特許第6563146号(P6563146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6563146剥離性シリコーン樹脂組成物及びこれを塗布した剥離フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6563146
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】剥離性シリコーン樹脂組成物及びこれを塗布した剥離フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/07 20060101AFI20190808BHJP
   C09D 183/05 20060101ALI20190808BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20190808BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20190808BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20190808BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20190808BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20190808BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20190808BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   C09D183/07
   C09D183/05
   C09K3/00 R
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K5/56
   C08K5/54
   B32B27/36
   B32B27/00 101
   B32B27/00 M
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-4562(P2019-4562)
(22)【出願日】2019年1月15日
【審査請求日】2019年4月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】三田 修平
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−98286(JP,A)
【文献】 特開2017−66194(JP,A)
【文献】 特開2016−222791(JP,A)
【文献】 特表2017−537177(JP,A)
【文献】 特開2010−196011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00− 101/14
C08K 3/00− 13/08
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00− 201/10
C09J 1/00− 5/10
C09J 9/00− 201/10
C08G 77/00− 77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムの少なくとも片面に水酸基価が3〜45mgKOH/gのポリエステル系樹脂が塗布されて易接着層が形成された易接着処理フィルムの該易接着層に塗布するか、ベースフィルムがポリエステルフィルムであり易接着層が形成されていない面に塗付する、剥離性シリコーン樹脂組成物であって、
末端以外の珪素原子にビニル基が結合し、重量平均分子量が30〜100万の直鎖状又は分岐状のポリオルガノシロキサン(A)と、
両末端にビニル基を有し、重量平均分子量が1〜10万の直鎖状又は分岐状のポリオルガノシロキサン(B)と、
末端以外の珪素原子に直接結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)と、
付加反応に必要な硬化触媒(D)と、
反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)と、
アルミニウムキレート化合物(F)と、
から成ることを特徴とする剥離性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、OH基含有量が0.1〜5.0重量%で一般式SiO1/2単位とSiO4/2単位からなり、SiO1/2単位/SiO4/2単位のモル比が0.5〜1.0であるポリオルガノシロキサン(G)を含むことを特徴とする請求項1記載の剥離性シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)は、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の剥離性シリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
