特許第6562960号(P6562960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6562960-ハニカム構造体の製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562960
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 11/24 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
   B28B11/24
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-63621(P2017-63621)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-165032(P2018-165032A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2018年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健介
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−226633(JP,A)
【文献】 特開2007−326765(JP,A)
【文献】 特開昭63−166745(JP,A)
【文献】 特開平06−116006(JP,A)
【文献】 特開2002−228359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 11/00− 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック原料、及び水を含有する原料組成物から構成され、一方の端面である第1端面から他方の端面である第2端面まで延びる複数のセルを区画形成するセル壁を備える、未焼成のハニカム成形体を作製するハニカム成形体作製工程と、
作製した前記未焼成のハニカム成形体を誘電乾燥により乾燥してハニカム乾燥体を得る誘電乾燥工程と、
得られた前記ハニカム乾燥体を焼成し、ハニカム構造体を得る焼成工程と、を有しており、
前記誘電乾燥工程が、
誘電乾燥によって前記未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の10〜50%の水分を除去した第1次乾燥ハニカム成形体を得た後、前記第1次乾燥ハニカム成形体の上下を反転し、更に誘電乾燥によって残余の水分を除去して前記ハニカム乾燥体を得る工程であるハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記誘電乾燥工程に供する前記未焼成のハニカム成形体の乾燥前の含水率が、20〜50%である請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記誘電乾燥工程によって得られた前記ハニカム乾燥体を熱風によって更に乾燥させる熱風乾燥工程を有する請求項1または2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記誘電乾燥工程に供する前記未焼成のハニカム成形体は、前記セル壁の厚さが50〜350μmである請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記誘電乾燥工程では、前記第1次乾燥ハニカム成形体を得るための第1の誘電乾燥装置と、前記第1次乾燥ハニカム成形体を更に誘電乾燥して前記ハニカム乾燥体を得るための第2の誘電乾燥装置とを用いて乾燥を行う請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、ハニカム成形体の乾燥時間が短く、製造時間を短縮できるハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス製のハニカム構造体は、触媒担体や各種フィルタ等に広く用いられている。また、このセラミックス製のハニカム構造体は、ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質(パティキュレートマター(PM))を捕捉するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)としても使用されている。
【0003】
このようなハニカム構造体は、一般に、坏土を押出成形して、ハニカム形状の成形体(ハニカム成形体)を作製し、このハニカム成形体を乾燥した後に、焼成して、得られる。なお、坏土は、セラミックス材料に、水、バインダ等の各種添加剤を加えて得られた原料を混練して得られる。
