(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも表面の一部に、目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施された領域であって、前記模様内に前記第1の凹凸よりも微小な第2の凹凸が形成されて粗面化された領域を有する射出成形品の製造方法であって、
ポリマー材料と熱膨張性カプセルとが混合された成形材料を、射出成形型の所定形状の成形キャビティ内に射出して充填する充填工程、ここで成形キャビティの成形面の少なくとも一部には、射出成形体の表面に目視可能な第1の凹凸により形成される模様を施すための第3の凹凸が形成されている;
前記充填した成形材料を、前記成形キャビティ内で冷却固化して、少なくとも表面の一部に、目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施された領域を有する射出成形体を得る成形工程;
前記得られた射出成形体を前記射出成形型から取り出す取出工程;及び
前記取り出した射出成形体の表面の目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施された領域の少なくとも一部を加熱することにより、前記熱膨張性カプセルを熱膨張させて、前記目視可能な第1の凹凸により形成された模様内に前記第1の凹凸よりも微小な第2の凹凸を形成して、粗面化された領域を形成する粗面化工程
を含むことを特徴とする、射出成形品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている技術では、ポリマー材料の流動性が悪い場合には、成形用金型の成形面の無数の微小凹部又は微小凸部が予め設計された平面配列パターンで配列する低グロス化用加工部に、ポリマー材料が流れ込み難くなり、その結果、微小凹部又は微小凸部を射出成形品に転写することができずに、装飾模様が施された表面が粗面化された射出成形品を得ることが困難になるという問題がある。ポリマー材料の流動性を高めるために、金型の温度を上げる方法が考えられるが、成形装置が大きくなったり、コスト高を招いたりする。したがって、金型の温度を上げる方法は、解決策として現実的ではない。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するべく創出されたものであり、その目的は、装飾模様が施された表面が粗面化された射出成形品を、ポリマー材料の流動性に関わらず容易に製造可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するべく創出された請求項1の発明は、少なくとも表面の一部に、目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施された領域であって、前記模様内に前記第1の凹凸よりも微小な第2の凹凸が形成されて粗面化された領域を有する射出成形品の製造方法である。当該製造方法は、ポリマー材料と熱膨張性カプセルとが混合された成形材料を、射出成形型の所定形状の成形キャビティ内に射出して充填する充填工程、ここで成形キャビティの成形面の少なくとも一部には、射出成形体の表面に目視可能な第1の凹凸により形成される模様を施すための第3の凹凸が形成されている;前記充填した成形材料を、前記成形キャビティ内で冷却固化して、少なくとも表面の一部に、目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施された領域を有する射出成形体を得る成形工程;前記得られた射出成形体を前記射出成形型から取り出す取出工程;及び前記取り出した射出成形体の表面の目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施された領域の少なくとも一部を加熱することにより、前記熱膨張性カプセルを熱膨張させて、前記目視可能な第1の凹凸により形成された模様内に前記第1の凹凸よりも微小な第2の凹凸を形成して、粗面化された領域を形成する粗面化工程を含むことを特徴とするものである。
かかる構成によると、ポリマー材料の流動性が悪い場合に困難な射出成形品の装飾模様が施された表面の粗面化を、熱膨張性カプセルの熱膨張を利用して行う。そのため、装飾模様が施された表面が粗面化された射出成形品を、ポリマー材料の流動性に関わらず容易に製造することができる。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記粗面化された領域において、前記第2の凹凸についての最大断面高さRt
2が、30μm以上200μm未満であることを特徴とするものである。
