(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
超伝導リングに中心ノードを挟んで二つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子(SQUID)と、前記超伝導量子干渉素子に磁束を誘起させる電源線と、前記超伝導量子干渉素子の電流を出力する超伝導トランスとを備えた断熱型量子磁束パラメトロン回路であって、
前記超伝導トランスは、それぞれ一次側配線及び二次側配線を有する一対のトランス部を備え、
前記一対のトランス部は、
前記一次側配線の一対の配線は、当該一対の配線の両入力端を前記超伝導量子干渉素子の中心ノードに接続すると共に、前記電源線との磁気結合によって一次側配線の一対の配線に誘導される電流の方向を前記一対の配線の入力端に対して互いに逆方向とし、
前記二次側配線の一対の配線は、当該一対の配線の両出力端を前記断熱型量子磁束パラメトロン回路の出力端に接続すると共に、前記電源線との磁気結合によって二次側配線の一対の配線に誘導される電流の方向を前記一対の配線の出力端に対して互いに逆方向とすることを特徴とする、断熱型量子磁束パラメトロン回路。
前記二次側配線のインダクタンスは前記一次側配線のインダクタンスよりも大きいことを特徴とする、請求項1から5の何れか一つに記載の断熱型量子磁束パラメトロン回路。
【背景技術】
【0002】
超伝導集積回路では、磁束量子を情報の媒体として用い、論理演算や記憶等の信号処理が低消費電力でかつ高速で行われる。超伝導集積回路において、配線には直流抵抗がゼロの超伝導配線が用いられ、論理回路を構成するスイッチ素子としてジョセフソン接合が用いられる。
【0003】
超伝導集積回路として、超伝導を用いた単一磁束量子回路(SFQ回路)や、断熱型磁束量子パラメトロン回路(AQFP回路)が知られている。超伝導集積回路は、例えば、超伝導集積回路によってプロセッサやDSPなどのディジタル集積回路の他、超伝導集積回路によってA/Dコンバータ回路やD/Aコンバータ回路や電圧標準回路などのミックスドシグナル集積回路等を構成することができる。
【0004】
断熱型量子磁束パラメトロン回路は、出力信号を伝搬する構成として超伝導トランスを備えている。
【0005】
断熱型量子磁束パラメトロン回路は、回路内の電源線と信号線との間や電源線と超伝導トランスとの間の浮遊的な磁気結合によって誤動作し、論理動作が不安定となるという問題があることが知られている。
【0006】
図13は従来の断熱型量子磁束パラメトロン回路の構成例を説明するための図であり、
図13(a),(b)は概略構成を示し、
図13(a)は超伝導トランスにおいて一次側インダクタンスと二次側インダクタンスが重なった状態を示し、
図13(b)は説明のために二次側インダクタンスを分離した状態で示している。
図13(c)は等価回路を示している。
【0007】
断熱型量子磁束パラメトロン回路101は、超伝導量子干渉素子(SQUID)102と電源線103と超伝導トランス104とから構成される。超伝導量子干渉素子102は、中心ノード102cを挟んで超伝導リング102dに二つのジョセフソン接合102a,102b(J1,J2)を備え、電源線103により誘起された磁束が加えられる。
【0008】
超伝導量子干渉素子102は、入力信号Iinに応じて論理状態を決定すると共に電流増幅する。超伝導トランス104は、一次側配線104aと二次側配線104bとを備え、超伝導量子干渉素子102の出力を出力端104cから出力信号Ioutとして出力する。
【0009】
電源線103の励起電流(バイアス電流)Ixにより誘起された磁束は超伝導トランス104の一次側インダクタンスLq及び二次側インダクタンスLoutと交差して浮遊的な磁気結合が行われ、電源線103のインダクタンスLxと一次側インダクタンスLqとの間は結合係数Kxqで磁気結合され、電源線103のインダクタンスLxと二次側インダクタンスLoutとの間は結合係数Kxoutで磁気結合される。この電源線103と超伝導トランス104との間の浮遊的磁気結合は、断熱型量子磁束パラメトロン回路101が誤動作する要因となる。
図13(c)において、破線で示した結合係数Kxq及びKxoutは電源線103と超伝導トランス104との間の浮遊的磁気結合を表している。
【0010】
本願発明の発明者は、この浮遊的磁気結合による論理動作の不安定性の課題を解決するために、超伝導トランスに超伝導シールドを設ける構成を提案している(非特許文献1)。
【0011】
図14は超伝導シールドを設けた断熱型量子磁束パラメトロン回路を説明するための図である。
図14(a)は概略構成を示し、
図14(b)はグランドプレン上に設けた超伝導トランスと超伝導シールドのレイヤー状態を示し、
図14(c)は回路構成を示している。超伝導シールド110を超伝導トランス104の上部を覆うように設け、超伝導トランス104と電源線103との間の磁気結合を遮断する。
【0012】
超伝導トランス104に超伝導シールド110を設けることによって、電源線103のインダクタンスLxと超伝導トランス104の一次側インダクタンスLqとの間の結合係数Kxq、及び電源線103のインダクタンスLxと超伝導トランス104の二次側インダクタンスLoutとの間の結合係数Kxoutは抑制される。
図14(b)は、結合係数Kxq及び結合係数Kxoutの磁気結合が抑制された状態を示し、
図13(c)で示した破線の浮遊的磁気結合は解消される。
【0013】
超伝導シールド110は、結合係数Kxq及び結合係数Kxoutの磁気結合を抑制すると共に、超伝導トランス104において一次側インダクタンスLqと二次側インダクタンスLoutとの間の結合係数Koutを低減する。この結合係数Koutの低減は、超伝導トランス104の出力レベルを低下させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
超伝導トランスに超伝導シールドを設ける構成は、断熱型量子磁束パラメトロン回路内の不要な浮遊的磁気結合を抑制することができるものの、超伝導シールドによって一次側インダクタンスと二次側インダクタンスとの間の結合係数を小さくして磁気結合を低減させる。この磁気結合の低下は、断熱型量子磁束パラメトロン回路の出力レベルの低下を招くため、断熱型量子磁束パラメトロン回路の論理動作が不安定となって動作余裕度が低下したり、十分な出力レベルが得られないことから配線長を長くすることができないといった問題がある。
【0016】
そこで、本願発明は前記した従来の問題点を解決し、超伝導トランスの一次側インダクタンスと二次側インダクタンスとの間の結合係数を低下させることなく、断熱型量子磁束パラメトロン回路内の不要な浮遊的磁気結合による影響を抑制することを目的とする。
【0017】
