特許第6562866号(P6562866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6562866-ハニカム構造体の製造方法 図000007
  • 特許6562866-ハニカム構造体の製造方法 図000008
  • 特許6562866-ハニカム構造体の製造方法 図000009
  • 特許6562866-ハニカム構造体の製造方法 図000010
  • 特許6562866-ハニカム構造体の製造方法 図000011
  • 特許6562866-ハニカム構造体の製造方法 図000012
  • 特許6562866-ハニカム構造体の製造方法 図000013
  • 特許6562866-ハニカム構造体の製造方法 図000014
  • 特許6562866-ハニカム構造体の製造方法 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562866
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20190808BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20190808BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20190808BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20190808BHJP
   B01J 29/80 20060101ALI20190808BHJP
   C01B 39/54 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   B01J35/04 301N
   B01J37/04 102
   B01J37/08ZAB
   B01D53/94 222
   B01J29/80 A
   C01B39/54
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-72588(P2016-72588)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-177077(P2017-177077A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】山崎 哲
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 徹
(72)【発明者】
【氏名】森本 健司
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−125851(JP,A)
【文献】 特開昭58−63770(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/054143(WO,A1)
【文献】 特開2011−200789(JP,A)
【文献】 特開2015−193489(JP,A)
【文献】 特開昭60−131857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/90,53/94−53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が大きな粗粒ゼオライトと、前記粗粒ゼオライトよりも平均粒子径が小さな微粒ゼオライトと、無機結合材原料とを混合してゼオライト原料を調製する工程と、
調製した前記ゼオライト原料を、ハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製する工程と、
作製した前記ハニカム成形体を、焼成してハニカム構造体を作製する工程と、を備え、
前記ゼオライト原料を調製する工程において、
前記粗粒ゼオライトとして、平均粒子径が2μm以上、6μm以下のチャバサイト型ゼオライトを用い、
前記微粒ゼオライトとして、平均粒子径が0.02μm以上、2μm未満のものを用い、
前記無機結合材原料として、塩基性乳酸アルミニウムを少なくとも含むものを用い、
前記粗粒ゼオライトと前記微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、前記無機結合材原料としての前記塩基性乳酸アルミニウムを、10〜35質量部加えて、前記ゼオライト原料を調製する、ハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記無機結合材原料中の、前記塩基性乳酸アルミニウムの質量比率が65〜100質量%である、請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記無機結合材原料として、前記塩基性乳酸アルミニウムに加えて、更にベーマイトを用いる、請求項1又は2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記無機結合材原料中の、前記塩基性乳酸アルミニウムの質量比率が65〜90質量%であり、且つ、前記ベーマイトの質量比率が10〜35質量%である、請求項3に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記粗粒ゼオライトと前記微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、前記無機結合材原料を、10〜50質量部加えて、前記ゼオライト原料を調製する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記粗粒ゼオライトとして、チャバサイト、SAPO−34、及びSSZ−13のうち少なくとも一種のゼオライトを用いる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項7】
前記微粒ゼオライトとして、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、ZSM−5型ゼオライト、及びチャバサイト型ゼオライトのうち少なくとも一種のゼオライトを用いる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項8】
前記無機結合材原料としての前記塩基性乳酸アルミニウムを、水に溶解させ、水に溶解させた前記塩基性乳酸アルミニウムを、前記粗粒ゼオライト及び前記微粒ゼオライトと混合して前記ゼオライト原料を調製する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項9】
前記無機結合材原料としての前記塩基性乳酸アルミニウムを、当該塩基性乳酸アルミニウムの2倍以上の質量に相当する量の水に溶解させる、請求項8に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項10】
前記粗粒ゼオライト及び前記微粒ゼオライトを、銅イオンによりイオン交換する工程を、更に備える、請求項1〜9のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項11】
前記イオン交換する工程が、前記ゼオライト原料を調製する工程の前に行われる、請求項10に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項12】
アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、及びガラス繊維のうちの少なくとも一種の無機繊維を更に加えて、前記ゼオライト原料を調製する、請求項1〜11のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項13】
前記粗粒ゼオライトと前記微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、前記無機繊維を5〜20質量部加えて、前記ゼオライト原料を調製する、請求項12に記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法に関する。さらに詳しくは、NOx浄化性能に優れるとともに、機械的強度にも優れたハニカム構造体を製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト(zeolite)は、微細で均一な径の細孔が形成された網目状の結晶構造を有する珪酸塩の一種である。そして、ゼオライトは、種々の化学組成が存在するとともに、結晶構造についても細孔形状の異なる多くの種類が存在することが知られている。これらのゼオライトは、各々の化学組成や結晶構造に基づいた固有の吸着能、触媒性能、固体酸特性、イオン交換能等を有しており、吸着材、触媒、触媒担体、ガス分離膜、或いはイオン交換体といった様々な用途において利用されている。
【0003】
例えば、ゼオライトは、自動車排ガス中の窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)等を吸着させるための吸着材、或いはキシレン異性体からp−キシレンのみを選択的に分離するためのガス分離膜等の用途において利用されている。従来、自動車排ガスを浄化するための浄化部材として、コージェライト等からなるハニカム形状のハニカム構造体に、イオン交換処理されたゼオライトが担持された触媒体が使用されている。
【0004】
上記コージェライト等から形成されたハニカム構造体にゼオライトを担持させた場合、コージェライト等は、NOx浄化、炭化水素の吸着等の作用を示さないため、コージェライト等が存在する分だけ、排ガスが通過するときの圧力損失が増大することになる。
