特許第6563411号(P6563411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563411
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】合成樹脂積層シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20190808BHJP
   B32B 27/08 20060101ALI20190808BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20190808BHJP
   B29C 51/08 20060101ALI20190808BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   B32B27/36 102
   B32B27/08
   B32B27/30 A
   B29C51/08
   B29C51/14
【請求項の数】11
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-554074(P2016-554074)
(86)(22)【出願日】2015年10月13日
(86)【国際出願番号】JP2015078873
(87)【国際公開番号】WO2016060100
(87)【国際公開日】20160421
【審査請求日】2018年7月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-211201(P2014-211201)
(32)【優先日】2014年10月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】中安 康善
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 健
(72)【発明者】
【氏名】杉山 源希
(72)【発明者】
【氏名】清水 英貴
【審査官】 塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−203632(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/132874(WO,A1)
【文献】 特開2014−43000(JP,A)
【文献】 特開2002−60527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C49/00−49/46
49/58−49/68
49/72−51/28
51/42
51/46
B32B1/00−43/00
C08G63/00−64/42
C08J7/04−7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる1価フェノールを末端停止剤として、2価フェノールおよびカーボネート結合剤と反応させて得られる粘度平均分子量18000〜35000のポリカーボネート樹脂(A)を含有してなる基材層の少なくとも片面に、アクリル系樹脂(B)を含む被覆層を積層した、合成樹脂積層シート。
【化1】
(式中、Rは、炭素数8〜36のアルキル基、又は炭素数8〜36のアルケニル基を表し、
〜Rは、それぞれ水素、ハロゲン、又は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数6〜12のアリール基を表し、
前記置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。)
【請求項2】
前記2価フェノールが下記一般式(3)で表わされる、請求項1に記載の合成樹脂積層シート。
【化2】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2〜15のアルケニル基を表し、
前記置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基であり、
Xは、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、又は下記式(4)〜(7)で示されるいずれかの結合基である。)
【化3】
(式中、R10及びR11はそれぞれ水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜5のアルケニル基、又は置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基を表し、
10及びR11は互いに結合して、炭素数1〜20の炭素環又は複素環を形成してもよく、
cは0〜20の整数を表す)
【化4】
(式中、R12及びR13はそれぞれ水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜5のアルケニル基、又は置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基を表し、
12及びR13は互いに結合して、炭素数1〜20の炭素環又は複素環を形成してもよい。)
【化5】
(式中、R14〜R17はそれぞれ水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜5のアルケニル基、又は置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基を表し、
14及びR15、並びにR16及びR17は、それぞれ互いに結合して、炭素数1〜20の炭素環又は複素環を形成してもよい。)
(前記式(3)〜(6)の置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。)
【化6】
(式中、R18〜R27はそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基である。)
【請求項3】
前記式(1)で表される1価フェノールが、パラヒドロキシ安息香酸2−ヘキシルデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ドデシルエステル及びパラヒドロキシ安息香酸2−エチルヘキシルエステルから選択される群のうち、少なくとも1種類以上である、請求項1又は2に記載の合成樹脂積層シート。
【請求項4】
ひずみ速度0.01〜5.0/secの条件下における、前記ポリカーボネート樹脂(A)の、伸長粘度が、ひずみ軟化性を示す、請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成樹脂積層シート。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂(A)と前記アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の絶対値差が、30℃以内である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成樹脂積層シート。
【請求項6】
前記アクリル系樹脂(B)層における、前記ポリカーボネート樹脂(A)層とは反対側の表面上にハードコート層を積層した、請求項1〜5のいずれか一項に記載の合成樹脂積層シート。
【請求項7】
前記ハードコート層の厚みが1〜20μmである、請求項6に記載の合成樹脂積層シート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の合成樹脂積層シートを深絞り高さ5mm以上に熱成形してなる熱成形体。
【請求項9】
直角形状に熱成形した直角形状部の半径Rが3.0mm以内である、請求項8に記載の熱成形体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の合成樹脂積層シートの基材層側に印刷層を形成して熱成形し、さらに前記印刷層側に溶融樹脂を射出成形して裏打ち層を形成してなるインモールド成形体。
【請求項11】
1価フェノールの末端停止剤による下記一般式(1−a)で表わされる末端基を有し、粘度平均分子量18000〜35000のポリカーボネート樹脂(A)を含有してなる基材層の少なくとも片面に、アクリル系樹脂(B)を含む被覆層を積層した、合成樹脂積層シート。
【化7】
(式中、Rは、炭素数8〜36のアルキル基、又は炭素数8〜36のアルケニル基を表し、
〜Rは、それぞれ水素、ハロゲン、又は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数6〜12のアリール基を表し、
前記置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の末端基を有するポリカーボネート樹脂を用いた樹脂シートであって、真空成形や圧空成形など熱成形するために好適な合成樹脂積層シート、及びこの合成樹脂積層シートを成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性に優れるばかりか、ガラスと比較して加工性、耐衝撃性に優れ、他のプラスチック材料に比べて有毒ガスの心配もないため、様々な分野で広く用いられており、真空成形や圧空成形などの熱成形用材料としても使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂は、一般的に表面硬度が低いため、ポリカーボネート樹脂からなる成形品の表面に傷が入り易いという問題点を抱えていた。そこで従来、ポリカーボネート樹脂層の表面にアクリル系樹脂からなる保護層を形成し、製品表面に傷が入らないようにする提案が為されている。
【0004】
例えば特許文献1では、ポリカーボネート樹脂層の一方の面に、厚さ50〜120μmのアクリル系樹脂層を共押出しによって積層して、総厚さを0.5〜1.2mmとする積層体が提案されている。
【0005】
また、特許文献2においては、携帯型情報端末の表示窓保護板に好適な耐擦傷性アクリルフィルムとして、メタクリル樹脂中にゴム粒子を分散させたアクリル系樹脂層を含むアクリルフィルムにハードコート処理を施して耐擦傷性を付与してなる耐擦傷性アクリルフィルムが開示されている。
【0006】
また、特許文献3においては、芳香族ポリカーボネート樹脂と、他の樹脂とのポリマーアロイからなるポリカーボネート系樹脂とアクリル系樹脂とのガラス転移温度の差の絶対値が30℃以内であることを特徴とする成形用樹脂シートを、熱成形して得られる熱成形体が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−103169号公報
【特許文献2】特開2004−143365号公報
【特許文献3】特許第4971218号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、ポリカーボネート樹脂層の表面にアクリル系樹脂からなる保護層を形成した積層体においては、熱成形時、特に深絞り成形時には、ポリカーボネート樹脂が十分に伸びる温度までシートを加熱しなければならず、アクリル系樹脂に対して過剰な熱を加えるため、ポリカーボネート系樹脂層とアクリル系樹脂層との界面に剥離が生じて表面が白化したり、クラックが生じたりすることがあった。また、上述の積層体は、熱成形前に十分に乾燥させないと、発泡することもあった。さらに、ポリマーアロイにより得られたポリカーボネート系樹脂を用いた場合には、アクリル系樹脂との共押出時に、樹脂界面で積層不良(界面乱れ)が発生することがあった。また、ポリマーアロイによって得られたポリカーボネート系樹脂は、熱による分解を発生しやすく、黒点やブツなどの発生が多い事も確認されている。ハードコート層(以下、HCまたはHC層という)を積層させたシートの熱成形時にも同様に界面白化や、HCにクラックが生じる不良が発生している。
【0009】
そこで本発明は、ポリカーボネート樹脂層の表面にアクリル系樹脂層を積層させた構造を備えた合成樹脂積層シートにおいて、熱成形した時、特に深絞り成形した時であっても、白化やクラック、さらには発泡が生じず、HC積層時にも同様に不良が発生しない新たな合成樹脂積層シート、及びこれを成形してなる成形体を提供せんとするものである。また、基材層にポリマーアロイとして得られる他の成分を含むポリカーボネート系樹脂でなく、実質的にポリカーボネート樹脂単体を用いることで、共押出時の積層不良の発生を防ぐことが可能となる。また、耐熱性の高いポリカーボネート樹脂を用いる事で、黒点やブツの発生を抑制する事が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の各課題を解決する目的で鋭意検討した結果、本発明を完成させた。具体的には、本発明は以下の通りである。
【0011】
