特許第6562842号(P6562842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6562842複合基板、発光素子及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562842
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】複合基板、発光素子及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/20 20100101AFI20190808BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20190808BHJP
【FI】
   H01L33/20
   H01L33/32
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-560910(P2015-560910)
(86)(22)【出願日】2015年1月15日
(86)【国際出願番号】JP2015050911
(87)【国際公開番号】WO2015118920
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2017年10月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-22006(P2014-22006)
(32)【優先日】2014年2月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100202511
【弁理士】
【氏名又は名称】武石 卓
(72)【発明者】
【氏名】滑川 政彦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隆史
(72)【発明者】
【氏名】倉岡 義孝
(72)【発明者】
【氏名】坂井 正宏
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−359495(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0039362(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0047944(US,A1)
【文献】 特開平06−302853(JP,A)
【文献】 特開2009−073710(JP,A)
【文献】 特開2006−049871(JP,A)
【文献】 特開2003−031895(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0129779(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元立体形状を有する表面を備えた基板であって、前記三次元立体形状を有する表面が配向多結晶アルミナからなる層を備えた又は該基板の全体が配向多結晶アルミナからなる基板と、
前記基板の配向多結晶アルミナ上に形成され、前記配向多結晶アルミナの結晶方位に概ね倣って成長した構造を有する第13族元素窒化物結晶層と、
を備えた、複合基板であって、
前記三次元立体形状が、曲面形状及び/又は凹凸形状を含む視認可能な三次元プロファイルを有するマクロ形状であり、
前記基板が、(i)下地基材上に配向多結晶アルミナからなる層を備えた複合体であり、前記配向多結晶アルミナからなる層がレーザーCVD法及び/又はランプ加熱CVD法により形成されたものであるか、又は(ii)配向多結晶アルミナ焼結体からなる、複合基板
【請求項2】
前記第13族元素窒化物結晶層と前記基板の間に種結晶層を更に備えた、請求項に記載の複合基板。
【請求項3】
前記第13族元素窒化物結晶層上に発光機能層をさらに備えた、請求項1又は2に記載の複合基板。
【請求項4】
請求項に記載の複合基板の前記発光機能層上に透光性電極層を形成する工程と、
前記透光性電極層の形成前又は後に、前記発光機能層の一部を局所的に除去して前記発光機能層の最下層を局所的に露出させる工程と、
前記露出された最下層上に電極層を形成して発光素子を得る工程と、
を含む、発光素子の製造方法。
【請求項5】
請求項に記載の複合基板の前記発光機能層上に反射電極層又は透光性電極層を形成する工程と、
前記反射電極層又は透光性電極層の形成前又は後に、前記複合基板から少なくとも前記基板を除去して、前記発光機能層、前記第13族元素窒化物結晶層又は前記種結晶層を露出させる工程と、
前記露出された発光機能層、第13族元素窒化物結晶層又は種結晶層上に透光性電極層又は反射電極層を形成して発光素子を得る工程と、
を含む、発光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の複合基板の前記発光機能層上に反射電極としても機能する支持体層を形成して、補強された複合基板を得る工程と、
前記補強された複合基板から少なくとも前記基板を除去して、前記発光機能層、前記第13族元素窒化物結晶層又は前記種結晶層を露出させる工程と、
前記露出された発光機能層、第13族元素窒化物結晶層又は種結晶層上に透光性電極層を形成して発光素子を得る工程と、
を含む、発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記複合基板が前記発光機能層を外周面とする曲面形状を有しており、その結果、前記発光素子が内周面側に発光する曲面発光素子として構成される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
請求項に記載の複合基板の前記発光機能層上に仮支持体層を形成して、補強された複合基板を得る工程と、
前記補強された複合基板から少なくとも前記基板を除去して、前記発光機能層、前記第13族元素窒化物結晶層又は前記種結晶層を露出させる工程と、
前記露出された発光機能層、第13族元素窒化物結晶層又は種結晶層上に反射電極としても機能する支持体層を形成して、更に補強された複合基板を得る工程と、
前記更に補強された複合基板から前記仮支持体層を除去して前記発光機能層を露出させる工程と、
前記露出された発光機能層上に透光性電極層を形成して発光素子を得る工程と、
を含む、発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記複合基板が前記発光機能層を外周面とする曲面形状を有しており、その結果、前記発光素子が外周面側に発光する曲面発光素子として構成される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
三次元立体形状を有する表面を備えた、反射電極としても機能する支持体層と、
前記支持体層の前記三次元立体形状を有する表面上に形成され、前記三次元立体形状を有する表面に対し略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を二以上有する発光機能層と、
前記発光機能層の前記支持体層と反対側に設けられる透光性電極層と、
を備えた、発光素子。
【請求項11】
前記三次元立体形状が曲面形状であり、前記支持体層の内周面上に前記発光機能層が形成され、それにより前記発光素子が内周面側に発光する曲面発光素子として形成される、請求項10に記載の発光素子。
【請求項12】
前記三次元立体形状が曲面形状であり、前記支持体層の外周面上に前記発光機能層が形成され、それにより前記発光素子が外周面側に発光する曲面発光素子として形成される、請求項10に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板、発光素子及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶基板を用いた発光ダイオード(LED)として、窒化ガリウム(GaN)単結晶上に各種GaN層を形成したものや、サファイア(α−アルミナ単結晶)上に各種GaN層を形成したものが知られている。例えば、サファイア基板上に、n型GaN層、InGaN層からなる量子井戸層とGaN層からなる障壁層とが交互積層された多重量子井戸層(MQW)、及びp型GaN層が順に積層形成された構造を有するものが量産化されている。また、このような用途に適した積層基板も提案されている。例えば、特許文献1(特開2012−184144号公報)には、サファイア下地基板と、該基板上に結晶成長せしめて形成された窒化ガリウム結晶層とを含む、窒化ガリウム結晶積層基板が開示されている。
【0003】
