(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563718
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 1/10 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
D01F1/10
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-140274(P2015-140274)
(22)【出願日】2015年7月14日
(65)【公開番号】特開2017-20141(P2017-20141A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】515047873
【氏名又は名称】加茂繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129104
【弁理士】
【氏名又は名称】舩曵 崇章
(72)【発明者】
【氏名】角野 充俊
(72)【発明者】
【氏名】田中 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 義輝
【審査官】
斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−022451(JP,A)
【文献】
特開平09−241919(JP,A)
【文献】
特開2004−124269(JP,A)
【文献】
特開平09−152452(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0161482(US,A1)
【文献】
特開平10−219513(JP,A)
【文献】
特開2001−192927(JP,A)
【文献】
特開2002−266155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 − 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛珪石の原石を粉砕して、平均粒径が70〜80μmの黒鉛珪石粒子を得る、粉砕工程と、
この粉砕工程で得られた黒鉛珪石粒子の抵抗値を測定し、所定の抵抗値以下の黒鉛珪石粒子を良品黒鉛珪石粒子として選別する、抵抗値選別工程と、
この抵抗値選別工程で選別された良品黒鉛珪石粒子を微粉末化して、黒鉛珪石の微粉末を得る、微粉末化工程と、
この微粉末化工程で得られた黒鉛珪石の微粉末を0.2〜25重量%有する繊維を製造する、繊維化工程と、
を有し、
前記粉砕工程では、前記抵抗選別工程で測定する抵抗値が高くなるのを防止するため、外観が相対的に白味がかっている黒鉛珪石を除外しながら黒鉛珪石の原石を粉砕する
繊維の製造方法。
【請求項2】
微粉末化工程では、
抵抗値選別工程で選別された良品黒鉛珪石粒子を微粉末化して、平均粒径が3μm以下の黒鉛珪石の微粉末を得る、
請求項1に記載の繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維に関するものである。詳しくは、防寒衣料、スポーツ衣料、レジャー用品等の用途に好適な蓄熱保温性に優れる合成繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の防寒衣料、スキー、スケート、登山等のスポーツ衣料等には中綿等を用いた三層構造の衣料が多い。このような衣料は、表地、中綿、裏地の三層より構成され、中綿によって空気保温層を作り保温性能を高めるものであるが、該衣料は重く、自由な動きができず、スポーティ性に欠けるという欠点があった。また、アルミニウム、クロム等の金属を蒸着技術により布帛上にコーティングしたものを利用した保温用布帛も知られている。
【0003】
例えば、実公昭58−10916号公報には、表面に金属蒸着したシートを薄いウェブ層に重ねニードルパンチし、両者を一体化した金属蒸着不織布を該金属蒸着面が外側になるように綿層と重ね、両側を側地で被ってなるこたつふとんが開示されている。