(I)下記一般式(1)で表わされる1価フェノールを末端停止剤として、2価フェノールおよびカーボネート結合剤と反応させて得られる粘度平均分子量18000〜35000のポリカーボネート樹脂(A)を含有してなる基材層の少なくとも片面に、アクリル系樹脂(B)を含む被覆層を備えた積層シートであることを特徴とする合成樹脂積層シートである。
【化1】
(式中、Rは、炭素数8〜36のアルキル基、又は炭素数8〜36のアルケニル基を表し、
〜Rはそれぞれ水素、ハロゲン、又は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数6〜12のアリール基を表し、
前記置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。)
(II)前記2価フェノールが下記一般式(3)で表わされる、上記(I)に記載の合成樹脂積層シートである。
【化2】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2〜15のアルケニル基を表し、 前記置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基であり、
Xは、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、又は下記式(4)〜(7)で示されるいずれかの結合基である。)
【化3】
(式中、R10及びR11はそれぞれ水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜5のアルケニル基、又は置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基を表し、
10及びR11は互いに結合して、炭素数1〜20の炭素環又は複素環を形成してもよく、
cは0〜20の整数を表し、
12及びR13はそれぞれ水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜5のアルケニル基、又は置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基を表し、
12及びR13は互いに結合して、炭素数1〜20の炭素環又は複素環を形成してもよく、
14〜R17はそれぞれ水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜5のアルケニル基、又は置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基を表し、
14及びR15、並びにR16及びR17は、それぞれ互いに結合して、炭素数1〜20の炭素環又は複素環を形成してもよく、
前記式(2)〜(6)の置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基であり、
18〜R27はそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基である。
(III)前記式(1)で表される1価フェノールが、パラヒドロキシ安息香酸2−ヘキシルデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ドデシルエステル及びパラヒドロキシ安息香酸2−エチルヘキシルエステルから選択される群のうち、少なくとも1種類以上である、上記(I)又は(II)に記載の合成樹脂積層シートである。
(IV)ひずみ速度0.01〜5.0/secの条件下における、前記ポリカーボネート樹脂(A)の、伸長粘度が、ひずみ軟化性を示す、上記(I)〜(III)のいずれかに記載の合成樹脂積層シート。
(V)前記ポリカーボネート樹脂(A)と前記アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の絶対値差が、30℃以内である、上記(I)〜(IV)のいずれかに記載の合成樹脂積層シートである。
(VI)前記アクリル系樹脂(B)層における、前記ポリカーボネート樹脂(A)層とは反対側の表面上にハードコート層を積層した、上記(I)〜(V)のいずれかに記載の合成樹脂積層シートである。
(VII)前記ハードコート層の厚みが1〜20μmである、上記(VI)に記載の合成樹脂積層シートである。
(VIII)上記(I)〜(VII)のいずれかに記載の合成樹脂積層シートを深絞り高さ5mm以上に熱成形してなる熱成形体である。
(IX)直角形状に熱成形した直角形状部の半径Rが3.0mm以内である、上記(VIII)に記載の熱成形体である。
(X)上記(I)〜(VII)のいずれかに記載の合成樹脂積層シートの基材層側に印刷層を形成して熱成形し、さらに前記印刷層側に溶融樹脂を射出成形して裏打ち層を形成してなるインモールド成形体である。
(XI)1価フェノールの末端停止剤による下記一般式(1−a)で表わされる末端基を有し、粘度平均分子量18000〜35000のポリカーボネート樹脂(A)を含有してなる基材層の少なくとも片面に、アクリル系樹脂(B)を含む被覆層を積層した、合成樹脂積層シート。
【化4】
(式中、Rは、炭素数8〜36のアルキル基、又は炭素数8〜36のアルケニル基を表し、
〜Rは、それぞれ水素、ハロゲン、又は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数6〜12のアリール基を表し、
前記置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。)
【0012】
本発明の合成樹脂積層シートは、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えているため、合成樹脂積層シートの被覆層表面、並びに該合成樹脂積層シートを成形してなる製品表面に傷が入り難いという特徴を備えている。
しかも、基材層のポリカーボネート樹脂(A)においては、詳細を後述するように、ひずみ速度0.01〜5.0/secの条件下での伸長粘度がひずみ軟化性を示すものであり、熱成形した時、特に深絞り成形した時に、該ポリカーボネート樹脂は非常に伸びやすいため、白化やクラックを抑制することが可能となった。また、該ポリカーボネート樹脂(A)は、長鎖の末端基を有するため、従来のポリカーボネートに比べて高温下で軟化し易くTgが低くなるといった特徴もあり、例えば、被覆層の主成分であるアクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差(絶対値)を30℃以内に設定できることから、成形時にアクリル系樹脂(B)を過剰に加熱することを防ぐことができ、熱成形時に発泡を生じないようにすることができた。さらに、被覆層の上にハードコート層を設けた構成においても、ポリカーボネート樹脂の基材層のひずみ軟化性に積層体がより伸びやすくなることや、ガラス転移温度の差を30℃以内とする事で、加熱及び変形によるハードコート層のクラックを防止する事が可能になった。
よって、本発明の合成樹脂積層シートを用いて熱成形すれば、意匠性に優れた成形体は勿論、例えば意匠性に優れたインモールド成型体なども提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態の一例について説明するが、本発明が下記実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る合成樹脂積層シート(以下「本合成樹脂積層シート」という)は、下記一般式(1)で表わされる1価フェノールを末端停止剤として反応させて得られる粘度平均分子量18000〜35000のポリカーボネート樹脂(A)基材層の少なくとも片面に、アクリル系樹脂(B)主成分とする被覆層を備えた積層シートである。また、好ましくは該ポリカーボネート樹脂(A)が、ひずみ速度0.01〜5.0/secの条件下での伸長粘度が、ひずみ軟化性を示し、さらに、該ポリカーボネート樹脂(A)と該アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値が30℃以内、すなわち0℃〜30℃、好ましくは0〜20℃、特に好ましくは0〜10℃であることを特徴とする合成樹脂積層シートがより好ましい。
【化5】
(式中、Rは、炭素数8〜36のアルキル基、又は、炭素数8〜36のアルケニル基を表す。R〜Rはそれぞれ水素、ハロゲン、又は、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基若しくは置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基を表し、前記置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。)
【0015】
<基材層>
本合成樹脂積層シートの基材層は、一般式(3)に示す2価フェノール、カーボネート結合剤、および上記一般式(1)に示す末端停止剤を反応させて得ることができるポリカーボネート樹脂を主な成分とする。
【化6】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜8のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数7〜17、好ましくは炭素数7〜12のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜5のアルケニル基を表す。
そして上述の各置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は、炭素数6〜12のアリール基である。
Xは、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、下記式(4)〜(7)で示されるいずれかの結合基である。)
【0016】
【化7】
(式(4)中、R10及びR11はそれぞれ水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜8のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜5のアルケニル基、又は、置換基を有してもよい炭素数7〜17、好ましくは炭素数7〜12のアラルキル基を表す。また、R10とR11は、互いに結合して、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12の炭素環又は複素環を形成してもよく、cは0〜20の整数、好ましくは1〜12の整数を表す。
(式(5)中、R12及びR13はそれぞれ水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜8のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜5のアルケニル基、又は置換基を有してもよい炭素数7〜17、好ましくは炭素数7〜12のアラルキル基を表す。また、R12及びR13は互いに結合して、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12の炭素環又は複素環を形成してもよい。)
(式(6)中、R14〜R17はそれぞれ水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜8のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜5のアルケニル基、又は置換基を有してもよい炭素数7〜17、好ましくは炭素数7〜12のアラルキル基を表す。また、R14及びR15、並びにR16及びR17は、それぞれ互いに結合して、炭素数1〜20の炭素環又は複素環を形成してもよい。)
(前記式(3)〜(6)の置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。)
(式(7)中、R18〜R27はそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基である。
【0017】
上記一般式(3)の2価フェノールの例として、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン[=ビスフェノールZ]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテル、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等を挙げることができるが、好ましくは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類であり、特に好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]である。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。また、ジヒドロキシ化合物の一部として、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物、又は、シロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマー若しくはオリゴマー等を併用してもよい。
