特許第6562735号(P6562735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562735
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】新規キシラナーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/56 20060101AFI20190808BHJP
   C12N 9/42 20060101ALI20190808BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20190808BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20190808BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20190808BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20190808BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   C12N15/56ZNA
   C12N9/42
   C12P19/14 A
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-128823(P2015-128823)
(22)【出願日】2015年6月26日
(65)【公開番号】特開2017-12006(P2017-12006A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年3月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「バイオマスエネルギー技術研究開発/バイオ燃料製造の有用要素技術開発事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 望
(72)【発明者】
【氏名】末次 真梨
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/096294(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 9/42
C12P 19/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)又は(c)で表されるアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有し、キシラナーゼ活性の最適反応温度が65〜80℃であるタンパク質:
(a)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列において、1個以上20個以下のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【請求項2】
下記(a')、(b')又は(c')で表されるアミノ酸配列からなる、キシラナーゼのプレタンパク質であって、該キシラナーゼの活性の最適反応温度が65〜80℃であるプレタンパク質
(a')配列番号2で示されるアミノ酸配列;
(b')配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c')配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1個以上20個以下のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【請求項3】
該キシラナーゼ活性の最適反応温度が70〜78℃である請求項1記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質、又は請求項2記載のプレタンパク質。
【請求項4】
以下の酵素学的性質を有する請求項1若しくは3記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質、又は請求項2若しくは3記載のプレタンパク質:
反応温度60℃における最適反応pHがpH3.8〜6.0;
反応温度60℃、該最適反応pHにおけるキシラナーゼ活性が400U/mgタンパク質以上;
反応温度60℃、pH4〜5.5の範囲におけるキシラナーゼ活性が、反応温度60℃、該最適反応pHにおけるキシラナーゼ活性の70%以上。
【請求項5】
請求項1、3若しくは4記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質、又は請求項2〜4のいずれか1項記載のプレタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
下記(i)、(ii)又は(iii)で表されるヌクレオチド配列からなる、請求項記載のポリヌクレオチド:
(i)配列番号1の67位から1212位で示されるヌクレオチド配列;
(ii)配列番号1の67位から1212位で示されるヌクレオチド配列と少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列;
(iii)配列番号1の67位から1212位で示されるヌクレオチド配列において、1個以上60個以下のヌクレオチドが欠失、挿入、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列。
【請求項7】
下記(i')、(ii')又は(iii')で表されるヌクレオチド配列からなる、請求項記載のポリヌクレオチド:
(i')配列番号1で示されるヌクレオチド配列;
(ii')配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列;
(iii')配列番号1で示されるヌクレオチド配列において、1個以上60個以下のヌクレオチドが欠失、挿入、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列。
【請求項8】
請求項のいずれか1項記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項9】
請求項のいずれか1項記載のポリヌクレオチド、又は請求項記載のベクターを宿主に導入することを含む、形質転換体の製造方法。
【請求項10】
請求項のいずれか1項記載のポリヌクレオチド、又は請求項記載のベクターを導入された形質転換体。
【請求項11】
請求項1、3又は4記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質を含有する、バイオマス糖化剤。
【請求項12】
請求項1、3若しくは4記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質、又は請求項11記載のバイオマス糖化剤を用いる、バイオマスからの糖の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規キシラナーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを含有するバイオマス材料(以下、「バイオマス」ということがある)中のセルロースから糖を製造し、それを発酵法などでエタノールや乳酸などへ変換する技術は以前より知られている。さらに近年、環境問題への取り組みの観点から、バイオマスを資源として効率よく利用する技術の開発が注目されている。
【0003】
バイオマスは、セルロース繊維と、それを取り巻くキシランを主に含むヘミセルロース及びリグニンから構成されている。バイオマスにおけるセルロースやヘミセルロースの糖化効率を高めるためには、セルロースやヘミセルロースを効率よく加水分解する酵素の開発が必要となる。
【0004】
バイオマスのセルラーゼによる糖化や、ヘミセルラーゼやリグニナーゼによるバイオマスの酵素分解は、従来から行われている。例えば、セルラーゼにTrichoderma reesei由来のキシラナーゼやアラビノフラノシダーゼなどのヘミセルラーゼが添加された酵素組成物が開発されている(特許文献1)。また、バガス堆肥に存在する微生物群由来のキシラナーゼ活性を有するタンパク質、及び該タンパク質とセルラーゼとをバイオマス資源に反応させることによる糖の製造方法が知られている(特許文献2)。
【0005】
キシラナーゼやそれを含む酵素組成物が開発されている。特許文献3には、Trichophaea saccata又はAspergillus fumigatus由来のファミリー10キシラナーゼ、Thermobifida fusca由来のファミリー11キシラナーゼなどを含むセルロース系材料の分解に使用される酵素組成物が記載されている。特許文献4には、Penicillium sp由来のキシラナーゼが記載されている。特許文献5には、Talaromyces emersoniiから得られたキシラナーゼ及びその変異体が記載されている。特許文献6にはAspergillus aculeatus由来のキシラナーゼが記載されている。さらに、ノボザイムズ社(Novozymes社)が製造販売しているキシラナーゼ製剤(Cellic(登録商標)HTecなど)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2011−515089号公報
【特許文献2】特開2012−029678号公報
【特許文献3】米国特許第8580536号公報
【特許文献4】米国特許第8129591号公報
