特許第6563575号(P6563575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563575
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】粒子塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 7/16 20060101AFI20190808BHJP
   B05B 7/08 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   B05B7/16
   B05B7/08
【請求項の数】3
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2018-167753(P2018-167753)
(22)【出願日】2018年9月7日
(62)【分割の表示】特願2017-153226(P2017-153226)の分割
【原出願日】2014年3月12日
(65)【公開番号】特開2019-10643(P2019-10643A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】309017611
【氏名又は名称】株式会社ペイントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】100107674
【弁理士】
【氏名又は名称】来栖 和則
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 栄次
【審査官】 塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−167445(JP,A)
【文献】 特開2007−61791(JP,A)
【文献】 特開2007−229587(JP,A)
【文献】 特開2006−317688(JP,A)
【文献】 特開2009−220071(JP,A)
【文献】 特開昭54−069147(JP,A)
【文献】 特開平03−114560(JP,A)
【文献】 特開昭52−117339(JP,A)
【文献】 米国特許第6012647(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00−9/08
12/16−12/36
14/00−16/80
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子を目標表面に塗布する粒子塗布装置であって、
前記複数の粒子が揮発性溶媒中に分散状態で混入している噴霧液を第1の温度に加温する第1のヒータと、
圧縮気体を第2の温度に加温する第2のヒータと、
前記加温された噴霧液が、前記加温された圧縮気体と一緒に供給されると、その圧縮気体を用いて前記噴霧液を噴霧空間内に噴霧するスプレーガンと、
前記第2のヒータと前記スプレーガンとの間に設けられ、前記第2のヒータから供給される前記圧縮気体の一部を前記スプレーガンに供給し、別の一部を大気に放出するヒータ安全装置と
を含む粒子塗布装置。
【請求項2】
前記第2の温度は、前記第1の温度以上である請求項1に記載の粒子塗布装置。
【請求項3】
前記第1の温度は、30℃〜50℃の範囲内にあり、
前記第2の温度は、50℃〜70℃の範囲内にある請求項2に記載の粒子塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性の噴霧液を噴霧空間内に噴霧する技術、および、複数の粒子を目標表面に塗布する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の用途において固有の性質を有する粒子の使用が注目されている。そのような粒子の一例は光触媒粒子である。その光触媒粒子は、光を受けると触媒作用を発揮する粒子であり、その代表的なものとして酸化チタンTiOが広く利用されている。
【0003】
光触媒粒子の重要な特徴は、高い分解力(強い酸化作用)と高い親水性である。高い分解力のおかげで、光触媒粒子は、有機物を分解して、汚れや臭いを除去したり、抗菌作用を果たす。また、高い親水性のおかげで、光触媒粒子が塗布された表面が水に濡れ易くなり、セルフクリーニングや防曇という効果が得られる。
【0004】
特許文献1は、複数の光触媒粒子を目標表面に吹き付けて塗布する光触媒粒子塗布方法の一従来例を開示している。この従来方法は、複数の光触媒粒子が揮発性媒質中に分散状態で混入している揮発性の噴霧液を加温する加温工程と、圧縮気体を、前記加温された噴霧液と一緒にスプレーガンに供給し、それにより、前記圧縮気体を用いて前記噴霧液を霧化して前記スプレーガンから噴射する噴霧工程とを含むように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−229587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、前記従来方法について研究を行った。その結果、次のような知見を得た。
【0007】
この従来方法については、加温された噴霧液は、スプレーガンを出射してから、目標表面に到達するまでの期間、すなわち、飛行(浮遊)期間中に、その噴霧液内の揮発性媒質が完全に気化することが理想的である。その揮発性媒質が気化すれば、噴霧液内に混入された複数の粒子が、揮発性媒質(液体)の束縛から解放され、それにより、それら粒子が互いに分散し、各粒子がそれぞれほぼ単独で空気中に浮遊する。
【0008】
複数の粒子は、揮発性媒質内に混入している状態では、互いに凝集する傾向が強いのに対し、各粒子がそれぞれほぼ単独で空気中に浮遊する状態では、互いに分散する傾向が強い。
【0009】
また、複数の粒子は、互いに分散する傾向が強いほど、それら粒子が目標表面上に到達してその目標表面に付着したときに、それら粒子が目標表面上に均一に分散する傾向が強い。
【0010】
このように複数の粒子が均一に分散して目標表面上に塗布される場合には、その目標表面上においていずれの粒子も付着されていない連続領域、すなわち、粒子不存在領域の面積が減少する。
【0011】
光触媒粒子は、光触媒作用によって促進させられる化学反応を行う対象物に接触することが、光触媒効果を極大化するために重要である。そのため、目標表面上において粒子不存在領域の面積が大きいほど、光触媒効果が低下してしまう。
【0012】
したがって、噴霧された噴霧液が目標表面に到達する前に完全に気化することが理想的である。しかしながら、噴霧液の気化し易さは、その噴霧液の温度に依存し、具体的には、低温であるほど、気化し難い。一方、その噴霧液の温度は、外気温に依存し、具体的には、外気温が低温であるほど、噴霧液の温度が低温となる。
【0013】
そのため、前記従来方法を、外気温が低温(例えば、0℃)である状況で実施する場合には、噴霧された噴霧液の気化が不完全となり、その結果、複数の粒子が目標表面上に偏在していた。目標表面上において局部的に複数の粒子が互いに密集して重なり合う一方で、いずれの粒子も存在しない連続領域が存在していたのである。
【0014】
以上説明した知見に基づき、本発明は、圧縮気体を用いて複数の粒子を目標表面に塗布する技術であって、ヒータによって圧縮気体を加温するとともに、そのヒータを冷却するものを提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
その課題を解決するために、本発明の一側面によれば、複数の粒子を目標表面に塗布する粒子塗布装置であって、
前記複数の粒子が揮発性溶媒中に分散状態で混入している噴霧液を第1の温度に加温する第1のヒータと、
圧縮気体を第2の温度に加温する第2のヒータと、
前記加温された噴霧液が、前記加温された圧縮気体と一緒に供給されると、その圧縮気体を用いて前記噴霧液を噴霧空間内に噴霧するスプレーガンと、
前記第2のヒータと前記スプレーガンとの間に設けられ、前記第2のヒータから供給される前記圧縮気体の一部を前記スプレーガンに供給し、別の一部を大気に放出するヒータ安全装置と
を含む粒子塗布装置が提供される。
【0016】
本発明のあるアスペクトによれば、複数の粒子を目標表面に吹き付けて塗布する粒子塗布装置であって、
前記複数の粒子が揮発性溶媒中に分散状態で混入している噴霧液を第1の温度に加温する第1のヒータと、
圧縮気体を第2の温度に加温する第2のヒータと、
前記加温された噴霧液が、前記加温された圧縮気体と一緒に供給されると、その圧縮気体を用いて前記噴霧液を噴霧空間内に噴霧するスプレーガンと
を含み、
そのスプレーガンは、
前記噴霧空間内に前記噴霧液を噴射する噴霧液噴射口と、
前記噴霧空間内に前記圧縮気体を噴射する圧縮気体噴射口と、
前記スプレーガンを正面から見た場合に、前記噴霧液噴射口および前記圧縮気体噴射口から側方に外れた位置に配置され、前記噴霧空間を側方から包囲する周辺空間より高温である温風を前方に噴射し、それにより、前記噴霧空間を側方から包囲する環状断面を有する温風シールドを形成する温風噴射口と
を含み、
前記圧縮気体噴射口は、
前記噴霧液噴射口と同軸である一円周に沿って概して等間隔で配置された複数の第1気体噴射穴と、
前記噴霧液噴射口の中心線に対して半径方向外向きに、前記複数の第1気体噴射穴の位置より外れた複数の位置に配置された複数の第2気体噴射穴と
を含む粒子塗布装置が提供される。
【0017】
また、本発明の第1側面によれば、揮発性の噴霧液を噴霧空間内に噴霧するスプレーガンであって、
前記噴霧空間内に前記噴霧液を噴射する噴霧液噴射口と、
前記噴霧空間内に圧縮気体を噴射する圧縮気体噴射口と、
当該スプレーガンを正面から見た場合に、前記噴霧液噴射口および前記圧縮気体噴射口から側方に外れた位置に配置され、前記噴霧空間を側方から包囲する周辺空間より高温である温風を前方に噴射し、それにより、前記噴霧空間を側方から包囲する環状断面を有する温風シールドを形成する温風噴射口と
を含むスプレーガンが提供される。
【0018】
このスプレーガンの噴霧前には、複数の粒子が噴霧液内に分散状態で混入している。その噴霧液は、このスプレーガンの噴霧により、霧状(ミスト)となり、その状態で、目標表面に向かって空気中を飛行させられる。すなわち、噴霧液は、複数のミスト内微粒子(液滴)の集まりという形態で空気中を飛行させられるのである。
【0019】
