(54)【発明の名称】肝型脂肪酸結合蛋白質標品、該標品を評価する方法、該標品を用いる測定における肝型脂肪酸結合蛋白質に起因する測定値の変動幅を抑制する方法、肝型脂肪酸結合蛋白質、該蛋白質をコードするDNA、該DNAで形質転換された細胞、該蛋白質の製造方法、肝型脂肪酸結合蛋白質の検量線を作成する方法、及び該蛋白質を定量する方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
10mMの酸化剤により25℃1時間の酸化処理を行わない肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いた測定値に対する前記酸化処理を行った測定値の比で表される酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品。
酸化処理を行わない肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いた測定値に対する前記酸化処理を行った測定値の比で表される酸化変動係数を指標として肝型脂肪酸結合蛋白質標品を評価する方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
≪肝型脂肪酸結合蛋白質標品≫
本明細書において、「標品」とは、測定用標準物質(キャリブレータ)及び精度管理用物質(コントロール)を代表例とし、常用参照標準物質、実用標準物質、製造業者製品校正物質、診断用標準物質、校正用標準物質等の標準品全て、及び、その他、品質管理用物質等をも包含する物質を意味する(飯塚儀明ら、「トレーサビリティ連鎖と不確かさの現状」生物試料分析Vol.34,No3(2011),第179頁〜第188頁、日本薬局方における標準品及び標準物質、2009年度JCCLS(日本臨床検査標準協議会)用語委員会 用語(英語)とその邦訳語(案) 番号226)。
【0017】
<酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品>
第1の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、10mMの酸化剤により25℃1時間の酸化処理を行い、酸化処理無の肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いた測定値に対する前記酸化処理有の測定値の比で表される酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質を含む。酸化変動係数が1.4以下であることにより、測定値の酸化による変動が抑制され得る。
上記第1の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、実用的及び商業的に利用される観点から、販売に供される肝型脂肪酸結合蛋白質標品であることが好ましい。
【0018】
本明細書及び特許請求の範囲において、酸化変動係数とは、10mMの酸化剤(例えば、AAPH)により室温(25℃)1時間の酸化処理を行い、酸化処理無の肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いた測定値に対する上記酸化処理有の肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いた測定値の比をいい、10mMのAAPHにより室温(25℃)1時間の酸化処理を行い、酸化処理無の肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いた測定値に対する上記酸化処理有の肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いた測定値(例えば、標識強度)の比(例えば、下記式で表される吸光度比(OD比))であることが好ましい。
上記酸化処理有の肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いたOD値/
上記酸化処理無の肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いたOD値
【0019】
第1の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品において、酸化変動係数としては、1.3以下であることが好ましい。
第1の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品において、酸化変動係数の下限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、0.8以上が挙げられ、0.9以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。
【0020】
(第2の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品)
第2の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、配列表の配列番号1と同一性90%以上のアミノ酸配列からなり、19番目、74番目、113番目の1つ以上のメチオニンが、メチオニン以外の非極性アミノ酸に置換されている下記第3の態様に係る変異肝型脂肪酸結合蛋白質を含む。下記変異肝型脂肪酸結合蛋白質を含むことから、特異的に結合する物質による結合能の変動が抑制され得る。
第2の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品であっても酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品でなくてもよいが、酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品であることが好ましい。
【0021】
(変異肝型脂肪酸結合蛋白質)
第3の態様に係る変異肝型脂肪酸結合蛋白質は、第1の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品に用いられる蛋白質であっても、第1の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品に用いられる蛋白質でなくてもよく、
配列表の配列番号1と同一性90%以上のアミノ酸配列からなり、19番目、74番目、113番目の1つ以上のメチオニンが、メチオニン以外の非極性アミノ酸に置換されていることが好ましい。
第3の態様に係る変異肝型脂肪酸結合蛋白質は、19番目、74番目、113番目の1つ以上のメチオニンがメチオニン以外の非極性アミノ酸に置換されることにより、肝型脂肪酸結合蛋白質に対する特異的に結合する物質(例えば、抗体)の結合能を安定化することができる。
メチオニン以外にも、ジスルフィド結合や酸素の直接付加を受けるシステイン残基や、カルボニル化するリシン残基、アルギニン残基、プロリン残基、ニトロ化されるチロシン残基等の酸化修飾が知られているが(Toda T.,etal.,基礎老化研究,35(3);17−22,2011)、19番目、74番目、113番目の1つ以上のメチオニンを置換するアミノ酸が非極性アミノ酸であることにより酸化修飾を防ぐことができる。
【0022】
配列番号1は、野生型ヒトL−FABP蛋白質(以下、L−FABP WTともいう。)のアミノ酸配列を表す。
本明細書で言う「同一性90%以上のアミノ酸配列」とは、アミノ酸の同一性が90%以上であることを意味し、同一性は好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上である。
