【文献】
KOCHENDERFER, J.N. et al.,Blood,2012年 3月,Vol.119, No.12,p.2709-20
【文献】
LEE, S. et al.,J Allergy Clin Immunol,2010年,Vol.125,p.814-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
キメラ抗原受容体を発現するように遺伝子改変されたT細胞(CAR T細胞)を含む、患者において癌を治療するための薬学的組成物であって、CAR T細胞がサイトカイン放出症候群(CRS)をもたらし、前記薬学的組成物がCRSを治療するためのIL-6インヒビターと組み合わせて使用され、前記IL-6インヒビターが抗体である、薬学的組成物。
キメラ抗原受容体(CAR)が、腫瘍抗原を標的とする抗原認識ドメインを有する細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインを含む、請求項1記載の薬学的組成物。
CARが腫瘍抗原結合モイエティーを含み、該腫瘍抗原結合モイエティーが、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン、CD3ζシグナルドメイン、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数の細胞内ドメインと融合している、請求項4記載の薬学的組成物。
CAR T細胞が、インビトロでCARを発現するベクターで形質導入されたヒトT細胞であり、かつ患者に対して自己である、請求項1〜7のいずれか一項記載の薬学的組成物。
CARを発現するように遺伝子改変されたT細胞(CAR T細胞)を含む、患者において癌を治療するための薬学的組成物であって、CAR T細胞がサイトカイン放出症候群(CRS)をもたらし、前記薬学的組成物がCRSを治療するためのIL-6インヒビターおよびコルチコステロイドと組み合わせて使用され、前記IL-6インヒビターが抗体である、薬学的組成物。
CARが腫瘍抗原結合モイエティーを含み、該腫瘍抗原結合モイエティーが、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン、CD3ζシグナルドメイン、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数の細胞内ドメインと融合している、請求項20記載の薬学的組成物。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
本発明は、血液学的悪性腫瘍および固形腫瘍を非限定的に含む癌を治療するための組成物および方法に関する。本発明はまた、原発癌および転移癌、ならびに従来の化学療法に対して不応性または抵抗性である癌を含む、ある特定の種類の癌を治療および予防する方法も包含する。この方法は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように形質導入されたT細胞の治療的または予防的有効量を、そのような治療または予防を必要とする患者に投与する段階を含む。CARとは、特異的な抗腫瘍細胞免疫活性を呈するキメラタンパク質を作製するために、所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する抗体ベースの特異性と、T細胞受容体活性化細胞内ドメインとを組み合わせた分子である。
【0022】
全体の治療レジメンの一部として、本発明は、T細胞輸注後の患者において可溶性因子のプロファイルを評価することにより、ある特定の癌を管理する(例えば、その再発を予防または延期する、または寛解の時間を長くする)方法を包含する。好ましくは、可溶性因子のプロファイルは、サイトカインプロファイルの評価を含む。サイトカインプロファイルが、T細胞輸注前と比較してT細胞輸注後に特定のサイトカインの増加を示す場合、当業者は、T細胞輸注後のサイトカインの亢進したレベルを管理するために、有効量のサイトカイン阻害化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、水和物、立体異性体、包接化合物、もしくはプロドラッグを、そのような管理を必要とする患者に投与することを選べる。
【0023】
本発明は、ベースラインまたはベースラインの既存のレベルからのモジュレーションが、癌の治療を管理する助けにするためCAR T細胞輸注後のT細胞の活性化、標的活性、および可能性のある有害な副作用を追跡する助けになり得る因子の、固有の組み合わせの同定という発見に、一部基づく。例示的な因子には、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、IL-1Ra、IL-2R、IFN-α、IFN-γ、MIP-1α、MIP-1β、MCP-1、TNFα、GM-CSF、G-CSF、CXCL9、CXCL10、CXCR因子、VEGF、RANTES、エオタキシン、EGF、HGF、FGF-β、CD40、CD40L、フェリチンなどが非限定的に含まれる。
【0024】
本発明は、毒性管理と組み合わせた、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように形質導入されたT細胞の養子細胞移入の戦略であって、癌を治療するために、T細胞輸注後の患者から可溶性因子のプロファイルを作製し、亢進した可溶性因子に対する治療を行う戦略に関する。例えば、リアルタイムの可溶性因子プロファイルを作製することにより、レベルを正常なレベルに下げるために、亢進した可溶性因子の適切なインヒビターでの介入が可能になる。
【0025】
1つの態様において、本発明のCARは、所望の抗原を標的とする抗原認識ドメインを有する細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインを含む。本発明は、特定のCARには限定されない。むしろ、所望の抗原を標的とする任意のCARを、本発明において使用することができる。CARを作製する組成物および方法は、参照により全体として本明細書に組み入れられるPCT/US11/64191に記載されている。
【0026】
上記の方法の任意のいくつかの態様において、方法は、腫瘍サイズもしくは疾患の証拠もしくは疾患進行の測定可能な低減、完全奏功、部分奏功、安定した疾患、無進行生存の増加もしくは延長、全生存の増加もしくは延長、または毒性の低減をもたらす。
【0027】
定義
別に定める場合を除き、本明細書で用いる技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されたものと同様または同等な任意の方法および材料を本発明の試験のために実地に用いることができるが、本明細書では好ましい材料および方法について説明する。本発明の説明および特許請求を行う上では、以下の専門用語を用いる。
【0028】
また、本明細書中で用いる専門用語は、特定の態様を説明することのみを目的とし、限定的であることは意図しないことも理解される必要がある。
【0029】
「1つの(a)」および「1つの(an)」という冠詞は、本明細書において、その冠詞の文法的目的語の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指して用いられる。一例として、「1つの要素」は、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0030】
量、時間的長さなどの測定可能な値に言及する場合に本明細書で用いる「約」は、特定された値からの±20%または±10%、場合によっては±5%、場合によっては±1%、かつ場合によっては±0.1%のばらつきを包含するものとするが、これはそのようなばらつきが、開示された方法を実施する上で妥当なためである。
【0031】
「活性化」とは、本明細書で用いる場合、検出可能な細胞増殖を誘導するように十分に刺激されたT細胞の状態のことを指す。また、活性化が、サイトカイン産生の誘導、および検出可能なエフェクター機能を伴うこともある。「活性化されたT細胞」という用語は、とりわけ、細胞分裂を行っているT細胞のことを指す。
【0032】
可溶性因子の「アクチベーター」または「アゴニスト」とは、本明細書において、可溶性因子を活性化する、またはそのレベルを増加させることができる作用物質の分子を指して用いられる。アクチベーターとは、可溶性因子を増加させる、促進する、活性化を誘導する、活性化する、またはその活性もしくは発現を上方制御する化合物、例えばアゴニストである。アクチベーターを検出するためのアッセイは、本明細書の他所に記載したように、例えば、インビトロ、細胞中、または細胞膜に可溶性因子を発現させる段階、推定のアゴニスト化合物を適用する段階、およびその後、可溶性因子の活性に対する機能的効果を判定する段階を含む。
【0033】
「抗体」という用語は、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子のことを指す。抗体は、天然供給源または組換え供給源に由来する無傷の免疫グロブリンであってもよく、無傷の免疫グロブリンの免疫応答部分であってもよい。抗体は、免疫グロブリン分子のテトラマーであることが多い。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)
2、ならびに単鎖抗体およびヒト化抗体を含む、種々の形態で存在しうる(Harlow et al., 1999, In: Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY;Harlow et al., 1989, In: Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York;Houston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883;Bird et al., 1988, Science 242:423-426)。
【0034】
「抗体フラグメント」という用語は、無傷の抗体の一部分のことを指し、無傷の抗体の抗原決定可変領域のことも指す。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFvフラグメント、直鎖状抗体、scFv抗体、ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が非限定的に含まれる。
【0035】
本明細書で用いる「抗原」または「Ag」という用語は、免疫応答を誘発する分子と定義される。この免疫応答には、抗体産生、または特異的免疫適格細胞の活性化のいずれかまたは両方が含まれうる。当業者は、事実上すべてのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が抗原としての役を果たしうることを理解するであろう。その上、抗原が組換えDNAまたはゲノムDNAに由来してもよい。当業者は、免疫応答を惹起するタンパク質をコードするヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列を含む任意のDNAが、それ故に、本明細書中でその用語が用いられる通りの「抗原」をコードすることを理解するであろう。その上、当業者は、抗原が遺伝子の完全長ヌクレオチド配列のみによってコードされる必要はないことも理解するであろう。本発明が複数の遺伝子の部分ヌクレオチド配列の使用を非限定的に含むこと、およびこれらのヌクレオチド配列が所望の免疫応答を惹起するさまざまな組み合わせで並べられていることは直ちに明らかである。さらに、当業者は、抗原が「遺伝子」によってコードされる必要が全くないことも理解するであろう。抗原を合成して作製することもでき、または生物試料から得ることもできることは直ちに明らかである。そのような生物試料には、組織試料、腫瘍試料、細胞または生体液が非限定的に含まれうる。
【0036】
「自己抗原」という用語は、本発明によれば、それが外来性であるかのように免疫系によって認識される、あらゆる自己抗原のことを意味する。自己抗原には、細胞表面受容体を含む、細胞タンパク質、リンタンパク質、細胞表面タンパク質、細胞脂質、核酸、糖タンパク質が非限定的に含まれる。
【0037】
本明細書で用いる「自己免疫疾患」は、自己免疫反応に起因する障害と定義される。自己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切かつ過剰な反応の結果である。自己免疫疾患の例には、とりわけ、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性耳下腺炎、クローン病、糖尿病(I型)、栄養障害型表皮水疱症、精巣上体炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギラン・バレー(Guillain-Barr)症候群、橋本病、溶血性貧血、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、乾癬、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、脊椎関節症、甲状腺炎、血管炎、尋常性白斑、粘液水腫、悪性貧血、潰瘍性大腸炎が非限定的に含まれる。
【0038】
本明細書で用いる場合、「自己」という用語は、後にその個体に再び導入される、同じ個体に由来する任意の材料を指すものとする。
【0039】
「同種」とは、同じ種の異なる動物に由来する移植片のことを指す。
【0040】
「異種」とは、異なる種の動物に由来する移植片のことを指す。
【0041】
本明細書で用いる「癌」という用語は、異常細胞の急速かつ制御不能な増殖を特徴とする疾患と定義される。癌細胞は局所的に広がることもあれば、または血流およびリンパ系を通じて身体の他の部分に広がることもある。さまざまな癌の例には、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、皮膚癌、膵癌、結腸直腸癌、腎癌、肝臓癌、脳悪性腫瘍、リンパ腫、白血病、肺癌などが非限定的に含まれる。
【0042】
本明細書で用いる場合、「併用療法」とは、第1の作用物質を別の作用物質と共に投与することを意味する。「〜と共に」とは、1つの治療様式を、別の治療様式に加えて投与することを指す。したがって、「〜と共に」とは、1つの治療様式を、他の治療様式の送達の前、その間、またはその後に個体に投与することを指す。そのような組み合わせは、単一の治療レジメンまたはレジメの一部とみなされる。
【0043】
本明細書で用いる場合、「並行投与」という用語は、併用療法における第1の療法の施与および第2の療法の施与が互いに重なっていることを意味する。
【0044】
