特許第6562964号(P6562964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562964
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】車載器
(51)【国際特許分類】
   G07C 5/00 20060101AFI20190808BHJP
   G01C 23/00 20060101ALI20190808BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20190808BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   G07C5/00 Z
   G01C23/00 R
   G08G1/00 D
   G08G1/16 D
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-93134(P2017-93134)
(22)【出願日】2017年5月9日
(65)【公開番号】特開2018-190232(P2018-190232A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2018年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 文人
【審査官】 望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−220762(JP,A)
【文献】 特開2009−043145(JP,A)
【文献】 特開平11−091550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07C 5/00
G01C 23/00
G08G 1/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された車載器であって、
前記車両の速度を検出する速度検出部と、
前記車両が走行する道路の勾配を検出する勾配検出部と、
検出された前記勾配に基づき前記道路が坂道と判断した場合に、前記車両のエンジン過回転に関する警報を抑制する報出力部と、
を備え
前記警報出力部は、前記勾配検出部によって前記道路が上り坂であると判断された場合において、前記勾配検出部によって前記上り坂の頂上付近が検出され、且つ、前記頂上付近で前記速度検出部によって前記車両の速度が所定値以下となる前記車両の徐行が検出されないときに、前記警報を出力する、
ことを特徴とする車載器。
【請求項2】
前記警報出力部は、前記勾配検出部によって前記道路が下り坂であると判断された場合において、前記速度検出部によって一定値を超える速度の増加が検出されたときに、前記警報を出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車載器。
【請求項3】
ブレーキの作動回数及び前記ブレーキの作動時間を計測するブレーキ計測部と、
前記道路の渋滞を検出する渋滞検出部と、
を備え、
前記警報出力部は、前記勾配検出部によって前記道路が下り坂であると判断された場合において前記ブレーキ計測部によって前記ブレーキの作動回数及び前記ブレーキの作動時間の少なくとも一方の超過検出され、且つ、前記渋滞検出部によって前記道路の渋滞が検出されないときに、前記警報を出力する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車載器。
【請求項4】
記警報出力部は、前記勾配検出部によって前記道路が下り坂であると判断された場合において、前記ブレーキ計測部によって前記ブレーキの作動回数及び前記ブレーキの作動時間の少なくとも一方の超過が検出され、且つ、前記渋滞検出部によって前記道路の渋滞が検出されたときに、前記警報を出力しない
ことを特徴とする請求項に記載の車載器。
【請求項5】
前記警報の出力と共に、前記車両の走行に関するイベントを記録媒体に記録する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車載器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される車載器として、デジタルタコグラフは、車速やエンジン回転数等の運転データを記録し、また、閾値を超える速度オーバーやエンジン過回転が起きた場合、警報を出力する。また、デジタルタコグラフは、坂道を検出した時、エンジン過回転の警報の出力及びそのイベント記録を抑制する機能を有する。この機能により、坂道走行でエンジン過回転が起きても、警報は出力されず、そのイベントも記録されないので、運転者による運転評価は適正なものとなる。
【0003】
