(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アスペクト比が3以上の板状で、その最小長が0.5〜50μmであり、全体の気孔率が20〜90%であり、中心部より外周部の方が気孔率が低く、前記中心部と前記外周部の母材の材料種類が同じであり、前記中心部と前記外周部の材料種類がジルコニアを含む多孔質板状フィラー。
アスペクト比が3以上の板状で、その最小長が0.5〜50μmであり、全体の気孔率が20〜90%であり、中心部より外周部の方が気孔率が低く、前記中心部と前記外周部の母材の材料種類が異なり、前記中心部の材料種類がジルコニアを含み、前記外周部の材料種類がフッ素樹脂を含む多孔質板状フィラー。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0019】
[1]多孔質板状フィラー:
図1Aに多孔質板状フィラー1の一実施形態を示す。本発明の多孔質板状フィラー1は、アスペクト比が3以上の板状で、その最小長が0.5〜50μmであり、全体の気孔率が20〜90%であり、中心部4より外周部5の方が気孔率が低い。多孔質板状フィラー1は、母材と気孔とを含む。母材の種類が多孔質板状フィラー1の中心部4と違う層(材料が異種の場合)が外周部5であり、外周部5は、中心部4よりも気孔率が低い。言い換えると、材料が異種の場合、中心部4から外周に向けて材料種類を特定していった際に、変化したところから最外周までを外周部5とする。母材が一種類の材料で多孔質板状フィラー1が形成されている場合(中心部4と外側の層との材料が同種の場合)、多孔質板状フィラー1の外形に対して相似で内側に80%縮小した領域を中心部4とし、それ以外の外側20%を外周部5とする(
図1B)。外周部5は、中心部4よりも気孔率が低いが、作製方法等によっては、中心部4と外側の層との材料が同種の場合においても、異種の場合においても、最小長方向に対し垂直な方向(図の左右方向)の外周部5が20%よりも薄い場合もある(
図1C)。したがって、外周部5の気孔率は、最小長方向において、測定する方がよい。
【0020】
本明細書において、アスペクト比とは、多孔質板状フィラー1の最大長/最小長で定義される。ここで最大長とは、粒子(多孔質板状フィラー1)を一組の平行な面ではさんだときに最大となる長さである。また、最小長とは同様に粒子を一組の平行な面ではさんだときに最小となる長さのことであり、平板状である場合はいわゆる厚さに相当する。多孔質板状フィラー1の板状とは、アスペクト比が3以上でその最小長が0.5〜50μmであるものであれば、平板状(平らで湾曲していない板)のみならず、湾曲した板状のものや、厚み(最小長)が一定ではない板状のものも含まれる。また、多孔質板状フィラー1は、繊維状、針状、塊状等の形状でもよい。このうち、多孔質板状フィラー1は、平板状であることが好ましい。また、板の面形状は、正方形、四角形、三角形、六角形、円形等のいずれの形状であってもよい。つまり、多孔質板状フィラー1は、平板状であれば、どのような形状であってもよい。
【0021】
多孔質板状フィラー1のアスペクト比は、3以上であることが好ましい。アスペクト比は、大きければ大きいほど断熱膜3を形成した際に、伝熱経路が屈折して長くなり断熱膜3の熱伝導率が低くなる。しかしながら、アスペクト比が大きすぎると、製造上の取扱いが困難となり、歩留まりが悪くなることがある。例えば、アスペクト比を大きくするために最小長を短くすると、強度を十分なものとできなくなることがある。一方、最大長を長くすると、多孔質板状フィラー1が大きくなり、破損することがある。このためアスペクト比は、より好ましくは3以上50以下、さらに好ましくは3.5以上40以下、最も好ましくは4以上30以下である。
【0022】