このスプレーガンの噴霧後、各ミスト内微粒子が目標表面に向かって空気中を飛行している過程で、各ミスト内微粒子のうちの揮発性媒質は、周囲から熱を奪って気化する。各ミスト内微粒子のうちの揮発性媒質が気化すると、各ミスト内微粒子内に混入していた複数の粒子がそれ自体、それぞれ単独で、空気中を飛行することになる。一方、複数の粒子は、各ミスト内微粒子内に混入している場合には、互いに凝集し易いが、各ミスト内微粒子自体がそれぞれ単独で空気中に浮遊する場合には、互いに分散し易い。
【0020】
空気中を飛行している各ミスト内微粒子の温度は、外気温の影響を受ける。具体的には、その外気温が噴霧液の温度より低い場合には、その噴霧液は、外気によって冷やされてしまう。
【0021】
このスプレーガンにおいては、噴霧された噴霧液が飛行する噴霧空間より、それの側方から包囲する周辺空間が低温であると、噴霧空間内の空気が周辺空気内の空気によって冷却されてしまう可能性がある。噴霧空間内において噴霧液が気化するために気化熱を空気から奪う。そのため、噴霧空間が周辺空間より低温となる可能性がある。
【0022】
これに対し、このスプレーガンにおいては、当該スプレーガンを正面から見た場合に、噴霧液噴射口および圧縮気体噴射口から側方に外れた位置に温風噴射口が配置される。このスプレーガンは、その温風噴射口から、周辺空間より高温である温風を前方に噴射し、それにより、噴霧空間を側方から包囲する環状断面を有する温風シールドを形成する。その温風シールドは、周辺空間より高温であるため、噴霧空間の温度は、温風シールドが存在しない場合より、周辺空気による冷却作用を受けずに済む。
【0023】
一方、このスプレーガンによって噴霧された噴霧液は、それ自体の温度が高いほど、気化し易い。その噴霧液が気化し易いほど、その噴霧液が、スプレーガンから噴射した後、目標表面に到達するまでの間に、すべての噴霧液が気化する傾向が増す。
【0024】
また、このスプレーガンによって噴霧された各ミスト内微粒子(液滴)は、それが気化するために必要な熱を気化熱として周囲から奪う。したがって、各ミスト内微粒子の周囲の温度、すなわち、各ミスト内微粒子を包囲する圧縮気体の温度が高いほど、噴霧液が気化し易い。
【0025】
その結果、このスプレーガンによれば、噴霧液が、温風シールドが形成されない場合に比べて、すべての粒子がそれ自体、それぞれ単独で空気中に浮遊する傾向が増し、ひいては、すべての粒子がさらに大きく互いに分散した状態で飛行して目標表面に到達する傾向が増す。
【0026】
したがって、このスプレーガンによれば、外気温の影響をそれほど強く受けることなく、このスプレーガンにより噴霧された噴霧液が目標表面に到達するまでにその噴霧液の実質的にすべてが気化することを実現することが容易となる。
【0027】
このスプレーガンにより噴霧された噴霧液が目標表面に到達するまでにその噴霧液の実質的にすべてが気化することが実現されれば、複数の粒子は、それぞれ単独で、すなわち、噴霧液内に混入していない状態(噴霧液の束縛から解放された状態)で飛行して目標表面に到達することになる。
【0028】
したがって、このスプレーガンによれば、複数の粒子が目標表面上に均一に分散する傾向が増す。すなわち、このスプレーガンによれば、目標表面上の全域において複数の粒子が互いに分散するとともに、その分散度が目標表面の全域において均一化されるのである。
【0029】
目標表面上において複数の粒子が互いに分散する傾向が強くなれば、スプレーガンの噴霧前に噴霧液に含有され得る複数の粒子の濃度を、目標表面上での粒子の偏在化を防止しつつ、増加させることが可能となる。その結果、目標表面上における粒子の密度を増加させることも容易となる。
【0030】
すなわち、このスプレーガンによれば、複数の粒子を目標表面上に高密度で均一に分散するように塗布することが容易となるのである。
【0031】
目標表面上に複数の粒子が均一に分散するという理由により、その目標表面上においていずれの粒子も付着されていない連続領域の面積が減少する。また、目標表面上における粒子の密度が増加するという理由によっても、その目標表面上においていずれの粒子も存在しない連続領域の面積が減少する。
【0032】
その結果、このスプレーガンによれば、前記複数の粒子が複数の光触媒粒子を含む場合には、目標表面上に付着した複数の光触媒粒子の光触媒効果を極大化する(すなわち、光触媒粒子の数の割りに大きな光触媒効果を実現する)ことが容易となる。
【0033】
なお、このスプレーガンにおいて、「噴霧液」は、例えば、複数の粒子であって完全に揮発することがないために最終的に残存する成分を有するものを含有したり、複数の固体粒子であって帯電可能であるものを含有したり、それらの粒子を含有する代わりに、揮発する液体を含有したり、揮発しない液体を含有するように調製することが可能である。
【0034】
このスプレーガンの望ましい一態様においては、さらに、前記噴霧液噴出口から噴射された噴霧液を拡散させるデフューザが用いられる。
【0035】
このスプレーガンの望ましい別の態様においては、さらに、前記圧縮気体であって加温されたものを前記圧縮気体噴射口と前記温風噴射口との双方に共通する通路が用いられる。
【0036】
また、本発明の第2側面によれば、複数の粒子を目標表面に吹き付けて塗布する粒子塗布装置であって、
前記複数の粒子が揮発性溶媒中に分散状態で混入している噴霧液を加温する第1のヒータと、
圧縮気体を加温する第2のヒータと、
前記加温された噴霧液が、前記加温された圧縮気体と一緒に供給されると、その圧縮気体を用いて前記噴霧液を噴霧空間内に噴霧するスプレーガンと
を含み、
そのスプレーガンは、
前記噴霧空間内に前記噴霧液を噴射する噴霧液噴射口と、
前記噴霧空間内に前記圧縮気体を噴射する圧縮気体噴射口と、
前記スプレーガンを正面から見た場合に、前記噴霧液噴射口および前記圧縮気体噴射口から側方に外れた位置に配置され、前記噴霧空間を側方から包囲する周辺空間より高温である温風を前方に噴射し、それにより、前記噴霧空間を側方から包囲する環状断面を有する温風シールドを形成する温風噴射口と
を含む粒子塗布装置が提供される。
【0037】
この粒子塗布装置の望ましい一態様においては、さらに、前記噴霧液の各部分が前記噴霧液噴射口から噴射するのに先立ち、前記噴霧液の各部分内に複数のマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生装置が用いられる。
【0038】
上述のいくつかの粒子塗布装置の望ましい一態様においては、前記複数の粒子が、それぞれの表面上に露出する状態で金属銀粒子を担持している。
【0039】
また、本発明の第3側面によれば、揮発性の噴霧液を噴霧空間内に噴霧する噴霧方法であって、
前記噴霧液を加温して前記噴霧空間内に噴射する噴霧液噴射工程と、
圧縮気体を加温して前記噴霧空間内に噴射し、それにより、前記噴霧液の霧化を促進する圧縮気体噴射工程と、
前記噴霧空間を側方から包囲する周辺空間より高温である温風を、前記噴霧空間を側方から包囲する環状断面を有する温風シールドが形成されるように噴射し、それにより、前記噴霧空間内の保温を促進する温風シールド形成工程と
を含む噴霧方法が提供される。
【0040】
なお、この噴霧方法において、「噴霧液」は、例えば、複数の粒子であって完全に揮発することがないために最終的に残存する成分を有するものを含有したり、複数の固体粒子であって帯電可能であるものを含有したり、それらの粒子を含有する代わりに、揮発する液体を含有したり、揮発しない液体を含有するように調製することが可能である。
【0041】
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈すべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきなのである。
【0042】
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈すべきである。
【0043】
(1) 複数の粒子を目標表面に吹き付けて塗布する粒子塗布方法であって、
前記複数の粒子が分散状態で混入している揮発性の噴霧液を加温する溶液加温工程と、
圧縮気体を加温する気体加温工程と、
その加温された圧縮気体を、前記加温された噴霧液と一緒にスプレーガンに供給し、それにより、前記圧縮気体を用いて前記噴霧液を霧化して前記スプレーガンから噴射する噴霧工程と
を含み、
前記溶液加温工程および前記気体加温工程は、前記スプレーガンから噴射された前記噴霧液が前記目標表面に到達する前に前記噴霧液が実質的に全体として気化することを前記溶液加温工程および前記気体加温工程が互いに共同して実現する高さの温度に前記噴霧液および前記圧縮気体をそれぞれ加温する粒子塗布方法。
【0044】
この方法においては、スプレーガンの噴霧前には、複数の粒子が噴霧液内に分散状態で混入している。その噴霧液は、スプレーガンの噴霧により、霧状(ミスト)となり、その状態で、目標表面に向かって空気中を飛行させられる。すなわち、噴霧液は、複数のミスト内微粒子(液滴)の集まりという形態で空気中を飛行させられるのである。
【0045】
スプレーガンの噴霧後、各ミスト内微粒子が目標表面に向かって空気中を飛行している過程で、各ミスト内微粒子のうちの揮発性媒質は、周囲から熱を奪って気化する。各ミスト内微粒子のうちの揮発性媒質が気化すると、各ミスト内微粒子内に混入していた複数の粒子がそれ自体、それぞれ単独で、空気中を飛行することになる。一方、複数の粒子は、各ミスト内微粒子内に混入している場合には、互いに凝集し易いが、各ミスト内微粒子自体がそれぞれ単独で空気中に浮遊する場合には、互いに分散し易い。
【0046】
空気中を飛行している各ミスト内微粒子の温度は、外気温の影響を受ける。具体的には、その外気温が噴霧液の温度より低い場合には、その噴霧液は、外気によって冷やされてしまう。
【0047】
スプレーガンの噴霧後、空気中を飛行している霧状の噴霧液は、各ミスト内微粒子と、噴霧液を霧化するために用いられた圧縮気体との混合物である。各ミスト内微粒子は、同じスプレーガンから噴出させられた圧縮気体によって包囲されている。すなわち、各ミスト内微粒子は、圧縮気体によって包囲された状態で、空気中を飛行させられるのである。
【0048】
本項に係る方法においては、スプレーガンによる噴霧に先立ち、噴霧液のみならず圧縮気体も加温される。その結果、この方法によれば、噴霧液が、スプレーガンによる噴霧前に、直接的に加温されることに加えて、スプレーガンによる噴霧工程において、加温された圧縮気体であって噴霧液と一緒にスプレーガンから噴射させられるものによっても加温されるのである。
