特許第6562849号(P6562849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562849
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】コアシェル触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20190808BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20190808BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20190808BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20190808BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20190808BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20190808BHJP
   H01M 4/88 20060101ALN20190808BHJP
   H01M 4/86 20060101ALN20190808BHJP
   H01M 4/90 20060101ALN20190808BHJP
   H01M 4/92 20060101ALN20190808BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20190808BHJP
【FI】
   B01J23/89 M
   B01J37/02 101D
   B01J37/16
   B01J37/03 A
   B01J37/08
   B01J35/08 Z
   !H01M4/88 K
   !H01M4/86 M
   !H01M4/90 M
   !H01M4/92
   !H01M8/10
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-29288(P2016-29288)
(22)【出願日】2016年2月18日
(65)【公開番号】特開2017-144401(P2017-144401A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英志
(72)【発明者】
【氏名】横山 俊
(72)【発明者】
【氏名】田路 和幸
(72)【発明者】
【氏名】土田 修三
(72)【発明者】
【氏名】谷口 泰士
(72)【発明者】
【氏名】関 良平
(72)【発明者】
【氏名】上山 康博
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/129253(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0192030(US,A1)
【文献】 特開2014−108380(JP,A)
【文献】 特表2010−501344(JP,A)
【文献】 特表2014−508038(JP,A)
【文献】 特開2013−215697(JP,A)
【文献】 特開2015−150504(JP,A)
【文献】 特開2010−214330(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02959968(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0092841(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0324394(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
H01M4/86−4/98
H01M8/00−8/02,8/08−8/24
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア金属の原料となるコア金属塩と錯化剤とを混合して、コア金属錯体溶液を生成するコア金属錯体溶液生成工程と、
シェル金属の原料となるシェル金属塩と錯化剤とを混合して、シェル金属錯体溶液を生成するシェル金属錯体溶液生成工程と、
炭素粉末と分散剤を混合して、炭素粉末分散溶液を生成する炭素粉末分散溶液生成工程と、
前記コア金属錯体溶液と前記炭素粉末分散溶液を混合し、還元剤を投入して、前記炭素粉末上に前記コア金属錯体を還元させる第1の還元工程と、
前記第1の還元工程によって得られたコア金属を含む溶液に前記シェル金属錯体溶液を投入後、還元剤を投入して、前記コア金属の表面に前記シェル金属錯体を還元させる第2の還元工程と、
前記第2の還元工程によって得られた前記コア金属及び前記シェル金属からなるコアシェル構造が担持された前記炭素粉末を所定の温度にて乾燥・焼成する焼成工程と、
を含み、
前記コア金属錯体溶液生成工程および前記シェル金属錯体溶液生成工程において、
前記コア金属の錯化剤と前記シェル金属錯体の錯化剤とを異なる材料を用いることで前記コア金属錯体の還元速度を前記シェル金属錯体の還元速度より大きく制御する、触媒製造方法。
【請求項2】
コア金属の原料となるコア金属塩と錯化剤とを混合して、コア金属錯体溶液を生成するコア金属錯体溶液生成工程と、
シェル金属の原料となるシェル金属塩と錯化剤とを混合して、シェル金属錯体溶液を生成するシェル金属錯体溶液生成工程と、
炭素粉末と分散剤を混合して、炭素粉末分散溶液を生成する炭素粉末分散溶液生成工程と、
前記コア金属錯体溶液と前記シェル金属錯体溶液および前記炭素粉末分散溶液を混合し、還元剤を投入して、前記炭素粉末上に前記コア金属錯体及び前記シェル金属錯体を還元させる還元工程と、
前記還元工程によって得られた前記コア金属及び前記シェル金属からなるコアシェル構造が担持された前記炭素粉末を所定の温度にて乾燥・焼成する焼成工程と、
を含み、
前記コア金属錯体溶液生成工程および前記シェル金属錯体溶液生成工程において、
前記コア金属の錯化剤と前記シェル金属錯体の錯化剤とを異なる材料を用いることで前記コア金属錯体の還元速度を前記シェル金属錯体の還元速度より大きく制御する、触媒製造方法。
【請求項3】
前記コア金属錯体の酸化還元電位を前記シェル金属錯体の酸化還元電位より大きく制御する請求項1または2に記載の触媒製造方法。
【請求項4】
前記コア金属錯体の錯体生成定数より前記シェル金属錯体の錯体生成定数を大きく制御する、請求項1から3のいずれか1項に記載の触媒製造方法。
【請求項5】
前記コア金属錯体溶液生成工程の錯化剤と前記炭素粉末分散工程の分散剤が異なる、請求項1からのいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項6】
前記コア金属錯体の電荷の正負と、分散剤により処理された前記炭素粉末の表面の電荷の正負とが異なる材料を用い、その静電的な吸着により前記炭素粉末上へ前記コア金属錯体を吸着させる、請求項1からのいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項7】
前記コア金属は、銅であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項8】
前記シェル金属は、白金である、請求項1からのいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル構造を有する白金族担持触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形をはじめとする燃料電池は、次世代の発電システムとして期待されており、中でも固体高分子形燃料電池は他の燃料電池と比較して動作温度が低く、コンパクトであるという利点から、家庭用、自動車用の電源としての利活用が期待されている。
【0003】
そして、近年の燃料電池の普及に伴い、固体高分子形燃料電池用触媒に対して、単に活性に優れていることのみならず、様々な改善、特に、触媒に使用される白金族の使用量、担体への担持量の低減が求められており、多数の検討がなされている。
その中で、近年注目されている技術の一例として、コアシェル構造を有した触媒を用いることで白金の使用量を削減する技術が公知になっている。
【0004】
ここでコアシェル構造について、図1を用いて説明する。安価な金属を用いたコア金属1の表面に、燃料電池の触媒性能を発揮する貴金属(例えば白金)をシェル金属2として形成した構造を、コアシェル構造と述べる。具体的には、図1(a)のように、コア金属1の表面全体、もしくは、図1(b)のようにコア金属の表面の一部にシェル金属2を形成した構造である。
【0005】
先行文献の内容について以下に述べる。たとえば、コア金属1として金、シェル金属2として白金を用いたコアシェル構造を有した触媒を合成する方法がある。金の前駆体を溶解させた溶液に還元剤を添加して金ナノ粒子を合成する。その後、遠心分離および洗浄などの工程を経て金ナノ粒子を精製する。次に、上記金ナノ粒子を白金の前駆体を溶解させた溶液に投入しコアシェル構造の金属粒子を合成し、遠心分離および洗浄などの工程を経てAu−Ptコアシェル構造の金属粒子を精製する。さらに精製したコアシェル構造の金属粒子とカーボンを溶液中に分散させることで、カーボンにコアシェル構造の金属粒子が担持された触媒が合成される(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、別の手法として次の方法がある。例えばパラジウム塩と炭素粉末を混合・攪拌した後、還元・濾過・洗浄することで炭素粉末上にパラジウム粒子を担持させたパラジウム担持炭素粉末を得る。次に銅の前駆体を溶解した銅溶液中においてパラジウム担持炭素粉末に所定の電圧を印加させることで、パラジウム粒子の表面にCuを析出させる。その後、濾過・洗浄させることでPd/Cuコアシェル構造を有した粒子が炭素粉末に担持されたPd/Cuコアシェル炭素粉末が得られる。次にPd/Cuコアシェル炭素粉末を白金前駆体を溶解させた溶液中に浸漬させることで、PtとCuのイオン化傾向の関係から、Cuが溶解・Ptが析出するため、Pd/Ptコアシェル構造を有した粒子が炭素粉末に担持されたPd/Ptコアシェル触媒が得られる(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−92725号公報
