Meth.Enzymol.68:109;Beaucage(1981)Tetra.Lett.22:1859;米国特許第4,458,066号に記載されているような周知の化学合成法によってin vitroで合成することができる。
【0039】
本発明を実施するために使用する核酸の操作法、例えば、サブクローニング、標識プローブ(例えば、クレノウポリメラーゼ、ニックトランスレーション、増幅を用いる、ランダム・プライマー標識)、シークエンシング、ハイブリダイゼーションおよびこれらに類するものなどは、科学および特許文献において十分に説明されている。例えば、Sambrook編、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(第2版)、第1−3巻、Cold Spring Harbor Laboratory、(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、Ausubel編、John Wiley & Sons,Inc.、New York(1997);LABORATORY TECHNIQUES IN BIOCHEMISTRY AND MOLECULAR BIOLOGY:HYBRIDIZATION WITH NUCLEIC ACID PROBES、第I部.Theory and Nucleic Acid Preparation、Tijssen編、Elsevier、N.Y.(1993)を参照されたし。
【0040】
本発明の方法を実施するために使用する核酸を得るおよび操作するための別の有用な手段は、ゲノム試料からのクローニング、ならびに所望される場合には、例えばゲノムクローンまたはcDNAクローンから単離または増幅された挿入物のスクリーニングおよび再クローニングである。本発明の方法において使用する核酸の源としては、例えば、哺乳動物人工染色体(MAC)、例えば米国特許第5,721,118号、同第6,025,115号参照;ヒト人工染色体、例えばRosenfeld(1997)Nat.Genet.15:333−335参照;酵母人工染色体(YAC);細菌人工染色体(BAC);P1人工染色体、例えばWoon(1998)Genomics50:306−316参照;P1由来ベクター(PAC)、例えばKern(1997)Biotechniques 23:120−124参照;コスミド、組換えウイルス、ファージまたはプラスミド、に含有されるゲノムまたはcDNAライブラリーが挙げられる。
【0041】
代替実施形態において、本発明の方法を実施するために、パラクリン融合タンパク質、およびそれらをコードする核酸を使用する。任意のパラクリンポリペプチド、例えば、ウロコルチン−1、ウロコルチン−2、ウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1タンパク質を、本発明を実施するために使用することができる。代替実施形態では、前記パラクリンタンパク質を異種ペプチドまたはポリペプチド、例えば、前記ポリペプチドを所望の細胞タイプ、例えば心筋細胞または肺細胞に標的化するためのペプチドに、融合させることができる。
【0042】
代替実施形態において、本発明を実施するために使用するタンパク質に接合または融合させる異種ペプチドまたはポリペプチドは、所望の特性、例えば蛍光検出、安定性の増大および/または単純化された精製、を付与するN末端識別ペプチドであり得る。本発明を実施するために使用するペプチドおよびポリペプチドを、例えば、より免疫原性の高いペプチドを生産するために、組換え合成ペプチドをより容易に単離するために、抗体および抗体発現性B細胞を同定および単離するために、ならびにこれらに類することのために、1つ以上の追加のドメインが連結されている融合タンパク質として合成することおよび発現させることもできる。検出および精製助長ドメインとしては、例えば、固定化金属での精製を可能にする金属キレート形成性ペプチド、例えばポリヒスチジントラクトおよびヒスチジン−トリプトファンモジュール;固定化免疫グロブリンでの精製を可能にするプロテインAドメイン;ならびにFLAG延長部/アフィニティー精製システム(Immunex Corp、ワシントン州シアトル)において利用されるドメインが挙げられる。精製を助長するために精製ドメインとペプチドまたはポリペプチドを含むモチーフとの間に切断可能リンカー配列、例えば第Xa因子またはエンテロキナーゼを包めること。例えば、発現ベクターは、エピトープをコードする核酸配列であって、チオレドキシンおよびエンテロキナーゼ切断部位が後に続く6つのヒスチジン残基に連結している核酸配列を含む場合がある(例えば、Williams(1995)Biochemistry 34:1787−1797;Dobeli(1998)Protein Expr.Purif.12:404−414を参照されたし)。前記ヒスチジン残基は、検出および精製を助長し、その一方で前記エンテロキナーゼ切断部位は、その融合タンパク質の残部からエピトープを精製する手段を与える。融合タンパク質をコードするベクターに関係する技術および融合タンパク質の応用は、科学および特許文献において十分に説明されている。例えば、Kroll(1993)DNA Cell.Biol.、12:441−53を参照されたし。
【0043】
本発明を実施するために使用する核酸または核酸配列は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、もしくはこれらのいずれかの断片;一本鎖であってもよく、もしくは二本鎖であってもよく、およびセンス鎖を表すこともあり、もしくはアンチセンス鎖を表すこともある、ゲノムもしくは合成起源のDNAもしくはRNA;ペプチド核酸(peptidic nucleic acid:PNA);または起源が天然もしくは合成の任意のDNA様もしくはRNA様材料であり得る。本発明を実施するために使用する化合物は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたはこれらのいずれかの任意の断片を含む「核酸」または「核酸配列」を含み;および一本鎖であってもよく、または二本鎖であってもよいゲノムまたは合成起源のDNAまたはRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、iRNA)を含み;およびセンス鎖であることもありもしくはアンチセンス鎖であることもあり、またはペプチド核酸(PNA)であることもあり、または例えばiRNA、リボヌクレオタンパク質(例えば、例えば、二本鎖iRNA、例えばiRNP)をはじめとする起源が天然もしくは合成の任意のDNA様もしくはRNA様材料であることもある。本発明を実施するために使用する化合物は、天然ヌクレオチドの公知類似体を含有する核酸、すなわち、オリゴヌクレオチドを含む。本発明を実施するために使用する化合物は、合成主鎖を有する核酸様構造を含む。例えば、Mata(1997)Toxicol.Appl.Pharmacol.144:189−197;Strauss−Soukup(1997)Biochemistry 36:8692−8698;Samstag(1996)Antisense Nucleic Acid Drug Dev 6:153−156を参照されたし。本発明を実施するために使用する化合物は、化学合成することができる一本鎖ポリデオキシヌクレオチドまたは2本の相補ポリデオキシヌクレオチド鎖を含む「オリゴヌクレオチド」を含む。本発明を実施するために使用する化合物は、5’ホスフェートを有さない合成オリゴヌクレオチドを含み、したがって、キナーゼの存在下でホスフェートとATPの付加がなく別のヌクレオチドにライゲートしない。合成オリゴヌクレオチドは、脱リン酸化されていない断片にライゲートすることができる。
【0044】
代替態様において、本発明を実施するために使用する化合物は、パラクリンポリペプチド(例えば、ウロコルチン−1、ウロコルチン−2、ウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1タンパク質)の生産に関与する遺伝子、または任意のDNAセグメントを含み;それは、コード領域の前後の領域(リーダーおよびトレイラー)はもちろん、該当する場合は、個々のコードセグメント(エキソン)間に介在配列(イントロン)も含むことがある。「作動可能に連結された」は、2つ以上の核酸(例えば、DNA)セグメント間の機能的関係を指すことができる。代替態様において、それは、転写制御配列と転写される配列の機能的関係を指すことができる。例えば、プロモーターは、本発明を実施するために使用する核酸などのコード配列に、それが、適切な宿主細胞または他の発現システムにおける該コード配列の転写を刺激または修飾する場合、作動可能に連結され得る。代替態様において、プロモーター転写制御配列は、転写される配列に、それらがその転写される配列に物理的に隣接し得る場合、すなわち、それらがcis作用性であることができる場合、作動可能に連結され得る。代替実施形態において、転写制御配列、例えばエンハンサーは、その転写をそれらが増進させるコード配列に物理的に隣接している必要はなく、極めて近接した位置にある必要もない。
【0045】
代替態様において、本発明は、本発明を実施するために使用するヌクレオチド配列を含む「発現カセット」であって、かかる配列と適合性の宿主における核酸、例えば構造遺伝子または転写産物(例えば、パラクリンタンパク質をコードするもの)の発現に影響を及ぼすことが可能であり得る「発現カセット」の使用を含む。発現カセットは、ポリペプチドコード配列または阻害配列と、および1つの態様では他の配列、例えば転写終結シグナルと、動作可能に連結された少なくとも1つのプロモーターを含むことができる。発現を果たすのに必要なまたは役立つ追加の因子、例えばエンハンサーも使用してもよい。
【0046】
代替態様において、本発明を実施するために使用する発現カセットは、プラスミド、発現ベクター、組換えウイルス、任意の形態の組換え型「裸のDNA」ベクター、およびこれらに類するものも含む。代替態様において、本発明を実施するために使用する「ベクター」は、細胞を感染させること、トランスフェクトすること、一過的にまたは永久に形質導入することができる、核酸を含むことができる。代替態様において本発明を実施するために使用するベクターは、裸の核酸である場合があり、またはタンパク質もしくは脂質と複合体化した核酸である場合がある。代替態様において、本発明を実施するために使用するベクターは、ウイルスもしくは細菌核酸および/もしくはタンパク質、ならびに/または膜(例えば、細胞膜、ウイルス脂質エンベロープなど)を含むことができる。代替態様において、本発明を実施するために使用するベクターは、レプリコン(例えば、RNAレプリコン、バクテリオファージ)を、これらに限定されないが、含むことができ、該レプリコンにDNAの断片が結合され、複製されることになり得る。したがって、ベクターは、RNA、自律自己複製性環状または線状DNAまたはRNA(例えば、プラスミド、ウイルス、およびこれらに類するもの、例えば米国特許第5,217,879号参照)を、これらに限定されないが、含み、および発現プラスミドと非発現プラスミドの両方を含むことができる。代替態様において、本発明を実施するために使用するベクターは、細胞により有糸分裂中に自律構造として安定して複製されることがあり、または宿主のゲノム内に組み込まれることがある。
【0047】
代替態様において、本発明を実施するために使用する「プロモーター」は、細胞、例えば、哺乳動物細胞、例えば心臓、肺、筋肉、神経または脳細胞においてコード配列の転写を駆動することが可能なすべての配列を含む。したがって、本発明の構築物において使用するプロモーターは、遺伝子の転写のタイミングおよび/または速度の制御または修飾に関与するcis作用性転写調節エレメントおよび制御配列を含む。例えば、本発明を実施するために使用するプロモーターは、転写制御に関与する、エンハンサー、プロモーター、転写ターミネーター、複製起点、染色体組込配列、5’および3’非翻訳領域またはイントロン配列をはじめとする、cis作用性転写調節エレメントであり得る。これらのcis作用性配列は、典型的に、タンパク質または他の生体分子と相互作用して転写を行う(オン/オフにする、制御する、修飾するなど)。
【0048】
代替実施形態において、本発明を実施するために使用する「構成的」プロモーターは、発生および細胞分化の大部分の環境条件および状況下で発現を継続的に駆動するものであり得る。代替実施形態において、本発明を実施するために使用する「誘導性」または「制御性」プロモーターは、環境条件、投与された化学薬剤または発生条件の影響下で本発明の核酸の発現を誘導することができる。
【0049】
遺伝子療法および遺伝子送達ビヒクル
代替実施形態において、本発明の方法は、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはパラクリンポリペプチド発現性核酸、転写産物もしくはメッセージ、のペイロードを細胞(単数または複数)にin vitro、ex vivoまたはin vivoで送達するための、例えば遺伝子療法送達ビヒクルとしての、核酸(例えば、遺伝子またはポリペプチドをコードする核酸)送達システムの使用を含む。
【0050】
代替実施形態において、本発明の方法を実施するために使用する発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルスまたは等価物は、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルスベクターもしくはアデノウイルスベクター;AAV血清型AAV5、AAV6、AAV8もしくはAAV9;アカゲザル由来AAV、もしくはアカゲザル由来AAV AAVrh.10hCLN2;臓器指向性AAV、もしくは心臓指向性AAV、もしくは心臓指向性AAVM41変異体;および/またはAAVカプシド変異体もしくはAAVハイブリッド血清型である、またはこれらを含む。代替実施形態において、前記AAVは、野生型(wt)AAVを許容しない特異的細胞タイプに標的化することにおける効率を増大させるようにおよび/または対象となる細胞タイプのみを感染させることでの効力を改善させるように操作される。代替実施形態において、前記ハイブリッドAAVは、1)カプシド転換、2)カプシド表面への二重特異性抗体の吸着、3)モザイクカプシドの操作、および/または4)キメラカプシドの操作を含む1つ以上の修飾によってハイブリッド血清型として再標的化または操作される。野生型(wt)ウイルスを許容しない特異的細胞タイプに標的化することにおける効率を増大させるようにおよび対象となる細胞タイプのみを感染させることでの効力を改善させるようにアデノ随伴ウイルス(AAV)を操作する方法は、当該技術分野において周知である;例えば、Wuら、Mol.Ther.2006年9月;14(3):316−27、Epub 2006年7月7日;Choiら、Curr.Gene Ther.2005年6月、5(3):299−310を参照されたし。
