特許第6562817号(P6562817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562817
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】電気炉の原料溶解方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/52 20060101AFI20190808BHJP
   F27B 3/08 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   C21C5/52
   F27B3/08
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-217506(P2015-217506)
(22)【出願日】2015年11月5日
(65)【公開番号】特開2017-88927(P2017-88927A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日鉄日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】多田 信太郎
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102443678(CN,A)
【文献】 特開2000−226612(JP,A)
【文献】 特開2001−158908(JP,A)
【文献】 特開2000−171158(JP,A)
【文献】 特開昭60−248811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/52
F27B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に装入した含クロム原料を助燃バーナーで加熱しながら電力によって溶解する電気炉の原料溶解方法であって、
前記炉内の前記含クロム原料が溶解するまでの期間を溶解期とし、
前記溶解期の途中で前記助燃バーナーの着熱燃焼を止めること
を含み、
前記溶解期中に行われる前記着熱燃焼では、前記助燃バーナーへの燃料供給量が増加及び維持の少なくとも一方とされて減少されない
ことを特徴とする電気炉の原料溶解方法。
【請求項2】
前記着熱燃焼を止めるタイミングは、前記助燃バーナーの設置高さの前記含クロム原料が溶解したか否かに基づいて決定される
ことを特徴とする請求項1記載の電気炉の原料溶解方法。
【請求項3】
前記着熱燃焼は、前記助燃バーナーへの燃料の最大供給量をFmaxとした場合に、前記助燃バーナーへの燃料供給量Fが0.6Fmax≦F≦Fmaxを満たす燃焼である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気炉の原料溶解方法。
【請求項4】
前記着熱燃焼を止めた後、前記助燃バーナーのノズル詰まりを防止するための維持燃焼を行うこと
をさらに含む請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の電気炉の原料溶解方法。
【請求項5】
前記維持燃焼は、前記助燃バーナーへの燃料の最大供給量をFmaxとした場合に、前記助燃バーナーへの燃料供給量Fが0.03Fmax≦F≦0.1Fmaxを満たす燃焼である
ことを特徴とする請求項4記載の電気炉の原料溶解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉内に装入した含クロム原料を助燃バーナーで加熱しながら電力によって溶解する電気炉の原料溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来用いられていたこの種の電気炉の原料溶解方法としては、例えば下記の特許文献1等に示されている電気炉の原料溶解方法が用いられている。すなわち、従来方法では、炉内に装入した含クロム原料を助燃バーナーで加熱しながら電力によって溶解している。炉内の含クロム原料が溶解するまでの期間が溶解期とされて、溶解期の全期間を通して助燃バーナーにより含クロム原料が加熱される。また、溶解期中の所定タイミングで助燃バーナーへの燃料供給量を減少させて、燃料を効率的に使用することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4390890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の電気炉の原料溶解方法では、溶解期の全期間を通して助燃バーナーにより含クロム原料が加熱されているので、溶解期の全期間を通して助燃バーナーから炉内に酸素が供給される。溶解期の全期間を通して炉内に酸素が供給されると、クロムの酸化が進むとともに、酸化したクロムの還元反応も抑制される。
