特許第6563730号(P6563730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6563730ダイヤモンドライクカーボン粉末およびその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563730
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】ダイヤモンドライクカーボン粉末およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20190808BHJP
【FI】
   C01B32/05
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-151707(P2015-151707)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-31001(P2017-31001A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000192567
【氏名又は名称】神港精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090310
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 正俊
(72)【発明者】
【氏名】寺山 暢之
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−231841(JP,A)
【文献】 特開2001−240034(JP,A)
【文献】 特開2011−122226(JP,A)
【文献】 特開2014−167100(JP,A)
【文献】 特表2015−503026(JP,A)
【文献】 特開2011−235435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を主成分とするダイヤモンドライクカーボンの粉末であって、
原子比で15%ないし40%の水素を含み、粒径が0.05μmないし100μmである
ダイヤモンドライクカーボン粉末。
【請求項2】
密度が1.4g/cmないし2.5g/cmである、
請求項1に記載のダイヤモンドライクカーボン粉末。
【請求項3】
比抵抗が10Ω・cmないし10GΩ・cmである、
請求項1または2に記載のダイヤモンドライクカーボン粉末。
【請求項4】
室温大気中における摩擦係数が0.1ないし0.4である、
請求項1ないし3のいずれかに記載のダイヤモンドライクカーボン粉末。
【請求項5】
炭素を主成分とし、水素を含むダイヤモンドライクカーボンの粉末であるダイヤモンドライクカーボン粉末を作製する方法であって、
原料ガスとして炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法によって上記ダイヤモンドライクカーボン粉末を作製し、
上記炭化水素系ガスを放電させるための放電用電力の大きさを調整することによって上記ダイヤモンドライクカーボン粉末の水素含有率,密度,比抵抗および摩擦係数の一部または全部を制御する、
ダイヤモンドライクカーボン粉末の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素を主成分とするダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:以下「DLC」と言う。)の粉末であるDLC粉末およびその作製(または「合成」とも言う。)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DLC粉末は、硬質炭素膜であるDLCと同じ成分の粉末、言わば硬質炭素粉末であり、従来、主にオニオンライクカーボン(Onion Like Carbon:以下「OLC」と言う。)の原料として用いられている。ここで、OLCとは、直径が数nm〜数十nmの球状粒子であり、このOLCは、大気中および真空中のいずれにおいても極めて小さい摩擦係数を示し、併せて、耐面圧性にも優れていることから、とりわけ固体潤滑剤としての応用が期待されている。例えば、特許文献1には、このOLCの作製方法および装置に関する発明が、開示されている。具体的には、当該特許文献1には、材料(原料)ガスとして炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によってDLC粉末が作製され、さらに、このDLC粉末が真空中または不活性ガス雰囲気中で加熱されることによってOLCに変換される旨が、開示されている。なお、この特許文献1に開示された発明の如く原料ガスとして炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法によってDLC粉末が作製される場合には、当該DLC粉末にとって不要な微粉末状の重合体が必然的に生成される。この一種の副産物としての重合体の生成を抑制するべく、別の特許文献2に開示された発明によれば、炭化水素系ガスを放電させるための放電用電力の態様が適宜に制御され、例えば当該放電用電力が時間変調(間欠供給)される。これにより、当該重合体の生成量が大幅に抑制される、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/168993号
