【実施例】
【0087】
実施例1 ウロコルチン−2をコードするAAV9の静脈内送達は、正常マウスにおける心臓機能を向上させる
この実施例は、本発明の例示的実施形態の有効性を実証するものである:AAV9/ウロコルチン−2(すなわち、AAV9/UCn2)の静脈内送達は、血清UCn2の持続的増大およびLV収縮機能の持続的向上をもたらした。これは、本発明のこの例示的実施形態の心不全の処置に対する有効性を示す。
【0088】
この研究において、本発明者らは、心不全を有する動物および患者において多方面の有益効果を有する副腎皮質刺激ホルモン放出因子ファミリーの血管作用性ペプチドであるウロコルチン−2(UCn−2)をコードする2つのアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型(AAV5およびAAV9)を開発し、それらの相対的効力を試験した。AAV5.Ucn−2およびAAV9.Ucn−2(5×10
11ゲノムコピー、gc)を静脈内注射(IV)によって送達した。遺伝子導入の4週間(wks)後、AAV DNA(qPCR)は、肝臓(AAV5.UCn2:2,601,839コピー/μg;AAV9.UCn2:30,121,663コピー/μg)および心臓(AAV5:87,635gc/μg;AAV9:300,529コピー/μg)において上昇し;ならびにmRNAは、内因性UCn2と比較して同様に上昇した(AAV5.Ucn−2:68±xx倍;AAV9.Ucn−2:8,575)。
【0089】
左心室試料は、AAV9.UCn2に関してのみUcn2 mRNA上昇を示し、Ucn2 mRNAが内因性mRNAに対して28倍増大された。血漿Ucn−2は、増大された(AAV5.UCn2:以前の2.7ng/mLから3.6ng/mLへ、p<0.0001;AAV9.UCn2)。最後に、血清UCn2レベル上昇に付随して、LV収縮機能が向上した。
【0090】
実施例2 心血管疾患の処置のための遺伝子導入
この実施例は、容易にかつ安全に適用できる手法で心臓において高収率導入遺伝子発現を達成する点での本発明の例示的実施形態の有効性を実証するものである。
【0091】
代替実施形態において、本発明は、パラクリン型導入遺伝子をコードする発現ビヒクル、例えばベクター、を使用する方法を提供する。この実施形態において、前記導入遺伝子は、ホルモンとして動作し、遠隔部位から循環に放出された後に心臓効果(cardiac effect)を有する。代替実施形態において、このアプローチは、高収率心臓遺伝子導入を達成することの問題を回避することができ、および外来診療中に全身性注射により患者を処置することを可能にする。
【0092】
本発明者らは、多数のAAV血清型ベクターおよび送達方法を調査し、パラクリン遺伝子導入の概念実証研究を首尾よく完了した。重症拡張型CHFを有するラットに、テトラサイクリン制御下のインスリン様成長因子I(Insulin−like Growth Factor I:IGFI)をコードするアデノ随伴ウイルス5(AAV5)ベクターを骨格筋送達した。これは、ラットの給水にドキシサイクリンを添加することでIGFI発現の活性化を可能にした。このシステムは、IGFIの血清レベルの持続的上昇をもたらし、不全心臓の機能を改善した。
【0093】
代替実施形態では、a)IGFI遺伝子導入を用いて収縮機能を向上させる;b)AAVベクターおよびプロモーターを静脈内送達に使用して、最小のオフターゲット効果で最大の導入遺伝子発現をもたらす;c)制御性導入遺伝子発現を用いて、導入遺伝子の血清レベルの微調整を可能にし、必要に応じて発現をオフおよびオンにさせる;d)例えばCHFのラットモデルにおいて、パラクリン発現性遺伝子の遺伝子導入を用いる;およびe)血清パラクリン(例えば、IGFI)をエンドポイントとして使用して、例えば正常なブタにおいて、有効用量のAAVを使用し、そのベクターの静脈内投与後に導入遺伝子発現のアクチベーターを使用する。
【0094】
代替実施形態において、選択的ペプチドの制御性発現を伴うAAVベクターのIV注射は、パラクリン媒介作用により、不全心臓に対して好適な効果を及ぼすことになる。
【0095】
ベクター選択。代替実施形態では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用し、それによって、アデノウイルスに勝る長期導入遺伝子発現を可能にすると同時に、レンチウイルスベクターに関連した挿入変異誘発の可能性を回避する。第IX因子、エリスロポエチンおよびα1−アンチトリプシン、の持続的血清濃度上昇が、AAVベクターの単回注射の数年後にイヌおよび非ヒト霊長類において実証されており
1−4、本発明者らは、本発明者らの研究室でラットにおいてAAV5.IGFI−tetの筋肉内注射後にIGFIの持続性(>1年)血清濃度上昇を確認した
5。最近の臨床試験により、一部のAAV血清型は免疫応答を誘発することが判明したが
6、7、より新世代のAAVベクターは、霊長類での前臨床研究において同様の問題を有さないようである。
【0096】
AAV血清型:代替実施形態では、AAV血清型AAV2を使用するが、一部の実施形態では、「偽型」AAVベクターが好ましい。AAV5、AAV6、AAV8およびAAV9を含むこれらのAAV血清型は、AAV2のカプシドと、それらの固有の名称を付与する独特な複製成分とを含むハイブリッド構築物である。代替実施形態では、AAV6、AAV8およびAAV9の静脈内送達を用いる;これらは、心臓、肝臓、骨格筋および他の箇所において実質的分布および導入遺伝子発現を示す。
【0097】
本発明者らは、
図7において例証するように、血清IGFIレベルを増大させる点で筋肉内AAV5より静脈内AAV5のほうが良好であることを発見した;
図7は、IV対IM AAV5.IGFI.tet遺伝子導入の3か月後の遊離IGFI血清レベルのデータをグラフで示すものである:マウス(n=3、各群)における静脈内送達は、ドキシサイクリンでのIGFI発現の活性化(オン)後、血清IGFIの2倍増大をもたらした;ラット(n=9、各群)における筋肉内送達は、IGFI発現の活性化から5週間後、血清IGFIの>1.3倍増大をもたらした。バーの上のP値:群内比較(t検定、両側)。血清IGFIの変化は、AAV5.IGFI.tetの静脈内送達後のほうが大きかった(p<0.001)。
【0098】
静脈投与したとき、
図8において例証するように、AAV9は、肝臓および心臓における導入遺伝子発現に関してAAV5より優れていた;
図8に図示するように肝臓および心臓におけるコピー数および導入遺伝子発現をエンドポイントとして用いて本発明の例示的AAV5およびAAV9構築物の静脈内送達の相対的効力を示すデータをグラフでおよび画像によって例証するものである。
【0099】
代替実施形態において、AAV9同様にAAV8は、全身性発現をもたらすが、肝臓において他の臓器より高い割合を与え、これは、肝臓特異的プロモーターとの組み合わせで、活用することを本発明者らが提案する特性である。
【0100】
代替実施形態では、自己相補性AAVベクター(scAAV)を使用する;それらは、それらの一本鎖(ssAAV)類似体より高度な導入遺伝子発現をもたらすことができる
8。ssAAVベクター(挿入容量4.7kb)を使用する導入遺伝子発現は、相補DNA鎖が合成されるまで、4〜6週間延期される。ベクター内の相補DNA鎖をコードすることにより、scAAV(挿入容量3.3kb)は、2週間で導入遺伝子発現を可能にし、その結果、そのssAAV類似体と比べて高い導入遺伝子発現が生じることになる
8。
【0101】
図10において例証するように、1つの制御性発現ベクター(AAV8.TBG.IGFI.tet)しかscAAV構築に適用することができず、他の物は大きすぎる。しかし、このベクターをブタ研究に選択すると、ssAAVを使用して、要求される大量の製造のためにより良好な収率をもたらすことができる。scAAV類似体をヒトへの使用に用いることができ、それにより、優れた発現を利用して、用量の要件の低減を可能にすること、および臨床試験の安全性を改善させることができる。
【0102】
【表2】
標的組織に対するプロモーター。代替実施形態において、AAVベクターでの導入遺伝子発現用に選択するプロモーターは、何らかの組織依存性を有する。代替実施形態において、本発明を実施するために使用するプロモーターとしては、ニワトリβアクチン(CBA);甲状腺ホルモン結合グロブリン(TBG、肝臓特異性);およびラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターが挙げられる。これに関連して、CMVは、骨格筋および心臓筋肉において優れたプロモーターであることを一貫して示した。最近の研究は、CMVプロモーターが肝臓においてメチル化を受けやすいことを示しており、このメチル化が結局は導入遺伝子発現を止める。肝臓発現の喪失は、導入遺伝子の血清レベルを低下させることになる−それ故、本発明者らは、
図10に図示するように、CMVプロモーターの使用を選ばず、その代り、メチル化をあまり受けない同様に頑強なプロモーター:ニワトリβアクチン(CBA);甲状腺ホルモン結合グロブリン(TBG、肝臓特異性);およびラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターを選んだ。
【0103】
