特許第6562673号(P6562673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6562673排ガス浄化フィルタ、排ガス浄化装置、及び排ガス浄化装置の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562673
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】排ガス浄化フィルタ、排ガス浄化装置、及び排ガス浄化装置の使用方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/94 20060101AFI20190808BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20190808BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20190808BHJP
   B01J 23/38 20060101ALI20190808BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20190808BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20190808BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20190808BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20190808BHJP
   B01D 46/42 20060101ALN20190808BHJP
【FI】
   B01D53/94 222
   B01D53/94 241
   B01D39/20 D
   B01J35/04 301E
   B01J35/04 301P
   B01J35/04 301L
   B01J23/38 AZAB
   F01N3/08 B
   F01N3/24 C
   F01N3/28 301D
   F01N3/28 301E
   F01N3/28 301F
   F01N3/24 E
   B01D46/00 302
   !B01D46/42 B
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-63082(P2015-63082)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-182536(P2016-182536A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】平川 敏弘
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−002391(JP,A)
【文献】 特開2003−210922(JP,A)
【文献】 特開2014−018768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/00−53/96
B01J21/00−38/74
F01N3/00−3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造部と、
所定の前記セルの前記流入端面側に配設された流入側目封止部と、
残余の前記セルの前記流出端面側に配設された流出側目封止部と、
前記隔壁の表面のうち、前記流出側目封止部が配設された前記セルである流入セル側の表面である流入表面上に配設された多孔質の表面捕集層と、を備え、
前記表面捕集層は、厚さが10〜60μmであり、
前記表面捕集層は、平均細孔径が0.3〜5μmであり、
前記隔壁は、前記セルの延びる方向に平行な断面において、前記隔壁の厚さ方向の10%の長さの位置から、前記隔壁の厚さ方向の90%の長さの位置までの間の領域を中央領域とし、前記中央領域と前記表面捕集層との間の領域を入口領域としたとき、
前記中央領域の気孔率P1が、前記入口領域の気孔率P2より小さく、
前記中央領域の気孔率P1に対する、前記入口領域の気孔率P2の比の値が、1.05〜1.5であり、
前記表面捕集層と前記隔壁の間には、空隙が形成されている排ガス浄化フィルタ。
【請求項2】
前記隔壁の厚さの標準偏差が、20%以下である請求項1に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項3】
前記隔壁及び前記表面捕集層のいずれもが、骨材である炭化珪素粒子と、前記骨材同士を結合する結合材と、を主成分として含有する材料からなり、前記結合材が、コージェライト、ムライト、アルミナ、または、これらの混合物である酸化物からなるものである請求項1または2に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項4】
前記隔壁と前記表面捕集層とは、焼成により一体的に形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項5】
貴金属を含む触媒が担持されていないか、或いは、貴金属を含む触媒が1g/L以下の割合で担持されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項6】
貴金属を含む触媒を備えており、80質量%以上の前記触媒が、前記隔壁の前記中央領域及び前記入口領域以外の領域である出口領域に担持されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタと、
前記排ガス浄化フィルタの下流側に配置され、SCR触媒が担持されたSCR触媒コンバータと、
前記排ガス浄化フィルタの上流側に配置され、酸化触媒が担持された上流側酸化触媒と、
前記上流側酸化触媒と前記排ガス浄化フィルタとの間に配置されるか、或いは、前記排ガス浄化フィルタと前記SCR触媒コンバータとの間に配置され、尿素を噴射可能な尿素噴射器と、を備え、
エンジンから排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置。
【請求項8】
前記排ガス浄化フィルタが、貴金属を含む触媒を担持していない請求項7に記載の排ガス浄化装置。
【請求項9】