また、断熱型量子磁束パラメトロン回路内の不要な磁気結合を抑制し、安定した論理動作に十分な出力レベルとして、断熱型量子磁束パラメトロン回路の動作余裕度の低下や配線長の制限を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明は、断熱型量子磁束パラメトロン回路が備える超伝導トランスを一対のトランス部で構成し、一対のトランス部の配置およびトランス部の配線パターンによって、電源線との浮遊的磁気結合によって二つのトランス部に生じる電流の向きを二つのトランス部の結合部に対して逆方向とし、電源線との浮遊的磁気結合によって生じた電流を結合部で相殺させ、これによって、断熱型量子磁束パラメトロン回路内において電源線と超伝導トランスとの浮遊的磁気結合を実質的に無くし、浮遊的磁気結合によって断熱型量子磁束パラメトロン回路の論理動作が誤動作することを解消する。
【0019】
本願発明の超伝導トランスにおいて、電源線との浮遊的磁気結合によって一対のトランス部に流れる電流を互いに逆方向とする構成は、超伝導トランスの一次側インダクタンスと二次側インダクタンスとの間の結合係数に影響を与えないため、超伝導トランスの一次側インダクタンスと二次側インダクタンスとの間の結合係数が低下して、出力レベルが低下することはない。
【0020】
本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路は、超伝導リングに中心ノードを挟んで二つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子(SQUID)と、超伝導量子干渉素子に磁束を誘起させる電源線と、超伝導量子干渉素子(SQUID)の電流を出力する超伝導トランスとを備える。
【0021】
本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路は、超伝導量子干渉素子(SQUID)によって入力電流を電流増幅し、超伝導トランスによって次段の超伝導論理素子に信号を伝搬する。
【0022】
超伝導トランスは、それぞれ一次側配線及び二次側配線を有する一対のトランス部を備える。一対のトランス部において、一次側配線の一対の配線は、当該一対の配線の両入力端を超伝導量子干渉素子の中心ノードに接続すると共に、電源線との磁気結合によって一次側配線の一対の配線に誘導される電流の方向を一対の配線の入力端に対して互いに逆方向とする。また、二次側配線の一対の配線は、当該一対の配線の両出力端を断熱型量子磁束パラメトロン回路の出力端に接続すると共に、電源線との磁気結合によって二次側配線の一対の配線に誘導される電流の方向を一対の配線の出力端に対して互いに逆方向とする。
【0023】
一対のトランス部の両配線には電源線の励起電流によって誘起された磁束が印加されるが、磁束によって一対のトランス部の各配線に誘導される電流の方向を、配線が結合する結合部に対して互いに逆方向とすることによって両電流を相殺させる。これによって、断熱型量子磁束パラメトロン回路内において電源線と超伝導トランスとの浮遊的磁気結合を実質的に無くし、浮遊的磁気結合によって断熱型量子磁束パラメトロン回路の論理動作が誤動作することを解消する。
【0024】
(超伝導トランスの構成)
本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路において、超伝導トランスは、一対のトランス部の配置、及びトランス部の配線パターンによって複数の形態で構成することができる。
【0025】
超伝導トランスの第1の構成:
超伝導トランスの第1の構成において、一対のトランス部の配置は、電源線に対して同一側において電源線の方向に沿って平行であり、且つ、一対のトランス部の一次側配線及び二次側配線の配線パターンは、電源線との磁気結合によって誘起される磁束の方向に対して互いに逆方向である。これによって、一対のトランス部の各配線に誘導される電流の方向を、配線が結合する結合部に対して互いに逆方向とする。
【0026】
また、トランス部の配線パターンにおいて、一対のトランス部の一次側配線及び二次側配線の配線パターンを電源線と直交する直線に対して線対称とする。
【0027】
一対のトランス部は、電源線に対して同一側に電源線との磁気結合によって誘起される磁束の方向に対して互いに逆方向とする構成としておいて電源線の方向に沿って平行に配置されるため、電源線の励起電流によって誘起される磁束の方向は同方向となる。また、一対のトランス部の配線パターンは、電源線との磁気結合によって誘起される磁束の方向に対して互いに逆方向であるため、同方向の磁束によって配線パターンに生じる電流の方向は電流の結合部に対して互いに逆方向となり、一次側配線の入力端の結合部及び二次側配線の出力端の結合部では互いに逆方向で入力した電流が相殺される。
【0028】
超伝導トランスの第2の構成:
超伝導トランスの第2の構成において、一対のトランス部の配置、及び一対のトランス部の一次側配線及び二次側配線の配線パターンは、電源線を挟んで反対側において点対称である。
【0029】
一対のトランス部は、電源線を挟んで反対側において電源線を挟んで反対側に点対照の位置に配置されるため、電源線の励起電流によって誘起される磁束の方向は同方向となる。また、一対のトランス部の配線パターンは電源線を挟んで反対側において電源線を挟んで反対側に点対照であるため、同方向の磁束によって配線パターンに生じる電流の方向は電流の結合部に対して互いに逆方向となり、一次側配線の入力端の結合部及び二次側配線の出力端の結合部では互いに逆方向で入力した電流が相殺される。
【0030】
超伝導トランスの第3の構成:
超伝導トランスの第3の構成において、一対のトランス部の配置は、電源線を挟んで同一側において電源線の方向に対して同位置に積層して成り、且つ、一対のトランス部の配線パターンは、電源線を含む面に対して左右反転の関係にある。
【0031】
一対のトランス部は、電源線を挟んで同一側において電源線の方向において同位置に積層して配置されるため、電源線の励起電流によって誘起される磁束は逆方向となる。また、一対のトランス部の配線パターンは電源線を含む面に対して対称であるため、逆方向に誘起された磁束によって配線パターンに生じる電流の方向は電流の結合部に対して互いに逆方向となり、一次側配線の入力端の結合部及び二次側配線の出力端の結合部は互いに逆方向で入力した電流が相殺される。
【0032】
上記した第1の構成、第2の構成、及び第3の構成によって、一対のトランス部の配置及びトランス部の配線パターンの配置を設定することによって、電源線の励起電流によって誘起される磁束の方向を、一対のトランス部の両配線の結合部に対して電流方向を互いに逆方向とすることができ、これによって浮遊的磁気結合によってトランス部に流れる電流を相殺することができる。
【0033】
