(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記透光性の多孔質電子輸送材料が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化イットリウム、及びチタン酸ストロンチウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の光電変換装置。
前記透光性の電子輸送材料が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化イットリウム、及びチタン酸ストロンチウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7又は8に記載の光電変換装置。
前記透光性導電層が、フッ素ドープ錫酸化物、インジウム錫酸化物、ガリウムドープ亜鉛酸化物、アルミドープ亜鉛酸化物、及びニオブドープチタン酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項10に記載の光電変換装置。
前記第二電極層は、カーボン、金、白金、パラジウム、ロジウム、タングステン、モリブデン、タンタル、チタン、ニオビウム、インジウム錫酸化物、フッ素ドープ錫酸化物、アルミドープ亜鉛酸化物、及びガリウムドープ亜鉛酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる、請求項15に記載の光電変換装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、ヨウ化鉛系層状ペロブスカイト化合物を光吸収層として用いた太陽電池は、現在のところ、(CH
3NH
3)PbX
3化合物(Xはハロゲン元素)のみといってもよい状況で、他の材料開発が進んでいない。具体的には、(CH
3NH
3)PbX
3化合物(Xはハロゲン元素)の調製の仕方等のみが検討されており、元素置換、ドープ等、他のヨウ化鉛系層状ペロブスカイト化合物を用いることによる材料自身の性能構造に関する例はほとんど検討すらされていない。上記の(CH
3NH
3)PbX
3化合物において、メチルアンモニウムの一部を吉草酸アンモニウムで置換した化合物の検討がなされているのみである(非特許文献2)。
【0007】
太陽電池の光吸収層用材料として好適に使用するには、光電変換効率が高く、常温(25℃等)において光電変換効率を維持できるのみならず、夏場の日照時に高温になった場合にも光電変換効率を維持できることが重要である。しかしながら、これらの従来から使用されている材料は安定性に乏しく、常温(25℃等)及び高温(85℃等)における光電変換効率の維持率がともに優れている材料は知られていない。
【0008】
そこで、本発明は、光電変換効率に優れつつも、常温(25℃等)及び高温(85℃等)のいずれにおいても光電変換効率維持率が高い材料及びそれを用いた光電変換装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は、特に光吸収層について、真空プロセス製膜のみに依拠せず、簡便に製造可能な光電変換装置を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意検討した結果、本発明者等は、ヨウ化鉛系層状ペロブスカイト化合物において、有機基の一部を特定のアルカリ金属イオンで置換した材料は、光電変換効率に優れつつも、常温(25℃等)及び高温(85℃等)のいずれにおいても光電変換効率維持率が高い光電変換装置が得られる材料であることを見出した。特に、高温(85℃等)における光電変換効率維持率は、従来の材料では得られなかった特性である。また、このような構成を採用した光電変換装置(の特に光吸収層)は、真空プロセス製膜のみに依拠せず、簡便に製造可能であることも見出した。これらの知見に基づいて、本発明者等は、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記の態様を包含する。
項1.一般式(1):
(HOOCRNH
3)
xA
1−xPbX
3
[式中、Rは炭化水素基;AはK、Rb、Cs、又はFr;Xはハロゲン原子;xは0.01以上1未満である。]
で示される化合物。
項2.一般式(1A):
(HOOC(CH
2)
nNH
3)
x1A
1−x1PbX
3
[式中、A及びXは前記に同じ;nは3〜10の整数;x1は0.02〜0.9である。]
で示される、項1に記載の化合物。
項3.前記Xがヨウ素原子である、項1又は2に記載の化合物。
項4.項1〜3のいずれかに記載の化合物を含有する光吸収層を備える光電変換装置。
項5.前記光吸収層が湿式塗布法により形成される、項1〜4のいずれかに記載の光電変換装置。
項6.前記光吸収層の下に、さらに、透光性の多孔質電子輸送材料を含有する多孔質電子輸送層を備える、項4又は5に記載の光電変換装置。
項7.前記透光性の多孔質電子輸送材料が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化イットリウム、及びチタン酸ストロンチウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項6に記載の光電変換装置。
