特許第6562739号(P6562739)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562739
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】電極および金属空気二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20190808BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20190808BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   H01M12/06 F
   H01M12/08 K
   H01M4/90 X
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-132873(P2015-132873)
(22)【出願日】2015年7月1日
(65)【公開番号】特開2017-16902(P2017-16902A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】西浦 崇介
(72)【発明者】
【氏名】相澤 正信
(72)【発明者】
【氏名】清水 岳弘
(72)【発明者】
【氏名】亀山 和也
【審査官】 松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−190833(JP,A)
【文献】 特開2014−194898(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/119549(WO,A1)
【文献】 特開2013−109867(JP,A)
【文献】 特開2012−209020(JP,A)
【文献】 特開2014−049304(JP,A)
【文献】 特開2007−172846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 12/08
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属空気二次電池に用いられる電極であって、
導電性を有する導電層と、
前記導電層に積層された触媒層と、
を備え、
前記触媒層において、互いに異なる第1ペロブスカイト型酸化物の粒子と第2ペロブスカイト型酸化物の粒子とが分散するとともに互いに接合しており、
前記第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、2マイクロメートル以上かつ9マイクロメートル以下であり、
前記第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、0.10マイクロメートル以上かつ1.0マイクロメートル以下であることを特徴とする電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電極であって、
前記触媒層に含まれる前記第1ペロブスカイト型酸化物の体積が、前記第2ペロブスカイト型酸化物の体積の0.25倍以上かつ4倍以下であることを特徴とする電極。
【請求項3】
請求項2に記載の電極であって、
前記触媒層に含まれる前記第1ペロブスカイト型酸化物の体積と、前記第2ペロブスカイト型酸化物の体積とがおよそ等しく、
前記第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、4マイクロメートル以下であり、
前記第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、0.5マイクロメートル以下であることを特徴とする電極。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の電極であって、
前記第1ペロブスカイト型酸化物および前記第2ペロブスカイト型酸化物の一方が、LaSrMnFeOであり、他方がLaSrCoFeOであることを特徴とする電極。
【請求項5】
金属空気二次電池であって、
請求項1ないし4のいずれかに記載の電極である正極と、
負極と、
前記負極と前記正極との間に配置される電解質層と、
を備えることを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項6】
請求項5に記載の金属空気二次電池であって、
前記正極および前記電解質層が、前記負極を中心として筒状に配置されることを特徴とする金属空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極および金属空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属を負極の活物質とし、空気中の酸素を正極の活物質とする金属空気電池が知られている。また、正極にて用いられる触媒として様々な材料が検討されている。例えば、特許文献1および2では、2種類のペロブスカイト型酸化物の粒子を分散させた触媒層が提案されている。なお、非特許文献1では、固体酸化物形燃料電池において、ヘテロ界面の導入によりカソードの表面反応が促進されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−190833号公報
【特許文献2】特開2014−194898号公報