多孔質板状フィラー1の最小長は、0.5〜50μm、より好ましくは、0.5〜20μm、さらに好ましくは2〜15μm、最も好ましくは、5〜15μmである。0.5〜50μmの場合、アスペクト比が大きくなるため、断熱膜3を形成した際に積層しやすく、熱伝導率を下げることができる。また、5〜50μmの場合、最小長が大きいため、多孔質板状フィラー1の強度を十分なものとすることができ、ハンドリングに適し、歩留まりが高くなる。最小長を0.5μm以上とすることにより、多孔質板状フィラー1の強度を十分なものとすることができ、ハンドリングに適する。具体的には、多孔質板状フィラー1は、薄すぎると多孔質板状フィラー1の製造工程中に多孔質板状フィラー1の形状を保つことが困難となることがある。しかし、最小長を0.5μm以上とすることにより、多孔質板状フィラー1を断熱膜形成用のコーティング組成物にする工程等において、多孔質板状フィラー1が割れることを防止する強度とすることができる。また、最小長を50μm以下とすることにより、断熱性を発揮するための十分な厚さを確保しつつ、多孔質板状フィラー1を含む断熱膜3を形成する場合に、積層体を上手く形成することができる。多孔質板状フィラー1は、厚すぎると断熱膜3を形成した際に断熱膜3に含まれる多孔質板状フィラー1の積層数が減ることで、伝熱経路が直線になることで短くなりやすく、断熱膜3の熱伝導率が高くなることがある。
【0023】
多孔質板状フィラー1は、全体の気孔率が20〜90%であることが好ましい。全体の気孔率を90%以下とすることにより、強度を確保することができる。本明細書において、フィラー全体の気孔率は、次の式により求めたものである。
気孔率(%)=(1−(見かけ粒子密度/真密度))×100
上記の式において、見かけ粒子密度は、水銀を用いた液浸法により測定する。また、真密度は、多孔質板状フィラー1を十分に粉砕した後、ピクノメータ法で測定する。
【0024】
多孔質板状フィラー1の全体の気孔率は、好ましくは20〜90%、より好ましくは40〜85%、さらに好ましくは50〜80%である。気孔率が低すぎるとフィラーの熱伝導率が高くなることがあり、気孔率が高すぎるとフィラーの強度が弱くなることがある。
【0025】
多孔質板状フィラー1において、外周部5の気孔率は中心部4の気孔率よりも低いほうが好ましく、10%以上低いことが更に好ましく、20%以上低いことが特に好ましい。本明細書において、中心部4及び外周部5の気孔率は、フィラーの最小長に平行な断面をFIBでサンプリングしてFE−SEMで観察して得られる微構造の画像を用いて計測する。これを無作為に10個のフィラーで行って平均値を出し、それぞれの気孔率とする。
【0026】
多孔質板状フィラー1は、外周部5の方が中心部4より平均気孔径が小さいほうが好ましく、外周部5の平均気孔径が0.1μm以下であることが更に好ましい。本明細書において、中心部4及び外周部5の気孔径は、フィラーの最小長に平行な断面をFIBでサンプリングしてFE−SEMで観察して得られる微構造の画像を用いて計測する。これを無作為に10個のフィラーで行い平均値を出し、それぞれの平均気孔径とする。
【0027】
外周部5の厚みが1μm以上であることが好ましい。なお、外周部5の厚みとは、最小長方向における、中心部4の上側の厚みt
1、または下側の厚みt
2である(
図1B、
図1C参照)。外周部5の厚みは、より好ましくは、1〜10μm、さらに好ましくは、1〜7μmである。1μm以上にすることにより、中心部4へのマトリックス3mの浸入を防ぐことができる。仮に外周部5に大きな気孔があった場合でも、外周部5の厚みを1μm以上にすることにより中心部4までマトリックス3mが浸入しなくなる。一方、外周部5を10μm以下とすることにより、低気孔率な部分、つまり高熱伝導率な部分が増えてしまうことを防止することができる。つまり、外周部5の厚みをこの範囲とすることにより、断熱効果をより発揮させることができる。
【0028】
このような多孔質板状フィラー1が、後述するように断熱膜3に含まれることにより、断熱効果を向上させることができる。
【0029】
以下、中心部4より外周部5の方が気孔率が低い多孔質板状フィラー1の実施形態として、第一の実施形態、及び第二の実施形態を説明する。
【0030】
[1−1]第一の実施形態:
