(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563260
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】マグネット作業機械
(51)【国際特許分類】
B66C 1/08 20060101AFI20190808BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
B66C1/08 E
E02F9/22 P
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-120553(P2015-120553)
(22)【出願日】2015年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-1868(P2017-1868A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(72)【発明者】
【氏名】柚本 夏輝
(72)【発明者】
【氏名】古賀 信洋
(72)【発明者】
【氏名】吉原 英喜
(72)【発明者】
【氏名】田村 佳嗣
(72)【発明者】
【氏名】浅井 祥史
【審査官】
羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−001775(JP,A)
【文献】
特開2000−291451(JP,A)
【文献】
特開2001−238303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00−3/20
E02F 3/42−3/43
E02F 3/84−3/85
E02F 9/20−9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてのエンジンと、このエンジンにより駆動されて発電機作用を行う発電電動機と、この発電電動機を電源として励磁/消磁されて吸着/釈放作用を行うマグネットと、上記発電電動機及びマグネット両者間の電力の授受を含む両者の制御を行う制御手段を具備し、上記制御手段は、上記発電電動機とマグネットとを結ぶ主回路に設けられ、主回路電圧の変動を減少させる大容量コンデンサを有し、上記マグネットの励磁時に上記発電電動機により発電された電力を上記大容量コンデンサ以外のマグネット電源としてのバッテリを介さず上記制御手段を介して上記マグネットに供給し、上記マグネットの消磁時に、上記マグネットに印加された電力を上記大容量コンデンサ以外のマグネット電源としてのバッテリを介さず上記制御手段を介して上記発電電動機に送り、回生電力として消費させるように構成したことを特徴とするマグネット作業機械。
【請求項2】
動力源としてのエンジンと、このエンジンにより駆動されて発電機作用を行う発電電動機と、この発電電動機を電源として励磁/消磁されて吸着/釈放作用を行うマグネットと、上記発電電動機及びマグネット両者間の電力の授受を含む両者の制御を行う制御手段と、上記発電電動機とマグネットを結ぶ主回路の電圧を検出する主回路電圧検出手段とを具備し、上記制御手段は、上記マグネットの消磁時に、上記マグネットに印加された電力を上記発電電動機に送り、回生電力として消費させるとともに、上記マグネット消磁時の主回路電圧の変化に応じて、この電圧変化を抑制する方向で上記発電電動機の電動機としてのトルクを制御するように構成したことを特徴とするマグネット作業機械。
【請求項3】
上記制御手段は、上記マグネット励磁時の主回路電圧の変化に応じて、この電圧変化を抑制する方向で上記発電電動機の発電機としてのトルクを制御するように構成したことを特徴とする請求項2記載のマグネット作業機械。
【請求項4】
上記主回路に主回路電圧の変動を減少させる大容量コンデンサを設けたことを特徴とする請求項2または3記載のマグネット作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業アタッチメントの先端にマグネット(電磁石。「リフティングマグネット
」または略して「リフマグ」と呼ばれる)を取付け、このマグネットを発電電動機からの電力によって励磁するマグネット作業機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネットで金属スクラップ等を吸着するマグネット作業機械(通称「リフマグ機」は、