かかる構成によると、射出成形品の装飾模様が施された表面が適切に粗面化されるため、外観品質に特に優れた射出成形品を得ることができる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記粗面化工程において、前記模様を形成する目視可能な第1の凹凸の凸部の表面から所定の基準深さまでの表層部において膨張した熱膨張性カプセルの平均粒径(d
c)に対する該第1の凹凸の凹部の表面から前記所定の基準深さまでの表層部において膨張した熱膨張性カプセルの平均粒径(d
v)の比(d
v/d
c)が、0.80以上1.20以下の範囲内となるように、加熱することを特徴とするものである。
かかる構成によると、目視可能な第1の凹凸の凸部と凹部とが同程度に粗面化されるために、外観品質に特に優れ且つ触感に優れる射出成形品を得ることができる。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られる射出成形品である。
かかる構成によると、射出成形品の装飾模様が施された表面の粗面化を、熱膨張性カプセルの加熱による膨張を利用して行うため、装飾模様が施された表面が布目調に粗面化される。そのため、外観品質に特に優れ且つ触感に優れる射出成形品となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書及び図面によって開示されている事項と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0013】
本発明の一実施形態は、少なくとも表面の一部に、目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施された領域であって、当該模様内に第1の凹凸よりも微小な第2の凹凸が形成されて粗面化された領域を有する射出成形品の製造方法である。
【0014】
ここで開示される射出成形品の製造方法においては、まず、ポリマー材料と熱膨張性カプセルとが混合された成形材料を、射出成形型の所定形状の成形キャビティ内に射出して充填する充填工程が行われる。ここで、成形キャビティの成形面の少なくとも一部には、射出成形体の表面に目視可能な第1の凹凸により形成される模様を施すための第3の凹凸が形成されている。
【0015】
ここで開示される射出成形品の製造方法に用いられるポリマー材料は、上記熱膨張性カプセルを分散させるマトリックス(母材)となるものである。ポリマー材料としては、従来から射出成形品に用いられる材料を特に限定なく使用することができる。例えば、各種の熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーを使用することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂(ABS)等のスチレン系樹脂;塩化ビニル樹脂;等が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系、オレフィン系、エステル系、ポリアミド系、塩化ビニル系、ウレタン系等の各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。ポリマー材料としては、熱可塑性エラストマーが好ましく用いられる。
【0016】
ここで開示される射出成形品の製造方法に用いられる熱膨張性カプセルは、典型的には、加熱によって占有体積を増す内包物質(通常は、気体、固体、又は液体であって加熱によって気化(ガス化)するもの)を熱可塑性樹脂製の外殻内に封じ込めた粒子として構成されている。かかる熱膨張性カプセルの外殻を構成する材料としては、例えば、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル系共重合体、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系(共)重合体、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、内包物質としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ブタン、イソブタン、イソペンタン等の低沸点炭化水素が挙げられる。また、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴン等の不活性ガス(一部又は全部が液化した状態であり得る)を内包物質とすることもできる。このような熱膨張性カプセルが加熱されると、熱膨張性カプセルの外殻を構成する熱可塑性樹脂が軟化し、且つ外殻の内部に収容された上記内包物質が体積膨張する(即ち、上記内包物質が膨張剤として機能する)ことによって、熱膨張性カプセルが熱膨張する。更に、外殻の一部又は全体が膨張の限度を超えて引き伸ばされることにより熱膨張性カプセルが破裂することもある。このようなカプセルの膨張や膨張後のカプセルの破裂によって射出成形品の表面に微細な凹凸が形成される。
