特許第6562985号(P6562985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6562985-透明導電性フィルムの製造方法 図000003
  • 特許6562985-透明導電性フィルムの製造方法 図000004
  • 特許6562985-透明導電性フィルムの製造方法 図000005
  • 特許6562985-透明導電性フィルムの製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562985
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】透明導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20190808BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20190808BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
   C23C14/08 D
   C23C14/34 V
   H01B13/00 503B
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-179127(P2017-179127)
(22)【出願日】2017年9月19日
(62)【分割の表示】特願2013-199499(P2013-199499)の分割
【原出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2017-226922(P2017-226922A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2017年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久登
(72)【発明者】
【氏名】別府 浩史
(72)【発明者】
【氏名】梶原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高見 佳史
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/046050(WO,A1)
【文献】 特開2010−198934(JP,A)
【文献】 特開2013−093310(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/080995(WO,A1)
【文献】 MAY, C et al.,Thin Solid Films,1999年 9月 2日,Vol. 351,P. 48-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上にインジウム−スズ複合酸化物を含むターゲットから透明導電層をスパッタ法により形成する工程を含む透明導電性フィルムの製造方法であって、
前記スパッタ法は、スパッタ成膜装置における1つのスパッタ室あたり2つ備えられた前記ターゲットにそれぞれDC電源を接続して行うDCデュアルターゲットスパッタ法であり、
前記透明導電層の厚みは15〜35nmであり、
前記2つのターゲット間の最短距離は10mm以上150mm以下である、透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記スパッタ成膜装置には、2つ以上のスパッタ室が設けられており、
各スパッタ室において独立してDCデュアルターゲットスパッタ法により前記透明導電層を形成する請求項1に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、投影型静電容量方式のタッチパネルや、マトリックス型の抵抗膜方式タッチパネルは、多点入力(マルチタッチ)が可能であるため、操作性に優れ、その需要が急速に高まっている。このようなタッチパネルの電極部材として、基材フィルム上に透明導電性薄膜が形成された透明導電性フィルムが提案されている。透明導電性薄膜の付与は、一般的に真空環境下におけるスパッタリングによってインジウム−スズ複合酸化物膜を成膜することによって行われる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−076432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特にタッチパネル付きディスプレイ製品の市場が拡大されている中で、低電力消費を目的として低抵抗化(高導電性化)された透明導電層を有する透明導電性フィルムの需要が高まってきている。また、このような需要増に対応するために、より高速での成膜が要求されている。
