特許第6562717号(P6562717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562717
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】電動補助自転車
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/45 20100101AFI20190808BHJP
【FI】
   B62M6/45
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-109563(P2015-109563)
(22)【出願日】2015年5月29日
(65)【公開番号】特開2016-222083(P2016-222083A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金原 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 雅之
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 岳
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恒
【審査官】 杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−263290(JP,A)
【文献】 特開2006−87598(JP,A)
【文献】 特開平11−59557(JP,A)
【文献】 特開平4−358988(JP,A)
【文献】 特開2000−95180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押し歩きの際に車輪に押し歩き補助トルクを付与可能な電動モータを有する電動補助自転車であって、
ハンドルバーの右部に設けられ、ON/OFF操作される右スイッチと、
前記ハンドルバーの左部に設けられ、ON/OFF操作される左スイッチと、
前記電動モータに押し歩き補助トルクを出力させる押し歩き指令値を出力するモータ制御部と、
前記モータ制御部から前記し歩き指令値を出力させる押し歩き制御部と、を有し、
前記押し歩き制御部は、
前記右スイッチがON状態とされることで前記モータ制御部を前記押し歩き指令値を出力可能な押し歩き可能状態にし、該押し歩き可能状態で前記左スイッチがON状態とされることで前記モータ制御部から前記押し歩き指令値を出力させ、かつ、
前記左スイッチがON状態とされることで前記モータ制御部を前記押し歩き指令値を出力可能な押し歩き可能状態にし、該押し歩き可能状態で前記右スイッチがON状態とされることで前記モータ制御部から前記押し歩き指令値を出力させる、電動補助自転車。
【請求項2】
前記右スイッチおよび前記左スイッチは、押下される間だけON状態となり、押下されないとOFF状態となるモーメンタリスイッチである、請求項1に記載の電動補助自転車。
【請求項3】
前記右スイッチおよび前記左スイッチは、該スイッチに伸びる運転者の手指を検知している間ON状態を出力するセンサである、請求項1に記載の電動補助自転車。
【請求項4】
前記右スイッチおよび前記左スイッチの一方が、押下される間だけON状態となり、押下されないとOFF状態となるモーメンタリスイッチであり、
前記右スイッチおよび前記左スイッチの他方が、該スイッチに伸びる運転者の手指を検知している間ON状態を出力するセンサである、請求項1に記載の電動補助自転車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動補助自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1などにより、押し歩き機能が搭載された電動補助自転車が知られている。急な上り坂などで自転車を降りて押し歩く際に電動モータに補助トルクを出力させることにより、車両の押し歩き労力が軽減される。
【0003】