【非特許文献1】Keiji Yashiro et al., "Composite Cathode of Perovskite-Related Oxides, (La,Sr)CoO3-δ/(La,Sr)2CoO4-δ, for Solid Oxide Fuel Cells", Electrochemical and Solid-State Letters, 2009, 12(9), B135-B137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、触媒層において2種類のペロブスカイト型酸化物の粒子を分散させる場合、当該粒子の大きさによっては、触媒層の強度が低下したり、当該電極を用いた電池の性能が低下してしまう。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、触媒層の一定の強度を保ちつつ電池性能を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、金属空気二次電池に用いられる電極であって、導電性を有する導電層と、前記導電層に積層された触媒層とを備え、前記触媒層において、互いに異なる第1ペロブスカイト型酸化物の粒子と第2ペロブスカイト型酸化物の粒子とが分散するとともに互いに接合しており、前記第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、2マイクロメートル以上かつ9マイクロメートル以下であり、前記第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、0.10マイクロメートル以上かつ1.0マイクロメートル以下である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電極であって、前記触媒層に含まれる前記第1ペロブスカイト型酸化物の体積が、前記第2ペロブスカイト型酸化物の体積の0.25倍以上かつ4倍以下である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電極であって、前記触媒層に含まれる前記第1ペロブスカイト型酸化物の体積と、前記第2ペロブスカイト型酸化物の体積とがおよそ等しく、前記第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、4マイクロメートル以下であり、前記第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、0.5マイクロメートル以下である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の電極であって、前記第1ペロブスカイト型酸化物および前記第2ペロブスカイト型酸化物の一方が、LaSrMnFeOであり、他方がLaSrCoFeOである。
【0010】
請求項5に記載の発明は、金属空気二次電池であって、請求項1ないし4のいずれかに記載の電極である正極と、負極と、前記負極と前記正極との間に配置される電解質層とを備える。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の金属空気二次電池であって、前記正極および前記電解質層が、前記負極を中心として筒状に配置される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、触媒層の一定の強度を保ちつつ電池性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】金属空気電池の構成を示す図である。
図2】正極触媒層を電子顕微鏡により撮影した写真である。
図3】サンプルの評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る金属空気電池1の構成を示す図である。図1の金属空気電池1は亜鉛イオンを利用する二次電池であり、亜鉛空気二次電池である。金属空気電池は、他の金属イオンを利用してもよい。金属空気電池1の本体11は中心軸J1を中心とする略円柱状であり、図1では、中心軸J1に垂直な面における本体11の断面(後述の負極3を除く。)を示す。金属空気電池1は、正極2、負極3および電解質層4を備える。
【0015】
負極3(金属極とも呼ばれる。)は、中心軸J1を中心とするコイル状の部材である。本実施の形態における負極3は、断面が略円形の線状の部材を中心軸J1を中心として螺旋状に巻いた形状を有する。負極3は、導電性材料にて形成されるコイル状の基材、および、基材の表面に形成される析出金属層を備える。中心軸J1方向における負極3の端部には負極集電端子(図示省略)が接続される。
【0016】
上記基材を形成する材料として、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、金(Au)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)等の金属、または、いずれかの金属を含む合金が例示される。本実施の形態では、基材は銅にて形成される。集電体を兼ねる基材の導電率を高くするという観点では、基材は銅または銅合金を含むことが好ましい。基材の本体が銅にて形成される場合、当該本体の表面にニッケル等の他の金属の保護膜が形成されることが好ましい。この場合、基材の表面は、当該保護膜の表面となる。例えば、保護膜の厚さは、1〜20μm(マイクロメートル)であり、保護膜は、めっきにて形成される。析出金属層は、亜鉛(Zn)の電解析出により形成される。析出金属層は、亜鉛を含む合金の電解析出にて形成されてもよい。金属空気電池1の設計によっては、筒状または棒状の負極3が利用されてもよい。
