特許第6563113号(P6563113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563113
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20190808BHJP
   B62D 5/065 20060101ALI20190808BHJP
   B62D 5/24 20060101ALI20190808BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20190808BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20190808BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20190808BHJP
【FI】
   B62D5/04
   B62D5/065 Z
   B62D5/24
   B62D6/00
   B62D113:00
   B62D119:00
【請求項の数】17
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-505329(P2018-505329)
(86)(22)【出願日】2017年2月3日
(86)【国際出願番号】JP2017004003
(87)【国際公開番号】WO2017159107
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2018年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2016-55859(P2016-55859)
(32)【優先日】2016年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519193460
【氏名又は名称】クノールブレムゼステアリングシステムジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(72)【発明者】
【氏名】松村 達雄
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−184049(JP,A)
【文献】 特開2014−051263(JP,A)
【文献】 特開2015−009682(JP,A)
【文献】 特開2011−031638(JP,A)
【文献】 特開2012−101691(JP,A)
【文献】 特開2015−145184(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102006051990(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04− 6/00
B62D 101/00−137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵操作に伴い回転する入力軸と、前記入力軸と第1トーションバーを介して接続される中間軸と、前記中間軸と第2トーションバーを介して接続される出力軸と、を有する操舵軸と、
ピストンによって隔成された1対の圧力室を有する油圧アクチュエータと、
前記操舵軸の回転運動を前記ピストンの移動方向運動に変換すると共に、前記ステアリングホイールの操舵操作を転舵輪に伝達する変換機構と、
前記第2トーションバーの捩れ量および捩れの方向に応じて車両に搭載されたポンプから供給される作動液を選択的に前記1対の圧力室に供給するコントロールバルブと、
前記中間軸に回転力を付与する電動モータと、
マイクロコンピュータを備えたコントロールユニットと、
前記コントロールユニットに設けられ、前記入力軸の回転角の信号、前記中間軸の回転角の信号、第1トーションバーの捩りバネ定数、および前記第2トーションバーの捩りバネ定数に基づき前記出力軸の回転角を推定する出力軸回転角推定部と、
前記コントロールユニットに設けられ、前記出力軸の回転角に基づき前記電動モータを駆動制御するモータ駆動制御部と、
を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーステアリング装置は、
前記コントロールユニットに設けられ、前記入力軸の回転角の信号、前記中間軸の回転角の信号、前記出力軸の回転角の信号、または前記電動モータの回転角の信号に基づき、運転者の操舵意図の有無を判断する操舵意図判断部を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記操舵意図判断部は、前記中間軸の回転角の位相または前記出力軸の回転角の位相より前記入力軸の回転角の位相が先行する場合、運転者に操舵意図があるものと判断することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記操舵意図判断部は、前記出力軸の回転角の位相が前記入力軸の回転角の位相よりも先行し、かつ前記出力軸の回転方向と前記電動モータの駆動方向とが不一致のとき、前記出力軸の回転は路面からの外乱によるものであると判断することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記操舵意図判断部は、前記出力軸の回転方向と前記電動モータの駆動方向が一致し、かつ前記出力軸の回転角の位相が前記電動モータの回転角の位相より先行するとき、前記出力軸の回転は路面からの外乱によるものであると判断することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記操舵意図判断部は、前記出力軸の回転方向と前記電動モータの駆動方向が一致し、かつ前記電動モータの回転角の位相が前記出力軸の回転角の位相より先行するとき、前記出力軸の回転は前記電動モータの回転力によるものであると判断することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項7】
請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記操舵意図判断部は、前記出力軸の回転角の位相が前記入力軸の回転角の位相または前記電動モータの回転角の位相よりも先行するとき、前記出力軸の回転が路面からの外乱の影響によるものであると判断し、
前記モータ駆動制御部は、外乱による前記出力軸の回転を抑制するように前記電動モータを駆動制御することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項8】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記コントロールユニットは、前記ポンプから前記コントロールバルブに供給される作動液の液量を推定する供給液量演算部と、前記中間軸の回転角の信号、前記出力軸の回転角の信号、および前記作動液の液量に基づき前記油圧アクチュエータの発生トルクを推定する油圧アクチュエータトルク演算部と、を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項9】
請求項8に記載のパワーステアリング装置において、
前記ポンプは車両のエンジンにより駆動されるエンジン駆動ポンプであって、前記作動液の液量は、前記エンジンの回転数に基づき推定されることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項10】
請求項8に記載のパワーステアリング装置において、
前記ポンプは、ポンプ駆動用電動モータによって駆動されるモータ駆動ポンプまたは作動液の吐出量を電磁ソレノイドによって調整可能な可変吐出量ポンプであって、
前記ポンプ駆動用電動モータまたは前記電磁ソレノイドは、前記油圧アクチュエータの発生トルクに基づき駆動制御されることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項11】
請求項10に記載のパワーステアリング装置において、
前記コントロールユニットは、前記電動モータの駆動トルクと前記油圧アクチュエータの発生トルクの大きさの割合を調整し、その調整結果に基づき前記電動モータおよび前記モータ駆動ポンプまたは前記電磁ソレノイドを駆動制御することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項12】
請求項8に記載のパワーステアリング装置において、
