(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563681
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】検体分析装置、血液凝固分析装置、検体分析方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/483 20060101AFI20190808BHJP
G01N 21/82 20060101ALI20190808BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
G01N33/483 C
G01N21/82
G01N33/49 Y
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-96043(P2015-96043)
(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公開番号】特開2016-211971(P2016-211971A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越村 直人
【審査官】
西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/132525(WO,A1)
【文献】
特開昭62−098256(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/187210(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0159531(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 21/75−21/83
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製部と、
前記測定試料に光を照射し、光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記測定部により取得された前記時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定し、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記始点検出区間内の全ての前記データ値のうち前記始点検出区間の最初のデータ値と最後のデータ値とを結ぶ基準線よりも低値又は高値となる前記データ値の割合と、第1の閾値との比較に基づいた、前記データ値の分布に関する第1の評価基準を満たすか否かを判定し、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たす場合に、前記設定された始点検出区間内のデータ値を、前記時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たさない場合に、前記始点が検出されるまで、前記設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして前記始点検出区間を設定し、
前記始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たすデータ値を、前記区間の終点として検出し、
前記始点から前記終点までの区間に含まれる前記データ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて前記検体に含まれる被検物質の濃度を分析する、検体分析装置。
【請求項2】
検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製部と、
前記測定試料に光を照射し、光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記測定部により取得された前記時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定し、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記データ値の分布に関する第1の評価基準を満たす場合に、前記設定された始点検出区間内のデータ値を、前記時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たさない場合に、前記始点が検出されるまで、前記設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして前記始点検出区間を設定し、
前記始点よりも後のデータ値が、前記始点及び前記始点よりも後のデータ値により設定された回帰直線と前記始点及び前記後のデータ値との乖離度と、第2の閾値との比較に基づいた、直線性に関する第2の評価基準を満たすか否かを判定し、
前記第2の評価基準を満たすデータ値を、前記区間の終点として検出し、
前記始点から前記終点までの区間に含まれる前記データ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて前記検体に含まれる被検物質の濃度を分析する、検体分析装置。
【請求項3】
検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製部と、
前記測定試料に光を照射し、光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記測定部により取得された前記時系列データの取得期間の始期に始点検出区間を設定し、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記データ値の分布に関する第1の評価基準を満たす場合に、前記設定された始点検出区間内のデータ値を、前記時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たさない場合に、前記始点が検出されるまで、前記設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして前記始点検出区間を設定し、
2回目以降に設定した前記始点検出区間において前記始点が検出された場合、再び前記始点が検出されるまで、直前の前記始点検出区間から順次前記第1の期間よりも短い第2の期間ずつ後へずらして前記始点検出区間を再設定し、再設定された前記始点検出区間に対して前記第1の評価基準を満たすか否かの判定を行い、