【特許文献5】国際公開公報第2002/024926号
【特許文献6】米国特許第6228630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のヘミセルラーゼやキシラナーゼを用いたバイオマスの糖化方法は、糖化効率又は酵素コストの面で未だ満足できるものではなかった。本発明は、より効率的且つ経済的にバイオマスを糖化することができる新規キシラナーゼに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、キシラナーゼ活性が高く、かつ他のバイオマス糖化に関わる酵素と組み合わせたときに、極めて高効率なバイオマス糖化を達成することができる新規キシラナーゼを見出した。
【0009】
したがって、一態様において本発明は、下記(a)、(b)又は(c)で表されるアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質を提供する。
(a)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、上記キシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、上記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、上記ポリヌクレオチド又はベクターを宿主に導入することを含む、形質転換体の製造方法を提供する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、上記ポリヌクレオチド又はベクターを導入された形質転換体を提供する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、上記キシラナーゼ活性を有するタンパク質を含有する、バイオマス糖化剤を提供する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、上記キシラナーゼ活性を有するタンパク質又は上記バイオマス糖化剤を用いる、バイオマスからの糖の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、新規キシラナーゼを提供する。本発明のキシラナーゼ又はそれを含む酵素組成物は、従来公知のキシラナーゼ又はそれを含む酵素組成物を使用する場合と比べて、より効率のよいバイオマス糖化を実現することができる。したがって、本発明によれば、バイオマスから効率的且つ安価に糖を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1.定義)
本明細書において、ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman−Pearson法(Science,1985,227:1435−1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0018】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性をいう。
【0019】
本明細書において、「1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、1個以上30個以下、好ましくは20個以下、より好ましくは10個以下、さらに好ましくは5個以下のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が挙げられる。また本明細書において、「1又は複数個のヌクレオチドが欠失、挿入、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列」としては、1個以上90個以下、好ましくは60個以下、より好ましくは30個以下、さらに好ましくは15個以下、さらにより好ましくは10個以下のヌクレオチドが欠失、挿入、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列が挙げられる。
【0020】
本明細書において、目的のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列上における、特定のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列上の特定の位置または領域に対する「相当する位置」または「相当する領域」は、目的のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と、基準となる特定の配列(参照配列)とを、各アミノ酸配列またはヌクレオチド配列中に存在する保存アミノ酸残基またはヌクレオチドに最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、上述のリップマン−パーソン法等に基づいて手作業で行うこともできるが、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.,22:4673−4680)をデフォルト設定で用いることにより行うことができる。あるいは、Clustal Wの改訂版であるClustal W2やClustal omegaを使用することもできる。Clustal W、Clustal W2およびClustal omegaは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html])のウェブサイト上で利用することができる。
【0021】
本明細書において、「キシラナーゼ活性」とは、キシラン中のキシロースβ−1,4−グリコシド結合を加水分解する活性をいう。タンパク質のキシラナーゼ活性は、キシランを基質として該タンパク質と反応させ、キシラン分解産物の生成量を測定することによって決定することができる。好ましくは、本明細書におけるタンパク質のキシラナーゼ活性の1ユニット(U)は、60℃、pH5.0で15分間、基質であるキシランから還元糖を生成させた場合において、1分間当たり1マイクロモルの還元糖を遊離させるのに必要な該タンパク質の量として定義される。タンパク質のキシラナーゼ活性は、3,5−ジニトロサリチル酸(DNS)法にて、キシランから生成した還元糖を定量化することによって測定することができる。より詳細な例においては、可溶キシラン、酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、及び対象タンパク質を混合し、60℃で反応させた後、DNS溶液(水酸化ナトリウム、3,5−ジニトロサリチル酸、酒石酸ナトリウムカリウムを含む溶液)を添加して約100℃で反応させ、次いで波長540nmでの反応液の吸光度を測定する。さらに得られた測定値を、キシロースを用いて作成した検量線により標準化することにより、還元糖量を定量化する。測定した還元糖量に基づいて、キシラナーゼ活性を算出することができる。DNS法によるキシラナーゼ活性測定の具体的手順は、後述の実施例に詳述されている。
【0022】
本明細書において、「キシラナーゼ」とは、キシラン中のキシロースβ−1,4−グリコシド結合を加水分解する活性を有する(すなわちキシラナーゼ活性を有する)タンパク質をいう。
【0023】
本明細書において、「バイオマス」とは、植物や藻類が生産するヘミセルロース成分を含むセルロース系及び/又はリグノセルロース系バイオマスをいう。バイオマスの具体例としては、カラマツやヌマスギ等の針葉樹や、アブラヤシ(幹部)、ヒノキ等の広葉樹などから得られる各種木材;ウッドチップなどの木材の加工物又は粉砕物;木材から製造されるウッドパルプ、綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプなどのパルプ類;新聞紙、ダンボール、雑誌、上質紙などの紙類;バガス(サトウキビの搾りかす)、パーム空果房(EFB)、アブラヤシ(幹部)、エリアンサス、稲わら、とうもろこし茎若しくは葉などの植物の茎、葉、果房など;籾殻、パーム殻、ココナッツ殻などの植物殻類;藻類などからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。このうち、入手容易性及び原料コストの観点から、木材、木材の加工物又は粉砕物、植物の茎、葉、果房などが好ましく、バガス、EFB、アブラヤシ(幹部)、エリアンサスがより好ましく、バガスがさらに好ましい。上記バイオマスは、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。また上記バイオマスは乾燥されていてもよい。
【0024】
(2.キシラナーゼ)
本発明のキシラナーゼは、下記(a)、(b)又は(c)で表されるアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質であり得る。
(a)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【0025】
一実施形態において、本発明のキシラナーゼは、配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。該キシラナーゼの好ましい例としては、配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列からなるペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)由来キシラナーゼが挙げられる。
【0026】