【0005】
これに対し、ハニカム構造体自体を、金属イオンによりイオン交換処理されたゼオライトを含む成形原料を成形、焼成して、構造体を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5560158号公報
【特許文献2】特許第5837408号公報
【特許文献3】特許第5580090号公報
【特許文献4】特許第5732170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2には、リン酸塩系ゼオライトを含むゼオライト原料によって形成されたハニカム構造体が開示されている。リン酸塩系ゼオライトは、NOx浄化性能に優れたものであり、ゼオライト原料によって形成されたハニカム構造体のNOx浄化性能を向上させることができる。ここで、リン酸塩系ゼオライトは、水の吸着や脱離によって格子定数が変化するため、ハニカム構造体の収縮又は膨張が生じ易い。このため、リン酸塩系ゼオライトのみを用いたハニカム構造体は、極めて破損し易いものであった。特許文献1及び2には、このような問題を解決するため、リン酸塩系ゼオライトに加えて、β型ゼオライトやZSM−5型ゼオライトを加えたゼオライト原料からハニカム構造体を作製する技術が記載されている。例えば、特許文献1では、上記のようなゼオライト原料によってハニカム構造体を作製することにより、水の吸着や脱離によって生じるハニカム構造体の破損を有効に抑制することができるとされている。
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されたハニカム構造体は、水の吸着や脱離による破損を抑制することができるものの、ハニカム構造体の強度を十分に確保するためには、無機結合材の量を多くする必要があった。例えば、特許文献1及び2に記載されたハニカム構造体は、ゼオライト原料中に、無機結合材を20質量%程度加えないと、実使用に耐え得る強度のハニカム構造体を得ることは困難であった。このように、特許文献1及び2に記載されたハニカム構造体は、無機結合材の量を多くすることにより、その機械的強度をある程度向上させることは可能である。しかしながら、無機結合材を大量に含有させると、ハニカム構造体に含まれるゼオライトの比率が低下してしまうため、浄化性能が悪くなるという問題があった。
【0009】
また、特許文献3には、無機結合材を大量に含有させることによる浄化性能の悪化を防ぐために、微粒ゼオライト粒子と、粗粒ゼオライト粒子とを含むゼオライト原料によって形成されたゼオライト構造体が提案されている。しかしながら、特許文献3に記載されたゼオライト構造体では、より浄化性能に優れたチャバサイト(chabazite)型ゼオライトの使用が比較的に困難である。このため、特許文献3に記載された技術とは別の方法により、NOx浄化性能に優れ、且つ、ハニカム構造体の強度低下を有効に抑制することが可能な、ゼオライト材料から構成されたハニカム構造体の開発が、強く要望されている。
【0010】
また、特許文献4には、チャバサイト構造を有するゼオライトが用いられたハニカム触媒が開示されている。このようなハニカム触媒は、高い浄化性能を維持するためにゼオライト量を多くすると強度が低下するという問題があった。
【0011】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものである。本発明は、NOx浄化性能に優れるとともに、機械的強度にも優れたハニカム構造体を製造するための製造方法を提供するものである。特に、本発明は、ゼオライト粒子の相互間を結合させるための無機結合材の凝集性を向上させることにより、高いNOx浄化性能を維持しつつ、高い機械的強度が実現されたハニカム構造体を極めて簡便に製造することが可能なハニカム構造体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の知見を得た。まず、本発明者は、従来のゼオライト材料から構成されたハニカム構造体について、ゼオライト粒子の相互間を結合させるための無機結合材の凝集性についての検討を行った。これにより、従来のハニカム構造体においては、ゼオライト材料中に無機結合材が分散しており、無機結合材のうちの一部は、ゼオライト粒子の相互間の結合に十分に寄与していないことが判明した。即ち、ゼオライト粒子の相互間を結合させるための無機結合材の凝集性を向上させることができれば、従来のハニカム構造体に比して無機結合材の量を少なくしても、ハニカム構造体の機械的強度、特に、圧縮強度の低下を抑制することができる。そして、無機結合材の量を少なくすることができれば、ハニカム構造体に含まれるゼオライトの比率が相対的に高くなり、浄化性能を向上させることができる。
【0013】
本発明者は、無機結合材に用いる原料について種々の検討を行い、無機結合材の原料として、塩基性乳酸アルミニウムを用いた場合に、得られるゼオライト材料中の無機結合材の凝集性が高くなるという知見を得た。そして、特定の平均粒子径の粗粒及び微粒のゼオライトと、無機結合材原料として塩基性乳酸アルミニウムとを用いた場合に、得られるハニカム構造体の機械的強度を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明により、以下のハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0014】
[1] 平均粒子径が大きな粗粒ゼオライトと、前記粗粒ゼオライトよりも平均粒子径が小さな微粒ゼオライトと、無機結合材原料とを混合してゼオライト原料を調製する工程と、調製した前記ゼオライト原料を、ハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製する工程と、作製した前記ハニカム成形体を、焼成してハニカム構造体を作製する工程と、を備え、前記ゼオライト原料を調製する工程において、前記粗粒ゼオライトとして、平均粒子径が2μm以上、6μm以下のチャバサイト型ゼオライトを用い、前記微粒ゼオライトとして、平均粒子径が0.02μm以上、2μm未満のものを用い、前記無機結合材原料として、塩基性乳酸アルミニウムを少なくとも含むものを用い、前記粗粒ゼオライトと前記微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、前記無機結合材原料としての前記塩基性乳酸アルミニウムを、10〜35質量部加えて、前記ゼオライト原料を調製する、ハニカム構造体の製造方法。
【0015】
[2] 前記無機結合材原料中の、前記塩基性乳酸アルミニウムの質量比率が65〜100質量%である、前記[1]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0016】
[3] 前記無機結合材原料として、前記塩基性乳酸アルミニウムに加えて、更にベーマイトを用いる、前記[1]又は[2]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0017】
[4] 前記無機結合材原料中の、前記塩基性乳酸アルミニウムの質量比率が65〜90質量%であり、且つ、前記ベーマイトの質量比率が10〜35質量%である、前記[3]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0018】
[5] 前記粗粒ゼオライトと前記微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、前記無機結合材原料を、10〜50質量部加えて、前記ゼオライト原料を調製する、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0019】
[6] 前記粗粒ゼオライトとして、チャバサイト、SAPO−34、及びSSZ−13のうち少なくとも一種のゼオライトを用いる、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0020】
[7] 前記微粒ゼオライトとして、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、ZSM−5型ゼオライト、及びチャバサイト型ゼオライトのうち少なくとも一種のゼオライトを用いる、前記[1]〜[6]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0021】
[8] 前記無機結合材原料としての前記塩基性乳酸アルミニウムを、水に溶解させ、水に溶解させた前記塩基性乳酸アルミニウムを、前記粗粒ゼオライト及び前記微粒ゼオライトと混合して前記ゼオライト原料を調製する、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0022】
[9] 前記無機結合材原料としての前記塩基性乳酸アルミニウムを、当該塩基性乳酸アルミニウムの2倍以上の質量に相当する量の水に溶解させる、前記[8]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0023】
[10] 前記粗粒ゼオライト及び前記微粒ゼオライトを、銅イオンによりイオン交換する工程を、更に備える、前記[1]〜[9]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0024】
[11] 前記イオン交換する工程が、前記ゼオライト原料を調製する工程の前に行われる、前記[10]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0025】