この電動補助自転車では、左手側のハンドルバーのグリップ付近に設けられた押しボタン式の押し歩きスイッチと、右手側のハンドルバーに設けられたアクセルグリップとを操作することで、補助トルクが出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−168672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の電動補助自転車では、押し歩き補助の補助トルクを生じさせる際に、左手で押し歩きスイッチをONにし、右手でアクセルグリップの開度を調整する。この電動補助自転車において、押し歩きスイッチとアクセルグリップの操作手順はどちらを先に操作してもよい。このため運転者が、押し歩きスイッチを先に操作した場合と、アクセルグリップを先に操作した場合とで出力される補助トルクに差が生じてしまい違和感を覚えやすかった。
より詳しく説明すれば、押し歩きスイッチを先に操作する場合、押し歩きスイッチをONした状態でアクセル開度を次第に開いて行けば補助トルクも次第に増加していく。しかし、アクセルグリップを先に操作する場合、アクセル開度を次第に開いてある開度に設定した後に押し歩きスイッチをONすると、設定開度に相当する補助トルクが一気に出力される。このように、押し歩きスイッチとアクセルグリップを操作する順番によって補助トルクの出力のされ方に差が生じてしまうのである。
【0006】
そこで本発明は、容易な操作で安定した押し歩き補助トルクが得られる電動補助自転車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる電動補助自転車は、
押し歩きの際に車輪に押し歩き補助トルクを付与可能な電動モータを有する電動補助自転車であって、
ハンドルバーの右部に設けられ、ON/OFF操作される右スイッチと、
前記ハンドルバーの左部に設けられ、ON/OFF操作される左スイッチと、
前記電動モータに押し歩き補助トルクを出力させる押し歩き指令値を出力するモータ制御部と、
前記モータ制御部から前記前記押し歩き指令値を出力させる押し歩き制御部と、を有し、
前記押し歩き制御部は、
前記右スイッチがON状態とされることで前記モータ制御部を前記押し歩き指令値を出力可能な押し歩き可能状態にし、該押し歩き可能状態で前記左スイッチがON状態とされることで前記モータ制御部から前記押し歩き指令値を出力させ、かつ、
前記左スイッチがON状態とされることで前記モータ制御部を前記押し歩き指令値を出力可能な押し歩き可能状態にし、該押し歩き可能状態で前記右スイッチがON状態とされることで前記モータ制御部から前記押し歩き指令値を出力させる。
【0008】
上記構成の電動補助自転車によれば、ハンドルバーの右部および左部にそれぞれ設けられた右スイッチおよび左スイッチのいずれか一方がON状態とされて押し歩き可能状態とされた後に、右スイッチおよび左スイッチのいずれか他方がON状態とされることで押し歩き補助が行われる。したがって、右スイッチおよび左スイッチの操作の順番にかかわらず、容易な操作で常に安定した押し歩き補助トルクを出力させることができる。また両手でハンドルの左右を把持した状態で押し歩きするので車両の取り回しも安定する。
【0009】
本発明の電動補助自転車において、
前記右スイッチおよび前記左スイッチは、押下される間だけON状態となり、押下されないとOFF状態となるモーメンタリスイッチであってもよい。
【0010】
上記構成の電動補助自転車によれば、右スイッチおよび左スイッチはモーメンタリスイッチなので、右スイッチおよび左スイッチを手で押下している運転者が少なくとも一方のスイッチから手を外すことにより、直ちに該スイッチはOFF状態になる。よって直ちに押し歩き補助トルクの出力を停止することができる。運転者の意図通りに押し歩き補助トルクの出力を停止することができる。
【0011】
本発明の電動補助自転車において、
前記右スイッチおよび前記左スイッチは、該スイッチに伸びる運転者の手指を検知している間ON状態を出力するセンサであってもよい。
【0012】
上記構成の電動補助自転車によれば、運転者の手指がスイッチから離れることで押し歩き補助トルクの出力が停止される。簡単な動作で、運転者が押し歩き補助トルクの出力を停止することができる。
【0013】
本発明の電動補助自転車において、
前記右スイッチおよび前記左スイッチの一方が、押下される間だけON状態となり、押下されないとOFF状態となるモーメンタリスイッチであり、
前記右スイッチおよび前記左スイッチの他方が、該スイッチに伸びる運転者の手指を検知している間ON状態を出力するセンサであってもよい。
【0014】