前記始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たすデータ値を、前記区間の終点として検出し、
前記始点から前記終点までの区間に含まれる前記データ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて前記検体に含まれる被検物質の濃度を分析する、検体分析装置。
【請求項4】
検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製部と、
前記測定試料に光を照射し、光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記測定部により取得された前記時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定し、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記データ値の分布に関する第1の評価基準を満たす場合に、前記設定された始点検出区間内のデータ値を、前記時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たさない場合に、前記始点が検出されるまで、前記設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして前記始点検出区間を設定し、
前記始点から第3の期間経過後のデータ値を第1の仮終点に設定し、前記第1の仮終点が直線性に関する第2の評価基準を満たす場合に、前記第1の仮終点から第4の期間毎に取得されたデータ値を第2の仮終点に設定し、前記第2の評価基準を満たす最も後の前記第1の仮終点又は前記第2の仮終点を、前記区間の正式な終点として検出し、
前記始点から前記終点までの区間に含まれる前記データ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて前記検体に含まれる被検物質の濃度を分析する、検体分析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の仮終点が前記第2の評価基準を満たさない場合、前記時系列データを棄却する、請求項4に記載の検体分析装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2の仮終点が前記第2の評価基準を満たさない場合、直前の前記第1の仮終点又は直前の前記第2の仮終点から前記第4の期間よりも短い第5の期間毎に取得されたデータ値を前記第2の仮終点に再設定し、前記第2の評価基準を満たす最も後の前記第1の仮終点又は前記第2の仮終点を、正式な前記終点として検出する、請求項4又は5に記載の検体分析装置。
【請求項7】
前記始点検出区間の期間が、前記第3の期間よりも長く、かつ前記時系列データの取得期間よりも短く設定されている、請求項4〜6のいずれか1項に記載の検体分析装置。
【請求項8】
前記始点検出区間の期間が、前記時系列データの取得期間の1/3よりも短く設定されている、請求項7に記載の検体分析装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記始点検出区間の最初のデータ値を前記始点として検出する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の検体分析装置。
【請求項10】
前記試薬は、前記被検物質と結合する抗体が担持された粒子を含む液体試薬であり、
前記測定部は、前記時系列データとして、前記被検物質と前記粒子との凝集度を反映する光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の検体分析装置。
【請求項11】
血液検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製部と、
前記測定試料に光を照射し、光の吸収に関するデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記測定部により取得された前記時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定し、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記始点検出区間内の全ての前記データ値のうち前記始点検出区間の最初のデータ値と最後のデータ値とを結ぶ基準線よりも低値又は高値となる前記データ値の割合と、第1の閾値との比較に基づいた、前記データ値の分布に関する第1の評価基準を満たすか否かを判定し、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たす場合に、前記設定された始点検出区間内のデータ値を、前記時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たさない場合に、前記始点が検出されるまで、前記設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして前記始点検出区間を設定し、
前記始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たすデータ値を、前記区間の終点として検出し、
前記始点から前記終点までの区間に含まれる前記データ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて前記検体に含まれる被検物質の濃度を分析する、血液凝固分析装置。
【請求項12】
検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製ステップ、
前記測定試料に光を照射し、光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定ステップ、及び、
制御ステップを含み、
前記制御ステップは、
前記測定ステップにより取得された前記時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定し、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記始点検出区間内の全ての前記データ値のうち前記始点検出区間の最初のデータ値と最後のデータ値とを結ぶ基準線よりも低値又は高値となる前記データ値の割合と、第1の閾値との比較に基づいた、前記データ値の分布に関する第1の評価基準を満たすか否かを判定し、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たす場合に、前記設定された始点検出区間内のデータ値を、前記時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たさない場合に、前記始点が検出されるまで、前記設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして前記始点検出区間を設定し、