[12] アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、及びガラス繊維のうちの少なくとも一種の無機繊維を更に加えて、前記ゼオライト原料を調製する、前記[1]〜[11]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0026】
[13] 前記粗粒ゼオライトと前記微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、前記無機繊維を5〜20質量部加えて、前記ゼオライト原料を調製する、前記[12]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、NOx浄化性能に優れるとともに、機械的強度にも優れたハニカム構造体を簡便に製造することができる。特に、本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されたハニカム構造体は、ゼオライト材料中のゼオライト粒子の相互間を結合させるための無機結合材の凝集性が向上し、高いNOx浄化性能を維持しつつ、高い機械的強度が実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されたハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示すハニカム構造体の第一の端面を模式的に示す平面図である。
図3図2のX−X’断面を模式的に示す、断面図である。
図4】本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されたハニカム構造体における、ゼオライト材料中の、粗粒ゼオライト粒子及び微粒ゼオライト粒子の様子を模式的に示す説明図である。
図5図4に示す微粒ゼオライト粒子を拡大した状態を模式的に示す説明図である。
図6】他のゼオライト材料中の、粗粒ゼオライト粒子及び微粒ゼオライト粒子の様子を模式的に示す説明図である。
図7図6に示す微粒ゼオライト粒子を拡大した状態を模式的に示す説明図である。
図8】実施例1において製造されたハニカム構造体のハニカム構造部を構成するゼオライト材料のSEM画像である。
図9】比較例1において製造されたハニカム構造体のハニカム構造部を構成するゼオライト材料のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられ得ることが理解されるべきである。
【0030】
(1)ハニカム構造体の製造方法:
本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態は、ゼオライト原料を調製する工程と、ゼオライト原料を成形してハニカム成形体を作製する工程と、ハニカム成形体を焼成してハニカム構造体を作製する工程と、を備えている。以下、ゼオライト原料を調製する工程を、「ゼオライト原料調製工程」ということがある。ゼオライト原料を成形してハニカム成形体を作製する工程を、「成形工程」ということがある。ハニカム成形体を焼成してハニカム構造体を作製する工程を、「焼成工程」ということがある。
【0031】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法は、主に、ゼオライト原料調製工程において特徴を有している。ゼオライト原料調製工程は、粗粒ゼオライトと、微粒ゼオライトと、無機結合材原料とを混合してゼオライト原料を調製する工程である。そして、このゼオライト原料調製工程では、粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトとして、それぞれ特定の平均粒子径のゼオライト粒子を用いる。即ち、粗粒ゼオライトとして、平均粒子径が2μm以上、6μm以下のチャバサイト(chabazite)型ゼオライトを用いる。また、微粒ゼオライトとして、平均粒子径が0.02μm以上、2μm未満のものを用いる。なお、本実施形態のハニカム構造体の製造方法において、粗粒ゼオライトとは、微粒ゼオライトに比して相対的に粒子径の大きなゼオライトのことをいう。そして、微粒ゼオライトとは、粗粒ゼオライトよりも平均粒子径が小さなゼオライトのことをいう。更に、ゼオライト原料調製工程では、無機結合材原料として、塩基性乳酸アルミニウムを少なくとも含むものを用いることが特に重要である。そして、粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、無機結合材原料としての塩基性乳酸アルミニウムを、10〜35質量部加えて、ゼオライト原料を調製する。
【0032】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法においては、上述したように調製したゼオライト原料をハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製し、その後、作製したハニカム成形体を焼成してハニカム構造体を作製する。このようなハニカム構造体の製造方法によれば、NOx浄化性能に優れるとともに、機械的強度にも優れたハニカム構造体を簡便に製造することができる。特に、本実施形態のハニカム構造体の製造方法によって製造されたハニカム構造体は、ゼオライト材料中のゼオライト粒子の相互間を結合させるための無機結合材の凝集性が向上し、高いNOx浄化性能を維持しつつ、高い機械的強度が実現されている。
【0033】
上述したように、ゼオライト原料調製工程において用いられる粗粒ゼオライトは、一次粒子の平均粒子径が2μm以上、6μm以下である。また、ゼオライト原料調製工程において用いられる微粒ゼオライトは、一次粒子の平均粒子径が0.02μm以上、2μm未満である。ゼオライト原料調製工程において用いられる粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトは、粒子状のものであり、以下、適宜、「粗粒ゼオライト粒子」、及び「微粒ゼオライト粒子」ということがある。そして、粗粒ゼオライト粒子、及び微粒ゼオライト粒子を総称して、単に、「ゼオライト粒子」ということがある。
【0034】
粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトのそれぞれの平均粒子径は、JIS R1629に準拠して、レーザー回折散乱法にて測定した値とする。例えば、ゼオライト粒子の平均粒子径は、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置:「LA−920(商品名)」によって測定することができる。ここで、「一次粒子」とは、その粒子が、粒子径の小さい複数の粒子が、互いの間のファンデルワールス力によって一つに集まり固まった二次粒子ではなく、独立した粒子、即ち、一つの結晶構造体であることをいう。以下、粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトの平均粒子径と記載した場合には、特に断りのない限り、「一次粒子の平均粒子径」のことを意味する。
【0035】
なお、粗粒ゼオライトの一次粒子の平均粒子径が2μm未満若しくは6μm超、又は微粒ゼオライトの一次粒子の平均粒子径が0.02μm未満若しくは2μm以上であると、ハニカム構造体の機械的強度が低くなることがある。また、粗粒ゼオライトの平均粒子径が2μm未満又は6μm超であると、高いNOx浄化性能を有するハニカム構造体の製造が困難になることがある。
【0036】
なお、本明細書において、ゼオライト原料とは、ゼオライト粒子、及び無機結合材の原料を少なくとも含有し、ハニカム構造体を製造するための成形原料のことを意味する。また、ゼオライト材料とは、ゼオライト原料を成形した成形体を、乾燥、及び焼成することによって製造されたハニカム構造体を構成する材料、即ち、焼結体を構成する材料のことを意味する。また、無機結合材原料とは、製造されたハニカム構造体において、ゼオライト材料中の複数のゼオライト粒子の相互間を結合する無機結合材となる原料のことである。
【0037】
ここで、チャバサイト型ゼオライトとは、3.8×3.8オングストロームの酸素8員環から構成される3次元細孔構造を有するゼオライトのことをいう。
【0038】
ゼオライト原料調製工程において、無機結合材原料として用いられる塩基性乳酸アルミニウムは、粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、10〜35質量部とする。塩基性乳酸アルミニウムの量が、10〜35質量部であると、無機結合材が、微粒ゼオライト粒子の周囲に凝集し、無機結合材によって形成される結合部のネック(neck)部が太くなり、強度が高いものとなる。一方で、塩基性乳酸アルミニウムの量が、10質量部未満であると、無機結合材が、微粒ゼオライト粒子の周囲に凝集せずに、比較的広範囲に分散してしまう。したがって、無機結合材によって形成される結合部のネック部が太くなれず、ハニカム構造体の強度が低下してしまう。また、塩基性乳酸アルミニウムの量が、35質量部を超えると、ゼオライト材料中のゼオライト粒子の比率が低下してしまうため、NOx浄化性能が低下してしまう。なお、粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトの質量を測定する際には、使用する粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトを、予め200℃の乾燥室内で5時間乾燥させた後、乾燥雰囲気にて室温まで戻した後、速やかにその質量を測定するものとする。
【0039】