別の実施形態において、本発明のキシラナーゼは、配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質である。また別の実施形態において、本発明のキシラナーゼは、配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質である。該タンパク質は、例えば、配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列からなるキシラナーゼをコードする遺伝子(例えば、配列番号1の67位から1212位で示されるヌクレオチド配列からなる遺伝子)に対して、紫外線照射や部位特異的変異導入(Site−Directed Mutagenesis)のような公知の突然変異導入法により突然変異を導入し、得られた突然変異した遺伝子を発現させ、発現した遺伝子産物の中から、キシラナーゼ活性を有するタンパク質を選択することによって作製することができる。このような変異体作製の手順は、当業者に周知である。
【0027】
本発明のキシラナーゼは、従来単離又は精製されているキシラナーゼとは異なるアミノ酸配列を有する。例えば、配列番号2の23位から404位で示される本発明のキシラナーゼと最も配列同一性の高いアミノ酸配列を有する既知のキシラナーゼは、特許文献5に記載のTalaromyces emersonii由来のキシラナーゼであるが、その配列同一性は77%である。
【0028】
好ましくは、本発明のキシラナーゼは、さらに以下の酵素学的性質を有する。
(i)pH依存性
本発明のキシラナーゼのキシラナーゼ活性は、反応温度60℃、pH4〜5.5の範囲において最大活性の70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、なお好ましくは90%以上である。ここで、「最大活性」とは、反応温度60℃での最適反応pHにおけるキシラナーゼ活性をいう。
【0029】
(ii)最適反応pH
本明細書において、「キシラナーゼ活性における最適反応pH」とは、60℃においてキシランを分解したときの活性が最大となるpHを意味し、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。本発明のキシラナーゼにおいて、キシラナーゼ活性の最適反応pHは、pH3.8〜6.0の範囲であることが好ましく、より好ましくはpH4.0〜5.5である。
【0030】
(iii)最適反応温度
本明細書において、「キシラナーゼ活性における最適反応温度」とは、至適pHにおいてキシラナーゼ活性が最大となる温度を意味し、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定される。本発明のキシラナーゼにおいて、キシラナーゼ活性の最適反応温度は、好ましくは65〜80℃、より好ましくは70〜78℃である。
【0031】
(iv)最大活性
本明細書において、キシラナーゼの「最大活性」とは、60℃、至適pHにおけるキシラナーゼ活性の比活性をいう。本発明のキシラナーゼの「最大活性」は、好ましくは400U/mgタンパク質以上、より好ましくは450U/mgタンパク質以上、さらに好ましくは500U/mgタンパク質以上である。
【0032】
微生物細胞中においては、本発明のキシラナーゼは、シグナル配列を含むプレタンパク質として発現し、その後、該シグナル配列が切断されて成熟タンパク質として生成され得る。
したがって、本発明はまた、上記(a)、(b)又は(c)で表されるアミノ酸配列のN末端側に、配列番号2の第1位から22位で示されるアミノ酸配列をさらに含むアミノ酸配列からなるキシラナーゼのプレタンパク質を提供する。
あるいは、本発明は、下記(a')、(b')又は(c')で表されるアミノ酸配列からなるキシラナーゼのプレタンパク質を提供する。
(a')配列番号2で示されるアミノ酸配列;
(b')配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c')配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
好ましくは、上記(a')、(b')又は(c')で表されるアミノ酸配列における、配列番号2の第1位から22位に相当する領域は、分泌シグナル配列としての機能を有する。
【0033】
(3.ポリヌクレオチド、ベクター及び形質転換体)
本発明のキシラナーゼは、例えば、上記本発明のキシラナーゼをコードする遺伝子を発現させることにより生産することができる。好ましくは、本発明のキシラナーゼは、本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換体から生産することができる。例えば、本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチド、又はそれを含むベクターを宿主に導入して形質転換体を得た後、該形質転換体を適切な培地で培養すれば、該形質転換体に導入した本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドから本発明のキシラナーゼが生産される。生産されたキシラナーゼを該培養物から単離又は精製することにより、本発明のキシラナーゼを取得することができる。
【0034】
したがって、本発明はさらに、本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチド、及びそれを含むベクターを提供する。本発明はさらに、本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチド又はそれを含むベクターを宿主に導入することを含む、形質転換体の製造方法を提供する。さらに本発明は、細胞外から導入された本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチド又はそれを含むベクターを含有する、形質転換体を提供する。さらに本発明は、該形質転換体を培養することを含む、本発明のキシラナーゼの製造方法を提供する。
【0035】
本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドは、上記(a)、(b)又は(c)で表されるアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり得る。また本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドは、一本鎖若しくは二本鎖DNA、RNA、又は人工核酸の形態であり得、あるいはcDNA、又はイントロンを含まない化学合成DNAであり得る。
【0036】
本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドの好ましい例としては、下記(i)、(ii)又は(iii)で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
(i)配列番号1の67位から1212位で示されるヌクレオチド配列;
(ii)配列番号1の67位から1212位で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列;
(iii)配列番号1の67位から1212位で示されるヌクレオチド配列において、1又は複数個のヌクレオチドが欠失、挿入、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列。
【0037】
本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドの別の好ましい例としては、下記(i')、(ii')又は(iii')で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
(i')配列番号1で示されるヌクレオチド配列;
(ii')配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列;
(iii')配列番号1で示されるヌクレオチド配列において、1又は複数個のヌクレオチドが欠失、挿入、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列。
好ましくは、上記(i')、(ii')又は(iii')で表されるヌクレオチド配列における配列番号1の1位から66位に相当する領域は、分泌シグナル配列をコードする。
【0038】
本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドは、該キシラナーゼのアミノ酸配列に基づいて、化学的又は遺伝子工学的に合成することができる。例えば、該ポリヌクレオチドは、上述した本発明のキシラナーゼ又はそのプレタンパク質のアミノ酸配列に基づいて、化学的に合成することができる。ポリヌクレオチドの化学合成には、核酸合成受託サービス(例えば、株式会社 医学生物学研究所、Genscript社等より提供されている)を利用することができる。さらに、合成したポリヌクレオチドをPCR、クローニング等により増幅することもできる。
【0039】
またあるいは、本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドは、上記の手順で合成されたポリヌクレオチドに対して、上述した紫外線照射や部位特異的変異導入のような公知の突然変異導入法により突然変異を導入することによって、作製することができる。例えば、本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1のポリヌクレオチドに公知の方法で突然変異導入し、得られたポリヌクレオチドを発現させてキシラナーゼ活性を調べ、所望のキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを選択することによって、得ることができる。