「共刺激リガンド」には、この用語が本明細書で用いられる場合、T細胞上のコグネイト共刺激分子と特異的に結合し、それにより、例えば、ペプチドが負荷されたMHC分子のTCR/CD3複合体への結合によって与えられる一次シグナルに加えて、増殖、活性化、分化などを非限定的に含むT細胞応答を媒介するシグナルも与えることのできる、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上の分子が含まれる。共刺激リガンドには、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞内接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンβ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、およびB7-H3に特異的に結合するリガンドが非限定的に含まれる。共刺激リガンドはまた、とりわけ、これらに限定されるわけではないがCD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3などのT細胞上に存在する共刺激分子に特異的に結合する抗体、およびCD83に特異的に結合するリガンドも包含する。
【0045】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドに特異的に結合し、それにより、これに限定されるわけではないが増殖などの、T細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上のコグネイト結合パートナーのことを指す。共刺激分子には、MHCクラスI分子、BTLAおよびTollリガンド受容体が非限定的に含まれる。
【0046】
「共刺激シグナル」とは、本明細書で用いる場合、TCR/CD3連結などの一次シグナルとの組み合わせで、T細胞の増殖、および/または鍵となる分子のアップレギュレーションもしくはダウンレギュレーションを導く分子のことを指す。
【0047】
「疾患」とは、動物が恒常性を維持することができず、その疾患が改善しなければその動物の健康が悪化し続ける、動物の健康状態のことを指す。対照的に、動物における「障害」とは、その動物が恒常性を維持することはできるが、その動物の健康状態が、障害の非存在下にあるよりもより不都合である健康状態のことである。治療されないままであっても、障害は必ずしもその動物の健康状態のさらなる低下を引き起こすとは限らない。
【0048】
本明細書で用いる「有効量」とは、治療的または予防的な有益性をもたらす量のことを意味する。
【0049】
本明細書で用いる場合、「内因性」とは、生物体、細胞、組織もしくは系に由来するか、またはその内部で産生される任意の材料のことを指す。
【0050】
本明細書で用いる場合、「外因性」という用語は、生物体、細胞、組織もしくは系の外部で産生された、該生物体、細胞、組織もしくは系に導入された任意の材料のことを指す。
【0051】
本明細書で用いる「発現」という用語は、そのプロモーターによって作動する特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0052】
「発現ベクター」とは、発現させようとするヌクレオチド配列と機能的に連結した発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターのことを指す。発現ベクターは、発現のために十分なシス作用エレメントを含む;発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において供給されうる。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み入れたコスミド、プラスミド(例えば、裸のもの、またはリポソーム中に含まれるもの)およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)といった、当技術分野において公知であるすべてのものが含まれる。
【0053】
「相同な」とは、2つのポリペプチドの間または2つの核酸分子の間の配列類似性または配列同一性のことを指す。比較する2つの配列の両方において、ある位置が同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれにおいて、ある位置がアデニンによって占められている場合には、それらの分子はその位置で相同である。2つの配列間の相同度(percent of homology)は、2つの配列が共通して持つ一致する位置または相同な位置の数を、比較する位置の数によって除算した上で100を掛けた関数である。例えば、2つの配列中の10個の位置のうち6個が一致するかまたは相同であるならば、2つの配列は60%相同である。一例として、DNA配列ATTGCCおよびTATGGCは50%の相同性を有する。一般に、比較は、最大の相同性が得られるように2つの配列のアラインメントを行った上で行われる。
【0054】
「免疫グロブリン」または「Ig」という用語は、本明細書で用いる場合、抗体として機能するタンパク質のクラスと定義される。B細胞によって発現させた抗体は、BCR(B細胞受容体)または抗原受容体と称されることも時にある。このタンパク質のクラスに含まれる5つのメンバーは、IgA、IgG、IgM、IgDおよびIgEである。IgAは、唾液、涙液、母乳、消化管分泌物、ならびに気道および泌尿生殖路の粘液分泌物などの身体分泌物中に存在する主要な抗体である。IgGは、最も一般的な流血中抗体である。IgMは、ほとんどの哺乳動物で一次免疫応答において産生される主な免疫グロブリンである。これは凝集反応、補体固定および他の抗体応答において最も効率的な免疫グロブリンであり、細菌およびウイルスに対する防御に重要である。IgDは抗体機能が判明していない免疫グロブリンであるが、抗原受容体として働いている可能性がある。IgEは、アレルゲンに対する曝露時にマスト細胞および好塩基球からのメディエーターの放出を引き起こすことによって即時型過敏症を媒介する免疫グロブリンである。
【0055】
本明細書で用いる場合、「免疫応答」という用語には、T細胞媒介性免疫応答および/またはB細胞媒介性免疫応答が含まれる。例示的な免疫応答には、T細胞応答、例えば、サイトカイン産生および細胞性細胞傷害性が含まれる。加えて、免疫応答という用語には、T細胞の活性化により間接的にもたらされる免疫応答、例えば、抗体産生(液性応答)、およびサイトカイン応答細胞、例えばマクロファージの活性化が含まれる。免疫応答に関与する免疫細胞には、B細胞およびT細胞(CD4+、CD8+、Th1およびTh2細胞)などのリンパ球;抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージ、Bリンパ球、ランゲルハンス細胞などのプロフェッショナル抗原提示細胞、および、ケラチノサイト、内皮細胞、アストロサイト、繊維芽細胞、オリゴデンドロサイトなどの非プロフェッショナル抗原提示細胞);ナチュラルキラー細胞;マクロファージ、好酸球、肥満細胞、好塩基球、および顆粒球などの骨髄性細胞が含まれる。
【0056】
可溶性因子の「インヒビター」または「アンタゴニスト」とは、本明細書において、可溶性因子を阻害する、不活性化する、またはそのレベルを低減させることができる作用物質の分子を指して用いられる。インヒビターとは、例えば、可溶性因子に結合する、その活性を部分的にまたは全面的に遮断する、減少させる、予防する、活性化を遅延させる、不活性化する、脱感作する、またはその活性もしくは発現を下方制御する化合物、例えばアンタゴニストである。インヒビターには、抗体、可溶性受容体などのようなポリペプチドインヒビター、ならびに、siRNAまたはアンチセンスRNAなどの核酸インヒビター、可溶性因子の遺伝子改変型、例えば、変更された活性を有する型、ならびに、天然に存在するおよび合成の可溶性因子アンタゴニスト、化学的低分子などが含まれる。インヒビターを検出するためのアッセイは、本明細書の他所に記載したように、例えば、インビトロ、細胞中、または細胞膜に可溶性因子を発現させる段階、推定のアンタゴニスト化合物を適用する段階、およびその後、可溶性因子の活性に対する機能的効果を判定する段階を含む。
【0057】
本明細書で用いる場合、「説明資料(instructional material」には、本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために用いうる、刊行物、記録、略図または他の任意の表現媒体が含まれる。本発明のキットの説明資料は、例えば、本発明の核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器に添付してもよく、または核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器と一緒に出荷してもよい。または、説明資料および化合物がレシピエントによって一体として用いられることを意図して、説明資料を容器と別に出荷してもよい。
【0058】
「単離された」とは、天然の状態から変更されるかまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きた動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、その天然の状態で共存する物質から部分的または完全に分離された同じ核酸またはペプチドは、「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することもでき、または例えば宿主細胞などの非天然の環境で存在することもできる。
【0059】
本明細書で用いる「レンチウイルス」とは、レトロウイルス科(Retroviridae)ファミリーの属のことを指す。レンチウイルスは、非分裂細胞を感染させうるという点で、レトロウイルスの中でも独特である;それらはかなりの量の遺伝情報を宿主細胞のDNA中に送達することができるため、それらは遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIVおよびFIVはすべて、レンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、インビボでかなり高いレベルの遺伝子移入を達成するための手段を与える。
【0060】
本明細書で用いる、生物試料における「可溶性因子のレベル」という句は、典型的には、生物試料中に存在する可溶性因子のタンパク質、タンパク質断片、またはペプチドの量のレベルを指す。「可溶性因子のレベル」は、定量化する必要はないが、対照試料由来のレベルまたは対照試料の期待されるレベルとの比較を伴うかまたは伴わずに、例えば、ヒトによる主観的な視覚的検出で、単純に検出することができる。
【0061】
「モジュレートする」という用語は、本明細書で用いる場合、治療もしくは化合物の非存在下でのその対象における反応のレベルと比較して、および/または他の点では同一であるが治療を受けていない対象における反応のレベルと比較して、対象における反応のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は、対象、好ましくはヒトにおいて、天然のシグナルまたは反応を擾乱させかつ/またはそれに影響を及ぼすことにより、有益な治療反応を媒介することを包含する。
【0062】
免疫原性組成物の「非経口的」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)または胸骨内の注射法または輸注法が含まれる。
【0063】
「患者」、「対象」、「個体」などの用語は、本明細書において互換的に用いられ、本明細書に記載の方法を適用しうる、インビトロまたはインサイチューの別を問わない、任意の動物またはその細胞のことを指す。ある非限定的な態様において、患者、対象または個体はヒトである。
【0064】
本明細書で用いる「同時投与」という用語は、併用療法における第1の療法および第2の療法を、約15分以下、例えば、約10、5、または1分のいずれか以下の時間間隔で投与することを意味する。第1および第2の療法を同時に投与する場合、第1および第2の療法は、同じ組成物(例えば、第1および第2の療法を両方とも含む組成物)、または別々の組成物(例えば、第1の療法は1つの組成物に含有され、第2の療法は別の組成物に含有される)に含有されてもよい。
【0065】
本明細書で用いる「同時投与」という用語は、併用療法における第1の療法および第2の療法を、約15分以下、例えば、約10、5、または1分のいずれか以下の時間間隔で投与することを意味する。第1および第2の療法を同時に投与する場合、第1および第2の療法は、同じ組成物(例えば、第1および第2の療法を両方とも含む組成物)、または別々の組成物(例えば、第1の療法は1つの組成物に含有され、第2の療法は別の組成物に含有される)に含有されてもよい。
【0066】
「特異的に結合する」という用語は、抗体に関して本明細書で用いる場合、試料中の特異的な抗原を認識するが、他の分子は実質的に認識もせず、それらと結合もしない抗体のことを意味する。例えば、1つの種由来の抗原と特異的に結合する抗体が、1つまたは複数の種由来のその抗原と結合してもよい。しかし、そのような種間反応性はそれ自体では、抗体の分類を特異的として変更させることはない。もう1つの例において、抗原と特異的に結合する抗体が、その抗原の異なるアレル形態と結合してもよい。しかし、そのような交差反応性はそれ自体では、抗体の分類を特異的として変更させることはない。場合によっては、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語を、抗体、タンパク質またはペプチドの第2の化学種との相互作用に言及して、その相互作用が、化学種での特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味して用いることができる;例えば、ある抗体は、タンパク質全体ではなく特定のタンパク質構造を認識してそれと結合する。抗体がエピトープ「A」に対して特異的であるならば、エピトープAを含有する分子(または遊離した非標識A)の存在は、標識「A」およびその抗体を含む反応において、その抗体と結合した標識Aの量を減少させると考えられる。
【0067】
「刺激」という用語は、刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体)がそのコグネイトリガンドと結合して、それにより、これに限定されるわけではないがTCR/CD3複合体を介するシグナル伝達などのシグナル伝達イベントを媒介することによって誘導される、一次応答のことを意味する。刺激は、TGF-βのダウンレギュレーション、および/または細胞骨格構造の再構築などのような、ある種の分子の発現の改変を媒介してもよい。
【0068】
「刺激分子」とは、この用語が本明細書で用いられる場合、抗原提示細胞上に存在するコグネイト刺激リガンドに特異的に結合する、T細胞上の分子のことを意味する。
【0069】
