(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fe−Si系鉄基軟磁性粒子を900℃以上且つ1100℃以下の温度における不活性雰囲気中での熱処理に付すことにより前記Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に酸化珪素膜を形成する酸化膜形成工程と、
前記酸化珪素膜の表面にマグネシウム含有フェライト膜を形成する絶縁膜形成工程と、
を含む、軟磁性粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
(1)軟磁性粉末
本発明に係る軟磁性粉末は、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子と、前記Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に形成された酸化珪素膜と、前記酸化珪素膜の表面に形成されたマグネシウム含有フェライト膜と、を備える。
【0024】
上記Fe−Si系鉄基軟磁性粒子としては、圧粉磁心の構成材料として広く使用されているFe−Si系鉄基軟磁性粒子を使用することができる。Fe−Si系鉄基軟磁性粒子におけるSiの含有率は1.0wt%以上でありかつ10wt%以下であることが望ましい。Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の平均粒径は、50μm以上であり且つ200μm以下であることが望ましい。Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の平均粒径が50μm未満であると、保磁力が大きく、ヒステリシス損失が増大する虞がある。一方、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の平均粒径が200μmを超えると、個々の粒子内に渦電流が流れ易くなり、渦電流損失が増大する虞がある。
【0025】
このようなFe−Si系鉄基軟磁性粒子の具体例としては、アトマイズ粉末を挙げることができる。従って、上記Fe−Si系鉄基軟磁性粒子は、圧粉磁心を始めとする軟磁性体に求められる低い保磁力及び高い透磁率を達成することができる。種々のアトマイズ粉末の中でも、水アトマイズ粉末はコスト面で有利である。加えて、水アトマイズ法によって製造されるFe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面は酸化膜によって覆われている。即ち、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の最表面には酸化鉄及び酸化珪素が存在する。
【0026】
上記酸化珪素膜は、上記Fe−Si系鉄基軟磁性粒子を所定の熱処理に付し、上記のようにFe−Si系鉄基軟磁性粒子の最表面に存在する酸化鉄を構成する酸素と当該粒子の内部に存在する珪素とを反応させることによって形成することができる(詳しくは後述する)。
【0027】
尚、詳しくは後述するように、本発明に係る軟磁性粉末を圧粉成形及び焼結して得られる軟磁性体は、ヒステリシス損失を低減することを目的として、高温での焼き鈍し処理に付される。この際、上記酸化珪素膜は、軟磁性粒子とフェライト膜との反応によりフェライト膜の絶縁性が低下して当該軟磁性体の渦電流損失が増大することを抑制する。
【0028】
上記酸化珪素膜は、0.5μm以上であり且つ1.0μm以下の厚みを有する。酸化珪素膜の厚みが0.5μm未満であると、上記マグネシウム含有フェライト膜の形成に伴う酸化珪素膜の破損及び/又は剥離が生じ、上記焼き鈍し処理の際に軟磁性粒子とフェライト膜との反応を十分に抑制することができず、結果として渦電流損失の増大を招く虞がある。一方、酸化珪素膜の厚みが1.0μmを超えると、軟磁性粒子において非磁性材料である酸化珪素が占める割合が高まり、当該軟磁性粒子から得られる軟磁性体の磁気特性が低下する虞がある。尚、酸化珪素膜の厚みは、例えばFe−Si系鉄基軟磁性粒子を構成するFe−Si合金の組成、酸化珪素膜を形成するための熱処理の温度及び時間等によって調整することができる。
【0029】
酸化珪素膜の表面に形成されるマグネシウム含有フェライト膜の被覆量は、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子に対して0.5質量%以上であり且つ4.0質量%以下とすることが望ましい。フェライト膜の被覆量が0.5質量%未満であると、連続した皮膜が形成され難く、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子間の絶縁性の確保が困難となる。一方、フェライト膜の被覆量が4.0質量%を超えると、絶縁膜の厚みが過大となり、当該軟磁性粉末からなる軟磁性体の単位体積当たりに占めるFe−Si系鉄基軟磁性粒子の割合が低下し、軟磁性体の全体としての透磁率の低下及びヒステリシス損失の増大を招く虞がある。
【0030】