【0017】
ここで開示される熱膨張性カプセルの熱膨張前の形状は特に限定されない。例えば、略球形状、紡錘形状、不定形状、円筒状等の各種形態を取り得る。熱膨張性カプセルの分散性及び熱膨張後の装飾的効果の点から、熱膨張性カプセルは略球形状であることが好ましい。熱膨張前の熱膨張性カプセルの平均粒径は、凡そ15μm以上40μm以下である。また、熱膨張後の熱膨張性カプセルの平均粒径は、凡そ50μm以上である。
【0018】
なお、上記平均粒径とは、熱膨張性カプセルの粒径の平均値である。かかる平均粒径は、光学顕微鏡や電子顕微鏡(例えば透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡)を用いた観察によって容易に求めることができる。例えば、射出成形品の断面の顕微鏡写真から予め定められた数(例えば40個程度)の熱膨張性カプセルを無作為にそれぞれ抽出し、各熱膨張性カプセルの粒径を測定する。ここで熱膨張性カプセルが球状である場合には、直径が粒径であり、非球状である場合には、熱膨張性カプセルの最長と最短の長さの算術平均を粒径とする。そして、測定された各熱膨張性カプセルの粒径の平均値を熱膨張性カプセルの平均粒径とする。熱膨張前の熱膨張性カプセルの平均粒径は、射出成形品の熱膨張性カプセルが熱膨張していない領域の断面写真から求めることができ、熱膨張後の熱膨張性カプセルの平均粒径は、射出成形品の熱膨張性カプセルが熱膨張している領域の断面写真から求めることができる。
【0019】
好ましく用いられる熱膨張性カプセルの市販品(マスターバッチ化された状態で市販されているものを含む。)としては、積水化学工業株式会社製の商品名「アドバンセル(ADVANCELL)(登録商標)」、Akzo Nobel社製の商品名「エクスパンセル(EXPANCEL)(登録商標)」、松本油脂製薬株式会社製の商品名「マツモトマイクロスフェアー(登録商標)」、及び大日精化工業株式会社製の商品名「ダイフォーム(登録商標)」等が挙げられる。
【0020】
熱膨張性カプセルの配合量は、成形材料の全量を100質量%としたときに、例えば、凡そ0.1質量%から10質量%であるが、特にこれに限定されない。
【0021】
成形材料には、上記ポリマー材料及び熱膨張性カプセルの他に、必要に応じて種々の副成分を含有させることができる。そのような副成分の一例として、粉状及び/又は繊維状の固形充填材が挙げられる。かかる固形充填材の例としては、セラミック粉(タルク等の種々の無機化合物粉を包含する。以下同じ。)、カーボン粉(例えばカーボンブラック)、木粉、セラミックファイバー、カーボンファイバー等が挙げられる。充填材の配合量は、用いる充填材の種類及び射出成形品の用途に応じて異なり得る。典型的には、成形材料の全量を100質量%としたときに、1質量%から60質量%である。或いは、充填材を実質的に含有しない組成の成形材料であってもよい。成形材料には、上記固形充填材の他に、必要に応じ副成分として添加剤を含有させることができる。かかる添加剤としては、酸化防止剤、光安定剤、UV吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤(顔料、染料)、難燃剤、分散剤、抗菌剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0022】
成形材料は、上記ポリマー材料、上記熱膨張性カプセル、及び必要に応じ上記副成分を、公知方法に従い混合することにより調製することができる。
【0023】
次に、充填工程における充填操作について図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は、ここで開示される射出成形品の製造方法に使用される射出成形型の一例である、射出成形型10の模式断面図である。射出成形型10は、開閉可能な一対の型12,14を備えている。一対の型12,14は、固定式の固定型12と、可動式の可動型14とから構成され、型閉じによって内部に所定の成形キャビティ26が形成される。そして、射出成形型10の固定型12は、射出成形装置のインジェクションノズル(図示せず)を挿入するためのロケートリング16と、内部にスプルー18が形成されたスプルーブッシュ20とを有している。射出成形型10の固定型12と可動型14の内面(分割面)には、型を閉じたとき、大まかに、スプルー22、射出ゲート24、及び成形キャビティ26がそれぞれ形成される。成形キャビティ26の一つの成形面28には、目視可能な第1の凹凸により形成される模様を施すための第3の凹凸が形成されている。