【特許文献2】特開2014−19609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近の研究の結果、上述の如く原料ガスとして炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法によってDLC粉末が作製される場合、その条件によって当該DLC粉末の特性が変わること、特に放電用電力の大きさ(電力値)によって当該DLC粉末の水素含有率(含有量),密度,比抵抗および摩擦係数が変わること、が判明した。例えば、被膜である言わば通常のDLC(いわゆるDLC膜)においては、その水素含有率が低いほど、その硬さ(硬度)が高くなる。従って、DLC粉末においても、その水素含有率と硬さとの関係は、当該通常のDLCにおけるのと同様になるものと推察される。これは即ち、DLC粉末の硬さの制御(調整)が可能であることを意味する。また、通常のDLCにおいては、その密度が高いほど、その硬さが高くなる。従って、DLC粉末においても、その密度と硬さとの関係は、当該通常のDLCにおけるのと同様になるものと推察される。これもまた、DLC粉末の硬さの制御が可能であることを意味する。さらに、DLC粉末の比抵抗については、導電性を示す比較的に小さな値から絶縁性を示す比較的に大きな値までの広い範囲にわたって変わり、つまり制御可能である。そして、摩擦係数については、とりわけ大気中における摩擦係数については、OLCと略同等の極めて小さい値からそれよりも大きい値まで変わり、つまりは同様に制御可能である。なお、真空中における摩擦係数については、大気中における摩擦係数よりも大きく、つまり真空中におけるOLCの摩擦係数よりも大きい。加えて、ボールミルやジェットミル等による粉砕処理によって、DLC粉末の粒径を制御することも可能である。
【0005】
これらのことから例えば、大気中であれば、DLC粉末についても、OLCと同様、固体潤滑剤としての応用が期待できる。このDLC粉末は、OLCよりも安価であるので、このようなDLC粉末が固体潤滑剤として応用されることで、当該固体潤滑剤の安価化が実現される。また、被膜である通常のDLCも、固体潤滑剤の一種であるが、DLC粉末は、この通常のDLCに代えての応用も期待できる。特に通常のDLCは、自身の内部応力によって剥離が誘発され易いという性質を有すると共に、そのコーティング費用が比較的に高いので、このような通常のDLCに代えて、DLC粉末が固体潤滑剤として用いられることで、当該固体潤滑剤の信頼性の向上および長寿命化が図られると共に、上述の如く当該固体潤滑剤の安価化が実現される。加えて、DLC粉末は、潤滑油やグリース等の液体状または半固体状(ゼリー状)の潤滑剤に添加されるいわゆる添加剤としての応用も期待できる。例えば、自動車のクラッチ板やスプライン軸等の動力の伝達を担う機構においては、潤滑剤として当該潤滑油やグリース等の液体状または半固体状のものが用いられることがあるが、このような用途における潤滑剤としては、その摩擦係数が多少大きめのものの方が好都合な場合がある。DLC粉末は、上述の如くその摩擦係数の制御が可能であるので、このような用途における潤滑剤に適宜に添加されることで、当該潤滑剤の摩擦係数(摩擦特性)を調整する機能を奏し、いわゆる摩擦調整剤として機能する。さらに、DLC粉末の用途によっては、その電気的特性として例えば導電性が要求される場合もあれば、絶縁性が要求される場合もある。DLC粉末は、上述の如くその比抵抗の制御が可能であり、つまり導電性を示すこともできれば、絶縁性を示すこともできるので、これらの要求にも柔軟かつ適切に対応することができる。そしてさらに、DLC粉末は、それ自体が黒色であることから、例えば液晶パネル等のカラーフィルタのブラックマトリクス用レジストとしての応用が期待できる。このブラックマトリクス用レジストとしては、例えばカーボンブラックが知られているが、カーボンブラックは、その比抵抗が最大でも100MΩ・cm程度であり、それ以上の比抵抗(絶縁性)を持つことが理想とされるブラックマトリクス用レジストとしては不十分なところがある。これに対して、DLC粉末は、その比抵抗を上述の如く大きな値とすることができるので、カーボンブラックよりも優れたブラックマトリクス用レジストとしての応用が期待できる。勿論、これら以外の用途にも、DLC粉末の応用が期待できる。
【0006】
そこで、本発明は、様々な用途への応用が期待できる新規なDLC粉末を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明は、DLC粉末そのものに係る第1の発明と、このDLC粉末の作製方法に係る第2の発明と、を提供する。
【0008】
このうちの第1の発明は、炭素を含むDLC粉末であって、原子比で15%〜40%の水素を含む。このDLC粉末の粒径は、0.05μm〜100μmである。
【0009】
即ち、本第1発明に係るDLC粉末は、水素を含み、その含有率は、原子比で15%〜40%である。上述したように、被膜である通常のDLCにおいては、その水素含有率が低いほど、その硬さが高くなる。従って、DLC粉末においても、その水素含有率と硬さとの関係は、当該通常のDLCにおけるのと同様になるものと推察される。ゆえに、用途に応じて、特にどれくらいの硬さが要求されるのかに応じて、水素含有率が適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末が実現される。粒径は、ボールミルやジェットミル等による粉砕処理によって適宜に制御可能である。ゆえに、用途に応じてこの粒径が適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末が実現される