前記電動モータは、前記油圧アクチュエータの発生トルクに基づき駆動制御されることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項13】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記コントロールユニットは、前記中間軸の回転角の信号、前記出力軸の回転角の信号、および車両速度に基づき車両に積載された荷物の重量を推定する負荷推定部を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項14】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記コントロールユニットは、前記出力軸の回転角の信号および1対の前記転舵輪同士の回転速度差に基づき路面抵抗を推定する負荷推定部を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項15】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記コントロールユニットは、前記入力軸の回転角の信号、前記中間軸の回転角の信号、および前記第1トーションバーの捩りバネ定数に基づき、操舵トルクを演算する操舵トルク演算部と、車両速度、1対の前記転舵輪同士の回転速度差、および前記操舵トルクに基づき車両が直進走行中であるか否かを判定する直進走行判断部と、前記直進走行判断部が直進走行中であると判断した状態からの前記入力軸の回転量または前記中間軸の回転量に基づき前記転舵輪の転舵角に相当する前記ステアリングホイールの操舵絶対角を推定する操舵絶対角推定部と、を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項16】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記変換機構は、前記出力軸に設けられたねじ軸と、前記ねじ軸を包囲するように筒状に形成されて内周側に螺旋溝が形成されたナットと、前記ねじ軸と前記ナットの間に設けられた複数のボールと、から構成されたボールねじ機構であることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項17】
請求項16に記載のパワーステアリング装置において、
前記電動モータは、前記中間軸を包囲するように設けられた中空モータであることを特徴とするパワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の操舵トルクないしモータの駆動トルクに基づきロータリバルブを開閉することで給排される液圧をもって操舵アシストを行う自動操舵可能なパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動操舵可能なパワーステアリング装置としては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
概略を説明すれば、このパワーステアリング装置は、ラック・ピニオン型の液圧パワーステアリング装置であって、ステアリングホイールと接続する入力軸の下端側外周部に、当該入力軸とこれにトーションバーを介し相対回転可能に連結される出力軸との間にロータリバルブが設けられると共に、前記入力軸の上端側外周部に、中空モータが取り付けられている。そして、入力軸の外周に設けられて該入力軸の回転角を検出する第1レゾルバと、出力軸の外周に設けられて該出力軸の回転角を検出する第2レゾルバと、により構成されたトルクセンサの検出結果や車速センサ等の出力信号に基づいて操舵アシスト制御や自動運転制御が行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−96767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のパワーステアリング装置では、例えば前記第2レゾルバの角度検出機能が失陥した場合において、トルクセンサによるトルクの検出を正しく行うことができず、この検出結果に基づく操舵アシスト制御や自動運転制御が適切に行えなくなるおそれがあった。
【0006】
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたもので、出力軸側のセンサに依存することなく出力軸の回転角を取得可能なパワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ステアリングホイールの操舵操作に伴い回転する入力軸と、前記入力軸と第1トーションバーを介して接続される中間軸と、前記中間軸と第2トーションバーを介して接続される出力軸と、を有する操舵軸と、ピストンによって隔成された1対の圧力室を有する油圧アクチュエータと、前記操舵軸の回転運動を前記ピストンの移動方向運動に変換すると共に、前記ステアリングホイールの操舵操作を転舵輪に伝達する変換機構と、前記第2トーションバーの捩れ量および捩れの方向に応じて車両に搭載されたポンプから供給される作動液を選択的に前記1対の圧力室に供給するコントロールバルブと、前記中間軸に回転力を付与する電動モータと、マイクロコンピュータを備えたコントロールユニットと、前記コントロールユニットに設けられ、前記入力軸の回転角の信号、前記中間軸の回転角の信号、第1トーションバーの捩りバネ定数、および前記第2トーションバーの捩りバネ定数に基づき前記出力軸の回転角を推定する出力軸回転角推定部と、前記コントロールユニットに設けられ、前記出力軸の回転角に基づき前記電動モータを駆動制御するモータ駆動制御部と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、出力軸側のセンサに依存することなく出力軸の回転角を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るパワーステアリング装置を示す概略図である。
図2】同パワーステアリング装置の縦断面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る制御装置の演算回路構成を示す制御ブロック図である。
図4】本実施形態に係る出力軸回転角推定部の詳細を示すブロック図である。
図5】本実施形態に係る操舵意図判断部の操舵意図判断処理を示すフローチャートである。
図6】本発明の第2実施形態に係る制御装置の演算回路構成を示す制御ブロック図である。
図7】第2実施形態の操舵意図判断部の外乱判断処理を示すフローチャートである。
図8】第2実施形態の変形例における操舵意図判断部の外乱判断処理を示すフローチャートである。
図9】第3実施形態の操舵意図判断部の自動運転判断処理を示すフローチャートである。
図10】第4実施形態に係る制御装置の演算回路構成を示す制御ブロック図である。
図11】第5実施形態のパワーステアリング装置を示す概略図である。
図12】第5実施形態に係る制御装置の演算回路構成を示す制御ブロック図である。
図13】第6実施形態に係る制御装置の演算回路構成を示す制御ブロック図である。
図14】第7実施形態に係る制御装置の演算回路構成を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るパワーステアリング装置の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、下記の実施形態では、このパワーステアリング装置を、大型車両等に用いられるインテグラル型のパワーステアリング装置として適用した例を示している。
【0011】
図1は前記インテグラル型のパワーステアリング装置を示す概略図、図2は前記パワーステアリング装置の縦断面図である。なお、以下では、各図中における操舵軸10の回転軸Z方向のうちステアリングホイール1に連係する側を「一端」とし、ピストン16に連係する側を「他端」として説明する。
【0012】
このパワーステアリング装置は、一端側がハウジング20外に臨んでステアリングホイール1に連係され、他端側がハウジング20内に収容される操舵軸10と、一端側が1対の転舵輪2R,2Lに連係され、前記操舵軸10の他端側外周に設けられた後述のピストン16の軸方向移動に伴って転舵に供する伝達機構であるセクタシャフト17と、ハウジング20内において摺動自在に収容されたほぼ筒状のピストン16が1対の圧力室である第1、第2圧力室P1,P2を隔成することによって構成され、操舵トルクを補助するアシストトルクの生成に供する油圧アクチュエータであるパワーシリンダ18と、を備えたパワーステアリング装置本体(以下、単に「装置本体」と略称する。)DBと、後述するロータ31が操舵軸10の外周に嵌着されるかたちで設けられ、該操舵軸10に対し回転トルクを付与することによって操舵アシストや自動運転等に供する電動モータである中空モータ30と、マイクロコンピュータ等の電子部品を備えて構成され、操舵状況等に基づき中空モータ30を駆動制御するコントロールユニットである制御装置(ECU)60と、から主として構成されている。
【0013】
前記操舵軸10は、一端側がステアリングホイール1に連係され、運転者の操舵トルク入力に供する入力軸11と、一端側が第1トーションバー12を介して入力軸11と相対回転可能に連結されると共に、外周に連結される中空モータ30の駆動トルク入力に供する中間軸13と、一端側が第2トーションバー14を介して中間軸13と相対回転可能に連結され、この中間軸13より入力される操舵トルクを、変換機構であるボールねじ機構24を介してピストン16に出力する出力軸15と、から構成される。なお、前記ボールねじ機構24については、他端側の外周部に螺旋溝であるボール溝24aが形成されたねじ軸としての前記出力軸15と、該出力軸15の外周側に設けられて内周部に前記ボール溝24aに対応する螺旋溝であるボール溝24bが形成されたナットとしての前記ピストン16と、該ピストン16と出力軸15の間に設けられた複数のボール24cと、から構成されている。
【0014】