【0005】
本発明は、低抵抗化された透明導電層をより高速で成膜可能な透明導電性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成により上記目的を達成し得ることを見出し本発明にいたった。
【0007】
すなわち、本発明は、基材フィルム上にインジウム−スズ複合酸化物を含むターゲットから透明導電層をスパッタ法により形成する工程を含む透明導電性フィルムの製造方法であって、
前記スパッタ法は、スパッタ成膜装置における1つのスパッタ室あたり2つ備えられた前記ターゲットにそれぞれDC電源を接続して行うDCデュアルターゲットスパッタ法である。
【0008】
当該製造方法では、透明導電層を成膜する際のスパッタ法として、1つのスパッタ室あたり2つ備えられた前記ターゲットにそれぞれDC電源を接続して行うDCデュアルターゲットスパッタ法を採用しているので、スパッタ速度を単一ターゲットスパッタ法の2倍にすることができ、成膜工程の高速化を図ることができる。また、1つのスパッタ室に2つのターゲットを設置することにより、スパッタ室内のプラズマ密度を高めることができる。その結果、より緻密なスパッタ膜を形成することができるので、得られる透明導電層の比抵抗を低減することができる。なお、1つのスパッタ室に1つのターゲットを備える従来型のスパッタ成膜装置において、DC電源の出力を上げてプラズマ密度を高めることはできる。しかしながら、あまり出力を上げ過ぎるとターゲットへの負荷が大きくなり、クラックやノジュール(異物混入により焦げたようになる状態)が発生してしまうことから、ターゲットに負荷可能な出力は限られることになり、DCデュアルターゲットスパッタ法ほどの低抵抗化及びスパッタ成膜の高速化は望めない。
【0009】
前記2つのターゲット間の最短距離は10mm以上150mm以下であることが好ましい。ターゲット間の最短距離を上記下限以上とすることにより、DC電力とともに磁場を印加して成膜する際の磁場同士の干渉を防止して良好な膜質の透明導電層を形成することができる。一方、上記最短距離を上記上限以下とすることにより、スパッタ室内のプラズマ密度を効率的に高めることができる。
【0010】
前記スパッタ成膜装置には、2つ以上のスパッタ室が設けられており、各スパッタ室において独立してDCデュアルターゲットスパッタ法により前記透明導電層を形成してもよい。2層以上の積層構造を有する透明導電層を形成する場合、各層の性状に応じて各スパッタ室でのDCデュアルターゲットスパッタ法の条件を変更することにより、積層構造を有する透明導電層を効率良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るスパッタ成膜装置の構成を示す概念図である。
図2】本発明の一実施形態に係る透明導電性フィルムの模式的断面図である。
図3】本発明の別の実施形態に係るスパッタ成膜装置の構成を示す概念図である。
図4】本発明の別の実施形態に係る透明導電性フィルムの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の透明導電性フィルムの製造方法の実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。ただし、図の一部又は全部において、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にするために拡大または縮小等して図示した部分がある。上下等の位置関係を示す用語は、単に説明を容易にするために用いられており、本発明の構成を限定する意図は一切ない。
【0013】
《第1実施形態》
以下、本発明の一実施形態である第1実施形態について説明する。まず透明導電性フィルムの製造方法について説明した後、結果物である透明導電性フィルムについて説明する。
【0014】
[透明導電性フィルムの製造方法]
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタ成膜装置の構成を示す概念図である。スパッタ成膜装置100は、基材フィルム1が送り出しロール53から送り出され、ガイドロール55を経て、温度調節ロール52により搬送され、ガイドロール56を経て、巻き取りロール54で巻き取られるロール・トゥ・ロール方式を採用している。スパッタ成膜装置100内は、所定の圧力以下になるように排気されている(排気手段は図示せず)。温度調節ロール52は、所定の温度になるように制御されている。