前記SCR触媒コンバータの下流側に、酸化触媒が担持された下流側酸化触媒を備える請求項7または8に記載の排ガス浄化装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置の前記排ガス浄化フィルタ内に堆積した粒子状物質を燃焼除去する操作中において、前記排ガス浄化フィルタ内の前記粒子状物質を不完全燃焼させることによって一酸化炭素及び炭化水素を発生させ、発生させた一酸化炭素及び炭化水素を前記SCR触媒コンバータに供給して、前記SCR触媒コンバータにおいて一酸化炭素及び炭化水素によって排ガス中のNOXを浄化する排ガス浄化装置の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化フィルタ、排ガス浄化装置、及び排ガス浄化装置の使用方法に関する。更に詳しくは、フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化し、圧力損失の増大が抑制されており、表面捕集層の耐久性が良好である排ガス浄化フィルタ、排ガス浄化装置、及び排ガス浄化装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等から排出される排ガスを浄化するため、エンジンの排気路には複数のフィルタが配置されている。上記フィルタとしては、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)、このDPFの下流側に配置されるSCR触媒(還元反応によって被浄化成分を選択還元する触媒)フィルタなどがある。そして、DPFは、主に排ガス中のススを含む粒子状物質(パティキュレートマター(PM))を捕集し、粒子状物質が大気中に放出されることを防止している。SCR触媒コンバータは、その上流側に配置された尿素噴射器から噴射された尿素が分解して生成するアンモニア(NH)を用いて排ガス中のNOを還元している。
【0003】
上記DPFには、通常、一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)を酸化除去するなどの目的のために貴金属を含む触媒が担持されている。つまり、DPFは、一定期間毎に、内部に溜まったススを燃焼除去してすること(燃焼再生処理)が行われている。このとき、上記触媒によって、ススの燃焼を促進している。また、上記触媒によって、ススの燃焼時においてススが分解して生じる一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)を酸化除去している。
【0004】
また、上記DPFの隔壁の表面には、PMを捕集するための捕集層(表面捕集層)が配設されている場合がある(特許文献1参照)。そして、DPFは、この表面捕集層によって、PMが多孔質の隔壁の内部に侵入して、隔壁の細孔を閉塞させてしまうことを防止している。なお、隔壁の細孔が閉塞すると、圧力損失が急激に増加するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5616059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、DPFの燃焼再生処理においては、DPFから排出される排ガスの温度が高温であるため、SCR触媒コンバータにおいてNOの還元が適正に行われないことがあった。つまり、高温の排ガスによってアンモニアが分解されてしまい、NOを十分に還元できないことがあった。そのため、DPFの燃焼再生処理時に、ディーゼルエンジン等から排出されるNOの量が大幅に増加してしまうという問題があった。
【0007】
また、今後、NOの排出規制が更に厳しくなることが予想され、その場合には、DPFの燃焼再生処理時に排出されるNOの量では、排出規制の基準を満足できないことが想定される。
【0008】
このようなことから、フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化できる排ガス浄化フィルタの開発が切望されている。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明の課題とするところは、フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化し、圧力損失の増大が抑制されており、表面捕集層の耐久性が良好である排ガス浄化フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下に示す、排ガス浄化フィルタ、排ガス浄化装置、及び排ガス浄化装置の使用方法が提供される。
【0011】
[1] 一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造部と、所定の前記セルの前記流入端面側に配設された流入側目封止部と、残余の前記セルの前記流出端面側に配設された流出側目封止部と、前記隔壁の表面のうち、前記流出側目封止部が配設された前記セルである流入セル側の表面である流入表面上に配設された多孔質の表面捕集層と、を備え、前記表面捕集層は、厚さが10〜60μmであり、前記表面捕集層は、平均細孔径が0.3〜5μmであり、前記隔壁は、前記セルの延びる方向に平行な断面において、前記隔壁の厚さ方向の10%の長さの位置から、前記隔壁の厚さ方向の90%の長さの位置までの間の領域を中央領域とし、前記中央領域と前記表面捕集層との間の領域を入口領域としたとき、前記中央領域の気孔率P1が、前記入口領域の気孔率P2より小さく、前記中央領域の気孔率P1に対する、前記入口領域の気孔率P2の比の値が、1.05〜1.5であり、前記表面捕集層と前記隔壁の間には、空隙が形成されている排ガス浄化フィルタ。
【0013】
] 前記隔壁の厚さの標準偏差が、20%以下である前記[1]に記載の排ガス浄化フィルタ。
【0014】
] 前記隔壁及び前記表面捕集層のいずれもが、骨材である炭化珪素粒子と、前記骨材同士を結合する結合材と、を主成分として含有する材料からなり、前記結合材が、コージェライト、ムライト、アルミナ、または、これらの混合物である酸化物からなるものである前記[1]または[2]に記載の排ガス浄化フィルタ。
【0015】
] 前記隔壁と前記表面捕集層とは、焼成により一体的に形成されている前記[1]〜[]のいずれかに記載の排ガス浄化フィルタ。
【0016】
] 貴金属を含む触媒が担持されていないか、或いは、貴金属を含む触媒が1g/L以下の割合で担持されている前記[1]〜[]のいずれかに記載の排ガス浄化フィルタ。
【0017】
] 貴金属を含む触媒を備えており、80質量%以上の前記触媒が、前記隔壁の前記中央領域及び前記入口領域以外の領域である出口領域に担持されている前記[1]〜[]のいずれかに記載の排ガス浄化フィルタ。
【0018】
] 前記[1]〜[]のいずれかに記載の排ガス浄化フィルタと、前記排ガス浄化フィルタの下流側に配置され、SCR触媒が担持されたSCR触媒コンバータと、前記排ガス浄化フィルタの上流側に配置され、酸化触媒が担持された上流側酸化触媒と、前記上流側酸化触媒と前記排ガス浄化フィルタとの間に配置されるか、或いは、前記排ガス浄化フィルタと前記SCR触媒コンバータとの間に配置され、尿素を噴射可能な尿素噴射器と、を備え、前記排ガス浄化フィルタが、貴金属を含む触媒を担持していない、エンジンから排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置。
