(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
通気性フィルムは、例えばリチウム二次電池およびキャパシタのセパレータとして、広く使用されている。また、電子基板、チップパッケージおよび回路ボード等の電子デバイス用基板材料、ならびに液体および気体のフィルタ等としても広く利用されている。
【0003】
リチウム二次電池やキャパシタのセパレータとしては、通常、ポリオレフィンからなる通気性フィルムが用いられる。これらポリオレフィン製セパレータは、150℃程度の高温になると収縮や破断が起こりやすいので、場合によっては、正極と負極が直接接触して、短絡を起こすおそれがあり、短絡による異常発熱を抑制できないことがある。従い、このような高温でも充分に絶縁性が確保できるセパレータが求められている。
【0004】
このような問題を解決する方法として、ポリエステル製不織布やアルミナ短繊維からなる不織布等に、フィラーを配合したバインダ樹脂を含浸することにより、高温での形状安定性が付与されたセパレータが提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
しかしながら、このような方法では、基材である不織布そのものの剛性が低く、高温での形状安定性は必ずしも充分ではなかった。得られた通気性フィルムをリチウム二次電池やキャパシタのセパレータとして使用する場合、剛性が低く、短絡を起こすおそれがあり、セパレータとしての使用に耐えない。また不織布を用いた場合、形成される気孔の均一性が低いので、通気斑を生じることがあった。通気斑が生じると、自己放電等の問題が起こるので、セパレータとしての使用に耐えない。
【0006】
このような問題を解消する方法として、高温での形状安定性が良好で、かつ気孔の均一性が良好な、ガラス繊維織物を用いたセパレータが提案されている。例えば、特許文献3,4には、相分離法により微多孔構造が形成されたバインダ樹脂を含浸したガラス繊維織物からなるセパレータが提案されている。相分離法では、例えば、バインダ樹脂と溶剤を高温で混合して調製した均一溶液を、Tダイ法、インフレーション法等でフイルム化した後、冷却して相分離させ、溶剤を別の揮発性溶剤で抽出除去することにより、微多孔構造が形成される。しかしながら、このような方法においては、バインダ樹脂が含浸されたガラス繊維織物にピンホール等が発生しやすく均一な通気性が損なわれるという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
[通気性フィルム]
本発明の通気性フィルムは、ガラス繊維織物にバインダ樹脂が含浸された通気性フィルムである。
【0020】
本発明において使用されるガラス繊維織物は、複数のガラス繊維からなる糸を用いて形成された織物である。ガラス繊維織物のガラス繊維の組成は、無アルカリ(E)ガラス、低誘電(D)ガラス、アルカリ(A)ガラス等制限はないが、無アルカリガラスを原料とするガラス繊維織物が好ましい。このガラス繊維織物の好ましい厚みは50μm以下であり、30μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることが更に好ましい。ガラス繊維織物の厚みの下限値は特に限定されないが、当該厚みは通常、5μm以上であり、好ましくは10μm以上である。ガラス繊維織物の厚みは、JIS K7130−1992に基づいて測定される。
【0021】
ガラス繊維織物を構成するガラス繊維フィラメントの平均径は5μm以下が好ましい。ガラス繊維フィラメントの平均径の下限値は特に限定されないが、当該平均径は通常、1μm以上であり、好ましくは3μm以上である。
【0022】
ガラス繊維織物を形成する糸は、例えば特許第4192054号公報に開示されたような方法で開繊処理されていることが好ましい。開繊方法としては、公知の方法であってよく、例えば水等の流体の圧力による開繊方法、液体を媒体とした高周波の振動による開繊方法、ロールによる加圧での加工による開繊方法等が挙げられる。このように開繊することにより、ガラス繊維織物への樹脂含浸を容易に行うことができる。
【0023】
ガラス繊維織物の織組織は平織り、綾織り、朱子織等いずれも使用できるが、平織のガラス繊維織物が好ましい。
【0024】