なお、塩基性乳酸アルミニウムは、粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、12〜30質量部であることが好ましく、14〜25質量部であることが更に好ましい。このように構成することによって、機械的強度に優れ、且つ、NOx浄化性能にも優れたハニカム構造体を良好に製造することができる。
【0040】
なお、無機結合材原料の質量は、溶媒などの液体成分を除く、無機結合材原料の固形分換算の質量である。
【0041】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法においては、無機結合材原料中の、塩基性乳酸アルミニウムの質量比率が65〜100質量%であることが好ましい。即ち、無機結合材原料として、塩基性乳酸アルミニウムを少なくとも65質量%を含むことが好ましく、無機結合材原料の全てが、塩基性乳酸アルミニウムであってもよい。なお、無機結合材原料中の、塩基性乳酸アルミニウムの質量比率が70〜100質量%であることがより好ましい。ここで、塩基性乳酸アルミニウムは、[Al(OH)3−n(C]・mHOの化学式で表される化合物のことをいう。本実施形態のハニカム構造体の製造方法において、塩基性乳酸アルミニウムの質量とは、[Al(OH)3−n(C]・mHOの質量(但し、0<n<3、1≦m≦5)のことをいう。
【0042】
また、無機結合材原料として、塩基性乳酸アルミニウムに加えて、更にベーマイトを用いてもよい。勿論、無機結合材原料としては、少なくとも塩基性乳酸アルミニウムが、粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、10〜35質量部であれば、上述したベーマイトやそれ以外の無機結合材原料を用いてもよい。無機結合材原料として、ベーマイトを用いると、無機結合材の総量が同等の場合には気孔率を大きくすることができ、高いNOx浄化性能を発現させる点で好ましい。
【0043】
無機結合材原料として、塩基性乳酸アルミニウムとベーマイトを用いる場合は、無機結合材原料中の、塩基性乳酸アルミニウムの質量比率が65〜90質量%であることが好ましく、70〜88質量%であることが更に好ましく、75〜86質量%であることが特に好ましい。また、無機結合材原料中の、ベーマイトの質量比率が10〜35質量%であることが好ましく、12〜30質量%であることが更に好ましく、14〜25質量%であることが特に好ましい。特に、無機結合材原料中の、塩基性乳酸アルミニウムの質量比率が65〜90質量%であり、且つ、ベーマイトの質量比率が10〜35質量%である場合を好適例として挙げることができる。
【0044】
また、粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、無機結合材原料を、10〜50質量部加えて、ゼオライト原料を調製することが好ましい。このように構成することによって、NOx浄化性能に優れるとともに、機械的強度にも優れたハニカム構造体を良好に製造することができる。なお、無機結合材原料は、粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、15〜47質量部であることが更に好ましく、17〜45質量部であることが特に好ましい。
【0045】
粗粒ゼオライトを構成するチャバサイト型ゼオライトの種類については特に制限はないが、チャバサイト、SAPO−34、及びSSZ−13のうち少なくとも一種のゼオライトを用いることが好ましい。なお、SAPOとは、シリコアルミノホスフェート(Silico alumino phosphate)のことである。
【0046】
微粒ゼオライトを構成するゼオライトの種類については特に制限はないが、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、ZSM−5型ゼオライト、及びチャバサイト型ゼオライトのうち少なくとも一種のゼオライトを用いることが好ましい。微粒ゼオライトとして、上記のようなゼオライトを用いることにより、広い温度範囲においてNOx浄化性能を高く維持できる点で好ましい。
【0047】
粗粒ゼオライトと、微粒ゼオライトとの比率については特に制限はないが、例えば、「粗粒ゼオライトの体積:微粒ゼオライトの体積」で表される比の値が、20:80〜90:10であることが好ましく、30:70〜75:25であることが更に好ましい。
【0048】
無機結合材原料としての塩基性乳酸アルミニウムを、水に溶解させ、水に溶解させた塩基性乳酸アルミニウムを、粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトと混合してゼオライト原料を調製することが好ましい。塩基性乳酸アルミニウムを水に溶解させて用いると、無機結合材をより均一に分散させた後にゼオライト粒子の周囲に凝集させることができる点で好ましい。なお、無機結合材原料としての塩基性乳酸アルミニウムを、当該塩基性乳酸アルミニウムの2倍以上の質量に相当する量の水に溶解させることがより好ましい。なお、塩基性乳酸アルミニウムを溶解させるための水は、無機結合材原料を溶解させるための溶媒であり、無機結合材原料の質量には含めないものとする。
【0049】
ゼオライト原料調製工程においては、これまでに説明したような、粗粒ゼオライト粒子、微粒ゼオライト粒子、及び無機結合材原料に対して、更に、有機バインダ等を加えたものを混合して、ゼオライト原料を調製することが好ましい。
【0050】
ゼオライト原料中には、水が含有されていることが好ましい。ゼオライト原料中の水の含有量は、ゼオライト粒子100質量部に対して、30〜70質量部が好ましい。なお、ゼオライト原料中に含有される水の一部は、塩基性乳酸アルミニウムを溶解させるための水であってもよい。
【0051】
また、ゼオライト原料中には、有機バインダを含有させることが好ましい。有機バインダとしては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0052】
なお、有機バインダの添加量としては、ゼオライト粒子と無機結合材原料の合計質量100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、4〜15質量部が更に好ましく、6〜12質量部が特に好ましい。有機バインダの添加量が少な過ぎると、押出成形が極めて困難になることがあり、有機バインダの添加量が多過ぎると、得られるハニカム構造体の気孔率が高くなり、強度が低下することがある。
【0053】
また、ゼオライト原料中には、分散剤等を更に含有させてもよい。分散剤としては、例えば、脂肪酸、アクリル酸、ソルビタン酸、ポリアルコール等を挙げることができる。
【0054】
また、ゼオライト原料調製工程においては、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、及びガラス繊維のうちの少なくとも一種の無機繊維を更に加えて、ゼオライト原料を調製してもよい。このような無機繊維を更に加えてゼオライト原料を調製することにより、得られるハニカム構造体の機械的強度を更に向上させることができる。
【0055】
無機繊維の添加量については特に制限はない。ただし、無機繊維の量が少な過ぎると、無機繊維を加えることによる効果が発現し難くなる。一方、無機繊維の量が多過ぎると、相対的に他の成分の量が減少し、機械的強度やNOx浄化性能が低下することがある。粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトの合計質量100質量部に対して、無機繊維を5〜20質量部加えて、ゼオライト原料を調製することが好ましい。なお、無機繊維の量は、6〜18質量部であることが更に好ましく、6〜16質量部であることが特に好ましい。
【0056】
ゼオライト粒子と無機結合材原料とを混合する方法については、特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本田鐵工製の双腕型ニーダーを用いて混合及び混練する方法を挙げることができる。
【0057】
また、粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトを、銅イオンによりイオン交換する工程を、更に備えていてもよい。銅イオンによりイオン交換されたゼオライト粒子は、良好なNOx浄化性能となり、また、良好な炭化水素吸着能を発現させることができる。
【0058】
なお、ゼオライトをイオン交換する工程は、ゼオライト原料調製工程の前に行ってもよい。この場合には、ゼオライト原料調製工程において、イオン交換された粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトを用いることとなる。また、焼成工程を経て得られたハニカム構造体に対して、ゼオライトをイオン交換する工程を行ってもよい。なお、製造工程がより簡便であることから、ゼオライト原料調製工程の前の粉体のゼオライトに対して、イオン交換を行うことが好ましい。また、ゼオライトをイオン交換する工程は、粗粒ゼオライトのみに対して行ってもよいし、微粒ゼオライトのみに対して行ってもよい。
【0059】