そして、前記入力軸11は、他端部が中間軸13の一端側に穿設された開口凹部13a内に挿入収容され、かかる重合部間に介装された軸受としてのニードルベアリングBnにより回転自在に支持されている。一方、前記中間軸13は、出力軸15の一端側拡径部に穿設された開口凹部15a内に挿入収容され、かかる重合部における両軸13,15間には、該両軸13,15の相対回転角より導き出される第2トーションバー14の捩れ量および捩れの方向に応じて車両に搭載されたポンプ3により供給される作動液を第1、第2圧力室P1,P2へと選択的に供給するコントロールバルブとしての周知のロータリバルブ19が構成されている。なお、前記ポンプ3は、車両のエンジンにより駆動され、リザーバタンク4内の作動液を吸入してロータリバルブ19に吐出するエンジン駆動ポンプとして構成されている。
【0015】
前記ハウジング20は、一端側が開口し他端側が閉塞されてなるほぼ筒状を呈し、第1、第2圧力室P1,P2の画成に供する第1ハウジング21と、該第1ハウジング21の一端開口部を閉塞するように設けられ、内部にロータリバルブ19を収容する第2ハウジング22と、から構成され、前記第1、第2ハウジング21,22同士は、所定の周方向位置に配置される図示外の複数のボルトをもって締結されている。
【0016】
前記第1ハウジング21の内部には、操舵軸10の回転軸Z方向に沿って形成されたシリンダ構成部21aと、該シリンダ構成部21aとほぼ直交するように、かつ、一部がシリンダ構成部21aへと臨むように形成されたシャフト収容部21bと、が設けられていて、前記シリンダ構成部21a内には、出力軸15の他端側及びその外周に連係するピストン16が収容されることで、該ピストン16をもって一端側の第1圧力室P1と他端側の第2圧力室P2とが隔成され、前記シャフト収容部21b内には、軸方向一端側がピストン16に連係すると共に他端側が図示外のピットマンアームを介して転舵輪2R,3Lに連係されるセクタシャフト17が収容されている。
【0017】
前記ピストン16及びセクタシャフト17の各外周部には、相互に噛合可能な歯部16a,17aが設けられていて、該両歯部16a,17aが噛合することによりピストン16の軸方向移動に伴ってセクタシャフト17が回動し、これによって前記ピットマンアームが車体幅方向に引っ張られることで、転舵輪2R,2Lの向きが変更される構成となっている。なお、この際、シャフト収容部21bには、第1圧力室P1内の作動液が導かれる構成となっていて、これによって前記両歯部16a,17a間の潤滑に供されている。
【0018】
前記第2ハウジング22の内周側には、前記重合した両軸13,15が挿通する軸挿通孔22aが、一端側から他端側へと回転軸Z方向に沿って段差縮径状に貫通形成されている。そして、一端側の大径部には出力軸15を回転自在に支持する軸受Bbが設けられている。一方、他端側の小径部には、前記ポンプ3と連通する導入ポート26と、該導入ポート26より導入された液圧を前記各圧力室P1,P2に給排する給排ポート27と、該給排ポート27を通じて前記各圧力室P1,P2から排出された作動液をリザーバタンク4へ排出する排出ポート28と、が設けられている。なお、前記給排ポート27は、出力軸15の一端側拡径部に設けられた第1給排通路L1を介して第1圧力室P1と連通すると共に、第1ハウジング21内部に設けられた第2給排通路L2等を介して第2圧力室P2と連通している。
【0019】
以上のような構成から、前記パワーステアリング装置は、ステアリングホイール1が操舵されると、ポンプ3より圧送された作動液がロータリバルブ19を介して操舵方向に応じた一方側の圧力室P1,P2に供給されると共に、他方側の圧力室P1,P2から前記供給量に対応する作動液(余剰分)がリザーバタンク4へと排出され、当該液圧によりピストン16が駆動される結果、当該ピストン16に作用する液圧に基づいたアシストトルクがセクタシャフト17へと付与されることとなる。
【0020】
前記中空モータ30は、3相交流式のブラシレスモータであって、ハウジング20外に臨む中間軸13の外周部にほぼ筒状の結合部材33を介して一体回転可能に外嵌されるモータロータ31と、該モータロータ31の外周側に所定の隙間を隔てて配置され、かつ外部の制御装置60に電気的に接続されたモータステータ32とから構成されるモータ要素と、一端側にモータ要素を収容し、他端側がアダプタ部材23を介してハウジング20(第2ハウジング22)に固定されるほぼ筒状のモータハウジング40と、該モータハウジング40内に収容保持され、前記結合部材33の一端側を及び他端側をそれぞれ回転自在に支持する第1軸受B1及び第2軸受B2と、前記モータ要素の一端側となるモータハウジング40の一端側に配設され、入力軸11の回転角の検出に供する第1回転角センサである第1レゾルバ51と、前記モータ要素の他端側となるモータハウジング40の他端側に配設され、中間軸13の回転角の検出に供する第2回転角センサである第2レゾルバ52と、モータハウジング40の一端側開口部を閉塞することによって、前記第1レゾルバ51をはじめとする内蔵部品を保護するカバー部材34と、該カバー部材34と入力軸11との間を液密にシールするシール部材35と、を備えている。
【0021】
前記モータハウジング40は、アルミニウム合金など所定の金属材料により2分割に構成されてなるもので、一端側の内周部に第1軸受B1及び第1レゾルバ51を収容すると共に、他端側に前記モータ要素を収容する筒状部としての第1モータハウジング41と、該第1モータハウジング41の他端側開口部を閉塞し、内周部に第2軸受B2及び第2レゾルバ52を収容する第2モータハウジング42と、から構成される。
【0022】
前記第1レゾルバ51は、入力軸11の外周に一体回転可能に嵌着される第1レゾルバロータ53と、該第1レゾルバロータ53の外周側に配置されて第1レゾルバロータ53の回転位置を検出する第1レゾルバステータ54と、から構成されている。そして、前記第1レゾルバステータ54は、第1センサ出力配線57を介して制御装置60と電気的に接続されることをもって、前記検出結果を制御装置60に出力するようになっている。
【0023】
前記第2レゾルバ52は、結合部材33の外周に一体回転可能に嵌着される第2レゾルバロータ55と、この第2レゾルバロータ55の外周側に配置されて第2レゾルバロータ55の回転位置を検出する第2レゾルバステータ56と、から構成されている。なお、当該第2レゾルバ52については、中間軸13と同期回転する結合部材33の回転角を検出することにより、モータロータ31の回転位置についても検出可能となっている。
【0024】
そして、前記第2レゾルバステータ56は、第2センサ出力配線58を介して制御装置60と電気的に接続されることをもって、前記検出結果を制御装置60に出力するようになっている。
【0025】
前記制御装置60は、運転者の手動操舵の状態に応じて中空モータ30を駆動制御する操舵アシスト制御や、駐車やレーンキープ等に際して各種センサやレーダー、カメラと所定の運転情報把握手段(図示外)からの情報に基づいて中空モータ30を駆動制御する自動運転制御といった各種制御処理を行う。
【0026】
図3は、前記制御装置60の演算回路構成を示す制御ブロック図である。
【0027】
前記制御装置60は、車両が直進走行中であるか否かを判断する直進走行判断部61と、該直進走行判断部61が直進走行中であると判断した際の第1レゾルバ51の検出値を基準としてステアリングホイール1の操舵絶対角である入力軸回転角θhを推定する操舵絶対角推定部62と、入力軸回転角θh等から出力軸15の回転角の信号である出力軸回転角θgを推定する出力軸回転角推定部63と、ステアリングホイール1に入力された操舵トルクTrを演算する操舵トルク演算部64と、自動運転時におけるモータトルク指令値である自動運転時トルク指令値Tm(auto)*を演算する自動運転時トルク指令演算部65と、手動運転時におけるモータトルク指令値である手動運転時トルク指令値Tm(manual)*を演算する手動運転時トルク指令演算部66と、自動運転時における運転者の操舵意図の有無を判断する操舵意図判断部67と、自動運転と手動運転との切り換えに供される自動・手動運転切換判定部68と、モータトルク指令値Tm(auto)*あるいはTm(manual)*に基づき中空モータ30を駆動制御するモータ駆動制御部69と、から主として構成されている。
【0028】
前記直進走行判断部61は、制御装置60に取り込まれた車両速度Vs、一対の転舵輪2R,2Lの回転速度差Rd及び操舵トルク演算部64により算出される操舵トルクTrに基づき車両が直進走行中であるか否かを判断する。
【0029】
より詳しくは、前記直進走行判断部61は、車両速度Vsが予め規定された所定値以上でかつ、一対の転舵輪2R,2Lの回転速度差Rdが0に近い所定値以下でかつ、操舵トルクTrが0に近い所定値以下となる場合にのみ車両が直進走行中であると判断する。そして、前記判断結果を操舵絶対角推定部62に出力するようになっている。
【0030】
