特許第6563230号(P6563230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6563230ガラス基板の製造方法、及び、ガラス基板の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563230
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法、及び、ガラス基板の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/225 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
   C03B5/225
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-71255(P2015-71255)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-190753(P2016-190753A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河▲さき▼ 裕之
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−009125(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014906(WO,A1)
【文献】 特表2009−523695(JP,A)
【文献】 特開2004−043288(JP,A)
【文献】 特開2011−157234(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007840(WO,A1)
【文献】 特開2004−091307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00−5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
白金製または白金合金製からなるガラス処理装置において、前記熔融ガラスの液面より上部に気相空間が形成されるように前記熔融ガラスを流して前記熔融ガラスの清澄を行なう清澄工程と、
清澄した前記熔融ガラスからガラス基板を成形する成形工程と、を備え、
前記ガラス処理装置には、
前記気相空間から気体を吸入して、前記気体中の酸素濃度を計測する酸素濃度計と、
前記気相空間と前記酸素濃度計と接続する計測管と、
前記計測管に接続され、前記計測管に不活性ガスを供給するガス供給器と、
前記不活性ガスを加熱する加熱手段と、が設けられ、
前記ガス供給器は、前記酸素濃度計が前記気体の吸入を停止させたときに、前記計測管に前記加熱手段で加熱された前記不活性ガスを供給する、
ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記ガス供給器は、前記計測管に2リットル/分未満の不活性ガスを供給する、
ことを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス処理装置には、前記気体の温度を計測する温度計が設けられ、
前記加熱手段は、前記温度計が計測した気体の温度より高くなるよう前記不活性ガスを加熱する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記計測管の先端部は、白金と金との合金からなる、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
ガラス原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解装置と、
前記熔融ガラスの液面より上部に気相空間が形成されるように前記熔融ガラスを流して前記熔融ガラスの清澄を行なう白金製または白金合金製からなるガラス処理装置と、
清澄した前記熔融ガラスからガラス基板を成形する成形装置と、を備え、
前記ガラス処理装置には、
前記気相空間から気体を吸入して、前記気体中の酸素濃度を計測する酸素濃度計と、
前記気相空間と前記酸素濃度計と接続する計測管と、
前記計測管に接続され、前記計測管に不活性ガスを供給するガス供給器と、
前記不活性ガスを加熱する加熱装置と、が設けられ、
前記ガス供給器は、前記酸素濃度計が前記計測管を通じて前記気体の吸入を停止させたとき、前記計測管に前記加熱装置で加熱された前記不活性ガスを供給する、