【0051】
例えば、アカゲザル由来AAV AAVrh.10hCLN2またはその等価物を使用することができ、前記アカゲザル由来AAVは、ヒトのいずれの既存免疫によっても阻害されないことがある;例えば、Sondhiら、Hum Gene Ther.Methods.2012年10月、23(5):324−35、Epub 2012年11月6日;Sondhiら、Hum Gene Ther.Methods.2012年10月17日を参照されたし;これらは、ヒト用の規模に拡大可能な用量でのAAVrh.10hCLN2のラットおよび非ヒト霊長類のCNSへの直接投与が、許容可能な安全性プロファイルを有し、CNSにおける有意なペイロード発現を媒介することを教示している。
【0052】
また、例えば、心臓遺伝子導入用に特別設計されたAAVベクター(心臓指向性AAV)、例えば、心筋層における改善された形質導入効率および特異性を有するAAVM41変異体、例えば、Yangら、Viol J.2013年2月11日;10(1):50参照、を使用することができる。
【0053】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、霊長類の一般的な感染因子であり、それ故、健常な霊長類は、AAV媒介遺伝子導入治療戦略を阻害するAAV特異的中和抗体(neutralizing antibody:NAb)の大きなプールを有するので、本発明の方法は、個別化された処置設計を促進し、治療効力を増強するために、処置、特に、頻繁に使用されるAAVカプシド成分での処置に先立ち、AAV特異的NAbの候補患者のスクリーニングを含む;例えば、Sunら、J.Immunol.Methods.2013年1月31日;387(1−2):114−20、Epub 2012年10月11日を参照されたし。
【0054】
キットおよび説明書
本発明は、本発明の組成物および方法を、それらの使用説明書を含めて、含むキットを提供する。したがって、キット、細胞、発現ビヒクル(例えば、組換えウイルス、ベクター)およびこれらに類するものも提供することができる。
【0055】
例えば、代替実施形態において、本発明は、本発明を実施するために使用する組成物を含む、例えば、ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド;またはパラクリンをコードしている核酸、(b)本発明の液体または水性製剤、あるいは(c)本発明の小胞、リポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子を含む、キットを提供する。1つの態様では、キットは、本発明の任意の方法、例えば、血流中の所望のパラクリンレベルを増大させるための、または細胞、例えば心臓もしくは肺細胞、を保護するための、または糖尿病もしくは前糖尿病を処置する、予防するまたは改善するための、in vitroまたはex vivo方法、を実施するための説明書をさらに含む。
【0056】
製剤
代替実施形態において、本発明は、in vivoでパラクリンレベルを増大させることに使用するための組成物および方法を提供する。代替実施形態において、これらの組成物は、これらの目的のために製剤化されたパラクリンをコードする核酸、例えば、緩衝液中、食塩溶液中、粉末中、エマルジョン、小胞中、リポソーム中、ナノ粒子中、ナノ脂質粒子およびこれらに類するもの中の製剤化された発現ビヒクルまたはパラクリンをコードする核酸を含む。
【0057】
代替実施形態において、本発明は、糖尿病(1型および2型、もしくは成人発症型糖尿病を含む)もしくは前糖尿病、または肥満症もしくは過体重を処置、改善もしくは予防するための、または体重減少を刺激するための、または食欲抑制剤として作用するための、ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、またはUCn−2をコードする核酸の投与を含む方法を提供する。したがって、本発明は、そのための、ウロコルチン−2(Ucn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、またはUCn−2をコードする核酸の適切な製剤および投薬量を提供する。
【0058】
代替実施形態において、前記組成物(ウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、またはパラクリンをコードする(例えば、UCn−2をコードする)核酸、の製剤を含む)を、任意の方法で製剤化することができ、所望のin vivoまたex vivo投与方法およびこれらに類するものをはじめとする所望のin vitro、in vivoまたはex vivo条件に依存して、様々な濃度および形態で適用することができる。in vitro、in vivoまたはex vivo製剤化および投与のための技法の詳細は、科学および特許文献において十分に説明されている。
【0059】
本発明を実施するために使用する、パラクリンをコードする核酸のまたはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドの製剤および/または担体は、当該技術分野において周知である。本発明を実施するために使用する製剤および/または担体は、in vivoまたex vivo適用に適する形態、例えば、錠剤、ピル、粉末、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などであり得る。
【0060】
代替実施形態において、本発明を実施するために使用する、パラクリンをコードする核酸、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドは、水溶液および/もしくは緩衝溶液との混合物であることもあり、または水性および/もしくは緩衝懸濁液として存在することもあり、前記懸濁液は、例えば、懸濁化剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアラビアゴム、ならびに分散または湿潤剤、例えば、天然に存在するホスファチド(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸の縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール)、またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)を含む。前記水性懸濁液は、1つ以上の保存薬、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エチルまたはn−プロピルも含有することがある。例えば、適切な緩衝液の使用により、製剤の容量オスモル濃度を調整することができる。
【0061】
本発明を実施する際、本発明の化合物(例えば、製剤)は、医薬的に許容され得る担体に溶解された、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、の溶液を含む場合があり、例えば、用いることができる許容され得るビヒクルおよび溶媒としては、水およびリンゲル液、等張塩化ナトリウムが挙げられる。加えて、滅菌固定油を溶媒または懸濁媒体として用いることができる。このために、合成モノもしくはジグリセリド、または脂肪酸、例えばオレイン酸をはじめとする、任意の固定油を用いることができる。1つの実施形態において、本発明を実施するために使用する溶液および製剤は無菌であり、かつ望ましくない物質を概して含まないようにそれらを製造することができる。1つの実施形態において、これらの溶液および製剤を従来の周知の滅菌法によって滅菌することができる。
【0062】
本発明を実施するために使用する溶液および製剤は、必要に応じて、生理条件に近づけるための補助物質、例えばpH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムおよびこれらに類するものを含むことがある。これらの製剤中の活性薬剤(例えば、パラクリンをコードする核酸または遺伝子)の濃度は非常に様々であり得、ならびに選択される特定のin vivoまたはex vivo投与形式、および所望の結果、例えばin vivoパラクリン発現の増大、に従って、主として流体体積、粘度およびこれらに類するものに基づき前記濃度を選択することができる。
【0063】
本発明を実施するために使用する溶液および製剤を凍結乾燥させることができ;例えば、本発明は、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドを含む、安定した凍結乾燥製剤を提供する。1つの態様では、この製剤を、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドと、充填剤、例えばマンニトール、トレハロース、ラフィノースおよびスクロースまたはこれらの混合物とを含む溶液を凍結乾燥させることによって作製する。安定した凍結乾燥製剤を調製するためのプロセスは、溶液:約2.5mg/mLタンパク質、約15mg/mLスクロース、約19mg/mL NaCl、および5.5より高いが6.5より低いpHを有するクエン酸ナトリウム緩衝液、の凍結乾燥を含み得る。例えば、米国特許出願公開第2004/0028670号を参照されたし。
【0064】
本発明の組成物および製剤をリポソームの使用により送達することができる(下記の論考も参照されたし)。リポソームを使用することにより、特に、そのリポソームの表面が、標的細胞に対して特異的なリガンドを担持している、または特定の組織もしくは臓器タイプに別様に優先的に方向づけられている場合、in vivoまたはex vivo適用での前記活性薬剤の標的細胞への送達に焦点を当てることができる。
【0065】
ナノ粒子、ナノ脂質粒子およびリポソーム
本発明は、本発明の方法、例えば、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドを個体、患者または哺乳動物細胞にin vivoまたはex vivoで送達するための方法、を実施するために使用する化合物(例えば、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド)を含むナノ粒子、ナノ脂質粒子、小胞およびリポソーム膜も提供する。代替実施形態において、これらの組成物は、例えば、所望の細胞タイプ、例えば、哺乳動物心臓細胞、腎臓細胞、肺細胞、神経細胞およびこれらに類するものへの標的化のために、細胞表面ポリペプチドを含むポリペプチドなどの生物学的な分子を含む分子を標的化するように設計される。
【0066】
本発明は、本発明を実施するために使用する化合物を含む多層リポソームであって、例えば、Parkら、米国特許出願公開第20070082042号に記載されているような多層リポソームを提供する。スクアレンと、ステロールと、セラミドと、中性脂質または油と、脂肪酸と、レシチンとを含む油相成分の混合物を使用して、例えばパラクリンをコードする核酸または遺伝子を捕捉するために、約200から5000nmの粒径に前記多層リポソームを調製することができる。
【0067】
リポソームは、活性薬剤(例えば、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド)を封入することによるリポソームの製造方法であって、水溶液を第一のリザーバに提供する工程;有機脂質溶液を第二のリザーバに提供する工程;そしてその後、前記水溶液と前記有機脂質溶液を第一の混合領域で混合して、リポソーム溶液を生成する工程(ここで前記有機脂質溶液は前記水溶液と混ざり、実質的に即座に、前記活性薬剤を封入しているリポソームを生成する);そしてその後直ちに、前記リポソーム溶液を緩衝溶液と混合して、希釈されたリポソーム溶液を生成する工程を含む方法を含む、任意の方法、例えば、Parkら、米国特許出願公開第20070042031号に記載の方法を用いて作製することができる。
【0068】
1つの実施形態において、本発明を実施するために使用するリポソーム組成物は、例えば米国特許出願公開第20070110798号に記載されているように、例えば、本発明を実施するために使用する化合物(パラクリンをコードする核酸または遺伝子)の所望の細胞タイプへの標的化送達のために、置換アンモニウムおよび/またはポリアニオンを含む。
【0069】
本発明は、本発明を実施するために使用する化合物(例えば、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド)を、例えば米国特許出願公開第20070077286号に記載されているような、活性薬剤含有ナノ粒子(例えば、二次ナノ粒子)の形態で含む、ナノ粒子も提供する。1つの実施形態において、本発明は、本発明の脂溶性活性薬剤、すなわち二価または三価金属塩とともに作用するような脂溶性化水溶性活性薬剤、を含むナノ粒子を提供する。
【0070】
1つの実施形態では、本発明を実施するために使用する、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドを、例えば米国特許出願公開第20050136121号に記載されているように、固体脂質懸濁液を使用して製剤化し、患者、個体または哺乳動物細胞にin vivoまたはex vivoで送達することができる。
【0071】
送達ビヒクル
代替実施形態では、任意の送達ビヒクルを使用して、本発明の方法または組成物を実施すること、例えば、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドを送達して、本発明の方法をin vivoまたはex vivoで実施することができる。例えば米国特許出願公開第20060083737号に記載されているような、ポリカチオン、カチオン性ポリマーおよび/またはカチオン性ペプチド、例えばポリエチレンイミン誘導体、を含む送達ビヒクルを使用することができる。