【0010】
なお、本第1発明に係るDLC粉末の密度は、1.4g/cm〜2.5g/cmである。
【0011】
上述したように、通常のDLCにおいては、その密度が高いほど、その硬さが高くなる。従って、DLC粉末においても、その密度と硬さとの関係は、当該通常のDLCにおけるのと同様になるものと推察される。ゆえに、用途に応じて、特にどれくらいの硬さが要求されるのかに応じて、密度が適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末が実現される。
【0012】
また、本第1発明に係るDLC粉末の比抵抗は、10Ω・cm〜10GΩ・cmである。
【0013】
この比抵抗の下限値である10Ω・cmという値は、概ね導電性を示す。一方、当該比抵抗の上限値である10GΩ・cmという値は、極めて高い絶縁性を示す。ゆえに、用途に応じて、特にその電気的特性として導電性が要求されるのか、それとも絶縁性が要求されるのかに応じて、比抵抗が適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末が実現される。例えば、この比抵抗が上限値またはこれに近い値とされることで、上述したブラックマトリクス用レジストに適した極めて高い絶縁性を持つDLC粉末が実現される。
【0014】
そして、本第1発明に係るDLC粉末の室温大気中における摩擦係数は、0.1〜0.4である。
【0015】
この摩擦係数の下限値である0.1という値は、上述したOLCの摩擦係数と略同等の値である。その上で、本第1発明に係るDLC粉末の摩擦係数は、0.4という値を上限として、任意に制御可能である。ゆえに、用途に応じてこの摩擦係数が適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末が実現される。例えば、この摩擦係数が下限値またはこれに近い値とされることで、大気中での固体潤滑剤に適したDLC粉末が実現される。また、この固体潤滑剤に適したDLC粉末は、被膜である通常のDLCに代えての応用も期待できる。ただし、このDLC粉末の真空中における摩擦係数は、大気中における摩擦係数よりも大きいので、当該DLC粉末の固体潤滑剤としての応用は、大気中に限定されるのが、好ましい。さらに、このDLC粉末は、潤滑油やグリース等の液体状または半固体状の潤滑剤に添加される添加剤としての応用、とりわけ摩擦調整剤としての応用、も期待できる。
【0018】
本発明の第2発明は、DLC粉末を作製する方法であって、原料ガスとして炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法によって、炭素を主成分とし、水素を含むDLC粉末を作製し、これに際して、炭化水素系ガスを放電させるための放電用電力の大きさを調整することによって、当該DLC粉末の水素含有率,密度,比抵抗および摩擦係数の一部または全部を制御する。
【0019】
即ち、本第2発明によれば、放電用電力の大きさのみによって、言い換えれば極めて簡単な方法によって、DLC粉末の水素含有率,密度,比抵抗および摩擦係数の一部または全部が制御される。
【発明の効果】
【0020】
上述したように、本発明によれば、用途に応じてDLC粉末の特性が適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末が実現される。即ち、様々な用途への応用が期待できるDLC粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るDLC粉末作製装置の概略構成を示す図である。
図2】同実施形態における放電用電力としてのパルス電力の供給態様を示す図解図である。
図3】同パルス電力の大きさに対するDLC粉末の作製速度,水素含有率,密度および比抵抗それぞれの関係を示すグラフである。
図4】同パルス電力の大きさに対するDLC粉末の摩擦係数の関係を示すグラフである。
図5】同実施形態におけるDLC粉末のボールミルによる粉砕処理後および当該粉砕処理前それぞれの粒径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態について、図1図5を参照して説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係るDLC粉末作製装置10は、両端に当たる部分が閉鎖された概略円筒形の真空槽12を備えている。この真空槽12は、当該円筒形の一方端に当たる部分(図1における上方側の部分)を上壁として上方に向け、他方端に当たる部分(図1における下方側の部分)を底壁として下方に向けた状態で、設置されている。なお、この真空槽12の内部空間の直径(内径)は、約1100mmであり、高さ寸法は、約1000mmである。この真空槽12の形状および寸法は、一例であり、状況に応じて適宜に定められる。この真空槽12は、高耐食性および高耐熱性の金属、例えばSUS304等のステンレス鋼、によって形成されており、その壁部は、基準電位としての例えば接地電位に接続されている。この真空槽12の素材もまた、一例であり、状況に応じて適宜に選定される。
【0024】