上記した各構成の超伝導トランスにおいて、二次側配線のインダクタンスを一次側配線のインダクタンスよりも大きい構成とする。二次側配線のインダクタンスを一次側配線のインダクタンスより大きくする構成は、一次側配線と前記二次側配線との対向配置において、二次側配線の配線長を一次側配線の配線長よりも長く、及び/又は、二次側配線の配線幅を一次側配線の配線幅よりも小さくすることで形成することができる。
【0034】
二次側トランスについて上記構成とすることによって、超伝導トランスの一次側インダクタンスに対する二次側インダクタンスの比率を大きく設定することによって、断熱型量子磁束パラメトロン回路の入力端に戻るバックアクション電流を低減させ、断熱型量子磁束パラメトロン回路の出力端から出力される出力レベルを高めることができる。
【0035】
(断熱型量子磁束パラメトロン回路を用いた超伝導論理素子の形態)
本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路を用いることによって複数種類の超伝導論理素子を構成することができる。
【0036】
超伝導論理素子の第1の形態:
超伝導論理素子の第1の形態は、バッファの機能を奏する形態である。バッファ論理素子は、中心ノードに入力線を接続し、一対のトランス部の配線パターンを、二次側配線の出力端から入力端の電流方向と同方向の電流を出力するように構成する。この構成により、入力線の電流方向と同方向の電流を出力するバッファ機能を奏することができる。
【0037】
超伝導論理素子の第2の形態:
超伝導論理素子の第2の形態は、NOTの機能を奏する形態である。NOT論理素子は、中心ノードに入力線を接続し、一対のトランス部の配線パターンを、二次側配線の出力端から入力線の電流方向と反対方向の電流を出力するように構成する。この構成により、入力線の電流方向と逆方向の電流を出力するNOT機能を奏することができる。
【0038】
超伝導論理素子の第3の形態:
超伝導論理素子の第3の形態は、定数の機能を奏する形態である。定数論理素子は、中心ノードに入力線を非接続とし、超伝導量子干渉素子(SQUID)の構成を中心ノードに対して非対称な構成、及び/又は超伝導トランスを非対称な構成とすることで形成することができる。この構成により、電源線に励起電流を印加した励起時において、常に一定方向の電流を出力する定数機能を奏することができる。
【0039】
超伝導論理素子の第4の形態:
超伝導論理素子の第4の形態は、前記した第1〜第3の超伝導論理素子で示したバッファ論理素子、NOT論理素子、定数論理素子等の間を接続するブランチ機能を奏する形態である。ブランチ論理素子は、複数入力に対して多数決論理を出力する機能、あるいは一入力を複数の出力に分割する機構を奏する。ブランチ論理素子は二本の配線からなる配線部を複数個備え、これら複数個の配線部の一方を接続する。各配線部において、二つの配線は各端部を接続し、両接続端の一方を入力端とし他方を出力端とする。二つの配線は、電源線の電流によって誘起される両配線の電流の向きを二つの配線の結合部に対して逆方向とし、電源線の電流によって両配線に誘起される電流を互いに相殺させる。
【0040】
また、複数個の配線部のそれぞれの配線長を等しくすることによって、ブランチ論理素子内の各配線部のインダクタンスを一致させ、各配線部を流れる信号電流の大きさを揃えることができる。各素子からの信号レベルを合わせることによって多数決論理が可能となる。
【0041】
超伝導論理素子は、超伝導論理素子間の接続において、複数の超伝導論理素子の信号を入力し、多数決の論理状態を出力するMAJ機能やNANDの機能を有した論理回路を構成する他、一入力信号を分割するSPLの機能を有した論理回路を構成することができる。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路によれば、超伝導トランスの一次側インダクタンスと二次側インダクタンスとの間の結合係数を低下させることなく、断熱型量子磁束パラメトロン回路内の不要な浮遊的磁気結合による影響を抑制することができる。
【0043】
また、断熱型量子磁束パラメトロン回路内の不要な磁気結合を抑制し、安定した論理動作に十分な出力レベルとして、断熱型量子磁束パラメトロン回路の動作余裕度の低下や配線長の制限を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本願発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。以下、
図1,2を用いて本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路の概略構成を説明し、
図3,4を用いて本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路の第1の構成について説明し、
図5を用いて超伝導トランスの最適化を説明し、
図6を用いて出力電流のシミュレーション結果を説明し、
図7を用いて断熱型量子磁束パラメトロン回路の第2の構成について説明し、
図8を用いて本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路の第3の構成について説明し、
図9〜
図12を用いて本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路を用いた超伝導論理素子について説明する。
【0046】
[断熱型量子磁束パラメトロン回路の概略構成]
図1は本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路の概略構成を説明するための等価回路である。なお、
図1に示す等価回路は、バッファの超伝導論理素子を構成する断熱型量子磁束パラメトロン回路の例を示し、
図1(b)は
図1(a)において電源線とトランス部の配線との間の磁気結合が抑制された状態を示している。また、
図2は本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路の電流状態を説明するための図である。
【0047】
断熱型量子磁束パラメトロン回路1は、超伝導量子干渉素子(SQUID)2と電源線3と超伝導トランス4とを備える。超伝導量子干渉素子(SQUID)2は、中心ノード2cを挟んで超伝導リング2dに二つのジョセフソン接合2a,2b(J1,J2)を備える。電源線3は励起電流Ixによって誘導された磁束を超伝導量子干渉素子(SQUID)2に印加する。超伝導量子干渉素子(SQUID)2は、電源線3の励起電流Ixを印加したときに、断熱型量子磁束パラメトロン回路1の入力端1aから入力された入力信号Iinに応じて論理状態を決定し、論理状態に応じた電流方向の出力信号Ioutを出力する。
【0048】
