特許第6562724号(P6562724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562724
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】刃位置測定方法および刃位置測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20190808BHJP
   G06T 1/20 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   G01B11/00 H
   G06T1/20 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-116666(P2015-116666)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-3389(P2017-3389A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】東芝機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】室伏 勇
【審査官】 八木 智規
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−281055(JP,A)
【文献】 特開平9−229632(JP,A)
【文献】 特開平5−172524(JP,A)
【文献】 特開2010−256341(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/3063(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
G06T 1/00− 1/60
G06T 7/00− 7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃の辺縁の位置を測定する刃位置測定方法であって、
前記刃に沿って前記刃の撮影画像を順次撮影する撮影工程と、
前記撮影画像における前記辺縁の輪郭に対して近似を行って基準線を設定する基準線設定工程と、
前記辺縁の輪郭の前記基準線から最も離れた点を検出し、前記基準線を前記最も離れた点に向けて平行移動して調整済基準線を設定する基準線調整工程と、
前記調整済基準線の位置を測定する位置測定工程と、を有することを特徴とする刃位置測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載した刃位置測定方法において、
前記基準線設定工程では、前記撮影画像を、光学的特性の相違に基づいて、前記刃を示す領域と、前記刃を示す領域の外側の領域とに区分し、区分した各々の領域の境界線を前記辺縁の輪郭として検出し、検出した前記輪郭に対して近似を行って基準線を設定することを特徴とする刃位置測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した刃位置測定方法において、
前記撮影画像は、所定形状の撮影枠で指定され、前記撮影工程では、前記刃の任意の部位に最初の前記撮影枠を割り当てた後、前記刃の隣接する部位に次の前記撮影枠を順次割り当てることにより、前記刃に沿った複数の前記撮影画像を撮影する、ことを特徴とする刃位置測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載した刃位置測定方法において、
前記撮影枠は、前記刃の幅方向に延びる長方形状とされ、前記刃の先端面を中心に、両側が前記刃の側面を超えて前記刃の外側に達するように設定されている、ことを特徴とする刃位置測定方法。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載した刃位置測定方法において、
前記刃は、加工プログラムに従って動作する加工装置により形成されるものであり、
前記撮影工程では、前記加工プログラムに含まれる前記刃の形状データに基づいて、前記撮影画像を順次撮影する部位を移動させる、ことを特徴とする刃位置測定方法。
【請求項6】
請求項に記載した刃位置測定方法において、
前記刃を加工する前記加工装置にカメラを装着し、前記カメラにより前記撮影画像を撮影する、ことを特徴とする刃位置測定方法。
【請求項7】
刃の辺縁の位置を測定する刃位置測定装置であって、