さらに、真空槽12の壁部の適宜位置、例えば底壁の中央よりも少し外方(図1における左方)寄りの位置には、排気口14が設けられている。そして、この排気口14には、図示しない排気管を介して、真空槽12の外部に設けられた図示しない排気手段としての真空ポンプが結合されている。さらに、排気管の途中には、真空槽12内の圧力Pを制御する圧力制御手段としての図示しない自動圧力制御装置が設けられている。なお、真空ポンプもまた、自動圧力制御装置と協働して圧力制御手段として機能する。
【0025】
そして、真空槽12内の略中央の位置に、容器としてのルツボ16が配置されている。このルツボ16は、ルツボ本体18と、蓋体20と、から成る。このうちのルツボ本体18は、一方端に当たる部分が開口されると共に、他方端に当たる部分が閉鎖された概略円筒形のものであり、開口された一方端側を上方に向け、閉鎖された他方端側を底壁として下方に向けた状態で、配置されている。このルツボ本体18の外径は、約300mmであり、高さ寸法は、約300mmであり、厚さ寸法(肉厚)は、側壁部および底壁部のいずれについても数mmであり、例えば約1mmである。このルツボ本体18の形状および寸法もまた、一例であり、特に形状については、概略円筒形に限らず、枡形や皿形等のように開口中空部を有するものであればよい。このルツボ本体18は、高耐食性および高耐熱性を有し、かつ、導電性および非磁性を有し、さらに、後述するDLC粉末100との密着性の低い素材、例えばSUS304等のステンレス鋼、によって形成されている。勿論、これ以外の素材、例えばモリブデン(Mo)やタンタル(Ta),タングステン(W),グラファイト(C)等の特に高融点素材によって、当該ルツボ本体18が形成されてもよい。そして、このルツボ本体18の開口部を塞ぐように、適当な形状および寸法の蓋体20が設けられている。この蓋体20もまた、ルツボ本体18と同様の素材によって形成されている。なお、この蓋体20の略中央には、後述するガス導入管22の先端部分22aが挿通される円形の貫通孔20aが設けられている。
【0026】
ルツボ16(特にルツボ本体18)には、真空槽12の外部に設けられた放電用電力供給手段としてのパルス電源装置24から放電用電力としてのパルス電力Epが供給される。具体的には、真空槽12を陽極とし、ルツボ16を陰極として、これらに、当該パルス電力Epが供給される。このパルス電力Epは、その電圧波形が接地電位を基準とする正負極間で非対称な矩形のいわゆる非対称矩形波電力であり、このパルス電力Epの供給源であるパルス電源装置24は、当該パルス電力Epの電力値を制御する電力制御モードと、電流値を制御する電流制御モードと、電圧値を制御する電圧制御モードと、の3つの制御モードを有している。本実施形態では、当該パルス電源装置24は、電力制御モードで使用される。なお、この電力制御モードを含むいずれの制御モードにおいても、パルス電源装置24は、パルス電力Epの周波数を例えば10kHz〜250kHzの範囲で任意に設定することができ、また、デューティ比(電圧波形の1周期のうち当該電圧が正極となる期間の比率)を例えば5%〜50%の範囲で任意に設定することができる。
【0027】
さらに、パルス電源装置24には、電力態様制御手段としての電力制御装置26が接続されている。この電力制御装置26は、パルス電源装置24からルツボ16に供給されるパルス電力Epの態様が図2に示すような矩形波状の態様となるように、当該パルス電源装置24を制御する。即ち、この電力制御装置26による制御によって、パルス電源装置24からルツボ16に供給されるパルス電力Epの態様は、E1という一定の第1の電力値を示す第1期間T1と、この第1電力値E1よりも小さいE2(<E1)という一定の第2の電力値を示す第2期間T2と、を交互に繰り返す態様となる。なお、第1期間T1,第2期間T2,第1電力値E1および第2電力値E2のそれぞれは、任意に設定可能とされている。具体的には、第1期間T1および第2期間T2のそれぞれは、例えば10ms〜10sの範囲で任意に設定可能とされている。そして、第1電力値E1は、ルツボ16の大きさ等によって変わるが、例えば最大で10kWまで任意に設定可能とされている。第2電力値E2もまた、任意に設定可能とされているが、この第2電力値E2は、第1電力値E1の20%以下(0≦E2≦0.2・E1)の範囲内で任意に設定可能とされている。
【0028】
図1に戻って、ルツボ16の蓋体20に設けられた上述の貫通孔20aに、ガス導入手段としてのガス導入管22の先端部分22aが挿通されている。なお、このガス導入管22の先端部分22aは、概略円錐状(ホーン状)に広がるように形成されている。また、このガス導入管22の先端部分22aは、ルツボ16(ルツボ本体18)内の奥深くにまで挿入されている訳ではなく、当該ルツボ16内に言わば浅めに挿入されており、つまり蓋体20の貫通孔20aに近い位置にある。一方、ガス導入管22の基端部分は、真空槽12の外部にある。そのために、ガス導入管22は、真空槽12の壁部の適宜位置、例えば上壁の略中央の位置、を貫通するように設けられている。このガス導入管22は、モリブデンやタンタル等の高融点金属製であり、適当な絶縁碍子28によって真空槽12(の壁部)と電気的に絶縁されている。そして、このガス導入管22の基端部分は、真空槽12の外部に設けられた図示しない放電用ガス供給源としてのアルゴン(Ar)ガス供給源と、図示しない洗浄用ガス供給源としての水素(H)ガス供給源と、図示しない原料ガス供給源としてのアセチレン(C)ガス供給源と、に結合されている。また、真空槽12の外部におけるガス導入管22の途中には、当該ガス導入管22内を流通するアルゴンガス,水素ガスおよびアセチレンガスの流量を個別に制御するための図示しない流量制御手段、例えばマスフローコントローラと、これらのガスの流通を個別に開閉するための図示しない開閉手段、例えば開閉バルブと、が設けられている。