ガラス繊維織物は、バインダ樹脂との界面親和性を高めるために、シランカップリング剤等で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(塩酸塩)、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、及びγ−クロロプロピルトリメトキシシラン等から選ばれる1種以上が挙げられる。本発明においては、前記シランカップリング剤が、N−ビニルベンジル−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(塩酸塩)若しくはγ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、又はこれらの混合物であることが好ましい。シランカップリング剤を用いた表面処理は、シランカップリング剤を通常約0.01〜20質量%程度、好ましくは約0.1〜5質量%程度の濃度に溶解した溶液にガラス繊維またはその織物を浸漬、必要に応じ加水分解した後、加熱して行われる。
【0025】
本発明において使用されるガラス繊維織物の通気度は、JIS規格P8117に基づくガーレ値で1秒/100cc未満である。
【0026】
ガラス繊維織物の目付は通常、10〜40g/m
2であり、好ましくは15〜35g/m
2である。
【0027】
前記ガラス繊維織物は、市販品を利用することができる。市販品としては、ユニチカ株式会社製ガラス繊維織物品番E01Z、E01S、E02R、E03E等を例示することができる。
【0028】
本発明の通気性フィルムは、前記ガラス繊維織物の表面(前面および裏面の両面)が全面的にバインダ樹脂で被覆されている。バインダ樹脂で全面的に被覆されているかどうかは、例えば、デジタルマイクロスコープ(SEM 倍率300倍)でその表面(前面および裏面の両面)のデジタル画像を取得することにより判定することができる。この画像において面積が10μm
2以上の気孔が全く観察されない場合、表面が全面的にバインダ樹脂で被覆されていると判定される。逆に、この画像において面積が10μm
2以上の気孔が1個以上観察された場合は、全面的にバインダ樹脂で被覆されていないと判定される。面積10μm
2以上の気孔が1個以上観察されると、通気性フィルムをリチウム二次電池のセパレータとして使用した場合、自己放電等の問題が生じる。
【0029】
前記判定方法において、気孔とは、デジタル画像による表面の外観上、バインダ樹脂が存在しない領域のことである。一般的には、ガラス繊維織物にバインダ樹脂を含浸させても、含浸されない領域(ピンホール)が局所的に生じることがある。このようなバインダ樹脂が存在しない領域はデジタル画像上、その周辺のバインダ樹脂が存在する領域と、色、厚み等の差異に基づいて、明らかに区別できるものである。本発明の通気性フィルムにおいては、そのような気孔が1つも存在しない。
【0030】
本発明の通気性フィルムにおいては、ガラス繊維織物の表面が、全面的にバインダ樹脂で被覆されているにも拘わらす、良好な通気性を有する。これはガラス繊維織物の糸の構成繊維間に均一かつ微細な直線状の気孔が形成されているからと推定される。詳しくは、本発明の通気性フィルムにおいては、ガラス繊維織物の表面が全面的にバインダ樹脂で被覆されて、ガラス繊維織物の糸を構成する複数のガラス繊維間にバインダ樹脂が十分に充填されている。そのようなガラス繊維間でのバインダ樹脂の存在にも拘わらず、ガラス繊維間において当該ガラス繊維に対して略平行に気孔が形成されているため、良好な通気性を有するものと考えられる。
【0031】
本発明で用いられるバインダ樹脂の種類に制限は無いが、例えば、変性ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキサイド、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等を挙げることができ、これらを混合して用いることも可能である。これらの中でも、特に、ガラス繊維織物との接着性の観点から、変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0032】
変性ポリオレフィン系樹脂としては、ポリオレフィンに対して不飽和カルボン酸がランダム共重合またはグラフト共重合した構造を有する共重合体を用いることが好ましい。
【0033】
変性ポリオレフィン系樹脂の骨格となるポリオレフィンの具体例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブタジエン等を挙げることができる。
【0034】