先行技術として、道路の勾配に対し車両の速度が注意喚起条件に合致する場合、警報を出力する車両走行支援装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−15618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のデジタルタコグラフは、坂道走行特有のエンジン回転に着目し、運転評価の公平性を担保しているが、坂道走行特有の速度の危険性については考慮されていなかった。
【0006】
具体的に、勾配のある上り坂では、頂上付近から先の道や、頂上付近にある交差点や対向車の有無等の判断が難しいので、安全運転のために、車を徐行させる必要がある。一方、下り坂では、速度が出やすく、高速度のまま走行すると、急なカーブや前車のブレーキ等で事故を起こす危険性がある。また、速度を落とすために、フットブレーキを多用すると、フェード現象が発生するおそれもある。
【0007】
特許文献1では、道路の勾配に対し車両の速度が注意喚起条件に合致すると、警報を出力するが、この速度の警報と、坂道でのエンジン過回転時の警報との関係について何も示されていない。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、坂道走行における、運転評価の公平性を担保するとともに、安全運転の励行を促す車載器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車載器は、下記(1)〜()を特徴としている。
(1) 車両に搭載された車載器であって、
前記車両の速度を検出する速度検出部と、
前記車両が走行する道路の勾配を検出する勾配検出部と、
検出された前記勾配に基づき前記道路が坂道と判断した場合に、前記車両のエンジン過回転に関する警報を抑制する報出力部と、
を備え
前記警報出力部は、前記勾配検出部によって前記道路が上り坂であると判断された場合において、前記勾配検出部によって前記上り坂の頂上付近が検出され、且つ、前記頂上付近で前記速度検出部によって前記車両の速度が所定値以下となる前記車両の徐行が検出されないときに、前記警報を出力する、
ことを特徴とする車載器。
【0010】
上記(1)の構成の車載器によれば、坂道走行特有のエンジン過回転については警報することなく、運転評価の公平性を担保するとともに、坂道特有の速度の危険性については警報することで、安全運転の励行を促すことができる。
【0012】
更に、上記()の構成の車載器によれば、見通しが良くない頂上付近での事故の発生を軽減できる。
【0013】
) 前記警報出力部は、前記勾配検出部によって前記道路が下り坂であると判断された場合において、前記速度検出部によって一定値を超える速度の増加が検出されたときに、前記警報を出力する、
ことを特徴とする上記(1)に記載の車載器。
【0014】
上記()の構成の車載器によれば、下り坂を走行中、速度超過に起因して、カーブを曲がり切れなくなったり、前方車両と衝突するなどの事故が発生することを抑制できる。
【0015】
) ブレーキの作動回数及び前記ブレーキの作動時間を計測するブレーキ計測部と、
前記道路の渋滞を検出する渋滞検出部と、
を備え、
前記警報出力部は、前記勾配検出部によって前記道路が下り坂であると判断された場合において前記ブレーキ計測部によって前記ブレーキの作動回数及び前記ブレーキの作動時間の少なくとも一方の超過検出され、且つ、前記渋滞検出部によって前記道路の渋滞が検出されないときに、前記警報を出力する、
ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の車載器。
【0016】
上記()の構成の車載器によれば、フットブレーキの多用による、フェード現象の発生を抑制でき、安全運転に貢献できる。
【0017】
記警報出力部は、前記勾配検出部によって前記道路が下り坂であると判断された場合において、前記ブレーキ計測部によって前記ブレーキの作動回数及び前記ブレーキの作動時間の少なくとも一方の超過が検出され、且つ、前記渋滞検出部によって前記道路の渋滞が検出されたときに、前記警報を出力しない
ことを特徴とする上記()に記載の車載器。
【0018】
上記()の構成の車載器によれば、運転者の技量によらないブレーキ操作を警報の対象から外すことができる。また、運転評価を行う場合に公平性を担保できる。
【0019】
) 前記警報の出力と共に、前記車両の走行に関するイベントを記録媒体に記録する、
ことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の車載器。
【0020】
上記()の構成の車載器によれば、車両の走行に関するイベントを確実に残しておくことができ、運転評価を適正に行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、坂道走行における、運転評価の公平性を担保するとともに、安全運転の励行を促すことができる。