ことを特徴とするガラス基板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法、及び、ガラス基板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ガラス基板の製造方法は、特許文献1に記載されているように、ガラス原料を加熱して熔融ガラスを生成する熔融工程と、熔融ガラスからガラス基板を成形する成形工程とを有する。ガラス基板の製造方法は、さらに、熔融工程と成形工程との間に、熔融ガラスに含まれる微小な泡を除去する清澄工程を含む。清澄工程では、As等の清澄剤が配合された熔融ガラスを高温の清澄管に通過させることで、清澄剤の酸化還元反応によって熔融ガラス中の泡が除去される。具体的には、最初に、熔融ガラスの温度を上げて清澄剤を機能させることで、熔融ガラスに含まれる泡を、清澄管内の熔融ガラスの液面に浮上させて除去する。次に、熔融ガラスの温度を下げて、熔融ガラスに残留している微小な泡を、熔融ガラスに吸収させて除去する。熔融ガラスが通過する清澄管は、上側の内壁面と熔融ガラスの液面との間に、気相空間を有する。気相空間は、清澄管に接続された通気管を介して、清澄管の外部空間である外気と連通している。
【0003】
高温の熔融ガラスから高品質のガラス基板を量産するためには、ガラス基板の欠陥の要因となる異物が熔融ガラスに混入しないことが望ましい。そのため、熔融ガラスに接触する部材の内壁は、その部材に接触する熔融ガラスの温度、および、要求されるガラス基板の品質等に応じて、適切な材料で構成される必要がある。熔融ガラスに接触する部材の内壁には、通常、白金族金属が用いられる。以下、「白金族金属」は、単一の白金族元素からなる金属、および、白金族元素からなる金属の合金を意味する。白金族元素は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)およびイリジウム(Ir)の6元素である。白金族金属は、高価であるが、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性に優れている。
【0004】
清澄管の内部を通過する熔融ガラスの温度は、成形されるガラス基板の組成によって異なり、フラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板の場合、1000℃〜1700℃である。近年、環境負荷低減の観点から、Asの代わりにSnOが清澄剤として用いられている。SnOは、Asと比べて清澄効果が小さく、Asと同等の清澄効果を得るためには熔融ガラスの温度を上げる必要がある。具体的には、SnOを清澄剤として用いる場合、清澄管の内部を通過する熔融ガラスの温度は、1500℃〜1700℃に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−522001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SnOを清澄剤として用いるガラス基板の製造方法では、清澄管の内壁は、高温の熔融ガラスと接触している。このとき清澄剤は、昇温により還元反応を起こして酸素を放出する。一方、熔融ガラス中に含まれる気体成分を含む泡は、清澄剤の還元反応によって生じた酸素を吸収する。酸素を吸収して成長した泡は、熔融ガラスの液面に浮上し、破泡して消滅する。また、長期間に亘る清澄管の使用によって、清澄管の内壁から白金族金属が徐々に揮発する。この揮発物は、熔融ガラス中の泡と共に、清澄管の気相空間および通気管を介して外気に排出される。しかし、白金族金属の揮発物は、外気に排出される過程で温度が低下して、過飽和状態になる。そのため、清澄管および通気管の内壁には、凝固した揮発物が析出しやすいという問題がある。以下、清澄管および通気管の内壁に析出した物質を「白金異物」と呼ぶ。この揮発物の酸素濃度を計測することにより、酸素を吸収して成長する泡の量を予測し、白金異物の析出を予測できる。しかし、通気管の内部は、外気と連通しているため温度が低下しやすく、白金異物は、通気管の内壁に特に析出しやすい。酸素を取り込んで酸素濃度を計測するための計測管は通気管に設けられるため、計測管に白金異物が析出し、落下するおそれがある。そして、熔融ガラスに白金異物が混入すると、高品質のガラス基板を量産することが困難になる。
【0007】
そこで、本発明は、熔融ガラスの清澄工程において、熔融ガラスに異物が混入することを抑制することができるガラス基板の製造方法、及び、ガラス基板の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ガラス板の製造方法であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