項8.前記光吸収層又は多孔質電子輸送層の下に、さらに、透光性の電子輸送材料を含有する緻密電子輸送層を備える、項4〜7のいずれかに記載の光電変換装置。
項9.前記透光性の電子輸送材料が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化イットリウム、及びチタン酸ストロンチウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項8に記載の光電変換装置。
項10.前記緻密電子輸送層の下に、さらに、第一電極層である透光性導電層を備える、項8又は9に記載の光電変換装置。
項11.前記透光性導電層が、フッ素ドープ錫酸化物、インジウム錫酸化物、ガリウムドープ亜鉛酸化物、アルミドープ亜鉛酸化物、及びニオブドープチタン酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、項10に記載の光電変換装置。
項12.前記透光性導電層の下に、さらに、透光性基板を備える、項10又は11に記載の光電変換装置。
項13.前記光吸収層の上に、さらに、ホール輸送層を備える、項4〜12のいずれかに記載の光電変換装置。
項14.前記ホール輸送層が、セレン、沃化物、コバルト錯体、鉄錯体、CuSCN、酸化モリブデン、酸化ニッケル、4CuBr・3S(C
4H
9)、及び有機ホール輸送材よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる層である、項13に記載の光電変換装置。
項15.前記ホール輸送層の上に、さらに第二電極層を備える、項13又は14に記載の光電変換装置。
項16.前記第二電極層は、カーボン、金、白金、パラジウム、ロジウム、タングステン、モリブデン、タンタル、チタン、ニオビウム、インジウム錫酸化物、フッ素ドープ錫酸化物、アルミドープ亜鉛酸化物、及びガリウムドープ亜鉛酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる、項15に記載の光電変換装置。
項17.項1〜16のいずれかに記載の光電変換装置を備える太陽電池デバイス。
【発明の効果】
【0010】
光吸収層として、ヨウ化鉛系層状ペロブスカイト化合物において、有機基の一部を特定のアルカリ金属イオンで置換することで、簡便に、光電変換効率に優れつつも、常温(25℃等)及び高温(85℃等)のいずれにおいても光電変換効率維持率が高い光電変換装置を提供することができる。特に、太陽光照射時(発電時)には、太陽光照射により光電変換装置が高温になることから、高音における光電変換効率維持率を向上させることができることが重要である。また、本発明の光電変換装置(の特に光吸収層)は、真空製造プロセスのみに依拠せず、簡便に製造可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.光電変換装置
本発明の光電変換装置は、ヨウ化鉛系層状ペロブスカイト化合物において、有機基の一部を特定のアルカリ金属イオンで置換した材料を含む光吸収層を備える。これにより、光電変換効率に優れつつも、常温(25℃等)及び高温(85℃等)のいずれにおいても光電変換効率維持率が高い光電変換装置を簡便に実現することができる。
【0012】
<光吸収層>
光吸収層は、ヨウ化鉛系層状ペロブスカイト化合物において、有機基の一部を特定のアルカリ金属イオンで置換した材料を含有する。
【0013】
本発明では、このような条件を満たす材料として、一般式(1):
(HOOCRNH
3)
xA
1−xPbX
3
[式中、Rは炭化水素基;AはK、Rb、Cs、又はFr;Xはハロゲン原子;xは0.01以上1未満である。]
で示される化合物(特にペロブスカイト化合物)を使用する。
【0014】
一般式(1)において、Rで示される炭化水素基は、特に限定されないが、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基等の炭素数3〜10(特に4〜8)のアルキル基;トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等の炭素数3〜10(特に4〜8)のアルキレン基(特にポリメチレン基);アリレン基、ブテニレン基、ヘキセニレン基、オクテニレン基等の炭素数3〜10(特に4〜8)のアルケニレン基;フェニレン基、ジフェニレン基等の炭素数6〜20(特に6〜14)のアリーレン基等が挙げられ、より安定にペロブスカイト化合物を構成するとともに、光電変換効率をより向上させ、常温(25℃等)及び高温(85℃等)における光電変換効率維持率をより向上させる観点から、アルキル基及びアルキレン基が好ましく、炭素数3〜10のアルキル基及び炭素数3〜10のアルキレン基(特にポリメチレン基)がより好ましく、炭素数4〜8のアルキル基及び炭素数4〜8のアルキレン基(特にポリメチレン基)がさらに好ましい。
【0015】
一般式(1)において、Aは、周期表第4周期以降のアルカリ金属であり、K、Rb、Cs、又はFrである。これらのアルカリ金属を含ませることにより、光電変換効率や常温(25℃等)における光電変換効率維持率を維持しつつ、高温(85℃等)における光電変換効率維持率を飛躍的に向上させることができる。これらのアルカリ金属は、いずれを使用してもよいが、入手しやすさ等の観点から、K、Cs等が好ましい。