図6に示すように、下部走行体1と上部旋回体2とから成る自走式のベースマシン3にブーム4、アーム5を有する作業アタッチメントAを装着した油圧ショベルを母体として、作業アタッチメントAの先端(図示のようにアーム5の先端または図示しないバケット)にマグネット6を取付けて構成され、マグネット6に金属スクラップ等を吸着させて運搬する。
【0003】
このマグネット作業機械として、エンジンと、このエンジンで駆動される発電電動機と、バッテリを備えたハイブリッド機をベースとして、バッテリを電源としてマグネットを作動させるものが公知である(特許文献1参照)。
【0004】
この公知技術においては、発電電動機で発生した電力をバッテリに送って充電し、このバッテリに蓄えられた電力をマグネットに送って励磁する一方、消磁時、すなわち、マグネットに吸着した荷を釈放するためにバッテリからマグネットへの電力供給を遮断したとき)に、マグネット電力をバッテリに回収(回生)する構成がとられる。
【0005】
このバッテリ駆動方式によると、マグネット吸着/釈放のための電力供給と回生をバッテリとマグネットの間のみで行うことができるため、マグネットと電源とを結ぶ主回路の電圧(主回路電圧)の大きな変動がないという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−1775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記公知技術によると、バッテリが必須となるため機器構成が複雑となり、設備のためのコストとスペースが大きくなるとともに、バッテリの充電率を吸着/釈放に適した値に保つための制御やバッテリ温度を一定とする制御が必要となって制御が複雑となる等、デメリットが大きかった。
【0008】
そこで本発明は、バッテリを用いずにマグネットの吸着/釈放を可能として機器構成及び制御の簡素化を実現することができるマグネット作業機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、動力源としてのエンジンと、このエンジンにより駆動されて発電機作用を行う発電電動機と、この発電電動機を電源として励磁/消磁されて吸着/釈放作用を行うマグネットと、上記発電電動機及びマグネット両者間の電力の授受を含む両者の制御を行う制御手段を具備し、上記制御手段は、
上記発電電動機とマグネットとを結ぶ主回路に設けられ、主回路電圧の変動を減少させる大容量コンデンサを有し、上記マグネットの励磁時に上記発電電動機により発電された電力を
上記大容量コンデンサ以外のマグネット電源としてのバッテリを介さず上記制御手段
を介して上記マグネットに供給し、上記マグネットの消磁時に、上記マグネットに印加された電力を
上記大容量コンデンサ以外のマグネット電源としてのバッテリを介さず上記制御手段
を介して上記発電電動機に送り、回生電力として消費させるように構成したものである。
【0010】
この構成によれば、発電電動機電力によってマグネットを励磁するため、マグネット電源としてのバッテリが不要となる。
【0011】
従って、マグネット作業機械全体としての機器構成が簡単となるため、設備のためのコストとスペースを大幅に節減できるとともに、複雑なバッテリ制御が不要となることによって制御を簡素化することができる。
【0012】
しかも、マグネット消磁時にマグネット電力を発電電動機に送って消費(回生)させるため、いかえれば、バッテリを省略しながら回生電力の受け皿を確保できるため、荷の釈放動作を確実かつ速やかに行わせることができる。
【0013】
また、本発明においては、動力源としてのエンジンと、このエンジンにより駆動されて発電機作用を行う発電電動機と、この発電電動機を電源として励磁/消磁されて吸着/釈放作用を行うマグネットと、上記発電電動機及びマグネット両者間の電力の授受を含む両者の制御を行う制御手段と、上記発電電動機とマグネットを結ぶ主回路の電圧を検出する主回路電圧検出手段とを具備し、上記制御手段は、上記マグネットの消磁時に、上記マグネットに印加された電力を上記発電電動機に送り、回生電力として消費させるとともに、上記マグネット消磁時の主回路電圧の変化に応じて、この電圧変化を抑制する方向で上記発電電動機の電動機としてのトルクを制御するように構成したものである。
【0014】
この構成によれば、発電電動機電力によってマグネットを励磁するため、マグネット電源としてのバッテリが不要となる。
【0015】