【0004】
また、特開昭61−252364号公報には、繊維本体の表面にクロム、コバルト、銅、アルミニウムまたはそれらの金属酸化物を任意の厚さに塗布、スプレー、ディップ、貼合等の手段で被覆あるいは積層する例が開示されている。しかしながら、これらの金属蒸着技術では蒸着処理工程が不連続かつ長時間であるため生産性が低いこと、着用時の揉みや摩耗あるいは洗濯の繰り返し、揉み洗いの間に蒸着した金属が次第に剥離したり、仮に、蒸着金属の表面を樹脂で被覆して耐久性を高めた場合でも保温材にごわつき感を与え柔軟性を損ねるという欠点があった。また、特開平5−9804号公報には、金属珪化物、特に珪化ジルコニウムを含有させる提案がなされているが、蓄熱保温性の点で不十分であった。
【0005】
このような課題を解決するために、特開2006−022451号には、平均粒径が10μm以下の黒鉛珪石を0.1〜15重量%有することを特徴とする繊維が記載されている。また、本特許文献には、黒鉛珪石が含有されていることによる問題点(繊維又は糸の製造工程においてガイドやローラーの摩耗が激しい場合がある)を軽減するために、繊維の断面形状を芯鞘型の複合繊維として、芯成分中に黒鉛珪石を含有させた構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公昭58−10916号公報(実用新案登録請求の範囲)
【特許文献2】特開昭61−252364号公報(明細書第2頁右上欄〜左下欄)
【特許文献3】特開平5−9804号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2006−022451号(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記したようなアルミニウムやクロムなどの金属の蒸着加工に伴うコストアップや、蒸着斑の発生、工程の複雑化、蒸着表面の剥離等の問題点を解決し、また、従来の三層構造よりなる保温衣料における着膨れ感を改良し、薄手の布帛でありながら防寒衣料として充分に機能を有する蓄熱保温性に優れた繊維を提供することを目的とする。具体的には、黒鉛珪石を含有する繊維について、蓄熱保温性が向上したものを安定的に得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の繊維は、黒鉛珪石の微粉末を0.2〜25重量%有する繊維であって、前記黒鉛珪石は、平均粒径が70〜80μmの黒鉛珪石粒子1gを上下電極に挟んで350gの加重を付与した状態における抵抗値が9×10
10Ω以下の構成とした。
【0009】
本件発明者は、黒鉛珪石を有する繊維(以降、黒鉛珪石含有繊維と称する場合がある)について蓄熱保温性を向上させるために鋭意研究開発を行った。すると、黒鉛珪石を有する繊維には、蓄熱保温性能の良好なものや必ずしもそうとはいえないものがあることを発見したのであるが、その理由は不明であった。ところが、研究開発を重ねるなか、所定の抵抗値を有する黒鉛珪石を用いると、驚くべき事に、蓄熱保温性能に優れた黒鉛珪石含有繊維を安定的に得ることができることを見いだしたのである。本発明はこのような知見に基づくものである。
黒鉛珪石粒子の抵抗値が低い場合でも蓄熱保温性に悪影響を与えにくいが、抵抗値の下限値は1×10
5Ω以上であることが好ましい。
また、黒鉛珪石の微粉末の含有量が0.2重量%未満では蓄熱保温性が低下する。黒鉛珪石の微粉末の含有量の下限値は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1.25重量%以上である。
そして、黒鉛珪石の微粉末の含有量が25重量%を越えると紡糸時の曵糸性が極端に悪化する。あるいは、紡糸できても延伸工程での糸切れ発生の他、繊維化工程でも問題が生じ、さらには延伸後の品質も満足なものを得ることができない(蓄熱保温性能の更なる向上効果も得られない)。黒鉛珪石の微粉末の含有量の上限値は、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。
【0010】