制御性発現。代替実施形態では、AAV媒介遺伝子導入によって付与される長期発現を用いて、予想外の有害反応が見られた場合に発現をオフにするように導入遺伝子発現を制御する。制御性発現はまた、恒常的送達ではなく間欠的送達を可能にすることになる。代替実施形態では、アクチベーターが導入遺伝子発現をオフにするかオンにするようにそのシステムを構成することができる。ほぼ恒常的な導入遺伝子発現が求められる場合、「オフ」システムが望ましい(例えば、導入遺伝子発現が望まれないとき、例えば、有害作用事象の場合、にのみ経口アクチベーターを摂取する)。代替実施形態において、間欠的導入遺伝子発現が求められる場合、「オン」システムが望ましい(例えば、導入遺伝子発現が望まれるときにだけ経口アクチベーターを摂取する)。
【0104】
これらの代替実施形態は、厳密な調節を可能にし、および処置する特定の疾患に合わせてアクチベーターの最小量を摂取する手段を与える。代替実施形態では、制御性発現システム、例えば、エクジソン、タモキシフェン、テトラサイクリン、ラパマイシン
9−12を使用する;大きいサイズのエクジソンシステムは、2ベクター戦略を要することがあり、この戦略は、制御制約のため臨床的遺伝子導入のための開発が難しい。タモキシフェンシステムは、扱いにくくはないが、テトラサイクリンシステムより耐容性の低いアクチベーター(タモキシフェン対ドキシサイクリン)を要する。代替実施形態では、利用可能な選択肢のうちの2つ(テトラサイクリンおよびラパマイシン制御)しか適さないことがあり、これらは、大型動物モデルで試験されたことのある唯一のシステムである
3、4。これらのシステムの両方が類似した特徴を有する(表2、上記):対象となる遺伝子は、活性化薬(テトラサイクリンまたはラパマイシン類似体)によって誘導され得る操作された転写因子によって調節される。
【0105】
テトラサイクリン制御性発現。代替実施形態において、本発明は、遺伝子導入の場でテトラサイクリン制御性発現を用いる:
a)導入遺伝子の基底発現(「漏出」)。より新しいrtTA改変体、例えば、本発明者らが提案するおよび最近の研究で使用されているもの(rtTA2
S−M2)は、以前のrtTA構築物とは異なり、基礎活性なしに頑強なテトラサイクリン依存性発現をもたらす
13。
【0106】
b)患者の耐容性およびオフターゲット効果に対するテトラサイクリンの慢性使用。
【0107】
●tet制御システムは、広範囲にわたって研究されており
11;in vitro研究は、ドキシサイクリン刺激性導入遺伝子発現が、0.001ng/mLで開始し、0.1μg/mLで最大に達すること、第一世代システムに対してEC
50の10分の1の低下、を示す
13。ヒトにおいて、200mgドキシサイクリンの単回経口用量は、24時間の時点で1.5μg/mLの平均血漿および組織濃度をもたらし
14、これは、最大発現に要するものより15倍高い。ヒト被験体における導入遺伝子発現の完全活性化には10〜20mgのドキシサイクリンの単回日用量で十分であり得る
15。200mg/日の用量は、アクネおよび慢性感染症のために経口ドキシサイクリンを慢性使用している患者に十分に耐容される
14、16。
【0108】
●ORACEA(登録商標)(ドキシサイクリン40mg、経口的に1日1回)は、酒さを処置するための継続使用がFDAにより認可されている
16。感染症を処置するために要する用量200mgより80%低いこの用量は、酒さを処置する抗炎症効果をもたらすが、抗微生物効果を有さず、抗生物質耐性生物の発生をもたらさない(11年の臨床データ)。各カプセルは、30mgの即時放出ビーズおよび10mgの遅延放出ビーズとして、40mgの無水ドキシサイクリンを含有する。テトラサイクリンに対するアレルギー、増大された光線過敏症を有する被験体、妊婦または授乳中の女性、または9歳未満の小児(歯の変色、起こり得る長骨成長低下)は、ドキシサイクリンを使用すべきでない。5年の臨床使用で、最も一般的な副作用は、軽度の胃腸愁訴であった
16。
【0109】
●テトラサイクリンは、マトリックスメタロプロテイナーゼ発現および活性を減弱させることがあり、心筋梗塞(MI)後の最初の数日間に投与したとき左心室(LV)リモデリングに対して影響を及ぼす
17。しかし、提案された前臨床研究では、ドキシサイクリンをMIの5週間後、LV腔拡張および瘢痕形成が安定し、群間で等しくなったとき、投与する。本発明者らは、ドキシサイクリンが、提案マウスMI誘導CHFモデルにおいてLVリモデリングにも、TIMPにも、またはMMP発現にも影響を及ぼさないことを実証した
18。臨床の場で、テトラサイクリンがMIの急性期に使用されることはないだろう。
【0110】
c)rtTAシステムの成分に対する免疫応答。tet−レギュレーターに対する免疫応答は、非ヒト霊長類においてAAV4.tetおよびAAV5.tet遺伝子導入(網膜内)を用いる長期研究において確認されず
3、15、その2.5年の研究期間に持続的テトラサイクリン依存性導入遺伝子発現が認められた。本発明者らには、高レベルのrtTAを発現するマウス心臓においても
18、19、rtTA2
S−M2制御エレメントを使用するIGFIのAAV5媒介制御性発現後のマウスおよびラットにおいても
5炎症が認められない。非ヒト霊長類におけるAAV.tetの筋肉内送達は、網膜内または血管送達とは異なり、トランスアクチベーター融合タンパク質の細菌およびウイルス成分に対する免疫応答のため、制御性発現の減弱をもたらすようである
20。tet−レギュレーターに対する免疫応答を決定することができると同時に、細菌タンパク質もウイルスタンパク質も有さず、免疫応答の惹起と関連づけられないラパマイシン制御システムを決定することができる
7。tet−およびラパマイシン制御の強度および制限については表2を参照されたし。
【0111】
ラパマイシン制御発現。代替実施形態では、細菌Streptomyces hygroscopicusの産物であるマクロライドシロリムス(ラパマイシン)を使用する:それは、当初、抗真菌剤として開発されたが、抗増殖および免疫抑制効果があることが判明した。最近、それは、a)臓器移植の際の拒絶反応を予防するために(2mgP.O.(口から、経口的に)、1日1回、これは、12±6ng/mLの平均血清レベルをもたらす);およびb)その抗増殖効果のため血管形成術後の再狭窄を低減させるために薬物溶出ステントで、臨床的に使用されている。ラパマイシンは、マウスの寿命を増し、加齢の悪影響を未然に防ぐようであり
21、および多形神経膠芽腫の処置の際にアジュバントとして使用される
22。ラパマイシンは、サイトゾルFK結合タンパク質12(FKBP12)を結合し、ラパマイシンの哺乳動物での標的(mTOR)シグナル伝達経路を阻害する。セリン/トレオニンプロテインキナーゼ、mTORは、細胞成長および増殖に影響を及ぼし、細胞生存を促進する。遺伝子療法についてのラパマイシンの有用性は、その二量体化特性に依存し、これは、ラパマイシン制御性発現システムに活用される特徴である。このシステムにおいて、操作された転写因子のDNA結合および活性化ドメインは、別々に融合タンパク質として発現され、それらの融合タンパク質は、二価「二量体化」薬、この場合はラパマイシンまたはラパマイシン類似体、の添加により架橋され、それにより活性化される
12。発現は、用量依存性であり、可逆的であり、かつナノモル濃度のアクチベーターによって誘発される
12。前記ラパマイシンシステムは、ウイルスタンパク質も細菌タンパク質も含有せず、したがって、免疫応答を誘発する可能性が低い。マカクにおいて、エリスロポエチンをコードするAAV1の筋肉内注射は、エリスロポエチンレベルの降下なしに、および制御エレメントに対する免疫応答なしに、6年(yr)までのRap制御性発現(26の独立した誘導サイクル)をもたらした
4。免疫抑制は、ラパマイシンの潜在的短所である。しかし、この問題は、ラパマイシンと同様に有効に導入遺伝子発現を活性化し、最小限の免疫抑制しか呈示せず、mTORを阻害しない経口ラパマイシン類似体(AP22594)を使用することによって、回避することができる
4。さらに、アクチベーターとして、日用量ではなく週用量が有効であり、さらにオフターゲット効果を低減させる。マカクにおいて有効に使用される経口用量(0.45mg、週1回)で開始する、経口投与AP22594の用量−応答関係、およびその最大用量間隔は、ブタで決定することができる
4。
【0112】
インスリン様成長因子I(IGFI)
IGFIの選択。成長ホルモン(GH)は、IGFIの活性化によってその効果の多くを発揮する。IGFIは、Aktによってその効果の多くを発揮する。シグナル伝達はGHからIGFIを通ってAktへと集束されるので、GHまたはAktよりIGFIの選択を防御しなければならない。GH発現増大は、血清グルコースおよび血圧を上昇させること−IGFIを選択することによって回避される有害効果−が予測される。Aktの発現増大は、アポトーシスを低減させると予測されるが、Aktによってもたらされない他の潜在的に好適な効果、例えば血管新生増加、を有するだろう。それ故、本発明者らは、本発明者らの初期前臨床CHF研究にIGFI遺伝子導入を選択し、そして最近、IGFI遺伝子導入が不全ラット心臓の機能を改善することを証明した
5(
図1〜8ならびに表4および5を参照されたし)。
【0113】
IGFIシグナル伝達。当初はソマトメジンとして知られていたIGFは、GHの同化および分裂促進活性の多くを媒介するペプチドの1ファミリーである。インスリンとの構造的および代謝的類似性を有する2つのソマトメジンが1978年にヒト血漿から単離され、IGFIおよびIGFIIと命名された。その後、IGFI(ソマトメジンC)は、循環GHによって制御されるIGFであることが示された。IGFIは、3つのジスルフィド架橋を伴う1本鎖の中に70のアミノ酸を有し、7.6kDの分子量を有する。当初は肝臓によってしか産生されないと考えられていたが、腸、脳、腎臓、肺および心臓をはじめとする多くの組織によって生産されることが示された。ラットにおけるIGFI遺伝子の肝臓特異的欠失は、正常な成長および発生を変えず