「刺激リガンド」とは、本明細書で用いる場合、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上に存在する場合に、T細胞上のコグネイト結合パートナー(本明細書では「刺激分子」と称する)と特異的に結合して、それにより、活性化、免疫応答の開始、増殖などを非限定的に含む、T細胞による一次応答を媒介することのできるリガンドのことを意味する。刺激リガンドは当技術分野において周知であり、とりわけ、ペプチドが負荷されたMHCクラスI分子、抗CD3抗体、スーパーアゴニスト抗CD28抗体およびスーパーアゴニスト抗CD2抗体を包含する。
【0070】
「対象」という用語は、免疫応答を惹起させることができる、生きている生物(例えば、哺乳動物)を含むことを意図している。対象の例には、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、およびそれらのトランスジェニック種が含まれる。
【0071】
本明細書で用いる場合、「実質的に精製された」細胞とは、他の細胞型を本質的に含まない細胞のことである。また、実質的に精製された細胞とは、その天然の状態に本来付随する他の細胞型から分離された細胞のことも指す。場合によっては、実質的に精製された細胞の集団とは、均一な細胞集団のことを指す。また別の場合には、この用語は、単に、天然の状態において本来付随する細胞から分離された細胞のことを指す。いくつかの態様において、細胞はインビトロで培養される。他の態様において、細胞はインビトロでは培養されない。
【0072】
本明細書で用いる「治療的」という用語は、治療および/または予防のことを意味する。治療効果は、疾病状態の抑制、寛解または根絶によって得られる。
【0073】
「治療的有効量」という用語は、研究者、獣医、医師または他の臨床専門家が詳しく調べようとしている、組織、系または対象の生物学的または医学的な反応を誘発すると考えられる対象化合物の量のことを指す。「治療的有効量」という用語には、投与された場合に、治療される障害または疾患の徴候または症状のうち1つもしくは複数の発生を予防するか、またはそれをある程度改善するのに十分な、化合物の量が含まれる。治療的有効量は、化合物、疾患およびその重症度、ならびに治療される対象の年齢、体重などに応じて異なると考えられる。
【0074】
本明細書で用いる「移植体」とは、個体中に導入される細胞、組織、または臓器を指す。移植される材料の供給源は、培養細胞、別の個体由来の細胞、または同じ個体由来の細胞(例えば、細胞をインビトロで培養した後)であることができる。例示的な臓器移植体は、腎臓、肝臓、心臓、肺、および膵臓である。
【0075】
ある疾患を「治療する」とは、この用語が本明細書で用いられる場合、対象が被っている疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を軽減することを意味する。
【0076】
本明細書で用いる「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」という用語は、外因性核酸が宿主細胞内に移入または導入される過程のことを指す。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞とは、外因性核酸をトランスフェクトされた、外因性核酸によって形質転換された、または外因性核酸を形質導入された細胞である。この細胞には初代対象細胞およびその子孫が含まれる。
【0077】
範囲:本開示の全体を通じて、本発明のさまざまな局面を、範囲形式で提示することができる。範囲形式による記載は、単に便宜上かつ簡潔さのためであって、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定とみなされるべきではないことが理解される必要がある。したがって、ある範囲の記載は、その範囲内におけるすべての可能な部分的範囲とともに、個々の数値も具体的に開示されていると考慮されるべきである。例えば、1〜6などの範囲の記載は、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6などの部分的範囲とともに、その範囲内の個々の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3および6も、具体的に開示されていると考慮されるべきである。これは範囲の幅広さとは関係なく適用される。
【0078】
説明
本発明は、患者において癌を治療するための組成物および方法を提供する。1つの態様において、治療法は、抗腫瘍免疫応答を導入するために本発明のCARを患者に投与することを含む第一選択療法、および、T細胞輸注後の患者における可溶性因子のレベルをモニタリングして、第一選択療法の結果として患者の治療に適切である第二選択療法の種類を決定する段階を含む。
【0079】
1つの態様において、第二選択療法は、適切なCAR Tの輸注を受けた後(本明細書の他所では「T細胞輸注後」と言及される)の患者における可溶性因子プロファイルを評価する段階を含み、この段階において、可溶性因子プロファイルが、T細胞輸注前と比較してT細胞輸注後に特定の可溶性因子の増加を示す場合、当業者は、T細胞輸注後の可溶性因子の亢進したレベルを管理するために、有効量の可溶性因子阻害化合物を、必要とする患者に投与することを選択可能である。したがって、1つの態様における第二選択療法は、CAR T細胞を用いる第一選択療法に起因するある特定の可溶性因子の亢進したレベルを管理するために、ある種類の可溶性因子阻害療法を施与することを含む。
【0080】
さらにもう1つの態様において、可溶性因子阻害化合物を患者に投与する段階に関連する第二選択療法は、望ましくない血管形成と関連性のある、またはそれを特徴とする疾患または障害を治療、予防、または管理するために使用される他の従来の療法と組み合わせることができる。そのような従来の療法の例には、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、生物療法、および免疫療法が非限定的に含まれる。
【0081】
1つの態様において、本発明のCARは、T細胞抗原受容体複合体ζ鎖(例えば、CD3ζ)の細胞内シグナル伝達ドメインと融合した、腫瘍抗原を標的とする抗原結合ドメインを有する細胞外ドメインを含むように操作することができる。例示的な腫瘍抗原であるB細胞抗原はCD19であり、それは、この抗原が悪性B細胞上に発現しているためである。しかしながら、本発明は、CD19を標的とすることに限定されない。むしろ、本発明は、任意の腫瘍抗原結合モイエティーを含む。抗原結合モイエティーは、好ましくは、共刺激分子およびζ鎖のうちの1つまたは複数由来の細胞内ドメインと融合している。好ましくは、抗原結合モイエティーは、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン、CD3ζシグナルドメイン、およびこれらの任意の組み合わせの群から選択される1つまたは複数の細胞内ドメインと融合している。
【0082】
1つの態様において、本発明のCARは、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメインを含む。これは、本発明が一部には、CARにより媒介されるT細胞応答を共刺激ドメインの付加でさらに強化することができるという発見に基づくためである。例えば、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメインを含めることにより、CD137(4-1BB)を発現するように操作されていないこと以外は同一のCAR T細胞と比較して、CAR T細胞のCARにより媒介される活性およびインビボ存続性は有意に増加した。しかしながら、本発明は、特定のCARには限定されない。むしろ、腫瘍抗原を標的とする任意のCARを、本発明において使用することができる。CARを作製および使用する組成物および方法は、参照により全体として本明細書に組み入れられるPCT/US11/64191に記載されている。
【0083】
方法
本発明の治療レジメンは、腫瘍サイズもしくは疾患の証拠もしくは疾患進行の測定可能な低減、完全奏功、部分奏功、安定した疾患、無進行生存の増加もしくは延長、全生存の増加もしくは延長、または毒性の低減をもたらす。
【0084】
全体の治療レジメンの一部として、本発明は、第一選択療法および第二選択療法を包含し、該第一選択療法は、本発明のCAR T細胞をそれを必要とする患者に投与することを含む。本発明の治療レジメンによって、T細胞輸注後の患者において可溶性因子プロファイルを評価することによる癌およびその治療の管理が可能になる。適切な第二選択療法は、第一選択療法に起因する可溶性因子の亢進したレベルを低減させるために、適切な可溶性因子インヒビターを患者に投与することを含む。場合によっては、適切な第二選択療法は、第一選択療法に起因する可溶性因子の抑制されたレベルを増加させるために、適切な可溶性因子アクチベーターを患者に投与することを含む。
【0085】
1つの態様において、適切な第二選択療法は、第一選択療法に起因するサイトカインの亢進したレベルを低減させるために、適切なサイトカインインヒビターを患者に投与することを含む。場合によっては、適切な第二選択療法は、第一選択療法に起因するサイトカインの抑制されたレベルを増加させるために、適切なサイトカインアクチベーターを患者に投与することを含む。
【0086】
1つの態様において、異なるレベルは、正常または対照細胞、所定の患者集団、または内部対照の発現レベルと比較した、過剰発現(高発現)または過小発現(低発現)である。いくつかの態様において、レベルは、患者と正常個体との間で、患者のT細胞輸注後とT細胞輸注前との間で、または患者のT細胞輸注後の第1の時点と第2の時点との間で比較される。
【0087】
1つの態様において、本発明は、サイトカインレベルを制御して正常なレベルに戻す目的で患者に適用されるべきサイトカイン療法の種類を決定するために、T細胞輸注後の患者において、1つまたは複数のサイトカインの異なるレベルを評価してサイトカインプロファイルを作製する段階を含む。したがって、本発明は、患者において本発明のCAR T細胞の存在の結果として亢進したサイトカインレベルを特定するために適用されてもよく、それにより、サイトカインの亢進したレベルを減少させるためのサイトカインインヒビターでの患者の特化した治療が可能になる。もう1つの態様において、本発明は、患者において本発明のCAR T細胞の存在の結果として減少したサイトカインレベルを特定するために適用されてもよく、それにより、サイトカインの漸減したレベルを増加させるためのサイトカインアクチベーターでの患者の特化した治療が可能になる。
【0088】
1つの態様において、CAR T細胞輸注を受けた結果として亢進しているサイトカインレベルは、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、IL-1Ra、IL-2R、IFN-α、IFN-γ、MIP-1α、MIP-1β、MCP-1、TNFα、GM-CSF、G-CSF、CXCL9、CXCL10、CXCR因子、VEGF、RANTES、エオタキシン、EGF、HGF、FGF-β、CD40、CD40L、フェリチンなどを非限定的に含む。しかしながら、本発明は、これらの列挙されたサイトカインに限定されるべきではない。むしろ、本発明は、CAR T細胞輸注を受けた結果として患者において亢進していると同定された任意のサイトカインを含む。
【0089】
1つの態様において、CAR T細胞輸注を受けた結果として減少しているサイトカインレベルは、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、IL-1Ra、IL-2R、IFN-α、IFN-γ、MIP-1α、MIP-1β、MCP-1、TNFα、GM-CSF、G-CSF、CXCL9、CXCL10、CXCR因子、VEGF、RANTES、エオタキシン、EGF、HGF、FGF-β、CD40、CD40L、フェリチンなどを非限定的に含む。しかしながら、本発明は、これらの列挙されたサイトカインに限定されるべきではない。むしろ、本発明は、CAR T細胞輸注を受けた結果として患者において減少していると同定された任意のサイトカインを含む。
【0090】
サイトカインの検出およびその治療
この節は、第二選択療法の一部としてのサイトカインの検出およびその治療を記載するが、本発明は、第二選択療法の一部として任意の可溶性因子の検出およびその治療を包含する。したがって、「サイトカイン」の文脈における記載は、「可溶性因子」に同じように適用することができる。
【0091】
1つの態様において、第二選択療法の一部として、本発明は、本発明のCAR T細胞の輸注を受けた患者においてサイトカインのレベルを検出する方法を含む。いくつかの態様において、サイトカインの存在またはレベルを、候補となる治療を選択するために用いることができる。いくつかの他の態様において、サイトカインの存在またはレベルを、第一選択、第二選択、または第一選択と第二選択の両方の療法の過程中または治療後に、成功を判定するために用いることができる。
【0092】
サイトカインを検出することができる生物試料には、例えば、血清が含まれる。いくつかの態様において、生物試料には、液体成分を有しても有しなくてもよい組織生検材料が含まれる。
【0093】
免疫アッセイを、生物試料におけるサイトカインレベルを定性的にまたは定量的に解析するために用いることができる。適用可能な技術の一般的な概説を、容易に入手可能な数多くのマニュアル、例えば、Harlow & Lane, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Using Antibodies: A Laboratory Manual (1999)に見出すことができる。
【0094】
患者由来の生物試料においてサイトカインのレベルを検出するために免疫アッセイを用いることに加えて、サイトカイン発現およびレベルの評価を、特定のサイトカインの遺伝子発現のレベルに基づいて行うことができる。mRNA発現の存在および/またはレベルを測定するためのRNAハイブリダイゼーション技術は、当業者に周知であり、関心対象のサイトカインの遺伝子発現の存在またはレベルを評価するために用いることができる。
【0095】
いくつかの態様において、本発明の方法は、生物試料におけるサイトカインの存在を特定するためまたはそのレベルを測定するために、サイトカインの選択的結合パートナーを利用する。本発明の方法およびキットで用いられる選択的結合パートナーは、例えば、抗体であることができる。いくつかの局面において、特定のサイトカインに対するモノクローナル抗体を用いることができる。いくつかの他の局面において、特定のサイトカインに対するポリクローナル抗体を、本発明の方法を実施するためおよびキットにおいて使用することができる。
【0096】