配列表の配列番号1に記載した野生型ヒト肝型脂肪酸結合蛋白質のアミノ酸配列上の置換、挿入、欠失、付加等による変異蛋白質であっても、その変異が野生型ヒト肝型脂肪酸結合蛋白質の3次元構造において保存性が高い変異であれば、これらは全て肝型脂肪酸結合蛋白質の範囲内に属し得る。具体的には、配列表の配列番号1と同一性90%以上のアミノ酸配列のN末端及びC末端よりなる群から選択される少なくとも1つの末端に1若しくは複数のアミノ酸(例えば、ヒスチジン(His)、アラニン(Ala)等)を付加して配列表の配列番号1と同一性90%未満(例えば、同一性85%以上)となった変異蛋白質であっても、その変異が野生型ヒト肝型脂肪酸結合蛋白質の3次元構造において保存性が高い変異であれば、これらは全て肝型脂肪酸結合蛋白質の範囲内に属し得る。
蛋白質の構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的にタンパク質全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、アミノ酸残基の置換については、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、Glyとアラニン(Ala)又はバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、Thrとセリン(Ser)又はAla、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)等が挙げられる。
【0023】
上記変異肝型脂肪酸結合蛋白質の取得方法については特に制限はなく、化学合成により合成した蛋白質でもよいし、遺伝子組み換え技術による作製した組み換え蛋白質でもよい。
L−FABP蛋白質のアミノ酸配列や遺伝子配列は既に報告されているため(Veerkamp and Maatman, Prog. Lipid Res.,34:17−52,1995)、例えば、それらを基にプライマーを設計し、PCR法により適当なcDNAライブラリ等からcDNAをクローニングし、これを用いて遺伝子組換えを行うことより、上記変異肝型脂肪酸結合蛋白質を調製することができる。
【0024】
第3の態様に係る変異肝型脂肪酸結合蛋白質は、19番目、74番目、113番目の2つ以上のメチオニンがメチオニン以外の非極性アミノ酸に置換されることが好ましく、19番目のメチオニンを含む2つ以上のメチオニンがメチオニン以外の非極性アミノ酸に置換されることがより好ましく、19番目、74番目、113番目のメチオニン全てがメチオニン以外の非極性アミノ酸に置換されることが更に好ましい。
【0025】
19番目、74番目、113番目の1つ以上のメチオニンを置換する非極性アミノ酸としては、19番目、74番目、113番目の1つ以上のメチオニンが同一の非極性アミノ酸で置換されてもよく、異なる非極性アミノ酸で置換されていてもよい。19番目、74番目、113番目の1つ以上のメチオニンを置換する非極性アミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファンであることが好ましく、抗体の結合性を大きく変化させないメチオニンと類似した構造である観点から、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニンであることがより好ましく、ロイシン、イソロイシン、バリンであることが更に好ましく、ロイシン、イソロイシンであることが特に好ましく、ロイシンであることが最も好ましい。
【0026】
(変異肝型脂肪酸結合蛋白質をコードするDNA)
第4の態様に係るDNAは、上記変異肝型脂肪酸結合蛋白質をコードするDNAである。
上記変異肝型脂肪酸結合蛋白質をコードするDNA(変異遺伝子)は、化学合成、遺伝子工学的手法又は突然変異誘発などの任意の方法で作製することができる。上述のように、L−FABP蛋白質のアミノ酸配列や遺伝子配列は既に報告されているため、例えば、それらを基にプライマーを設計し、PCR法により適当なcDNAライブラリ等からcDNAをクローニングし、これを用いて遺伝子組換えにより得ることができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0027】
(形質転換細胞)
第5の態様に係る細胞は、上記第4の態様に係るDNAで形質転換された細胞である。
上記第4の態様に係るDNA又は上記第4の態様に係るDNA含む組み換えベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換細胞を作製することができる。
上記DNA含む組み換えベクターは、適当な宿主ベクター系による一般的遺伝子組み換え技術によって調製することができる。適当なベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322、pUC118その他)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pSH19その他)、さらにバクテリオファージやレトロウイルスやワクシニアウイルス等の動物ウイルス等が利用できる。
上記DNA又は上記DNA含む組み換えベクターを導入される宿主細胞は、細菌、酵母等が挙げられる。
細菌細胞の例としては、コリネバクテリウム属細菌(例えば、Corynebacterium glutamicum)、バチルス属細菌(例えば、Bacillus subtilis)又はストレプトマイセス属細菌等のグラム陽性菌又は大腸菌(Escherichia coli)等のグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌の形質転換は、プロトプラスト法、または公知の方法でコンピテント細胞を用いることにより行えばよい。
酵母細胞の例としては、サッカロマイセス又はシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevislae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)等が挙げられる。酵母宿主への組み換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
上記DNAで形質転換された細胞としては、上記変異肝型脂肪酸結合蛋白質を効率よく製造し、かつ後述の肝型脂肪酸結合蛋白質の精製が煩雑な工程を要することがないことから、Corynebacterium glutamicumを用いたタンパク質分泌発現系(CORYNEX(登録商標):味の素株式会社製)であることが好ましい。
【0028】
(上記変異肝型脂肪酸結合蛋白質の製造方法)
第6の態様に係る上記変異肝型脂肪酸結合蛋白質の製造方法は、上記形質転換細胞を培養し、上記蛋白質を回収する工程を含むことが好ましい。
上記形質転換細胞は、導入された遺伝子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養する。上記形質転換細胞の培養物から、上記蛋白質を回収するには、通常の蛋白質の単離、精製法を用いればよい。
例えば、上記蛋白質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常の蛋白質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
上記Corynebacterium glutamicumを用いたタンパク質分泌発現系(CORYNEX(登録商標):味の素株式会社製)を用いることにより、細胞を破砕して無細胞抽出液を得るような煩雑な工程を要することがなく、任意の遠心分離後、アニオン交換クロマトグラフィー(例えば、HiTrapQ FF5mL FPLCカラム)による精製等により精製標品を得ることができる。
【0029】
(第7の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品)
第7の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、配列表の配列番号1と同一性90%以上のアミノ酸配列からなり、19番目のメチオニンの酸化率が30%以上、又は113番目のメチオニンが70%以上の酸化率を有する肝型脂肪酸結合蛋白質を含む。