【0018】
基材層を形成するポリカーボネート樹脂として、分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等で表されるポリヒドロキシ化合物、あるいは、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノール等を上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよく、上記化合物の全2価フェノール中の使用量は、0.01〜10mol%、好ましくは、0.1〜3mol%である。
【0019】
カーボネート結合剤
本発明のカーボネート結合剤としては、ホスゲン、トリホスゲン、炭酸ジエステル、及び、一酸化炭素や二酸化炭素と云ったカルボニル系化合物が例示される。
【0020】
炭酸ジエステルとして、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネートあるいはジ−p−トリルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート、ジ−p−クロロフェニルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が挙げられる。中でもジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステル化合物は、単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0021】
末端停止剤
本発明の末端停止剤は、一般式(1)で示される。
【0022】
【化8】
【0023】
(式中、Rは、炭素数8〜36のアルキル基、又は、炭素数8〜36のアルケニル基を表す。R〜Rはそれぞれ水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、又は、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基を表す。R〜Rは、好ましくは、水素、ハロゲン、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、又は、置換基を有してもよい炭素数6〜8のアリール基である。)
上記式(1)の末端停止剤を用いることにより、ポリカーボネート樹脂は、下記一般式(1−a)で表わされる末端基を有する。
【化9】
(式中、Rは、炭素数8〜36のアルキル基、又は炭素数8〜36のアルケニル基を表し、
〜Rは、それぞれ水素、ハロゲン、又は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数6〜12のアリール基を表し、
前記置換基は、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。)
【0024】
より好ましくは、一般式(1)の1価フェノールが一般式(2)で表わされる。
【0025】
【化10】
(式中、Rは、炭素数8〜36のアルキル基、又は、炭素数8〜36のアルケニル基を表す。)
【0026】
一般式(1)又は一般式(2)におけるRの炭素数は特定の数値範囲内であることがより好ましい。
具体的には、Rの炭素数の上限値として36が好ましく、22がより好ましく、18が特に好ましい。また、Rの炭素数の下限値として、8が好ましく、12がより好ましい。
【0027】
一般式(1)又は一般式(2)で示される1価フェノール(末端停止剤)の中でも、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸2−ヘキシルデシルエステルのいずれかもしくは両方を末端停止剤として使用することが特に好ましい。
【0028】
として、例えば、炭素数16のアルキル基である1価フェノール(末端停止剤)を使用した場合、ガラス転移温度、溶融流動性、成形性、耐ドローダウン性、ポリカーボネート樹脂製造時の1価フェノールの溶剤溶解性が優れており、本発明のポリカーボネート樹脂に使用する末端停止剤として、特に好ましい。
【0029】
一方、一般式(1)又は一般式(2)におけるRの炭素数が増加しすぎると、1価フェノール(末端停止剤)の有機溶剤溶解性が低下する傾向があり、ポリカーボネート樹脂製造時の生産性が低下することがある。
一例として、Rの炭素数が36以下であれば、ポリカーボネート樹脂を製造するにあたって生産性が高く、経済性も良い。Rの炭素数が22以下であれば、1価フェノールは、特に有機溶剤溶解性に優れており、ポリカーボネート樹脂を製造するにあたって生産性を非常に高くすることができ、経済性も向上する。
一般式(1)又は一般式(2)におけるRの炭素数が少なすぎると、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が十分に低い値とはならず、熱成形性が低下することがある。
【0030】
材料に対する要求特性により、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で主骨格や末端停止剤を他の構造のものと併用したり、他のポリカーボネート樹脂、更には他の透明樹脂と混合したりすることは許容される。使用する全末端停止剤中の80mol%以上が上記式(1)で表わされる構造であることが好ましく、使用する全末端停止剤中の90mol%以上が上記式(1)で表わされる構造であることがより好ましく、使用する全末端停止剤中が上記式(1)で表わされる構造であることが特に好ましい。
他に併用してもよい末端停止剤としては、フェノール、p−クレゾール、o−クレゾール、2,4−キシレノール、p−t−ブチルフェノール、o−アリルフェノール、p−アリルフェノール、p−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−プロピルフェノール、p−クミルフェノール、p−フェニルフェノール、o−フェニルフェノール、p−トリフルオロメチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−ドデシルフェノール、オイゲノール、アミルフェノール、ヘキシルフェノール、ヘプチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、デシルフェノール、ドデシルフェノール、ミリスチルフェノール、パルミチルフェノール、ステアリルフェノール、ベヘニルフェノール等のアルキルフェノール及びパラヒドロキシ安息香酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、アミルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル等のパラヒドロキシ安息香酸アルキルエステルが挙げられる。また、上記一価フェノールを2種類以上併用して使用することも可能である。
【0031】
合成条件によっては、末端停止剤と反応しないフェノール性OH基のままの末端基が形成され得る。このフェノール性OH基は、少ないほど好ましい。具体的には、全末端基中の80mol%以上が上記式(1)で表わされる構造で封止されていることが好ましく、全末端基中の90mol%以上が上記式(1)で表わされる構造で封止されていることが特に好ましい。
【0032】
<重合度、1価フェノール(末端停止剤)の使用量>
本発明のポリカーボネート樹脂は、1価フェノール(末端停止剤)の使用量によって分子量が制御される。
主骨格のために使用する2価フェノール(一般式(2)で示される)の重合度と、1価フェノール(末端停止剤)の使用量は式(A)に示される。
【0033】
【数1】
この式に基づいて1価フェノールと2価フェノールの使用量が定められるが、2価フェノールの使用量(モル):1価フェノール(末端停止剤)の使用量(モル)の好ましい範囲は、50:1〜15:1であり、さらに好ましくは40:1〜17:1の範囲である。
【0034】
1価フェノール(末端停止剤)として、分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等で表されるポリヒドロキシ化合物、あるいは、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノール等を上述した一価フェノール化合物の一部として用いればよく、使用量は、0.01〜10mol%、好ましくは、0.1〜3mol%である。
【0035】
添加剤
本発明に使用するポリカーボネート樹脂には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤及び着色剤から成る群から選択された少なくとも1種類の添加剤が例示される。
また、所望の諸物性を著しく損なわない限り、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を添加してもよい。
【0036】
熱安定剤として、フェノール系やリン系、硫黄系の熱安定剤を挙げることができる。具体的には、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸等のリンのオキソ酸; 酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウム等の酸性ピロリン酸金属塩; リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛等、第1族又は第10族金属のリン酸塩; 有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物等を挙げることができる。あるいは又、分子中の少なくとも1つのエステルがフェノール及び/又は炭素数1〜25のアルキル基を少なくとも1つ有するフェノールでエステル化された亜リン酸エステル化合物(a)、亜リン酸(b)及びテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト(c)の群から選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。亜リン酸エステル化合物(a)の具体例として、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(オクチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、ジフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
有機ホスファイト化合物として、具体的には、例えば、アデカ社製(商品名、以下同じ)「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP−10」、城北化学工業社製「JP−351」、「JP−360」、「JP−3CP」、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製「イルガフォス168」等を挙げることができる。
【0038】
また、リン酸エステルとして、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。
【0039】
熱安定剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。熱安定剤が少なすぎると熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤が多すぎると、効果が頭打ちとなり、経済的でなくなる可能性がある。
【0040】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤等を挙げることができる。具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3 −(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4− ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等を挙げることができる。 フェノール系酸化防止剤として、具体的には、例えば、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製「イルガノックス1010」(登録商標、以下同じ)、「イルガノックス1076」、アデカ社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等を挙げることができる。