上記構成の電動補助自転車によれば、右スイッチおよび左スイッチの一方はモーメンタリスイッチなので、該モーメンタリスイッチから手を外すことにより、直ちに該スイッチはOFF状態になる。よって直ちに押し歩き補助トルクの出力を停止することができる。
また、右スイッチおよび左スイッチの他方も、運転者の手指が該スイッチであるセンサから離れることで押し歩き補助トルクの出力が停止される。簡単な動作で、運転者が押し歩き補助トルクの出力を停止することができる。
したがって、左右のスイッチのいずれも簡単な動作でOFF状態にできるので、直ちに押し歩き補助トルクの出力を停止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、容易な操作で安定した押し歩き補助トルクが得られる電動補助自転車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る電動補助自転車の側面図である。
図2図1に示した電動補助自転車の前部の上面図である。
図3】本発明の実施形態に係る電動補助自転車の機能を説明するブロック図である。
図4】押し歩きアシストを実現する際のフローチャートである。
図5】変形例を説明する図1に示した電動補助自転車の前部の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図1から図3を参照しながら説明する。なお、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものとは限らない。
【0018】
以下の説明において、前方、後方、左方及び右方は、ハンドル23を握りつつ電動補助自転車のシート24に着座した運転者から見た前方、後方、左方及び右方を意味する。
【0019】
<電動補助自転車の全体構成>
図1に示すように、電動補助自転車1は、ペダル33,34と電動モータ60とを有している。この電動補助自転車1は、運転者がペダル33,34を踏み込むことにより生じるペダルトルクと、電動モータ60から出力されるモータトルクとを合計した駆動トルクによって駆動される。電動モータ60のモータトルクが、運転者のペダル33,34の踏み込み動作をアシストする補助トルクとなる。また、この電動補助自転車1は、運転者がハンドル23を把持して押し歩きする際に、後輪22に電動モータ60が押し歩き補助トルクを付与可能である。
【0020】
電動補助自転車1は、前後方向に延びる車体フレーム11を有する。また、電動補助自転車1は、前輪21、後輪22、ハンドル23、シート24及びパワーユニット40を有する。
【0021】
車体フレーム11は、ヘッドパイプ12、ダウンフレーム13、シートフレーム14、一対のチェーンステイ16及び一対のシートステイ17を有する。ヘッドパイプ12は、電動補助自転車1の前部に配置される。ヘッドパイプ12には、後方に延びるダウンフレーム13の前部が接続されている。シートフレーム14は、ダウンフレーム13の後部に接続されている。シートフレーム14は、ダウンフレーム13の後端部から上方且つ斜め後方に向かって延びている。
【0022】
ヘッドパイプ12には、ハンドルステム25が回転自在に挿入されている。ハンドルステム25の上端部には、ハンドル23が固定されている。ハンドルステム25の下端部には、フロントフォーク26が固定されている。フロントフォーク26の下端部には、前輪21が車軸27によって回転可能に支持されている。フロントフォーク26の下端部には、前輪21の回転から車速を検出する前輪車速センサ37が設けられている。
【0023】
円筒状のシートフレーム14の内方には、シートパイプ28が挿入されている。シートパイプ28の上端部には、シート24が設けられている。
【0024】
一対のチェーンステイ16は、後輪22を左右から挟むように設けられている。一対のチェーンステイ16は、ダウンフレーム13の後部から後輪22の回転中心に向かって延びている。一対のシートステイ17は、シートフレーム14の上部から後輪22の回転中心に向かって延びている。チェーンステイ16およびシートステイ17の後端部には、後輪22が回転可能に支持されている。シートステイ17には、荷台となるリヤキャリア38が支持されている。リヤキャリア38は、後輪22の上方に配置されている。
【0025】
シートフレーム14の後方には、パワーユニット40の電動モータ60に電力を供給するバッテリ35が配置されている。バッテリ35は、図示しない充放電可能な充電池及び電池制御部を有する。電池制御部は、充電池の充放電を制御するとともに、その出力電流及び残容量等を監視する。