また、マグネシウム含有フェライト膜の被覆膜厚は、0.1μm以上であり且つ10μm以下とすることが望ましい。マグネシウム含有フェライト膜の被覆膜厚が0.1μm未満であると、絶縁膜としての厚みが薄過ぎて、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子間の絶縁性の確保が困難となる。一方、フェライト膜の被覆膜厚が10μmを超えると、絶縁膜の厚みが過大となり、当該軟磁性粉末からなる軟磁性体の単位体積当たりに占めるFe−Si系鉄基軟磁性粒子の割合が低下し、軟磁性体の全体としての透磁率の低下及びヒステリシス損失の増大を招く虞がある。
【0031】
尚、本発明に係る軟磁性体におけるマグネシウム含有フェライト膜の被覆膜厚は、例えば当該軟磁性体の用途等に応じて、適宜調整することができる。例えば、高い透磁率が要求されるモータのコアとして本発明に係る軟磁性体を使用する場合は、マグネシウム含有フェライト膜の被覆膜厚は、絶縁性を確保することが可能である限りにおいて、できるだけ薄くすることが望ましい。
【0032】
上記マグネシウム含有フェライト膜は、例えばマンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライト等、スピネル型結晶構造を有する一般的なフェライトからなり、圧粉磁心の構成材料として広く使用されている軟磁性フェライト(ソフトフェライト)から適宜選択することができる。軟磁性フェライトの比抵抗は高いため、マグネシウム含有フェライト膜が表面に形成されたFe−Si系鉄基軟磁性粒子は、電気的に孤立する。すなわち、マグネシウム含有フェライト膜が絶縁膜として機能して、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子間における導通が遮断される(絶縁が確保される)。これにより、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子間の導通に起因する軟磁性体の電気抵抗の低下を防止することができる。更に、このように磁性を有する軟磁性フェライトを被覆することにより、磁性を持たない絶縁被膜を被覆する場合に比べて、軟磁性体の磁気特性の低下を抑制することができる。
【0033】
但し、本発明に係る軟磁性粉末が絶縁膜として備えるフェライト膜は、その結晶構造中にMg(マグネシウム)を含むマグネシウム含有フェライトからなる。マグネシウム含有フェライトは安定な酸化物(MgO)を含むため還元され難く、Fe(鉄)との反応性が低い。これにより、上記焼き鈍し処理の際に軟磁性粒子と反応して絶縁性が低下して渦電流損失の増大を招く虞が低減される。
【0034】
典型的には、前記マグネシウム含有フェライト膜は、組成式Mg
xM
1−xFe
2O
4によって表される化合物を含んでなる。式中、Mは、Mg及びFe以外の金属元素を表す。具体的には、Mは、例えばMn(マンガン)、Zn(亜鉛)、Ni(ニッケル)、及びCu(銅)等から選ばれる1種以上の金属元素を表す。xは、当該化合物を構成するFe以外の金属元素のうちMgが占める割合を示し、0.1以上且つ0.5以下であることが望ましい。xが0.1未満であると、フェライト膜にMgが含まれることに起因する当該フェライトとFe(鉄)との反応性を低下する効果を十分に得ることができない。一方、xが0.5を超えると、当該フェライトの磁気特性が低下し、結果として当該軟磁性粉末から得られる軟磁性体の磁気特性を低下させる虞がある。
【0035】
以上のように、本発明に係る軟磁性粉末によれば、当該軟磁性粉末から得られる軟磁性体(コア)において、低い保磁力及び高い透磁率を維持しつつ低い鉄損を達成することができる。
【0036】
(2)軟磁性体
本発明に係る軟磁性体は、上述したような本発明に係る軟磁性粉末を加圧して圧粉成形体を作製することによって得ることができる。このような圧粉成形体は、例えばトランス及びモータ等のコア(圧粉磁心)となる軟磁性体として使用される。しかしながら、当該軟磁性体には、例えば、上述したマグネシウム含有フェライト膜の形成及び/又は軟磁性粉末の圧粉成形の際に作用する応力等に起因する歪みが内在する。このような歪みは、例えば、当該軟磁性体をコアとして使用するときのヒステリシス損失に繋がり、コア全体としての鉄損の増大を招く虞がある。
【0037】
しかしながら、上述したような本発明に係る軟磁性粉末から得られる本発明に係る軟磁性体は、所定の条件における熱処理(焼き鈍し処理)により、著しく低い鉄損を達成することができる。具体的には、上記焼き鈍し処理において、当該軟磁性体は、900℃以上且つ1200℃以下の温度における不活性雰囲気中での熱処理後に付される(焼き鈍し処理の詳細については後述する)。このような熱処理を経た当該軟磁性体は、常温において0.2Tの振幅及び10kHzの周波数を有する交流磁界を印加したときに75W/kg以下の鉄損を呈する。この「鉄損」は、当業者に周知であるように、ヒステリシス損失と渦電流損失との和である。
【0038】
上記焼き鈍し処理により、ヒステリシス損失を低減し、本発明に係る軟磁性体からなるコア全体としての鉄損を低減することができる。しかも、本発明に係る軟磁性粉末は上述したような構成を有することから、低い保磁力及び高い透磁率を達成することができる。加えて、焼き鈍し処理によってもマグネシウム含有フェライト膜の絶縁性が低下しないので、焼き鈍し処理に伴う渦電流損失の増大を招くこと無く、低い鉄損を達成することができる。
【0039】
以上のように、本発明に係る軟磁性体は、低い保磁力及び高い透磁率を維持しつつ低い鉄損を達成することができる。
【0040】