23、これは、IGFIが、心臓をはじめとする他の組織において広範に発現され、パラクリン様式での局所組織放出によって成長および発生を制御することを示す。
【0114】
IGFIは、リガンド(IGFI、IGFII、インスリン)と、6つの公知結合タンパク質(IGFBP1〜6)と、IGFIおよびインスリン受容体をはじめとする細胞表面タンパク質とを含むタンパク質ファミリーに属する
24。IGFIは、アミノ末端シグナルペプチドと、A、B、CおよびDドメインと、可変カルボキシル末端Eペプチドとを含むプレプロペプチドとして翻訳される。ヒトにはプロIGFIの3つの公知アイソフォーム(プロIGFIa、プロIGFIbおよびプロIGFIc)があり、これらは、可変Eペプチドのアミノ酸組成のみが異なる。IGF結合タンパク質(IGFBP)は、担体タンパク質として作用し、分解を阻害することによってIGFの半減期を延長する
24。IGFIのほぼすべて(98%)が、IGFBP−3に主として(80%)結合して循環する
24。
【0115】
IGFIおよびIGFIIは、肝臓を除くすべての組織においてIGFI受容体への高結合親和性結合を提示する。前記IGF受容体は、インスリン受容体と60%相同性を共有し、チロシンキナーゼドメインを含有する。IGFIの受容体結合は、チロシン残基の自己リン酸化を生じさせる結果となる。これは、前記受容体を活性化して、インスリン受容体基質を含む基質のリン酸化を生じさせ、このリン酸化は、PI3キナーゼ/Aktおよびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路ならびにその他を含む多彩なシグナル伝達カスケードを活性化し、これらの経路の多くが、有益な心血管効果を有する(下のセクションおよび表3を参照されたし)。
【0116】
IGFI増大の効果。血清IGFI増大は、血清インスリンレベルを低下させ、インスリン感受性を増大させ、脂質プロファイルを改善する
24。しかし、IGFIタンパク質の注入は、低血圧および低血糖の原因となり得る
25。インスリン活性に対抗するGHは、血清グルコースレベルを上昇させる。心臓へのグルコース取り込みを増大させるIGFIの能力は、IGFI投与後のLV機能の虚血後の回復に一定の役割を果たし得る。IGFIは、受容体依存性および非依存性効果ならびに酸化窒素生産により、筋肉血流を増大させ、血管拡張活性を有する
26。ヒトにおける高用量静脈内IGFI注入の複合代謝および血管拡張効果は、意識朦朧および潮紅を引き起こすことがある−より低い用量は、心機能を増大させ、血圧または血清グルコースに影響を及ぼさず、症状を伴わない
25、27。
【0117】
IGFI受容体活性化は、遺伝子発現の制御、筋形成の刺激、細胞周期進行、免疫修飾およびステロイド産生をはじめとする多くの細胞応答の原因となる。心臓において、IGFIおよびIGFI受容体/PI3K/Aktシグナル伝達経路は、心筋細胞機能、成長および生存に対して有益効果を及ぼす。さらに、IGFは、血管新生効果を呈示し
28、正常心臓
25、29、30および不全心臓
27、29、30−33における心臓収縮機能を上昇させ、ならびにアポトーシスを阻害する
34、35、38。これらの特徴が、IGFIをCHF療法に魅力的なものにする(表3)。
【0118】
【表3】
心疾患の処置におけるIGFIタンパク質(表3)
前臨床研究。心疾患の動物モデルにおける組換えヒトIGFIまたはGHタンパク質投与の効果を研究した。IGFIは、単離されたラット心臓およびシロイタチ乳頭筋における陽性変力物質である;GHには、同組織における変力効果がない
29。IGFIの同様の変力効果が、ペーシング誘発性心不全を有するイヌから単離された乳頭筋において見いだされた
30。4週間にわたって正常ラットに投与したIGFIは、心臓機能を上昇させ、求心性LV肥大をもたらした
31。2週間にわたって一緒に投与したIGFIとGHは、正常ラットにおいてLV dP/dt増大およびLV肥大と関連付けられた
36。ラットにおける心筋虚血および再潅流に先立つIGFIの投与は、クレアチンキナーゼ放出を減少させ、アポトーシスを低減させた
34。MIの4週間後に投与した併用のIGFIとGH
32または単独のIGFI
33は、ラットにおいてLV機能を上昇させた。MI後4週間にわたってラットに与えたGHは、LV収縮機能を上昇させ
37、心線維症、心筋細胞アポトーシスを低減させ、および生存を増大させた
38。ブタにおけるCHFのペーシングモデルにおいて、GHは、血清IGFIを増大させ、LV機能を上昇させ、およびLV壁ストレスを低下させた
39。
【0119】
臨床研究。GHまたはIGFIタンパク質の臨床使用は、相当注目されているが、大規模プラセボ対照研究は不十分である。IGFI注入の急性血行力学的効果は、CHF患者(n=8)の盲検・プラセボ対照・交差研究で研究された。4時間のIGFI注入は、心拍出量を増大させ、血管耐性を減少させ、右心房および楔入圧を低下させた
27。IGFIタンパク質の慢性投与は、CHFを有する患者において評価されていない。CHFを有する患者におけるGHタンパク質の使用は、不確かな結果を生じさせた。CHFを有する合計14名の患者での2つの小規模の非対照かつ非盲検の研究により、3ヶ月のGHタンパク質療法は、血清IGFIを増大させ、LV機能および臨床状態を上昇させることが報告された
40、41。CHFを有する患者において最長3ヶ月にわたって投与されたGH(タンパク質)の無作為化プラセボ対照試験は、LV機能も臨床状態も変えなかった
42、43。GHタンパク質療法についての最近の文献レビューは、虚血性および特発性臨床CHFにおける効力の証拠が、おそらくペプチド投与の動態のため不足していると結論づけている
44。したがって、代替実施形態において、本発明の遺伝子導入方法は、持続IGFI発現をもたらことで、IGFIタンパク質療法より優れているはずである。
【0120】
心臓IGFIまたはGHの発現増大。ラットにおけるヒトIGFIの心臓指向性発現、それに付随する心筋細胞IGFI生産の増大は、血清IGFIレベルをほぼ倍増させる。これらのラットは、心筋細胞過形成に伴って心臓重量増大を有するが、心筋細胞容積の増大は有さない
35、45。MI後、心筋細胞アポトーシス低減、およびAktのリン酸化増大が判明した
35。IGFIの心臓指向性発現は、テロメラーゼ活性、テロメア短縮およびDNA損傷を低減させることで加齢性細胞老化を減弱させる。これらのラットは、22月齢で同齢の導入遺伝子陰性同腹子と比べて増大されたAkt活性化および上昇されたLV機能を示す
46。心筋症バックグラウンド(交雑パラダイム)での心臓IGFIの同時発現は、心臓アポトーシス、LVリモデリングおよびLV機能不全を予防するようである
47。しかし、CHFは決して存在しなかったので、この戦略は、既存のCHFについての処置、すなわち、本提案の中心テーマであるアプローチ、と同等ではない。
【0121】
GH遺伝子導入がMI後のLVリモデリングに影響を及ぼすかどうかを決定するために、GHをコードするアデノウイルス(Ad.GH)を冠動脈閉塞時に直接ラット心臓筋肉に注射した
48。危険にさらされている心筋層と生存可能な心筋層の間の辺縁ゾーンに注射をした。MIおよび遺伝子導入の6週間後、LV拡張末期寸法、LV dP/dt、および梗塞領域の壁厚に対して好適な効果が見られた。その後、同科学者達は、冠動脈閉塞の3週間後にラットの梗塞辺縁ゾーンに注射したAd.GHが、注射の3週間後にLV dP/dtを増大させ、LV拡張および壁薄化を減弱させることを示した
49。MI中またはMIの3週間後のGH遺伝子導入は、LVリモデリングに対して有益効果を及ぼすようであった。
【0122】
IGFIをコードするアデノウイルス(Ad.IGFI)を冠動脈閉塞直前にラットの危険にさらされている潅流床(perfusion bed)に注射したとき、梗塞範囲が50%低減された(主としてアポトーシス低減の結果であると考えられる効果)
50。この研究は、MI後のLVリモデリングに対するIGFI遺伝子導入の効果に取り組まなかった。IGFIのアデノウイルス媒介遺伝子導入は、低酸素誘導筋細胞アポトーシスをin vitroで低減させることが示され、そしてラット虚血再灌流モデルにおいてIGFIをコードするアデノウイルスの事前注射は、梗塞サイズをおおよそ50%低減させた(p<0.003)が、導入遺伝子は、局所パラクリン効果と一致して、虚血領域の約15%でしか発現されなかった。全体的に不全している心臓においてIGFIを発現する効果は、調べられていない。
【0123】
潜在的IGFI有害作用
生存。GH/IGFIシステムの崩壊は、正常な心臓機能を有するラットでは寿命を減少させず、増大させるようである
51。しかし、本発明者らは、顕著な短期死亡率増大の前兆になる重症CHFの状況でIGFI発現を増大させることを提案する。IGF阻害がCHFの寿命を増大させることを示唆するデータはない。それとは反対に、ヒトの血清IGFI増大は、CHFの発生率および死亡率を低下させる
52、53。疫学研究により、血清IGFIが低い人は、虚血性心疾患を発症するリスクが高まることが示されている。フラミンガム(Framingham)研究において、血清IGFIについて中央値より上の値を有する個体は、その中央値より下の個体に比べて50%低下されたCHF発生率を有した
52、53。最近の報告は、CHFの際に命を延ばすアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)は、IGFIシグナル伝達を増大させることを示している