【0024】
成形面28の第3の凹凸は、射出成形体に第1の凹凸により形成される模様を転写するためのものである。したがって、成形面28の第3の凹凸は、第1の凹凸により形成される模様に対応する形状を有している。即ち第3の凹凸は、第1の凹凸とは、凸部と凹部とが逆になり、第3の凹凸と第1の凹凸とが嵌合する。第1の凹凸により形成される模様の種類については特に制限はなく、得られる射出成形品に施したい模様の形状に応じて適宜決定すればよい。模様は、典型的には装飾模様であり、規則的な模様であっても不規則な模様であってもよい。具体例としては、格子模様や、梨地模様、皮シボ模様などのシボ模様が挙げられる。なお、ここで開示される射出成形品の製造方法によれば、射出成形により第1の凹凸により形成される模様が施されるので、押出成形によって第1の凹凸により形成される模様を施すよりも高い転写率で模様を施すことができる。
【0025】
このような射出成形型10内に、加熱して溶融された成形材料30を射出して、成形材料30を所定形状の成形キャビティ26内に充填する。このとき、溶融された成形材料30が、スプルー18,22を通って射出ゲート24から成形キャビティ26内に進入し、成形キャビティ26内に充填される。
【0026】
次に、充填した成形材料を、成形キャビティ内で冷却固化して、少なくとも表面の一部に、目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施された領域を有する射出成形体を得る成形工程が行われる。
【0027】
具体的には、例えば、
図1に示すように、射出成形型10の成形キャビティ26内に充填された成形材料30を、ポリマー材料のガラス転移温度以下に冷却して、固化させる。これにより、射出成形体40が得られる。射出成形体40には、成形キャビティ26の第3の凹凸が形成された成形面28に接触していた面において、成形面28の第3の凹凸により形成された模様が転写されて、目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施される。
【0028】
図2に、
図1のII−II方向に沿った断面のうちの、射出成形体40の第1の凹凸が形成された部分とその近傍部分を示す。
図2において、粗大な矩形の第1の凹凸(即ち、第1の凹凸の凸部42及び凹部44)が見られる。ポリマー材料32中に熱膨張性カプセル34が分散している。通常、成形材料30に含まれている熱膨張性カプセル34は、成形材料30の射出成形温度(一般的には150℃〜250℃)よりも軟化温度(膨張開始温度:一般的には160℃〜180℃)が低い。しかしながら熱膨張性カプセル34は、この段階ではほとんど熱膨張を起こしていない。それは、次の理由による。成形キャビティ26内に充填されている成形材料30には内部圧力が加わっている。したがって、もし冷却固化する前に可動型24を開くと、成形材料30に加わっていた圧力が解放されるため、成形材料30中の熱膨張性カプセル34が熱膨張してしまう。しかしながら、本実施形態では、成形材料30に内部圧力が加わった状態で成形材料30を冷却固化しており、これにより熱膨張性カプセル34の熱膨張が実質的に防止される。
【0029】
次に、得られた射出成形体を上記射出成形型から取り出す取出工程を行う。
【0030】
具体的には、例えば、
図1に示す射出成形型10の可動型14を移動させて射出成形型10を開き、成形キャビティ26内に形成された射出成形体40を取り出す。
【0031】
次に、取り出した射出成形体の表面の目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施された領域(以下、「模様領域」ともいう)の少なくとも一部を加熱することにより、上記熱膨張性カプセルを熱膨張させて、上記目視可能な第1の凹凸により形成された模様内に上記第1の凹凸よりも微小な第2の凹凸を形成して、粗面化された領域を形成する粗面化工程を行う。
【0032】
具体的には、例えば、
図3に示すように、加熱装置50を備えたベルトコンベア52のベルト54上に射出成形体40を載せる。このとき、射出成形体40を、模様領域がある面が上面となる状態で、ベルト54上に乗せる。そして加熱装置50により、射出成形体40の上面の模様領域を加熱する。なお、
図3に示す例では、模様領域において第1の凹凸により格子模様が形成されており、射出成形体40の上面全体が模様領域となっている。