【0015】
本実施形態のスパッタ成膜装置100はスパッタ室11を1つ備えている。スパッタ室11は、スパッタ成膜装置100の筐体101と隔壁12と温度調節ロール52とで囲まれた領域であり、スパッタ成膜の際には独立したスパッタ雰囲気とすることができる。スパッタ室11は、2枚のインジウム−スズ複合酸化物(ITO)ターゲット13A、13Bを備えている。ITOターゲット13A、13Bは、それぞれDC電源16に接続されており、このDC電源より放電がなされ、透明導電層が基材フィルム1上に形成される。スパッタ室11内ではDC電源16のプラズマ制御を行うとともに、アルゴンガス及び酸素ガスが所定の体積比(例えば、アルゴンガス:酸素ガス=98:2)でスパッタ室11内に導入されている。このように、スパッタ成膜装置100では、スパッタ室11が2つのITOターゲットを備えているので、スパッタ速度を単一ターゲットスパッタ法の2倍にして成膜工程の高速化を図ることができるとともに、スパッタ室内のプラズマ密度を高めることができ、その結果、より緻密なスパッタ膜が形成されて、得られる透明導電層の比抵抗を低減することができる。
【0016】
ITOターゲット13A、13Bの形状は、図1に示すような平板型(プレーナー)であってもよく、円筒型(ロータリー)であってもよい。
【0017】
2つのITOターゲット13A、13B間の最短距離は10mm以上150mm以下であることが好ましく、20mm以上140mm以下であることがより好ましい。ITOターゲット間の最短距離が小さすぎると、DC電力とともに磁場を印加して成膜する際に磁場同士が干渉して所望の成膜を行うことができない場合がある。上記最短距離の下限を採用することにより、そのような磁場の干渉を防止して良好な膜質の透明導電層を形成することができる。一方、上記最短距離が大きすぎると、単一ITOターゲットを2つ並べたのと同様の状態となってプラズマ密度が十分に増加しなくなってしまい、1つのスパッタ室11内に2つのITOターゲットを備えることの利点を十分に得られない場合がある。上記最短距離を所定値以下とすることにより、スパッタ室11内のプラズマ密度を効率良く高めることができる。
【0018】
ITOターゲット13A、13Bとしては、インジウム−スズ複合酸化物を含むターゲット(In−SnOターゲット)が好適に用いられる。In−SnO金属酸化物ターゲットが用いられる場合、該金属酸化物ターゲット中のSnOの量が、InとSnOとを加えた重さに対して、0.5重量%〜15重量%であることが好ましく、1〜12重量%であることがより好ましく、2〜12重量%であることがさらに好ましい。ターゲット中のSnOの量が少なすぎると、ITO膜の耐久性に劣る場合がある。また、SnOの量が多すぎると、ITO膜が結晶化され難くなり、透明性や抵抗値の安定性が十分でない場合がある。
【0019】
このようなITOターゲットを用いたスパッタ成膜にあたり、スパッタ成膜装置100内の真空度(到達真空度)を好ましくは1×10−3Pa以下、より好ましくは1×10−4Pa以下となるまで排気して、スパッタ成膜装置100内の水分や基材フィルム1から発生する有機ガスなどの不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。水分や有機ガスの存在は、スパッタ成膜中に発生するダングリングボンドを終結させ、ITO等の導電性酸化物の結晶成長を妨げるからである。
【0020】
このように排気したスパッタ室11内に、Ar等の不活性ガスとともに、必要に応じて反応性ガスである酸素ガス等を導入して1Pa以下の減圧下でスパッタ成膜を行う。成膜時のスパッタ室11内の圧力は0.05Pa〜1Paであることが好ましく、0.1Pa〜0.7Paであることがより好ましい。成膜圧力が高すぎると成膜速度が低下する傾向があり、逆に圧力が低すぎると放電が不安定となる傾向がある。
【0021】
各ITOターゲット13A、13Bに対するDC電源16の電力密度は目的とする透明導電層の厚さや比抵抗、生産効率等を考慮して適宜設定することができる。DC電源16の電力密度は、0.6W/cm以上9.0W/cm以下が好ましく、0.9W/cm以上8.0W/cm以下がより好ましい。
【0022】
[透明導電性フィルム]