図13を参照して後述するように、19番目のメチオニンの酸化率が30%以上、又は113番目のメチオニンが70%以上の酸化率であることにより、更なる酸化率の増大が抑制され結果、特異的に結合する物質による結合能の変動が抑制され得る。
第7の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品であっても酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品でなくてもよいが、酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品であることが好ましい。
上記第7の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品において、19番目のメチオニンの酸化率を30%以上とする場合、特異的に結合する物質による結合能の変動が更に抑制され得る観点から、74番目及び113番目よりなる群から選択される少なくとも1つのメチオニンが、メチオニン以外の上述した非極性アミノ酸に置換されていてもいなくてもよい。
同様の観点から、113番目のメチオニンの酸化率を70%以上とする場合、19番目及び74番目よりなる群から選択される少なくとも1つのメチオニンが、メチオニン以外の上述した非極性アミノ酸に置換されていてもいなくてもよい。
また、19番目のメチオニンの酸化率は、特異的に結合する物質による結合能の変動が更に抑制され得る観点から、35%以上であることが好ましく、38%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましく、45%以上であることが特に好ましい。
同様の観点から、113番目のメチオニンの酸化率が73%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。
上記酸化率の測定方法としては、例えば、後述する
図6(b)におけるMet19を含むペプチド断片のMSスペクトル、
図6(c)におけるMet74を含むペプチド断片のMSスペクトル、
図6(d)におけるMet113を含むペプチド断片のMSスペクトルにおける酸化無処理の場合のピークと、酸化処理後のピークとの比較から算出することができる。
また、肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、19番目のメチオニンの酸化率及び113番目のメチオニンの酸化率には依存せずに、特異的に結合する物質による結合能の変動を抑制され得る観点から、74番目のメチオニンの酸化率が60%以上であってもよい。
この場合、74番目のメチオニンの酸化率が65%以上であることが好ましく、74番目のメチオニンの酸化率が70%以上であることがより好ましく、74番目のメチオニンの酸化率が75%以上であることが更に好ましく、74番目のメチオニンの酸化率が80%以上であることが特に好ましく、74番目のメチオニンの酸化率が85%以上であることが最も好ましい。
上記酸化率を有する肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、AAPH等の酸化剤等を用いて製造することができるし、空気酸化によって製造することもできる。
【0030】
(第8の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品)
また、第8の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、上記酸化変動係数が1.4以下になる量でアラキドン酸、オレイン酸、8−イソプロスタグランジンF
2α及び2,3−ジノル−8−イソプロスタグランジンF
2αよりなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸を含み、かつ配列表の配列番号1と同一性90%以上のアミノ酸配列からなる肝型脂肪酸結合蛋白質を含む肝型脂肪酸結合蛋白質標品である。
上記酸化変動係数が1.4以下になる量が、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し、前記脂肪酸の量を30倍以上のモル量で含む量であることが好ましい。
第8の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品であっても酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品でなくてもよいが、酸化変動係数が1.4以下に設定された肝型脂肪酸結合蛋白質標品であることが好ましい。
図15を参照して後述するように、本発明者らは、L−FABP蛋白質に結合する脂肪酸の種類(
図15(b))や濃度によってL−FABP蛋白質の抗体結合能が変化することを見出した。
第8の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、アラキドン酸、オレイン酸、8−イソプロスタグランジンF
2α及び2,3−ジノル−8−イソプロスタグランジンF
2αよりなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸を、上記酸化変動係数が1.4以下になる量(好ましくは、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し、脂肪酸が複数種の場合は合計含有量として30倍以上のモル量)で含むことにより、標品となるL−FABP蛋白質を発現する際、又は標品として使用されるアッセイ系において、由来の異なる生物種による発現系や発現部位ないし臓器によって結合している脂肪酸の種類(例えば、アラキドン酸、オレイン酸、8−イソプロスタグランジンF
2α及び2,3−ジノル−8−イソプロスタグランジンF
2α等)、結合量、過酸化の程度が異なる場合であっても、特異的に結合する物質による結合能の変動が抑制され、測定用標準物質、精度管理用物質等の標品として機能し得る。
特異的に結合する物質による結合能の変動が更に抑制される観点から、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し、アラキドン酸、オレイン酸、8−イソプロスタグランジンF
2α及び2,3−ジノル−8−イソプロスタグランジンF
2αよりなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸を、脂肪酸が複数種の場合は合計含有量として50倍以上のモル量含むことが好ましく、75倍以上のモル量含むことがより好ましく、100倍以上のモル量含むことが更に好ましく、300倍以上のモル量含むことが特に好ましい。
【0031】
より詳細には、脂肪酸がアラキドン酸である場合、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し、30倍以上のモル量含むことが好ましく、50倍以上のモル量含むことがより好ましく、75倍以上のモル量含むことが更に好ましく、100倍以上のモル量含むことが特に好ましい。
また、脂肪酸がオレイン酸である場合、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し、100倍以上のモル量含むことが好ましく、300倍以上のモル量含むことがより好ましく、1000倍以上のモル量含むことが更に好ましい。
また、脂肪酸が8−イソプロスタグランジンF
2αである場合、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し、500倍以上のモル量含むことが好ましく、1000倍以上のモル量含むことがより好ましい。
【0032】
また、第8の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品が、吸着防止剤としてウシ血清アルブミン(BSA)を含む場合には、BSAに脂肪酸が吸着する観点から、BSAのモル量に対し、アラキドン酸、オレイン酸、8−イソプロスタグランジンF
2α及び2,3−ジノル−8−イソプロスタグランジンF
2αよりなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸を、脂肪酸が複数種の場合は合計含有量として0.02〜10倍のモル量含むことが好ましく、0.2〜5倍のモル量含むことがより好ましい。
また、標品がBSAを含む場合に脂肪酸がアラキドン酸である場合、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し、アラキドン酸は1000倍以上のモル量含むことが好ましく、10000倍以上のモル量含むことがより好ましく、100000倍以上のモル量含むことが更に好ましく、200000倍以上のモル量含むことが特に好ましい。
標品がBSAを含む場合に脂肪酸がオレイン酸である場合、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し、オレイン酸は100000倍以上のモル量含むことが好ましく、200000倍以上のモル量含むことがより好ましい。
標品がBSAを含む場合に脂肪酸が8−イソプロスタグランジンF
2αである場合、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し、8−イソプロスタグランジンF
2αは200000倍以上のモル量含むことが好ましい。
上記少なくとも1種の脂肪酸を特定量含む上記第8の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、肝型脂肪酸結合蛋白質標品を含有する液に、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し、上記少なくとも1種の脂肪酸を脂肪酸が複数種の場合は合計含有量として30倍以上のモル量添加すること、又はそのような含有量になるような細胞培養、蛋白質単離ないし精製条件により調製することができる。また、上記少なくとも1種の脂肪酸の含有量は、上記添加量に相当する。
上記脂肪酸の含有量の上限値としては特に制限はないが、下記吸着防止剤を更に含有させる場合、上記脂肪酸が上記吸着防止剤に吸着することがあることから、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し上記脂肪酸を500000倍のモル量含有させることができ、300000倍のモル量以下であることが好ましく、200000倍のモル量以下であることがより好ましく、10000倍のモル量以下であることが更に好ましい。
【0033】
上記第1、第2、第7及び第8のいずれかの態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、肝型脂肪酸結合蛋白質に特異的に結合する物質を用いた測定における測定値の37℃2週間前後の変動幅(例えば、酸化による変動幅)は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はないが、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
上記第1、第2、第7及び第8のいずれかの態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、必要に応じて、吸着防止剤、任意の緩衝液、任意の界面活性剤等を含んでいてもよい。
吸着防止剤としては本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限はないが、BSA、カゼイン、スキムミルク、ポリエチレングリコール等が挙げられ、BSAであることが好ましい。
上記第1、第2、第7及び第8のいずれかの態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品における吸着防止剤の含有量としては本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限はないが、0.05〜10質量%であることが好ましい。
【0034】
上記第1、第2、第7及び第8のいずれかの態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、実用的及び商業的に利用される観点から、販売に供される肝型脂肪酸結合蛋白質標品であることが好ましい。販売に供される肝型脂肪酸結合蛋白質標品とは、販売済みの蛋白質、具体的には販売後に長期放置された肝型脂肪酸結合蛋白質標品ではない。
上記第1、第2、第7及び第8のいずれかの態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品は、抗原抗体反応を利用した免疫学的手法によりサンプル中の肝型脂肪酸結合蛋白質を測定するためのキットの測定用標準物質又は精度管理用物質として有用であり、L−FABP蛋白質に特異的に結合する抗L−FABP蛋白質抗体による特異的に結合を利用したL−FABP蛋白質の検出ないし定量等の測定の標準物質(標品)として用いることが好ましい。
上記第1、第2、第7及び第8のいずれかの態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品が用いられるL−FABP蛋白質の検出ないし定量等の測定としては、酵素免疫測定法(EIA,ELISA)、蛍光酵素免疫測定法(FLEIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、電気化学発光測免疫測定法(ECLIA)、イムノクロマトグラフィー法(ICA)、ラテックス凝集法(LA)、蛍光抗体法(FA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット法(WB)、イムノブロット法などを採用したアッセイ等が挙げられ、抗原(L−FABP蛋白質)に対する認識部位が異なる2種類の抗体を組み合わせて用いるサンドイッチELISA法を採用したアッセイであることが好ましい。
認識部位が異なる2種類の抗体は、一方を、マイクロプレートのウェル中の表面に結合させた固相化抗体として用い、他方を、検出ないし定量のための標識抗体として用いることが好ましい。上記標識抗体における標識としては特に制限はなく、例えば、パーオキシダーゼ標識等の酵素標識、蛍光標識、紫外線標識、放射線標識等が挙げられる。
【0035】
抗原(L−FABP蛋白質)に対する認識部位が異なる抗体としては、抗L−FABP抗体クローン1、クローン2、クローンL及びクローンFよりなる群から選択される抗体を含む抗体が挙げられ、抗L−FABP抗体クローンLを含む組み合わせ、又は抗L−FABP抗体クローン2を含む組み合わせであることが好ましく、抗L−FABP抗体クローンLを含む組み合わせであることがより好ましく、抗L−FABP抗体クローンLを固相化抗体として用い、任意の抗L−FABP抗体を標識抗体として用いることが更に好ましく、抗L−FABP抗体クローンLを固相化抗体として用い、抗L−FABP抗体クローン2を標識抗体として用いることが特に好ましい。
【0036】
そのようなアッセイに用いられるL−FABP蛋白質測定キットとしては、標品として上記第1、第2、第7及び第8のいずれかの態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品を含み、試薬として上記抗L−FABP蛋白質抗体を含むことが好ましく、標識抗L−FABP蛋白質抗体を更に含むことがより好ましく、必要に応じて吸着防止剤(BSA等)、前処理液(任意の緩衝液、任意の界面活性剤等)、反応緩衝液(任意の緩衝液等)、発色基質(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、過酸化水素水等)等を含んでいてもよい。
L−FABP蛋白質測定キットとして、抗原に対する認識部位が異なる2種類の抗体を組み合わせて用いるサンドイッチELISA法を用いたキットであることが好ましく、固相に任意の抗L−FABP抗体、標識抗体に抗L−FABP抗体クローン2を使用しているキットであることがより好ましい。