【0016】
一般式(1)において、Xで示されるハロゲン原子は、特に制限されないが、ペロブスカイト化合物を形成しやすく、光電変換効率や常温(25℃等)における光電変換効率維持率をより維持しつつ、高温(85℃等)における光電変換効率維持率をより飛躍的に向上させることができる観点から、ヨウ素原子、塩素原子、臭素原子等が好ましく、ヨウ素原子がより好ましい。これらのハロゲン原子は、一般式(1)で示される化合物中に1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0017】
一般式(1)において、xは0.01以上1未満であり、好ましくは0.02〜0.9、より好ましくは0.03〜0.5、さらに好ましくは0.05〜0.2である。このような範囲にすることにより、ペロブスカイト化合物を形成しやすく、光電変換効率や常温(25℃等)における光電変換効率維持率を維持しつつ、高温(85℃等)における光電変換効率維持率を飛躍的に向上させることができる。
【0018】
このような条件を満たす化合物としては、具体的には、一般式(1A):
(HOOC(CH
2)
nNH
3)
x1A
1−x1PbX
3
[式中、A及びXは前記に同じ;nは3〜10の整数;x1は0.02〜0.9である。]
で示される化合物が好ましい。
【0019】
一般式(1A)において、A及びXは前記と同様である。
【0020】
一般式(1A)において、nは、ペロブスカイト化合物を形成しやすく、光電変換効率や常温(25℃等)における光電変換効率維持率をより維持しつつ、高温(85℃等)における光電変換効率維持率をより飛躍的に向上させることができる観点から、3〜10の整数が好ましく、4〜8の整数がより好ましい。
【0021】
一般式(1A)において、x1は、ペロブスカイト化合物を形成しやすく、光電変換効率や常温(25℃等)における光電変換効率維持率をより維持しつつ、高温(85℃等)における光電変換効率維持率をより飛躍的に向上させることができる観点から、0.02〜0.9の整数が好ましく、0.03〜0.5の整数がより好ましく、0.05〜0.2がさらに好ましい。
【0022】
このような化合物としては、具体的には、(HOOC(CH
2)
4NH
3)
x1K
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
5NH
3)
x1K
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
6NH
3)
x1K
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
7NH
3)
x1K
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
8NH
3)
x1K
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
4NH
3)
x1Rb
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
5NH
3)
x1Rb
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
6NH
3)
x1Rb
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
7NH
3)
x1Rb
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
8NH
3)
x1Rb
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
4NH
3)
x1Cs
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
5NH
3)
x1Cs
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
6NH
3)
x1Cs
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
7NH
3)
x1Cs
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
8NH
3)
x1Cs
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
4NH
3)
x1Fr
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
5NH
3)
x1Fr
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
6NH
3)
x1Fr
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
7NH
3)
x1Fr
1−x1PbI
3、(HOOC(CH
2)
8NH
3)
x1Fr
1−x1PbI
3等を採用できる(上記いずれも、x1は上記に同じである)。上記化合物は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このような条件を満たす一般式(1)で示される化合物は、文献未記載の新規化合物である。