【0029】
加えて、ガス導入管22には、真空槽12の外部に設けられた直流電力供給手段としてのノズル用電源装置30から接地電位を基準とする正電位の直流電力Eaが供給される。この直流電力Eaの電圧値Vaは、当該ノズル用電源装置28によって例えば+10V〜+100Vの範囲で任意に設定可能とされている。また、この直流電力Eaの電流値Iaは、後述するプラズマ200の密度によって変わる。
【0030】
さらに、真空槽12の外部には、当該真空槽12の上壁および底壁それぞれの周縁に沿うように、磁場形成手段としての一対の電磁コイル32および34が設けられている。これらの電磁コイル32および34は、真空槽12の外部に設けられた図示しない磁場形成用電源装置から直流の磁場形成用電力が供給されることによって、真空槽12内の略中央に、好ましくはルツボ16内に、後述するプラズマ200が閉じ込められるように、当該真空槽12内にミラー磁場を形成する。このミラー磁場の強さは、ルツボ16内において1mT〜10mTの範囲で任意に設定可能とされている。
【0031】
このように構成されたDLC粉末作製装置10によれば、アセチレンガスを原料としてDLC粉末100を作製することができる。
【0032】
そのためにまず、前処理としての真空引きが行われる。具体的には、真空槽12内の圧力Pが2×10−3Pa以下となるまで、好ましくは5×10−4Pa以下となるまで、当該真空槽12内が上述の真空ポンプによって排気される。
【0033】
この真空引き後、ルツボ16(ルツボ本体18および蓋体20)の表面を洗浄するためのイオンボンバード処理が行われる。具体的には、ガス導入管22を介してルツボ16内を含む真空槽12内にアルゴンガスが導入される。この状態で、パルス電源装置24からルツボ16にパルス電力Epが供給される。すると、真空槽12内のアルゴンガスが放電して、当該真空槽12内にプラズマ200が発生する。そして、このプラズマ200中のアルゴンイオンがルツボ16の表面に照射され、その衝撃によって当該ルツボ16の表面が洗浄される。併せて、ガス導入管22を介して真空槽12内に水素ガスが導入される。すると、この水素ガスもまた放電して、水素イオンが発生し、この水素イオンもまたルツボ16の表面に照射される。ルツボ16の表面には、酸化物や炭化物等の不純物が付着しており、これらの不純物は、当該ルツボ16の表面に照射された水素イオンと結合することで排除される。このアルゴンガスおよび水素ガスを用いたイオンボンバード処理によって、ルツボ16の表面が十二分に洗浄される。
【0034】
そして、このイオンボンバード処理の後に、実際にDLC粉末を作製するための処理が行われる。具体的には、真空槽12内へのアルゴンガスおよび水素ガスの導入が停止されると共に、ガス導入管22を介して当該真空槽12内にアセチレンガスが導入される。このとき、真空槽12内へのアルゴンガスおよび水素ガスの導入が即座に停止されるのではなく、これらアルゴンガスおよび水素ガスそれぞれの導入流量が徐々に低減されて、最終的に当該アルゴンガスおよび水素ガスの導入が停止される。併せて、真空槽12内へのアセチレンガスの導入が急激に行われるのではなく、当該アセチレンガスの導入流量が徐々に増大されて、最終的に当該導入流量が所定値とされる。これにより、プラズマ200は消失することなく、その発生が維持される。要するに、アルゴンガスおよび水素ガスが放電することによるプラズマ200から、アセチレンガスが放電することによる当該プラズマ200へと、徐々に変移する。このアセチレンガスが放電することによるプラズマ200には、当該アセチレンガスの分解粒子である炭素イオンが含まれている。そして、この炭素イオンは、陰極であるルツボ16の表面、特にルツボ本体18の内壁、に照射される。これにより、ルツボ本体18の内壁にDLC粉末100が堆積し、つまり作製される。また、当該プラズマ200には、アセチレンガスの別の分解粒子である水素イオンも含まれている。そして、この水素イオンも同様に、ルツボ16の表面、特にルツボ本体18の内壁、に照射される。この結果、DLC粉末100は、水素を含んだものとなる。
【0035】
なお、このDLC粉末100は、次の2つのプロセスが同時に進行することによって作製されるものと、推測される。1つめは、ルツボ本体18の内壁に被膜であるDLCが形成されるものの、このDLCが自身の内部応力によってルツボ本体18の内壁から剥離し、これがDLC粉末100となるものと、推測される。そして、2つめは、プラズマ200中の炭素イオンが当該プラズマ200中(気相中)で再結合して、これがDLC粉末100としてルツボ本体18の内壁に堆積するものと、推測される。これについては、上述の特許文献1に開示されている通りであり、また、特許文献2にも開示されている。
【0036】
ここで、ガス導入管22の先端部分22aがルツボ16内に位置していることによって、このガス導入管22の先端部分22aから噴出されるアセチレンガスが当該ルツボ16内に直接的に導入される。これにより、DLC粉末100の作製場所であるルツボ16内における当該DLC粉末100の作製効率の向上が図られ、特に当該DLC粉末100の作製速度Sの向上が図られる。また、蓋体20が設けられていることで、ルツボ16(ルツボ本体18)内から当該ルツボ16外へのDLC粉末100の漏出(特に舞い上がり)が抑制される。
【0037】