【0033】
射出成形体40の表面の加熱は放射熱を用いて行うことが好ましい。加熱装置50の好ましい一例として、射出成形体40の表面に近赤外線56による放射熱を放射することができる近赤外線照射装置50が挙げられる。ベルトコンベア52によって射出成形体40を
図3の矢印X1の方向へ移動させて、射出成形体40の上面の模様領域に近赤外線照射装置50から近赤外線56を照射して加熱する。このとき、射出成形体40内に含まれている熱膨張性カプセル34が熱膨張する温度以上に射出成形体40の模様領域を加熱する。これにより、熱膨張性カプセル34が熱膨張すると共に、ポリマー材料32が熱変形し、目視可能な第1の凹凸により形成された模様内に、第1の凹凸よりも微小な第2の凹凸が形成される。第2の凹凸が形成された領域は、第2の凹凸が熱膨張性カプセル34の熱膨張によって形成される微小なものであるために、粗面化される。即ち、射出成形体40に、目視可能な第1の凹凸により形成された模様が施された領域であって、当該模様内に第1の凹凸よりも微小な第2の凹凸が形成されて粗面化された領域60(以下、意匠領域60ともいう。)が形成される。
【0034】
このように、ポリマー材料32の流動性が悪い場合に困難な射出成形品の装飾模様が施された表面の粗面化を、熱膨張性カプセル34の熱膨張を利用して行うため、装飾模様が施された表面が粗面化された射出成形品を、ポリマー材料32の流動性に関わらず容易に製造することができる。
【0035】
射出成形体40の模様領域の加熱条件は、射出成形体40の表面温度が、熱膨張性カプセル34が熱膨張する温度に達する条件であれば特に制限はなく、熱膨張性カプセル34の膨張温度に応じて適宜設定することができる。例えば、射出成形体40の模様領域の加熱条件は、射出成形体40の表面温度が、凡そ80℃〜230℃となるような条件とすることができる。
【0036】
図3では、射出成形体40の幅と同程度の幅で近赤外線56を直線状に照射しているが、射出成形体40の幅よりも広い幅又は狭い幅で近赤外線56を照射してもよいし、近赤外線56を点状に照射してもよい。なお、近赤外線照射装置50が付帯する反射鏡によって集光される構造の場合、反射鏡を調整することで集光の程度(焦点の範囲)を変えることができる。また、近赤外線照射装置50を固定して射出成形体40を移動させて射出成形体40の表面に近赤外線56を照射しているが、射出成形体40を固定して近赤外線照射装置50を移動させたり、射出成形体40と近赤外線照射装置50とを互いに移動させたりしてもよい。
【0037】
また、射出成形体40の表面を加熱する加熱装置50は、近赤外線照射装置に限定されない。例えば、射出成形体40の表面に火炎を吹き付けるバーナ、熱風を吹き付ける熱風加熱機、高周波を利用する高周波加熱機、レーザー照射装置及び中赤外線照射装置等を用いることができる。
【0038】
図4に、本実施形態により製造される射出成形品100を示す。また、
図5に、
図4のV−V線に沿う射出成形品100の断面図を示す。
図4及び
図5に示すように、射出成形品100は、一つの底面が開口した箱型状に成形されている。射出成形品100の上壁の上面全面が、第1の凹凸により形成された格子模様が施された領域が微小な第2の凹凸により粗面化された意匠領域60となっている。射出成形品100の上壁の意匠領域60の下部及び側壁は、熱膨張性カプセル34が膨張していない非膨張部62となっている。なお、意匠領域60は、射出成形品100の上壁の上面の一部のみに形成されていてもよい。また、意匠領域60の位置は、射出成形品100の上面に限られず、射出成形品100の側面に形成されていてもよい。つまり射出成形品100の用途に応じて、即ち外部から視認可能であって意匠を施したい箇所に応じて、意匠領域60の位置及び広さが適宜決定される。
【0039】
図6に、
図5中のVI−VI線に沿った断面のうちの、射出成形品の第1及び第2の凹凸が形成された部分とその近傍部分を示す。
図6において、粗大な矩形の第1の凹凸(即ち、第1の凹凸の凸部42及び凹部44)が見られる。ポリマー材料32中に熱膨張性カプセル34が分散しているが、表層部において膨張した熱膨張性カプセル34Aが見られる。そして、第1の凹凸の凸部42及び凹部44の表面において、膨張した熱膨張性カプセル34Aに基づく円弧状の微小な凸部が形成されている。また、第1の凹凸の凸部42及び凹部44の表面において、過度に膨張して破裂した熱膨張性カプセル34Bが見られ、破裂した熱膨張性カプセル34Bに基づく円弧状の微小な凹部が形成されている。これら膨張した熱膨張性カプセル34Aに基づく円弧状の微小な凸部と破裂した熱膨張性カプセル34Bに基づく円弧状の微小な凹部とにより、第1の凹凸の凸部42及び凹部44においてそれぞれ、微小な第2の凹凸が形成されている。