【0023】
本発明において、光吸収層は、上記した一般式(1)で示される化合物を含有するものであるが、単層でも複層でもよい。複層の場合は、各層全てが、一般式(1)で示される化合物を含有する層(特に一般式(1)で示される化合物からなる層)であってもよいし、少なくとも1層が、一般式(1)で示される化合物を含有する層(特に一般式(1)で示される化合物からなる層)であってもよい。
【0024】
なお、本発明において、光吸収層には、上記した一般式(1)で示される化合物のみが含まれていてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲(例えば0〜10重量%程度)であれば、従来から使用されているペロブスカイト化合物((CH
3NH
3)PbX
3化合物(Xは前記に同じ)(HOOC(CH
2)
nNH
3)
x1A
1−x1Pb
2+X
3−化合物(A、X、n及びx1は前記に同じ))等を含ませてもよい。
【0025】
光吸収層の厚みは、欠陥や剥離による性能劣化をより抑制する観点から、0.5〜10000nmが好ましく、0.5〜10nmがより好ましい。光吸収層が、一般式(1)で示される化合物を含有する層を複数有する場合は、一般式(1)で示される化合物を含有する層の合計の厚みが上記範囲内であることが好ましい。
【0026】
次に光吸収層の形成方法について、説明する。
【0027】
一般式(1)で示される化合物を含有する光吸収層は、公知の方法に従って成膜することができる。
【0028】
例えば、一般式(1)で示される化合物を成膜する場合を例に取ると、AX(A及びXは前記に同じ)で示される化合物と、HOOCRNH
3X(R及びXは前記に同じ)で示される化合物と、PbX
2(Xは前記に同じ)で示される化合物とを、AとHOOCRNH
3とPbとのモル比が上記一般式(1)を満たすように調整した混合溶液Aを、電子輸送層(特に多孔質電子輸送層)上に成膜(例えばスピンコート等の湿式塗布法等)し、乾燥させることによって電子輸送層(特に多孔質電子輸送層)上に、一般式(1)で示される化合物からなる膜を形成することができる。このような非真空プロセスを採用して光吸収層を形成することにより、より簡便に光電変換装置を作製することができる。これらの原料化合物は、公知又は市販品を使用してもよいし、公知又は市販品から合成してもよい。例えば、HOOCRNH
3Xで示される化合物は、例えば、HOOCRNH
2(Rは前記に同じ)で示される化合物と、ヨウ化水素(HI)溶液とを混合し、必要に応じて通常の方法(エバポレーター等)で溶媒を除去することで合成することができる。
【0029】
混合溶液Aに使用される溶媒は、AXで示される化合物、HOOCRNH
3Xで示される化合物、及びPbX(Xは前記に同じ)で示される化合物を溶解することができる限り特に制限はないが、極性溶媒が好ましく、具体的には、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、イソプロパノール等が挙げられ、N,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0030】
混合溶液Aを調製する際の温度及び時間は特に制限はない。例えば、温度は0〜80℃とすることができ、時間は0.01〜50時間とすることができる。
【0031】
混合溶液Aを電子輸送層(特に多孔質電子輸送層)上に成膜する方法は特に制限されず、スピンコート、スクリーン印刷、ロールコート、ディップコート、スプレー、ナイフコート、バーコート、ダイコート、カーテンコート等の湿式塗布法が挙げられるが、膜厚、成膜性等の観点から、スピンコートが好ましい。
【0032】
なお、スピンコートを採用する場合の条件は、所望の膜厚に応じて、適宜設定することができる。
【0033】
乾燥の条件は特に制限はないが、余分な溶媒を除去できる程度に加熱することが好ましい。
【0034】
ここでは、一般式(1)で示される化合物を含有する光吸収層の製造方法について一例を示したが、これに限定されることはなく、様々な組成及び条件で作製することができる。また、他の組成の一般式(1)で示される化合物を含む光吸収層についても、上記と同様に成膜することができる。
【0035】
<多孔質電子輸送層>
本発明では、多孔質電子輸送層は、上記光吸収層の下に形成されることが好ましい。
【0036】
多孔質電子輸送層は、多孔質構造を有している。多孔質構造とは、特に制限されるわけではないが、粒状体、線状体(線状体:針状、チューブ状、柱状等)等が集合して、全体として多孔質な性質を有していることが好ましい。また、細孔サイズはナノスケールであることが好ましい。多孔質構造を有することにより、ナノスケールであるため、光吸収層の活性表面積を著しく増加させ、光電変換効率を向上させ、常温(25℃等)及び高温(85℃等)における光電変換効率維持率を向上させるとともに、電子収集に優れる多孔質電子輸送層とすることができる。
【0037】
多孔質電子輸送層は、透光性の多孔質電子輸送材料を含む層(透光性の多孔質電子輸送材料からなる層)とすることが好ましい。透光性の多孔質電子輸送材料としては、特に制限されないが、具体的には、酸化チタン(TiO