加えて、各電磁コイル32および34に磁場形成用電源装置から磁場形成用電力が供給される。これにより、真空槽12内に上述のミラー磁場が形成され、真空槽12内の中央にプラズマ200が閉じ込められ、特にルツボ16内に当該プラズマ200が閉じ込められる。この結果、ルツボ16内におけるプラズマ200の密度が向上し、当該ルツボ16内におけるDLC粉末100の作製効率がより一層向上する。
【0038】
さらに、ガス導入管22にノズル用電源装置30から直流電力Eaが供給される。すると、ガス導入管22が言わば第2の陽極として機能するようになり、この第2の電極としてのガス導入管22にプラズマ200中の電子が引き込まれる。この結果、ガス導入管22の周囲、特にアセチレンガスの噴出口である先端部分22aの周囲に、高密度の放電、いわゆるホローアノード放電300が発生する。そして、このホローアノード放電300が発生することによって、特にルツボ16内に当該ホローアノード放電300が発生することによって、ルツボ16内におけるDLC粉末100の作製効率が一段と向上する。なお、このホローアノード放電300の大きさを調整するために、ガス導入管22の先端部分22aが上述の如く概略円錐状に広がるように形成されている。このガス導入管22の先端部分22aの形状(特に広がり具合)および大きさは、ルツボ16内の形状および大きさに応じて適宜に定められる。
【0039】
このような要領で所定量のDLC粉末100が作製されると、この処理を終了するべく、最終処理が行われる。具体的には、ガス導入管22への直流電力Eaの供給が停止されると共に、ルツボ16へのパルス電力Epの供給が停止される。併せて、ガス導入管22を介しての真空槽12内へのアセチレンガスの導入が停止される。そして、真空槽12内の圧力Pが徐々に大気圧と同程度に戻され、その後、10分間〜30分間程度の適当な冷却期間が置かれる。その上で、真空槽12内が大気に開放されて、当該真空槽12内からDLC粉末100がルツボ16ごと取り出される。これをもって、最終処理を含むDLC粉末100の一連の作製処理が終了する。
【0040】
なお、ルツボ16ごと取り出されたDLC粉末100は、ブラシ等の適用な回収手段によって回収される。回収されたDLC粉末100は、その粒径φ50μm〜150μm程度であり、必要に応じてボールミルやジェットミル等による粉砕処理によってより細かく粉砕される。また、DLC粉末100が回収された後のルツボ16は、ブラスト洗浄,油洗浄,エアー洗浄等の適当な洗浄処理を施された後、改めてDLC粉末100の作製処理に供されるべく、真空槽12内に設置される。
【0041】
ところで、上述の如くアセチレンガスという炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法によってDLC粉末100が作製される要領によれば、プラズマ200中の炭素ラジカルが重合反応することで、微粉末状の重合体、言わば重合粉末、が必然的に生成される。この一種の副産物である重合粉末は、陽極としての真空槽12の内壁に付着して当該内壁を汚染すると共に、本来の作製対象であるDLC粉末100にとって全く不要な不純物となる等、種々の支障を来す。そこで、この重合粉末の生成を抑制するべく、上述の電力制御装置26が設けられている。
【0042】
即ち、電力制御装置26は、上述の如くパルス電源装置24からルツボ16に供給されるパルス電力Epの態様が図2に示したような矩形波状の態様となるように、当該パルス電源装置24を制御するものであるが、このような制御が成されることによって、例えば当該パルス電力Epの電力値が一定とされる場合に比べて、つまり電力制御装置26が設けられない場合に比べて、重合粉末の生成量が大幅に抑制される。このことは、上述の特許文献2にも開示されている。具体的には、上述したイオンボンバード処理後の言わば実質的なDLC粉末100の作製処理において、電力制御装置26が有効化される。これにより、パルス電力Epは、図2に示したような態様でルツボ16に供給される。例えば、当該図2における第1電力値E1が元々の(電力制御装置26によるパルス電源装置24の制御前の)パルス電力Epの電力値と等価とされ、第2電力値E2がゼロ(0)とされる。そして、第1期間T1が500msとされ、第2期間T2もまた同じく500msとされる。要するに、パルス電力Epがルツボ16に対して間欠的に供給され、いわゆる時間変調される。このような制御が成されることによって、重合粉末の生成量が大幅に抑制される。
【0043】
なお、第1期間T1と第2期間T2とが1対1(T1:T2=1:1)であり、かつ、これら各期間T1およびT2のそれぞれが10ms〜10sの範囲内(確実的には200ms〜1sの範囲内)にあれば、上述と同様に重合粉末の生成量が大幅に抑制される。また、第2電力値E2がゼロでない場合でも、つまりパルス電力Epが時間変調されない場合でも、この第2電力値E2が第1電力値E1の20%以下であれば、同様に当該重合粉末の生成量が大幅に抑制される。このこともまた、特許文献2に開示されている。因みに、ガス導入管22(の先端部分22a)がルツボ16内の奥深くにまで挿入された場合には、このガス導入管22の外面(外周壁)にも当該重合粉末が付着する。これを回避するために、上述の如くガス導入管22はルツボ16内に浅めに挿入されている。
【0044】