従って、マグネット作業機械全体としての機器構成が簡単となるため、設備のためのコストとスペースを大幅に節減できるとともに、複雑なバッテリ制御が不要となることによって制御を簡素化することができる。
【0016】
しかも、マグネット消磁時にマグネット電力を発電電動機に送って消費(回生)させるため、いかえれば、バッテリを省略しながら回生電力の受け皿を確保できるため、荷の釈放動作を確実かつ速やかに行わせることができる。
【0017】
さらに、本発明では、上記発電電動機とマグネットを結ぶ主回路の電圧を検出する主回路電圧検出手段を備え、上記制御手段は、上記マグネット消磁時の主回路電圧の変化に応じて、この電圧変化を抑制する方向で上記発電電動機の電動機としてのトルクを制御する。
【0018】
マグネット作業機械においては、吸着(励磁)/釈放(消磁)による電力変化に伴って主回路電圧が変化し易く、とくに、マグネット消磁時の電圧変化が大きくなる。
【0019】
とりわけ、バッテリによる電圧変動抑制機能が働かない本発明の構成によると、機器に与える主回路電圧の変化の影響が大きくなり、過電圧による機器の故障発生等のおそれがある。
【0020】
この点、上記の構成によると、消磁時に、主回路電圧の変化を抑制する方向でこの電圧変化に応じて電動機トルクを制御するため、過電圧による機器への悪影響を回避することができる。
【0021】
この場合、上記制御手段は、上記マグネット励磁時の主回路電圧の変化に応じて、この電圧変化を抑制する方向で上記発電電動機の発電機としてのトルクを制御するように構成するのが望ましい(請求項3)。
【0022】
この構成によれば、励磁時(吸着時)の主回路電圧の変化をも抑制することができる。
【0023】
また、上記主回路に主回路電圧の変動を減少させる大容量コンデンサを設けるのが望ましい(請求項4)。
【0024】
こうすれば、大容量コンデンサの平滑作用(電圧変動減少作用)によって主回路電圧の変化をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、バッテリを用いずにマグネットの吸着/釈放を可能として機器構成及び制御の簡素化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係るマグネット作業機械のシステム構成図である。
【
図2】
図1中のインバータの内部構成を示す図である。
【
図3】同実施形態における吸着スイッチのオン/オフ、マグネット電圧、主回路電圧、発電電動機動力の時間に対する変化状況を示すタイムチャートである。
【
図4】
図3中の消磁時における主回路電圧の変化状況を拡大して示す図である。
【
図5】主回路電圧の変化に対する発電電動機トルクの制御状況を示す図である。
【
図6】マグネット作業機械の全体概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態を
図1〜
図5によって説明する。
【0028】
図1は実施形態に係るマグネット作業機械のシステム構成図である。
【0029】
図示のようにエンジン7によって発電電動機8が駆動され、吸着スイッチ9が吸着側に操作されたときに、実線の二重線矢印で示すように発電電動機8で発生した電力が制御手段としてのインバータ10を介してマグネット6に供給される。これによりマグネット6が励磁され、荷(スクラップ等)の吸着作用が行われる。
【0030】
一方、吸着スイッチ9が釈放側に操作されると、マグネット6への給電が遮断される。すなわち、マグネット6が消磁される。
【0031】
実施形態においては、以下に詳述するように、この消磁時に、
図1中破線の二重線矢印で示すようにマグネット電力を、励磁時とは逆にインバータ10を介して発電電動機8に送って消費(回生)させる構成がとられている。
【0032】
図2はインバータ10の内部構成を示す。
【0033】
インバータ10は、スイッチング回路11と、たとえばHブリッジ回路から成る励磁/消磁切換回路12と、この両回路11,12を制御する制御部13と、両回路11,12を結ぶ正、負両電源母線14,15と、この両母線14,15間に設けられた大容量コンデンサ(平滑用コンデンサ)16を具備する。
【0034】
励磁/消磁切換回路12は、吸着スイッチ9の操作(吸着側、釈放側両操作に基づいて)マグネット6の励磁/消磁を切換え、かつ、励磁時にマグネット6に印加する電圧を決定する。
【0035】
スイッチング回路11は、複数のトランジスタ等のスイッチング素子を組み合わせて成り、発電電動機8とマグネット6の間の電力の授受を制御する。