【0019】
] 前記排ガス浄化フィルタが、貴金属を含む触媒を担持していない前記[]に記載の排ガス浄化装置。
【0020】
] 前記SCR触媒コンバータの下流側に、酸化触媒が担持された下流側酸化触媒を備える前記[]または[]に記載の排ガス浄化装置。
【0021】
10] 前記[]〜[]のいずれかに記載の前記排ガス浄化装置の前記排ガス浄化フィルタ内に堆積した粒子状物質を燃焼除去する操作中において、前記排ガス浄化フィルタ内の前記粒子状物質を不完全燃焼させることによって一酸化炭素及び炭化水素を発生させ、発生させた一酸化炭素及び炭化水素を前記SCR触媒コンバータに供給して、前記SCR触媒コンバータにおいて一酸化炭素及び炭化水素によって排ガス中のNOXを浄化する排ガス浄化装置の使用方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の排ガス浄化フィルタは、表面捕集層の厚さが10〜60μmで、平均細孔径が0.3〜5μmである。そして、本発明の排ガス浄化フィルタは、隔壁における中央領域の気孔率P1が、入口領域の気孔率P2より小さい。これにより、本発明の排ガス浄化フィルタは、フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化し、圧力損失の増大が抑制されており、表面捕集層の耐久性が良好である。
【0023】
本発明の排ガス浄化装置は、本発明の排ガス浄化フィルタを備えるため、排ガス浄化フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化することができる。
【0024】
本発明の排ガス浄化装置の使用方法は、本発明の排ガス浄化装置を用いて、排ガス浄化フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の排ガス浄化フィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の排ガス浄化フィルタの一の実施形態のセルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の排ガス浄化フィルタの一の実施形態のセルの延びる方向に平行な断面の一部を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図4】本発明の排ガス浄化フィルタの一の実施形態のセルの延びる方向に平行な断面において隔壁と表面捕集層との境界付近を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図5】本発明の排ガス浄化装置の一の実施形態をエンジンに接続した状態を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0027】
[1]排ガス浄化フィルタ:
本発明の排ガス浄化フィルタの一実施形態は、図1図2に示す排ガス浄化フィルタ100である。排ガス浄化フィルタ100は、多孔質の隔壁1を有する柱状のハニカム構造部10と、流入側目封止部8aと、流出側目封止部8bと、多孔質の表面捕集層15と、を備えている。ハニカム構造部10は、一方の端面である流入端面11から他方の端面である流出端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1を有している。流入側目封止部8aは、所定のセル2の流入端面11側に配設された目封止部である。流出側目封止部8bは、残余のセル2の流出端面12側に配設された目封止部である。表面捕集層15は、隔壁1の表面のうち、流出側目封止部8bが配設されたセル2である流入セル2a側の表面である流入表面3上に配設された層である。表面捕集層15は、厚さが10〜60μmである。また、表面捕集層15は、平均細孔径が0.3〜5μmである。そして、セル2の延びる方向に平行な断面において、隔壁1の厚さ方向の10%の長さの位置Aから、隔壁1の厚さ方向の90%の長さの位置Bまでの間の領域を中央領域5とする(図3参照)。また、セル2の延びる方向に平行な断面において、中央領域5と表面捕集層15との間の領域を入口領域6とする。このとき、排ガス浄化フィルタ100は、中央領域5の気孔率P1が、入口領域6の気孔率P2より小さいものである。
【0028】
このような排ガス浄化フィルタ100は、フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化することができる。また、排ガス浄化フィルタ100は、圧力損失の増大が抑制されている。更に、排ガス浄化フィルタ100は、表面捕集層の耐久性が良好である。
【0029】
従来の排ガス浄化フィルタは、貴金属を含む触媒によって一酸化炭素及び炭化水素を酸化除去している。一方、本発明の排ガス浄化フィルタは、フィルタの再生時において排出される一酸化炭素及び炭化水素の濃度が高いものである。そして、高い濃度で排出される一酸化炭素及び炭化水素は、排ガス浄化フィルタの下流に配置されるSCR触媒コンバータに供給される。このSCR触媒コンバータでは、一酸化炭素、炭化水素、及び、アンモニアによって排ガス中のNOを良好に浄化することができる。つまり、SCR触媒コンバータでは、尿素噴射器によって供給される尿素に由来するアンモニアによって排ガス中のNOを浄化している。しかし、排ガス浄化フィルタの再生時においては、SCR触媒コンバータ内が高温になり、アンモニアが分解されてしまう。そのため、SCR触媒コンバータ中のNOを浄化することが十分にできないという問題がある。そこで、フィルタの再生時においては、排ガス浄化フィルタから排出される一酸化炭素及び炭化水素の濃度を高くする。これにより、アンモニアに加え、一酸化炭素及び炭化水素が還元材として機能するため、SCR触媒コンバータ中でNOを良好に浄化することができる。つまり、アンモニアに加え、一酸化炭素及び炭化水素を還元材として利用して、SCR触媒コンバータ内で、一酸化炭素及び炭化水素によるNOの還元を行い、無害な窒素(N)、酸素(O)に浄化する。なお、一酸化炭素及び炭化水素は、還元材として消費される。そのため、これらは大気に放出され難い。
【0030】
そして、本発明の排ガス浄化フィルタは、フィルタの再生時において排出される一酸化炭素及び炭化水素の濃度を高くするために、フィルタの再生時に、排ガス浄化フィルタ内に堆積されたススを含む粒子状物質を不完全燃焼させる。即ち、排ガス浄化フィルタは、中央領域の気孔率P1が、入口領域の気孔率P2より小さく、具体的には、表面捕集層と隔壁の間には空隙30(図4参照)(以下、「堆積空間」と記す場合がある)が形成されている。そして、この空隙に堆積した上記粒子状物質は、フィルタの再生時に、高温に曝されるとともに酸素が十分に供給されない状態(蒸し焼き状態)となる。粒子状物質に酸素が十分に供給されないのは、上記空隙に存在しているためである。このようなことから、上記空隙に存在する粒子状物質が不完全燃焼を起こし、一酸化炭素及び炭化水素が発生することになる。