白金製または白金合金製からなるガラス処理装置において、前記熔融ガラスの液面より上部に気相空間が形成されるように前記熔融ガラスを流して熔融ガラスの清澄を行なう清澄工程と、
清澄した前記熔融ガラスからガラス基板を成形する成形工程と、を備え、
前記ガラス処理装置には、
前記気相空間から気体を吸入して、前記気体中の酸素濃度を計測する酸素濃度計と、
前記気相空間と前記酸素濃度計と接続する計測管と、
前記計測管に接続され、前記計測管に不活性ガスを供給するガス供給器と、
前記不活性ガスを加熱する加熱手段と、が設けられ、
前記ガス供給器は、前記酸素濃度計が前記気体の吸入を停止させたときに、前記計測管に前記加熱手段で加熱された前記不活性ガスを供給する、
ことを特徴とする。
【0009】
前記ガス供給器は、前記計測管に2リットル/分未満の不活性ガスを供給する、ことが好ましい。
【0010】
前記ガラス処理装置には、前記気体の温度を計測する温度計が設けられ、
前記加熱手段は、前記温度計が計測した気体の温度より高くなるよう前記不活性ガスを加熱する、ことが好ましい。
【0011】
前記計測管の先端部は、白金と金との合金からなる、ことが好ましい。
【0012】
本発明の他の態様は、ガラス板の製造装置であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解装置と、
前記熔融ガラスの液面より上部に気相空間が形成されるように前記熔融ガラスを流して前記熔融ガラスの清澄を行なう白金製または白金合金製からなるガラス処理装置と、
清澄した前記熔融ガラスからガラス基板を成形する成形装置と、を備え、
前記ガラス処理装置には、
前記気相空間から気体を吸入して、前記気体中の酸素濃度を計測する酸素濃度計と、
前記気相空間と前記酸素濃度計と接続する計測管と、
前記計測管に接続され、前記計測管に不活性ガスを供給するガス供給器と、
前記不活性ガスを加熱する加熱装置と、が設けられ、
前記ガス供給器は、前記酸素濃度計が前記計測管を通じて前記気体の吸入を停止させたとき、前記計測管に前記加熱装置で加熱された前記不活性ガスを供給する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記態様によれば、熔融ガラスに異物が混入することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係るガラス基板製造方法の工程を示すフローチャートである。
図2】本実施形態に係るガラス基板製造装置の構成を示す模式図である。
図3】清澄管の外観図である。
図4】清澄管の長手方向における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)ガラス基板製造装置の全体構成
本発明に係るガラス基板の製造方法、および、ガラス基板の製造装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るガラス基板製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【0016】
ガラス基板製造方法は、図1に示されるように、主として、熔解工程S1と、清澄工程
S2と、攪拌工程S3と、成形工程S4と、徐冷工程S5と、切断工程S6とを備える。
【0017】
熔解工程S1では、ガラス原料が加熱されて熔融ガラスが得られる。熔融ガラスは、熔解槽に貯留され、所望の温度を有するように通電加熱される。ガラス原料には、清澄剤が添加される。環境負荷低減の観点から、清澄剤として、SnOが用いられる。
【0018】
清澄工程S2では、清澄管の内部を熔融ガラスが流れる。最初に、熔融ガラスの温度を上昇させる。清澄剤は、昇温により還元反応を起こして酸素を放出する。熔融ガラス中に含まれるCO、N、SO等の気体成分を含む泡は、清澄剤の還元反応によって生じた酸素を吸収する。酸素を吸収して成長した泡は、熔融ガラスの液面に浮上し、破泡して消滅する。消滅した泡に含まれていたガスは、清澄管内の気相空間に放出され、最終的に外気に排出される。次に、清澄工程S2では、熔融ガラスの温度を低下させる。これにより、還元された清澄剤は、酸化反応を起こして、熔融ガラス中に残存している酸素等のガス成分を吸収する。
【0019】
攪拌工程S3では、清澄された熔融ガラスが攪拌されて、熔融ガラスの成分が均質化される。これにより、ガラス基板の脈理等の原因である熔融ガラスの組成ムラが低減される。均質化された熔融ガラスは、成形工程S4に送られる。
【0020】