【0004】
そして、ハニカム成形体を乾燥する手段としては、以下の方法が知られている。具体的には、単に室温条件下に放置する自然乾燥法、ガスバーナで発生させた熱風を導入して乾燥を行う熱風乾燥法、誘電乾燥法、マイクロ波を利用したマイクロ波乾燥法(例えば、特許文献2を参照)等が知られている。なお、誘電乾燥法は、ハニカム成形体の上方と下方とに設けた電極間に電流を流すことによって発生させた高周波エネルギーを利用して乾燥を行う方法である。この誘電乾燥法においては、例えば、ハニカム成形体をシートで覆った状態で乾燥を行うことで、乾燥時のセルのよれなどの欠陥の発生を防止する技術が報告されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−228359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ハニカム成形体を覆うためのシートを用意する手間がかかる。また、特許文献1に記載の方法では、外周部の乾燥を遅らせることができ、ハニカム成形体の外部と内部との乾燥速度をほぼ同じにすることで乾燥のバランスをとることができるという利点がある。しかし、乾燥に時間がかかり、これに起因してハニカム構造体の製造に時間が掛かるという問題がある。即ち、ハニカム構造体の生産性が低いという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものである。本発明は、ハニカム成形体の乾燥時間が短く、その製造時間を短縮できるハニカム構造体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] セラミック原料、及び水を含有する原料組成物から構成され、一方の端面である第1端面から他方の端面である第2端面まで延びる複数のセルを区画形成するセル壁を備える、未焼成のハニカム成形体を作製するハニカム成形体作製工程と、作製した前記未焼成のハニカム成形体を誘電乾燥により乾燥してハニカム乾燥体を得る誘電乾燥工程と、得られた前記ハニカム乾燥体を焼成し、ハニカム構造体を得る焼成工程と、を有しており、前記誘電乾燥工程が、誘電乾燥によって前記未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の10〜50%の水分を除去した第1次乾燥ハニカム成形体を得た後、前記第1次乾燥ハニカム成形体の上下を反転し、更に誘電乾燥によって残余の水分を除去して前記ハニカム乾燥体を得る工程であるハニカム構造体の製造方法。
【0009】
[2] 前記誘電乾燥工程に供する前記未焼成のハニカム成形体の乾燥前の含水率が、20〜50%である前記[1]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0010】
[3] 前記誘電乾燥工程によって得られた前記ハニカム乾燥体を熱風によって更に乾燥させる熱風乾燥工程を有する前記[1]または[2]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0011】
[4] 前記誘電乾燥工程に供する前記未焼成のハニカム成形体は、前記セル壁の厚さが50〜350μmである前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0012】
[5] 前記誘電乾燥工程では、前記第1次乾燥ハニカム成形体を得るための第1の誘電乾燥装置と、前記第1次乾燥ハニカム成形体を更に誘電乾燥して前記ハニカム乾燥体を得るための第2の誘電乾燥装置とを用いて乾燥を行う前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、ハニカム成形体の乾燥時間が短く、ハニカム構造体の製造時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態における誘電乾燥工程を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0016】
(1)ハニカム構造体の製造方法:
本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態としては、ハニカム成形体作製工程と、誘電乾燥工程と、焼成工程と、を有している。これらの工程により、ハニカム構造体を製造することができる。具体的には、ハニカム成形体作製工程は、一方の端面である第1端面から他方の端面である第2端面まで延びる複数のセルを区画形成するセル壁を備える未焼成のハニカム成形体を作製する工程である。この未焼成のハニカム成形体は、セラミック原料、及び水を含有する原料組成物から構成されるものである。誘電乾燥工程は、作製した未焼成のハニカム成形体を誘電乾燥により乾燥してハニカム乾燥体を得る工程である。この誘電乾燥工程は、誘電乾燥によって未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の10〜50%の水分を除去した第1次乾燥ハニカム成形体を得る第1次乾燥工程を有している。そして、この誘電乾燥工程は、更に、第1次乾燥工程の後、第1次乾燥ハニカム成形体の上下を反転し、更に誘電乾燥によって残余の水分を除去してハニカム乾燥体を得る第2次乾燥工程を有している。更に、焼成工程は、得られたハニカム乾燥体を焼成し、ハニカム構造体を得る工程である。
【0017】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、ハニカム成形体の乾燥時間が短く、その結果、ハニカム構造体の製造時間を短縮できる。
【0018】
図1は、本発明のハニカム構造体の製造方法の誘電乾燥工程を説明する模式図である。図1に示すように、未焼成のハニカム成形体1を誘電乾燥装置(第1の誘電乾燥装置)10の搬送コンベア11上に配置されたパンチングプレート12上に置き、未焼成のハニカム成形体1の上方及び下方にある電極板15,16に電圧をかける。そして、高周波エネルギーを利用して乾燥を行う。このようにして、未焼成のハニカム成形体1を上記所定の条件で誘電乾燥して第1次乾燥ハニカム成形体3を得る(第1次乾燥工程)。その後、第1次乾燥ハニカム成形体3を、その上下を反転させて誘電乾燥装置(第2の誘電乾燥装置)20の搬送コンベア11上に配置されたパンチングプレート12上に置き、第1次乾燥ハニカム成形体3の上方及び下方にある電極板15,16に電圧をかける。そして、高周波エネルギーを利用して乾燥を行う。このようにして、第1次乾燥ハニカム成形体3を誘電乾燥してハニカム乾燥体を得る(第2次乾燥工程)。
【0019】
本発明の誘電乾燥工程においては、第1次乾燥ハニカム成形体3の上下を反転させる方法は特に制限はない。例えば、図1に示すように、2台の誘電乾燥装置(第1の誘電乾燥装置10、第2の誘電乾燥装置20)を用意し、これらの間に配置するロボットアームなどを用いる方法などを挙げることができる。具体的な手順としては、第1の誘電乾燥装置から排出された第1次乾燥ハニカム成形体の側面を、ロボットアームなどで把持し、第1次乾燥ハニカム成形体の上下を反転させて、第2の誘電乾燥装置に供給する。なお、第1の誘電乾燥装置10から未焼成のハニカム成形体が排出されるときには、未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の10〜50%の水分が除去されているように予め調節することがよい。また、ロボットアームの代わりに人間が上記操作を行ってもよい。
【0020】
このように、複数の誘電乾燥装置を用いて誘電乾燥工程を行うことにより、従来の誘電乾燥装置を採用することができるため、簡便に本発明の方法を行うことができる。
【0021】
なお、上記のように複数の誘電乾燥装置を用いずに1台の誘電乾燥装置を用いる方法であってもよい。このとき、誘電乾燥装置内において未焼成のハニカム成形体の上下を反転させる手段を採用することができる。
【0022】
(1−1)ハニカム成形体作製工程:
ハニカム成形体作製工程では、上述のように、セラミック原料及び水を含有する原料組成物を成形して、一方の端面である第1端面から他方の端面である第2端面まで延びる複数のセルを区画形成するセル壁を備える未焼成のハニカム成形体を形成する。なお、未焼成のハニカム成形体とは、セラミック原料の粒子が、原料組成物をハニカム形状に成形したときの粒子形状を維持した状態で存在し、セラミック原料が焼結していない状態のものをいう。
【0023】
原料組成物に含有されるセラミック原料としては、コージェライト化原料、コージェライト、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、ムライト、及びチタン酸アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。なお、コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミック原料である。そして、コージェライト化原料は、焼成されてコージェライトになるものである。
【0024】
原料組成物は、上記セラミック原料と水以外に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、造孔材、界面活性剤等を混合して調製することができる。各原料の組成比は、特に限定されず、作製しようとするハニカム構造体の構造、材質等に合わせた組成比とすることが好ましい。
【0025】