ここで、繊維断面が芯成分と鞘成分からなる芯鞘型複合構造であり、前記芯成分中に黒鉛珪石の微粉末が含有されている構成とすることができる。そして、このような芯鞘型複合構造の繊維である場合、芯成分ポリマーに上記範囲(0.2〜25重量%)を越える量で添加し、芯鞘全体で見た場合に黒鉛珪石の添加量が上記範囲となるようにすればよい。
【0011】
これによって、黒鉛珪石が含有されていることによる問題点(繊維又は糸の製造工程においてガイドやローラーの摩耗が激しい場合がある)を軽減することができる。
【0012】
また、繊維が短繊維である構成とすることもできる。短繊維は捲縮を有することが好ましい。
【0013】
捲縮を有する短繊維は、ウール、アクリル、ポリエステルなどの種々の短繊維と馴染みやすく、また空気を含みやすいため保温性が向上する。
【0014】
また、黒鉛珪石の微粉末が、平均粒径3μm以下である構成とすることもできる。
【0015】
平均粒径が3μmを越えると紡糸フィルターの目詰まり、断糸等が発生しやすく、また、延伸工程での糸切れ、あるいはガイド類の摩耗等種々の問題が発生しやすい。黒鉛珪石の平均粒径は、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。
また、黒鉛珪石の平均粒径が小さくなりすぎると、2次凝集を起こしやすくなるため、黒鉛珪石の平均粒径は0.2μm以上であることが好ましい。
【0016】
また、前記課題は、外観が相対的に白味がかっている黒鉛珪石を除外しながら黒鉛珪石の原石を粉砕して、平均粒径が70〜80μmの黒鉛珪石粒子を得る、粉砕工程と、この粉砕工程で得られた黒鉛珪石粒子の抵抗値を測定し、所定の抵抗値以下の黒鉛珪石粒子を良品黒鉛珪石粒子として選別する、抵抗値選別工程と、この抵抗値選別工程で選別された良品黒鉛珪石粒子を微粉末化して、黒鉛珪石の微粉末を得る、微粉末化工程と、この微粉末化工程で得られた黒鉛珪石の微粉末を0.2〜25重量%有する繊維を製造する、繊維化工程と、を有する、繊維の製造方法によっても解決される。外観が相対的に白味がかっている黒鉛珪石を除外することで、色の黒い黒鉛珪石(抵抗値が低い傾向がある)からなる黒鉛珪石粒子を得ることができる。
【0017】
このとき、抵抗値選別工程では、平均粒径が70〜80μmの黒鉛珪石粒子1gを上下電極に挟んで350gの加重を付与した状態における抵抗値が9×10
10Ω以下の黒鉛珪石粒子のみを良品黒鉛珪石粒子として選別することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、蓄熱保温性能に優れた繊維を安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】抵抗値を測定する様子を例示した写真である。
【
図3】蓄熱保温性能の評価装置を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、繊維を例示説明する。繊維は黒鉛珪石の微粉末を0.2〜25重量%有する。そして、黒鉛珪石は、平均粒径が70〜80μmの状態の黒鉛珪石粒子1gを上下電極に挟んで350gの加重を付与した状態における抵抗値が9×10
10Ω以下であることが必要である。
なお、以下の実施形態はあくまで本発明を例示説明するものであって、本発明は、以下の具体的な実施形態に限定されるものではない。
【0021】
[黒鉛珪石]
黒鉛珪石は衆知の如く、数億年に亘り海底の珪藻類が堆積し、そして地表に隆起した天然鉱石であると言われており、多数の天然ミネラルを多量に含んでいる。成分としては、SiO
2を主成分とし、黒鉛結晶を多く含み(約5重量%)、その他に、アルミニウム(約6%)、カリウム、チタン、二酸化鉄、マグネシウムなどが含まれており、現在、北海道桧山郡上ノ国町神明地区で産出されている。なお、黒鉛珪石は、一般的には、ブラックシリカと称される場合がある。
【0022】
[黒鉛珪石の原石の微粉末化]
そして、黒鉛珪石の原石は、以下に例示する一連の工程を経て微粉末化される。
【0023】
1.粉砕工程