【特許文献2】特開2012−157833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示す触媒製造方法は、コアシェル構造を構成するコア金属粒子を形成する工程と、シェル金属をコア金属粒子の表面に析出させコアシェル構造を有する粒子を形成する工程と、コアシェル構造を有する粒子をカーボンに担持させる工程と、で形成されており、さらにそれぞれの工程間で遠心分離や洗浄などの工程が必要であり、工程数が長く繁雑であり、製造コストが高くなる問題がある。
【0009】
また、一旦合成した金属粒子をカーボン表面に担持させることは、粒子の担持位置に偏りが発生し、凝集してしまう懸念がある。
また、特許文献2に示す触媒合成方法は、コア金属をカーボンに担持させる工程と、そのコア金属表面にCuを電析する工程、およびそのCuをPtと置換する工程があり特許文献1と同様に製造コストが高くなる問題がある。
また、コア金属の原料となるコア金属塩とシェル金属の原料となるシェル金属塩およびカーボンを同じ溶液中に混合し、コア金属を先に析出させてからシェル金属を析出させることができれば、各工程における分離・洗浄が必要ないため、工程数が増加せず容易にコアシェル構造を製造することが期待される。
【0010】
しかし、その場合コア金属とシェル金属の材料起因による制限が強く、実用化が難しい。特にシェル金属としてPtを用いた場合、Ptはイオン化傾向が低く非常にイオン化しにくい、換言すると、析出し易い。そのため、コア金属より先に析出してしまい、上述したコアシェル構造を実現することは困難である。
【0011】
そこで、本発明は、簡単な工程で、コア金属とシェル金属の析出速度を制御し、コアシェル構造の触媒を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成させるために、本発明に係る触媒製造方法は、コア金属の原料となるコア金属塩と錯化剤とを混合して、コア金属錯体を含むコア金属錯体溶液を生成するコア金属錯体溶液生成工程と、
シェル金属の原料となるシェル金属塩と錯化剤とを混合して、シェル金属錯体を含むシェル金属錯体溶液を生成するシェル金属錯体溶液生成工程と、
炭素粉末と分散剤を混合して、炭素粉末分散溶液を生成する炭素粉末分散溶液生成工程と、
前記コア金属錯体溶液と前記炭素粉末分散溶液を混合し、還元剤を投入して、前記炭素粉末上に前記コア金属錯体を還元させる第1の還元工程と、
前記第1の還元工程によって得られたコア金属を含む溶液に前記シェル金属錯体溶液を投入後、還元剤を投入して、前記コア金属の表面に前記シェル金属錯体を還元させる第2の還元工程と、
前記第2の還元工程によって得られた前記コア金属及び前記シェル金属からなるコアシェル構造が担持された前記炭素粉末を所定の温度にて乾燥・焼成する焼成工程と、
を含む。
【0013】
また、本発明に係る他の触媒製造方法は、コア金属の原料となるコア金属塩と錯化剤とを混合して、コア金属錯体を含むコア金属錯体溶液を生成するコア金属錯体溶液生成工程と、
シェル金属の原料となるシェル金属塩と錯化剤とを混合して、シェル金属錯体を含むシェル金属錯体溶液を生成するシェル金属錯体溶液生成工程と、
炭素粉末と分散剤を混合して、炭素粉末分散溶液を生成する炭素粉末分散溶液生成工程と、
前記コア金属錯体溶液と前記シェル金属錯体溶液および前記炭素粉末分散溶液を混合し、還元剤を投入して、前記炭素粉末上に前記コア金属錯体及び前記シェル金属錯体を還元させる還元工程と、
前記還元工程によって得られた前記コア金属及び前記シェル金属からなるコアシェル構造が担持された前記炭素粉末を所定の温度にて乾燥・焼成する焼成工程と、
を含む。
【0014】
上記では、炭素粉末材料上にコアシェル構造を有する触媒粒子が担持されてなる触媒の製造方法において、コア金属となる金属イオンよりなる錯体(以後、コア金属錯体と述べる。)と、シェル金属となる金属イオンよりなる錯体(シェル金属錯体)と炭素粉末材料を同時に混合し、所定の温度、pHに管理した後、還元剤で還元することで、低コストでコアシェル構造を有する触媒粒子を製造する方法を用いる。
ここで、還元剤を投入するタイミングは、この限りではなく、コア金属錯体と炭素粉末材料を混合した後、還元剤を投入し、その後、シェル金属錯体を混合することも可能である。
また、前記コア金属錯体を構成する配位子と前記シェル金属錯体を構成する配位子とは異なる材料を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造コストを高くすることなく安価にコアシェル構造を有する触媒を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)及び(b)は、コアシェル構造を示す概略図である。
図2】実施の形態に係る燃料電池の断面図である。
図3-1】実施の形態に係るコアシェル金属担持触媒の製造工程において、コア金属還元反応後に白金族錯体溶液を投入する場合の製造工程を示す概略図である。
図3-2】実施の形態に係るコアシェル金属担持触媒の製造工程において、コア金属錯体溶液と、炭素粉末分散液と共に白金族錯体溶液を投入する場合の製造工程を示す概略図である。
図4】実施の形態に係る実施例3、実施例5の推定メカ二ズムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の態様に係る触媒製造方法は、コア金属の原料となるコア金属塩と錯化剤とを混合して、コア金属錯体を含むコア金属錯体溶液を生成するコア金属錯体溶液生成工程と、
シェル金属の原料となるシェル金属塩と錯化剤とを混合して、シェル金属錯体を含むシェル金属錯体溶液を生成するシェル金属錯体溶液生成工程と、
炭素粉末と分散剤を混合して、炭素粉末分散溶液を生成する炭素粉末分散溶液生成工程と、
前記コア金属錯体溶液と前記炭素粉末分散溶液を混合し、還元剤を投入して、前記炭素粉末上に前記コア金属錯体を還元させる第1の還元工程と、
前記第1の還元工程によって得られたコア金属を含む溶液に前記シェル金属錯体溶液を投入後、還元剤を投入して、前記コア金属の表面に前記シェル金属錯体を還元させる第2の還元工程と、
前記第2の還元工程によって得られた前記コア金属及び前記シェル金属からなるコアシェル構造が担持された前記炭素粉末を所定の温度にて乾燥・焼成する焼成工程と、
を含む。
【0018】
第2の態様に係る触媒製造方法は、コア金属の原料となるコア金属塩と錯化剤とを混合して、コア金属錯体を含むコア金属錯体溶液を生成するコア金属錯体溶液生成工程と、
シェル金属の原料となるシェル金属塩と錯化剤とを混合して、シェル金属錯体を含むシェル金属錯体溶液を生成するシェル金属錯体溶液生成工程と、
炭素粉末と分散剤を混合して、炭素粉末分散溶液を生成する炭素粉末分散溶液生成工程と、
前記コア金属錯体溶液と前記シェル金属錯体溶液および前記炭素粉末分散溶液を混合し、還元剤を投入して、前記炭素粉末上に前記コア金属錯体及び前記シェル金属錯体を還元させる還元工程と、
前記還元工程によって得られた前記コア金属及び前記シェル金属からなるコアシェル構造が担持された前記炭素粉末を所定の温度にて乾燥・焼成する焼成工程と、
を含む。
【0019】
第3の態様に係る触媒製造方法は、上記第1又は第2の態様であって、前記コア金属錯体溶液生成工程および前記シェル金属錯体溶液生成工程において、
前記コア金属の錯化剤と前記シェル金属錯体の錯化剤とを異なる材料を用いることで前記コア金属錯体の還元速度を前記シェル金属錯体の還元速度より大きく制御してもよい。
【0020】
第4の態様に係る触媒製造方法は、上記第3の態様であって、前記コア金属錯体の酸化還元電位を前記シェル金属錯体の酸化還元電位より大きく制御してもよい。
【0021】
第5の態様に係る触媒製造方法は、上記第3又は第4の態様であって、前記コア金属錯体の錯体生成定数より前記シェル金属錯体の錯体生成定数を大きく制御してもよい。
【0022】
第6の態様に係る触媒製造方法は、上記第3から第5のいずれかの態様であって、前記コア金属錯体に用いられる錯化剤と前記シェル金属錯体に用いられる錯化剤とが異なっていてもよい。
【0023】
第7の態様に係る触媒製造方法は、上記第1から第6のいずれかの態様であって、前記コア金属錯体溶液生成工程の錯化剤と前記炭素粉末分散工程の分散剤が異なってもよい。
【0024】
第8の態様に係る触媒製造方法は、上記第1から第7のいずれかの態様であって、前記コア金属錯体の電荷の正負と、分散剤により処理された前記炭素粉末の表面の電荷の正負とが異なる材料を用い、その静電的な吸着により前記炭素粉末上へ前記コア金属錯体を吸着させてもよい。
【0025】
第9の態様に係る触媒製造方法は、上記第1から第8のいずれかの態様であって、前記コア金属は、銅であってもよい。
【0026】
第10の態様に係る触媒製造方法は、上記第1から第9のいずれかの態様であって、前記シェル金属は、白金であってもよい。
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図において、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0028】
《実施形態》
<燃料電池の構造>
図2は、実施形態に係る燃料電池の基本構成を示す断面図である。本実施形態に係る燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと、空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる高分子電解質型燃料電池である。なお、本発明は、高分子電解質形燃料電池に限定されるものではなく、種々の燃料電池に適用可能である。
【0029】
本実施形態に係る燃料電池は、図2に示すように、MEA10と、MEA10の両面に配置された一対の板状のアノードセパレータ20A及びカソードセパレータ20Cとを有するセル(単電池)1を備えている。なお、本実施形態に係る燃料電池は、このセル1を複数個積層して構成されていてもよい。この場合、互いに積層されたセル1は、燃料ガス及び酸化剤ガスがリークしないように且つ接触抵抗を減らすために、ボルトなどの締結部材(図示せず)により所定の締結圧にて加圧締結されていることが好ましい。
【0030】
MEA10は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜11と、この高分子電解質膜11の両面に形成された一対の電極層とを有している。一対の電極層の一方は、アノード電極(燃料極ともいう)12Aであり、他方はカソード電極(空気極ともいう)12Cである。