【0022】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施形態に係る車載器であるデジタルタコグラフの構成を示すブロック図である。
図2図2は、デジタルタコグラフの動作手順を示すフローチャートである。
図3図3は、図2に続くデジタルタコグラフの動作手順を示すフローチャートである。
図4図4は、車両が頂上付近を走行する際のデジタルタコグラフによる判定処理のタイミングチャートである。
図5図5は、上り坂を車両が走行する状況を示す図である。
図6図6は、下り坂を車両が走行する状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0025】
本発明の実施形態に係る車載器は、車両に搭載される運行記録装置(以下、デジタルタコグラフという)に適用される。図1は本実施形態に係る車載器であるデジタルタコグラフ10の構成を示すブロック図である。デジタルタコグラフ10は、モバイル通信網(広域通信網)や無線LAN等のネットワーク(図示せず)を介して、車両の運行状況を管理する事務所PC30と接続可能である。
【0026】
デジタルタコグラフ10は、車両に搭載され、出入庫時刻、走行距離、走行時間、走行速度等の運行データの他、速度オーバー、エンジン過回転数、急発進、急加速、急減速等の車両の走行に関するイベントを記録する。デジタルタコグラフ10は、CPU11、RTC(時計IC)17、カードI/F18、音声I/F19、SW入力部22、不揮発メモリ25A、揮発メモリ25B、及び表示部27を有する。また、デジタルタコグラフ10は、速度I/F12A、エンジン回転I/F12B、外部入力I/F13、センサI/F14、GPS受信部15、操作入力I/F16A、カメラI/F16B、電源部21、通信部24、及びアナログ入力I/F29を有する。
【0027】
CPU11は、デジタルタコグラフ10の各部を統括的に制御する。不揮発メモリ25Aは、CPU11によって実行される動作プログラム、例えば坂道判定モジュール11A、坂道での速度・ブレーキ監視モジュール11B等を格納する。
【0028】
坂道判定モジュール11Aは、坂道を検出するためのプログラムモジュールである。坂道検出方法には、いくつかの方法がある。例えば、Gセンサ(加速度センサ)から得られる、重力加速度gに対するセンサ面内方向の加速度g・sinθを検出することで、勾配pを求める方法がある。勾配pは、傾斜面の傾きθを用いてtanθで表される。また、ジャイロセンサから得られる角速度を用いて、勾配pを求める方法がある。また、GPS受信器から、緯度、経度以外に得られる高度情報を基に、走行距離と高度差との比を用いて勾配pを求める方法がある。また、車両の前方に取り付けられた気圧センサと、車両の後方に取り付けられた気圧センサとで取得される気圧差を基に、車両の前後方向の高低差を取得し、車両の全長と高低差との比を用いて勾配pを求める方法がある。これらの方法で求められた勾配p(プラス値)が、上り坂用の閾値ulと比べて大きい場合、CPU11は、上り坂であると判定する。一方、これらの方法で求められた勾配p(マイナス値)が、下り坂用の閾値dlと比べて小さい場合、CPU11は、下り坂であると判定する。
【0029】
また、坂道判定モジュール11Aは、坂道においてエンジン過回転警報を抑制する機能をCPU11に実行させる情報を含む。この機能が実行されると、坂道においてエンジン過回転が起きても、警報を出力することなく、エンジン回転数等の運行データ及びエンジン過回転のイベントをメモリカード65に記録しないようにする。これにより、乗務員間における運行データの公平性を担保できる。
【0030】
また、坂道での速度・ブレーキ監視モジュール11Bは、坂道において、車両の速度、及びブレーキの作動回数・作動時間を監視するためのプログラムモジュールである。坂道において、ブレーキ作動回数が多い、あるいはブレーキ作動時間が長い場合、フェード現象が発生し易い。このため、監視の結果、ブレーキ作動回数・ブレーキ作動時間が超過している場合に、警報を出力することで、フェード現象の発生の抑制に繋がる。
【0031】
また、坂道において、車両の速度が一定の条件を満たした場合、CPU11は、警報を出力する。ここで、警報の出力は、警報の信号を出力することを意味する。CPU11は、スピーカ20から警報を鳴動させる他、種々の形態で警報を出力してもよい。例えば、CPU11は、表示部27に警報メッセージを表示させてもよいし、通信部24により事務所PC30や運転者のスマートフォン等に警報を通知してもよい。なお、CPU11は、警報の出力とは別に、メモリカード65に警報イベントを記録する。
【0032】