成形工程S4では、例えばオーバーフローダウンドロー法またはフロート法によって、熔融ガラスからガラスリボンが連続的に成形される。
【0021】
徐冷工程S5では、成形工程S4で連続的に成形されたガラスリボンが所望の厚みを有し、かつ、歪みおよび反りが生じないように、徐々に冷却される。
【0022】
切断工程S6では、徐冷工程S5で徐冷されたガラスリボンが所定の長さに切断されて、ガラスシートが得られる。ガラスシートは、さらに、所定のサイズに切断されて、ガラス基板が得られる。その後、ガラス基板の端面の研削および研磨、並びに、ガラス基板の洗浄が行われる。さらに、ガラス基板のキズ等の欠陥の有無が検査され、検査に合格したガラス基板が梱包されて製品として出荷される。
【0023】
図2は、本実施形態に係るガラス基板製造装置200の構成の一例を示す模式図である。ガラス基板製造装置200は、熔解槽40と、清澄管41と、攪拌装置100と、成形装置42と、移送管43a,43b,43cとを備える。移送管43aは、熔解槽40と清澄管41とを接続する。移送管43bは、清澄管41と攪拌装置100とを接続する。移送管43cは、攪拌装置100と成形装置42とを接続する。なお、本実施形態では、熔融ガラスGが流れる、熔解槽40、清澄管41、攪拌装置100、成形装置42、移送管43a,43b,43がガラス処理装置に相当する。
【0024】
熔解槽40で生成された熔融ガラスGは、移送管43aを通過して清澄管41に流入する。清澄管41で清澄された熔融ガラスGは、移送管43bを通過して攪拌装置100に流入する。攪拌装置100で攪拌された熔融ガラスGは、移送管43cを通過して成形装置42に流入する。成形装置42では、オーバーフローダウンドロー法によって熔融ガラスGからガラスリボンGRが成形される。ガラスリボンGRは、後の工程で所定の大きさに切断されて、ガラス基板が製造される。ガラス基板の幅方向の寸法は、例えば、500mm〜3500mmである。ガラス基板の長さ方向の寸法は、例えば、500mm〜3500mmである。
【0025】
本発明に係るガラス基板の製造方法、および、ガラス基板の製造装置によって製造されるガラス基板は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板として、特に適している。FPD用のガラス基板としては、無アルカリガラス、または、アルカリ微量含有ガラスが用いられる。FPD用のガラス基板は、高温時における粘性が高い。例えば、102.5ポアズの粘性を有する熔融ガラスの温度は、1500℃以上である。
【0026】
熔解槽40は、バーナー等の加熱手段(図示せず)を備えている。熔解槽40では、加熱手段によりガラス原料が熔解され、熔融ガラスGが生成される。ガラス原料は、所望の組成のガラスを実質的に得ることができるように調製される。ガラスの組成の一例として、FPD用のガラス基板として好適な無アルカリガラスは、SiO:50質量%〜70質量%、Al:0質量%〜25質量%、B:1質量%〜15質量%、MgO:0質量%〜10質量%、CaO:0質量%〜20質量%、SrO:0質量%〜20質量%、BaO:0質量%〜10質量%を含有する。ここで、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計の含有量は、5質量%〜30質量%である。
【0027】
また、FPD用のガラス基板として、アルカリ金属を微量含むアルカリ微量含有ガラスを用いてもよい。アルカリ微量含有ガラスは、成分として、0.1質量%〜0.5質量%のR’Oを含み、好ましくは、0.2質量%〜0.5質量%のR’Oを含む。ここで、R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。なお、R’Oの含有量の合計は、0.1質量%未満であってもよい。
【0028】
本発明によって製造されるガラスは、上記成分に加えて、SnO:0.01質量%〜1質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.5質量%)、Fe:0質量%〜0.2質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.08質量%)をさらに含有してもよい。また、本発明によって製造されるガラスは、環境負荷を考慮して、As、SbおよびPbOを実質的に含有しない。
【0029】