【0031】
図1は、本発明の排ガス浄化フィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明の排ガス浄化フィルタの一の実施形態のセルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。図3は、本発明の排ガス浄化フィルタの一の実施形態のセルの延びる方向に平行な断面の一部を拡大して模式的に示す拡大断面図である。図4は、本発明の排ガス浄化フィルタの一の実施形態のセルの延びる方向に平行な断面において隔壁と表面捕集層との境界付近を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
【0032】
本明細書において、中央領域及び入口領域の気孔率は、以下のようにして画像解析処理により測定される値である。具体的には、まず、隔壁部分から1cm角以下の小片を切りだし、この小片を樹脂に埋める。その後、隔壁の断面を含む面を研磨し、その断面における走査型電子顕微鏡(SEM)による画像を撮影する。次に、得られたSEM画像を、空隙部(樹脂部)と固体部分に2値化処理し、それぞれの面積から気孔率を算出する。このようにして、中央領域及び入口領域の気孔率を算出する。
【0033】
「入口領域」は、上記の通り、中央領域と表面捕集層との間の領域である。つまり、図4に示すように、セル2の延びる方向に直交する断面において、表面捕集層15の内表面15a(図3中の位置O)と、中央領域5(図3参照)の表面捕集層15側の境界面(即ち、隔壁1の厚さ方向の10%の長さの位置A)との間に存在する領域である。従って、入口領域の気孔率の算出に際しては、表面捕集層15と隔壁1との間の空隙も考慮される。
【0034】
本発明の排ガス浄化フィルタは、中央領域の気孔率P1が、入口領域の気孔率P2より小さいことが必要である。つまり、このような構造を有する本発明の排ガス浄化フィルタは、入口領域が、表面捕集層と隔壁の中央領域との断熱層として機能する。そのため、表面捕集層で捕集されたススなどの粒子状物質は、フィルタの再生時に隔壁と断熱されることになる。つまり、フィルタの再生時に、ススの燃焼により発生した熱は、隔壁に逃げ難くなる。その結果、堆積したススは、蒸し焼き状態となり、一酸化炭素及び炭化水素が発生し易くなる。
【0035】
具体的には、本発明の排ガス浄化フィルタは、中央領域の気孔率P1に対する、入口領域の気孔率P2の比の値(P2/P1)が、1.05〜1.5であ、1.07〜1.5であることが更に好ましく、1.1〜1.2であることが特に好ましい。P2/P1が上記範囲を満たすことにより、ススの燃焼熱が隔壁へ逃げてしまうことを防止する。そのため、表面捕集層上のススが蒸し焼き状態になる易く、HC,COの発生が増加する。P2/P1が下限値未満であると、HC,COの発生が不足するおそれがある。上限値超であると、隔壁の強度、耐久性が低下するおそれがある。
【0036】
[1−1]表面捕集層:
表面捕集層15は、その平均細孔径が、隔壁1の平均細孔径より小さい多孔質の層である。このような表面捕集層15を備えることにより、表面捕集層15が、排ガスに含まれる粒子状物質のなかでも粒子径の大きなもの(大径粒子)を捕集する。そのため、隔壁1の細孔が大径粒子により塞がれてしまうことを防止することができる。
【0037】
表面捕集層15は、厚さが10〜60μmであり、15〜40μmであることが好ましく、15〜30μmであることが更に好ましく、15〜25μmであることが特に好ましい。表面捕集層の厚さが下限値未満であると、ススを含む粒子状物質を十分に捕集できない。上限値超であると、圧力損失が増加するという不具合が生じる。
【0038】
表面捕集層15は、平均細孔径が0.3〜5μmであり、0.5〜4μmであることが好ましく、0.5〜3μmであることが更に好ましく、0.5〜2μmであることが特に好ましい。表面捕集層の平均細孔径を上記範囲とすることにより、ススの密度が高い層(スス層)が、表面捕集層上に形成される。その結果、上記堆積空間以外においてもススの燃焼時(フィルタの再生時)に一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)が発生し易くなる。表面捕集層の平均粒子径が下限値未満であると、圧力損失が増加するおそれがある。上限値超であると、表面捕集層を通り抜けるススが増加し、表面捕集層上にススを集中的に集めることが難しくなる。そのため、再生時のCO,HCの発生が不足するおそれがある。
【0039】
[1−2]ハニカム構造部:
隔壁の厚さは、50〜500μmであることが好ましく、100〜450μmであることが更に好ましく、150〜450μmであることが特に好ましい。隔壁の厚さが下限値未満であると、強度が不足するおそれがある。上限値超であると、圧力損失が増加するおそれがある。
【0040】
隔壁の厚さの標準偏差は、20%以下であることが好ましく、5〜15%であることが更に好ましく、5〜10%であることが特に好ましい。上記標準偏差が20%以下であると、排ガスの流れが均一化するため、集中的に過大な排ガスの流れが生じることによって一部のススに酸素が供給されず、過大な量のススが燃え残るという状態を回避できる。上記標準偏差が20%超であると、一部のススが燃え残るおそれがある。なお、上記標準偏差は、図2に示すような断面において、セルの延びる方向の中間であり且つセルの延びる方向に直交する方向の任意の5点を選択する。また、これらの点以外の、セルの延びる方向の任意の5点を選択する。そして、これら合計10点における隔壁の厚さの標準偏差σのことである。
【0041】
隔壁の気孔率は、25〜75%であることが好ましく、30〜70%であることが更に好ましく、34〜68%であることが特に好ましい。気孔率の下限値未満であると、圧力損失が増加するおそれがある。上限値超であると、強度が不足するおそれがある。隔壁の気孔率は、上述した表面捕集層の気孔率と同様にして測定した値である。
【0042】
隔壁の平均細孔径は、5〜40μmであることが好ましく、8〜30μmであることが更に好ましく、9〜25μmであることが特に好ましい。隔壁の平均細孔径が下限値未満であると、圧力損失が増加するおそれがある。上限値超であると、ススの捕集効率が低下するおそれがある。隔壁の平均細孔径は、上述した表面捕集層の平均細孔径と同様にして測定した値である。
【0043】
ハニカム構造部のセル密度は、8〜95個/cmであることが好ましく、15〜78個/cmであることが更に好ましい。セル密度が下限値未満であると、濾過面積が不足し、ススの堆積時の圧力損失が増加し、ススの捕集効率が低下するおそれがある。上限値超であると、ススが堆積していないときの圧力損失(初期圧力損失)が増加するおそれがある。