前記刃に沿って前記刃の撮影画像を順次撮影する撮影部と、前記撮影画像を処理して刃の辺縁の位置を測定する測定部とを有し、
前記測定部は、前記撮影画像における前記辺縁の輪郭に対して近似を行って基準線を設定し、前記辺縁の輪郭の前記基準線から最も離れた点を検出し、前記基準線を前記最も離れた点に向けて平行移動して調整済基準線を設定し、設定された調整済基準線の位置を測定することを特徴とする刃位置測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃の位置を測定する刃位置測定方法および刃位置測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品の切断や打ち抜きには連続した刃が利用されている。
例えば、表示用のステッカーの打ち抜き型は、型本体の表面に、閉じた環状に連続した突条を形成し、この突条の先端を刃として用いている(特許文献1参照)。
【0003】
打ち抜き型を製造する際には、型本体の平坦な表面に切削加工あるいはエッチングを施し、ステッカー等の打ち抜き輪郭に対応した所定のパターンの突条を形成する。そして、形成された突条の先端に焼き入れ処理などを施して、打ち抜き刃としている。
打ち抜き刃においては、打ち抜き加工とくに切り込み深度の精度が要求されるハーフカットを正確に行うために、刃の高さや位置、刃の幅(両側縁の距離)、輪郭形状などが全体にわたって所定値であることが要求される。
【0004】
このような刃の検査を行うために、画像処理による検査装置、例えば欠け検査装置が利用されている。
欠け検査装置においては、撮影した刃の画像に対して、その刃の輪郭上の点をプロットし、得られたプロットに対して最小自乗法などによる一次直線近似を行う。そして、近似して得られた基準線に対して、大きく外れた部分があれば、これを欠陥と判定することが行われている(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−193966号公報
【特許文献2】特開平10−283473号公報
【特許文献3】特開平9−281055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような刃の欠け検査装置においては、一次直線近似で得られた基準線の位置を測定することで、刃の幅や形状を測定することができる。
例えば、刃の両側縁に対して近似により基準線を設定した場合、この基準線は、刃の各側辺縁の平均的な位置を示すことになる。
従って、刃の両側の辺縁についてそれぞれ基準線の位置を検出すれば、各辺縁の位置や形状が測定できるとともに、各々の差から刃の幅を測定することもできる。また、刃の両側の基準線の傾きを比較することで、刃の形状精度も検査することができる。
【0007】
ところで、刃は、とくに削り出しで形成された場合など、側面あるいは先端面に、切削跡の微小な縞状の凹凸が表面に残る。そして、刃の各側辺縁、つまり両側面と先端面とが交差する辺縁は、波状ないしランダムな折れ線状が表れる。このような刃の各側辺縁をプロットすると、所定の幅の範囲に分布することになる。
前述した基準線は、刃の各側辺縁の平均的な位置、つまり分布の中間的な位置を通ることになる。
用途によっては、このような近似による基準線を、刃の各側辺縁の位置として使用しても差し支えはない。
【0008】
しかし、他の用途では、このような分布の中間的な位置を通る基準線がそのまま用いられない場合がある。
例えば、前述したステッカーの打ち抜き刃の場合、打ち抜かれるステッカーの外周輪郭は、刃の両側辺縁のうち外側の辺縁によって規定され、とくに同辺縁の最外側の位置が重要である。
このような背景から、刃の辺縁の位置について、近似による平均的な位置ではなく、辺縁の最外側または最内側の位置を測定できるようにすることが望まれている。
【0009】
本発明の目的は、刃の辺縁の最外側または最内側の位置を測定できる刃位置測定方法および刃位置測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の刃位置測定方法は、刃の辺縁の位置を測定する刃位置測定方法であって、前記刃に沿って前記刃の撮影画像を順次撮影する撮影工程と、前記撮影画像における前記辺縁の輪郭に対して近似を行って基準線を設定する基準線設定工程と、前記辺縁の輪郭の前記基準線から最も離れた点を検出し、前記基準線を前記最も離れた点に向けて平行移動して調整済基準線を設定する基準線調整工程と、前記調整済基準線の位置を測定する位置測定工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