造孔材としては特に制限はなく適宜選択することができる。造孔材としては、例えば、吸水性樹脂、シリカゲル、コークスなどを挙げることができる。ここで、「吸水性樹脂」とは、吸水すると数倍〜数10倍に膨潤する樹脂を意味し、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0026】
本発明において、造孔材の添加量は、原料組成物中の0.5質量%未満とすることがよい。なお、本発明においては、造孔材を添加しなくてもよい(即ち、原料組成物中の0質量%であってもよい)。
【0027】
原料組成物を成形する際には、まず、原料組成物を混練して坏土とし、得られた坏土をハニカム形状に成形する。原料組成物を混練して坏土を形成する方法としては、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては、例えば、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を用いることができる。具体的には、所望のセル形状、隔壁(セル壁)の厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金を用いることができる。
【0028】
未焼成のハニカム成形体のセル形状(セルが延びる方向に直交する断面におけるセル形状)としては、特に制限はない。セル形状としては、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、あるいはこれらの組合せを挙げることができる。
【0029】
ハニカム成形体の形状としては、特に制限はなく、円柱状、楕円柱状、端面が「正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、八角形等」の多角柱状等を挙げることができる。
【0030】
ハニカム成形体の形状が円柱状である場合、未焼成のハニカム成形体の端面における直径は50〜400mmとすることができ、80〜400mmとすることがよく、80〜350mmとすること更によい。
【0031】
更に、未焼成のハニカム成形体のセルの延びる方向の長さは、100〜400mmとすることができ、150〜400mmとすることがよく、150〜350mmとすること更によい。
【0032】
更に、ハニカム成形体のセル壁の厚さは、30〜350μmとすることができ、30〜300μmとすることがよく、30〜200μmとすること更によい。ハニカム成形体のセル壁の厚さが上記範囲であると、乾燥させる際に隔壁に切れが発生し易いが、本発明によれば、上記のように隔壁が薄い場合であっても切れの発生を抑制することができる。ここで、未焼成のハニカム成形体における切れは、未焼成のハニカム成形体内における水分の分布が不均一になり、乾燥における収縮差が生じるために発生する。セル壁が薄い場合、この収縮差による影響が大きく、切れが発生し易くなる。本発明では誘電乾燥工程において所定の条件で未焼成のハニカム成形体の上下を反転させるため、乾燥における収縮差を抑えることができる。
【0033】
未焼成のハニカム成形体の含水率は、製品の要求特性によって異なる。本発明において、対応可能な未焼成のハニカム成形体の含水率は、20〜50%の範囲にあるものを用いることが好ましい。この未焼成のハニカム成形体は、含水率が20〜40%の範囲にあるものを用いることが更に好ましく、20〜30%の範囲にあるものを用いることが特に好ましい。なお、「未焼成のハニカム成形体」の含水率は、原料組成物を赤外線加熱式水分計にて測定した値である。
【0034】
(1−2)誘電乾燥工程:
誘電乾燥工程は、作製した未焼成のハニカム成形体を誘電乾燥により乾燥してハニカム乾燥体を得る工程である。この誘電乾燥工程は、第1次乾燥工程と、これに続く反転工程と、更に第2次乾燥工程とを有する。このように、本発明においては、第1次乾燥工程と第2次乾燥工程との間で、第1次乾燥ハニカム成形体の上下を反転させる反転工程を有している。これらの工程を有する誘電乾燥工程を採用することにより、ハニカム成形体の乾燥時間が短くなり、ハニカム構造体の製造時間を短縮できる。
【0035】