【0044】
隔壁は、骨材である炭化珪素粒子と、骨材同士を結合する結合材と、を主成分として含有する材料からなることが好ましい。そして、この結合材は、Siを主成分とする材料であることがこのましく、コージェライト、ムライト、アルミナ、または、これらの混合物である酸化物からなるものであることが更に好ましい。このような条件を満たすことにより、隔壁の熱伝導率が低くなり、ススが燃焼することにより発生する熱が、隔壁に逃げ難くなる。その結果、ススの燃焼時にススの不完全燃焼が起こり、一酸化炭素及び炭化水素が発生し易くなる。また、隔壁は、高熱容量であることになるため、フィルタの再生時にフィルタ内の温度が過大になることを防ぐことができる。
【0045】
隔壁1と表面捕集層15とは、焼成により一体的に形成されていることが好ましい。このように隔壁1と表面捕集層15とが焼成により一体的に形成されていると、表面捕集層15の耐久性が向上する。即ち、排ガス浄化フィルタ100を長期間使用したとしても、表面捕集層15が破損することなどの問題が生じ難い。「焼成により一体的に形成」とは、ハニカム成形体(焼成前の構造体)の隔壁の表面に表面捕集層用コート材を塗布し、その後、焼成することにより、ハニカム成形体と表面捕集層用コート材とを一体に焼成して、隔壁と表面捕集層を接合することをいう。表面捕集層用コート材は、表面捕集層を形成するための材料である。
【0046】
[1−3]触媒:
通常、排ガス浄化フィルタ(DPF)には、貴金属を含む触媒が5〜30g/L程度の割合で担持される。ここで、本発明の排ガス浄化フィルタは、貴金属を含む触媒が担持されていないか、或いは、貴金属を含む触媒が1g/L以下の割合で担持されていることが好ましい。貴金属を含む触媒の担持量は、0.5g/L以下であることが更に好ましい。このような条件を満たすことにより、上記触媒によって還元される一酸化炭素及び炭化水素の量を減らすことができる。そのため、排ガス浄化フィルタ(DPF)から多くの一酸化炭素及び炭化水素を排出させることができる。その結果、SCR触媒コンバータ内においてNOの還元が良好に行われる。
【0047】
排ガス浄化フィルタ100は、貴金属を含む触媒が担持されている場合、80質量%以上の上記触媒が、隔壁1の中央領域5及び入口領域6以外の領域である出口領域7に担持されていることが好ましい。そして、90質量%以上の上記触媒が出口領域7に担持されていることが更に好ましい。このような場合、表面捕集層に担持される触媒量が低減されることになるため、表面捕集層の細孔が触媒によって閉塞されてしまうことが回避でき、圧力損失の過大な上昇を防止することができる。また、ススと貴金属との接触を避けることができ、DPF再生時に表面捕集層上での一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の発生量を多くすることができる。
【0048】
[1−4]目封止部:
排ガス浄化フィルタ100は、流入側目封止部8aと流出側目封止部8bとを備えている。これらの目封止部を備えることにより、排ガス中の粒子状物質を良好に捕集することができる。排ガス浄化フィルタ100のハニカム構造部10において、流出側目封止部8bが配設されたセル2は流入セル2aであり、流入側目封止部8aが配設されたセル2は流出セル2bである。
【0049】
排ガス浄化フィルタのセルの延びる方向の長さは、30〜500mmとすることができる。
【0050】
本発明の排ガス浄化フィルタは、ハニカム構造部の側面に外周壁20(図1参照)を更に備えていてもよい。
【0051】
ハニカム構造部は、複数のハニカムセグメントからなる接着体であってもよい。即ち、ハニカム構造部は、複数のハニカムセグメントの集合体と、これらのハニカムセグメントを互いに接着する接着材からなる接着部とを備えるものであってもよい。
【0052】
[2]排ガス浄化フィルタの製造方法:
本実施形態の排ガス浄化フィルタの製造方法について説明する。まず、排ガス浄化フィルタを作製するための坏土を調整し、この坏土を成形して、ハニカム成形体を作製する(成形工程)。その後、得られたハニカム成形体(或いは、必要に応じて行われた乾燥後のハニカム乾燥体)の所定のセルにマスクを付してマスキングを行い、マスキングされたセル以外のセルの隔壁の表面に捕集層形成用スラリーを塗布して塗布膜を形成する(塗布膜形成工程)。その後、マスクを外し、その流入端面における所定のセルの開口部、及び流出端面における残余のセルの開口部に目封止を施して、流入側目封止部及び流出側目封止部を形成する(目封止工程)。その後、上記塗布膜が形成され、交互に目封止部が形成されたハニカム成形体を焼成して、ハニカム焼成体を作製する(焼成工程)。このようにして排ガス浄化フィルタを作製することができる。
【0053】
なお、塗布膜形成工程の前工程において、カーボン粒子等の焼成により消失する粒子を、捕集層形成用スラリーが塗布される予定の面(流入表面)に塗布する。このようにすることによって、中央領域の気孔率P1を入口領域の気孔率P2より小さくすることができる。具体的には、表面捕集層と隔壁との間に空隙を形成することができる。
【0054】
以下、各製造工程について更に詳細に説明する。
【0055】
[2−1]成形工程:
成形工程は、セラミック原料を含有するセラミック成形原料からなる坏土を調製し、この坏土を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画形成するハニカム成形体を形成する工程である。
【0056】
このセラミック成形原料は、上記セラミック原料に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、造孔材、界面活性剤等を混合して調製することが好ましい。各原料の組成比は、特に限定されず、作製しようとする排ガス浄化フィルタの構造、材質等に合わせた組成比とすることが好ましい。
【0057】
坏土を調製する方法としては、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。坏土を成形する方法としては、例えば、押出成形、射出成形等の従来公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。
【0058】
ハニカム成形体の形状は、例えば、中心軸に直交する断面が、円形、楕円形、レーストラック形状、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の柱状などを挙げることができる。
【0059】
得られたハニカム成形体を乾燥してもよい。乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。これらの中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組合せて行うことが好ましい。