サイトカインに対する市販の抗体が利用可能であり、本発明の方法およびキットで用いることができる。用いられる抗体の種類、供給源、および他の局面は、抗体が用いられるアッセイに照らして考慮すべきであることが、当業者に周知である。場合によっては、ウエスタンブロット上で抗原標的を認識する抗体は、ELISAまたはELISpotアッセイに適用可能ではない可能性があり、逆もまた同様である。
【0097】
いくつかの態様において、本発明のアッセイに用いられる抗体は、当技術分野において周知であるモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を産生する技術を用いて、産生することができる(例えば、Coligan, Current Protocols in Immunology (1991);Harlow & Lane、上記;Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (2d ed. 1986);およびKohler & Milstein, Nature 256:495-497 (1975)を参照されたい)。そのような技術には、ファージベクターまたは同様のベクターにおける組換え抗体のライブラリーからの抗体の選択による抗体調製、ならびに、ウサギまたはマウスを免疫化することによるポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の調製が含まれる(例えば、Huse et al., Science 246:1275-1281 (1989);Ward et al., Nature 341:544-546 (1989)を参照されたい)。そのような抗体を、例えば、本明細書に記載の特異的なサイトカイン関連の疾患または病状の任意の治療および/または検出において、治療的および診断的な適用のために用いることができる。
【0098】
免疫アッセイを使用する検出法は、患者のポイントオブケアの実施に特に適している。そのような方法により、患者の即時の診断および/または予後評価が可能になる。ポイントオブケア診断システムは、例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,267,722号に記載されている。生物試料の評価を、試料を評価のために検査室に送る必要なく行うことができるような他の免疫アッセイ形式もまた、利用可能である。典型的には、これらのアッセイは、試薬、例えば抗体がサイトカインを検出するために用いられる固体アッセイとして形式化されている。本発明のアッセイなどの免疫アッセイでの使用に適している例示的な試験装置は、例えば、米国特許第7,189,522号;第6,818,455号および第6,656,745号に記載されている。
【0099】
いくつかの局面において、本発明は、生物試料におけるサイトカインをコードするポリヌクレオチド配列の検出のための方法を提供する。上述したように、「生物試料」とは、患者由来の細胞または細胞の集団またはある量の組織もしくは体液を指す。ほとんどの場合、試料は患者から取り出されているが、「生物試料」という用語はまた、インビボで、すなわち患者から取り出すことなく解析される細胞または組織も指すことができる。典型的には、「生物試料」は、患者由来の細胞を含有すると考えられるが、この用語はまた、非細胞性生物材料も指すことができる。
【0100】
1つの態様において、増幅ベースのアッセイが、所望のサイトカインのレベルを測定するために用いられる。そのようなアッセイにおいて、所望のサイトカインの核酸配列は、増幅反応(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、すなわちPCR)における鋳型として機能する。定量的増幅において、増幅産物の量は、元の試料中の鋳型の量に比例すると考えられる。適切な対照との比較により、サイトカイン関連遺伝子のコピー数の測定が提供される。定量的増幅の方法は、当業者に周知である。定量的PCRについての詳細なプロトコールは、例えば、Innis et al. (1990) PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, Academic Press, Inc. N.Y.に提供されている。RT-PCR法は、当業者に周知である(例えば、上記のAusubel et al.を参照されたい)。いくつかの態様において、定量的RT-PCR、例えばTaqMan(商標)アッセイが用いられ、それにより、試料中のmRNAのレベルの、対照試料または値との比較が可能になる。所望のサイトカインについての公知の核酸配列が、当業者が遺伝子の任意の部分を増幅するプライマーを日常的に選択することを可能にするのに十分である。特異的な配列の増幅に適しているプライマーは、当技術分野において周知である原理を用いて設計することができる(例えば、Dieffenfach & Dveksler, PCR Primer: A Laboratory Manual (1995)を参照されたい)。
【0101】
いくつかの態様において、ハイブリダイゼーションベースのアッセイを、生物試料の細胞において所望のサイトカインの量を検出するために用いることができる。そのようなアッセイには、RNAのドットブロットアッセイおよび他のアッセイ、例えば、細胞を含む試料上で行われる蛍光インサイチュハイブリダイゼーションが含まれる。他のハイブリダイゼーションアッセイが、当技術分野において容易に利用可能である。
【0102】
本発明の数多くの態様において、サイトカインのポリヌクレオチドまたはポリペプチドのレベルおよび/または存在を、生物試料において検出し、それにより、サイトカインの差次的な発現を検出して、対照生物試料と比較した、本発明のCAR T細胞を輸注した患者に由来する生物試料からのサイトカインプロファイルを作製する。
【0103】
生物試料において検出されるサイトカインのポリヌクレオチドまたはポリペプチドの量は、適切なサイトカイン治療のために患者を分類する目的でサイトカインプロファイルを作製するための、サイトカインの存在を示す。例えば、サイトカインプロファイルが、対照(例えば、T細胞輸注前)と比較してT細胞輸注後に特定のサイトカインの増加を示す場合、当業者は、有効量のサイトカイン阻害化合物を、そのような管理を必要とする患者に投与することを選択可能である。あるいは、サイトカインプロファイルが、対照(例えば、T細胞輸注前)と比較してT細胞輸注後に特定のサイトカインの減少を示す場合、当業者は、有効量のサイトカインアクチベーター化合物を、そのような管理を必要とする患者に投与することを選択可能である。
【0104】
いくつかの態様において、T細胞輸注後の試料と対照試料との間のサイトカインレベルの違いは、少なくとも約0.5、1.0、1.5、2、5、10、100、200、500、1000倍である。
【0105】
本方法はまた、治療の過程の有効性を評価するために用いることもできる。例えば、サイトカインIL-6の亢進した量を含有するT細胞輸注後の患者において、抗IL-6治療の有効性を、経時的なIL-6のモニタリングにより評価することができる。例えば、治療の前または初期の哺乳動物から採取した試料におけるレベルと比較した、治療後の患者から採取した生物試料におけるIL-6ポリヌクレオチドまたはポリペプチドレベルの低減は、効果的な治療を示す。
【0106】
1つの態様において、治療レジメンは、亢進したサイトカインの中和に基づくことができる。例えば、サイトカインのアンタゴニストを、治療のために選択することができる。抗体は、適当なアンタゴニストの例であり、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体、またはこれらのフラグメントを含む。キメラ抗体は、軽鎖および重鎖の遺伝子が、典型的には遺伝子操作により、異なる種に属する免疫グロブリン遺伝子セグメントから構築されている抗体である(例えば、Boyce et al., Annals of Oncology 14:520-535 (2003)を参照されたい)。例えば、マウスモノクローナル抗体由来の遺伝子の可変(V)セグメントが、ヒト定常(C)セグメントと連結されていてもよい。したがって、典型的なキメラ抗体は、マウス抗体由来のVすなわち抗原結合ドメイン、およびヒト抗体由来のCすなわちエフェクター領域からなるハイブリッドタンパク質である。
【0107】
ヒト化抗体は、実質的にヒト抗体(アクセプター抗体と称される)由来の可変領域フレームワーク残基、および実質的にマウス抗体(ドナー免疫グロブリンと呼ばれる)由来の相補性決定領域を有する。Queen et al., Proc. NatL. Acad. Sci. USA 86:10029-10033 (1989)および国際公開公報第90/07861号、米国特許第5,693,762号、米国特許第5,693,761号、米国特許第5,585,089号、米国特許第5,530,101号、およびWinterの米国特許第5,225,539号を参照されたい。定常領域はまた、存在する場合、実質的にまたは全体的にヒト免疫グロブリン由来である。抗体は、供給源の中でとりわけ、従来のハイブリドーマアプローチ、ファージディスプレイ(例えば、Dower et al.、国際公開公報第91/17271号およびMcCafferty et al.、国際公開公報第92/01047号を参照されたい)、ヒト免疫系を有するトランスジェニックマウスの使用(Lonberg et al.、国際公開公報第93/12227号 (1993))により取得することができる。免疫グロブリン鎖をコードする核酸は、抗体を産生するハイブリドーマもしくは細胞株から、または刊行されている文献中の免疫グロブリンの核酸もしくはアミノ酸配列に基づいて取得することができる。
【0108】
所望のサイトカインの他のアンタゴニストもまた、治療目的で用いることができる。例えば、本発明の目的で用いることができるアンタゴニストのクラスは、サイトカインに対する受容体の可溶型である。単なる例証目的として、IL-6アンタゴニストは、IL-6に特異的に結合する抗IL-6抗体である。特異抗体は、全身的にIL-6の作用を阻害または拮抗する能力を有する。いくつかの態様において、抗体は、IL-6に結合し、その受容体(例えば、IL-6RαまたはIL-6Rβ)と相互作用することまたは活性化することを妨げる。いくつかの態様において、IL-6の活性は、インターロイキン-6受容体(IL-6R)に対するアンタゴニストを用いることにより、拮抗することができる。米国特許出願番号第2006251653号は、インターロイキン-6関連疾患を治療するための方法を記載しており、例えば、ヒト化抗IL-6R抗体およびキメラ抗IL-6R抗体を含む数多くのインターロイキン-6アンタゴニストを開示している。いくつかの態様において、IL-6またはIL-6Rの誘導体を、IL-6/IL-6R間の相互作用を遮断および拮抗するために用いることができる。
【0109】
本発明は、本明細書に記載のサイトカインならびにその対応するアクチベーターおよびインヒビターに限定されない。むしろ、本発明は、サイトカインをモジュレートするために当技術分野において用いられる任意のサイトカインアクチベーターおよび/またはインヒビターの使用を含む。これは、本発明が、本発明のCAR T細胞の輸注を受けた患者において癌の治療を管理することに基づいており、この輸注されたCAR T細胞が、種々のサイトカインのレベルの増加および減少をもたらすためである。当業者は、本明細書に提示された開示に基づいて、対照試料と比較したT細胞輸注後試料におけるサイトカインの差次的な発現レベルを、増加または減少したサイトカインレベルを正常レベルにするための治療の標的とすることができる。
【0110】
治療適用
本発明は、レンチウイルスベクター(LV)を形質導入された細胞(例えば、T細胞)を包含する。例えばLVは、特異的抗体の抗原認識ドメインを、CD3-ζ、CD28、4-1BBの細胞内ドメインまたはこれらの任意の組み合わせと組み合わせたCARをコードする。このため、場合によっては、形質導入されたT細胞は、CARにより媒介されるT細胞応答を誘発することができる。
【0111】
本発明は、一次T細胞の特異性を腫瘍抗原に向けて再誘導するためのCARの使用を提供する。したがって、本発明はまた、哺乳動物において標的細胞集団または組織に対するT細胞媒介性免疫応答を刺激するための方法であって、CARを発現するT細胞を哺乳動物に投与する段階を含み、該CARが、所定の標的と特異的に相互作用する結合モイエティー、例えばヒトCD3ζの細胞内ドメインを含むζ鎖部分、および共刺激シグナル伝達領域を含む、方法を提供する。
【0112】
1つの態様において、本発明は、CARを発現するようにT細胞を遺伝子改変し、そのCAR T細胞をそれを必要とするレシピエントに輸注する、一種の細胞療法を含む。輸注された細胞は、レシピエントにおける腫瘍細胞を死滅させることができる。抗体療法とは異なり、CAR T細胞はインビボで複製して、持続的腫瘍制御につながりうる長期存続性をもたらすことができる。
【0113】
1つの態様において、本発明のCAR T細胞は、強固なインビボT細胞増大を起こすことができ、より延長した時間にわたって存続することができる。もう1つの態様において、本発明のCAR T細胞は、あらゆる追加的な腫瘍形成または増殖を阻害するように再活性化されうる、特異的なメモリーT細胞になることができる。例えば、本発明のCAR T19細胞が強固なインビボT細胞増大を起こすことができ、かつ血液および骨髄中で長時間にわたって高レベルで存続することができ、かつ特異的なメモリーT細胞を形成することができることは、予想外であった。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、CAR T細胞は、インビボでサロゲート抗原を発現する標的細胞に遭遇するとセントラルメモリー様状態に分化することができ、その後にそれを排除することができる。
【0114】
いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、CAR改変T細胞によって誘発される抗腫瘍免疫応答は、能動的な免疫応答でも受動的な免疫応答でもありうる。加えて、CARにより媒介される免疫応答は、CAR改変T細胞がCARにおける抗原結合モイエティーに対して特異的な免疫応答を誘導する養子免疫療法アプローチの一部となりうる。例えば、CAR T19細胞は、CD19を発現する細胞に対して特異的な免疫応答を誘発する。
【0115】
本明細書に開示されたデータは、FMC63マウスモノクローナル抗体に由来する抗CD19 scFv、ヒトCD8αのヒンジおよび膜貫通ドメイン、ならびにヒト4-1BBおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインを含むレンチウイルスベクターを具体的に開示しているが、本発明は、本明細書中の別所に記載されたような構築物の構成要素のそれぞれに関してあらゆるさまざまな変形物を含むとみなされるべきである。すなわち、本発明は、抗原結合モイエティーに対して特異的な、CARにより媒介されるT細胞応答を生じさせるための、CARにおける任意の抗原結合モイエティーの使用を含む。例えば、本発明のCARにおける抗原結合モイエティーは、癌の治療を目的として腫瘍抗原を標的とすることができる。