54。本発明者らのデータは、IGFI遺伝子導入が不全ラット心臓の機能を向上させることを示しており、本発明者らは、生存恩恵もあるかどうかを決定することを提案する。
【0124】
癌。臨床疫学研究により、血清IGFIレベル増大(>2倍上昇)と前立腺および閉経前乳癌との相関関係が報告されている
55が、この相関関係が原因となることは示されていない。前立腺癌の発生率は年齢とともに増大するが、血清IGFI濃度は減少することは注目に値する
55。癌患者の場合、血清IGFI増大は、腫瘍に起因することがある。実際、ラットの前立腺上皮におけるIGFIの発現増大は、血清IGFI濃度を上昇させ、そして前立腺新生物につながる場合がある
56。血清IGFI濃度増大は、癌患者における栄養状態の変化の結果として生ずることもある。IGFIが血管新生および低減されたアポトーシスにより腫瘍成長を増大させると推測できよう。IGFIbの心臓指向性発現、それに付随する血清IGFIの持続的上昇は、前立腺癌および乳癌と関連づけられず、ならびに血清IGFIと血清GHの複合的増大は、先端肥大症を有する患者において前立腺、乳または肺癌の発生率を増大しない
54。癌の発生および進行におけるIGFIの役割は、理論上のものである。IGFI発現を増大させる療法は、IGFIの血清濃度を制限しなければならず、そしてまた所望される場合、発現を停止させる手段を与えなければならないというのが賢明な策と思われる。本発明者らは、血清中のIGFI濃度を増大させ、それにより有益な心血管効果を及ぼす制御性発現ベクターの遺伝子導入を用いることによって、これらの目的を達成することを提案する。
【0125】
研究の新規性。これらの研究は、臨床CHFのためのIGFI遺伝子導入の開発に焦点を当てている。IGFI(またはGH)遺伝子導入は、臨床CHFでは用いられたことがない。CHFにおけるGH/IGFIタンパク質の二重盲検・プラセボ対照・臨床試験は、いずれも成功しておらず、これは、おそらくGH/IGFIタンパク質の比較的短い生物学的半減期のためであり、この比較的短い生物学的半減期は、遺伝子導入によって克服されるであろう問題である。GHおよびIGFI心臓遺伝子導入は、動物研究において冠動脈閉塞前に梗塞サイズを低減させるために使用されているが、CHF自体へのIGF遺伝子導入を調査した研究は以前にはない。加えて、長期かつ制御された発現ベクターの全身送達を用いる本提案パラクリンアプローチは新規であり、このアプローチを他のパラクリンベースのペプチドに応用して様々な心血管疾患を処置することができる。
【0126】
要約。重症CHFの処置におけるIGFIのペプチド投与の予測され得る恩恵についての前臨床および臨床研究の限界のため、およびIGFIのパラクリンベースの遺伝子導入の理論的裏付けのため、本発明者らは、本発明者らの研究室において、持続または慢性間欠的静脈内ペプチド注入の障害および短所を回避するように設計した研究に乗り出した(予備データを参照されたし)。
【0127】
他の有益なペプチド。IGFIの使用は注目せずにはいられないが、本発明のパラクリン遺伝子治療方法が、有益な心血管効果を有するあらゆる循環ペプチドに適してもいることを強調しておくべきであろう。例えば、ウロコルチン−2は、心臓および血管系において頑強に発現される副腎皮質刺激ホルモン放出因子2型受容体を介して作用する副腎皮質刺激ホルモン放出因子ファミリー内の最近発見された血管作用性ペプチドである。ウロコルチン−2ペプチドの注入は、心不全を有する動物および患者において多様な有益効果を有する
57。BNPは、同様に送達され得る、臨床CHFの処置用のもう1つの生物学的に有効なペプチドである。さらに、肺高血圧において、プロスタサイクリン類似体は、肺高血圧の処置に有効であり得るが、現行の薬剤(エポプロステノールおよびトレポスチニル(trepostinil))は、恒常的な全身注射を必要とし、その処置自体が高い罹患率を随伴する
58。代替実施形態において、本発明の方法は、肺高血圧のパラクリン型遺伝子療法として、プロスタサイクリンシンターゼをコードする制御性発現ベクターを提供する。実際、長期または慢性の間欠的静脈内注入を要するいずれの現行のペプチド療法も、このホルモン様遺伝子導入アプローチに向いているだろう。
【0128】
臨床研究におけるAAVおよび免疫応答。AAVベクターの筋肉内または静脈内送達後の長期導入遺伝子発現は、齧歯動物では例外ではなく常例になっている。しかし、患者での研究は、導入遺伝子および時にはAAVベクター自体に対する免疫応答のため限定された発現が付随してきた
6。2つの結論がこれらおよび他の研究から浮上する:1)筋肉内AAV送達は(静脈内AAV送達と比較して)、一般に、導入遺伝子およびAAVカプシドに対する増大した免疫応答を誘発する;および2)齧歯動物での成功は、それらの相対的免疫寛容のため、ヒトでの成功を必ずしも予測するとはかぎらない。ヒトを念頭において齧歯動物およびブタ研究を設計することはできる:
ヒト被験体における予め存在している中和抗体と関連づけられる可能性が低いAAV血清型(AAV8およびAAV9)を選択することができる
59。例えば、AAV8は、抗AAV中和抗体の最低陽性率と関連づけられる(19% 対 AAV1についての59%およびAAV2についての50%)。さらに、AAV8/9抗体を有する少数のヒト被験体の中で、これらの被験体の75〜90%は低い力価を有し、このことが、AAV8およびAAV9を、予想される免疫応答についての現行の最適選択肢にしている
59。ヒト血清は、アカゲザル由来AAVベクター、例えばAAVrh.32.33、に対する血清陽性を殆ど有さず
60、したがって、AAV8およびAAV9が不適切であることが判明した場合には代替ベクターを提供することになるが、AAVrh.32.33での前臨床および臨床経験は限られている。
【0129】
AAVベクターの筋肉内注射は、より大きな動物では免疫応答を誘発することがあるため、回避される場合がある
6。
【0130】
二種の特異的IGFIタンパク質を使用することができる:ラットおよびブタ。ラットIGFIとブタIGFI両方を使用することができる。種特異的IGFIの使用は、導入遺伝子への免疫応答を低下させることになる。ヒトIGFIをコードする最適なベクターで臨床試験を行うことができる。
【0131】
AAV8およびAAV9の静脈内送達は、その単純さのため、および可能な最低AAV用量で最高の血清レベルの治療用導入遺伝子を達成する可能性が高いため、訴求力がある。これらのAAVベクターの血清陽性率は、ブタ、およびヒトを含む霊長類において重要であるが、齧歯動物では重要な因子になっていない。本発明者らの納入業者からのブタの予備サンプリングは、試験した9匹のブタのうちの7匹においてAAV8またはAAV9抗体の証拠を示さない。
【0132】
代替実施形態では、本発明の導入遺伝子の発現を単一臓器に限定したが、これは、例えば、かかる戦略が、その導入遺伝子の治療用血清レベルをもたらす場合にである。例えば、本発明の例示的ベクターは、肝細胞特異的プロモーター(TBG、ヒト甲状腺ホルモン結合グロブリン)を伴うAAV8である。
【0133】
IGFIを使用するパラクリンベースの遺伝子導入
本発明者らは、これらの概念実証研究のためにIGFIを選択したが、代替実施形態では、本発明は、本明細書の中で略述する候補遺伝子のいずれかの使用を含み、これらの遺伝子のいずれも意図された効果に有効であるだろう。例えば、本発明は、任意のパラクリンポリペプチド、例えば、哺乳動物強心性ペプチド、セレラキシン、リラキシン−2、ウロコルチン−2、ウロコルチン−1、ウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1、もしくはこれらの任意の組み合わせ;またはヒトウロコルチン−2、ウロコルチン−1、ウロコルチン−3、脳ナトリウム排泄増加性ペプチド、プロスタサイクリンシンターゼ、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1、もしくはこれらの任意の組み合わせ、を有効に選択する方法および組成物を提供する。
【0134】
本発明者らは、テトラサイクリン応答因子(TRE)の調節下にある、ラットIGFI(A型)をコードする例示的AAV5ベクターを作出した:
図1は、IGF1をコードするAAV5を含む本発明の例示的構築物を例証するものである;この例示的AAV5ベクターは、IGFIの制御性発現をもたらす:ITR、末端逆位配列(inverted terminal repeat);TRE、テトラサイクリン応答因子;IGFIAU1、インスリン様成長因子−I;SVpA、SV40ウイルスゲノム(二方向性)からのポリA;rtTA2
SM2、リバーステトラサイクリン調節性トランスアクチベーター;CMV、ヒトサイトメガロウイルス初期遺伝子プロモーター。全挿入サイズ、2823bp、がscAAV5ベクター(容量3.3kb)内に組み込まれる。
【0135】
前記コード配列は、IGFIの細胞外分泌を確実なものにするためのシグナルペプチドを含む。本発明者らは、培養心筋細胞での遺伝子導入実験においてこのベクター(AAV5.IGFI.tet)を使用した:
図2Aは、培養新生仔ラット心筋細胞をAAV5.IGFI.tet(10,000gc/細胞、2日)に感染させた研究からのデータを例証するものであり;図示されているゲルは、IGFI発現がドキシサイクリン(+Dox)(2μg/mL、3日)によって誘導されたが、ドキシサイクリン不在下(−Dox)では起こらなかったことを示す。IGFIを培地中で抗AU1抗体により免疫ブロット法によって検出した。