【0005】
また、助燃バーナーから炉内への酸素供給を減らすために溶解期の途中で助燃バーナーの燃料供給量をより少なくすることも考えられるが、上記した従来方法のように溶解期中の所定タイミングで助燃バーナーへの燃料供給量を減少させた場合、助燃バーナーにより炉内に投入すべき熱量を投入するのに要する時間が長くなり、助燃バーナーの燃料供給量をより少なくする期間、すなわち酸素供給を減らす期間が短くなる。このため、酸化したクロムの還元反応が行われる期間を溶解期中に十分に確保できず、溶融金属中のクロム濃度が低くなってしまう。溶融金属中のクロム濃度が低くなる場合、より多くの含クロム原料を炉内に投入する必要があり、クロム含有金属の製造コストが増大してしまう。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、酸化したクロムの還元反応が行われる期間を溶解期の中でより長く確保でき、溶融金属中のクロム濃度を向上させることができる電気炉の原料溶解方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電気炉の原料溶解方法は、炉内に装入した含クロム原料を助燃バーナーで加熱しながら電力によって溶解する電気炉の原料溶解方法であって、炉内の含クロム原料が溶解するまでの期間を溶解期とし、溶解期の途中で助燃バーナーの着熱燃焼を止めることを含み、溶解期中に行われる着熱燃焼では、助燃バーナーへの燃料供給量が増加及び維持の少なくとも一方とされて減少されない。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電気炉の原料溶解方法によれば、溶解期の途中で助燃バーナーの着熱燃焼を止めるとともに、溶解期中に行われる着熱燃焼では、助燃バーナーへの燃料供給量が増加及び維持の少なくとも一方とされて減少されないので、酸化したクロムの還元反応が行われる期間を溶解期の中でより長く確保でき、溶融金属中のクロム濃度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1による電気炉の原料溶解方法が適用される電気炉を示す構成図である。
図2】本発明の電気炉の原料溶解方法における電力供給制御及び燃料供給御を示す説明図である。
図3図2の電気炉の原料溶解方法を実施した際の電気炉スラグに含まれるクロム酸化物濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による電気炉の原料溶解方法が適用される電気炉を示す構成図である。本実施の形態の電気炉は、ステンレス鋼スクラップ、鉄スクラップ、フェロニッケル及びフェロクロムの混合物等の含クロム原料1を溶解して、ステンレス鋼等の含クロム金属を製造するために用いられるものである。しかしながら、電気炉の使用用途は、ステンレス鋼の製造に限定されず、他の含クロム金属の製造であってもよい。
【0011】
図1に示すように、電気炉には、炉本体2、炉蓋3、複数の電極4及び複数の助燃バーナー5が設けられている。
【0012】
炉本体2は、有底筒状の容器である。炉本体2の内部には含クロム原料1が装入されている。炉本体2には、溶解された含クロム金属(溶融金属)を炉本体2から注ぎ出すための出鋼口2aが設けられている。
【0013】
炉蓋3は、炉本体2を上方から塞ぐ蓋体である。電極4は、炉本体2の周方向に互いに間隔を置いて配置されており、炉蓋3を通して炉本体2の内部に挿通されている。電極4に電力が供給されることで、電極4からアーク熱が放出されて炉本体2内の含クロム原料1が溶解される。
【0014】
助燃バーナー5は、電極4による金属原料の溶解を補助するために燃料と酸素とを炉本体2内部に吹き込み燃焼させるものであり、炉本体2の側壁に取り付けられている。すなわち、本実施の形態の電気炉では、炉内に装入した含クロム原料1が助燃バーナー5で加熱されながら電力によって溶解される。図1では1つの助燃バーナー5のみを示しているが、炉本体2の周方向に互いに間隔を置いて複数の助燃バーナー5が炉本体2の側壁に取り付けられている。本実施の形態の助燃バーナー5は、図1において一点鎖線で示すように出鋼口2aと同じ高さ位置に設置されている。助燃バーナー5の設置高さは、燃焼炎を放射するノズルの位置により定義できる。