このような本発明では、撮影工程により刃の所定区間の撮影画像を取得し、基準線設定工程により、撮影画像中の刃の辺縁に基準線を設定する。
基準線設定工程では、撮影画像に含まれる刃の画像に対し、刃の両側の辺縁の輪郭形状に対して一次直線近似を行って基準線を設定する。近似を行う方法としては最小自乗法など既存の手法が利用できる。
【0012】
基準線設定工程で設定される基準線は、各辺縁の輪郭上の点の平均的な位置を示す。
各辺縁の輪郭上の点は、当該辺縁の最外側の点(当該撮影画像に含まれる刃の画像において並行する他の辺縁から最も離れた点)と、同辺縁の最内側の点(当該撮影画像に含まれる刃の画像において並行する他の辺縁に最も近い点)との間に分布し、基準線は、これらの点の分布の平均位置を通ることになる。
【0013】
このような基準線の設定に続いて、本発明では、基準線調整工程により調整済基準線を設定する。
基準線調整工程では、基準線設定工程で設定した基準線に対し、その最も離れた点を検出する。さらに、基準線を最も離れた点に向けて平行移動し、この移動先において位置を確定することで、調整済基準線を設定する。
【0014】
基準線に対して最も離れた点としては、前述した各辺縁の輪郭上の点の分布における最外側の点、または最内側の点のいずれかを用いることができる。
最外側の点を用い、この点を通るように調整済基準線を設定することにより、この調整済基準線は、刃の辺縁の最も外側を規定する線とすることができる。このような調整済基準線は、例えば刃がステッカーの打ち抜き刃である場合に、打ち抜かれるステッカーの外周輪郭に影響が大きな、辺縁の最外側の位置とすることができる。
【0015】
さらに、最内側の点を用い、この点を通るように調整済基準線を設定することにより、この調整済基準線は、刃の辺縁の最も内側を規定する線とすることができる。
あるいは、最外側の点または最内側の点を通る線とすることに限らず、調整前の基準線から最外側の点までの距離の80%など、中間的な位置を設定してもよい。
【0016】
このような調整済基準線の設定に続いて、本発明では、位置測定工程により調整済基準線の位置を測定する。
基準線調整工程において、調整済基準線を辺縁の最外側の点を通るように設定してあれば、位置測定工程により、刃の辺縁の最外側の位置が測定できる。
基準線調整工程において、調整済基準線を辺縁の最内側の点を通るように設定してあれば、位置測定工程により、刃の辺縁の最内側の位置が測定できる。
従って、本発明により、刃の辺縁の最外側または最内側の位置を測定できる。
【0017】
ここで、基準線調整工程において、調整済基準線を、調整前の基準線から最外側の点までの距離の80%など、中間的な位置に設定してあれば、辺縁に生じる凹凸などに起因する最外側の異常値を除外することができ、位置測定工程により、異常値を含まない刃の辺縁の最外側の位置が測定できる。
【0018】
本発明において、位置を測定される辺縁は、刃の片側だけであってもよく、両側の辺縁をともに測定してもよい。
両側の辺縁を測定する場合、各側の辺縁の位置の差から、刃の幅を計算することもできる。調整済基準線を最外側に設定した場合、刃の先端の最大幅を計算することができ、調整済基準線を最内側に設定した場合、刃の先端の最小幅を計算することができる。
【0019】
本発明において、近似により設定される基準線は、刃の連続方向あるいは刃の他の部位の基準線に対して傾斜していてもよい。このように基準線が傾斜している場合、その程度に応じて、刃としての精度不良として別途検出してもよい。
【0020】
本発明の刃位置測定方法において、前記基準線設定工程では、前記撮影画像を、光学的特性の相違に基づいて、前記刃を示す領域と、前記刃を示す領域の外側の領域とに区分し、区分した各々の領域の境界線を前記辺縁の輪郭として検出し、検出した前記輪郭に対して近似を行って基準線を設定することが好ましい。
【0021】
このような本発明によれば、撮影画像における光学的な領域判定により、刃の辺縁の輪郭を検出することができ、この輪郭に対して近似を行うことで基準線を設定することができる。
【0022】
本発明の刃位置測定方法において、前記撮影画像は、所定形状の撮影枠で指定され、前記撮影工程では、前記刃の任意の部位に最初の前記撮影枠を割り当てた後、前記刃の隣接する部位に次の前記撮影枠を順次割り当てることにより、前記刃に沿った複数の前記撮影画像を撮影する、ことが好ましい。