【0060】
[2−2]塗布膜形成工程:
捕集層形成用スラリーは、表面捕集層を形成するための微細原料粒子を含有するスラリーである。なお、スラリーの分散媒としては、水等を用いることができる。
【0061】
なお、本工程においては、スラリーを塗布する前処理として以下の処理を行う。即ち、燃焼により除去可能な微細粒子をハニカム成形体(またはハニカム乾燥体)の隔壁の表面に少量付着させる処理を行う。この処理の後、上記スラリーを塗布し、乾燥、焼成を行うと、上記前処理により、隔壁の表面に付着していた微細粒子が消失する。その結果、表面捕集層と隔壁との間に上記堆積空間を形成することができる。
【0062】
微細粒子としては、例えば、カーボン粒子、樹脂粒子、デンプン等を挙げることができる。
【0063】
微細粒子の粒子径は、5〜30μmであることが好ましい。また、微細粒子の付着量は、フィルタ容積あたり、0.05〜0.2g/Lであることが好ましい。
【0064】
表面捕集層の平均細孔径、気孔率、及び厚さは、上記微細原料粒子の粒子径などによって調節することができる。例えば、スラリーの濃度等を調節することによって、表面捕集層の平均細孔径等を調節することができる。
【0065】
表面捕集層を形成する方法としては、上記スラリーを用いる方法以外に、微細原料粒子を含むガスを用いる方法(気流法)を挙げることができる。具体的には、微細原料粒子をガスの気流によって搬送(即ち、微細原料粒子を気流に乗せて搬送)して、ハニカム焼成体の隔壁の表面に微細原料粒子の堆積層を形成することができる。この方法で表面捕集層を形成することにより、薄く均一な厚さの表面捕集層を形成することができる。
【0066】
上記気流法においては、隔壁の表面に微細原料粒子の堆積層を形成する前に、以下の前処理を行う。即ち、上記微細粒子をガスの気流によって搬送してハニカム焼成体の隔壁の表面に上記微細粒子の堆積層を形成する前処理を行う。この前処理を行うことにより、その後、乾燥、焼成を行うことで、中央領域の気孔率P1を入口領域の気孔率P2より小さくすることができる。即ち、表面捕集層と隔壁との間に空隙が形成された排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【0067】
なお、塗布膜形成工程は、焼成工程及び目封止工程の後に行っても良い。つまり、成形工程によってハニカム成形体(或いは、必要に応じて行われた乾燥後のハニカム乾燥体)を得た後、目封止工程及び焼成工程を行い、その後、塗布膜形成工程を行っても良い。このように、焼成工程を行った後に、塗布膜形成工程を行う場合、前処理として以下の処理を行う。即ち、上記スラリーを塗布する前に、上記微細粒子を含む前処理スラリーをハニカム焼成体に流通させて、ハニカム焼成体の隔壁の表面に上記微細粒子の堆積層を形成する。その後、微細原料粒子を含有するスラリーを上記堆積層上に塗布して塗布層を形成する。その後、乾燥、焼成を行うことにより、中央領域の気孔率P1を入口領域の気孔率P2より小さくすることができる。即ち、表面捕集層と隔壁との間に空隙が形成された排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【0068】
[2−3]焼成工程:
ハニカム成形体を焼成(本焼成)する前には、そのハニカム成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)を除去することができればよい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0069】
ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、適当な条件を選択すればよい。例えば、焼成温度は、1410〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、4〜6時間が好ましい。
【0070】
[2−4]目封止工程:
目封止部の形成方法については、所定のセルの一方の開口部にマスクを配設し、残余のセルの開口部に目封止スラリーを充填する方法を挙げることができる。なお、このような目封止部の形成方法は、例えば、公知の排ガス浄化フィルタにおける目封止部の作製方法に準じて行うことができる。
【0071】
目封止部の原料としては、ハニカム構造部の原料と同様の原料を用いることができる。このようにすると、ハニカム成形体と目封止部の焼成時の膨張率を同じにすることができる。そのため、排ガス浄化フィルタの耐久性を向上させることができる。
【0072】
[3]排ガス浄化装置:
本発明の排ガス浄化装置の一実施形態は、図5に示す排ガス浄化装置200である。排ガス浄化装置200は、排ガス浄化フィルタ100と、SCR触媒コンバータ50と、上流側酸化触媒60と、尿素噴射器70と、を備えている。SCR触媒コンバータ50は、排ガス浄化フィルタ100の下流側に配置され、SCR触媒が担持されたフィルタである。上流側酸化触媒60は、排ガス浄化フィルタ100の上流側に配置され、酸化触媒が担持されたフィルタである。尿素噴射器70は、尿素を噴射可能な装置である。尿素噴射器70は、上流側酸化触媒60と排ガス浄化フィルタ100との間に配置されるか、或いは、排ガス浄化フィルタ100とSCR触媒コンバータ50との間に配置される。そして、排ガス浄化装置200は、エンジン300から排出される排ガスを浄化するものである。図5は、本発明の排ガス浄化装置の一の実施形態をエンジンに接続した状態を模式的に示す平面図である。
【0073】
このような排ガス浄化装置200は、排ガス浄化フィルタ100(本発明の排ガス浄化フィルタ)を備えるため、排ガス浄化フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化することができる。
【0074】
排ガス浄化装置200の排ガス浄化フィルタ100は、貴金属を含む触媒を担持していないものである。このような排ガス浄化フィルタ100を用いることにより、排ガス浄化フィルタ100内で発生した一酸化炭素及び炭化水素が上記触媒によって還元されることがない。そのため、SCR触媒コンバータに供給される一酸化炭素及び炭化水素の量を多くすることができる。排ガス浄化フィルタ100は、貴金属を含む触媒を担持していないものを用いることができる。
【0075】
SCR触媒コンバータ50は、尿素噴射器70から噴射される尿素が分解して生成されるアンモニアによってNOを浄化する。SCR触媒コンバータは、公知のものを適宜採用することができる。SCR触媒コンバータは、具体的には、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を有する柱状のハニカム構造体と、このハニカム構造体の隔壁の表面に担持されたSCR触媒とを備えている。
【0076】