より好ましくは、本発明に係る軟磁性粉末から得られる本発明に係る軟磁性体は、1000℃以上且つ1200℃以下の温度における不活性雰囲気中での熱処理後に0.2Tの振幅及び10kHzの周波数を有する交流磁界を印加したときに常温において測定される鉄損が50W/kg以下である。
【0041】
(3)軟磁性粉末の製造方法
本発明に係る軟磁性粉末の製造方法は、
Fe−Si系鉄基軟磁性粒子を900℃以上且つ1100℃以下の温度における不活性雰囲気中での熱処理に付すことにより前記Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に酸化珪素膜を形成する酸化膜形成工程と、
前記酸化珪素膜の表面にマグネシウム含有フェライト膜を形成する絶縁膜形成工程と、
を含む。
【0042】
上記Fe−Si系鉄基軟磁性粒子としては、前述したように、圧粉磁心の構成材料として広く使用されているFe−Si系鉄基軟磁性粒子を使用することができる。典型的には、水アトマイズ法によって製造されるFe−Si系鉄基軟磁性粒子が使用される。
【0043】
上記酸化膜形成工程において、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子を900℃以上且つ1100℃以下の温度における不活性雰囲気中での熱処理に付す。これにより、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に酸化珪素膜を形成することができる。この酸化珪素膜は、前述したように、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面を覆う酸化膜を構成する酸化鉄及び酸化珪素のうち比較的不安定な酸化鉄を構成する酸素と当該粒子の内部に存在する珪素とが反応することにより形成される。
【0044】
より詳しくは、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に存在する酸化鉄を構成する酸素が当該粒子の内部に拡散しながらFe−Si合金中のSi(珪素)と反応して酸化珪素(Si酸化物)を生成する。これに伴い、当該粒子の表面近傍のSi濃度が低下して、当該粒子の内部にSiの濃度勾配が生ずる。このため、当該粒子の内部に存在するSiが表面近傍へと拡散し、上記濃度勾配を緩和する。このようなメカニズムにより、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面を酸化珪素膜によって覆うことができる。
【0045】
上記熱処理の温度が900℃未満であると酸化珪素膜の形成が困難となる。一方、上記熱処理の温度が1200℃を超えると、例えば、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の融着等により粉末状態を保つことが困難となる。上記不活性雰囲気は、例えばAr(アルゴン)等の希ガス雰囲気のみならず、窒素雰囲気及び真空雰囲気等、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の酸化を抑制し得る雰囲気を意味する。
【0046】
上記絶縁膜形成工程において、上記のようにしてFe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に形成された酸化珪素膜の表面にマグネシウム含有フェライト膜を形成する。マグネシウム含有フェライト膜の構成材料については上述した通りである。マグネシウム含有フェライト膜の具体的な形成方法は、十分な厚みを有するマグネシウム含有フェライト膜を連続的且つ均一に形成してFe−Si系鉄基軟磁性粒子間の絶縁性を十分に達成することが可能である限り、特に限定されない。
【0047】
即ち、上記絶縁膜形成工程においては、例えば、圧縮、剪断、及び摩擦等の機械的エネルギーをFe−Si系鉄基軟磁性粒子及びマグネシウム含有フェライト粉末に作用させる被覆方法並びにマグネシウム含有フェライトのスラリーをFe−Si系鉄基軟磁性粒子に塗布する湿式の被覆方法等を採用することができる。
【0048】
以上のように、本発明に係る軟磁性粉末の製造方法によれば、低い保磁力及び高い透磁率を維持しつつ低い鉄損を達成することができる軟磁性体(コア)を構成する軟磁性粉末を得ることができる。
【0049】
尚、μmオーダーの厚みを有するマグネシウム含有フェライト膜を連続的且つ均一に形成してFe−Si系鉄基軟磁性粒子間の絶縁性を十分に達成する観点からは、機械的エネルギーを利用する被覆方法が望ましい。この場合、前記絶縁膜形成工程は、前記酸化珪素膜が表面に形成された前記Fe−Si系鉄基軟磁性粒子とマグネシウム含有フェライト粒子との混合物である混合粉末を調製する混合工程と、前記混合粉末に機械的エネルギーを作用させることにより前記Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に形成された酸化珪素膜の表面にマグネシウム含有フェライト膜を形成する成膜工程と、を含む。
【0050】
上記成膜工程においてFe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に形成された酸化珪素膜の表面にマグネシウム含有フェライト膜を形成するための具体的な手法としては、例えば、メカノフュージョン法を挙げることができる。当業者に周知であるように、メカノフュージョン法とは、機械的エネルギーを利用して、ある物質を他の物質の表面に融着させる乾式処理法である。尚、以下の説明において、メカノフュージョン法による被膜形成処理を「メカノフュージョン処理」と称呼する場合がある。