【0023】
このような本発明では、刃の全体または任意の区間について、刃に沿った複数の撮影画像を撮影することができる。
本発明の刃位置測定方法において、前記撮影枠は、前記刃の幅方向に延びる長方形状とされ、前記刃の先端面を中心に、両側が前記刃の側面を超えて前記刃の外側に達するように設定されている、ことが好ましい。
【0024】
本発明の刃位置測定方法において、前記刃は、加工プログラムに従って動作する加工装置により形成されるものであり、前記撮影工程では、前記加工プログラムに含まれる前記刃の形状データに基づいて、前記撮影画像を順次撮影する部位を移動させる、ことが好ましい。
【0025】
このような本発明によれば、撮影画像を順次撮影する動作の際の移動経路を、刃を加工するための加工プログラムを参照して設定することができる。従って、移動経路を設定するために、別途刃を撮影したり、マニュアル操作で指示したりする必要をなくすことができる。
【0026】
本発明の刃位置測定方法において、前記刃を加工する前記加工装置にカメラを装着し、前記カメラにより前記撮影画像を撮影する、ことが好ましい。
【0027】
このような本発明によれば、刃を加工したのち、直ちに刃の位置測定を実行することができる。このため、加工の後位置測定のために刃が加工されたワークを移載する等の操作をなくすことができる。そして、加工装置を欠陥検査にも兼用することができ、設備コストおよび設備スペースを削減することができる。
【0028】
本発明の刃位置測定装置は、刃の辺縁の位置を測定する刃位置測定装置であって、前記刃に沿って前記刃の撮影画像を順次撮影する撮影部と、前記撮影画像を処理して刃の辺縁の位置を測定する測定部とを有し、前記測定部は、前記撮影画像における前記辺縁の輪郭に対して近似を行って基準線を設定し、前記辺縁の輪郭の前記基準線から最も離れた点を検出し、前記基準線を前記最も離れた点に向けて平行移動して調整済基準線を設定し、設定された調整済基準線の位置を測定することを特徴とする。
【0029】
このような本発明の刃位置測定装置によれば、前述した本発明の刃位置測定方法で説明したものと同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の刃位置測定方法および刃位置測定装置によれば、刃の辺縁の平均的な位置だけでなく、最外側または最内側の位置を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態の装置構成を示す模式図。
図2】前記実施形態のワークを示す斜視図。
図3】前記実施形態のワークを示す部分破断拡大斜視図。
図4】前記実施形態の撮影工程を示す斜視図。
図5】前記実施形態の撮影工程を示す(A)平面図および(B)断面図。
図6】前記実施形態の基準線設定工程、基準線調整工程および位置測定工程を示す拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
〔刃位置測定装置1〕
図1において、刃位置測定装置1は、工作機械2の主軸ヘッド26にカメラ3を装着して構成されている。
工作機械2は、主軸27に装着された工具4により、ワーク9に対する三次元加工を行うものである。
【0033】
工作機械2は、ベッド21の上面にテーブル22および門型のコラム23を有し、コラム23のクロスレール24にはサドル25を介して主軸ヘッド26が支持され、主軸ヘッド26には主軸27が支持されている。
テーブル22はベッド21に対してX軸方向へ移動可能とされ、サドル25はクロスレール24に沿ってY軸方向へ移動可能とされ、主軸ヘッド26はサドル25に対してZ軸方向へ移動可能である。
これらの3軸移動により、テーブル22に載置されたワーク9に対して、カメラ3および工具4を三次元移動させることが可能である。
【0034】
工作機械2における三次元動作を制御するために、工作機械2には制御装置5が接続され、制御装置5には制御用のコンピュータシステム6が接続されている。
制御装置5は、既存の数値制御装置であり、コンピュータシステム6からの制御指令に基づいて、工作機械2の動作を制御する。制御装置5には、ワーク9を加工するための工作機械2の動作を記述した加工プログラム51が記録されている。
【0035】