ここで、誘電乾燥法は、ハニカム成形体の上方と下方とに設けた電極間に電流を流すことによって発生させた高周波エネルギーを利用して乾燥を行う方法である。そして、誘電乾燥においては、未焼成のハニカム成形体の上方に位置する一の電極(上方電極)と、下方に位置する他の電極(下方電極)とを備える誘電乾燥装置を用いる。この誘電乾燥装置は、未焼成のハニカム成形体の上方の端面と上方電極との間の距離D1と、未焼成のハニカム成形体の下方の端面と下方電極との間の距離D2とが異なり、距離D1が、距離D2に比べて長くなっている。この未焼成のハニカム成形体の上方の端面(第1端面)と上方電極との間隔は、エアギャップと呼ばれる。このエアギャップが存在することにより、未焼成のハニカム成形体の上部における水分は、下部における水分に比べて未焼成のハニカム成形体に残存し易くなる。その結果、未焼成のハニカム成形体内における水分が不均一に存在することになる。このように水分が不均一に存在すると、誘電乾燥装置による乾燥は非常に効率が悪くなる。そのため、乾燥を進めるために、誘電乾燥後にマイクロ波乾燥などの別の乾燥処理が行われたり、誘電乾燥時間を長くして乾燥が行われたりしている。なお、水分が不均一に存在することは、補助電極を採用したとしても解消し難い。
【0036】
しかし、誘電乾燥以外の乾燥処理(マイクロ波乾燥など)を行う場合、その設備や設備の設置場所が必要になり、手間やコストがかかるという問題もある。また、誘電乾燥時間を長くして乾燥を行う場合、ハニカム構造体の製造時間が非常にかかったり、大きな電力を必要とするためコストがかかるという問題がある。そこで、誘電乾燥により未焼成のハニカム成形体のほとんどの乾燥が完了する方法の開発が要請されていた。
【0037】
本発明は、誘電乾燥によって未焼成のハニカム成形体のほとんどの乾燥が可能であり、その乾燥時間も短いというものである。
【0038】
(1−2−1)第1次乾燥工程:
本工程においては、未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の10〜50%の水分を除去した第1次乾燥ハニカム成形体を得る。即ち、本工程は、未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の10〜50%の水分が除去された段階で終了となり、第2次乾燥工程に移行することになる。
【0039】
なお、第1次乾燥ハニカム成形体の含水率は、乾燥前の未焼成ハニカム成形体の質量及び誘電乾燥後のハニカム成形体(第1次乾燥ハニカム成形体)の質量を測定し、除去した水分の量から計算する。なお、予め複数の乾燥条件で誘電乾燥を行い、第1次乾燥ハニカム成形体の含水率が上記範囲内となる条件を確認しておくことができる。
【0040】
本発明は、第1次乾燥工程において、未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の10〜50%の水分を除去する。そして、未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の20〜40%の水分を除去することが好ましい。未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の10%未満の水分を除去した状態で本工程を終了させると、次工程(熱風乾燥工程や焼成工程)において未乾燥部分(乾燥が十分でない部分)とそれ以外の部分で収縮差が生じ、セル壁(隔壁)の切れが発生する。なお、セル壁の厚さが薄い78μm以下であると、上記切れの発生頻度が高くなる。また、未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の50%超の水分を除去した状態で本工程を終了させると、ハニカム成形体の電気抵抗が大きくなり、十分に出力を上げることができない。そのため、乾燥の効率が悪くなる。また、電極間の電圧が上昇し易くなるため、誘電乾燥装置の負荷が大きくなり放電の危険性が高まる。そして、放電によって設備が故障する頻度が上昇してしまう。
【0041】
(1−2−2)反転工程:
本工程は、第1次乾燥ハニカム成形体の上下を反転する工程である。本発明においては、このような反転工程を有することにより、ハニカム成形体内における水分を均一にしつつ誘電乾燥することができる。そのため、切れの発生を抑制することができ、更に、誘電時間を短くすることができる。その結果、ハニカム構造体の製造時間を短縮することができる。
【0042】
「第1次乾燥ハニカム成形体の上下を反転させる」とは、第1次乾燥ハニカム成形体における一方の端面と他方の端面の位置を入れ替えることを意味する。つまり、一方の端面と他方の端面とを有する柱状の第1次乾燥ハニカム成形体は、通常、図1に示すように、一方の端面(第1端面)を上方とし、他方の他面(第2端面)を下方とするように配置されて誘電乾燥される。そこで、これらの第1端面と第2端面の位置を入れ替える操作を、「上下を反転させる」としている。
【0043】
(1−2−3)第2次乾燥工程:
本工程は、更に誘電乾燥によって残余の水分を除去してハニカム乾燥体を得る工程である。本工程における誘電乾燥条件は、第1次乾燥工程における誘電乾燥工程と同様の条件を採用することができる。また、第1次乾燥工程における誘電乾燥工程と異なる条件を採用してもよい。
【0044】