【0031】
アノード電極12Aは、高分子電解質膜11の一方の面上に形成され、白金族触媒を坦持した炭素粉末を主成分とする一対のアノード触媒層13Aと、このアノード触媒層13A上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つアノードガス拡散層14Aとを有している。
【0032】
カソード電極12Cは、高分子電解質膜11の他方の面上に形成され、白金族触媒を坦持した炭素粉末を主成分とする一対のカソード触媒層13Cと、このカソード触媒層13C上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つカソードガス拡散層14Cとを有している。
【0033】
アノード電極12A側に配置されたアノードセパレータ20Aには、アノードガス拡散層14Aと当接する主面に、燃料ガスを流すための燃料ガス流路21Aが設けられている。
【0034】
燃料ガス流路21Aは、例えば、互いに略平行な複数の溝で構成されている。カソード電極12C側に配置されたカソードセパレータ20Cには、カソードガス拡散層14Cと当接する主面に、酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路21Cが設けられている。酸化剤ガス流路21Cは、例えば、互いに略平行な複数の溝で構成されている。なお、アノードセパレータ20A及びカソードセパレータ20Cには、冷却水などが通る冷却水流路(図示せず)が設けられていてもよい。燃料ガス流路21Aを通じてアノード電極12Aに燃料ガスが供給されるとともに、酸化剤ガス流路21Cを通じてカソード電極12Cに酸化剤ガスが供給されることで、電気化学反応が起こり、電力と熱とが発生する。
【0035】
なお、この実施の形態では、燃料ガス流路21Aをアノードセパレータ20Aに設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、燃料ガス流路21Aは、アノードガス拡散層14Aに設けてもよい。この場合、アノードセパレータ20Aは平板状であってもよい。同様に、この実施の形態では、酸化剤ガス流路21Cをカソードセパレータ20Cに設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、酸化剤ガス流路21Cは、カソードガス拡散層14Cに設けてもよい。この場合、カソードセパレータ20Cは平板状であってもよい。
【0036】
アノードセパレータ20Aと高分子電解質膜11との間には、燃料ガスが外部に漏れることを防ぐために、アノード触媒層13A及びアノードガス拡散層14Aの側面を覆うようにシール材としてアノードセパレータ15Aが配置されている。また、カソードセパレータ20Cと高分子電解質膜11との間には、酸化剤ガスが外部に漏れることを防ぐために、カソード触媒層13C及びカソードガス拡散層14Cの側面を覆うようにシール材としてカソードセパレータ15Cが配置されている。
【0037】
アノードセパレータ15A及びカソードセパレータ15Cとしては、一般的な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。例えば、アノードセパレータ15A及びカソードセパレータ15Cとして、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、液晶性ポリマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン、ガラス繊維強化樹脂などを用いることができる。
【0038】
なお、アノードセパレータ20A及びカソードセパレータ20Cは、それらの一部がアノードガス拡散層14A又はカソードガス拡散層14Cの周縁部に含浸しているほうが好ましい。これにより、発電耐久性及び強度を向上させることができる。
【0039】
また、アノードセパレータ20A及びカソードセパレータ20Cに代えて、アノードセパレータ20Aとカソードセパレータ20Cとの間に、高分子電解質膜11、アノード触媒層13A、アノードガス拡散層14A、カソード触媒層13C及びカソードガス拡散層14Cの側面を覆うように、セパレータを配置してもよい。これにより、高分子電解質膜11の劣化を抑制し、MEA10のハンドリング性、量産時の作業性を向上させることができる。
【0040】
<コアシェル金属担持触媒の製造方法>
上記燃料電池の構造におけるアノード電極12A、もしくは、カソード電極12Cに使用する白金族触媒として、本発明のコアシェル金属担持触媒を用いる。
【0041】
本発明の実施形態に係るコアシェル金属担持触媒の製造方法について図3を用いて説明する。
【0042】
[1.コアシェル金属担持触媒の製造方法]
本発明のコアシェル金属担持触媒の製造方法(以下適宜「本発明の製造方法」と略称する。)は、概略以下である。
(1)コア金属1の塩と錯化剤を溶液中で混合し、所定の条件(pH、温度、時間)で攪拌することで、コア金属1となるコア金属1の錯体を形成したコア金属錯体溶液を作成する。
(2)炭素粉末と分散剤を溶液中で混合し、所定条件(pH、温度、時間)で攪拌することで、炭素粉末分散溶液を作成する。
(3)コア金属錯体溶液および前記炭素粉末分散溶液を混合後、所定条件(pH、温度、時間)にて攪拌し、還元剤と接触させることによりコア金属錯体を還元させる。
(4)(3)の溶液に、白金族塩と錯化剤を溶液中で混合し、所定の条件(pH、温度、時間)で攪拌することによって作成した白金族錯体溶液を混合し、所定条件(pH、温度、時間)にて攪拌する。
(5)さらに、還元剤と接触させることで、白金族錯体を還元させ、コア金属1の表面に白金族を含む金属層(シェル金属2)を形成したコアシェル金属粒子を担持したコアシェル金属担持触媒を合成する。または還元剤と接触させず、イオン化傾向の差でコアシェル金属担持触媒を合成する。
【0043】
本発明におけるコアシェル金属担持触媒の製造工程概略図を図3−1、図3−2に示す。ここで図3−1、図3−2は、白金族錯体溶液を投入するタイミングの違いを示しており、詳細については後述する。
【0044】
なお、本発明の製造方法は、固体高分子形燃料電池に使用される触媒に適用でき、コア金属塩及び白金族塩及び錯化剤並びに還元剤の種類、還元反応時のpHを制御することにより、金属錯体の還元速度を制御し、コアシェル金属の粒子径や金属配合比などを制御することで、カソード電極触媒、アノード電極触媒などへ展開することが可能である。
【0045】
材料コストを安くするために、触媒反応に寄与する白金をシェル金属に、コストが安い金属をコア金属に用いることが重要である。そこで本発明の実施の形態では、コアシェル金属の一例として、コア金属に安価な銅を、シェル金属に白金を用いた場合におけるコアシェル金属担持触媒の製造方法を記述する。
【0046】
<コアシェル金属担持触媒の製造方法の詳細>
[1−1.コア金属混合工程]
[コア金属塩111]
本発明の製造方法に使用されるコア金属塩111(コア金属1の塩)として銅化合物を用いる。銅の化合物としては、無機化合物(銅の酸化物、硝酸塩、硫酸塩等)、ハロゲン化物(銅の塩化物等)、有機酸塩(銅の酢酸塩等)、錯塩(銅のアンミン錯体等)、有機金属化合物(銅のアセトルアセトナート錯体等)等が挙げられる。
また、銅金属そのものを反応溶液中に溶解させて使用してもよい。
中でも、銅塩としては、ハロゲン化物、具体的には、銅の塩化物を用いることが特に好ましい。
なお、銅塩は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
[コア金属錯化剤112]
本発明の製造方法において、錯化剤112は極めて重要な因子である。
本発明の製造方法は、錯化剤として、硫黄原子及び/又は窒素原子及び/又は酸素原子を含む有機化合物を使用することを特徴とする。
硫黄原子又は窒素原子又は酸素原子を含む錯化剤の例としては、有機酸、リン化合物、オキシム類、アミド類、アミン類、アルコール類等が挙げられる。
【0048】
有機酸の具体例としては、以下に挙げる化合物が挙げられる。
クエン酸(citric acid分子式C)、D−2−アミノ−3−メルカプト−3−メチルブタン酸(D−2−Amino−3−mercapto−3−methy lbutanoic acid)(ペニシラミン(penicillamine):分子式C11NS)、イミノ二酢酸(Iminodiacetic acid)(略称IDA:CN)、(N−シクロヘキシル)イミノ二酢酸(N−(Cyclohexyl)iminodiacetic acid)(分子式C1017N)、ニトリロ三酢酸(Nitrilotriacetic acid)(略称NTA:分子式CN)、N−(2−テトラヒドロピラニルメチル)イミノ二酢酸(N−(2−Tetrahydro pyranylmethyl)iminodiacetic acid)(分子式C1017N)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジニトリロ−N,N’,N’−三酢酸(N−(2−Hydroxyethyl)ethylenedinitrilo−N,N’,N’−triacetic acid)(略称HEDTA:分子式C1018)、エチレンジニトリロ四酢酸(Ethylenedinitrilotetraacetic acid)(略称EDTA:分子式C10H16O8N2)、DL−(メチルエチレン)ジニトリロ四酢酸(DL−(Methylethylene)dinitrilotetraacetic acid)(略称PDTA:分子式C1118)、トランス−1,2−シクロヘキシレンジニトリロ四酢酸(trans−1,2−Cyclohexylene dinitrilotetraacetic acid)(略称CDTA:分子式C1422)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(Ethylenebis(oxyethylenenitrilo) tetraacetic acid)(略称EGTA:分子式C142410)、ジエチレントリニトリロ四酢酸(Diethylenetrinitrilotetraacetic acid)(略称DTPA:分子式C142310)、トリエチレンテトラニトリロ六酢酸(Triethylenetetranitrilohexaacetic acid)(略称TTHA:分子式C183012)、6−メチルピリジン−2−カルボン酸(6−Methlpyridine−2−carboxylic acid)(分子式CN)、N−(2−ピリジルメチル)イミノ二酢酸(N−(2−Pyridylmethyl)iminodiacetic acid)(分子式C1012)、式Z−SCHCOHで表わされる(置換チオ)酢酸((Substituted thio)acetic acid)(前記式中、Zは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜30のアルキル基;2−プロペニル(Prop−2 −enyl)基、3−ブテニル(But−3−enyl)基、4−ペンテニル(Pent−4−enyl)基等の炭素数2〜30のアルケニル基;ベンジル基等の炭素数6〜30のアリール基を表わす。)