加工プログラム51は、制御装置5への操作により実行され、または、コンピュータシステム6を介して制御装置5に指示することで実行され、工作機械2の動作を制御する。これにより、工作機械2においては、工具4によるワーク9の加工が行われ、ワーク9に所定形状を形成することができる。
【0036】
コンピュータシステム6には、本発明の刃位置測定方法に基づく動作を工作機械2に実行させるための測定プログラム62が記録されている。
さらに、コンピュータシステム6には、測定プログラム62で参照するために、制御装置5に記録された加工プログラム51と同じ加工プログラム61が記録されている。
本実施形態の刃位置測定装置1においては、工作機械2に装着されたカメラ3が撮影部であり、測定プログラム62に従って動作するコンピュータシステム6が測定部である。
【0037】
〔ワーク9〕
図2において、本実施形態のワーク9は、ステッカーの打ち抜き型として用いられるものであり、平坦な上面91に打ち抜き刃となる突条92が形成されている。
突条92は、環状に連続した凸形状の線状パターンであり、ワーク9の基材90の表面を、エンドミルなどの工具4で切削することにより削り出されたものである。
【0038】
図3に示すように、突条92は、先端面93が平坦とされ、この先端面93は突条92の全長にわたって同じ高さに加工されている。
突条92は、打ち抜き刃として用いるために、先端面93の幅が小さく、根元つまり基材90の側の幅が大きくなるように、断面三角形状の山形に形成されており、突条92の両側の側面94,95は、それぞれ傾斜面とされている。
【0039】
〔刃位置測定手順〕
本実施形態では、前述した工作機械2に工具4を装着した状態で、制御装置5で加工プログラム51を実行することにより、打ち抜き用の刃である突条92を有するワーク9を形成する。
そして、加工の後、工作機械2に装着されたカメラ3を用い、コンピュータシステム6で測定プログラム62を実行することにより、突条92の、なかでも打ち抜き刃として機能する先端面93の両側辺縁の位置測定を行う。
測定プログラム62に基づく位置測定は、以下に述べる撮影工程、基準線設定工程、基準線調整工程および位置測定工程により行われる。
【0040】
〔撮影工程〕
撮影工程では、工作機械2に装着されたカメラ3により、ワーク9の突条92を撮影する。
図4において、カメラ3による撮影は、ワーク9の表面において撮影枠Pfで囲われた領域に対して行われる。そして、カメラ3で撮影された画像は、制御装置5からコンピュータシステム6に転送され、撮影画像Pとして順次記録される。
【0041】
撮影画像Pにおける解像度は、ワーク9の全体に対して微細な突条92の先端面93を検査するのに十分な高い解像度とされる。従って、撮影画像Pの広さは、突条92の全体を一度に撮影できるほど広くできない。
そこで、測定プログラム62を実行するコンピュータシステム6は、工作機械2を動作させ、カメラ3を突条92に沿って移動させ、カメラ3の撮影枠Pfを順次移動させて撮影を繰り返し行う。
このように、突条92に沿って撮影された複数の撮影画像Pを順次連続させることで、突条92の全体を撮影することができる。
【0042】
撮影工程において、突条92に沿ってカメラ3を移動させるために、測定プログラム62を実行するコンピュータシステム6は、コンピュータシステム6に保持されている加工プログラム61を参照し、その加工指令の内容から突条92の位置および形状のデータを取得する。そして、取得された突条92の形状データに基づいて、突条92を追跡するようにカメラ3の移動経路を設定する。
【0043】
具体的には、突条92の任意の部位に最初の撮影枠Pfを割り当て、この撮影枠Pfで撮影を行って撮影画像Pを取得した後、突条92に沿って撮影枠Pfの一つ分だけ移動し、先に撮影を終えた撮影枠Pfと隣接する部位に、次の撮影枠Pfを割り当て、撮影画像Pの撮影を行う。以下、突条92を追跡しつつ順次移動と撮影を繰り返すことで、突条92の全体をカバーする複数の撮影画像Pを取得することができる。
【0044】
図5に示すように、撮影枠Pfおよび順次撮影された撮影画像Pは、その領域が、突条92の幅方向に延びる長方形状とされる。
撮影枠Pfは、図5の(A)部および(B)部に示すように、突条92の先端面93を中心に、両側が傾斜した側面94,95を超えてワーク9の上面91に達するように設定されている。
【0045】
そして、複数の撮影画像Pは、各々の長辺が順次隣接した状態で、突条92に沿って配置される。前述した撮影枠Pfの移動は、複数の撮影画像Pがこのような配列となるように行われる。