まず、外観が相対的に白味がかっている黒鉛珪石を除外しながら黒鉛珪石の原石を粉砕して、平均粒径が70〜80μmの黒鉛珪石粒子を得る。ここで、黒鉛珪石の原石を段階的に粉砕することが、白味がかっている黒鉛珪石を除外したり、粒径を安定させたりする観点から好ましい。
【0024】
粉砕工程では、例えば最初に、黒鉛珪石の原石を概ね数センチ程度の黒鉛珪石小片に加工することができる。このとき1〜3cm程度の大きさに加工することが好ましい。
【0025】
そして、得られた黒鉛珪石小片のうち、外観が相対的に白味がかっているものを除外して良品黒鉛珪石小片を得る。外観が相対的に白味がかっているものが多いと抵抗値選別工程(後述)で測定する抵抗値が高くなってしまう傾向がある。また、黒鉛珪石の原石を1〜3cm程度の大きさに加工したものを選別する場合は、比較的作業がしやすく、また工数も低く抑えることができる。
【0026】
次に、得られた良品黒鉛珪石小片を粉砕して平均粒径(d50:累積50%粒径)が70〜80μmの黒鉛珪石粒子を得る。具体的には、ハンマーミルなどの粉砕装置を用いて良品黒鉛珪石小片を粉砕した後、ふるい装置などを用いて分級し、平均粒径(d50)が70〜80μmの黒鉛珪石粒子を得ることができる。
【0027】
2.抵抗値選別工程
次に、前記粉砕工程で得られた黒鉛珪石粒子の抵抗値を測定し、所定の抵抗値以下の黒鉛珪石粒子を良品黒鉛珪石粒子として選別する。ここで、所定の抵抗値以下の粉砕ロットのみを良品黒鉛珪石粒子として選別することができる。
【0028】
抵抗値評価装置を
図1に例示する。抵抗値評価装置1は、下電極11と上電極12と抵抗値測定器15で構成される。本例では、下電極11は直径100mm×厚さ15mmの真鍮性であり、上電極12は直径50mm×厚さ20mmの真鍮性で重量は350gである。下電極11の上面と上電極12の底面はともに平坦面である。そして、抵抗値測定器15の測定電極は下電極11と上電極12に接続されている。
【0029】
抵抗値評価装置1を用いた抵抗値の測定方法を説明する。まず、下電極11の上に黒鉛珪石粒子概ね1g(0.95〜1.05g)を乗せる。このとき、
図2(a)に例示するように、概ね1gの黒鉛珪石粒子Bを重量比で3等分して概ね三角形状に配置する。そして、
図2(b)に例示するように、下電極11上の黒鉛珪石粒子Bの上に上電極12を載せて、上電極12の重量(350g)を黒鉛珪石粒子に付与した状態で、抵抗値測定器で抵抗値を測定するのである。抵抗値測定器は、例えば、YHPマルチメータやデジタルテスター(例えば、kaise KU−1188)などを用いることができる。
【0030】
そして、所定の抵抗値以下の黒鉛珪石粒子を良品黒鉛珪石粒子として選別する。具体的には、9×10
10Ω以下の黒鉛珪石粒子のみを良品黒鉛珪石粒子として選別する。この抵抗値が9×10
10Ωを超えると、メカニズムは不明であるが、蓄熱保温性能が低下する。
【0031】
3.微粉末化工程
次に、前記抵抗値選別工程で選別された良品黒鉛珪石粒子を微粉末化して、公知の方法により、黒鉛珪石の微粉末を得る。ここで、平均粒径が3μm以下になるように黒鉛珪石粒子を微粉末化することが好ましい。
【0032】
[繊維化(繊維化工程)]
このようにして得られた黒鉛珪石の微粉末を用いて、これを0.2〜25重量%有する繊維を製造する。
【0033】
本発明の繊維を構成する重合体、すなわち黒鉛珪石を練りこむ重合体としては、繊維形成能を有するものであれば特別に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類またはこれらのポリエステルを主体骨格とし、イソフタル酸、金属スルホネート基を有するイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバチン酸等の脂肪族ジカルボン酸、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ポリアルキレングリコール、ペンタエリスリトール等の多価アルコール等の第3成分で変性した共重合ポリエステル類、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン11などのポリアミド類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類が挙げられ、本発明においては、特に、紡糸時の曵糸性や糸物性の点からポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66等が好ましく用いられる。