、ラウリルジメチルアミンN−オキシド(略称LDAO:分子式 C1431NO)、DL−メルカプトブタン二酸(DL−Mercaptobutanedioic acid)(チオリンゴ酸(thiomal ic acid):分子式CS)、(エチレンジチオ)二酢酸((Ethylenedithio)diacetic acid)(分子式C10)、オキシビス(エチレンチオ酢酸)(Oxybis(ethylenethioacetic acid))(分子式C14)、チオビス(エチレンチオ酢酸)(Thiobis(ethylenethioacetic acid))(分子式C8H14)、カルボキシメチルチオブタン二酸(Carboxymethylthiobutanedioic acid)(分子式CS)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−3−メルカプトプロパノール(2,2−Bis(hydroxy me thyl)−3−mercaptopropanol)(モノチオペンタエリスチトール(monothio pentaerythtit ol):分子式C12S)、チオサリチル酸酸(Thiosalicylic acid)(略称TS:分子式CS)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(hexadecyltrimethylammonium bromide):分子式C1942BrN、ジエタノールアミン(Diethanolamine)(略称DEA:分子式C11N)があげられる。
【0049】
中でも、錯化剤としては、エチレンジアミン四酢酸(Ethylenedinitrilotetraacetic acid)(略称EDTA:組成式C1016)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(hexadecyltrimethylammonium bromide)(略称CTAB:分子式C1942BrN)、ジエタノールアミン2(Diethanolamine)(略称DEA:分子式C11N)が、より好ましい。
なお、上記例示の各種の錯化剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0050】
[コア金属族錯体溶液113]
本発明の製造方法では、コア金属塩111並びに錯化剤112を溶媒に溶解させた溶液(以下「コア金属錯体溶液113」という。)を用いることを特徴とする。
溶媒の種類は、本発明の課題を解決し効果を奏する限り何ら制限されないが、通常は水または有機溶媒が使用される。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられる。
中でも、溶媒としては、pHを制御しやすいという観点から、水が好ましく、特に蒸留水もしくは純水を用いることが好ましい。
なお、溶媒は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0051】
また、コア金属錯体溶液113はアルカリ性に調整することが好ましい。具体的には、反応液のpHを通常7以上、好ましくは8以上、更に好ましくは9以上とすることが望ましい。反応液のpHが低過ぎる、即ち、アルカリ性が弱過ぎると、コア金属錯体を安定に形成できない場合がある。
【0052】
[PH調整剤]
コア金属錯体溶液113のpHを調整する手法は制限されないが、通常はpH調整剤を用いる。pH調整剤としては、白金族錯体中の白金族と配位しないか、或いは錯化剤によるコア金属の錯体形成を阻害しないほどの配位の程度が低い化合物であれば、その種類は制限されない。
【0053】
pH調整剤の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。中でも、硝酸、水酸化ナトリウム、塩酸が好ましい。
なお、pH調整剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0054】
上記のように、溶媒にコア金属塩111及び錯化剤112及びpH調整剤を混合し、所定のpHに調整することで、コア金属に錯化剤112が配位したコア金属錯体の状態で溶媒中に溶解した、コア金属錯体溶液113を得る。
なお、本発明の製造方法では、コア金属塩及び錯化剤がコア金属錯体溶液中に完全に溶解し、析出のない均一な溶液となるためには十分な時間をかけることが重要である。
【0055】
以上の点が達成出来れば、コア金属塩111や錯化剤112やpH調整剤を溶解、混合する方法は、特に制限されるものではない。コア金属塩111や錯化剤112やpH調整剤を各々溶媒に溶解してから混合してもよく、コア金属塩及び錯化剤やpH調整剤を先に混合してから溶媒に溶解してもよい。
【0056】
但し、コア金属錯体溶液113における溶質の析出を防ぐために、溶媒に対するコア金属塩111及び錯化剤112の濃度や混合、溶解時の温度やpHを適切に選択することが望ましい。即ち、コア金属錯体溶液中におけるコア金属塩及び錯化剤及びpH調整剤の濃度を、それぞれ、コア金属及び錯化剤の飽和溶解度以下の濃度とする。飽和溶解度は、コア金属塩及び錯化剤の種類や溶媒の種類、溶解時の温度等により異なるため、それに応じてコア金属塩及び錯化剤の濃度を選択すればよい。
【0057】
一般に、コア金属錯体溶液に対するコア金属塩111の濃度は、コア金属重量換算で、何れも通常0.001重量%以上、中でも0.005重量%以上、更には0.01重量%以上、また、通常10重量%以下、中でも5重量%以下、更には2重量%以下の範囲であることが好ましい。
【0058】
また、コア金属塩111における金属原子の含有量の比率は、目的とするコア金属担持触媒の組成にほぼ一致した各コア金属原子仕込み比率とする。
【0059】
コア金属塩111が有するコア金属原子に対する錯化剤112の使用量の比率は、コア金属111に配位する量論比以上が必要である。具体的に言えば、コア金属に配位する比率はpHと錯生成定数に依存するため所定の条件(pH等)下において適切な錯体が単独で生成することが可能となるだけの比率が必要である。錯化剤の比率が高過ぎると、溶解度の関係で結果的にコア金属濃度が低くなり、一回の操作で担持できるコア金属量が少なくなってしまう場合があり、また経済的にも好ましくない場合がある。一般的には、量論比の通常1.0倍以上、また、通常10倍以下、中でも5倍以下、更には2倍以下、特に1.5倍以下の範囲が好ましい。
なお、コア金属錯体溶液113は、後述の還元反応を妨げない範囲において、上述のコア金属塩、錯化剤、及び溶媒に加え、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例としては、コア金属以外の安価な金属原子を有する金属塩等が挙げられる。なお、これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0060】
[1−2.炭素粉末分散液工程]
[炭素粉末121]
本発明に用いられる炭素粉末としては、比表面積が250〜1200m/gの炭素粉末121を適用することが望ましい。
250m/g以上とすることにより、触媒が付着する面積を増加させることができるので触媒粒子を高い状態で分散させ有効表面積を高くすることが可能となる。
一方、比表面積を1200m/gを超えると、電極を形成する際にイオン交換樹脂の進入しにくい超微細孔(約20Å(200nm)未満)の存在割合が高くなり触媒粒子の利用効率が低くなる。
【0061】
炭素粉末121としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。なお、これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0062】
溶媒の種類は、本発明の課題を解決し効果を奏する限り何ら制限されないが、通常は水または有機溶媒が使用される。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられる。
中でも、溶媒としては、pHを制御しやすいという観点から、水が好ましく、特に蒸留水を用いることが好ましい。
なお、溶媒は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0063】
[炭素粉末分散液123]
本発明では、炭素粉末121と溶媒の混合は、一般的な撹拌、混合器を用いて混合して、炭素粉末分散液123を得ることができる。この際、炭素粉末の溶媒への親和性を向上させる目的で、分散剤122を添加してもよい。
分散剤122としては、一般的な分散剤を用いることができるが、後段の工程であるコア金属およびシェル金属の還元反応において上記コア金属錯体溶液113およびシェル金属錯体溶液と混合される際に、コア金属錯体およびシェル金属錯体が沈澱または凝集しないようにすることが必要である。
【0064】
また、炭素粉末分散液123は、前述のコア金属錯体溶液がpH調整剤によりpHをアルカリ性に調整していることから、炭素粉末分散液も同様にアルカリ性に調整することが好ましい。具体的には、反応液のpHを通常7以上、好ましくは8以上、更に好ましくは9以上とすることが望ましい。反応液のpHが低過ぎる(即ち、アルカリ性が弱過ぎる)と、後段の白金族錯体溶液との混合過程において錯体を形成できない場合がある。
pHを調整する手法は制限されないが、通常はpH調整剤を用いる。pH調整剤の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。中でも、硝酸、水酸化ナトリウム、塩酸が好ましい。なお、pH調整剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0065】
[1−3.金属還元反応工程]