カードI/F18には、運転者が所持するメモリカード65が挿抜自在に接続される。CPU11は、カードI/F18に接続されたメモリカード65に対し、運行データを記録する。音声I/F19には、スピーカ20が接続される。スピーカ20は、警報等を鳴動させる。なお、スピーカの代わりにブザーであってもよい。
【0033】
RTC17(計時部)は、現在時刻を計時する。SW入力部22は、スイッチユニット(SWU)を有し、出庫ボタン、入庫ボタン等の各種ボタンのON/OFF信号を入力する。表示部27は、LCD(liquid crystal display)で構成され、通信や動作の状態の他、警報等を表示する。
【0034】
速度I/F12Aには、車両の速度を検出する車速センサ51が接続され、車速センサ51からの速度パルスが入力される。車速センサ51は、デジタルタコグラフ10にオプションとして設けられてもよいし、デジタルタコグラフ10とは別の装置として設けられてもよい。エンジン回転I/F12Bには、エンジン回転数センサ(図示せず)からの回転パルスが入力される。外部入力I/F13には、外部機器(図示せず)が接続される。
【0035】
センサ入力I/F14には、加速度(G値)を検知する(衝撃を感知する)加速度センサ(Gセンサ)28が接続され、Gセンサ28からの信号が入力される。アナログ入力I/F29には、運転者がフットブレーキ31zを踏むことでオンになるブレーキSW31が接続されており、このブレーキSW31からの信号が入力される。また、アナログ入力I/F29には、エンジン温度(冷却水温)を検知する温度センサ(図示せず)、燃料量を検知する燃料量センサ(図示せず)等の信号が入力される。CPU11は、これらのI/Fを介して入力される情報を基に、各種の運転状態を検出する。
【0036】
GPS受信部15は、GPSアンテナ15aに接続され、GPS衛星から送信される信号を受信し、現在位置情報(GPS情報)を取得する。
【0037】
操作入力I/F16Aには、乗務員が入力(押下)操作可能なハンディテンキー(H/T)26が接続される。ハンディテンキー26には、出庫ボタン等の各種ボタンが配置される。
【0038】
カメラI/F16Bには、車両に設置され、車両の周辺(例えば前方)を撮像して画像データを取得するカメラ23が接続される。カメラ23は、例えば30万画素、100万画素、200万画素が撮像面に配置されたイメージセンサを少なくとも1つ有し、前方車両との車間距離を求めるためのステレオ画像等の画像を撮像可能である。イメージセンサは、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサで構成されてもよいし、CCD(電荷結合素子)センサで構成されてもよい。デジタルタコグラフ10は、カメラ23で撮像された、前方車両を含む画像(ステレオ画像)を基に車間距離を求める。撮像画像を用いて車間距離を求める方法は、例えば特開2010−198552号公報、特開2011−96048号公報、特許第3522317号公報等に記載されるように、公知の技術である。
【0039】
カメラ23で撮像された映像(画像データ)は、記録媒体に時系列に記録される。なお、カメラ23は、可視光を撮像する以外に、夜間でも撮像可能なように、赤外線カメラを備えてもよい。本実施形態では、CPU11は、前方車両までの車間距離が所定距離(例えば3m)未満であり、かつ、自車両の速度vが所定速度(例えば10km/h)未満である場合、道路が渋滞していると判定する。なお、渋滞の判定は、カメラ23による撮像画像以外に、外部の装置から無線通信で送られる渋滞情報を基に、CPU11が判定してもよい。
【0040】
通信部24は、広域通信を行い、携帯回線網(モバイル通信網)を介して無線基地局に接続されると、無線基地局と繋がるインターネット等のネットワークを介して、事務所PC30と通信を行う。電源部21は、イグニッションスイッチのオン等によりデジタルタコグラフ10の各部に電力を供給する。
【0041】
上記構成を有するデジタルタコグラフ10の動作を示す。図2及び図3はデジタルタコグラフ10の動作手順を示すフローチャートである。デジタルタコグラフ10が起動すると、CPU11は、上り坂が検出されたか否かを判定する(S1)。傾斜面の傾きθを用いてtanθで表される、勾配p(プラス値)が上り坂用の閾値ulよりも大きい場合、CPU11は、上り坂を検出する。上り坂が検出された場合、CPU11は、エンジン過回転警報の抑制機能をオン(ON)にする(S2)。この機能がオンになると、例えば、上り坂において、運転者がアクセルを踏み込んでエンジン回転数が3000rpmに達しても、CPU11は、警報を出力しない。
【0042】