【0026】
パワーユニット40は、ユニットケース50に、クランク軸41、クランク出力軸(不図示)、駆動スプロケット42、ペダルトルク検出部57、クランク回転検出部58、電動モータ60および補助スプロケット44などを組み込み、ユニット化したものである。パワーユニット40は、車体フレーム11にボルトで結合されている。
【0027】
クランク軸41は、シートフレーム14の下方に回転可能に設けられている。クランク軸41はユニットケース50に左右方向に貫通して支持されている。クランク軸41の両端部にはクランクアーム31,32が取り付けられている。クランクアーム31,32の先端には、ペダル33,34が回転可能に取り付けられている。ペダルトルク検出部57は、運転者がペダル33,34を介してクランク軸41に入力したペダルトルクを検出する。クランク回転検出部58は、運転者がペダル33,34を回転させたときのクランク軸41の回転を検出する。
【0028】
駆動スプロケット42は、クランク軸41と同軸円筒状のクランク出力軸(不図示)の右端に図示せぬ一方向クラッチを介して取り付けられている。この駆動スプロケット42はクランク軸41とともに回転する。従動スプロケット45は、後輪22の駆動軸29と同軸に設けられている。従動スプロケット45は、図示せぬ一方向クラッチを介して後輪22に連結される。
【0029】
無端状のチェーン46は、駆動スプロケット42と従動スプロケット45とに掛け渡されている。これにより、運転者がペダル33,34を踏み込むと、駆動スプロケット42が回転する。さらに駆動スプロケット42の回転はチェーン46を介して従動スプロケット45に伝達され、後輪22が駆動される。
【0030】
電動モータ60は、ユニットケース50内であって、クランク軸41の後方に配置されている。電動モータ60の出力軸には補助スプロケット44が設けられている。電動モータ60にはバッテリ35から電力が供給される。電動モータ60に電力を供給すると電動モータ60が回転する。電動モータ60の回転は、補助スプロケット44を介してチェーン46に伝達される。このように、電動モータ60に電力を供給すると、電動モータ60にモータトルクが生じる。このモータトルクはチェーン46を介して後輪22に伝達される。
【0031】
図2に示すように、ハンドル23の右部に右ハンドルバー61が設けられ、ハンドル23の左部に左ハンドルバー62が設けられている。右ハンドルバー61および左ハンドルバー62は略前後方向に延びている。右ハンドルバー61の後端部には、右グリップ部63が設けられている。左ハンドルバー62の後端部には、左グリップ部64が設けられている。運転者は、これらの右グリップ部63および左グリップ部64を把持可能である。
【0032】
右グリップ部63の近傍に、前輪ブレーキレバー65が設けられている。左グリップ部64の近傍に後輪ブレーキレバー66が設けられている。右手によって右グリップ部63とともに前輪ブレーキレバー65が握られると、前輪21に制動力が付与される。左手によって左グリップ部64とともに後輪ブレーキレバー66が握られると、後輪22に制動力が付与される。
【0033】
電動補助自転車1には、子供が着座可能なチャイルドシート71が装着されている。このチャイルドシート71は、ハンドル23に支持されている。チャイルドシート71は、右ハンドルバー61および左ハンドルバー62の間に配置されている。
【0034】
チャイルドシート71は、例えば、合成樹脂から成形することができる。チャイルドシート71は、上方が開放された凹状に形成されている。チャイルドシート71は、その底面に子供が着座可能な着座部72を有しており、その前部に子供の脚を通す挿通孔73が形成されている。挿通孔73の下方には、挿通孔73から離れた位置に足載せ75が設けられている。また、このチャイルドシート71には、着座した子供を保持するシートベルト74が設けられている。シートベルト74は、バックル74aを備えている。さらに、着座部72の前方かつ上方には、子供が把持可能なバー76が設けられている。
【0035】
ハンドル23には、ON/OFF操作される右スイッチ67と、ON/OFF操作される左スイッチ68とが設けられている。右スイッチ67は、右ハンドルバー61に設けられた右グリップ部63の根元部分に配置されている。左スイッチ68は、左ハンドルバー62に設けられた左グリップ部64の根元部分に配置されている。