【0041】
酸化防止剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の添加割合が下限値以下の場合、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の添加割合が上限値を超える場合、効果が頭打ちとなり、経済的でなくなる可能性がある。
【0042】
難燃剤として、有機スルホン酸金属塩等が挙げられる。有機スルホン酸金属塩としては、脂肪族スルホン酸金属塩及び芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられ、これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、金属塩としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好ましい。アルカリ金属として、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを挙げることができる。アルカリ土類金属として、カルシウム、ストロンチウム等が挙げられる。本発明で用いる有機スルホン酸金属塩の好ましい金属は、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属であり、より好ましくはナトリウム、カリウムである。このような金属を採用することにより、燃焼時の炭化層形成を効果的に促進し、高い透明性も維持できるという効果が得られる。
【0043】
脂肪族スルホン酸塩として、好ましくは、フルオロアルカン−スルホン酸金属塩、より好ましくは、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩を挙げることができる。
また、フルオロアルカン−スルホン酸金属塩としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩を挙げることができ、アルカリ金属塩が好ましい。フルオロアルカンスルホン酸金属塩の炭素数としては、1〜8が好ましく、2〜4がより好ましい。このような範囲とすることにより、高い透明性を維持できるという効果が得られる。好ましいフルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例として、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロエタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロエタン−スルホン酸カリウム、等を挙げることができる。
【0044】
芳香族スルホン酸金属塩として、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩を挙げることができ、アルカリ金属塩が好ましい。芳香族スルホン酸アルカリ金属塩の具体例としては、3,4−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4′−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、4,4′−ジブロモフェニル−スルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸のジカリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩、p−トルエンスルホン酸カリウム塩、p−スチレンスルホン酸カリウム塩等を挙げることができる。
【0045】
本発明で用いる有機スルホン酸金属塩としては、特に、透明性を向上させる観点から、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、p−トルエンスルホン酸カリウム塩、p−スチレンスルホン酸カリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩が好ましく、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩がより好ましい。尚、芳香族ポリカーボネート樹脂100 質量部に対する、有機スルホン酸金属塩の添加質量は、0.005質量部〜0.1質量部であるが、好ましくは0.01質量部〜0.1質量部、より好ましくは0.03質量部〜0.09質量部である。
また、本発明では、有機スルホン酸金属塩以外の難燃剤を配合してもよい。
【0046】
難燃助剤として、例えばシリコーン化合物を加えることができる。シリコーン化合物としては、分子中にフェニル基を有するものが好ましい。フェニル基を有することによりシリコーン化合物のポリカーボネート中への分散性が向上し、ポリカーボネート樹脂は、透明性と難燃性に優れる。シリコーン化合物の好ましい質量平均分子量は450〜5000であり、中でも750〜4000、更には1000〜3000、特に1500〜2500であることが好ましい。質量平均分子量を450以上とすることにより、製造が容易になり、工業的生産への適応が容易となり、シリコーン化合物の耐熱性も低下しにくくなる。逆にシリコーン化合物の質量平均分子量を5000以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂組成物中での分散性が低下しにくく、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における難燃性の低下や、機械物性の低下をより効果的に抑制できる傾向にある。
【0047】
難燃助剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば0.1質量部以上、好ましくは0.2質量部以上であり、また、7.5質量部以下、好ましくは5質量部以下である。難燃助剤の添加割合が下限値以下の場合、難燃性が不十分となる可能性があり、難燃助剤の添加割合が上限値を超える場合、デラミ等外観不良が発生し透明性が低下すると共に、難燃性が頭打ちとなり、経済的でなくなる可能性がある。
【0048】
紫外線吸収剤として、酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物、サリチル酸フェニル系化合物等の有機紫外線吸収剤を挙げることができる。これらの中では、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物の具体例として、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3',5'−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステル、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルメチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール、2,2′−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール]、[メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物等を挙げることができる。これらの2種以上を併用してもよい。上記の中では、好ましくは、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール]である。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例として、2,4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシ−ベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノン等を挙げることができる。また、サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤の具体例として、フェニルサリシレート、4−tert−ブチル−フェニルサリシレート等を挙げることができる。更には、トリアジン系紫外線吸収剤の具体例として、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール等を挙げることができる。また、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤の具体例として、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート等を挙げることができる。
【0049】
紫外線吸収剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、3質量部以下、好ましくは1質量部以下である。紫外線吸収剤の添加割合が下限値以下の場合、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の添加割合が上限値を超える場合、モールドデボジット等が生じ、金型汚染(冷却ロール汚染)を引き起こす可能性がある。
【0050】
離型剤として、カルボン酸エステル、ポリシロキサン化合物、パラフィンワックス(ポリオレフィン系)等を挙げることができる。具体的には、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。脂肪族カルボン酸として、飽和又は不飽和の脂肪族1価、2価又は3価カルボン酸を挙げることができる。ここで、脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中でも、好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の1価又は2価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が更に好ましい。脂肪族カルボン酸の具体例として、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例として、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等を挙げることができる。数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素として、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等を挙げることができる。ここで、脂肪族炭化水素には脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが更に好ましい。数平均分子量は、好ましくは200〜5000である。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であってもよく、主成分が上記の範囲内であればよい。ポリシロキサン系シリコーンオイルとして、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等を挙げることができる。これらの2種類以上を併用してもよい。
離型剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、2質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。離型剤の添加割合が下限値以下の場合、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の添加割合が上限値を超える場合、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等が生じる可能性がある。
【0051】