図2Bは、同じ実験で心筋細胞をAkt溶解バッファーに溶解し(10分、4℃)、遠心分離した(12,000×g、10分)データを例証するものである;全Aktおよびホスホ−Aktを、抗Aktおよび抗ホスホ−T308−Akt抗体によって検出した。IGFI発現は、Akt活性化と関連づけられた。感染後、導入遺伝子発現は、ドキシサイクリンでの活性化まで検出不能(「漏出」なし)であった(
図2A)。
【0136】
本発明者らのベクター(
図1)は、より最近のrtTA改変体(rtTA2
S−M2)を含有し、この改変体は、以前のrtTA構築物とは異なり、頑強なdox依存性発現および低い基礎活性または基礎活性欠如をもたらす
13。
【0137】
培養心筋細胞における制御されたIGFI発現
培養新生仔ラット心筋細胞にAAV5.IGFI−tetを遺伝子導入した(10
4gc/細胞、2日)。
図3においてグラフで例証するように、その後、ドキシサイクリン(2μg/mL)を培地に添加し、リアルタイムRT−PCRを用いてIGFI mRNA発現を定量した。IGFI mRNAの発現は、30分以内に(未刺激のものに対して(vs))1.5倍増大され、24時間までに14倍上昇のピークに達した。48時間の時点でのIGFI mRNAは、やや少なかった(10倍)。これはドキシサイクリン分解を反映する。IGFI発現をオフにするために、4回の逐次的PBS洗浄(「オフ洗浄」、
図3参照)を用いてドキシサイクリンを除去した。IGFI mRNAは、ドキシサイクリン抜き取り後、急速に減少した。
【0138】
AAV5.IGFI.tetの骨格筋送達は、不全心臓の機能を改善する
骨格筋遺伝子導入。本発明者らは、マウスにおいてAAV5.IGFI.tetの間接的冠動脈内送達後の心不全の研究を行い(
図1)、心臓標的化送達後の不全心臓の機能の実質的改善を認めた。しかし、パラクリンベースの導入の効力を実証するための概念実証研究は、前記ベクターの骨格筋送達を要することになる。これらの極めて重要な研究のために、本発明者らは、ラットの前脛骨筋におけるAAV5.IGFI.tetの筋肉内送達を用いた
5。骨格筋におけるIM注射後のその周知の高い発現レベルのためAAV5を選択した。すべての事例で、本発明者らは、培地中でのIGFI発現(細胞培養実験)、ならびに心臓(マウスCHFモデル)および血清(IM注射後のラットモデル、IV注射後のマウス)における長期IGFI発現、ならびに不全心臓の機能の対応する改善を認めた
5。
【0139】
ラット研究において、本発明者らは、
図4Aにおいて例証するように、長期導入遺伝子発現をもたらすためのAAV5.EGFPの骨格筋注射の実行可能性を先ず調査した:
図4Aは、AAV5.EGFP遺伝子導入の3週間後のラットの片側前脛骨筋におけるEGFP発現を示す顕微鏡写真を図示するものである。同じ動物からの反対側の未注射前脛骨筋は、EGFPの発現を示さない。
図4Bは、CHFにおける骨格筋IGFI発現の効果を測定する心エコー検査からのデータを要約する表4である。
【0140】
CHFのMIモデルおよび実験プロトコル
ラットにおいて近位左冠動脈閉塞によりMIを誘導し、その結果、大きな貫壁性梗塞および重度のLV機能障害を生じさせた。MIの1週間後、LV機能障害を有するラットの前脛骨筋に、AAV5.IGFI.tetの2×10
12ゲノムコピー(gc)を与えた。4週間後(MIの5週間後)、LV駆出率(EF)<35%のラットを2つの群に無作為に割り当てた:一方の群には、IGFI発現を活性化するために飲用水中のドキシサイクリンを与え(IGF−オン;n=10)、他方にはドキシサイクリンを与えなかった(IGF−オフ;n=9)。MIの10週間後(IGFI発現の活性化の5週間後)、LVサイズおよび機能を心エコー検査および血行力学的研究によって評価した;
図5は、CHFにおけるAAV5.IGFI.tet骨格筋遺伝子導入のための実験プロトコルを図示するものである。
【0141】
結果。IGF−オンラットは、LV駆出率増大(p=0.02)およびLV収縮末期寸法の低減(p=0.03)を示した(表4、
図4B参照)。さらに、LV収縮機能は、ドブタミン注入中の圧力発生速度(LV +dP/dt)によって評価して、IGFI発現の開始後に増大された(p=0.001)(表5、次の頁)。加えて、心拍出量(p=0.007)および一回仕事量(stroke work)(p=0.003)の好適な変化が観察された(表5)。導入遺伝子活性化の5週間後に血清IGFIは増大した(IGF−オフ:164±24ng/mL;IGF−オン:218±11ng/mL;p=0.008;n=9各群)。これらのデータは、AAV5.IGFI.tetの骨格筋注射が、テトラサイクリン活性化発現を可能にし、血清IGFIレベルを増大させ、不全心臓の機能を改善することを示す
5。代替実施形態では、免疫性の弱いAAVベクターを使用することができ、ならびに免疫応答の誘発を回避するためにおよび2つの制御性発現システムを試験するためにそれらベクターを筋肉内注射ではなく静脈内に使用することができる。
【0142】
【表4】
心臓アポトーシスおよび心線維症(
図6)
図6は、心臓アポトーシスおよび心線維症に対するAAV5.IGFI.tet遺伝子導入の効果を例証するものである。
図6Aは、IGFI発現の活性化(IGF−オン)が、遠隔領域より辺縁領域のほうが低減された心筋細胞アポトーシス低減と関連づけられることを示した(p<0.0001;二元配置ANOVA)、TUNEL染色からのデータをグラフで例証するものである。
図6Bは、低減された心線維症を示した、IGF−オフおよびIGF−オンラットからの非梗塞心室内中隔のピクロシリウスレッド染色切片を図示するものであり、そしてコラーゲン面積率が低減された(p=0.048);
図6Cは、IGF−オフおよびIGF−オンラットからのこのデータを例証するものである。
【0143】
AAV5.IGFI.tetの静脈内送達 対 筋肉内送達。予備研究で、本発明者らは、静脈内遺伝子導入が、循環IGFIレベルを増大させることができるかどうかを決定した。AAV5.IGFI.tetの静脈内送達(マウス1匹につき5×10
10gc、尾静脈)の1週間後、マウスを2つの群の一方に無作為に割り当てた:一方の群には、IGFI発現を活性化するために飲用水中のドキシサイクリンを与え(IGF−オン)、他方にはドキシサイクリンを与えなかった(IGF−オフ)。循環IGFIの大部分はIGFI結合タンパク質(IGFBP)に高親和性で結合しており、生物学的に不活性であるので、本発明者らは、遊離血清IGFI、生理活性IGFI形態、を測定し、該IGFIは、IGFI発現の活性化の3ヶ月後、IGF−オフマウスにおけるよりIGF−オンマウスにおいて2倍高かった(
図7、次の頁)。セクション2.2.1.2において略述した筋肉内AAV5.IGFI.tet(ラット1匹につき2×10
12ゲノムコピー)遺伝子導入戦略を用いて、本発明者らは、IGFI発現の活性化の5週間後にIGF−オン群においてIGF−オフ群より1.3倍の遊離血清IGFI増大を認めた(
図7)。これらのデータは、AAV5.IGFI.tetの静脈内送達が、血清IGFI濃度に関して筋肉内送達より有効であることを示唆する。
【0144】
さらに、静脈内戦略は、AAVの筋肉内送達後に観察された免疫応答の惹起を回避する可能性が高い
6。これらの実験により、本発明者らの研究についての極めて重要な実行可能性データが得られる。
【0145】
静脈内送達:AAV5対AAV9。
【0146】
次に、本発明者らは、
図8に図示するように肝臓および心臓におけるコピー数および導入遺伝子発現をエンドポイントとして用いて、AAV5対AAV9の静脈内送達の相対的効力を決定した。本発明者らは、一本鎖(ss)AAVベクターに比べて早い発現を可能にする自己相補性(self−complementary:sc)AAVベクターを使用した。マウスに静脈内scAAV5.CMV.EGFPまたはscAAV9.CMV.EGFP(5×10
11gc)を施し、21日後に殺した。両方のベクター内の共通配列に指向させたPCRプライマーを使用して、肝臓および心臓におけるAAV DNAコピー数を比較した。肝臓において、AAV9は(AAV5に対して)、AAV DNAコピー数およびEGFP発現両方の3倍増大をもたらした;心臓では、AAV DNAコピー数の5倍増大およびEGFP発現の8倍増大が認められた。これらのデータは、静脈内AAV5と比較して、AAV9のほうが高い血清レベルの導入遺伝子をもたらすことができることを示す。
【0147】
方法
図10は、本発明の例示的ベクターおよびベクター設計を図示するものである:予備研究および生物学的特徴から選択した3つのベクターの静脈内送達を用いて、広範に分布し発現されるAAV8およびAAV9(
図10A)、と肝臓特異的プロモーターを有するAAV8(
図10B)との相対的メリットを決定することができる。有効性の判定基準は、送達の6週間(w)後の血清IGFIレベルであり得る。
図10C〜Fにおいて例証するように、最適なAAVベクターを使用して2つの制御性発現ベクター(TetおよびRap)を生成し、ラットにおける静脈内送達後にそれらを比較することができる。有効性の判定基準は、血清IGFIレベルであり得、このときは、導入遺伝子発現の活性化の16週間後(送達の20週間後)に調査した。
【0148】
図10AおよびB。後の研究のために最良のAAV血清型を決定するためのラットにおける初期研究用のAAVベクター。これらのベクターは、CBA(AAV8およびAAV9)またはTBG(AAV8)によって駆動される、ラットIGFI(未制御)をコードする。血清IGFIレベルおよび発現持続期間に基づいてこれらのうちの最良のものを、最適制御システムを決定するための後の研究に付すために使用した。
【0149】