【0046】
このような撮影工程に続いて、基準線設定工程、基準線調整工程および位置測定工程が実行される。
これらの各工程は、前述した撮影工程が突条92の全体に対して完了する前に開始される。つまり、他の部位で撮影工程を実行しつつ、既に撮影済の撮影画像Pに対して、基準線設定工程、基準線調整工程および位置測定工程が実行される。
【0047】
〔基準線設定工程〕
図6に示すように、基準線設定工程では、撮影画像Pに含まれる突条92の画像に対し、先端面93の両側の辺縁EL,ERの輪郭形状を取得し、得られた辺縁EL,ERの輪郭形状に対して一次直線近似を行うことにより、基準線CLm,CRmを設定する。
基準線設定工程において、辺縁EL,ERの輪郭形状は、撮影画像Pにおける先端面93と両側の側面94,95とを、各々の光学的特性の相違に基づいて各々の領域を判別することにより行う。
【0048】
先端面93は、平坦とされかつカメラ3に正対されるため、照明光の大半を反射してカメラ3に入射させることから、撮影画像Pにおいては明るい領域となる。
側面94,95は、カメラ3に対して傾斜した面であり、カメラ3に入射される照明光の反射光が少なく、撮影画像Pにおいては暗い領域となる。
【0049】
その結果、撮影画像Pには、その幅方向の中央に縦に延びる先端面93が明領域として表れ、その両側には側面94,95が暗領域として表れる。
このため、突条92に沿って、各位置における辺縁EL,ERとなる点をプロットすることで、突条92に沿った辺縁EL,ERを示す点の集合を得ることができる。
【0050】
例えば、図6において、撮影画像Pの縦方向(突条92の長手方向)の所定位置で、撮影画像Pを横方向(突条92の幅方向)にスキャンし、明暗明と変化する点を記録することで、現在の縦方向位置における辺縁EL,ERをプロットすることができる。
そして、撮影画像Pにおける縦方向位置を移動させ、同様にスキャンすることで、その位置での辺縁EL,ERをプロットすることができ、これらを順次繰り返すことで、突条92に沿った辺縁EL,ERを示す点の集合を得ることができる。
【0051】
このような突条92に沿った辺縁EL,ERを示す点の集合を得ることができたら、辺縁EL,ERの各々について、点の集合の最小自乗法などにより近似を行うことで、基準線CLm,CRmが得られる。
【0052】
基準線設定工程で設定される基準線CLm,CRmは、各辺縁EL,ERの輪郭上の点つまり前述したスキャン等でプロットされた点の集合の平均的な位置を示す。
各辺縁EL,ERの輪郭上の点は、当該辺縁EL,ERの最外側の点ELx,ERxと、同辺縁EL,ERの最内側の点ELi,ERiとの間に分布し、基準線CLm,CRmは、これらの点の分布の平均位置を通ることになる。
【0053】
ここで、辺縁ELの最外側の点ELxは、撮影画像Pに含まれる先端面93の画像において並行する他の辺縁ERから最も離れた点であり、辺縁ERの最外側の点ERxは、撮影画像Pに含まれる先端面93の画像において並行する他の辺縁ELから最も離れた点である。
また、辺縁ELの最内側の点ELiは、撮影画像Pに含まれる先端面93の画像において並行する他の辺縁ERに最も近い点であり、辺縁ERの最内側の点ERiは、撮影画像Pに含まれる先端面93の画像において並行する他の辺縁ELに最も近い点である。
【0054】
〔基準線調整工程〕
このような基準線CLm,CRmの設定に続いて、基準線調整工程により外側の調整済基準線CLx,CRxおよび内側の調整済基準線CLi,CRiを設定する。
基準線調整工程では、基準線設定工程で設定した基準線CLm,CRmに対し、その外側および内側に最も離れた点を検出する。
そして、検出した基準線CLm,CRmから最も離れた点に向けて基準線CLm,CRmを平行移動し、この移動先において位置を確定することで、外側の調整済基準線CLx,CRxおよび内側の調整済基準線CLi,CRiを設定する。
【0055】
基準線調整工程において、基準線CLm,CRmに対して最も離れた点としては、前述した撮影画像Pにおける辺縁EL,ERの最外側の点ELx,ERx、および最内側の点ELi,ERiを用いることができる。
【0056】
最外側の点ELx,ERxを用い、この点ELx,ERxを通るように基準線CLm,CRmを平行移動することで、外側の調整済基準線CLx,CRxが設定できる。