【0040】
ポリヌクレオチドへの部位特異的変異導入は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法など(村松ら編、「改訂第4版 新遺伝子工学ハンドブック」、羊土社、p.82−88)の任意の手法により行うことができる。必要に応じてStratagene社のQuickChange II Site−Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site−Directed Mutagenesis Kit等の各種の市販の部位特異的変異導入用キットを使用することもできる。
【0041】
本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクターの種類としては、特に限定されず、遺伝子のクローニングに通常用いられるベクター、例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、YAC、BACなどが挙げられる。このうち、プラスミドベクターが好ましく、例えば、市販のタンパク質発現用プラスミドベクター、例えばpUC19、pUC118、pUC119、pBR322(いずれもタカラバイオ株式会社製)などを好適に用いることができる。
【0042】
上記ベクターは、DNAの複製開始領域又は複製起点を含むDNA領域を含み得る。あるいは、上記ベクターにおいては、本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチド(すなわち本発明のキシラナーゼ遺伝子)の上流に、該遺伝子の転写を開始させるためのプロモーター領域、ターミネーター領域、又は発現されたタンパク質を細胞外へ分泌させるための分泌シグナル領域などの制御配列が作動可能に連結されていてもよい。本明細書において、遺伝子と制御配列が「作動可能に連結されている」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域による制御の下に発現し得るように配置されていることをいう。
【0043】
上記プロモーター領域、ターミネーター、分泌シグナル領域等の制御配列の種類は、特に限定されず、導入する宿主に応じて、通常使用されるプロモーターや分泌シグナル配列を適宜選択して用いることができる。例えば、本発明のベクターに組み込むことができる制御配列の好適な例としては、Trichoderma reesei由来cbh1プロモーター配列(Curr,Genet,1995,28(1):71−79)が挙げられる。あるいは、その他のセロビオハイドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、βグルコシダーゼ、キシラナーゼ、βキシロシダーゼなどの糖化酵素を発現するプロモーターを使用してもよい。あるいは、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼなどの代謝経路の酵素のプロモーターを使用してもよい。
【0044】
あるいは、上記本発明のベクターには、該ベクターが適切に導入された宿主を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤の耐性遺伝子)がさらに組み込まれていてもよい。あるいは、宿主に栄養要求性株を使用する場合、要求される栄養の合成酵素をコードする遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。またあるいは、生育のために特定の代謝を必須とする選択培地を用いる場合、該代謝の関連遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。このような代謝関連遺伝子の例としては、アセトアミドを窒素源として利用するためのアセトアミダーゼ遺伝子が挙げられる。
【0045】
上記本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドと、制御配列及びマーカー遺伝子との連結は、SOE(splicing by overlap extension)−PCR法(Gene,1989,77:61−68)などの当該分野で公知の方法によって行うことができる。連結した断片のベクターへの導入手順は、当該分野で周知である。
【0046】
上記ベクターを導入する形質転換体の宿主の例としては、細菌、糸状菌などの微生物が挙げられる。細菌の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、リステリア属(Listeria)、バチルス属(Bacillus)に属する細菌などが挙げられ、このうち、大腸菌及びバチルス属細菌(例えば、枯草菌又はその変異株)が好ましい。枯草菌変異株の例としては、J.Biosci.Bioeng.,2007,104(2):135−143に記載のプロテアーゼ9重欠損株KA8AX、ならびにBiotechnol.Lett.,2011,33(9):1847−1852に記載の、プロテアーゼ8重欠損株にタンパク質のフォールディング効率を向上させたD8PA株を挙げることができる。糸状菌の例としては、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rizhopus)などが挙げられ、このうち、酵素生産性の観点からはトリコデルマ属が好ましい。
【0047】
宿主へのベクターの導入の方法としては、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法などの当該分野で通常使用される方法を用いることができる。導入が適切に行われた株をマーカー遺伝子の発現、栄養要求性などを指標に選択することで、ベクターが導入された目的の形質転換体を得ることができる。
【0048】
あるいは、本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチド、制御配列及びマーカー遺伝子を連結した断片を、宿主のゲノムに直接導入することもできる。例えば、SOE−PCR法などにより、上記連結断片の両端に宿主のゲノムと相補的な配列を付加したDNA断片を構築し、これを宿主に導入して、宿主ゲノムと該DNA断片との間に相同組換えを起こさせることによって、本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチドが宿主のゲノムに導入される。
【0049】
斯くして得られた、本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチド又はそれを含むベクターが導入された形質転換体を適切な培地で培養すれば、該ベクター上のキシラナーゼ遺伝子が発現して本発明のキシラナーゼが生成される。当該形質転換体の培養に使用する培地は、当該形質転換体の微生物の種類にあわせて、当業者が適宜選択することができる。
【0050】
あるいは、本発明のキシラナーゼは、無細胞翻訳系を使用して本発明のキシラナーゼをコードするポリヌクレオチド又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸等の試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。
【0051】
上記培養物又は無細胞翻訳系にて生成された本発明のキシラナーゼは、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、単離又は精製することができる。このとき、形質転換体内のベクター上で本発明のキシラナーゼをコードする遺伝子と分泌シグナル配列が作動可能に連結されている場合、生成されたキシラナーゼは細胞外に分泌されるため、より容易に培養物から回収され得る。培養物から回収されたキシラナーゼは、公知の手段でさらに精製されてもよい。
【0052】
(5.バイオマス糖化方法又は糖の製造方法)
上記本発明のキシラナーゼは、後述の実施例に示すとおり、従来公知のキシラナーゼやキシラナーゼ製剤と比較してバイオマスを糖化する活性が顕著に高い。したがって、本発明のキシラナーゼは、バイオマスの糖化のため、又はバイオマスからの糖の製造のために好適に使用することができる。したがって、本発明はさらに、上記本発明のキシラナーゼを含有するバイオマス糖化剤を提供する。さらに本発明は、上記本発明のキシラナーゼ又は上記本発明のバイオマス糖化剤を用いるバイオマス糖化方法を提供する。さらに本発明は、上記本発明のキシラナーゼ又は上記本発明のバイオマス糖化剤を用いるバイオマスからの糖の製造方法を提供する。
【0053】
本発明のバイオマス糖化剤は、上記本発明のキシラナーゼを有効成分として含有する。該バイオマス糖化剤は、好ましくはバイオマス糖化用の酵素組成物(以下、本発明の酵素組成物ということもある)である。本発明の酵素組成物は、本発明のキシラナーゼを含み、また糖化効率の向上の観点から、好ましくはさらにセルラーゼを含む。ここで、セルラーゼとは、セルロースのβ−1,4−グルカンのグリコシド結合を加水分解する酵素を指し、エンドグルカナーゼ、エクソグルカナーゼ又はセロビオハイドロラーゼ、及びβ−グルコシダーゼなどと称される酵素の総称である。本発明の酵素組成物に使用されるセルラーゼの例としては、市販のセルラーゼ製剤や、動物、植物、微生物由来のセルラーゼが挙げられ得る。本発明の酵素組成物において、これらのセルラーゼは、単独で使用されても2種以上の組合せで使用されてもよい。糖化効率の向上の観点から、セルラーゼは、セロビオハイドロラーゼ及びエンドグルカナーゼからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0054】