アルミニウムキレート化合物(F)は、アルミニウムトリスエチルアセトアセテートであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の剥離性シリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)は、ポリオルガノシロキサン(A)とポリオルガノシロキサン(B)とポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)との合計配合部数100重量部に対して0.8〜3.5重量部から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の剥離性シリコーン樹脂組成物。
【請求項6】
アルミニウムキレート化合物(F)は、ポリオルガノシロキサン(A)とポリオルガノシロキサン(B)とポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)との合計配合部数100重量部に対して0.08〜0.35重量部から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の剥離性シリコーン樹脂組成物。
【請求項7】
ベースフィルムの少なくとも片面に水酸基価が3〜45mgKOH/gのポリエステル系樹脂を塗布して易接着層を形成した易接着処理フィルムの該易接着層の上、又はベースフィルムがポリエステルフィルムであり易接着層が形成されていない面の上に、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の剥離性シリコーン樹脂組成物を塗布してシリコーン層を形成したことを特徴とする剥離フィルム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易接着処理フィルム又は易接着処理がされていない未処理のポリエステルフィルムに対して良好な接着性を有する剥離性シリコーン樹脂組成物に関し、詳しくは、該組成物を易接着処理フィルムの易接着層又は易接着処理がされていない未処理のポリエステルフィルムに塗布してシリコーン層を形成した剥離フィルムの該シリコーン層側を、ガラスに粘着させ長時間経過後に剥離フィルムごと剥離させる際に、経時粘着力の上昇が少なく、またガラス表面に所謂糊残りが生じない剥離性シリコーン樹脂組成物及びこれを塗布した剥離フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、貼り直しが簡単にでき、再剥離時には僅かな剥離力で剥離でき、糊残りが発生しない固定シートとして、基材上に少なくとも片面に易接着層、シリコーン層を積層した固定シートにおいて、易接着層が、水酸基価が10〜45のポリエステル系樹脂または、水酸基価が10〜45のアクリル系樹脂からなり、シリコーン層が両末端にのみビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンと、両末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンと、末端にのみビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンと、末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンとから選ばれる少なくとも1種のシリコーンをオルガノハイドロジェンポリシロキサンで架橋させてなり、シリコーン層にシリコーンオイルを含有することを特徴とする固定シートが提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、該固定シートはガラスに粘着させると、シリコーンオイルが該ガラスとの界面に移行しシリコーンの付加反応に寄与しなかったSiH基とガラス表面のOH基との反応を阻害させることで該固定シートの再剥離時の糊残りを防止しているため、未反応のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとシリコーンオイルが固定シートの再剥離時にガラス表面に残存することがあり、ガラス表面を汚染する場合があるという課題がある。
【0004】
また、該固定シートにおいては、易接着層を形成するポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂は水酸基価が10〜45と高めであって、該水酸基価が10未満のポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂は、これによって形成される易接着層とシリコーン層との接着力が弱くなるため、該易接着層の形成に使用することが難しいという課題があり、仮にこれらのポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂によって基材上に易接着層が形成されている場合は、上記特許文献1に記載のシリコーン層は適用することが出来ないという課題がある。
【0005】
一方、これらの課題を解決した剥離性シリコーン樹脂組成物及びこれを塗布した剥離フィルムとして、ベースフィルムの少なくとも片面に水酸基価が3〜45mgKOH/gのポリエステル系樹脂が塗布されて易接着層が形成された易接着処理フィルムの該易接着層に塗布する剥離性シリコーン樹脂組成物であって、両末端にビニル基を有し重量平均分子量が30〜100万であり直鎖状又は分岐状のポリオルガノシロキサン(A)と、両末端にビニル基を有し重量平均分子量が1〜10万であり直鎖状又は分岐状のポリオルガノシロキサン(B)と、OH基含有量が1重量%未満で一般式SiO1/2単位とSiO4/2単位からなり、SiO1/2単位とSiO4/2単位のモル比が0.5:1.0〜0.8:1.0からなるシリコーンレジン(C)と、粘度が10〜100cSt/25℃で側鎖にある珪素原子に直接結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン(D)と、付加反応に必要な硬化触媒(E)と、反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(F)と、アルミニウムキレート化合物(G)と、から成ることを特徴とする剥離性シリコーン樹脂組成物、及びこれを塗付してシリコーン層を形成した剥離フィルムが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4505649号公報