上流側酸化触媒60は、排ガス中に含まれる一酸化炭素及び炭化水素を浄化する。また、上流側酸化触媒60は、排ガス浄化フィルタ100の再生時において、排ガス浄化フィルタ100の昇温を行う。上流側酸化触媒は、公知のものを適宜採用することができる。上流側酸化触媒は、具体的には、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を有する柱状のハニカム構造体と、このハニカム構造体の隔壁の表面に担持された酸化触媒とを備えている。
【0077】
尿素噴射器70は、上流側酸化触媒60と排ガス浄化フィルタ100との間に配置されるか、或いは、排ガス浄化フィルタ100とSCR触媒コンバータ50との間に配置される。即ち、尿素噴射器70は、排ガス浄化フィルタ100またはSCR触媒コンバータ50の上流において尿素を噴射して、排ガス浄化フィルタ100またはSCR触媒コンバータ50に尿素から分解生成されたアンモニアを供給するものである。なお、尿素噴射器70は、所定量の尿素を噴射することができる従来公知の尿素噴射器を用いることができる。
【0078】
図5に示す排ガス浄化装置200は、下流側酸化触媒80を更に備えている。下流側酸化触媒80は、SCR触媒コンバータ50の下流側に配置され、酸化触媒が担持されたハニカム構造体である。ここで、本発明の排ガス浄化装置は、排ガス浄化フィルタの再生時において、排ガス浄化フィルタから、一酸化炭素及び炭化水素が排出され、SCR触媒コンバータに供給される。このとき、SCR触媒コンバータ中のNOの浄化に必要な量を超える量の過剰な還元材(NH,CO,HC)がSCR触媒コンバータに存在する場合がある。この場合、SCR触媒コンバータから上記還元材が大気中に排出されてしまうおそれがある。そこで、下流側酸化触媒を備えることにより、SCR触媒コンバータから排出される上記還元材を酸化除去して、還元材(NH,CO,HC)が車両外に排出されることを防止できる。
【0079】
下流側酸化触媒は、上流側酸化触媒と同様のものを用いることができる。具体的には、下流側酸化触媒は、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を有する柱状のハニカム構造体と、このハニカム構造体の隔壁の表面に担持された酸化触媒とを備えている。
【0080】
[4]排ガス浄化装置の使用方法:
本発明の排ガス浄化装置の使用方法の一実施形態は、排ガス浄化フィルタ100内に堆積した粒子状物質を燃焼除去する操作中において、排ガス浄化フィルタ100内の粒子状物質を不完全燃焼させることによって一酸化炭素及び炭化水素を発生させ、SCR触媒コンバータ50において一酸化炭素及び炭化水素によって排ガス中のNOを浄化する。
【0081】
このような排ガス浄化装置の使用方法によれば、本発明の排ガス浄化装置を用いて、排ガス浄化フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化することができる。なお、本発明の排ガス浄化装置の使用方法は、上記再生時には尿素を噴射させないことも可能であり、この場合には、尿素噴射器から噴射する尿素の消費量を減らすことができる。ここで、仮に、排ガス浄化フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化しようとすると、尿素を多量に供給する必要がある。つまり、上記再生時には、SCR触媒コンバータ50も高温に曝され、このSCR触媒コンバータ50中のアンモニアが分解されてしまう。そのため、SCR触媒コンバータ50中のNOを浄化することが十分にできない。このような問題を解消するには、分解されることを想定して多量の尿素を供給することが考えられる。しかし、この場合、尿素の消費量が増大してしまう。そこで、本発明の排ガス浄化装置の使用方法によれば、排ガス浄化フィルタの再生時における排ガス中のNOを良好に浄化しつつ、尿素の消費量を減らすことができる。
【0082】
本発明の排ガス浄化装置の使用方法においては、上述した本発明の排ガス浄化フィルタを用いるため、この排ガス浄化フィルタ内の粒子状物質を不完全燃焼させることができる。つまり、本発明の排ガス浄化フィルタは、中央領域の気孔率P1が、入口領域の気孔率P2より小さく、具体的には、表面捕集層と隔壁との間に空隙が形成されている。そのため、この空隙にススなどの粒子状物質が堆積する。そして、この粒子状物質は、その燃焼除去の操作(再生燃焼処理)に際して、高温に曝されるとともに酸素が十分に供給されない状態となる。粒子状物質に酸素が十分に供給されないのは、上記空隙に存在しているためである。このようなことから、上記空隙に存在する粒子状物質が不完全燃焼を起こし、一酸化炭素及び炭化水素が発生することになる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
まず、排ガス浄化フィルタのハニカム構造部となる複数のハニカムセグメントを作製した。具体的には、炭化珪素粉末を80質量部と、Si粉末20質量部とを混合して、混合粉末を得た。この混合粉末に、バインダ、造孔材、及び水を添加して、成形用坏土を調製した。
【0085】
次に、調製した成形用坏土を四角柱形状に押出成形してハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体を、マイクロ波乾燥機を使用して乾燥し、更に熱風乾燥機を使用して完全に乾燥させた。その後、乾燥させたハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法の長さのハニカムセグメントを得た。このハニカムセグメントを16個作製した。
【0086】
次に、得られたハニカムセグメントの流入セル側の表面である流入表面上に表面捕集層を形成した。表面捕集層の原料(微細原料粒子)としては、平均粒子径が20μmのもの用いた。微細原料粒子を含む微細粒子をハニカムセグメントの流入表面上に塗布して塗布膜を形成した。ここで、塗布膜を形成する前に、ハニカムセグメントの流入表面上に平均粒子径15μmのカーボン粒子を塗布した。このようにすることによって、得られるハニカム構造体の隔壁の中央領域の気孔率P1を入口領域の気孔率P2より小さくした。
【0087】
次に、塗布膜を形成した16個のハニカムセグメントを、1440℃で5時間焼成して、16個ハニカム焼成体を得た。
【0088】
次に、これらのハニカム焼成体のセルの両端面を、隣接するセルが互い違いに目封止されるように目封止部(流入側目封止部、流出側目封止部)を形成した。このようにして、目封止ハニカムセグメントを得た。なお、この目封止ハニカムセグメントは、貴金属を含む触媒が担持されていないものであった。
【0089】
得られた目封止ハニカムセグメントは、四角柱形状であり、端面の一辺が35mm、セルの延びる方向における長さが152mmであった。また、隔壁の厚さは0.35mmであり、隔壁の平均細孔径は、13μmであり、セル密度は46.5セル/cmであった。また、隔壁の厚さの標準偏差は、15%であった。