本発明の酵素組成物において、本発明のキシラナーゼと併用され得るセルラーゼの具体例としては、これらに限定されるものではないが、トリコデルマ・リーゼ(Trichoderma reesei)由来のセルラーゼ;トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)由来のセルラーゼ;バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM−N145(FERM P−19727)、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM−N252(FERM P−17474)、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM−N115(FERM P−19726)、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM−N440(FERM P−19728)、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM−N659(FERM P−19730)などの各種バチルス株由来のセルラーゼ;パイロコッカス・ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)由来の耐熱性セルラーゼ;フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)由来のセルラーゼ、などが挙げられる。これらの中で、糖化効率の向上の観点から、トリコデルマ・リーゼ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、又はフミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)由来のセルラーゼが好ましい。また、上記の微生物に対して外来性に導入したセルラーゼ遺伝子を発現させて得られた組換えセルラーゼを用いてもよい。具体例としては、トリコデルマ・リーゼ(Trichoderma reesei)に対してアスペルギルス・アクリータス(Aspergillus aculeatus)由来のβ−グルコシダーゼ遺伝子を導入して得られたX3AB1株(J.Ind.Microbiol.Biotechnol.(2012)1741−9)が生産するセルラーゼJN11が挙げられる。上記セルラーゼを含むセルラーゼ製剤の具体例としては、セルクラスト(登録商標)1.5L(ノボザイムズ社製)、TP−60(明治製菓株式会社製)、Cellic(登録商標)CTec2(ノボザイムズ社製)、AccelleraseTMDUET(ジェネンコア社製)、及びウルトラフロ(登録商標)L(ノボザイムズ社製)が挙げられ、これらのセルラーゼ製剤を本発明のキシラナーゼと併用してもよい。
【0055】
また、セルラーゼの1種であるβ−グルコシダーゼの具体例としては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のβ−グルコシダーゼ(例えば、ノボザイムズ社製ノボザイム188及びメガザイム社製β−グルコシダーゼ)、ならびにトリコデルマ・リーゼ(Trichoderma reesei)又はペニシリウム・エメルソニイ(Penicillium emersonii)由来のβ−グルコシダーゼなどが挙げられる。このうち、糖化効率向上の観点から、ノボザイム188、トリコデルマ・リーゼ由来のβ−グルコシダーゼが好ましく、トリコデルマ・リーゼ由来のβ−グルコシダーゼがより好ましい。
【0056】
また、セルラーゼの1種であるエンドグルカナーゼの具体例としては、トリコデルマ・リーゼ(Trichoderma reesei)、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium celluloriticus)、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、バチルス(Bacillus)、サーモビフィダ(Thermobifida)、セルロモナス(Cellulomonas)由来の酵素などが挙げられる。このうち、糖化効率向上の観点から、トリコデルマ・リーゼ、フミコーラ・インソレンス、バチルス、セルロモナス由来のエンドグルカナーゼが好ましく、トリコデルマ・リーゼ由来のエンドグルカナーゼがより好ましい。
【0057】
本発明の酵素組成物は、上記本発明のキシラナーゼ以外のヘミセルラーゼを含有していてもよい。ここで、ヘミセルラーゼとは、へミセルロースを加水分解する酵素を指し、キシラナーゼ、キシロシダーゼ、ガラクタナーゼなどと称される酵素の総称である。本発明のキシラナーゼ以外のヘミセルラーゼの具体例としては、トリコデルマ・リーゼ(Trichoderma reesei)由来のヘミセルラーゼ;バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM−N546(FERM P−19729)由来のキシナラーゼ;アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)、又はバチルス・アルカロフィルス(Bacillus alcalophilus)由来のキシラナーゼ;サーモマイセス(Thermomyces)、オウレオバシジウム(Aureobasidium)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、クロストリジウム(Clostridium)、サーモトガ(Thermotoga)、サーモアスクス(Thermoascus)、カルドセラム(Caldocellum)、又はサーモモノスポラ(Thermomonospora)属由来のキシラナーゼ;バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)由来のβ−キシロシダーゼ;セレノモナス・ルミナンティウム(Selenomonas ruminantium)由来β―キシロシダーゼ、などが挙げられる。このうち、糖化効率向上の観点から、本発明の酵素組成物は、バチルス・エスピー、アスペルギルス・ニガー、トリコデルマ・ビリデ若しくはストレプトマイセス由来のキシラナーゼ、又はセレノモナス・ルミナンティウム由来のβ−キシロシダーゼを含有することが好ましく、バチルス・エスピー若しくはトリコデルマ・ビリデ由来のキシナラーゼ、又はセレノモナス・ルミナンティウム由来のβ−キシロシダーゼを含有することがより好ましい。
【0058】
本発明の酵素組成物の総タンパク質量中における、本発明のキシラナーゼの含有量は、0.1質量%以上70質量%以下の範囲であればよい。本発明の酵素組成物の総タンパク質量中における、上記セルラーゼの含有量は、10質量%以上99質量%以下の範囲であればよい。また、本発明の酵素組成物の総タンパク質量中における、本発明のキシラナーゼ以外のヘミセルラーゼの含有量は、0.01質量%以上30質量%以下の範囲であればよい。本発明の酵素組成物における、本発明のキシラナーゼと上記セルラーゼとのタンパク質量比(本発明のキシラナーゼ/セルラーゼ)は、0.001以上100以下の範囲であればよい。
【0059】
(4.糖の製造方法)
本発明によるバイオマス糖化方法、及びバイオマスからの糖の製造方法は、バイオマスを、上記本発明のキシラナーゼ又はバイオマス糖化剤で糖化する工程を含む。該方法で用いられるバイオマスの例としては、(1.定義)の章で前述したとおりである。入手容易性、原料コスト、及び糖化効率向上の観点からは、該バイオマスとしては、木材、木材の加工物又は粉砕物、植物の茎、葉又は果房などが好ましく、バガス、EFB、アブラヤシ(幹部)、エリアンサスがより好ましく、バガスがさらに好ましい。該バイオマスは、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。また該バイオマスは乾燥されていてもよい。
【0060】
本発明のバイオマス糖化方法、及び糖の製造方法は、バイオマスの粉砕効率向上、及び糖化効率又は糖生産効率向上(すなわち糖生産時間の短縮)の観点から、バイオマスを本発明のキシラナーゼ又はバイオマス糖化剤で糖化する工程の前に、該バイオマスを前処理する工程をさらに含むことが好ましい。
【0061】
上記前処理としては、例えば、アルカリ処理、粉砕処理及び水熱処理からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。糖化効率向上の観点からは、該前処理としてはアルカリ処理が好ましい。
【0062】
上記アルカリ処理とは、バイオマスを、後述する塩基性化合物と反応させることをいう。該アルカリ処理の方法としては、バイオマスを、後述する塩基性化合物を含むアルカリ溶液に浸漬する方法(以下、「浸漬処理」ということがある)や、バイオマスと塩基性化合物とを混合して、後述する粉砕処理にかける方法(以下、「アルカリ混合粉砕処理」ということがある)などが挙げられる。
【0063】