上記のように調製されたガラス原料は、原料投入機(図示せず)を用いて熔解槽40に投入される。原料投入機は、スクリューフィーダを用いてガラス原料の投入を行ってもよく、バケットを用いてガラス原料の投入を行ってもよい。熔解槽40では、ガラス原料は、その組成等に応じた温度に加熱されて熔解される。これにより、熔解槽40では、例えば、1500℃〜1600℃の高温の熔融ガラスGが得られる。なお、熔解槽40では、モリブデン、白金または酸化錫等で構成された少なくとも1対の電極間に電流を流すことで、電極間の熔融ガラスGが通電加熱されてもよく、また、通電加熱に加えてバーナーによる火焔を補助的に与えることで、ガラス原料が加熱されてもよい。
【0030】
熔解槽40で得られた熔融ガラスGは、熔解槽40から移送管43aを通過して清澄管41に流入する。清澄管41および移送管43a,43b,43cは、白金製あるいは白金合金製の管である。清澄管41には、熔解槽40と同様に加熱手段が設けられている。清澄管41では、熔融ガラスGがさらに昇温させられることで清澄される。例えば、清澄管41において、熔融ガラスGの温度は、1500℃〜1700℃に上昇させられる。
【0031】
清澄管41において清澄された熔融ガラスGは、清澄管41から移送管43bを通過して攪拌装置100に流入する。熔融ガラスGは、移送管43bを通過する際に冷却される。攪拌装置100では、清澄管41を通過する熔融ガラスGの温度よりも低い温度で、熔融ガラスGが攪拌される。例えば、攪拌装置100において、熔融ガラスGの温度は、1250℃〜1450℃である。例えば、攪拌装置100において、熔融ガラスGの粘度は、500ポアズ〜1300ポアズである。熔融ガラスGは、攪拌装置100において攪拌されて均質化される。
【0032】
攪拌装置100で均質化された熔融ガラスGは、攪拌装置100から移送管43cを通過して成形装置42に流入する。熔融ガラスGは移送管43cを通過する際に、熔融ガラスGの成形に適した粘度となるように冷却される。例えば、熔融ガラスGは、1200℃付近まで冷却される。成形装置42では、オーバーフローダウンドロー法により熔融ガラスGが成形される。具体的には、成形装置42に流入した熔融ガラスGは、成形炉(図示せず)の内部に設置されている成形体52に供給される。成形体52は、耐火レンガによって成形され、楔状の断面形状を有する。成形体52の上面には、成形体52の長手方向に沿って溝が形成されている。熔融ガラスGは、成形体52の上面の溝に供給される。溝から溢れた熔融ガラスGは、成形体52の一対の側面を伝って下方へ流下する。成形体52の側面を流下した一対の熔融ガラスGは、成形体52の下端で合流して、ガラスリボンGRが連続的に成形される。ガラスリボンGRは下方へ流れるに従って徐々に冷却され、その後、所望の長さのガラスシートに切断される。
【0033】
(2)清澄管の構成
次に、清澄管41の詳細な構成について説明する。図3は、清澄管41の外観図である。図4は、清澄管41の長手方向に沿って、清澄管41を垂直に切断した概略断面図である。図3に示すように、清澄管41には、通気管41a、および、一対の加熱電極41bが取り付けられている。清澄管41の内部では、気相空間41cが上方に形成されている状態で熔融ガラスGが流れる。すなわち、清澄管41の内部には、図4に示すように、熔融ガラスGの液面LSが存在する。通気管41aの内部空間は、気相空間41cと連通している。また、一対の加熱電極41bの間に電流を流すことで、清澄管41が通電加熱される。これにより、清澄管41の内部を通過する熔融ガラスGが加熱されて清澄される。また、不活性ガスを清澄管41内の気相空間41cに流すことで流路内における酸素分圧を低く抑える。不活性ガスは、例えば清澄管41に設けられた通気管41aを通して、図示されない不活性ガス供給源から配管を通して供給される。不活性ガスの供給量は特に制限されないが、供給量が多いほど、酸素分圧が低下して白金あるいは白金合金が揮発し難くなることから、不活性ガスの供給量が多いことが好ましい。熔融ガラスGの清澄過程において、熔融ガラスG中に含まれるCO、N、SO等の気体成分を含む泡は、清澄剤の還元反応によって生じた酸素を吸収する。酸素を吸収して成長した泡は、熔融ガラスGの液面LSに浮上し、破泡して消滅する。消滅した泡に含まれていたガスは、清澄管41内の気相空間41cに放出され、通気管41aを経由して外気に排出される。
【0034】
加熱電極41bは、清澄管41の両端部のそれぞれに取り付けられる、フランジ形状の電極板である。加熱電極41bは、電源(図示せず)と接続されている。加熱電極41bに電力が供給されることにより、一対の加熱電極41bの間の清澄管41に電流が流れ、清澄管41が通電加熱される。これにより、清澄管41は、例えば、1700℃に加熱され、清澄管41の内部を流れる熔融ガラスGは、熔融ガラスGに含まれる清澄剤であるSnOの還元反応が起こる温度、例えば、1600℃〜1650℃に加熱される。清澄管41を流れる電流を制御することで、清澄管41の内部を流れる熔融ガラスの温度を制御することができる。なお、清澄管41に取り付けられる加熱電極41bの数および位置は、清澄管41の材質、内径および長さ、または、通気管41aの位置等に応じて、適宜に決定されてもよい。