一方で、高配向の結晶成長を実現する技術として、レーザーCVD法が知られている。例えば、特許文献2(特開2004−107182号公報)には、気体物質を含む原料成分を基板方向に導入しながらレーザー光を基板表面に照射し、基板の加熱と同時に原料成分の反応によって反応生成物からなる膜を基板の表面に形成する膜形成方法が開示されており、基板に対して垂直にイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の柱状結晶が配向した膜が得られたことが記載されている。また、非特許文献1(後藤孝、「熱及びレーザーCVDによる高速コーティング」、SOKEIZAI、Vol.51、2010年、No.6、p.20-25)にはレーザーCVDによるYSZのコーティングとα−アルミナのコーティングが開示されている。非特許文献2(伊藤暁彦、「高強度レーザー場での高速化学気相析出を利用した高配向結晶成長」、まてりあ(Materia Japan)、第52巻、第11号、2013年、p.525-529)には、レーザーCVDによりα−アルミナの選択的結晶配向成長を促してc軸配向α−アルミナ膜を得たこと、特に多結晶AlN基板上にc軸配向係数90%の強配向性α−アルミナ膜を高速合成できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−184144号公報
【特許文献2】特開2004−107182号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】後藤孝、「熱及びレーザーCVDによる高速コーティング」、SOKEIZAI、Vol.51、2010年、No.6、p.20-25
【非特許文献2】伊藤暁彦、「高強度レーザー場での高速化学気相析出を利用した高配向結晶成長」、まてりあ(Materia Japan)、第52巻、第11号、2013年、p.525-529
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、上述したような単結晶基板は一般的に面積が小さく且つ高価なものである。近年、大面積基板を用いたLED製造の低コスト化が求められてきているが、大面積の単結晶基板を量産することは容易なことではなく、その製造コストはさらに高くなる。そこで、サファイア等の単結晶基板の代替材料となりうる、大面積化にも適した安価な材料が望まれる。特に、単結晶基板は平板状で市販されるため、それを用いて曲面形状、凹凸形状等の三次元立体形状を備えた発光素子を製造することは困難であった。
【0007】
本発明者らは、今般、三次元立体形状を有する表面が配向多結晶アルミナからなる基板上に第13族元素窒化物結晶層を形成することで、曲面形状、凹凸形状等の三次元立体形状を有する発光素子を低コストで製造するのに適した複合基板を提供できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、曲面形状、凹凸形状等の三次元立体形状を有する発光素子を低コストで製造するのに適した複合基板、及びそれを用いて製造される三次元立体形状を有する発光素子を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、三次元立体形状を有する表面を備えた基板であって、前記三次元立体形状を有する表面が配向多結晶アルミナからなる層を備えた又は該基板の全体が配向多結晶アルミナからなる基板と、
前記基板の配向多結晶アルミナ上に形成された第13族元素窒化物結晶層と、を備えた、複合基板が提供される。この複合基板は、前記第13族元素窒化物結晶層上に発光機能層をさらに備えたものであってもよい。
【0010】
本発明の更に別の一態様によれば、本発明の複合基板の前記発光機能層上に透光性電極層を形成する工程と、
前記透光性電極層の形成前又は後に、前記発光機能層の一部を局所的に除去して前記発光機能層の最下層を局所的に露出させる工程と、
前記露出された最下層上に電極層を形成して発光素子を得る工程と、
を含む、発光素子の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の更に別の一態様によれば、本発明の複合基板の前記発光機能層上に反射電極層又は透光性電極層を形成する工程と、
前記反射電極層又は透光性電極層の形成前又は後に、前記複合基板から少なくとも前記基板を除去して、前記発光機能層、前記第13族元素窒化物結晶層又は前記種結晶層を露出させる工程と、
前記露出された発光機能層、第13族元素窒化物結晶層又は種結晶層上に透光性電極層又は反射電極層を形成して発光素子を得る工程と、
を含む、発光素子の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の更に別の一態様によれば、本発明の複合基板の前記発光機能層上に反射電極としても機能する支持体層を形成して、補強された複合基板を得る工程と、
前記補強された複合基板から少なくとも前記基板を除去して、前記発光機能層、前記第13族元素窒化物結晶層又は前記種結晶層を露出させる工程と、
前記露出された発光機能層、第13族元素窒化物結晶層又は種結晶層上に透光性電極層を形成して発光素子を得る工程と、
を含む、発光素子の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の更に別の一態様によれば、本発明の複合基板の前記発光機能層上に仮支持体層を形成して、補強された複合基板を得る工程と、
前記補強された複合基板から少なくとも前記基板を除去して、前記発光機能層、前記第13族元素窒化物結晶層又は前記種結晶層を露出させる工程と、
前記露出された発光機能層、第13族元素窒化物結晶層又は種結晶層上に反射電極としても機能する支持体層を形成して、更に補強された複合基板を得る工程と、
前記更に補強された複合基板から前記仮支持体層を除去して前記発光機能層を露出させる工程と、
前記露出された発光機能層上に透光性電極層を形成して発光素子を得る工程と、
を含む、発光素子の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の更に別の一態様によれば、三次元立体形状を有する表面を備えた、反射電極としても機能する支持体層と、
前記支持体層の前記三次元立体形状を有する表面上に形成され、前記三次元立体形状を有する表面に対し略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を二以上有する発光機能層と、
前記発光機能層の前記支持体層と反対側に設けられる透光性電極層と、
を備えた、発光素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の複合基板の一例を示す模式断面図である。
図2】本発明の複合基板を用いて作製された横型発光素子の一例を示す模式断面図である。
図3】本発明の複合基板を用いて作製された縦型発光素子の一例を示す模式断面図である。
図4】本発明による発光素子の製造方法の一例を示す工程図である。
図5】本発明による発光素子の製造方法の他の一例を示す工程図である。
図6】例1において作製された基板の斜視図及びA−A’線断面図である。
図7】例1において使用された、図6に示される基板を成形するための鋳込み型を示す斜視図である。
図8】例1において変形例として記載される基板の斜視図及びB−B’線断面図である。
図9】例1において変形例として記載される、図8に示される基板を成形するための鋳込み型を示す斜視図である。
図10】例4で使用した黒鉛製の型を示す図である。
図11】例4において変形例として説明される黒鉛製の型を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
複合基板
図1に、本発明の一態様による複合基板の層構成を模式的に示す。図1に示される複合基板10は、三次元立体形状を有する表面を備えた基板12と、基板12上に設けられる第13族元素窒化物結晶層14と、所望により第13族元素窒化物結晶層14上に設けられる発光機能層16とを備えてなる。すなわち、本発明の複合基板10は、発光機能層16を有する形態であってもよいし、発光機能層16を有しない形態であってもよい。発光機能層16を有する形態によれば、ユーザーが発光機能層16を別途設けることなく複合基板10に適宜加工を施すだけでLED等の発光素子を比較的容易に作製することができる。一方、発光機能層16を有しない形態によれば、ユーザーが発光機能層16を所望の構成及び手法にて複合基板10に別途設けた上で適宜加工を施して所望の発光特性のLED等の発光素子を作製することができる。
【0017】