上記粉砕処理とは、バイオマスを機械的に粉砕して小粒子化することをいう。バイオマスを小粒子化することにより、糖化効率がより向上する。また、該粉砕処理により、バイオマスに含まれるセルロースの結晶構造が破壊されると、糖化効率がなお向上する。該粉砕処理は公知の粉砕機を用いて行うことができる。用いられる粉砕機に特に制限はなく、バイオマスを小粒子化することができる装置であればよい。該粉砕処理は、上述した塩基性化合物によるアルカリ処理と組み合わせてもよい。該粉砕処理は、アルカリ処理の前又は後に行ってもよく、あるいは、粉砕処理と並行してアルカリ処理、例えば上述したアルカリ混合粉砕処理を行ってもよい。アルカリ混合粉砕処理では、例えば、アルカリ溶液に浸漬したバイオマスを粉砕処理にかけてもよく(湿式粉砕)、又は固体のアルカリとバイオマスとを一緒に粉砕処理にかけてもよいが(乾式粉砕)、このうち、乾式粉砕が好ましい。
【0064】
上記水熱処理とは、バイオマスを、水分の存在下で加熱処理することをいう。該水熱処理は、公知の反応装置を用いて行うことができ、用いられる反応装置に特に制限はない。
【0065】
本発明のバイオマス糖化方法、及び糖の製造方法は、バイオマス、好ましくは上記前処理されたバイオマスを、本発明のキシラナーゼ又はバイオマス糖化剤で糖化する工程(本明細書において「糖化処理」ということがある)を含む。
【0066】
上記糖化処理の条件は、本発明のキシラナーゼ及び併用するその他酵素が失活しない条件であれば特に限定されない。適切な条件は、バイオマスの種類や前処理工程の手順、使用する酵素の種類により当業者が適宜決定することができる。
【0067】
上記糖化処理においては、バイオマスを含む懸濁液に、本発明のキシラナーゼ又はバイオマス糖化剤を添加することが好ましい。懸濁液中のバイオマスの含有量は、糖化効率又は糖生産効率向上(すなわち糖生産時間の短縮)の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、そして好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0068】
上記懸濁液に対する本発明のキシラナーゼ又はバイオマス糖化剤の使用量は、上記前処理条件、ならびに併用する酵素の種類及び性質により適宜決定されるが、バイオマス質量に対して、本発明のキシラナーゼの質量に換算して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、そして100質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0069】
上記糖化処理の反応pHとしては、糖化効率又は糖生産効率向上(すなわち糖生産時間の短縮)、及び生産コスト低減の観点から、好ましくはpH3.5以上、好ましくはpH3.5以上、さらに好ましくはpH4.0以上であり、そして好ましくはpH6.0以下、より好ましくはpH5.5以下である。
【0070】
上記糖化処理の反応温度は、糖化効率の向上、糖化効率又は糖生産効率向上(すなわち糖生産時間の短縮)、生産コスト低減、及び同時に使用するセルラーゼの至適温度の観点から、50〜80℃が好ましい。該糖化処理の反応時間は、バイオマスの種類若しくは量、酵素量などに合わせて適宜設定することができるが、糖化効率又は糖生産効率向上(すなわち糖生産時間の短縮)、及び生産コスト低減の観点から、好ましくは1〜5日間、より好ましくは1〜4日間、さらに好ましくは1〜3日間である。
【0071】
本発明の例示的実施形態として、以下の組成物、製造方法、用途、あるいは方法をさらに本明細書に開示する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0072】
〔1〕下記(a)、(b)又は(c)で表されるアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質:
(a)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c)配列番号2の23位から404位で示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【0073】
〔2〕上記少なくとも90%の同一性が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性である、〔1〕記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質。
【0074】
〔3〕上記1又は複数個のアミノ酸が、好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上20個以下、さらに好ましくは1個以上10個以下、なお好ましくは1個以上5個以下である、〔1〕記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質。
【0075】
〔4〕好ましくは以下の酵素学的性質を有する、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質:
反応温度60℃、pH4〜5.5の範囲において最大活性の70%以上;
最適反応pHがpH3.8〜6.0;
最適反応温度が65〜80℃;
最大活性が400U/mgタンパク質以上。
【0076】
〔5〕〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質のプレタンパク質であって、上記〔1〕記載の(a)、(b)又は(c)で表されるアミノ酸配列のN末端側に配列番号2の第1位から22位で示されるアミノ酸配列をさらに含むアミノ酸配列からなる、プレタンパク質。
【0077】
〔6〕下記(a')、(b')又は(c')で表されるアミノ酸配列からなる、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質のプレタンパク質:
(a')配列番号2で示されるアミノ酸配列;
(b')配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c')配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【0078】
〔7〕〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質、あるいは〔5〕又は〔6〕記載のプレタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0079】
〔8〕下記(i)、(ii)又は(iii)で表されるヌクレオチド配列からなる、〔7〕記載のポリヌクレオチド:
(i)配列番号1の67位から1212位で示されるヌクレオチド配列;
(ii)配列番号1の67位から1212位で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列;
(iii)配列番号1の67位から1212位で示されるヌクレオチド配列において、1又は複数個のヌクレオチドが欠失、挿入、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列。
【0080】
〔9〕下記(i')、(ii')又は(iii')で表されるヌクレオチド配列からなる、〔7〕記載のポリヌクレオチド:
(i')配列番号1で示されるヌクレオチド配列;
(ii')配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列;
(iii')配列番号1で示されるヌクレオチド配列において、1又は複数個のヌクレオチドが欠失、挿入、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列。
【0081】
〔10〕上記少なくとも90%の同一性が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性である、〔8〕又は〔9〕記載のポリヌクレオチド。
【0082】
〔11〕上記1又は複数個のヌクレオチドが、好ましくは1個以上90個以下、より好ましくは1個以上60個以下、さらに好ましくは1個以上30個以下、さらにより好ましくは1個以上15個以下、なお好ましくは1個以上10個以下である、〔8〕又は〔9〕記載のポリヌクレオチド。
【0083】
〔12〕〔7〕〜〔11〕のいずれか1項記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【0084】
〔13〕〔7〕〜〔11〕のいずれか1項記載のポリヌクレオチド、又は〔12〕記載のベクターを宿主に導入することを含む、形質転換体の製造方法。
【0085】
〔14〕〔7〕〜〔11〕のいずれか1項記載のポリヌクレオチド、又は〔12〕記載のベクターを導入された形質転換体。
【0086】
〔15〕好ましくはトリコデルマ属微生物である、〔14〕記載の形質転換体。
【0087】
〔16〕〔14〕又は〔15〕記載の形質転換体を培養することを含む、キシラナーゼの製造方法。
【0088】
〔17〕〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質を含有する、バイオマス糖化剤。
【0089】
〔18〕好ましくは、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質とセルラーゼとを含む酵素組成物である、〔17〕記載のバイオマス糖化剤。
【0090】
〔19〕好ましくは、上記酵素組成物の総タンパク質量中における上記キシラナーゼ活性を有するタンパク質の含有量が0.1質量%以上70質量%以下である、〔18〕記載のバイオマス糖化剤。