その上で、このたび、種々の実験の結果、上述の実質的なDLC粉末100の作製処理時の条件によって、特にパルス電力Epの大きさによって、DLC粉末100の作製速度S,水素含有率R,密度δ,比抵抗ρおよび摩擦係数μが変わることが、確認された。図3に、パルス電力Epの大きさに対するDLC粉末100の作製速度S,水素含有率R,密度δおよび比抵抗ρそれぞれの関係を示す。そして、図4に、パルス電力Epの大きさに対する摩擦係数μの関係を示す。なお、これら図3および図4に係る実験においては、アセチレンガスの流量が500mL/min、真空槽12内の圧力Pが4Pa、パルス電力Epの周波数が100kHz、当該パルス電力Epの正極電圧のデューティ比が30%、ガス導入管22に供給される直流電力Eaの電圧値Vaが30V、当該直流電力Eaの電流値Iaが10A、とされ、さらに、パルス電力Epが時間変調されると共に、上述の第1期間T1および第2期間T2のそれぞれが500msとされた。ただし、直流電力Eaの電流値Iaについては、厳密には一定ではなく、概ね5A〜10Aの範囲で変動する。これは、パルス電力Epが時間変調されることで、ホローアノード放電300を含むプラズマ200が点滅することによる。
【0045】
例えば、パルス電力Epの大きさに対するDLC粉末100の作製速度Sに注目すると、この作製速度Sは、図3に○印付きの太実線で示すように、パルス電力Epが大きいほど、大きくなる。具体的には、パルス電力Epが3kWから6kWに増大されると、この作製速度Sは約13g/hから約16g/hに増大する。なお、図3には示されていないが、パルス電力Epが3kWよりも小さくなると、作製速度Sは極端に小さくなり、例えば当該パルス電力2kWのときには、作製速度Sは約8g/hとなる。一方、パルス電力Epが6kWよりも大きくなると、作製速度Sはさらに大きくなるが、16g/hを少し超えたところで飽和する。
【0046】
そして、DLC粉末100の水素含有率Rについては、図3に□印付きの太破線で示すように、パルス電力Epが大きいほど、小さくなる。具体的には、パルス電力Epが3kWから6kWに増大されると、この水素含有率Rは約32at%から約18at%に減少する。なお、図3には示されていないが、パルス電力Epが3kWよりも小さくなると、水素含有率Rはさらに大きくなり、例えば当該パルス電力2kWのときに、水素含有率Rは約40at%となる。一方、パルス電力Epが6kWよりも大きくなると、水素含有率Rはさらに小さくなり、例えば当該パルス電力Epが6.5kWのときに、水素含有率Rは約15at%となる。
【0047】
また、DLC粉末100の密度δについては、図3に◇印付きの太一点鎖線で示すように、パルス電力Epが大きいほど、大きくなる。具体的には、パルス電力Epが3kWから6kWに増大されると、この密度δは約1.59g/cmから約1.69g/cmに増大する。なお、図示は省略するが、パルス電力Ep以外の条件が変更されることによって、特にアセチレンガスの流量および真空槽12内の圧力Pが変更されることによって、この密度δは大きく変わる。例えば、アセチレンガスの流量が少ないほど、また、真空槽12内の圧力Pが低いほど、密度δは大きくなり、言わば緻密なDLC粉末100が作製される。一方、アセチレンガスの流量が多いほど、また、真空槽12内の圧力Pが高いほど、密度δは小さくなり、言わば粗鬆的なDLC粉末100が作製される。結果として、この密度δは約1.4g/cm〜約2.5g/cmの範囲で変わることが、確認された。
【0048】
さらに、DLC粉末100の比抵抗ρについては、図3に△印付きの太二点鎖線で示すように、パルス電力Epが大きいほど、小さくなる。具体的には、パルス電力Epが3kWから6kWに増大されると、この比抵抗ρは約1.8MΩ・cm〜約23Ω・cmに減少する。なお、図3には示されていないが、パルス電力Epが3kWよりも小さくなると、比抵抗ρはさらに大きくなり、例えば当該パルス電力2kWのときに、比抵抗ρは約10GΩ・cmとなる。この約10GΩ・cmという値は、極めて高い絶縁性を示す。一方、パルス電力Epが6kWよりも大きくなると、比抵抗ρはさらに小さくなり、例えば当該パルス電力Epが6.5kWのときに、比抵抗ρは約10Ω・cmとなる。この約10Ω・cmという値は、概ね導電性を示す。
【0049】
そして、DLC粉末100の摩擦係数μについては、クロムモリブデン鋼であるSCM415製の平板に当該DLC粉末100を塗布し、これに焼入鋼であるSUJ2製の1/4インチのボールを室温大気中で往復摺動させる、というボールオンディスク型のトライボメータによって測定した。なお、ボールへの負荷荷重は1000gであり、当該ボールの摺動速度は300mm/minである。また、比較対象用として、DLC粉末100を塗布しない言わば無処理のものと、当該DLC粉末100に代えて上述の各特許文献1および2に開示されている公知のダイヤモンド微粉末(Diamond Nano Powder:以下「DNP」と言う。)を塗布したものと、当該DLC粉末100に代えてカーボンブラックを塗布したものと、のそれぞれについても、同様の要領で摩擦係数μを測定した。その結果を示したのが、上述の図4である。この図4に示すようにDLC粉末100の摩擦係数μは、パルス電力Epが大きいほど、小さくなる。具体的には、パルス電力Epが3kWから6kWに増大されると、この摩擦係数μは0.37から0.20に低下する。この値は、比較対象用としての無処理のもの(0.70)に比べて当然ではあるが遥かに小さく、また、DNP(0.63)およびカーボンブラック(0.41)のそれぞれと比べても小さい。さらに、図示は省略するが、このDLC粉末100の摩擦係数μは、パルス電力Ep以外の条件が変更されることによって変わり、特にDLC粉末100の密度δと相関し、例えば当該密度が2.0g/cm以上であれば、約0.1に達する。この0.1という摩擦係数μの値は、OLCのそれと略同等の値である。因みに、このDLC粉末100の摩擦係数μの上限値は、約0.4であり、厳密にはそうなるように制御可能である。