【0015】
電気炉による含クロム金属の製造工程は、点弧期、ボーリング期、湯溜形成期、主溶解期、溶解末期及び昇熱期と分類される炉期に従って進行される。
点弧期は、電極4からのアークを電極4と含クロム原料1との間で安定される炉期である。
ボーリング期は、電極4の直下に位置する含クロム原料1を溶解しながら、含クロム原料1の中に電極4を潜らせる炉期である。
湯溜形成期は、炉本体2の炉床を保護するための溶解金属を炉下部に形成する炉期である。
主溶解期は、電極4に最大電力を投入し、含クロム原料1を迅速に溶解する炉期である。この主溶解期は、溶解状況に合わせて主溶解前期と主溶解後期との2つの炉期に分割して扱うこともできる。炉内原料嵩が低下する主溶解後期では電圧を低下させてもよい。
溶解末期は、電圧を下げながら炉内の溶け残りを溶解する炉期である。
昇熱期は、溶解された含クロム金属を所定温度まで昇温する炉期である。
【0016】
本発明では、炉内の含クロム原料1が溶解するまでの期間、すなわち点弧期から溶解末期までの炉期が溶解期と扱われる。
【0017】
次に、図2は、本発明の電気炉の原料溶解方法における電力供給制御及び燃料供給御を示す説明図である。図2は、炉本体2に含クロム原料1が3回に分けて装入される態様を示している。しかしながら、炉本体2への含クロム原料1の装入回数は、1回であってもよいし、2回又は4回以上であってもよい。
【0018】
図2において、網掛は電極4への電力供給量を示している。
1回目の含クロム原料1の装入に対応する第1溶解期は、点弧期t1、ボーリング期t2、湯溜形成期t3、主溶解前期t4及び主溶解後期t5によって構成されている。
2回目の含クロム原料1の装入に対応する第2溶解期は、点弧期t1、ボーリング期t2、主溶解前期t4及び主溶解後期t5によって構成されている。
3回目の含クロム原料1の装入に対応する第3溶解期は、点弧期t1、ボーリング期t2、主溶解前期t4、主溶解後期t5及び溶解末期t6によって構成されている。
【0019】
第2及び第3溶解期は、湯溜形成期t3を欠いている。これは、第2及び第3溶解期では、第1溶解期において湯溜が既に形成されているためである。第3溶解期に溶解末期6tが含まれるのは、第3溶解期が最後の溶解期であり、炉内の溶け残りを溶解する必要があるためである。すなわち、溶解末期t6は、炉本体2への含クロム原料1の装入回数に応じた最後の溶解期に含まれる。
【0020】
また、図2において、太線は助燃バーナー5への燃料供給量を示している。助燃バーナー5の燃焼は、炉本体2への含クロム原料1の装入毎に、すなわち第1〜第3溶解期毎に燃料供給量によって制御されている。
【0021】
助燃バーナー5の燃焼には、着熱燃焼b1と維持燃焼b2とが含まれている。
着熱燃焼b1は、炉内の含クロム原料1を加熱するための燃焼である。この着熱燃焼b1は、助燃バーナー5への燃料の最大供給量をFmaxとした場合に、助燃バーナー5への燃料供給量Fが0.6Fmax≦F≦Fmaxを満たす燃焼として定義することができる。
維持燃焼b2は、助燃バーナー5のノズル詰まりを防止するための燃焼であり、着熱燃焼b1が行われていないときに行われる。維持燃焼b2は、助燃バーナー5への燃料の最大供給量をFmaxとした場合に、助燃バーナー5への燃料供給量Fが0.03Fmax≦F≦0.1Fmaxを満たす燃焼として定義することができる。
【0022】
着熱燃焼b1は、溶解期の開始とともに行われる。図2では、溶解期の開始に対して着熱燃焼b1が遅れて開始されるように示しているが、溶解期の開始と同時に着熱燃焼b1が開始されてもよい。
【0023】
着熱燃焼b1は、溶解期の途中で止められる。着熱燃焼b1が止められた後は、維持燃焼b2が行われる。溶解期の途中で着熱燃焼b1が止められることで、助燃バーナー5から炉内への酸素供給を止めることができる。炉内への酸素供給が止められることで、クロムの酸化が抑制されるとともに、酸化したクロムの還元反応が促進される。
【0024】
本実施の形態の着熱燃焼b1では、助燃バーナー5への燃料供給量が増加及び維持の少なくとも一方とされて減少されない。仮に、着熱燃焼b1中に助燃バーナー5への燃料供給量が減少された場合、助燃バーナー5により炉内に投入すべき熱量を投入するのに要する時間が長くなる。すなわち、本実施の形態のように着熱燃焼b1中に助燃バーナー5への燃料供給量が減少されないことで、助燃バーナー5により炉内に投入すべき熱量をより早期に投入することができ、溶解期中に着熱燃焼b1を止める期間を長くすることがでる。これにより、酸化したクロムの還元反応が行われる期間を溶解期の中でより長く確保でき、溶融金属中のクロム濃度を向上させることができる。