これらの重合体は、融点が150℃以上であることが好ましい。融点が150℃未満の場合には、耐熱性に劣るため、使用用途が限定されることとなる。また芯鞘型複合繊維とする場合にも、芯成分ポリマーとして、或いは鞘成分ポリマーとして、上記列記されているポリマーから2種類を選び、いずれかを芯ポリマー、他方を鞘ポリマーとすればよい。
【0034】
なお、後述するように、本発明繊維が芯鞘型の複合繊維である場合には、黒鉛珪石を添加する芯成分を構成するポリマーはそれ単独では繊維形成能を有していなくともよい。その場合には、鞘成分ポリマーは繊維形成能を有していることが必要である。
【0035】
繊維の断面形状は、通常の丸断面の他に、ドッグボーン断面、三〜六角断面等の多角断面、三〜十葉断面等の多葉断面、T字型断面、U字型断面、C字型断面、W字型断面、V字型断面、中空断面等種々の断面形状を採ることが可能であり、これらの断面形状に対して、サイドバイサイド型、芯鞘型、多層積層型、ランダム複合型等の複合構造が組み合わされていてもよい。特に、黒鉛珪石粒子が繊維表面に多く存在していると工程中でのガイドやローラーの摩耗等が目立つため、本発明においては、黒鉛珪石を芯成分重合体に配合し、その周りを鞘成分重合体で覆った、いわゆる芯鞘型の複合繊維とすることが好ましい。
【0036】
芯鞘型の複合繊維とする場合には、芯成分と鞘成分の重量比率としては、8:2〜2:8の範囲が好ましく、芯は繊維中に一芯である必要はなく、2以上の多芯であってもよい。また芯成分は完全に鞘成分ポリマーに覆われている必要はなく、芯成分の一部が繊維表面に露出していてもよいが、好ましくは、繊維表面が完全に鞘成分で覆われている場合である。
【0037】
なお、黒鉛珪石を含有する樹脂溶液を繊維に塗布する方法は摩擦耐久性の観点から好ましくないため、重合体中(ポリマー中)に黒鉛珪石を練り込むことが好ましい。
【0038】
本発明の黒鉛珪石を熱可塑性重合体に添加する方法としては特に制限はないが、均一分散させるという点で二軸押出機を用いてマスタ−チップ化する方法が好ましい。また、従来公知の微粒子含有繊維の製法に従って製造することができる。黒鉛珪石の添加時期については、重合初期に反応系に添加し、直接紡糸してもよいし、溶融状態にある重合体に微粒子を混練する、いわゆる後添加方式でもよく、更に、これらの微粒子を高濃度に含有させたマスターチップを用いる、いわゆるマスターバッチ方式であってもよい。
【0039】
紡糸後は、通常の短繊維の製造工程またはフィラメント糸の製造工程をそのまま採用することが可能である。そして、芯鞘型の複合繊維として紡糸することにより、工程のガイドやローラーの摩耗が抑制される。繊維の太さとしては、0.5〜15デシテックスの範囲が好ましい。
【0040】
本発明の繊維中には、黒鉛珪石の他に、各種安定剤や顔料、染料、無機添加剤等が添加されていてもよい。本発明の繊維は、それ単独で、あるいは他の繊維と混紡されて、織物、編物等の布帛に加工され、縫製されて製品となる。
【0041】
特に、黒鉛珪石含有繊維を捲縮を有する短繊維とすることで他の繊維となじみやすくなり、黒鉛珪石含有繊維の有する特徴を活かしつつ他の繊維の特徴も取り入れた、従来にない複合繊維が実現化され、黒鉛珪石含有繊維の用途が飛躍的に広がるのである。捲縮数は例えば3.3デシテックスの場合12〜15個/in、捲縮率は概ね10%とすることが好ましい。この範囲を外れると、カード工程性他、紡績工程性が悪化することがある。
【産業上の利用可能性】
【0042】
このようにして得られる本発明の繊維は、優れた蓄熱保温性を有するので、学生服、手袋、靴下、帽子、礼服、毛布、作業服、セーター、肌着等の衣料、あるいはスキー、スケート、釣り、登山、トレーニングウェアー等のスポーツ用衣料、詰綿等に好適に用いることができる。