着色剤としての染顔料として、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料等を挙げることができる。無機顔料として、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青等の珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青等のフェロシアン系顔料等を挙げることができる。また、着色剤としての有機顔料及び有機染料として、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料;キノリン系、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料等を挙げることができる。そして、これらの中では、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系染顔料等が好ましい。尚、染顔料は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。また、染顔料は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の目的のために、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
着色剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。着色剤の添加割合が多すぎると耐衝撃性が十分で無くなる可能性がある。
【0052】
<製造方法>
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の製造方法としては、例えば、界面重合法、ピリジン法、エステル交換法をはじめとする各種合成方法を挙げることができる。
【0053】
界面重合法による反応にあっては、反応に不活性な有機溶媒、アルカリ水溶液の存在下で、通常pHを10以上に保ち、芳香族ジヒドロキシ化合物及び末端停止剤、必要に応じて芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のための酸化防止剤を用い、ホスゲンと反応させた後、第三級アミン若しくは第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加し、界面重合を行うことによって芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。分子量調節剤の添加は、ホスゲン化時から重合反応開始時までの間であれば、特に限定されない。尚、反応温度は0〜35℃であり、反応時間は数分〜数時間である。
【0054】
ここで、反応において不活性な有機溶媒として、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を挙げることができる。末端停止剤として、先に挙げた化合物の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、一価のフェノール性水酸基を有する化合物を併用することができる。重合触媒として、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0055】
エステル交換法による反応は、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応である。通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率を調整したり、反応時の減圧度を調整したりすることによって、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量と末端ヒドロキシル基量が決められる。末端ヒドロキシル基量は、芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼし、実用的な物性を持たせるためには、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは700ppm以下である。芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが一般的であり、好ましくは1.01〜1.30モルの量で用いられる。
【0056】
炭酸ジエステルとして、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネートあるいはジ−p−トリルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート、ジ−p−クロロフェニルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が挙げられる。中でもジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステル化合物は、単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0057】
エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を合成する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒としては、特に制限はないが、主としてアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用され、補助的に塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、あるいは、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能である。このような原料を用いたエステル交換反応では、2価フェノール、1価フェノール(末端停止剤)、炭酸ジエステルの混合物を、溶融下に反応器に供給し、100〜320℃の温度で反応を行い、最終的には2.7×102Pa(2mmHg)以下の減圧下、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら溶融重縮合反応を行う方法が挙げられる。溶融重縮合は、バッチ式、又は、連続的に行うことができるが、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂にあっては、安定性等の観点から、連続式で行うことが好ましい。エステル交換法において、芳香族ポリカーボネート樹脂中の触媒の失活剤として、触媒を中和する化合物、例えばイオウ含有酸性化合物、又は、それより形成される誘導体を使用することが好ましく、その量は、触媒のアルカリ金属に対して0.5〜10当量、好ましくは1〜5当量の範囲であり、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して通常1〜100ppm、好ましくは1〜20ppmの範囲で添加する。
【0058】
ポリカーボネート樹脂のフレークは、例えば、界面重合法にて得られた芳香族ポリカーボネート樹脂を含んだメチレンクロライド溶液を45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去することで得ることができるし、あるいは又、界面重合法にて得られた芳香族ポリカーボネート樹脂を含んだメチレンクロライド溶液をメタノール中に投入し、析出したポリマーを濾過、乾燥して得ることができるし、あるいは又、界面重合法にて得られたポリカーボネート樹脂を含んだメチレンクロライド溶液をニーダーにて攪拌下、40℃に保ちながら攪拌粉砕後、95℃以上の熱水で脱溶剤して得ることができる。
【0059】
必要に応じて、芳香族ポリカーボネート樹脂を周知の方法に基づき単離した後、例えば、周知のストランド方式のコールドカット法(一度溶融させた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をストランド状に成形、冷却後、所定の形状に切断してペレット化する方法)、空気中ホットカット方式のホットカット法(一度溶融させた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、空気中で水に触れぬうちにペレット状に切断する方法)、水中ホットカット方式のホットカット法(一度溶融させた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、水中で切断し、同時に冷却してペレット化する方法)によって、ポリカーボネート樹脂ペレットを得ることができる。尚、得られたポリカーボネート樹脂ペレットは、必要に応じて、熱風乾燥炉、真空乾燥炉、脱湿乾燥炉を用いた乾燥といった方法に基づき乾燥させることが好ましい。
【0060】
物性
(I)分子量
本発明に使用するポリカーボネート樹脂の分子量は、以下の測定条件に基づいて測定された粘度平均分子量(Mv)で評価する。
【0061】
<粘度平均分子量(Mv)測定条件>
測定機器:ウベローデ毛管粘度計
溶媒:ジクロロメタン
樹脂溶液濃度:0.5グラム/デシリットル
測定温度:25℃
上記条件で測定し、ハギンズ定数0.45で極限粘度[η]デシリットル/グラムを求め、次式(B)により算出する。
【数2】
【0062】
本発明の合成樹脂積層シートの基材層であるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量としては18,000〜35,000が好ましく、20,500〜30,000がさらに好ましく、22,000〜28,000が特に好ましい。
【0063】
ガラス転移温度、溶融流動性、耐ドローダウン性は分子量に影響を受ける物性であり、上記範囲にある場合、これらの特性全てがシート、フィルム、熱成形体の製造に好ましい。
粘度平均分子量が35,000より大きい場合、溶融流動性が低下することがある。また、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が低い値とはならず、熱成形性が低下することがある。
粘度平均分子量が18,000より小さい場合、耐ドローダウン性が低下することがある。
【0064】
(II)伸長粘度
本発明の合成樹脂積層シートの基材層であるポリカーボネート樹脂の伸長粘度は、レオメータを用い、以下に示す条件にて測定する。
<伸長粘度測定条件>
装置:Rheometorics社製 Ares
冶具:ティーエーインスツルメント社製 Extentional Viscosity
Fixture
測定温度:ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度+30℃
歪み速度:0.01、1.0、5.0/sec
試験片の作製:プレス成形して18mm×10mm、厚さ0.7mm、のシートを作製する。
【0065】
本発明の合成樹脂積層シートの基材層を形成するポリカーボネート樹脂は、熱成形的観点からひずみ速度0.01〜5.0/secの条件下での伸長粘度がひずみ軟化性を示すことが好ましい。ひずみ軟化性とは、一定の歪速度条件下で、横軸に時間t(秒)、縦軸に樹脂の伸長粘度ηE(Pa・秒)を両対数グラフでプロットし、時間の経過とともに樹脂の伸長粘度が低下する挙動、すなわち、上記両対数グラフにプロットした複数の点を結ぶ曲線が右肩下がりとなる挙動として定義される。
一般的に、ブロー成形、発泡成形、真空成形といった特定の成形方法においては、伸長粘度が時間と共に急激に増加するひずみ硬化性を示す材料が成形加工性の観点から好適とされており、ひずみ硬化性を有することで、成形時に均一な肉厚での変形が可能となる。しかし、アクリル系樹脂と熱可塑性樹脂の積層シート、さらにHC層を積層させたシートを深絞り、直角形状に熱成形する場合には、熱可塑性樹脂層がひずみ硬化性を有していると、均一に伸びようとする力が発生するあまり、アクリル系樹脂層との界面で白化、アクリル系樹脂の表面やHC層にクラックが発生し、直角形状部の半径Rは0mmに近づけることは困難である。それに対し、上述のひずみ軟化性を有する熱可塑性樹脂を用いると、白化、クラックといった外観不良は発生せず、直角形状部の半径Rも0mmに近い値を示すため、好ましい。
【0066】
なお、本発明において用いられるポリカーボネート樹脂がひずみ軟化性を有する理由としては、上述の一般式(1)で表わされる長鎖の末端基を有することが挙げられる。このように、例えば炭素数が8以上のアルキル基またはアルケニル基を長鎖の末端基として有するポリカーボネート樹脂は(上述の一般式(1)参照)、より少ない炭素数の末端基を有する従来のポリカーボネートに比べて、高温下で軟化し易い特徴を有する。このため、成形時にポリカーボネート樹脂にさほど大きな熱を加えることを必要とせず、積層させるアクリル系樹脂に対する過剰な加熱も防止できる。この結果、上述の効果が認められる。
【0067】
(III)ガラス転移温度
本発明の合成樹脂積層シートの基材層であるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計を用い、以下に示す条件にて測定する。
<ガラス転移温度の測定条件>
測定機器:示差走査熱量測定機(DSC)