前記操舵絶対角推定部62は、直進走行判断部61から車両が直進走行中であることを示す信号が入力された際の第1レゾルバ51の検出値をステアリングホイール1の中立位置、すなわち入力軸回転角θhが0度となる基準位置として学習する。そして、この基準位置からの第1レゾルバ51の検出値の変動量、つまり入力軸11の回転量に基づき、転舵輪2R,2Lの転舵角に相当するステアリングホイール1の操舵絶対角である入力軸回転角θhを推定するようになっている。なお、このとき第1レゾルバ51と第2レゾルバ52の相対回転角に基づき第2レゾルバ52の検出値を補正することで、中間軸回転角θmについても絶対角が得られるようになっている。
【0031】
前記出力軸回転角推定部63は、入力軸回転角θhと中間軸回転角θm、及びモータ駆動制御部69の後述する3相2相変換器71が導出するq軸モータ実電流Iqに所定のトルク定数を乗じることで得られるモータトルクTmから、以下に示す出力軸回転角θgの推定演算式(後述の(6)式)に基づいて出力軸回転角θgを推定する(図4参照)。
【0032】
以下、この出力軸回転角θgの推定演算式の導出過程を示す。
【0033】
まず、前記出力軸回転角θgは、中間軸回転角θmから第2トーションバー14の捩れ角を減じたものであるから、第2トーションバー14の捩れトルクをΔT2、第2トーションバー14の捩りバネ定数をg2とした場合に以下の(1)式で表すことができる。
【0034】
【数1】
【0035】
前記第2トーションバー14の捩れトルクΔT2は、該第2トーションバー14よりも上流側(ステアリングホイール1側)に作用するトルク、すなわち入力軸11に発生するトルクであるステアリングトルクThと中空モータ30が中間軸13に付与するモータトルクTmの和から、第2トーションバー14よりも下流側に作用するトルク、すなわち前記各トルクTh,Tmに基づき回転する中間軸13に追従して回転することで出力軸15に生じるギアトルクTgを減じることで求められる。すなわち、前記捩れトルクΔT2は、以下の(2)式によって表すことができる。
【0036】
【数2】
【0037】
ここで、前記第1トーションバー12の捩れトルクΔT1について考えると、該捩れトルクΔT1は、第1トーションバー12よりも上流側に作用するステアリングトルクThから第1トーションバー12よりも下流側に作用するモータトルクTmとギアトルクTgとを減じることで求められ、以下の(3)式によって表すことができる。
【0038】
【数3】
【0039】
この(2)式と(3)式から、前記第2トーションバー14の捩れトルクΔT2は、以下の(4)式によっても表すことができる。
【0040】
【数4】
【0041】
ここで、前記第1トーションバー12の捩れトルクΔT1は、入力軸回転角θhと中間軸回転角θm、及び第1トーションバー12の捩りバネ定数g1に基づき以下の(5)式によっても表すことができる。
【0042】
【数5】
【0043】
そして、前記(1)式に(4)式及び(5)式の内容を反映させることにより、出力軸回転角θgの推定演算式である以下の(6)式を得ることができる。
【0044】
【数6】
【0045】
ここで、上記(6)式によれば、第1,第2トーションバー12,14の捩りバネ定数g1,g2は既知の値であることから、入力軸回転角θhと中間軸回転角θm及びモータトルクTmさえ得られれば出力軸回転角θgを推定することができる。
【0046】
このようにして、前記出力軸回転角推定部63では、取り込んだ入力軸回転角θh、中間軸回転角θm及びモータトルクTmの信号に基づいて出力軸回転角θgが推定される。
【0047】
前記操舵トルク演算部64は、入力軸回転角θhと中間軸回転角θmとの差分(第1レゾルバ51の検出値と第2レゾルバ52の検出値との差分)に第1トーションバー12の捩りバネ定数g1を乗ずることにより、運転者がステアリングホイール1に入力した操舵トルクTrを算出する。
【0048】
前記自動運転時トルク指令演算部65は、前記各種センサやレーダー、カメラと所定の運転情報把握手段が取得した情報に基づき制御装置60とは異なるコントロールユニット等によって算出された転舵角指令θs*と、出力軸回転角推定部63により推定された出力軸回転角θgに基づき算出された転舵角推定値θsと、から自動運転時トルク指令値Tm(auto)*を演算する。
【0049】
前記手動運転時トルク指令演算部66は、操舵トルク演算部64により演算された操舵トルクTrと車両速度Vsとに基づいて手動運転時トルク指令値Tm(manual)*を演算する。
【0050】
前記操舵意図判断部67は、自動運転時において、入力軸回転角θhや、中間軸回転角θm、出力軸回転角θgの信号、または転舵角指令θs*に基づき算出されるモータ回転角制御目標θm*などから運転者の操舵意図の有無を判断するものであって、本実施形態では、入力軸回転角θh及び中間軸回転角θmの信号に基づき操舵意図判断を行うようになっている。
【0051】
ここで、自動運転時、つまりステアリングホイール1に運転者からの入力がない場合における入力軸回転角θh及び中間軸回転角θmの位相と、運転者がステアリングホイール1を転舵した場合の入力軸回転角θh及び中間軸回転角θmの位相とを比較すると、操舵軸10の構成上、前者は中空モータ30が主体となって操舵操作が行われることから、中間軸13に入力軸11が連れ回されるかたちで回動され、中間軸回転角θmの位相が入力軸回転角θhの位相に対して先行することとなる一方、後者は運転者の入力によって中空モータ30の入力がオーバーライド(上書き)されることから、入力軸11に中間軸13が連れ回されるかたちで回動され、入力軸回転角θhの位相が中間軸回転角θmの位相に先行することとなる。
【0052】
これに鑑み、前記操舵意図判断部67は、入力軸回転角θhの位相が中間軸回転角θmの位相に先行する場合に運転者に操舵意図があると判断するようになっており、具体的には以下の図5に示すフローチャートに基づき操舵意図判断を行うようになっている。
【0053】
なお、以下では、入力軸回転角θhや中間軸回転角θmの信号といった各種回転角信号や、該回転角信号から導出される角速度等については、転舵輪2R,2Lを右側に転舵しようとする方向へ作用する場合に正の値を示し、左側に転舵しようとする方向へ作用する場合に負の値を示すものとして説明する。
【0054】
すなわち、本実施形態の操舵意図判断部67における操舵意図判断フローでは、まず、操舵トルク演算部64と同様の方法にて操舵トルクTrを演算し(ステップS101)、この操舵トルクTrが所定値Tx以上であるか否かを判断する(ステップS102)。ここでNoと判断された場合には、運転者に操舵意図がないものと判断し(ステップS109)、操舵意図判断処理を終了する一方、Yesと判断された場合には、入力軸回転角θhと中間軸回転角θmとをそれぞれ時間微分することにより入力軸角速度Δθhと中間軸角速度Δθmとを算出した後(ステップS103,S104)、ステップS105に移行する。
【0055】
ステップS105及び後述のステップS107では、入力軸回転角θhの位相が中間軸回転角θmの位相に対して先行しているか否かを判断する。
【0056】
すなわち、前記ステップS105では、運転者によるステアリングホイール1の操舵操作に基づき該ステアリングホイール1に入力される入力軸角速度Δθhが0よりも大きく、かつ中空モータ30から中間軸13に入力される中間軸角速度Δθmよりも大きいか否か、つまり入力軸回転角θhの位相が中間軸回転角θmの位相に対して回転軸Zの右回り方向へ先行しているか否かを判断し、Yesと判断された場合には運転者が操舵意図をもってステアリングホイール1を右回りに操舵したと判断し(ステップS106)、操舵意図判断処理を終了する一方、Noと判断された場合にはステップS107に移行する。そして、ステップS107では、入力軸角速度Δθhが0よりも小さく、かつ中間軸角速度Δθmよりも小さいか否か、つまり入力軸回転角θhの位相が中間軸回転角θmの位相に対して回転軸Zの左回り方向へ先行しているか否かを判断し、Yesと判断された場合には運転者が操舵意図をもってステアリングホイール1を左側に操舵したと判断する一方(ステップS108)、Noと判断された場合には運転者に操舵意図がないものと判断し(ステップS109)、それぞれ操舵意図判断処理を終了する。
【0057】
前記自動・手動運転切換判定部68は、基本的に自動運転を要求する信号SigAが入力されていない場合に手動運転とし、信号SigAが入力されている場合に自動運転とするものであるが、信号SigAが入力されている場合であっても、操舵意図判断部67が運転者に操舵意図があるものと判断した場合にあっては手動運転に切り換えるようになっている。
【0058】
前記モータ駆動制御部69は、まず、電流指令演算部70によって、モータトルク指令値Tm*(自動運転時トルク指令値Tm(auto)*または手動運転時トルク指令値Tm(manual)*)と、第2レゾルバ52から出力される中空モータ30(中間軸13)の回転角である中間軸回転角θmに基づき算出されたモータ回転数Nmと、からd軸,q軸電流指令値Id*,Iq*を演算する。また、前記モータ駆動制御部69は、これと同時に3相2相変換器71によって、中空モータ30に流れる実電流を検出するモータ電流検出部72u,72vから出力されたu相,v相モータ実電流Iu,Ivと中間軸回転角θmとからd軸,q軸モータ実電流Id,Iqを得る。
【0059】