【0072】
1つの実施形態では、例えば米国特許出願公開第20040151766号に記載されているような、界面活性剤が非共有結合によって核酸と会合している乾燥ポリペプチド−界面活性剤複合体を使用して、本発明の組成物を製剤化する。
【0073】
1つの実施形態では、本発明を実施するために使用する核酸またはポリペプチドを、例えば米国特許第7,413,739号に記載されているように、ポリマーヒドロゲルまたは水溶性コポリマーとして細胞に適用することができる;例えば、核酸およびタンパク質を、強い求核試薬と共役不飽和結合または共役不飽和基との間の求核付加による反応によって重合させることができ、この場合、各前駆体成分は、少なくとも2つの強い求核試薬または少なくとも2つの共役不飽和結合もしくは共役不飽和基を含む。
【0074】
1つの実施形態では、例えば米国特許第7,306,783号、同第6,589,503号に記載されているような、細胞膜透過性ペプチドコンジュゲートを伴うビヒクルを使用して、核酸またはタンパク質を細胞に適用する。1つの態様では、前記核酸それ自体を細胞膜透過性ペプチドにコンジュゲートさせる。1つの実施形態では、核酸、タンパク質および/または送達ビヒクルを、輸送媒介ペプチド、例えば、米国特許第5,846,743号(塩基性が高くかつポリ−ホスホイノシチドに結合する輸送媒介ペプチドが記載されている)に記載されているような輸送媒介ペプチドにコンジュゲートさせる。
【0075】
1つの実施形態では、パラクリンをコードする核酸または遺伝子を細胞に送達する主または補助手段として、例えば、任意の電子穿孔システム、例えば米国特許第7,109,034号、同第6,261,815号、同第5,874,268号に記載のものを使用する、電気的透過処理(electro−permeabilization)を用いる。
【0076】
製品、インプラントおよび人工臓器
本発明は、例えば、本発明の方法を実施するためのパラクリンタンパク質を発現するように改変された細胞を含むインプラントおよび人工臓器、バイオリアクターシステム、細胞培養システム、プレート、ディッシュ、チューブ、ボトルおよびフラスコをはじめとする、本発明の細胞(例えば、本発明の方法を実施するためのパラクリンタンパク質またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドを発現するように改変された細胞)を含む製品、および本発明の方法によって作製される細胞の使用も提供する。任意のインプラント、人工臓器、バイオリアクターシステム、細胞培養システム、細胞培養プレート、ディッシュ(例えば、ペトリ皿)、細胞培養チューブおよび/または細胞培養フラスコ(例えば、ローラーボトル)を使用して、本発明を実施することができる。
【0077】
代替実施形態において、本発明は、本発明の方法を実施するためのパラクリンタンパク質を発現するように修飾された細胞を含む、バイオリアクター、インプラント、ステント、人工臓器または同様のデバイスを提供し、それらには、例えば、米国特許第7,388,042号、同第7,381,418号、同第7,379,765号、同第7,361,332号、同第7,351,423号、同第6,886,568号、同第5,270,192号ならびに米国特許出願公開第20040127987号、同第20080119909号(耳のインプラントを記載)、同第20080118549号(眼のインプラントを記載)、同第20080020015号(生理活性創傷被覆材を記載);同第20070254005号(心臓弁バイオプロテーゼ、血管グラフト、半月板インプラントを記載);同第20070059335号、同第20060128015号(肝臓インプラントを記載)に記載のインプラントが含まれる。
【0078】
in vivo細胞移植
代替実施形態において、本発明の方法は、本発明を実施するために使用する、パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチド、を含むまたは発現する細胞、例えば心臓、肺または腎臓細胞、の移植または植え込みも含み;および1つの態様では、本発明の方法は、前記パラクリンをコードする核酸もしくは遺伝子(もしくはそれらを発現する細胞)、またはウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドもしくはポリペプチドをex vivoまたはin vivoで血管、組織または臓器に移植するまたは植え込むこと、あるいは再プログラミンされた分化細胞を、それを必要とする個体に移植するまたは植え込むことを含む。
【0079】
任意の公知技法またはプロトコルを用いて、細胞を個体から取り出し、本発明の組成物および/または方法を用いて処置し、組織、臓器にまたはその個体に再挿入する(例えば、注射するまたは植え込む)。例えば、脱分化され再プログラミングされた細胞、または再プログラミングされ分化した細胞を、例えば米国特許第7,442,389号に記載されているようなマイクロスフェアを使用して、再び移植する(例えば、注射するまたは植え込む)ことができる;例えば、1つの態様において、前記細胞担体は、混合・送達システム内に予め負荷されている丸い平滑なポリメチルメタクリレート微粒子を含む充填剤と、これらの細胞を含む自己担体とを含む。もう1つの実施形態では、例えば米国特許出願公開第20050027070号に記載されているような生体適合性架橋マトリックスの中の前記細胞を、組織、臓器、および/またはそれを必要とする個体に再投与する。
【0080】
もう1つの実施形態では、生体適合性、非免疫原性コーティングの中のまたは該コーティングによって保護された本発明の細胞(例えば、本発明の方法を実施することによって作製された細胞)を、組織、臓器、および/またはそれを必要とする個体に再投与し(例えば、注射し、または植え込み)、前記コーティングは、例えば合成インプラントの表面にあるような、例えば米国特許第6,969,400号(例えば、多数の求核基、例えば第一級アミノまたはチオール基、を含有するように修飾されたポリエチレングリコールにcAMPインコンピテントACをコンジュゲートさせることができるプロトコルが記載されている)に記載されているようなものである。
【0081】
1つの実施形態では、例えば米国特許第7,442,390号、同第5,733,542号によって記載されているようなグラフト方法を用いて、本発明の細胞(例えば、本発明の方法を実施することによって作製された細胞)を組織、臓器、および/またはそれを必要とする個体に投与する(例えば、注射する、または植え込む)。
【0082】
ポリペプチド、核酸および/または細胞を組織または臓器(例えば、肺、腎臓、心臓)に送達するための任意の方法を使用することができ、これらのプロトコルは、当該技術分野において周知であり、例えば、米国特許第7,514,401号に記載されており、この特許明細書には、例えば、ポリペプチド、核酸および/または細胞の心臓へのin situでの冠動脈内(IC)、静脈内(IV)および/または局所送達(心筋注射)の使用が記載されている。例えば、代替実施形態では、肺へのおよび血流へのエアロゾル薬物粒子、遺伝子療法、持続注入、反復注射および/または徐放性ポリマーを、ポリペプチド、核酸および/または細胞を組織または臓器(例えば、肺、腎臓、心臓)に送達するために使用することができる。代替実施形態では、核酸および/または細胞を、カテーテルによって冠動脈にまたは制限開胸(limited thoracotomy)を介した直接注射によって左心房もしくは心室心筋層に与えることができ;あるいは心臓カテーテル留置中に通されるカテーテルにより心筋層に送達することができ;あるいは心膜腔に送達することができる。
【0083】
代替実施形態では、組織または臓器(例えば、肺、腎臓、心臓)への、本発明を実施するために使用する核酸もしくはタンパク質、または本発明を実施するために使用する核酸を含むベクター(例えば、AAV、もしくはアデノウイルス遺伝子療法ベクター)、または本発明の小胞、リポソーム、ナノ粒子もしくはナノ脂質粒子(NLP)、およびこれらに類するもの;例えば、米国特許第7,501,486号に記載されているように、例えば、アミノ酸配列CRPPR(配列番号1)、アミノ酸配列CARPAR(配列番号2)もしくはそのペプチドミメティック、またはアミノ酸配列CPKRPR(配列番号3)もしくはそのペプチドミメティックを含む本発明のポリペプチド。
【0084】
本発明を実施するために使用する組成物を、他の治療薬、例えば、血管形成剤、抗血栓薬、抗炎症薬、免疫抑制薬、抗不整脈薬、腫瘍壊死因子阻害剤、エンドセリン阻害剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、カルシウム拮抗薬、抗生物質製剤、抗ウイルス剤およびウイルスベクターと併用することができる。
【0085】
本発明を実施するために使用する組成物を、様々な心臓障害および心血管疾患、例えば、冠動脈疾患(coronary artery disease:CAD);アテローム性動脈硬化症;血栓症;再狭窄;自己免疫性およびウイルス性血管炎、例えば、結節性多発性動脈炎、チャーグ−ストラウス症候群、高安動脈炎、川崎病およびリケッチア血管炎を含む、血管炎;アテローム硬化性動脈瘤;心筋肥大;うっ血性心疾患(congenital heart disease:CHD);虚血性心疾患およびアンギナ;後天性弁膜症/心内膜疾患;心筋炎を含む、原発性心筋疾患;不整脈;ならびに移植拒絶反応;代謝性心筋疾患および心筋ミオパチー、例えば、うっ血性心筋症、肥大型心筋症および拘束型心筋症ならびに/または心臓移植、のいずれかを改善または処置するために使用することができる。代替実施形態では、本発明を実施するために使用する組成物、例えばウロコルチン−2(UCn−2)ペプチドまたはポリペプチドを、患者または個体における糖尿病もしくは前糖尿病を処置する、改善するまたは防ぐ(予防する);あるいは患者または個体における、体重増加を抑制する、または食欲を抑制する、または体重減少を刺激するもしくは開始させる;あるいは患者または個体における糖尿病を処置する、改善するまたは防ぐ(予防する)ために使用する。
【0086】
以下の実施例に関連して本発明をさらに説明する;しかし、本発明がかかる実施例に限定されないことは、理解されるはずである。
【実施例】
【0087】
実施例1 ウロコルチン−2をコードするAAV9の静脈内送達は、正常マウスにおける心臓機能を向上させる
この実施例は、本発明の例示的実施形態の有効性を実証するものである:AAV9/ウロコルチン−2(すなわち、AAV9/UCn2)の静脈内送達は、血清UCn2の持続的増大およびLV収縮機能の持続的向上をもたらした。これは、本発明のこの例示的実施形態の心不全の処置に対する有効性を示す。
【0088】
この研究において、本発明者らは、心不全を有する動物および患者において多方面の有益効果を有する副腎皮質刺激ホルモン放出因子ファミリーの血管作用性ペプチドであるウロコルチン−2(UCn−2)をコードする2つのアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型(AAV5およびAAV9)を開発し、それらの相対的効力を試験した。AAV5.Ucn−2およびAAV9.Ucn−2(5×1011ゲノムコピー、gc)を静脈内注射(IV)によって送達した。遺伝子導入の4週間(wks)後、AAV DNA(qPCR)は、肝臓(AAV5.UCn2:2,601,839コピー/μg;AAV9.UCn2:30,121,663コピー/μg)および心臓(AAV5:87,635gc/μg;AAV9:300,529コピー/μg)において上昇し;ならびにmRNAは、内因性UCn2と比較して同様に上昇した(AAV5.Ucn−2:68±xx倍;AAV9.Ucn−2:8,575)。
【0089】
左心室試料は、AAV9.UCn2に関してのみUcn2 mRNA上昇を示し、Ucn2 mRNAが内因性mRNAに対して28倍増大された。血漿Ucn−2は、増大された(AAV5.UCn2:以前の2.7ng/mLから3.6ng/mLへ、p<0.0001;AAV9.UCn2)。最後に、血清UCn2レベル上昇に付随して、LV収縮機能が向上した。
【0090】
実施例2 心血管疾患の処置のための遺伝子導入
この実施例は、容易にかつ安全に適用できる手法で心臓において高収率導入遺伝子発現を達成する点での本発明の例示的実施形態の有効性を実証するものである。
【0091】
代替実施形態において、本発明は、パラクリン型導入遺伝子をコードする発現ビヒクル、例えばベクター、を使用する方法を提供する。この実施形態において、前記導入遺伝子は、ホルモンとして動作し、遠隔部位から循環に放出された後に心臓効果(cardiac effect)を有する。代替実施形態において、このアプローチは、高収率心臓遺伝子導入を達成することの問題を回避することができ、および外来診療中に全身性注射により患者を処置することを可能にする。
【0092】
本発明者らは、多数のAAV血清型ベクターおよび送達方法を調査し、パラクリン遺伝子導入の概念実証研究を首尾よく完了した。重症拡張型CHFを有するラットに、テトラサイクリン制御下のインスリン様成長因子I(Insulin−like Growth Factor I:IGFI)をコードするアデノ随伴ウイルス5(AAV5)ベクターを骨格筋送達した。これは、ラットの給水にドキシサイクリンを添加することでIGFI発現の活性化を可能にした。このシステムは、IGFIの血清レベルの持続的上昇をもたらし、不全心臓の機能を改善した。
【0093】
代替実施形態では、a)IGFI遺伝子導入を用いて収縮機能を向上させる;b)AAVベクターおよびプロモーターを静脈内送達に使用して、最小のオフターゲット効果で最大の導入遺伝子発現をもたらす;c)制御性導入遺伝子発現を用いて、導入遺伝子の血清レベルの微調整を可能にし、必要に応じて発現をオフおよびオンにさせる;d)例えばCHFのラットモデルにおいて、パラクリン発現性遺伝子の遺伝子導入を用いる;およびe)血清パラクリン(例えば、IGFI)をエンドポイントとして使用して、例えば正常なブタにおいて、有効用量のAAVを使用し、そのベクターの静脈内投与後に導入遺伝子発現のアクチベーターを使用する。
【0094】
代替実施形態において、選択的ペプチドの制御性発現を伴うAAVベクターのIV注射は、パラクリン媒介作用により、不全心臓に対して好適な効果を及ぼすことになる。
【0095】