【0035】
また、図3および図4には示されていないが、清澄管41の外壁面には、アルミナセメント等からなる耐火物保護層が設けられている。耐火物保護層の外壁面には、さらに、耐火物レンガが設けられている。耐火物レンガは、基台(図示せず)に載置されている。すなわち、清澄管41は、耐火物保護層および耐火物レンガによって下方から支持されている。
【0036】
また、白金異物が熔融ガラスに落下することを防止するために、通気管41a及び計測管44に、受け部を設けることもできる。受け部の構成については、特開2014−47124号公報に記載される内容を含み、当該内容が参酌される。
【0037】
本実施形態に係るガラス板の製造方法では、ガラス原料を加熱して生成された熔融ガラスGは、清澄管41の内部を通過する際に加熱される。清澄管41の内部では、熔融ガラスGに添加されている清澄剤であるSnOの酸化還元反応によって、熔融ガラスGに含まれるCOまたはSOを含む泡が除去される。具体的には、最初に、熔融ガラスGの温度を上げて、清澄剤を還元させることにより、酸素の泡を熔融ガラスG中に発生させる。熔融ガラスG中に含まれるCO、N、SO等の気体成分を含む泡は、清澄剤の還元反応によって生じた酸素を吸収する。酸素を吸収して成長した泡は、熔融ガラスGの液面LSに浮上し、破泡して消滅する。消滅した泡に含まれていたガスは、気相空間41cに放出され、通気管41aを経由して外気に排出される。
【0038】
通気管41aは、清澄管41の外壁面に取り付けられ、清澄管41の外方に突出している。本実施形態では、図4に示すように、通気管41aは、清澄管41の外壁面の上端部に取り付けられ、清澄管41の上方に向かって煙突状に突出している。通気管41aは、清澄管41の内部空間の一部である気相空間41cと、清澄管41の外部空間である外気とを連通している。通気管41aは、清澄管41と同様に、白金または白金合金で成形される。
【0039】
通気管41aには、同図に示すように、通気管41aを通過する気相空間41cの気体を取り込むための計測管44と、計測管44から取り込んだ気体の酸素濃度を計測する酸素濃度計45とが設けられている。また、計測管44には、計測管44に窒素(N)を供給するガス供給器46が接続される。計測管44は、例えば、通気管41aと同様に、白金または白金合金で成形され、計測管44から取り込まれて気体が酸素濃度計45に入るよう酸素濃度計45に接続されている。計測管44は、気相空間41cの気体の酸素濃度を計測するできる程度の気体を取り込めればよいため、通気管41aの管内径より細く形成されている。計測管44の管内直径は、5mm〜30mmからなり、より好ましくは、5mm〜20mmからなる。また、計測管44は、例えば、0.5mm〜1.5mmの肉厚管からなる。計測管44の管内直径が短いと、計測管44の管内で揮発物が析出しやすく、計測管44の管内直径が長いと、計測管44から気相空間41cに流れる気体量が増えることによって気相空間41cが冷却され、計測管44の気体取り込み口近傍で揮発物が析出しやすい。このため、計測管44の管内直径は、好ましくは5mm〜30mmからなり、より好ましくは5mm〜20mmからなる。また、計測管44の気体を取り込む先端部は、白金と金との合金からなることが好ましい。白金と金との合金は、白金に比べ、濡れ性が高い。計測管44の先端部は揮発物が析出(付着)しやすいため、計測管44の先端部に析出する揮発物と、計測管44の先端部との濡れ性を高く保つ、つまり、揮発物と計測管44との接触角を小さくすることにより、揮発物が計測管44から離れにくくなる。これにより、計測管44の先端部に析出した揮発物が落下するのを抑制できる。
【0040】
酸素濃度計45は、例えば、ジルコニア式、磁気式、電極式の計測器から構成される、酸素濃度を計測できる任意の市販の機器である。酸素濃度計45は、計測管44から取り込まれた気体の酸素濃度を計測する。酸素濃度計45は、外気に排出される気体の酸素濃度を計測することにより、白金族金属の揮発物が析出しやすい濃度であるか否かを判定する。また、酸素濃度計45は、熔融ガラスGの液面LSに浮上し、破泡して放出される酸素量を計測することにより、清澄管41において清澄剤から放出される酸素量を予測し、白金異物の析出を予測する。気体中の酸素濃度が高い場合、酸素を吸収して泡が成長しやすいため、泡に含まれる揮発した白金族金属の揮発物の量が多いため、白金異物が析出しやすい。一方、気体中の酸素濃度が低い場合、酸素を吸収して泡が成長しにくい、泡に含まれる揮発した白金族金属の揮発物の量が少ないため、白金異物が析出しにくい。このため、気体中の酸素濃度を計測することにより、白金金属の揮発物が析出しやすい濃度であるか否かを判定することができ、また、白金異物の析出を予測することができる。
