特許第6563537号(P6563537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6563537-共鳴音低減タイヤ 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563537
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】共鳴音低減タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/00 20060101AFI20190808BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   B60C5/00 F
   C09J175/04
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-21329(P2018-21329)
(22)【出願日】2018年2月8日
(65)【公開番号】特開2018-172104(P2018-172104A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2018年2月8日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0041701
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514040088
【氏名又は名称】ハンコック タイヤ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ソ、ビョン、ホ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジュ、ゴン
(72)【発明者】
【氏名】カン、チャン、ファン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ハク、ジュ
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/165899(WO,A1)
【文献】 特開2005−336490(JP,A)
【文献】 特表2001−503097(JP,A)
【文献】 特表2015−526547(JP,A)
【文献】 特開2015−129280(JP,A)
【文献】 特開2013−32009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00,5/00
C09J 1/00−5/10,9/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーライナーの内側に塗布された接着剤層と、
上記接着剤層に付着された吸音材層とを含み、
上記接着剤層は、両末端にアルコキシシランを有するポリ(エーテル−ウレタン)を含み、かつ、
上記両末端にアルコキシシランを有するポリ(エーテル−ウレタン)は、下記の式1で表されるものである、共鳴音低減タイヤ。
【化1】
〜Rはそれぞれ独立して炭素数が1〜3であるアルキル基又はアルコキシ基であり、
nは1〜10,000の整数である。
【請求項2】
上記エーテル反復単位は、下記の式2で表されるオキシプロピレン(oxypropylene)反復単位であり、
上記ウレタン反復単位は、下記の式3で表される、請求項に記載の共鳴音低減タイヤ。
【化2】
【化3】
【請求項3】
上記アルコキシシランは、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、及びトリアルコキシシランからなる群から選ばれるいずれか一つである、請求項1に記載の共鳴音低減タイヤ。
【請求項4】
上記アルコキシシランは、メトキシシラン、エトキシシラン、及びプロポキシシランからなる群から選ばれるいずれか一つである、請求項1に記載の共鳴音低減タイヤ。
【請求項5】
上記の式1は、下記の式1aで表される、請求項に記載の共鳴音低減タイヤ:
【化4】
〜Rはそれぞれ独立して炭素数が1〜3であるアルキル基又はアルコキシ基であり、
nは1〜10,000の整数である。
【請求項6】
上記吸音材はポリウレタンフォームを含む、請求項1に記載の共鳴音低減タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性及び接着強度が向上した接着剤組成物を含むことによって、走行時に発熱及び変形にも吸音材の脱離がない安定した共鳴音低減タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車騒音に関連した政府規制の強化及び電気車需要の拡大に伴って、タイヤから発生する騒音の低減に対する要求が増加しつつある。しかし、最近の開発動向は、路面と接触するタイヤのトレッド部が拡幅になっており、タイヤ側面に該当するサイドウォール(Side wall)の偏平比が低いUHP(Ultra high performance)タイヤが脚光を浴びている。このようなタイヤは、構造的な特性によってサイドウォールの剛性が増加するため、路面から伝達された衝撃をタイヤ自体構造で適切にダンピング(Damping)できず、騒音誘発に関連した音圧を上昇させる結果を招く。これは、タイヤ内部(Cavity)で空気振動を発生させ、その騒音が車両の内部まで伝達されて運転者に感知されるため、走行時に乗車感を低下させる原因になる(以下、空気振動による騒音を共鳴音と総称する。)。
【0003】