【0049】
したがって、この方法によれば、スプレーガンの噴霧後に、圧縮気体の温度が外気温より高い限り、霧状の噴霧液の温度の、外気による低下量が、圧縮気体を加温しない場合より、少なくて済む。
【0050】
一方、スプレーガンによって噴霧された噴霧液は、それ自体の温度が高いほど、気化し易い。その噴霧液が気化し易いほど、その噴霧液が、スプレーガンから噴射した後、目標表面に到達するまでの間に、すべての噴霧液が気化する傾向が増す。
【0051】
また、スプレーガンによって噴霧された各ミスト内微粒子(液滴)は、それが気化するために必要な熱を気化熱として周囲から奪う。したがって、各ミスト内微粒子の周囲の温度、すなわち、各ミスト内微粒子を包囲する圧縮気体の温度が高いほど、噴霧液が気化し易い。
【0052】
その結果、本項に係る方法によれば、噴霧液が、その噴霧液しか加温しない場合に比べて、すべての粒子がそれ自体、それぞれ単独で空気中に浮遊する傾向が増し、ひいては、すべての粒子がさらに大きく互いに分散した状態で飛行して目標表面に到達する傾向が増す。
【0053】
さらに、本項に係る方法においては、スプレーガンによる噴霧後、噴霧液が目標表面に到達する前にその噴霧液が実質的に全体として気化することを噴霧液の加温および圧縮気体の加温とが互いに共同して実現し得る高さの温度に、噴霧液および圧縮気体がそれぞれ加温される。
【0054】
したがって、この方法によれば、噴霧液のみならず圧縮気体も加温されるおかげで、外気温の影響をそれほど強く受けることなく、スプレーガンにより噴霧された噴霧液が目標表面に到達するまでにその噴霧液の実質的にすべてが気化することを実現することが容易となる。
【0055】
スプレーガンにより噴霧された噴霧液が目標表面に到達するまでにその噴霧液の実質的にすべてが気化することが実現されれば、複数の粒子は、それぞれ単独で、すなわち、噴霧液内に混入していない状態(噴霧液の束縛から解放された状態)で飛行して目標表面に到達することになる。
【0056】
したがって、この方法によれば、スプレーガンにより噴霧された噴霧液が目標表面に到達するまでにその噴霧液の実質的にすべてが気化することが実現されない場合より、複数の粒子が目標表面上に均一に分散する。
【0057】
すなわち、この方法によれば、目標表面上の全域において複数の粒子が互いに分散するとともに、その分散度が目標表面の全域において均一化されるのである。
【0058】
目標表面上において複数の粒子が互いに分散する傾向が強くなれば、スプレーガンの噴霧前に噴霧液に含有され得る複数の粒子の濃度を、目標表面上での粒子の偏在化を防止しつつ、増加させることが可能となる。その結果、目標表面上における粒子の密度を増加させることも容易となる。
【0059】
すなわち、本項に係る方法によれば、複数の粒子を目標表面上に高密度で均一に分散するように塗布することが容易となるのである。
【0060】
目標表面上に複数の粒子が均一に分散するという理由により、その目標表面上においていずれの粒子も付着されていない連続領域の面積が減少する。また、目標表面上における粒子の密度が増加するという理由によっても、その目標表面上においていずれの粒子も存在しない連続領域の面積が減少する。
【0061】
その結果、この方法によれば、目標表面上に付着した複数の粒子の光触媒効果を極大化する(すなわち、粒子の数の割りに大きな光触媒効果を実現する)ことが容易となる。
【0062】
(2) 前記気体加温工程が前記圧縮気体を加温する温度は、前記溶液加温工程が前記噴霧液を加温する温度と等しいかまたはそれより高い(1)項に記載の粒子塗布方法。
【0063】
この方法によれば、圧縮気体が加温される温度(圧縮気体の目標温度またはスプレーガン噴出直後の圧縮気体の温度)が、噴霧液が加温される温度(噴霧液の目標温度またはスプレーガン噴出直後の噴霧液の温度)より低くない。
【0064】
一方、スプレーガンによって噴霧された後、圧縮気体の温度が噴霧液の温度より低くない場合には、噴霧液の温度低下が圧縮気体によって効果的に抑制される。
【0065】
すなわち、この方法によれば、噴霧液が、スプレーガンによる噴霧前に加温される(外気温より高い温度に噴霧液が加温される)ことに加えて、スプレーガンによる噴霧工程中に、噴霧液の温度低下が圧縮気体によって抑制される。
【0066】
したがって、この方法によれば、噴霧液の気化し易さが、圧縮気体が加温される温度(圧縮気体の目標温度)が、噴霧液が加温される温度(噴霧液の目標温度)より低く場合より、向上する。
【0067】
よって、この方法によれば、外気温の高低を問わず、スプレーガンにより噴霧された噴霧液が目標表面に到達するまでにその噴霧液の実質的にすべてが気化することがより確実に実現される。
【0068】
(3) 前記気体加温工程が前記圧縮気体を加温する温度は、約50〜約70℃の範囲内にあり、
前記溶液加温工程が前記噴霧液を加温する温度は、約30〜約50℃の範囲内にある(2)項に記載の粒子塗布方法。
【0069】
(4) 前記気体加温工程は、前記スプレーガンの噴霧後における前記噴霧液の温度が、前記圧縮気体により、前記スプレーガンの噴霧前における温度より上昇しない高さに前記圧縮気体を加温する(1)ないし(3)項のいずれかに記載の粒子塗布方法。
【0070】
噴霧液が可燃性である場合がある。この場合、その噴霧液の温度が高いほど、その噴霧液は気化し易いが、その噴霧液の温度を高めると、その噴霧液の引火性・発火性が増してしまう。そのため、その噴霧液の温度を高めるにも限界がある。
【0071】
これに対し、本項に係る方法によれば、スプレーガンの噴霧前における圧縮気体が、スプレーガンの噴霧工程中における噴霧液の温度が、圧縮気体により、スプレーガンの噴霧前における噴霧液の温度より上昇しない高さに加温される。よって、スプレーガンの噴霧工程中に、噴霧液が圧縮気体によって加温されることが原因で、噴霧液の引火性・発火性が増加せずに済む。
【0072】
したがって、この方法によれば、スプレーガンの噴霧工程中に、噴霧液の引火性・発火性が増加することが防止されつつ、噴霧液の温度低下が抑制される。その結果、この方法によれば、噴霧液の気化し易さが、引火性・発火性を増すことなく、維持される。
【0073】
(5) 前記気体加温工程は、ヒータを用いて前記圧縮気体を加温し、
前記スプレーガンは、前記圧縮気体の流入を許可する流入許可状態と、阻止する流入阻止状態とに選択的に切り換わり、
当該粒子塗布方法は、さらに、
前記流入許可状態であるか前記流入阻止状態であるかを問わず、前記圧縮気体を前記ヒータに供給する気体供給工程と、
前記流入許可状態と前記流入阻止状態とのうち少なくとも前記流入阻止状態において、前記ヒータを通過した圧縮気体を大気に放出する気体放出工程と
を含む(1)ないし(4)項のいずれかに記載の粒子塗布方法。
【0074】
この方法においては、スプレーガンによって噴霧されるべき圧縮気体がヒータによって加温される。
【0075】
ところで、ヒータからスプレーガンへの圧縮気体の流入が行われている間、圧縮気体の温度管理のため、コントローラがヒータのオンオフ状態を、圧縮気体の温度が許容範囲から逸脱しないように制御するのが通常である。
【0076】
そのコントローラは、通常、ヒータからスプレーガンへの圧縮気体の流入が阻止されるに至ると、ヒータをオフし、それにより、ヒータの使用が停止される。その後、そのヒータは、それを包囲している気体の流れがほぼ静止している状態で、大気に放熱し、それにより、ヒータが自然に冷却される。
【0077】
しかしながら、このようにヒータが自然に空冷される場合には、その空冷開始直後に一時的に、ヒータの温度が上昇してしまう可能性がある。ヒータの温度が、そのヒータの使用停止後に、その使用中より上昇する可能性があるのである。なぜなら、ヒータがオフされた直後に、そのヒータ周辺の気体の流れが静止すると、ヒータ内の熱が放出されずにヒータ内に蓄積されてしまうからである。
【0078】
一方、ヒータは、通常、発熱素子(例えば、ニクロム線)を用いて構成され、その発熱素子が高温状態に長時間維持されることは、発熱素子にとって望ましくない。発熱素子の寿命の低下につながるからである。したがって、ヒータからスプレーガンへの圧縮気体の流入が阻止された後には、ヒータをオフしたうえで、そのヒータの温度が速やかに下降するように工夫することが望ましい。
【0079】
これに対し、本項に係る方法によれば、スプレーガンが流入許可状態であるか流入阻止状態であるかを問わず、圧縮気体がヒータに供給されるとともに、スプレーガンの流入許可状態と流入阻止状態とのうち少なくとも流入阻止状態において、ヒータを通過した圧縮気体が大気に放出される。
【0080】
その結果、この方法によれば、スプレーガンの流入阻止状態(ヒータの使用停止状態)においては、ヒータによって加温されていないために外気温とほぼ等しい温度を有する圧縮気体がそのヒータを通過させられる。それにより、そのヒータは、その圧縮気体によって強制的に空冷される。
【0081】
したがって、この方法によれば、ヒータからスプレーガンへの圧縮気体の流入が阻止されると、ヒータが強制的に空冷され、それにより、そのヒータの温度が速やかに下降する。その結果、ヒータの使用停止後にそのヒータの温度上昇が抑制され、それにより、過熱に起因したヒータの寿命低下が抑制される。
【0082】
(6) 前記気体放出工程は、前記流入許可状態においては、前記ヒータを通過した前記圧縮気体のうち前記スプレーガンに流入しない部分を大気に放出し、一方、前記流入阻止状態においては、前記ヒータを通過した圧縮気体のすべてを大気に放出する(5)項に記載の粒子塗布方法。
【0083】
この方法を実施するために、例えば、ヒータに供給された圧縮気体をスプレーガンに供給するための出口ポートに加えて、その圧縮気体を大気に放出するための出口ポートをヒータに設置し、かつ、後者の出口ポートを常時開放しておけばよい。
【0084】
したがって、この方法によれば、前記(5)項に係る方法を実施するために必要な装置の構造を単純化することが容易となる。
【0085】
(7) 前記気体放出工程は、前記流入許可状態においては、前記ヒータを通過した前記圧縮気体を大気に放出しないが、前記流入阻止状態においては、前記ヒータを通過した前記圧縮気体のすべてを大気に放出する(5)項に記載の粒子塗布方法。
【0086】
この方法によれば、前記(6)項に係る方法とは異なり、スプレーガンの流入許可状態において、加温された圧縮気体の一部が無駄に大気に放出されずに済む。
【0087】