前記始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たすデータ値を、前記区間の終点として検出し、
前記始点から前記終点までの区間に含まれる前記データ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて前記検体に含まれる被検物質の濃度を分析する、検体分析方法。
【請求項13】
検体と試薬とを混合して調製された測定試料に光を照射し、測定部により光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する検体分析装置において実行されるコンピュータプログラムであって、
前記検体分析装置に、
前記測定部により取得された前記時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定する機能、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記始点検出区間内の全ての前記データ値のうち前記始点検出区間の最初のデータ値と最後のデータ値とを結ぶ基準線よりも低値又は高値となる前記データ値の割合と、第1の閾値との比較に基づいた、前記データ値の分布に関する第1の評価基準を満たすか否かを判定する機能、
前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たす場合に、前記設定された始点検出区間内のデータ値を、前記時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、前記設定された始点検出区間に含まれる前記データ値が、前記第1の評価基準を満たさない場合に、前記始点が検出されるまで、前記設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして前記始点検出区間を設定する機能、
前記始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たすデータ値を、前記区間の終点として検出する機能、及び
前記始点から前記終点までの区間に含まれる前記データ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて前記検体に含まれる被検物質の濃度を分析する機能を実現させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体分析装置、血液凝固分析装置、検体分析方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、検体に試薬を混合した測定試料から光学的に取得された時系列データを解析することにより血液凝固検査を行う血液凝固分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−173904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような血液凝固分析装置においては、時系列データに基づいて凝固反応の状態の分析が行われる。しかし、時系列データから得られる反応曲線の形状は、検体によって異なる。また、得られた時系列データの中には、安定して反応が進行している時に取得された時系列データとそうでない時系列データが混在している。そのため、測定の度に時系列データの中から反応が安定して進行している時に取得された時系列データを抽出して分析を行うことが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)ある観点に係る検体分析装置は、検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製部と、測定試料に光を照射し、光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定部と、制御部と、を備え、制御部は、測定部により取得された時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定し、
設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、始点検出区間内の全てのデータ値のうち、始点検出区間の最初のデータ値と最後のデータ値とを結ぶ基準線よりも低値又は高値となるデータ値の割合と、第1の閾値との比較に基づいた、データ値の分布に関する第1の評価基準を満たすか否かを判定し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が
、第1の評価基準を満たす場合に、設定された始点検出区間内のデータ値を、時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、第1の評価基準を満たさない場合に、始点が検出されるまで、設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして始点検出区間を設定し、始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たすデータ値を、区間の終点として検出し、始点から終点までの区間に含まれるデータ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて検体に含まれる被検物質の濃度を分析する。