【0051】
具体的には、絶縁性の達成に必要な厚み(被覆量)に対応する比率にてFe−Si系鉄基軟磁性粒子とマグネシウム含有フェライト粒子とを混合し、内部にプレスヘッドが配設されたロータ内に当該混合粉末を充填する。そして、所定の条件(例えば、ロータ回転数、温度、及び周囲雰囲気)において、このロータを回転させることにより、プレスヘッドとロータの内壁との間で当該混合粉末に圧縮、剪断、及び摩擦等の機械的エネルギーを当該混合物に作用させる。これにより、酸化珪素膜の破損及び/又は剥離を抑制しつつ所望の厚みを有するマグネシウム含有フェライト膜をFe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に形成することができる。
【0052】
(4)軟磁性体の製造方法
本発明に係る軟磁性体の製造方法は、
本発明に係る軟磁性粉末の製造方法によって軟磁性粉末を製造する粉末製造工程と、
前記軟磁性粉末を加圧して圧粉成形体を作製する圧粉工程と、
前記圧粉成形体を焼結して焼結体とする焼結工程と、
を含む。
【0053】
上記粉末製造工程において実行される本発明に係る軟磁性粉末の製造方法については、既に上述した通りである。本発明に係る軟磁性粉末は上述したような構成を有することから、低い保磁力及び高い透磁率を達成することができる。
【0054】
上記圧粉工程においては、例えば、上記粉末製造工程において製造された(マグネシウム含有フェライト膜が表面に形成されたFe−Si系鉄基軟磁性粒子からなる)軟磁性粉末を金型のキャビティ内に充填する。そして、当該キャビティ内に充填された軟磁性粉末に加圧することにより圧粉成形体が作製される。この際、例えばステアリン酸亜鉛水溶液等の潤滑剤を使用する温間型潤滑成形法を採用してもよい。軟磁性粉末の加圧は、周知の加圧装置によって行うことができる。加圧時の荷重(加圧力)が高いほど、圧粉成形体の密度を高くすることができる。
【0055】
軟磁性体の密度が高いほど軟磁性体の磁気特性及び機械的強度が向上する。従って、圧粉工程においては、圧粉成形体の密度を増大させるため、高い荷重にて圧粉成形が行われる。しかしながら、圧粉成形時の荷重が高いほど、圧粉成形体を構成する軟磁性粉末を構成する粒子の変形が顕著になる。従って、圧粉工程におけるFe−Si系鉄基軟磁性粒子の変形に絶縁膜としてのマグネシウム含有フェライト膜が追従することができない場合、絶縁膜の破損及び/又は剥離により、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子間の絶縁性の低下を招く虞がある。
【0056】
しかしながら、詳しくは後述するように、本発明に係る軟磁性粉末においては、マグネシウム含有フェライト膜が粉末状のフェライト粒子によって構成されている。従って、圧粉工程においてFe−Si系鉄基軟磁性粒子が変形しても、マグネシウム含有フェライト膜を構成するフェライト粒子が流動することにより、マグネシウム含有フェライト膜もFe−Si系鉄基軟磁性粒子の変形に追随して容易に変形することができる。その結果、絶縁膜としてのマグネシウム含有フェライト膜が加圧変形によって破壊されることを防止することができ、隣接するFe−Si系鉄基軟磁性粒子間の絶縁をより確実に達成することができる。
【0057】
上記焼結工程においては、上記圧粉成形体を焼結して焼結体とする。圧粉工程における加圧のみでは、マグネシウム含有フェライト膜を介したFe−Si系鉄基軟磁性粒子間に強い結合力を達成することはできず、軟磁性体の機械的強度は低い。しかしながら、焼結によって当該粒子間の結合を強めることにより、軟磁性体の機械的強度を増大させることができる。また、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面を被覆している軟磁性フェライト層は、上述したようにフェライト粒子によって形成されている。焼結工程においては、これらのフェライト粒子同士の結合及び粒子の成長が起こる。これもまた、軟磁性体の機械的強度の向上に寄与する。
【0058】
また、上記圧粉成形体においては、圧粉成形時の加圧に起因する歪みが蓄積されているため、そのままの状態ではヒステリシス損失が大きい。上記焼結工程は、この歪みを除去するための焼き鈍し処理としても位置付けられる。これにより、ヒステリシス損失を低減し、本発明に係る軟磁性体からなるコア全体としての鉄損を低減することができる。
【0059】
ところで、一般に、フェライト膜によって被覆された鉄基軟磁性粒子からなる圧粉成形体においては、上記焼結工程における熱処理の温度(焼結温度)が高いほど、焼結体の機械的強度が増大し且つ保磁力が低下する傾向がある。従って、焼結温度が過度に低いと、このような効果を十分に得ることができない。一方、焼結温度が過度に高いと、フェライトの還元が進行すると共に鉄基軟磁性粒子の内部酸化が進行し、FeO(酸化鉄)が生成される。FeOは常温で常磁性であり、導電性を有し、強度が低いことから、軟磁性体中にFeO相が多量に存在すると、透磁率の低下、渦電流損失の増大、及び機械的強度の低下を招く。つまり、焼結温度を高めると、鉄系軟磁性粒子の粒界にFeOが多量に生成されて、フェライト膜(絶縁膜)が劣化する。このように絶縁膜が劣化すると、鉄系軟磁性粒子間の絶縁性を維持することができず、当該軟磁性体の渦電流損失の増大を招く虞がある。