なお、特に限定されることはないが、チャバサイト型ゼオライトの、銅イオンでのイオン交換量(M+/Alイオンモル比)は、0.04〜0.06程度が好ましい。より具体的には、チャバサイト型ゼオライトの、銅イオンでのイオン交換量は、0.02〜0.1であることが好ましく、0.04〜0.08であることが更に好ましく、0.04〜0.07であることが特に好ましい。また、微粒ゼオライトとしてのβ型ゼオライト、Y型ゼオライト、及びZSM−5型ゼオライトの、銅イオンでのイオン交換量は、0.8程度が好ましい。より具体的には、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、及びZSM−5型ゼオライトの、銅イオンでのイオン交換量は、0.4〜1.5であることが好ましく、0.6〜1.2であることが更に好ましく、0.7〜1.0であることが特に好ましい。なお、イオン交換量は、例えば、セイコーインスツル製の誘導結合プラズマ質量分析装置:「SPQ9000(商品名)」によって測定することができる。なお、上述したイオン交換量は、ゼオライト中のアルミニウムイオン(Alイオン)に対する、銅イオンの価数(M+)のモル比(「M+/Alイオン」)のことである。なお、イオン交換量が少ないと触媒性能が低くなることがある。一方、イオン交換量が多過ぎると、触媒性能が飽和して、イオン交換による効果が発現し難くなることがある。なお、イオン交換量としては、交換後のゼオライト粒子の質量に対する、銅イオンの質量の割合(質量%)として示すこともできる。
【0060】
ゼオライト粒子或いはゼオライト構造体に対して、銅イオンでイオン交換する処理を施す方法としては、以下の方法を挙げることができる。以下では、ゼオライト粒子を銅イオンでイオン交換する方法について説明する。
【0061】
まず、イオン交換する銅イオンを含有するイオン交換用溶液を調製する。具体的には、酢酸銅、硫酸銅、又は硝酸銅の水溶液を調製する。イオン交換用溶液の濃度は、0.005〜0.5(モル/リットル)が好ましい。そして、イオン交換用溶液に、ゼオライト粒子を浸漬する。浸漬時間は、イオン交換させたい銅イオンの量等によって適宜決定することができる。そして、ゼオライト粒子をイオン交換用溶液から取り出し、乾燥及び仮焼を行うことによりイオン交換されたゼオライト粒子を得ることができる。乾燥条件は、80〜150℃で、1〜10時間が好ましい。仮焼の条件は、400〜600℃で、1〜10時間が好ましい。その後、得られたゼオライト粒子に無機結合材原料を更に加えて、ゼオライト原料を調製する。
【0062】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法においては、これまでに説明したような方法によって得られたゼオライト原料を用いて、成形工程を行う。
【0063】
成形工程については、従来公知のハニカム構造体の製造方法に準じて行うことができる。即ち、作製したゼオライト原料を所定の形状に押出成形して、ハニカム成形体を作製すればよい。例えば、まず、ゼオライト原料を混練して円柱状の成形体を形成し、円柱状の成形体を押出成形して、ゼオライト原料によって構成されたハニカム成形体を形成することが好ましい。ゼオライト原料を混練して円柱状の成形体を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度等を有する口金を用いることが好ましい。口金の材質としては、摩耗し難い金属が好ましい。
【0064】
得られたハニカム成形体について、焼成工程を行う前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、以下のような乾燥方法がより好ましい。まず、電磁波加熱方式で、ハニカム成形体中の一定量の水分を乾燥させる。その後、ハニカム成形体中の残りの水分を、外部加熱方式により乾燥させる。
【0065】
更に、焼成工程の前には、得られたハニカム成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、有機バインダ、分散剤等の有機物を除去することができればよい。仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜500℃程度で、1〜20時間程度加熱することが好ましい。
【0066】
次に、ハニカム成形体に対して焼成工程を行ってハニカム構造体を作製する。即ち、ハニカム成形体を焼成して、所定の形状のハニカム構造体を得る。焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。なお、焼成温度は、500〜750℃が好ましく、550〜700℃が更に好ましい。焼成温度が低過ぎる場合は、強度が低下することがあり、高過ぎる場合は、ゼオライトの性能が低下することがある。また、焼成する際には、上記温度において、焼成条件は、大気雰囲気で、1〜10時間加熱することが好ましい。
【0067】
以上のようにして、ハニカム構造体を製造することができる。なお、ゼオライト粒子として、イオン交換処理されたゼオライト粒子を用いなかった場合には、焼成したハニカム成形体に対して、銅イオンでイオン交換する行程を行ってもよい。なお、これまでに説明したハニカム構造体の製造方法は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更、改良等を行うことができる。
【0068】
(2)ハニカム構造体:
以下、本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されたハニカム構造体について説明する。ここで、図1は、本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されたハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示すハニカム構造体の第一の端面を模式的に示す平面図である。図3は、図2のX−X’断面を模式的に示す、断面図である。
【0069】
図1図3に示すように、ハニカム構造体100は、粗粒ゼオライト、微粒ゼオライト、及び無機結合材を少なくとも含有するゼオライト材料から構成されたハニカム構造部4を含むものである。ハニカム構造部4は、第一の端面11から第二の端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を区画形成する隔壁1を有するものである。
【0070】
ゼオライト材料に含まれる粗粒ゼオライトは、一次粒子の平均粒子径が2μm以上、6μm以下のチャバサイト型ゼオライトである。また、ゼオライト材料に含まれる微粒ゼオライトは、一次粒子の平均粒子径が0.02μm以上、2μm未満のものである。即ち、ハニカム構造体100においては、粗粒ゼオライトの平均粒子径が相対的に大きく、微粒ゼオライトの平均粒子径が相対的に小さくなるように構成されている。このため、ハニカム構造部4を構成するゼオライト材料は、例えば、図4に示すような、粒子径が大きな粗粒ゼオライト粒子31の周囲を、粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子32が取り囲むように配置された状態となっている。この際、粗粒ゼオライト粒子31と微粒ゼオライト粒子32との相互間、及び微粒ゼオライト粒子32相互間には、僅かな隙間が生じることがあり、この隙間が、多孔質体の細孔34となる。ここで、図4に示すように、粗粒ゼオライト粒子31と微粒ゼオライト粒子32との相互間、及び微粒ゼオライト粒子32相互間に形成される細孔34を、第一細孔34ということがある。
【0071】
また、図4に示されるような微粒ゼオライト粒子32を拡大すると、図5に示すように、微粒ゼオライト粒子32の周囲には、その微粒ゼオライト粒子32を取り囲むように無機結合材33が配設されている。そして、この無機結合材33中には、極めて小さな細孔35が形成されている。このような無機結合材33中に形成される細孔35を、第二細孔35ということがある。この第二細孔35は、図4に示すような第一細孔34に比して、その細孔径が小さくなる。即ち、図4に示すような、多孔質のゼオライト材料40中には、ゼオライト粒子相互間に形成される第一細孔34以外にも、図4中に図示されないような、極めて小さな第二細孔35(図5参照)が、無機結合材33中に形成されている。
【0072】
ここで、図4は、本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されたハニカム構造体における、ハニカム構造部を構成するゼオライト材料中の、粗粒ゼオライト粒子及び微粒ゼオライト粒子の様子を模式的に示す説明図である。図5は、図4に示す微粒ゼオライト粒子を拡大した状態を模式的に示す説明図である。なお、図4及び図5は、ゼオライト材料の微構造を簡略化して示した模式図であり、実際のゼオライト材料において、各ゼオライト粒子の形状や無機結合材の凝集・分散等の詳細な状態は、図示したものと異なることがある。
【0073】
ハニカム構造体において、ハニカム構造部を構成するゼオライト材料は、細孔径が0.02〜0.15μmの細孔の容積が、全細孔の容積に対して42%以下であることが好ましい。即ち、ハニカム構造体100のハニカム構造部4は、細孔径が0.02μm未満の細孔と、細孔径が0.15μmを超える細孔の合計容積が、全細孔の容積に対して58%超であることが好ましい。ここで、図4及び図5に示すように、粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトの周囲には、細孔径の大きさにより、大きく2種類に大別される細孔34,35が形成されている。例えば、細孔径が0.02μm未満の細孔は、主に、図5に示すような第二細孔35であり、細孔径が0.15μmを超える細孔は、主に、図4に示すような第一細孔34である。
【0074】