(2)他の観点に係る検体分析装置は、検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製部と、測定試料に光を照射し、光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定部と、制御部と、を備え、制御部は、測定部により取得された時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、データ値の分布に関する第1の評価基準を満たす場合に、設定された始点検出区間内のデータ値を、時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、第1の評価基準を満たさない場合に、始点が検出されるまで、設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして始点検出区間を設定し、始点よりも後のデータ値が、始点及び始点よりも後のデータ値により設定された回帰直線と始点及び後のデータ値との乖離度と、第2の閾値との比較に基づいた、直線性に関する第2の評価基準を満たすか否かを判定し、第2の評価基準を満たすデータ値を、区間の終点として検出し、始点から終点までの区間に含まれるデータ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて検体に含まれる被検物質の濃度を分析する。
(3)さらに他の観点に係る検体分析装置は、検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製部と、測定試料に光を照射し、光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定部と、制御部と、を備え、制御部は、測定部により取得された時系列データの取得期間の始期に始点検出区間を設定し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、データ値の分布に関する第1の評価基準を満たす場合に、設定された始点検出区間内のデータ値を、時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、第1の評価基準を満たさない場合に、始点が検出されるまで、設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして始点検出区間を設定し、2回目以降に設定した始点検出区間において始点が検出された場合、再び始点が検出されるまで、直前の始点検出区間から順次第1の期間よりも短い第2の期間ずつ後へずらして始点検出区間を再設定し、再設定された始点検出区間に対して第1の評価基準を満たすか否かの判定を行い、始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たすデータ値を、区間の終点として検出し、始点から終点までの区間に含まれるデータ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて検体に含まれる被検物質の濃度を分析する。
(4)さらに他の観点に係る検体分析装置は、検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製部と、測定試料に光を照射し、光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定部と、制御部と、を備え、制御部は、測定部により取得された時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、データ値の分布に関する第1の評価基準を満たす場合に、設定された始点検出区間内のデータ値を、時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、第1の評価基準を満たさない場合に、始点が検出されるまで、設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして始点検出区間を設定し、始点から第3の期間経過後のデータ値を第1の仮終点に設定し、第1の仮終点が直線性に関する第2の評価基準を満たす場合に、第1の仮終点から第4の期間毎に取得されたデータ値を第2の仮終点に設定し、第2の評価基準を満たす最も後の第1の仮終点又は第2の仮終点を、区間の正式な終点として検出し、始点から終点までの区間に含まれるデータ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて検体に含まれる被検物質の濃度を分析する。
【0006】
(
5)ある観点に係る血液凝固分析装置は、血液検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製部と、測定試料に光を照射し、光の吸収に関するデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定部と、制御部と、を備え、制御部は、測定部により取得された時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定し、
設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、始点検出区間内の全てのデータ値のうち始点検出区間の最初のデータ値と最後のデータ値とを結ぶ基準線よりも低値又は高値となるデータ値の割合と、第1の閾値との比較に基づいた、データ値の分布に関する第1の評価基準を満たすか否かを判定し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が
、第1の評価基準を満たす場合に、設定された始点検出区間内のデータ値を、時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、第1の評価基準を満たさない場合に、始点が検出されるまで、設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして始点検出区間を設定し、始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たすデータ値を、区間の終点として検出し、始点から終点までの区間に含まれるデータ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて検体に含まれる被検物質の濃度を分析する。
【0007】
(
6)ある観点に係る検体分析方法は、検体と試薬とを混合して測定試料を調製する調製ステップ、測定試料に光を照射し、光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する測定ステップ、及び、制御ステップを含み、制御ステップは、測定ステップにより取得された時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定し、
設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、始点検出区間内の全てのデータ値のうち始点検出区間の最初のデータ値と最後のデータ値とを結ぶ基準線よりも低値又は高値となるデータ値の割合と、第1の閾値との比較に基づいた、データ値の分布に関する第1の評価基準を満たすか否かを判定し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が