【0060】
上記に対し、本発明に係る軟磁性体の製造方法において使用される本発明に係る軟磁性粉末は、安定な酸化物(MgO)を含むため還元され難く、Fe(鉄)との反応性が低いマグネシウム含有フェライト膜を絶縁膜として備える。更に、当該軟磁性粉末においては、当該絶縁膜とFe−Si系鉄基軟磁性粒子との間に酸化珪素膜が介在する。そのため、上記焼結工程における圧粉成形体の焼結に伴うマグネシウム含有フェライト膜の絶縁性の低下が抑制されるので、渦電流損失の増大を招くこと無く、低い鉄損を達成することができる。
【0061】
本発明の好ましい態様に係る軟磁性体の製造方法によれば、0.2Tの振幅及び10kHzの周波数を有する交流磁界を前記焼結体に印加したときに常温において測定される鉄損が75W/kg以下である軟磁性体を得ることができる。このように低い鉄損を有する軟磁性体は、例えば、前記焼結工程において、900℃以上且つ1200℃以下の温度において不活性雰囲気中にて前記圧粉成形体を焼結することによって製造することができる。
【0062】
本発明のより好ましい態様に係る軟磁性体の製造方法によれば、0.2Tの振幅及び10kHzの周波数を有する交流磁界を前記焼結体に印加したときに常温において測定される鉄損が50W/kg以下である軟磁性体を得ることができる。このように低い鉄損を有する軟磁性体は、例えば、前記焼結工程において、1000℃以上且つ1200℃以下の温度において不活性雰囲気中にて前記圧粉成形体を焼結することによって製造することができる。
【0063】
上記不活性雰囲気もまた、前述したように、例えばAr(アルゴン)等の希ガス雰囲気のみならず、窒素雰囲気及び真空雰囲気等、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子及びマグネシウム含有フェライト膜の酸化を抑制し得る雰囲気を意味する。
【0064】
以上のように、本発明に係る軟磁性体の製造方法によれば、低い保磁力及び高い透磁率を維持しつつ低い鉄損を達成することができる軟磁性体(コア)を得ることができる。
【実施例1】
【0065】
<予備実験>
本実施例においては、本発明についての理解を促すことを目的として、先ず、絶縁膜を形成する材料としてMg(マグネシウム)を含有しないフェライトを使用して、上述した軟磁性粉末及び軟磁性体並びにそれらの製造方法に関して説明する。
【0066】
1.軟磁性粉末
(a)酸化珪素膜の形成
先ず、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に形成する酸化珪素膜について以下に説明する。本例においては、Siを3.0質量%含有するFe−Si合金(Fe−3.0%Si)の水アトマイズ粉をFe−Si系鉄基軟磁性粒子として使用し、以下に列挙する3種類の条件において熱処理を施した。
【0067】
P1:熱処理無し。
P2:900℃にて10分間、N
2(窒素)雰囲気中にて熱処理。
P3:900℃にて20分間、N
2(窒素)雰囲気中にて熱処理。
【0068】
以下の説明においては、上記P1乃至P3の条件にて熱処理された各粉末試料もまた、それぞれP1乃至P3と称呼される。X線光電子分光(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)によって粉末試料P1乃至P3の最表面の組成を定量分析した結果を以下の表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示した分析結果から明らかであるように、熱処理を施していない粉末試料P1の表面にはFe及びSiの酸化物の存在が確認された。粉末試料P1と比べて、粉末試料P2及びP3においては、Feの濃度が低く、Siの濃度が高くなっている。即ち、粉末試料P2及びP3においては、酸化珪素膜が形成されたことが確認された。
【0071】
そこで、上記のように酸化珪素膜が表面に形成された粉末試料P2及びP3につき、深さ方向における組成分布を分析した。分析結果を
図1(P2)及び
図2(P3)にそれぞれ示す。実線によって示したO(酸素)の濃度分布に基づき、熱処理時間が短い粉末試料P2において形成された酸化珪素膜の厚みは、厚い部分で300nm程度であると判断される。一方、熱処理時間が長い粉末試料P3においては、酸化珪素膜の厚みは600nm程度であると判断される。
【0072】
(b)フェライト膜の形成
次に、上記熱処理によって酸化珪素膜が形成された粉末試料P2及びP3の表面にフェライト膜を形成した。具体的には、上記のようにして調製された粉末試料P2及びP3(Fe−Si系鉄基軟磁性粒子)のそれぞれにつき、1500gの軟磁性粒子に対して60gの軟磁性フェライト(Ni−Zn−Cuフェライト:戸田工業株式会社製)をAr雰囲気のグローブボックス内で混合して混合粉末を調製した。
【0073】