上述のDCデュアルターゲットスパッタ法により得られる透明導電性フィルムを説明する。図2に示すように、透明導電性フィルム10では、基材フィルム1上にインジウム−スズ複合酸化物を含む透明導電層2が形成されている。
【0023】
<基材フィルム>
基材フィルム1としては、可撓性を有しかつ可視光領域において透明であるものであれば特に制限されず、透明性を有し、ポリエステル系樹脂を構成材料とするプラスチックフィルムが用いられる。ポリエステル系樹脂は、透明性、耐熱性、および機械特性に優れることから好適に用いられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等が特に好適である。また、プラスチックフィルムは強度の観点から延伸処理が行われていることが好ましく、二軸延伸処理されていることがより好ましい。延伸処理としては特に限定されず、公知の延伸処理を採用することができる。
【0024】
基材フィルムの厚みは、2〜200μmの範囲内であることが好ましく、2〜130μmの範囲内であることがより好ましく、2〜110μmの範囲内であることがさらに好ましい。フィルムの厚みが2μm未満であると、機械的強度が不足し、フィルムをロール状にして透明導電層2や導電性金属層3を連続的に成膜する操作が困難になる場合がある。一方、フィルムの厚みが200μmを超えると、透明導電層2の耐擦傷性やタッチパネルを形成した場合の打点特性等の向上が図れない場合がある。
【0025】
基材フィルムには、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を施して、フィルム基材上に形成される透明導電層2との密着性を向上させるようにしてもよい。また、透明導電層を形成する前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより、フィルム基材表面を除塵、清浄化してもよい。
【0026】
このような基材フィルム1は、長尺フィルムをロール状に巻回したものとして供され、その上に透明導電層2が連続的に成膜されて、長尺透明導電性フィルムが得られる。
【0027】
<透明導電層>
透明導電層2の組成は、上述のITOターゲット13A、13Bと同様の組成とすることができる。
【0028】
透明導電層の厚みは特に制限されないが、その表面抵抗を1×10Ω/□以下の良好な導電性を有する連続被膜とするには、厚みを10nm以上とするのが好ましい。膜厚が、厚くなりすぎると透明性の低下などをきたすため、厚みは15〜35nmであることが好ましく、より好ましくは20〜30nmの範囲内である。透明導電層の厚みが15nm未満であると膜表面の電気抵抗が高くなり、かつ連続被膜になり難くなる。また、透明導電層の厚みが35nmを超えると透明性の低下などをきたす場合がある。
【0029】
透明導電層2は結晶質であってもよく、非晶質であってもよい。本実施形態では、透明導電層としてスパッタリング法によってITO膜を形成するところ、基材フィルム1の耐熱性による制約があるため、高い温度でスパッタ成膜を行うことができない。そのため、成膜直後のITOは非晶質膜(一部が結晶化している場合もある)となっている。このような非晶質のITO膜は結晶質のITO膜に比して透過率が低く、加湿熱試験後の抵抗変化が大きい等の問題を生じる場合がある。かかる観点からは、一旦非晶質の透明導電層を形成した後、大気中の酸素存在下でアニール処理することにより、透明導電層を結晶膜へ転換させてもよい。透明導電層を結晶化することにより、透明性が向上し、さらに加湿熱試験後の抵抗変化が小さく、加湿熱信頼性が向上するなどの利点がもたらされる。
【0030】
DCデュアルターゲットスパッタ法では、緻密なITO膜を形成可能であることから、透明導電層の比抵抗を低減させることができる。結晶化後の透明導電層2は、比抵抗値として1.2×10−4Ω・cm以上6.0×10−4Ω・cm以下の低い値を有することが好ましい。比抵抗値は、1.2×10−4Ω・cm以上4.0×10−4Ω・cm以下であるのがより好ましく、さらには、1.2×10−4Ω・cm以上3.5×10−4Ω・cm以下であるのが好ましい。
【0031】
また、透明導電層2は、エッチング等によりパターン化してもよい。例えば、静電容量方式のタッチパネルやマトリックス式の抵抗膜方式のタッチパネルに用いられる透明導電性フィルムにおいては、透明導電層2がストライプ状にパターン化されることが好ましい。なお、エッチングにより透明導電層2をパターン化する場合、先に透明導電層2の結晶化を行うと、エッチングによるパターン化が困難となる場合がある。そのため、透明導電層2のアニール処理は、透明導電層3をパターン化した後に行うことが好ましい。