、第1の評価基準を満たす場合に、設定された始点検出区間内のデータ値を、時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、第1の評価基準を満たさない場合に、始点が検出されるまで、設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして始点検出区間を設定し、始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たすデータ値を、区間の終点として検出し、始点から終点までの区間に含まれるデータ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて検体に含まれる被検物質の濃度を分析する。
【0008】
(
7)ある観点に係るコンピュータプログラムは、検体と試薬とを混合して調製された測定試料に光を照射し、測定部により光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する検体分析装置において実行されるコンピュータプログラムであって、検体分析装置に、測定部により取得された時系列データの取得期間の一部に始点検出区間を設定する機能、
設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、始点検出区間内の全てのデータ値のうち始点検出区間の最初のデータ値と最後のデータ値とを結ぶ基準線よりも低値又は高値となるデータ値の割合と、第1の閾値との比較に基づいた、データ値の分布に関する第1の評価基準を満たすか否かを判定する機能、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が
、第1の評価基準を満たす場合に、設定された始点検出区間内のデータ値を、時系列データが直線的に推移する区間の始点として検出し、設定された始点検出区間に含まれるデータ値が、第1の評価基準を満たさない場合に、始点が検出されるまで、設定された始点検出区間から順次第1の期間ずつ後へずらして始点検出区間を設定する機能、始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たすデータ値を、区間の終点として検出する機能、及び始点から終点までの区間に含まれるデータ値に基づいた回帰直線の傾きを示す値に基づいて検体に含まれる被検物質の濃度を分析する機能を実現させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、時系列データの直線区間を適切に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る検体分析装置の斜視図である。
【
図4】(a)は始点検出区間を示すグラフ、(b)は始点検出区間の移動を説明するグラフである。
【
図5】始点検出区間を拡大して示すグラフはである。
【
図8】制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】直線区間の始点検出処理手順を示すフローチャートである。
【
図10】直線区間の終点検出処理手順を示すフローチャートである。
【
図11】第2の実施形態における始点検出処理を説明するグラフである。
【
図12】第3の実施形態における終点検出処理を説明するグラフである。
【
図13】実施例により取得された直線区間を評価するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態に係る検体分析装置は、血液凝固分析装置である。血液凝固分析装置は、被検者から採取された検体を、凝固法、合成基質法、免疫比濁法および凝集法によって測定することにより、血液の凝固能に関する分析を行う。血液凝固分析装置において、検体としては、血漿等の血液検体を用いることができる。
【0012】
図1に示すように、血液凝固分析装置1は、血漿等の血液検体を含む測定試料を光学的に測定する測定装置2と、測定装置2の前方に配置され、血液検体が収容された検体容器を搬送する検体搬送装置3と、測定装置2により取得された測定データを分析し、測定装置2に指示を与える制御装置4とを備えている。
【0013】
図2に示すように、測定装置2は、調製部11と測定部12とを備えている。調製部11は、検体搬送装置3により搬送された検体容器内の血液検体と、測定装置2内にセットされた試薬容器内の試薬とをそれぞれ反応容器に分注し、撹拌処理、加温処理等を行うことによって測定試料を調製する。測定試料は、測定部12に搬送され、測定部12において光学的な測定が行われる。測定試料の調製に用いられる試薬は、凝固法、合成基質法、免疫比濁法および凝集法のうちどの測定原理を利用して測定試料が測定されるかによって異なる。免疫比濁法を利用して測定試料が測定される場合、測定試料の調製に用いられる試薬としては、検体に含まれる被検物質と結合する抗体が担持された粒子を含む液体試薬を用いることができる。
【0014】
測定部12は、ハロゲンランプ又はLED等の光源を有する照射部14と、フォトダイオード等の受光部を有する検出部15と、CPU及びメモリ等を備えた処理部16とを備えている。照射部14は、測定試料に所定の光を照射する。第1の実施形態の照射部14は、測定項目に応じて複数種類の波長の光を測定試料に照射する。例えば、免疫比濁法による測定を行う場合、照射部14は、フィルタによって分光された800nmの波長の光を測定試料に照射する。また、照射部14は、所定時間毎に測定試料に光を照射する。例えば、照射部14は、0.1秒毎に測定試料に光を照射する。
【0015】
検出部15は、測定試料からの光を受光し、受光光量に応じた電気信号を出力する。特に、検出部15は、測定試料からの透過光、散乱光、又は蛍光等を受光する。例えば、免疫比濁法による測定において、検体に含まれる被検物質と結合する抗体が担持された粒子を含む液体試薬を、測定試料の調製に用いられる試薬として用いる場合、測定部12は、被検物質と粒子との凝集度を反映する光学的なデータ値の時間的変化を示す時系列データを取得する。より具体的には、免疫比濁法による測定においては、照射部14が波長800nmの光を測定試料に照射し、検出部15が、測定試料からの透過光を受光する。測定試料において免疫複合体の凝集反応が進むと、測定試料の濁度が上昇するため、検出部15によって受光される透過光の光量は減少し、電気信号の出力レベルが低下する。