本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されたハニカム構造体100は、NOx浄化性能に優れるとともに、機械的強度、特に、圧縮強度にも優れるという効果を奏するものである。特に、ハニカム構造部4を構成するゼオライト材料が、一次粒子の平均粒子径が2μm以上、6μm以下のチャバサイト型ゼオライトによって形成された粗粒ゼオライトを含有するゼオライト材料から構成されているため、高いNOx浄化性能を実現することができる。
【0075】
更に、細孔径が0.02〜0.15μmの細孔の容積の比率が上記の数値範囲を満たすことにより、高い機械的強度を実現することが可能となる。即ち、細孔径が0.02〜0.15μmの細孔の容積の比率が上記の数値範囲を満たすということは、ゼオライト材料の微構造において、細孔径が0.02μm未満の細孔と、細孔径が0.15μm超の細孔とが、それぞれ適当な量だけ形成されていると言える。そして、細孔径が0.02μm未満の細孔の量が十分多いということは、その微構造において、微粒ゼオライト粒子周囲を、比較的に密に、無機結合材が取り囲むように凝集していると言える。そして、このように、その周囲に無機結合材が凝集した微粒ゼオライト粒子が、更に、粗粒ゼオライト粒子を取り囲むように配置されることで、細孔径が0.15μm超の細孔が、より選択的に形成されることとなる。このため、本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されたハニカム構造体は、細孔径が0.02〜0.15μmの細孔の容積の比率が、従来のハニカム構造体に比して極めて低くなっており、その結果として、高い機械的強度が発現されるものとなっている。以下、全細孔の容積に対する、所定の細孔径の細孔の容積の比率を、単に、細孔容積比率ということがある。
【0076】
以下、無機結合材が、ゼオライト粒子の周囲、特に、微粒ゼオライト粒子の周囲に凝集せずに、比較的広範囲に分散している場合の例について、図6及び図7を参照しつつ説明する。ここで、図6は、他のゼオライト材料中の、粗粒ゼオライト粒子及び微粒ゼオライト粒子の様子を模式的に示す説明図である。図7は、図6に示す微粒ゼオライト粒子を拡大した状態を模式的に示す説明図である。
【0077】
図6及び図7に示すように、微粒ゼオライト粒子132の周囲に無機結合材133が凝集せずに、比較的広範囲に分散している場合には、粗粒ゼオライト粒子131の周囲に、微粒ゼオライト粒子132及び無機結合材133が広く分布することになる。例えば、図7に示すように、無機結合材133が比較的広範囲に分散している場合には、微粒ゼオライト粒子132の周囲に存在する無機結合材133の密度が低くなり、微粒ゼオライト粒子132周囲における無機結合材133の存在範囲が広くなる。このような場合には、図6に示すように、複数個の粗粒ゼオライト粒子131の相互間に、無機結合材133を広く分散し、その無機結合材133中に、微粒ゼオライト粒子132が比較的に均等に分布してしまう。このような状態のゼオライト材料140では、無機結合材133が凝集しないため、細孔径が0.02〜0.15μmの細孔の容積の比率が大きくなる。このため、細孔径が0.02〜0.15μmの細孔の容積の比率が、全細孔の容積に対して42%を超えるものとなり、上述したハニカム構造体のような細孔容積比率を満たすことはない。そして、図6及び図7に示すようなゼオライト材料140は、無機結合材133が、微粒ゼオライト粒子132の周囲に凝集せずに、比較的に広い範囲に分散しているため、強度が低いものとなる。一方で、図4及び図5に示すようなゼオライト材料40は、無機結合材33が、微粒ゼオライト粒子32の周囲に凝集しており、無機結合材33によって比較的緻密なネック(neck)部が形成され、強度が高いものとなる。
【0078】
ゼオライト材料の細孔容積比率は、以下の方法で測定することができる。まず、ゼオライト材料から構成されたハニカム構造部の積算細孔容積を測定する。積算細孔容積は、水銀ポロシメータによって測定することができる。水銀ポロシメータとしては、例えば、Quantachrome社製の全自動多機能水銀ポロシメータ「PoreMaster60GT(商品名)」を挙げることができる。そして、例えば、「細孔径が0.02〜0.15μmの細孔の細孔容積」は、細孔径が0.15μmの積算細孔容積の値から、細孔径が0.02μmの積算細孔容積の値を減算することによって求めることができる。その他の細孔径の細孔の細孔容積についても、同様の方法で求めることができる。そして、細孔容積比率は、全細孔の容積に対する百分率として算出することができる。
【0079】
ゼオライト材料は、細孔径が0.02μm未満の細孔の容積が、全細孔の容積に対して8〜20%のものであることが好ましい。そして、ゼオライト材料は、細孔径が0.15μmを超える細孔の容積が、全細孔の容積の40〜60%で、且つ、細孔径が0.52μm以上の細孔の容積が、全細孔の容積の5%以下のものであることが更に好ましい。このように構成することによって、ハニカム構造体の機械的強度がより高くなる。
【0080】
また、ゼオライト材料中の粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトの平均粒子径についての測定は、以下の方法で行うことができる。即ち、ゼオライト原料での粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトの平均粒子径の測定が困難な場合には、以下の方法により、各ゼオライト粒子の平均粒子径を測定することができる。まず、ゼオライト材料によって構成されたハニカム構造部の表面又は破断面若しくは当該破断面を研磨した研磨面を、走査型電子顕微鏡によって観察し、観察した画像を撮像する。走査型電子顕微鏡について、以下、「SEM」ということがある。「SEM」とは、「Scanning Electron Microscope」の略である。また、SEMによって撮像された写真を、SEM写真ということがある。SEMでの観察は、粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトのそれぞれについて、各3視野行うことする。即ち、SEMでの観察においては、まず、粗粒ゼオライトの粒子が少なくとも100個含まれる大きさの3視野について、粗粒ゼオライトの粒子の平均粒子径を測定するための観察を行う。次に、視野の大きさを変更し、微粒ゼオライトの粒子が少なくとも100個含まれる大きさの3視野について、微粒ゼオライトの平均粒子径を測定するための観察を行う。視野内のゼオライト粒子が、粗粒ゼオライトの粒子か、或いは微粒ゼオライトの粒子かについての特定は、後述する方法に従って行うことができる。
【0081】
次に、画像中のゼオライト粒子について、長径及び短径をそれぞれ測定し、長径と短径の相加平均した値を、そのゼオライト粒子の粒子径とする。ゼオライト粒子の長径及び短径の測定は、例えば、画像解析ソフトを用いて行うことができる。画像解析ソフトとしては、例えば、MEDIA CYBERNETICS社製の「Image−Pro Plus(商品名)」)を挙げることができる。例えば、粗粒ゼオライトの粒子の粒子径を測定する際には、粗粒ゼオライトの粒子が少なくとも100個含まれる3視野の画像について、それぞれの画像中に存在する、各100個の粗粒ゼオライトの粒子の粒子径を測定する。同様に、微粒ゼオライトの粒子の粒子径を測定する際には、微粒ゼオライトの粒子が少なくとも100個含まれる3視野の画像について、それぞれの画像中に存在する、各100個の微粒ゼオライトの粒子の粒子径を測定する。粗粒ゼオライト粒子の平均粒子径、及び微粒ゼオライト粒子の平均粒子径は、それぞれの3視野の画像について算出した相加平均値である。
【0082】
なお、SEM画像中のゼオライト粒子の判別は、以下の方法で行うことができる。ここで、粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトが異なる種類のゼオライトの場合と、粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトが同じ種類のゼオライトの場合とで、2種類の判別方法がある。
【0083】
まず、粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトが異なる種類のゼオライトの場合、即ち、微粒ゼオライトが、チャバサイト型ゼオライトでない場合の粒子の判別方法について説明する。この場合には、後方散乱電子回折(Electron BackScatter Diffraction:EBSD)により、SEM画像中のゼオライト粒子の結晶相を特定することで、ゼオライト粒子の判別を行うことができる。後方散乱電子回折による分析について、以下、「EBSD分析」ということがある。このEBSD分析により、画像中のゼオライト粒子を、チャバサイト型のゼオライト粒子と、それ以外のゼオライト粒子とに分類する。そして、チャバサイト型のゼオライト粒子と分類されたものについては、便宜的に、粗粒ゼオライト粒子とし、それ以外のゼオライト粒子を、便宜的に、微粒ゼオライト粒子とする。
【0084】
次に、粗粒ゼオライトと微粒ゼオライトが同じ種類のゼオライトの場合、即ち、微粒ゼオライトが、チャバサイト型ゼオライトである場合の粒子の判別方法について説明する。この場合には、まず、長径と短径の相加平均した値が2μm以上のゼオライト粒子を100個以上含むSEM画像を、3視野分用意する。3視野分のSEM画像は、ゼオライト材料によって構成されたハニカム構造部の表面又は破断面若しくは当該破断面を研磨した研磨面を、任意の箇所で測定したものとする。次に、各SEM画像中の全てのゼオライト粒子の長径及び短径をそれぞれ測定し、各ゼオライト粒子の長径と短径の相加平均した値を、各ゼオライト粒子の粒子径とする。ただし、各ゼオライト粒子の長径と短径の測定に際しては、「長径と短径の相加平均した値」が0.001μm以上となるゼオライト粒子を測定対象とする。各ゼオライト粒子の長径と短径を測定する際には、用意したSEM画像の観測範囲内を任意の倍率で拡大したSEM画像を、別途、複数枚用意してよい。そして、適宜、ゼオライト粒子の大きさに合わせて、拡大したSEM画像中のゼオライト粒子の長径と短径を測定し、測定した値に基づいて、各ゼオライト粒子の粒子径を求めてもよい。