本工程においては、未焼成のハニカム成形体の全含水量のうちの90%以上を除去した状態とすることがよい。このようにすることで、次工程(熱風乾燥工程または焼成工程)においても切れの発生を抑制することができる。
【0045】
なお、誘電乾燥工程(第1次乾燥工程、第2次乾燥工程)において、周波数、出力などは従来公知の条件を適宜採用することができる。例えば、周波数は10〜50MHzとすることができる。また、出力は、5〜200kWとすることができる。
【0046】
また、誘電乾燥工程においては、未焼成のハニカム成形体と第1次乾燥ハニカム成形体の中心部の温度を150℃以下に維持しながら誘電乾燥を行うことが好ましい。このようにすると、未焼成のハニカム成形体の変形を防止できる。つまり、未焼成のハニカム成形体の温度が150℃超になると、未焼成のハニカム成形体の保形性を高めるために配合されている有機物助剤が燃焼する温度域に達してしまい、乾燥後の強度が不足して第1次乾燥ハニカム成形体が崩れてしまうおそれがある。
【0047】
なお、未焼成のハニカム成形体と第1次乾燥ハニカム成形体の中心部の温度は、予備試験において小型測温装置を製品(乾燥前の未焼成のハニカム成形体)に埋め込んで測定することができる。そして、未焼成のハニカム成形体、第1次乾燥ハニカム成形体の中心部の温度を150℃以下に保つことができる条件を予め確認しておくことがよい。
【0048】
(1−2−4)熱風乾燥工程:
本発明においては、誘電乾燥工程によって得られたハニカム乾燥体を熱風によって更に乾燥させる熱風乾燥工程を更に有することでもよい。
【0049】
この熱風乾燥工程を採用することにより、ハニカム乾燥体の乾燥を更に進めることができる。また、本発明における誘電乾燥工程を採用することにより、熱風乾燥工程における熱風の流路がハニカム乾燥体に転写されることを防止できる。即ち、ハニカム乾燥体の一方の端面が熱風により焦げ付くことを防止できる。このように、本発明における誘電乾燥工程を採用すると、次工程で熱風乾燥工程を行う場合にも良好に乾燥処理を行うことができる。
【0050】
この熱風乾燥工程は、従来公知の方法を適宜採用することができる。
【0051】
(1−3)焼成工程:
焼成工程では、上記誘電乾燥工程で得られたハニカム乾燥体を焼成してハニカム構造体を得る。
【0052】
ハニカム乾燥体の焼成方法としては、例えば、焼成炉において焼成する方法がある。そして、焼成炉及び焼成条件は、ハニカムの形状、材質等に合わせて従来公知の条件を適宜選択することができる。なお、焼成の前に仮焼成によりバインダ等の有機物を燃焼除去しても良い。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を、実施例により更に具体的に説明する。本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
まず、セラミック原料としてアルミナ、カオリン及びタルクを混合したコージェライト化原料を用い、有機バインダを含む結合材、造孔材(添加量は、原料組成物(坏土)中の0.5質量%未満)、分散媒として水(32質量%)を混合し、混練して坏土を得た(ハニカム成形体作製工程)。
【0055】
得られた坏土を押出成形し、セルの延びる方向に直交する断面形状が正方形であるセルを有する未焼成のハニカム成形体を得た。この未焼成のハニカム成形体は、直径144mm、長さ(セルの延びる方向の長さ)200mmであり、外形が円柱状であった。
【0056】
得られた未焼成のハニカム成形体は、含水率が23%であり(表1中、「初期含水率」と記す)、セル密度が62個/cmあり、セル壁の厚さが100μmであり、質量(乾燥前質量)が1326gであった。この未焼成のハニカム成形体について以下のようにして乾燥操作を行った。
【0057】
得られた未焼成のハニカム成形体に対して、誘電乾燥装置を使用して誘電乾燥を行った。具体的には、周波数40MHz、出力4kW、加熱時間120秒間として、バッチで未焼成のハニカム成形体の誘電乾燥(第1の誘電乾燥装置による乾燥(第1次乾燥工程))を行った。このようにして、未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分の45.9%の水分を除去した第1次乾燥ハニカム成形体(質量(反転前質量)1186g)を得た。なお、第1次乾燥ハニカム成形体の含水率は、12.4%であった。また、上記乾燥条件において、未焼成のハニカム成形体の中心部の温度は98℃(150℃以下)であった。この未焼成のハニカム成形体の温度は、光ファイバー温度計により測定した。
【0058】