続いて、前記モータ駆動制御部69は、d軸,q軸モータ実電流Id,Iqがd軸,q軸電流指令値Id*,Iq*を追従するのに必要な値、すなわちd軸電流指令値Id*とd軸モータ実電流Idとの差分及びq軸電流指令値Iq*とq軸モータ実電流Iqとの差分を算出した後、これらをPI制御にかけることによってd軸,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を得る。そして、2相3相変換器73によって、前記d軸,q軸電圧指令値Vd*,Vq*と中間軸回転角θmとからU相,V相,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を算出した後、これら電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をPWM変換器74によってアナログ波形からPWM波形に変換してインバータ回路75に出力し、このインバータ回路75を介して中空モータ30を駆動制御するようになっている。
〔本実施形態の作用効果〕
前記従来のパワーステアリング装置のような出力軸側に該出力軸の回転角を検出するレゾルバを有するパワーステアリング装置にあっては、前述したように、出力軸側のレゾルバの角度検出機能が失陥した場合に操舵アシスト制御や自動運転制御が適切に行えなくなるおそれがあるほか、必然的に前記レゾルバと電動モータとが離間した位置に配置されることから、前記レゾルバと電動モータとを接続する際の電気配線が長尺となり、該電気配線に係る配線作業の煩雑化やレイアウト性の低下を招来してしまうおそれがある。
【0060】
また、入力軸側のレゾルバと出力軸側のレゾルバとの相対角度のキャリブレーションについても、前記パワーステアリング装置の組み付けが完了してからでないと行えないことから、製造工程の煩雑化を招来するおそれもある。
【0061】
さらに、本実施形態のようなインテグラル型のパワーステアリング装置においては、出力軸が油圧室によって囲まれていることから前記出力軸側にレゾルバを設けることが構造上困難となっている。また、セクタシャフトの回転角から前記出力軸の回転角を推定しようにも、前記セクタシャフトが前記出力軸に対して大きなギア比を有していることで角度分解能が粗くなることから、前記出力軸の回転角を精度良く算出することは困難である。
【0062】
これに対して、本実施形態のパワーステアリング装置では、操舵軸10を、入力軸11と中間軸13及び出力軸15が2つのトーションバー12,14によって連係される構成にすると共に、入力軸11と中間軸13とにそれぞれ第1,第2レゾルバ51,52を設けることとした。また、制御装置60に設けられた出力軸回転角推定部63によって、第1,第2レゾルバ51,52によって検出される入力軸回転角θh及び中間軸回転角θmの信号と、第1,第2トーションバー12,14の捩りバネ定数g1,g2と、から出力軸15の回転角である出力軸回転角θgを推定できるようにした。これにより、本実施形態では、出力軸15側にレゾルバ等のセンサを設けずとも、制御装置60による出力軸回転角θgを用いた自動運転制御を行うことができる。
【0063】
このため、本実施形態では、前述した電気配線の長尺化に基づく配線作業の煩雑化やレイアウト性の低下といった問題の発生を抑制することができ、また、前記第1,第2レゾルバ51,52がいずれも中空モータ30内に収容されたものであるから、前記パワーステアリング装置の組み立て前に互いの相対位置のキャリブレーションを行うことが可能となる。さらに、本実施形態のようなインテグラル型のパワーステアリング装置であっても容易に出力軸回転角θgを取得することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態では、制御装置60に操舵意図判断部67を設け、該操舵意図判断部67によって自動運転時における運転者の操舵意図の有無を判断できるようにしたことから、操舵意図が無いと判断した場合には自動運転制御を継続し、操舵意図が有ると判断した場合にはすぐさま手動運転に切り換えるといったスムーズな運転状態の切換制御を行うことができる。
【0065】
さらに、本実施形態では、運転者がステアリングホイール1を操舵操作すると入力軸回転角θhの位相が中間軸回転角θmの位相に先行する、といった操舵軸10の構成上の特性を操舵意図判断部67による操舵意図判断の判断基準に用いたことから、運転者の操舵意図の有無を高精度に判断できる。
【0066】
また、本実施形態では、直進走行判断部61と操舵絶対角推定部62とによって第1レゾルバ51の検出値からステアリングホイール1の操舵絶対角である入力軸回転角θhを算出できるようにしたことから、前記操舵絶対角を検出するための操舵絶対角センサを用いる必要がなくなるため、部品点数を削減し、もって製造コストの削減を図ることができる。
【0067】
さらに、本実施形態では、操舵アシストや自動運転等に供する電動モータとして中間軸13を包囲するように設けられた中空モータ30を適用したことから、減速機等を介して中間軸13に回転力を伝達する電動モータを適用する場合に比べて前記パワーステアリング装置の小型化を図ることができる。
【0068】
ところで、本実施形態のような出力軸15とピストン16との間の動力伝達にボールねじ機構24を用いるパワーステアリング装置は、一般にトラックやバスといった大型・大重量の車両に搭載されることが多い。本実施形態によれば、このような大型・大重量の車両に対しても自動運転等の操舵補助機能を付加できることから、これらの車両の安全性を飛躍的に向上させることができる。
【0069】
なお、本実施形態では、前記操舵意図判断部67を、入力軸回転角θh及び中間軸回転角θmの信号に基づき運転者の操舵意図の有無を判断するように構成したが、前記中間軸回転角θmを出力軸15の回転角である出力軸回転角θgに置き換えても同様に操舵意図判断を行うことが可能である。
【0070】
また、本実施形態では、操舵絶対角推定部62に第1レゾルバ51の検出値を入力することで直接的に入力軸回転角θhを算出しているが、操舵絶対角推定部62に第2レゾルバ52の検出値を入力することで先に中間軸回転角θmを絶対角とし、この中間軸回転角θmから第1,第2レゾルバ51,52の相対回転角に基づいて間接的に操舵絶対角である入力軸回転角θhを算出することも可能である。
〔第2実施形態〕
図6に示す本発明の第2実施形態は、前記第1実施形態の構成に加えて、操舵意図判断部67に路面振動等の路面からの外乱の有無を判断する機能を追加すると共に、制御装置60に操舵意図判断部67の判断結果に基づき自動運転時トルク指令値Tm(Auto)*を補正する外乱補正処理部76を設けたものである。なお、本実施形態では、前記第1実施形態と同じ構成については同一の符号を付すことにより、具体的な説明を省略する(以下の各実施形態に同じ)。
【0071】
すなわち、本実施形態における操舵意図判断部67は、自動運転時において入力軸回転角θhと中間軸回転角θmとに基づく操舵意図判断を行うほか、入力軸回転角θhと、中間軸回転角θm、出力軸回転角θg、及びモータ回転角制御目標θm*に基づき、以下の図7に示すフローチャートに則って路面からの外乱の有無の判断を行うようになっている。
【0072】
すなわち、本フローでは、まず、入力軸回転角θhと中間軸回転角θmとに基づき操舵トルクTrを演算し(ステップS201)、この操舵トルクTrが所定値Tx以上であるか否かを判断する(ステップS202)。ここでNoと判断された場合には、路面からの外乱は発生していないものと判断し(ステップS210)、操舵意図判断部67における処理を終了する一方、Yesと判断された場合には、入力軸回転角θhと出力軸回転角θg及びモータ回転角制御目標θm*をそれぞれ時間微分することにより入力軸角速度Δθhと出力軸角速度Δθg及びモータ角速度制御目標Δθm*を算出した後(ステップS203〜S205)、ステップS206に移行する。
【0073】
ステップS206では、出力軸角速度Δθgが0よりも小さくかつ入力軸角速度Δθhよりも小さい状態、つまり出力軸回転角θgの位相が入力軸回転角θhの位相に対して回転軸Zの左回り方向へ先行している状態にあってかつ、出力軸15の回転方向と中空モータ30の駆動方向が不一致、つまり出力軸角速度Δθgとモータ角速度制御目標Δθm*の正負符号が不一致(Δθg×Δθm*<0)であるか否かを判断する。ここで、Yesと判断された場合には、運転者に操舵の意図がなく、中空モータ30によって自動運転が継続されているものの、路面からの外乱によって中空モータ30の駆動方向に反して出力軸15が転舵輪2R,2Lを左側に転舵する方向へと回転している状態、すなわち出力軸15が外乱の影響によって回転軸Zに対して左回りに回転している状態にあると判断し(ステップS207)、外乱判断処理を終了する一方、Noと判断された場合には続いてステップS208に移行する。
【0074】
ステップS208では、出力軸角速度Δθgが0よりも大きくかつ入力軸角速度Δθhよりも大きい状態、つまり出力軸回転角θgの位相が入力軸回転角θhの位相に対して回転軸Zの右回り方向へ先行している状態にあってかつ、出力軸角速度Δθgとモータ角速度制御目標Δθm*の正負符号が不一致(Δθg×Δθm*<0)であるか否かを判断する。ここで、Yesと判断された場合には、運転者に操舵の意図がなく、中空モータ30によって自動運転が継続されているものの、路面からの外乱によって中空モータ30の駆動方向に反して出力軸15が転舵輪2R,2Lを右側に転舵する方向へと回転している状態、すなわち出力軸15が外乱の影響によって回転軸Zに対して右回りに回転している状態にあると判断する一方(ステップS209)、Noと判断された場合には路面からの外乱は発生していないものとして(ステップS210)、それぞれ外乱判断処理を終了する。