【0017】
負極3の周囲には、円筒状のセパレータ41が設けられ、セパレータ41の周囲には、円筒状の正極2(空気極とも呼ばれる。)が設けられる。すなわち、セパレータ41の内側面は負極3に対向し、セパレータ41の外側面は正極2の内側面に対向する。負極3、セパレータ41および正極2は、中心軸J1を中心とする同心状に設けられ、中心軸J1に沿って見た場合に、負極3の外縁と正極2との間の距離は、中心軸J1を中心とする周方向の全周に亘って一定である。すなわち、金属空気電池1における負極3および正極2の間では、全周に亘って、等電位面の間隔が一定である。等電位面に粗密がないため、充放電時の電流分布は周方向において一定となる。なお、全周に亘る電流分布がおよそ均一となるのであるならば、正極2の形状は、例えば、頂点が6個以上の正多角形の筒状であってもよい。
【0018】
正極2は、導電性セラミックにて形成された筒状の支持体である多孔質の正極導電層21、および、正極導電層21の負極3とは反対側の外側面に積層された正極触媒層22を有する。好ましくは、正極触媒層22は、正極導電層21の全周に亘って形成される。正極触媒層22の外側面の一部には、耐アルカリ性を有するセラミックにて形成されるインターコネクタ24が設けられる。インターコネクタ24の厚さは、例えば約30〜300μmである。インターコネクタ24には正極集電端子(図示省略)が接続される。正極触媒層22の外側面において、インターコネクタ24にて覆われていない領域には、撥水性を有する材料(例えば、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン))による多孔質の層が撥液層29として形成される。撥液層29は、高いガス透過性および高い液不透過性を有する。
【0019】
正極導電層21は、導電性セラミックを含む材料の押出成形および焼成により形成され、導電性を有する。導電性セラミックとして、好ましくは、導電性を有するペロブスカイト型酸化物またはスピネル型酸化物が利用される。本実施の形態では、正極導電層21は、ペロブスカイト型酸化物(例えば、LSM(LaSrMnO)、LSMF(LaSrMnFeO)、あるいは、LSCF(LaSrCoFeO))にて形成される。正極導電層21において利用されるペロブスカイト型酸化物は、Co、Mn、Feのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。充電時における酸化による劣化を防止するという観点では、正極導電層21は、導電性カーボンを含まないことが好ましい。正極導電層21は、他の導電性セラミックにより形成されてよい。
【0020】
正極触媒層22は、正極導電層21の外側面上に形成された多孔膜であり、支持体である正極導電層21により支持される。正極触媒層22は、正極触媒を含み、例えばスラリーコート法および焼成により、正極導電層21上に形成される。正極触媒層22の厚さは、正極導電層21の厚さよりも十分に小さいことが好ましい。金属空気電池1では、原則として、多孔質の正極触媒層22近傍において空気と後述の電解液40との界面が形成される。正極触媒層22の詳細については後述する。
【0021】
既述のセパレータ41は、正極導電層21の負極3側の内側面に形成される多孔膜であり、当該内側面の全周に亘って形成される。セパレータ41は、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、ハフニア(HfO)およびセリア(CeO)等の機械的強度および絶縁性が高いセラミック粉末の焼結体であり、耐アルカリ性を有する。後述するように、セパレータ41の作製では、正極導電層21の内側面にスラリーコート法等により上記セラミック粉末およびバインダを含むスラリーを成膜して乾燥し、高温の焼成によりスラリーに含まれるバインダが除去される。これにより、バインダの劣化によりセパレータの寿命が短くなることが防止される。セパレータ41は、セラミックのみにて構成されることが好ましい。セパレータ41は、これらのセラミックの混合体や積層体であってもよい。
【0022】
筒状の正極2の内側(中心軸J1側)の空間には、水系の電解液40が充填される。電解液40は、正極2と負極3との間に介在し、両極に接する。負極3のおよそ全体は電解液40中に浸漬される。多孔質のセパレータ41、および、正極導電層21の細孔にも電解液40が充填される。さらに、正極触媒層22の一部の細孔にも電解液40が充填される。以下の説明では、中心軸J1に沿って見た場合における負極3と正極2との間の空間を「電解質層4」という。すなわち、電解質層4は、負極3と正極2との間に配置される。本実施の形態では、電解質層4はセパレータ41を含む。
【0023】
電解液40は、アルカリ水溶液であり、好ましくは、水酸化カリウム(苛性カリ、KOH)水溶液、または、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ、NaOH)水溶液を含む。また、電解液40は、亜鉛イオンまたは亜鉛を含むイオンを含む。すなわち、電解液40に含まれる亜鉛イオンは、様々な態様で存在してよく、亜鉛(すなわち、亜鉛原子)を含むイオンと捉えられてもよい。例えば、テトラヒドロキシ亜鉛イオンとして存在してもよい。