外側の調整済基準線CLx,CRxは、先端面93の辺縁EL,ERの最も外側を規定する線となる。このような外側の調整済基準線CLx,CRxは、ステッカーの打ち抜き刃である突条92において、打ち抜かれるステッカーの外周輪郭に影響が大きな、辺縁の最外側の位置とすることができる。
【0057】
さらに、最内側の点ELi,ERiを用い、この点ELi,ERiを通るように基準線CLm,CRmを平行移動することで、内側の調整済基準線CLi,CRiが設定できる。この内側の調整済基準線CLi,CRiは、先端面93の辺縁EL,ERの最も内側を規定する線となる。
なお、最外側の点ELx,ERxまたは最内側の点ELi,ERiを通る線とすることに限らず、調整前の基準線CLm,CRmから最外側の点ELx,ERxまでの距離の80%など、中間的な位置を設定してもよい。
【0058】
〔位置測定工程〕
このような外側の調整済基準線CLx,CRxおよび内側の調整済基準線CLi,CRiが設定できたら、位置測定工程により各々の位置を測定する。
外側の調整済基準線CLx,CRxの位置を測定することで、先端面93の辺縁EL,ERの最外側の位置が測定できる。
内側の調整済基準線CLi,CRiの位置を測定することで、先端面93の辺縁EL,ERの最内側の位置が測定できる。
【0059】
さらに、外側の調整済基準線CLx,CRxの位置の差から、先端面93の最大幅を計算することができる。
あるいは、内側の調整済基準線CLi,CRiの位置の差から、先端面93の最小幅を計算することができる。
【0060】
なお、刃である突条92が一様に連続している場合、先端面93の最大幅も最小幅も一定であり、突条92が延びる方向の各点における外側の調整済基準線CLx,CRxおよび内側の調整済基準線CLi,CRiは全て並行である。
ここで、外側の調整済基準線CLx,CRxおよび内側の調整済基準線CLi,CRiのいずれかの向きが他に対して傾斜している場合、その程度に応じて、刃としての精度不良として別途検出してもよい。
【0061】
〔測定の終了〕
前述のような撮影工程、基準線設定工程、基準線調整工程および位置測定工程を順次実行しつつ、突条92を一巡したら、刃位置測定手順を終了する。
これにより、突条92の全周にわたって、先端面93の外側の調整済基準線CLx,CRxおよび内側の調整済基準線CLi,CRiを得ることができる。
【0062】
〔実施形態の効果〕
本実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
すなわち、撮影工程により刃である突条92の部分の撮影画像Pを撮影し、この撮影画像Pに対して、基準線設定工程により、先端面93の両側の辺縁EL,ERの平均的な位置を示す基準線CLm,CRmを得ることができる。
【0063】
さらに、基準線調整工程により、最外側の点ELx,ERxを通る外側の調整済基準線CLx,CRx、および最内側の点ELi,ERiを通る内側の調整済基準線CLi,CRiを設定することができる。
そして、位置測定工程により、先端面93の辺縁EL,ERの最外側の位置および最内側の位置が測定できる。
さらに、先端面93の最大幅および最小幅を計算することができる。
【0064】
本実施形態では、撮影工程において、線状パターンである突条92に沿って撮影枠Pfを順次割り当て、複数の撮影画像Pを撮影するようにしたので、刃位置測定に好適な撮影画像を得ることができる。
【0065】
とくに、本実施形態では、撮影画像Pを順次撮影する動作の際の移動経路を、ワーク9を加工するための加工プログラム51と同じ加工プログラム61を参照して設定することができる。従って、移動経路を設定するために、別途ワーク9を撮影したり、マニュアル操作で指示したりする必要をなくすことができる。
【0066】
さらに、本実施形態では、ワーク9を加工した工作機械2にカメラ3を装着し、このカメラ3により撮影画像Pを順次撮影するようにしたので、ワーク9に線状パターンである突条92を加工したのち、直ちにその刃位置測定を実行することができる。
このため、加工の後、検査のためにワーク9を移載する等の操作をなくすことができる。そして、工作機械2を刃位置測定装置1として兼用することができ、設備コストおよび設備スペースを削減することができる。
【0067】
〔変形例〕
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲内の変形などは、本発明に含まれる。