【0090】
また、表面捕集層の厚さは20μmであり、表面捕集層の平均細孔径は1μmであり、表面捕集層の気孔率は65%であった。なお、表面捕集層及び隔壁の厚さ、平均細孔径、及び気孔率は、表面捕集層及び隔壁の走査型電子顕微鏡(SEM)画像より求めた。
【0091】
また、得られた目封止ハニカムセグメントは、中央領域の気孔率P1が41%であり、入口領域の気孔率P2が60%であった。また、中央領域の気孔率P1に対する、入口領域の気孔率P2の比の値は、1.46であった。結果を表1に示す。
【0092】
これらの目封止ハニカムセグメントの側面に、SiC粒子とアルミナファイバとコロイダルシリカとを含む接合材を塗布し、900℃で1時間乾燥して互いに接合させてハニカム接合体を得た。その後、得られたハニカム接合体の外周を直径142mmとなるように加工した。そして、その外周に、上記接合材と同一成分の外周コートを塗布し、600℃で1時間乾燥することにより直径144mmの円柱形状の排ガス浄化フィルタを得た。
【0093】
【表1】
【0094】
表1、表2中、「厚さのバラツキ」の欄は、任意の10点を選択して厚さを測定したときの表面捕集層の厚さの標準偏差を示す。具体的には、まず、セルの延びる方向の中間であり且つセルの延びる方向に直交する方向の断面における任意の5点を選択する。次に、これらの点以外であり、セルの延びる方向に直交する断面における任意の5点を選択する。そして、これら合計10点における表面捕集層の厚さの標準偏差σを算出する。このようにして算出した表面捕集層の厚さのバラツキ(表面捕集層の厚さの標準偏差)を示す。「固定」の欄の「一体焼成」は、ハニカム成形体(焼成前の構造体)の隔壁の表面に微細原料粒子を塗布して塗布膜を形成し、その後、焼成することにより、ハニカム成形体と微細原料粒子からなる塗布膜とを一体に焼成したことを意味する。また、「乾燥」は、ハニカム成形体を焼成して得られたハニカム焼成体の隔壁の表面に微細原料粒子を塗布して塗布膜を形成し、その後、塗布膜を乾燥させて表面捕集層を形成したことを意味する。「貴金属の比率」の欄は、隔壁から小片を切り出し、この小片を粉砕して湿式定量分析することにより算出したときの貴金属の含有割合を示す。「HCとCOの合計」の欄は、テールパイプ排ガスを、排ガス分析計で分析して測定される炭化水素と一酸化炭素との合計の割合を示す。
【0095】
得られた排ガス浄化フィルタについて、以下に示す方法で、「再生時テールパイプNO」、「圧力損失」、「表面捕集層の耐久性」、及び「総合評価」の評価を行った。結果を表3に示す。
【0096】
[再生時テールパイプNO
再生時テールパイプNOの評価は、以下のように行った。具体的には、上流側から順に、図5に示すように、上流側酸化触媒60、作製した排ガス浄化フィルタ100、SCR触媒コンバータ50、下流側酸化触媒80を配置した。そして、排ガス浄化フィルタ100とSCR触媒コンバータ50との間に尿素噴射器70を配置した。このようにして、排ガス浄化装置を作製した。そして、上流側酸化触媒60側の供給口をディーゼルエンジン300の排気口に接続した。その後、以下のように測定を行った。まず、ディーゼルエンジン300を、回転数2000rpm、負荷20%の条件で運転した。次に、燃料のポスト噴射量を増やし、排ガスの温度が650℃になる条件で10分間、排ガス浄化フィルタにおけるススの再生を行った。そして、その間のテールパイプでの累積NO排出量を計測した。その後、以下の基準で評価を行った。結果を表3に示す。
【0097】
テールパイプNOの濃度が350ppm未満であった場合を「OK」とし、テールパイプNOの濃度が350ppm以上であった場合を「NG」とした。
【0098】
[圧力損失(kPa)]
圧力損失の測定に際しては、まず、作製した排ガス浄化フィルタを缶体内に収納して試験装置を得た。次に、この試験装置に、25℃のススを含まないガス(空気)を流量10Nm/分で供給した。この場合における圧力損失を測定した。
【0099】
測定した圧力損失について、以下の基準で評価を行った。圧力損失が20kPa未満であった場合を「OK」とし、圧力損失が20kPa以上であった場合を「NG」とした。
【0100】
[表面捕集層の耐久性]
表面捕集層の耐久性の評価は、以下のように行った。具体的には、まず、排ガス浄化フィルタをガスバーナに接続した。そして、このフィルタに流す排ガスの温度を800℃とする状態を10分間続け、その後、排ガスの温度を200℃とする状態を10分間続けることを1サイクルとした。そして、排ガス浄化フィルタに、100Hz、30Gの加振力を加えながら、200サイクル行う試験(耐久試験)を行った。次に、試験後の乾燥重量を測定した。その後、以下の基準で評価を行った。結果を表3に示す。
【0101】
試験前後の乾燥重量の変化が2g未満であった場合を「OK」とし、乾燥重量の変化が2g以上であった場合を「NG」とした。
【0102】
[総合評価]
全ての評価項目がOKであった場合を「OK」とし、各評価項目において一つでもNGがあった場合を「NG」とした。
【0103】
(実施例2〜22、比較例1〜9)
表1、表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化フィルタを作製した。そして、作製した排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様にして「再生時テールパイプNO」、「圧力損失」、「表面捕集層の耐久性」、及び「総合評価」の評価を行った。結果を表3に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
実施例1〜22の排ガス浄化フィルタは、総合評価が「OK」であった。そして、表3から、実施例1〜22の排ガス浄化フィルタは、比較例1〜9の排ガス浄化フィルタに比べて、フィルタの再生時においても排ガス中のNOを良好に浄化でき、圧力損失の増大が抑制されており、表面捕集層の耐久性が良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の排ガス浄化フィルタは、自動車等から排出される排ガスを浄化するフィルタとして採用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1:隔壁、2:セル、2a:流入セル、3:流入表面、5:中央領域、6:入口領域、7:出口領域、8a:流入側目封止部、8b:流出側目封止部、10:ハニカム構造部、11:流入端面、12:流出端面、15a:内表面、20:外周壁、30:空隙、50:SCR触媒コンバータ、60:上流側酸化触媒、70:尿素噴射器、80:下流側酸化触媒、100:排ガス浄化フィルタ、200:排ガス浄化装置、300:エンジン。
図1
図2
図3
図4
図5