【0040】
なお、
図6には、熱膨張性カプセルの膨張及び破裂により第2の凹凸が形成されている形態が示されているが、第2の凹凸は、熱膨張性カプセルが破裂することなく膨張した熱膨張性カプセルに基づく微小な凸部のみにより形成されていてもよいし、熱膨張性カプセルがすべて破裂して、破裂した熱膨張性カプセルに基づく微小な凹部のみにより形成されていてもよい。したがって、ここに開示される射出成形品の製造方法では、射出成形品の粗面化された領域において、熱膨張性カプセルが破裂することなくすべて膨張している形態や、熱膨張性カプセルのすべてが破裂している形態もあり得る。
【0041】
第1の凹凸のJIS B 0601:2001に規定された粗さ曲線要素の最大断面高さをRt
1、第2の凹凸のJIS B 0601:2001に規定された粗さ曲線要素の最大断面高さをRt
2とすると、高い外観品質の観点から、Rt
1はRt
2の1.5倍〜100倍の値をとることが好ましい。Rt
2の値は、加熱条件を適宜調整することにより、調整することができる。Rt
1は、特に限定されないが、例えば、150μm〜10mmである。
【0042】
また、第2の凹凸が形成された表面(粗面化された領域)について、JIS B 0601:2001に規定された粗さ曲線の最大断面高さRt
2は、30μm以上200μm未満であることが好ましい。Rt
2が30μmよりも小さい場合には、模様領域において第2の凹凸がほとんど形成されておらず、模様内がほぼ平滑となってしまう虞がある。一方、Rt
2が200μmよりも大きい場合には、模様領域に形成された第2の凹凸が大きくなりすぎて外観品質が損なわれる虞がある。
【0043】
第2の凹凸が形成された表面(粗面化された領域)について、JIS B 0601:2001に規定された粗さ曲線の算術平均粗さRaは、7μm以上25μm以下(例えば8μm以上22μm以下)であることが好ましい。また、第2の凹凸が形成された表面(粗面化された領域)について、JIS B 0601:2001に規定された粗さ曲線の最大高さ粗さRzは、40μm以上140μm以下(例えば43μm以上132μm以下)であることが好ましい。また、第2の凹凸が形成された表面(粗面化された領域)において、JIS B 0601:2001に規定された粗さ曲線の最大山高さRpは、25μm以上65μm以下(例えば27μm以上63μm以下)であることが好ましい。また、第2の凹凸が形成された表面(粗面化された領域)において、JIS B 0601:2001に規定された粗さ曲線の十点平均粗さRzjisは、30μm以上95μm以下(例えば32μm以上93μm以下)であることが好ましい。また、第2の凹凸が形成された表面(粗面化された領域)において、JIS B 0601:2001に規定された粗さ曲線要素の平均長さRSmは、1050μm以上1500μm以下(例えば1082μm以上1482μm以下)であることが好ましい。上記各パラメータは、加熱条件を適宜調整することにより、調整することができる。
【0044】
なお、第2の凹凸が形成された表面(粗面化された領域)における上記各パラメータは、例えば、東京精密株式会社製の商品名「SURFCOM 1400D(登録商標)」を用いて測定することができる。また、上記各パラメータの値は、第2の凹凸が第1の凹凸よりも微小である範囲内で選ばれる。
【0045】
粗面化工程においては、上記模様を形成する目視可能な第1の凹凸の凸部42の表面(上面)から所定の基準深さまでの表層部において膨張した熱膨張性カプセル34の平均粒径(d
c)に対する第1の凹凸の凹部44の表面(下面)から当該所定の基準深さまでの表層部において膨張した熱膨張性カプセル34の平均粒径(d
v)の比(d
v/d
c)が、0.80以上1.20以下の範囲内となるように、加熱することが好ましい。当該比(d
v/d
c)が、0.80以上1.20以下であることは、第1の凹凸の凸部42の表面から所定の基準深さまでの表層部において膨張した熱膨張性カプセル34の膨張率と、第1の凹凸の凹部44の表面から当該所定の基準深さまでの表層部において膨張した熱膨張性カプセル34の膨張率とが、ほぼ同程度であることを意味する。当該比(d
v/d
c)は、好ましくは0.85以上1.15以下であり、より好ましくは0.90以上1.10以下である。
【0046】
ここで第1の凹凸の凸部42における熱膨張性カプセル34の膨張の仕方が、第1の凹凸の凹部44における熱膨張性カプセル34の膨張の仕方と同じであれば、所定の基準深さが、いずれの深さであっても、上記比(d
v/d