【0036】
すなわち、励磁時に必要な発電電動機電力をマグネット6に供給し、消磁時にはマグネット電力を発電電動機8に回生電力として送って消費させる。
【0037】
この消磁時に、制御部13から発電電動機8に対する電動機トルクの指令値が出力され、この指令トルクに応じてスイッチング回路11のスイッチング動作が行われる。
【0038】
また、正、負両電源母線14,15間の電圧、すなわち主回路電圧を検出する電圧計17が設けられ、検出された主回路電圧が制御部13に送られる。
【0039】
制御部13は、吸着スイッチ9の消磁側(釈放側)操作による消磁時に、検出された主回路電圧に応じて発電電動機8の電動機トルクを決定し、決定した電動機トルクを発電電動機8に向けて指令する。
【0041】
図3(a)の吸着スイッチ9の吸着/釈放操作に応じてマグネット6が励磁/消磁されて、
図3(b)のようにマグネット電圧が変化する。
【0042】
図3(b)中の「過励磁」は、吸着開始後、金属スクラップ等の荷を吸着するのに必要な吸着力が得られるように、マグネット6を定常電圧よりも高い電圧で一定時間磁化させることをいい、この過励磁後に定常励磁に移行する。
【0043】
また、「逆励磁」は、消磁操作として、荷を釈放するために逆方向に電流を流して逆磁界を発生させることをいい、
図3(c)及び
図4に示すようにこの逆励磁区間でマグネット6に印加された電力によって主回路電圧が変化する。
【0044】
ここで、何の制御も加えない場合は、
図4中に二点鎖線で示すように電圧変化ΔVが大きくなって過電圧が発生し、機器の故障発生等のおそれがある。
【0045】
そこで制御部13は、消磁時に主回路電圧の変化を抑制する(主回路電圧を一定に保つ)ように、主回路電圧の変化ΔVに応じて電動機トルクを決定し、これを発電電動機8に対するトルク指令として出力する。
【0046】
具体的には、たとえば
図5に示すように電圧変化ΔVにほぼ比例して電動機トルクを一定のゲインで変化させる特性(電圧変化ΔVを抑制し得る他の特性でもよい)をもって電動機トルクを決定し出力する。
【0047】
これにより、発電電動機8が指令された電動機トルクで電動機作用を行ってマグネット6からの回生電力を消費するため、主回路電圧の変化ΔVを最小限に抑えて主回路電圧をほぼ一定(目標値)に保つことができる。
【0048】
また、制御部13は、
図3(d)のように、励磁時(過励磁時)に過励磁区間での電圧変化をも抑制するように、たとえば電圧変化ΔVに比例して発電機トルクを変化させる特性をもって発電電動機8の発電機トルクを決定し、発電電動機8に向けて指令するように構成されている。
【0049】
なお、大容量コンデンサ16は、基本的に主回路電圧の変動を減少させる平滑作用を行い、上記電動機トルクまたは発電機トルクの制御による電圧変動抑制作用を助ける機能を果たす。
【0050】
このマグネット作業機械によると、上記のように発電電動機電力によってマグネット6を励磁するため、マグネット電源としてのバッテリが不要となる。
【0051】
従って、マグネット作業機械全体としての機器構成が簡単となるため、設備のためのコストとスペースを大幅に節減できるとともに、複雑なバッテリ制御が不要となることによって制御を簡素化することができる。
【0052】
しかも、マグネット消磁時にマグネット電力を発電電動機8に送って消費(回生)させるため、いかえれば、バッテリを省略しながら回生電力の受け皿を確保できるため、荷の釈放動作を確実かつ速やかに行わせることができる。
【0053】
この場合、消磁時に、主回路電圧の変化ΔVを抑制する方向でこの電圧変化に応じて電動機トルクを制御するため、過電圧による機器への悪影響を回避することができる。
【0054】
また、励磁時にも、主回路電圧の変化ΔVを抑制する方向で主回路電圧の変化に応じて発電機トルクを制御するため、消磁時と同様に電圧変化による機器への悪影響を回避することができる。
【0055】
さらに、主回路(両電源母線14,15間)に大容量コンデンサ16を設けているため、同コンデンサ16の平滑作用によって主回路電圧の変化をさらに抑制することができる。
【符号の説明】
【0056】
6 マグネット
7 エンジン
8 発電電動機
9 吸着スイッチ
10 制御手段としてのインバータ
11 インバータのスイッチング回路
12 同、励磁/消磁切換回路
13 同、制御部
14,15 同、正負両電源母線
16 大容量コンデンサ
17 主回路電圧検出手段としての電圧計