2等)、酸化タングステン(WO
2、WO
3、W
2O
3等)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb
2O
5等)、酸化タンタル(Ta
2O
5等)、酸化イットリウム(Y
2O
3等)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3等)等の一種又は二種以上を採用できる。なお、半導体を使用する場合には、ドナーがドープされていてもよい。これにより、多孔質電子輸送層が、光吸収層に導入するための窓層となり、且つ、光吸収層から得られた電力をより効率よく取り出すことができる。透光性の多孔質電子輸送材料として酸化チタン(TiO
2等)を採用する場合には、結晶形態はアナターゼ型が好ましい。
【0038】
多孔質電子輸送層の厚みは、10〜2000nm程度が好ましく、20〜1500nm程度がより好ましい。多孔質電子輸送層の厚みを上記範囲内とすることにより、より確実に且つ、光吸収層からの電子を収集することができる。
【0039】
上記説明した多孔質電子輸送層を、例えばスクリーン印刷等の非真空プロセスにより形成すれば、より簡便に本発明の光電変換装置を製造することが可能である。また、大面積化が容易で品質が安定するという利点も有する。
【0040】
<緻密電子輸送層>
本発明では、緻密電子輸送層は、上記多孔質電子輸送層の下に形成されることが好ましい。あるいは、上記多孔質電子輸送層がない場合には緻密電子輸送層が上記光吸収層の下に形成されることが好ましい。この緻密電子輸送層は、平滑構造を有するものである。
【0041】
緻密電子輸送層は、透光性の電子輸送材料を含有する層(特に透光性の電子輸送材料からなる層)とすることが好ましい。透光性の電子輸送材料としては、特に制限されないが、具体的には、酸化チタン(TiO
2等)、酸化タングステン(WO
2、WO
3、W
2O
3等)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb
2O
5等)、酸化タンタル(Ta
2O
5等)、酸化イットリウム(Y
2O
3等)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3等)等の一種又は二種以上を採用できる。なお、半導体を使用する場合には、ドナーがドープされていてもよい。これにより、多孔質電子輸送層からのリークをより抑制することができる。透光性の電子輸送材料として酸化チタン(TiO
2等)を採用する場合には、結晶形態はアナターゼ型が好ましい。
【0042】
緻密電子輸送層の厚みは、1〜100nm程度が好ましく、5〜50nm程度がより好ましい。電子輸送層の厚みを上記範囲内とすることにより、より確実にリーク電流を抑制することができる。
【0043】
上記説明した電子輸送層を、例えばスプレー等の非真空プロセスにより形成すれば、より簡便に本発明の光電変換装置を製造することが可能である。また、大面積化が容易で品質が安定するという利点も有する。
【0044】
スプレーで緻密電子輸送層を形成する場合には、噴霧表面が室温〜700℃程度、好ましくは300〜500℃程度に調整された基材(好ましくは後述の透光性導電層)に、所定の透光性の電子輸送材料を含む原料溶液を、空気中で噴霧することが好ましい。透光性の電子輸送材料として酸化チタン(TiO
2等)を使用する場合には、上記温度範囲内に調整することで、酸化チタン(TiO
2等)の結晶性を向上させ、絡電流密度Jsc及び開放電圧Vocを改善できるため、光電変換効率を向上させることができる。
【0045】
<第一電極層:透光性導電層>
本発明では、透光性導電層は、上記多孔質電子輸送層の下に形成されることが好ましい。なお、緻密電子輸送層を形成する場合には、透光性導電層は、緻密電子輸送層の下に形成されることが好ましい。
【0046】
透光性導電層は、例えば、透明導電性酸化物を含有する層(特に透明導電性酸化物からなる層)とすることが好ましい。透明導電性酸化物としては、例えば、フッ素ドープ錫酸化物(FTO)、インジウム錫酸化物(ITO)、ガリウムドープ亜鉛酸化物(GZO)、アルミドープ亜鉛酸化物(AZO)、ニオブドープチタン酸化物(TNO)等の一種又は二種以上を採用できる。これにより、透光性導電層が、光吸収層に導入するための窓層となり、且つ、光吸収層から得られた電力を効率よく取り出すことができる。
【0047】
透光性導電層の厚みは、0.01〜10.0μm程度が好ましく、0.3〜1.0μm程度がより好ましい。透光性導電層の厚みを上記範囲内とすることにより、シート抵抗を低減し、結果として光電変換装置のシリーズ抵抗を低減できるため、フィルファクター特性を維持できる。
【0048】
<透光性基板>
本発明では、上記透光性基板は、上記透光性導電層の下に形成されることが好ましい。
【0049】
透光性基板としては、特に制限されないが、例えば、ガラス、プラスチック等から構成することが好ましい。これにより、光を光吸収層に導入するための窓層になり得る。
【0050】
透光性基板の厚みは、特に限定されないが、0.1〜5.0mm程度とすることが好ましい。
【0051】
例えば、インジウム錫酸化物(ITO)膜付きガラス、フッ素ドープ錫酸化物(FTO)膜付きガラス等の透明導電膜付き基板を、透光性基板及び透光性導電層とすることも可能である。