【0024】
中心軸J1方向において負極3、電解質層4および正極2の両端面には、円板状の閉塞部材が固定される。各閉塞部材の中央には貫通孔が設けられる。金属空気電池1では、撥液層29および閉塞部材により、本体11内の電解液40が上記貫通孔以外から外部へと漏出することが防止される。また、両端面上の閉塞部材の貫通孔を利用して、本体11と図示省略の貯溜タンクとの間にて電解液を循環させることが可能である。
【0025】
図1の金属空気電池1において放電が行われる際には、負極集電端子と正極集電端子とが、例えば、照明器具等の負荷を介して電気的に接続される。負極3が有する亜鉛は酸化されて亜鉛イオンが生成され、電子は負極集電端子、および、正極集電端子を介して正極2に供給される。多孔質の正極2では、撥液層29を透過した空気中の酸素が、負極3から供給された電子により還元され、水酸化物イオンとして電解液中に溶出する。正極2では、正極触媒により酸素の還元反応が促進される。
【0026】
一方、金属空気電池1において充電が行われる際には、負極集電端子と正極集電端子との間に電圧が付与され、正極2に対して水酸化物イオンから電子が供給されるとともに酸素が発生する。負極3では、正極集電端子を介して負極集電端子に供給される電子により金属イオンが還元されて亜鉛が析出する。
【0027】
このとき、コイル状の負極3では、角部がないため、電界集中が起こりにくい。すなわち、電流密度に大きな偏りが生じない。また、負極3が、電解液40に均一に接触する。その結果、亜鉛が樹枝状に析出するデンドライトや、ひげ状(針状)に析出するウィスカーの生成および成長が大きく抑制される。実際には、負極3の表面のほぼ全体において緻密な亜鉛が均一に析出し、析出金属層が形成される。正極2では、正極触媒層22に含まれる正極触媒により酸素の発生が促進される。さらに、正極2では、カーボン素材を用いていないことにより、充電時に発生する酸素による酸化劣化が生じることはない。
【0028】
次に、正極触媒層22の詳細について述べる。正極触媒層22では、導電性を有する2種類のペロブスカイト型酸化物(例えば、LSM、LSCF、あるいは、LSMF)の粒子が正極触媒として分散している。一方の種類のペロブスカイト型酸化物の平均粒径は、2μm以上かつ9μm以下である。他方の種類のペロブスカイト型酸化物の平均粒径は、0.10μm以上かつ1.0μm以下である。このように、一方のペロブスカイト型酸化物の平均粒径は、他方のペロブスカイト型酸化物の平均粒径よりも大きい。以下の説明では、2種類のペロブスカイト型酸化物のうち、平均粒径が大きいペロブスカイト型酸化物を「第1ペロブスカイト型酸化物」と呼び、平均粒径が小さいペロブスカイト型酸化物を「第2ペロブスカイト型酸化物」と呼ぶ。第1ペロブスカイト型酸化物および第2ペロブスカイト型酸化物のそれぞれの粒径(直径)の標準偏差は、好ましくは、当該ペロブスカイト型酸化物の平均粒径以下であり、より好ましくは、当該平均粒径の半分以下である。
【0029】
図2は、正極触媒層22を電子顕微鏡により撮影した写真である。図2では、第1ペロブスカイト型酸化物の粒子に符号221を付し、第2ペロブスカイト型酸化物の粒子に符号222を付している。正極触媒層22は、第1ペロブスカイト型酸化物の粒子と第2ペロブスカイト型酸化物の粒子とを混合したものを比較的高温(例えば、1000℃)にて焼成することにより形成される。図2のように、粗大粒子である第1ペロブスカイト型酸化物の粒子が互いに接合することにより正極触媒層22の骨格構造が形成される。これにより、正極触媒層22の一定の機械的強度が保たれる。
【0030】
また、微小粒子である第2ペロブスカイト型酸化物の粒子が、第1ペロブスカイト型酸化物の粒子表面に接合する。仮に、一方のペロブスカイト型酸化物を他方のペロブスカイト型酸化物の粒子に単に担持させる場合には、両者の接合は不十分となるが、第1および第2ペロブスカイト型酸化物の粒子を焼成により接合させる正極触媒層22では、多数の接合部分(ネッキング部)が存在する。このようなネッキング部、すなわち、異種材料の界面(ヘテロ界面)では、高い触媒活性が得られる。したがって、正極触媒層22を有する金属空気電池1では、電池性能を向上することが可能となる。
【0031】
正極触媒層22に含まれる第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が9μmよりも大きい場合、当該正極触媒層22において第1ペロブスカイト型酸化物による骨格構造の形成を実現するには、焼成温度を高く設定しておく必要がある。この場合、第2ペロブスカイト型酸化物の粒子の焼結が過度に進み、当該粒子の形状が維持されなくなって表面積が減少し、電池性能が低下してしまう。また、第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が2μmよりも小さい場合、上記骨格構造の形成が困難になるとともに、正極触媒層22と隣接層との接着強度が低下してしまう。第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が1.0μmよりも大きい場合、ヘテロ界面の面積が十分ではなくなり、電池性能の向上が不十分となる。第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が0.10μmよりも小さい場合、正極触媒層22の焼成の際に、粒子の形状維持が困難になり、電池性能が低下する。