本発明の製造方法は、図3−1のスキームに示すように、コア金属錯体溶液113と炭素粉末分散液123を混合し、還元剤と接触させ、コア金属を炭素粉末上へ担持させた後、その反応溶液に後述する白金族錯体溶液を投入し、更に先に投入した還元剤もしくは異なる還元剤を新たに投入することでコア金属表面に白金族を有する層を形成するコアシェル構造を有する金属粒子を炭素粉末表面に担持させたコアシェル金属担持触媒を得ることを特徴とする。
ここで使用するコア金属の種類によっては、白金族錯体溶液を投入後に接触させる還元剤がなくても、イオン化傾向の差によりコアシェル金属担持触媒を得ることも可能である。
【0066】
また本発明の製造方法の別の手段として、図3−2のスキームに示すように、あらかじめ前述したコア金属錯体溶液113と炭素粉末分散液123と白金族錯体溶液を混合し、その後還元剤と接触させてコア金属および白金の還元反応を行なうことも可能である。その場合、本工程1−3を省略しても良い。
【0067】
[還元剤131]
本発明の製造方法に使用される還元剤は、コア金属錯体溶液113および/もしくは炭素粉末分散液123の溶媒に可溶なものであれば、その種類は制限されない。
還元剤131の具体例としては、ヒドラジン等の窒素化合物、水素化ホウ素ナトリウム等のホウ素化合物、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類、L−アスコルビン酸および類似するカルボン酸類、メタノール等のアルコール類、等が挙げられる。
中でも、還元剤としては、ヒドラジン、L−アスコルビン酸、水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。
なお、上記例示の還元剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0068】
還元剤の使用量としては、上記のコア金属錯体溶液中に含有される全てのコア金属錯体を、十分にコア金属に還元できる量が好ましい。
一般的には、金属1当量に対して、通常1倍当量以上であればよく、還元反応の効率を考慮すれば、好ましくは1.2倍当量以上、より好ましくは1.5倍当量以上、更に好ましくは2倍当量以上が望ましい。また、未反応物の後処理等を考慮すると、上限としては通常、500倍当量以下、中でも100倍当量以下、更には40倍当量以下が好ましい。
【0069】
コア金属錯体溶液113と炭素粉末分散液123と還元剤131とを接触させる方法は制限されない。通常は、コア金属錯体溶液113と炭素粉末分散液123を混合した混合溶液に還元剤を加えて攪拌し、コア金属の還元反応を行えばよい。
なお、上述した混合溶液に還元剤を直接加えて混合してもよいが、混合溶液に対する混合、溶解を容易にするために、還元剤を予め所定の濃度になるように溶媒に溶解させておき、この溶液(以下、「還元剤溶液」という)を上述した混合溶液に加えてもよい。
この場合、溶媒としては、還元剤を溶解させることが可能なものであれば、その種類は制限されない。また、一種の溶媒を単独で用いてもよく、二種以上の溶媒を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。但し、通常はコア金属錯体溶液113と同種の溶媒を用いることが望ましい。還元剤溶液における還元剤の濃度や、還元剤溶液の使用量も特に制限されない。還元剤溶液をコア金属錯体溶液113に加えた場合に、コア金属錯体溶液中の金属に対する還元剤の量が上記範囲を満たすように、適宜調整すればよい。
【0070】
還元反応時の温度は、通常4℃以上、好ましくは10℃以上、また、通常沸点以下、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下の範囲である。
還元反応時の温度が高過ぎると、還元反応が速く進行する為、目的のコア金属化合物以外が生成する場合がある一方、温度が低過ぎると、還元力が弱すぎて目的のコア金属化合物を得ることができない場合がある。なお、以下の記載では上記規定の温度範囲を「規定温度範囲」という。
【0071】
[1−4.白金族錯体溶液工程]
[白金族塩141]
本発明の製造方法に使用される白金族塩141としては、無機化合物(白金族の酸化物、硝酸塩、硫酸塩等)、ハロゲン化物(白金族の塩化物等)、有機酸塩(白金族の酢酸塩等)、錯塩(白金族のアンミン錯体等)、有機金属化合物(白金族のアセトルアセトナート錯体等)等が挙げられる。また、白金族金属そのものを反応溶液中に溶解させて使用してもよい。
中でも、白金族塩としては、白金族を含有する無機化合物、白金族のハロゲン化物、又は白金族を含有する有機金属化合物を用いることが好ましく、具体的には、白金族の塩化物を用いることが特に好ましい。
なお、白金族塩は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で組み合わせて用いてもよい。
【0072】
[錯化剤142]
本発明の製造方法において、錯化剤142は極めて重要な因子である。
本発明の製造方法は、錯化剤142として、硫黄原子及び/又は窒素原子を含む有機化合物を使用することを特徴とする。
硫黄原子又は窒素原子を含む錯化剤の例としては、有機酸、リン化合物、オキシム類、アミド類、アミン類、アルコール類等が挙げられる。
【0073】
有機酸の具体例としては、以下に挙げる化合物が挙げられる。
D−2−アミノ−3−メルカプト−3−メチルブタン酸(D−2−Amino−3−mercapto−3−methy lbutanoic acid)(ペニシラミン(penicillamine):分子式C11NS)、イミノ二酢酸(Iminodiacetic acid)(略称IDA:CN)、(N−シクロヘキシル)イミノ二酢酸(N−(Cyclohexyl)iminodiacetic acid)(分子式C1017N)、ニトリロ三酢酸(Nitrilotriacetic acid)(略称NTA:分子式CN)、N−(2−テトラヒドロピラニルメチル)イミノ二酢酸(N−(2−Tetrahydro pyranylmethyl)iminodiacetic acid)(分子式C1017N)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジニトリロ−N,N’,N’−三酢酸(N−(2−Hydroxyethyl)ethylenedinitrilo−N,N’,N’−triacetic acid)(略称HEDTA:分子式C1018)、エチレンジニトリロ四酢酸(Ethylenedinitrilotetraacetic acid)(略称EDTA:分子式C1016)、DL−(メチルエチレン)ジニトリロ四酢酸(DL−(Methylethylene)dinitrilotetraacetic acid)(略称PDTA:分子式C1118)、トランス−1,2−シクロヘキシレンジニトリロ四酢酸(trans−1,2−Cyclohexylene dinitrilotetraacetic acid)(略称CDTA:分子式C1422)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(Ethylenebis(oxyethylenenitrilo) tetraacetic acid)(略称EGTA:分子式C142410)、ジエチレントリニトリロ四酢酸(Diethylenetrinitrilotetraacetic acid)(略称DTPA:分子式C142310)、トリエチレンテトラニトリロ六酢酸(Triethylenetetranitrilohexaacetic acid)(略称TTHA:分子式C183012)、6−メチルピリジン−2−カルボン酸(6−Methlpyridine−2−carboxylic acid)(分子式CN)、N−(2−ピリジルメチル)イミノ二酢酸(N−(2−Pyridylmethyl)iminodiacetic acid)(分子式C10H12O4N2)、式Z−SCH2CO2Hで表わされる(置換チオ)酢酸((Substituted thio)acetic acid )(前記式中、Zは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜30のアルキル基;2−プロペニル(Prop−2 −enyl)基、3−ブテニル(But−3−enyl)基、4−ペンテニル(Pent−4−enyl)基等の炭素数2〜30のアルケニル基;ベンジル基等の炭素数6〜30のアリール基を表わす。)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(hexadecyltrimethylammonium bromide)(略称CTAB:分子式C1942BrN)、DL−メルカプトブタン二酸(DL−Mercaptobutanedioic acid)(チオリンゴ酸(thiomal ic acid):分子式CS)、(エチレンジチオ)二酢酸((Ethylenedithio)diacetic acid)(分子式C10)、オキシビス(エチレンチオ酢酸)(Oxybis(ethylenethioacetic acid))(分子式C14)、チオビス(エチレンチオ酢酸)(Thiobis(ethylenethioacetic acid))(分子式C14)、カルボキシメチルチオブタン二酸(Carboxymethylthiobutanedioic acid)(分子式CS)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−3−メルカプトプロパノール(2,2−Bis(hydroxy me thyl)−3−mercaptopropanol)(モノチオペンタエリスチトール(monothio pentaerythtit ol):分子式C12S)、チオサリチル酸酸(Thiosalicylic acid)(略称TS:分子式CS)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(hexadecyltrimethylammonium bromide):分子式C1942BrN、ジエタノールアミン(Diethanolamine)(略称DEA:分子式CN)があげられる。
【0074】
中でも、錯化剤としては、エチレンジアミン四酢酸(Ethylenedinitrilotetraacetic acid)(略称EDTA:組成式C1016)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(hexadecyltrimethylammonium bromide)(略称CTAB:分子式C1942BrN)、ジエタノールアミン(Diethanolamine)(略称DEA:分子式CN)が、より好ましい。