不飽和カルボン酸は、1分子中、少なくとも1つのラジカル重合性結合(特に二重結合)と少なくとも1つのカルボキシル基を有する不飽和カルボン酸およびその無水物である。その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸等を挙げることができる。変性ポリオレフィン系樹脂は不飽和カルボン酸として2種類以上の化合物を含有してもよい。ポリオレフィン樹脂への導入のし易さの点および前記シランカップリング剤で処理されたガラス繊維織物との接着性確保の点から、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0035】
変性ポリオレフィン系樹脂は、所定のモノマーを界面重合法、溶液重合法、懸濁重合法等の公知の方法により重合させることにより製造することもできるし、または市販品として水を主分散媒とした水性エマルジョン、有機溶媒を主溶媒とした溶液等の形態で入手することもできる。変性ポリオレフィン系樹脂は、環境適合性の観点から、水性エマルジョン形態のものを用いることが好ましい。変性ポリオレフィン系樹脂の水性エマルジョンは、例えば、特許第3699935号、特許第3759160号公報等に記載された方法で製造することができる。市販品としては、ユニチカ株式会社製「アローベース」(商品名)の品番SA−1200、SB−1200、SE−1200、SB−1010等を例示することができる。このような市販品は変性ポリオレフィン系樹脂の水性エマルジョンである。
【0036】
変性ポリオレフィン系樹脂としては、組成、分子量および/または融点が異なる2種以上の変性ポリオレフィン系樹脂を用いてもよい。このとき、2種以上の変性ポリオレフィン系樹脂はそれぞれが上述の範囲のものであればよい。
【0037】
変性ポリオレフィン系樹脂中には、耐熱性を向上させるため架橋剤を配合することが好ましい。
【0038】
架橋剤はバインダ樹脂、特に変性ポリオレフィン系樹脂の架橋剤であり、例えば、バインダ樹脂が有するカルボキシル基や酸無水物基と反応し得る反応性基を1分子中、2個以上有する有機化合物(熱可塑性または熱硬化性の高分子を含む)である。架橋剤の具体例としては、オキサゾリン系、メラミン系、エポキシ系等の架橋剤を挙げることができ、オキサゾリン系の架橋剤が好ましい。
【0039】
オキサゾリン系架橋剤は1分子中、オキサゾリン基を2個以上有する有機化合物(熱可塑性または熱硬化性の高分子を含む)である。オキサゾリン系架橋剤としては、日本触媒株式会社製のWS−700等として入手可能である。
【0040】
架橋剤が配合される場合、架橋剤の配合量は、バインダ樹脂の含浸量をより一層十分に確保し、かつ糸の構成繊維間において直線状の気孔をより一層十分に形成する観点から、バインダ樹脂、特に変性ポリオレフィン系樹脂に対して3〜30質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。2種類以上の架橋剤を使用する場合、それらの合計配合量が前記配合量の範囲内であればよい。
【0041】
本発明の通気性フィルムにおいて、バインダ樹脂の含浸量は、ガラス繊維織物に対して5〜40質量%が好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。バインダ樹脂に架橋剤が配合される場合、バインダ樹脂および架橋剤の合計含浸量がバインダ樹脂の含浸量である。
【0042】
本発明の通気性フィルムは通気度が、ガーレ値(JIS規格P8117)で1000秒/100cc以下1秒/100cc以上であり、好ましい通気度は、600秒/100cc以下100秒/100cc以上である。本発明においては、このような通気度を有するという意味で「通気性」との表現を用いている。通気度を前記のようにすることにより、リチウム二次電池用セパレータとして用いた場合、良好なイオン透過性を確保することができる。本発明において前記通気度はバインダ樹脂の含浸量を調整することにより制御することができる。バインダ樹脂の含浸量が多いほど、前記通気度は増加する。
【0043】
本発明の通気性フィルムは通気斑が、通気性フィルムの任意の箇所10点のガーレ値(JIS規格P8117)の平均値に対し±25%以下であることが好ましく、±20%以下であることがさらに好ましい。このようにすることにより、均一な通気性が確保される。本発明において前記通気斑は基材としてガラス繊維織物を用いること、および後述の再開繊処理を行うことにより確保される。
【0044】