したがって、この方法によれば、スプレーガンの流入許可状態、すなわち、ヒータの使用中に、加温された圧縮気体が大気に漏れずに済むため、ヒータから発生した熱を有効に、スプレーガンに供給されるべき圧縮気体の加温に用いることが可能となる。
【0088】
(8) 前記噴霧工程は、前記スプレーガン内において前記複数の粒子を互いに同じ極性を有するように帯電させる帯電工程を含む(1)ないし(7)項のいずれかに記載の粒子塗布方法。
【0089】
この方法によれば、スプレーガンによって噴霧された複数の粒子がそれぞれ、互いに同じ極性に帯電させられるため、それら粒子が互いに静電気的に反発する。その結果、それら粒子が、飛行中に、互いに分散する傾向が、それら粒子がいずれも、正にも負にも帯電させられていない場合より強い。
【0090】
したがって、この方法によれば、目標表面に付着した複数の粒子の高密度化が容易となる。
【0091】
(9) 前記複数の粒子は、複数の光触媒粒子を含み、それら光触媒粒子は、それぞれの表面において、複数の金属銀粒子を担持している(1)ないし(8)項のいずれかに記載の粒子塗布方法。
【0092】
光触媒粒子は、抗菌効果を有し、同じ効果は、銀イオンも有する。一方、金属銀粒子は、継続的に銀イオンを放出する。
【0093】
以上の知見を前提として、本項に係る方法によれば、前記(1)ないし(8)項のいずれかに係る方法によって塗布される各光触媒粒子が、それの表面上に、複数の金属銀粒子を担持しているものとされる。
【0094】
したがって、この方法によれば、光触媒粒子の抗菌効果に加えて、金属銀粒子の抗菌効果が得られるため、全体として、抗菌効果が向上する。
【0095】
(10) 被塗物の表面に形成された塗膜を複数の粒子でコーティングする光触媒コーティング方法であって、
前記複数の粒子が分散状態で混入している揮発性の噴霧液を加温する溶液加温工程と、
圧縮気体を加温する気体加温工程と、
その加温された圧縮気体を、前記加温された噴霧液と一緒にスプレーガンに供給し、それにより、前記圧縮気体を用いて前記噴霧液を霧化して前記スプレーガンから噴射する噴霧工程であって、前記塗膜が半乾きの状態で、前記噴霧液を前記被塗物に向かって噴射し、それにより、前記複数の粒子を前記塗膜の表面に、各粒子が局部的に前記塗膜の表面に食い込むように塗布するものと
を含み、
前記溶液加温工程および前記気体加温工程は、前記スプレーガンから噴射された前記噴霧液が前記塗膜の表面に到達する前に前記噴霧液が実質的に全体として気化することを前記溶液加温工程および前記気体加温工程が互いに共同して実現する高さの温度に前記噴霧液および前記圧縮気体をそれぞれ加温する光触媒コーティング方法。
【0096】
この方法によれば、塗膜を複数の粒子でコーティングするために、塗膜を形成する塗装工程と、その塗膜を複数の粒子でコーティングするコーティング工程とが、時間的に互いに隔てて行われるのではなく、互いに連続して、すなわち、塗装工程が完了する前、すなわち、その塗装工程によって形成された塗膜が完全に乾燥する前に、コーティング工程が開始され、それにより、その半乾きの塗膜に複数の粒子が塗布されて食い込ませられる。
【0097】
したがって、この方法によれば、塗装工程とコーティング工程とが時間的に互いに隔てて行われる場合より、作業全体に必要な時間や手間が軽減される。
【0098】
さらに、この方法によれば、各粒子が塗膜に部分的に食い込む状態で塗布されるため、予めバインダで包囲された各粒子を完全に乾いた塗膜に塗布する場合より、各粒子が塗膜強固に付着する。したがって、この方法によれば、各粒子が塗膜に付着し続ける持続性および耐久性を容易に向上させ得る。
【0099】
(11) 複数の粒子を目標表面に吹き付けて塗布する粒子塗布装置であって、
前記複数の粒子が分散状態で混入している揮発性の噴霧液を加温する第1のヒータと、
前記噴霧液を霧化するための圧縮気体を加温する第2のヒータと、
前記加温された噴霧液が、前記加温された圧縮気体と一緒に供給されるスプレーガンであって、前記圧縮気体を用いて前記噴霧液を霧化して噴射するものと
を含み、
前記第1および第2のヒータは、前記スプレーガンから噴射された前記噴霧液が前記目標表面に到達する前に前記噴霧液が実質的に全体として気化することを前記第1および第2のヒータが互いに共同して実現する高さの温度に前記噴霧液および前記圧縮気体をそれぞれ加温する粒子塗布装置。
【0100】
(12) さらに、前記第2のヒータによって加温された前記圧縮気体が前記第2のヒータから流出することを可能にする第1および第2の出口ポートを含み、
前記第1の出口ポートからは、前記第2のヒータからの前記圧縮気体が前記スプレーガンに向かって流出し、一方、前記第2の出口ポートからは、前記第2のヒータからの前記圧縮気体が大気に放出される(11)項に記載の粒子塗布装置。
【0101】
この装置によれば、前記(5)または(6)項に係る方法が好適に実施される。
【0102】
(13) さらに、前記第2の出口ポートを、前記流入許可状態においては、閉じ、一方、前記流入阻止状態においては、開くように作動するバルブを含む(12)項に記載の粒子塗布装置。
【0103】
本項において、「バルブ」は、例えば、手動操作弁としたり、電磁操作弁としたり、パイロット操作切換弁として構成することが可能である。
【0104】
(14) 複数の粒子を目標表面に吹き付けて塗布する粒子塗布方法であって、
前記複数の粒子が分散状態で混入している揮発性の噴霧液を加温する溶液加温工程と、
ヒータを用いて圧縮気体を加温する気体加温工程と、
その加温された圧縮気体を、前記加温された噴霧液と一緒にスプレーガンに供給し、それにより、前記圧縮気体を用いて前記噴霧液を霧化して前記スプレーガンから噴射する噴霧工程と
を含む粒子塗布方法。
【0105】
(15) 複数の粒子を目標表面に吹き付けて塗布する粒子塗布方法であって、
前記複数の粒子が分散状態で混入している揮発性の噴霧液を加温する溶液加温工程と、
ヒータを用いて圧縮気体を加温する気体加温工程と、
その加温された圧縮気体を、前記加温された噴霧液と一緒にスプレーガンに供給し、それにより、前記圧縮気体を用いて前記噴霧液を霧化して前記スプレーガンから噴射する噴霧工程であって、前記スプレーガンは、前記圧縮気体の流入を許可する流入許可状態と、阻止する流入阻止状態とに選択的に切り換わるものと、
前記スプレーガンが前記流入許可状態にあるか前記流入阻止状態にあるかを問わず、前記圧縮気体を前記ヒータに供給する気体供給工程と、
前記スプレーガンが前記流入許可状態と前記流入阻止状態とのうち少なくとも前記流入阻止状態にある場合に、前記ヒータを通過した圧縮気体を大気に放出する気体放出工程と
を含む粒子塗布方法。
【0106】
この方法によれば、前記(5)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、基本的に同じ効果が得られる。
【0107】
本発明によれば、さらに、下記の態様も得られる。
【0108】
(態様1) 被塗物の目標表面に複数の粒子を吹き付けて塗布する粒子塗布装置であって、
前記複数の粒子が揮発性溶媒中に分散状態で混入している揮発性の溶液を収容するタンクと、
そのタンク内に収容されている溶液内に複数のマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生装置と、
前記複数のマイクロバブルが混入された前記溶液を加温する溶液加温装置と、
その加温された溶液が供給されると、その溶液を噴霧するスプレーガンと
を含み、
そのスプレーガンは、
前記加温された溶液であって前記複数のマイクロバブルが混入されているものを噴霧液として噴射する噴霧液噴射口と、
その噴霧液噴射口から噴射された噴霧液の進行方向に進むにつれて拡径する円錐面を拡散面として有し、前記噴霧液噴射口から噴射された噴霧液が前記拡散面を通過させられると、その拡散面上に形成される噴霧液層を前記拡散面によって薄膜化し、それにより、前記噴霧液が前記拡散面を通過する途中で前記噴霧液内の前記複数のマイクロバブルを破裂させるデフューザと、
圧縮気体を加温する圧縮気体用ヒータと、
その加温された圧縮気体を前記噴霧空間内に噴射し、その噴射された圧縮気体と、前記噴霧液噴射口から噴射された噴霧液とを合流させ、それにより、前記噴霧液噴射口から噴射された噴霧液の霧化を促進する圧縮気体噴射口と、
前記噴霧空間を側方から包囲する周辺空間より高温である温風を、前記噴霧空間を側方から包囲する環状断面を有する温風シールドが形成されるように噴射し、それにより、前記噴霧空間内の保温を促進し、それにより、前記噴霧液内の揮発成分が前記目標表面に到達する前に気化し、前記複数の粒子が、互いに凝集することなく、互いに分散して空気中を浮遊する状態で前記目標表面に到達することを促進する温風シールド形成装置と
を含む粒子塗布装置。
【0109】
(態様2) 前記複数の粒子は、それぞれの表面上に露出する状態で金属銀粒子を担持している態様1に記載の粒子塗布装置。
【0110】
(態様3) 被塗物の目標表面に複数の粒子を吹き付けて塗布する粒子塗布方法であって、
前記複数の粒子が揮発性溶媒中に分散状態で混入している揮発性の溶液であってタンク内に収容されているものに複数のマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生工程と、
前記複数のマイクロバブルが混入された前記溶液を加温する溶液加温工程と、
その加温された溶液をスプレーガンに供給する供給工程と
を含み、
そのスプレーガンは、噴霧液噴射口と、デフューザと、圧縮気体噴射口と、温風シールド形成装置とを有し、
当該方法は、さらに、
前記スプレーガンに供給された前記加温された溶液であって前記複数のマイクロバブルが混入されているものを前記噴霧液噴射口から噴霧液として噴射し、その噴射された噴霧液を、その噴霧液の進行方向に進むにつれて拡径する円錐面を拡散面として有する前記デフューザのその拡散面を通過させることにより、その拡散面上に形成される噴霧液層を薄膜化し、それにより、前記噴霧液が前記拡散面を通過する途中で前記噴霧液内の前記複数のマイクロバブルを破裂させる噴霧液噴射工程と、
圧縮気体を加温し、その加温された圧縮気体を前記圧縮気体噴射口から前記噴霧空間内に噴射し、それにより、その噴射された圧縮気体と、前記噴霧液噴射口から噴射された噴霧液とを合流させ、それにより、前記噴霧液の霧化を促進する圧縮気体噴射工程と、