【特許文献2】特開2016−98286号公報
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の剥離性シリコーン樹脂組成物及びこれを塗付した剥離フィルムは、水酸基価が10mg未満の易接着層を有するフィルムに対しては良好な接着性を有していても、易接着処理がされていない未処理のポリエステルフィルムに対しては経時により接着性が不十分となる場合がある課題があり、またガラスに対する粘着性を示す剥離強度の絶対値は経時により大きくなって剥離がし難くなる課題があり、特に該2つの課題より易接着処理がされていない未処理のポリエステルフィルムに対しては十分な剥離性と粘着性を有する剥離性シリコーン樹脂組成物及びこれを塗付した剥離フィルムである、と言うことが難しかしいという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、易接着処理フィルムに形成されている該易接着層の水酸基価が10未満であっても該易接着層と良好な接着性を有する剥離性シリコーン樹脂組成物を提供すると共に、易接着処理がされていない未処理のポリエステルフィルムに対しても経時により接着性が不十分となることが無く、またガラスに対する粘着性を示す剥離強度の絶対値が経時により大きくなる程度が少ないため十分な剥離性を長期にわたって有し、さらにはこれらから、易接着処理がされていない未処理のポリエステルフィルムに本発明の剥離性シリコーン組成物が塗付された剥離フィルムであっても、十分な剥離性と粘着性を有し、加えてガラス表面に糊残りが生じることがなく、且つガラス表面を汚染することが無い剥離性シリコーン樹脂組成物及びこれを塗布した剥離フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、ベースフィルムの少なくとも片面に水酸基価が3〜45mgKOH/gのポリエステル系樹脂が塗布されて易接着層が形成された易接着処理フィルムの該易接着層に塗布するか、ベースフィルムがポリエステルフィルムであり易接着層が形成されていない面に塗付する、剥離性シリコーン樹脂組成物であって、
末端以外の珪素原子にビニル基が結合し、重量平均分子量が30〜100万の直鎖状又は分岐状のポリオルガノシロキサン(A)と、
両末端にビニル基を有し、重量平均分子量が1〜10万の直鎖状又は分岐状のポリオルガノシロキサン(B)と、
末端以外の珪素原子に直接結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)と、
付加反応に必要な硬化触媒(D)と、
反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)と、
アルミニウムキレート化合物(F)と、
から成ることを特徴とする剥離性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、さらに、OH基含有量が0.1〜5.0重量%で一般式SiO1/2単位とSiO4/2単位からなり、SiO1/2単位/SiO4/2単位のモル比が0.5〜1.0であるポリオルガノシロキサン(G)を含むことを特徴とする請求項1記載の剥離性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)は、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の剥離性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【0012】
また、請求項4記載の発明は、アルミニウムキレート化合物(F)は、アルミニウムトリスエチルアセトアセテートであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の剥離性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)は、ポリオルガノシロキサン(A)とポリオルガノシロキサン(B)とポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)との合計配合部数100重量部に対して0.8〜3.5重量部から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の剥離性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【0014】