共鳴音を低減させるための従来の技術には、開放型セルを有するポリウレタン材質の発泡体を活用する技術がある。しかし、このようなポリウレタン材質の発泡体をタイヤ内側のインナーライナーに付着するために一般の液状接着剤を使用する場合、接着剤が吸音材層に吸収されて、吸音力及び接着力を顕著に低下させるという問題があった。
【0004】
液状接着剤に代えて光又は熱で硬化させる接着剤(JP2015−166134A)を使用する場合にも、初期接着力には優れるかもしれないが、弾性のような変形力が低いため、車両の荷重によってタイヤに変形が加えられた状態でさらに与えられる反復的な変形及び振動に耐えられずに破壊されることにより、吸音材の剥離又は離脱が発生する問題があった。
【0005】
ブチル系ホットメルト接着剤を適用する場合、タイヤの変形にも十分に伸張して外部衝撃を緩和させることができるが、ホットメルト系接着剤の特性の上、温度が増加するほど粘度が低くなって流動性が増加し、走行時にタイヤ内に付着された吸音材の位置が変形されることがあり、タイヤバランス又はユニフォーミテイに悪影響を及ぼすことがあった。
【0006】
シリコン系の接着剤を使用した特許もあるが、強度が低いため、タイヤの高変形に弱いという問題があった。
【0007】
そこで、上記のような接着剤の問題点を解決し、タイヤの共鳴音を低減させるための吸音材をインナーライナーに接着させるために、タイヤの変形及び発熱に耐えられる特殊な接着剤の使用が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本特許出願公開第2015−166134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、弾性及び接着強度を向上させて、タイヤの変形及び発熱に耐えられる持続力の強い接着剤組成物を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、持続力の強い接着剤組成物で吸音材を付着して、タイヤの騒音のうち、タイヤ内部の空気振動によって発生する共鳴音を低減させたタイヤを提供することである。
【0011】
本発明の更に他の目的は、持続力の強い接着剤組成物で吸音材を付着して、走行時のタイヤの温度変化、自動車の荷重及び外部衝撃による変形にも吸音材の剥離や離脱無しでタイヤ摩耗寿命まで共鳴音低減性能が維持されるタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、インナーライナー内側に塗布された接着剤層と、上記接着剤層に付着された吸音材層とを含み、上記接着剤層は、両末端にアルコキシシランを有するポリ(エーテル−ウレタン)を含む、共鳴音低減タイヤを提供する。
【0013】
上記両末端にアルコキシシランを有するポリ(エーテル−ウレタン)は、下記の式1で表されるものであり得る。
【化1】
【0014】
〜Rはそれぞれ独立して炭素数が1〜3であるアルキル基又はアルコキシ基であり、nは1〜10,000の整数である。
【0015】
上記エーテル反復単位は、下記の式2で表されるオキシプロピレン(oxypropylene)反復単位であり、上記ウレタン反復単位は、下記の式3で表されるものであってもよい。
【化2】
【化3】
【0016】
上記アルコキシシランは、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランからなる群から選ばれるいずれか一つであってもよい。
【0017】
上記アルコキシシランは、メトキシシラン、エトキシシラン、及びプロポキシシランからなる群から選ばれるいずれか一つであってもよい。
【0018】
上記の式1は、下記の式1aで表されるものであってもよい。
【化4】
【0019】
〜Rはそれぞれ独立して炭素数が1〜3であるアルキル基又はアルコキシ基であり、nは1〜10,000の整数である。
【0020】
上記吸音材はポリウレタンフォームを含むことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る接着剤組成物は、弾性及び接着力が向上して、タイヤの変形及び発熱に耐えることができる。
【0022】
本発明に係る接着剤組成物を使って製造されたタイヤは、持続力の強い接着剤組成物で吸音材を付着して、タイヤの騒音のうち、タイヤ内部の空気振動から発生する共鳴音を低減させることができる。
【0023】
本発明に係るタイヤは、持続力の強い接着剤組成物で吸音材を付着して、走行時のタイヤの温度変化、自動車の荷重及び外部衝撃による変形にも吸音材の剥離や離脱無しでタイヤ摩耗寿命まで共鳴音低減性能が維持されるタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一具現例による空気圧タイヤの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0026】
本発明の一実施例に係る共鳴音低減タイヤは、インナーライナーの内側に塗布された接着剤層と、上記接着剤層に付着された吸音材層とを含み、上記接着剤層は、両末端にアルコキシシランを有するポリ(エーテル−ウレタン)を含む。
【0027】
本発明の一実施例に係る空気圧タイヤの側断面図を図1に示す。図1を参照すると、本発明に係る空気圧タイヤ1は、インナーライナーの内側面に塗布された接着剤層2を含み、上記接着剤層2に付着された吸音材層3を含む。
【0028】
上記接着剤層2に含まれる、両末端にアルコキシシランを有するポリ(エーテル−ウレタン)は、下記の式1で表すことができる。
【化5】
【0029】
〜Rはそれぞれ独立して炭素数が1〜3であるアルキル基又はアルコキシ基であり、nは1〜10,000の整数である。