【0025】
着熱燃焼b1を止めるタイミングは、助燃バーナー5の設置高さの原料が溶解したか否かに基づいて決定される。助燃バーナー5の設置高さの原料が溶解した後にも着熱燃焼b1を継続した場合、溶融金属に燃焼炎及び酸素が直接触れて、溶融金属中のクロムが酸化されやすいためである。本実施の形態の構成のように出鋼口2aと同じ高さ位置に助燃バーナー5が設置されている場合、出鋼口2aから見える原料が溶解したか否に基づいて着熱燃焼b1を止めるタイミングを決定することができる。なお、助燃バーナー5の設置高さの原料が溶解するのと同時期に着熱燃焼b1を止めることが好ましいが、助燃バーナー5により炉内に投入すべき熱量に応じて着熱燃焼b1を延長することもできる。着熱燃焼b1を延長する場合でも、より早期に着熱燃焼b1を止めることが好ましい。
【0026】
なお、図2では、着熱燃焼b1を開始した後に最大供給量Fmaxまで燃料供給量を徐々に増す態様を示している。より早期により多くの熱量を炉内に投入して着熱燃焼b1を止める期間を長くするとの観点から、燃料供給量をより早期に最大供給量Fmaxまで増大させ、燃料供給量を増す期間は短い方が好ましい。機器の条件により、着熱燃焼b1の開始から最大供給量Fmaxを助燃バーナー5に供給してもよい。
【0027】
次に、実施例を挙げる。図3は、溶解期中の全期間において助燃バーナーへの燃料供給を継続する第1比較例としての電力供給制御及び燃料供給御を示す説明図である。図3に示す第1比較例では、特許文献1と同様に炉内の原料嵩が低下した段階で燃料供給量を最大燃料供給量Fmaxの半量まで燃料供給量を低下させている。以下の表1に、図2の電気炉の原料溶解方法を行った場合(発明例)、図3に示す態様にて電力供給制御及び燃料供給御を行った場合(第1比較例)及び助燃バーナー5を用いないことを除いて発明例と同条件で操業した場合(第2比較例)のスラグ中のクロム酸化物(Cr)の濃度を示す。
【表1】
【0028】
電気炉スラグに含まれるクロム酸化物(Cr)の濃度が低いほど、電気炉で製造される含クロム金属に多くのクロムが含有されていることになる。表1に示すように、図2の電気炉の原料溶解方法(発明例)を実施した場合、電気炉スラグ中のクロム酸化物濃度は平均で2.7%程度であった。この濃度は、助燃バーナー5を用いないことを除いて同条件で操業した第2比較例のクロム酸化物濃度(2.3%)と同程度であり、溶解期中の全期間において助燃バーナーへの燃料供給を継続した第1比較例のクロム酸化物濃度(5.0%)よりも低下している。これにより、本実施の形態の電気炉の原料溶解方法により、溶融金属中のクロム濃度を向上させることができることが確認された。
【0029】
このような電気炉の原料溶解方法では、溶解期の途中で助燃バーナー5の着熱燃焼b1を止めるとともに、溶解期中に行われる着熱燃焼では、助燃バーナー5への燃料供給量が増加及び維持の少なくとも一方とされて減少されないので、酸化したクロムの還元反応が行われる期間を溶解期の中でより長く確保でき、溶融金属中のクロム濃度を向上させることができる。
【0030】
また、着熱燃焼を止めるタイミングは、助燃バーナー5の設置高さの含クロム原料1が溶解したか否かに基づいて決定されるので、溶融金属に燃焼炎及び酸素が直接触れることを抑え、溶融金属中のクロムが酸化されることを抑制することができる。
【0031】
さらに、着熱燃焼b1は、助燃バーナーへの燃料供給量Fが0.6Fmax≦F≦Fmaxを満たす燃焼であるので、より確実に酸化したクロムの還元反応が行われる期間を溶解期の中でより長く確保できる。
【0032】
さらにまた、着熱燃焼b1を止めた後、助燃バーナー5のノズル詰まりを防止するための維持燃焼b2を行うので、炉内への酸素供給を少なく抑えつつノズル詰まりを防止できる。
【0033】
また、維持燃焼b2は、助燃バーナー5への燃料供給量Fが0.03Fmax≦F≦0.1Fmaxを満たす燃焼であるので、より確実に炉内への酸素供給を少なく抑えつつノズル詰まりを防止できる。
【符号の説明】
【0034】
1 含クロム原料
2 炉本体
3 炉蓋
4 電極
5 助燃バーナー
b1 着熱燃焼
b2 維持燃焼
図1
図2
図3