本発明の通気性フィルムの耐熱性としては、150℃処理での形状維持率が98%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。ここで、150℃での形状維持率は、通気性フィルムを、8cm×8cmに切り出し、その中に6cm×6cmの四角を書き入れた通気性フィルムを、150℃のオーブンに30分入れて加熱し、加熱後のフィルムの線間隔を測定することにより算出することができる。このようにすることにより、例えば、耐熱性を有するリチウム2次電池用セパレータとして好適に用いることができる。本発明において前記耐熱性は基材としてガラス繊維織物を用いることにより確保される。
【0045】
[通気性フィルムの製造方法]
本発明の通気性フィルムは、例えば、以下の3工程により容易に得ることができる。
【0046】
<第1工程>
前記バインダ樹脂を溶液もしくはエマルジョンとし、前記ガラス繊維織物に含浸するための含浸液(以下、単に「含浸液」と略記することがある)を調製する。この含浸液には、前記した架橋剤、ポリオレフィン系樹脂粒子等の有機高分子の微粒子、およびアルミナ等の無機酸化物からなる微粒子等が配合されていてもよい。また、エマルジョン安定剤、各種界面活性剤等が配合されていてもよい。
【0047】
含浸液のバインダ樹脂濃度は特に制限されない。例えば、バインダ樹脂濃度が薄すぎて、バインダ樹脂の所望の含浸量が達成されない場合には、第2工程における含浸または塗布および乾燥を繰り返せばよい。
【0048】
<第2工程>
前記含浸液を前記ガラス繊維織物に含浸または塗布した後、乾燥して溶媒もしくは分散媒を除去する。ここで含浸または塗布により、ガラス繊維織物の空隙部分に含浸液が充填される。具体的な方法としては、たとえばガラス繊維織物を前記溶液もしくはエマルジョンの中に浸漬した後に引き上げてマングル等を使用して絞液するディップ塗布方法、ダイや塗工ロールにより溶液もしくはエマルジョンを支持体に転写する転写式塗布方法といった公知の塗布方法が好適に用いられる。この際、前記溶液もしくはエマルジョンをガラス繊維織物の表裏表面へ同時に塗布してもよい。
【0049】
含浸後、溶媒もしくは分散媒を除去するための乾燥温度としては、50〜150℃とすることが好ましい。このように設定することにより、ガラス繊維織物とバインダ樹脂の良好な接着性を確保することができる。乾燥の際、バインダ樹脂含浸後のガラス繊維織物の通気性を一旦消失させることが好ましい。このようにするには、前記ガラス繊維織物に前記バインダ樹脂を含浸する際、バインダ樹脂の含浸量を、ガラス繊維織物に対し、15〜35質量%、好ましくは、20〜30質量%とすればよい。これにより、ガラス繊維織物の表面をバインダ樹脂が全面的に被覆され、通気性を消失させることができる。ここで、「通気性が消失する」とはガーレ値が2000秒/100cc超となっているかどうかで判断される。すなわち、ガーレ値が2000秒/100cc超であるとき、通気性が消失していると判断され、ピンホール等が無い状態で表面がバインダ樹脂で全面的に被覆されていることが確認できる。本工程でのバインダ樹脂の含浸量が少なすぎると、最終的に得られる通気性フィルムの表面が十分にバインダ樹脂で被覆されないので、当該通気性フィルムをリチウム二次電池のセパレータとして使用した場合、自己放電等の問題が生じる。本工程でのバインダ樹脂の含浸量が多すぎると、後述の再開繊処理を行っても、通気性フィルムの通気度は十分に低下しないので、リチウム二次電池のセパレータとしての使用に耐えない。バインダ樹脂に架橋剤が配合される場合、バインダ樹脂および架橋剤の合計含浸量がバインダ樹脂の含浸量である。
【0050】
<第3工程>
通気性が消失したバインダ樹脂含浸ガラス繊維織物を再開繊処理する。バインダ樹脂含浸ガラス繊維織物においては、糸の構成繊維間にバインダ樹脂が含浸され、複数の構成繊維が一体化されている。再開繊処理とは、そのような一体化繊維を少なくとも部分的にほぐして、構成繊維間において当該繊維に対して略平行に気孔を形成する処理である。このようにすることにより、ガラス繊維織物の糸の構成繊維間に均一な直線状の気孔が形成されて通気性が回復し、バインダ樹脂含浸ガラス繊維織物の均一な通気性が確保できる。
【0051】
再開繊処理の方法としては、バインダ樹脂含浸ガラス繊維織物に対して振動を付与することにより、構成繊維間において直線状の気孔が形成される限り特に制限されない。中でも、水中で振動を付与する振動処理が好ましく、例えば、水中で、凹凸のあるローターを回転させて振動を付与する振動処理装置を用いることが好ましい。このような振動処理装置として、株式会社小松原製FV洗浄機を例示することができる。