ベクター選択。代替実施形態では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用し、それによって、アデノウイルスに勝る長期導入遺伝子発現を可能にすると同時に、レンチウイルスベクターに関連した挿入変異誘発の可能性を回避する。第IX因子、エリスロポエチンおよびα1−アンチトリプシン、の持続的血清濃度上昇が、AAVベクターの単回注射の数年後にイヌおよび非ヒト霊長類において実証されており1−4、本発明者らは、本発明者らの研究室でラットにおいてAAV5.IGFI−tetの筋肉内注射後にIGFIの持続性(>1年)血清濃度上昇を確認した。最近の臨床試験により、一部のAAV血清型は免疫応答を誘発することが判明したが6、7、より新世代のAAVベクターは、霊長類での前臨床研究において同様の問題を有さないようである。
【0096】
AAV血清型:代替実施形態では、AAV血清型AAV2を使用するが、一部の実施形態では、「偽型」AAVベクターが好ましい。AAV5、AAV6、AAV8およびAAV9を含むこれらのAAV血清型は、AAV2のカプシドと、それらの固有の名称を付与する独特な複製成分とを含むハイブリッド構築物である。代替実施形態では、AAV6、AAV8およびAAV9の静脈内送達を用いる;これらは、心臓、肝臓、骨格筋および他の箇所において実質的分布および導入遺伝子発現を示す。
【0097】
本発明者らは、図7において例証するように、血清IGFIレベルを増大させる点で筋肉内AAV5より静脈内AAV5のほうが良好であることを発見した;図7は、IV対IM AAV5.IGFI.tet遺伝子導入の3か月後の遊離IGFI血清レベルのデータをグラフで示すものである:マウス(n=3、各群)における静脈内送達は、ドキシサイクリンでのIGFI発現の活性化(オン)後、血清IGFIの2倍増大をもたらした;ラット(n=9、各群)における筋肉内送達は、IGFI発現の活性化から5週間後、血清IGFIの>1.3倍増大をもたらした。バーの上のP値:群内比較(t検定、両側)。血清IGFIの変化は、AAV5.IGFI.tetの静脈内送達後のほうが大きかった(p<0.001)。
【0098】
静脈投与したとき、図8において例証するように、AAV9は、肝臓および心臓における導入遺伝子発現に関してAAV5より優れていた;図8に図示するように肝臓および心臓におけるコピー数および導入遺伝子発現をエンドポイントとして用いて本発明の例示的AAV5およびAAV9構築物の静脈内送達の相対的効力を示すデータをグラフでおよび画像によって例証するものである。
【0099】
代替実施形態において、AAV9同様にAAV8は、全身性発現をもたらすが、肝臓において他の臓器より高い割合を与え、これは、肝臓特異的プロモーターとの組み合わせで、活用することを本発明者らが提案する特性である。
【0100】
代替実施形態では、自己相補性AAVベクター(scAAV)を使用する;それらは、それらの一本鎖(ssAAV)類似体より高度な導入遺伝子発現をもたらすことができる。ssAAVベクター(挿入容量4.7kb)を使用する導入遺伝子発現は、相補DNA鎖が合成されるまで、4〜6週間延期される。ベクター内の相補DNA鎖をコードすることにより、scAAV(挿入容量3.3kb)は、2週間で導入遺伝子発現を可能にし、その結果、そのssAAV類似体と比べて高い導入遺伝子発現が生じることになる
【0101】
図10において例証するように、1つの制御性発現ベクター(AAV8.TBG.IGFI.tet)しかscAAV構築に適用することができず、他の物は大きすぎる。しかし、このベクターをブタ研究に選択すると、ssAAVを使用して、要求される大量の製造のためにより良好な収率をもたらすことができる。scAAV類似体をヒトへの使用に用いることができ、それにより、優れた発現を利用して、用量の要件の低減を可能にすること、および臨床試験の安全性を改善させることができる。
【0102】
【表2】
標的組織に対するプロモーター。代替実施形態において、AAVベクターでの導入遺伝子発現用に選択するプロモーターは、何らかの組織依存性を有する。代替実施形態において、本発明を実施するために使用するプロモーターとしては、ニワトリβアクチン(CBA);甲状腺ホルモン結合グロブリン(TBG、肝臓特異性);およびラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターが挙げられる。これに関連して、CMVは、骨格筋および心臓筋肉において優れたプロモーターであることを一貫して示した。最近の研究は、CMVプロモーターが肝臓においてメチル化を受けやすいことを示しており、このメチル化が結局は導入遺伝子発現を止める。肝臓発現の喪失は、導入遺伝子の血清レベルを低下させることになる−それ故、本発明者らは、図10に図示するように、CMVプロモーターの使用を選ばず、その代り、メチル化をあまり受けない同様に頑強なプロモーター:ニワトリβアクチン(CBA);甲状腺ホルモン結合グロブリン(TBG、肝臓特異性);およびラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターを選んだ。
【0103】
制御性発現。代替実施形態では、AAV媒介遺伝子導入によって付与される長期発現を用いて、予想外の有害反応が見られた場合に発現をオフにするように導入遺伝子発現を制御する。制御性発現はまた、恒常的送達ではなく間欠的送達を可能にすることになる。代替実施形態では、アクチベーターが導入遺伝子発現をオフにするかオンにするようにそのシステムを構成することができる。ほぼ恒常的な導入遺伝子発現が求められる場合、「オフ」システムが望ましい(例えば、導入遺伝子発現が望まれないとき、例えば、有害作用事象の場合、にのみ経口アクチベーターを摂取する)。代替実施形態において、間欠的導入遺伝子発現が求められる場合、「オン」システムが望ましい(例えば、導入遺伝子発現が望まれるときにだけ経口アクチベーターを摂取する)。
【0104】
これらの代替実施形態は、厳密な調節を可能にし、および処置する特定の疾患に合わせてアクチベーターの最小量を摂取する手段を与える。代替実施形態では、制御性発現システム、例えば、エクジソン、タモキシフェン、テトラサイクリン、ラパマイシン9−12を使用する;大きいサイズのエクジソンシステムは、2ベクター戦略を要することがあり、この戦略は、制御制約のため臨床的遺伝子導入のための開発が難しい。タモキシフェンシステムは、扱いにくくはないが、テトラサイクリンシステムより耐容性の低いアクチベーター(タモキシフェン対ドキシサイクリン)を要する。代替実施形態では、利用可能な選択肢のうちの2つ(テトラサイクリンおよびラパマイシン制御)しか適さないことがあり、これらは、大型動物モデルで試験されたことのある唯一のシステムである3、4。これらのシステムの両方が類似した特徴を有する(表2、上記):対象となる遺伝子は、活性化薬(テトラサイクリンまたはラパマイシン類似体)によって誘導され得る操作された転写因子によって調節される。
【0105】
テトラサイクリン制御性発現。代替実施形態において、本発明は、遺伝子導入の場でテトラサイクリン制御性発現を用いる:
a)導入遺伝子の基底発現(「漏出」)。より新しいrtTA改変体、例えば、本発明者らが提案するおよび最近の研究で使用されているもの(rtTA2−M2)は、以前のrtTA構築物とは異なり、基礎活性なしに頑強なテトラサイクリン依存性発現をもたらす13
【0106】
b)患者の耐容性およびオフターゲット効果に対するテトラサイクリンの慢性使用。
【0107】
●tet制御システムは、広範囲にわたって研究されており11;in vitro研究は、ドキシサイクリン刺激性導入遺伝子発現が、0.001ng/mLで開始し、0.1μg/mLで最大に達すること、第一世代システムに対してEC50の10分の1の低下、を示す13。ヒトにおいて、200mgドキシサイクリンの単回経口用量は、24時間の時点で1.5μg/mLの平均血漿および組織濃度をもたらし14、これは、最大発現に要するものより15倍高い。ヒト被験体における導入遺伝子発現の完全活性化には10〜20mgのドキシサイクリンの単回日用量で十分であり得る15。200mg/日の用量は、アクネおよび慢性感染症のために経口ドキシサイクリンを慢性使用している患者に十分に耐容される14、16
【0108】
●ORACEA(登録商標)(ドキシサイクリン40mg、経口的に1日1回)は、酒さを処置するための継続使用がFDAにより認可されている16。感染症を処置するために要する用量200mgより80%低いこの用量は、酒さを処置する抗炎症効果をもたらすが、抗微生物効果を有さず、抗生物質耐性生物の発生をもたらさない(11年の臨床データ)。各カプセルは、30mgの即時放出ビーズおよび10mgの遅延放出ビーズとして、40mgの無水ドキシサイクリンを含有する。テトラサイクリンに対するアレルギー、増大された光線過敏症を有する被験体、妊婦または授乳中の女性、または9歳未満の小児(歯の変色、起こり得る長骨成長低下)は、ドキシサイクリンを使用すべきでない。5年の臨床使用で、最も一般的な副作用は、軽度の胃腸愁訴であった16
【0109】
●テトラサイクリンは、マトリックスメタロプロテイナーゼ発現および活性を減弱させることがあり、心筋梗塞(MI)後の最初の数日間に投与したとき左心室(LV)リモデリングに対して影響を及ぼす17。しかし、提案された前臨床研究では、ドキシサイクリンをMIの5週間後、LV腔拡張および瘢痕形成が安定し、群間で等しくなったとき、投与する。本発明者らは、ドキシサイクリンが、提案マウスMI誘導CHFモデルにおいてLVリモデリングにも、TIMPにも、またはMMP発現にも影響を及ぼさないことを実証した18。臨床の場で、テトラサイクリンがMIの急性期に使用されることはないだろう。
【0110】
c)rtTAシステムの成分に対する免疫応答。tet−レギュレーターに対する免疫応答は、非ヒト霊長類においてAAV4.tetおよびAAV5.tet遺伝子導入(網膜内)を用いる長期研究において確認されず3、15、その2.5年の研究期間に持続的テトラサイクリン依存性導入遺伝子発現が認められた。本発明者らには、高レベルのrtTAを発現するマウス心臓においても18、19、rtTA2−M2制御エレメントを使用するIGFIのAAV5媒介制御性発現後のマウスおよびラットにおいても炎症が認められない。非ヒト霊長類におけるAAV.tetの筋肉内送達は、網膜内または血管送達とは異なり、トランスアクチベーター融合タンパク質の細菌およびウイルス成分に対する免疫応答のため、制御性発現の減弱をもたらすようである20。tet−レギュレーターに対する免疫応答を決定することができると同時に、細菌タンパク質もウイルスタンパク質も有さず、免疫応答の惹起と関連づけられないラパマイシン制御システムを決定することができる。tet−およびラパマイシン制御の強度および制限については表2を参照されたし。
【0111】
ラパマイシン制御発現。代替実施形態では、細菌Streptomyces hygroscopicusの産物であるマクロライドシロリムス(ラパマイシン)を使用する:それは、当初、抗真菌剤として開発されたが、抗増殖および免疫抑制効果があることが判明した。最近、それは、a)臓器移植の際の拒絶反応を予防するために(2mgP.O.(口から、経口的に)、1日1回、これは、12±6ng/mLの平均血清レベルをもたらす);およびb)その抗増殖効果のため血管形成術後の再狭窄を低減させるために薬物溶出ステントで、臨床的に使用されている。ラパマイシンは、マウスの寿命を増し、加齢の悪影響を未然に防ぐようであり21、および多形神経膠芽腫の処置の際にアジュバントとして使用される22。ラパマイシンは、サイトゾルFK結合タンパク質12(FKBP12)を結合し、ラパマイシンの哺乳動物での標的(mTOR)シグナル伝達経路を阻害する。セリン/トレオニンプロテインキナーゼ、mTORは、細胞成長および増殖に影響を及ぼし、細胞生存を促進する。遺伝子療法についてのラパマイシンの有用性は、その二量体化特性に依存し、これは、ラパマイシン制御性発現システムに活用される特徴である。このシステムにおいて、操作された転写因子のDNA結合および活性化ドメインは、別々に融合タンパク質として発現され、それらの融合タンパク質は、二価「二量体化」薬、この場合はラパマイシンまたはラパマイシン類似体、の添加により架橋され、それにより活性化される12。発現は、用量依存性であり、可逆的であり、かつナノモル濃度のアクチベーターによって誘発される12。前記ラパマイシンシステムは、ウイルスタンパク質も細菌タンパク質も含有せず、したがって、免疫応答を誘発する可能性が低い。マカクにおいて、エリスロポエチンをコードするAAV1の筋肉内注射は、エリスロポエチンレベルの降下なしに、および制御エレメントに対する免疫応答なしに、6年(yr)までのRap制御性発現(26の独立した誘導サイクル)をもたらした。免疫抑制は、ラパマイシンの潜在的短所である。しかし、この問題は、ラパマイシンと同様に有効に導入遺伝子発現を活性化し、最小限の免疫抑制しか呈示せず、mTORを阻害しない経口ラパマイシン類似体(AP22594)を使用することによって、回避することができる。さらに、アクチベーターとして、日用量ではなく週用量が有効であり、さらにオフターゲット効果を低減させる。マカクにおいて有効に使用される経口用量(0.45mg、週1回)で開始する、経口投与AP22594の用量−応答関係、およびその最大用量間隔は、ブタで決定することができる
【0112】
インスリン様成長因子I(IGFI)
IGFIの選択。成長ホルモン(GH)は、IGFIの活性化によってその効果の多くを発揮する。IGFIは、Aktによってその効果の多くを発揮する。シグナル伝達はGHからIGFIを通ってAktへと集束されるので、GHまたはAktよりIGFIの選択を防御しなければならない。GH発現増大は、血清グルコースおよび血圧を上昇させること−IGFIを選択することによって回避される有害効果−が予測される。Aktの発現増大は、アポトーシスを低減させると予測されるが、Aktによってもたらされない他の潜在的に好適な効果、例えば血管新生増加、を有するだろう。それ故、本発明者らは、本発明者らの初期前臨床CHF研究にIGFI遺伝子導入を選択し、そして最近、IGFI遺伝子導入が不全ラット心臓の機能を改善することを証明した図1〜8ならびに表4および5を参照されたし)。
【0113】