なお、上記例示の各種の錯化剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0075】
[白金族錯体溶液143]
本発明の製造方法では、白金族塩141並びに錯化剤142を溶媒に溶解させた溶液(以下「白金族錯体溶液143」という。)を用いることを特徴とする。
溶媒の種類は、本発明の課題を解決し効果を奏する限り何ら制限されないが、通常は水または有機溶媒が使用される。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられる。
中でも、溶媒としては、pHを制御しやすいという観点から、水が好ましく、特に蒸留水を用いることが好ましい。
なお、溶媒は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0076】
また、白金族錯体溶液143はアルカリ性に調整することが好ましい。具体的には、反応液のpHを通常7以上、好ましくは8以上、更に好ましくは9以上とすることが望ましい。反応液のpHが低過ぎる、即ち、アルカリ性が弱過ぎると、白金族錯体を形成できない場合がある。
白金族錯体溶液のpHを調整する手法は制限されないが、通常はpH調整剤を用いる。pH調整剤としては、白金族錯体中の白金族と配位しないか、或いは錯化剤による白金族の錯体形成を阻害しないほどの配位の程度が低い化合物であれば、その種類は制限されない。
pH調整剤の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。中でも、硝酸、水酸化ナトリウム、塩酸が好ましい。
なお、pH調整剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0077】
上述の溶媒に白金族塩141及び錯化剤142及びpH調整剤を混合し所定のpHに調整することで、白金族金属を錯化させ、白金族金属に錯化剤が配位した白金族錯体の状態で溶媒中に存在する白金族錯体溶液143を得る。
なお、本発明の製造方法では、白金族塩141及び錯化剤142が白金族錯体溶液143中に完全に溶解し、析出のない均一な溶液となるためには十分な時間をかけることが重要である。
【0078】
以上の点が達成出来れば、白金族塩141や錯化剤142やpH調整剤を溶解、混合する方法は、特に制限されるものではない。白金族塩141や錯化剤142やpH調整剤を各々溶媒に溶解してから混合してもよく、白金族塩141及び錯化剤142やpH調整剤を先に混合してから溶媒に溶解してもよい。
【0079】
但し、白金族錯体溶液143の析出を防ぐために、溶媒に対する白金族塩141及び錯化剤142の濃度や混合、溶解時の温度やpHを適切に選択することが望ましい。即ち、白金族錯体溶液中における白金族塩141及び錯化剤142及びpH調整剤の濃度を、それぞれ、白金族塩及び錯化剤の飽和溶解度以下の濃度とする。飽和溶解度は、白金族塩141及び錯化剤142の種類や溶媒の種類、溶解時の温度等により異なるため、それに応じて白金族塩141及び錯化剤142の濃度を選択すればよい。
【0080】
一般に、白金族錯体溶液143に対する白金族塩141の濃度は、白金族重量換算で、何れも通常0.001重量%以上、中でも0.005重量%以上、更には0.01重量%以上、また、通常10重量%以下、中でも5重量%以下、更には2重量%以下の範囲であることが好ましい。
【0081】
また、白金族塩141における金属原子の含有量の比率は、目的とする白金族担持触媒の組成にほぼ一致した各白金族原子仕込み比率とする。
白金族塩141が有する白金族原子に対する錯化剤の使用量の比率は、白金族に配位する量論比以上であればよい。具体的に言えば、コア金属に配位する比率はpHと錯生成定数に依存するため所定の条件(pH等)下において適切な錯体が単独で生成することが可能となるだけの比率が必要である。錯化剤の比率が高過ぎると、溶解度の関係で結果的に白金族濃度が低くなり、一回の操作で担持できる白金族量が少なくなってしまう場合があり、また経済的にも好ましくない場合がある。一般的には、量論比の通常1.0倍以上、また、通常10倍以下、中でも5倍以下、更には2倍以下、特に1.5倍以下の範囲が好ましい。
なお、白金族錯体溶液143は、後述の還元反応を妨げない範囲において、上述の白金族塩141、錯化剤142、及び溶媒に加え、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例としては、白金族以外の金属原子を有する金属塩等が挙げられる。なお、これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0082】
ここで本発明の製造方法において、コアシェル構造を有するコアシェル金属担持触媒を形成するために重要な要素は、コア金属がシェル金属より先に還元されることである。コア金属が還元され炭素粉末の表面にコア金属の微粒子が先に担持される。次にシェル金属である白金族が還元されながら前記コア金属粒子微粒子の表面に析出させることで、コアシェル構造を形成することができる。つまり、コア金属錯体の還元速度と、シェル金属錯体であの白金族錯体の還元速度が、以下の関係(式1)にあることが必要である。
コア金属錯体の還元速度 > 白金族錯体の還元速度・・・・・(式1)
つまり、コア金属錯体の還元速度は、白金族錯体の還元速度より大きい。
本発明において上式の関係を実現するため、還元速度を制御する方法として、以下の考え方に着目し錯化剤の選定やpHなどの合成条件を決定することが有効である。
【0083】
1)錯化剤による酸化還元電位の制御
金属錯体は、金属イオンに配位した錯化剤の種類による金属イオンの酸化還元電位が変化する特徴がある。一般的にNerunstの式が公知になっており、(1)式に示す酸化還元反応において、酸化還元電位Eは(2)式に示す計算式で表される。
Ox+ne−⇔Red (1)
E=E0−(RT/nF)ln([Red]/[Ox]) (2)
Ox:酸化体 Red:還元体 E0:標準酸化還元電位
[Ox]:酸化体の濃度 [Red]:還元体の濃度
つまり、酸化体と還元体の平衡反応において、酸化状態および還元状態の濃度比率を制御することで酸化還元電位を制御することが可能である。
【0084】
また、ここで酸化体と錯化剤とで錯体を形成する場合の平衡を(3)式に示す。またこの(3)式における平衡定数(錯体生成定数)を(4)式に示す。
Ox+L⇔OxL (3)
K=[OxL]/[Ox][L] (4)
L:錯化剤 [OxL]:錯体濃度 [L]:錯化剤濃度 K:錯体生成定数
つまり(4)式の錯体生成定数によって酸化体Oxの濃度が変化し、その結果、(2)式における酸化還元電位が変化する。換言すると酸化還元電位を制御するためには、錯体生成定数の制御が重要である。
具体的には、コア金属をシェル金属である白金族より先に還元され易くするためには、コア金属の酸化還元電位を大きくする必要がある。そこで(2)式の酸化還元電位Eを大きくするためには、(4)式の錯体生成定数Kを小さくする方向に制御することが望ましい。
【0085】
そこでコア金属の錯体生成定数とシェル金属の錯体生成定数の関係(式2)は、以下にすることが望ましい。
コア金属錯体の錯体生成定数 < シェル金属錯体の錯体生成定数・・・(式2)
つまり、コア金属錯体の錯体生成定数よりシェル金属錯体の錯体生成定数のほうが大きい。
また、上記関係を実現するためには、コア金属錯体とシェル金属錯体の錯化剤を異なるものにすることが望ましい。また上記関係を満たす範囲で、コア金属錯体、シェル金属錯体に用いられる金属種類、錯化剤の種類及び混合する濃度を選定することが望ましく、それ以外で限定されるものではない。
つまり本実施の形態で述べたコア金属塩111と混合する錯化剤112、及び、白金塩141と混合する錯化剤142が異なることが望ましく、上記関係をみたす範囲で、錯化剤112および錯化剤142を選定することが望ましい。
【0086】
2)反応条件による酸化還元電位の制御
上述したように、錯体生成定数の制御により金属錯体の酸化還元反応を変化させることが可能である。また錯体生成定数は、金属と錯化剤を混合する反応溶液に反応条件、具体的にはpHによっても変化する。つまり還元工程において、金属錯体毎に最適なpHや温度など(以下、還元条件と述べる。)が存在する。そのため、予めコア金属が還元され易く白金族が還元されにくい還元条件でコア金属を還元させたのち、白金族金属が還元されやすい還元条件に設定して白金族金属を還元する。この最適なpH条件はコア金属とシェル金属の金属種および錯化剤の種類により異なるため、適宜調整する必要がある。
【0087】
つまり本実施の形態で述べたコア金属錯体溶液113のpHと、白金族錯体溶液143のpH、ならびにコア金属錯体溶液113と白金族錯体溶液143を混合する際のpHを異なる条件に設定することも可能である。
なおpH調整剤の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。中でも、硝酸、水酸化ナトリウム、塩酸が好ましい。
なお、pH調整剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
pH調整剤を用いてpHを調整する手順は制限されない。還元反応が進行する前に、白金族塩が析出しない状態を保持したまま、反応液のpHを上記規定範囲内に調整することが出来ればよい。
なお、pH調整剤によるpHの調整は、一回で行なってもよいが、二回以上に分けて行なってもよい。
【0088】
[1−5.金属還元反応工程]
本工程では、図3−1のスキームに示すように、工程1−3にてコア金属錯体溶液中のコア金属に還元剤131を接触させることでコア金属を還元し、工程1−4で白金族錯体溶液を追加投入した後、さらに還元剤151と接触させてシェル金属である白金の還元を行なうことで、コア金属表面へシェル金属である白金を有する層を形成したコアシェル構造を有する金属を炭素粉末表面に担持させたコアシェル金属担持触媒を得ることを特徴とする。ここでコア金属の種類によっては、還元剤と接触させなくてもイオン化傾向の差によりコアシェル金属担持触媒を得ることができる。
または、図3−2のスキームに示すように工程1−3を実施しなかった場合、コア金属錯体溶液113と炭素粉末分散液123と白金族錯体溶液143を混合し、還元剤151と接触させることで、前述したコアシェル構造を有する金属を炭素粉末表面に担持させたコアシェル金属担持触媒を得ることを特徴とする。