【0016】
測定部12の処理部16は、検出部15によって検出された透過光の電気信号をデジタルのデータ値に変換する。そして、処理部16は、変換されたデータ値の集まりである時系列データを制御装置4に送信する。
【0017】
測定部12においては、1回の測定で所定時間、照射部14から測定試料に光が照射され、その間の透過光量のデータ値が取得される。例えば、1回の測定で180秒間、測定試料に光が照射される。0.1秒毎に光が照射される場合、データ値も0.1秒毎に取得される。したがって、1回の測定で180秒間の照射を行う場合、1800個のデータ値を含む時系列データが取得される。
【0018】
制御装置4は、
図2に示すように、制御部20と、表示部4aとを備えている。制御部20は、CPU21と、ROM、RAM、及びハードディスク等の記憶部22と、通信インタフェース23とによって構成されている。制御部20は、記憶部22に記憶されたコンピュータプログラムをCPU21が実行することによって所定の機能を発揮する。通信インタフェース23は、測定部12に接続されている。制御部20は、通信インタフェース23を介して、測定部12との間で指示信号およびデータの送受信を行う。具体的に、制御部20は、測定部12の処理部16から送信された光学的な測定信号である透過光量についての時系列データが通信インタフェース23を介して入力される。表示部4aは、液晶モニタ等によって構成されている。
【0019】
制御装置4の制御部20は、測定部12から入力された「透過光量」の時系列データを、既知の変換式を用いて「吸光度」の時系列データに変換する。そして、制御部20は、吸光度の時系列データを、移動平均フィルタ等によって平滑化する。
図3には、制御部20において変換された吸光度の時系列データがグラフGで示されている。このグラフGのように、測定試料から得られた時系列データを経時的にプロットして描かれたグラフを反応曲線ともいう。
図3において、横軸の時間の最大値は、一回の測定時間、すなわち時系列データの取得期間である180秒間とされている。
【0020】
吸光度の時系列データは、時間の経過に伴って緩やかに上昇している。特に、測定時間の初期の期間Aにおいては、吸光度の上昇度合が徐々に大きくなり、その後の期間Bで、吸光度はほぼ一定の割合で上昇している。また、測定時間の後半の期間Cにおいて、吸光度の上昇度合が徐々に緩やかになっている。したがって、時系列データは、略S字状の曲線を描いて推移している。吸光度の上昇は、測定試料中での反応が進行していることを表している。
【0021】
本実施形態の制御装置4の制御部20は、吸光度の時系列データのなかから、反応が安定して進行している区間の時系列データを抽出し、その区間の時系列データを対象として分析を行う。
図3に示す例では、吸光度が一定の割合で直線的に上昇している区間Bが最も反応が安定して進行しているといえる。本実施形態の制御装置4は、以下の方法によって時系列データが直線的に推移する区間である「直線区間」を抽出する。
【0022】
制御装置4の制御部20は、直線区間を抽出するために、直線区間の始点を検出する処理を行う機能と、直線区間の終点を検出する機能とを有している。また、制御部20は、抽出された直線区間を対象として凝固能に関する分析を行う。以下、制御装置4における制御部20の具体的な処理を、
図3〜
図7の図面と、
図8〜10のフローチャートを用いて説明する。
【0023】
制御装置4の制御部20は、
図8のステップS1において、測定装置2から送信された「透過光量」の時系列データを「吸光度」の時系列データに変換する。次いで、制御装置4の制御部20は、ステップS2において、吸光度の時系列データから直線区間の始点を検出する処理を行う。この処理の手順は、
図9に示されている。
【0024】
図9のステップS21において、制御部20は、吸光度の時系列データの取得期間の一部に、始点検出区間を設定する。
図4(a)に、始点検出区間Rを四角形の枠で囲むことによって示している。この始点検出区間Rの期間tsは、例えば45秒とされる。制御部20は、最初に、時系列データの取得期間の始期に始点検出区間Rを設定する。
【0025】
図9のステップS22において、制御部20は、
図5に示すように、始点検出区間Rの左端に位置する最初のデータ値D1と、右端に位置する最後のデータ値D2とを結ぶ直線L1を設定する。以下、この直線L1を「基準線」という。
【0026】
図9のステップS23において、制御部20は、始点検出区間R内の時系列データが第1の評価基準を満たすか否かを判定する。具体的には、始点検出区間R内におけるデータ値の分布に基づいて、始点検出区間R内のグラフGの形状が下に凸か否かを判定する。グラフGの形状が下に凸である場合、第1の評価基準を満たさないと判定する。その始点検出区間R内の少なくとも最初のデータ値は、時系列データの直線区間を構成するものではないからである。
【0027】
ステップS23において、制御部20は、始点検出区間R内の全てのデータ値と基準線L1とを比較し、各データ値が基準線L1よりも低値であるか否かを求める。そして、始点検出区間R内の全データ値のうち、基準線L1よりも低値であるデータ値の割合が所定の閾値未満である場合には、そのグラフGは、下に凸ではなく、始点検出区間R内のデータ値は第1の評価基準を満たしていると判定する。所定の閾値は、例えば、50%に設定することができる。この場合、基準線L1よりも低値のデータ値が、始点検出区間Rに含まれるデータ値の半分よりも少なければグラフGが下に凸ではないと判定する。
【0028】
図9のステップS23において、始点検出区間R内のデータ値が第1の評価基準を満たすと判定された場合には、ステップS25に処理が進められ、第1の評価基準を満たさないと判定された場合には、ステップS24に処理が進められる。制御部20は、ステップS25において、始点検出区間Rの左端に位置するデータ値を直線区間の始点S1に決定する。
【0029】
始点検出区間R内のデータ値が第1の評価基準を満たさないと判定された場合、制御部20は、ステップS24において、始点検出区間Rを右側にずらし、新たに設定した始点検出区間Rについて、ステップS22及びS23の処理を実行する。
図4(b)には、最初に設定した始点検出区間R1と次に設定した始点検出区間R2では始点S1を決定することができず、さらに始点検出区間R3を設定して処理を行う例を示している。
【0030】
始点検出区間R1〜R3は、所定の期間t1ずつずらして設定される。この期間t1は、例えば1秒に設定することができる。時系列データのデータ値が0.1秒毎に取得されていれば、データ値10個分ずつ後にずらして始点検出区間R1〜R3が設定されることになる。