IGFIシグナル伝達。当初はソマトメジンとして知られていたIGFは、GHの同化および分裂促進活性の多くを媒介するペプチドの1ファミリーである。インスリンとの構造的および代謝的類似性を有する2つのソマトメジンが1978年にヒト血漿から単離され、IGFIおよびIGFIIと命名された。その後、IGFI(ソマトメジンC)は、循環GHによって制御されるIGFであることが示された。IGFIは、3つのジスルフィド架橋を伴う1本鎖の中に70のアミノ酸を有し、7.6kDの分子量を有する。当初は肝臓によってしか産生されないと考えられていたが、腸、脳、腎臓、肺および心臓をはじめとする多くの組織によって生産されることが示された。ラットにおけるIGFI遺伝子の肝臓特異的欠失は、正常な成長および発生を変えず23、これは、IGFIが、心臓をはじめとする他の組織において広範に発現され、パラクリン様式での局所組織放出によって成長および発生を制御することを示す。
【0114】
IGFIは、リガンド(IGFI、IGFII、インスリン)と、6つの公知結合タンパク質(IGFBP1〜6)と、IGFIおよびインスリン受容体をはじめとする細胞表面タンパク質とを含むタンパク質ファミリーに属する24。IGFIは、アミノ末端シグナルペプチドと、A、B、CおよびDドメインと、可変カルボキシル末端Eペプチドとを含むプレプロペプチドとして翻訳される。ヒトにはプロIGFIの3つの公知アイソフォーム(プロIGFIa、プロIGFIbおよびプロIGFIc)があり、これらは、可変Eペプチドのアミノ酸組成のみが異なる。IGF結合タンパク質(IGFBP)は、担体タンパク質として作用し、分解を阻害することによってIGFの半減期を延長する24。IGFIのほぼすべて(98%)が、IGFBP−3に主として(80%)結合して循環する24
【0115】
IGFIおよびIGFIIは、肝臓を除くすべての組織においてIGFI受容体への高結合親和性結合を提示する。前記IGF受容体は、インスリン受容体と60%相同性を共有し、チロシンキナーゼドメインを含有する。IGFIの受容体結合は、チロシン残基の自己リン酸化を生じさせる結果となる。これは、前記受容体を活性化して、インスリン受容体基質を含む基質のリン酸化を生じさせ、このリン酸化は、PI3キナーゼ/Aktおよびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路ならびにその他を含む多彩なシグナル伝達カスケードを活性化し、これらの経路の多くが、有益な心血管効果を有する(下のセクションおよび表3を参照されたし)。
【0116】
IGFI増大の効果。血清IGFI増大は、血清インスリンレベルを低下させ、インスリン感受性を増大させ、脂質プロファイルを改善する24。しかし、IGFIタンパク質の注入は、低血圧および低血糖の原因となり得る25。インスリン活性に対抗するGHは、血清グルコースレベルを上昇させる。心臓へのグルコース取り込みを増大させるIGFIの能力は、IGFI投与後のLV機能の虚血後の回復に一定の役割を果たし得る。IGFIは、受容体依存性および非依存性効果ならびに酸化窒素生産により、筋肉血流を増大させ、血管拡張活性を有する26。ヒトにおける高用量静脈内IGFI注入の複合代謝および血管拡張効果は、意識朦朧および潮紅を引き起こすことがある−より低い用量は、心機能を増大させ、血圧または血清グルコースに影響を及ぼさず、症状を伴わない25、27
【0117】
IGFI受容体活性化は、遺伝子発現の制御、筋形成の刺激、細胞周期進行、免疫修飾およびステロイド産生をはじめとする多くの細胞応答の原因となる。心臓において、IGFIおよびIGFI受容体/PI3K/Aktシグナル伝達経路は、心筋細胞機能、成長および生存に対して有益効果を及ぼす。さらに、IGFは、血管新生効果を呈示し28、正常心臓25、29、30および不全心臓27、29、30−33における心臓収縮機能を上昇させ、ならびにアポトーシスを阻害する34、35、38。これらの特徴が、IGFIをCHF療法に魅力的なものにする(表3)。
【0118】
【表3】
心疾患の処置におけるIGFIタンパク質(表3)
前臨床研究。心疾患の動物モデルにおける組換えヒトIGFIまたはGHタンパク質投与の効果を研究した。IGFIは、単離されたラット心臓およびシロイタチ乳頭筋における陽性変力物質である;GHには、同組織における変力効果がない29。IGFIの同様の変力効果が、ペーシング誘発性心不全を有するイヌから単離された乳頭筋において見いだされた30。4週間にわたって正常ラットに投与したIGFIは、心臓機能を上昇させ、求心性LV肥大をもたらした31。2週間にわたって一緒に投与したIGFIとGHは、正常ラットにおいてLV dP/dt増大およびLV肥大と関連付けられた36。ラットにおける心筋虚血および再潅流に先立つIGFIの投与は、クレアチンキナーゼ放出を減少させ、アポトーシスを低減させた34。MIの4週間後に投与した併用のIGFIとGH32または単独のIGFI33は、ラットにおいてLV機能を上昇させた。MI後4週間にわたってラットに与えたGHは、LV収縮機能を上昇させ37、心線維症、心筋細胞アポトーシスを低減させ、および生存を増大させた38。ブタにおけるCHFのペーシングモデルにおいて、GHは、血清IGFIを増大させ、LV機能を上昇させ、およびLV壁ストレスを低下させた39
【0119】
臨床研究。GHまたはIGFIタンパク質の臨床使用は、相当注目されているが、大規模プラセボ対照研究は不十分である。IGFI注入の急性血行力学的効果は、CHF患者(n=8)の盲検・プラセボ対照・交差研究で研究された。4時間のIGFI注入は、心拍出量を増大させ、血管耐性を減少させ、右心房および楔入圧を低下させた27。IGFIタンパク質の慢性投与は、CHFを有する患者において評価されていない。CHFを有する患者におけるGHタンパク質の使用は、不確かな結果を生じさせた。CHFを有する合計14名の患者での2つの小規模の非対照かつ非盲検の研究により、3ヶ月のGHタンパク質療法は、血清IGFIを増大させ、LV機能および臨床状態を上昇させることが報告された40、41。CHFを有する患者において最長3ヶ月にわたって投与されたGH(タンパク質)の無作為化プラセボ対照試験は、LV機能も臨床状態も変えなかった42、43。GHタンパク質療法についての最近の文献レビューは、虚血性および特発性臨床CHFにおける効力の証拠が、おそらくペプチド投与の動態のため不足していると結論づけている44。したがって、代替実施形態において、本発明の遺伝子導入方法は、持続IGFI発現をもたらことで、IGFIタンパク質療法より優れているはずである。
【0120】
心臓IGFIまたはGHの発現増大。ラットにおけるヒトIGFIの心臓指向性発現、それに付随する心筋細胞IGFI生産の増大は、血清IGFIレベルをほぼ倍増させる。これらのラットは、心筋細胞過形成に伴って心臓重量増大を有するが、心筋細胞容積の増大は有さない35、45。MI後、心筋細胞アポトーシス低減、およびAktのリン酸化増大が判明した35。IGFIの心臓指向性発現は、テロメラーゼ活性、テロメア短縮およびDNA損傷を低減させることで加齢性細胞老化を減弱させる。これらのラットは、22月齢で同齢の導入遺伝子陰性同腹子と比べて増大されたAkt活性化および上昇されたLV機能を示す46。心筋症バックグラウンド(交雑パラダイム)での心臓IGFIの同時発現は、心臓アポトーシス、LVリモデリングおよびLV機能不全を予防するようである47。しかし、CHFは決して存在しなかったので、この戦略は、既存のCHFについての処置、すなわち、本提案の中心テーマであるアプローチ、と同等ではない。
【0121】
GH遺伝子導入がMI後のLVリモデリングに影響を及ぼすかどうかを決定するために、GHをコードするアデノウイルス(Ad.GH)を冠動脈閉塞時に直接ラット心臓筋肉に注射した48。危険にさらされている心筋層と生存可能な心筋層の間の辺縁ゾーンに注射をした。MIおよび遺伝子導入の6週間後、LV拡張末期寸法、LV dP/dt、および梗塞領域の壁厚に対して好適な効果が見られた。その後、同科学者達は、冠動脈閉塞の3週間後にラットの梗塞辺縁ゾーンに注射したAd.GHが、注射の3週間後にLV dP/dtを増大させ、LV拡張および壁薄化を減弱させることを示した49。MI中またはMIの3週間後のGH遺伝子導入は、LVリモデリングに対して有益効果を及ぼすようであった。
【0122】
IGFIをコードするアデノウイルス(Ad.IGFI)を冠動脈閉塞直前にラットの危険にさらされている潅流床(perfusion bed)に注射したとき、梗塞範囲が50%低減された(主としてアポトーシス低減の結果であると考えられる効果)50。この研究は、MI後のLVリモデリングに対するIGFI遺伝子導入の効果に取り組まなかった。IGFIのアデノウイルス媒介遺伝子導入は、低酸素誘導筋細胞アポトーシスをin vitroで低減させることが示され、そしてラット虚血再灌流モデルにおいてIGFIをコードするアデノウイルスの事前注射は、梗塞サイズをおおよそ50%低減させた(p<0.003)が、導入遺伝子は、局所パラクリン効果と一致して、虚血領域の約15%でしか発現されなかった。全体的に不全している心臓においてIGFIを発現する効果は、調べられていない。
【0123】
潜在的IGFI有害作用
生存。GH/IGFIシステムの崩壊は、正常な心臓機能を有するラットでは寿命を減少させず、増大させるようである51。しかし、本発明者らは、顕著な短期死亡率増大の前兆になる重症CHFの状況でIGFI発現を増大させることを提案する。IGF阻害がCHFの寿命を増大させることを示唆するデータはない。それとは反対に、ヒトの血清IGFI増大は、CHFの発生率および死亡率を低下させる52、53。疫学研究により、血清IGFIが低い人は、虚血性心疾患を発症するリスクが高まることが示されている。フラミンガム(Framingham)研究において、血清IGFIについて中央値より上の値を有する個体は、その中央値より下の個体に比べて50%低下されたCHF発生率を有した52、53。最近の報告は、CHFの際に命を延ばすアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)は、IGFIシグナル伝達を増大させることを示している54。本発明者らのデータは、IGFI遺伝子導入が不全ラット心臓の機能を向上させることを示しており、本発明者らは、生存恩恵もあるかどうかを決定することを提案する。
【0124】
癌。臨床疫学研究により、血清IGFIレベル増大(>2倍上昇)と前立腺および閉経前乳癌との相関関係が報告されている55が、この相関関係が原因となることは示されていない。前立腺癌の発生率は年齢とともに増大するが、血清IGFI濃度は減少することは注目に値する55。癌患者の場合、血清IGFI増大は、腫瘍に起因することがある。実際、ラットの前立腺上皮におけるIGFIの発現増大は、血清IGFI濃度を上昇させ、そして前立腺新生物につながる場合がある56。血清IGFI濃度増大は、癌患者における栄養状態の変化の結果として生ずることもある。IGFIが血管新生および低減されたアポトーシスにより腫瘍成長を増大させると推測できよう。IGFIbの心臓指向性発現、それに付随する血清IGFIの持続的上昇は、前立腺癌および乳癌と関連づけられず、ならびに血清IGFIと血清GHの複合的増大は、先端肥大症を有する患者において前立腺、乳または肺癌の発生率を増大しない54。癌の発生および進行におけるIGFIの役割は、理論上のものである。IGFI発現を増大させる療法は、IGFIの血清濃度を制限しなければならず、そしてまた所望される場合、発現を停止させる手段を与えなければならないというのが賢明な策と思われる。本発明者らは、血清中のIGFI濃度を増大させ、それにより有益な心血管効果を及ぼす制御性発現ベクターの遺伝子導入を用いることによって、これらの目的を達成することを提案する。
【0125】
研究の新規性。これらの研究は、臨床CHFのためのIGFI遺伝子導入の開発に焦点を当てている。IGFI(またはGH)遺伝子導入は、臨床CHFでは用いられたことがない。CHFにおけるGH/IGFIタンパク質の二重盲検・プラセボ対照・臨床試験は、いずれも成功しておらず、これは、おそらくGH/IGFIタンパク質の比較的短い生物学的半減期のためであり、この比較的短い生物学的半減期は、遺伝子導入によって克服されるであろう問題である。GHおよびIGFI心臓遺伝子導入は、動物研究において冠動脈閉塞前に梗塞サイズを低減させるために使用されているが、CHF自体へのIGF遺伝子導入を調査した研究は以前にはない。加えて、長期かつ制御された発現ベクターの全身送達を用いる本提案パラクリンアプローチは新規であり、このアプローチを他のパラクリンベースのペプチドに応用して様々な心血管疾患を処置することができる。
【0126】
要約。重症CHFの処置におけるIGFIのペプチド投与の予測され得る恩恵についての前臨床および臨床研究の限界のため、およびIGFIのパラクリンベースの遺伝子導入の理論的裏付けのため、本発明者らは、本発明者らの研究室において、持続または慢性間欠的静脈内ペプチド注入の障害および短所を回避するように設計した研究に乗り出した(予備データを参照されたし)。
【0127】
他の有益なペプチド。IGFIの使用は注目せずにはいられないが、本発明のパラクリン遺伝子治療方法が、有益な心血管効果を有するあらゆる循環ペプチドに適してもいることを強調しておくべきであろう。例えば、ウロコルチン−2は、心臓および血管系において頑強に発現される副腎皮質刺激ホルモン放出因子2型受容体を介して作用する副腎皮質刺激ホルモン放出因子ファミリー内の最近発見された血管作用性ペプチドである。ウロコルチン−2ペプチドの注入は、心不全を有する動物および患者において多様な有益効果を有する57。BNPは、同様に送達され得る、臨床CHFの処置用のもう1つの生物学的に有効なペプチドである。さらに、肺高血圧において、プロスタサイクリン類似体は、肺高血圧の処置に有効であり得るが、現行の薬剤(エポプロステノールおよびトレポスチニル(trepostinil))は、恒常的な全身注射を必要とし、その処置自体が高い罹患率を随伴する58。代替実施形態において、本発明の方法は、肺高血圧のパラクリン型遺伝子療法として、プロスタサイクリンシンターゼをコードする制御性発現ベクターを提供する。実際、長期または慢性の間欠的静脈内注入を要するいずれの現行のペプチド療法も、このホルモン様遺伝子導入アプローチに向いているだろう。
【0128】