サンドイッチELISA法を用いたL−FABP蛋白質測定キットの具体的態様として、例えば、下記(1)〜(9)を含むキットが挙げられる。
(1)L−FABP抗体固相化マイクロプレート……抗ヒトL−FABPマウスモノクローナル抗体結合ウェル
(2)前処理液
(3)反応緩衝液
(4)酵素標識抗体……パーオキシダーゼ標識抗ヒトL−FABPマウスモノクローナル抗体〔クローン2産生細胞株由来〕
(5)酵素基質液
(6)洗浄剤(任意の緩衝液、界面活性剤等)
(7)反応停止液(1N硫酸等)
(8)標準緩衝液(任意の緩衝液等)
(9)肝型脂肪酸結合蛋白質標品
(9)肝型脂肪酸結合蛋白質標品としては、従来は、任意の緩衝液にリコンビナントヒトL−FABPを混合させた液が用いられてきたが、任意の緩衝液に上記肝型脂肪酸結合蛋白質標品を混合した液が好ましく、標品の濃度としては特に制限はなく、例えば、10〜10000ng/mLが挙げられ、50〜5000ng/mLが好ましく、100〜1000ng/mLがより好ましく、200〜800ng/mLが更に好ましく、300〜600ng/mLが特に好ましい。
肝型脂肪酸結合蛋白質標品として、従来のリコンビナントヒトL−FABPを用いたこと以外は上記第1、第2、第7及び第8のいずれかの態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いたサンドイッチELISA法を利用したL−FABP蛋白質測定キットと同様のキットの市販品としては、「レナプロ L−FABP テスト TMB」(シミックホールディングス社製)が挙げられる。
【0037】
L−FABP蛋白質からなる肝型脂肪酸結合蛋白質標品の保存溶液はタンパク吸着防止を目的としてBSAを含有する蛋白質保存緩衝液とすることが好ましい。例えば、下記蛋白質保存緩衝液が挙げられる。
(蛋白質保存緩衝液)
10mMリン酸バッファー(pH7.2)、150mM NaCl、1.0%BSA、0.1%NaN
3
【0038】
<酸化変動係数を指標として肝型脂肪酸結合蛋白質標品を評価する方法>
第9の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品を評価する方法は、酸化処理前の肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いた測定値に対する前記酸化処理後の測定値の比で表される酸化変動係数を指標として、上記標品の酸化変動し難さを評価する。
第9の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品を評価する方法において、酸化変動幅の抑制の観点から、酸化変動係数が1.4以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましい。
酸化変動係数の下限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、0.8以上が挙げられ、0.9以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。
【0039】
<肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いる測定における測定値の変動幅を抑制する方法>
第10の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いる測定における肝型脂肪酸結合蛋白質に起因する測定値の変動幅を抑制する方法は、
(1)配列表の配列番号1と同一性90%以上のアミノ酸配列からなる肝型脂肪酸結合蛋白質の19番目、74番目、113番目の1つ以上のメチオニンを、メチオニン以外の非極性アミノ酸に置換し、少なくとも19番目のメチオニンを、メチオニン以外の非極性アミノ酸に置換すること、
(2)配列表の配列番号1と同一性90%以上のアミノ酸配列からなる肝型脂肪酸結合蛋白質の19番目のメチオニンの酸化率が30%以上、又は113番目のメチオニンの酸化率を70%以上とすること、及び
(3)アラキドン酸、オレイン酸、8−イソプロスタグランジンF
2α及び2,3−ジノル−8−イソプロスタグランジンF
2αよりなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸を上記肝型脂肪酸結合蛋白質標品に含有させること
よりなる群から選択される少なくともいずれかを含む。
第10の態様に係る方法において、19番目のメチオニンの酸化率は、35%以上であることが好ましく、38%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましく、45%以上であることが特に好ましい。
また、113番目のメチオニンの酸化率は73%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。
第10の態様に係る方法において、上記肝型脂肪酸結合蛋白質標品に含有させる上記少なくとも1種の脂肪酸の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し30倍以上のモル量であることが好ましく、50倍以上のモル量であることがより好ましく、75倍以上のモル量であることが更に好ましく、100倍以上のモル量であることが特に好ましく、300倍以上のモル量であることが特に好ましい。
上記脂肪酸の含有量の上限値としては特に制限はないが、上記吸着防止剤を更に含有させる場合、上記脂肪酸が上記吸着防止剤に吸着することがあることから、肝型脂肪酸結合蛋白質のモル量に対し上記脂肪酸を500000倍のモル量含有させることができ、200000倍のモル量以下であることが好ましく、100000倍のモル量以下であることがより好ましく、10000倍のモル量以下であることが更に好ましく、1000倍のモル量以下であることが特に好ましい。
第10の態様に係る方法によれば、肝型脂肪酸結合蛋白質に特異的に結合する物質を用いた測定における測定値の変動幅を抑制することができ、好ましくは、37℃2週間前後の変動幅15%以下とすることができ、より好ましくは変動幅10%以下とすることができ、さらに好ましくは変動幅5%以下とすることができ、特に好ましくは変動幅1%以下とすることができる。
【0040】
<検量線を作成する方法及び肝型脂肪酸結合蛋白質を定量する方法>
第11の態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質の検量線を作成する方法は、上記第1、第2、第7及び第8のいずれかの態様に係る肝型脂肪酸結合蛋白質標品を用いる。
具体的には、測定される上記標識の強度(例えば、酵素標識強度、蛍光強度、紫外線強度、放射線強度等)と、上記標品の量(例えば、濃度)との関係に基づき検量線を作成することができる。
第12の態様に係る試料中の肝型脂肪酸結合蛋白質を定量する方法は、上記第11の態様に係る方法で作成した検量線を用いる。
具体的には、上記検量線の作成と同様な条件により、標識抗体等により標識された試料中の肝型脂肪酸結合蛋白質の標識強度を測定し、上記検量線に基づき(例えば、対比し)、試料中の肝型脂肪酸結合蛋白質を検出ないし定量することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
参考例
(酸化によるL−FABP蛋白質の構造変化)
L−FABP蛋白質をAAPH処理した。結果を
図2(a)及び(b)に示す。
図2(a)は酸化型L−FABP及び非酸化型L−FABPのLC−ESI−MSによる分子量測定結果を示す図であり、
図2(b)は酸化型L−FABPと非酸化型L−FABPの蛍光スペクトルを示す図である。
図2(a)から明らかなように、酸化型L−FABPでは理論分子量よりおおよそ酸素分子2〜3分子に相当する分子量増加が観測されている。
図2(b)に示したように、酸化型L−FABPでは350nm付近(図中矢印)に蛍光ピークが出現しており、L−FABP蛋白質中に存在する芳香族アミノ酸周辺が極性の高い環境に変化したことを意味しており、酸化型L−FABPと非酸化型L−FABPでは構造変化を生じていると考えられる。