図4(b)においては、始点検出区間R3における左端のデータ値が直線区間の始点S1に設定されているものとする。期間t1は、解析に要する時間を考慮して適宜設定されればよいが、例えばtsの1/100以上1/10以下であってもよい。
【0031】
図8に戻って、制御装置4の制御部20は、ステップS3において、直線区間の終点を検出する処理を実行する。この処理は、
図10に示される。
図10のステップS31において、制御部20は、仮終点を設定する。
図6に示すように、仮終点S2aは、
図8のステップS2において設定された始点S1から所定の期間t3だけ後のデータ値である。所定の期間t3は、例えば10秒とすることができる。期間t3は、解析の精度及び解析に要する時間を考慮して適宜設定されればよいが、例えばtsの1/10以上1/2以下であってもよい。
【0032】
図10のステップS32において、制御部20は、
図6に示すように、始点S1から仮終点S2aまでの間のデータ値を用いて回帰直線L2を算出する。この回帰直線L2は、最小二乗法等によって求められ、始点S1から仮終点S2aまでのデータ値に近似する直線である。
【0033】
図10のステップS33において、制御部20は、始点S1から仮終点S2aまでのデータ値が第2の評価基準を満たすか否かを判定する。具体的には、始点S1から仮終点S2aまでの各データ値と回帰直線L2との乖離度を求め、この乖離度が所定の閾値未満の場合に、第2の評価基準を満たすと判定する。本実施形態では、乖離度を示す指標として、次式で示される残差の分散値Veが採用される。この残差の分散値Veが所定の閾値未満である場合、回帰直線と各データ値との乖離が小さく、データ値が直線的に推移していると判断することができる。
【0035】
なお、ODは、データ値、Regは、ODに対応する回帰直線上の値、nは、始点S1から仮終点S2aまでのデータ値の数である。
【0036】
制御部20は、ステップS33において、始点S1から仮終点S2aまでのデータ値が第2の評価基準を満たさないと判定した場合、ステップS35に処理を進める。制御部20は、ステップS35において、仮終点S2aが、最初に設定したものであるか否かを判定する。最初に設定した仮終点S2aが、直線性に関する第2の評価基準を満たさない場合、始点S1から非常に短い期間t3における直線性が認められないので、直線区間を分析するための時系列データとしては信頼性が低い可能性が高い。したがって、制御部20は、ステップS37において、その時系列データを棄却し、処理を終了する。
【0037】
制御部20は、
図10のステップS33において、始点S1から仮終点S2aまでのデータ値が第2の評価基準を満たすと判定した場合、すなわち、始点S1から仮終点S2aまでのデータ値の直線性が高いと判断した場合には、ステップS34に処理を進める。ステップS34において、制御部20は、仮終点をさらに後にずらし、その後、ステップS32及びS33の処理を繰り返し実行する。
【0038】
具体的には、
図7に示すように、制御部20は、最初に設定した仮終点S2aよりも所定期間t4だけ後のデータ値を仮終点S2bに設定する。この期間t4は、始点S1から最初の仮終点S2aまでの期間t3よりも短い期間である。そして、この仮終点S2bについて、直線性に関する第2の評価基準を満たすか否かを判定する。
【0039】
仮終点S2bが、第2の評価基準を満たす場合は、制御部20は、さらなる仮終点S2cを設定し、第2の評価基準を満たすか否かの判定を行う。このような処理を繰り返し行い、最終的に設定した仮終点S2dが第2の評価基準を満たさない場合、制御部20は、
図10のステップS36に処理を進める。なお、
図7においては、第2の評価基準を満たす仮終点S2a〜S2cを黒塗りの三角形で示し、第2の評価基準を満たさない仮終点S2dを白抜きの三角形で示している。
【0040】
図10のステップS36において、制御部20は、最後に第2の評価基準を満たした仮終点S2cを、時系列データの直線区間の終点S2に決定し、処理を終了する。以上のような処理を行うことによって、始点S1からより離れた位置に終点S2を設定することができる。そのため、直線区間をより長く設定することができ、より正確な分析に寄与することができる。
【0041】
図8に戻って、制御部20は、設定された始点S1から終点S2までのデータ値に基づいた回帰直線の傾きを求めることによって、反応速度を分析することができる。また、算出された回帰直線の傾きと検量線のデータとに基づいて検体中に含まれる被検物質の濃度を分析することができる。始点S1から終点S2までのデータ値に基づいた回帰直線の傾きから被検者から取得された検体中の被検物質の濃度を算出するための検量線のデータは、制御装置4の記憶部に記憶されている。検量線のデータは、複数の異なる既知濃度の標準試料を測定して得られた複数の回帰直線の傾きと、それらの傾きに対応する標準試料の濃度とを対応付けたデータである。
【0042】
以上の実施形態においては、時系列データの取得期間の一部に始点検出区間Rを設定し、始点検出区間Rのデータ値が、当該データ値の分布に関する第1の評価基準を満たす場合に、その始点検出区間R内のデータ値、具体的には最初のデータ値を、時系列データの直線区間の始点S1に設定している。さらに、設定された始点よりも後のデータ値であって、直線性に関する第2の評価基準を満たす最も後のデータ値を、直線区間の終点S2に設定している。以上のような処理を行うことによって、反応が安定して進行する直線区間を正確に求めることが可能となる。
【0043】
また、上記実施形態においては、より長い直線区間を抽出することができるので、直線区間から取得される傾きを正確に求めることができ、高い再現性を得ることが可能となる。なお、直線区間の始点S1は、第1の評価基準を満たす始点検出区間R内のデータ値であれば、どのデータ値も採用することが可能である。しかし、始点検出区間R内の最初のデータ値を直線区間の始点S1に設定することで、より長い直線区間を抽出することができる。
【0044】
図13は、Dダイマーの測定を行うことによって取得された時系列データの直線区間の傾きを示している。
図13に示すグラフの横軸はDダイマー濃度であり、縦軸は、時系列データの直線区間の傾きである。傾きの各値は、既知濃度の測定試料を用いて測定を行うことにより取得されたものである。
図13によれば、時系列データの直線区間の傾きは、Dダイマー濃度にほぼ比例している。したがって、実施形態により取得された直線区間の傾きから適正にDダイマー濃度を分析できることがわかる。