第一の実施形態として、多孔質板状フィラー1の中心部4と外周部5の母材の材料種類が同じ方が好ましい。なお、多孔質板状フィラー1に添加材が含まれている場合でも、中心部4と外周部5の母材の材料種類が同じであれば、第一の実施形態に含まれる。断熱材料として使用されるフィラーの中心部4には熱伝導率の低い材料が用いられている。これと同じ材料を外周部5に使用することで、熱伝導率の低いフィラーを得ることができる。
【0031】
なお、母材の材料種類が同じ材料種類かを確認するためには、中心部4及び外周部5それぞれのFE−SEM観察において元素分析(EDS)を行い、同じ種類の元素が検出されるか、気孔以外の部分がどのような組成であるかを調べる。例えば、ZrとOが主に検出されれば、ZrとOの材料(ジルコニア)と判断する。この場合、添加材または不純物として、少量Siが検出されても、大部分がZrとOであるならばZrとOの材料(ジルコニア)と判断する。
【0032】
中心部4と外周部5とを同種材料で形成する場合、中心部4も外周部5も熱伝導率の低い材料を用いることが好ましく、これにより多孔質板状フィラー1全体の熱伝導率を低くすることができる。中心部4と外周部5とを同種材料で形成する場合、無機材料、有機材料、あるいは無機材料と有機材料の複合材料であってもよい。中でも、ジルコニア、部分安定化ジルコニア(例えば、イットリア部分安定化ジルコニア)、完全安定化ジルコニア(例えば、イットリア完全安定化ジルコニア)、酸化イットリウム、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化ニオブ、酸化ストロンチウム、酸化ランタン、ジルコニウム、イットリア、アルミニウム、ケイ素、チタン、ニオブ、ストロンチウム、ランタン、希土類ジルコン酸塩(例えば、ランタンジルコネート)、希土類ケイ酸塩(例えば、イットリウムシリケート)、ニオブ酸塩(例えば、ニオブ酸ストロンチウム)、ムライト、雲母、膨潤性雲母、スピネル、ジルコン、マグネシア、セリア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭酸ストロンチウム、モンモリロナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物、ハイドロタルサイトのような層状複水酸化物等の無機材料であることが好ましく、ジルコニア、部分安定化ジルコニア(例えば、イットリア部分安定化ジルコニア)、完全安定化ジルコニア(例えば、イットリア完全安定化ジルコニア)、酸化イットリウム、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化ニオブ、酸化ストロンチウム、酸化ランタン等の金属酸化物であることがより好ましい。これらは1種類だけでなく2種類以上を組み合わせて用いても良い。しかし、中心部4、外周部5の材料は、これらに限定されるものではない。
【0033】
[1−2]第二の実施形態:
第二の実施形態として、多孔質板状フィラー1の中心部4と外周部5の母材の材料種類が異なる方が好ましい。外周部5は、低温で焼結しやすい材料を採用することが好ましい。外周部5に低温で焼結しやすい異なる材料を用いることにより焼結(緻密化)が進み、中心部4との気孔率差が大きくなる。中心部4と外周部5とを異種材料で形成する場合、中心部4としては、第一の実施形態と同様の材料を採用することができる。また、外周部5としても、第一の実施形態と同様の材料を採用することができ、加えて、鉄、銀、ニッケル、銅、チタン、クロム、マンガン、コバルト、亜鉛、モリブデンなどの金属を採用することもできる。また、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等も採用することができ、その中でも撥水・撥油性を有するフッ素樹脂を採用することが好ましい。しかし、中心部4、外周部5の材料は、これらに限定されるものではない。
【0034】
[2]多孔質板状フィラーの製造方法:
本発明の多孔質板状フィラー1の製造方法の一の実施形態は、グリーンシート形成用スラリー及び外周部形成用スラリーを調製するスラリー調製工程と、グリーンシートを形成するグリーンシート形成工程と、グリーンシートを解砕する解砕工程と、フィラーの外周部5を形成する外周部形成工程と、それを焼成し多孔質板状フィラー1を得る焼成工程と、を有する。