【0052】
付与される振動の強さは、構成繊維間において直線状の気孔が形成される限り特に制限されない。例えば、水中で付与される振動の強さは、凹凸のあるローターの回転により振動を付与する場合、当該回転数で400〜1000rpmが好適である。
【0053】
再開繊処理の処理温度および処理時間は、前記した所定の通気度が得られる限り特に限定されない。
水の温度等の処理温度は、通常、10〜80℃である。本発明において通気性フィルムの通気度は当該処理温度を調整することにより制御することができる。処理温度が高いほど、通気性フィルムの通気度は減少する。
振動付与時間等の処理時間は、通常、0.5〜10分間である。本発明において通気性フィルムの通気度は当該処理時間を調整することにより制御することができる。処理時間が長いほど、通気性フィルムの通気度は減少する。
【0054】
以上述べたように、本発明の通気性フィルムを構成するガラス繊維織物は、高温での形状安定性が極めて良好で、連続した長繊維からなり、剛性が高い。本発明においては、このようなガラス繊維織物は通常、開繊処理して製造され、当該ガラス繊維織物にバインダ樹脂を含浸して通気性を一旦消失させる(第2工程)。その後、再開繊処理を行う(第3工程)。このため、本発明の通気性フィルムは、ピンホール等が無く、均一な通気性を有し、かつ高い力学的特性と耐熱性を有するものである。従って、本発明の通気性フィルムは、例えば、リチウム二次電池用セパレータ、キャパシタ用セパレータ、電子基板、チップパッケージおよび回路ボード等の電子デバイス用基板材料、ならびに液体および気体のフィルタ等として好適に使用することができる。
【0055】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
実施例及び比較例において通気性フィルムの特性等は以下の方法で評価した。
【0057】
(1)厚み(単位:μm)
通気性フィルムの厚みは、JIS K7130−1992に基づいて測定した。
【0058】
(2)通気度(単位:秒/100cc)
通気性フィルムの通気度(ガーレ値)は、JIS P8117に基づいて測定した。
【0059】
(3)通気斑
通気性フィルムの任意の箇所10点の通気度を測定し、その平均値からの乖離率を算出し、その最大値もしくは最小値を変動率とした。変動率が±20%以下の場合を均一性が良好、±20%超の場合を均一性が不良と判定した。
【0060】
(4)バインダ樹脂による表面被覆状態
キーエンス社製のVHX−1000(光学レンズ内臓)にVHX−D510(電子レンズ内蔵)が組み込まれたデジタルマイクロスコープを用い、通気性フィルムの表面(前面および裏面)の任意の箇所10点を観察し、倍率300倍のデジタル画像を取得し、面積が10μm
2以上の気孔の観察されない場合、表面が全面的にバインダ樹脂で被覆されていると判定した。逆に、この画像において面積が10μm
2以上の気孔が1個以上観察された場合は、全面的にバインダ樹脂で被覆されていないと判定した。
【0061】
(5)耐熱性
通気性フィルムを、8cm×8cmに切り出し、その中に6cm×6cmの四角を書き入れた通気性フィルムを、150℃のオーブンに入れて30分加熱した。加熱後のフィルムの線間隔を測定することで、加熱形状維持率を算出することにより評価し、この値が98%以上である場合、耐熱性が良好であると判定した。
【0062】
〔実施例1〕
第1工程:
平織のガラス繊維織物(目付け24g/m
2、厚み20μm、ガラス繊維径φ4.1μm×100本束、通気度1秒/100cc未満、開繊処理およびシランカップリング処理済)を用意した。ガラス繊維織物表面の顕微鏡写真を
図1に示す。一方、含浸用の変性ポリオレフィン系樹脂として、変性ポリオレフィン系樹脂の水性エマルジョンであるユニチカ株式会社製「アローベース」(商品名)の品番SB−1200を用意した。この水性エマルジョンに、オキサゾリン系架橋剤(日本触媒株式会社製WS−700)を加えて撹拌し、均一な分散体として、含浸液を調製した。ここで、オキサゾリン系架橋剤の配合量は、変性ポリオレフィン系樹脂(固形分)に対し、5.9質量%とした。
【0063】
第2工程:
前記ガラス繊維織物を、適度に希釈した前記含浸液に浸漬処理し、マングルで絞液し、次いで、80℃で90秒乾燥して、ガラス繊維織物に対して20.0質量%のバインダ樹脂が含浸されたガラス繊維織物を得た。このガラス繊維織物の通気度は2000秒/100cc超であり、通気性が消失していることが確認された。また、表面被覆状態を観察したところ、全面がバインダ樹脂で被覆されていた。バインダ樹脂含浸ガラス繊維織物表面の顕微鏡写真を