その後、上記グローブボックスから混合粉末を取り出し、メカノフュージョン装置(ホソカワミクロン株式会社製)の内部に充填し、当該装置により、それぞれのFe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に軟磁性フェライトを被覆し、絶縁膜を形成した。尚、粉末試料P2及びP3の何れについても、1000rpmのロータ回転速度、室温(水冷)、及びArフロー雰囲気において40分間に亘ってフェライト被覆処理を実施した。粉末試料P2及びP3にそれぞれ対応するフェライト被覆粉末試料MP2及びMP3の外観(a)及び断面(b)の走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)写真を
図3及び
図4にそれぞれ示す。
【0074】
フェライト被覆粉末試料MP2及びMP3を構成する粒子の外観を示すSEM写真(
図3の(a)及び
図4の(a))においては、粉末試料MP2及びMP3の何れも、若干の凹凸部も含み、粒子の表面全体がフェライト粉末で覆われている点については同様に見える。しかしながら、粉末試料MP2及びMP3を構成する粒子の断面を示すSEM写真(
図3の(b)及び
図4の(b))においては、フェライト被覆粉末試料MP2とMP3との間でフェライト膜(絶縁膜)の組織に相違が認められた。
【0075】
具体的には、粉末試料MP2においては、絶縁膜を構成するフェライト粉末同士又は試料粉末(Fe−Si系鉄基軟磁性粒子)とフェライト粉末とが融合して、一体的な皮膜状の組織を形成していた。これに対し、粉末試料MP3においては、個々のフェライト粉末を確認することができ、粉末が積層されてなる組織を形成していた。
【0076】
上記において、粉末試料P2の酸化珪素膜は薄い(約300nm)ため、メカノフュージョン処理においてフェライト粉末がFe−Si合金粉末に擦り付けられるときに酸化珪素膜の破損及び/又は剥離が起こることが考えられる。即ち、酸化珪素膜の破損及び/又は剥離が起こったために、フェライト粉末とFe−Si合金粉末とが直接接触するようになり、これらが混ざり合って一体的な皮膜状の組織に変化したと考えられる。
【0077】
一方、粉末試料P3の酸化珪素膜は厚い(約600nm)ため、メカノフュージョン処理においても酸化珪素膜の破壊及び/又は剥離が起こらず、また酸化珪素膜は非晶質であり且つ硬いのでフェライト粉末と混ざり合うことが無く、粉末が積層されてなる組織が形成されたと考えられる。
【0078】
2.軟磁性体
(a)製造
上記のようにして調製されたフェライト被覆粉末試料MP2及びMP3を使用して、リング状の軟磁性体試料(外径:約20mmφ、内径:約14mmφ、厚さ:約3mm)をそれぞれ圧粉成形した。圧粉成形には、温間型潤滑成形法(温度:130℃、加圧力:1200MPa、潤滑剤:ステアリン酸亜鉛水溶液)を採用した。これらの圧粉成形体を、不活性ガス(Ar)雰囲気中、900℃の温度において10分間に亘って熱処理(焼き鈍し処理)に付すことにより、フェライト被覆粉末試料MP2及びMP3に対応する焼結体(軟磁性体)をそれぞれ製造した。尚、以下の説明においては、フェライト被覆粉末試料MP2及びMP3に対応する軟磁性体(焼結体)の試料もまた、それぞれ軟磁性体MP2及びMP3と称呼される。
【0079】
(b)磁気特性
上記軟磁性体MP2及びMP3のそれぞれにつき、直流B−Hカーブトレーサ(理研電子株式会社製)を使用して、8kA/mの外部磁場(Hm)における磁束密度Bm[T]及び保磁力Hc[A/m]を測定した。磁束密度Bmが大きいほど透磁率が高く、保磁力Hcが小さいほど鉄損(ヒステリシス損失)が低いと判断することができる。また、交流B−Hアナライザー(岩通計測株式会社製)を使用して、0.2Tの振幅及び10kHzの周波数を有する交流磁界を各試料に印加した場合における鉄損を測定し、ヒステリシス損失(ヒス損)と渦電流損失(渦電流損)とに分離した。各軟磁性体試料の材料構成、製造条件(焼き鈍し温度)、密度(コア密度)、及び磁気特性(磁束密度、保磁力、鉄損、ヒス損、及び渦電流損)を以下の表2に列挙する。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示したように、軟磁性体(焼結体)の密度については、酸化珪素膜の厚みによる有意差は認められなかった。一方、渦電流損失については、薄い(約300nm)酸化珪素膜を有する軟磁性体MP2においては大きく、厚い(約600nm)酸化珪素膜を有する軟磁性体MP3においては小さかった。これは、軟磁性体MP2においては酸化珪素膜が薄いために軟磁性粉末間の絶縁性が低下したのに対し、軟磁性体MP3においては酸化珪素膜が厚いために軟磁性粉末間の絶縁性が維持されており、その結果、渦電流損が低減されたと考えられる。
【0082】
(c)組織
次に、上記磁気特性評価後の軟磁性体MP2及びMP3のリング状試料の一部を切り出し、組織観察を実施した。軟磁性体MP2及びMP3の断面組織のSEM画像(a)及びSEM画像内に示した直線部におけるエネルギー分散型X線分光(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectrometry)による分析結果を表すグラフ(b)を、
図5及び
図6にそれぞれ示す。
【0083】
先ず、
図5を参照しながら、軟磁性体MP2について検討する。軟磁性体MP2の断面組織のSEM画像(a)によれば、中央に示した軟磁性粉末の粒界におけるフェライト被覆から軟磁性粉末の内部へと酸化相が広がっている。EDX分析結果(b)によれば、粒界におけるフェライト被覆及び粉末内部の酸化相内には球状の酸化珪素(Si酸化物)が多数認められるのに対し、フェライト被覆と軟磁性粉末との間には酸化珪素膜は明瞭には認められない。