c)は、同様の値を示す。測定の容易さの観点から、この所定の基準深さは、例えば、第1の凹凸の凸部42の表面及び凹部44の表面からそれぞれ、熱膨張性カプセル34が膨張を起こしているところまでの深さの1/2の深さとすることができる。
【0047】
上記比(d
v/d
c)が、0.80以上1.20以下であると、第1の凹凸の凸部42における熱膨張性カプセル34の膨張の程度が、第1の凹凸の凹部44における熱膨張性カプセル34の膨張の程度と同程度であるため、第1の凹凸の凸部42と凹部44とで統一感のある特に優れた外観品質と、統一感のある優れた触感を有する射出成形品100が得られる。
【0048】
なお、膨張した熱膨張性カプセル34の平均粒径(d
c)及び平均粒径(d
v)は、上述の方法により測定することができる。
【0049】
また、上記比(d
v/d
c)を、0.80以上1.20以下にするには、例えば、加熱装置50に近赤外線照射装置を用い、赤外線照射量を調整して上記目視可能な第1の凹凸により形成された模様内の領域を加熱する。具体的には、第1の凹凸により形成された模様内の領域のうち、加熱時に赤外線照射装置から最も離れた位置にある部位では熱膨張性カプセル34が十分に膨張し、且つ赤外線照射装置に最も近い位置にある部位ではポリマー材料32が熱分解しない程度に加熱されるように、赤外線照射量や、焦点の範囲を調整する。また、第1の凹凸が形成された表面について、JIS B 0601:2001に規定された粗さ曲線要素の最大断面高さRt
1を10mm以下にするとよい。
【0050】
なお、熱膨張性カプセル34が熱膨張している部分では、密度が低くなっており、そのため機械的強度が弱くなっている。射出成形品100の剛性の確保を考慮すると、射出成形体40の加熱は、射出成形体40の模様領域のある面の平均厚さの2分の1以下の厚さ、即ち、射出成形体40の模様領域のある面の厚さ方向における中心よりも表面側の部分に含まれる熱膨張性カプセル34が熱膨張する程度の温度や時間とすることが好ましい。
【0051】
上述の射出成形品の製造方法によれば、射出成形品の装飾模様が施された表面の粗面化が、熱膨張性カプセルの加熱による膨張を利用して行われる。そのため、装飾模様が施された表面が布目調に粗面化される。よって得られる射出成形品は、外観品質に特に優れ且つ触感に優れる。
【0052】
そこで別の観点から、本発明の別の実施形態は、上述の製造方法によって製造された射出成形品である。当該射出成形品は、高い意匠性が求められる用途において有用であり、コンソールボックス、インストルメントパネル、カバー部材等の車両内装品や、建物内装品などに好適に用いることができる。
【0053】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる具体的実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0054】
<例>
ポリマー材料としてスチレン系熱可塑性エラストマーであるリケンテクノス株式会社製の商品名「アクティマー(登録商標)」を95質量%と、熱膨張性カプセルとして積水化学工業株式会社製の商品名「ADVANCELL(登録商標)」を5質量%とが混合された成形材料を用意した。上記用意した成形材料を溶融し、成形キャビティの一成形面に格子模様の凹凸が施された射出成形型に充填して射出した。成形型を開くことなく成形材料を冷却固化させた後、成形型を開いて射出成形体を得た。成形された射出成形体の一面には、格子模様が転写されていた。
【0055】
次に、近赤外線装置として株式会社ハイベック製の商品名「HYL25−14」を用い、上記成形された射出成形体をベルトコンベアに載せて当該射出成形体の表面を加熱した。加熱の際、照射距離(近赤外線装置と射出成形体との距離)と、ベルトコンベアの移動速度と、近赤外線装置の電圧とを調整して、格子模様の凸部と凹部とが同程度に加熱される赤外線照射量にした。これにより、格子模様内が微細な凹凸により粗面化された表面を有する本例に係る射出成形品を得た。光学顕微鏡により、得られた射出成形品の断面を観察したところ、格子模様の凸部の表面から所定の基準深さまでの表層部において膨張した熱膨張性カプセルの平均粒径(d
c)に対する格子模様の凹部の表面から当該所定の基準深さまでの表層部において膨張した熱膨張性カプセルの平均粒径(d
v)の比(d
v/d
c)は、凡そ1であった。また、格子模様内の微小な凹凸について、最大断面高さRtは93.3μmであった。
【0056】
以上、本発明の具体例を図面を参照しつつ詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。