【0043】
本発明によれば、紡糸調子が極めて良好で、得られた繊維の物性も殆ど損なわれず、しかも優れた蓄熱保温性能を有する合成繊維を得ることが可能である。
【実施例】
【0044】
次に、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中、量比は重量に基づく値である。
【0045】
尚、実施例中、黒鉛珪石の微粉末の平均粒径は、遠心沈降法によって得られた値であり、具体的には株式会社堀場製作所の超遠心式自動粒度分布測定装置を使用して測定する。
また、ポリエステルの極限粘度は、フェノールとテトラクロロエタンとの等重量混合物を溶媒として、温度30℃で測定した溶液粘度から換算して求めた値である。
【0046】
[実施例1]
外観が相対的に白味がかっている黒鉛珪石を除外しながら黒鉛珪石の原石を段階的に粉砕して、平均粒径が70〜80μmの黒鉛珪石粒子を得た。粉砕には、ハンマーミル(株式会社竹内鉄工所製 PN−4型)を用いた。
【0047】
詳細な粉砕手順は以下の通りである。まず、上記ハンマーミルに15mmスクリーンをセットし、回転数4300/secの条件で、黒鉛珪石を概ね20kg/3分程度の速度で投入して一次粉砕した。
一次粉砕後、外観が相対的に白味がかっている黒鉛珪石(白い斑点が比較的多い黒鉛珪石)を除外した。その後、2mmスクリーンをセットし、回転数4300/secの条件で、一次粉砕にて15mm以下に粉砕された黒鉛珪石(白味がかっているものを除外済み)を概ね20kg/5分程度の速度で投入して二次粉砕した。
二次粉砕後、1mmスクリーンをセットし、回転数3700/secの条件で、二次粉砕にて2mm以下に粉砕された黒鉛珪石を概ね20kg/10〜15分程度の速度で投入して三次粉砕した。
三次粉砕後、0.5mmスクリーンをセットし、回転数3000〜3700/secの条件で、三次粉砕にて1mm以下に粉砕された黒鉛珪石を概ね20kg/30〜60分程度の速度で投入して四次粉砕した。
【0048】
上記手順で粉砕された黒鉛珪石を、振動ふるい機を用いて分級した。スクリーンは真鍋工業株式会社製の平織りスクリーン200M(線径0.051mmφ、目開き0.076mm、材質SUS304)を用いた。そして、上記スクリーンをセットした425×425mmのふるい枡部に、四次粉砕で0.5mm以下に粉砕された黒鉛珪石を1kg投入し、ストローク18mmで500回/分程度の直線往復運動にて4分間ふるい分級を行った。得られた黒鉛珪石粒子は、平均粒径(d50)が70〜80μmであった。
【0049】
このようにして得られた黒鉛珪石粒子の抵抗値を、前述した
図1の抵抗値評価装置で測定したところ、5×10
8Ωであった。
【0050】
そして、この平均粒径が70〜80μmの黒鉛珪石粒子を更に粉砕し、平均粒径0.6μmの黒鉛珪石の微粉末を得た。
【0051】
得られた黒鉛珪石の微粉末を20重量%含有した極限粘度〔η〕=0.55のポリエチレンテレフタレートを均一に混練りしたマスターチップ(A)と、スーパーブライトポリエチレンテレフタレートチップ(B)を、(A)/(B)=1/3の割合で混合したものを芯部とし、TiO
2を0.05重量%含有した〔η〕=0.65のポリエチレンテレフタレートを鞘部としたものを、芯/鞘=1/2と同心円型芯鞘構造となるように複合溶融紡糸し、公知の方法により、延伸を行って84デシテックス-24フィラメントのマルチフィラメントを得た。
【0052】
次いで、これを合糸収束して50.4万デシテックス-144000フィラメントのマルチフィラメントを得た。
【0053】
得られたマルチフィラメントに、公知の方法により捲縮を付与した後、51mmにカットし単糸3.3デシテックス(カット長51mm、捲縮数13個/in、捲縮率10%)の短繊維(α)を得た。そして、2.2デシテックスで51mmのアクリル短繊維(β)と混ぜ合わせ、公知の方法により、カード工程、練条工程、粗紡工程、精紡工程を経て、(β)/(α)=85/15の混率で綿番手30番の紡績糸を得た。
【0054】