【0035】
上記スラリー調製工程は、セラミックス粉末、及び造孔材を含むグリーンシート形成用スラリー、及び外周部形成用スラリーを調製する工程である。上記グリーンシート形成工程は、グリーンシート形成用スラリーを膜状に形成してグリーンシートを形成する工程である。上記解砕工程は、グリーンシートを解砕してフィラー状グリーンシートを得る工程である。上記外周部形成工程は、形成したフィラー状グリーンシートの外周に外周部5を形成し2層構造グリーンシートを得る工程である。上記焼成工程は、2層構造グリーンシートを焼成して多孔質板状フィラー1を得る工程である。なお、上記解砕工程は、上記外周部形成工程の後でもよい。
【0036】
このような多孔質板状フィラー1の製造方法は、上記各工程を有するため、断熱性能に優れた断熱膜3の材料として用いることができる多孔質板状フィラー1を製造することができる。以下、各工程について詳しく説明する。
【0037】
[2−1]スラリー調製工程:
セラミックス粉末に、造孔材、バインダー、可塑剤、溶媒等を加えてボールミル等によって混合することにより、グリーンシート形成用スラリー及び外周部形成用スラリーを調製する。
【0038】
セラミックス粉末としては、ジルコニア粉末、部分安定化ジルコニア粉末(例えば、イットリア部分安定化ジルコニア粉末)、完全安定化ジルコニア粉末(例えば、イットリア完全安定化ジルコニア粉末)、アルミナ粉末、シリカ粉末、チタニア粉末、酸化ランタン粉末、イットリア粉末、希土類ジルコン酸塩粉末(例えば、ランタンジルコネート粉末)、希土類ケイ酸塩粉末(例えば、イットリウムシリケート粉末)、ニオブ酸塩粉末(例えば、ニオブ酸ストロンチウム粉末)、ムライト粉末、スピネル粉末、ジルコン粒子、マグネシア粉末、イットリア粉末、セリア粉末、炭化ケイ素粉末、窒化ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末等を用いることができる。これらは1種類だけでなく2種類以上を組み合わせて用いても良い。また、粉末は乾燥粉末に限らず、水や有機溶媒中に分散したコロイド状態(ゾル状態)のものを用いても良い。造孔材としては、ラテックス粒子、メラミン樹脂粒子、PMMA粒子、ポリエチレン粒子、ポリスチレン粒子、カーボンブラック粒子、黒鉛、発泡樹脂、吸水性樹脂等を用いることができ、形は球状、板状、ファイバー状等である。バインダーとしては、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル樹脂等を用いることができる。可塑剤としては、DBP(フタル酸ジブチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)等を用いることができる。溶媒としては、キシレン、1−ブタノール等を用いることができる。
【0039】
外周部5の気孔率を低くするために、外周部形成用スラリーは、グリーンシート形成用スラリーより造孔材の量を減らすことが好ましい。また、外周部形成用スラリーに用いるセラミックス粉末は低温で焼結し易い材料を選択することが好ましく、例えば、シリカ、酸化亜鉛などを用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0040】
[2−2]グリーンシート形成工程:
上記グリーンシート形成用スラリーに真空脱泡処理を施すことにより、粘度を100〜10000cpsに調整する。その後、ドクターブレード装置によって、焼成後の厚さが0.5〜100μmとなるようにグリーンシートを形成し、(0.5〜200)mm×(0.5〜200)mmの寸法に外形切断を行う。
【0041】
[2−3]解砕工程:
グリーンシートを解砕する方法としては、例えば、乾式ビーズミル、ローラーミルなどを用いてグリーンシートを室温で解砕することができる。特に、「アスペクト比が3以上の板状で、最小長が0.5〜50μmである」多孔質粒子を得るためには、気流式分級機を用い、整粒(分級)することが好ましい。グリーンシートを解砕してフィラー状グリーンシートを得る。