前記温風シールド形成装置により、前記噴霧空間を側方から包囲する周辺空間より高温である温風を、前記噴霧空間を側方から包囲する環状断面を有する温風シールドが形成されるように噴射し、それにより、前記噴霧空間内の保温を促進し、それにより、前記噴霧液内の揮発成分が前記目標表面に到達する前に気化し、前記複数の粒子が、互いに凝集することなく、互いに分散して空気中を浮遊する状態で前記目標表面に到達することを促進する温風シールド形成工程と
を含む粒子塗布方法。
【0111】
(態様4) 前記複数の粒子は、それぞれの表面上に露出する状態で金属銀粒子を担持している態様3に記載の粒子塗布方法。
【0112】
(態様5) 複数の粒子を目標表面に吹き付けて塗布する粒子塗布装置であって、
前記複数の粒子が揮発性溶媒中に分散状態で混入している噴霧液を第1の温度に加温する第1のヒータと、
圧縮気体を前記第1の温度以上である第2の温度に加温する第2のヒータと、
前記加温された噴霧液が、前記加温された圧縮気体と一緒に供給されると、その圧縮気体を用いて前記噴霧液を噴霧空間内に噴霧するスプレーガンと
を含み、
そのスプレーガンは、
前記第2のヒータと当該スプレーガンとの間に設けられ、前記第2のヒータから供給される前記圧縮気体の一部を当該スプレーガンに供給し、別の一部を大気に放出するヒータ安全装置と、
前記噴霧空間内に、前記加温された噴霧液を噴射する噴霧液噴射口と、
前記噴霧空間内に、前記加温された圧縮気体を噴射する圧縮気体噴射口と、
前記スプレーガンを正面から見た場合に、前記噴霧液噴射口および前記圧縮気体噴射口から側方に外れた位置に配置され、前記噴霧空間を側方から包囲する周辺空間より高温である温風を前方に噴射し、それにより、前記噴霧空間を側方から包囲する環状断面を有する温風シールドを形成する温風噴射口と
を含む粒子塗布装置。
【0113】
(態様6) 複数の粒子を目標表面に吹き付けて塗布する粒子塗布装置であって、
前記複数の粒子が揮発性溶媒中に分散状態で混入している噴霧液を第1の温度に加温する第1のヒータと、
圧縮気体を前記第1の温度以上である第2の温度に加温する第2のヒータと、
前記加温された噴霧液が、前記加温された圧縮気体と一緒に供給されると、その圧縮気体を用いて前記噴霧液を噴霧空間内に噴霧するスプレーガンと
を含み、
そのスプレーガンは、
前記噴霧空間内に、前記加温された噴霧液を噴射する噴霧液噴射口と、
前記噴霧空間内に、前記加温された圧縮気体を噴射する圧縮気体噴射口と、
前記スプレーガンを正面から見た場合に、前記噴霧液噴射口および前記圧縮気体噴射口から側方に外れた位置に配置され、前記噴霧空間を側方から包囲する周辺空間より高温である温風を前方に噴射し、それにより、前記噴霧空間を側方から包囲する環状断面を有する温風シールドを形成する温風噴射口と、
前記第2のヒータと前記圧縮気体噴射口との間に設けられ、前記加温された圧縮気体の一部を前記圧縮気体噴射口に供給する第1通路と、
前記第2のヒータと前記温風噴射口との間に設けられ、前記加温された圧縮気体の別の一部を前記温風噴射口に供給する第2通路と
を含む粒子塗布装置。
【0114】
(態様7) 前記第1の温度は、30℃〜50℃の範囲内にあり、
前記第2の温度は、50℃〜70℃の範囲内にある態様5または6に記載の粒子塗布装置。
【0115】
(態様8) 前記スプレーガンの噴霧後における前記噴霧液の温度は、前記スプレーガンの噴霧前における温度より上昇しない態様5ないし7のいずれかに記載の粒子塗布装置。
【図面の簡単な説明】
【0116】
図1】本発明の第1実施形態に従う光触媒粒子塗布装置の構成を概念的に表す系統図である。
図2図1に示すスプレーガンのうちのヘッドを拡大して示す側面断面図である。
図3図2に示すヘッドを示す正面図である。
図4図4(a)は、図1に示すスプレーガンの作動を模式的に説明するための側面図であり、図4(b)は、図4(a)に示すスプレーガンを示す正面図である。
図5図1に示すスプレーガンを拡大して示す側面図である。
図6図1に示す溶液加温装置の構成を概念的に表す機能ブロック図である。
図7図1に示すヒータ安全装置を拡大して示す側面断面図である。
図8図2に示すヘッドのうちの要部を拡大して示す側面断面図である。
図9図1に示す光触媒粒子塗布装置の塗布開始処理を表す工程図である。
図10図1に示す前記光触媒粒子塗布装置の塗布終了処理を表す工程図である。
図11】前記光触媒粒子塗布方法を表す工程図である。
図12】前記光触媒粒子塗布方法によって塗布される抗菌性微粒子を拡大して示す正面図である。
図13】前記光触媒粒子塗布方法によって抗菌性微粒子が目標表面に塗布される原理を説明するための概念図である。
図14】前記光触媒粒子塗布方法によって抗菌性微粒子が目標表面に塗布される原理を説明するための別の概念図である。
図15】従来の方法によって抗菌性微粒子が目標表面に付着される原理を説明するための概念図である。
図16】前記光触媒粒子塗布方法によって抗菌性微粒子が目標表面に付着される原理を説明するための概念図である。
図17】前記光触媒粒子塗布方法によって複数の抗菌性微粒子が目標表面上に高密度で均一に付着される様子を説明するための概念図である。
図18】前記光触媒粒子塗布方法によって複数の抗菌性微粒子が目標表面上に高密度で均一に付着される様子を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0117】
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のうちのいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
【0118】
図1は、本発明の一実施形態に従う光触媒粒子塗布装置(以下、単に「塗布装置」という。)10の構成を概念的に表す系統図である。塗布装置10は、複数の抗菌性微粒子を目標表面に吹き付けて塗布する方法を実施するために用いられる。
【0119】
本実施形態においては、「抗菌性微粒子」が、前記光触媒粒子の一例であるとともに、前記粒子の一例である。抗菌性微粒子は、光触媒粒子のいくつかの性質のうち特に抗菌性を積極的に利用するために用いられる。本実施形態においては、各抗菌性微粒子が、それの表面において、金属銀粒子を担持している。金属銀粒子は、抗菌性微粒子と共同して、抗菌作用を向上させる。
【0120】
本実施形態においては、金属銀粒子を担持している抗菌性微粒子、すなわち、銀担持二酸化チタンが使用されるが、この種の抗菌剤の製法は、例えば特開2001−81409号公報に開示されており、その公報は引用によって本明細書に合体させられる。また、この種の抗菌剤は、例えば、大同特殊鋼株式会社が開発した抗菌剤(商品名:「光ギンテック」)である。また、この種の抗菌剤は、例えば、帯電可能であれば、その種類の如何を問われない。
【0121】
この塗布装置10は、被塗物の表面に形成された半乾きの塗膜を複数の抗菌性微粒子(以下、単に「粒子」という。)でコーティングする用途に使用することが可能である。また、この塗布装置10は、完全に乾燥している目標表面にバインダを塗布した後に、そのバインダの表面に複数の粒子を塗布する用途に使用することも可能である。
【0122】
まず、図1ないし図8を参照することにより、この塗布装置10の構成を説明する。
【0123】
図1に示すように、この塗布装置10は、湿式かつ吹き付けにより、複数の粒子を目標表面に塗布するために使用される。
【0124】
具体的には、この塗布装置10は、圧縮空気を、複数の粒子が揮発性媒質の一例であるエチルアルコール内に分散状態で混入している噴霧液(以下、「アルコール溶液」という。)と一緒にスプレーガン12に供給し、それにより、圧縮空気を用いてアルコール溶液を霧化してスプレーガン12から噴霧空間内に噴射するために使用される。その噴霧空間は、スプレーガン12の前方に位置する空間である。
【0125】
本実施形態においては、「アルコール溶液」が、前記揮発性の噴霧液の一例であり、また、「圧縮空気」が、前記圧縮気体の一例である。
【0126】
図2に拡大して示すように、スプレーガン12は、作業者の手で握られて使用される手持ち型であり、水平に延びる本体部14と、その本体部14の後端部から垂下するグリップ16とを備えている。
【0127】
このスプレーガン12は、例えば特開2004−267960号公報に開示されており、その公報は引用によって本明細書に合体させられる。
【0128】
図2に示すように、このスプレーガン12は、本体部14の前端部であるヘッド18において、アルコール溶液を噴射空間内に噴射するためのノズル20を有する。そのノズル20は、中心線を有する。そのノズル20は、噴霧液の出口20a(前記噴霧液噴射口の一例を構成する)を有する。その出口20aの口径は、例えば、約0.8〜約1.6mmの範囲内にある。
【0129】
このスプレーガン12がアルコール溶液をノズル20から噴射する際の圧力は、例えば、約0.5〜約1.5kg/cmの範囲内にある。
【0130】
図2および図4(b)に示すように、このスプレーガン12は、ヘッド18において、さらに、圧縮空気を噴射空間内に噴射するための複数の空気噴射穴22であってノズル20の中心線と同軸である一円周に沿ってほぼ等間隔で配置されたもの(それぞれ、前記圧縮気体噴射口の一例を構成する)を有する。このスプレーガン12が各空気噴射穴22から圧縮空気を噴射する際の圧力は、例えば、約1.5〜約3.0kg/cmの範囲内にある。
【0131】
図2および図4(b)に示すように、このスプレーガン12は、ヘッド18において、さらに、圧縮空気を噴射空間内に噴射するための複数の空気噴射穴23であってノズル20の中心線に対して半径方向外向きに、空気噴射穴22の位置より外れた複数の位置にノズル20の中心線に対して点対称的に配置されたもの(それぞれ、前記圧縮気体噴射口の別の例を構成する)を有する。このスプレーガン12が各空気噴射穴23から圧縮空気を噴射する際の圧力は、例えば、約1.5〜約3.0kg/cmの範囲内にある。
【0132】
複数の空気噴射穴22も23も、ノズル20から噴射された噴霧液の霧化を促進する機能を有するが、複数の空気噴射穴22は、ノズル20から噴射される噴霧液の方向に概して平行に圧縮空気を噴射するように配向されているのに対し、複数の空気噴射穴23は、ノズル20から噴射される噴霧液に概して同じ角度で交差するように圧縮空気を噴射するように配向されている。それら空気噴射穴23から噴射された圧縮空気と、ノズル20から噴射された噴霧液とは、概して同じ1つの位置において互いに合流するようになっている。
【0133】