電源線3に励起電流Ixが流れると、電源線3のインダクタンスLxと超伝導リング2dのインダクタンスL1,L2との間の磁気結合によって、入力端1aから入力される入力信号Iinに応じて出力信号Ioutが出力される。ここで、電源線3のインダクタンスLxと超伝導リング2dのインダクタンスL1、L2との間の結合係数はそれぞれK1,K2としている。
【0049】
超伝導トランス4は、超伝導量子干渉素子(SQUID)2の信号を入力端4inから入力し、トランスを介して出力端4outから出力する。超伝導トランス4は一対のトランス部4A,4Bを備える。
【0050】
トランス部4Aは、一次側配線4Aaと二次側配線4Abとを備え、一次側インダクタンスLq1と二次側インダクタンスLout1との間は結合係数Kout1で磁気結合されている。一方、トランス部4Bは、一次側配線4Baと二次側配線4Bbとを備え、一次側インダクタンスLq2と二次側インダクタンスLout2との間は結合係数Kout2で磁気結合されている。
【0051】
一対のトランス部4A,4Bは、一次側インダクタンスの入力端4inにおいて、一次側配線4Aaと一次側配線4Baとを接続すると共に中心ノード2cに接続する。また、二次側配線の出力端4outにおいて、二次側配線4Abと二次側配線4Bbとを接続すると共に断熱型量子磁束パラメトロン回路1の出力端1bに接続する。
【0052】
トランス部4Aの一次側配線4Aa,二次側配線4Ab、及びトランス部4Bの一次側配線4Ba,二次側配線4Bbは、電源線3の励起電流Ixが誘起する磁束によって電流が生じる。トランス部4A,4Bの配線に生じる各電流の方向は、各配線の結合部に対して互いに逆方向とする。電流を互いに逆方向とするために、一次側配線4Aa及び4Abの各電流は入力端4inに対して逆方向となり、二次側配線4Ab及び4Bbの各電流は出力端4outに対して逆方向となるように配置する。
【0053】
図1(a)の等価回路において、電源線3のインダクタンスLxとトランス部4Aの一次側配線4Aa及び二次側配線4Abとの間の浮遊的な磁気結合は、それぞれ結合係数Kxq1及び結合係数Kxout1で表され、同様に、電源線3のインダクタンスLxとトランス部4Bの一次側配線4Ba及び二次側配線4Bbとの間の浮遊的な磁気結合は、それぞれ結合係数Kxq2及び結合係数Kxout2で表される。
【0054】
この構成において、トランス部4Aの一次側配線4Aa,二次側配線4Ab、及びトランス部4Bの一次側配線4Ba,二次側配線4Bbを、電源線3の励起電流が誘起する磁束の方向に対してトランス部4A,4Bの配線の電流方向がトランス部4Aとトランス部4Bとの間で互いに逆方向となるように配置することによって、浮遊的磁気結合によって各配線を誘導される電流の方向は、トランス部4Aとトランス部4Bとの間で、各配線の結合部である入力端又は出力端に対して互いに逆方向となる。したがって、一次側配線4Aaと一次側配線4Bbを流れる電流の内、電源線の電流によって誘起される電流分は互いに相殺される。また、二次側配線4Baと二次側配線4Bbを流れる電流についても電源線の電流によって誘起される電流分は互いに相殺される。
【0055】
電源線との間の浮遊的磁気結合によって一次側配線及び二次側配線に誘起される電流は一対のトランス部の電流方向を電流の結合部に対して逆方向とすることによって互いに相殺されることから、電源線3のインダクタンスLxとトランス部4Aの一次側配線4Aa及び二次側配線4Abとの間の浮遊的磁気結合、及び電源線3のインダクタンスLxとトランス部4Bの一次側配線4Ba及び二次側配線4Bbとの間の浮遊的磁気結合は、実質的に抑制されたものと扱うことができる。
図1(b)は浮遊的な磁気結合が実質的に抑制された状態を等価回路で表している。
【0056】
図1(a),(b)の等価回路で示される断熱型量子磁束パラメトロン回路1において、断熱型量子磁束パラメトロン回路1の入力端1aに入力信号Iinが初期状態として加えられた状態において、電源線3に励起電流Ixが供給されると、断熱型量子磁束パラメトロン回路のポテンシャルの形状が変化し、論理素子の最終状態は一方のジョセフソン接合がスイッチした状態(「0」状態)、もしくは他方のジョセフソン接合がスイッチした状態(「1」状態)の何れか一方に遷移する。これによって、ジョセフソン接合のスイッチングで増幅された電流が一次側配線4aに流れる。
【0057】
超伝導トランス4において、超伝導量子干渉素子(SQUID)2から入力端4inを通して一次側配線4aに電流が流れると、一次側配線4aと二次側配線4bとの相互インダクタンスによって二次側配線4bに出力電流が誘導される。
【0058】
二次側配線4Ab及び二次側配線4Bbには、電流の結合部に対して互いに逆方向の電流が流れる構成であるため出力端4outにおいて両電流は互いに相殺され、二次側配線4bと電源線3との間の浮遊的な磁気結合による相互インダクタンスの結合係数Kxoutは実質的に抑制された状態と見なすことができ、断熱型量子磁束パラメトロン回路内の不要な浮遊的磁気結合による影響は抑制される。二次側配線4Ab及び二次側配線4Bbに誘導された電流は出力端4outを通った後、断熱型量子磁束パラメトロン回路1の出力端1bから出力信号Ioutとして出力される。
【0059】
図2は断熱型量子磁束パラメトロン回路中の超伝導トランス4における電流を説明するための図である。
【0060】
超伝導トランス4には、電源線3の励起電流Ixで誘起される磁束によって流れる電流分IA,IBと、超伝導量子干渉素子(SQUID)2の出力に基づいて流れる電流分IC、IDとが流れる。
【0061】
図2(a)は、電源線3の励起電流Ixで誘起される磁束によって流れる電流分IA,IB(
図2(a)中の矢印)を示している。
【0062】
電流分IAは電源線3と超伝導トランス4の一次側配線4Aa、4Baとの間の浮遊的磁気結合によって流れ、電流分IBは電源線3と超伝導トランス4の二次側配線4Ab、4Bbとの間の浮遊的磁気結合によって流れる。電流分IAは、一次側配線4Aa及び4Baの結合部である入力端4inに対して電流が逆方向であるため、入力端4inにおいて相殺される。
【0063】
電流分IBは、二次側配線4Ab及び4Bbの結合部である出力端4outに対して電流が逆方向であるため、出力端4outにおいて相殺される。
【0064】
したがって、一次側配線4Aaと一次側配線4Baとには、電源線の電流によって誘起される電流は互いに電流の結合部に対して逆方向に流れる構成であるため入力端4inにおいて両電流は互いに相殺され、一次側配線4Aa,4Baと電源線3との間の浮遊的な磁気結合による相互インダクタンスの結合係数Kxqは実質的に抑制された状態と見なすことができ、断熱型量子磁束パラメトロン回路内の不要な浮遊的磁気結合による影響は抑制される。
【0065】