【0091】
〔20〕好ましくは、上記酵素組成物の総タンパク質量中における、上記セルラーゼの含有量が10質量%以上99質量%以下である、〔18〕又は〔19〕記載のバイオマス糖化剤。
【0092】
〔21〕好ましくは、上記酵素組成物における上記キシラナーゼ活性を有するタンパク質と上記セルラーゼとのタンパク質量比が0.001以上100以下である、〔18〕〜〔20〕のいずれか1項記載のバイオマス糖化剤。
【0093】
〔22〕〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質、又は〔17〕〜〔21〕のいずれか1項記載のバイオマス糖化剤を用いる、バイオマスからの糖の製造方法。
【0094】
〔23〕〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質、又は〔17〕〜〔21〕のいずれか1項記載のバイオマス糖化剤を用いる、バイオマス糖化方法。
【0095】
〔24〕好ましくは、上記キシラナーゼ活性を有するタンパク質又はバイオマス糖化剤でバイオマスを糖化することを含む、〔22〕又は〔23〕記載の方法。
【0096】
〔25〕好ましくは、上記バイオマス糖化の前に、該バイオマスを前処理することをさらに含む、〔24〕記載の方法。
【0097】
〔26〕好ましくは、上記前処理が、アルカリ処理、粉砕処理及び水熱処理からなる群より選ばれる1種以上である、〔25〕記載の方法。
【0098】
〔27〕好ましくはさらにセルラーゼを用いる、〔22〕〜〔26〕のいずれか1項記載の方法。
【0099】
〔28〕〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のキシラナーゼ活性を有するタンパク質のバイオマス糖化のための使用。
【0100】
〔29〕好ましくはセルラーゼと併用される、〔28〕記載の使用。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0102】
<実施例1>キシラナーゼの製造
Penicillium sp.由来キシラナーゼPspXynを製造した。
【0103】
(1)キシラナーゼRNAの単離及びcDNAの合成
土壌より単離された糸状菌Penicillium sp.をキシランによる誘導条件下で培養した。培養4日後、Miracloth(メルクミリポア)を用いてろ過することにより菌糸及び培養上清を得た。得られた菌糸は、液体窒素中にて速やかに凍結後、マルチビーズショッカー(安井器械)を用いて破砕した。得られた破砕細胞から、RNeasy Mini Kit(キアゲン)を用いてRNA溶液を得た。RNA溶液から、SuperScript II Reverse Transcriptase(ライフテクノロジーズ)を用いてcDNAを合成した。
【0104】
(2)PspXyn発現用ベクターの作製
pUC118(タカラバイオ)のHincII制限酵素切断点に由来のセロビオハイドロラーゼcbhIの上流から下流領域(配列番号3)を導入したプラスミドpUC−cbh1を鋳型として、表1に示したフォワードプライマー1(配列番号5)とリバースプライマー1(配列番号6)を用いてPCRすることで、約8.8kbp断片(A)を増幅した。また、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidurans)由来のアセトアミダーゼamdS(配列番号4)を鋳型として、表1に示したフォワードプライマー2(配列番号7)とリバースプライマー2(配列番号8)を用いてPCRすることで、約3.1kbp断片(B)を増幅した。得られたDNA断片(A)及び(B)は、In−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)のプロトコルに従って処理し、コンピテントセルE.coli HB101(タカラバイオ)へと形質転換した。アンピシリン耐性株として得られた形質転換体の中から、コロニーPCRにより目的の遺伝子が挿入されたプラスミドを保持する菌株を選別した。選別した形質転換体をLB寒天培地を用いて培養し(37℃、1日間)、得られた細胞からHigh Pure Plasmid Isolation kit(Roche)を用いてプラスミドを回収、精製した。得られたベクターを、pUC−cbh1−amdSと名付けた。
【0105】
上記pUC−cbh1−amdSを鋳型とし、表1に示したフォワードプライマー3(配列番号9)とリバースプライマー3(配列番号10)を用いてPCRすることで、約10kbp断片(C)を増幅した。次いで、上記(1)にて得られたcDNAを鋳型として、表1に示したフォワードプライマー4(配列番号11)とリバースプライマー4(配列番号12)を用いてPCRすることで、推定シグナル配列を含むPspXynプレタンパク質(配列番号2)の遺伝子領域(配列番号1)約1.2kbp断片(D)を増幅した。得られたDNA断片(C)及び(D)を上記と同様の手法でベクターに組み込み、PspXyn遺伝子を含む発現ベクターpUC−Pcbh1−PspXyn−amdSを作製した。
【0106】
【表1】
【0107】
(3)形質転換体の作製
トリコデルマ・リーゼ PC−3−7株に対して上記(2)で構築したベクターの形質転換を行った。導入はプロトプラストPEG法で行った。形質転換体はアセトアミドを単一窒素源とした選択培地(2% グルコース、1.1M ソルビトール、2% アガー、0.2% KHPO(pH5.5)、0.06% CaCl・2HO、0.06% CsCl、0.06% MgSO・7HO、0.06% アセトアミド、0.1% Trace element1;%はいずれもw/v%)にて選抜した。Trace element1の組成は以下のとおりである:0.5g FeSO・7HO、0.2g CoCl、0.16g MnSO・HO、0.14g ZnSO・7HOを蒸留水にて100mLにメスアップ。選抜した形質転換体を植え継ぎにより安定化した後、コロニーPCRにより目的の遺伝子が安定に保持された菌株をさらに選別した。
【0108】
(4)形質転換体の培養
アビセル培地(1% アビセル(シグマアルドリッチ)、0.14%(NHSO、0.2% KHPO、0.03% CaCl・2HO、0.03% MgSO・7HO、0.1% Bacto Polypepton、0.05% Bacto Yeast extract、0.1% Tween 80、0.1% Trace element2、50mM 酒石酸バッファー(pH4.0);%はいずれもw/v%)に、上記(3)で選択した菌株の胞子を2×10個/mLとなるよう植菌し、28℃にて5日間振とう培養を行った。Trace element2の組成は以下のとおりである:6mg HBO、26mg(NHMo24・4HO、100mg FeCl・6HO、40mg CuSO・5HO、8mg MnCl・4HO、200mg ZnClを蒸留水にて100mLにメスアップ。得られた培養物を遠心分離した後フィルターろ過することで、PspXynを含む培養上清を得た。
【0109】
(5)PspXynの精製
上記(4)で得た培養上清5mLを脱塩カラムEcono−Pac 10DG(BioRad)を用いて20mM Tris−HCl(pH8)へとバッファー交換を行った。その後、下記条件にて陰イオン交換による精製を行った。
装置:HPLC分取システムPLC−561(GLサイエンス)
カラム:POROS HQ 20μmカラム 4.6×100mm(ライフテクノロジーズ)
溶離液A:0mM Tris−HCl バッファー(pH8)
溶離液B:20mM Tris−HCl バッファー(pH8)1M NaCl
流速:1mL/min
モニター波長:280nm
リニアグラジエント:5min A:B=100:0、15min A:B=20:80。13分ごろに溶出するピークに大部分の純粋なキシラナーゼが含まれることが確認されたことから、13分〜15分までのフラクションを分取し、濃縮・脱塩したサンプルをPspXyn粗酵素液とした。
【0110】
さらに下記条件にてゲルろ過による精製を行った。
装置:HPLC分取システムPLC−561(GLサイエンス)
カラム:TSKgel G2000SW 21.5x300mm(東ソー)
溶離液:20mM 酢酸バッファー(pH5)、
流速:4mL/min、
モニター波長:280nm。20分ごろに溶出するピークに大部分の純粋なキシラナーゼが含まれることが確認されたことから、20分〜21分までのフラクションを分取し、濃縮・脱塩したサンプルをPspXyn精製酵素液とした。
【0111】
(6)タンパク質濃度測定
PspXynは、キシラナーゼプレタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)から推定シグナル配列(1−22位)を除いた成熟キシラナーゼ(配列番号2の23−404位で示されるアミノ酸配列)である。なお、シグナル配列の予測にはsignalP(Bendtsenら,J.Mol.Biol.340:783−795,2004)を用いた。
酵素液中のタンパク質の濃度は、UV法又はbradford法にて測定した。UV法では、OD280nmを測定することによりタンパク質濃度を決定した。PspXynは、12個のTrp残基及び18個のTyr残基を含み、算出されたモル吸光係数は92820M−1・cm−1、分子量は40519g/molであることから、1mg/mLでのOD280nmは1.931であった。bradford法では、Quick Startプロテインアッセイ(BioRad)を使用し、ウシγグロブリンを標準タンパク質とした検量線をもとにタンパク質量を計算した。