【0116】
治療しうる可能性のある癌には、血管が発達していないか、またはまだ実質的に血管が発達していない腫瘍、ならびに血管が発達した腫瘍が含まれる。癌は非固形腫瘍(血液腫瘍、例えば、白血病およびリンパ腫)を含んでもよく、または固形腫瘍を含んでもよい。本発明のCARを用いて治療される癌の種類には、癌腫、芽細胞腫および肉腫、ある種の白血病またはリンパ性悪性腫瘍、良性および悪性腫瘍、ならびに悪性腫瘍、例えば、肉腫、癌腫および黒色腫が非限定的に含まれる。成人腫瘍/癌および小児腫瘍/癌も含められる。
【0117】
血液悪性腫瘍は、血液または骨髄の癌である。血液(または造血器)悪性腫瘍の例には、白血病、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄急性白血病、急性骨髄性白血病、ならびに骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性の白血病および赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病および慢性リンパ性白血病など)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無症候型およびハイグレード型)、多発性骨髄腫、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、毛様細胞白血病および骨髄異形成が含まれる。
【0118】
固形腫瘍とは、通常は嚢胞も液体領域も含まない組織の異常腫瘤のことである。固形腫瘍は良性のことも悪性のこともある。さまざまな種類の固形腫瘍が、それを形成する細胞の種類によって名付けられている(肉腫、癌腫およびリンパ腫など)。肉腫および癌腫などの固形腫瘍の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫および他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ性悪性腫瘍、膵癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞種 皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱癌、黒色腫、ならびにCNS腫瘍(神経膠腫(脳幹神経膠腫および混合神経膠腫など)、神経膠芽細胞腫(多形性神経膠芽細胞腫としても知られる)、星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起細胞腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫および脳転移など)が含まれる。
【0119】
1つの態様において、本発明のCARのモイエティー部分と結合する抗原は、特定の癌を治療するように設計される。例えば、CD19を標的とするように設計されたCARを、プレB ALL(小児適応)、成人ALL、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、同種骨髄移植後サルベージなどを非限定的に含む癌および障害を治療するために用いることができる。
【0120】
もう1つの態様において、CARを、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を治療するために、CD22を標的とするように設計することができる。
【0121】
1つの態様において、CD19、CD20、CD22およびROR1を標的とするCARの組み合わせを用いて治療しうる癌および障害には、プレB ALL(小児適応)、成人ALL、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、同種骨髄移植後サルベージなどが非限定的に含まれる。
【0122】
1つの態様において、CARを、中皮腫、膵癌、卵巣癌などを治療するために、メソテリンを標的とするように設計することができる。
【0123】
1つの態様において、CARを、急性骨髄性白血病などを治療するために、標的CD33/IL3Raを標的とするように設計することができる。
【0124】
1つの態様において、CARを、トリプルネガティブ乳癌、非小細胞肺癌などを治療するために、c-Metを標的とするように設計することができる。
【0125】
1つの態様において、CARを、前立腺癌などを治療するために、PSMAを標的とするように設計することができる。
【0126】
1つの態様において、CARを、前立腺癌などを治療するために、糖脂質F77を標的とするように設計することができる。
【0127】
1つの態様において、CARを、神経膠芽細胞腫(gliobastoma)などを治療するために、EGFRvIIIを標的とするように設計することができる。
【0128】
1つの態様において、CARを、神経芽細胞腫、黒色腫などを治療するために、GD-2を標的とするように設計することができる。
【0129】
1つの態様において、CARを、骨髄腫、肉腫、黒色腫などを治療するために、NY-ESO-1 TCRを標的とするように設計することができる。
【0130】
1つの態様において、CARを、骨髄腫、肉腫、黒色腫などを治療するために、MAGE A3 TCRを標的とするように設計することができる。
【0131】
しかし、本発明は、本明細書に開示された抗原標的および疾患のみに限定されるとみなされるべきではない。むしろ本発明は、疾患を治療するためにCARを用いうる疾患と関連するあらゆる抗原標的を含むとみなされるべきである。
【0132】
本発明のCAR改変T細胞はまた、哺乳動物におけるエクスビボ免疫処置および/またはインビボ治療法のためのワクチンの一種としても役立つことができる。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0133】
エクスビボ免疫処置に関しては、細胞を哺乳動物に投与する前に、以下の少なくとも1つをインビトロで行う:(i)細胞の増大、(ii)CARをコードする核酸を細胞に導入すること、および/または(iii)細胞の凍結保存。
【0134】
エクスビボ手順は当技術分野において周知であり、以下でより詳細に考察する。手短に述べると、細胞を哺乳動物(好ましくはヒト)から単離した上で、本明細書で開示されたCARを発現するベクターによって遺伝子改変する(すなわち、インビトロで形質導入またはトランスフェクトを行う)。CAR改変細胞を哺乳動物レシピエントに投与することにより、治療的利益を得ることができる。哺乳動物レシピエントはヒトであってよく、CAR改変細胞はレシピエントに対して自己であることができる。または、細胞がレシピエントに対して同種、同系または異種であることもできる。
【0135】
造血幹細胞および始原細胞のエクスビボ増大のための手順は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,199,942号に記載されており、これを本発明の細胞に適用することができる。他の適した方法は当技術分野において公知であり、このため、本発明は、エクスビボ細胞の増大のいかなる特定の方法にも限定されない。手短に述べると、T細胞のエクスビボ培養および増大は以下を含む:(1)CD34+造血幹細胞および始原細胞を哺乳動物から、末梢血採取物または骨髄エクスプラントから収集すること;ならびに(2)そのような細胞をエクスビボで増大させること。米国特許第5,199,942号に記載された細胞増殖因子のほかに、flt3-L、IL-1、IL-3およびc-kitリガンドなどの他の因子を、細胞の培養および増大のために用いることができる。
【0136】
エクスビボ免疫処置に関して細胞ベースのワクチンを用いることに加えて、本発明はまた、患者における抗原に向けての免疫応答を誘発するためのインビボ免疫処置のための組成物および方法も提供する。
【0137】
一般に、本明細書に記載の通りに活性化および増大された細胞は、免疫機能が低下した個体において生じる疾患の治療および予防に利用することができる。特に、本発明のCAR改変T細胞は、CCLの治療に用いられる。ある態様において、本発明の細胞は、CCLを発症するリスクのある患者の治療に用いられる。したがって、本発明は、CCLの治療または予防のための方法であって、それを必要とする対象に対して、本発明のCAR改変T細胞の治療的有効量を投与する段階を含む方法を提供する。
【0138】
本発明のCAR改変T細胞は、単独で、または希釈剤および/またはIL-2もしくは他のサイトカインもしくは細胞集団などの他の成分と組み合わせた薬学的組成物として投与することができる。手短に述べると、本発明の薬学的組成物は、本明細書に記載の標的細胞集団を、1つまたは複数の薬学的または生理的に許容される担体、希釈剤または添加剤と組み合わせて含みうる。そのような組成物は、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水などの緩衝液;ブドウ糖、マンノース、ショ糖またはデキストラン、マンニトールのような炭水化物;タンパク質;ポリペプチドまたはグリシンのようなアミノ酸;酸化防止剤;EDTAまたはグルタチオンのようなキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);並びに保存剤を含有してもよい。本発明の組成物は、静脈内投与用に製剤されることが好ましい。
【0139】
本発明の薬学的組成物は、治療(または予防)される疾患に適した方法で投与することができる。投与量および投与回数は、患者の状態、並びに患者の疾患の種類および重症度などの因子により決定されるが、適量は臨床試験により決定され得る。
【0140】
「免疫学的有効量」、「抗腫瘍的有効量」、「腫瘍阻害的有効量」または「治療量」が指示される場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、年齢、体重、腫瘍サイズ、感染症または転移の程度、および患者(対象)の状態の個体差を考慮して、医師が決定することができる。一般に、本明細書に記載のT細胞を含む薬学的組成物は、細胞10
4〜10
9個/kg体重、好ましくは細胞10
5〜10
6個/kg体重であって、これらの範囲内のすべての整数値を含む投与量で投与することができる。また、T細胞組成物をこれらの用量で多回投与することもできる。細胞は、免疫療法において一般的に公知である輸注手法を用いることによって投与することができる(例えば、Rosenberg et al., New Eng. J. of Med. 319:1676, 1988を参照)。特定の患者に関する最適な投与量および治療レジメンは、疾患の徴候に関して患者をモニタリングして、それに応じて治療を調節することによって、医療の当業者によって容易に決定されうる。
【0141】
ある態様においては、活性化されたT細胞を対象に投与し、続いてその後に血液を再び採取して(またはアフェレーシスを行って)、それ由来のT細胞を本発明に従って活性化した上で、これらの活性化および増大されたT細胞を患者に再び輸注することが望まれると考えられる。この過程を2、3週毎に複数回行うことができる。ある態様において、T細胞は10cc〜400ccの採取血から活性化させることができる。ある態様において、T細胞は20cc、30cc、40cc、50cc、60cc、70cc、80cc、90ccまたは100ccの採取血から再活性化される。理論に拘束されるわけではないが、この複数回の採血/複数回の再輸注プロトコールを用いることは、T細胞のある特定の集団を選別するために役立つ可能性がある。
【0142】
本組成物の投与は、エアゾール吸引、注射、経口摂取、輸液、植え付けまたは移植を含む、任意の好都合な様式で実施することができる。本明細書に記載された組成物は、患者に対して、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内、静脈内(i.v.)注射により、または腹腔内に投与することができる。1つの態様において、本発明のT細胞組成物は、患者に対して、皮内注射または皮下注射によって投与される。もう1つの態様において、本発明のT細胞組成物は、好ましくは静脈内注射によって投与される。T細胞の組成物を腫瘍内、リンパ節内または感染部位に直接注射してもよい。
【0143】
本発明のある態様においては、本明細書に記載の方法、またはT細胞を治療的レベルまで増大させることが当技術分野において公知である他の方法を用いて活性化および増大された細胞を、MS患者に対する抗ウイルス療法、シドホビルおよびインターロイキン-2、シタラビン(ARA-Cとしても公知)もしくはナタリズマブ治療、乾癬患者に対するエファリズマブ治療、またはPML患者に対する他の治療などの薬剤による治療を非限定的に含む、任意のさまざまな妥当な治療様式とともに(例えば、前に、同時に、または後に)患者に投与する。さらなる態様において、本発明のT細胞を、化学療法、放射線照射、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノレートおよびFK506など、抗体、またはCAMPATHなどの他の免疫除去薬、抗CD3抗体または他の抗体療法、サイトキシン、フルダリビン、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、および照射と組み合わせて用いてもよい。これらの薬物は、カルシウム依存型ホスファターゼのカルシニューリンを阻害するか(シクロスポリンおよびFK506)、または増殖因子が誘導したシグナル伝達に重要であるp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)かのいずれかである(Liu et al., Cell, 66:807-815, 1991;Henderson et al., Immun., 73:316-321, 1991;Bierer et al., Curr. Opin. Immun. 5:763-773, 1993)。1つのさらなる態様において、本発明の細胞組成物は、骨髄移植、フルダラビンなどの化学療法薬、外部ビーム照射(XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体のいずれかを用いるT細胞除去療法と組み合わせて(例えば、その前、同時またはその後に)、患者に投与される。もう1つの態様において、本発明の細胞組成物は、CD20と反応する薬剤、例えばリツキサンなどによるB細胞除去療法の後に投与される。例えば、1つの態様において、対象は、高用量の化学療法薬に続いて末梢血幹細胞移植を行う標準治療を受けることができる。ある態様においては、移植後に、対象は本発明の増大された免疫細胞の輸注を受ける。1つの追加的な態様において、増大された細胞は、手術の前または後に投与される。