加温速度:10℃/min
ガスフロー環境:窒素20ml/min
試料前処理:300℃加熱融解
【0068】
本発明に使用する合成樹脂積層シートの基材層であるポリカーボネート樹脂は、熱成形体の製造、成形の観点から、ガラス転移温度が100℃〜135℃の範囲であることが好ましい。上記の熱成形体の製造、成形及びポリカーボネート樹脂の生産性のバランスから、本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は110℃〜130℃の範囲であることがさらに好ましく、115℃〜130℃の範囲であることが特に好ましい。
ガラス転移温度(Tg)が100℃未満になると、ポリカーボネート樹脂の製造上、造粒、乾燥工程においてポリカーボネート樹脂粉末が凝集し、生産性が低下してしまうことがある。
上記の理由により、ガラス転移点は高い方がポリカーボネート樹脂製造上のプロセスマージンが広く、残存溶媒含有率の低い高品質のポリカーボネート樹脂を効率的、安定的に製造できるため、本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移点は105℃以上であることがさらに好ましく、110℃以上であることが特に好ましい。
Tgが135℃より高い場合、熱成形体を製造する際に樹脂を高温で溶融する必要があり、また熱成形体を特定の形状に成形する際に樹脂を高温で軟化もしくは溶融する必要があり、エネルギー消費量が増加したり、樹脂色相が低下することがあり、好ましくない。また、本発明の合成樹脂積層シートの表面にハードコート層を施している場合、アクリル系樹脂(B)のガラス転移温度との温度差により、高温で軟化させる際にハードコート層にクラックが発生し易くなるため、好ましくない。
【0069】
本発明の合成樹脂積層シートの基材層であるポリカーボネート樹脂の溶融流動性は、高化式フローテスターを用い、以下に示す条件にて測定したQ値にて評価する。Q値が高いと溶融流動性が高いことを示し、Q値が低いと溶融流動性が低いことを示す。
(IV)Q値
<Q値測定条件>
測定機器:流動特性評価装置フローテスター
荷重:160kgf/cm
オリフィス:直径1mm×長さ10mm
測定温度:280℃
【0070】
上記測定条件で測定したポリカーボネート樹脂のQ値が1×10−2cc/s未満となると、たとえガラス転移温度が低くても、溶融流動性が低すぎるために、通常より高温条件で熱成形体を製造、成形する必要があり、ポリカーボネート樹脂の分解や色相悪化を引き起こすことがある。
【0071】
逆に上記測定条件で測定したポリカーボネート樹脂のQ値が30×10−2cc/s以上となると、溶融流動性が高すぎるために耐ドローダウン性が低く、熱成形体を成形する際に著しいドローダウンが発生し、成形不良を引き起こす。上記の理由により、本発明のポリカーボネート樹脂のQ値は1×10−2cc/s〜30×10−2cc/sの範囲であることが好ましく、2×10−2cc/s〜30×10−2cc/sの範囲であることが特に好ましい。
【0072】
(V)熱減量
本発明の合成樹脂積層シートの基材層であるポリカーボネート樹脂の熱分解特性は、熱減量温度にて評価する。熱質量測定装置(TGA)を使用し、加温速度20℃/min、空気50ml/minフロー環境にて熱減量温度を測定する。
【0073】
本発明の合成樹脂積層シートの基材層であるポリカーボネート樹脂を含有する熱成形体の製造、成形時の熱分解性を評価するには、0.2%熱減量温度を指標とすることが好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂の0.2%熱減量温度は、好ましくは260℃以上、より好ましくは280℃以上、特に好ましくは300℃以上である。このような範囲とすることにより、熱成形体の製造、成形時にポリカーボネート樹脂が熱分解することなく、外観や色相、機械的強度等の良好な熱成形体を得ることができる。
【0074】
<被覆層>
本合成樹脂積層シートの被覆層は、アクリル系樹脂(B)を主成分とする樹脂組成物から形成することができる。
【0075】
[アクリル系樹脂(B)]
本合成樹脂積層シートに用いるアクリル系樹脂は、アクリル基を有する樹脂であれば特に制限はない。例えば、メチルメタクリレートと、メチルアクリレート又はエチルアクリレートとの共重合体を挙げることができる。中でも、主成分がメチルメタクリル酸より重合されるメチルメタクリル樹脂(PMMA:ポリメチルメタ(ア)クリレートともいう)が好ましい。
【0076】
アクリル系樹脂の共重合組成は、製造条件、例えば共押出条件により適宜選択することが好ましい。例えば、メチルメタクリレートと、メチルアクリレート又はエチルアクリレートとの共重合体の場合には、メチルメタクリレート:メチル又はエチルアクリレート=80:20〜1:99のモル比とすることが好ましい。
また、押出成形が可能な範囲で架橋成分を含有してもよい。
【0077】
アクリル系樹脂の分子量は、一般的に質量平均分子量で3万〜30万であるが、この範囲に制限されるものではない。
【0078】
アクリル系樹脂として、市販品を用いることもできる。例えば住友化学工業(株)社製:SUMIPEXシリーズ、三菱レイヨン(株)社製:アクリペットシリーズ、(株)クラレ社製:パラペットシリーズ、旭化成製:デルペット等のメチルメタクリル樹脂を用いることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0079】
アクリル系樹脂(B)は、耐候性を長期間保持する目的のために、紫外線吸収剤を含有するものでもよい。紫外線吸収剤の含有量は、アクリル系樹脂の0.01〜3.0質量%であることが好ましい。
また、共押出し成形時にアクリル系樹脂の熱劣化を防止するため、酸化防止剤、着色防止剤等を含有してもよい。この際、酸化防止剤の含有量はアクリル系樹脂の0.01〜3質量%であることが好ましく、着色防止剤の含有量は0.01〜3質量%であることが好ましい。
上記いずれの場合も、アクリル系樹脂の0.01質量%未満であると、十分な効果を得られないことが想定され、逆に5質量%を超えて含有しても、さらなる効果が期待できないばかりか、ブリードアウトを起こして白化の原因になったり、密着性や衝撃強度の低下を招いたりすることがあるため好ましくない。
【0080】
また、表面硬度をさらに高めるため、アクリル系樹脂中に、高Tgアクリル等を分散させて透明性を維持するようにしてもよい。そのほか、メタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(MS樹脂)を添加することにより、吸水率を下げて発泡を抑えることもできる。 また、メタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂を加えて吸水率を低下させることにより、成形体の湿熱環境下での反りを低減する事が可能になる。
【0081】
また、耐擦傷性補助剤として、アクリル系樹脂中に、例えばナノサイズの金属粒子を分散させる事も出来る。添加量をコントロールする事で、ヘーズの発生を抑制しつつ、スチールウールや豚毛等による耐スクラッチ性能を高める事が可能になる。ナノサイズの金属粒子としては、二酸化ケイ素、アルミナ等があげられるが、これに制限されるわけではない。金属粒子の平均粒子径は、150〜350nm程度が好ましく、200〜350nm程度が特に好ましい。350nm以上になると、光との干渉が発生し、ヘーズが上昇し透明性が失われてしまう。また、150nm以下の場合は、耐スクラッチ性能の向上に効果がほとんど見られない。添加量は目的の耐スクラッチ性能に依るが、ヘイズを含む透明性の観点から、アクリル系樹脂(B)100質量部に対して、1.5質量部以下が望ましい。1.5質量部以上添加すると、透明性が損なわれて、本発明の合成樹脂積層体の特徴である意匠性が低下し、望ましくない。
【0082】
<ハードコート層>
本発明の合成樹脂積層シートにおいては、アクリル系樹脂層側の表面、すなわち、アクリル系樹脂(B)層における、ポリカーボネート樹脂(A)層とは反対側の表面上にハードコート層を積層させても良い。
ハードコート層としては、アクリル系、シリコン系、メラミン系、ウレタン系、エポキシ系等公知の架橋皮膜を形成する化合物を使用することができる。また、硬化方法も紫外線硬化、熱硬化、電子線硬化等公知の方法を用いることができる。これらの中で、表面側とする面には、鉛筆硬度H以上と出来るものが好ましく、熱賦形性とのバランスから、アクリル系、ウレタンアクリレート系が好ましいものとして例示される。
ハードコート層の付与は、通常の方法で良く、ロールコート法などの塗布法、ディップ法、転写法などで形成する。この例に制限されるものではない。
【0083】
ハードコート層を形成するアクリル系の化合物としては、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基(アクリロイルオキシ基及び/又はメタクリロイルオキシ基の意、以下同じ)を有する架橋重合性化合物が使用でき、各(メタ)アクリロイルオキシ基を結合する残基が炭化水素又はその誘導体であり、その分子内にはエーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合等を含むことができる。また、熱賦形性を付与する成分として分子量が千〜数千の長鎖成分を適宜含むことができる。
【0084】
日本スチールウール株式会社製の直径が約0.012mmである#0000スチールウールを33mm×33mmの正方形パッドに装着し、台上に保持したハードコート層の試料表面上にこのパッドを置いて、荷重1000g下で15往復させ擦傷した。この試料をエタノールで洗浄した後、測定したヘーズの値が、10%以下である事が好ましい。
【0085】
ハードコート層に、耐擦傷性補助剤として、例えばナノサイズの金属粒子を添加する事ができる。ナノサイズの金属粒子としては、二酸化ケイ素、アルミナ等があげられるが、これに制限されるわけではない。
【0086】
本発明におけるハードコート層の特性として、熱成形において伸びる事を特徴とし、さらに耐薬品性に優れている事が挙げられる。特に耐薬品性の中でも、ニュートロジーナ耐性に優れている事が特徴である。
【0087】
ハードコート層の厚さは、1〜20μmであり、好ましくは2〜10μm、より好ましくは3〜8μmである。
【0088】
<シート厚さ>
本合成樹脂積層シートの各層及びシート全体の厚さは、表面硬度及び成形性に問題が生じない範囲で適宜設定可能である。但し、一般的にはシート全体の厚さは、0.1mm〜2.0mmであることが好ましく、被覆層の厚さは10μm〜60μm、特に40μm〜60μmであることが好ましい。
【0089】
<製造方法>
本合成樹脂積層シートの製造方法は、特に制限されるものではないが、生産性の観点から、共押出しによって基材層と被覆層とを積層させることが好ましい。
例えば、ポリカーボネート樹脂(A)及びアクリル系樹脂(B)を各々別々の押出機で加熱溶融し、Tダイのスリット状の吐出口からそれぞれ押出して積層し、次いで冷却ロールに密着固化させるようにする製造方法を挙げることができる。
【0090】
また、押出機で加熱溶融する温度は、それぞれの樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも80〜150℃高い温度が好ましい。一般的には、ポリカーボネート樹脂(A)を押出すメイン押出機の温度条件は、通常230〜290℃、好ましくは240〜280℃とすることが好ましく、アクリル系樹脂(B)を押出すサブ押出機の温度条件は通常220〜270℃、好ましくは230〜260℃である。
【0091】
また、2種類の溶融樹脂を共押出する方法としては、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式などの公知の方法を採用することができる。
例えばフィードブロック方式の場合であれば、フィードブロックで積層した溶融樹脂をTダイなどのシート成形ダイに導き、シート状に成形した後、表面が鏡面処理された成形ロール(ポリッシングロール)に流入させてバンクを形成し、該成形ロール通過中に鏡面仕上げと冷却を行うようにすればよい。
マルチマニホールド方式の場合には、マルチマニホールドダイ内で積層した溶融樹脂を、ダイ内部でシート状に成形した後、成形ロールにて表面仕上げ及び冷却を行うようにすればよい。
いずれにしても、ダイの温度は、通常230〜290℃、中でも250〜280℃に設定し、成形ロール温度は、通常100〜190℃、中でも110〜190℃に設定することが好ましい。
【0092】