CPU11は、車両の速度v及び上り坂の勾配p(図4参照)を監視し、監視の結果である、車両の速度v及び上り坂の勾配pを取得する(S3)。CPU11は、監視の結果、勾配pが頂上付近用の閾値thを下回った場合、車両の速度vを揮発メモリ25Bに記憶して保持する(S4)。なお、CPU11は、頂上付近用の閾値thを下回った時の車両の速度vを揮発メモリ25Bに記憶するだけでなく、車両の速度vを時系列に揮発メモリ25Bに記憶してもよい。また、頂上付近用の閾値thは、頂上付近に達したか否かを判定するための閾値であり、例えば勾配3%(100m進んで3m高くなる)等の値に設定される。CPU11は、勾配p ≧ 閾値thの場合、頂上付近でないと判定し、勾配p < 閾値thの場合、頂上付近であると判定する。
【0043】
CPU11は、上り坂が終了であるか否か判別する(S5)。上り坂が終了でない場合、つまり、勾配p ≧ 上り坂用の閾値ulの場合、CPU11はステップS3の処理に戻る。一方、上り坂が終了である場合、つまり、勾配p <上り坂用の閾値ulの場合、CPU11は、ステップS6の処理に進む。このように、ステップS4,S5の処理によって、頂上付近に達した車両の速度vが検出され、揮発メモリ25Bに記憶される。なお、頂上付近用の閾値thは、上り坂用の閾値ulよりも小さな値である。
【0044】
CPU11は、エンジン過回転警報の抑制をオフ(OFF)にする(S6)。CPU11は、ステップS4で記憶された車両の速度vが、車両8が徐行していると判断されるための車速閾値vth未満であるか否か、つまり、上り坂の頂上付近で車両が徐行していたか否かを判別する(S7)。上り坂の頂上付近で車両が徐行していない場合、CPU11は、速度超過の警報を出力し、メモリカード65に速度超過警報イベントを記録する(S8)。
【0045】
この速度超過の警報出力では、前述したように、CPU11は、スピーカ20から警報を鳴動させてもよいし、表示部27に警報メッセージを表示させてもよいし、事務所PC30に無線通信で通知してもよい。この後、CPU11は、本動作を終了する。一方、ステップS7で上り坂の頂上付近で車両が徐行している場合、CPU11は本動作を終了する。
【0046】
図4は、車両8が頂上付近を走行する際のデジタルタコグラフ10による判定処理のタイミングチャートである。横軸は時間を表す。縦軸は勾配、速度を表す。この例では、頂上付近を判定するための頂上付近用の閾値thは3.5%に設定される。また、徐行しているか否かを判断するための車速閾値vthは、15km/hに設定される。
【0047】
デジタルタコグラフ10は、車両8が上り坂100uに入った後、車両の速度v及び勾配pを監視する。タイミングt1で、勾配pが頂上付近用の閾値th未満となると、デジタルタコグラフ10は、頂上付近に達したと判断し、車両の速度vを揮発メモリ25Bに記憶する。ここでは、タイミングt1における車両の速度vは、約25km/hである。その後、デジタルタコグラフ10は、タイミングt2で勾配pがプラス値からマイナス値あるいは零値になると、上り坂100uの終了を判定する。この時、デジタルタコグラフ10は、揮発メモリ25Bに記憶されている速度vが車速閾値vth以上であると、速度超過の警報を出力し、速度超過警報イベントをメモリカード65に記録する。
【0048】
なお、頂上付近を判定した後、勾配pが頂上付近用の閾値thを上回り、上り坂を終了しなかった場合には、デジタルタコグラフ10は、頂上付近の判定を取り消す。また、上り坂を検出した後、勾配pが頂上付近用の閾値thを連続で指定回数下回ると、デジタルタコグラフ10は、上り坂の終了を判定する。これにより、路面の状況によっては、勾配pが変動することを考慮して、上り坂の判定精度が向上する。
【0049】
一方、ステップS1で上り坂が検出されない場合、CPU11は、下り坂が検出されたか否かを判定する(S9)。前述した方法で検出された勾配(マイナス値)が下り坂用の閾値dlよりも小さい場合、CPU11は、下り坂を検出する。下り坂が検出された場合、CPU11は、エンジン過回転警報の抑制機能をオン(ON)にする(S10)。この機能がオンになると、例えば、下り坂において、運転者がエンジンブレーキを利かしてエンジン回転数が4000rpmに達しても、CPU11は、警報を出力しない。ステップS9で下り坂が検出されない場合、CPU11は、ステップS1の処理に戻る。
【0050】
CPU11は、車両の速度v及びブレーキSW31のON/OFF状態を監視し、監視の結果である、車両の速度v及びブレーキSW31のON/OFF状態を取得する(S11)。さらに、CPU11は、取得した車両の速度v及びブレーキSW31のON/OFF状態を時系列に揮発メモリ25Bに記憶する。CPU11は、車両の速度vが所定量だけ増加したか否かを判別する(S12)。この所定量は、下り坂を走行する際に危険と判断される増加量に相当し、例えば30km/h等である。
【0051】