図10C〜F。最適な制御性発現システムを決定するためのラットにおける研究用の候補ベクター。初期研究(上記)からの最良AAVベクターを使用して、2つの制御性発現ベクターを生成し、試験した:一方はテトラサイクリン制御を有し、他方はラパマイシン制御を有する。これらのベクターは、RSV(AAV8およびAAV9)またはTBG(AAV8)によって駆動される、ラットIGFIの制御性発現をコードする。前記CBAプロモーターは、ラパマイシン制御ベクターには大きすぎるので、その代りにRSVを使用する。これらの2つの制御システムうちの良好なほうを、ブタIGFIの制御性発現をコードする、正常ブタにおける後の研究用の最適なベクターの生成のために選択する。ITR、末端逆位配列;TRE、テトラサイクリン応答因子;IGFI、インスリン様成長因子−I;SVpA、SV40ウイルスゲノム(二方向性)からのポリA;rtTA2
SM2、リバーステトラサイクリン調節性トランスアクチベーター;SV40en、シミアンウイルス40エンハンサー;TBG Prom、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター;RSV Prom、ラウス肉腫ウイルスプロモーター;FRB−p6、FRAP(ラパマイシン相互作用タンパク質)の、転写因子NF−κBのサブユニット(p65)と組み合わせた部分;IRE、内部転写再エントリー部位;ZF、ジンクフィンガーHD1 DNA結合ドメイン;FKBP、FK506結合タンパク質;pA、最小ポリアデニル化セグメント;ZBD、ジンクフィンガーHD DNA結合ドメイン(8コピー)。
【0150】
本発明者らは、AAVへの免疫応答がラットでは重要な役割を果たすことになるが、かかる応答がイヌ、ブタ、ヒトおよび他の霊長類において重要であるとは思わない。免疫応答を注意深く評価すべきである。(例えば、すべてのベクター内の共通配列を増幅するプライマーを使用するqPCRを用いて)AAV体内分布および(例えば、組織学的解析を用いて)毒性を定量することができる。
【0151】
群の大きさ。成功のための主な判定基準は、IGFIの血清レベルであり得、これは20%の変動率を有する。0.05のα誤差および0.10のβ誤差を想定して、群間に血清IGFIの30%差を検出するには、n=10の群の大きさを要することになる。
【0152】
実施例3 ウロコルチン−2をコードするAAV8の送達は心臓機能を上昇させる
この実施例は、本発明の方法の代替実施形態において、パラクリン導入遺伝子がホルモンとして作用することおよび遠隔部位から循環に放出された後に心臓効果を有することを実証するものである。この例示的アプローチは、高収率心臓遺伝子導入を達成することの問題を回避することができ、外来診療中に全身注射により患者を処置することを可能にすることができる。さらに、この例示的アプローチは、治療用ペプチドの静脈内(IV)送達の必要をなくすことができ、それにより、反復および長期入院、高い罹患率および莫大な経済的費用を回避することができる。代替実施形態において、これらの目的を達成するために最も適しているベクターは、アデノ随伴ウイルス8型(AAV8)であり、これは、齧歯動物、ブタおよび霊長類において静脈内送達後に長期かつ広範囲の発現をもたらす。
【0153】
方法の代替実施形態では、最近発見された副腎皮質刺激ホルモン放出因子ファミリー血管作用性ペプチドであるウロコルチン−2を、治療用導入遺伝子として使用する。ウロコルチン−2は、心臓および血管系において頑強に発現される副腎皮質刺激ホルモン放出因子2型受容体を介して作用することができる。うっ血性心不全を有する動物および患者における研究により、ウロコルチン−2ペプチド注入の好適な血行力学的効果が示されており、前記効果としては、負荷とは無関係の収縮機能上昇が挙げられ、これは直接的な心臓効果を示す。本発明者らは、ニワトリβ−アクチンプロモーターを使用するAAV8の静脈内送達が、持続的な高血清レベルのUCn2をもたらし、不全マウス心臓の機能を上昇させることを確証した。
【0154】
本発明のこの態様を実施するために最良の特異的実施形態を選択するために、マウスおよびブタにおいて研究を行うことができる、例えば、a)血漿導入遺伝子レベルの微調整を可能にし、そして必要に応じて発現をオフおよびオンにさせるような制御された導入遺伝子発現を決定することができる;およびb)当該技術分野において認識されている動物モデル、CHFのマウスモデル、においてこの例示的パラクリンベースのアプローチを用いてウロコルチン−2遺伝子導入の安全性、効力および作用機序を決定することができる。また、正常ブタの使用により、a)血清UCn2を増大させるために要する最小有効ベクター用量;b)ベクターおよび導入遺伝子の体内分布;ならびにc)毒性を決定することができる。
【0155】
IVペプチド注入に勝る本発明のパラクリン遺伝子導入方法の潜在的利点を表1(上記)に示す。代替実施形態において、本発明の方法の実施は、感染症の回避ならびに反復および長期入院の低減を可能にし、それにより、費用削減を可能にする。代替実施形態において、全身ベクター送達は、任意の所与のAAV用量について最高の発現レベルをもたらすことにより、パラクリン遺伝子導入に有利なものである。このアプローチの潜在的安全性および効力が、血友病Bを有する患者における早期遺伝子療法臨床試験で最近立証され
2、この研究により遺伝子療法における希望が取り戻された。代替実施形態において、本発明のパラクリン遺伝子導入方法は、有益な心血管効果を有する任意の循環ペプチドに適し得る。
【0156】
代替実施形態では、AAVを使用して、アデノウイルスより長い導入遺伝子発現を可能にし、レトロウイルスに関連した挿入変異誘発を回避する。持続性導入遺伝子発現は、大型動物においてAAVベクターの単回注射の数年後に証明されている
6−10。本発明者らは、これをマウス
11およびラットにおいて確認した。最近の臨床試験により、一部のAAV血清型はIM注射後に免疫応答を誘発することが判明した
12、13が、より新世代のAAVベクター(AAV5、6、8および9)は、霊長類において同様の問題を有さない
14。IV AAV送達は、導入遺伝子の血清レベルに関してIMより優れており、AAV9およびAAV8は、AAV5
15(および未発表データ)より優れている。さらに、予め存在している抗AAV8抗体は、ヒトでは、AAV1およびAAV2をはじめとする他のAAV血清型が優勢である(50〜59%)ほど優勢ではない(19%)
16。
図11にグラフで例証する本発明者らのデータは、IV AAV8が、パラクリンアプローチのために持続して増大されたレベルの血清UCn2を達成するための最適なベクターおよび送達経路であることを示す。
図11は、AAV9.CMV.UCn2(9.CMV)、AAV9.CBA.UCn2(9.CBA)対AAV8.CBA.UCn2(8.CBA)のIV送達からのデータを例証するものであり、これらのデータは、すべてのベクターが6週間後に血清UCn2の実質的増大を伴うことを示した。バーの中の数字は、各群についての試料サイズを表す;ANOVAからのp値。ITR、末端逆位配列;SVpA、SV40ウイルスゲノムからのポリA;UCn2、ウロコルチン−2;CBA、ニワトリβ−アクチンプロモーター;CMVエンハンサー、ヒトサイトメガロウイルスエンハンサー。
【0157】
横紋筋におけるその頑強性にもかかわらず、CMVプロモーターは、肝臓においてメチル化および不活性化を受けやすく
17、本発明者らのデータは、メチル化を受けにくいプロモーターが優れていることを示す。実際、
図11において例証するように、CMVは、IVベクター送達後にUCn2の持続的2倍増大をもたらしたが、ニワトリβ−アクチン(CBA)プロモーターの使用は、血清UCn2の15.7倍増大を生じさせる結果となった。肝細胞特異的甲状腺ホルモン結合グロブリン(TBG)プロモーターも使用することができる。
【0158】
代替実施形態において、本発明の構築物および方法により、制御性発現、例えば、発現をオフにすることが可能である。AAV遺伝子導入によって付与される長期発現の可能性のため、発現をオフにする能力は、有害反応が発症する事象において望ましい。制御性発現は、恒常的導入遺伝子送達ではなく間欠的導入遺伝子送達の融通性も可能にする。代替実施形態において、本発明の構築物および方法は、例えばエクジソン、タモキシフェン、テトラサイクリン、ラパマイシンなどの、制御性発現システムを使用する
18−21。エクジソンシステムのサイズは2ベクター戦略を要し、タモキシフェンは、毒性に関する問題点を提起する。テトラサイクリンおよびラパマイシン制御システム(表2)は、大型動物モデルにおいて試験されている
9、10、22−26。
【0159】
【表5】
代替実施形態において、本発明の構築物および方法は、tet−制御システムを使用し、このシステムは広範に研究されている
27。以前のrtTA構築物とは異なり、本発明のrtTA改変体(例えば、rtTA2
S−M2)は、基礎活性なし(すなわち、「漏出」なし)で頑強なtet依存性発現をもたらし
11、26、38、29、30、およびテトラサイクリンに対する10倍高い感受性(0.1μg/mLで最大導入遺伝子発現活性化)をもたらす
30。10〜20mgのドキシサイクリンの単回日用量は、ヒト被験体における導入遺伝子発現の完全活性化に十分であり得る
26、31。200mg/日の用量は、アクネおよび慢性感染症のために経口ドキシサイクリンを慢性使用している患者によって十分に耐容される
31、32。テトラサイクリンは、MI後の最初の数日間に投与したとき、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)活性を減弱させ、LVリモデリングに影響を及ぼすことができる