図1ないし図3に示すように、このスプレーガン12は、ヘッド18において、さらに、温風シールド形成装置24を有する。この温風シールド形成装置24は、温風を噴射することにより、温風シールドを形成する機能を有する。この温風シールド形成装置24により、前述の温風シールド形成工程が実行される。この温風シールド形成装置24の詳細は、後に詳述する。
【0134】
図2および図8に示すように、このスプレーガン12は、ヘッド18において、さらに、デフューザ25を有する。このデフューザ25は、ノズル20から噴射された噴霧液を拡散させる機能を有する。このデフューザ25の詳細も、後に詳述する。
【0135】
このスプレーガン12は、さらに、ノズル20から噴射されるアルコール溶液の量を調整するための調整弁(図示しない)と、空気噴射穴22および23に圧縮空気を供給するための空気通路(図示しない)と、その空気通路を開閉するための空気バルブ(図示しない)とを有する。
【0136】
図5に示すように、このスプレーガン12は、さらに、作業者によって操作されるトリガ25と、そのトリガ25がガードするトリガガード26とを備えている。前記調整弁および前記空気バルブはそれぞれ、リンク機構(図示しない)を介して、トリガ25の操作に機械的に連動させられる。
【0137】
このスプレーガン12は、アルコール溶液のノズル20への流入および圧縮空気の空気噴射穴22,23への流入を許可する流入許可状態と、阻止する流入阻止状態とに選択的に切り換わる。このスプレーガン12は、作業者によってトリガ25が引かれると、初期状態である流入阻止状態から流入許可状態に切り換わり、その後、トリガ25の操作が解除されると、流入許可状態から流入阻止状態に復元する。
【0138】
このスプレーガン12は、さらに、ノズル20から噴射された霧状のアルコール溶液、すなわち、アルコール溶液の複数の粒(液滴)をそれぞれ、互いに同じ極性(本実施形態においては、正)であるように帯電させる電極(図示しない)を有する帯電装置(図示しない)を備えている。その帯電装置が使用する電圧は、例えば、約25〜約60kVの範囲内にある。
【0139】
そのため、このスプレーガン12は、図5に示すように、外部からアルコール溶液を取り込むためのホース接続口30と、外部から圧縮空気を取り込み、その圧縮空気を最終的に空気噴射穴22および23に供給するための空気接続口32と、外部から圧縮空気を取り込み、その圧縮空気を最終的に温風シールド形成装置24に供給するための空気接続口33と、外部から電気を取り込むためのケーブル接続口34とを備えている。
【0140】
図1に示すように、このスプレーガン12は、ホース接続口30において、アルコール溶液が流れるフレキシブルなホース36の一端部に接続されている。そのホース36の他端部には、アルコール溶液を加温するための溶液加温装置40、圧送ポンプ42および材料タンク44がそれらの順に直列に接続されている。
【0141】
材料タンク44は、複数の粒子が分散状態で混入しているアルコール溶液を圧力下に収容する。材料タンク44に収容されるアルコール溶液は、粒子が希薄過ぎて実用的な抗菌作用が得られるないことも、粒子が濃厚過ぎて互いに凝集して沈降することもないように、例えば、アルコール100重量部に対して約0.1〜約3.0重量部の粒子を含有するように調整される。粒子の実用的な抗菌作用と適度な分散性との双方を実現するために、材料タンク44に収容されるアルコール溶液は、例えば、アルコール100重量部に対して約0.2〜約0.6重量部の粒子を含有するように調整することが望ましい。
【0142】
圧送ポンプ42は、いわゆる循環式であって、主電源50から供給される電力によって作動し、それにより、材料タンク44(例えば、材料タンク44内の上部空間)を加圧し、それにより、材料タンク44(例えば、材料タンク44の底部)からアルコール溶液を押し出して溶液加温装置40に供給する。その結果、アルコール溶液は、圧力下に、スプレーガン12のホース36接続口30に供給される。溶液加温装置40も、主電源50から供給される電力によって作動する。
【0143】
図1に示すように、材料タンク44にマイクロバブル発生装置48が装着されている。マイクロバブル発生装置48も、主電源50から供給される電力によって作動する。マイクロバブル発生装置48は、外部から空気を取り込み、その空気と、材料タンク44から取り込んだアルコール溶液とをポンプによって混合させ、それにより、アルコール溶液内に、空気を、直径0.1〜0.01mmの複数の気泡に超微細化された状態で混入させる。材料タンク44に収容されるアルコール溶液は、例えば、アルコール100容積部に対して約5〜約10容積部のマイクロバブルを含有するように調整することが望ましい。
【0144】
図6にブロック図で概念的に表すように、溶液加温装置40は、圧送ポンプ42から供給されたアルコール溶液を加温するための溶液ヒータ52と、その溶液ヒータ52によって加温されたアルコール溶液の温度(以下、「溶液温度」という。)を制御するための溶液温度コントローラ54と、溶液温度を検出する溶液温度センサ56とを備えている。
【0145】
その溶液温度センサ56は、溶液ヒータ52内をアルコール溶液が流れる溶液通路のうちの最下流位置かまたはそれの近傍位置に配置されることが、溶液温度を高精度で検出するために望ましい。
【0146】
溶液温度コントローラ54は、溶液温度センサ56によって検出された溶液温度を監視することにより、その溶液温度の実際値が許容範囲内にあるように、溶液ヒータ52と主電源50との間における電流の流れを制御する。この溶液温度コントローラ54は、溶液温度が、例えば、約30〜約50℃の範囲内にあるように、溶液ヒータ52のオンオフ状態を制御する。
【0147】
図1に示すように、スプレーガン12は、空気接続口32において、ヒータ安全装置60、および圧縮空気を加温する空気ヒータ62にそれらの順に接続されている。また、スプレーガン12は、空気接続口33において、ホース63、ヒータ安全装置60および空気ヒータ62にそれらの順に接続されている。空気ヒータ62によって加温された圧縮空気は、空気接続口32および33の双方に供給され、ひいては、空気噴射穴22および23と、温風シールド形成装置24との双方に供給される。
【0148】
本実施形態においては、ヒータ安全装置60および空気ヒータ62が、スプレーガン12に一体的に装着されている。したがって、作業者は、スプレーガン12を、それらヒータ安全装置60および空気ヒータ62と共に、手で持って移動させることになる。すなわち、空気ヒータ62は、作業場所に設置される設置型ではなく、作業者と共に移動する可搬型(移動型)なのである。
【0149】
このように、本実施形態においては、空気ヒータ62が、長いホースを介することなく、スプレーガン12に装着されているため、ホースを介してスプレーガン12に装着される場合より、加温された圧縮空気が空気ヒータ62からスプレーガン12まで移動する間に圧縮空気の温度が伝熱等によって低下する量が減少する。
【0150】
さらに、本実施形態においては、空気ヒータ62が、スプレーガン12に内蔵されているのではなく、外付けされているため、内蔵されている場合より、作業者によって握られるスプレーガン12自体の温度上昇が抑制される。このことによっても、作業者の安全性が向上する。
【0151】
この空気ヒータ62単体の構成は、例えば特開平9−277040号公報に開示されており、その公報は引用によって本明細書に合体させられる。
【0152】
図7に拡大して示すように、この空気ヒータ62は、中空の発熱部64を有している。その発熱部64は、図示しないが、互いに同軸な内筒と外筒とが、軸方向において互いに対向する一対の円環状の側板によって結合されて構成されている。この発熱部64内の筒状の空間に、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する発熱素子としてのコイル状のニクロム線が、同軸的に配置されている。
【0153】
空気ヒータ62は、さらに、発熱部64の中心を同軸的に円形断面で貫通する空気通路66を有している。この空気通路66内を圧縮空気が上流側から下流側に向かって一方向に、発熱部64によって加熱されつつ流れる。その空気通路66のヒータ出口68と、スプレーガン12の空気接続口32とに、ヒータ安全装置60の両端部がそれぞれ接続されている。
【0154】
そのヒータ安全装置60は、主通路70を形成する本体部72と、その本体部72から分岐した枝部74であって、主通路70から分岐した枝通路76を形成するものとを備えている。主通路70の両端部が、空気接続口32とヒータ出口68とにそれぞれ接続されている。枝通路76の先端部は、大気に開放されている。
【0155】
図7に示されていないが、図1から明らかなように、主通路70の中央部(他の部位でも可)がホース63の一端部に接続されており、そのホース63の他端部が、図1に示すように、空気接続口33に接続されている。その結果、空気ヒータ62によって加温された圧縮空気が、空気接続口32のみならず、空気接続口33にも供給される。
【0156】
したがって、スプレーガン12が前記流入許可状態にあるために圧縮空気が空気ヒータ62を通過すると、その圧縮空気は、主通路70を経て、スプレーガン12に供給される。この際、空気ヒータ62を通過した圧縮空気の一部は、枝通路76を経て、大気に放出される。
【0157】
これに対し、スプレーガン12が前記流入阻止状態に移行する(それに伴い、空気ヒータ62はオフされる)と、後述のように、それにもかかわらず、圧縮空気が空気ヒータ62に供給し続けられるようになっているため、今度は、空気ヒータ62を通過した圧縮空気のすべてが、枝通路76を経て、大気に放出される。これにより、空気ヒータ62が強制的に空冷される。
【0158】
図1に示すように、空気ヒータ62は、空気通路66の入口78において、フレキシブルなホース80を介して、コンプレッサ82に接続されている。コンプレッサ82は、主電源50から供給される電力によって作動し、それにより、周辺の空気を吸い込んでそれを圧縮空気として空気ヒータ62に供給する。
【0159】
このコンプレッサ82は、スプレーガン12のトリガ25と連動しておらず、トリガ25の操作が解除されても、コンプレッサ82の電源がオンである限り、このコンプレッサ82は、圧縮空気を空気ヒータ62に供給し続ける。
【0160】
図1に示すように、空気ヒータ62には、その空気ヒータ62によって加温された圧縮空気の温度(以下、「空気温度」という。)を検出する空気温度センサ(例えば、熱電対)84が装着されている。