【0036】
右スイッチ67及び左スイッチ68は、押下される間だけON状態となり、押下されないとOFF状態となるモーメンタリスイッチである。右スイッチ67は、運転者が右グリップ部63を握った状態で、右手の親指が届く位置に設けられている。左スイッチ68は、運転者が左グリップ部64を握った状態で、左手の親指が届く位置に設けられている。右スイッチ67及び左スイッチ68はそれぞれ、図示せぬ信号線を介して後述する押し歩き制御部96に接続されている。
【0037】
このような電動補助自転車1は、制御装置100によって電動モータ60を制御し、後輪22にモータトルクを作用させる。
【0038】
図3に示すように、制御装置100は、ペダルトルク算出部101、モータ制御部95、押し歩き制御部96、モータ駆動部105、変速段推定部97及びメモリ98を備えている。
【0039】
<動力の伝達経路>
次に、動力の伝達経路について説明する。
運転者がペダル33,34を踏み込んでクランク軸41を回転させると、そのクランク軸41の回転が一方向クラッチ55を介してチェーン46に伝達される。一方向クラッチ55は、クランク軸41の順回転のみをチェーン46に伝達し、クランク軸41の逆回転はチェーン46に伝達させない。
【0040】
チェーン46の回転は後輪22側の駆動軸29に伝達される。駆動軸29の回転は、変速機構91および一方向クラッチ92を介して後輪22に伝達される。
【0041】
変速機構91は運転者によって操作される変速操作器93に応じて変速段を変更できる機構である。一方向クラッチ92は、駆動軸29の回転速度が後輪22の回転速度よりも速い場合にのみ、駆動軸29の回転を後輪22に伝える。駆動軸29の回転速度が後輪22の回転速度よりも遅い場合には、一方向クラッチ92は駆動軸29の回転を後輪22に伝えない。
【0042】
電動モータ60の回転は、減速機82を介して一方向クラッチ85に伝達される。一方向クラッチ85は、減速機82がチェーン46を順回転させる方向の回転のみをチェーン46に伝達し、減速機82がチェーン46を逆回転させる方向の回転はチェーン46に伝達させない。
【0043】
このように本実施形態に係る電動補助自転車1においては、クランク軸41に入力されるペダルトルクと電動モータ60のモータトルクは、チェーン46で合成される。
【0044】
<信号の経路>
次に、信号の経路を説明する。
運転者がクランク軸41を回転させると、車両に設けられたペダルトルク検出部57が、クランク軸41に入力されたペダルトルクに応じた信号を発生させる。ペダルトルク検出部57は、その信号をペダルトルク算出部101に入力する。
【0045】
ペダルトルク算出部101は、ペダルトルク検出部57からの信号を運転者がペダル33,34に与えたペダルトルクに換算する。ペダルトルク算出部101は、そのペダルトルクの値をモータ制御部95に入力する。
【0046】
クランク回転検出部58は、クランク軸の位相を検出するセンサである。クランク回転検出部58は、クランク軸41の位相に応じた信号を発生させる。クランク回転検出部58は、その信号をモータ制御部95に入力する。
【0047】
前輪車速センサ37は、変速段推定部97に前輪21の回転速度の信号を送信する。変速段推定部97は、前輪21の回転速度から変速段を推定し、その情報をモータ制御部95へ送信する。
【0048】
電動モータ60には、エンコーダからなるモータ回転センサ99が設けられている。このモータ回転センサ99は、電動モータ60の回転数を検知し、変速段推定部97及びモータ駆動部105へ送信する。
【0049】
<走行アシスト>
モータ制御部95は、ペダルトルク算出部101、クランク回転検出部58及び変速段推定部97からの出力や、メモリ98に格納されている情報などから、適切なアシスト力を付与するための指令値を算出し、モータ駆動部105へ送信する。
モータ制御部95は指令値を、例えば、運転者がペダル33,34に与えたクランク回転速度やペダルトルクに基づいて算出したり、メモリ98に格納されたクランク回転速度とペダルトルクとモータトルクなどの関係に基づいて作成されたマップを参照することにより算出する。
【0050】
モータ駆動部105は、モータ制御部95からの指令値に基づいて、その指令値に応じた電力をバッテリ35から電動モータ60に供給する。これにより、電力が供給された電動モータ60が駆動し、所定のモータトルクを発生させる。