24。本発明者らは、提案されたマウスMI誘導CHFモデルにおいて、ドキシサイクリンをMIの5週間後に与えたとき、ドキシサイクリンが、LVリモデリングにも、TIMPにも、MMP発現にも影響を及ぼさないことを以前に示した
25。臨床の場では、テトラサイクリンをMIの急性期に使用しないことにする。
【0160】
潜在的問題である、rtTAシステムの成分への免疫応答は、非ヒト霊長類でのAAV4.tetおよびAAV5.tet遺伝子導入(網膜内)の研究では確認されず
9、テトラサイクリン依存性導入遺伝子発現がその2.5年の研究期間にわたって持続した。本発明者らには、高レベルのrtTAを発現するマウス心臓においても
25、28、29、rtTA2
S−M2制御エレメントを使用するIGFIのAAV5媒介制御性発現後のマウスにおいても
11炎症が認められない。非ヒト霊長類におけるAAV.tetのIM送達は、網膜内または血管送達とは異なり、トランスアクチベーター融合タンパク質の細菌およびウイルス成分への免疫応答のため、制御性発現の減弱をもたらさないようである
33。tet−レギュレーターへの免疫応答と、細菌またはウイルスタンパク質を有さず、免疫応答の惹起と関連づけられないラパマイシン制御システムとを、同時に試験することができる
10。tet−およびラパマイシン制御の強度および制限については表2を参照されたし。
【0161】
ラパマイシン制御システムにおいて、導入遺伝子発現は、ナノモル濃度のラパマイシンまたはラパマイシン類似体によって誘発され、これは用量依存性であり、かつ可逆的である
21。ラパマイシンは、免疫応答を抑制するために臨床使用されており、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)シグナル伝達経路を遮断することにより
35、マウスにおける加齢の悪影響を未然に防ぎ
23、多形神経膠芽腫を阻害する
34。ラパマイシンと同様に有効に導入遺伝子発現を活性化する経口ラパマイシン類似体AP22594は、最小の免疫抑制を呈示し、mTORを阻害しない
10、35−37。ブタを使用して、マカクにおいて有効に使用されるものと同様の経口用量(0.45mg/kg、週1回)で開始して、経口投与AP22594の用量−応答関係、およびその必要投薬間隔を決定することができる
10。
【0162】
代替実施形態において、本発明の構築物および方法は、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)ファミリーに属する、UCn1、UCn2およびUcn3(38〜40アミノ酸(aa))を含む、ウロコルチン−2をin vivoで発現する。これらのペプチドは、副腎皮質刺激ホルモン放出因子受容体1および2(CRF1、CRF2)を刺激することができる。UCn1は、CRFR1およびCRFR2を結合するが、UCn2およびUcn3は、排他的にCRFR2を結合し
38〜41、これらは心筋細胞、血管系、腸管、脳および骨格筋において発現される
42、43、44。UCn1は、LPS誘導炎症の際に見つけられ、組織透過性に関係づけられている
45、46が、UCn2の効果は、多岐にわたっており、一つにはCRFR2に対するその親和性のため、好適な生物学的効果と関連づけられている。UCn2の効果は、すべてcAMP依存性というわけではない。例えば、UCn2結合後のCRFR2脱感作は、β−アレスチンのトランスロケーションによりPI3K/Aktシグナル伝達を誘導する。加えて、ERK1/2シグナル伝達の増大が、Gタンパク質βおよびγサブユニットの解離によって起こる
47、48。これらのcAMP非依存性事象は、心筋細胞アポトーシス低減に寄与する。前臨床および臨床CHFにおけるUCn2のペプチド注入は、LV機能に対する好適な効果、および交感神経副腎軸の活性化低減を一貫して示している
49−51。
【0163】
下の表3に列挙するように、多くの有益効果の中で、本発明のモデルおよび組成物を使用するUCn2注入は、負荷条件に関係なく収縮機能を増大させることができ、これは、直接的心臓効果を示す
52。変力効果についての機序は、定義されていない。最近の研究は、Ca
2+の取り扱い
53、活動電位持続時間
54、虚血−再潅流傷害
55−57、およびレニン−アルドステロンシステム
49に対する有益効果を示唆している。UCn2注入の安全性および効力は、CHFの大型動物モデルにおいて
58、59、ならびに正常ヒト被験体およびCHFを有する患者において
50、51確認されている。最近の論説は、クラス3および4 CHFでのその使用を促進している
60。
【0164】
【表6】
UCn2の血漿半減期は、15分である
51ので、慢性注入を必要とする。対照的に、代替実施形態において、本発明のパラクリンベースのUCn2遺伝子導入は、上の表1に特記したように、慢性ペプチド注入に関連した障害を回避することができる。提案した2つの種において種特異的UCn2のみを発現させることにより、導入遺伝子への免疫応答は、抑止されることになる。
【0165】
パラクリンベースの遺伝子導入概念実証。本発明者らは、インスリン様成長因子−IをコードするAAV5(AAV5.IGFI)のIM注射によるパラクリン遺伝子導入が、不全ラット機能を改善させることを立証した
11。本発明者らはまた、UCn2をコードするAAV8のIV送達が、持続した高レベルの血清UCn2(>15倍増大)をもたらすばかりでなく、正常および不全心臓の機能も上昇させることを、ここで示した。
【0166】
AAVベクターおよびプロモーターの選択。IV AAV8またはAAV9が他のAAV血清型より高いレベルの導入遺伝子発現をもたらすこと、ならびに一般に最も頑強であるCMVまたはCBAプロモーターが最適であることは、以前に発表された研究から明らかであった。それ故、本発明者らは、どのベクターが血清UCn2を最も有効に増大させるのかを決定するために、
図11に図示するように、CMVまたはCBAによって駆動される、マウスUCn2をコードするAAV8および2つのAAV9ベクターを作出した。市販のUCn2特異的ELISAを使用した。AAV9.CMVは、血清UCn2を2.3倍上昇させた。この倍率は、他の2つのベクターより低いが、治療応答のためには十分であり得る。しかし、AAV8.CBAは、血清UCn2の15.7倍上昇を伴った(AAV8.CBA.UCn2:109±7ng/mL、n=9;対照:7±1ng/mL)。かかる高いレベルの血清UCn2は、そのAAV8用量の低減を可能にすることになる。AAV8.CBAおよびAAV9.CBAの、AAV9.CMVに対する優位性は、CBAの相対的頑強性、または肝臓におけるメチル化および不活性化に対するCMVの感受性を反映することもある
17。それ故、本発明者らは、AAV8.CBAをさらなる研究のために選択した。
【0167】
静脈内送達後のAAV8.CBA.UCn2分布および発現。代替実施形態において、本発明の構築物および方法は、パラクリンベースの遺伝子導入戦略によりUCn2をin vivoで発現し、ならびに本発明の構築物および方法を用いて、血清UCn2レベルを増大させることができる。代替実施形態は、UCn2発現が心臓自体に存在することを必要としない。なぜなら、それは、循環UCn2の効果であり、導入遺伝子の治療効果をもたらすことになる心臓および血管系に対するその効果、心筋細胞自体におけるUCn2発現を必要としない効果、であるからである。
【0168】
UCn2の肝臓発現。AAV8.CBA.UCn2のIV送達(5×10
11gc;
図11参照)の6週後に実証された血清UCn2の15.7倍増大は、肝臓におけるUCn2 mRNA発現の時間依存性増大と関連づけられ、この時間依存性増大は、
図12において例証するように、送達の4〜6週間後にプラトーに達し、これは、血清UCn2の定常的上昇とよく相関した。
図12Aは、AAV8.CBA.UCn2(5×10
11gc、IV)後の肝臓におけるUCn2 mRNA発現の時間経過をグラフで例証するものである。肝臓UCn2発現(各バーは、2匹のマウスからの平均値である)は、送達の4〜6週間後にプラトーに達し、これは、血清UCn2で認められるプラトーと相関した(データの表示なし)。
図12Bは、AAV8.CBA.UCn2(5×10
11gc、IV)の6週間(w)後のLVにおけるUCn2 mRNA発現を示すデータをグラフで例証するものである。同様に高いレベルのUCn2 mRNAが、骨格筋試料でも認められた(データの表示なし)。
【0169】
UCn2の心臓発現。UCn2の心臓発現は、本発明のパラクリンベースの遺伝子療法の有益効果には必要ではないが、本発明者らは、AAV8.CBA.UCn2のIV送達の6週間後にLV試料においてUCn2 mRNA発現の実質的増大を実証した。
図12B参照。代替実施形態では、例えばAAV8(AAV8 DNA存在を含む)およびUCn2 mRNAを含む、本発明の構築物を、骨格筋、肺、脳、腎臓、脾臓、小腸、骨髄をはじめとする、任意の臓器(単数)または他の臓器(複数)に送達するおよび/またはそこで発現させることができる。
【0170】
正常マウスにおけるUCn2遺伝子導入。UCn2遺伝子導入がLV機能を上昇させるかどうかを決定するために、本発明者らは、AAV8.UCn2(5×10
11gc)または食塩水(対照)を静脈内(IV)送達によって正常マウスに送達した。UCn2遺伝子導入の5週間後、ミラーカテーテル(1.4F)をLV腔に配置して圧力発生を測定する侵襲的手順にマウスを付した。データ収集および分析を、群の正体に対して盲検にした。UCn2遺伝子導入は、LV収縮機能(LV +dP/dt)(
図13A、左)を上昇させた;−dP/dtも低下し、これは、LV弛緩増進を示す(