次に、蓄熱保温性能を評価するため、得られた紡績糸を用いて、目付200g/m
2のニットを作成した。このニットを公知の方法で精練リラックス工程を経て、170℃×1分の条件で熱セットした後、得られたニットを重ね合わせて、その間に熱電対を配置し、人工太陽光(使用ランプ:セリック株式会社製 人工太陽照明灯 xe−500EFSS)を照射して5分後のサンプル温度を測定した(
図3参照)。照射距離Lは35cm、室温は20±2℃とした。
【0055】
蓄熱保温性能の評価は、アクリル短繊維100%で作製した同目付のニット生地(白色)を対照として、どの程度高い温度を示すかを温度差(ΔT℃)で示した。蓄熱保温性能の目標値は5℃以上を設定している。
【0056】
[実施例2]
黒鉛珪石の微粉末の割合を20重量%とする以外は、実施例1と同様である。
【0057】
[実施例3]
実施例1と同じ黒鉛珪石の微粉末を用い、濃度が2.5重量%となるように室温でエチレングリコールに混合して十分に拡販した後、テレフタル酸と該テレフタル酸とのモル比が1.2となるように調整して混合し、スラリーを作製した。このスラリーをエステル化槽に連続的に供給してエステル化を行い、引き続き重合を行い〔η〕=0.67の黒鉛珪石含有ポリエチレンテレフタレート重合体を得た。ここで得られた重合体を用い、公知の方法によって、芯成分(黒鉛珪石含有ポリエステル)、鞘成分(TiO
2を0.05重量%含有したポリエステル)、芯/鞘比率1/1で紡糸、延伸を行い、84デシテックス-24フィラメントのマルチフィラメントを得た。これを収束捲縮カットし、3.3デシテックス51mmを得た。後は実施例1と同様に実施し、アクリル混15重量%の混紡糸を得て、これを用いてニット生地を作製した。
【0058】
[実施例4]
黒鉛珪石粒子(平均粒径(d50)が70〜80μm)として、抵抗値が3×10
10Ωのものを用いる以外は、実施例1と同様である。
【0059】
[実施例5]
実施例1の芯部の材料を用いて、断面が単一構造(全面タイプともいう:芯鞘構造ではないもの)の繊維を作製したものである。黒鉛珪石の含有量も実施例1と同じとなっている。
【0060】
[比較例1]
黒鉛珪石の含有量を0.1重量%とした以外は、実施例1と同様である。
【0061】
[比較例2]
黒鉛珪石の含有量を30重量%とした以外は、実施例1と同様である。
【0062】
[比較例3]
黒鉛珪石粒子(平均粒径(d50)が70〜80μm)として、抵抗値が3×10
13Ωのものを2.5重量%用いる以外は、実施例1と同様である。
【0063】
これらの評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
実施例1〜4のいずれも、優れた蓄熱保温性能を示している。実施例5については工程性(糸切れ、ローラーやガイドの摩耗の発生度合い)が良くなかったため、蓄熱保温性能を評価できていないが、実施例1と同等の蓄熱保温性能を有しているものと考えられる。
また、黒鉛珪石粒子の抵抗値が高い比較例3と、抵抗値は高くないものの含有量が少ない比較例1は、蓄熱保温性能に劣る結果となった。黒鉛珪石粒子の抵抗値に関しては、1×10
7Ωや1×10
6Ωのものについても蓄熱保温性が良好なことが確認できている。
なお、工程性については芯鞘構造のものが良好であるものの、比較例2にあるように、黒鉛珪石の配合量が多すぎると悪化する結果となった。比較例2では、紡績時の糸切れによる断糸が頻発し、工程性(量産性)が極端に劣る結果となった。
【0065】
以上、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、当該技術分野における熟練者等により、本出願の願書に添付された特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変更及び修正が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 抵抗値評価装置
11 下電極
12 上電極
15 抵抗値測定器
B 黒鉛珪石粒子
2 蓄熱保温性測定装置
21 試料台
22 照明灯
25 熱電対
C 布