また、請求項6記載の発明は、アルミニウムキレート化合物(F)は、ポリオルガノシロキサン(A)とポリオルガノシロキサン(B)とポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)との合計配合部数100重量部に対して0.08〜0.35重量部から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の剥離性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【0015】
また、請求項7記載の発明は、ベースフィルムの少なくとも片面に水酸基価が3〜45mgKOH/gのポリエステル系樹脂を塗布して易接着層を形成した易接着処理フィルムの該易接着層の上、又はベースフィルムがポリエステルフィルムであり易接着層が形成されていない面の上に、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の剥離性シリコーン樹脂組成物を塗布してシリコーン層を形成したことを特徴とする剥離フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の剥離性シリコーン樹脂組成物は、易接着処理フィルムの少なくとも片面に設けられている易接着層が、水酸基価が10未満のポリエステル系樹脂で形成されていても、良好な接着性を有するという効果がある。また、易接着処理がされていない未処理のポリエステルフィルムに対しても経時により接着性が不十分となることが無い効果があるとともに、ガラスに対する粘着性を示す剥離強度の絶対値が経時により大きくなる程度が小さいため十分な剥離性を長期にわたって有する効果があり、特にこれらの効果より易接着処理がされていない未処理のポリエステルフィルムに本発明の剥離性シリコーン樹脂組成物が塗付された剥離性フィルムであっても、十分な剥離性と粘着性を有する効果がある。
【0017】
さらには、本発明の剥離性シリコーン樹脂組成物によって、易接着処理フィルム又は未処理ポリエステルフィルムにシリコーン層を形成した剥離フィルムの該シリコーン層側を、ガラスに粘着させさらに長時間経過させた後に剥離フィルムをガラスより剥離させても、ガラス表面に糊残りが生じることが無いという効果がある。加えて、移行しやすいシリコーンオイルを使用していない等のため、ガラス表面を汚染することが無いという効果がある。
【0018】
また、特に請求項7記載の剥離フィルムは、ベースフィルムに形成されている易接着層が、水酸基価が10mg/KOH以下のポリエステル系樹脂にて形成されているか、またはベースフィルムがポリエステルフィルムであって易接着層が形成されていない未処理のポリエステルフィルムであっても、シリコーン層と該ベースフィルムとの接着性が十分であって容易に剥離することが無い効果があり、またシリコーン層側を、ガラスに粘着させ、さらに長時間経過させた後に剥離フィルムをガラスより剥離させるにあたって、十分な粘着性と剥離性を有し、また、ガラス表面に糊残りが生じることが無いという効果があり、さらにはガラス表面を汚染することが無いという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る剥離性シリコーン樹脂組成物について具体的に説明する。
【0020】
<ポリオルガノシロキサン(A)>
本発明に使用されるポリオルガノシロキサン(A)は、末端以外の珪素原子にビニル基が結合し、重量平均分子量が30〜100万である直鎖状又は分岐状のポリオルガノシロキサンであり、以下に示すポリオルガノシロキサン(B)と併せて使用される。特にポリオルガノシロキサン(A)は分子量が大きいため易接着処理フィルムに形成されている易接着層又は、未処理のポリエステルフィルム面に対して粘弾性的な接着性を発現させるために使用される。また、ポリオルガノシロキサン(A)は以下に示すオルガノハイドロジェンシロキサン(C)と硬化触媒(D)によって付加反応で硬化し、ビニル基以外の珪素原子に結合する有機基は異種でも同種でも良い。具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基などが例示され、具体例としてはポリジメチルシロキサンの末端以外の一部の珪素原子にビニル基が結合した(末端以外の珪素原子に結合したメチル基の一部がビニル基に置換された)ものを挙げることが出来る。該ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量はGPCによる測定で30〜100万が好ましく、30万未満では組成物の粘度が低くなりすぎ、100万超では組成物の粘度が高くなり、それぞれ塗工性が不十分と成る。ビニル基は0.01重量%以上含まれていればよく、好ましくは5.0重量%以下で有ればよい。
【0021】
<ポリオルガノシロキサン(B)>
本発明に使用されるポリオルガノシロキサン(B)は、両末端にビニル基を有し重量平均分子量が1〜10万であり直鎖状又は分岐状のポリオルガノシロキサンであり、上記ポリオルガノシロキサン(A)と併せて使用される。特にはポリオルガノシロキサン(B)は分子量が小さいため易接着処理フィルムに形成されている易接着層に対して粘着性を発現させるために使用される。また、ポリオルガノシロキサン(B)は、ポリオルガノシロキサン(A)と同様に、以下に示すオルガノハイドロジェンシロキサン(C)と硬化触媒(E)によって付加反応で硬化し、ビニル基以外の珪素原子に結合する有機基は異種でも同種でも良い。具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基などが例示され、具体例としては両末端ビニル基のポリジメチルシロキサンを挙げることが出来る。該ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量はGPCによる測定で1〜10万が好ましく、1万未満では架橋密度が高くなりガラス等の基材への密着性が不十分となり、10万超では組成物の粘度が高くなり塗工性が不十分と成る。