基板12は、三次元立体形状を有する表面が配向多結晶アルミナからなる層を備えた又は該基板の全体が配向多結晶アルミナからなる基板である。これらはいずれも少なくとも一面側の表面が配向多結晶アルミナで構成される基材であることから、「配向多結晶アルミナ基板」ないし「基板」と以下に総称するものとする。この基板12の配向多結晶アルミナ上に第13族元素窒化物結晶層14が形成されてなる。第13族元素窒化物結晶層14は発光機能層16を形成するための結晶性の高い最適な下地を与えることができる。特に、本発明において用いられる基板12は、従来広く使用されてきたアルミナ単結晶であるサファイア基板ではなく、配向多結晶アルミナ基板である。配向多結晶アルミナ基板は、種結晶から長時間育成するサファイア等の単結晶基板とは異なり、アルミナ粉末又はそれ以外の原料粉末を用いて成形及び焼成を行い、必要に応じてレーザーCVD法等の手法を用いて配向アルミナ層の成膜を行うことにより効率的に製造できるため、低コストで製造できるだけでなく、成形しやすいが故に曲面形状、凹凸形状等の所望の三次元立体形状を付与することができ、大面積化にも適する。つまり、配向多結晶アルミナ基板は、サファイア等の単結晶基板よりも格段に安価に且つ大面積で作製又は入手することができるのみならず、所望の三次元立体形状を付与することができる。そして、本発明者らの知見によれば、三次元立体形状を有する配向多結晶アルミナ基板12を用い、その上に第13族元素窒化物結晶層14及び所望により発光機能層16を設けることで、曲面形状、凹凸形状等の所望の三次元立体形状を有する発光素子を低コストで製造するのに適した複合基板を提供できる。このように、本発明の複合基板10は、曲面形状、凹凸形状等の三次元立体形状を有する従来に無い画期的なデザインの発光素子の製造を可能とするものである。例えば、曲面形状の発光素子とすることで特定方向に発光を集中させたり或いは多方向に発光を分散させたりすることができる。また、凹凸形状の発光素子とすることで、発光表面積を大きくして発光強度を高めることもできる。
【0018】
基板12は三次元立体形状を有する表面を備えてなる。すなわち、少なくとも第13族元素窒化物結晶層14が形成されるべき表面が三次元立体形状を有していればよく、それ以外の表面(例えば第13族元素窒化物結晶層14が形成されない裏面)は三次元立体形状を有しなくてもよい。勿論、基板12の表面全域(すなわち基板12の全体)にわたって三次元立体形状を有していてもよい。三次元立体形状は、二次元平面形状以外の任意の立体形状であることができる。好ましい三次元立体形状は曲面形状及び/又は凹凸形状を含むものであるが、基板12の全体が曲面形状及び/又は凹凸形状等の三次元立体形状で構成されてもよいし(例えば図4及び5を参照)、その一部に平面部分を有する形状、すなわち平面形状と三次元立体形状とを組み合わせた形状であってもよい(例えば図6及び8を参照)。いずれにしても、第13族元素窒化物結晶層14が形成される側の基板12の表面が、最終形態としての発光素子自体に三次元立体形状が反映されるような形状であることが望まれる。したがって、三次元立体形状は、視認可能な三次元プロファイルを有するマクロ形状であるのが望ましく、顕微鏡で用いないと判別できないような三次元ミクロ形状は、最終形態としての発光素子自体に三次元立体形状が反映されにくくなるため望ましい形態とはいえない。目安として、凹凸形状を有する平板状の基板の場合、凹凸の高低差が好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm、さらに好ましくは0.2mm以上であれば、視認可能な三次元プロファイルを有するマクロ形状として十分に許容可能である。また、凹部又は凸部が一定のピッチで形成されてなる基板の場合、1mm×1mmの領域あたりの凹部又は凸部の個数が好ましくは4個以上、より好ましくは2個以上、さらに好ましくは1個であれば、視認可能な三次元プロファイルを有するマクロ形状として十分に許容可能である。もっとも、本発明による三次元立体形状の特徴を最大限に活かすためには、より大きなスケールで三次元立体形状を有するのが好ましい。
【0019】
基板12は、三次元立体形状を有する表面が配向多結晶アルミナからなる層(以下、配向多結晶アルミナ層という)を備えたものであるか、又は基板全体が配向多結晶アルミナからなるものである。アルミナは酸化アルミニウム(Al)であり、典型的には単結晶サファイアと同じコランダム型構造を有するα−アルミナであり、配向多結晶アルミナは無数のアルミナ結晶粒子が配向された状態で互いに結合されてなる固体である。アルミナ結晶粒子はアルミナを含んで構成される粒子であり、他の元素として、ドーパント及び不可避不純物を含んでいてもよいし、アルミナ及び不可避不純物からなるものであってもよい。また、配向多結晶アルミナ層又は配向多結晶アルミナ体も、アルミナ結晶粒子以外に他の相又は上述したような他の元素を含んでいてもよいが、好ましくはアルミナ結晶粒子及び不可避不純物からなる。また、発光機能層が作製される配向多結晶アルミナ層又は配向多結晶アルミナ体の配向面は特に限定がなく、c面、a面、r面又はm面などであってもよい。いずれにせよ、配向多結晶アルミナを備えた基板12を用いることで高い発光効率が実現可能となる。特に、配向された基板12上に第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16の構成層をエピタキシャル成長又はこれに類する結晶成長により形成した場合、略法線方向に結晶方位が概ね揃った状態が実現されるため、単結晶基板を用いた場合と同等の高い発光効率が得られる。
【0020】
上述のとおり、配向多結晶アルミナの配向結晶方位は特に限定されるものではなく、c面、a面、r面又はm面などであってもよく、発光機能層に窒化ガリウム(GaN)系材料等の第13族元素窒化物系材料や酸化亜鉛系材料を用いる場合はc面に配向しているのが格子定数マッチングの観点で好ましい。配向度については、例えば、板面における配向度が50%以上であるのが好ましく、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは75%以上であり、特に好ましくは85%であり、特により好ましくは90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。この配向度は、XRD装置(例えば、株式会社リガク製、RINT−TTR III)を用い、板状アルミナの板面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定し、以下の式により算出することにより得られるものである。
【0021】
【数1】
【0022】
一方、無配向の多結晶アルミナ層や無配向の多結晶アルミナ焼結体を基板に用いた場合、第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16の構成層を形成する際に、様々な結晶方位の粒子がランダムな方向に結晶成長する。この結果、互いの結晶相が干渉するため、基板の略法線方向に結晶方位が概ね揃った状態を形成することができない。また、結晶方位によって結晶成長速度が異なるため均質、平坦な発光機能層を形成することができず、良質な発光機能層を形成することが困難である。
【0023】
基板12は、下地基材上に配向多結晶アルミナ層を備えた複合体であるのが好ましく、より好ましくはc面配向多結晶アルミナ層である。下地基材はアルミナ系焼結体であってもよいし、それ以外のセラミック焼結体等の無機材料であってもよい。配向多結晶アルミナ層は、レーザーCVD法及び/又はランプ加熱CVD法により望ましく形成することができる。こうして得られる配向多結晶アルミナ層は成膜条件によってc軸方向が制御可能で、原料供給量を多くすることによりc面配向になる傾向がある。特に、レーザーCVD法は、原料組成の維持やコランダム型結晶構造の実現が容易であるため好ましい。上記手法によれば、下地基材を製造した後に配向多結晶アルミナからなる層の形成を行えるため、所望の形状の鋳込み型の使用等により下地基材の成形を高い自由度で行うことができ、その結果、所望の三次元立体形状を付与した基材を得やすいとの利点がある。レーザーCVD法及び/又はランプ加熱CVD法により形成した配向多結晶アルミナ層は、特許文献2並びに非特許文献1及び2に報告されるように、三次元立体形状を有する下地基材の表面(より厳密には接平面)に対し略法線方向に単結晶構造を有する複数の単結晶粒子で構成される。すなわち、配向多結晶アルミナ層は、下地基材の表面に沿って接平面方向に配向した構造であればよい。配向多結晶アルミナ膜の膜厚は特に限定されないが、0.1〜100μmが好ましい。
【0024】
基板12は、配向多結晶アルミナ焼結体からなるものであってもよい。配向多結晶アルミナ焼結体は、多数のアルミナ単結晶粒子を含んで構成されるアルミナ焼結体からなり、多数の単結晶粒子が一定の方向にある程度又は高度に配向したものである。このように配向された多結晶アルミナ焼結体は、アルミナ単結晶よりも高強度で且つ安価であり、それ故、単結晶基板を用いる場合よりも非常に安価でありながら大面積の面発光素子の製造を可能にする。その上、上述したとおり、配向多結晶アルミナ焼結体を用いることで高い発光効率も実現可能である。このような配向アルミナ焼結体を得るため、通常の常圧焼結法に加え、熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法(HP)、放電プラズマ焼結(SPS)などの加圧焼結法、及びこれらを組み合わせた方法を用いることができる。そして、その際に所望の三次元立体形状を付与すればよい。例えば、所望の三次元立体形状を有する型(例えば黒鉛製の型)を用いてホットプレス法(HP)を行うことにより、対応した所望の三次元立体形状を有する配向多結晶アルミナ焼結体を得ることができる。