【0112】
<実施例2>PspXynのキシラナーゼ活性
(1)アラビノキシラン分解活性
実施例1(5)で調製したPspXyn精製酵素液のコムギアラビノキシラン分解活性(XPU)を測定した。1XPUは、pH5.0、60℃で15分間、基質であるコムギアラビノキシランから還元糖を生成させた場合において、1分間当たり1マイクロモルの還元糖を遊離させるのに必要な酵素量として定義した。適当な濃度に希釈したPspXyn精製酵素液100μLを、基質溶液(0.35%コムギアラビノキシラン(Megazyme)を含む0.1M酢酸バッファー(pH5.0))400μLと混合し、反応させた。反応前に、基質溶液の入った試験管を60℃で5分間プレインキュベーションし、これに酵素希釈液を添加した。15分後に0.5mLのDNS試薬(1.6%水酸化ナトリウム、0.5%3,5−ジニトロサリチル酸、30%酒石酸ナトリウムカリウム)を添加することで酵素反応を停止させ、次いで100℃にて5分間加熱した後、氷上で急冷した。その後、2mLの純水を加え、540nmの吸光度を測定した。酵素希釈液のかわりに100μLの50mM酢酸バッファーを添加したものをブランクとして使用した。測定した吸光度を、D(+)キシロースを用いて作成した検量線により校正し、次いでXPUを算出した。測定範囲は0.01〜0.1XPU/mLであった。
【0113】
実施例1(6)の手順に従って、上記(5)で調製したPspXyn精製酵素液のタンパク質濃度をUV法にて測定した。タンパク質濃度とXPUの測定値から、比活性を決定した。結果を表1に示す。60℃におけるPspXyn精製酵素液のコムギアラビノキシラン分解活性の比活性は、561XPU/mgであった。これは、特許文献5に開示されるキシラナーゼXEAよりも10%以上高い値であった。
【0114】
【表2】
【0115】
(2)ビーチウッドキシラン分解活性
実施例1(5)で調製したPspXyn精製酵素液のビーチウッドキシラン分解活性(U)を測定した。1Uは、pH5.0、60℃で15分間、基質であるビーチウッドキシランから還元糖を生成させた場合において、1分間当たり1マイクロモルの還元糖を遊離させるのに必要な酵素量と定義した。適当な濃度に希釈したPspXyn酵素溶液100μLを、基質溶液(1%ビーチウッドキシラン(シグマアルドリッチ)を含む0.1M酢酸バッファー(pH5.0))900μLと混合し、反応させた。反応前に、基質溶液の入った試験管を60℃で5分間プレインキュベーションし、これに酵素希釈液を添加することで反応を開始した。15分後に1mLのDNS試薬を添加することで酵素反応を停止させ、次いで100℃にて5分間加熱した後、氷上で急冷した。その後、4mLの純水を加え、540nmの吸光度を測定した。酵素溶液のかわりに100μLの50mM 酢酸バッファーを添加したものをブランクとして使用した。測定した吸光度を、D(+)キシロースを用いて作成した検量線により校正し、次いで酵素活性(U)を算出した。測定範囲は0.01〜0.1U/mLであった。
【0116】
同様の手順で、対照キシラナーゼCellic(登録商標)HTec(Novozymes A/S)のビーチウッドキシラン分解活性(U)を測定した。実施例1(6)の手順に従って、上記(5)で調製したPspXyn精製酵素液及びCellic(登録商標)HTecのタンパク質濃度をbradford法にて測定した。タンパク質濃度と酵素活性値から、比活性を決定した。60℃におけるビーチウッドキシラン分解活性の比活性は、PspXynが452U/mg、Cellic(登録商標)HTecが376U/mgであった。PspXynの比活性は、Cellic(登録商標)HTecと比較して20%以上も高かった。
【0117】
【表3】
【0118】
<実施例3>酵素学的性質
異なるpH及び温度におけるPspXynのアラビノキシラン分解活性を調べた。pH4での異なる温度条件、又は60℃での異なるpH条件において、実施例2と同様の方法によりPspXynのアラビノキシラン分解活性を測定し、最大の活性を示した条件を100%とした際の各条件での相対活性を求めた。結果を表3及び表4に示す。表3に示すとおり、PspXynの至適温度は約75℃であった。また表4に示すとおり、PspXynは、至適pHがpH4.5とpH5の間にあり、かつpH4からpH5.5にかけて至適pHの90%以上の活性を有していた。この結果から、PspXynが弱酸性領域で使用可能であることが示された。
【0119】
【表4】
【0120】
【表5】
【0121】
<実施例4> バイオマス糖化におけるPspXynの利用性
(1)バイオマスの調製
バイオマスとしてバガスを用いた。バガスを1%NaOH水溶液中で120℃、20分間処理し、洗浄することで、アルカリ処理バガス(組成:グルカン62.7%、キシラン17.9%)を得た。得られたアルカリ処理バガスを、糖化反応の基質として使用した。
【0122】
(2)セルラーゼの調製
セルラーゼとしてJN11を使用した。JN11は、J.Ind.Microbiol.Biotechnol.(2012)1741−9に示されるX3AB1株を実施例1(4)と同様の手順でアビセル培地にて培養することで調製した。
【0123】
(3)糖化反応
蓋つきスクリュー管(株式会社マルエム製、No.3、φ21×45mm)に、基質として上記(1)で調製したアルカリ処理バガスを乾燥原料換算で50mgと、0.1mLの1M酢酸ナトリウムバッファー(pH5)を添加し、ここに上記(2)で調製したJN11(酵素タンパク量として2mg/g−基質)、及び実施例1(5)で調製したPspXyn粗酵素液(酵素タンパク量として0.1mg/g−基質)を添加後、基質濃度が5wt%になるように水を添加して反応液を調製した。比較のため、JN11と、Cellic(登録商標)HTec、又は後述の比較例1で調製したトリコデルマ・リーゼ由来XYN1若しくはXYN2(いずれも0.1mg/g−基質)とを添加した反応液を調製した。対照としては、酵素としてJN11のみを添加した反応液を調製した。各反応液は、50℃、150rpmで往復振とうしながら3日間糖化反応させた。なお、各酵素の量はbradford法にて測定したタンパク質量を基準にした。反応終了後、遠心分離(15000rpm、5min、4℃)にて上清を回収し、DX500クロマトグラフィーシステム(日本ダイオネクス社製)にて上清中のグルコース、セロビオース、キシロース、キシロビオース及びキシロトリオースの濃度を測定し、以下の式によりグルカン糖化率、キシラン糖化率、及び全体糖化率を算出した。
グルカン糖化率=(上清中のグルコース+セロビオース量)×0.9/(基質中
のセルロース量)
キシラン糖化率=(上清中のキシロース+キシロビオース+キシロトリオース量)
×0.88/(基質中のキシラン量)
全体糖化率={(上清中のグルコース+セロビース量)×0.9+(上清中のキシ
ロース+キシロビオース+キシロトリオース量)×0.88}/(基
質中のセルロース+キシラン量)
【0124】
結果を表6に示す。PspXynとセルラーゼとを含む酵素組成物を用いた場合には、従来のキシラナーゼCellic(登録商標)HTec又はトリコデルマ・リーゼ由来キシラナーゼとセルラーゼとを添加した場合に比べて、バイオマスの糖化率が顕著に向上した。この結果から、PspXynが高いキシラナーゼ活性を有しており、バイオマスの糖化用の酵素として非常に適していることが示された。
【0125】
【表6】
【0126】
<比較例1>Trichoderma reesei由来キシラナーゼXYN1及びXYN2の製造
(1)発現用ベクターの作製
実施例1(2)で構築したpUC−cbh1−amdSを鋳型とし、表7に示したフォワードプライマー5(配列番号15)と表1に示したリバースプライマー3(配列番号10)を用いてPCRすることで約10kbp断片(E)を増幅した。実施例1(2)と同様の手順で、トリコデルマ・リーゼ由来のキシラナーゼxyn1(配列番号13)を導入したプラスミドpUC−xyn1を鋳型として、表7に示したフォワードプライマー6(配列番号16)とリバースプライマー6(配列番号17)を用いてPCRすることで約0.8kbp断片(F)を増幅した。次いで、得られたDNA断片(E)及び(F)を用いて既に示した方法によりxyn1遺伝子を含む発現ベクターpUC−Pcbh1−xyn1H−amdSを作製した。同様の手順で、トリコデルマ・リーゼ由来のキシラナーゼxyn2(配列番号14)を導入したプラスミドpUC−xyn2を鋳型として、表7に示したフォワードプライマー7(配列番号18)とリバースプライマー7(配列番号19)を用いて約0.8kbp断片(G)を増幅した。次いで、得られたDNA断片(E)及び(G)を用いてxyn2遺伝子を含む発現ベクターpUC−Pcbh1−xyn2H−amdSを作製した。
【0127】
(3)キシラナーゼの精製
実施例1(3)と同様の手順で、トリコデルマ・リーゼ PC−3−7株に対して上記(2)で構築したベクターを形質転換した。実施例1(4)と同様の手順で、得られた形質転換体を培養してXYN1及びXYN2をそれぞれ生産させた。XYN1又はXYN2を含む培養上清から、cOmplete His−Tag Purification Resin(ロシュ)の簡易プロトコルに従ってXYN1及びXYN2を精製した。キシラナーゼ活性測定により、精製されたXYN1及びXYN2がキシラナーゼ活性を有していることを確認した。
【0128】
【表7】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]