【0022】
<ポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)>
本発明に使用されるポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)は、末端以外の珪素原子に直接結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンであり、粘度は10〜100cSt/25℃が好ましい。ポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)は、上記ポリオルガノシロキサン(A)及びポリオルガノシロキサン(B)と硬化触媒(E)によって付加反応により架橋して硬化する。水素原子が直接結合している珪素原子は、粘着性を発現させるため末端以外であることが好ましく、末端にある珪素原子に水素原子が結合していると硬化物の硬度が高くなり剥離性が不十分と成る。また粘度が10cSt/25℃未満では架橋密度が低くなり硬化性が低下し、100cSt/25℃超では架橋密度が高くなりベースフィルムに対する密着性が低下する。
【0023】
また、珪素原子に結合している水素原子の含有量は1.0mmol/g〜20.0mmol/gであることが好ましく、1.0mmol/g以上であると硬化性がよくなる。水素原子の含有量が20.0mmol/g超であると、硬化物表面のタックが強くなりすぎる。ポリエステルフィルムに対して良好な接着性を得るためには水素原子含有量が1.5mmol/g以上であることがより好ましい。珪素原子に結合するオルガノ基としては、メチル基、エチル基、フェニル基などが例示される。該ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、例えば直鎖状または分岐状であってもよく、具体例としては、メチルフェニル水素ポリシロキサンが挙げられる。
【0024】
<硬化触媒(D)>
本発明に使用される硬化触媒(D)は、上記ポリオルガノシロキサン(A)及びポリオルガノシロキサン(B)とポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)との付加反応を起こさせるために使用され、付加反応であるヒドロシリル化反応の触媒活性を有する公知の金属、金属化合物、金属錯体などを用いることができる。特に白金、白金化合物、それらの錯体を用いることが好ましい。これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、助触媒を併用してもよい。硬化触媒(D)の配合量は組成物全体に対して1ppm〜50ppmとすることが好ましく、より好ましくは5〜20ppmである。1ppm未満では硬化性が低下し、50ppm超では硬化物の透明性が低下する要因となる。
【0025】
<反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)>
本発明に使用する反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)は、易接着処理フィルムに形成された易接着層又は未処理のポリエステルフィルムに対する経時的な接着性を良好とするために使用され、例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等を使用することが出来る。該反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)の配合量は、ポリオルガノシロキサン(A)とポリオルガノシロキサン(B)とポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)との合計配合部数100重量部に対して0.8〜3.5重量部が好ましく、0.8重量部未満では経時的な接着性が不十分になり、3.5重量部超ではガラスに対して経時的に粘着性が増加し剥離性が不良と成る。
【0026】
<アルミニウムキレート化合物(F)>
本発明に使用するアルミニウムキレート化合物(F)は、上記反応性官能基含有加水分解性シラン化合物の加水分解性基の縮合触媒として作用し、ガラスに対する経時的な粘着性が上昇して剥離性が低下することを防止するために使用される。具体的には、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジブチレート、ジエチルアセトアセテートアルミニウムブチレート、アルミウムトリスエチルアセトアセテート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が例示され、単独でも2種以上の混合物として使用しても良い。該アルミニウムキレート化合物(F)の配合量は、ポリオルガノシロキサン(A)とポリオルガノシロキサン(B)とポリオルガノハイドロジェンシロキサン(D)との合計配合部数100重量部に対して0.08〜0.35重量部が好ましく、0.08重量部未満ではガラスに対する経時的な粘着性が増加して剥離性が不十分となり、0.35重量部超ではガラスに対して経時的に粘着性が低下する。
【0027】
<ポリオルガノシロキサン(G)>