このように、モータ制御部95は、走行時の運転者のペダル33,34を漕ぐ動作をアシストするように、電動モータ60にモータトルクを発生させることができる。
【0051】
<押し歩きアシスト>
モータ制御部95は、上記のように走行時の運転者のペダルトルクをアシストするほかに、押し歩き時に運転者の押し歩き動作を補助する押し歩き補助トルクを電動モータ60に出力させることもできる。モータ制御部95は、押し歩き時に、押し歩き指令値をモータ駆動部105に出力し、電動モータ60にモータトルクを生じさせることができる。
【0052】
本実施形態に係る電動補助自転車1では、運転者が右スイッチ67及び左スイッチ68を操作することで、押し歩き補助トルクを得ることができる。
押し歩き制御部96は、
右スイッチ67がON状態とされることでモータ制御部95を押し歩き指令値を出力可能な押し歩き可能状態にし、該押し歩き可能状態で左スイッチ68がON状態とされることでモータ制御部95から押し歩き指令値を出力させ、かつ、
左スイッチ68がON状態とされることでモータ制御部95を押し歩き指令値を出力可能な押し歩き可能状態にし、該押し歩き可能状態で右スイッチ67がON状態とされることでモータ制御部95から押し歩き指令値を出力させる。
【0053】
押し歩きアシストを実現する際の一連の処理について、図4を用いて説明する。図4は、押し歩きアシストを実現する際の押し歩き制御部96が実行する処理のフローチャートである。
図4に示したように、押し歩き制御部96は、右スイッチ67および左スイッチ68のいずれか一方がON状態であるか否かを判定する(ステップS01)。運転者が右スイッチ67または左スイッチ68の一方を押下してON状態とすると、ON状態の信号が押し歩き制御部96へ送信される。すると、押し歩き制御部96はモータ制御部95を押し歩き指令値を出力可能な状態とする(ステップS02)。
押し歩き制御部96が右スイッチ67および左スイッチ68のいずれからもON状態の信号を受信していない場合には、押し歩き制御部96はモータ制御部95を押し歩き指令値を出力させない状態としている。この状態では、電動モータ60に電力が供給されず、押し歩きアシストがなされない。
【0054】
次に、押し歩き制御部96がモータ制御部95を押し歩き指令値を出力可能な状態としている場合において、押し歩き制御部96は、右スイッチ67または左スイッチ68の他方もON状態であるか否かを判定する(ステップS03)
運転者が右スイッチ67または左スイッチ68の他方も押下してON状態とすると、押し歩き制御部96はモータ制御部95からモータ駆動部105へ押し歩きトルクを発生させる押し歩き指令値を出力させる(ステップS04)。モータ制御部95は、例えば、そのときの車速や坂道の傾斜度合、車重、操舵トルク等のパラメータに応じて押し歩き指令値を算出することができる。
【0055】
モータ駆動部105は、モータ制御部95からの押し歩き指令値に基づいて、その押し歩き指令値に応じた電力をバッテリ35から電動モータ60に供給する。これにより、電動モータ60が駆動され、所定のモータトルクを発生させる。このようにして、運転者によって押し歩きされる電動補助自転車1の後輪22に押し歩き補助トルクが付与される。
【0056】
このように、上記実施形態に係る電動補助自転車1によれば、右ハンドルバー61および左ハンドルバー62にそれぞれ設けられた右スイッチ67および左スイッチ68のいずれか一方がON状態とされて押し歩き可能状態とされた後に、右スイッチ67および左スイッチ68のいずれか他方がON状態とされることで押し歩き補助が行われる。
【0057】
本実施形態の電動補助自転車においては、
右スイッチ67をON状態とした後、左スイッチ68をON状態とした場合に得られる押し歩きトルクと、
左スイッチ68をON状態とした後、右スイッチ67をON状態とした場合に得られる押し歩きトルクと、が同一となる。
本実施形態の電動補助自転車の押し歩き制御部96は、右スイッチ67および左スイッチ68のどちらが先に操作されても同じ押し歩き指令値を出力させる。
【0058】
