(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563285
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】車両の制動装置および方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1755 20060101AFI20190808BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
B60T8/1755 Z
B60T8/1761
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-179943(P2015-179943)
(22)【出願日】2015年9月11日
(65)【公開番号】特開2016-159902(P2016-159902A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年4月13日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0027547
(32)【優先日】2015年2月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソン、ド
【審査官】
杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−116061(JP,A)
【文献】
特開2007−030752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
8/32−8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作状態、車速、車両の減速度を含む運転情報を感知する感知部と、
車両のホイールから発生するスリップを感知して、前記ホイールに印加される制動力を制御するABSと、
前記感知部を通して感知されるブレーキペダルの操作状態、車速、および車両の減速度から車両の制動状態を判断し、車両の制動状態に応じて、前記ABSによる制御と、車両のピッチモーションを低減させるピッチモーション制御を選択的に行う制御部とを含み、
前記制御部は、前記感知部から感知される車両が、減速度が一定値以上で、且つ、前記感知部から感知される車速および車両の減速度の変化量から算出される、車両が前下がりになる現象を定量的に判断するためのピッチ係数が第1設定値以上であれば、前記ピッチモーション制御を行うことを特徴とする車両の制動装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ピッチ係数が第2設定値より小さければ、前記ピッチモーション制御を中断し、前記ABS制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両の制動装置。
【請求項3】
前記ピッチモーション制御は、前記ホイールに一定時間一定大きさの制動力を印加した後、前記ピッチ係数に応じて前記ホイールに印加される制動力を段階的に増加させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ピッチ係数が第2設定値より小さくなり且つスリップが発生した場合に、前記ピッチモーション制御を中断し、前記ABS制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の車両の制動装置。
【請求項5】
車両の制動の有無を判断する段階と、
車両が急制動状態であるかを判断する段階と、
車両の速度と減速度の変化量から、車両が前下がりになる現象を定量的に判断するためのピッチ係数を算出する段階と、
車両が急制動状態で、且つ、前記ピッチ係数が一定値以上であるかを判断する段階と、
車両が急制動状態で、且つ、前記ピッチ係数が一定値以上であれば、車両のホイールに一定時間一定大きさの制動力を印加した後、段階的に制動力の大きさを増加させるピッチモーション制御を行う段階とを含むことを特徴とする車両の制動方法。
【請求項6】
車両の減速度が一定大きさ以上であれば、車両が急制動状態であると判断することを特徴とする請求項5に記載の車両の制動方法。
【請求項7】
前記ピッチ係数は、車両の速度および車両の減速度からマップデータとして保存されることを特徴とする請求項5に記載の車両の制動方法。
【請求項8】
前記ピッチ係数が第2設定値より小さければ、前記ピッチモーション制御を中断し、ABS制御を行うことを特徴とする請求項5に記載の車両の制動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動装置および方法に関し、より詳細には、車両の急制動(ブレーキ)時に発生するピッチモーションを最少化して制動距離を短縮させることのできる車両の制動装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の油圧ブレーキでは、ブレーキペダルの作動により制動油圧が車輪に印加されて制動が行われる。この時、路面とタイヤとの間の静止摩擦力より大きな制動力がタイヤに加えられる場合、タイヤが路面で滑るスリップ現象が発生する。
【0003】
運動摩擦係数は静止摩擦係数より小さいので、最上の制動が行われるためには、かかるスリップ現象が防止されなければならない。また、かかるスリップ現象によって、ブレーキ作動時、ブレーキロッキング現象が防止されなければならない。
【0004】
したがって、各車輪が油圧ブレーキに印加される制動油圧を制御して、スリップ現象またはブレーキロッキング現象が発生するのを防止し、安定した制動力を確保するために、ABS(Antilock Brake System)が使用されている。ABSは、基本的に、各油圧ブレーキ側に伝達される制動油圧を制御するための複数のソレノイドバルブと、アキュムレータ、油圧ポンプなどの油圧制御装置、そして電気/電子部品を制御するためのECU(Electric Control Unit)を備えて構成される。
【0005】
ABSは、車両の急制動時、または滑りやすい路面でブレーキの作動で発生する車輪のスリップを感知して、制動油圧を減圧または維持または蒸圧することにより適宜のコーナリングフォースを確保し、操舵安定性を維持しながら車両が最短距離で停止できるように制御する。