【0042】
[2−4]外周部形成工程:
外周部5を形成する方法としては、例えば、ディップ成形、スパッタ、めっき、流動層コーティング、転動コーティングなどが挙げられ、いずれの方法であってもよいが、ディップ成形を例に説明する。
【0043】
上記スラリー調製工程で作製した外周部形成用スラリーに、上記解砕工程で作製したフィラー状グリーンシートをディップすることで外周部5を形成する。焼成前に外周部5を形成すると、造孔材が存在し気孔がまだ形成されていないため、外周部形成用スラリーのフィラー1の中心部4への浸漬を防ぐことができる。
【0044】
[2−5]焼成工程:
外周部形成用スラリーを付着させた2層構造グリーンシートの焼成条件は、適宜設定することができるが、例えば、大気中にて800〜2300℃で0.5〜20時間とすることが好ましく、800〜1800℃で5〜20時間であることが更に好ましく、800〜1300℃で5〜20時間であることが特に好ましい。
【0045】
なお、解砕工程、外周部形成工程、及び焼成工程を実施する順番は、解砕工程後に外周部形成工程をし、その後に焼成工程を行う順番に限定されない。具体的には、解砕工程後に焼成工程を行い、その後に外周部形成工程を行っても良く、焼成工程後に解砕工程を行い、その後に外周部形成工程を行っても良い。これらのように、外周部形成工程を焼成工程後に行う場合は、外周部形成用スラリーの、フィラー中心部4の気孔への浸漬の可能性があるが、浸漬量が微量なため、製造した多孔質板状フィラー1及びそれを含む断熱膜3の熱伝導率への影響は少ない。
【0046】
[3]断熱膜:
本発明の断熱膜3は、本発明の多孔質板状フィラー1を材料として含むものである。このような断熱膜3は、断熱性能に優れている。
【0047】
図2を用いて、断熱膜3を説明する。
図2は、本発明の断熱膜3の一実施形態を模式的に示す膜厚方向に平行な断面図である。断熱膜3は、基材8上に形成され、本発明の一実施形態の多孔質板状フィラー1と、この多孔質板状フィラー1を分散させるマトリックス3mと、を有している。つまり、多孔質板状フィラー1が、この多孔質板状フィラー1を結合するためのマトリックス3mに分散して配置されている。マトリックス3mとは、多孔質板状フィラー1の周囲やこれらの粒子間に存在する成分であり、これらの粒子間を結合する成分である。
【0048】
本発明の断熱膜3は、多孔質板状フィラー1が層状に配置(積層)されていることが好ましい。ここで言う層状に配置とは、多孔質板状フィラー1の最小長の方向が、断熱膜3の厚さ方向と平行になる方向に、多数の多孔質板状フィラー1が配向した状態でマトリックス3m中に存在することを言う。なお、このとき、多孔質板状フィラー1の位置(重心の位置)は、断熱膜3のX、Y、Z方向(ただし、Z方向を厚さ(膜厚)方向とする)に整然と周期的に配置される必要はなく、ランダムに存在していても問題ない。積層数は1以上であれば問題ないが、積層数が多い方が好ましく、5以上であることが望ましい。多孔質板状フィラー1が断熱膜3の中で、層状に積層されていることにより、伝熱経路が屈折して長くなり、断熱効果を向上させることができる。特に、多孔質板状フィラー1の位置は、
図2に示すように、Z方向に整然と並んでいない方が(互い違いにずれている方が)、伝熱経路がより屈折して長くなるため、好ましい。
【0049】
図2に示すように、熱伝導率が高いマトリックス3m部分が主な伝熱経路となるが、本発明の断熱膜3は、多孔質板状フィラー1を含み、伝熱経路は、熱を伝えたくない方向(膜厚方向)に対して迂回が多くなる。すなわち、伝熱経路の長さが長くなるため、熱伝導率を低くすることができる。また、マトリックス3mを介した多孔質板状フィラー1間の結合面積は、球状フィラーよりも広くなるため、断熱膜全体の強度が高められ、エロージョンや剥離などが起こりにくくなる。
【0050】