【0144】
患者に投与される上記の治療の投与量は、治療される病状および治療のレシピエントの正確な性質に応じて異なると考えられる。ヒトへの投与に関する投与量の増減は、当技術分野において許容される実践に従って行うことができる。例えば、CAMPATHの用量は、一般に成人患者について1〜約100mgの範囲であり、通常は1〜30日の期間にわたって毎日投与される。好ましい一日量は1〜10mg/日であるが、場合によっては、最大40mg/日までのより多くの用量を用いることもできる(米国特許第6,120,766号に記載)。
【0145】
サイトカイン放出症候群(CRS)の治療
本発明は、CART19細胞のインビボ増殖およびそれに関連する強力な抗腫瘍活性がまた、マクロファージ活性化症候群(MAS)とも呼ばれる血球貪食性リンパ組織球増多症(HLH)をもたらすCRSとも関連するという発見に一部基づく。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、MAS/HLHは、CART19の強力な抗腫瘍活性と関連する固有のバイオマーカーであり、かつCART19の強力な抗腫瘍活性に必要とされ得ると考えられる。
【0146】
したがって、本発明は、本発明のCARを患者に投与することを含む第一選択療法、および、CAR T細胞を用いる第一選択療法に起因するある特定の可溶性因子の亢進したレベルを管理するためにある種類の療法を施すことを含む第二選択療法を提供する。
【0147】
1つの態様において、第二選択療法は、CRSの治療のための組成物および方法を含む。CRSの症状には、高熱、悪心、一過性低血圧、低酸素症などが含まれる。本発明は、CART19細胞が、患者においてIFN-γ、TNFα、IL-2、およびIL-6を非限定的に含む可溶性因子の亢進したレベルを誘導したという観察に基づく。したがって、第二選択療法は、CART19細胞の投与に起因する亢進したサイトカインに対して影響を中和するための化合物および方法を含む。1つの態様において、中和作用物質は、サイトカインの発現/活性の望ましくない協奏的バーストを打ち消すことができ、したがって、CART19療法と関連性のあるCRSの予防、改善、および治療のために有用である。
【0148】
1つの態様において、CRSの治療は、CART19細胞の輸注後第10日〜第12日頃に行われる。
【0149】
1つの態様において、第二選択療法は、ステロイドを患者に投与することを含む。別の態様において、第二選択療法は、ステロイド、TNFαのインヒビター、およびIL-6のインヒビターのうちの1つまたは複数を投与することを含む。TNFαインヒビターの例は、エタネルセプトである。IL-6インヒビターの例は、トシリズマブ(toc)である。
【実施例】
【0150】
実験例
ここで本発明を、以下の実験例を参照しながら説明する。これらの例は例示のみを目的として提供されるものであり、本発明はこれらの例に限定されるとは全くみなされるべきではなく、本明細書で提供される教示の結果として明らかになる任意かつすべての変更も包含するとみなされるべきである。
【0151】
それ以上の説明がなくても、当業者は、前記の説明および以下の例示的な例を用いて、本発明の化合物を作成して利用し、請求される方法を実施することができる。以下の実施例は、このため、本発明の好ましい態様を具体的に指摘しており、本開示の残りを限定するものとは全くみなされるべきでない。
【0152】
実施例1:CAR T細胞輸注と組み合わせたサイトカイン療法
本明細書に提示された結果は、CAR T細胞の輸注後の患者が種々のサイトカインの差次的な発現レベルを呈することを明示している。場合によっては、いくつかのサイトカインの亢進したレベルは、輸注されたCAR T細胞の毒性の結果である(
図1)。2人の患者のうち2人において、トシリズマブ(抗IL-6)がCARの毒性を改善でき、かつ外見上抗腫瘍効果を保存できることが観察された(
図2)。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、IL-1を遮断するアナキンラ(anakinra)および他の試薬もまた、この点で有用であり得ると考えられる。本明細書に提示されたデータはまた、IL-1が患者において亢進しており、これが後のIL-6の上昇をもたらし得ることも明示している。アナキンラは、IL1受容体に結合し、IL-1αおよびβの両方のシグナル伝達を遮断するIL-1Ra組換えタンパク質である。アナキンラは、短い半減期を有する。IL-1αおよびβの両方が遮断されるため、アナキンラを用いて患者の治療を始め、またサイトカインストームを軽減しかつ抗腫瘍効果を保つことには利点がある。
【0153】
パーフォリンおよびIFN-γにより測定されたように、抗体の介入はCART19細胞の機能性に影響を及ぼさなかったこともまた、観察された(
図3)。
【0154】
実施例2:CD19に再方向付けされたキメラ抗原受容体T(CART19)細胞はサイトカイン放出症候群(CRS)および治療可能なマクロファージ活性化症候群(MAS)の誘導を引き起こし、それらはIL-6アンタゴニストであるトシリズマブ(toc)により管理することができる
CART19細胞の輸注により、B細胞腫瘍を有する患者において、100〜100,000倍のインビボ増殖、長続きする抗腫瘍活性が続く腫瘍崩壊症候群、および長期間にわたる存続性がもたらされる。本明細書に提示された結果は、CART19細胞のインビボ増殖およびそれに由来する強力な抗腫瘍活性が、MASとも呼ばれる血球貪食性リンパ組織球増多症(HLH)をもたらすCRSと関連性があることを明示している。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、MAS/HLHは、強力な抗腫瘍活性と関連する固有のバイオマーカーであり、かつ強力な抗腫瘍活性に必要とされ得ると考えられる。
【0155】
自己T細胞に、抗CD19 scFv/4-1BB/CD3-ζから構成されるCARをレンチウイルスによって形質導入し、抗CD3/抗CD28ビーズでエクスビボで活性化/増大させ、その後、2〜8回の事前の治療後に存続する疾患を有するALLまたはCLL患者に輸注した。CART19の抗ALL活性をまた、高レベルのヒトALL/ヒトT細胞移植物を有する異種移植マウスモデルにおいて模擬実験し、2色の生物発光画像法を用いてCAR T細胞およびALLを同時に検出した。
【0156】
本明細書に提示された結果は、CART19細胞を受けた、CLLを有する9人の患者および再発性の不応性ALLを有する1人の小児患者を含む10人の患者の最新の結果を提供する。6/9の評価可能患者は、完全回復(CR)または部分回復(PR)し、4人の持続性CRが含まれた。急性の輸注毒性はなかったが、すべての応答患者はまた、CRSも発症した。すべての人が、高熱、およびグレード3または4の低血圧/低酸素症を有した。CRSは、CART19細胞のピークの血中発現に先行し、その後、CART19細胞のピーク(輸注後第10日〜第31日)まで強度が増大した。ALL患者は、グレード4の低血圧および呼吸不全を伴う最も有意な毒性を経験した。第6日のステロイド療法は、改善をもたらさなかった。第9日に、高レベルのTNFαおよびIL-6に注目して(ベースラインを上回るピーク増加:IFNγは6040倍;IL-6は988倍;IL-2Rは56倍、IL-2は163倍、およびTNFαは17倍)、TNFαおよびIL-6のアンタゴニスト(エタネルセプトおよびtoc)を投与した。これにより、12時間以内に熱および低血圧の消散がもたらされ、人工呼吸器の補助を迅速に外して室内の空気にすることができた。これらの介入は、CART19細胞の増大または有効性に明らかな影響は及ぼさなかった:CAR T細胞のピーク(2539 CAR+細胞/uL;フローによりCD3細胞の77%)は第11日に起こり、第23日の骨髄は、65%の芽球を示した最初の研究時の骨髄と比較して、陰性の微小残存病変(MRD)を有するCRを示した。彼女はCNS ALLの病歴を持っていなかったが、脊髄液には検出可能なCART19細胞(21 リンパ球/mcL;78% CAR+)が示された。輸注後4か月で、この患者はCRのままであり、血中に17 CART19細胞/uL、および骨髄中に31% CAR+ CD3細胞を有していた。
【0157】
その後の応答患者の臨床評価により、すべての人が、フェリチンの劇的な亢進を含むMAS/HLHの証拠、およびHLHの組織学的証拠を有したことが示されている。ピークのフェリチンレベルは、44,000〜605,000にわたり、ピークのT細胞増殖に先行しかつ継続する。他の一致した知見には、疾患に無関係の肝脾腫大症の急速な発症および中等度のDICが含まれる。
【0158】
続いて、3人のCLL患者もtocで治療し、同じく高熱、低血圧、および低酸素症の即座のかつ著しい消散がみられた。1人の患者は、第10日にtocを受け、CART19の増大に伴ってCRを達成した。別の患者は、第9日のtoc投与後にCRSの急速な消散を示し、応答についての経過観察は短すぎる。3人目のCLL患者は、初期の熱のために第3日にtocを受け、CART-19の増殖および応答を示さなかった。
【0159】
サイトカインの遮断のタイミングを模擬実験するために、生物発光初代小児ALLを用いた異種移植を確立し、その後、臨床用生成由来の余分な細胞で治療した。CART19細胞は増殖し、長期間にわたる生存をもたらした。T細胞輸注前のtocおよび/またはエタネルセプトでのサイトカインの遮断は、輸注したCART19細胞のインビボ増殖が少なく疾患制御を無効にし、このことは、初期(第3日)にtocを与えられた1人の患者において見られた結果を裏づけた。
【0160】
CART19 T細胞は、大規模なインビボ増大、長期の存続性、および抗腫瘍有効性を生じることができるが、サイトカイン遮断に迅速に応答するMAS/HLHを示唆する特徴を有する有意なCRSもまた誘導する可能性がある。有意なCART19増殖の開始前に与えられると、TNFαおよび/またはIL-6の遮断は、増殖およびエフェクター機能に干渉し得るが、細胞増殖が進行中である時点で与えられた場合は、tocは、強固な臨床応答と相関することが観察されている症状を改善し得る。
【0161】
実施例3:キメラ抗原受容体発現T細胞によるALLの寛解
本明細書に提示された結果は、CAR T細胞が急性リンパ性白血病(ALL)において臨床活性を有することを明示している。簡潔に言うと、再発性かつ不応性のプレB細胞ALLを有する2人の小児患者を、抗CD19抗体およびT細胞シグナル伝達分子を形質導入した10
6〜10
7/kgのT細胞(CTL019 CAR T細胞;CART19とも呼ばれる)で治療した。CTL019 T細胞は、両方の患者において1000倍より多く増大し、骨髄に輸送された。加えて、CAR T細胞は、血液脳関門を横切ることができ、脳脊髄液において測定されたように少なくとも6か月間、高レベルで存続した。8種の重篤な有害事象が注目された。両方の患者に、サイトカイン放出症候群(CRS)およびB細胞形成不全が現れた。1人の子供においては、CRSが重篤であり、エタネルセプトおよびトシリズマブでのサイトカイン遮断が症状を逆転するのに有効であったが、依然として、CAR T細胞の増大および抗白血病有効性は妨げなかった。完全寛解が両方の患者において観察され、1人の患者においては治療後9か月で続いている。もう1人の患者は、治療後およそ2か月で、もはやCD19を発現していない芽細胞で再発した。
【0162】
本明細書に提示された結果は、CARで改変されたT細胞が、積極的治療不応性の急性白血病細胞でさえもインビボで殺傷できることを明示している。もはや標的を発現していない腫瘍細胞の出現は、ALLを有する一部の患者において、CD19に加えて他の分子を標的とする必要性を示している。
【0163】
CLLを有する3人の患者におけるCTL019(CART19)細胞のインビボ増大および強固な抗白血病効果が、報告されている(Porter et al., 2011, N Engl J Med 365:725-33;Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)。CTL019は、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメインを含むCARであり、レンチウイルスベクター技術を用いて発現されている(Milone et al., 1009, Mol Ther 17:1453-64)。本明細書に提示された結果は、不応性かつ再発性のALLを有する2人の小児患者におけるCTL019の使用を明示している。両方の患者とも、骨髄およびCNSへの輸送と共にインビボでのCTL019の強固な増大を伴う、白血病の寛解を示した。1人の患者は、同種異系ドナー幹細胞移植を阻む化学療法不応性疾患を有しており、もう1人の患者は、同種異系臍帯血移植後に再発し、ブリナツモマブ(blinatumomab)(キメラ二重特異性抗CD3および抗CD19)療法に対して抵抗性であったため、抗白血病効果は強力であった。
【0164】
これらの実験に使用した材料および方法について、以下に説明する。
【0165】
材料および方法
CART19
CTL019(CART19)の産生は、以前に報告されている(Porter et al., 2011, NEngl J Med 365:725-33;Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)。CTL019を、以前に報告されているように、患者検体において検出および定量化した(Porter et al., 2011, N Engl J Med 365:725-33;Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)。
【0166】
試料の採取および処理
試料(末梢血、骨髄)を、ラベンダートップ(K2EDTA)またはレッドトップ(添加物無し)のバキュティナ(vacutainer)チューブ(Bacton Dickinson)中に収集した。ラベンダートップチューブは、採取の2時間以内に検査室に届けるか、または、処理前に、本質的に記載されているように(Olson et al., 2011, J Transl Med 9:26)絶縁性容器において一晩室温で発送した。試料を、確立された検査室標準検査手順(SOP)に従って、受領の30分以内に処理した。記載されているように(Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)、末梢血および骨髄の単核細胞を精製し、処理し、液体窒素中で保存した。レッドトップチューブは、凝固時間を含めて採取の2時間以内に処理し;血清を遠心分離により単離し、一回使用の100μLアリコートに等分し、-80℃で保存した。CSFは、吸引の30分以内に検査室に届け、CSF中の細胞をCSF液の遠心分離により収集し、DNAおよびフローサイトメトリーのために処理した。
【0167】
Q-PCR解析