【0052】
<ホール輸送層>
本発明の光電変換装置において、光吸収層の上に、さらにホール輸送層を備えることもできる。
【0053】
ホール輸送層に使用される材料としては、例えば、セレン、ヨウ化銅(CuI)等の沃化物、層状コバルト酸化物等のコバルト錯体、CuSCN、酸化モリブデン(MoO
3等)、酸化ニッケル(NiO等)、4CuBr・3S(C
4H
9)、有機ホール輸送材等が挙げられる。
【0054】
沃化物としては、例えば、ヨウ化銅(CuI)等が挙げられる。層状コバルト酸化物としては、例えば、M
yCoO
2(M=Li、Na、K、Ca、Sr,Ba;0≦y≦1)等が挙げられる。また、有機ホール輸送材としては、例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体、2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(spiro-MeO-TAD)等のフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジフェニルアミン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアニリン誘導体等が挙げられる。
【0055】
ホール輸送層の厚みは、特に制限されないが、0.01〜10μm程度が好ましい。
【0056】
上記したホール輸送層も、メッキ、スプレー、ディップ(ホール輸送層を形成するための材料の溶液(溶媒はn−プロピルスルフィド等の有機溶媒)を滴下して表面を均す操作を繰り返す)等の非真空プロセスにより形成することが好ましい。
【0057】
<第二電極層>
本発明では、ホール輸送層の上に、第二電極層を備えることが好ましい。
【0058】
第二電極層を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、カーボン、金、白金、パラジウム、ロジウム、タングステン、モリブデン、タンタル、チタン、ニオビウム、インジウム錫酸化物、フッ素ドープ錫酸化物、アルミドープ亜鉛酸化物、ガリウムドープ亜鉛酸化物等が好ましい。また、金、白金、パラジウム、ロジウム、タングステン、モリブデン、タンタル、チタン、ニオビウム等の金属の合金等も好ましく用いられる。
【0059】
第二電極層の厚みは、特に制限されないが、0.01〜2.0μm程度とすることが好ましい。
【0060】
2.光電変換装置の用途
本発明の光電変換装置を、発電手段として用い、発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成した構成とすることで、様々な用途に適用可能である。具体的には、本発明の光電変換装置を、本発明の光電変換装置から出力された直流電流を交流電流に変換するインバータ装置、電気モーター、照明装置等の負荷等を有する構成の光電変換装置とすることができる。その用途としては、例えば、建築物の屋根、壁面等に設置される太陽電池等として使用することができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、本実施例において、スラッシュ(/)で区切られた構造は、その順に有することを意味しており、例えば、実施例1の< glass / F-doped SnO
2 / TiO
2/ porous TiO
2 / (HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(K)
0.9Pb
2+I
3-/ CuSCN / Au >構造は、glass、F-doped SnO
2、TiO
2、porous TiO
2、(HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(K)
0.9Pb
2+I
3−、CuSCN、Auが下から順に層形成されていることを意味する。実施例2〜4及び比較例1〜2においても同様である。
【0062】
実施例1
3次元太陽電池のセル構造として、< glass / F-doped SnO
2 / TiO
2/ porous TiO
2 / (HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(K)
0.9PbI
3/ CuSCN / Au >構造の太陽電池を作製した。具体的には下記のとおりに行った。
【0063】
F-doped SnO
2ガラス基板(FTO付きガラス基板)にTiO
2膜を大気中、450℃のホットプレート上でスプレー熱分解法(SPD法)により製膜し約60nmの膜を得た。さらに、室温で、この膜上に、スクリーン印刷法によりporous TiO
2を約1μm製膜し、大気中500℃で30分間焼成することで、3次元チタニア電極を得た。
【0064】
HOOC(CH
2)
4NH
2(東京化成工業(株)製)とヨウ化水素(HI)溶液(東京化成工業(株)製)とを混合し、原料内にある余分な溶媒をエバポレーターで除去後、冷蔵庫冷却することで、黄色沈殿を得た。得られた沈殿をジエチルエーテルで洗浄することで、白色のHOOC(CH
2)
4NH
3I粉末を得た。
【0065】
KIとHOOC(CH
2)
4NH