【0043】
(酸化によるELISA測定値の変化)
AAPHを所定の濃度になるようL−FABP蛋白質溶液に添加し、室温で1時間反応させ、ELISA測定を行った。結果を
図3に示す。
図3から、L−FABP蛋白質のAAPH処理によりELISA測定値の変化(無処理を100とした場合の割合(%))が生じていることがわかる。
また、驚くべきことに、
図3に示したように、AAPH無添加サンプル(H
2Oを添加)においても室温で1時間反応させることによりELISA測定値が上昇しており、空気酸化による影響が生じていると考えられる。
【0044】
(ヒトL−FABP蛋白質の酸化)
各種濃度(40mM、200mM)のAAPHをヒトL−FABP蛋白質に添加し、37℃で1.5時間反応させた。結果を
図4に示す。
図4は、各種濃度(40mM、200mM)のAAPHをヒトL−FABP蛋白質に添加し、37℃で1.5時間反応させた後のMSスペクトルを示す図である。
図4に示したように、AAPH処理によりL−FABPに酸素分子1〜3分子に相当する分子量増加が観測された。
【0045】
(ヒトL−FABP蛋白質が含有するメチオニンの酸化)
図5(a)は、配列番号1に示したヒトL−FABP蛋白質のアミノ酸配列を示す図であり、
図5(b)は、ヒトL−FABP蛋白質のトリプシン消化によって生じ得る各種ペプチド断片の推定分子量を示す図である。
上記各種濃度(40mM、200mM)のAAPHにより反応した後のヒトL−FABP蛋白質をトリプシン消化して得られた各種ペプチド断片のMSスペクトルを測定した。
図6(a)は、上記各種濃度(40mM、200mM)のAAPHにより反応した後のヒトL−FABP蛋白質をトリプシン消化して得られたMet1を含むペプチド断片No.1のMSスペクトルを示す図であり、
図6(b)は、上記各種濃度のAAPHと反応後のヒトL−FABP蛋白質をトリプシン消化して得られたMet19を含むペプチド断片No.2のMSスペクトルを示す図であり、
図6(c)は、上記各種濃度のAAPHと反応後のヒトL−FABP蛋白質をトリプシン消化して得られたMet74を含むペプチド断片No.9及びペプチド断片No.10のMSスペクトルを示す図であり、
図6(d)は、上記各種濃度のAAPHと反応後のヒトL−FABP蛋白質をトリプシン消化して得られたMet113を含むペプチド断片No.14及びペプチド断片15のMSスペクトルを示す図である。
図6(a)〜(d)に示した結果から、酸化修飾部位は19番目、74番目、113番目のメチオニン残基(以下、それぞれMet19、Met74、Met113ともいう。)であることが明らかになった。
【0046】
実施例1
(変異L−FABP蛋白質の製造方法)
Met19をロイシン残基に変異させた変異蛋白質(以下、L−FABP M19Lともいう。)、
Met74をロイシン残基に変異させた変異蛋白質(以下、L−FABP M74Lともいう。)、
Met113をロイシン残基に変異させた変異蛋白質(以下、L−FABP M113Lともいう。)、
Met19及びMet74をそれぞれロイシン残基に変異させた変異蛋白質(以下、L−FABP M19L/M74Lともいう。)、
Met19及びMet113をそれぞれロイシン残基に変異させた変異蛋白質(以下、L−FABP M19L/M113Lともいう。)、
Met74及びMet113をそれぞれロイシン残基に変異させた変異蛋白質(以下、L−FABP M74L/M113Lともいう。)、
3つのメチオニン残基(Met19、Met74、Met113)をそれぞれロイシン残基に変異させた変異蛋白質(以下、L−FABP M19L/M74L/M113Lともいう。)を製造した。
L−FABP M19L、
L−FABP M74L、
L−FABP M113L、
L−FABP M19L/M74L、
L−FABP M19L/M113L、
L−FABP M74L/M113L、及び
L−FABP M19L/M74L/M113Lは、それぞれ、グラム陽性細菌Corynebacterium glutamicumを用いたタンパク質分泌発現系(CORYNEX(登録商標):味の素株式会社製)を利用して発現を行った。
L−FABP M19L/M74L/M113Lのアミノ酸配列を後記配列表の配列番号2に示した。
蛋白質発現に用いたL−FABP M19L/M74L/M113Lの遺伝子配列を後記配列表の配列番号3に示した。
【0047】
上述した方法により発現を行ったL−FABP M19L/M74L/M113L等は、まず遠心式フィルターユニット Amicon(登録商標)Ultra−15、3kDa(ミリポア社製)を用いバッファーA(10mM Tris−HCl(pH8.5),1mM DTT)とバッファー交換を行った。
次に、HiTrapQ FFカラム、5mL(GE Healthcare社製)を用い精製を行った。HiTrapQ FFカラムに吸着したL−FABP M19L/M74L/M113Lは、バッファーAで洗浄後、バッファーAとバッファーB(10mM Tris−HCl(pH8.5),1mM DTT,2M NaCl)による直線的濃度勾配法により溶出させ、バッファーBが3.1%となるピークを含むフラクションを回収した。回収した蛋白質に関してはSDS−PAGE及びSilver StainII Kit Wako(和光純薬株式会社製)による蛋白質染色を行い、精製度合いの確認を行った。L−FABP M19L/M74L/M113Lについての精製結果を
図7に示す。
【0048】
上述の操作により得たL−FABP M19L/M74L/M113L等は−80℃にて保管した。
【0049】
AAPHを所定の最終濃度(0mM、0.5mM、1mM、2mM、4mM)になるようL−FABP蛋白質溶液(L−FABP M19L、L−FABP M74L、L−FABP M113L、L−FABP M19L/M74L、L−FABP M19L/M113L、L−FABP M74L/M113L、及びL−FABP M19L/M74L/M113Lの各溶液)に添加し、室温で1時間反応させ、ELISA測定を実施し、標識抗体の発色(OD450nm)を無処理サンプルと比較した。比較結果を
図8に示す。
図8に示した結果から明らかなように、L−FABP M19LとL−FABP M74Lにおいて酸化に対する安定性が向上することが分かり、19番目及び113番目のメチオニンの酸化率が支配的であることが確認された。さらにL−FABP M19L/M74L/M113Lが最も酸化に対する安定性に優れることが分かる。
次に、酸化安定性を確認したL−FABP M19L/M74L/M113L等はサンプルの長期保存のため上述した蛋白質保存緩衝液に溶解し、−80℃にて保管し、以下、実施例2、3及び8に使用した。
【0050】
実施例2
(酸化に対する安定性)
BSA存在下、L−FABP M19L/M74L/M113Lに対してAAPHを最終濃度0〜5mMとなるよう添加し、室温で1時間反応させた。また空気酸化の影響を考慮し、蛋白質溶液にH
2Oのみを添加し、添加直後に測定を実施した無処理サンプルを比較対象とした。
【0051】
これらの反応溶液及び無処理サンプルを「レナプロ L−FABP テスト TMB」(シミックホールディングス株式会社製)を使用してELISA測定を実施し、標識抗体の発色(OD450nm)を無処理サンプルと比較した。上記診断用キットの使用方法は通常添付されている添付文書に従った測定方法に準じて行った。結果を
図9に示す。
【0052】
図9に示したELISA測定の結果から明らかなように、L−FABP WTは112〜121%の測定値の上昇が確認され、ばらつきを表す変動係数(CV)は5.8%であった。
一方、L−FABP M19L/M74L/M113Lは102〜107%の上昇までしか認められず、CVは2.4%であった。
以上の結果からAAPHに対してL−FABP M19L/M74L/M113Lの抗体結合能は安定的であり、ELISA測定値の変動は小さいことが明らかとなった。