また、一次側配線4Aaと一次側配線4Baと同様に、二次側配線4Ab及び4Bbにおいても電源線の電流によって誘起される電流は互いに電流の結合部に対して逆方向に流れる構成であるため出力端4outにおいて両電流は互いに相殺され、二次側配線4Ab,4Bbと電源線3との間の浮遊的な磁気結合による相互インダクタンスの結合係数Kxoutは実質的に抑制された状態と見なすことができ、断熱型量子磁束パラメトロン回路内の不要な浮遊的磁気結合による影響は抑制される。
【0066】
図2(b)は、超伝導量子干渉素子(SQUID)2の出力に基づいて流れる電流分IC、ID(
図2(b)中の矢印)を示している。
【0067】
電流分ICは超伝導量子干渉素子(SQUID)2の出力信号が入力端4inを介して流れ、電流分IDは一次側配線4Aa及び4Baと二次側配線4Ab及び4Bbとの間に磁気結合によって流れる。電流分ICは、入力端4inで一次側配線4Aa及び4Baに分割され、電流分IDは、二次側配線4Ab及び4Bbの結合部である出力端4outにおいて合流し、断熱型量子磁束パラメトロン回路1の出力端1bから出力信号Ioutとして出力される。
【0068】
以下、
図1の等価回路で表される断熱型量子磁束パラメトロン回路の構成例について説明する。以下、第1,2,3の構成例は、超伝導トランスの一対のトランス部の配置、及びトランス部の配線パターンによる構成例を示している。なお、以下の説明では、超伝導トランスの構成としてバッファ論理素子10の構成例を用いている。
【0069】
(超伝導トランスの第1の構成)
超伝導トランスの第1の構成について
図3,4を用いて説明する。
図3(a),(b),(c)は第1の構成のトランス部の配置を説明するための概略図であり、
図4(a),(b)はトランス部の配線パターンを説明するための概略図である。
【0070】
図3(a),
図3(b),及び
図3(c)は、それぞれ異なる視点から見た状態を示している。
図3において、断熱型量子磁束パラメトロン回路1は、電源線3と、電源線3に沿って配置された超伝導量子干渉素子(SQUID)2と、超伝導トランス4とを備え、超伝導トランス4を介して超伝導量子干渉素子(SQUID)2の出力信号を出力する。なお、超伝導量子干渉素子(SQUID)2は中心ノード2cを挟んで超伝導リング2dに二つのジョセフソン接合2a,2bを設けて構成されている。断熱型量子磁束パラメトロン回路1はグランドプレンG上に形成され、電源線3によって誘起される磁束はグランドプレンGに沿って形成される。
【0071】
第1の構成例の超伝導トランス4は、一対のトランス部4A,4Bを電源線3に対して同一側において電源線3の方向に沿って平行に配置する。一対のトランス部4A,4Bの一次側配線4Aa、4Ba、及び二次側配線4Ab,4Bbの配線パターンは、電源線3と直交する直線に対して線対称とすることで、電源線3との磁気結合によって一次側配線4Aa、4Ba、及び二次側配線4Ab,4Bbに誘起される電流の方向を各配線の結合部に対して互いに逆方向となるように配置する。
【0072】
一対のトランス部4A,4Bは、電源線3に対して同一側において電源線3の方向に沿って平行に配置されるため、電源線3の励起電流によって同方向の磁束が各トランス部4A,4Bに印加される。一方、一対のトランス部4A,4Bの配線パターンは電源線3との磁気結合によって誘起される磁束の方向に対して互いに逆方向であるため、配線に生じる電流の方向は配線の結合部に対して互いに逆方向となり、超伝導トランスの出力電流に対する影響,及び超伝導量子干渉素子内のジョセフソン接合に対する影響は相殺される。
【0073】
図4(a)は一次側配線4a(4Aa,4Ba)と二次側配線4b(4Ab,4Bb)とが積層した状態を示し、
図4(b)は構成を説明するために、二次側配線4b(4Ab,4Bb)を一次側配線4a(4Aa,4Ba)から分離して示している。
【0074】
図4において、超伝導量子干渉素子(SQUID)2はジョセフソン接合2a,2bの端部を接地することによって超伝導リング2dを形成している。
【0075】
図4(b)において、超伝導トランス4を構成する一次側配線4a及び4bにおいて、一次側配線4aを構成する一次側配線4Aaと一次側配線4Baとは、電源線3との磁気結合によって誘起される電流分IA(図中の破線で示す)は各配線の結合部Qに対して互いに逆方向である。また、二次側配線4bを構成する二次側配線4Abと二次側配線4Bbとについても、電源線3との磁気結合によって誘起される電流分IB(図中の破線で示す)は各配線の結合部Rに対して互いに逆方向である。
【0076】
一方、一次側配線4aにおいて、超伝導量子干渉素子(SQUID)102の出力による一次電流Iqは結合部Qにおいて二分され、電流分IC(図中の実線で示す)が一次側配線4Aa及び一次側配線4Baに流れる。また、二次側配線4bを構成する二次側配線4Abと二次側配線4Bbでは、一次側配線4Aa及び一次側配線4Baとの相互磁気結合によって電流分IDが流れ、二次側配線4Abと二次側配線4Bbの結合部Rで合流し、出力信号Ioutを出力する。
【0077】
図5を用いて超伝導トランスの最適化について説明する。
断熱型量子磁束パラメトロン回路は、論理素子を断熱的に動作させている。断熱的動作は、ジョセフソン接合の超伝導位相をゆっくりと断熱変化させることで低消費エネルギー化を可能としている。
【0078】
論理素子を断熱的に動作させるには、超伝導トランスの一次側インダクタンスLqを小さくしなければならない。一方、超伝導トランスの出力信号Ioutを大きくするには相互インダクタンスM(=Kout×(Lq×Lout)
1/2)を大きくする必要がある。
【0079】
したがって、超伝導トランスの一次側インダクタンスLqを小さくすると共に、相互インダクタンスMを大きくするには、二次側インダクタンスLoutを大きくする必要がある。
【0080】
また、断熱型量子磁束パラメトロン回路は、出力端から出力信号を出力すると共に入力端から逆流電流Irを出力する。この逆流電流Irの大きさは二次側インダクタンスLoutと一次側インダクタンスLqとの比率に依存する。逆流電流Irを抑えると共に出力信号Ioutを増大させるには、Lout/Lqを大きくすることが求められる。
【0081】
本願発明の超伝導トランスは、二次側配線4Ab、4Bbの配線パターンにおいて、配線長を長くする構成や配線幅を小さくする構成によって二次側インダクタンスLoutを大きくし、断熱型量子磁束パラメトロン回路を断熱的に動作させて低消費エネルギーでスイッチング動作させ、大きな出力信号を得ることができる。
【0082】
二次側インダクタンスは、二次側配線の配線長を長くすることや、配線幅を小さくすることで大きくすることができる。二次側配線の配線長は、配線パターンをスパイラル状とすることで長くすることができる。
【0083】
図6は出力電流のシミュレーション結果について、本願発明の構成と超伝導シールドを設けた従来の構成とを比較して示している。