【0084】
軟磁性体MP2の酸化珪素膜は、上述したメカノフュージョン処理によって既に消失していたか、或いは、その膜厚が薄いためにフェライト被覆から供給される酸素によるFe−Si系鉄基軟磁性粒子(軟磁性粉)の内部酸化の進行に伴って消失したと考えられる。EDX分析により、軟磁性粉末の微量添加元素であるMnの酸化物相がフェライト被覆の中央近傍において確認できることからも、上記のようにフェライト被覆と軟磁性粉末との間での広範囲に亘る活発な相互拡散が起こったと考えられる。また、EDX分析の結果において酸素濃度が低く広範囲に亘っていることから、上記のように軟磁性粉の内部酸化が著しく進行したことが推察される。これに伴い、絶縁性の低いFeO(ウスタイト)がフェライト被覆中に生成し、上述した酸化珪素膜の消失と相まって、軟磁性体MP2の全体としての絶縁性を維持することができなくなったと考えられる。
【0085】
一方、軟磁性体MP3の断面組織のSEM画像(a)によれば、軟磁性粉末の内部への酸化相の広がりは認められず、EDX分析結果(b)によれば、少なくとも1μmの膜厚を有する酸化珪素膜がフェライト被覆と軟磁性粉末との間に存在することが確認された。即ち、軟磁性体MP3においては、焼結(焼き鈍し処理)前と比べて、酸化珪素膜の厚みが増大している。これは、フェライトの還元反応の進行に伴い、酸化珪素膜を介して酸素がFe−Si系鉄基軟磁性粒子(軟磁性粉)側へと拡散し、酸化珪素膜と軟磁性粉末との界面において新たに酸化珪素(Si酸化物)が生成されたためであると考えられる。また、フェライト被覆の内部に点在している酸素濃度が低い島状の領域は、上記のようなフェライトの還元反応の結果として生じたと考えられる。
【0086】
上記のように軟磁性体MP3においては軟磁性粒子とフェライト被覆との間に厚い酸化珪素膜が介在するので、軟磁性体MP2において認められたようなフェライト被覆と軟磁性粉末との間での広範囲に亘る活発な相互拡散は起こらなかったと考えられる。その結果、フェライト被覆と軟磁性粉末(Fe)との反応が抑制され、焼き鈍し処理に伴う渦電流損失の増大が抑制されたと考えられる。
【0087】
以上のことから、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に形成された酸化珪素膜は、当該軟磁性粒子の表面上に酸化珪素膜が形成され、当該酸化珪素膜の表面上にフェライト被覆が形成されている層構造を維持する機能を担っていることが確認された。その結果、焼き鈍し処理(焼結)の際にフェライト被覆と軟磁性粉末との直接の反応を防止又は抑制することができ、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子間の絶縁性を維持することができる。尚、上記のように当該機能を発現するためには、フェライト粉末被覆処理(メカノフュージョン処理)及び焼き鈍し処理(焼結)に耐え得る厚みを酸化珪素膜が有することが必要であることも確認された。
【実施例2】
【0088】
<本実験>
本実施例においては、上述した予備実験において得られた知見に基づき、絶縁膜を形成する材料としてMg(マグネシウム)を含有するフェライトを使用する本発明の実施例に係る軟磁性体と、絶縁膜を形成する材料としてMg(マグネシウム)を含有しないフェライトを使用する比較例に係る軟磁性体と、を調製し、それらの磁気特性を比較検討する。
【0089】
1.比較例
ところで、Fe−Si合金においては、保磁力(Hc)を100A/m以下に抑えることによりヒステリシス損失(ヒス損)を小さくすることができるとされている。上述したように、軟磁性体MP3においては酸化珪素膜が好適な厚みを有することにより、焼き鈍し処理に伴う渦電流損失の増大が抑制された。しかしながら、表2に示したように、このような軟磁性体MP3においてさえ保磁力Hcが200A/mを超えており、充分に低損失化できていない。尚、以下の説明においては、軟磁性体MP3を「比較例CE1」と称呼する。
【0090】
そこで、保磁力Hcを下げるため、更に高い温度(1000℃)において比較例1と同じ構成を有する軟磁性体に対して焼き鈍し処理(焼結)を実施した。しかしながら、このように焼き鈍し温度を上昇させた結果、渦電流損失が増大し、軟磁性粉末間の絶縁性が劣化した。これは、より高い温度における焼き鈍し処理によりNi−Zn−Cuフェライトの還元によって供給される酸素の量が増加し、酸化珪素膜及びフェライト被覆の構造が崩れた結果、比較例1と同じ構成を有する軟磁性体においてさえ、軟磁性粉末間の絶縁性を維持することができなくなったためと考えられる。尚、以下の説明においては、このように焼き鈍し温度を1000℃に上昇させた軟磁性体MP3を「比較例CE2」と称呼する。更に、比較例CE3として、市販の純鉄粉を使用する軟磁性体もまた調製した。
【0091】
2.実施例
上記への対策として酸化珪素膜を更に厚くすることも考えられるが、前述したように、酸化珪素膜を形成するための酸素の供給源は(水アトマイズ法によって形成された)Fe−Si系鉄基軟磁性粒子の表面に存在するFe酸化物である。従って、酸化珪素膜を形成するための熱処理の条件(高温及び時間)を更に厳しくしても酸化珪素膜の厚みを増大させる効果は少ない。また、酸化珪素膜が厚すぎると圧粉成形時の成形性を低下させる虞がある。