つまり、L−FABP M19L/M74L/M113Lは酸化反応に対して安定化したといえる。また室温に1時間置くだけでもL−FABP WTの抗体結合能が上昇するが、L−FABP M19L/M74L/M113Lは上昇しないことから、空気酸化に対しても安定化したといえる。
【0053】
(室温での安定性)
BSA存在下、L−FABP M19L/M74L/M113Lを室温(25℃)にて保存し、1週間ごとに4週間後まで「レナプロ L−FABP テスト TMB」を使用して定法に従いELISA測定を実施した。−80℃にて保存しているサンプルに関しても測定を実施し、比較対象とした。室温保存サンプルの標識抗体の発色(OD450nm)について−80℃保存サンプルの標識抗体の発色(OD450nm)を100とした割合(%)を比較した。結果を
図10に示す。
【0054】
図10に示したELISA測定の結果から明らかなように、L−FABP WTは110〜128%の測定値の上昇が確認され、CVは10.5%であった。
一方、L−FABP M19L/M74L/M113Lは101〜111%の上昇までしか認められず、CVは4.7%であった。
以上の結果から室温での長期保存に対してL−FABP M19L/M74L/M113Lの抗体結合能は安定的であり、ELISA測定値の変動は小さいことが明らかとなった。つまり、L−FABP M19L/M74L/M113Lは室温での長期保存に安定化されたといえる。
【0055】
(37℃での安定性)
BSA存在下、L−FABP M19L/M74L/M113Lを37℃で保存し、1週間ごとに4週間後まで「レナプロ L−FABP テスト TMB」を使用して定法に従いELISA測定を実施した。−80℃にて保存しているサンプルに関しても測定を実施し、比較対象とした。室温保存サンプルの標識抗体の発色(OD450nm)について−80℃保存サンプルの標識抗体の発色(OD450nm)を100とした割合(%)を比較した。結果を
図11に示す。
【0056】
図11に示したELISA測定の結果から明らかなように、L−FABP WTは117〜143%の測定値の上昇が確認され、CVは14.5%であった。
一方、L−FABP M19L/M74L/M113Lは104〜113%の上昇までしか認められず、CVは4.8%であった。
以上の結果から37℃での長期保存に対してL−FABP M19L/M74L/M113Lの抗体結合能は安定的であり、ELISA測定値の変動は小さいことが明らかとなった。つまり、L−FABP M19L/M74L/M113Lは37℃での長期保存にも安定化されたといえる。
【0057】
実施例3
<クローン2とは認識部位が異なる標識抗体を用いたELISA測定における酸化安定性>
AAPHを所定の最終濃度(0〜4mM)になるようL−FABP蛋白質溶液に添加し、室温で1時間反応させ、ELISA測定を実施した。標識抗体としてクローン1、クローン2、クローンFを用い、発色(OD450nm)を無処理サンプルと比較した。結果を
図12に示す。
図12に示した結果から明らかなように、クローン1及びクローンFによる標識抗体を用いたL−FABP測定方法では、クローン2と同様に酸化によってL−FABP WTの抗体結合能が変化すること、L−FABP M19L/M74L/M113Lでは酸化による抗体結合能の変化が抑制されることを分かる。
したがって、抗原認識部位が異なる抗L−FABP抗体クローン1、抗L−FABP抗体クローンFによるELISA測定系においても安定化されたL−FABP蛋白質が有効である。
【0058】
標識抗体として上記抗L−FABP抗体クローン2を用いたサンドイッチELISA法により実施例3と同様にELISA測定を実施し、酸化の進行が異なる様々なL−FABP蛋白質の19番目、74番目及び113番目のメチオニンの酸化率を測定した。結果を
図13に示す。
図13中、*は、実施例3及び
図12に示したクローン2を用いたWT L−FABPのELISA測定値のデータ(AAPH添加濃度各種データ)を元に、おおよそ酸化が飽和して安定化している領域として平均値±2SD(標準偏差)の範囲を「酸化によるELISA反応性上昇の飽和領域」とした領域である。
図13から分かるように、おおよそ酸化が飽和して安定化している領域における最小の酸化率は19番目のメチオニンについては約38%であり、74番目のメチオニンについては約70%であり、113番目のメチオニンについては約73%であった。
上記結果から、19番目のメチオニンについては30%以上の酸化率を有することがELISA測定値の変動幅の減少に寄与しているといえる。
また、113番目のメチオニンが70%以上の酸化率を有することもELISA測定値の変動幅の減少に寄与しているといえる。
また、
図13に示した結果から、74番目のメチオニンについても、
図13中の「酸化によるELISA反応性上昇の飽和領域」において、ELISA測定値の上昇が飽和することを予想することができる。
【0059】
実施例4
<酸化処理を行ったL−FABP標品の37℃での安定性>
40mMのAAPHによって酸化処理を行ったL−FABPを37℃で保存し、1週間ごとに2週間後まで「レナプロ L−FABP テスト TMB」を使用して定法に従いELISA測定を実施した。4℃にて保存しているサンプルに関しても測定を実施し、比較対象とした。37℃保存サンプルの標識抗体の発色(OD450nm)について4℃保存サンプルの標識抗体の発色(OD450nm)を100とした割合(%)を比較した。結果を
図14に示す。
【0060】
図14に示したELISA測定の結果から明らかなように、酸化処理を行ったL−FABPは94〜102%の上昇までしか認められなかった。一方、酸化していないL−FABPは114〜130%の上昇が認められた。
以上の結果から37℃での長期保存に対して酸化されたL−FABPの抗体結合能は安定的であり、ELISA測定値の変動は小さいことが明らかとなった。つまり、酸化処理を行ったL−FABPは37℃での長期保存にも安定化されたといえる。
【0061】
実施例5
<脂肪酸添加による安定性>
図15(a)は、L−FABP蛋白質の脂肪酸添加処理によるELISA測定値の変化(0倍の量の脂肪酸添加を100とした割合(%))を示す図である。
結合する脂肪酸の種類(
図15(b))や濃度によってL−FABP蛋白質の抗体結合能が変化することが明らかとなった。
図15(a)には、8−イソプロスタグランジンF
2α、2,3−ジノル−8−イソプロスタグランジンF
2α及びエンタ−プロスタグランジンE
2についてのL−FABP蛋白質に対する抗体結合能の変化を示す。アラキドン酸、オレイン酸については後述する。
【0062】
次に、野生型L−FABP蛋白質(L−FABP WT)又はL−FABP M19L/M74L/M113Lのモル量に対して各種脂肪酸の最終モル量が200000倍となるよう添加し、室温で1.5時間反応させた。また空気酸化の影響を考慮し、蛋白質溶液にDMSO(終濃度5%)のみを添加し、添加直後に測定を実施した無処理サンプルを比較対象サンプルとした。
【0063】
これらの反応溶液及び無処理サンプルを「レナプロ L−FABP テスト TMB」を使用して1質量%のBSA存在下、ELISA測定を実施し、標識抗体の発色(OD450nm)を無処理サンプルと比較した。上記診断用キットの使用方法は通常添付されている添付文書に従った測定方法に準じて行った。結果を
図16(a)〜(c)に示す。
【0064】
図16(a)は各種濃度のアラキドン酸添加によるELISA測定値の変化を示す図であり、
図16(b)は各種濃度のオレイン酸添加によるELISA測定値の変化を示す図であり、
図16(c)は各種濃度の8−イソプロスタグランジンF
2α添加によるELISA測定値の変化を示す図である。
図16(a)〜(c)に示したELISA測定の結果から明らかなように、L−FABP WTはアラキドン酸に関しては104〜220%の測定値の上昇(CV34.0%)、オレイン酸に関しては100〜124%の測定値の上昇(CV10.4%)、8−イソプロスタグランジンF
2αに関しては95〜118%の測定値の変動(CV6.8%)が確認された。