図6において、超伝導トランスのトランス部を対称配置した本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路と、超伝導トランスを超伝導シールドで磁気シールドした従来構成の断熱型量子磁束パラメトロン回路とについて、出力信号Ioutを比較して示している。
【0084】
従来の超伝導シールドによる断熱型量子磁束パラメトロン回路の構成では、一次側配線と二次側配線の結合係数Koutは0.29であり、一次側インダクタンスLqに対する二次側インダクタンスLoutとの比率Lout/Lqは0.9である。これに対して、本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路の構成では、一次側配線と二次側配線の結合係数Koutは0.45であり、一次側インダクタンスLqに対する二次側インダクタンスLoutとの比率Lout/Lqは3.5である。なお、横軸は素子間の配線インダクタンスLwireを示している。
【0085】
このシミュレーション結果は、超伝導シールドを除去することによって、結合係数Koutが向上することを示している。
【0086】
また、二次側配線の配線パターンをスパイラル形状として配線長を伸ばすことによって、比率Lout/Lqが高まることを示している。
【0087】
(超伝導トランスの第2の構成)
超伝導トランスの第2の構成について
図7を用いて説明する。
図7は第2の構成のトランス部の配置、及びトランス部の配線パターンを説明するための概略図であり、
図7(a)
図7(b)、及び
図7(c)はそれぞれ異なる視点から見た状態を示している。
図7(c)は上方から見た状態を示している。なお、
図7ではグランドプレンは図示していないが、
図3に示した第1の構成と同様に、断熱型量子磁束パラメトロン回路の下方にグランドプレンを設ける。
【0088】
図7において、第1の構成と同様に、断熱型量子磁束パラメトロン回路1は、電源線3と、電源線3に沿って配置された超伝導量子干渉素子(SQUID)2と、超伝導トランス4を備える。超伝導量子干渉素子(SQUID)2は中心ノード2cを挟んで超伝導リング2dに二つのジョセフソン接合2a,2bを備え、超伝導量子干渉素子(SQUID)2の出力信号を超伝導トランス4によって伝搬する。
【0089】
第2の構成例の超伝導トランス4は、一対のトランス部4A,4Bを、電源線3を挟んで反対側において電源線3の方向に対して反対側に配置する。一対のトランス部4A,4Bの一次側配線4Aa、4Ba、及び二次側配線4Ab,4Bbの配線パターンは、電源線3を挟んで反対側において点対称に形成する。
【0090】
ここで、点対称な配線パターンとは、電源線3の下方又は上方の面において、電源線3上の点から垂直に下ろした点Pに対して点対称な位置関係にあることを意味している。
【0091】
一対のトランス部4A,4Bは、電源線3を挟んで反対側において点対称な位置に配置されるため、電源線3の励起電流で誘起される磁束は同方向に印加される。
【0092】
図7では、一対のトランス部4A,4Bの配線パターンは電源線3に対して互いに点対称であるため、同方向に印加された磁束によって配線パターンに生じる電流の方向は二つのトランス部4A,4Bの結合部Pに対して互いに逆方向となり、電源線3の励起電流Ixによってトランス部4A及びトランス部4Bにそれぞれ誘起される電流は互いに相殺される。
【0093】
(超伝導トランスの第3の構成)
超伝導トランスの第3の構成について
図8を用いて説明する。
図8は第3の構成のトランス部の配置、及びトランス部の配線パターンを説明するための概略図であり、
図8(a)、
図8(b)、及び
図8(c)は異なる視点から見た状態を示している。
図8(c)は上方から見た状態を示している。
【0094】
図8において、第1の構成と同様に、断熱型量子磁束パラメトロン回路1は、電源線3と、電源線3に沿って配置された超伝導量子干渉素子(SQUID)2と、超伝導トランス4とを備え、超伝導量子干渉素子(SQUID)2は中心ノード2cを超伝導リング2dに挟んで二つのジョセフソン接合2a,2bを備え、超伝導量子干渉素子(SQUID)2の出力を超伝導トランス4から出力する。
【0095】
第3の構成例の超伝導トランス4は、一対のトランス部4A,4Bを、電源線3を挟んで同一側において電源線3の方向に対して同位置に積層して配置する。一対のトランス部4A,4Bの一次側配線4Aa、4Ba、及び二次側配線4Ab,4Bbの配線パターンは、電源線3を含む面に対して左右反転した関係に配置する。なお、
図8ではグラウンドは図示していないが、電源線3に対して下方に設けたトランス部4Aの下側、上方に設けたトランス部4Bの上方にグラウンドを設ける。
【0096】
一対のトランス部4A,4Bは、電源線3を挟んで同一側において電源線3の方向において同位置に積層して配置されるため、電源線3の励起電流によって誘起される磁束は逆方向となる。
【0097】
また、一対のトランス部4A,4Bの配線パターンは電源線3を含む面に対して左右反転した関係にあるため、逆方向に誘起された磁束によって配線パターンに生じる電流の方向は互いに逆方向となり、一次側配線の入力端の結合部及び二次側配線の出力端の結合部では互いに逆方向に電流が入力し、互いに相殺される。
【0098】
[本願発明の断熱型量子磁束パラメトロン回路を用いた超伝導論理素子の形態]
断熱型量子磁束パラメトロン回路は電流方向に対して"1"及び"0"を対応させることで論理演算を行うことができ、入力信号に対する出力信号の出力状態によってバッファ、NOT、定数、及びブランチ(分岐)の各論理機能を奏する超伝導論理素子を構成することができる。
【0099】
バッファの超伝導論理素子は電流方向が入力信号と同じ方向の出力信号を出力し、NOTの超伝導論理素子は電流方向が入力信号と反対方向の出力信号を出力し、定数の超伝導論理素子は入力信号に係わらず常に一定の出力信号を出力する。以下では、バッファ、NOT、定数、及びブランチの各論理機能を奏する超伝導論理素子をそれぞれバッファ論理素子、NOT論理素子、定数論理素子、及びブランチ論理素子の名称を用いて説明する。
【0100】
(バッファ論理素子)
バッファ論理素子はバッファの機能を備える超伝導論理素子であり、断熱型量子磁束パラメトロン回路が備える超伝導量子干渉素子(SQUID)の中心ノードに入力信号を入力し、超伝導トランスの二次側配線に出力端から出力信号を出力する構成において、超伝導トランスのトランス部の配線パターンを、二次側配線の出力端から出力される出力電流の電流方向が入力端に入力される入力電流の電流方向と同方向となるように構成する。
【0101】
このバッファ論理素子の構成については、
図2〜
図8を用いて説明しているので、以下では
図9,
図10及び
図11を用いてNOT論理素子、定数論理素子、及びブランチ論理素子について説明する。
【0102】
(NOT論理素子)