【0025】
配向多結晶アルミナ焼結体は、板状アルミナ粉末を原料として用いて成形及び焼結を行うことにより製造することができる。板状アルミナ粉末は市販されており、商業的に入手可能である。好ましくは、板状アルミナ粉末を、せん断力を用いた手法により配向させ、配向成形体とすることができる。せん断力を用いた手法の好ましい例としては、テープ成形(ドクターブレード法、ダイコーター法等)、押出し成形が挙げられる。せん断力を用いた配向手法は、上記例示したいずれの手法においても、板状アルミナ粉末にバインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等の添加物を適宜加えてスラリー化し、このスラリーをスリット状の細い吐出口を通過させることにより、基板上にシート状に吐出及び成形するのが好ましい。吐出口のスリット幅は10〜400μmとするのが好ましい。なお、分散媒の量はスラリー粘度が100〜100000cPとなるような量にするのが好ましく、より好ましくは500〜60000cPである。シート状に成形した配向成形体の厚さは5〜500μmであるのが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。このシート状に成形した配向成形体を多数枚積み重ねて、所望の厚さを有する前駆積層体とし、この前駆積層体にプレス成形を施すのが好ましい。このプレス成形は前駆積層体を真空パック等で包装して、50〜95℃の温水中で10〜2000kgf/cmの圧力で静水圧プレスにより好ましく行うことができる。或いは、複数のシート状成形体を重ねた状態で50℃〜95℃に加温した2本のローラーの間を通すことにより、連続的に圧着することも好ましい。また、押出し成形を用いる場合には、金型内の流路の設計により、金型内で細い吐出口を通過した後、シート状の成形体が金型内で一体化され、積層された状態で成形体が排出されるようにしてもよい。得られた成形体には公知の条件に従い脱脂を施すのが好ましい。上記のようにして得られた配向成形体を通常の常圧焼成に加え、熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法(HP)、放電プラズマ焼結(SPS)などの加圧焼結法、及びこれらを組み合わせた方法にて焼成し、アルミナ結晶粒子を配向して含んでなるアルミナ焼結体を形成する。上記焼成での焼成温度や焼成時間は焼成方法によって異なるが、焼成温度は1100〜1900℃、好ましくは1500〜1800℃、焼成時間は1分間〜10時間、好ましくは30分間〜5時間である。ホットプレスにて1500〜1800℃で2〜5時間、面圧100〜200kgf/cmの条件で焼成する第一の焼成工程と、得られた焼結体を熱間等方圧加圧法(HIP)にて1500〜1800℃で30分間〜5時間、ガス圧1000〜2000kgf/cmの条件で再度焼成する第二の焼成工程を経て行われるのがより好ましい。上記焼成温度での焼成時間は特に限定されないが、好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜5時間である。そして、この第一の焼成工程において、所望の三次元立体形状を成形体に付与すればよい。すなわち、所望の三次元立体形状を有する型(例えば黒鉛製の型)を用いてホットプレスを行うことにより、対応した所望の三次元立体形状を有する配向多結晶アルミナ焼結体を得ることができる。こうして得られたアルミナ焼結体は、前述した原料となる板状アルミナ粉末の種類によりc面等の所望の面に配向した多結晶アルミナ焼結体となる。こうして得られた配向多結晶アルミナ焼結体に対し、サンドブラスト等により表面の付着物を除去した後、ダイヤモンド砥粒を用いたポリッシングクロス加工により表面を平滑化して配向多結晶アルミナ基板とするのが好ましい。
【0026】
第13族元素窒化物結晶層14は、基板12の配向多結晶アルミナ上に形成され、第13族元素窒化物結晶からなる層である。第13族元素窒化物結晶層14は、基板12の配向多結晶アルミナの結晶方位に概ね倣って成長した構造を有するのが好ましい。第13族元素窒化物結晶層14は発光機能層16を形成するための結晶性の高い最適な下地を与えるものであり、基板12と発光機能層16との間で起こりうる格子ミスマッチによる格子欠陥を低減し、結晶性を改善するための層である。また、配向多結晶アルミナ基板12の配向度が低い場合、基板12に直接発光機能層16を作製すると均質、平坦な発光機能層を形成することができず、発光機能層中に気孔が生じる可能性もある。この点、第13族元素窒化物結晶層14の形成によってこれらの均質性や平坦性を改善し、気孔等を低減又は除去することができ、良質な発光機能層16を形成することができる。第13族元素窒化物結晶層14の材質は、第13族元素窒化物系の材料であれば特に限定されないが、好ましくは窒化ガリウム系(GaN)系材料、窒化アルミニウム(AlN)系材料、窒化インジウム(InN)系材料であり、最も好ましくは窒化ガリウム(GaN)系材料である。また、第13族元素窒化物結晶層14を構成する材料は、例えばGaNにAlN、InN等を固溶させた混晶としてもよい。さらに、第13族元素窒化物結晶層14を構成する第13族元素窒化物系材料は、ノンドープの材料であってもよいし、p型ないしn型に制御するためのドーパントを適宜含むものであってよい。
【0027】
第13族元素窒化物結晶層14と基板12の間には種結晶層が存在していてもよい。すなわち、第13族元素窒化物結晶層14の成膜は、配向アルミナ基板上に種結晶層を作製した後、第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16を成膜させることにより行うのが好ましく、その場合、第13族元素窒化物結晶層14と基板12の間には種結晶層が存在することになる。
【0028】
発光機能層16は、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を二以上有してなり、電極及び/又は蛍光体を適宜設けて電圧を印加することによりLEDに代表される発光素子の原理に基づき発光をもたらす公知の様々な層構成を採りうる。したがって、発光機能層16は青色、赤色等の可視光を放出するものであってもよいし、可視光を伴わずに又は可視光と共に紫外光を発光するものであってもよい。発光機能層16は、p−n接合を利用した発光素子の少なくとも一部を構成するのが好ましく、このp−n接合は、図1に示されるように、p型層16aとn型層16cの間に活性層16bを含んでいてもよい。このとき、活性層としてp型層及び/又はn型層よりもバンドギャップが小さい層を用いたダブルへテロ接合又はシングルヘテロ接合(以下、ヘテロ接合と総称する)としてもよい。また、p型層−活性層−n型層の一形態として、活性層の厚みを薄くした量子井戸構造を採りうる。量子井戸を得るためには活性層のバンドギャップがp型層及びn型層よりも小さくしたダブルへテロ接合が採用されるべきことは言うまでもない。また、これらの量子井戸構造を多数積層した多重量子井戸構造(MQW)としてもよい。これらの構造をとることで、p−n接合と比べて発光効率を高めることができる。このように、発光機能層16は、発光機能を有するp−n接合及び/又はへテロ接合及び/又は量子井戸接合を備えたものであるのが好ましい。したがって、発光機能層16を構成する二以上の層は、n型ドーパントがドープされているn型層、p型ドーパントがドープされているp型層、及び活性層からなる群から選択される少なくとも二以上を含むものであることができる。n型層、p型層及び(存在する場合には)活性層は、主成分が同じ材料で構成されてもよいし、互いに主成分が異なる材料で構成されてもよい。
【0029】