【0006】
一方、
図1に示されているように、車両の急制動のために運転者が強くブレーキペダルを踏めば、車体の重心がサスペンションより高い位置にあるため、車体が前下がりになるピッチモーション(他の表現で「ノーズダイブ(nosedive)」現象)が発生する。この時、ABSが動作すると、油圧制御装置によって車輪に高い制動油圧が形成され、以降、車輪に印加される制動油圧が減少しながら車両の減速度が損なわれる。これによって、車両の制動距離が増加する問題が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためのものであって、車両の急制動(ブレーキ)時に発生するピッチモーションによって車両の制動距離が増加することを防止する車両の制動装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための、本発明の実施形態に係る車両の制動装置は、ブレーキペダルの操作状態、車速、車両の減速度を含む運転情報を感知する感知部と、車両のホイールから発生するスリップを感知して、前記ホイールに印加される制動力を制御するABSと、前記感知部を通して感知されるブレーキペダルの操作状態、車速、および車両の減速度から車両の制動状態を判断し、車両の制動状態に応じて、前記ABSによる制御と、車両のピッチモーションを低減させるピッチモーション制御を選択的に行う制御部とを含む。
【0009】
前記制御部は、前記感知部から感知される車両が、減速度が一定値以上で、且つ、前記感知部から感知される車速および車両の減速度の変化量から算出されるピッチ係数が第1設定値以上であれば、前記ピッチモーション制御を行うとよい。
【0010】
前記制御部は、前記ピッチ係数が第2設定値より小さければ、前記ピッチモーション制御を中断し、前記ABS制御を行うとよい。
【0011】
前記ピッチモーション制御は、前記ホイールに一定時間一定大きさの制動力を印加した後、前記ピッチ係数に応じて前記ホイールに印加される制動力を段階的に増加させるとよい。
【0012】
本発明の他の実施形態に係る車両の制動方法は、車両の制動の有無を判断する段階と、車両が急制動状態であるかを判断する段階と、車両の速度と減速度からピッチ係数を算出する段階と、車両が急制動状態で、且つ、前記ピッチ係数が一定値以上であるかを判断する段階と、車両が急制動状態で、且つ、前記ピッチ係数が一定値以上であれば、車両のホイールに一定時間一定大きさの制動力を印加した後、段階的に制動力の大きさを増加させるピッチモーション制御を行う段階とを含む。
【0013】
車両の減速度が一定大きさ以上であれば、車両が急制動状態であると判断するとよい。
【0014】
前記ピッチ係数は、車両の速度および車両の減速度からマップデータとして保存されるとよい。
【0015】
前記ピッチ係数が第2設定値より小さければ、前記ピッチモーション制御を中断し、ABS制御を行うとよい。
【発明の効果】
【0016】
このような本発明の実施形態に係る車両の制動装置および方法によれば、車両の急制動によってピッチモーションが発生した時、ピッチモーションを最少化するピッチモーション制御を行うことにより、車両の制動距離を最少化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】車両の急制動時に発生するピッチモーションを示す概念図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る車両の制動装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る車両の制動方法を示すフローチャートである。
【
図4】車両の減速度、ピッチ係数、および制動力の関係を示すグラフである。
【
図5】車両の速度、制動力、および減速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付した図面を参照して、本発明の実施形態について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0019】
本発明を明確に説明するために説明上不必要な部分は省略しており、明細書全体にわたって同一または類似の構成要素については同一の参照符号を付す。
【0020】
また、図面に示された各構成の大きさおよび厚さは説明の便宜のために任意に示したので、本発明が必ずしも図面に示されたところに限定されず、様々な部分および領域を明確に表現するために厚さを拡大して示した。
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る車両の制動装置について、添付した図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図2は、本発明の実施形態に係る車両の制動装置の構成を示すブロック図である。
【0023】
図2に示されているように、本発明の実施形態に係る車両の制動装置は、車両の運転情報を感知する感知部20と、車両に備えられたホイール10から発生するスリップを感知して、前記ホイール10に印加される制動力を制御するABS(antilock brake system)30と、前記感知部20を通して感知される運転情報から車両の制動状態を判断し、前記ABS30による制御と、車両のピッチモーションを低減させるピッチモーション制御を選択的に行う制御部40とを含む。
【0024】
前記感知部20は、運転者の操作によるブレーキペダルの操作状態、車両の速度、および車両の減速度を含む全般的な運転情報を感知し、感知された運転情報は前記制御部40に提供される。
【0025】
運転者による前記ブレーキペダルの操作は、車両に備えられたブレーキペダルセンサから感知できる。前記車両の速度は、車両のホイール10に備えられたホイール速センサから感知できる。そして、前記車両の減速度は、前記ホイール10に備えられた加速度センサから感知可能で、前記ホイール速センサから感知されたホイール速度を微分して感知してもよい。
【0026】
前記制御部40は、設定されたプログラムによって作動する1つ以上のプロセッサとして備えられてもよいし、前記設定されたプログラムは、本発明の実施形態に係る車両の制動方法の各段階を行うようになっている。
【0027】