上記実施形態ではモーメンタリスイッチが使われているので、右スイッチ67を押下した状態で左スイッチ68を押下し続ける間所定の押し歩き補助トルクが付与される。あるいは、左スイッチ68を押下した状態で右スイッチ67を押下し続ける間同じ押し歩き補助トルクが付与される。したがって、右スイッチ67および左スイッチ68の操作の順番にかかわらず、容易な操作で常に安定した押し歩き補助トルクを出力させることができる。また両手でハンドルの左右を把持した状態で押し歩きするので車両の取り回しも安定する。
これにより、運転者は、押し歩き補助トルクが付与された電動補助自転車1を容易に押し歩きさせることができる。
【0059】
本実施形態においては、右スイッチ67および左スイッチ68として、押下される間だけON状態となり、押下されないとOFF状態となるモーメンタリスイッチを用いているので、右スイッチ67および左スイッチ68を手で押下している運転者が少なくともいずれか一方のスイッチ67,68から手を外すことにより、直ちに該スイッチ67,68はOFF状態となる。よって直ちに押し歩き補助トルクの出力を停止することができる。これにより、運転者の意図通りに押し歩き補助トルクの出力を停止することができる。
【0060】
なお、上記実施形態では、チャイルドシート71が装着された電動補助自転車1を例示して説明したが、本発明はチャイルドシート71が装着されていない電動補助自転車1に適用してもよいことは言うまでもない。
【0061】
次に、本発明の変形例を図5を用いて説明する。
図5に示すように、この変形例では、右スイッチ67aおよび左スイッチ68aとして、センサが用いられている。右スイッチ67aは、右スイッチ67aに伸びる運転者の手指を検知している間ON状態を出力し、手指を検知しないときにOFF状態を出力する。同様に、左スイッチ68aは、左スイッチ68aに伸びる運転者の手指を検知している間ON状態を出力し、手指を検知しないときにOFF状態を出力する。
【0062】
本変形例において、これらの右スイッチ67aおよび左スイッチ68aは、運転者の親指を光学的に検出する光学センサである。右スイッチ67aは右グリップ部63の根元部分に埋め込まれている。左スイッチ68aは左グリップ部64の根元部分に埋め込まれている。
【0063】
右スイッチ67aは、運転者が右グリップ部63を把持した通常の状態では右手の親指がかからない位置でかつ、右グリップ部63を把持したまま親指を動かすと届く位置に、設けられている。左スイッチ68aは、運転者が左グリップ部64を把持した通常の状態では左手の親指がかからない位置でかつ、左グリップ部64を把持したまま親指を動かすと届く位置に、設けられている。
【0064】
右スイッチ67aが運転者の右手の親指で覆われる間右スイッチ67aはON状態の信号を出力し、右スイッチ67aが親指で覆われなくなると右スイッチ67aはOFF状態となる。左スイッチ68aが運転者の左手の親指で覆われる間左スイッチ68aはON状態の信号を出力し、左スイッチ68aが親指で覆われなくなると左スイッチ68aはOFF状態となる。
【0065】
この変形例では、運転者が右スイッチ67aおよび左スイッチ68aのいずれか一方をON状態とした後に、他方もON状態とすることで押し歩き補助トルクが出力される。また、運転者の親指が右スイッチ67aおよび左スイッチ68aのいずれか一方から離れることで押し歩き補助トルクの出力が停止される。これにより、簡単な動作で、運転者が押し歩き補助トルクの出力を停止することができる。なおセンサとしては光学センサに限られず、接触式センサでも非接触式センサでも構わない。
【0066】
また、右スイッチとして上述の実施形態で説明した押下される間だけON状態となり、押下されないとOFF状態となるモーメンタリスイッチを用いて、左スイッチとして、変形例で説明した該スイッチに伸びる運転者の手指を検知している間ON状態を出力するセンサを用いてもよい。これとは逆に、左スイッチとして上述の実施形態で説明した押下される間だけON状態となり押下されないとOFF状態となるモーメンタリスイッチを用いて、右スイッチとして変形例で説明した該スイッチに伸びる運転者の手指を検知している間ON状態を出力するセンサを用いてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1:電動補助自転車、22:後輪(車輪)、23:ハンドル、60:電動モータ、61:右ハンドルバー、62:左ハンドルバー、75,75a:右スイッチ68,76a:左スイッチ、95:モータ制御部、96:押し歩き制御部
図1
図2
図3
図4
図5