【0032】
正極触媒層22に含まれる第1ペロブスカイト型酸化物の体積は、第2ペロブスカイト型酸化物の体積の0.25倍以上であることが好ましい。これにより、第1ペロブスカイト型酸化物の体積が十分に確保され、正極触媒層22の強度がより確実に保たれる。また、第1ペロブスカイト型酸化物の体積は、第2ペロブスカイト型酸化物の体積の4倍以下であることが好ましい。これにより、正極触媒層22において多数のネッキング部が確保され、電池性能がより確実に向上する。
【0033】
好ましい金属空気電池1では、第1ペロブスカイト型酸化物および第2ペロブスカイト型酸化物の一方はLSMFであり、他方はLSCFである。LSCFよりも酸素還元反応に優れるLSMFにより、金属空気電池1における放電性能が向上する。また、LSMFよりも酸素発生反応に優れるLSCFにより、金属空気電池1における充電性能が向上する。正極触媒層22では、他のペロブスカイト型酸化物が利用されてもよい。第1ペロブスカイト型酸化物および第2ペロブスカイト型酸化物の一方が酸素還元反応に優れ、他方が酸素発生反応に優れることにより、放電反応および充電反応に優れた金属空気電池1が実現される。好ましくは、正極触媒層22は、2種類のペロブスカイト型酸化物のみにより構成される。金属空気電池1の設計によっては、正極触媒層22に他の材料が含まれてよい。
【0034】
金属空気電池1では、正極2がセパレータ41と一繋がりの部材として作製される。このような正極2の作製では、まず、導電性セラミックの粉末、有機バインダ、有機溶剤等を含む混合物の押出成形により筒状の成形体が形成される。導電性セラミックとして、例えば、ペロブスカイト型酸化物が利用される。そして、成形体の焼成により筒状の正極導電層21が多孔質の支持体として形成される。
【0035】
焼成の前に、成形体を100〜800℃で加熱処理して成形体中の有機成分を分解除去してもよい(焼成を伴う他の層の形成において同様)。焼成は、成形体が十分に焼結し、かつ、ガス透過性や電解液浸透性、電池性能を保持できる条件であればよく、900〜1500℃で行われることが好ましい。また、成形体を後述の他の層と共焼成してもよい。共焼成を行うことにより、成形体と当該層との間の接着強度を向上させることができる。また、各層を個別に焼成する場合に比べて、焼成工程のリードタイムを低減することができる。正極導電層21は、押出成形および焼成以外の手法にて形成されてよい。
【0036】
正極導電層21が準備されると、正極触媒、有機バインダ、有機溶剤等を含むスラリーを正極導電層21の外側面にスラリーコート法により成膜し、焼成することにより、正極触媒層22が形成される。既述のように正極触媒として、種類が互いに異なる第1ペロブスカイト型酸化物および第2ペロブスカイト型酸化物が利用される。例えば、第1ペロブスカイト型酸化物および第2ペロブスカイト型酸化物の一方はLSMFであり、他方はLSCFである。スラリーの膜の形成(成膜)は、キャスティング法、ディッピング法、スプレー法、印刷法等の様々な手法が利用可能である。正極2における各層の膜厚は、ガス透過性、電解液浸透性等、電池性能に関わる特性を保持させるという観点と、焼成時の焼成収縮を考慮して、適宜調整される。
【0037】
正極触媒層22の形成におけるスラリー膜の焼成は、例えば900〜1500℃で行われ、好ましくは1000℃付近で行われる。過度に低い温度で焼成を行うと、2種類のペロブスカイト型酸化物の粒子間におけるネッキングが不十分となり、ヘテロ界面の面積が十分に得られず、電池性能が低下してしまう。一方、過度に高い温度で焼成を行うと、平均粒径の小さい第2ペロブスカイト型酸化物の粒子の形状を維持することが困難となり、表面積が減少し、触媒性能が低下してしまう。焼成温度は、第1および第2ペロブスカイト型酸化物の配合比率や、平均粒径等によって任意に決定されてよい。正極触媒層22は、上記成膜および焼成以外の手法にて形成されてよい(インターコネクタ24、セパレータ41および撥液層29において同様)。
【0038】
正極触媒層22が形成されると、正極触媒層22の外側面に対して、一部の領域を除いてマスキングが行われる。続いて、ペロブスカイト型酸化物等の微細な粉末を含むスラリーを用いて、スラリーコート法により当該領域に対して膜が形成され、当該膜を焼成することにより、インターコネクタ24が形成される。なお、正極触媒層22とインターコネクタ24とが共焼成により形成されてもよい(焼成により形成される他の層において同様)。
【0039】
インターコネクタ24が形成されると、正極導電層21の内側面にスラリーコート法によりセパレータ形成材料を含むスラリーを成膜し、焼成することにより、セパレータ41が形成される。セパレータ形成材料として、例えば、絶縁性のセラミックが利用される。金属空気電池1の製造コストを削減するという観点では、セパレータ形成材料としてアルミナが用いられることが好ましい。また、セパレータ41の強度および安定性の観点では、セパレータ形成材料としてジルコニアが用いられることが好ましい。
【0040】
なお、セパレータ41にアルミナやジルコニア等を用い、正極導電層21にLSC(LaSrCoO)や、LSCFを用いた場合には、両者の間に反応相が形成されて、正極導電層21の導電率の低下や細孔の閉塞等が発生することがある。この場合には、セパレータ41と正極導電層21との間にセリア等を含む反応防止層を形成することが好ましい。また、セパレータ41と正極導電層21との間の線膨張係数差が大きい場合には、焼成時にクラックが発生することがある。この場合には、両者の間に線膨張係数差を緩和するための層を形成することが好ましい。