発光機能層16を構成する各層は、第13族元素窒化物結晶層14と同様、第13族元素窒化物系材料で構成されるのが好ましく、より好ましくは窒化ガリウム系(GaN)系材料、窒化アルミニウム(AlN)系材料、窒化インジウム(InN)系材料であり、最も好ましくは窒化ガリウム系(GaN)材料で構成される。例えば、第13族元素窒化物結晶層14上にn型窒化ガリウム層及びp型窒化ガリウム層を成長させてもよく、p型窒化ガリウム層とn型窒化ガリウム層の積層順序は逆であってもよい。p型窒化ガリウム層に使用されるp型ドーパントの好ましい例としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、亜鉛(Zn)及びカドミウム(Cd)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、n型窒化ガリウム層に使用されるn型ドーパントの好ましい例としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)及び酸素(O)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、p型窒化ガリウム層及び/又はn型窒化ガリウム層は、AlN及びInNからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化された窒化ガリウムからなるものであってもよく、p型層及び/又はn型層はこの混晶化された窒化ガリウムにp型ドーパント又はn型ドーパントがドープされていてもよい。例えば、窒化ガリウムとAlNの混晶であるAlGa1−xNにMgをドーピングすることでp型層、AlGa1−xNにSiをドーピングすることでとしてn型層として使用することができる。窒化ガリウムをAlNと混晶化することでバンドギャップが広がり、発光波長を高エネルギー側にシフトさせることができる。また、窒化ガリウムをInNとの混晶としてもよく、これによりバンドギャップが狭まり、発光波長を低エネルギー側にシフトさせることができる。p型窒化ガリウム層とn型窒化ガリウム層との間に、両層のいずれよりもバンドギャップが小さいGaN、又はAlN及びInNからなる群から選択される1種以上とGaNとの混晶からなる活性層を少なくとも有してもよい。活性層はp型層及びn型層とダブルへテロ接合された構造であり、この活性層を薄くした構成はp−n接合の一態様である量子井戸構造の発光素子に相当し、発光効率をより一層高めることができる。また、活性層は両層のいずれか一方よりもバンドギャップが小さくGaN、又はAlN及びInNからなる群から選択される1種以上とGaNとの混晶からなるものとしてもよい。このようなシングルヘテロ接合にても発光効率をより一層高めることができる。
【0030】
第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16を構成する各層は、基板12の表面に対し略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成されるのが好ましい。すなわち、各層は、基板12の表面に沿った接平面方向に連結されてなる複数の半導体単結晶粒子で構成されており、それ故、略法線方向には単結晶構造を有することになる。したがって、第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16の各層は、層全体としては単結晶ではないものの、局所的なドメイン単位では単結晶構造を有するため、発光機能を確保するのに十分な高い結晶性を有することができる。好ましくは、第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16の各層は、基板12の少なくとも表面を構成する配向多結晶アルミナの結晶方位に概ね倣って成長した構造を有する。「配向多結晶アルミナの結晶方位に概ね倣って成長した構造」とは、配向多結晶アルミナの結晶方位の影響を受けた結晶成長によりもたらされた構造を意味し、必ずしも配向多結晶アルミナの結晶方位に完全に倣って成長した構造であるとは限らず、所望の発光機能を確保できるかぎり、配向多結晶アルミナの結晶方位にある程度倣って成長した構造であってよい。すなわち、この構造は配向アルミナと異なる結晶方位に成長する構造も含む。その意味で、「結晶方位に概ね倣って成長した構造」との表現は「結晶方位に概ね由来して成長した構造」と言い換えることもでき、この言い換え及び上記意味は本明細書中の同種の表現に同様に当てはまる。したがって、そのような結晶成長はエピタキシャル成長によるものが好ましいが、これに限定されず、それに類する様々な結晶成長の形態であってもよい。特にn型層、活性層、p型層等を構成する各層が同じ結晶方位に成長する場合は各層間でも略法線方向に関しては結晶方位が概ね揃った構造となり、良好な発光特性を得ることができる。
【0031】
したがって、第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16の各層は、法線方向に見た場合に単結晶と観察され、接平面方向の切断面で見た場合に粒界が観察される柱状構造の半導体単結晶粒子の集合体であると捉えることも可能である。ここで、「柱状構造」とは、典型的な縦長の柱形状のみを意味するのではなく、横長の形状、台形の形状、及び台形を逆さにしたような形状等、種々の形状を包含する意味として定義される。もっとも、上述のとおり、各層は配向多結晶アルミナの結晶方位にある程度倣って成長した構造であればよく、必ずしも厳密な意味で柱状構造である必要はない。柱状構造となる原因は、前述のとおり、基板12である配向多結晶アルミナの結晶方位の影響を受けて半導体単結晶粒子が成長するためと考えられる。このため、柱状構造ともいえる半導体単結晶粒子の断面の平均粒径(以下、断面平均径という)は成膜条件だけでなく、配向多結晶アルミナの板面の平均粒径にも依存するものと考えられる。発光機能層を構成する柱状構造の界面は発光効率や発光波長に影響を与えるが、粒界があることにより断面方向の光の透過率が悪く、光が散乱ないし反射する。このため、法線方向に光を取り出す構造の場合、粒界からの散乱光により輝度が高まる効果も期待される。
【0032】
もっとも、第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16を構成する柱状構造同士の界面は結晶性が低下するため、発光効率が低下し、発光波長が変動し、発光波長がブロードになる可能性がある。このため、柱状構造の断面平均径は大きいほうが良い。好ましくは、第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16の最表面における半導体単結晶粒子の断面平均径は0.3μm以上であり、より好ましくは3μm以上である。この断面平均径の上限は特に限定されないが、1000μm以下が現実的である。また、このような断面平均径の半導体単結晶粒子を作製するには、例えば、基板12である配向多結晶アルミナ焼結体を構成するアルミナ粒子の板面における焼結粒径を0.3μm〜1000μmとするのが望ましく、より望ましくは3μm〜1000μmである。
【0033】
第13族元素窒化物結晶層14、発光機能層16及び種結晶層の作製方法は特に限定されないが、基板12である配向多結晶アルミナの結晶方位に概ね倣った結晶成長を促すものが好ましい。発光機能層16及び種結晶層の作製には、MOCVD(有機金属気相成長法)が好適に用いられる。第13族元素窒化物結晶層14の作製には、HVPE(ハライド気相成長法)Naフラックス法、アモノサーマル法等が好適に用いられる。例えばMOCVD法を用いて窒化ガリウム系材料からなる発光機能層16を作製する場合においては、少なくともガリウム(Ga)を含む有機金属ガス(例えばトリメチルガリウム)と窒素(N)を少なくとも含むガス(例えばアンモニア)を原料として基板上にフローさせ、水素、窒素又はその両方を含む雰囲気等において300〜1200℃程度の温度範囲で成長させてもよい。この場合、バンドギャップ制御のためインジウム(In)、アルミニウム(Al)、n型及びp型ドーパントとしてシリコン(Si)及びマグネシウム(Mg)を含む有機金属ガス(例えばトリメチルインジウム、トリメチルアルミニウム、モノシラン、ジシラン、ビス−シクロペンタジエニルマグネシウム)を適宜導入して成膜を行ってもよい。
【0034】
本発明の特に好ましい態様によれば、複合基板を以下のようにして製造することができる。すなわち、(1)配向多結晶アルミナ基板12を用意し、(2)基板12上に、MOCVD法を用いて窒化ガリウムからなる種結晶層を形成し、(3)この種結晶層上に、Naフラックス法を用いて、窒化ガリウムからなる第13族元素窒化物結晶層14を形成し、所望により(4)第13族元素窒化物結晶層14上に、窒化ガリウム系材料で構成される発光機能層16を形成する。この手順によれば高品質な窒化ガリウム系の複合基板10を作製できる。この方法は第13族元素窒化物結晶層14の形成をNaフラックス法により行うことを特徴としている。Naフラックス法による第13族元素窒化物結晶層14の形成は、種結晶基板を設置した坩堝に金属Ga、金属Na及び所望によりドーパントを含む融液組成物を充填し、窒素雰囲気中で830〜910℃、3.5〜4.5MPaまで昇温加圧した後、温度及び圧力を保持しつつ回転することにより行うのが好ましい。保持時間は目的の膜厚によって異なるが、10〜20時間程度としてもよい。また、こうしてNaフラックス法により得られた窒化ガリウム結晶をダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により板面を平滑化して第13族元素窒化物結晶層14とするのが好ましい。
【0035】
発光機能層16の上に電極層及び/又は蛍光体層をさらに備えていてもよい。こうすることで発光素子用複合材料をより発光素子に近い形態で提供することができ、発光素子用複合材料としての有用性が高まる。電極層が設けられる場合、発光機能層16上に設けられるのが好ましい。電極層は公知の電極材料で構成すればよいが、ITO等の透明導電膜、又は格子構造、メッシュ構造若しくはモスアイ構造等の光取出し効率が高い金属電極とすれば、発光機能層で発生した光の取り出し効率を上げられる点で好ましい。
【0036】