車両の速度vが所定量増加して加速した場合、CPU11は、加速の警報を出力し、メモリカード65に加速警報イベントを記録する(S13)。この加速警報出力では、前述したように、CPU11は、スピーカ20から警報を鳴動させてもよいし、表示部27に警報メッセージを表示させてもよいし、また、事務所PC30に無線通信で通知してもよい。一方、ステップS12で車両の速度vが所定量だけ増加していない場合、CPU11は、ステップS14の処理に進む。
【0052】
CPU11は、アナログ入力I/F29を介して入力されるブレーキSW31のON/OFF状態を表すブレーキ信号を基に、ブレーキ作動回数及びブレーキ作動時間の少なくとも一方が予め設定された値を超過したか否かを判別する(S14)。超過していない場合、CPU11はステップS17の処理に進む。
【0053】
一方、ブレーキ作動回数及びブレーキ作動時間の少なくとも一方が予め設定された値を超過した場合、CPU11は、下り坂の道路が渋滞しているか否かを判定する(S15)。前述したように、本実施形態では、前方車両までの車間距離が所定距離未満であり、かつ、自車両の速度vが所定速度未満で低速である場合、CPU11は、道路が渋滞していると判定する。
【0054】
下り坂の道路が渋滞していない場合、CPU11は、ブレーキの警報を出力し、メモリカード65にブレーキ警報イベントを記録する(S16)。このブレーキ警報出力では、前述したように、CPU11は、スピーカ20から警報を鳴動させてもよいし、表示部27に警報メッセージを表示させてもよいし、また、事務所PC30に無線通信で通知してもよい。
【0055】
ステップS16の処理後、または、ステップS15で下り坂が渋滞していると判定された場合、CPU11は、下り坂が終了であるか否かを判別する(S17)。下り坂が終了でない場合、つまり、勾配p(マイナス値) ≦ 下り坂用の閾値dlの場合、CPU11はステップS11の処理に戻る。一方、下り坂が終了である場合、つまり、勾配p(マイナス値) > 下り坂用の閾値ulの場合、CPU11は、エンジン過回転警報の抑制をオフ(OFF)にする(S18)。この後、CPU11は本動作を終了する。
【0056】
つぎに、車両8が坂道を走行する状況において、デジタルタコグラフ10の具体的な動作を説明する。図5は上り坂100uを車両8が走行する状況を示す図である。この例では、車両8が上り坂100uに入り、頂上付近に達すると、車両8が徐行している。したがって、頂上付近では、デジタルタコグラフ10は、速度の警報を出力せず、また、速度警報イベントをメモリカード65に記録しない。続く上り坂100uでは、車両8が頂上付近に達しても減速せず、デジタルタコグラフ10は、速度超過の警報を出力し、また、速度超過警報イベントをメモリカード65に記録する。
【0057】
図6は下り坂100dを車両8が走行する状況を示す図である。この例では、車両8が下り坂100dに入り、車両8が加速している。したがって、デジタルタコグラフ10は、加速の警報を出力し、また、加速警報イベントをメモリカード65に記録する。続く下り坂100dでは、運転者がフットブレーキ31zを多用して減速している。デジタルタコグラフ10は、ブレーキ作動回数及びブレーキ作動時間の少なくとも一方が予め設定された値を超過した時、ブレーキ警報を出力し、また、ブレーキ警報イベントをメモリカード65に記録する。
【0058】
以上のように、本実施形態に係る、車両8に搭載されるデジタルタコグラフ10では、CPU11(速度検出部)は、速度I/F12Aを介して入力される車速センサ51からの信号を基に、車両8の速度vを検出する。CPU11(勾配検出部)は、センサ入力I/F14を介して入力されるGセンサ28からの信号を基に、車両8が走行する道路100の勾配pを検出する。CPU11(警報出力部)は、検出された勾配pに基づき道路100が坂道と判断した場合に、車両8のエンジン過回転に関する警報を抑制し、かつ、車両8の速度vが所定の条件を満たした場合、速度の警報を行う。これにより、坂道走行特有のエンジン過回転については警報することなく、運転評価の公平性を担保するとともに、坂道特有の速度の危険性については警報することで、安全運転の励行を促すことができる。従って、坂道走行特有の危険な運転の改善を促すことができ、運転者への注意喚起と安全運転支援を行うことで、坂道走行による交通事故件数の削減に繋がる。
【0059】
また、CPU11は、道路100が上り坂100uであると判断した場合、上り坂100uの頂上付近を検出し、頂上付近で車両8の徐行が検出されない場合、速度超過警報を出力する。これにより、見通しが良くない頂上付近での事故の発生を軽減できる。
【0060】
また、CPU11は、道路100が下り坂100dであると判断した場合、一定値を超える速度の増加を検出すると、加速警報を出力する。これにより、下り坂を走行中、カーブを曲がり切れなくなったり、前方車両と衝突する等、事故の発生を抑制できる。
【0061】