【0041】
正極導電層21に対して、正極触媒層22、インターコネクタ24およびセパレータ41が形成されると、正極触媒層22の外側面に撥液材料を含むスラリーを塗布し、焼成することにより、正極触媒層22の外側面近傍の部位が撥液層29となる。撥液材料を含むスラリーの塗布では、インターコネクタ24の部分をマスキングすることが好ましい。撥液材料として、例えば、FEPやPTFEが利用される。また、スラリーに増粘剤を必要量添加してスラリー粘度を調整することにより、正極触媒層22の深度方向への染み込み深さが調整される。これにより、正極触媒層22における細孔内の粒子表面が撥液材料により完全に覆われることを防止しつつ、正極触媒層22において三相界面を形成することが実現される。以上の処理により、セパレータ41を含む正極2が作製される。
【0042】
以上に説明したように、正極2の正極触媒層22では、互いに異なる第1ペロブスカイト型酸化物の粒子と第2ペロブスカイト型酸化物の粒子とが分散する。そして、第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、2マイクロメートル以上かつ9マイクロメートル以下であることにより、正極触媒層22の骨格構造が、大粒径触媒である第1ペロブスカイト型酸化物の粒子により強固に形成される。これにより、正極触媒層22の一定の強度を保つことが実現される。また、小粒径触媒である第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、0.10マイクロメートル以上かつ1.0マイクロメートル以下である。これにより、高い触媒活性が得られるヘテロ界面の総面積を大きくすることができ、金属空気電池1の電池性能を向上することが実現される。
【0043】
図1の金属空気電池1では、正極導電層21が支持体となるが、他の構成要素が支持体であってもよい。ここでは、セパレータ41が支持体となる例について述べる。支持体となるセパレータ41は、セラミックの多孔質焼結体である。当該セラミックとして、アルミナまたはジルコニア等が例示される。正極2は、電解質層4の一部であるセパレータ41の外側面に形成される。具体的には、セパレータ41の外側面上に正極導電層21が形成され、正極導電層21の外側面上に、正極触媒層22が形成される。正極導電層21は、例えば、ペロブスカイト型酸化物、有機バインダ、有機溶剤を含む所定のスラリーをセパレータ41の外側面に成膜し、焼成することにより形成される。成膜手法として、ドクターブレード法、圧延法、プレス法等が例示される。正極触媒層22、インターコネクタ24および撥液層29については、図1の金属空気電池1と同様である。
【0044】
セパレータ41が支持体となる金属空気電池1においても、正極導電層21をある程度大きい厚さにて形成することにより、正極2の全体における導電率を高くすることができ、一定の電池性能を確保することができる。また、正極触媒層22において、大粒径触媒である第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、2μm以上かつ9μm以下であることにより、正極触媒層22の一定の強度を保つことができる。さらに、小粒径触媒である第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、0.10μm以上かつ1.0μm以下であることにより、金属空気電池1の電池性能を向上することができる。
【0045】
次に、正極触媒層22における第1および第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径、並びに、体積比を変更した場合における、放電および充電性能、並びに、剥離強度について述べる。ここでは、正極導電層21が支持体となる正極2の評価用サンプルを作製した。
【0046】
評価用サンプルの作製では、まず、LaSrMnO(LSM)粉末(共立マテリアル社製)に対してカッターミルでの粗粉砕、および、ジェットミル(日清エンジニアリング社製)での粉砕を行った後、ターボクラシファイア(日清エンジニアリング社製)で分級を行い、平均粒径30μmのLSM粉末を得た。当該粉末の一部を、ZrOボールを用いて微粉砕し、平均粒径0.5μmのLSM粉末を得た。平均粒径30μmの粉末100質量部、平均粒径0.5μmの粉末5質量部、イオン交換水12質量部、バインダ(ユケン工業社製)12質量部、グリセリン4質量部を秤量して混合した混合物の押出成形により外径(直径)17.0mm、内径12.8mmの円筒管を成形した。当該円筒管を大気雰囲気中にて1450℃で5時間焼成し、その後、長さ70mmに切断した。これにより、支持体を兼ねる導電層(正極導電層21)となる円筒型の多孔質管を得た。
【0047】
ソルミックス(登録商標) H−37(日本アルコール販売社製)を75質量部、酢酸2―(2−n−ブトキシエトキシ)エチル(関東化学社製)を25質量部、エチルセルロース(東京化成工業社製)を3.4質量部秤量して混合し、1時間撹拌した。その後、アルミナ(例えば、昭和電工社製A−43−M)を32質量部となるよう秤量し、直径10mmの樹脂ボールおよび攪拌後の混合物と共にポットミル容器に入れ、ボールミルで50時間混合した。これにより、セパレータ用スラリーを得た。