発光機能層16が紫外光を放出可能なものである場合には、紫外光を可視光に変換するための蛍光体層を電極層の外側に設けてもよい。蛍光体層は紫外線を可視光に変換可能な公知の蛍光成分を含む層であればよく特に限定されない。例えば、紫外光により励起されて青色光を発光する蛍光成分と、紫外光により励起されて青〜緑色光を発光する蛍光成分と、紫外光により励起されて赤色光を発光する蛍光成分とを混在させて、混合色として白色光を得るような構成とするのが好ましい。そのような蛍光成分の好ましい組み合わせとしては、(Ca,Sr)(POCl:Eu、BaMgAl1017:Eu、及びMn、YS:Euが挙げられ、これらの成分をシリコーン樹脂等の樹脂中に分散させて蛍光体層を形成するのが好ましい。このような蛍光成分は上記例示物質に限定されるものではなく、他の紫外光励起蛍光体、例えばイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)やシリケート系蛍光体、酸窒化物系蛍光体等の組み合わせでもよい。
【0037】
一方、発光機能層16が青色光を放出可能なものである場合には、青色光を黄色光に変換するための蛍光体層を電極層の外側に設けてもよい。蛍光体層は青色光を黄色光に変換可能な公知の蛍光成分を含む層であればよく特に限定されない。例えばYAGなどの黄色発光する蛍光体との組み合わせたものとしてもよい。このようにすることで、蛍光体層を透過した青色発光と蛍光体からの黄色発光は補色関係にあるため、擬似的な白色光源とすることができる。なお、蛍光体層は、青色を黄色に変換する蛍光成分と、紫外光を可視光に変換するための蛍光成分との両方を備えることで、紫外光の可視光への変換と青色光の黄色光への変換との両方を行う構成としてもよい。
【0038】
発光素子
上述した本発明による複合基板を用いて曲面形状、凹凸形状等の所望の三次元立体形状を有する発光素子を作製することができる。その結果、三次元立体形状を有する従来に無い画期的なデザインの発光素子の製造を可能とするものである。例えば、曲面形状の発光素子とすることで特定方向に発光を集中させたり或いは多方向に発光を分散されせたりすることができる。また、凹凸形状の発光素子とすることで、発光表面積を大きくして発光強度を高めることもできる。本発明の複合基板を用いた発光素子の構造やその作製方法は特に限定されるものではなく、ユーザーが複合基板を適宜加工して発光素子を作製すればよい。複合基板の加工の仕方次第で、横型構造の発光素子を製造することもできるし、縦型構造の発光素子も製造することができる。
【0039】
(1)横型構造の発光素子
本発明の複合基板を用いて、発光機能層16の法線方向だけでなく、横方向にも電流が流れる、いわゆる横型構造の発光素子を作製することができる。本発明の好ましい態様によれば、横型構造の発光素子の製造は、(a)複合基板10の発光機能層16上に透光性電極層を形成し、(b)透光性電極層の形成前又は後に(望ましくは形成後に)、発光機能層16の一部を局所的に除去して発光機能層16の最下層(例えばn型層又はp型層)を局所的に露出させ、(c)露出された最下層(例えばn型層又はp型層)上に電極層を形成して発光素子を得ることにより行うことができる。透光性電極層はITO等の透明導電膜、又は格子構造、メッシュ構造若しくはモスアイ構造等の光取出し効率が高い金属電極であるのが好ましい。図2に横型構造の発光素子の一例を示す。図2に示される発光素子20は、複合基板10としてその端部を電極形成用に平板状に形成したものを用いて作製されたものである(図2において曲面形状の部分は説明の便宜上省略した)。具体的には、複合基板10の発光機能層16の表面(図示例ではp型層16aの表面)に透光性アノード電極24が設けられ、所望により透光性アノード電極24の一部の上にアノード電極パッド25が設けられる。一方、発光機能層16の他の部分ではフォトリソグラフィープロセス及びエッチング(好ましくは反応性イオンエッチング(RIE))が施されてn型層16cが部分的に露出され、この露出部分にカソード電極22が設けられる。このように、本発明の複合基板を用いることで、簡単な加工を施すだけで、高性能な発光素子を製造することができる。前述のとおり、複合基板10には電極層及び/又は蛍光体層が予め設けられていてもよく、その場合には、より少ない工程で高性能の発光素子を製造することができる。
【0040】
(2)縦型構造の発光素子
また、本発明の複合基板を用いて、発光機能層16の法線方向に電流が流れる、いわゆる縦型構造の発光素子も作製することができる。本発明の複合基板10は絶縁材料の多結晶アルミナを基板12に用いているため、そのままの形態であると、基板12側に電極を設けることができず、縦型構造の発光素子を構成することができない。しかしながら、複合基板10から基板12を除去すれば縦型構造の発光素子も作製可能である。本発明の好ましい態様によれば、縦型構造の発光素子の製造は、(a)複合基板10の発光機能層16上に反射電極層又は透光性電極層を形成し、(b)反射電極層又は透光性電極層の形成前又は後に(望ましくは形成後に)、複合基板10から少なくとも基板12を除去して、発光機能層16、第13族元素窒化物結晶層14又は種結晶層を露出させ、(c)露出された発光機能層16、第13族元素窒化物結晶層14又は種結晶層上に透光性電極層又は反射電極層を形成して発光素子を得ることにより行うことができる。透光性電極層はITO等の透明導電膜、又は格子構造、メッシュ構造若しくはモスアイ構造等の光取出し効率が高い金属電極であるのが好ましい。複合基板10から基板12を除去する方法は、特に限定されないが、研削加工、ケミカルエッチング、配向焼結体側からのレーザー照射による界面加熱(レーザーリフトオフ)、昇温時の熱膨張差を利用した自発剥離等が挙げられる。
【0041】
基板12の除去を複合基板10の実装基板への接合後に行うことで、基板12の除去時及びその後の工程で必要な強度を確保することができる。図3にそのようにして製造された縦型構造の発光素子の一例を示す。図3に示される発光素子30は、複合基板10を用いて作製されたものである。具体的には、予め必要に応じて複合基板10の最表面(図示例ではp型層16aの表面)にアノード電極層32を設けておく。そして、別途用意した基板36(以下、実装基板36という)に複合基板10の発光機能層16の最表面のアノード電極層32を接合する。その後、研削加工、レーザーリフトオフ、エッチング等の公知の方法で基板12を除去する。最後に、基板12を除去して露出した発光機能層16、第13族元素窒化物結晶層14又は種結晶層の表面にカソード電極層34を設ける。なお、このような構造とする場合は発光機能層16、第13族元素窒化物結晶層14又は種結晶層にp型ないしn型ドーパントのドーピング等により導電性を持たせる必要がある。こうして、実装基板36上に発光機能層16が形成された発光素子30を得ることができる。実装基板36の種類には特に限定がないが、実装基板36に導電性がある場合は実装基板36自体を電極とした縦型構造の発光素子30とすることもできる。この場合の実装基板36には発光機能層16への拡散などの影響がない限り、p型ないしn型ドーパントをドーピングした半導体材料でもよいし、金属材料としてもよい。また、発光機能層16は発光に伴って発熱する可能性があるが、高熱伝導性の実装基板36を用いることで発光機能層16及びその周辺温度を低く保つことができる。
【0042】
複合基板10の加工時に支持体層を形成することで、基板12の除去時及びその後の工程で必要な強度を確保してもよい。例えば、図4に示されるように、発光素子の製造は、(a)複合基板10の発光機能層16上に反射電極としても機能する支持体層42を形成して、補強された複合基板を得、(b)この補強された複合基板から少なくとも基板12(図4では基板12及び第13族元素窒化物結晶層14)を除去して、発光機能層16、第13族元素窒化物結晶層14又は種結晶層(図4では発光機能層16)を露出させ、(c)この露出された発光機能層16、第13族元素窒化物結晶層14又は種結晶層上に透光性電極層を形成して発光素子を得ることにより行うことができる。支持体層42の材質は反射電極として使用可能で且つ所望の厚さの層形態において支持体としての強度を確保可能な材料であれば特に限定されず、例えばAl、Ni、Ag、Pt、W、Mo等が挙げられるが、発光層がGaNである場合、熱膨張係数が近く、温度変化による発光機能層に生じる応力が抑制できるWやMoが好ましい。また、好ましくは、図4に示されるように、複合基板10が発光機能層16を外周面とする曲面形状を有しており、その結果、発光素子が内周面側に発光する曲面発光素子40として構成される。すなわち、この曲面発光素子40は、支持体層42の内周面上に発光機能層16が形成され、それにより発光素子が内周面側に発光するように構成されてなる。
【0043】