前記制御部40は、前記ブレーキペダルの操作状態と車両の減速度に応じて車両が急制動状態であるか否かを判断する。具体的に、前記ブレーキペダルが操作され、且つ、前記車両の減速度が一定値以上であれば、車両が急制動状態であると判断するとよい。
【0028】
前記制御部40は、車両の速度および車両の減速度の変化量からピッチ係数を算出する。前記ピッチ係数は、車両の急制動によって車両が前下がりになる現象を定量的に判断するためのものである。前記ピッチ係数は、車両の速度および車両の減速度に応じてマップデータ形式で前記制御部40に予め保存される。
【0029】
前記ピッチ係数が第1設定値以上であれば、前記制御部40は、ピッチモーション制御を行う。
【0030】
前記ピッチモーション制御は、車両の急制動時に車両が前下がりになることを防止するために、車両のホイール10に印加される制動力を一定量制限する方法である。具体的に、前記ピッチモーション制御は、前記ホイール10に一定時間一定大きさの制動力を印加した後、前記ピッチ係数が第2設定値より小さくなるまで前記ホイール10に印加される制動力を段階的に増加させる。
【0031】
前記ピッチ係数が第2設定値より小さくなると、前記ピッチモーション制御を中断し、前記ホイール10のスリップが発生すると、前記ABS30を通してホイールスリップを感知して、ホイールスリップが発生したりブレーキロッキング現象を防止するためのABS30制御を行う。
【0032】
以下、本発明の実施形態に係る車両の制動方法について、添付した図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
図3は、本発明の実施形態に係る車両の制動方法を示すフローチャートである。
図4は、車両の減速度、ピッチ係数、および制動力の関係を示すグラフである。
【0034】
図3および
図4を参照すれば、前記制御部40は、前記感知部20を通して車両が制動状態であるか否かを判断する(S10)。車両が制動状態であるか否かを、ブレーキペダルセンサから伝達される信号から判断することができる。
【0035】
車両が制動状態であれば、前記制御部40は、前記感知部20から感知された車両の減速度から車両が急制動状態であるか否かを判断する(S20)。この時、前記制御部40は、車両の減速度が設定値(
図4の「a」参照)以上であれば、車両が急制動状態(
図4の「t1」参照)であると判断するとよい。
【0036】
前記制御部40は、ピッチ係数を算出する(S30)。上記で説明したように、前記ピッチ係数は、前記車速および前記車両の減速度に応じてマップデータ形式で保存されるとよい。
【0037】
前記ピッチ係数が第1設定値(
図4の「b」参照)以上であれば(S40)、前記制御部40は、車両の急制動によって車両が前下がりになる現象のピッチモーションが発生したと判断し、「t2」の時刻からピッチモーション制御を行う(S50)。
【0038】
具体的に、前記ピッチモーション制御は、一定時間一定大きさの制動力を前記ホイール10に印加する。
【0039】
そして、前記ピッチ係数を第2設定値と比較して、前記ピッチ係数が第2設定値以上であれば、前記S20段階に移り、前記ホイール10に印加される制動力を段階的に増加させる。前記ピッチ係数が前記第2設定値より小さいとは、ピッチモーションが発生しないことを意味する。この時、前記第2設定値は、前記第1設定値より小さく設定される。
言い換えれば、前記ピッチ係数が第1設定値(
図4の「b」参照)の時(
図4の「t2」参照)から第2設定値(
図4の「c」参照)より小さくなる時(
図4の「t3」参照)まで前記ホイール10に印加される制動力を段階的に増加させる。
【0040】
つまり、前記ピッチ係数が前記第1設定値より大きければ、前記ピッチモーション制御を行い、前記ピッチ係数が前記第2設定値より小さくなるまで前記ピッチモーション制御を行うことにより、前記ホイール10に印加される制動力を段階的に増加させる(
図4の制動力グラフの「ピッチモーション制御区間」参照)。
【0041】
仮に、前記ピッチモーション制御のためのピッチ係数が第2設定値より小さければ(S60)、前記制御部40は、ピッチモーション制御を中断する。
【0042】
以降、前記感知部20を通して車両のホイール10の状態を感知して、前記ホイール10にスリップが発生すると(S70)、一般的なABS30によるABS30制御段階を行って(S80)、ホイール10のスリップとブレーキロッキング現象を防止する。
【0043】
以下、本発明の実施形態に係る車両の制動方法と、従来技術による車両の制動方法とを比較して説明する。従来技術による車両の制動方法は、車両が急制動(ブレーキ)する時、ホイールスリップを感知して、ABS30制御だけを行うことをいう。
【0044】
図5は、車両の速度、制動力、および減速度を示すグラフである。
図5に示されているように、車速が急激に減少する時、ABS30制御だけを行うと、ABS30の制御初期にホイール10に高い制動力が印加されてから、再び減少する。これによって、ホイール速が急激に減少してから、再び急激に増加する。これによって、車両の減速度が増加後減少(
図5の「x」表示部分参照)し、車両の制動距離が増加したことが分かる。
【0045】
しかし、本発明に係る車両の制動方法によれば、ABS30制御を行う前に、ピッチモーション制御を通してホイール10に印加される制動力を制限することにより、車両の減速度が減少することが最小化され、車両の制動距離が増加することを防止することができる。
【0046】
以上で説明したように、本発明の実施形態に係る車両の制動装置および方法によれば、車両が急制動状態で、且つ、ピッチ係数が第1設定値より大きければ、ピッチモーションが発生したと判断して、ピッチモーション制御を行う。
ピッチモーション制御を通して車両のホイール10に印加される制動力を段階的に増加させると、単にABS30制御を行う時と比較して、車速の減少に伴い車両の減速度が損なわれることを防止することができる。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲と発明の詳細な説明および添付した図面の範囲内で多様に変形して実施することが可能であり、これも本発明の範囲に属することは当然である。
【符号の説明】
【0048】
10:ホイール
20:感知部
30:ABS
40:制御部