また、CPU11(ブレーキ計測部)は、アナログ入力I/F29を介して入力されるブレーキSW31のオン信号を基に、ブレーキの回数及びブレーキ時間を計測する。CPU11は、道路100が下り坂100dであると判断した場合、ブレーキの回数及びブレーキ時間の少なくとも一方の超過を検出すると、ブレーキ警報を出力する。これにより、フットブレーキの多用による、フェード現象の発生を抑制でき、安全運転に貢献できる。
【0062】
また、CPU11(渋滞検出部)は、道路100の渋滞を検出する。CPU11は、道路100の渋滞及び車両8の低速度を検出すると、ブレーキ警報を抑制する。これにより、運転者の技量によらないブレーキ操作を警報の対象から外すことができ、運転評価の公平性を担保できる。
【0063】
また、CPU11は、速度超過警報、加速警報、ブレーキ警報と共に、これらの警報イベント(車両の走行に関するイベント)をメモリカード65(記録媒体)に記録する。なお、速度超過警報、加速警報、ブレーキ警報のいずれも、車両の速度に関する警報(速度の警報)に含まれる。これにより、車両の走行に関するイベントを確実に残しておくことができ、運転評価を適正に行うことができる。
【0064】
尚、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態は、本発明の技術的範囲内で種々の変形や改良等を伴うことができる。
【0065】
上記実施形態では、車両に搭載される車載器として、デジタルタコグラフに適用される場合を示したが、ドライブレコーダ、カーナビゲーション、パネルメータ、エンジン制御を行う電子制御ユニット等に適用されてもよい。また、車載器は、運転者によって所持されるスマートフォンやタブレット端末であってもよい。
【0066】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る車載器の特徴をそれぞれ以下[1]〜[6]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 車両に搭載された車載器であって、
前記車両の速度を検出する速度検出部(CPU11)と、
前記車両が走行する道路の勾配を検出する勾配検出部(CPU11)と、
検出された前記勾配に基づき前記道路が坂道と判断した場合に、前記車両のエンジン過回転に関する警報を抑制し、かつ、前記車両の速度が所定の条件を満たした場合、前記警報の抑制を解除して(S6)警報を出力する警報出力部(CPU11)と、
を備える、
ことを特徴とする車載器。
【0067】
[2] 前記警報出力部は、前記道路が上り坂であると判断した場合(S1)、前記上り坂の頂上付近を検出し(S7)、前記頂上付近で前記速度検出部によって前記車両の徐行が検出されない場合、前記警報を出力する(S7、S8)、
ことを特徴とする上記[1]に記載の車載器。
【0068】
[3] 前記警報出力部は、前記道路が下り坂であると判断した場合(S9)、前記速度検出部によって一定値を超える速度の増加が検出されると、前記警報を出力する(S13)、
ことを特徴とする上記[1]に記載の車載器。
【0069】
[4] ブレーキの作動回数及び前記ブレーキの作動時間を計測するブレーキ計測部(CPU11)を備え、
前記警報出力部は、前記道路が下り坂であると判断した場合、計測された前記ブレーキの作動回数及び前記ブレーキの作動時間の少なくとも一方の超過を検出すると(S14)、前記警報を出力する、
ことを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の車載器。
【0070】
[5] 前記道路の渋滞を検出する渋滞検出部(CPU11)を備え、
前記警報出力部は、前記渋滞検出部によって前記道路の渋滞及び前記車両の低速度が検出されると、前記警報の出力を抑制する(S17)、
ことを特徴とする上記[4]に記載の車載器。
【0071】
[6] 前記警報の出力と共に、前記車両の走行に関するイベントを記録媒体(メモリカード65)に記録する、
ことを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の車載器。
【符号の説明】
【0072】
8 車両
10 デジタルタコグラフ(運行記録装置)
11 CPU
12A 速度I/F
12B エンジン回転数I/F
13 外部入力I/F
14 センサ入力I/F
15 GPS受信部
15a GPSアンテナ
16A 操作入力I/F
16B カメラI/F
17 RTC
18 カードI/F
19 音声I/F
20 スピーカ
21 電源部
22 SW入力部
23 カメラ
24 通信部
25A 不揮発メモリ
25B 揮発メモリ
26 ハンディテンキー(H/T)
27 表示部
28 Gセンサ
29 アナログ入力I/F
30 事務所PC
31 ブレーキSW
31z フットブレーキ
51 車速センサ
65 メモリカード
100 道路
100u 上り坂
100d 下り坂
図1
図2
図3
図4
図5
図6