図13B、右パネル)。LV質量、組織学、またはLV構造もしくは機能に対する有害作用は、検出されなかった。
図3は、AAV8.UCn2のIV送達の6週間後の正常マウスにおける(食塩水注射対照マウスに対する)LV機能をグラフで例証するものである。
図3A:LV +dp/dt;
図3B.LV −dP/dt。値は、平均±SEを表す。バーの中の数字は、群の大きさを表す。UCn2遺伝子導入は、収縮機能および心臓弛緩の両方を増大させた。
【0171】
CHFを有するマウスにおけるUCn2遺伝子導入。本発明者らは、近位左冠動脈閉塞を用いてマウスにおいて重症CHFを誘導した;これは本発明者らが広範に使用し、かつ臨床的虚血に基づくCHFの態様を模倣するモデルである
25。プロトコル(
図12A)に示すように、冠動脈閉塞の3週間後、本発明者らは、心エコー検査を行って重症LV機能不全および腔拡張を確認した。その後、本発明者らは、登録マウス(enrollee)を無作為に割り当て、AAV8.CBA.UCn2(マウス1匹につき5×10
11gc)または同体積の食塩水のIV送達を施した。無作為化の5週間後、マウスを反復心エコー検査、ならびにLV圧発生および減衰ならびにそれらの一次導関数、LV +dP/dtの測定に付した。データ収集および分析を群の正体に対して盲検にした。UCn2遺伝子導入時に存在した顕著なLV機能不全にもかかわらず、LV面積変化率(fractional area change:FAC%)(駆出率の代替物)は増大した(
図14B)。UCn2遺伝子導入は、LV収縮機能(LV +dP/dt)およびLV拡張機能(LV −dP/dt)も向上させた(
図14C)。ピークLV +dP/dtは、正常に近い値まで増大された。これにより、本提案戦略がCHFのための新規療法としての開発に値することが裏付けられる。
図14Bおよび14Cは、不全心臓に対するUCn2導入の効果を示すデータを例証するものである:
図14A:MIおよびCHF発症の3週間後、マウスにIV AAV8.UCn2または食塩水を施した;遺伝子導入の5週間後(MIの8週間後)、LV機能を評価した(盲検研究);
図14B.UCn2遺伝子導入は、LV面積変化率(%FAC)を増大させた;
図14C.UCn2遺伝子導入は、LVピーク+dP/dtおよびピーク−dP/dtを増大させた。これは、不全心臓の収縮および拡張LV機能における顕著な恩恵を示す。
【0172】
UCn2遺伝子導入:心臓Ca
2+取り扱いに対する効果
C2.5.1.UCn2遺伝子導入はSERCa2aの発現を変える。AAV8.CBA.UCn2遺伝子導入(5×10
11gc、IV)は、マウスから遺伝子導入の4週間後に得たLV試料におけるSERCA2a mRNAおよびタンパク質の発現増大と関連づけられた(
図15)。これらの変化は、筋フィラメントへのCa
2+利用能を促進し、それによって、本発明者らがUCn2遺伝子導入後に正常および不全心臓において観察した(
図13および14)ように収縮機能と拡張機能の両方を上昇させると予想され、UCn2遺伝子導入がLV機能を上昇させるもっともらしい機序をもたらした。UCn2ペプチドの同様の効果が、単離された心筋細胞に関して記載されている
53。
【0173】
図15は、正常マウスにAAV8.CBA.UCn2(5×10
11gc)または食塩水(CON)のIV送達を施し、4週間後、UCn2遺伝子導入群からのLV試料がSERCA2aタンパク質発現の2倍増大を示した(
図15A、グラフによる;
図15B、免疫ブロットによる)データを例証するものである。免疫ブロットシグナルをTnI含有量に正規化した。バーの中の数字は、群の大きさを表す。SERCA2a発現のこれらの変化は、筋フィラメントでのCa
2+利用能を促進し、それによってLV収縮および拡張機能を上昇させると予想された。
【0174】
UCn2遺伝子導入およびCa
2+トランジェント。心筋細胞(CM)をマウスからAAV8.CBA.UCn2(5×10
11gc、IV)の4週間後に単離した。IV食塩水を施したマウスを対照として使用した。測定中、UCn2マウスからの心筋細胞を24nMのUCn2ペプチドとともにインキュベートして、in vivoで血清UCn2レベルを模倣した。UCn2遺伝子導入を施したマウスからの心筋細胞は、
図16において例証するように、変更されたCa
2+トランジェントと短縮されたt
1/2を示した;
図16:UCn2遺伝子導入後のCa
2+トランジェント:
図16Aは、UCn2遺伝子導入が、Ca
2+低下速度を増大させたことをグラフで例証するものである;
図16Bは、4週間前にUCN2遺伝子導入を施したマウスからの心筋細胞において時間対Ca
2+トランジェント減衰が短縮されたことをグラフで例証するものである。実験を3回繰り返した。バーは、平均+SEを表す;バーの中の数字は、心筋細胞の数を表す;バーの上の数字は、p値を示す。
【0175】
UCn2は心臓保護性である。低酸素傷害に対するUCn2の効果を試験するために、本発明者らは、チトクロムオキシダーゼ中のヘム補因子を不可逆的に結合してミトコンドリアの呼吸を阻害するアジ化ナトリウム(NaN3)を用いて、培養新生仔ラット心筋細胞を処理し、低酸素誘導細胞傷害性を模倣した。UCn2処理は、
図17において例証するように、形態学的におよびLDH放出低減によって表されるように心筋細胞を傷害から保護した。UCn2は、単離された心筋細胞を低酸素−再酸素負荷傷害からも保護する(p<0.001;データの表示なし)。
図17は、UCn2が、培養新生仔ラット心筋細胞を低酸素傷害から保護するデータを示す:
図17Aは、UCn2(60nM)が、NaN
3(10mM)処理の24時間後に形態学的な正常性を維持することを例証するものである;
図17Bは、UCn2が、NaN
3処理後にLDH放出を低減させることをグラフで例証するものである(p<0.001)。
【0176】
CREBおよびβ−カテニンに対する効果。LV試料をマウスからAAV8.CBA.UCn2(5×10
11gc、IV)の4週間後に得た。IV食塩水を施したマウスを対照として使用した。UCn2遺伝子導入を施したマウスからのLV試料は、CREBのリン酸化増大を示した(3倍増大、p<0.01、
図18A)。CREBは、心臓におけるCRE媒介遺伝子発現を可能にする転写因子である。加えて、UCn2遺伝子導入は、LV β−カテニンリン酸化の2倍増大を伴った(p<0.0001、
図18B)。β−カテニンリン酸化増大は、心筋細胞の介在板におけるβ−カテニン蓄積を低減させ、それによって心臓の硬直および拡張機能不全を低減させる。これは、UCn2遺伝子導入が正常および不全心臓におけるLV弛緩を増進するという本発明者らの観察の一因になり得る。
図18は、CREB(
図18A)およびβ−カテニン(
図18B)両方のリン酸化が、UCn2.CBA.UCn2のIV送達の4週間後のLV試料において検出されたことをグラフで例証するものである。対照マウスにはIV食塩水を施した。
【0177】
UCn2遺伝子導入の非心臓効果。AAV8.CBA.UCn2(5×10
11gc)のIV送達は、グルコース代謝に対して好適な効果−抗糖尿病効果−を有する。例えば、UCn2遺伝子導入を施したマウスは、前臨床研究において用いられる2型糖尿病のモデルである、高脂肪食(hig fat diet:HFD)によって誘導された高血糖に対して耐性である(
図19A)。グルコースレベル低下は、HFD摂食マウスのグルコース負荷試験において見られるようなグルコース利用増大に起因する(
図19B)。
図19は、UCn2がグルコース制御に影響を及ぼすことを示すデータを例証するものである。マウスにAAV8.CBA.UCn2(5×10
11gc、n=8)または食塩水(n=8)のIV送達、および標準固形試料を3週間施した。空腹時血糖の小規模の減少が、UCn2群において認められた。その後、マウスに高脂肪食(HFD)を8週間施した。予想どおり対照において高血糖が認められたが、UCn2マウスは、正常血糖値を維持した。
図19B.マウスにAAV8.CBA.UCn2(5×10
11gc、n=8)または食塩水(n=8)のIV送達、およびHFDを2か月間施し、グルコース負荷試験を行った。空腹時マウスにグルコース(2mg/g体重、IP)を施し、グルコースレベルを測定した。結果は、UCn2遺伝子導入がグルコース利用を促進し、食事誘導高血糖を防ぐことを示す。
【0178】
図20は、本発明の例示的構築物を例証するものである:略語:ITR、末端逆位配列;TRE、テトラサイクリン応答因子;SVpA、SV40ウイルスゲノム(二方向性)からのポリA;rtTA2SM2、リバーステトラサイクリン調節性トランスアクチベーター;SV40en、シミアンウイルス40エンハンサー;TBG Prom、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター;RSV Prom、ラウス肉腫ウイルスプロモーター;FRB−p6、FRAP(ラパマイシン相互作用タンパク質)の、転写因子NF−κBのサブユニット(p65)と組み合わせた部分;IRE、内部転写再エントリー部位;ZF、ジンクフィンガーHD1 DNA結合ドメイン;FKBP、FK506結合タンパク質;pA、最小ポリアデニル化セグメント;ZBD、ジンクフィンガーHD DNA結合ドメイン(8コピー)。
【0179】
【化1】
【0180】
【化2】
【0181】
【化3】
【0182】
【化4】
【0183】
【化5】
本発明の多数の実施形態を説明した。それでもやはり、様々な変更形態を、本発明の精神および範囲を逸脱することなく行うことができることは、理解されるであろう。したがって、他の実施形態は、以下の請求項の範囲内である。