【0048】
上記多孔質管の上開口にホース状キャップ(ロートの役割をするもの)を装着し、下開口に封止栓を装着した。上開口のホース状キャップはスラリーが溢れるのを防止するためのものである。ホース状キャップをした多孔質管の内部に、上開口から漏斗を使用してセパレータ用スラリーを注入した。スラリーが上部まで満たされた状態で1分間保持した。その後、下開口の封止栓を取り外し、スラリーを排出した。多孔質管を15時間以上室温で乾燥し、続いて、50℃で2時間以上乾燥させた。多孔質管を上下反転させて、上記作業をもう一度繰り返した。その後、多孔質管を1150℃で4時間焼成することで、多孔質管の内側面にセパレータを形成した。
【0049】
LaSrMnFeO(LSMF)粉末およびLaSrCoFeO(LSCF)粉末(共立マテリアル社製)に対してカッターミルでの粗粉砕、および、ジェットミルでの微粉砕を行った後、ターボクラシファイアで分級を行い、複数通りの平均粒径のLSMF粉末およびLSCF粉末を得た。また、ソルミックスH−37を75質量部、酢酸2―(2−n−ブトキシエトキシ)エチルを25質量部、エチルセルロースを5質量部秤量して混合し、1時間撹拌した。そして、LSMF粉末およびLSCF粉末を混合した混合粉末を、65質量部となるよう秤量し、直径10mmの樹脂ボールおよび攪拌後の混合物と共にポットミル容器に入れ、ボールミルで50時間混合した。これにより、触媒層用スラリーを得た。このとき、混合粉末におけるLSMF粉末とLSCF粉末との体積比および平均粒径を複数通りに変更して、複数種類の触媒層用スラリーを得た。
【0050】
各種類の触媒層用スラリーをメスシリンダーに注入し、多孔質管の上下の開口をシリコンゴムにて封止した状態で、多孔質管をメスシリンダーに挿入(ディップ)し、1分間保持した。続いて、30分の自然乾燥、および、80℃で1時間30分の乾燥を行った。その後、大気雰囲気中にて1150℃で5時間焼成を行った。これにより、多孔質管の外側面に触媒層を形成した。
【0051】
続いて、ソルミックスH−37を75質量部、酢酸2―(2−n−ブトキシエトキシ)エチルを25質量部、エチルセルロースを5質量部秤量して混合し、1時間撹拌した。平均粒径0.4μmのLSCF粉末を、40質量部となるよう秤量し、直径10mmの樹脂ボールおよび攪拌後の混合物と共にポットミル容器に入れ、ボールミルで50時間混合した。これにより、インターコネクタ用スラリーを得た。
【0052】
上記多孔質管の外側面において、インターコネクタ用の領域(周方向に180°の間隔で設定された2つの領域)以外をマスキングした。インターコネクタ用スラリーをメスシリンダーに注入し、多孔質管の上下の開口をシリコンゴムにて封止した状態で、多孔質管をメスシリンダーに挿入(ディップ)し、1分間保持した。続いて、30分間の自然乾燥、および、80℃で1時間30分の乾燥を5度繰り返した。その後、大気雰囲気中にて1150℃で4時間焼成を行った。このようにして、多孔質管にインターコネクタを形成した。
【0053】
FEPディスパージョン(三井・デュポン フロロケミカル社製)原液を20質量部に希釈し、増粘剤としてアルコックス(登録商標)E−30(名成化学工業社製)を2.5質量部秤量し、FEP希釈溶液に増粘剤が塊にならないように撹拌しながら少量ずつ添加した。
【0054】
多孔質管のインターコネクタ部分に、撥液層がインターコネクタと重なる部分の幅が1mmになるようにテープで被覆し、多孔質管を上述のディスパージョンに1分間浸漬させた。続いて、室温で30分、60℃で15時間乾燥させ、さらに、大気雰囲気中にて280℃で50分間焼成を行った。これにより、多孔質管における触媒層の外側面近傍の部位に撥液層を形成した。
【0055】
既述のように、LSMF粉末とLSCF粉末との体積比および平均粒径が異なる複数種類の触媒層用スラリーを用いて、サンプルA1〜A10およびサンプルB1〜B6を作製した。図3では、サンプルA1〜A10およびサンプルB1〜B6のそれぞれにおける、第1ペロブスカイト型酸化物(大粒径触媒)の材料および平均粒径、第2ペロブスカイト型酸化物(小粒径触媒)の材料および平均粒径、並びに、第1および第2ペロブスカイト型酸化物の体積比(第1ペロブスカイト型酸化物の体積:第2ペロブスカイト型酸化物の体積)を示している。ここでは、各サンプルを破断して断面を走査型電子顕微鏡で撮影し、第1ペロブスカイト型酸化物および第2ペロブスカイト型酸化物のそれぞれに関して、インターセプト法を用いて50個の粒子の粒径を算出し、その平均値を平均粒径とした。なお、サンプルB2の作製においてのみ、触媒層の形成時における焼成温度を1250℃とした。
【0056】
また、図3では、サンプルA1〜A10およびサンプルB1〜B6を用いた電池性能評価の結果、および、触媒層の強度評価の結果も示している。電池性能評価では、各サンプルの内側にZnを2g電析させたCuコイル(負極)を挿入し、電解液(7M(モーラー)のKOHおよび0.65MのZnO(酸化亜鉛)を含む。)を当該サンプルの内側に循環させ、室温にて電池の放電および充電性能を測定した。放電性能においては、出力密度が45mW/cm以上を◎、40mW/cm以上45mW/cm未満を〇、35mW/cm以上40mW/cm未満を△、35mW/cm未満を×とした。また、充電性能においては、充電電圧が2.0V以下を◎、2.0Vよりも大きく2.2V以下を○、2.2Vよりも大きく2.4V以下を△、2.4Vよりも大きいものを×とした。触媒層の強度評価では、触媒層表面に20mm×15mmのセロハンテープを貼り、引き剥がすテープピール試験を実施し、触媒層および導電層で剥離が発生しなかったものを○、剥離が発生したものを×とした。