一方、L−FABP M19L/M74L/M113Lはアラキドン酸に関しては88〜103%の測定値の変動(CV6.1%)、オレイン酸に関しては92〜107%の測定値の変動、(CV5.1%)、8−イソプロスタグランジンF
2αに関しては96〜101%の測定値の上昇(CV2.3%)が確認された。
図16に示した結果から、L−FABP WTに対し、脂肪酸を添加するほどELISA測定値の変化が飽和に近づき、特定量以上の脂肪酸を含有させた肝型脂肪酸結合蛋白質を標品として使用することによりELISA測定値の変動幅が抑制し得ることが分かる。
特に、
図16(a)に示した結果から、アラキドン酸を含有させた場合、比較的少ないモル量で、ELISA測定値の変化が飽和に近づくことが分かる。
なお、添加した脂肪酸の少なくとも一部は、L−FABP WTに結合せずに、BSAに吸着しているものと推測される。
また、脂肪酸添加に対してL−FABP M19L/M74L/M113Lの抗体結合能は安定的であり、ELISA測定値の変動は小さいことが明らかとなった。つまり、L−FABP M19L/M74L/M113Lは脂肪酸添加に対して安定化したといえる。
【0065】
実施例6
<L−FABPに脂肪酸(アラキドン酸又はオレイン酸)を結合させることによるELISA測定値の変動の抑制>
図17及び
図18は脂肪酸(アラキドン酸又はオレイン酸)添加量とELISA測定値の変化(脂肪酸添加量0モル倍量を100とした割合(%))を示す図である。
BSA非存在下、L−FABPに対して0〜100モル倍量の脂肪酸(アラキドン酸又はオレイン酸)を添加し、室温において60分間反応させた後、生理食塩水に対して一晩透析を実施した。翌日透析外液を交換し再度一晩透析を実施し、L−FABPに結合していない遊離の脂肪酸を除去した。得られたサンプルのELISA測定値の変化(脂肪酸添加量0モル倍量を100とした割合(%))を
図17及び18に示す。
図17から明らかなように、アラキドン酸添加によるELISA測定値の変化はL−FABPに対して10モル倍量以上の脂肪酸を添加した際に一定となり、30モル倍量以上のアラキドン酸を添加した際により一定となることが確認された。
また、
図18から明らかなように、オレイン酸添加によるELISA測定値の変化はL−FABPに対して100モル倍量以上の脂肪酸を添加した際に一定となり、300モル倍量以上のオレイン酸を添加した際により一定となることが確認された。
【0066】
実施例7
<アラキドン酸又はオレイン酸を結合させたL−FABP標品の37℃での安定性>
実施例6と同様の方法でL−FABPのモル量に対して50倍のモル量のアラキドン酸を含有させて結合させたL−FABPをBSA含有蛋白質保存緩衝液に希釈し調製したサンプルを用いて実施例5と同様の方法で保存し、37℃、2週間のELISA測定値の変化を確認した。結果を
図19に示す。
同様に、L−FABPのモル量に対して1000倍のモル量のオレイン酸を含有させて結合させたL−FABPをBSA含有蛋白質保存緩衝液に希釈し調製したサンプルを用いて同様の方法により37℃、2週間のELISA測定値の変化を確認した。結果を
図14に示す。
【0067】
図19に示したELISA測定の結果から明らかなように、アラキドン酸を結合させたL−FABPは99.9〜100.3%の変動しか認められなかった。一方、アラキドン酸を結合させていないL−FABPは118〜132%の上昇が認められた。
以上の結果から37℃での長期保存に対してアラキドン酸を結合させたL−FABPの抗体結合能は安定的であり、ELISA測定値の変動は小さいことが明らかとなった。
同様に、
図20に示したELISA測定の結果から明らかなように、オレイン酸を結合させたL−FABPは100〜110%の変動しか認められなかった。一方、オレイン酸を結合させていないL−FABPは120〜130%の上昇が認められた。
以上の結果から37℃での長期保存に対してオレイン酸を結合させたL−FABPの抗体結合能は安定的であり、ELISA測定値の変動は小さいことが明らかとなった。
【0068】
実施例8
<酸化変動係数を指標としたL−FABP標品の評価>
【0069】
実施例3及び
図12において、ELISA測定値の変動が小さいことが示されたL−FABP M19L/M74L/M113L、0.5mMのAAPHで処理したL−FABP WT、4mMのAAPHで処理したL−FABP WT及びL−FABP WTについて、10mMのAAPHによる25℃1時間酸化処理を行い、上記酸化処理有無でのELISA測定値のOD比から、酸化変動係数を算出した。また、対照としてL−FABP WTについても算出した。結果を
図21に示す。
図21に示した結果から明らかなように、対照としてのL−FABP WTの酸化変動係数は約1.8であった。
一方、実施例3及び
図12においてELISA測定値の変動が小さいことが示されたL−FABP M19L/M74L/M113L、0.5mMのAAPHで処理したL−FABP WT、4mMのAAPHで処理したL−FABP WTはいずれも、酸化変動係数が1.3以下であった。
そこで、L−FABP M19L/M74L/M113L、0.5mMのAAPHで処理したL−FABP WT、4mMのAAPHで処理したL−FABP WTの酸化変動係数の平均値+2SD(標準偏差)である1.4(1.2+0.2)以下である場合、酸化に対して測定値の変動が抑えられ安定であるといえる。
【0070】
次に、実施例3及び
図13において使用した酸化の進行が異なる様々なL−FABP蛋白質各々について、10mMのAAPHによる25℃1時間酸化処理を行い、上記酸化処理有無でのELISA測定値のOD比から、酸化変動係数を算出した。その後、19番目、74番目、及び113番目のメチオニン各々について、上記メチオニン酸化率と酸化変動係数との相関を、残存未酸化型メチオニンの含有率(100%−メチオニン酸化率)と酸化変動係数との相関として算出した。結果を
図22に示す。
図22に示した結果から明らかなように、19番目のメチオニンについては、残存未酸化型メチオニン含有率が70%未満(すなわち、酸化率が30%以上)において、酸化変動係数が収束しており、酸化変動が抑えられることが分かる。
特に、酸化変動係数が1.4以下となる場合である、残存未酸化型メチオニン含有率が62%未満(すなわち、酸化率が38%以上)において、酸化変動の抑制が特に優れるといえる。
【0071】
また、74番目のメチオニンについては、残存未酸化型メチオニン含有率が30%未満(すなわち、酸化率が70%以上)において、酸化変動係数が収束しており、酸化変動が抑えられることが分かる。
特に、酸化変動係数が1.4以下となる場合である、残存未酸化型メチオニン含有率が25%未満(すなわち、酸化率が75%以上)において、酸化変動の抑制が特に優れるといえる。
また、113番目のメチオニンについても、残存未酸化型メチオニン含有率が30%未満(すなわち、酸化率が70%以上)において、酸化変動係数が収束しており、酸化変動が抑えられることが分かる。
【0072】
また、(1)L−FABP WT、実施例6及び7における(2)オレイン酸含有L−FABP、(3)アラキドン酸含有L−FABP、(4)0.5mMのAAPHで処理したL−FABP WT、(5)4mMのAAPHで処理したL−FABP WT及び(6)L−FABP M19L/M74L/M113L、(7)L−FABP M19L、及び(8)L−FABP M19L/M113Lについて酸化変動係数を算出した。算出結果を
図23に示す。
図23に示した結果から明らかなように、L−FABP WTは酸化変動係数が1.4を大きく超え(約1.8)、L−FABP標品としての酸化に対する安定性を満たしていないことが分かる。
一方、(2)オレイン酸含有L−FABP、(3)アラキドン酸含有L−FABP、(4)0.5mMのAAPHで処理したL−FABP WT、(5)4mMのAAPHで処理したL−FABP WT及び(6)L−FABP M19L/M74L/M113L、(7)L−FABP M19L、及び(8)L−FABP M19L/M113Lはいずれも酸化変動係数が1.4以下であり、酸化に対する安定性に優れることが分かる。