【0161】
その空気温度センサ84は、空気ヒータ62内の空気通路66のうちの最下流位置かまたはそれの近傍位置に配置することが、空気温度を高精度で検出するために望ましい。
【0162】
図1に示すように、空気ヒータ62および空気温度センサ84に、空気温度コントローラ90が電気的に接続されている。この空気温度コントローラ90は、空気温度センサ84によって検出された空気温度を監視することにより、その空気温度の実際値が許容範囲内にあるように、空気ヒータ62と主電源50との間における電流の流れを制御する。この空気温度コントローラ90は、空気温度が、例えば、約50〜約70℃の範囲内にあるように、空気ヒータ62を制御する。
【0163】
図1に示すように、スプレーガン12は、ケーブル接続口34において、電気ケーブル90を介して、静電発生器94に接続されている。その静電発生器94は、主電源50から供給される電力によって作動し、それにより、正の電荷(負の電荷でも可)を発生させて、その発生した電荷を前記帯電装置の電極に供給する。
【0164】
ここで、図2ないし図4を参照することにより、温風シールド形成装置24の一例を具体的に説明する。
【0165】
まず、機能を説明するに、この温風シールド形成装置24は、ヘッド18の前方に設定された噴霧空間SSを側方から包囲する周辺空間ASより高温である温風を、噴霧空間SSを側方から包囲する環状断面を有する温風シールドHSDが形成されるように噴射し、それにより、噴霧空間SS内の保温を促進する。
【0166】
次に、その機能を実現するための構成を説明するに、この温風シールド形成装置24は、ヘッド18に装着される本体部200を有する。その本体部200は、環状を成しており、ヘッド18の外側ハウジング202を側方から包囲するように、その外側ハウジング202に装着される。
【0167】
本体部200は、ノズル20と同軸である一円周に沿って並んだ複数のノズル210を有する。本体部200は、各ノズル210の出口212(前記温風噴射口の一例を構成する)から温風をヘッド18の前方に噴射することにより、図4(a)および図4(b)に示すように、温風シールドHSDを形成するものである。
【0168】
図3に示すように、本体部200は、複数のノズル210を互いに連通させる連通路214を有しており、その連通路214は空気接続口33に連通している。その連通路214は、ヘッド18の外側ハウジング202を側方から包囲するように、その外側ハウジング202と同心の一円周に沿って延びている。
【0169】
図4に示すように、複数のノズル210は、一円周に沿って等角度間隔で配列されている。各ノズル210の中心線は、ノズル20の中心線に対して平行な方向に延びるように配向することが可能であるが、これに代えて、ノズル20の中心線に対して非平行な方向に延びるように配向することが可能である。例えば、複数のノズル210のそれぞれの中心線は、互いに共同して末広がり状となるように配向したり、互いに共同して先細い状となるように配向することが可能である。
【0170】
各ノズル210の出口の口径は、例えば、約1.0〜約2.0mmの範囲内にある。また、このスプレーガン12が各ノズル210から圧縮空気を噴射する際の圧力は、例えば、約1.5〜約3.0kg/cmの範囲内にある。
【0171】
各ノズル210が、ノズル20に対して平行な方向に延びるように配向される例においては、筒状の温風シールドHSDが形成される。これに対し、各ノズル210が、ノズル20に対して平行にそのノズル20から遠ざかる方向に移動するにつれてそのノズル20の中心線との距離が増加するように配向される例においては、図4(a)に示すように、末広がり状の温風シールドHSDが形成されることになる。
【0172】
次に、温風シールドHSDの熱力学的効果を説明する。
【0173】
まず、周辺空間ASの温度と比較するに、温風シールドHSDの温度は、周辺空間ASより高温である。
【0174】
次に、噴霧空間SSの温度との比較に先立ち、噴霧空間SS内において発生する現象を説明するに、噴霧空間SS内には、温風シールドHSDを形成する温風と同じ圧縮空気が複数の空気噴射穴22および23から噴射されるため、周辺空気ASより高温となる可能性がある。しかし、ノズル20から噴射される噴霧液(アルコール溶液)が揮発性を有するアルコール溶液であるため、その噴霧液は、その飛行中に、霧化されると同時に気化する。そのため、その気化熱が噴霧空間SS内の空気から奪われ、その結果、噴霧空間SSの温度が、温風シールドHSDほどに高温にならない可能性がある。
【0175】
そうすると、噴霧空間SSが側方から温風シールドHSDで包囲される結果、噴霧空間SSの温度が、温風シールドHSDが存在しない場合より上昇する。噴霧空間SSの温度が高いほど、多くの気化熱を噴霧液に与えることが可能となり、その結果、その噴霧液が気化するまでに飛行することが必要な距離が短縮する。
【0176】
そうすると、その噴霧液内の揮発成分が、その噴霧液に含有されている複数の微粒子が塗布されるべき目標表面に到達する前に、実質的に完全に気化し、複数の微粒子のみが、互いに凝集することなく、互いに分散して空気中を浮遊する状態で、目標表面に到達することが促進される。
【0177】
次に、図2および図8を参照することにより、デフューザ25の一例を具体的に説明する。
【0178】
まず、機能を説明するに、このデフューザ25は、ノズル20から噴射された噴霧液を機械部品によって拡散させる。
【0179】
次に、その機能を実現するための構成を説明するに、このデフューザ25は、ノズル20の出口20aの前方にそのノズル20と同軸に設置されたコーン300を有する。そのコーン300は、ノズル20の出口20aから、噴霧液の進行方向に遠ざかるにつれて断面の直径が増加する金属製の逆円錐面302を機械的な拡散面として有する。このコーン300は、ノズル20と同軸的に延びるように配向されるとともに、ノズル20の出口20aに対して一定の相対位置を有する位置に配置されている。
【0180】
そのような配置を実現するために、このコーン300は、位置決め部材310によってヘッド18に装着される。その位置決め部材310の一例は、ノズル20内をそれと同軸的に延びる金属製のロッドである。そのロッドは、ヘッド18に固定的に連結されている。
【0181】
次に、作用効果を図8を参照しつつ説明するに、このデフューザ25は、ノズル20から噴射される噴霧液の流れの中央部に、その噴霧液の流れの逆方向に食い込むことにより、その噴霧液を、流れの順方向に沿って拡径するテーパ状を成すように、デフューザ25の逆円錐面302に沿って進行させる。その結果、噴霧液は、デフューザ25の中心線に沿って並んだ複数の仮想点のそれぞれを通過する複数の仮想平面で切断すると、噴霧液の各断面は、互いに同心である内円と外円とにより画定される環状を成す。
【0182】
噴霧液について発生する複数の環状断面は、流れの順方向に沿って拡径する。一方、噴霧液は、いずれの仮想点についても、流量が一定であるから、各環状断面の面積も一定である。これに対し、各環状断面の内円および外円の周長は、流れの順方向につれて増加する。その結果、各環状断面の厚さ、すなわち、デフューザ25の表面を覆う噴霧液層の厚さは、流れの順方向に沿って減少する。すなわち、噴霧液層が、流れの順方向につれて薄膜化するのである。
【0183】
このように、噴霧液層の薄膜化が行われると、噴霧液がデフューザ25から退出した後またはデフューザ25を通過する途中で、その噴霧液が噴霧空間内において、より多数の、より小径の微粒子に分散してミスト化する傾向が増す。一方、噴霧液のミストの各微粒子(ミスト内微粒子)が微細化するほど、各ミスト内微粒子が気化し易くなる。
【0184】
図8に示すように、その噴霧液層には、複数のマイクロバブルが混入されている。その結果、噴霧液は、そのようなマイクロバブルが混入されていない場合に比較し、複数のセグメントに分断される傾向(液体が複数のバブルによって複数の液体部分に分断される傾向)が強い。さらに、噴霧液が下流側に進行するにつれて噴霧液層の厚さが1個のマイクロバブルの直径に近づくにつれ、その噴霧液層を構成する噴霧液が複数のセグメントに分断される傾向がさらに強化される。
【0185】
このように、噴霧液に複数のマイクロバブルが混入されていると、噴霧液の分断傾向が増し、噴霧液がデフューザ25から退出した後またはデフューザ25を通過する途中で、マイクロバブルが破裂し、その噴霧液が噴霧空間内において、より多数の、より小径の微粒子に分散してミスト化する傾向が増す。一方、上述のように、噴霧液のミスト(以下、「噴霧ミスト」という。)の各微粒子(ミスト内微粒子)が微細化するほど、各ミスト内微粒子が気化し易くなる。
【0186】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、デフューザ25による噴霧液の拡散効果と、複数のマイクロバブルを噴霧液に混入させることによる噴霧液の分断効果と、温風シールドによる噴霧空間の保温効果との共同により、噴霧ミストを構成する複数のミスト内微粒子の各々の微細化が促進される。それにより、各粒子の完全気化時間の短縮化、すなわち、噴霧液が完全に気化するためにその噴霧液が噴霧空間内を飛行しなければならない飛行距離の短縮化が促進される。
【0187】
次に、図9ないし図11を参照することにより、この塗布装置10の作動を説明する。
【0188】
図9に示すように、作業者は、塗布作業を開始するために、まず、ステップS1において、主電源50をオンにし、次に、ステップS2において、コンプレッサ82をオンにし、続いて、ステップS3において、空気温度コントローラ90をオンにする。作業者は、その後、ステップS4において、圧送ポンプ42をオンにし、続いて、ステップS5において、溶液加温装置40をオンにする。以上で、この塗布装置10は、待機状態に移行する。
【0189】
作業者が未だスプレーガン12のトリガ25を引かない状態においては、ステップS6の判定がNOとなり、ステップS7において、スプレーガン12が流入阻止状態に維持される。これに対し、作業者がスプレーガン12のトリガ25を引くと、ステップS6の判定がYESとなり、ステップS8において、スプレーガン12が流入許可状態に移行する。
【0190】
その結果、ステップS9において、空気ヒータ62によって加温された圧縮空気が、溶液ヒータ52によって加温されたアルコール溶液と一緒にスプレーガン12に供給される。それにより、圧縮空気を用いてアルコール溶液が霧化されてスプレーガン12から、図示しない目標表面に向かって噴霧される。