【0092】
そこで、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、高温でのFeとの反応性が低いMg(マグネシウム)含有フェライトによって絶縁膜を形成することにより、1000℃以上の温度における焼き鈍し処理を施しても軟磁性粉末間の絶縁性を維持することができることを見出した。
【0093】
上記知見に基づき、以下の表3に列挙するように、軟磁性粒子としてFe−Si合金を使用し、絶縁膜を形成する材料としてMg含有フェライトを使用し、その被覆量及び焼き鈍し温度を種々に変更した実施例WE1乃至WE9に係る各種軟磁性体の試料を調製した。尚、以下の表3には、上述した比較例CE1乃至CE3も併せて列挙した。
【0094】
【表3】
【0095】
(a)構成材料及び製造方法
表3に示したように、実施例WE1乃至WE7については、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子としてSiを6.5質量%含有するFe−6.5%Si合金を使用し、実施例WE8及びWE9については、Fe−Si系鉄基軟磁性粒子としてSiを3.0質量%含有するFe−3.0%Si合金を使用した。
【0096】
また、実施例WE1乃至WE9の何れにおいても、前述した条件P3(900℃にて20分間、N
2(窒素)雰囲気中)にて熱処理を行うことにより、酸化珪素膜を形成した。更に、実施例WE1乃至WE9の何れにおいても、前述したメカノフュージョン処理により、表3に示した被覆量にて、MgZnフェライト(Mg
0.6Zn
0.4Fe
2O
4)をフェライト膜として形成した。
【0097】
圧粉成形についても、前述した温間型潤滑成形法(温度:130℃、加圧力:1200MPa、潤滑剤:ステアリン酸亜鉛水溶液)によりリング状試料を作製し、表3に示した焼き鈍し温度(焼鈍温度)にて焼き鈍し処理を行いつつ焼結させた。
【0098】
(b)磁気特性
上述した比較例CE1乃至CE3及び実施例WE1乃至WE9に係る各種軟磁性体の試料につき、種々の磁気特性を測定した結果も、上記表3に併せて列挙した。直流B−Hカーブトレーサによる磁束密度Bm[T]及び保磁力Hc[A/m]の測定、並びに、交流B−Hアナライザーによる鉄損の測定については、予備実験について前述した手順と同様に行った。但し、表3においては、鉄損をヒステリシス損失(ヒス損)と渦電流損失(渦電流損)とには分離せず、鉄損のみを示した。
【0099】
一方、本実験においては、各種試料の直流重畳特性を評価すべく、直流磁場が重畳したマイナーループでの比透磁率(μr)を更に測定した。表3において、μr0は直流重畳磁場が0(ゼロ)A/mである場合における比透磁率であり、μr10kAは直流重畳磁場が10kA/mである場合における比透磁率である。0(ゼロ)A/mから10kA/mへの直流磁場の増加に対する比透磁率μrの低下(Δμr=μr0−μr10kA)が小さいほど直流重畳特性に優れる。これらの磁気特性の測定結果もまた上記表3に併せて列挙すると共に、実施例WE3、WE5、及びWE7、並びに比較例CE3に係る軟磁性体の試料については
図7のグラフにも示した。
【0100】
表3から明らかであるように、実施例WE1乃至WE9に係る各種軟磁性体の試料においては、絶縁膜としてMgZnフェライトを被覆することにより、比較例CE1及びCE2と同じ厚みを有する酸化珪素膜を備えるにも拘わらず、900℃以上の温度における焼き鈍し処理により鉄損を75W/kg以下に抑えつつ、保磁力を200A/m未満に抑えることができた。
【0101】
更に、焼き鈍し温度を1000℃以上に上昇させた実施例WE2及び実施例WE4乃至We9において、渦電流損の増大により鉄損が増大するどころか、鉄損を50W/kg以下に抑えつつ、保磁力を100A/m未満に抑えることができた。特に、実施例WE5は、各種実施例の中で最も低い鉄損を示した。具体的には、実施例WE5に係る軟磁性体の試料の鉄損は36W/kgにまで低減された。これは、(比較例CE3に相当する)市販の純鉄粉コアの鉄損(78W/kg)の半分未満の値である
【0102】
直流重畳特性については、全ての実施例WE1乃至WE9において、(比較例CE3に相当する)市販の純鉄粉コアに比べて、上述した直流磁場の増大に伴う比透磁率μrの低下Δμrが小さく、直流重畳特性に優れることが確認された。
【0103】
以上のことから、本発明によれば、低い保磁力及び高い透磁率を維持しつつ低い鉄損を達成し得る軟磁性粉末を提供することができることが確認された。更に、本発明に係る軟磁性粉末によって成形された軟磁性体においては、ヒステリシス損失を更に低減すべく更に高い温度における焼き鈍し処理に付しても、渦電流損失の増大を伴うこと無く、更に低い鉄損を達成することができた。加えて、本発明に係る軟磁性粉末によって成形された軟磁性体が直流重畳特性にも優れることも確認された。
【0104】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様及び実施例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様及び実施例に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。