【0032】
<アンダーコート層>
また、基材フィルム1と透明導電層2との間には、誘電体層やハードコート層等のアンダーコート層が形成されていてもよい。このうち基材フィルム1の透明導電層形成面側の表面に形成される誘電体層は、導電層としての機能を有さないものであり、表面抵抗が、例えば1×10Ω/□以上であり、好ましくは1×10Ω/□以上、さらに好ましくは1×10Ω/□以上である。なお、誘電体層の表面抵抗の上限は特にない。一般的には、誘電体層の表面抵抗の上限は測定限界である1×1013Ω/□程度であるが、1×1013Ω/□を超えるものであってもよい。
【0033】
誘電体層の材料としては、NaF(1.3)、NaAlF(1.35)、LiF(1.36)、MgF(1.38)、CaF(1.4)、BaF(1.3)、BaF(1.3)、SiO(1.46)、LaF(1.55)、CeF(1.63)、Al(1.63)などの無機物〔括弧内の数値は屈折率を示す〕や、屈折率が1.4〜1.6程度のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマー、有機シラン縮合物などの有機物、あるいは上記無機物と上記有機物の混合物が挙げられる。
【0034】
このように、基材フィルムの透明導電層形成面側に誘電体層を形成することによって、例えば透明導電層2が複数の透明電極にパターン化された場合においても、透明導電層形成領域と透明導電層非形成領域との間の視認性の差を低減することが可能である。また、透明基材としてフィルム基材を用いる場合においては、誘電体層がプラスチックフィルムからのオリゴマー等の低分子量成分の析出を抑止する封止層としても作用し得る。
【0035】
基材フィルム1の透明導電層2形成面と反対側の面には、必要に応じてハードコート層や易接着層、ブロッキング防止層等が設けられていてもよい。また、粘着剤などの適宜の接着手段を用いて他の基材が貼り合わせられたものや、他の基材と貼り合わせるための粘着剤層等にセパレータ等の保護層が仮着されたものであってもよい。
【0036】
《第2実施形態》
第1実施形態では、スパッタ成膜装置100に1つのスパッタ室11が備えられているが、スパッタ成膜装置におけるスパッタ室の数は1つに限定されず、2つ又は3つ以上としてもよい。透明導電層の層構成に応じて作動させるためのスパッタ室の数を変更すればよい。すなわち、透明導電層が1層のITO膜からなる場合はスパッタ室は1つとし、以降順に、2層のITO膜からなる場合はスパッタ室を2つ、3層のITO膜からなる場合はスパッタ室を3つ設ければよい。本実施形態では、スパッタ室を3つ備える態様について説明する。
【0037】
図3は、本発明の別の実施形態に係るスパッタ成膜装置の構成を示す概念図である。スパッタ成膜装置110の基本構成は第1実施形態におけるスパッタ成膜装置100と同様であるが、スパッタ室11の他に、スパッタ室11の上流側にスパッタ室21が設けられ、スパッタ室11の下流側にスパッタ室31が設けられている。従って、スパッタ成膜装置110は、合計3つのスパッタ室を備えていることになる。スパッタ室11と同様、スパッタ室21、31にはそれぞれITOターゲット23A、23B及びITOターゲット33A、33Bが備えられており、各ターゲットにDC電源26、36が接続されている。これにより各スパッタ室において独立した条件でDCデュアルターゲットスパッタ法を行うことができる。
【0038】
基材フィルム1は、送り出しロール53から温度調節ロール52を経て巻き取りロール54まで順に搬送されるので、各スパッタ室でスパッタ成膜を行う場合には、スパッタ室21では基材フィルム1から第1層目のITO膜が形成され、続いてスパッタ室11では第2層目のITO膜、スパッタ室31では第3層目のITO膜がそれぞれ形成されることになる。各スパッタ室の条件は同一でも異なっていてもよい。形成される透明導電層2の厚さや比抵抗、光学特性、エッチング性等を考慮して、各スパッタ室でのスパッタ条件を設定すればよい。
【0039】