【0085】
次に、SEM画像から求められたゼオライト粒子の粒子径に基づいて、横軸を「ゼオライト粒子の粒子径」とし、且つ、縦軸を「ゼオライト粒子の個数」とした、粒度分布図を作成する。そして、その粒度分布図が、2峰性以上の粒度分布を示すものであるかを確認する。2峰性分布を示す分布である場合には、ゼオライト材料中に、粒子径が相対的に大きなゼオライト粒子と、粒子径が相対的に小さなゼオライト粒子と、が含まれていることとなる。
【0086】
次に、粒度分布において、粒子径が2μm以上の範囲において、最大頻度となる粒子径を、粗粒ゼオライトの平均粒子径とする。また、粒度分布において、粒子径が2μm未満の範囲において、最大頻度となる粒子径を、微粒ゼオライトの平均粒子径とする。そして、上記粒度分布図において、粒子径が2μm以上の範囲において最大頻度を有する分布を構成するゼオライト粒子を、便宜的に、粗粒ゼオライト粒子とする。また、上記粒度分布図において、粒子径が2μm未満の範囲において最大頻度を有する分布を構成するゼオライト粒子を、便宜的に、微粒ゼオライト粒子とする。
【0087】
次に、上述した2つの場合の方法にて、便宜的に、粗粒ゼオライト粒子及び微粒ゼオライト粒子と分類したそれぞれのゼオライト粒子について、そのゼオライトの種類を確認する。例えば、SEM画像中の全てのゼオライト粒子について、そのゼオライトの種類が、チャバサイト型ゼオライトであるか否かの確認を行う。ゼオライトの種類の確認は、上記EBSD分析、又は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)による解析により、ゼオライトの結晶相を特定することができる。透過型電子顕微鏡では、SEM画像を観測したゼオライト材料を薄片試料に加工し、加工した薄片試料について、透過型電子顕微鏡による制限視野電子線回折を行うことにより、ゼオライトの結晶相を特定することで行うことができる。以上のようにして、粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトの平均粒子径を求めることができる。
【0088】
なお、長径と短径の相加平均した値が2μm以上のゼオライト粒子は、ゼオライト粒子の合計体積に対して、その体積比率が、10〜95体積%であることが好ましく、15〜87体積%であることが更に好ましい。長径と短径の相加平均した値が2μm以上のゼオライト粒子の体積比率は、ゼオライト粒子の粒子径を求める際に使用したSEM画像より求めることができる。
【0089】
ゼオライト材料中の無機結合材の体積比率は、例えば、上述した「ゼオライト粒子の平均粒子径」を求める際のSEM写真から算出することができる。即ち、上述したSEM写真から、画像解析ソフトを用いて、ゼオライト粒子の粒子径若しくは占有面積、及び無機結合材の占有面積を求め、これらの値から、ゼオライト粒子全体の体積、及び無機結合材の体積を算出することができる。また、ゼオライト材料中に、無機繊維等のその他の成分が含まれる場合には、その他の成分についても、上記した方法と同様の方法で、その体積を算出する。画像解析ソフトとしては、例えば、MEDIA CYBERNETICS社製の「Image−Pro Plus(商品名)」を用いることができる。ここで、「ゼオライト粒子全体の体積」とは、各ゼオライト粒子の体積の合計値、即ち、ゼオライト粒子の相互の隙間(空隙)を含まない体積のことを意味する。従って、ゼオライト粒子の粒子径から求めた「ゼオライト粒子全体の体積」と、無機結合材の占有面積から求めた「無機結合材の体積」と、「その他の成分の体積」と、の合計が、無機結合材の体積比率における「分母」の値となる。即ち、無機結合材の体積比率は、下記式(1)で表すことができる。なお、ゼオライト粒子全体の体積は、例えば、原料として使用する粒子の粉末の場合には、ゼオライト粒子全体の質量を、その密度で除した値となる。
式(1):無機結合材の体積の比率={(無機結合材の体積)/(ゼオライト粒子全体の体積+無機結合材の体積+その他の成分の体積)}
【0090】
ハニカム構造体は、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNOx等を浄化するためや炭化水素等を吸着するための排ガス浄化用部材として好適に用いることができる。
【0091】
ハニカム構造体のセルの延びる方向に直交する断面における面積が、300〜200000mmであることが好ましい。300mmより小さいと、排ガスを処理することができる面積が小さくなることがあるのに加えて、圧力損失が高くなることがある。200000mmより大きいと、ハニカム構造体の強度が低下することがある。
【0092】
また、ハニカム構造体は、図1に示すように、隔壁1全体の外周を取り囲むように配設された外周壁3を備えることが好ましい。外周壁の材質は、必ずしも隔壁と同じ材質である必要はない。ただし、外周部の材質が耐熱性や熱膨張係数等の物性の観点で大きく異なると隔壁の破損等の問題が生じる場合があるので、主として同じ材質を含むか、同等の物性を有する材料を主として含有することが好ましい。外周壁は、押出成形により、隔壁と一体的に形成されたものであっても、成形後に外周部を所望形状に加工し、外周部にコーティングするものであってもよい。
【0093】
ハニカム構造体における、セルの形状としては、特に制限はなく、例えば、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、あるいはこれらの組合せを挙げることができる。セルの形状とは、セルが延びる方向に直交する断面におけるセルの形状のことを意味する。
【0094】
ハニカム構造体における、隔壁の厚さは、50μm〜2mmであることが好ましく、100μm〜350μmであることが更に好ましい。50μmより薄いと、ハニカム構造体の強度が低下することがある。2mmより厚いと、浄化性能が低くなったり、ハニカム構造体にガスが流通するときの圧力損失が大きくなったりすることがある。また、ハニカム構造体の最外周を構成する外周壁の厚さは、10mm以下であることが好ましい。10mmより厚いと、排ガス浄化処理を行う面積が小さくなることがある。
【0095】
ハニカム構造体のセル密度は、例えば、7.8〜155.0個/cmであることが好ましく、31.0〜93.0個/cmであることが更に好ましい。155.0個/cmより大きいと、ハニカム構造体にガスが流通するときの圧力損失が大きくなることがある。7.8セル/cmより小さいと、排ガス浄化処理を行う面積が小さくなることがある。
【0096】
ハニカム構造体の全体の形状は、例えば、端面の形状が円形、オーバル形等の柱形状を挙げることができる。ハニカム構造体の大きさは、例えば、円柱形状の場合、底面の直径が20〜500mmであることが好ましく、70〜300mmであることが更に好ましい。また、ハニカム構造体の中心軸方向の長さは、10〜500mmであることが好ましく、30〜300mmであることが更に好ましい。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0098】
(実施例1)
粗粒ゼオライトとして、銅イオンで4.1質量%イオン交換された、平均粒子径が3.9μmのSAPO−34を用意した。また、微粒ゼオライトとして、銅イオンで6.3質量%イオン交換された、平均粒子径が0.4μmのβ型ゼオライトを用意した。表1に、実施例1に使用した粗粒ゼオライト及び微粒ゼオライトの種類及び平均粒子径を示す。表1の「ゼオライトの欄」の、「Cu−SAPO−34」は、銅イオンでイオン交換されたSAPO−34であることを意味する。また、表1の「ゼオライトの欄」の、「Cu−β」は、銅イオンでイオン交換されたβ型ゼオライトであることを意味する。各ゼオライトの平均粒子径は、それぞれのゼオライトの粒子を含有する粉末の粒子径分布におけるメジアン径(d50)であり、JIS R1629に準拠したレーザー回折散乱法にて測定した。
【0099】
また、無機結合材として、塩基性乳酸アルミニウムを155g、ベーマイトを49g用意した。塩基性乳酸アルミニウムは、多木化学株式会社製の塩基性乳酸アルミニウム「M160−P(商品名)」を用意した。ベーマイトは、比表面積が130m/gのものを用意した。塩基性乳酸アルミニウムについては、塩基性乳酸アルミニウムの質量の2倍、即ち、310gの水に溶解した。
【0100】
上記のように用意した、粗粒ゼオライト、微粒ゼオライト、及び無機結合材に、更に、アルミナシリカ繊維、メチルセルロースを加えて、ゼオライト原料を調製した。ゼオライト原料を調製する際には、アルミナシリカ繊維を73g加え、メチルセルロースを35g加えた。アルミナシリカ繊維としては、平均繊維径3μm、平均繊維長100μmのアルミナシリカ繊維を用いた。ゼオライト原料の調製は、上記した各原料を、本田鐵工製双腕型ニーダーを用いて10分間混合し、更に、水を加えて粘度調整しながら40分間混合及び混練することによって行った。表2に、ゼオライト原料の配合処方を示す。
【0101】