本発明の断熱膜3は、多孔質板状フィラー1の気孔にマトリックス3mが浸入していないほうが好ましい。熱伝導率が高いマトリックス3mが多孔質板状フィラー1の気孔に浸入することで多孔質板状フィラー1の熱伝導率が高くなってしまい、断熱膜3の熱伝導率が高くなってしまうからである。多孔質板状フィラー1は、中心部4より外周部5の方が気孔率が低いため、気孔にマトリックス3mが浸入しにくく、断熱膜3の断熱性能が向上する。
【0051】
本発明の断熱膜3は、マトリックス3mとして、セラミックス、ガラス、及び樹脂の少なくとも一種を含むことが好ましい。耐熱性が良好となるという観点から、マトリックス3mとしてはセラミックスまたはガラスがより好ましい。より具体的には、マトリックス3mとなる材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸炭化ケイ素、カルシウムシリケート、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノシリケート、リン酸アルミニウム、カリウムアルミノシリケート、ガラス等を挙げることができる。これらは熱伝導率が低くなるという観点から非晶質であることが好ましい。また、マトリックス3mの材料がセラミックスの場合は、マトリックス3mは、粒径が500nm以下の微粒子の集合体であることが望ましい。粒径が500nm以下の微粒子の集合体をマトリックス3mとすることにより、熱伝導率を更に低くすることができる。また、マトリックス3mとなる材料が樹脂の場合、マトリックス3mとしては、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0052】
断熱膜3は、この断熱膜3の全体の気孔率が10〜90%であり、マトリックス3mの気孔率が0〜70%であることが好ましい。
【0053】
断熱膜3は、厚さが0.1〜5mmであることが好ましい。このような厚さとすることにより、断熱膜3によって被覆される基材8の特性に悪影響を与えることなく、断熱効果を得ることができる。なお、断熱膜3の厚さは、その用途に応じて上記範囲内で適宜選択することができる。
【0054】
断熱膜3は、熱伝導率が1.5W/(m・K)以下であることが好ましく、1W/(m・K)以下が更に好ましく、0.5W/(m・K)以下が特に好ましい。このように低熱伝導率であることにより、伝熱を抑制することができる。
【0055】
本発明の断熱膜3は、例えば、「エンジン燃焼室を構成する表面」上に形成される断熱膜3として用いることができる。また、本発明の断熱膜3は、「自動車の排気管の内壁」に形成される断熱膜3、発熱部からの熱を遮りたい場合の断熱膜3として用いることができる。
【0056】
本発明の断熱膜3は、多孔質板状フィラー1を含むコーティング組成物を基材8(例えば、エンジン燃焼室を構成する表面、自動車の排気管の内壁等)上に塗布し、乾燥して形成させることができる。また、乾燥後に熱処理して形成させることもできる。このとき、塗布と乾燥または熱処理とを繰り返し行うことで断熱膜3を積層させて厚い断熱膜3(断熱膜の積層体)を形成することができる。または、断熱膜3を仮の基材8上に形成させた後、この仮の基材8を除去することで、単独で薄板状に形成させた断熱膜3を作製し、この断熱膜3を、目的とする基材8(「仮の基材」とは異なる基材)に接着または接合させてもよい。
【0057】
コーティング組成物は、上記多孔質板状フィラー1と、無機バインダー、無機高分子、酸化物ゾル、及び水ガラスからなる群より選択される一種以上と、を含むものを用いることができる。更に、コーティング組成物は、緻密質なフィラー、粘性調整剤、溶媒、分散剤等を含んでいてもよい。
【0058】
コーティング組成物に含まれる具体的な物質は、セメント、ベントナイト、リン酸アルミニウム、シリカゾル、アルミナゾル、ベーマイトゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル、ポリシラザン、ポリカルボシラン、ポリビニルシラン、ポリメチルシラン、ポリシロキサン、ポリシルセスキオキサン、ジオポリマー、ケイ酸ナトリウム等である。
【0059】