【0075】
前記外乱補正処理部76は、操舵意図判断部67が出力軸15に右回り方向への外乱が発生していると判断した場合に、自動運転時トルク指令値Tm(auto)*を出力軸15の左回り方向への操舵トルクが増大するように補正する一方、操舵意図判断部67が出力軸15に左回り方向への外乱が発生していると判断した場合には、自動運転時トルク指令値Tm(auto)*を出力軸15の右回り方向への操舵トルクが増大するように補正する。すなわち、前記外乱補正処理部76は、出力軸15に生じた外乱の影響を打ち消すように自動運転時トルク指令値Tm(auto)*に補正をかけるようになっている。なお、このとき自動運転時トルク指令値Tm(auto)*の補正に供される補正値については、予め車両試験等によって求めた固定値を用いてもよく、また、中間軸回転角θmと出力軸回転角θgの位相差などから算出される変動値を用いてもよい。
【0076】
したがって、本実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の作用効果を得られるのは勿論のこと、操舵意図判断部67を路面からの外乱についても判別可能に構成したことから、自動運転時に出力軸回転角θg等に変動がみられた場合において、これが運転者の操舵意図に基づくものであるか、あるいは路面からの外乱の影響によるものであるかを判別することができる。これによって、前記路面からの外乱の影響を運転者の操舵意図と誤認して運転状態が自動運転から手動運転に突如切り換えられるといった不具合を抑制でき、車両の安全性を向上させることができる。
【0077】
また、本実施形態では、制御装置60に外乱補正処理部76を設け、この外乱補正処理部76によって自動運転時における路面からの外乱の影響を抑制できるようにしたことから、該自動運転における安定性をより一層向上させることができる。
【0078】
図8は、前述した第2実施形態の変形例として、操舵意図判断部67による外乱判断処理のフロー内容を一部変更したものである。
【0079】
すなわち、図8に示す変形例にかかるフローでは、前記第2実施形態におけるステップS203が廃止されていると共に、ステップS206及びステップS208がそれぞれ後述のステップS211及びステップS212に置き換えられている。
【0080】
ステップS211では、出力軸15の回転方向と中空モータ30の駆動方向が一致、つまり出力軸角速度Δθgとモータ角速度制御目標Δθm*の正負符号が一致し(θg×θm*>0)、かつ、出力軸角速度Δθgが0よりも小さくかつモータ角速度制御目標Δθm*よりも小さい状態、つまり出力軸回転角θgの位相がモータ回転角制御目標θm*の位相(中空モータ30の回転角の位相)に対して回転軸Zの左回り方向へ先行している状態にあるか否かを判断し、Yesと判断された場合にはステップS207に移行する一方、Noと判断された場合にはステップS210に移行する。
【0081】
また、ステップS212では、出力軸15の回転方向と中空モータ30の駆動方向が一致、つまり出力軸角速度Δθgとモータ角速度制御目標Δθm*の正負符号が一致し(θg×θm*>0)、かつ、出力軸角速度Δθgが0よりも大きくかつモータ角速度制御目標Δθm*よりも大きい状態、つまり出力軸回転角θgの位相がモータ回転角制御目標θm*の位相に対して回転軸Zの右回り方向へ先行している状態にあるか否かを判断し、Yesと判断された場合にはステップS209に移行する一方、Noと判断された場合にはステップS210に移行するようになっている。
【0082】
したがって、この変形例においても、操舵意図判断部67によって路面からの外乱の有無を判断できることから、前述した第2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態は、操舵意図判断部67に自動運転制御が行われているか否かを能動的に判断する機能を追加したものであり、図9はその判断処理を示すフローチャートである。
【0083】
すなわち、本フローでは、まず、入力軸回転角θhと中間軸回転角θmとに基づき操舵トルクTrを演算し(ステップS301)、この操舵トルクTrが所定値Tx以上であるか否かを判断する(ステップS302)。ここでNoと判断された場合には、自動運転制御の動作判断を行うことなく処理を終了する一方、Yesと判断された場合には、出力軸回転角θgとモータ回転角制御目標θm*をそれぞれ時間微分することにより出力軸角速度Δθgとモータ角速度制御目標Δθm*を算出した後(ステップS303,S304)、ステップS305に移行する。
【0084】
ステップS305では、出力軸15の回転方向と中空モータ30の駆動方向が一致、つまり出力軸角速度Δθgとモータ角速度制御目標Δθm*の正負符号が一致し(θg×θm*>0)、かつ、モータ角速度制御目標Δθm*が0よりも小さくかつ出力軸角速度Δθgよりも小さい状態、つまりモータ回転角制御目標θm*の位相が出力軸回転角θgの位相に対して回転軸Zの左回り方向へ先行している状態にあるか否かを判断する。ここで、Yesと判断された場合には、自動運転状態、すなわち出力軸15が中空モータ30の回転力によって正常に回転駆動される状態にあると判断し(ステップS306)、自動運転制御の動作判断処理が終了する一方、Noと判断された場合にはステップS307に移行する。
【0085】
ステップS307では、出力軸角速度Δθgとモータ角速度制御目標Δθm*の正負符号が一致し(θg×θm*>0)、かつ、モータ角速度制御目標Δθm*が0よりも大きくかつ出力軸角速度Δθgよりも大きい状態、つまりモータ回転角制御目標θm*の位相が出力軸回転角θgの位相に対して回転軸Zの右回り方向へ先行している状態にあるか否かを判断する。ここで、Yesと判断された場合には、自動運転状態、すなわち出力軸15が中空モータ30の回転力によって正常に回転駆動される状態にあると判断して処理が終了する一方(ステップS308)、Noと判断された場合には、自動運転以外の動作中にあると判断し(ステップS309)、処理が終了する。
【0086】
したがって、本実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の作用効果を得られるのは勿論のこと、操舵意図判断部67によって運転者の操舵意図の有無を判断するのみならず、自動運転制御が行われているか否かを能動的に判断できることから、状況に応じた自動運転と手動運転との切り換えをより精度良く行うことができる。
〔第4実施形態〕
図10に示す本発明の第4実施形態は、パワーシリンダ18が生成する油圧トルクに応じて中空モータ30の出力を調整できるようにしたものである。
【0087】
すなわち、本実施形態にかかる制御装置60は、前記第1実施形態の構成に加えて、ポンプ3からロータリバルブ19に供給される作動液の液量であるポンプ吐出量Pを推定する供給液量演算部77と、該供給液量演算部77が推定した作動油の液量等に基づきパワーシリンダ18が生成する油圧トルクTpを推定する油圧アクチュエータトルク演算部78と、をさらに備えている。
【0088】
前記供給液量演算部77は、ポンプ3が車両のエンジンにより駆動されるエンジン駆動ポンプであることから、エンジン回転数Neに基づきポンプ3のポンプ吐出量Pを推定する。より具体的には、前記供給液量演算部77は、エンジン回転数Neに対してエンジンとポンプとの間のギア比G1とポンプ固有吐出量d1を乗じた後、これにより得られる値をポンプ3の仕様に応じて設定される調整流量リミッタ79にかけることでポンプ吐出量Pを推定するようになっている。
【0089】
前記油圧アクチュエータトルク演算部78は、まず、中間軸回転角θmから出力軸回転角θgを減ずることによりロータリバルブ19のバルブ作用角Δθrを得る。そして、このバルブ作用角Δθrと供給液量演算部77によって推定されたポンプ吐出量Pとから、予め用意されたアシスト圧推定マップ80を参照してアシスト圧推定値Powを算出する。
【0090】
続いて、前記油圧アクチュエータトルク演算部78は、アシスト圧推定値Powに対してパワーシリンダ18のシリンダ断面積Ssと、セクタシャフト17の回転中心からピストン16との歯当たり面までの距離PCRと、ピストン16とセクタシャフト17との間のギア比G2とを乗ずることにより油圧トルクTpを得る。なお、このとき得られる油圧トルクTpは、あくまで大きさのみのスカラー値であるから、バルブ作用角Δθrに基づき油圧トルクTpの作用方向を判定する方向判定部81によって正負符号が付加されることとなる。そして、この正負符号が付加された油圧トルクTpに対して車両試験等に基づき予め設定された補正係数を乗ずることにより、最終的な油圧トルクTpを算出するようになっている。
【0091】
また、本実施形態に係るモータ駆動制御部69は、自動運転時において、自動運転時トルク指令演算部65から出力された自動運転時トルク指令値Tm(auto)*から油圧アクチュエータトルク演算部78によって算出した油圧トルクTpを減じたものをモータトルク指令値Tm*として受け取り、中空モータ30の駆動制御を行うようになっている。