なお、表2、表5中、「第1次除去率(%)」は、第1次乾燥工程における、乾燥前質量に対する第1次乾燥工程にて除去した水分量の割合(%)を示す。具体的には、式:{1−(反転前質量/乾燥前質量)}×100により算出した値である。また、「第1次乾燥割合(%)」は、第1次乾燥工程における、未焼成のハニカム成形体の含有水分量に対する第1次乾燥工程にて除去した水分量の割合(%)を示す。具体的には、式:(乾燥前質量−反転前質量)/(乾燥前質量×初期含水率)×100により算出した値である。この「第1次乾燥割合(%)」が、未焼成のハニカム成形体が乾燥前に含む全水分量のうち、除去された水分量を意味する。即ち、本発明においては、この第1次乾燥割合(%)が、10〜50%であることが必要である。
【0059】
次に、上記誘電乾燥装置を使用して更に誘電乾燥を行った。このとき、第1次乾燥ハニカム成形体の上下を反転させて誘電乾燥装置に配置した。乾燥条件は、上記と同様とした。具体的には、周波数40MHz、出力4kW、加熱時間140秒間とした。このようにして、残余の水分を除去して、ハニカム乾燥体を得た(第2の誘電乾燥装置による乾燥(第2次乾燥工程))。なお、第1次乾燥ハニカム成形体の中心部の温度は120℃(150℃以下)であった。
【0060】
次に、ハニカム乾燥体について、含水率を測定して、ハニカム乾燥体が乾燥されていることを確認した。その結果、ハニカム乾燥体の含水率は、1.1%であった(表2参照)。また、ハニカム乾燥体の質量(最終質量)は、1035gであった。なお、表2、表5中、「最終除去率(%)」は、誘電乾燥工程(第1次乾燥工程及び第2次乾燥工程)における、乾燥前質量に対する全除去水分量の割合(%)を示す。また、「最終乾燥割合(%)」は、誘電乾燥工程(第1次乾燥工程及び第2次乾燥工程)における、未焼成のハニカム成形体の含有水分量に対する全除去水分量の割合(%)を示す。
【0061】
本実施例で得られたハニカム乾燥体は、表3に示すように、上部(一方の端部)の局所残存水分率が4.6%であり、下部(他方の端部)の局所残存水分率が1.4%であった。そして、これらの差(上部−下部)は、3.2%であった。なお、局所残存水分率の測定における「上部」は、ハニカム乾燥体の一方の端面(第1次乾燥工程において上側に位置する端面)から20mmの深さの位置を意味する。局所残存水分率の測定における「下部」は、ハニカム乾燥体の他方の端面(第1次乾燥工程において下側に位置する端面)から20mmの深さの位置を意味する。
【0062】
局所残存水分率の測定は、土壌水分計(DECAGON社製)「プローブ EC−5」(商品名)を用い、静電容量法を採用して行った。また、局所残存水分率の測定は、測定対象(未焼成のハニカム成形体)の端面からの位置が上記深さ(20mm)の位置で、上記土壌水分計のセンサを測定対象(未焼成のハニカム成形体)の側面から60mmまで差し込んで行った。
【0063】
(乾燥時の切れの発生量(個))
本実施例の方法によれば、得られたハニカム乾燥体の15個を任意に選択し、ハニカム乾燥体の外観における切れの発生の有無を目視にて確認したところ、切れが確認されたハニカム乾燥体は15個中1個であった。
【0064】
また、これらのハニカム乾燥体を焼成し、ハニカム構造体を得た。このハニカム構造体の切れの発生量は、1個であった(ハニカム構造体の切れの発生量(個))。結果を表3、表6に示す。なお、焼成条件は、1400℃、5時間の条件とした。
【0065】
(乾燥時間の合計(分))
更に、誘電乾燥工程における乾燥時間を各ハニカム乾燥体の作製において計測した。結果を表3、表6の「合計乾燥時間(秒)」の欄に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
(実施例2〜5、比較例1〜6)
表1、表2、表4、表5に示すように条件を変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。この方法におけるハニカム乾燥体及びハニカム構造体の評価結果を表3、表6に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
表3、表6から、実施例1〜5のハニカム構造体の製造方法によれば、比較例1〜6のハニカム構造体の製造方法に比べて、ハニカム成形体の乾燥時間が短く、その結果としてハニカム構造体の製造時間を短縮できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のハニカム構造体の製造方法は、自動車等の排ガスを浄化するフィルタの製造方法として採用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1:未焼成のハニカム成形体、3:第1次乾燥ハニカム成形体、10:第1の誘電乾燥装置、11:搬送コンベア、12:パンチングプレート、15,16:電極板、20:第2の誘電乾燥装置。
図1