【0041】
ガス供給器46は、計測管44に接続され、計測管44に不活性ガス、具体的には窒素ガスを供給する。白金族金属の揮発物を含む気体は、通気管41aを介して外気に排出されるが、外気に排出される過程で温度が低下して、過飽和状態になる。特に、計測管44から取り込まれる白金族金属の揮発物を含む気体は、計測管44の取り込み口から酸素濃度計45に向かうにつれて温度が低下して過飽和状態になり、計測管44の管内で揮発物が析出し、計測管44が詰まることがある。計測管44が揮発物(析出物)によって詰まると、気体の酸素濃度を安定して計測することができなくなる。また、計測管44から揮発物が落下して、熔融ガラスに白金異物が混入する場合がある。このため、酸素濃度計45が酸素濃度を測定する前の待機状態では、ガス供給器46は計測管44に窒素を供給し、管内部を窒素で充満させて、計測管44内に白金族金属の揮発物を含む気体が流入するのを抑制することにより、計測管44に揮発物が詰まることを防止している。また、ガス供給器46は、供給する不活性ガスを加熱する加熱手段を備える。計測管44に供給される不活性ガスの温度が低いと、不活性ガスにより冷却された計測管44を通じて取り込まれる白金族金属の揮発物を含む気体が冷却され、計測管44の管内で揮発物が析出し、計測管44が詰まることがある。このため、加熱した不活性ガスを計測管44に供給することにより、計測管44に揮発物が詰まることを防止している。これにより、安定して酸素濃度を計測することができ、また、揮発物が落下して、熔融ガラスに白金異物が混入することを抑制できる。ガス供給器46が供給する不活性ガスは、特に白金族金属にとって不活性な気体、白金族金属との反応性が酸素よりも低い気体であれば任意であり、例えば、窒素、希ガス、一酸化炭素を用いることができる。
【0042】
温度計47は、例えば熱電対等から構成され、計測管44が気体を取り込む取込口近傍の気体の温度を計測する。ガス供給器46から供給される窒素の温度が、気相空間41cの気体の温度より低い場合、ガス供給器46から供給される窒素が計測管44を通じて気相空間41cに入り、気相空間41cの温度を下げることになる。気相空間41cの温度が下がると揮発物が析出しやすくなり、特に、計測管44の入り口付近に、析出物が発生、堆積することにより、計測管44が塞がれて、詰まるおそれがある。このため、気相空間41cの気体の温度より高い温度の窒素を計測管44に供給することにより、計測管44の入り口付近での揮発物の析出を抑制できる。
【0043】
次に、不活性ガス(窒素)を計測管44に供給することにより、計測管44に析出する揮発物を抑制する方法について説明する。
まず、温度計47は、計測管44が気体を取り込む取込口近傍の気体の温度を計測する。次に、ガス供給器46は、温度計47が計測した気体の温度より高い温度の不活性ガス(窒素)を計測管44に供給し続ける。計測管44に不活性ガスを供給し続けることにより、計測管44内に不活性ガスが満たされて、計測管44内に気相空間41cの気体が入り込むことが抑制され、計測管44内で揮発物が析出して、計測管44が詰まるのを防止することができる。また、計測管44の詰まり防止できるため、酸素濃度計45により気体の酸素濃度を精度よく計測することができる。また、気相空間41cの気体の温度より高い温度の不活性ガスを供給することにより、計測管44の取込口に揮発物が析出するのを抑制できるため、揮発物が計測管44から落下して、熔融ガラスに白金異物が混入するのを抑制することができる。ガス供給器46が供給する不活性ガスの量は、例えば、0.3〜2リットル/分である。不活性ガスの供給量が少ないと、計測管44内に気相空間41cの気体が入り込み、計測管44内で揮発物が析出するおそれがある。このため、0.3リットル/分以上の不活性ガスを供給することが好ましく、より好ましくは0.5リットル/分以上である。また、不活性ガスの供給量が多いと、計測管44の取込口に析出した揮発物が不活性ガスにより吹き飛ばされ、揮発物が落下して熔融ガラスに白金異物が混入するおそれがある。また、不活性ガスの供給量が多いと、気相空間41c内に不活性ガスが多量に供給されるため、酸素濃度計45によって計測する気相空間41cの気体の酸素が変化し、酸素量から算出される白金異物の析出の予測が困難となる。このため、2リットル/分未満の不活性ガスを供給することが好ましく、より好ましくは1.5リットル/分以下である。また、不活性ガスを供給する際に、温度計47が計測した気体の温度より不活性ガスの温度が高くなるように、計測管44を加熱して、計測管44の気体取り込み口から放出される不活性ガスの温度を高めることもできる。