臨床研究におけるAAVおよび免疫応答。AAVベクターの筋肉内または静脈内送達後の長期導入遺伝子発現は、齧歯動物では例外ではなく常例になっている。しかし、患者での研究は、導入遺伝子および時にはAAVベクター自体に対する免疫応答のため限定された発現が付随してきた。2つの結論がこれらおよび他の研究から浮上する:1)筋肉内AAV送達は(静脈内AAV送達と比較して)、一般に、導入遺伝子およびAAVカプシドに対する増大した免疫応答を誘発する;および2)齧歯動物での成功は、それらの相対的免疫寛容のため、ヒトでの成功を必ずしも予測するとはかぎらない。ヒトを念頭において齧歯動物およびブタ研究を設計することはできる:
ヒト被験体における予め存在している中和抗体と関連づけられる可能性が低いAAV血清型(AAV8およびAAV9)を選択することができる59。例えば、AAV8は、抗AAV中和抗体の最低陽性率と関連づけられる(19% 対 AAV1についての59%およびAAV2についての50%)。さらに、AAV8/9抗体を有する少数のヒト被験体の中で、これらの被験体の75〜90%は低い力価を有し、このことが、AAV8およびAAV9を、予想される免疫応答についての現行の最適選択肢にしている59。ヒト血清は、アカゲザル由来AAVベクター、例えばAAVrh.32.33、に対する血清陽性を殆ど有さず60、したがって、AAV8およびAAV9が不適切であることが判明した場合には代替ベクターを提供することになるが、AAVrh.32.33での前臨床および臨床経験は限られている。
【0129】
AAVベクターの筋肉内注射は、より大きな動物では免疫応答を誘発することがあるため、回避される場合がある
【0130】
二種の特異的IGFIタンパク質を使用することができる:ラットおよびブタ。ラットIGFIとブタIGFI両方を使用することができる。種特異的IGFIの使用は、導入遺伝子への免疫応答を低下させることになる。ヒトIGFIをコードする最適なベクターで臨床試験を行うことができる。
【0131】
AAV8およびAAV9の静脈内送達は、その単純さのため、および可能な最低AAV用量で最高の血清レベルの治療用導入遺伝子を達成する可能性が高いため、訴求力がある。これらのAAVベクターの血清陽性率は、ブタ、およびヒトを含む霊長類において重要であるが、齧歯動物では重要な因子になっていない。本発明者らの納入業者からのブタの予備サンプリングは、試験した9匹のブタのうちの7匹においてAAV8またはAAV9抗体の証拠を示さない。
【0132】
代替実施形態では、本発明の導入遺伝子の発現を単一臓器に限定したが、これは、例えば、かかる戦略が、その導入遺伝子の治療用血清レベルをもたらす場合にである。例えば、本発明の例示的ベクターは、肝細胞特異的プロモーター(TBG、ヒト甲状腺ホルモン結合グロブリン)を伴うAAV8である。
【0133】
IGFIを使用するパラクリンベースの遺伝子導入
本発明者らは、これらの概念実証研究のためにIGFIを選択したが、代替実施形態では、本発明は、本明細書の中で略述する候補遺伝子のいずれかの使用を含み、これらの遺伝子のいずれも意図された効果に有効であるだろう。例えば、本発明は、任意のパラクリンポリペプチド、例えば、哺乳動物強心性ペプチド、セレラキシン、リラキシン−2、ウロコルチン−2、ウロコルチン−1、ウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1、もしくはこれらの任意の組み合わせ;またはヒトウロコルチン−2、ウロコルチン−1、ウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1、もしくはこれらの任意の組み合わせ、を有効に選択する方法および組成物を提供する。
【0134】
本発明者らは、テトラサイクリン応答因子(TRE)の調節下にある、ラットIGFI(A型)をコードする例示的AAV5ベクターを作出した:図1は、IGF1をコードするAAV5を含む本発明の例示的構築物を例証するものである;この例示的AAV5ベクターは、IGFIの制御性発現をもたらす:ITR、末端逆位配列(inverted terminal repeat);TRE、テトラサイクリン応答因子;IGFIAU1、インスリン様成長因子−I;SVpA、SV40ウイルスゲノム(二方向性)からのポリA;rtTA2M2、リバーステトラサイクリン調節性トランスアクチベーター;CMV、ヒトサイトメガロウイルス初期遺伝子プロモーター。全挿入サイズ、2823bp、がscAAV5ベクター(容量3.3kb)内に組み込まれる。
【0135】
前記コード配列は、IGFIの細胞外分泌を確実なものにするためのシグナルペプチドを含む。本発明者らは、培養心筋細胞での遺伝子導入実験においてこのベクター(AAV5.IGFI.tet)を使用した:図2Aは、培養新生仔ラット心筋細胞をAAV5.IGFI.tet(10,000gc/細胞、2日)に感染させた研究からのデータを例証するものであり;図示されているゲルは、IGFI発現がドキシサイクリン(+Dox)(2μg/mL、3日)によって誘導されたが、ドキシサイクリン不在下(−Dox)では起こらなかったことを示す。IGFIを培地中で抗AU1抗体により免疫ブロット法によって検出した。図2Bは、同じ実験で心筋細胞をAkt溶解バッファーに溶解し(10分、4℃)、遠心分離した(12,000×g、10分)データを例証するものである;全Aktおよびホスホ−Aktを、抗Aktおよび抗ホスホ−T308−Akt抗体によって検出した。IGFI発現は、Akt活性化と関連づけられた。感染後、導入遺伝子発現は、ドキシサイクリンでの活性化まで検出不能(「漏出」なし)であった(図2A)。
【0136】
本発明者らのベクター(図1)は、より最近のrtTA改変体(rtTA2−M2)を含有し、この改変体は、以前のrtTA構築物とは異なり、頑強なdox依存性発現および低い基礎活性または基礎活性欠如をもたらす13
【0137】
培養心筋細胞における制御されたIGFI発現
培養新生仔ラット心筋細胞にAAV5.IGFI−tetを遺伝子導入した(10gc/細胞、2日)。図3においてグラフで例証するように、その後、ドキシサイクリン(2μg/mL)を培地に添加し、リアルタイムRT−PCRを用いてIGFI mRNA発現を定量した。IGFI mRNAの発現は、30分以内に(未刺激のものに対して(vs))1.5倍増大され、24時間までに14倍上昇のピークに達した。48時間の時点でのIGFI mRNAは、やや少なかった(10倍)。これはドキシサイクリン分解を反映する。IGFI発現をオフにするために、4回の逐次的PBS洗浄(「オフ洗浄」、図3参照)を用いてドキシサイクリンを除去した。IGFI mRNAは、ドキシサイクリン抜き取り後、急速に減少した。
【0138】
AAV5.IGFI.tetの骨格筋送達は、不全心臓の機能を改善する
骨格筋遺伝子導入。本発明者らは、マウスにおいてAAV5.IGFI.tetの間接的冠動脈内送達後の心不全の研究を行い(図1)、心臓標的化送達後の不全心臓の機能の実質的改善を認めた。しかし、パラクリンベースの導入の効力を実証するための概念実証研究は、前記ベクターの骨格筋送達を要することになる。これらの極めて重要な研究のために、本発明者らは、ラットの前脛骨筋におけるAAV5.IGFI.tetの筋肉内送達を用いた。骨格筋におけるIM注射後のその周知の高い発現レベルのためAAV5を選択した。すべての事例で、本発明者らは、培地中でのIGFI発現(細胞培養実験)、ならびに心臓(マウスCHFモデル)および血清(IM注射後のラットモデル、IV注射後のマウス)における長期IGFI発現、ならびに不全心臓の機能の対応する改善を認めた
【0139】
ラット研究において、本発明者らは、図4Aにおいて例証するように、長期導入遺伝子発現をもたらすためのAAV5.EGFPの骨格筋注射の実行可能性を先ず調査した:図4Aは、AAV5.EGFP遺伝子導入の3週間後のラットの片側前脛骨筋におけるEGFP発現を示す顕微鏡写真を図示するものである。同じ動物からの反対側の未注射前脛骨筋は、EGFPの発現を示さない。図4Bは、CHFにおける骨格筋IGFI発現の効果を測定する心エコー検査からのデータを要約する表4である。
【0140】
CHFのMIモデルおよび実験プロトコル
ラットにおいて近位左冠動脈閉塞によりMIを誘導し、その結果、大きな貫壁性梗塞および重度のLV機能障害を生じさせた。MIの1週間後、LV機能障害を有するラットの前脛骨筋に、AAV5.IGFI.tetの2×1012ゲノムコピー(gc)を与えた。4週間後(MIの5週間後)、LV駆出率(EF)<35%のラットを2つの群に無作為に割り当てた:一方の群には、IGFI発現を活性化するために飲用水中のドキシサイクリンを与え(IGF−オン;n=10)、他方にはドキシサイクリンを与えなかった(IGF−オフ;n=9)。MIの10週間後(IGFI発現の活性化の5週間後)、LVサイズおよび機能を心エコー検査および血行力学的研究によって評価した;図5は、CHFにおけるAAV5.IGFI.tet骨格筋遺伝子導入のための実験プロトコルを図示するものである。
【0141】
結果。IGF−オンラットは、LV駆出率増大(p=0.02)およびLV収縮末期寸法の低減(p=0.03)を示した(表4、図4B参照)。さらに、LV収縮機能は、ドブタミン注入中の圧力発生速度(LV +dP/dt)によって評価して、IGFI発現の開始後に増大された(p=0.001)(表5、次の頁)。加えて、心拍出量(p=0.007)および一回仕事量(stroke work)(p=0.003)の好適な変化が観察された(表5)。導入遺伝子活性化の5週間後に血清IGFIは増大した(IGF−オフ:164±24ng/mL;IGF−オン:218±11ng/mL;p=0.008;n=9各群)。これらのデータは、AAV5.IGFI.tetの骨格筋注射が、テトラサイクリン活性化発現を可能にし、血清IGFIレベルを増大させ、不全心臓の機能を改善することを示す。代替実施形態では、免疫性の弱いAAVベクターを使用することができ、ならびに免疫応答の誘発を回避するためにおよび2つの制御性発現システムを試験するためにそれらベクターを筋肉内注射ではなく静脈内に使用することができる。
【0142】
【表4】
心臓アポトーシスおよび心線維症(図6
図6は、心臓アポトーシスおよび心線維症に対するAAV5.IGFI.tet遺伝子導入の効果を例証するものである。図6Aは、IGFI発現の活性化(IGF−オン)が、遠隔領域より辺縁領域のほうが低減された心筋細胞アポトーシス低減と関連づけられることを示した(p<0.0001;二元配置ANOVA)、TUNEL染色からのデータをグラフで例証するものである。図6Bは、低減された心線維症を示した、IGF−オフおよびIGF−オンラットからの非梗塞心室内中隔のピクロシリウスレッド染色切片を図示するものであり、そしてコラーゲン面積率が低減された(p=0.048);図6Cは、IGF−オフおよびIGF−オンラットからのこのデータを例証するものである。
【0143】
AAV5.IGFI.tetの静脈内送達 対 筋肉内送達。予備研究で、本発明者らは、静脈内遺伝子導入が、循環IGFIレベルを増大させることができるかどうかを決定した。AAV5.IGFI.tetの静脈内送達(マウス1匹につき5×1010gc、尾静脈)の1週間後、マウスを2つの群の一方に無作為に割り当てた:一方の群には、IGFI発現を活性化するために飲用水中のドキシサイクリンを与え(IGF−オン)、他方にはドキシサイクリンを与えなかった(IGF−オフ)。循環IGFIの大部分はIGFI結合タンパク質(IGFBP)に高親和性で結合しており、生物学的に不活性であるので、本発明者らは、遊離血清IGFI、生理活性IGFI形態、を測定し、該IGFIは、IGFI発現の活性化の3ヶ月後、IGF−オフマウスにおけるよりIGF−オンマウスにおいて2倍高かった(図7、次の頁)。セクション2.2.1.2において略述した筋肉内AAV5.IGFI.tet(ラット1匹につき2×1012ゲノムコピー)遺伝子導入戦略を用いて、本発明者らは、IGFI発現の活性化の5週間後にIGF−オン群においてIGF−オフ群より1.3倍の遊離血清IGFI増大を認めた(図7)。これらのデータは、AAV5.IGFI.tetの静脈内送達が、血清IGFI濃度に関して筋肉内送達より有効であることを示唆する。
【0144】
さらに、静脈内戦略は、AAVの筋肉内送達後に観察された免疫応答の惹起を回避する可能性が高い。これらの実験により、本発明者らの研究についての極めて重要な実行可能性データが得られる。
【0145】
静脈内送達:AAV5対AAV9。
【0146】
次に、本発明者らは、図8に図示するように肝臓および心臓におけるコピー数および導入遺伝子発現をエンドポイントとして用いて、AAV5対AAV9の静脈内送達の相対的効力を決定した。本発明者らは、一本鎖(ss)AAVベクターに比べて早い発現を可能にする自己相補性(self−complementary:sc)AAVベクターを使用した。マウスに静脈内scAAV5.CMV.EGFPまたはscAAV9.CMV.EGFP(5×1011gc)を施し、21日後に殺した。両方のベクター内の共通配列に指向させたPCRプライマーを使用して、肝臓および心臓におけるAAV DNAコピー数を比較した。肝臓において、AAV9は(AAV5に対して)、AAV DNAコピー数およびEGFP発現両方の3倍増大をもたらした;心臓では、AAV DNAコピー数の5倍増大およびEGFP発現の8倍増大が認められた。これらのデータは、静脈内AAV5と比較して、AAV9のほうが高い血清レベルの導入遺伝子をもたらすことができることを示す。
【0147】
方法
図10は、本発明の例示的ベクターおよびベクター設計を図示するものである:予備研究および生物学的特徴から選択した3つのベクターの静脈内送達を用いて、広範に分布し発現されるAAV8およびAAV9(図10A)、と肝臓特異的プロモーターを有するAAV8(図10B)との相対的メリットを決定することができる。有効性の判定基準は、送達の6週間(w)後の血清IGFIレベルであり得る。図10C〜Fにおいて例証するように、最適なAAVベクターを使用して2つの制御性発現ベクター(TetおよびRap)を生成し、ラットにおける静脈内送達後にそれらを比較することができる。有効性の判定基準は、血清IGFIレベルであり得、このときは、導入遺伝子発現の活性化の16週間後(送達の20週間後)に調査した。
【0148】
図10AおよびB。後の研究のために最良のAAV血清型を決定するためのラットにおける初期研究用のAAVベクター。これらのベクターは、CBA(AAV8およびAAV9)またはTBG(AAV8)によって駆動される、ラットIGFI(未制御)をコードする。血清IGFIレベルおよび発現持続期間に基づいてこれらのうちの最良のものを、最適制御システムを決定するための後の研究に付すために使用した。