3IとPbI
2とを0.9:0.1:1の混合比(モル比)でDMFに溶解後、porous TiO
2膜上にスピンコートし、加熱することで、ペロブスカイト結晶膜((HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(K)
0.9PbI
3層)を得た。
【0066】
この(HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(K)
0.9PbI
3層が形成された3次元チタニア電極を取り出した後、エアースプレーガンで余分な溶液を除去した。次に、65℃のホットプレート上で、上記電極の(HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(K)
0.9PbI
3層の上に、0.05 M CuSCNのn−プロピルスルフィド溶液を、一滴滴下してガラス棒で電極表面を均す操作を30回繰り返してホール輸送層(CuSCN層;厚み0.5〜2μm)を形成した。さらに、この上に、Au背面電極(第二電極層)を蒸着法により製膜し目的の太陽電池を得た。
【0067】
実施例2
3次元太陽電池のセル構造として、< glass / F-doped SnO
2 / TiO
2/ porous TiO
2 / (HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(Rb)
0.9PbI
3/ CuSCN / Au >構造の太陽電池を作製した。具体的には、KIの代わりにRbIを用いること以外は実施例1と同様の処理を行い、光吸収層として(HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(Rb)
0.9PbI
3層を有する太陽電池を得た。
【0068】
実施例3
3次元太陽電池のセル構造として、< glass / F-doped SnO
2 / TiO
2/ porous TiO
2 / (HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(Cs)
0.9PbI
3/ CuSCN / Au >構造の太陽電池を作製した。具体的には、KIの代わりにCsIを用いること以外は実施例1と同様の処理を行い、光吸収層として(HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(Cs)
0.9PbI
3層を有する太陽電池を得た。
【0069】
実施例4
3次元太陽電池のセル構造として、< glass / F-doped SnO
2 / TiO
2/ porous TiO
2 / (HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(Fr)
0.9PbI
3/ CuSCN / Au >構造の太陽電池を作製した。具体的には、KIの代わりにFrIを用いること以外は実施例1と同様の処理を行い、光吸収層として(HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(Fr)
0.9PbI
3層を有する太陽電池を得た。
【0070】
比較例1
3次元太陽電池のセル構造として、< glass / F-doped SnO
2 / TiO
2/ porous TiO
2 / (CH
3NH
3)PbI
3 / CuSCN / Au >構造の太陽電池を作製した。具体的には、光吸収層の原料としてKI及びHOOC(CH
2)
4NH
3Iを用いず、CH
3NH
2(東京化成工業(株)製)とヨウ化水素(HI)水溶液(東京化成工業(株)製)とを混合し、原料内にある余分な溶媒をエバポレーターで除去後、冷蔵庫冷却して黄色沈殿を得た後、この沈殿をジエチルエーテルで洗浄することで得た白色のCH
3NH
3IとPbI
2とを1:1の混合比(モル比)でDMFに溶解すること以外は実施例1と同様の処理を行い、光吸収層として(CH
3NH
3)PbI
3層を有する太陽電池を得た。
【0071】
比較例2
3次元太陽電池のセル構造として、< glass / F-doped SnO
2 / TiO
2/ porous TiO
2 / (HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(CH
3NH
3)
0.9PbI
3/ CuSCN / Au >構造の太陽電池を作製した。具体的には、光吸収層の原料としてKIの代わりに比較例1と同様に作製したCH
3NH
3Iを用いること以外は実施例1と同様の処理を行い、光吸収層として(HOOC(CH
2)
4NH
3)
0.1(CH
3NH
3)
0.9PbI
3層を有する太陽電池を得た。
【0072】
試験例
実施例1〜4及び比較例1〜2の太陽電池について、室温でAM1.5のソーラーシミュレータの光(100mW/cm
−2)を照射し、光電変換効率の測定を行った。また、光電変換効率が元の数値の70%になるまでに要する時間も測定した(室温変換効率維持率)。また、85℃においても同様に測定し、光電変換効率が元の数値の70%になるまでに要する時間を測定した(高温変換効率維持率)。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】