本発明に使用されるポリオルガノシロキサン(G)は、OH基含有量が0.1〜5.0重量%で一般式SiO1/2単位とSiO4/2単位からなり、SiO1/2単位/SiO4/2単位のモル比が0.5〜1.0であり、本発明である剥離性シリコーン樹脂組成物のガラスに対する初期粘着性を向上させるタッキファイアーとして使用すると共に、ガラスに対する経時による粘着性の上昇を抑制するために配合することが出来る。OH含有量が5.0重量%超となると組成物の硬化性が低下する。SiO1/2単位/SiO4/2単位のモル比が0.5未満及び1.0超では粘着力の向上が不十分となることがある。
【0028】
本組成物には、その他任意の成分として、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、エチニルシクロヘキサノール等のアルキンアルコール;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のエンイン化合物;1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン、1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン、ベンゾトリアゾール等の反応抑制剤を含有してもよい。この反応抑制剤は付加反応による硬化性を抑制しない程度の含有量としてポリオルガノシロキサン(A)とポリオルガノシロキサン(B)とポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)との合計配合物数100重量部に対して0.0001〜1重量部の範囲内であることが好ましい。
【0029】
また本組成物には発明の目的を損なわない程度に、その他任意成分として粘度調整、硬さ調整のために炭酸カルシウム、硅砂、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、カオリン、二酸化ケイ素、メラミン等の無機充填材を含有してもよく、有機充填材、硬化樹脂の補強のためにガラス繊維等の補強材、軽量化及び粘度調整などのためにシラスバルーン、ガラスバルーン等の中空体を添加できる。その他、酸化防止剤、有機顔料、蛍光顔料、腐食防止剤、酸化防止剤などを適宜使用することができる。
【0030】
本発明の請求項7に記載の剥離フィルムは、ポリエステルフィルム等のベースフィルムの少なくとも片面に水酸基価が3〜45mgKOH/gのポリエステル系樹脂を塗布して易接着層を形成して易接着処理フィルムとした後、該易接着層の上に、上記請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の剥離性シリコーン樹脂組成物を塗布してシリコーン層を形成した剥離フィルムであるか、ベースフィルムがポリエステルフィルムであり、易接着層が形成されていない未処理の面に、同様に上記請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の剥離性シリコーン樹脂組成物を塗布してシリコーン層を形成した剥離フィルムである。
【0031】
易接着処理フィルムの易接着層の厚みは0.05〜5.0μmの範囲が好ましく、0.05μm未満であると、易接着効果が十分に得られず、5.0μm超えると易接着層自身のベースフィルムに対する接着性が低下する。易接着層塗工液、シリコーン層塗工液の塗工方法としては、3本オフセットグラビアコーターや5本ロールコーターに代表される多段ロールコーター、ダイレクトグラビアコーター、バーコーター、エアナイフコーター等が適宜使用される。易接着層のポリエステル系樹脂の水酸基価が3mgKOH/g未満では、易接着処理がされた易接着処理フィルムとは言えず、該フィルムは例えポリエステル樹脂が塗工されていても未処理のポリエステルフィルムの定義に含まれる。また易接着層のポリエステル系樹脂の水酸基価が45mgKOH/g超では本組成物の硬化が不良となる。水酸基価は易接着層の極性の指標となり、水酸基が高いほど極性は高くなり、本組成物と易接着層との接着性は高くなる。
【0032】
シリコーン層を形成後は、該シリコーン層の表面の汚れや異物付着を防止すると共に、剥離フィルムのハンドリング性を向上させるためにさらに樹脂フィルムやコート紙等のセパレータをシリコーン層面に貼り合わせるとよい。
【実施例】
【0033】
次に、本発明である剥離性シリコーン樹脂組成物について、実施例及び比較例により詳細に説明する。
【0034】
<実施例及び比較例>
ポリオルガノシロキサン(A)として、重量平均分子量が30〜100万であって末端以外の珪素原子の一部にビニル基が結合した直鎖状のポリジメチルシロキサン(ビニル基含有量:0.07重量%)を、ポリオルガノシロキサン(a)として重量平均分子量が30〜100万であって両末端にビニル基を有する直鎖状のポリジメチルシロキサン(ビニル基含有量:0.01重量%)を、ポリオルガノシロキサン(B)として重量平均分子量が1〜10万である直鎖状のポリジメチルシロキサンを、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)として粘度が10〜100cSt/25℃で末端以外の珪素原子に直接結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン(水素原子含有量14mmol/g)を、硬化触媒(D)として白金―ビニルダイマー錯体(Pt:0.2%wt)を、反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを、アルミニウムキレート化合物(F)としてアルミニウムトリスエチルアセトアセテートを、ポリオルガノシロキサン(G)としてOH基含有量が1重量%でSiO1/2単位/SiO4/2単位から成り、SiO1/2単位/SiO4/2単位のモル比が0.7からなるMQレジンを、溶剤としてトルエンを、反応抑制剤としてエチニルシクロヘキサノールをそれぞれ使用し、表1に示す配合にて十分に混合して均一な溶液を得て、実施例及び比較例の剥離性シリコーン樹脂組成物の塗工液とした。