断熱膜3を形成するための基材8としては、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木材、布、紙等を用いることができる。特に、基材8が金属の場合の例として、鉄、鉄合金、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル合金、コバルト合金、タングステン合金、銅合金などが挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
セラミックス粉末としてのジルコニア粉末に、造孔材としてカーボンブラック、バインダーとしてポリビニルブチラール樹脂(PVB)、可塑剤としてフタル酸ジオクチル(DOP)、及び、溶媒としてキシレンと1−ブタノールを加えた。これを原料組成物とした。具体的には、原料組成物として、グリーンシート形成用スラリーと外周部形成用スラリーの2つを用意した。グリーンシート形成用スラリーは、ジルコニア粉末6体積%、カーボンブラック6体積%、バインダー7体積%、可塑剤4体積%、溶媒77体積%とした。外周部形成用スラリーは、ジルコニア粉末9体積%、カーボンブラック3体積%、バインダー7体積%、可塑剤4体積%、溶媒77体積%とした。
【0062】
次に、この2つの原料組成物(スラリー)をボールミルにて30時間混合した。その後、それぞれ真空脱泡処理を行った後、粘度を4Pa・sに調整した。その後、上記グリーンシート形成用スラリーを、ドクターブレード装置によって焼成後の厚さが8μmとなるように膜状に塗工し、グリーンシートを形成した。このグリーンシートを縦50mm×横50mmの寸法となるように切断した。その後、この成形体を、乾式ビーズミルを用いて解砕した。この解砕した成形体を外周部形成用スラリーにディップすることで、2層構造グリーンシートを得た。これを600℃で5時間脱脂した後、1100℃で2時間焼成して、多孔質板状フィラー1を得た。
【0063】
得られた多孔質板状フィラー1は、ZrO
2粒子の直径が50nm、平均気孔径が0.13μm、全体の気孔率が62%であった。また、得られた多孔質板状フィラー1について任意の20個を計測して平均を求めたところアスペクト比が4で、最小長が10μmであった。なお、実施例1は、焼成後の厚さが8μmとなるように形成し、外周部5形成後の最小長が10μmであるため、外周部5の厚みは、1μm(中心部4の上側の厚みt
1と下側の厚みt
2のそれぞれが1μm)である(
図1B参照)。
【0064】
次に、マトリックス材(マトリックス3mとなる材料)と多孔質板状フィラー1を体積比で20:80になるように混合してコーティング組成物を作製した。そして、このコーティング組成物を、基材8であるアルミニウム合金上に塗布し、乾燥後、200℃で2時間熱処理して、基材8上に断熱膜3(厚さ150μm)を形成した。
【0065】
(熱伝導率)
レーザーフラッシュ2層モデルにて断熱膜3の厚さ方向における熱伝導率を測定した。熱伝導率について、1.00W/(m・K)以下を優としてAで、1.01〜1.59W/(m・K)を良としてB、1.60W/(m・K)以上を不可としてCで表1に示す。なお、エンジン燃焼室に断熱膜3を作製し、燃費が向上するための断熱効果が発揮されるかどうかを判定基準とした。
【0066】
(マトリックスの浸入の有無)
断熱膜3の膜厚方向における断面の微構造をFIBでサンプリングしてFE−SEMで観察した。
図3Aに実施例1のSEM写真を示す。多孔質板状フィラー1の中心部分を観察した。フィラーの気孔に黒色のマトリックス3mが観察されなかった。つまり、多孔質板状フィラー1の中心部分にマトリックス3mが浸入していなかった。
【0067】
(比較例1)
グリーンシート形成用スラリーを、ドクターブレード装置によって焼成後の厚さが10μmとなるように膜状に塗工し、グリーンシートを形成した。解砕工程を行った後に、外周部形成工程を行わず焼成することにより、多孔質板状フィラー1を得た。比較例1は、外周部5を形成しなかった。
【0068】
図3Bに比較例1のSEM写真を示す。多孔質板状フィラー1の中心部分を観察した。実施例1とは異なり、比較例1の