NOT論理素子11は、断熱型量子磁束パラメトロン回路が備える超伝導量子干渉素子(SQUID)の中心ノードに入力信号を入力し、超伝導トランスの一対のトランス部の配線パターンを、二次側配線の出力端から出力される出力電流の電流方向を入力端に入力される入力電流の電流方向と反対方向となるように構成する。
図9はNOT論理素子の構成例を説明するための図である。
【0103】
図9(a)は一次側配線4a(4Aa,4Ba)と二次側配線4b(4Ab,4Bb)とが積層した状態を示し、
図9(b)は構成を説明するために、二次側配線4b(4Ab,4Bb)を一次側配線4a(4Aa,4Ba)から分離して示している。
【0104】
図9において、超伝導量子干渉素子(SQUID)2はジョセフソン接合2a,2bの端部を接地することによって超伝導リング2dを形成している。
【0105】
図9(b)において、超伝導トランス4を構成する一次側配線4a及び4bにおいて、一次側配線4aを構成する一次側配線4Aaと一次側配線4Baとは電源線3の方向に対称であり、また、二次側配線4bを構成する二次側配線4Abと二次側配線4Bbとについても電源線3と直交する直線に対して線対称である。
【0106】
NOT論理素子11を構成する超伝導トランスの一次側配線4a及び4bにおいて、一次側配線4aを構成する一次側配線4Aaと一次側配線4Baとは、電源線3との磁気結合によって誘起される電流分IA(図中の破線で示す)は各配線の結合部Qに対して互いに逆方向である。また、二次側配線4bを構成する二次側配線4Abと二次側配線4Bbとについても、電源線3との磁気結合によって誘起される電流分IB(図中の破線で示す)は各配線の結合部Rに対して互いに逆方向である。
【0107】
一方、一次側配線4aにおいて、超伝導量子干渉素子(SQUID)102の出力による一次電流Iqは結合部Qにおいて二分され、電流分IC(図中の実線で示す)が一次側配線4Aa及び一次側配線4Baに流れる。また、二次側配線4bを構成する二次側配線4Abと二次側配線4Bbでは、一次側配線4Aa及び一次側配線4Baとの相互磁気結合によって電流分IDが流れる。電流分IDは、二次側配線4Abと二次側配線4Bbの結合部Rで合流し、出力信号Ioutを出力する。
【0108】
一対のトランス部4A,4Bは、電源線3に対して同一側において電源線3の方向に沿って平行に配置されるため、電源線3の励起電流によって同方向の磁束が誘起される。一方、一対のトランス部4A,4Bの配線パターンは電源線3の方向に対して互いに対称であるため、同方向に誘起された磁束によって配線パターンに生じる電流の方向は、各配線の結合部に対して互いに逆方向となり相殺される。
【0109】
二次側配線4bを形成するスパイラル形状の配線パターンは、
図2,3に示したバッファを構成する超伝導論理素子の二次側配線の配線パターンとは電流方向が逆向きとなるように設定する。この配線パターンとすることによって、出力信号の電流方向を入力信号の電流方向と逆方向としてNOTの機能を備えるNOT論理素子11を構成する。
【0110】
(定数論理素子)
定数論理素子12は、バッファを構成する超伝導論理素子において、断熱型量子磁束パラメトロン回路が備える超伝導量子干渉素子(SQUID)のレイアウトを中心ノードに対して非対称とすると共に、中心ノードには入力端を設けず、入力信号を非入力とする。
図10は構成例を説明するための図である。
【0111】
図10(a)は一次側配線4a(4Aa,4Ba)と二次側配線4b(4Ab,4Bb)とが積層した状態を示し、
図10(b)は構成を説明するために、二次側配線4b(4Ab,4Bb)を一次側配線4a(4Aa,4Ba)から分離して示している。
【0112】
図10において、超伝導量子干渉素子(SQUID)2はジョセフソン接合2a,2bの端部を接地して形成された超伝導リング2dに対して、バッファの構成が備える入力端を設けず、入力信号の入力を行わない。
【0113】
超伝導量子干渉素子(SQUID)2は、中心ノード2cに対してレイアウトを非対称とする。超伝導量子干渉素子(SQUID)2はレイアウトが非対称となることで、励起電流が印加されると常に特定の論理状態となり、一定出力となる。
【0114】
非対称なレイアウトは、複数の形態とすることができる。一形態は、ジョセフソン接合2a,2bにおいてジョセフソン接合の面積を異ならせる構成である。
図10ではジョセフソン接合2aの面積をジョセフソン接合2bの面積よりも大きくした構成例を示している。
【0115】
他の形態は、中心ノード2cを挟む超伝導リング2dの長さ(線路長)を異ならせる構成である。
図10では一方の超伝導リング2dの長さ(線路長)lbを他方の超伝導リング2dの長さ(線路長)laよりも長くした構成例を示している。
【0116】
また、シャント抵抗を設ける形態とすることもできる。
図10では、一方のジョセフソン接合側の超伝導リング2dにシャント抵抗2eを設けた例を示している。
【0117】
定数論理素子11の超伝導トランスは、前記したバッファ論理素子と同様の構成および動作とすることができる。
図10(b)において、超伝導トランス4を構成する一次側配線4a及び4bにおいて、一次側配線4aを構成する一次側配線4Aaと一次側配線4Baとは電源線3の方向に対称であり、また、二次側配線4bを構成する二次側配線4Abと二次側配線4Bbとについても電源線3と直交する直線に対し線対称である。
【0118】
一対のトランス部4A,4Bは、電源線3に対して同一側において電源線3の方向に沿って平行に配置されるため、電源線3の励起電流によって同方向の磁束が誘起される。一方、一対のトランス部4A,4Bの配線パターンは電源線3と直交する直線に対し線対称であるため、同方向に誘起された磁束によって配線パターンに生じる電流の方向は、配線の結合部に対して互いに逆方向となり、電流は相殺される。
【0119】
定数論理素子12を構成する超伝導トランスの一次側配線4a及び4bにおいて、一次側配線4aを構成する一次側配線4Aaと一次側配線4Baは、電源線3との磁気結合によって誘起される電流分IA(図中の破線で示す)が各配線の結合部Qに対して互いに逆方向となるように設けられる。また、二次側配線4bを構成する二次側配線4Abと二次側配線4Bbについても、電源線3との磁気結合によって誘起される電流分IB(図中の破線で示す)が各配線の結合部Rに対して互いに逆方向となるように設けられる。
【0120】
一方、一次側配線4aにおいて、超伝導量子干渉素子(SQUID)102の出力による一次電流Iqは結合部Qにおいて二分された電流分IC(図中の実線で示す)が流れる。また、二次側配線4bを構成する二次側配線4Abと二次側配線4Bbでは、一次側配線4Aa及び一次側配線4Baとの相互磁気結合によって電流分IDが流れる。電流分IDは、二次側配線4Abと二次側配線4Bbの結合部Rにおいて合流し出力信号Ioutとして出力される。