あるいは、図5に示されるように、発光素子の製造は、(a)複合基板10の発光機能層16上に仮支持体層52を形成して、補強された複合基板を得、(b)この補強された複合基板から少なくとも基板12(図5では基板12及び第13族元素窒化物結晶層14)を除去して、発光機能層16、第13族元素窒化物結晶層14又は種結晶層(図5では発光機能層16)を露出させ、(c)露出された発光機能層16、第13族元素窒化物結晶層14又は種結晶層上に反射電極としても機能する支持体層54を形成して、更に補強された複合基板を得、(d)更に補強された複合基板から仮支持体層52を除去して発光機能層16を露出させ、(e)露出された発光機能層16上に透光性電極層(図示せず)を形成して発光素子を得ることにより行ってもよい。仮支持体層52の材質は所望の厚さの層形態において支持体として強度を確保可能で且つ後の工程で除去可能なものであれば特に限定されず、例えばシリカ、多結晶シリコン(ポリシリコン)、フォトレジスト、アルミナ等が使用可能である。支持体層54の材質は反射電極として使用可能で且つ所望の厚さの層形態において支持体としての強度を確保可能な材料であれば特に限定されず、例えばAl、Ni、Ag、Pt、W、Mo等が挙げられる。好ましくは、図5に示されるように、複合基板10が発光機能層16を外周面とする曲面形状を有しており、その結果、発光素子が外周面側に発光する曲面発光素子50として構成される。すなわち、この曲面発光素子50は、支持体層54の外周面上に発光機能層16が形成され、それにより発光素子が外周面側に発光するように構成されてなる。
【実施例】
【0044】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0045】
例1
(1)c軸配向アルミナ膜が形成された基板の作製
先ず、図6に示されるようなセラミック成形体からなる基板62を作製すべく、成形スラリーを以下のようにして調製した。原料粉末としてアルミナ粉末100重量部及びマグネシア0.025重量部、分散媒として多塩基酸エステル30重量部、ゲル化剤としてMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)樹脂4重量部、分散剤2重量部、触媒としてトリエチルアミン0.2重量部を混合して成形スラリーとした。この成形スラリーを、図7に示されるようなアルミニウム合金製の鋳込み型64に室温で注型後、室温で1時間放置し、固化してから離型した。さらに、室温、次いで温度90℃のそれぞれの温度にて2時間放置して、セラミック成形体を得た。この成形体を大気中において温度1200℃で仮焼した後、水素:窒素=3:1の雰囲気中において温度1800℃で焼成し、緻密化及び透光化させた。この結果、高さ0.3mmの凸部を1mmのピッチで有するセラミック焼結体を得た。なお、本例では図7に示されるような凹部64aがパターニングされた鋳込み型64を用いて図6に示されるような凸部62aがパターニングされた基板62を得ているが、図9に示されるような凸部74aがパターニングされた鋳込み型74を用いて図8に示されるような凹部72aがパターニングされた基板72として得てもよい。
【0046】
次に、上記凸部を有するセラミック焼結体にc軸配向アルミナ膜を形成するため、レーザーCVDを用いた成膜を行った。レーザーCVDによる成膜は、Al原料としてアルミニウムトリス(アセチルアセトナート)を用いて、基板温度1170K以上で、Al原料が過剰となる条件で行った。こうして、表面全体が厚さ5μmのc軸配向アルミナ膜で覆われたセラミック焼結体基板を得た。
【0047】
(2)発光素子用基板の作製
(2a)種結晶層の成膜
次に、c軸配向アルミナ膜上にMOCVD法を用いて、種結晶層を形成した。具体的には、530℃にて低温GaN層を40nm堆積させた後に、1050℃にて厚さ3μmのGaN膜を積層させて種結晶基板を得た。
【0048】
(2b)Naフラックス法による第13族元素窒化物結晶層の成膜
上記工程で作製した種結晶基板を、内径80mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝の底部分に設置し、次いで融液組成物をグローブボックス内で坩堝内に充填した。融液組成物の組成は以下のとおりである。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
【0049】
このアルミナ坩堝を耐熱金属製の容器に入れて密閉した後、結晶育成炉の回転が可能な台上に設置した。窒素雰囲気中で870℃、4.0MPaまで昇温加圧後、10時間保持しつつ溶液を回転することで、撹拌しながら窒化ガリウム結晶を第13族元素窒化物結晶層として成長させた。結晶成長終了後、3時間かけて室温まで徐冷し、結晶育成炉から育成容器を取り出した。エタノールを用いて、坩堝内に残った融液組成物を除去し、窒化ガリウム結晶が成長した試料を回収した。得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上に窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.1mmであった。クラックは確認されなかった。
【0050】
こうして得られた配向アルミナ基板上の窒化ガリウム結晶を、基板ごとセラミックスの定盤に固定し、窒化ガリウム結晶の板面をダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、窒化ガリウム結晶の板面を平滑化した。このとき、砥粒のサイズを10μmから0.1μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。窒化ガリウム結晶板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。こうして、配向アルミナ基板上に厚み約50μmの窒化ガリウム結晶層を形成した基板を得た。
【0051】
(2c)MOCVD法による発光機能層の成膜と断面平均径の評価
MOCVD法を用いて、基板上にn型導電層として1050℃でSi原子濃度が5×1018/cmになるようにドーピングしたn−GaN層を3μm堆積した。次に活性層として750℃で多重量子井戸層を堆積した。具体的にはInGaNによる2.5nmの井戸層を5層、GaNによる10nmの障壁層を6層にて交互に積層した。次にp型導電層として950℃でMg原子濃度が1×1019/cmになるようにドーピングしたp−GaNを200nm堆積した。その後、MOCVD装置から取り出し、p型導電層のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行い、発光素子用基板を得た。
【0052】
(3)横型発光素子の作製と評価
作製した発光素子用基板の発光機能層側においてフォトリソグラフィープロセスとRIE法とを用い、n型導電層の一部を露出した。続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、n型導電層の露出部分に、カソード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、p型導電層に透光性アノード電極としてNi/Au膜をそれぞれ6nm、12nmの厚みにパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、透光性アノード電極としてのNi/Au膜の上面の一部領域に、アノード電極パッドとなるNi/Au膜をそれぞれ5nm、60nmの厚みにパターニングした。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、横型構造の発光素子を得た。
【0053】
(発光素子の評価)
カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。
【0054】
例2
(1)発光素子用基板の作製
(1a)Naフラックス法による第13族元素窒化物結晶層の成膜
例1と同様にして、配向アルミナ基板上に厚さ3μmのGaN膜を積層させた種結晶基板を作製した。この種結晶基板上に、融液組成物を下記組成としたこと以外は例1の(2b)と同様にして第13族元素窒化物結晶層を成膜した。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
・四塩化ゲルマニウム:1.85g
【0055】
得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上にゲルマニウムがドープされた窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.1mmであった。クラックは確認されなかった。その後、例1(2b)と同じ方法を用いて試料を加工し、配向アルミナ膜上に厚み約50μmのゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶層を第13族元素窒化物結晶層として形成した基板を得た。
【0056】
(体積抵抗率の評価)
ホール効果測定装置を用い、ゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶層の面内の体積抵抗率を測定した。その結果、体積抵抗率は1×10−2Ω・cmであった。