【0045】
〔第2の実施形態〕
前述した第1の実施形態においては、例えば、
図4(b)に示すように、始点検出区間R3が第1の評価基準を満たす場合、その始点検出区間R3の最初のデータ値をそのまま直線区間の始点S1に設定している。第2の実施形態では、
図11に示すように、始点検出区間R3が第1の評価基準を満たす場合には、その直前の始点検出区間R2よりも期間t2だけ後にずらした位置に始点検出区間R2aを再設定する。そして、当該始点検出区間R2aが第1の評価基準を満たさない場合は、さらに期間t2だけ後にずらして始点検出区間R2bを再設定し、以後、始点検出区間R3に到るまでの間で、再設定された始点検出区間が第1の評価基準を満たすまで同様の処理を繰り返す。再設定された始点検出区間R2cが第1の評価基準を満たす場合には、その最初のデータ値を直線区間の始点S1に設定する。
【0046】
期間t2は、期間t1よりも短い期間とされる。例えば、期間t1が1秒とされるのに対して、期間t2は、0.1秒とされる。前述したように、時系列データを構成するデータ値が0.1秒毎に取得される場合、期間t1である1秒ずつずらして始点検出区間R2,R3を設定すると、始点検出区間R2と始点検出区間R3との間には、直線区間の始点S1として設定され得ない9個のデータ値が存在することになる。本実施形態では、第1の評価基準を満たす始点検出区間R3が見つかった時点で、前述の9個のデータ値を先頭とする始点検出区間R2a〜R2cを再設定する。このような処理を行うことで、直線区間の始点S1としてより前に検出されたデータ値を設定することが可能となり、より長い直線区間を抽出ことが可能となる。
【0047】
なお、再設定された始点検出区間R2a〜R2cがいずれも第1の評価基準を満たさない場合には、既に第1の評価基準を満たしていると判定された始点検出区間R3を採用し、その最初のデータ値を始点S1に設定すればよい。
【0048】
〔第3の実施形態〕
前述した第1の実施形態においては、例えば
図7に示すように、期間t4毎に仮終点S2a〜S2dを設定し、最後に第2の評価基準を満たした仮終点S2cを正式な終点S2に設定している。第3の実施形態では、
図12に示すように、第2の評価基準を満たさない仮終点S2dが検出された場合には、その直前の仮終点S2cから期間t5毎に仮終点S2c1,S2c2,S2c3を再設定する。そして、再設定された仮終点S2c1〜S2c3のうち、最も最後に第2の評価条件を満たす仮終点S2c2を正式な終点S2に再設定する。
【0049】
期間t5は、期間t4よりも短い期間である。例えば、期間t4は1秒とされるのに対して、期間t5は0.1秒とされる。前述したように、時系列データを構成するデータ値が0.1秒毎に取得される場合、期間t4である1秒毎に仮終点S2c、S2dを設定すると、2つの仮終点S2c、S2dの間には、直線区間の終点S2として設定され得ない9個のデータ値が存在することになる。本実施形態では、第2の評価基準を満たさない仮終点S2dが見つかった時点で、前述の9個のデータ値を前から順に仮終点S2c1〜S2c3に再設定する。このような処理を行うことで、直線区間の終点S2としてより後に検出されたデータ値を設定することが可能となり、より長い直線区間を抽出することが可能となる。
【0050】
なお、再設定した仮終点S2c1〜S2c3がいずれも第2の評価基準を満たさない場合は、既に第2の評価基準を満たしていると判定された仮終点S2cを採用し、正式な終点S2に設定する。
【0051】
第1〜第3実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0052】
例えば、本発明は、免疫比濁法で測定する項目、例えばフィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP)、Dダイマー又はフォンウィルブラント因子(vWF)の測定に好適に適用することができる。その場合、濃度を分析される検体中の被検物質が、それぞれFDP、Dダイマー又はvWFである。また、その他の項目の測定にも本発明を適用することができる。
【0053】
時系列データの直線区間の始点を検出するために設定される始点検出区間Rの期間tsは、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。ただし、当該期間tsが長すぎると、始点検出区間R内にS字状に変化する部分が含まれてしまい、正確な評価が困難となる。また、期間tsが短すぎると、ノイズの影響を受けやすくなり、データ値の分布についての正確な評価が困難となる。以上の観点から、始点検出区間Rの期間tsは、時系列データの取得期間よりも短く設定する必要があり、特に、取得期間の1/3よりも短く設定することが望ましい。また、始点検出区間Rの期間tsは、時系列データの取得期間の1/30より長いことが望ましい。また、始点検出区間Rの期間tsは、例えば、
図3に示すように、始点S1から最初の仮終点S2aまでの期間t3よりも長く設定することが好ましい。
【0054】
第1〜第3実施形態では、時系列データがS字状に変化するものを例示して説明したが、例えば、測定当初に下に凸の形状が表れない時系列データにも本発明を適用することができる。例えば、検体中の被検物質の濃度が低く、測定当初から小さい傾きで直線的に推移するような時系列データや、検体中の被検物質の濃度が高く、測定当初から大きな傾きで直線的に推移するような時系列データに対しても本発明を適用することができる。そのため、本発明は、時系列データから得られるグラフの形状の種類が、検体によって、S字状及び直線状を含む複数種類の形状のうちどのような形状となるかが分からないような測定を行う際、特に好適に用いられる。そのような測定として、例えば免疫比濁法による測定が挙げられる。
【0055】
上記実施形態では、吸光度の時系列データを用いて分析を行っていたが、透過光量の時系列データを用いて分析を行うこともできる。この場合、時系列データは、反応の進行によって低下し、測定当初に上に凸の形状が表れる場合がある。この場合の第1の評価基準は、時系列データが上に凸となるように区間を除外すればよく、基準線L1よりも高値となるデータ値が所定の閾値未満であることを条件とすればよい。
【0056】
上記各実施形態では、検体分析装置として血液凝固分析装置を示したが、その他の分析装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 :血液凝固分析装置
2 :測定装置
4 :制御装置
11 :調製部
12 :測定部
20 :制御部
R、R1〜R3:始点検出区間