本発明におけるポリカーボネート樹脂(A)とアクリル系樹脂層(B)を構成する各材料は、フィルター処理によりろ過精製されていることが好ましい。フィルターを通して生成あるいは積層する事により、異物や欠点といった外観不良が少ない合成樹脂積層体を得ることが出来る。ろ過方法に特に制限はなく、溶融ろ過、溶液ろ過、あるいはその組み合わせ等を使うことが出来る。特に、濾過するタイミングは、シートに積層させる段階で行うことが最も好ましい。
【0093】
使用するフィルターには特に制限はなく、公知のものが使用でき、各材料の使用温度、粘度、ろ過精度により適宜選択される。フィルターの濾材としては、特に限定されないがポリプロピレン、コットン、ポリエステル、ビスコースレイヨンやグラスファイバーの不織布あるいはロービングヤーン巻物、フェノール樹脂含浸セルロース、金属繊維不織布焼結体、金属粉末焼結体、金属繊維織り込み体、あるいはこれらの組み合わせなど、いずれも使用可能である。特に耐熱性や耐久性、耐圧力性を考えると金属繊維不織布を焼結したタイプが好ましい。
【0094】
ろ過精度は、表層(A)に用いられる樹脂組成物と樹脂層(B)に用いられるポリカーボネート系樹脂については、50μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。又、ハードコート剤は、合成樹脂積層体の最表層に塗布される事から、ハードコート剤のろ過精度は、20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0095】
表層(A)に用いられる樹脂組成物と樹脂層(B)に用いられるポリカーボネート系樹脂のろ過については、例えば熱可塑性樹脂溶融ろ過に用いられているポリマーフィルターを使うことが好ましい。ポリマーフィルターは、その構造によりリーフディスクフィルター、キャンドルフィルター、パックディスクフィルター、円筒型フィルターなどに分類されるが、特に有効ろ過面積が大きいリーフディスクフィルターが好適である。
【0096】
ハードコート処理については、押し出し工程において、或いは、押し出しされた後に行わされる。通常は、耐磨耗性や耐指紋性(指紋ふき取り性)に優れたものが好ましいが、熱成形して所望の三次元形状を付与することが必須であることから、所望の熱成形性を示すハードコートを施すことが好ましい。
【0097】
<合成樹脂積層シートの特徴及び用途>
本合成樹脂積層シートは、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えているため、合成樹脂積層シートの被覆層表面、並びに該合成樹脂積層シートを成形してなる製品表面に傷が入り難いという特徴を備えている。また、基材層であるポリカーボネート樹脂(A)は、ひずみ速度0.01〜5.0/secの条件下での伸長粘度が、ひずみ軟化性を示し、アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値が30℃以内になるよう設定したことにより、被覆層側が製品の表面となるように熱成形した時でさえ、特に深絞り成形した時でさえ、白化やクラック、さらには発泡を生じないようにすることができる。さらにHC層を積層させたシートの場合にも、同様に良好な熱成形ができる。
よって、本合成樹脂積層シートを用いて熱成形すれば、意匠性に優れた熱成形体、特に深絞り成形して得られる意匠性に優れた熱成形体を得ることができる。
なお、本発明では、成形する際の深絞り高さが3mm以上、特に5mm以上である場合を深絞りといい、さらに直角形状に成形した際の直角形状部の半径をRとする。本合成樹脂積層シートの場合、深絞り高さが5mm以上、より好ましい態様においては7mm以上の深絞り、且つ、直角形状に成形した場合にも白化やクラック、さらには発泡を生じないようにすることができ、直角形状部の半径Rを少なくとも3.0mm以内、さらに好ましい態様においては1.0mm以内とすることができる。
また、本合成樹脂積層シートは上記のような特徴を備えているため、例えば合成樹脂積層シートの基材層側に印刷層を形成して熱成形する一方、前記印刷層側に溶融樹脂を射出成形して裏打ち層を形成することにより、意匠性に優れたインモールド成形体を製造することもできる。
【製造例】
【0098】
次に本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)についての製造例について説明するが、本発明はこれらの製造例に限定されるものではない。
【0099】
(末端停止剤の合成)
<合成例1>
有機化学ハンドブックP143〜150に基づき、東京化成工業(株)製4−ヒドロキシ安息香酸と東京化成工業(株)製1−ヘキサデカノールを用いて脱水反応によるエステル化を行い、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル(CEPB)を得た。
【0100】
<合成例2>
合成例1において、1−ヘキサデカノールを新日本理化(株)製2−ヘキシルデカノール(商品名:エヌジェコール 160BR)に変更した以外は、製造例1と同様に操作して、パラヒドロキシ安息香酸2−ヘキシルデシルエステル(HDPB)を得た。
(製造例1)
【0101】
9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液57.2kgに、新日鐵住友化学(株)製のビスフェノールA(以下、BPAという)7.1kg(31.14mol)とハイドロサルファイト30gを加えて溶解した。これにジクロロメタン40kgを加え、撹拌しながら、溶液温度を15℃〜25℃の範囲に保ちつつ、ホスゲン4.33kgを30分かけて吹き込んだ。
【0102】
ホスゲンの吹き込み終了後、9w/w%の水酸化ナトリウム水溶液6kg、ジクロロメタン11kg、及び末端停止剤としてパラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル(CEPB)551g(1.52mol)をメチレンクロライド10kgに溶解させた溶液を加え、激しく撹拌して乳化させた。さらにその後、重合触媒として10mlのトリエチルアミンを溶液に加え、約40分間重合させた。
【0103】
重合液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液のpHが中性になるまで純水で水洗を繰り返した。この精製されたポリカーボネート樹脂溶液から有機溶媒を蒸発留去することによりポリカーボネート樹脂粉末を得た。
【0104】
得られたポリカーボネート樹脂粉末を、スクリュー径35mm の2軸押出機を用い、シリンダー温度260℃で溶融混練して、ストランド状に押出してペレタイザーでペレット化した。
【0105】
得られたポリカーボネート樹脂ペレットを用いて、粘度平均分子量、伸長粘度、ガラス転移温度、Q値測定を実施した結果、粘度平均分子量は23600であり、伸長粘度はひずみ軟化性を示し、ガラス転移温度は119℃、Q値は16.7×10−2cc/sであった。
【0106】
(製造例2)
製造例1において、CEPBを東京化成工業(株)製パラヒドロキシ安息香酸2−エチルヘキシルエステル(EHPB)に変更し、EHPBの量を376g(1.50mol)とした以外は、製造例1と同様に操作してポリカーボネート樹脂ペレットを得た。
【0107】
得られたポリカーボネート樹脂ペレットの粘度平均分子量は22700であり、伸長粘度はひずみ軟化性を示し、ガラス転移温度は132℃、Q値は11.2×10−2cc/sであった。
【0108】
(製造例3)
製造例1において、CEPBをパラヒドロキシ安息香酸2−ヘキシルデシルエステル(HDPB)に変更し、HDPBの量を383g(1.06mol)とした以外は、製造例1と同様に操作してポリカーボネート樹脂ペレットを得た。
【0109】
得られたポリカーボネート樹脂ペレットの粘度平均分子量は24600、伸長粘度はひずみ軟化性を示し、ガラス転移温度は126℃、Q値は11.6×10−2cc/sであった。
【0110】
(製造例4)
製造例1において、CEPBの量を443g(1.22mol)に変更した以外は、製造例1と同様に操作してポリカーボネート樹脂ペレットを得た。
【0111】
得られたポリカーボネート樹脂ペレットの粘度平均分子量は27600、伸長粘度はひずみ軟化性を示し、ガラス転移温度は127℃、Q値は7.7×10−2cc/sであった。
【0112】
(製造例5)
製造例1において、CEPBを東京化成工業(株)製パラヒドロキシ安息香酸ドデシルエステル(PODB)に変更し、PODBの量を443g(1.45mol)とした以外は、製造例1と同様に操作してポリカーボネート樹脂ペレットを得た。
【0113】
得られたポリカーボネート樹脂ペレットの粘度平均分子量は20300、伸長粘度はひずみ軟化性を示し、ガラス転移温度は128℃、Q値は21.4×10−2cc/sであった。
【実施例】
【0114】
次に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0115】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂(A)及びアクリル系樹脂(B)を各々別々の押出機で加熱溶融し、Tダイのスリット状の吐出口から2種類の樹脂を同時に溶融押出し、基材層及び被覆層からなる2種2層に積層した。
ポリカーボネート樹脂(A)を押出すメイン押出機は、バレル直径75mm、スクリューのL/D=32、シリンダー温度270℃に設定した。アクリル系樹脂(B)を押出すサブ押出機は、バレル直径40mm、スクリュウのL/D=32、シリンダー温度250℃に設定した。
【0116】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、製造例1のポリカーボネート樹脂(A)を用いた。アクリル系樹脂(B)としては、アクリル系樹脂(アルケマ株式会社製、商品名Altuglas V020、組成:ポリメチルメタクリレート、Tg105℃)を用いた。
【0117】
2種2層に積層するためにフィードブロックを使用した。ダイヘッド内温度は250℃とし、ダイ内で積層した樹脂を、鏡面仕上げされた横型配置の3本のキャストロールに導くようにした。この際、1番ロール温度110℃、2番ロール温度100℃、3番ロール温度110℃に設定した。
そして、メイン押出機とサブ押出機の回転数は、吐出量比がメイン/サブ=440/60となるように設定して、0.5mm厚さとなるように共押出して合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ60μm)を得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表1に示した。
【0118】
(実施例2)
実施例1の製造条件の中で、吐出量比のみを変更し、合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.125mm、被覆層厚さ30μm)を得た。吐出量比はメイン/サブ=95/30とした。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表1に示した。
【0119】
(実施例3)
実施例1で製造した合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ60μm)のアクリル系樹脂層の上に、ロールコート法を用いてハードコート(中国塗料株式会社製のウレタンアクリレート系樹脂、製品名363C−224HG、ハードコート伸び率;100%)、耐擦り傷性試験(日本スチールウール株式会社製#0000スチールウールを33mm×33mmの正方形パッドに装着し、ハードコート層の表面を荷重1000g下で15往復させる)において、擦傷させた後のヘーズが、10%以下である実用的なハードコートを7μm塗布した、合成樹脂積層シートを得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表1に示した。
【0120】
(実施例4)
実施例2で製造した合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.125mm、被覆層厚さ30μm)のアクリル系樹脂層の上に、実施例3と同様のハードコートを塗布した合成樹脂積層シートを得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表1に示した。
【0121】
(実施例5)
ポリカーボネート樹脂(A)の種類を変えた以外は、実施例1と同じ製造条件で合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ60μm)を得た。ポリカーボネート樹脂(A)としては、製造例2のポリカーボネート樹脂を用いた。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表1に示した。
【0122】