全血または骨髄試料を、ラベンダートップ(K2EDTA)のBDバキュティナチューブ(Becton Dickinson)中に収集した。ゲノムDNAを、全血から直接単離し、記載されているように(Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)、組み込まれているCD19 CAR導入遺伝子配列を、末梢血および骨髄試料については時点あたり200 ngのゲノムDNA、CSF試料については時点あたり18〜21.7 ngのゲノムDNAを用いて検出するために、ゲノムDNA試料についてのQ-PCR解析を、ABI Taqman技術および確証されたアッセイを用いてバルクで行った。単位DNAあたりのコピー数を測定するために、100 ngの形質導入されていない対照ゲノムDNA中にスパイクした5〜10
6コピーのCTL019レンチウイルスプラスミドからなる8点の標準曲線を作製した。各データ点(試料、標準曲線)を、三連反復試験において評価し、3/3反復試験における陽性Ct値は、すべての定量化可能な値について0.95%未満の%CVを有した。調べるDNAの品質について対照をとるための並行した増殖反応を、末梢血および骨髄由来の20 ngの投入ゲノムDNA(CSF試料については2〜4.3 ng)、ならびに、記載されているような(Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)CDKN1A遺伝子の上流の非転写ゲノム配列に特異的なプライマー/プローブの組み合わせを用いて行った。これらの増幅反応により、計算された量対実際のDNA投入量を補正するための補正係数(CF)を作成した。マイクログラムDNAあたりの導入遺伝子のコピーを、式:投入DNA(ng)あたりのCTL019標準曲線から計算したコピー×CF×1000 ngに従って計算した。このアッセイの正確性を、Q-PCRによる輸注された細胞産物のマーキングを定量化する能力によって判定した。これらの盲検判定により、CHOP-100については、それぞれ11.1%および11.6%のQ-PCRおよびフローのマーキング値、ならびにCHOP-101輸注産物については、それぞれ20.0%および14.4%のマーキングを生じた。
【0168】
可溶性因子解析
全血をレッドトップ(添加物無し)のBDバキュティナチューブ(Becton Dickinson)中に収集し、確立された検査室標準検査手順を用いて処理して血清を取得し、一回使用のためのアリコートに分け、-80℃で保存した。可溶性サイトカイン因子の定量化を、Luminexビーズアレイ技術およびLife technologies(Invitrogen)から購入したキットを用いて行った。アッセイを、製造業者のプロトコール通りに、3倍希釈系列を用いて作製した9点の標準曲線で行った。2個の外部標準点を二連反復試験において評価し、5個の内部標準を一連試験において評価し;すべての試料を1:2希釈で、二連反復試験において評価し;二連反復試験測定値について計算した%CVは、15%未満であった。データを、FlexMAP-3Dでパーセントにより獲得し、XPonent 4.0ソフトウェアおよび5パラメーターロジスティック回帰分析を用いて解析した。標準曲線の定量化範囲は、80〜120%(観察値/期待値)の範囲により決定した。報告した値には、標準曲線の範囲内のもの、およびロジスティック回帰分析により計算したものが含まれた。
【0169】
抗体試薬
以下の抗体を、これらの研究のために用いた:Alexa647に結合したCD19 CARに対するマウス抗体である、MDA-CAR(Jena and Copper, 2013, L. Anti-idiotype antibody for CD19. PlosONE 2013;印刷中)。多パラメーター免疫表現型検査用の抗体:T細胞検出パネル:抗CD3-FITC、抗CD8-PE、抗CD14-PE-Cy7、抗CD16-PE-Cy7、抗CD19-PE-Cy7、抗CD16-PE-Cy7、B細胞検出パネル:抗CD20-FITC、抗CD45-PE、抗CD45-APC、抗CD19-PE-Cy7、抗CD19-PE、抗CD34-PCP-e710、および抗CD34-APCは、e-Biosciencesから調達した。
【0170】
多パラメーターフローサイトメトリー
細胞を、凍結保存した試料の融解後に直ちに評価したCHOP-101のベースライン試料を除いては、Ficoll-Paque処理後に直接フローサイトメトリーにより評価した。多パラメーター免疫表現型検査を、末梢血および骨髄試料については条件あたりおよそ0.2〜0.5×10
6の全細胞(試料中の細胞収率に依存する)を用い、CSF試料についてはCSF液の遠心分離後に収集された微量の細胞を用いて、教科書に記載されているように、蛍光マイナスワン(fluorescence minus one)(FMO)染色を用いて行った。細胞を、100μL PBS中、30分間氷上で、製造業者により推奨された抗体および試薬濃度を用いて染色し、洗浄し、0.5%パラホルムアルデヒド中に再懸濁して、青色(488)および赤色(633 nm)のレーザーを装備したAccuri C6サイトメーターを用いて捕捉した。AccuriのファイルをFCSファイル形式でエクスポートし、FlowJoソフトウェア(バージョン9.5.3、Treestar)を用いて解析した。補正値を、単一抗体染色およびBD補正ビーズ(Becton Dickinson)を用いて確立し、ソフトウェアにより計算した。T細胞についてのゲーティング戦略は、以下のようであった:生細胞(FSC/SSC)>ダンプチャンネル(dump channel)(CD14+CD16+CD19-PECy7)対CD3+>CD3+。B細胞についての一般的なゲーティング戦略は、以下のようであった:生細胞(FSC/SSC)>SSC低イベント>CD19+。CHOP-100およびCHOP-101試料についてのより詳細なゲーティングは、個々の図に記載している。
【0171】
分子的MRD解析
分子的MRD解析を、Adaptive Biotechnologies(Seattle, WA)、およびIlluminaHiSeq/MiSeqプラットフォームベースのimmunoSEQアッセイ(Larimore et al., 2012, J. Immunol 189:3221-30)を用いたBCR IGH CDR3領域のハイスループット次世代塩基配列決定により行った。これらの解析のために、患者から取得した全血または骨髄試料から単離したゲノムDNAの701〜6,000 ng(およそ111,000〜950,000ゲノム相当量)を、組み合わされたマルチプレックスPCRおよび塩基配列決定に供し、その後試料中の個々のIGH CDR3配列を定量化するためにアルゴリズム的解析を行った。DNA試料の品質を評価するために、各試料においてTCRB CDR3領域(Robins et al., 2009, Blood 114:4099-107)の並行した増幅および塩基配列決定を行った。各患者について、異なる時点の試料からアッセイされたIGH CDR3ヌクレオチド配列を、EMBL-EBI多重配列アラインメントツールを用いてアラインメントを行った(Goujon et al., 2010, Nucleic Acids Res 38:W695-9;Sievers et al., 2011, Mol Syst Biol 7:539)。最も初期の時点の試料由来の優勢なクローンを、その後の時点の試料においてアッセイされたIGH CDR3配列にわたってバイオインフォマティクスにより追跡し、95%またはそれより大きいペアの配列同一性を有する配列の存在を特定した。優勢なクローンに類似したそれらの配列についての全塩基配列決定読み取りを、各時点について報告する。
【0172】
実験の結果について、以下に説明する。
【0173】
症例報告
CHOP-100は、ALLが2回目の再発である7歳の女児であった。彼女は2年前に診断されて、微小残存病変(MRD)陰性の寛解を達成し、診断の17か月後に再発した。彼女は、再導入化学療法後に寛解に再び入ったが、4か月後に再発し、その後、クロファラビン/エトポシド/シクロホスファミドに応答しなかった。彼女のベースラインでの核型は、48,XX,del(9)(p21.3),+11,del(14)(q2?q24),+16/46,XX[4]であった。集中的化学療法後には細胞生成に利用可能な循環T細胞が不十分であるかもしれないと予期して、そのような集中治療の前に末梢血単核細胞(PBMC)をアフェレーシスにより収集した。この患者には、以前に記載されているように(Porter et al., 2011, N Engl J Med 365:725-33;Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)、抗CD3/CD28で増大し、抗CD19 CARを発現するようにレンチウイルスによって形質導入したCTL019細胞を、3.8×10
8細胞/kg(1.2×10
7 CTL019細胞/kg)の総用量を連続した3日間にわたって与えて、輸注した。彼女は、CTL019輸注の前にはリンパ球除去(lymphodepleting)化学療法は受けず、最も近い細胞毒性療法はCTL019輸注の6週間前に与えられていた。即時の輸注毒性は確認されなかったが、軽度の熱のために彼女を入院させ、第4日までに高熱に進行して、第5日に患者を小児ICUに移した(CHOP-100、
図4A)。この後、機械的換気および血圧の補助を必要とする重大な呼吸および心臓血管の支障に急速に進行した。
【0174】
2人目のALL患者は、診断の28か月後かつCTL019輸注の10か月前の4/6マッチの非血縁臍帯血移植後に2回目の再発を経験していた、10歳の女児(CHOP-101)であった。彼女は、移植後の移植片対宿主病(GVHD)を経験しており、それは治療で消散し;彼女は、再発時には免疫抑制ではなかった。彼女は、その後、多重の細胞毒性療法および生物療法にもかかわらず、寛解に再び入らなかった。彼女のベースラインの核型は、46 XX, del(1)(p13), t(2;9)(q?21;q?21), t(3;17)(p24;q23), del(6)(q16q21), del(9)(q13q22), der(16)t(1;?;16)(p13;?p13.3)[9],//46, Xy[1]であった。PBMC収集の前に、彼女を2サイクルのブリナツモマブで治療して(Bargou et al., 2008, Science 321:974-7)、応答が無かった。彼女の末梢血細胞は、PBMC収集時に68%がドナー起源であった。CTL019 T細胞を生成し、前の週にリンパ球除去のために与えられたエトポシド/シクロホスファミド化学療法後に、単一用量で10
7細胞/kg(1.4×10
6 CTL019細胞/kg)の総用量として輸注した。CTL019輸注の前の日の彼女の骨髄は、標準的な臨床フローサイトメトリーによると、CD19の発現が変動する、CD19+/CD34+ ALL細胞の集団により置換されていた(
図7)。彼女は、即時の輸注毒性を有しなかったが、第+6日に熱を発症し、入院した。彼女は、心肺毒性を経験せず、グルココルチコイドまたは抗サイトカイン療法は受けなかった。CHOP-101は、サイトカイン放出のためと推測される未知の起源の熱(
図4B)、筋肉痛、および2日の錯乱状態(グレード3)を経験し、自然に消散した。彼女は、CTL019細胞の輸注後にGVHDの証拠を示さなかった。これらの細胞は患者から収集されたが、大部分はドナー(臍帯血)起源であった。
【0175】
両方の対象における寛解の誘導
両方の対象は、CTL019輸注のタイミングに対する全WBC、ALC、およびANCを図示するプロットにより示されるように(
図4C)、CTL019輸注後の2週間中に循環リンパ球および好中球が増加した。リンパ球の大部分は、
図5により詳細に示されるように、キメラ抗原受容体を発現するT細胞から構成されていた(
図8)。両方の対象において、LDHの亢進後に、非感染性の高熱が記録された(
図4A)。LDHの亢進および高熱は、CTL019輸注後のCLL患者において以前に記載されたものに類似していた(Porter et al., 2011, N Engl J Med 365:725-33;Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)。輸注のおよそ1か月後に、白血病のMRD陰性(<0.01%)の形態学的寛解が、両方の対象において達成された(表1)。
【0176】
CHOP-100における臨床的寛解は、2013年1月のような少なくとも9か月間存続したディープ分子的寛解と関連性があった(表1)。IGH遺伝子座のハイスループットDNA塩基配列決定により、CHOP-100の血液および骨髄中で第+23日に全IGHの読み取りの著しい減少が明らかになった。第+180日に塩基配列決定された100万個より多い細胞相当量において、血液または骨髄中に、悪性クローンは検出されなかった。対照的に、T細胞受容体の配列が血液および骨髄中に容易に検出され、すべての時点で試験されたDNAの完全性が示された。
【0177】
(表1)
CHOP-100および101の血液および骨髄における分子的寛解の誘導
微小残存病変の分子的解析を、全血または骨髄から単離したDNAに対して行った。
【0178】
CTL019の毒性
グレード3および4の有害事象を、表2に要約する。熱、および、マクロファージ活性化症候群(MAS)に発展したサイトカイン放出症候群(CRS)からなる急性毒性が、両方の患者において観察された。両方の患者をモニタリングして、腫瘍崩壊症候群の予防を施した。両者ともLDHの実質的な亢進を経験し、その原因は多因子性である可能性が高かったが、腫瘍崩壊症候群を含むと考えられた。CHOP-100における各尿酸値は、正常より下または正常範囲中のいずれかであり、彼女は、第5〜6日にのみアロプリノールを受けた。CHOP-101は、第0〜14日に予防的なアロプリノールを受け、第8〜10日には軽度の腫瘍崩壊症候群と一致する4.8〜5.7の異常な尿酸値を有した。
【0179】
(表2)
CHOP-100およびCHOP-101における有害事象(グレード3および4)
有害事象を、有害事象共通用語基準3.0に従って等級分けした。
【0180】
CHOP-100において、グルココルチコイドを第+5日に投与し、熱曲線における短時間の応答を伴ったが、低血圧の寛解は伴わなかった。エタネルセプトおよびトシリズマブからなる抗サイトカイン療法の単一コースを第+8日に与えると、迅速な臨床効果が続いた:数時間以内に、彼女は解熱し、彼女の臨床的および放射線医学的ARDSが消散するにつれて、血管作動性薬剤および換気補助が取り外された。彼女は、腫瘍崩壊症候群の検査上の証拠は有しなかった;しかしながら、MASの生化学的証拠が、第+11日のフェリチンの45,529ng/dlへの亢進、亢進したd-ダイマーを伴う凝固障害および低フィブリノゲン血症、肝脾腫大症、トランスアミナーゼの亢進、亢進したLDH(