具体的に、スパッタ成膜装置110を用いて3層構造の透明導電層を形成した例を以下に説明する。図4は、本発明の別の実施形態に係る透明導電性フィルムの模式的断面図である。透明導電性フィルム10´は、基材フィルム1上に透明導電層2a、2b及び2cを順に備えている。各透明導電層はインジウム−スズ複合酸化物の組成が異なっており、酸化インジウムと酸化スズとの合計重量に対する酸化スズの重量比が透明導電層2aでは0.5重量%〜5.0重量%、透明導電層2bでは5.0重量%〜15.0重量%、透明導電層2cでは0.5重量%〜5.0重量%となっている。このような透明導電層をそれぞれ形成するには、スパッタ室21に装着するITOターゲット23A、23Bの組成を0.5重量%〜5.0重量%とし、スパッタ室11に装着するITOターゲット13A、13Bの組成を5.0重量%〜15.0重量%とし、スパッタ室31に装着するITOターゲット33A、33Bの組成を0.5重量%〜15.0重量%とすればよい。
【0040】
《他の実施形態》
スパッタ成膜装置では、DC電源とともにマグネット電極(図示せず)を設置して磁場を印加させながらスパッタ成膜を行ってもよい。印加する磁場は成膜速度等を考慮して設定すればよく、例えば20〜150mTとしてもよく、30〜140mTが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明に関して実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例中、特に示さない限り「部」とあるのは「重量部」を意味する。
【0042】
[実施例1]
厚さが50μmのポリエチレンテレフタレート上に、アンダーコート層として、メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シランの縮合物の重量比2:2:1の熱硬化型樹脂からなる層を厚さが35nmとなるように形成した。酸化インジウム90重量%−酸化スズ10重量%の焼結体材料をターゲット13A、13Bとして2つ用意し、図1に示すようにスパッタ成膜装置100における1つのスパッタ室11にターゲット13A、13Bを2つ装着し、それぞれにDC電源16を接続した。次に、スパッタ成膜装置100内を真空排気により1×10−4Paとなるまで減圧を行うとともに、基材フィルム1の脱ガスも十分に行った。このように設定したスパッタ成膜装置100を用いてターゲット13A、13Bの電力密度をそれぞれ2.1W/cmとしたDCデュアルターゲットスパッタ法により、上記アンダーコート層上に、アルゴンガス98体積%と酸素ガス2体積%からなる0.4Paのスパッタ室内雰囲気中で、非晶質で厚さが25nmのインジウム−スズ複合酸化物からなる透明導電層を形成した。その後、大気雰囲気中、150℃で1時間アニール処理を行うことで透明導電層を結晶化させ、透明導電性フィルムを作製した。
【0043】
[比較例1]
図1に示すスパッタ成膜装置100におけるスパッタ室11に1つのITOターゲットを装着したこと以外は、実施例1と同様に透明導電性フィルムを作製した。
【0044】
[比較例2]
DC電源に代えてMF−AC電源(40kHz)をITOターゲットに接続したこと以外は、実施例1と同様に透明導電性フィルムを作製した。
【0045】
<評価>
(比抵抗値の測定)
4端子法を用いて、各透明導電性フィルムの透明導電層の表面抵抗(Ω/□)を測定した。次に、蛍光X線分析装置(リガク社製)にて透明導電層の膜厚を測定し、測定した表面抵抗と膜厚から比抵抗を算出した。結果を表1に示す。
【0046】
なお、表1にはスパッタレートも併せて示す。これは従来のDCシングルターゲットスパッタ法を採用する比較例1のスパッタレートを100%とした際の実施例1及び比較例2の相対比である。
【0047】
【表1】
【0048】
(結果及び考察)
実施例1では、結晶化後の透明導電層の比抵抗が従来のスパッタ法による比較例1より約14%低減されていた。これは、DCデュアルターゲットスパッタ法を採用することによりプラズマ密度が高まり、緻密なITO膜が成膜されたことに起因すると考えられる。また、2つのITOターゲットのそれぞれにDC電源を接続しているので、スパッタレートを比較例1の2倍にすることができ、ITO成膜の高速化を図ることができる。なお、比較例2ではターゲットを2つ用いているものの、MF−AC電源により交互にプラズマ放電されることになり、かえってスパッタレート及び比抵抗ともに劣ることとなった。
【符号の説明】
【0049】
1 基材フィルム
2、2a、2b、2c 透明導電層
10、10´ 透明導電性フィルム
11、21、31 スパッタ室
13A、13B、23A、23B、33A、33C ターゲット
16、26、36 DC電源
100、110 スパッタ成膜装置
図1
図2
図3
図4