(実施例6)
実施例5の製造条件の中で、吐出量比のみを変更し、合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.125mm、被覆層厚さ30μm)を得た。吐出量比はメイン/サブ=95/30とした。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表1に示した。
【0123】
(実施例7)
実施例5で製造した合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ60μm)のアクリル系樹脂層の上に、実施例3と同様のハードコートを塗布した合成樹脂積層シートを得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表2に示した。
【0124】
(実施例8)
実施例6で製造した合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.125mm、被覆層厚さ30μm)のアクリル系樹脂層の上に、実施例3と同様のハードコートを塗布した合成樹脂積層シートを得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表2に示した。
【0125】
(実施例9)
ポリカーボネート樹脂(A)の種類を変えた以外は、実施例1と同じ製造条件で合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ60μm)を得た。ポリカーボネート樹脂(A)としては、製造例3のポリカーボネート樹脂を用いた。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表2に示した。
【0126】
(実施例10)
ポリカーボネート樹脂(A)の種類を変えた以外は、実施例1と同じ製造条件で合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ60μm)を得た。ポリカーボネート樹脂(A)としては、製造例4のポリカーボネート樹脂を用いた。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表2に示した。
【0127】
(実施例11)
ポリカーボネート樹脂(A)の種類を変えた以外は、実施例1と同じ製造条件で合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ60μm)を得た。ポリカーボネート樹脂(A)としては、製造例5のポリカーボネート樹脂を用いた。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表2に示した。
【0128】
(比較例1)
ポリカーボネート樹脂(A)の種類を変えた以外は、実施例1と同様の成形条件にて、アクリル系樹脂(B)を共押出せず、ポリカーボネート樹脂(A)の単層シート(シート全体厚さ0.5mm)を得た。
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)を押出す押出機は、バレル直径65mm、スクリューのL/D=35、シリンダー温度270℃に設定した。
【0129】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名S−3000、Mv21、000、Tg147℃、(末端構造はパラターシャリーブチルフェノール(PTBP)伸長粘度はひずみ軟化性を示さない。)を用いた。
得られた合成樹脂シートの評価結果を表3に示した。
【0130】
(比較例2)
比較例1の製造条件の中で、吐出量比のみを変更し、合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.125mm)を得た。
得られた合成樹脂シートの評価結果を表3に示した。
【0131】
(比較例3)
比較例1で得られた合成樹脂シートの上に、実施例3と同様のハードコートを塗布した合成樹脂積層シートを得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表3に示した。
【0132】
(比較例4)
比較例2で得られた合成樹脂シートの上に、実施例3と同様のハードコートを塗布した合成樹脂積層シートを得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表3に示した。
【0133】
(比較例5)
ポリカーボネート樹脂(A)の種類を変えたこと以外は、実施例1と同じ製造条件で、合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ60μm)を得た。
ポリカーボネート樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名S−3000、Mv21、000、Tg147℃、(末端構造はパラターシャリーブチルフェノール(PTBP)、伸長粘度はひずみ軟化性を示さない。)を用いた。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表3に示した。
【0134】
(比較例6)
比較例5の製造条件の中で、吐出量比のみを変更し、合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.125mm、被覆層厚さ30μm)を得た。吐出量比はメイン/サブ=95/30とした。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表3に示した。
【0135】
(比較例7)
比較例5で得られた合成樹脂積層シートのアクリル系樹脂層の上に、実施例3と同様のハードコートを塗布した合成樹脂積層シートを得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表4に示した。
【0136】
(比較例8)
比較例6で得られた合成樹脂積層シートのアクリル系樹脂層の上に、実施例3と同様のハードコートを塗布した合成樹脂積層シートを得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表4に示した。
【0137】
(比較例9)
末端停止剤として、製造例1のCEPBの代わりにp−tert−ブチルフェノール(PTBP)を用いたこと、およびポリカーボネート樹脂(A)の種類を変えたこと以外は、実施例1と同じ製造条件で、合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ60μm)を得た。
ポリカーボネート樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名E−2000、Mv28、000、Tg147℃)と、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂(PETのエチレングリコールの65mol%を1.4−CHDMで置換した構造を有する低結晶性の共重合ポリエステル。Tg86℃)とを、質量比で70:30の割合で混合し、加熱しながら溶融混練してポリマーアロイ化させてなるポリカーボネート系樹脂組成物を使用した。このポリカーボネート系樹脂組成物のガラス転移温度を測定したところ、DSC曲線の微分の極大値は単一(Tg121℃)であり、ポリマーアロイであることが確認できた。また、伸長粘度はひずみ軟化性を示した。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表4に示した。
【0138】
(比較例10)
比較例9の製造条件の中で、吐出量比のみを変更し、合成樹脂積層シート(シート全体厚さ0.125mm、被覆層厚さ30μm)を得た。吐出量比はメイン/サブ=95/30とした。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表4に示した。
【0139】
(比較例11)
比較例9で得られた合成樹脂積層シートのアクリル系樹脂層の上に、実施例3と同様のハードコートを塗布した合成樹脂積層シートを得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表4に示した。
【0140】
(比較例12)
比較例10で得られた合成樹脂積層シートのアクリル系樹脂層の上に、実施例3と同様のハードコートを塗布した合成樹脂積層シートを得た。
得られた合成樹脂積層シートの評価結果を表4に示した。
【0141】
<試験及び評価>
1)鉛筆硬度
JIS K5400に準拠し、1Kg荷重で、実施例及び比較例で得られた合成樹脂積層シートの表面(被覆層が形成されている場合は被覆層側表面)における鉛筆硬度を測定した。
そして、実用上問題ないレベルである「H」を基準とし、これ以上の「H」「2H」などを合格(「良好」)と評価し、これ未満の「B」を不合格(「不良」)と評価した。
【0142】
2)シート外観
実施例及び比較例で得られた合成樹脂積層シートのポリカーボネート樹脂(A)とアクリル系樹脂(B)の界面に乱れ(流れ模様)がなく、良外観である場合には(「良好」)と評価し、界面に乱れが発生している場合には(「不良」)と評価した。
【0143】
3)成形加工性(深絞り性、直角形状賦形性)
実施例及び比較例で得られた合成樹脂積層シートを、210mm×297mm×(厚さ)0.5mm、0.125mmに裁断し、得られたサンプルシートをポリカーボネート樹脂(A)のTg+30℃に予熱し、当該温度(表1及び表2参照)で5MPaの高圧空気により、表1及び表2に示した深絞り高さで、直角形状の金型を用いて圧空成形を行なった。なお、深絞り高さは、1mm、2mm・・・5mmのように、1mmきざみで深絞り高さを変更した直角形状金型を使用して設定した。
得られた成形体の表面状態(クラック、白化、発泡、ムラ)状態を観察し、クラック、白化、発泡及びムラのいずれも観察されない場合に「外観異常無」と評価し、さらに、5mm以上深絞り高さで、直角形状部の半径Rが3.0mm以内である成形体で外観異常無の状態に成形できたものを合格(「良好」)と総合評価した。なお、直角形状部の半径Rの測定は、接触式輪郭形状測定機CONTOURECORD2700/503((株)東京精密製)を使用し、半径Rを実測した。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0144】
(考察)
以上の結果、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を形成することにより、合成樹脂積層シート表面(被覆層表面)の硬度を十分に高めることできることを確認できた。よって、合成樹脂積層シートは勿論、これを成形してなる製品表面に傷が入り難くすることができる。
また、基材層であるポリカーボネート樹脂(A)の伸長粘度が、ひずみ軟化性を示すことで、深絞り高さ7mm以上に深絞り、且つ、直角形状に成形してもクラック、白化、発泡、ムラなどの外観不良を生じることなく成形品を得ることができることが判明した。 より具体的には、ポリカーボネート樹脂(A)の末端停止剤として、末端アルキル基(上記式(1)のR)の炭素数が8であるCEPB(実施例1〜4)、末端アルキル基の炭素数が16であるEHPB(実施例5〜8)、HDPB(実施例9)、ならびにCEPB(実施例10)、および末端アルキル基の炭素数が12であるPODB(実施例11)を用いることにより、ポリカーボネート樹脂(A)の伸長粘度にひずみ軟化性を備えさせたことにより、合成樹脂積層シートの優れた成形性を実現するとともに、外観も良好に保つことができた。また、アクリル系樹脂(B)により形成された層を有するため、表面の硬度も十分であった。
これに対し、アクリル系樹脂(B)の層を有していない比較例1〜4の合成樹脂積層シートは表面硬度が不足し、末端停止剤として、末端アルキル基の炭素数が少ないものを用いたために、ひずみ軟化性および成形加工性に劣る結果となった。また、アクリル系樹脂(B)の層を有するものの、末端アルキル基の炭素数が少ないポリカーボネート樹脂(A)を用いた比較例5〜8においては、発泡やクラックが認められ、成形性に劣る結果となった。さらに、ひずみ軟化性を備えてはいるものの、ポリカーボネート系樹脂として他の樹脂を含むポリマーアロイを採用した比較例9〜12においては、シート外観に劣る結果となった。
これより、本発明の合成樹脂積層シートを用いれば、表面が傷つき難く、且つ成形性が優れた成形品を得ることができるばかりか、印刷インクの色やけのないインモールド成型品を製造することができるといえる。インモールド成型品としては、例えば、基材層側に印刷インクによる印刷層を設けて熱成形し、さらに、印刷層側に溶融樹脂を射出成形して裏打ち層を設けたものなどが挙げられる。