【0057】
(1b)MOCVD法による発光機能層の成膜と断面平均径の評価
例1の(2c)と同様の方法を用いて、基板上へ発光機能層を形成し、発光素子用基板を得た。
【0058】
(2)縦型発光素子の作製と評価
本例で作製した発光素子用基板に、真空蒸着法を用いて、p型導電層に反射性アノード電極層としてAg膜を200nmの厚みに堆積した。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。次に、多結晶アルミナ基板側から波長248nmのエキシマレーザーを照射し、多結晶アルミナ基板近傍のGaNを熱分解させ、次にウェハーを30℃にすることでGaNを多結晶アルミナ基板から剥離することにより、ゲルマニウムドープ窒化ガリウムで構成された第13族元素窒化物結晶層を露出した。次に、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、第13族元素窒化物結晶層にカソード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。カソード電極のパターンは、電極が形成されていない箇所から光が取り出せるように開口部を有する形状とした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、縦型構造の発光素子を得た。
【0059】
(発光素子の評価)
カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。
【0060】
例3
(1)発光素子用基板の作製
(1a)Naフラックス法による第13族元素窒化物結晶層の成膜
例1及び2と同様にして、配向アルミナ基板上に厚さ3μmのGaN膜を積層させた種結晶基板を作製した。この種結晶基板上に、融液組成物を下記組成としたこと以外は例1の(2b)と同様にして第13族元素窒化物結晶層を成膜した。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
・四塩化ゲルマニウム:1.85g
【0061】
得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上にゲルマニウムがドープされた窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.1mmであった。クラックは確認されなかった。その後、例1(2b)と同じ方法を用いて試料を加工し、配向アルミナ膜上に厚み約50μmのゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶層を第13族元素窒化物結晶層として形成した基板を得た。
【0062】
(体積抵抗率の評価)
ホール効果測定装置を用い、ゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶層の面内の体積抵抗率を測定した。その結果、体積抵抗率は1×10−2Ω・cmであった。
【0063】
(1b)MOCVD法による発光機能層の成膜と断面平均径の評価
例1の(2c)と同様の方法を用いて、基板上へ発光機能層を形成し、発光素子用基板を得た。
【0064】
(2)縦型発光素子の作製と評価
本例で作製した発光素子用基板の発光機能層上に、レーザーCVD法を用いて多結晶アルミナ製支持部材を仮支持体層として形成した。次に、下地基板の多結晶アルミナ基板側から波長248nmのエキシマレーザーを照射し、多結晶アルミナ基板近傍のGaNを熱分解させ、次にウェハーを30℃にすることで仮支持体層/発光機能層/第13族元素窒化物結晶層の積層体を多結晶アルミナ基板から剥離した。こうして、ゲルマニウムドープ窒化ガリウムで構成された第13族元素窒化物結晶層を露出させた。露出された第13族元素窒化物結晶層に反射性カソード電極層としてW膜を100μmの厚みに堆積した。次に上記レーザーCVDで形成したアルミナ製支持部材側から波長248nmのエキシマレーザーを照射し、アルミナ製支持部材(仮支持体層)近傍のGaNを熱分解させ、仮支持体層を除去して発光機能層(より具体的にはp型導電層)を露出させた。次に、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、露出した発光機能層(より具体的にはp型導電層)にアノード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。アノード電極のパターンは、電極が形成されていない箇所から光が取り出せるように開口部を有する形状とした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、縦型構造の発光素子を得た。
【0065】
(発光素子の評価)
カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。
【0066】
例4:c軸配向多結晶アルミナ基板の他の作製例
原料として、板状アルミナ粉末(キンセイマテック株式会社製、グレード00610)を用意した。板状アルミナ粒子100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)7重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)3.5重量部と、分散剤(レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)を混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが20μmとなるように、シート状に成形した。得られたテープを直径100mmの円形に切断した後150枚積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、成形体を得た。
【0067】
得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を図10に示されるような凹部84aがパターニングされた黒鉛製の型84を用い、ホットプレスにて窒素中1600℃で4時間、面圧200kgf/cmの条件で焼成した。得られた焼結体を熱間当方圧加圧法(HIP)にてアルゴン中1700℃で2時間、ガス圧1500kgf/cmの条件で再度焼成した。なお、本例では図10に示されるような凹部84aがパターニングされた型84を用いたが、図11に示されるような凸部94aがパターニングされた型94を用いてもよい。
【0068】
このようにして得た焼結体をサンドブラストにより表面の付着物を除去し、その後、セラミックスの定盤に固定し、ダイヤモンド砥粒を用いたポリッシングクロス加工により、表面を平滑化し、配向アルミナ焼結体を配向多結晶アルミナ基板として得た。この配向多結晶アルミナ基板を用いること以外は例1及び2と同様にして発光素子を作製することができる。
【0069】
変形態様の例示列挙
本発明は上述した態様以外にも本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で各種の変形がなされてよい。そのような変形態様の例としては、以下のようなものが挙げられる。
‐ 基板12が下地基材と配向多結晶アルミナ層との複合体である場合、下地基材はセラミック焼結体であってもよいし、金属であってもよい。
‐ 基板12が下地基材と配向多結晶アルミナ層との複合体である場合、下地基材の材質を第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16の材質と同様の又は近い熱膨張率を有する材質で構成してもよく、それにより熱膨張率の差に起因する第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16のダメージを防止又は低減することができる。例えば、第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16の各層が窒化ガリウム(GaN)で構成される場合、下地基材は窒化アルミニウム(AlN)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、又はそれらの組合せで構成すればよい。この態様は基板12を除去しなくてよい横型発光素子に適する。
‐ 基板12が下地基材と配向多結晶アルミナ層との複合体である場合、下地基材の材質を第13族元素窒化物結晶層14及び発光機能層16の材質と有意に異なる熱膨張率を有する材質で構成してもよく、それにより熱膨張率の差を利用して発光機能層16からの基板12の除去を容易にすることができる。この態様は基板12を除去が必要とされる縦型発光素子に適する。
‐ 発光機能層16の形成をレーザーCVD法及び/又はランプ加熱CVD法により行ってもよい。
図1
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図11