次に該塗工液を、水酸基価5mgKOH/gのポリエステル樹脂が片面に塗布され硬化した易接着層を有する厚さ75μmのポリエステル製の易接着処理フィルムの該易接着層上に、又は易接着層が形成されていない未処理の厚さ75μmのポリエステルフィルムの該未処理面に、それぞれ乾燥後の厚みが20μmと成るように塗布し130℃にて90秒間硬化させることによりシリコーン層を形成し、実施例及び比較例の剥離性シリコーン樹脂組成物が塗布された剥離フィルムを得た。
【0035】
【表1】
【0036】
<評価項目及び評価方法>
【0037】
<初期粘着性>
実施例及び比較例の各剥離フィルムを2.5cm×15cmの短冊状に成形し、該剥離フィルムのシリコーン層を5cm×20cm(厚み0.25cm)のソーダガラス表面に密着させ、JISZ0237に規定する2kgのハンドローラーを剥離フィルム上を1往復し、該シリコーン層を圧着させる。圧着後、23℃下において、JISZ0237に準拠して180度剥離強度(mN/25mm)を測定する。剥離強度が5mN以上/25mmあれば十分な粘着性を有すると判断されるが、本評価では10mN以上/25mm 50mN以下/25mm を○と評価し、これ以外を×と評価した。
【0038】
<加熱後粘着性>
実施例及び比較例の各剥離フィルムを2.5cm×15cmの短冊状に成形し、該剥離フィルムのシリコーン層を5cm×20cm(厚み0.25cm)のソーダガラス表面に密着させ、JISZ0237に規定する2kgのハンドローラーを剥離フィルム上を1往復し、該シリコーン層を圧着させる。その後60℃,90%RH条件下14日間養生し、23℃下において、JISZ0237に準拠して180度剥離強度(mN/25mm)を測定する。剥離強度が20mN以上/25mm 150mN以下/25mm を○と評価し、これ以外を×と評価した。
【0039】
<易接着層又は易接着層が形成されていないポリエステルフィルムとの初期接着性>
実施例及び比較例の各剥離フィルムを2.5cm×15cmの短冊状に成形し、該剥離フィルムのシリコーン層を5cm×20cm(厚み0.25cm)のソーダガラス表面に密着させ、JISZ0237に規定する2kgのハンドローラーを剥離フィルム上を1往復し、該シリコーン層を圧着させる。その後、剥離フィルムをゆっくりと剥がし、23℃条件下、該剥離フィルムのシリコーン層を指先でラビングする。この際に易接着層よりシリコーン層が全体的に剥離するものを×と評価し、部分的に剥離するものを△と評価し、剥離しないものを○と評価した。
【0040】
<易接着層又は易接着層が形成されていないポリエステルフィルムとの加熱後接着性>
実施例及び比較例の各剥離フィルムを2.5cm×15cmの短冊状に成形し、該剥離フィルムのシリコーン層を5cm×20cm(厚み0.25cm)のソーダガラス表面に密着させ、JISZ0237に規定する2kgのハンドローラーを剥離フィルム上を1往復し、該シリコーン層を圧着させる。その後、60℃90%RHで21日間養生した後、23℃に徐冷し、剥離フィルムをゆっくりと剥がし、該剥離フィルムのシリコーン層を指先でラビングする。この際に易接着層よりシリコーン層が全体的に剥離するものを×と評価し、部分的に剥離するものを△と評価し、剥離しないものを○と評価した。
【0041】
<糊残り性>
実施例及び比較例の各剥離フィルムを2.5cm×15cmの短冊状に成形し、該剥離フィルムのシリコーン層を5cm×20cm(厚み0.25cm)のソーダガラス表面に密着させ、JISZ0237に規定する2kgのハンドローラーを剥離フィルム上を1往復し、該シリコーン層を圧着させる。その後、60℃90%RHで21日間養生した後、23℃に徐冷し、剥離フィルムをゆっくりと剥がし、ガラス表面の状態を目視及び指触にて観察する。ガラス表面に曇りやべたつきが無いものを○、曇りやべたつきが有るものを×と評価した。
【0042】
<評価結果>
評価結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【要約】
【課題】易接着処理フィルム及び未処理のポリエステルフィルムと良好な接着性を有する剥離性シリコーン樹脂組成物を提供すると共に、ガラス表面に糊残りが生じることがない剥離性シリコーン樹脂組成物及びこれを塗布した剥離フィルムを提供する。
【解決手段】末端以外の珪素原子にビニル基が結合し、重量平均分子量が30〜100万のポリオルガノシロキサン(A)と、両末端にビニル基を有し重量平均分子量が1〜10万のポリオルガノシロキサン(B)と、末端以外の珪素原子に直接結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン(C)と、硬化触媒(D)と、反応性官能基含有加水分解性シラン化合物(E)と、アルミニウムキレート化合物(F)と、から成ることを特徴とする剥離性シリコーン樹脂組成物及びこれを塗布した剥離フィルムである。
【選択図】なし