図4C)、および亢進したトリグリセリド、ならびにMASと一致したサイトカインプロファイルで表された。彼女のフェリチンは、第+26日までに2,368に減少し、MASの臨床的異常および検査上の異常は消散した。
【0181】
CHOP-101においては、熱およびLDHの変化以外の腫瘍崩壊症候群の直接的証拠は無かったが(
図4C)、彼女もまた、第11日に74,899のピークになった、第+7日の33,360へのフェリチンの亢進、1日間グレード4に達したトランスアミナーゼ、および血清中の亢進したd-ダイマーを伴うMASの特徴を発症した。トランスアミナーゼがグレード1に改善し、フェリチンが第+21日までに3,894に減少したように、これらの生化学的変化は可逆的であった。彼女は、第+16日に病院から退院した。
【0182】
両方の対象は、血清中の数多くのサイトカインおよびサイトカイン受容体の顕著な亢進を発症した(
図1B)。両方の患者において、インターフェロン-γおよびIL-6の亢進が最も顕著であった。これらの観察は、CTL019輸注後に白血病の寛解を同様に経験したCLLを有する患者において以前に観察されたパターンに類似している(Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)。ピークのサイトカイン亢進は、中核体温の変化により判断されるような全身炎症と時間的に相関していた(
図4C)。
【0183】
ALLを有する患者におけるCTL019のインビボ増大
循環中のCTL019 T細胞の画分は、インビボでT細胞の72%(CHOP-100)および34%(CHOP-101)に徐々に増加した(
図5A)。最初の形質導入効率は、それぞれ、CHOP-100および-101中の輸注されたT細胞において11.6%および14.4%であった。全ALCが両方の患者において実質的に増加し(
図4C)、かつCTL019細胞の頻度がベースラインの頻度からインビボで徐々に増加した(
図8)ことを考えると、両方の患者においてCTL019細胞の強固なかつ選択的な増大があった。両方の患者におけるCTL019を発現するT細胞の選択的な増加は、CD19により駆動される増大を含む抗白血病機構、および、両方の患者におけるCD19を発現する細胞のその後の排除と一致する(
図6および
図9)。
【0184】
フローサイトメトリーにより末梢血および骨髄中の65%を超えるCD3+細胞がCTL019+であると示された時である第+23日に取得された、CHOP-100における末梢血および骨髄試料中のTCRの分子的ディープ配列解析によって、いずれの区画においても優勢なT細胞TCRクローン型は存在せず、10種の最も豊富なT細胞が骨髄中には0.18〜0.7%の間、末梢血中には0.19〜0.8%の頻度で存在することが明らかになった。10種の優勢なクローンのうちの6種は、2つの区画の間で共有されていた。加えて、CD4およびCD8両方のCAR T細胞が存在する。したがって、CAR T細胞は、CD19により刺激された増大後に増殖し、TCRシグナル、またはレンチウイルスの組み込みによる活性化などのクローン特異的事象によっては増殖していないように見られる。
【0185】
骨髄およびCNSにおけるCTL019 CAR T細胞の輸送および形態
CTL019細胞は、末梢血および骨髄において1000倍より多く増大した(
図5)。CTL019細胞の頻度は、第+20日までに両方の対象において循環T細胞の10%より多くに増加し(
図8)、CLLを有する患者において観察されたものに類似したCTL019増大の絶対規模であった(Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)。予想外に、CSF中の細胞もまた、高度のCTL019遺伝子マーキングを示し、6か月にわたって高頻度で存続した(
図5B)。いずれの患者も、輸注の時または治療後1か月の評価でのサイトスピン処理により、検出可能なCNS白血病を有しなかったことを考えると、CTL019細胞のCSFへの輸送は驚くべきことであった。さらに、B細胞悪性腫瘍についてのCAR療法の以前の報告では、CAR T細胞のCNSへの輸送は観察されていなかった(Till et al., 2008, Blood 112:2261-71;Brentjens et al., 2011, Blood 118:4817-28;Savoldo et al., 2011, J Clin Invest 121:1822-5;Jensen et al., 2010, Biol Blood Marrow Transplant 16:1245-56;Till et al., 2012, Blood 119:3940-50;Kochenderfer et al., 2012, Blood 119:2709-20)。血液およびCSF中のリンパ球の形態を、CHOP-100および101について
図5Dに示す。第+10日の循環中のリンパ球の70%超がCTL019細胞であったため(
図5Aおよび
図5B)、
図5Dの左のパネルに示される大型顆粒リンパ球の大部分は、CTL019細胞である可能性が高い。同様に、第+23日のCHOP-101から取得されたCSF中の多くのリンパ球がCTL019細胞であったため(
図5Bおよび
図5C)、
図5DにおけるCSFリンパ球のサイトスピン処理物は、CNSに輸送されたインビボのCTL019細胞の形態を表している可能性が最も高い。
【0186】
B細胞形成不全の誘導
両方の対象は、CTL019輸注後1か月以内に、骨髄および血液中のCD19陽性細胞の排除を示した(
図6および
図9)。CHOP-100において、輸注後第+6日に骨髄中に残っている細胞のうちの大きな割合は、CD19+CD20+白血病性芽細胞であった。この細胞の集団は、第+23日までには検出可能でなくなり、これは、この患者において9か月を超えて維持される効果である(
図9A)。CHOP-100がCTL019輸注に先立つ6週間に化学療法を受けなかったことを考えると、これは、CTL019細胞がこの症例において正常および白血病性のB細胞を除去するのに十分であったことを示す。
【0187】
CHOP-101におけるCD19エスケープ変種の出現
CHOP-101は、循環中の芽細胞の再現により証明されるように、CTL019輸注の2か月後に末梢血中で明白な臨床的再発を経験した。これらの細胞は、CD45弱陽性、CD34陽性であり、CD19を発現していなかった(
図6)。元の優勢なCD34dim+CD34+CD19dim+細胞が無いことは、CD19に方向付けされたCTL019 CAR T細胞の強力な抗白血病選択圧と一致している(
図9B)。第+23日のような初期のフローサイトメトリーによるMRD陰性の臨床評価にもかかわらず(
図7)、IGHディープ塩基配列決定により、この時点での末梢血および骨髄中の悪性クローンの存在が明らかになった(表1)。加えて、臨床的再発時に取得された材料のディープ塩基配列決定により、CD45dimCD34+CD19-細胞は、同じIGH配列を共有しているため、最初の優勢なCD45dim+CD34+CD19dim+細胞にクローン的に関連していることが明らかになった。
【0188】
キメラ抗原受容体発現T細胞によるALLの寛解
本明細書に提示された結果は、このプロトコールで治療した最初の2人の患者における再発性かつ不応性の白血病の寛解の誘導を明示している。寛解は、1人の対象において持続され、もう1人の対象においては、CD19陰性芽球の出現による再発を伴った。遺伝子改変されたCTL019細胞は、両方の患者において高レベルでCNSに輸送された。サイトカイン亢進は、両方の対象において、予定通りであり、可逆的であり、かつCD19を発現する芽細胞の排除を時間的に伴ったことが観察された。特に、CARを発現しない同種異系ドナーリンパ球輸注物の輸注後の低頻度の寛解を考えると、CAR T細胞の輸注後の不応性CD19陽性ALLにおける完全寛解の誘導は、有望である(Kolb et al., 1995, Blood 86:2041-50;Collins et al., 1997, J Clin Oncol 15:433-44;Collins et al., 2000, Bone Marrow Transplant 26(5):511-6)。ディープ塩基配列決定技術により、CTL019 CARの輸注は、CHOP-100において悪性B細胞の頻度の持続性の5対数の低減を伴い、さらに化学療法不応性の白血病において強力な抗腫瘍効果を示すことが、示された。
【0189】
1人の対象におけるCD19陰性芽細胞の不幸な出現は、ALLのいくつかの症例においてCD19陰性前駆細胞の存在を記録している以前の報告と一致している(Hotfilder et al., 2005, Cancer Research 65:1442-9;le Viseur et al., 2008, Cancer Cell 14:47-58)。CD19に加えた、新規の特異性に再方向付けされたCAR T細胞の混注が、この事象の可能性を減少させ得ると予想される。これまでのところ、CLLを有する成人におけるCTL019細胞での治療後のCD19陰性エスケープ細胞による再発は、観察されておらず(Kalos et al., 2011, Science Translational Medicine 3:95ra73)、これは、この問題が急性白血病のサブセットに特異的であり得ることを示唆している。CHOP-100における寛解の誘導は、併用の化学療法を必要とせず、CLLにおける寛解が化学療法後に数週間遅延され得たことを示す以前の報告と一致している(Porter et al., 2011, N Engl J Med 365:725-33)。したがって、細胞毒性化学療法の併用の施与は、CARにより媒介される抗腫瘍効果に必要ではない可能性がある。
【0190】
両方の小児ALL患者は、CTL019輸注後に実質的な毒性を経験した。B細胞形成不全の誘導が観察され、これは、CAR T細胞が再発性急性白血病の状況において機能できることを示す。両方の患者はまた、輸注の1週間以内に、サイトカイン放出症候群およびマクロファージ活性化症候群の臨床的証拠および検査上の証拠も発症した。これらの患者において観察されたサイトカインプロファイルは、血球貪食現象およびマクロファージ活性化症候群、すなわち血球貪食性リンパ組織球増多症を有する子供におけるサイトカインパターンの以前の報告に類似していた(Tang et al., 2008, Br J Haematol 143:84-91;Behrens et al., 2011, J Clin Invest 121(6):2264-77)。マクロファージ活性化症候群は、長期間にわたる熱を伴う過剰炎症、肝脾腫大症、および血球減少症を特徴とする。この症候群に特徴的な検査上の知見は、亢進したフェリチン、トリグリセリド、トランスアミナーゼ、ビリルビン(大部分は抱合型)および可溶性インターロイキン-2受容体α鎖、ならびに減少したフィブリノゲンである(Janka et al., 2012, Annu Rev Med 63:233-46)。最近の研究により、トシリズマブ(抗IL6)がグルココルチコイド抵抗性GVHDに有望であることが示されており(Drobyski et al., 2011, Biol Blood Marrow Transplant 17(12):1862-8;Le Huu et al., 2012, J Invest Dermatol 132(12):2752-61;Tawara et al., 2011, Clinical Cancer Research 17:77-88)、本明細書に提示された結果は、これらのデータと一致している。
【0191】
CTL019の活発なインビボ増大、存続性のB細胞形成不全、および顕著な抗白血病活性は、進行したALLを有する小児患者におけるCTL019細胞の実質的なかつ持続性のエフェクター機能を暗示する。CAR T細胞のCNSへの輸送の高い効率は、CNSなどの聖域部位における再発を予防するための監視機構として有望であり(Pullen et al., 1993, J Clin Oncol 11(5):839-49)、CNSリンパ腫および原発性CNS悪性腫瘍のためのCAR T細胞介在性療法の試験を支持する。その持続期間が現在不確定であるB細胞形成不全を除いて、CTL019などの免疫ベースの療法の使用は、小児白血病の大部分の症例のための現在の標準的治療として使用されている高用量の化学療法および放射線と比較して、長期有害作用の好ましいプロファイルを有し得ると考えられる(Garcia-Manero and Thomas, 2001, Hematol Oncol Clin North Am 15(1):163-205)。
【0192】
キメラ抗原受容体発現T細胞によるALLの完全寛解の誘導
トシリズマブ(抗IL6)は、グルココルチコイド抵抗性GVHDに有望であり、本明細書に提示された結果は、これらのデータと一致する。さらに、CHOP 100において、高熱、低血圧、および多臓器不全などのCRSの顕在化は、サイトカインを対象とする療法の前に事前の2日間にわたって投与された高用量のグルココルチコイドに対して抵抗性であった。最後に、CHOP-100において、
図4Bに示されるIL-1β、IL-1RA、およびIL-2の二相性の変化は、エタネルセプトおよびトシリズマブでのサイトカインを対象とする療法に関連している可能性がある。
【0193】
ブリナツモマブ療法に対して不応性の患者における寛解の誘導はさらに、CTL019細胞の潜在能力を強調する。CAR T細胞のCNSへの輸送の高い効率は、CNSなどの聖域部位における再発を予防するための監視機構として有望であり、CNSリンパ腫および原発性CNS悪性腫瘍のためのCAR T細胞介在性療法の試験を支持する。どちらの患者も、T細胞のCNSへの輸送に帰すると考えられる認知的効果は経験していない。
【0194】
実施例4:要約情報
種々のマーカーを、CAR T細胞を受けた患者において測定した。非限定的な例として、フェリチン、ミオグロビン、およびプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)を測定した;それぞれ、
図10、
図11、および
図12を参照されたい。これらのマーカーの亢進したレベルは、転帰と相関した。-01、-03、-09、-100、および-101と命名した患者を、完全応答者として分類した。-02、-05、-10(2回目の輸注かつ約第70日での応答)、および-12と命名した患者を、部分応答者として分類した。-06、-07、および-14と命名した患者を、不応答者として分類した。
【0195】
本明細書に引用された特許、特許出願および刊行物のそれぞれおよびすべての開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。具体的な態様を参照しながら本発明を開示してきたが、本発明の真の趣旨および範囲を逸脱することなく、本発明の他の態様および変形物も当業者によって考案されうることは明らかである。添付された特許請求の範囲は、そのようなすべての態様および等価な変形物を含むことを意図している。