【0057】
大粒径触媒である第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が0.7μmと小さいサンプルB1では、第1ペロブスカイト型酸化物による骨格構造が適切に形成されないため、触媒層の強度が低下した。第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が10.2μmと過度に大きいサンプルB2では、第1ペロブスカイト型酸化物による骨格構造の形成のために焼成温度を高く設定する必要が生じ、これにより、小粒径触媒である第2ペロブスカイト型酸化物の粒子の焼結が過度に進んで当該粒子の形状が維持されず、電池性能が低下した。サンプルB3およびB5では、第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が0.05μmおよび0.06μmと過度に小さいため、第2ペロブスカイト型酸化物の粒子の焼結が進んで当該粒子の形状が維持されず、電池性能が低下した。第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が1.7μmおよび1.5μmと大きいサンプルB4およびB6では、ヘテロ界面が十分に形成されず、電池性能が低下した。
【0058】
これに対し、サンプルA1〜A10では、電池性能および触媒層の強度の双方において良好な結果が得られた。したがって、第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が2μm以上かつ8μm以下であり、第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が0.10μm以上かつ0.8μm以下であることにより、触媒層の一定の強度を保ちつつ電池性能を向上することができることが明らかである。
【0059】
実際には、第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径がおよそ8μmであるサンプルA3およびA8では、第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径がおよそ10μmであるサンプルB2よりも電池性能が十分に高い。したがって、第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が9μm以下であれば、電池性能を向上することができるといえる。また、第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径がおよそ0.80μmであるサンプルA5では、第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が1.72μmおよび1.54μmであるサンプルB4およびB6よりも電池性能が十分に高い。したがって、第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が1.0μm以下であれば、電池性能を向上することができるといえる。
【0060】
第1および第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が互いに近似するサンプルA9、A2およびA10の電池性能の結果から、体積比が2:8、5:5および8:2のいずれの場合でも、一定の充電および放電性能が確保されることが判る。したがって、触媒層に含まれる第1ペロブスカイト型酸化物の体積が、第2ペロブスカイト型酸化物の体積の0.25倍(体積比が2:8に相当)以上かつ4倍(体積比が8:2に相当)以下であることにより、電池性能をより確実に向上することができる。
【0061】
サンプルA1、A2、A4およびA6の電池性能の結果から、電池性能をさらに向上するには、触媒層に含まれる第1ペロブスカイト型酸化物の体積と、第2ペロブスカイト型酸化物の体積とがおよそ等しく、第1ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、4μm以下であり、第2ペロブスカイト型酸化物の平均粒径が、0.5μm以下であることが好ましいといえる。例えば、体積比が4:6〜6:4の範囲内であれば、第1および第2ペロブスカイト型酸化物の体積がおよそ等しいと捉えることが可能である。
【0062】
上記金属空気電池1では様々な変形が可能である。
【0063】
上記実施の形態では、正極2および電解質層4が、負極3を中心として筒状に配置されるが、金属空気電池1において、筒状の正極2の周囲に負極3が設けられてもよい。また、正極2および負極3が板状であってもよい。金属空気電池1では、必ずしも電解液を循環させる必要はない。デンドライトの発生が問題とならない場合等には、セパレータ41が省略されてよい。
【0064】
上記正極触媒層22を有する電極は、亜鉛空気二次電池以外の金属空気二次電池における正極として用いられてよい。
【0065】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0066】
1 金属空気電池
2 正極
3 負極
4 電解質層
21 正極導電層
22 正極触媒層
図1
図2
図3