得られたゼオライトの混練物を、押出成形して、隔壁の厚さが200μmで、セル密度が93個/cmのハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体を、熱風乾燥機にて80℃で12時間乾燥した。その後、乾燥したハニカム成形体を、焼成炉にて450℃で5時間脱脂し、700℃で4時間焼成することで、ゼオライト材料から構成されたハニカム構造部を含むハニカム構造体を得た。
【0102】
得られたハニカム構造体のハニカム構造部を構成するゼオライト材料について、以下の(1)〜(9)の値を求めた。結果を、表4に示す。
【0103】
(1)ゼオライト材料全体の体積に対する、粗粒ゼオライト(粗粒チャバサイト型ゼオライト)の体積の比率(%)。
(2)ゼオライト材料全体の体積に対する、塩基性乳酸アルミニウム由来のアルミナの体積の比率(体積%)。
(3)ゼオライト材料全体の体積に対する、無機結合材の体積の比率(体積%)。
(4)ベーマイト由来のアルミナの体積A2に対する、塩基性乳酸アルミニウム由来のアルミナの体積A1の比率(A1/A2)。
(5)細孔径が0.02〜0.15μmの細孔容積(ml/g)。
(6)全細孔容積(ml/g)。
(7)細孔径が0.02〜0.15μmの細孔容積比率(%)。
(8)気孔率(%)。
(9)圧縮強度(MPa)。
【0104】
上記した(1)〜(4)の測定については、表2に示すゼオライト原料に用いた、各原料の質量から体積を算出することにより求めた。塩基性乳酸アルミニウムについては、ハニカム成形体の焼成により、その全量が、脱水、脱炭酸して、アルミナへと変化しているものとして、体積を算出した。
【0105】
上記した(5)〜(7)の測定については、以下の方法で行った。まず、ゼオライト材料から構成されたハニカム構造部の積算細孔容積を、水銀ポロシメータによって測定した。水銀ポロシメータとしては、Quantachrome社製の全自動多機能水銀ポロシメータ「PoreMaster60GT(商品名)」を用いた。そして、例えば、「細孔径が0.02〜0.15μmの細孔の細孔容積(ml/g)」は、細孔径が0.15μmの積算細孔容積の値から、細孔径が0.02μmの積算細孔容積の値を減算することによって求めた。「全細孔容積(ml/g)」は、ゼオライト材料1g当たりの全細孔の容積を意味する。「細孔径が0.02〜0.15μmの細孔容積比率(%)」は、細孔径が0.02〜0.15μmの細孔容積(ml/g)の、全細孔容積に対する百分率として算出した。
【0106】
上記した(8)の測定については、以下の方法で行った。まず、水銀圧入法によって測定した細孔径3nm〜180μmの細孔の単位質量あたりの細孔容量と、ハニカム構造体の真密度を用いて、下記式(4)にて算出した。
式(4):気孔率=細孔容量/(細孔容量+1/ハニカム構造部の真密度)×100
【0107】
なお、上記式(4)において、細孔容量は、Quantachrome社製の全自動多機能水銀ポロシメータ「PoreMaster60GT(商品名)」にて測定した。また、ハニカム構造部の真密度は、ゼオライトに関しては、1.85g/cmとし、無機結合材に関しては、micrometrics社製の乾式自動密度計「アキュピック1330(商品名)」にて測定した値とした。
【0108】
上記した(9)の測定については、以下の方法で行った。ハニカム構造体から、直径25mm、セルの延びる方向の長さ25mmの円柱形状を切り出し試験片とした。島津製作所製の「オートグラフAG10TD(商品名)」にて、試験速度(クロスヘッド送り速度)0.5mm/分で圧縮荷重をかけて、試験片の最大荷重を測定した。測定した最大荷重を、試験片の断面積(直径25mmの円柱形状の断面積)で除した値を、圧縮強度(MPa)とした。なお、局所的な荷重を緩和するため、最大荷重を測定する際の治具と試験片の当たり面に厚紙を挟んで測定を実施した。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
(実施例2〜5)
表2に示すように、ゼオライト原料の配合処方を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ハニカム構造体を製造した。なお、実施例2〜5において、塩基性乳酸アルミニウムについては、塩基性乳酸アルミニウムの質量の2倍の質量の水に溶解して用いた。
【0115】
(実施例6,7)
表2に示すように、ゼオライト原料の配合処方を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ハニカム構造体を製造した。なお、実施例6,7において、塩基性乳酸アルミニウムについては、塩基性乳酸アルミニウムの質量の2倍の質量の水に溶解して用いた。
【0116】
なお、実施例6においては、粗粒ゼオライトとして、銅イオンで5.0質量%イオン交換された、平均粒子径が4.4μmのチャバサイトを用いた以外は実施例3と同様の配合と方法で、ハニカム構造体を製造した。実施例6においては、微粒ゼオライトとして銅イオンで5.0質量%イオン交換された、平均粒子径が0.6μmのチャバサイトを用いた以外は実施例6と同様の配合と方法で、ハニカム構造体を製造した。
【0117】
(比較例1〜6)
表3に示すように、ゼオライト原料の配合処方を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ハニカム構造体を製造した。なお、比較例1及び5においては、無機結合材として、アルミナゾルを用いた。アルミナゾルは、日産化学社製のアルミナゾル「AS520(商品名)」を用いた。
【0118】
実施例2〜5及び比較例1〜6のハニカム構造体のハニカム構造部を構成するゼオライト材料について、上記した(1)〜(9)の値を求めた。結果を、表4又は表5に示す。
【0119】
また、実施例1及び比較例1のハニカム構造体のハニカム構造部を構成するゼオライト材料のSEM画像を、図8及び図9に示す。図8は、実施例1のハニカム構造体のハニカム構造部を構成するゼオライト材料のSEM画像である。図9は、比較例1のハニカム構造体のハニカム構造部を構成するゼオライト材料のSEM画像である。
【0120】
(結果)
表4に示すように、無機結合材原料として塩基性乳酸アルミニウムを用いた実施例1〜7は、得られたハニカム構造体の圧縮強度が全て高かった。また、実施例1〜7によって得られたハニカム構造体は、ゼオライト材料中にチャバサイト型ゼオライトによって構成された粗粒ゼオライトを含むものであるため、NOx浄化性能に優れたものであった。実施例1〜7によって得られたハニカム構造体は、無機結合材の凝集性が向上し、圧縮強度が向上したものと考えられる。特に、細孔径が0.02〜0.15μmの細孔容積比率が、42体積%以下となることで、無機結合材の凝集性が向上していることが分かる。また、図8に示すSEM画像においては、ゼオライト材料中のゼオライト粒子の輪郭が比較的に明瞭に確認することができた。即ち、このようなゼオライト材料は、ゼオライト材料中の無機結合材の凝集性が高く、無機結合材によって比較的緻密なネック部が形成され、その圧縮強度が高いものになっていると考えられる。
【0121】
一方で、無機結合材原料として、アルミナゾルとベーマイトを用いた比較例1及び5は、得られたハニカム構造体の圧縮強度が低かった。ゼオライト材料中の無機結合材としてのアルミナの量は、実施例1及び5と比較して同程度であるため、無機結合材原料として塩基性乳酸アルミニウムを用いることにより、得られるハニカム構造体の圧縮強度が向上することが分かった。また、無機結合材原料として、ベーマイトを用いた比較例2及び6についても、得られたハニカム構造体の圧縮強度が低かった。
【0122】
また、無機結合材原料として、ゼオライト材料中の無機結合材としてのアルミナ量として、1体積%に相当する量の塩基性乳酸アルミニウムを用いた比較例3についても、得られたハニカム構造体の圧縮強度が低かった。同様に、無機結合材原料として、ゼオライト材料中の無機結合材としてのアルミナ量として、1体積%に相当する量の塩基性乳酸アルミニウムを用いた比較例4についても、得られたハニカム構造体の圧縮強度が低かった。比較例3及び4については、塩基性乳酸アルミニウムの量が少なく、ゼオライト材料中の無機結合材の凝集性が十分に高くならず、圧縮強度が向上しなかったものと考えられる。例えば、比較例3及び4は、得られたハニカム構造体中の無機結合材中のアルミナの量は、実施例3及び5と同程度の量であるにも関わらず、実施例3及び5と比較して、ハニカム構造体の圧縮強度が低かった。したがって、無機結合材原料として所定量の塩基性乳酸アルミニウムを用いることにより、得られるハニカム構造体の圧縮強度が向上することが分かった。例えば、図9に示すSEM画像においては、比較例1によって得られたハニカム構造体におけるゼオライト材料では、ゼオライト材料中のゼオライト粒子の輪郭が比較的に不明瞭となっていた。これは、ゼオライト材料中に無機結合材が広く分散されていることが理由であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のハニカム構造体の製造方法は、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNOx等を浄化するためのハニカム構造体を製造する方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0124】
1:隔壁、2:セル、3:外周壁、4:ハニカム構造部、11:第一の端面、12:第二の端面、31,131:粗粒ゼオライト粒子、32,132:微粒ゼオライト粒子、33,133:無機結合材、34:細孔(第一細孔)、35:細孔(第二細孔)、40,140:ゼオライト材料、100:ハニカム構造体、134:細孔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9