【0089】
[還元剤151]
本発明の製造方法に使用される還元剤151は、白金族錯体溶液143および/もしくはコア金属錯体溶液113および炭素粉末分散液123の溶媒に可溶なものであれば、その種類は制限されない。
還元剤151の具体例としては、ヒドラジン等の窒素化合物、水素化ホウ素ナトリウム等のホウ素化合物、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類、L−アスコルビン酸および類似するカルボン酸類、メタノール等のアルコール類、等が挙げられる。
中でも、還元剤としては、ヒドラジン、L−アスコルビン酸、水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。
なお、上記例示の還元剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0090】
還元剤の使用量としては、図3−1の製造方法では、白金族錯体溶液中143に含有される全ての白金族錯体を、十分に白金族金属に還元できる量が好ましい。また、図3−2の製造方法では、コア金属錯体溶液中113に含有されるコア金属、および、白金族錯体溶液143中に含有される全ての白金族錯体が十分にコア金属および白金族金属に還元できる量が好ましい。
【0091】
一般的には、金属1当量に対して、通常1倍当量以上であればよく、還元反応の効率を考慮すれば、好ましくは1.2倍当量以上、より好ましくは1.5倍当量以上、更に好ましくは2倍当量以上が望ましい。また、未反応物の後処理等を考慮すると、上限としては通常、500倍当量以下、中でも100倍当量以下、更には40倍当量以下が好ましい。
なお、還元剤としてヒドラジンを使用する場合、ヒドラジンによる還元反応は還元される金属塩の種類やpH等、条件により還元反応が異なることが知られており、ヒドラジンの還元当量を一律で特定できないので、本発明においては、ヒドラジン1モル当たり2当量とする。
【0092】
コア金属錯体溶液113と炭素粉末分散液123と白金族錯体溶液143と還元剤151とを接触させる方法は制限されない。通常は、コア金属錯体溶液113と炭素粉末分散液123と白金族錯体溶液143を混合した混合溶液に還元剤151を加えて攪拌し、コア金属および白金族の還元反応を行なえばよい。
なお、上述した混合溶液に還元剤151を直接加えて混合してもよいが、混合溶液に対する混合、溶解を容易にするために、還元剤151を予め所定の濃度になるように溶媒に溶解させておき、この溶液(以下、「還元剤溶液」という)を上述した混合溶液に加えてもよい。
【0093】
この場合、溶媒としては、還元剤を溶解させることが可能なものであれば、その種類は制限されない。また、一種の溶媒を単独で用いてもよく、二種以上の溶媒を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。但し、通常はコア金属錯体溶液もしくは白金族錯体溶液の溶媒と同種の溶媒を用いることが望ましい。還元剤溶液における還元剤の濃度や、還元剤溶液の使用量も特に制限されない。還元剤溶液を白金族錯体溶液143およびコア金属錯体溶液113内の金属に対する還元剤の量が上記範囲を満たすように、適宜調整すればよい。
【0094】
還元反応時の温度は、通常4℃以上、好ましくは10℃以上、また、通常は、溶媒の沸点以下、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下の範囲である。
還元反応時の温度が高過ぎると、還元反応が速く進行する為、目的の白金族化合物以外が生成する場合がある一方、温度が低過ぎると、還元力が弱すぎて目的の白金族化合物を得ることができない場合がある。なお、以下の記載では上記規定の温度範囲を「規定温度範囲」という。
【0095】
[1−6.後処理工程]
本発明では、上述の還元反応により得られた白金族担持触媒を分離するために濾過洗浄し、乾燥処理し、必要に応じて熱処理等の後処理工程を加えることを特徴とする。
得られた白金族担持触媒を反応液から分離する方法としては、限定されるものではないが、例えば濾紙や濾布を用いた濾過法、遠心分離、沈降分離(デカンテーション等)等が挙げられる。中でも、一般的には濾過法が採用される。これらの手法は何れか一種を単独で使用してもよいが、二種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0096】
分離された白金族担持触媒を洗浄する場合、洗浄に用いる溶剤(洗浄溶剤)としては、白金族担持触媒と反応を生じるものや、白金族担持触媒の用途(触媒等の用途)に好ましからぬ影響を与えるものでない限り、限定されるものではないが、通常は上述の金属錯体溶液に用いた溶媒と同種の溶媒が挙げられる。なお、洗浄溶剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
分離(又は洗浄)後の白金族担持触媒を乾燥する場合、乾燥時の圧力は制限されるものではなく、常圧でも、減圧(又は真空)でも、加圧でもよいが、一般的には、常圧付近(常圧又は多少の加減圧)の条件下で乾燥を行なう。
【0097】
乾燥方式としては、オーブン等の静置式乾燥、キルンやロータリーエバポレーターのような回転式乾燥、固定床気流乾燥、流動床乾燥、スプレードライヤー等の噴霧乾燥、ベルト炉等の移送型乾燥、フリーズドライ法等が挙げられるが、何れを用いてもよい。
乾燥方式の選定は処理量等に応じて決定されるが、何れの乾燥方式を用いる場合でも、ガスを流通させながら乾燥させるのが望ましい。
【0098】
乾燥時に流通させるガスとしては、限定されるものではないが、経済的観点から、通常は空気、窒素等が使用される。また、白金族担持触媒の水素処理を行なう場合には、乾燥時に流通させるガスに水素を加えてもよい。
一方、乾燥後に水素処理をすることなく白金族担持触媒を所望の用途に用いる場合には、不活性ガスが好ましく、経済的観点からは窒素が好ましい。なお、これらのガスは何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。また、高速に乾燥を行う観点からは、過熱水蒸気の流通下で乾燥を行なうことも好ましい。
【0099】
乾燥時の温度も特に制限されない。残留する溶媒又は洗浄溶剤の融点以下で乾燥する凍結乾燥でも、残留する溶媒又は洗浄溶剤の融点から室温までの温度で乾燥する低温乾燥又は常温乾燥、室温よりも高い温度で残留する溶媒又は洗浄溶剤の蒸気圧を高める加熱乾燥の何れであってもよいが、一般的には加熱乾燥が用いられる。加熱乾燥の場合、乾燥温度は通常40℃以上、300℃以下の範囲である。流通させるガスが過熱水蒸気以外の場合には、急激な突沸を防ぐ観点から、残留する溶媒又は洗浄溶剤の沸点以下の温度で処理される。
【0100】
乾燥後の白金族担持触媒に熱処理を行なう場合、熱処理の方式としては、オーブン等の静置式、キルンやロータリーエバポレーター等の回転式、固定床、流動床、ベルト炉等の移送式等が挙げられるが、何れを採用してもよい。
乾燥方式の選定は処理量等に応じて決定されるが、何れの乾燥方式を用いる場合でも、ガスを流通させながら乾燥させるのが望ましい。
流通させるガスとしては、酸素を含まないガスが好ましい。具体的には、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、水素等が挙げられる。これらのガスは何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。中でも、アルゴン、窒素又は水素を単独で、或いは混合物として用いることが好ましい。
【0101】
熱処理の温度の下限は、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上である。
熱処理の温度の上限は、通常は白金族の融点以下であればよいが、高過ぎるとコア金属および白金族がシンタリングにより大きくなり、金属表面積が低下することによって、得られた白金族担持触媒を使用した場合における触媒活性が低下する。従って、触媒の活性を向上させる観点からは、熱処理の温度の上限は、通常400℃以下、中でも350℃以下、更には300℃以下が好ましい。
【0102】
<実施例>
更に本実施の形態におけるコアシェル金属担持炭素粉末の製造方法について、実施例を示す。
まず、コア金属塩111としての塩化銅と、錯化剤112としての銅とに対して、モル数比で1〜50倍の錯化剤、pH調整剤として硝酸及び水酸化ナトリウムを用いる。上記コア金属塩、錯化剤を溶媒組成が10〜30wt%エタノール水溶液に溶解・分散させ、pH調整剤を用いてpHを10に調整することで錯体形成させ30℃で1〜12時間攪拌してコア金属錯体溶液113を作製した(工程1−1)。
【0103】
次に、炭素粉末121としてケッチェンブラックEC(ライオン社製)、分散剤122としてケッチェンブラックに対し重量比1〜50倍の分散剤を、pH調整剤として硝酸及び水酸化ナトリウムを用い、溶媒組成が10〜30wt%エタノール水溶液に溶解・分散させ、pH調整剤を用いてpHを調整することで炭素粉末分散液123を作成した(工程1−2)。以降、ケッチェンブラックをカーボンと述べる。
次に還元剤を投入し、所定のpHでコア金属である銅を還元させた(工程1−3)。
次に白金族塩として六塩化白金酸、白金に対しモル数比で1〜50倍の錯化剤、pH調整剤として硝酸及び水酸化ナトリウムを用い、前記白金塩、錯体剤を溶媒組成が10〜30wt%エタノール水溶液に溶解・分散させ、pH調整剤を用いてpHを調整し30℃で2〜24時間攪拌して白金族錯体溶液を作成した(工程1−4)。
ここで攪拌時間は特に限定されるものではなく、錯形成の状態により調整するものである。
【0104】
さらに工程1−3における前記コア金属錯体溶液と炭素粉末分散液の混合液へ、工程1−4の白金族錯体溶液を投入し、あらかじめ10〜30wt%エタノール水溶液に、還元剤としてNaBHを溶解させ、pH調整剤として硝酸及び水酸化ナトリウムを添加して所定のpHに調整した還元剤溶液を調合した。
その後に、前記還元剤溶液を前記コア金属錯体−炭素粉末混合溶液内のコア金属に対して前記還元剤が1.5倍当量相当の前記還元剤溶液を前記コア金属‐炭素粉末−白金族錯体混合溶液へ混合させ、30℃、1時間攪拌・放置することで、コアシェル構造を有する金属が生成され、表面にコア金属担持炭素粉末が担持された炭素粉末の分散溶液が得られる。