図2に示す。
【0064】
第3工程:
次に、前記バインダ樹脂含浸ガラス繊維織物に対して、株式会社小松原製FV洗浄機を用いて、70℃の水中にて1分間、振動を付与して、再開繊処理を行った。ここでFV洗浄機の回転数としては700rpmとした。得られた通気性フィルムの通気度は310秒/100cc、通気斑は15.2%であり、良好かつ均一な通気性が確認された。また、この通気性フィルムの加熱形状維持率は、99.1%と良好であった。最終的に得られた通気性フィルムにおけるバインダ樹脂および架橋剤の合計含浸量は、ガラス繊維織物に対して20質量%であった。通気性フィルムの表面被覆状態を観察したところ、全面がバインダ樹脂で被覆されていた。通気性フィルム表面の顕微鏡写真を
図3に示す。
【0065】
〔実施例2〕
第2工程においてバインダ樹脂の含浸量を17質量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、通気性フィルムを得た。第2工程において得られたガラス繊維織物の通気度は2000秒/100cc超であり、通気性が消失していることが確認された。第3工程で得られた通気性フィルムの通気度は256秒/100cc、通気斑は17.5%であり、良好かつ均一な通気性が確認された。また、この通気性フィルムの加熱形状維持率は、98.8%と良好であった。最終的に得られた通気性フィルムにおけるバインダ樹脂および架橋剤の合計含浸量は、ガラス繊維織物に対して17質量%であった。通気性フィルムの表面被覆状態を観察したところ、全面がバインダ樹脂で被覆されていた。
【0066】
〔実施例3〕
第2工程においてバインダ樹脂の含浸量を23質量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、通気性フィルムを得た。第2工程において得られたガラス繊維織物の通気度は2000秒/100cc超であり、通気性が消失していることが確認された。第3工程で得られた通気性フィルムの通気度は528秒/100cc、通気斑は14.3%であり、良好かつ均一な通気性が確認された。また、この通気性フィルムの加熱形状維持率は、99.3%と良好であった。最終的に得られた通気性フィルムにおけるバインダ樹脂および架橋剤の合計含浸量は、ガラス繊維織物に対して23質量%であった。通気性フィルムの表面被覆状態を観察したところ、全面がバインダ樹脂で被覆されていた。
【0067】
〔比較例1〕
第2工程においてバインダ樹脂の含浸量を10質量%としたこと以外は実施例1と同様にバインダ樹脂の含浸処理行った。再開繊処理前の通気度は156秒/100ccであり、通気性は消失していなかった。このバインダ樹脂含浸ガラス繊維織物の表面被覆状態を観察したころ、面積が10μm
2以上の気孔が2個観察され、表面は全面的にバインダ樹脂で被覆されていないと判定された。このバインダ樹脂含浸ガラス繊維織物の表面の顕微鏡写真を
図4に示す。また、このバインダ樹脂含浸ガラス繊維織物の通気斑は35.2%となり、均一な通気性は有していなかった。
【0068】
〔比較例2〕
第2工程においてバインダ樹脂の含浸量を40質量%としたこと以外は実施例1と同様にバインダ樹脂の含浸処理行った。再開繊処理前の表面被覆状態を観察したところ、全面がバインダ樹脂で被覆されていた。再開繊処理前の通気度は2000秒/100cc超であり、通気性は消失していた。
このバインダ樹脂含浸ガラス繊維織物を実施例1と同様にして、再開繊処理を行った。再開繊処理後の通気度は2000秒/100cc超であり、通気性は有していなかった。最終的に得られた通気性フィルムにおけるバインダ樹脂および架橋剤の合計含浸量は、ガラス繊維織物に対して40質量%であった。通気性フィルムの表面被覆状態を観察したところ、全面がバインダ樹脂で被覆されていた。
【0069】
実施例1〜3で示した様に、本発明の通気性フィルムは、通気性に優れる上、150℃加熱時の形状維持率が98%以上であり、かつガーレ値変動率が±25%以下、特に±20%以下である。このため、本発明の通気性フィルムは耐熱性(耐熱変形性)と均一な通気性が要求されるリチウム二次電池およびキャパシタのセパレータ、電子基板、チップパッケージおよび回路ボード等の電子デバイス用基板材料、ならびに液体および気体のフィルタ等としてとして好適に使用することができる。