前記実施形態では、基準線設定工程、基準線調整工程および位置測定工程において、基準線CLm,CRmの外側の調整済基準線CLx,CRxおよび内側の調整済基準線CLi,CRiを設定し、先端面93の外側の輪郭および内側の輪郭の位置を測定したが、外側あるいは内側のいずれかを測定するものであってもよい。
【0068】
また、先端面93の両側の辺縁EL,ERについて輪郭の取得と位置の測定を行ったが、これらの辺縁EL,ERのうち一方だけの処理を行うものであってもよい。
例えば、先端面93の一方の辺縁ELについて、その基準線CLmを取得し、その外側の調整済基準線CLxを設定し、その位置を測定するものであってもよい。
【0069】
前記実施形態では、撮影工程において、所定形状の撮影枠Pfを用いて撮影を行い、一定のサイズの撮影画像Pを複数取得していた。
これに対し、撮影の際に撮影枠Pfを用いず、突条92などの刃に応じた形状および寸法の画像を取得し、これを検査工程で検査してもよい。
ただし、本実施形態のように、複数の撮影画像Pを一定の形状寸法とすることで、検査工程における検査を効率的に処理することができる。
【0070】
前記実施形態では、線状パターンである突条92の一部で撮影工程を実行しつつ、既に撮影画像Pが撮影済の部位について、検査工程を実行することで、これらの撮影工程および検査工程を並列的に行い、処理時間の効率化を図っていた。
ただし、刃である突条92に対して撮影工程を順次実行し、突条92の全体について撮影画像Pを取得したのち、まとめて検査工程を実行するようにしてもよい。
【0071】
前記実施形態では、ワーク9を加工する工作機械2において、主軸27に工具4を装着し、かつ主軸ヘッド26にカメラ3を装着することで、刃位置測定装置1として用いられるようにしていた。
しかし、工作機械2にカメラ3と工具4とを同時に設置するのではなく、交換式としてもよい。例えば、主軸27に工具4を装着してワーク9の加工を行ったのち、工具4を外し、代わりに主軸27にカメラ3を装着し、ワーク9の撮影を行うようにしてもよい。
【0072】
このようにカメラ3を主軸27に装着する場合、主軸ヘッド26にカメラ3を装着する必要がなく、自動工具交換装置を用いて簡単にカメラ3を装着することができる。
ただし、工具4とカメラ3とを頻繁に交換することは効率的でないので、工具4によるワーク9の加工が全て完了してから、カメラ3による突条92(刃)の撮影を順次行う、という手順に限定される。
【0073】
これに対し、前記実施形態のように、工作機械2にカメラ3および工具4を設置しておけば、ワーク9の一部を加工し、加工できた部分を撮影し、次の部分を加工し、さらに撮影する、といった手順も採用することができる。
【0074】
前記実施形態では、工作機械2にカメラ3を装着して刃位置測定装置1として兼用したが、ワーク9を加工する工作機械2とは別に、専用の刃位置測定装置1を用いてもよい。
この場合、工作機械2の制御装置5で実行される加工プログラム51あるいはそこに指定される突条92(刃)の形状を取り出し、専用の刃位置測定装置1に取り込んで撮影工程で利用できるようにすることが望ましい。
【0075】
前記実施形態では、ワーク9を加工するために制御装置5に記録された加工プログラム51と同じ加工プログラム61をコンピュータシステム6にも記録しておき、この加工プログラム61を参照し、撮影工程において線状パターンである突条92の追跡を行った。しかし、ワーク9を加工する加工プログラム51,61とは別に線状パターンの形状データがあれば、これを利用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、刃の位置を測定する刃位置測定方法および刃位置測定装置に利用できる。
【符号の説明】
【0077】
1…刃位置測定装置、2…工作機械、21…ベッド、22…テーブル、23…コラム、24…クロスレール、25…サドル、26…主軸ヘッド、27…主軸、3…カメラ、4…工具、5…制御装置、51…加工プログラム、6…コンピュータシステム、61…加工プログラム、62…測定プログラム、9…ワーク、90…基材、91…上面、92…刃である突条、93…先端面、94…側面、CLi…内側の調整済基準線、CLm…基準線、CLx…外側の調整済基準線、CRi…内側の調整済基準線、CRm…基準線、CRx…外側の調整済基準線、EL…辺縁、ELi…最内側の点、ELx…最外側の点、ER…辺縁、ERi…最内側の点、ERx…最外側の点、P…撮影画像、Pf…撮影枠。
図1
図2
図3
図4
図5
図6