【0030】
上記エーテル反復単位は、下記の式2で表されるオキシプロピレン(oxypropylene)であってもよく、上記ウレタン反復単位は、下記の式3で表すことができる。
【化6】
【化7】
【0031】
上記の式1の重合体は、重合体の主鎖がポリエーテルではなく、ポリ(エーテル−ウレタン)で複合的に構成されるため、一定の弾性力を維持しながらも外力に耐えられる程度に強いという特徴がある。
【0032】
上記の式1の重合体は、両末端に官能基としてアルコキシシラン基を有して重合体間の架橋構造をなすようにし、接着強度を強化させた。
【0033】
上記アルコキシシランは、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランであってもよい。
【0034】
上記アルコキシシランは炭素数1〜3のアルコキシ基を含むことができ、好ましくは、メトキシシラン、エトキシシラン、及びプロポキシシランからなる群から選ばれるいずれか一つであってもよい。
【0035】
例えば、上記アルコキシシランは、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジプロポキシシラン、メチルジブトキシシラン、エチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシラン、エチルジプロポキシシラン、エチルジブトキシシラン、プロピルジメトキシシラン、プロピルジエトキシシラン、プロピルジプロポキシシラン、プロピルジブトキシシラン、ブチルジメトキシシラン、ブチルジエトキシシラン、ブチルジプロポキシシラン、ブチルジブトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、ジエチルメトキシシラン、ジエチルエトキシシラン、ジエチルプロポキシシラン、ジエチルブトキシシラン、ジプロピルメトキシシラン、ジプロピルエトキシシラン、ジプロピルプロポキシシラン、ジプロピルブトキシシラン、ジブチルメトキシシラン、ジブチルエトキシシラン、ジブチルプロポキシシラン、ジブチルブトキシシラン、メチルエチルメトキシシラン、メチルプロピルメトキシシラン、メチルブチルメトキシシラン、メチルエチルエトキシシラン、メチルプロピルエトキシシラン、メチルブチルエトキシシラン、メチルエチルプロポキシシラン、メチルプロピルプロポキシシラン、メチルブチルプロポキシシラン、メチルエチルブトキシシラン、メチルプロピルブトキシシラン、メチルブチルブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、及びトリプロポキシシランからなる群から選ばれるいずれか一つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0036】
上記の式1は、さらに具体的には下記の式1aで表すことができる。
【化8】
【0037】
〜Rはそれぞれ独立して炭素数が1〜3であるアルキル基又はアルコキシ基であり、nは1〜10,000の整数である。
【0038】
両末端にアルコキシシランを有するポリ(エーテル−ウレタン)重合体を含む接着剤組成物は、自動車の荷重と外部の衝撃などによる変形や、高温はもとより低温環境でも吸音材の分離、剥離又は離脱無しで、タイヤ摩耗寿命まで共鳴音低減性能を維持することができる。
【0039】
上記吸音材層3は、吸音材としてポリウレタンフォームを含むことが好ましい。
【0040】
上記ポリウレタンフォームは、基本的に、ポリイソシアネート化合物(polyisocyanate compound)とポリオール(polyhydroxy compound)をウレタン反応させて製造することができる。
【0041】
上記ポリウレタンフォームは、開放セルを有するポリウレタン系の吸音材のことを指し、25〜35kg/mの密度を有することができる。
【0042】
開放セルを有するポリウレタンフォームは、粘性の低い接着剤がポリウレタンフォームに過度に吸収され、インナーライナーとの接着が難しいという問題があった。しかし、シリコン接着剤は粘性及び弾性が高いため開放セルの表面にのみ吸収され、接着力が低下しなく、高変形に対しても接着剤層の耐久性が確保されるため、ポリウレタンフォームを接着させるに適する。
【0043】
以下、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の実施例について詳しく説明する。しかし、本発明は、様々な形態で具現することができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0044】
[製造例:接着剤組成物の製造]
下記の表1のような組成を使って接着剤組成物を製造した。
【表1】
【0045】
[試験例1:接着力評価]
上記の実施例及び比較例で製造した接着組成物をタイヤインナーライナーと吸音材に塗布し付着して物性を測定し、それを表2に示した。
【表2】
【0046】
上記の表2から、主鎖としてポリ(エーテル−ウレタン)重合体を含み、末端が変形された実施例1の硬度及びモジュラスが向上し、接着力がさらに向上したことが確認できた。
【0047】
伸び率(変形率)が比較例1に比べて低いことから、付着された吸音材の離脱を防止することができると予想される。
【0048】
以上、本発明の好適な実施例について詳しく説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形及び改良の形態も本発明の権利範囲に属する。
【符号の説明】
【0049】
1 空気圧タイヤ
2 接着剤層
3 吸音材層
図1