図3Bにはフィラーの気孔に黒色のマトリックス3mが観察された。つまり、多孔質板状フィラー1の中心部分にマトリックス3mが浸入していた。
【0069】
(実施例2)
ジルコニア粉末12体積%、カーボンブラック無添加、バインダー7体積%、可塑剤4体積%、溶媒77体積%とした外周部形成用スラリーを調合した。グリーンシート形成用スラリーは、実施例1と同じものを使用した。また、それ以外も実施例1と同様に多孔質板状フィラー1を作製した。多孔質板状フィラー1の全体の気孔率は、58%であった。
【0070】
(
参考例1,2)
外周部形成用スラリーのセラミックス粉末をSiO
2に変え、外周部形成用スラリーを調製した。外周部形成工程は焼成前に行った。なお、
参考例1の外周部形成用スラリーはカーボンブラック6体積%添加、
参考例2の外周部形成用スラリーはカーボンブラック無添加とした。それ以外は実施例1と同様に多孔質板状フィラー1を作製した。多孔質板状フィラー1の全体の気孔率は、
参考例1は58%、
参考例2は52%であった。
【0071】
(
参考例3)
外周部5を無電解のNiめっきで形成した。それ以外は実施例1と同様に多孔質板状フィラー1を作製した。多孔質板状フィラー1の全体の気孔率は52%であった。
【0072】
(実施例
3)
実施例1のグリーンシート形成用スラリーを、ドクターブレード装置によって焼成後の厚さが35μmとなるように膜状に塗工し、グリーンシートを形成した。実施例2の外周部形成用スラリーを用いて、外周部5を形成した。多孔質板状フィラー1の全体の気孔率は63%であった。
【0073】
(
参考例4)
参考例2で作製した成形体を1200℃で2時間焼成した。多孔質板状フィラー1の全体の気孔率は32%であった。
【0074】
(
参考例5〜
14)
参考例1,2と同様にして、多孔質板状フィラー1を作製した。ただし、グリーンシートの厚みを変更した。またグリーンシートを切断して得られた成形体を外周部形成用スラリーにディップする時間、成形体の引き上げ速度を制御して、外周部5の厚みを変更した。多孔質板状フィラー1のアスペクト比、気孔率等は、表1に示す。
【0075】
(実施例
4)
セラミックス粉末としてのジルコニア粉末に、造孔材としてカーボンブラック、バインダーとしてポリビニルブチラール樹脂(PVB)、可塑剤としてフタル酸ジオクチル(DOP)、及び、溶媒としてキシレンと1−ブタノールを加えた。これを原料組成物とした。具体的には、原料組成物として、実施例1と同様のグリーンシート形成用スラリーと、フッ素樹脂2体積%、フッ素系溶媒98体積%とした外周部形成用スラリーとの2つを用意した。
【0076】
次に、この2つの原料組成物(スラリー)をボールミルにて30時間混合した。その後、それぞれ真空脱泡処理を行った後、粘度を4Pa・sに調整した。その後、上記グリーンシート形成用スラリーを、実施例1と同様の方法によって、グリーンシートに形成し、このグリーンシートを縦50mm×横50mmの寸法となるように切断した。これを600℃で5時間脱脂した後、1100℃で2時間焼成し、この焼成体を乾式ビーズミルを用いて解砕した。その後、外周部形成用スラリー(フッ素樹脂およびフッ素系溶媒を含むスラリー)にディップすることで、多孔質板状フィラー1を得た。多孔質板状フィラー1の全体の気孔率は52%であった。
【0077】
【表1】
【0078】
外周部5の気孔率が中心部4に比べて小さい実施例1〜
4、参考例1〜14の多孔質板状フィラー1は、比較例1に対し、断熱膜3にした際にマトリックス3mの気孔への浸入が減るため、熱伝導率が低下した。
参考例2と
参考例5,
6とを比べると、アスペクト比が大きくなると、断熱膜3の熱伝導率が低下するのが分かる。
参考例2と実施例
7〜
9とを比べると、最小長が小さくなると、断熱膜3の熱伝導率が低下するのが分かる。
参考例2と実施例
10〜
12とを比べると、気孔率が大きくなると、断熱膜3の熱伝導率が低下するのが分かる。
参考例2と
参考例13,14、実施例4とを比べると、多孔質板状フィラー1の外周部5の気孔径が大きくなると、断熱膜3の熱伝導率が大きくなるのが分かる。