【0092】
したがって、本実施形態によれば、自動運転をパワーシリンダ18の生成する油圧トルクTpと中空モータ30が出力する駆動トルクとの協調制御によって行うことができることから、例えばエンジン回転数Neが低く油圧トルクTpが確保できない場合であっても中空モータ30の駆動トルクを増大させることで操舵アシスト力を維持することができる。また、その一方で、自動運転の際に余剰な操舵アシスト力が付与されることも抑制できることから、自動運転に係る転舵の正確性を向上できると共に、電力や油圧のロスを低減して省エネルギー化を図ることができる。
【0093】
さらに、本実施形態では、ポンプ3がエンジン駆動ポンプであり、供給液量演算部77を、エンジン回転数Neに基づいてポンプ吐出量Pを推定するように構成したことから、該ポンプ吐出量Pを精度良く検出することができる。この結果、パワーシリンダ18と中空モータ30とによる自動運転の協調制御をより高精度に行うことができる。
〔第5実施形態〕
図11及び図12に示す本発明の第5実施形態は、前記第4実施形態におけるポンプ3をエンジン駆動ポンプからポンプ駆動用電動モータ82によって駆動されるモータ駆動ポンプ83に変更すると共に、ポンプ駆動用電動モータ82をパワーシリンダ18の生成する油圧トルクTpに基づいて駆動制御するようにしたものである。
【0094】
図11は、本実施形態に係るパワーステアリング装置を示す概略図である。
【0095】
すなわち、本実施形態に係るモータ駆動ポンプ83は、制御装置60とは別のコントロールユニットであるポンプECU84と電気的に接続されたポンプ駆動用電動モータ82がポンプECU84から出力された指令電圧に基づき回転駆動することにより、ポンプ作用を行うようになっている。
【0096】
前記ポンプECU84は、モータ駆動ポンプ83のポンプ吐出量Pを目標値とするための流量制御信号SigPに基づき前記指令電圧を生成し、本実施形態では、当該流量制御信号SigPを制御装置60によって生成するようになっている。
【0097】
図12は、本実施形態に係る制御装置60の演算回路構成を示す制御ブロック図である。
【0098】
すなわち、本実施形態の制御装置60は、前記第4実施形態の構成に加えて、油圧アクチュエータトルク演算部78によって推定された油圧トルクTpに基づき流量制御信号SigPを生成し、これをポンプECU84へと出力する流量制御信号生成部85をさらに備えている。
【0099】
この流量制御信号生成部85は、基本的には油圧トルクTpのみに基づいて流量制御信号SigPを生成するものであるが、特定の状況下においては油圧トルクTpに補正値を加減算したうえで流量制御信号SigPを生成する。
【0100】
例えば、前記流量制御信号生成部85は、自動運転時における操舵量が小さく、ロータリバルブ19のバルブ作用角Δθrが小さなものとなる場合、すなわちモータ駆動ポンプ83が作動液を多量に吐出したとしても、その多くが油圧トルクTpの生成に供されることなくリザーバタンク4へ排出されてしまう場合において、油圧トルクTpを減算補正することにより、通常よりもポンプ吐出量Pを抑えるような流量制御信号SigPを生成する。これにより、自動運転に供されるトルクのうち、油圧トルクTpが減少する一方、このトルクの減少を補うかたちで中空モータ30の駆動トルクが上昇することとなる。
【0101】
また、前記流量制御信号生成部85は、中空モータ30が高回転駆動に基づき過熱した場合等において、油圧トルクTpを加算補正することにより、通常よりもポンプ吐出量Pを増大させるような流量制御信号SigPを生成するようになっている。これにより、自動運転に供されるトルクのうち油圧トルクTpが占める割合が大きくなり、中空モータ30の駆動トルクが減少することとなる。
【0102】
このように、前記流量制御信号生成部85は、中空モータ30あるいはモータ駆動ポンプ83のいずれか一方が不調であったり効率の面で劣ったりする場合において、該一方のトルク出力分担率を下げ、他方のトルク出力分担率を上げるようになっている。
【0103】
なお、本実施形態における油圧アクチュエータトルク演算部78は、ポンプECU84から直接的にポンプ吐出量Pの情報を取得するようになっており、このポンプ吐出量Pの情報に基づきアシスト圧推定値Powを推定するようになっている。
【0104】
ロータリバルブ19に作動液を吐出するポンプがエンジン駆動ポンプであると、ロータリバルブ19のバルブ作用角Δθrの大小にかかわらずエンジン回転数Neに応じて作動液を吐出してしまうことから、例えばエンジン回転数Neが高回転かつバルブ作用角Δθrが僅かである場合において、前記エンジン駆動ポンプが吐出した作動液が油圧トルクTpの生成に供されることなくリザーバタンク4へ排出されてしまい、ポンプ効率の悪化が招来されてしまうおそれがある。
【0105】
これに対して、本実施形態では、前記ポンプとしてモータ駆動ポンプ83を採用すると共に、このモータ駆動ポンプ83を油圧トルクTpから流量制御信号生成部85が生成した流量制御信号SigPに基づき駆動制御するようにしたことから、モータ駆動ポンプ83による作動油の余剰な吐出を抑制し、ポンプ効率を向上させることができる。
【0106】
また、本実施形態では、流量制御信号生成部85を、中空モータ30あるいはモータ駆動ポンプ83のいずれか一方が不調あるいは非効率的であると判断した場合において、該一方のトルク出力分担率を下げ、他方のトルク出力分担率を上げるように構成したことから、機器の保護を図りつつ効率のよい制御を実現できる。
【0107】
なお、本実施形態では、前記ポンプとしてポンプ駆動用電動モータ82によって駆動されるモータ駆動ポンプ83を用いることとしたが、これの代わりに作動液の吐出量を電磁ソレノイドによって調整可能な可変吐出量ポンプとすることもできる。この場合も、油圧トルクTpから流量制御信号生成部85が生成した流量制御信号SigPに基づき電磁ソレノイドを駆動することで同様の作用効果を得ることが可能となる。
〔第6実施形態〕
図13に示す本発明の第6実施形態は、前記第5実施形態における制御装置60に、車両に積載された荷物の重量に基づく車両への負荷である積載荷重Mを推定する負荷推定部である積載荷重推定部86をさらに備えたものである。
【0108】
前記積載荷重推定部86は、中間軸回転角θmから出力軸回転角θgを減ずることによりロータリバルブ19のバルブ作用角Δθrを得る。そして、このバルブ作用角Δθrと車両速度Vsとから、予め用意された積載荷重推定マップ87を参照して積載荷重Mを推定する。
【0109】
また、前記積載荷重推定部86は、前述の推定処理によって得た積載荷重Mが所定値以上である場合には、出力補正部88によって中空モータ30の回転駆動に供される自動運転時トルク指令値Tm(auto)*やポンプ駆動用電動モータ82の回転駆動に供される流量制御信号SigPを適宜増量補正するようになっている。
【0110】
なお、図示はしていないが、前記積載荷重推定部86は、前述の推定処理によって得た積載荷重Mが所定値以上である場合に、この情報をトラクションコントローラやESCコントローラ等へ送信することで、旋回時に車速を低下させてアンダーステアを抑制するといった各種協調制御が行えるようになっている。
【0111】
一般に、車両の積載荷重Mが大きくなると油圧トルクTpや中空モータ30の駆動トルクに見合った転舵角が得られず、自動運転時における挙動が不安定となることが知られている。
【0112】
これに対して、本実施形態では、制御装置60に積載荷重Mを推定する積載荷重推定部86を設けると共に、この積載荷重推定部86が推定した積載荷重Mが所定値以上の場合には、油圧トルクTpや中空モータ30の駆動トルクを増量補正するようにしたことから、自動運転時の積載荷重Mの増大に伴う挙動の不安定化を抑制し、当該積載荷重Mに応じた操舵制御を実現することができる。
〔第7実施形態〕
図14に示す本発明の第7実施形態は、前記第5実施形態における制御装置60に、路面抵抗μに基づく車両への負荷を推定する負荷推定部である路面抵抗推定部89をさらに備えたものである。
【0113】
前記路面抵抗推定部89は、一対の転舵輪2R,2Lの回転速度差Rdから予め用意された車両スリップ角算出マップ90に基づき車両スリップ角θcを算出し、出力軸回転角θgから車両スリップ角θcを減じることにより転舵輪スリップ角θwを得た後、この転舵輪スリップ角θwから予め用意された路面抵抗推定マップ91に基づき路面抵抗μを推定するようになっている。
【0114】
また、前記路面抵抗推定部89は、前述の推定処理によって得た路面抵抗μが所定値以上である場合には、出力補正部92によって中空モータ30の回転駆動に供される自動運転時トルク指令値Tm(auto)*やポンプ駆動用電動モータ82の回転駆動に供される流量制御信号SigPを適宜増量補正するようになっている。
【0115】
なお、図示はしていないが、前記路面抵抗推定部89は、前述の推定処理によって得た路面抵抗μをトラクションコントローラやESCコントローラ等へ送信し、該各コントローラ等との協調を図ることで車両の安定性を向上できるようになっている。
【0116】
一般に、路面抵抗μが大きくなると油圧トルクTpや中空モータ30の駆動トルクに見合った転舵角が得られず、自動運転時における挙動が不安定となることが知られている。