【0149】
図10C〜F。最適な制御性発現システムを決定するためのラットにおける研究用の候補ベクター。初期研究(上記)からの最良AAVベクターを使用して、2つの制御性発現ベクターを生成し、試験した:一方はテトラサイクリン制御を有し、他方はラパマイシン制御を有する。これらのベクターは、RSV(AAV8およびAAV9)またはTBG(AAV8)によって駆動される、ラットIGFIの制御性発現をコードする。前記CBAプロモーターは、ラパマイシン制御ベクターには大きすぎるので、その代りにRSVを使用する。これらの2つの制御システムうちの良好なほうを、ブタIGFIの制御性発現をコードする、正常ブタにおける後の研究用の最適なベクターの生成のために選択する。ITR、末端逆位配列;TRE、テトラサイクリン応答因子;IGFI、インスリン様成長因子−I;SVpA、SV40ウイルスゲノム(二方向性)からのポリA;rtTA2M2、リバーステトラサイクリン調節性トランスアクチベーター;SV40en、シミアンウイルス40エンハンサー;TBG Prom、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター;RSV Prom、ラウス肉腫ウイルスプロモーター;FRB−p6、FRAP(ラパマイシン相互作用タンパク質)の、転写因子NF−κBのサブユニット(p65)と組み合わせた部分;IRE、内部転写再エントリー部位;ZF、ジンクフィンガーHD1 DNA結合ドメイン;FKBP、FK506結合タンパク質;pA、最小ポリアデニル化セグメント;ZBD、ジンクフィンガーHD DNA結合ドメイン(8コピー)。
【0150】
本発明者らは、AAVへの免疫応答がラットでは重要な役割を果たすことになるが、かかる応答がイヌ、ブタ、ヒトおよび他の霊長類において重要であるとは思わない。免疫応答を注意深く評価すべきである。(例えば、すべてのベクター内の共通配列を増幅するプライマーを使用するqPCRを用いて)AAV体内分布および(例えば、組織学的解析を用いて)毒性を定量することができる。
【0151】
群の大きさ。成功のための主な判定基準は、IGFIの血清レベルであり得、これは20%の変動率を有する。0.05のα誤差および0.10のβ誤差を想定して、群間に血清IGFIの30%差を検出するには、n=10の群の大きさを要することになる。
【0152】
実施例3 ウロコルチン−2をコードするAAV8の送達は心臓機能を上昇させる
この実施例は、本発明の方法の代替実施形態において、パラクリン導入遺伝子がホルモンとして作用することおよび遠隔部位から循環に放出された後に心臓効果を有することを実証するものである。この例示的アプローチは、高収率心臓遺伝子導入を達成することの問題を回避することができ、外来診療中に全身注射により患者を処置することを可能にすることができる。さらに、この例示的アプローチは、治療用ペプチドの静脈内(IV)送達の必要をなくすことができ、それにより、反復および長期入院、高い罹患率および莫大な経済的費用を回避することができる。代替実施形態において、これらの目的を達成するために最も適しているベクターは、アデノ随伴ウイルス8型(AAV8)であり、これは、齧歯動物、ブタおよび霊長類において静脈内送達後に長期かつ広範囲の発現をもたらす。
【0153】
方法の代替実施形態では、最近発見された副腎皮質刺激ホルモン放出因子ファミリー血管作用性ペプチドであるウロコルチン−2を、治療用導入遺伝子として使用する。ウロコルチン−2は、心臓および血管系において頑強に発現される副腎皮質刺激ホルモン放出因子2型受容体を介して作用することができる。うっ血性心不全を有する動物および患者における研究により、ウロコルチン−2ペプチド注入の好適な血行力学的効果が示されており、前記効果としては、負荷とは無関係の収縮機能上昇が挙げられ、これは直接的な心臓効果を示す。本発明者らは、ニワトリβ−アクチンプロモーターを使用するAAV8の静脈内送達が、持続的な高血清レベルのUCn2をもたらし、不全マウス心臓の機能を上昇させることを確証した。
【0154】
本発明のこの態様を実施するために最良の特異的実施形態を選択するために、マウスおよびブタにおいて研究を行うことができる、例えば、a)血漿導入遺伝子レベルの微調整を可能にし、そして必要に応じて発現をオフおよびオンにさせるような制御された導入遺伝子発現を決定することができる;およびb)当該技術分野において認識されている動物モデル、CHFのマウスモデル、においてこの例示的パラクリンベースのアプローチを用いてウロコルチン−2遺伝子導入の安全性、効力および作用機序を決定することができる。また、正常ブタの使用により、a)血清UCn2を増大させるために要する最小有効ベクター用量;b)ベクターおよび導入遺伝子の体内分布;ならびにc)毒性を決定することができる。
【0155】
IVペプチド注入に勝る本発明のパラクリン遺伝子導入方法の潜在的利点を表1(上記)に示す。代替実施形態において、本発明の方法の実施は、感染症の回避ならびに反復および長期入院の低減を可能にし、それにより、費用削減を可能にする。代替実施形態において、全身ベクター送達は、任意の所与のAAV用量について最高の発現レベルをもたらすことにより、パラクリン遺伝子導入に有利なものである。このアプローチの潜在的安全性および効力が、血友病Bを有する患者における早期遺伝子療法臨床試験で最近立証され、この研究により遺伝子療法における希望が取り戻された。代替実施形態において、本発明のパラクリン遺伝子導入方法は、有益な心血管効果を有する任意の循環ペプチドに適し得る。
【0156】
代替実施形態では、AAVを使用して、アデノウイルスより長い導入遺伝子発現を可能にし、レトロウイルスに関連した挿入変異誘発を回避する。持続性導入遺伝子発現は、大型動物においてAAVベクターの単回注射の数年後に証明されている6−10。本発明者らは、これをマウス11およびラットにおいて確認した。最近の臨床試験により、一部のAAV血清型はIM注射後に免疫応答を誘発することが判明した12、13が、より新世代のAAVベクター(AAV5、6、8および9)は、霊長類において同様の問題を有さない14。IV AAV送達は、導入遺伝子の血清レベルに関してIMより優れており、AAV9およびAAV8は、AAV515(および未発表データ)より優れている。さらに、予め存在している抗AAV8抗体は、ヒトでは、AAV1およびAAV2をはじめとする他のAAV血清型が優勢である(50〜59%)ほど優勢ではない(19%)16図11にグラフで例証する本発明者らのデータは、IV AAV8が、パラクリンアプローチのために持続して増大されたレベルの血清UCn2を達成するための最適なベクターおよび送達経路であることを示す。図11は、AAV9.CMV.UCn2(9.CMV)、AAV9.CBA.UCn2(9.CBA)対AAV8.CBA.UCn2(8.CBA)のIV送達からのデータを例証するものであり、これらのデータは、すべてのベクターが6週間後に血清UCn2の実質的増大を伴うことを示した。バーの中の数字は、各群についての試料サイズを表す;ANOVAからのp値。ITR、末端逆位配列;SVpA、SV40ウイルスゲノムからのポリA;UCn2、ウロコルチン−2;CBA、ニワトリβ−アクチンプロモーター;CMVエンハンサー、ヒトサイトメガロウイルスエンハンサー。
【0157】
横紋筋におけるその頑強性にもかかわらず、CMVプロモーターは、肝臓においてメチル化および不活性化を受けやすく17、本発明者らのデータは、メチル化を受けにくいプロモーターが優れていることを示す。実際、図11において例証するように、CMVは、IVベクター送達後にUCn2の持続的2倍増大をもたらしたが、ニワトリβ−アクチン(CBA)プロモーターの使用は、血清UCn2の15.7倍増大を生じさせる結果となった。肝細胞特異的甲状腺ホルモン結合グロブリン(TBG)プロモーターも使用することができる。
【0158】
代替実施形態において、本発明の構築物および方法により、制御性発現、例えば、発現をオフにすることが可能である。AAV遺伝子導入によって付与される長期発現の可能性のため、発現をオフにする能力は、有害反応が発症する事象において望ましい。制御性発現は、恒常的導入遺伝子送達ではなく間欠的導入遺伝子送達の融通性も可能にする。代替実施形態において、本発明の構築物および方法は、例えばエクジソン、タモキシフェン、テトラサイクリン、ラパマイシンなどの、制御性発現システムを使用する18−21。エクジソンシステムのサイズは2ベクター戦略を要し、タモキシフェンは、毒性に関する問題点を提起する。テトラサイクリンおよびラパマイシン制御システム(表2)は、大型動物モデルにおいて試験されている9、10、22−26
【0159】
【表5】
代替実施形態において、本発明の構築物および方法は、tet−制御システムを使用し、このシステムは広範に研究されている27。以前のrtTA構築物とは異なり、本発明のrtTA改変体(例えば、rtTA2−M2)は、基礎活性なし(すなわち、「漏出」なし)で頑強なtet依存性発現をもたらし11、26、38、29、30、およびテトラサイクリンに対する10倍高い感受性(0.1μg/mLで最大導入遺伝子発現活性化)をもたらす30。10〜20mgのドキシサイクリンの単回日用量は、ヒト被験体における導入遺伝子発現の完全活性化に十分であり得る26、31。200mg/日の用量は、アクネおよび慢性感染症のために経口ドキシサイクリンを慢性使用している患者によって十分に耐容される31、32。テトラサイクリンは、MI後の最初の数日間に投与したとき、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)活性を減弱させ、LVリモデリングに影響を及ぼすことができる24。本発明者らは、提案されたマウスMI誘導CHFモデルにおいて、ドキシサイクリンをMIの5週間後に与えたとき、ドキシサイクリンが、LVリモデリングにも、TIMPにも、MMP発現にも影響を及ぼさないことを以前に示した25。臨床の場では、テトラサイクリンをMIの急性期に使用しないことにする。
【0160】
潜在的問題である、rtTAシステムの成分への免疫応答は、非ヒト霊長類でのAAV4.tetおよびAAV5.tet遺伝子導入(網膜内)の研究では確認されず、テトラサイクリン依存性導入遺伝子発現がその2.5年の研究期間にわたって持続した。本発明者らには、高レベルのrtTAを発現するマウス心臓においても25、28、29、rtTA2−M2制御エレメントを使用するIGFIのAAV5媒介制御性発現後のマウスにおいても11炎症が認められない。非ヒト霊長類におけるAAV.tetのIM送達は、網膜内または血管送達とは異なり、トランスアクチベーター融合タンパク質の細菌およびウイルス成分への免疫応答のため、制御性発現の減弱をもたらさないようである33。tet−レギュレーターへの免疫応答と、細菌またはウイルスタンパク質を有さず、免疫応答の惹起と関連づけられないラパマイシン制御システムとを、同時に試験することができる10。tet−およびラパマイシン制御の強度および制限については表2を参照されたし。
【0161】
ラパマイシン制御システムにおいて、導入遺伝子発現は、ナノモル濃度のラパマイシンまたはラパマイシン類似体によって誘発され、これは用量依存性であり、かつ可逆的である21。ラパマイシンは、免疫応答を抑制するために臨床使用されており、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)シグナル伝達経路を遮断することにより35、マウスにおける加齢の悪影響を未然に防ぎ23、多形神経膠芽腫を阻害する34。ラパマイシンと同様に有効に導入遺伝子発現を活性化する経口ラパマイシン類似体AP22594は、最小の免疫抑制を呈示し、mTORを阻害しない10、35−37。ブタを使用して、マカクにおいて有効に使用されるものと同様の経口用量(0.45mg/kg、週1回)で開始して、経口投与AP22594の用量−応答関係、およびその必要投薬間隔を決定することができる10
【0162】
代替実施形態において、本発明の構築物および方法は、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)ファミリーに属する、UCn1、UCn2およびUcn3(38〜40アミノ酸(aa))を含む、ウロコルチン−2をin vivoで発現する。これらのペプチドは、副腎皮質刺激ホルモン放出因子受容体1および2(CRF1、CRF2)を刺激することができる。UCn1は、CRFR1およびCRFR2を結合するが、UCn2およびUcn3は、排他的にCRFR2を結合し38〜41、これらは心筋細胞、血管系、腸管、脳および骨格筋において発現される42、43、44。UCn1は、LPS誘導炎症の際に見つけられ、組織透過性に関係づけられている45、46が、UCn2の効果は、多岐にわたっており、一つにはCRFR2に対するその親和性のため、好適な生物学的効果と関連づけられている。UCn2の効果は、すべてcAMP依存性というわけではない。例えば、UCn2結合後のCRFR2脱感作は、β−アレスチンのトランスロケーションによりPI3K/Aktシグナル伝達を誘導する。加えて、ERK1/2シグナル伝達の増大が、Gタンパク質βおよびγサブユニットの解離によって起こる47、48。これらのcAMP非依存性事象は、心筋細胞アポトーシス低減に寄与する。前臨床および臨床CHFにおけるUCn2のペプチド注入は、LV機能に対する好適な効果、および交感神経副腎軸の活性化低減を一貫して示している49−51
【0163】
下の表3に列挙するように、多くの有益効果の中で、本発明のモデルおよび組成物を使用するUCn2注入は、負荷条件に関係なく収縮機能を増大させることができ、これは、直接的心臓効果を示す52。変力効果についての機序は、定義されていない。最近の研究は、Ca2+の取り扱い53、活動電位持続時間54、虚血−再潅流傷害55−57、およびレニン−アルドステロンシステム49に対する有益効果を示唆している。UCn2注入の安全性および効力は、CHFの大型動物モデルにおいて58、59、ならびに正常ヒト被験体およびCHFを有する患者において50、51確認されている。最近の論説は、クラス3および4 CHFでのその使用を促進している60
【0164】
【表6】