【0044】
次に、気体の酸素濃度を計測する場合、ガス供給器46が不活性ガスの供給を停止した後、酸素濃度計45は、計測管44を通じて気相空間41cの気体を取り込む。計測管44に気相空間41cの気体が入ると、計測管44内で気体が冷却され、計測管44内に揮発物が析出するおそれがある。しかし、計測管44内には、気相空間41cの気体の温度より高い温度の不活性ガスが直前まで供給されていたため、計測管44内の温度が高く保たれて、計測管44内において揮発物が析出するのが抑制される。これにより、計測管44の詰まり防止できるため、酸素濃度計45により気体の酸素濃度を精度よく計測することができる。また、揮発物が落下して、熔融ガラスに白金異物が混入するのを抑制することができる。
【0045】
酸素濃度計45が計測管44から取り込まれた気体の酸素濃度を計測した後、ガス供給器46は、不活性ガスを計測管44に再び供給する。これにより、計測管44内に不活性ガスが再び満たされて、計測管44内に気相空間41cの気体が入り込むことが抑制され、計測管44内で揮発物が析出して、計測管44が詰まるのを防止することができる。
【0046】
以上の処理を繰り返すことにより、計測管44が詰まることを防止しつつ、気相空間41cの気体の酸素濃度を精度よく計測することができるため、酸素を吸収して成長する泡の量を予測し、白金異物の析出を予測できる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態では、気体の酸素濃度を計測する前に、計測管44に一定量の不活性ガスを供給し続けることにより、計測管44が白金族金属の揮発物により詰まることを防止することができる。また、計測管44に析出する揮発物が落下して、熔融ガラスに白金異物が混入するのを抑制することができる。また、計測管44が詰まるのを防止することができるため、酸素濃度を精度よく計測でき、白金異物の析出を予測できる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
ガス供給器46が供給する窒素の量を、0.3リットル/分〜2.0リットル/分の間で変化させて、計測管44に析出する白金族金属の揮発物による計測管44の閉塞状態を観察した。計測管44の管内直径が10mmのものを用いた。また、温度計47により計測した気相空間41cの気体は、1400℃〜1450℃であったため、この温度より高い窒素を供給した。窒素供給量によって変化する揮発物の状態を結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、計測管44に供給する窒素量が0.5リットル/分〜2.0リットル/分の場合、計測管44には揮発物が析出しなかった。しかし、計測管44に供給する窒素量が2.0リットル/分の場合、清澄管41に線状の白金が生成して溶融ガラスに混入した。これは、計測管44に供給する窒素量が増えたためと考えられる。このため、計測管44に供給する窒素量は、2.0リットル/分未満が適切な窒素供給量であることがわかった。また、計測管44に供給する窒素量が0.1リットル/分の場合、計測管44が揮発物により完全に閉塞した。計測管44が完全に閉塞すると、計測管44に窒素や気体を通そうとする際に、計測管44から揮発物が剥がれ落ちて熔融ガラスに白金異物が混入するため、不適であることが明らかになった。
【0052】
以上の結果から、計測管44への窒素供給量、つまり、計測管44の気体取り込み口から気相空間41cに放出される窒素量は、0.1リットル/分超〜2.0リットル/分未満が好ましく、より好ましくは0.5リットル/分以上〜1.5リットル/分以下であり、この範囲の窒素供給量であれば、計測管44に析出した揮発物が剥がれ落ちて、熔融ガラスに白金異物として混入することを抑制することができることがわかった。
【0053】
本発明のガラス板の製造方法、ガラス板の製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0054】
41 清澄管
41a 通気管
41b 加熱電極
41c 気相空間
44 計測管
45 酸素濃度計
46 ガス供給器
47 温度計
200 ガラス板の製造装置
G 熔融ガラス
LS 熔融ガラスの液面
図1
図2
図3
図4