【0105】
(工程1−5)
次に上述したコア金属担当炭素粉末の分散溶液へ前記白金族錯体溶液を投入し、白金に対して前記還元剤が1.5倍当量相当の還元剤を投入することで、白金族が還元され、コア金属の表面に白金が析出する。ここで必要に応じて、還元剤を再度複数回に分けて投入することも可能である。
ここで、上記内容の工程1−1における銅の錯化剤、工程1−2におけるカーボンの分散剤、工程1−3における還元剤(以降、還元剤(A)と示す。)およびpH条件、工程1−4における白金の錯化剤、工程1−5にける還元剤(以降、還元剤(B)と示す。)およびpH条件の組合せを変えて実施した結果を表1に示す。
表1の詳細な組合せ内容について以下に説明する。
【0106】
【表1】
【0107】
[比較例1]
銅の錯化剤としてDEA、カーボンの分散剤としてDEA、還元剤(A)としてNaBH、pH条件は12〜13、白金の錯化剤としてDEA、還元剤(B)としてNaBH、pH条件は12〜13の組合せで合成した。
【0108】
[比較例2]
銅の錯化剤としてDEA、カーボンの分散剤としてCTAB、還元剤(A)としてNaBH、pH条件は12〜13、白金の錯化剤としてDEA、還元剤(B)としてNaBH、pH条件は12〜13の組合せで合成した。
【0109】
[比較例3]
銅の錯化剤としてCTAB、カーボンの分散剤としてCTAB、還元剤(A)としてNaBH4、pH条件は12〜13、白金の錯化剤としてCTAB、還元剤(B)としてNaBH、pH条件は12〜13の組合せで合成した。
【0110】
[実施例4]
銅の錯化剤としてクエン酸、カーボンの分散剤としてLDAO、還元剤(A)としてNaBH、pH条件は12〜13、白金の錯化剤としてCTAB、還元剤(B)としてNaBH、pH条件は12〜13の組合せで合成した。
【0111】
[実施例5]
銅の錯化剤としてクエン酸、カーボンの分散剤としてCTAB、還元剤(A)としてNaBH、pH条件は12〜13、白金の錯化剤としてCTAB、還元剤(B)としてNaBH、pH条件は12〜13の組合せで合成した。
【0112】
[実施例6]
銅の錯化剤としてクエン酸、カーボンの分散剤としてCTAB、還元剤(A)を用いる還元工程1−3を実施しない、白金の錯化剤としてCTAB、還元剤(B)としてNaBH、pH条件は12〜13の組合せで合成した。
【0113】
[実施例7]
銅の錯化剤としてクエン酸、カーボンの分散剤としてCTAB、還元剤(A)としてNaBH、pH条件は12〜13、白金の錯化剤としてCTAB、還元剤(B)を用いる還元工程1−5を実施しないで合成した。
【0114】
<評価項目>
また、各実施例の評価項目とし、Cu錯体の形成有無、カーボンの分散性、金属粒子のコアシェル構造の有無を確認した。
【0115】
(Cuの錯形成)
Cu錯体の形成有無については、予め塩化銅と錯化剤とを所定のpH条件で混合した際に、溶液のUV−visスペクトルより錯形成による光吸収スペクトルの変化が現れるか確認し、変化があるものは錯形成あり(○と表示)、変化がないものを錯形成なし(×と表示)と判断した。
【0116】
(カーボンの分散性)
カーボンの分散性については、カーボンと分散剤を溶液に分散させ、静置した状態で6時間以上放置して沈澱が発生するかで確認し、沈澱が発生しない場合を分散性が良い(○と表示)、沈澱が発生した場合を分散性が悪い(×と表示)と判断した。
【0117】
(Cu錯体のカーボンへの吸着性)
次に、Cuの錯体溶液およびカーボンの分散液を混合し所定時間攪拌した後、溶液中のCuイオン量を、ICP発光分光分析法を用いて分析した。その結果より、全Cuイオン量に対し80%以上のCu錯体がカーボンに吸着している場合を吸着が良い(○と表示)、80〜20%のCu錯体がカーボンに吸着している場合を吸着量が不足(△と表示)、それ以下の場合を吸着が悪い(×と表示)とした。
【0118】
(カーボンへ担持された金属粒子の粒子径)
また、カーボンに担持された金属粒子の粒子径について、STEM画像の解析より粒子径を求めた。ここでは、金属粒子の大きさの判定について詳細は考察で述べるが、粒子径は可能な限り小さいほうが、粒子の表面積を確保することができ、燃料電池の触媒としての機能を発揮しやすい。逆に粒子怪が大きいと、前述した粒子の表面積が小さくなり燃料電池の触媒としての機能を発揮しにくい。さらにカーボン自体の大きさと同等オーダーの径になるため、カーボンへ担持されにくい、もしくは、カーボンから脱離してしまうため、数百nmオーダーの粒子径は、燃料電池の触媒への適用が困難と考える。そこで、粒子径が100nm以下のものを燃料電池の触媒として使用できると判断した。
【0119】
またここで前述した判断の閾値は、特に限定されるものではなく、燃料電池の設計や使用目的に合わせて、対応することが可能である。
【0120】
(金属粒子担持カーボンの確認)
金属粒子担持カーボンのカーボンに担持された金属粒子について、STEM/EDS分析により金属粒子がコアシェル構造を有しているか確認した。金属粒子がカーボンへ担持され、且つ金属粒子の内部にCu金属が存在し、金属粒子の表面にPtが存在することが確認された場合を、金属粒子担持カーボンが実現したと判断し○と表示した。
【0121】
(最終合否)
また最終合否として、燃料電池向け触媒として使用できるもの、詳しく説明すると、カーボン上に高分散に金属粒子が担持され、金属粒子の粒子径は100nm以下であり、担持された金属粒子はコアシェル構造を有しているものを、最終合否として○、それ以外を×と表示した。
【0122】
<考察>
以下に各実施結果の考察を述べる。
まず比較例1、比較例2および比較例3について述べる。比較例1はカーボンが分散しない条件、比較例2はCu錯体がカーボンへ吸着しない条件、比較例3はCu錯体が形成されない条件で合成した。その結果、コアシェル構造を有する金属粒子が担持されたカーボンを合成することは出来なかった。これは、カーボンが十分分散しない、もしくはCu錯体がカーボンへ吸着しないことが理由であり、Cu錯体がカーボン表面へ均一に吸着してから還元されていないためと推測する。
【0123】
さらに詳細を述べると、カーボンに吸着して固定化されていないCu錯体は、溶液中で自由に移動する。そのため還元により生成したCu金属粒子を核として、他のCu錯体が上述した核へ集中し、粒子径が大きな粒子に成長し、粒子径の大きな金属粒子が形成されたと考えられる。ここで、カーボンの粒子径は数十〜数百nmであるのに対し、金属粒子が数百nmと大きい場合、金属粒子はカーボンに担持されずカーボンと混在している状態になり、燃料電池の触媒として効率的な発電特性が得られにくい。
以上の結果より、燃料電池の触媒として使用できるコアシェル構造を有する金属粒子が担持されたカーボンを得るためには、カーボンの安定な分散とCu錯体のカーボンへの吸着が必要不可欠である。
【0124】
次に、上記比較例1〜3の問題点を改良し、錯化剤や分散剤を鋭利検討した結果が実施例4である。比較例1〜3と比較し実施例4では、Cuと錯形成しかつカーボンに吸着する錯化剤および分散剤の組合せで合成することで、粒子径が30〜80nmのコアシェル構造を有する金属粒子がカーボンに担持された形状が得られた。これはCu錯体がカーボンへ吸着し、吸着したCu錯体がカーボン上で金属粒子の核を形成し、さらに吸着しないCu錯体が上記の核に集合し金属粒子が成長したと考える。
【0125】
また、実施例4より更なる改善検討した結果が実施例5である。実施例4とくらべ、錯形成したCu錯体のカーボンへの吸着率を向上させる錯化剤および分散剤の組合せ、及び、pHや時間の条件を調整した。その結果、実施例4より更に粒子径が小さい金属粒子を合成することが出来た。これは、カーボンに吸着されるCu錯体が増加することでカーボン上に形成されるCu金属粒子の核が増加し、結果、高分散で粒子径が小さい金属粒子が形成されたと考える。実施例4および実施例5の違いが得られた理由に関した考察を、図4を用いて説明する。図4にCu錯体、カーボン表面における分散剤の状態、および、Cu錯体のカーボンへの吸着状態を示す。実施例5ではCuとクエン酸(図中のLと表示)がCu錯体を形成しており、そのCu錯体全体はマイナスの電荷を有している。またカーボン表面は分散剤であるCTABが、CTABの疎水基である炭化水素部により吸着しており、窒素原子が外側を向いている。また窒素原子にはプラスの電荷を有しているため、Cu錯体がカーボン表面に吸着し易くなったと考える。それに対し実験例4では、カーボンの分散剤であるLDAOは、カーボン上ではプラス電荷を有する窒素原子とマイナスイ電荷を有する酸素原子が外側を向いており、プラスとマイナスの電荷により、実施例5よりCu錯体が吸着しにくくなったため、実施例4よりCu錯体がカーボンへ吸着し難く、上述理由により粒子径が肥大化したものと考える。
【0126】
次に、実施例6および実施例7は、実施例5と比べ還元剤を投入するタイミング、および、pHなどの条件を変更した結果である。その結果、実施例5と同様に、コアシェル構造を有する金属粒子が担持されたカーボンを得ることが出来た。つまり還元剤を投入するタイミングは、必ずしも銅金属溶液とカーボン分散溶液を混合した後の第一の還元工程、及び、第一の還元工程以降に白金溶液を混合した後の還元剤を投入する第二の還元工程の2回投入する必要はない。銅錯体および白金錯体の第一の還元工程もしくは、第二の還元工程を省略することも可能である。また、第一の還元工程および第二の還元工程におけるpHを変化させることで、銅および白金の析出速度を調整することも可能である。
以上の実施例より、銅錯体とカーボンと白金錯体が共存した溶液中でコアシェル構造を有する金属粒子を担持されたカーボン(コアシェル触媒)を合成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のコアシェル構造を有する触媒の製造方法の用途は、特に制限されるものではないが、例えば固体高分子形燃料電池の電極触媒として用いることが可能である。
【符号の説明】
【0128】
11 高分子電解質膜
12A アノード電極
12C カソード電極
13A アノード触媒層
13C カソード触媒層
14A アノードガス拡散層
14C カソードガス拡散層
15A アノードセパレータ
15C カソードセパレータ
20A アノードセパレータ
20C カソードセパレータ
21A 燃料ガス流路
21C 酸化剤ガス流路
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4