UCn2の血漿半減期は、15分である51ので、慢性注入を必要とする。対照的に、代替実施形態において、本発明のパラクリンベースのUCn2遺伝子導入は、上の表1に特記したように、慢性ペプチド注入に関連した障害を回避することができる。提案した2つの種において種特異的UCn2のみを発現させることにより、導入遺伝子への免疫応答は、抑止されることになる。
【0165】
パラクリンベースの遺伝子導入概念実証。本発明者らは、インスリン様成長因子−IをコードするAAV5(AAV5.IGFI)のIM注射によるパラクリン遺伝子導入が、不全ラット機能を改善させることを立証した11。本発明者らはまた、UCn2をコードするAAV8のIV送達が、持続した高レベルの血清UCn2(>15倍増大)をもたらすばかりでなく、正常および不全心臓の機能も上昇させることを、ここで示した。
【0166】
AAVベクターおよびプロモーターの選択。IV AAV8またはAAV9が他のAAV血清型より高いレベルの導入遺伝子発現をもたらすこと、ならびに一般に最も頑強であるCMVまたはCBAプロモーターが最適であることは、以前に発表された研究から明らかであった。それ故、本発明者らは、どのベクターが血清UCn2を最も有効に増大させるのかを決定するために、図11に図示するように、CMVまたはCBAによって駆動される、マウスUCn2をコードするAAV8および2つのAAV9ベクターを作出した。市販のUCn2特異的ELISAを使用した。AAV9.CMVは、血清UCn2を2.3倍上昇させた。この倍率は、他の2つのベクターより低いが、治療応答のためには十分であり得る。しかし、AAV8.CBAは、血清UCn2の15.7倍上昇を伴った(AAV8.CBA.UCn2:109±7ng/mL、n=9;対照:7±1ng/mL)。かかる高いレベルの血清UCn2は、そのAAV8用量の低減を可能にすることになる。AAV8.CBAおよびAAV9.CBAの、AAV9.CMVに対する優位性は、CBAの相対的頑強性、または肝臓におけるメチル化および不活性化に対するCMVの感受性を反映することもある17。それ故、本発明者らは、AAV8.CBAをさらなる研究のために選択した。
【0167】
静脈内送達後のAAV8.CBA.UCn2分布および発現。代替実施形態において、本発明の構築物および方法は、パラクリンベースの遺伝子導入戦略によりUCn2をin vivoで発現し、ならびに本発明の構築物および方法を用いて、血清UCn2レベルを増大させることができる。代替実施形態は、UCn2発現が心臓自体に存在することを必要としない。なぜなら、それは、循環UCn2の効果であり、導入遺伝子の治療効果をもたらすことになる心臓および血管系に対するその効果、心筋細胞自体におけるUCn2発現を必要としない効果、であるからである。
【0168】
UCn2の肝臓発現。AAV8.CBA.UCn2のIV送達(5×1011gc;図11参照)の6週後に実証された血清UCn2の15.7倍増大は、肝臓におけるUCn2 mRNA発現の時間依存性増大と関連づけられ、この時間依存性増大は、図12において例証するように、送達の4〜6週間後にプラトーに達し、これは、血清UCn2の定常的上昇とよく相関した。図12Aは、AAV8.CBA.UCn2(5×1011gc、IV)後の肝臓におけるUCn2 mRNA発現の時間経過をグラフで例証するものである。肝臓UCn2発現(各バーは、2匹のマウスからの平均値である)は、送達の4〜6週間後にプラトーに達し、これは、血清UCn2で認められるプラトーと相関した(データの表示なし)。図12Bは、AAV8.CBA.UCn2(5×1011gc、IV)の6週間(w)後のLVにおけるUCn2 mRNA発現を示すデータをグラフで例証するものである。同様に高いレベルのUCn2 mRNAが、骨格筋試料でも認められた(データの表示なし)。
【0169】
UCn2の心臓発現。UCn2の心臓発現は、本発明のパラクリンベースの遺伝子療法の有益効果には必要ではないが、本発明者らは、AAV8.CBA.UCn2のIV送達の6週間後にLV試料においてUCn2 mRNA発現の実質的増大を実証した。図12B参照。代替実施形態では、例えばAAV8(AAV8 DNA存在を含む)およびUCn2 mRNAを含む、本発明の構築物を、骨格筋、肺、脳、腎臓、脾臓、小腸、骨髄をはじめとする、任意の臓器(単数)または他の臓器(複数)に送達するおよび/またはそこで発現させることができる。
【0170】
正常マウスにおけるUCn2遺伝子導入。UCn2遺伝子導入がLV機能を上昇させるかどうかを決定するために、本発明者らは、AAV8.UCn2(5×1011gc)または食塩水(対照)を静脈内(IV)送達によって正常マウスに送達した。UCn2遺伝子導入の5週間後、ミラーカテーテル(1.4F)をLV腔に配置して圧力発生を測定する侵襲的手順にマウスを付した。データ収集および分析を、群の正体に対して盲検にした。UCn2遺伝子導入は、LV収縮機能(LV +dP/dt)(図13A、左)を上昇させた;−dP/dtも低下し、これは、LV弛緩増進を示す(図13B、右パネル)。LV質量、組織学、またはLV構造もしくは機能に対する有害作用は、検出されなかった。図3は、AAV8.UCn2のIV送達の6週間後の正常マウスにおける(食塩水注射対照マウスに対する)LV機能をグラフで例証するものである。図3A:LV +dp/dt;図3B.LV −dP/dt。値は、平均±SEを表す。バーの中の数字は、群の大きさを表す。UCn2遺伝子導入は、収縮機能および心臓弛緩の両方を増大させた。
【0171】
CHFを有するマウスにおけるUCn2遺伝子導入。本発明者らは、近位左冠動脈閉塞を用いてマウスにおいて重症CHFを誘導した;これは本発明者らが広範に使用し、かつ臨床的虚血に基づくCHFの態様を模倣するモデルである25。プロトコル(図12A)に示すように、冠動脈閉塞の3週間後、本発明者らは、心エコー検査を行って重症LV機能不全および腔拡張を確認した。その後、本発明者らは、登録マウス(enrollee)を無作為に割り当て、AAV8.CBA.UCn2(マウス1匹につき5×1011gc)または同体積の食塩水のIV送達を施した。無作為化の5週間後、マウスを反復心エコー検査、ならびにLV圧発生および減衰ならびにそれらの一次導関数、LV +dP/dtの測定に付した。データ収集および分析を群の正体に対して盲検にした。UCn2遺伝子導入時に存在した顕著なLV機能不全にもかかわらず、LV面積変化率(fractional area change:FAC%)(駆出率の代替物)は増大した(図14B)。UCn2遺伝子導入は、LV収縮機能(LV +dP/dt)およびLV拡張機能(LV −dP/dt)も向上させた(図14C)。ピークLV +dP/dtは、正常に近い値まで増大された。これにより、本提案戦略がCHFのための新規療法としての開発に値することが裏付けられる。図14Bおよび14Cは、不全心臓に対するUCn2導入の効果を示すデータを例証するものである:図14A:MIおよびCHF発症の3週間後、マウスにIV AAV8.UCn2または食塩水を施した;遺伝子導入の5週間後(MIの8週間後)、LV機能を評価した(盲検研究);図14B.UCn2遺伝子導入は、LV面積変化率(%FAC)を増大させた;図14C.UCn2遺伝子導入は、LVピーク+dP/dtおよびピーク−dP/dtを増大させた。これは、不全心臓の収縮および拡張LV機能における顕著な恩恵を示す。
【0172】
UCn2遺伝子導入:心臓Ca2+取り扱いに対する効果
C2.5.1.UCn2遺伝子導入はSERCa2aの発現を変える。AAV8.CBA.UCn2遺伝子導入(5×1011gc、IV)は、マウスから遺伝子導入の4週間後に得たLV試料におけるSERCA2a mRNAおよびタンパク質の発現増大と関連づけられた(図15)。これらの変化は、筋フィラメントへのCa2+利用能を促進し、それによって、本発明者らがUCn2遺伝子導入後に正常および不全心臓において観察した(図13および14)ように収縮機能と拡張機能の両方を上昇させると予想され、UCn2遺伝子導入がLV機能を上昇させるもっともらしい機序をもたらした。UCn2ペプチドの同様の効果が、単離された心筋細胞に関して記載されている53
【0173】
図15は、正常マウスにAAV8.CBA.UCn2(5×1011gc)または食塩水(CON)のIV送達を施し、4週間後、UCn2遺伝子導入群からのLV試料がSERCA2aタンパク質発現の2倍増大を示した(図15A、グラフによる;図15B、免疫ブロットによる)データを例証するものである。免疫ブロットシグナルをTnI含有量に正規化した。バーの中の数字は、群の大きさを表す。SERCA2a発現のこれらの変化は、筋フィラメントでのCa2+利用能を促進し、それによってLV収縮および拡張機能を上昇させると予想された。
【0174】
UCn2遺伝子導入およびCa2+トランジェント。心筋細胞(CM)をマウスからAAV8.CBA.UCn2(5×1011gc、IV)の4週間後に単離した。IV食塩水を施したマウスを対照として使用した。測定中、UCn2マウスからの心筋細胞を24nMのUCn2ペプチドとともにインキュベートして、in vivoで血清UCn2レベルを模倣した。UCn2遺伝子導入を施したマウスからの心筋細胞は、図16において例証するように、変更されたCa2+トランジェントと短縮されたt1/2を示した;図16:UCn2遺伝子導入後のCa2+トランジェント:図16Aは、UCn2遺伝子導入が、Ca2+低下速度を増大させたことをグラフで例証するものである;図16Bは、4週間前にUCN2遺伝子導入を施したマウスからの心筋細胞において時間対Ca2+トランジェント減衰が短縮されたことをグラフで例証するものである。実験を3回繰り返した。バーは、平均+SEを表す;バーの中の数字は、心筋細胞の数を表す;バーの上の数字は、p値を示す。
【0175】
UCn2は心臓保護性である。低酸素傷害に対するUCn2の効果を試験するために、本発明者らは、チトクロムオキシダーゼ中のヘム補因子を不可逆的に結合してミトコンドリアの呼吸を阻害するアジ化ナトリウム(NaN3)を用いて、培養新生仔ラット心筋細胞を処理し、低酸素誘導細胞傷害性を模倣した。UCn2処理は、図17において例証するように、形態学的におよびLDH放出低減によって表されるように心筋細胞を傷害から保護した。UCn2は、単離された心筋細胞を低酸素−再酸素負荷傷害からも保護する(p<0.001;データの表示なし)。図17は、UCn2が、培養新生仔ラット心筋細胞を低酸素傷害から保護するデータを示す:図17Aは、UCn2(60nM)が、NaN(10mM)処理の24時間後に形態学的な正常性を維持することを例証するものである;図17Bは、UCn2が、NaN処理後にLDH放出を低減させることをグラフで例証するものである(p<0.001)。
【0176】
CREBおよびβ−カテニンに対する効果。LV試料をマウスからAAV8.CBA.UCn2(5×1011gc、IV)の4週間後に得た。IV食塩水を施したマウスを対照として使用した。UCn2遺伝子導入を施したマウスからのLV試料は、CREBのリン酸化増大を示した(3倍増大、p<0.01、図18A)。CREBは、心臓におけるCRE媒介遺伝子発現を可能にする転写因子である。加えて、UCn2遺伝子導入は、LV β−カテニンリン酸化の2倍増大を伴った(p<0.0001、図18B)。β−カテニンリン酸化増大は、心筋細胞の介在板におけるβ−カテニン蓄積を低減させ、それによって心臓の硬直および拡張機能不全を低減させる。これは、UCn2遺伝子導入が正常および不全心臓におけるLV弛緩を増進するという本発明者らの観察の一因になり得る。図18は、CREB(図18A)およびβ−カテニン(図18B)両方のリン酸化が、UCn2.CBA.UCn2のIV送達の4週間後のLV試料において検出されたことをグラフで例証するものである。対照マウスにはIV食塩水を施した。
【0177】
UCn2遺伝子導入の非心臓効果。AAV8.CBA.UCn2(5×1011gc)のIV送達は、グルコース代謝に対して好適な効果−抗糖尿病効果−を有する。例えば、UCn2遺伝子導入を施したマウスは、前臨床研究において用いられる2型糖尿病のモデルである、高脂肪食(hig fat diet:HFD)によって誘導された高血糖に対して耐性である(図19A)。グルコースレベル低下は、HFD摂食マウスのグルコース負荷試験において見られるようなグルコース利用増大に起因する(図19B)。図19は、UCn2がグルコース制御に影響を及ぼすことを示すデータを例証するものである。マウスにAAV8.CBA.UCn2(5×1011gc、n=8)または食塩水(n=8)のIV送達、および標準固形試料を3週間施した。空腹時血糖の小規模の減少が、UCn2群において認められた。その後、マウスに高脂肪食(HFD)を8週間施した。予想どおり対照において高血糖が認められたが、UCn2マウスは、正常血糖値を維持した。図19B.マウスにAAV8.CBA.UCn2(5×1011gc、n=8)または食塩水(n=8)のIV送達、およびHFDを2か月間施し、グルコース負荷試験を行った。空腹時マウスにグルコース(2mg/g体重、IP)を施し、グルコースレベルを測定した。結果は、UCn2遺伝子導入がグルコース利用を促進し、食事誘導高血糖を防ぐことを示す。
【0178】
図20は、本発明の例示的構築物を例証するものである:略語:ITR、末端逆位配列;TRE、テトラサイクリン応答因子;SVpA、SV40ウイルスゲノム(二方向性)からのポリA;rtTA2SM2、リバーステトラサイクリン調節性トランスアクチベーター;SV40en、シミアンウイルス40エンハンサー;TBG Prom、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター;RSV Prom、ラウス肉腫ウイルスプロモーター;FRB−p6、FRAP(ラパマイシン相互作用タンパク質)の、転写因子NF−κBのサブユニット(p65)と組み合わせた部分;IRE、内部転写再エントリー部位;ZF、ジンクフィンガーHD1 DNA結合ドメイン;FKBP、FK506結合タンパク質;pA、最小ポリアデニル化セグメント;ZBD、ジンクフィンガーHD DNA結合ドメイン(8コピー)。
【0179】
【化1】
【0180】
【化2】
【0181】
【化3】
【0182】
【化4】
【0183】
【化5】
本発明の多数の実施形態を説明した。それでもやはり、様々な変更形態を、本発明の精神および範囲を逸脱することなく行うことができることは、理解されるであろう。したがって、他の実施形態は、以下の請求項の範囲内である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20