【0121】
前記した超伝導量子干渉素子(SQUID)のレイアウトを非対称とする形態の他、超伝導トランスを非対称とすることで定数論理素子を構成することもできる。超伝導トランスにおける非対称な構成として、例えば、二次側配線の配線長や配線幅を異ならせる構成とすることができる。
【0122】
上記した各形態による定数論理素子は、少なくとも何れか一つによって構成することができ、一定の出力信号を出力する定数の機能を備えることができる。
【0123】
(ブランチ論理素子)
ブランチ論理素子13は、超伝導論理素子間を接続する論理素子であり、一入力信号を分割して複数の出力信号を出力する機能、あるいは複数の入力信号を多数決論理で出力する機能である。バッファ論理素子、NOT論理素子、定数論理素子の出力信号を入力し、一入力を複数出力に分岐する機能、あるいは複数の超伝導論理素子からの複数入力を多数決論理によって一出力とする機能を奏する。
【0124】
ブランチ論理素子13は二本の配線を備え、両配線の各一方の端部を入力端とし、両配線の各他方の端部を出力端とし、両配線を電源線の励起電流によって両配線に誘起される磁束方向が互いに逆方向として構成する。この構成により、超伝導論理素子間を接続する機能を奏する。
【0125】
図11はブランチ論理素子の構成例を説明するための図である。
図11(a)は三つの入力信号を多数決論理によって一つの出力信号として出力する構成例を示し、
図11(b)は一つの入力信号を三つの出力信号に分岐させて出力する構成例を示している。
【0126】
図11(c)は
図12(a)の等価回路に対応する構成例であり、三つの入力信号を入力し、多数決論理によって一つの出力信号を出力する。ブランチ論理素子13は、三つのバッファ論理素子10a,10b、10cの3出力信号を入力して多数決論理によって得た一つの出力信号を出力する。
図11(c)では、三つのバッファ論理素子10a,10b、10cと、
図11(a)に対応するブランチ論理素子13の構成例を示している。
【0127】
図11(c)において、ブランチ論理素子13は二本の配線13A,13Bからなる複数個の配線部(13−1,13−2,13−3)を備える。これら複数個の配線部(13−1,13−2,13−3)は、それぞれ二本の配線13A,13Bの各端部同士を接続し、一方の端部を入力端13aとし、他方の端部を結合部13bとしている。
図11(c)の構成例では、結合部13bは3個の配線部(13−1,13−2,13−3)において共通の結合部を構成し、出力端13cに接続している。
【0128】
図11(c)に示す構成は、3入力信号から1出力信号を出力する構成例を示しているが、結合部13bを入力端とし入力端13aを出力端とすることによって1入力信号を3つに分割して出力する構成とすることもできる。
【0129】
なお、
図11では、配線部の個数を3とした例を示しているが、配線部の個数は3に限らず任意の個数とすることができる。また、入力端及び出力端の個数についても、一方の端部の個数は1に限らず、配線部の個数以内であれば任意の個数とすることができる。例えば、入力端と出力端の個数の割合は、例示したように3:1とする他、1:3,2:1,1:2,2:3,3:2,2:5,5:2等、任意に定めることができる。
【0130】
図11(c)において、両配線13A,13Bの配線パターンを、各超伝導論理素子が備える断熱型量子磁束パラメトロン回路内の電源線3によって誘起される磁束方向に対して、両配線13A,13Bに流れる電流が結合部13bに対して互いに逆方向となるように配置する。
【0131】
図11(c)に示す構成は複数の超伝導論理素子からの複数入力を多数決論理によって一出力とする機能を奏する構成であり、配線13A,13Bの配線パターンを中心線に対して対称とすることによって電流方向を互いに逆方向としている。この配線パターンによって、電源線からの磁束で誘起される電流を電流の結合部に対して逆方向として互いに相殺させる。
図11(c)では、各配線13A,13Bを互いに逆方向となるように折り曲げて配線パターンを構成としているが、電流の方向が結合部13bに対して互いに逆方向であれば任意の配線パターンとしてもよい。
【0132】
二つの配線は、電源線の電流によって誘起される両配線の電流の向きを二つの配線の結合部に対して逆方向とし、電源線の電流によって両配線に誘起される電流を電流の結合部に対して互いに相殺させる。
【0133】
また、複数個の配線部のそれぞれの配線長を等しくすることによって、ブランチ論理素子内の各配線部のインダクタンスを一致させ、各配線部を流れる信号電流の大きさを揃えることができる。各素子からの信号レベルを合わせることによって多数決論理が可能となる。
【0134】
本願発明の超伝導論理素子は、上記したバッファ論理素子10,NOT論理素子11,定数論理素子12,及びブランチ論理素子13を組み合わせることによって種々の論理回路を構成することができる。
図12は本願発明の超伝導論理素子による論理回路の構成例を説明するための図である。
【0135】
図12(a)は多数決論理回路(MAJ)21の構成例を説明するための図である。多数決論理回路(MAJ)は、複数のバッファ論理素子10の出力端をブランチ論理素子13の入力端と接続することで構成することができる。多数決論理回路(MAJ)21の出力端xの論理状態は各バッファ論理素子10の出力電流の和で表される。バッファ論理素子10の入力端の論理状態をa,b,cとしたとき、多数決論理回路(MAJ)21の出力端xの論理状態は以下の式で表される。
x=MAJ(a,b,c)=ab+bc+ca
【0136】
図12(b)はNAND論理回路22の構成例を説明するための図である。NAND論理回路22は、2つのバッファ論理素子10の出力端と一つの定数論理素子12の出力端をブランチ論理素子13の入力端と接続することで構成することができる。NAND論理回路22の出力端xの論理状態は2つのバッファ論理素子10と定数論理素子12の出力電流の和で表される。2つのバッファ論理素子10の入力端の論理状態をa,bとしたとき、NAND論理回路22の出力端xの論理状態は以下の式で表される。
x=MAJ(a*,1,c*)=(ab)*
なお、"*"は符号反転を表している。
【0137】
図12(c)は分割(SPL)論理回路23の構成例を説明するための図である。分割論理回路23は、バッファ論理素子10の出力端をブランチ論理素子13の入力端と接続することで構成することができる。分割論理回路23の出力端x、y、zの論理状態はバッファ論理素子10の入力端の論理状態をaとしたとき以下の式で表される。
x=y=z=a
【0138】
なお、本願発明は前記各実施の形態に限定されるものではない。本願発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本願発明の範囲から排除するものではない。