【0117】
これに対して、本実施形態では、制御装置60に路面抵抗μを推定する路面抵抗推定部89を設けると共に、この路面抵抗推定部89が推定した路面抵抗μが所定値以上の場合には、油圧トルクTpや中空モータ30の駆動トルクを増量補正するようにしたことから、路面抵抗μの増大に伴う自動運転時の挙動の不安定化を抑制し、当該路面抵抗μに応じた操舵制御を実現することができる。
【0118】
本発明は、前記実施形態に例示の構成に限定されるものではなく、前記インテグラル型のパワーステアリング装置以外にも、例えば普通乗用車等に用いられるラック・ピニオン型のパワーステアリング装置など、前記第1,第2トーションバー12,14や中空モータ30等といった本発明の発明特定事項を具備するものであれば、他の形式のパワーステアリング装置についても適用可能である。
【0119】
また、本発明は、出力軸回転角θgを出力軸回転角推定部63によって推定することでセンサに依らずに出力軸回転角θgが得られるものであるが、これを出力軸回転角θgや転舵角を検出するセンサが設けられたパワーステアリング装置に適用することも当然に可能である。このような場合、前記出力軸回転角推定部63によって推定される出力軸回転角θgを前記センサの機能が失陥した際のバックアップとして用いることでフェイルセーフ性を向上させたり、前記センサが検出した出力軸回転角θgと前記出力軸回転角推定部63によって推定される出力軸回転角θgとの両方に基づいて中空モータ30を駆動させることで該中空モータ30の制御の精度を向上させたりすることが可能となる。
【0120】
なお、前記各実施形態では、出力軸回転角推定部63によって推定した出力軸回転角θgは、自動運転制御に主として供されるようになっているが、この推定した出力軸回転角θgを手動運転制御に適用することも当然に可能である。
【0121】
以上説明した各実施形態に基づくパワーステアリング装置としては、例えば以下に述べる態様のものが考えられる。
【0122】
パワーステアリング装置は、その一つの態様において、ステアリングホイールの操舵操作に伴い回転する入力軸と、前記入力軸と第1トーションバーを介して接続される中間軸と、前記中間軸と第2トーションバーを介して接続される出力軸と、を有する操舵軸と、ピストンによって隔成された1対の圧力室を有する油圧アクチュエータと、前記操舵軸の回転運動を前記ピストンの移動方向運動に変換すると共に、前記ステアリングホイールの操舵操作を転舵輪に伝達する変換機構と、前記第2トーションバーの捩れ量および捩れの方向に応じて車両に搭載されたポンプから供給される作動液を選択的に前記1対の圧力室に供給するコントロールバルブと、前記中間軸に回転力を付与する電動モータと、マイクロコンピュータを備えたコントロールユニットと、前記コントロールユニットに設けられ、前記入力軸の回転角の信号、前記中間軸の回転角の信号、第1トーションバーの捩りバネ定数、および前記第2トーションバーの捩りバネ定数に基づき前記出力軸の回転角を推定する出力軸回転角推定部と、前記コントロールユニットに設けられ、前記出力軸の回転角に基づき前記電動モータを駆動制御するモータ駆動制御部と、を有する。
【0123】
前記パワーステアリング装置の好ましい態様において、前記パワーステアリング装置は、前記コントロールユニットに設けられ、前記入力軸の回転角の信号、前記中間軸の回転角の信号、前記出力軸の回転角の信号、または前記電動モータの回転角の信号に基づき、運転者の操舵意図の有無を判断する操舵意図判断部を有する。
【0124】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記操舵意図判断部は、前記中間軸の回転角の位相または前記出力軸の回転角の位相より前記入力軸の回転角の位相が先行する場合、運転者に操舵意図があるものと判断する。
【0125】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記操舵意図判断部は、前記出力軸の回転角の位相が前記入力軸の回転角の位相よりも先行し、かつ前記出力軸の回転方向と前記電動モータの駆動方向とが不一致のとき、前記出力軸の回転は路面からの外乱によるものであると判断する。
【0126】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記操舵意図判断部は、前記出力軸の回転方向と前記電動モータの駆動方向が一致し、かつ前記出力軸の回転角の位相が前記電動モータの回転角の位相より先行するとき、前記出力軸の回転は路面からの外乱によるものであると判断する。
【0127】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記操舵意図判断部は、前記出力軸の回転方向と前記電動モータの駆動方向が一致し、かつ前記電動モータの回転角の位相が前記出力軸の回転角の位相より先行するとき、前記出力軸の回転は前記電動モータの回転力によるものであると判断する。
【0128】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記操舵意図判断部は、前記出力軸の回転角の位相が前記入力軸の回転角の位相または前記電動モータの回転角の位相よりも先行するとき、前記出力軸の回転が路面からの外乱の影響によるものであると判断し、前記モータ駆動制御部は、外乱による前記出力軸の回転を抑制するように前記電動モータを駆動制御する。
【0129】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記コントロールユニットは、前記ポンプから前記コントロールバルブに供給される作動液の液量を推定する供給液量演算部と、前記中間軸の回転角の信号、前記出力軸の回転角の信号、および前記作動液の液量に基づき前記油圧アクチュエータの発生トルクを推定する油圧アクチュエータトルク演算部と、を有する。
【0130】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記ポンプは車両のエンジンにより駆動されるエンジン駆動ポンプであって、前記作動液の液量は、前記エンジンの回転数に基づき推定される。
【0131】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記ポンプは、ポンプ駆動用電動モータによって駆動されるモータ駆動ポンプまたは作動液の吐出量を電磁ソレノイドによって調整可能な可変吐出量ポンプであって、前記ポンプ駆動用電動モータまたは前記電磁ソレノイドは、前記油圧アクチュエータの発生トルクに基づき駆動制御される。
【0132】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記コントロールユニットは、前記電動モータの駆動トルクと前記油圧アクチュエータの発生トルクの大きさの割合を調整し、その調整結果に基づき前記電動モータおよび前記モータ駆動ポンプまたは前記電磁ソレノイドを駆動制御する。
【0133】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記電動モータは、前記油圧アクチュエータの発生トルクに基づき駆動制御される。
【0134】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記コントロールユニットは、前記中間軸の回転角の信号、前記出力軸の回転角の信号、および車両速度に基づき車両に積載された荷物の重量を推定する負荷推定部を有する。
【0135】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記コントロールユニットは、前記出力軸の回転角の信号および1対の前記転舵輪同士の回転速度差に基づき路面抵抗を推定する負荷推定部を有する。
【0136】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記コントロールユニットは、前記入力軸の回転角の信号、前記中間軸の回転角の信号、および前記第1トーションバーの捩りバネ定数に基づき、操舵トルクを演算する操舵トルク演算部と、車両速度、1対の前記転舵輪同士の回転速度差、および前記操舵トルクに基づき車両が直進走行中であるか否かを判定する直進走行判断部と、前記直進走行判断部が直進走行中であると判断した状態からの前記入力軸の回転量または前記中間軸の回転量に基づき前記転舵輪の転舵角に相当する前記ステアリングホイールの操舵絶対角を推定する操舵絶対角推定部と、を有する。
【0137】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記変換機構は、前記出力軸に設けられたねじ軸と、前記ねじ軸を包囲するように筒状に形成されて内周側に螺旋溝が形成されたナットと、前記ねじ軸と前記ナットの間に設けられた複数のボールと、から構成されたボールねじ機構である。
【0138】
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記電動モータは、前記中間軸を包囲するように設けられた中空モータである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14