【0191】
その後、作業者がスプレーガン12のトリガ25から手を離せば、スプレーガン12が流入阻止状態に復元し、それにより、アルコール溶液の噴霧が終了する。
【0192】
図10に示すように、作業者は、塗布作業を終了するために、まず、ステップS11において、空気温度コントローラ90をオフにする。これにより、主電源50から空気ヒータ62への電力供給が遮断される。しかし、空気ヒータ62には余熱が存在する。次に、作業者は、ステップS12において、圧送ポンプ42をオフにし、続いて、ステップS13において、溶液加温装置40をオフにする。
【0193】
現時点では、コンプレッサ82は、作動し続けており、空気ヒータ62を通過した圧縮空気のすべては、図4に示すように、枝通路76から大気に放出される。これにより、圧縮空気が、本来の用途ではない空冷という用途に用いれらて、空気ヒータ62が強制的に空冷される。その結果、空気ヒータ62の温度が速やかに常温に戻り、空気ヒータ62が無駄に加熱されずに済む。
【0194】
以上のようにして空気ヒータ62の冷却が終了したと作業者が判断すると、ステップS14の判定がYESとなり、作業者は、ステップS15において、コンプレッサ82をオフにする。それにより、空気ヒータ62への圧縮空気の供給が停止する。続いて、作業者は、ステップS16において、主電源50をオフにする。以上で、塗布作業が終了し、それにより、塗布装置10が初期状態に復元する。
【0195】
図11には、この塗布装置10を用いて塗布作業を行う場合に実施される複数の工程が経時的に示されている。
【0196】
まず、複数の粒子が分散状態で混入しているアルコール溶液を加温する溶液加温工程S101が存在する。さらに、スプレーガン12が流入許可状態にあるか流入阻止状態にあるかを問わず、圧縮空気を空気ヒータ62に供給する気体供給工程S102が存在する。さらに、その供給された圧縮空気を空気ヒータ62を用いて加温する気体加温工程S103が存在する。
【0197】
さらに、スプレーガン12の流入許可状態と流入阻止状態とのうち少なくとも流入阻止状態において、空気ヒータ62を通過した圧縮空気を大気に放出する気体放出工程S104が存在する。
【0198】
さらに、加温された圧縮空気を、加温されたアルコール溶液と一緒にスプレーガン12に供給し、それにより、圧縮空気を用いてアルコール溶液を霧化してスプレーガン12から噴射する噴霧工程S105が存在する。この噴霧工程S105は、スプレーガン12内において複数の粒子をそれぞれ、互いに同じ極性を有するように帯電させる帯電工程S106を有している。
【0199】
次に、図12ないし図18を参照することにより、この塗布装置10を用いて実施される塗布方法および塗布された抗菌剤微粒子の抗菌効果を、抗菌剤微粒子の挙動に着目することにより、説明する。
【0200】
図12には、1個の抗菌剤微粒子(「抗菌性微粒子」ともいう。)の外形が拡大して概念的に示されている。この抗菌剤微粒子の直径は、約80nm(例えば、約80〜約100nm)である。このように抗菌剤微粒子の直径がナノサイズであるため、それより直径が小さい場合より、合計重量が同じ複数の抗菌剤微粒子全体についての合計表面積が増加する。これは、抗菌効果の向上に寄与する。
【0201】
この抗菌剤微粒子は、前述のように、それの表面上に、複数の金属銀粒子を担持している。抗菌剤微粒子は、光を受けない限り触媒作用を行い得ないのに対し、金属銀は、光を必要とはせずに抗菌作用を発揮する。したがって、金属銀は、抗菌剤微粒子の触媒作用を増強する。
【0202】
図13に概念的に示すように、スプレーガン12から噴霧されたアルコール溶液は、飛行中に気化し、その気化が完了した後に、複数の抗菌剤微粒子(本実施形態においては、正に帯電している)が目標表面に到達する。本実施形態においては、目標表面は、被塗物の表面上に焼付け塗布された塗膜の表面であり、その塗膜が半乾きの状態で、複数の抗菌剤微粒子がその塗膜に付着させられる。
【0203】
本実施形態においては、アルコール溶液および圧縮空気のスプレーガン12への供給に先立ち、スプレーガン12から噴射されたアルコール溶液が目標表面に到達する前にそのアルコール溶液が実質的に完全に蒸発することをアルコール溶液の加温と圧縮空気の加温とが互いに共同して実現する高さの温度に、アルコール溶液および圧縮空気がそれぞれ加温される。
【0204】
具体的には、前述のように、本実施形態においては、圧縮空気が、アルコール溶液が加温される温度(約30〜約50℃)と等しいかまたはそれより高い温度(約50〜約70℃)に加温される。
【0205】
その結果、本実施形態によれば、アルコール溶液は、スプレーガン12によって噴霧された後、目標表面に到達するまでに、完全に蒸発し、その結果、もとのアルコール溶液に含有されていた複数の抗菌剤微粒子がすべて、各々単独で、空気中を飛行させられ、その状態で目標表面に到達することが保証される。複数の抗菌剤微粒子が目標表面に到達するまでに実質的に完全に揮発性媒質が気化するためにアルコール溶液が飛行しなければならない飛行距離(噴霧距離)の最小値は、例えば、約50〜約60cm程度である。
【0206】
図14に概念的に表すように、スプレーガン12から噴霧されたアルコール溶液は、目標表面に到達するまでの過程において形態が時間的に変化する。
【0207】
アルコール溶液は、スプレーガン12から噴霧された直後にあっては、霧状を成していて、複数の粒(液滴)の集まりとして存在している。各粒中には、いずれも正(負でも可)に帯電させられた複数の粒子が互いに凝集して存在している。
【0208】
前述のように、本実施形態においては、スプレーガン12への供給に先立ち、アルコール溶液のみならず圧縮空気も加温される。したがって、各粒からはアルコールが蒸発し、複数の抗菌剤微粒子は、粒による束縛から解放される。その結果、複数の抗菌剤微粒子は、互いに分散する。
【0209】
そして、本実施形態においては、いずれの抗菌剤微粒子も同極に帯電させられているため、互いに静電的に反発する。その結果、それら抗菌剤微粒子は、互いに分散する傾向を強める。それら抗菌剤微粒子は、半乾きの塗膜の表面に、高密度かつ均一に分散した状態で付着する。
【0210】
一従来例においては、図15に示すように、目標表面である被塗物表面への付着に先立ち、各抗菌剤微粒子の表面が液状のバインダでコーティングされる。目標表面に付着して乾燥が行われると、各抗菌剤微粒子は目標表面に固着するが、バインダが、意に反して、各抗菌剤微粒子の表面に残留してしまう。その結果、各抗菌剤微粒子の有効表面積(有効露出面積)が減少してしまう。その残留したバインダは、各抗菌剤微粒子が、抗菌作用を施す対象物との接触を邪魔して、各抗菌剤微粒子の抗菌作用を低下させる。
【0211】
これに対し、本実施形態においては、図16に概念的に表すように、各抗菌剤微粒子は、バインダによるコーティングなしで、半乾きの塗膜(下塗り塗膜)の表面に局部的に付着する。塗膜は、全体が同電位である限り、付着されるべき各抗菌剤微粒子の電荷の極性如何を問わず、正に帯電されても、負に帯電されてもよい。
【0212】
塗膜表面に吹き付けられる際の圧力と塗膜の表面張力との共同作用により、塗膜は、各抗菌剤微粒子との接点近傍において盛り上がるとともに、各抗菌剤微粒子が塗膜に局部的にに食い込む。各抗菌剤微粒子は、塗膜内に完全に埋没してしまうことが回避される。
【0213】
その後、その塗膜の焼付け効果・乾燥過程に移行し、その過程において、各抗菌剤微粒子は塗膜内へ引き込まれる。これにより、複数の抗菌剤微粒子が塗膜に一体化された一体化塗膜が形成される。
【0214】
図17に拡大して断面図で概念的に示すように、複数の抗菌剤微粒子が、目標表面、すなわち、被塗物の表面上に焼付け塗布された塗膜の表面に、その塗膜が半乾きの状態で、付着させられる。やがて、塗膜が乾燥する。その結果、複数の抗菌剤微粒子が塗膜に局部的に食い込んだ状態で固着される。塗膜表面に固着された複数の抗菌剤微粒子は、数μの間隔wを隔てて互いに隣接する。
【0215】
図18に拡大して平面図で概念的に示すように、塗膜表面に固着された複数の抗菌剤微粒子は、間隔wを隔てて互いにほぼ均一に分散している。
【0216】
図18に示すように、本実施形態によれば、複数の抗菌剤微粒子が塗膜表面上に高密度で均一に分散して固着されるため、塗膜表面のうち、いずれの抗菌剤微粒子も存在しない連続領域の面積が、複数の抗菌剤微粒子が互いに凝集して塗膜表面に存在する従来の場合より減少する。
【0217】
その結果、死滅させられるべき各細菌が、複数の抗菌剤微粒子が本実施形態に従って付着された塗膜表面のいずれかに接触する確率が、複数の抗菌剤微粒子が互いに凝集して塗膜表面に存在する場合より増加する。
【0218】
本実施形態によれば、菌類、カビ類およびウィルスに対する効果が確認されている複数の銀系抗菌剤微粒子が、高密度で互いに分散する状態で塗膜の表面に付着されるように、吹き付けて塗布される。さらに、それら銀系抗菌剤微粒子が、噴霧液の噴霧圧力、塗膜の表面張力および噴霧液の複数の微粒子(同じ極性に帯電させられる)の静電気を利用して、互いに重ならないように、塗膜に部分的に食い込み(露出する表面を残しながら)、その状態で、それら銀系抗菌剤微粒子が塗膜に固着させられる。
【0219】
したがって、それら銀系抗菌剤微粒子につき、耐久保持性と効果持続性とが長期にわたって確保されるとともに、それら銀系抗菌剤微粒子が塗膜上に高密度で分散付着されことによって、それら銀系抗菌剤微粒子が菌類などに接触する確率が飛躍的に増加する。その結果、抗菌効果、消臭効果および防カビ効果がいずれも高度にして長期にわたって発揮される。
【0220】
なお、以上説明した実施形態においては、銀系抗菌剤微粒子が、抗菌効果、消臭効果および防カビ効果を目的として、前記噴霧液内に含有される複数の粒子の一例として採用されているが、これに代えて、例えば、金属粒子を、例えば、静電遮蔽を目的として、前記噴霧液内に含有される複数の粒子の別の例として採用することが可能である。
【0221】
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[発明の概要]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
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図17
図18