【0050】
加えて、DLC粉末100は、必要に応じて粉砕処理される。上述のパルス電力Epが6kWとされた条件下で作製されたDLC粉末100について、ボールミルによる粉砕処理後とこの粉砕処理前とのそれぞれの当該DLC粉末100の粒径分布を、図5に示す。この図5から分かるように、粉砕処理前のDLC粉末100の粒径分布は85μm付近にピークを示しており、このピーク値の半値を基準とすると、当該粉砕処理前のDLC粉末100の粒径φは概ね50μm〜150μmである。一方、粉砕処理後のDLC粉末100の粒径分布は1.3μm付近にピークを示しており、このピーク値の半値を基準とすると、当該粉砕処理後のDLC粉末100の粒径φは概ね0.8μm〜2.2μmである。なお、図示は省略するが、ジェットミルによる粉砕処理によれば、DLC粉末100の粒径φはサブミクロン以下に達し、その分布のピークを最小で約0.05μmとすることも可能である。また、パルス電力Epが6kWよりも小さい条件下で作製されたDLC粉末100であれば、当該パルス電力Epが6kWとされた条件下で作製されたDLC粉末100よりも大きな粒径φとなる傾向があり、この場合、その粒径分布のピークを最大で約100μmとすることもできる。
【0051】
なお、パルス電力Epが時間変調されない場合でも、同様の実験結果が得られた。
【0052】
これらの実験結果から、例えば改めてDLC粉末100の水素含有率Rに注目すると、この水素含有率Rは、上述の如く約15at%〜約40at%の範囲で制御可能である。被膜である通常のDLCにおいては、その水素含有率が低いほど、その硬さが高くなる。従って、このDLC粉末100においても、その水素含有率Rと硬さとの関係は、当該通常のDLCにおけるのと同様になるものと推察される。ゆえに、用途に応じて、特にどれくらいの硬さが要求されるのかに応じて、この水素含有率Rが適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末100が実現される。
【0053】
そして、DLC粉末100の密度δについては、上述の如く約1.4g/cm〜約2.5g/cmの範囲で制御可能である。通常のDLCにおいては、その密度が高いほど、その硬さが高くなる。従って、このDLC粉末100においても、その密度δと硬さとの関係は、当該通常のDLCにおけるのと同様になるものと推察される。ゆえに、用途に応じて、特にどれくらいの硬さが要求されるのかに応じて、この密度δが適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末100が実現される。
【0054】
さらに、DLC粉末100の比抵抗ρについては、上述の如く約10Ω・cm〜約10GΩ・cmの範囲で制御可能である。この比抵抗ρの下限値である約10Ω・cmという値は、概ね導電性を示す。一方、当該比抵抗ρの上限値である約10GΩ・cmという値は、極めて高い絶縁性を示す。ゆえに、用途に応じて、特にその電気的特性として導電性が要求されるのか、それとも絶縁性が要求されるのかに応じて、この比抵抗ρが適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末100が実現される。例えば、この比抵抗ρが上限値またはこれに近い値とされることで、上述したブラックマトリクス用レジストに適した極めて高い絶縁性を持つDLC粉末100が実現される。
【0055】
また、DLC粉末100の摩擦係数μについては、上述の如く約0.1〜約0.4の範囲で制御可能である。特にこの摩擦係数μの下限値である0.1という値は、OLCのそれと略同等の値である。ゆえに、用途に応じてこの摩擦係数μが適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末100が実現される。例えば、この摩擦係数μが下限値またはこれに近い値とされることで、大気中での固体潤滑剤に適したDLC粉末100が実現される。そして、この固体潤滑剤に適したDLC粉末100は、被膜である通常のDLCに代えての応用も期待できる。ただし、このDLC粉末100の真空中における摩擦係数μ’は、大気中における摩擦係数μよりも大きいので、当該DLC粉末100の固体潤滑剤としての応用は、大気中に限定されるのが、好ましい。その一方で、水素含有率Rが高いほど、このDLC粉末100の大気中での摩擦係数μは大きくなるが、当該DLC粉末100の真空中での摩擦係数μ’は小さくなることが、このたび判明した。このこともまた、DLC粉末100の用途の展開に貢献することが、期待される。さらに、このDLC粉末は、潤滑油やグリース等の液体状または半固体状の潤滑剤に添加される添加剤としての応用、とりわけ摩擦調整剤としての応用、も期待できる。
【0056】
加えて、DLC粉末100の粒径φについては、上述の如く粉砕処理されることで、約0.05μm〜100μmの範囲で制御可能である。ゆえに、用途に応じてこの粒径φが適宜にされることで、当該用途に適したDLC粉末100が実現される。例えば、このDLC粉末100が上述の固体潤滑剤として適用される場合には、当該DLC粉末100がそのまま対象に塗布された状態で使用されるのか、それとも油等の液体に混入された状態で使用されるのか、さらには粘土状のものに混入された上で固化(焼成等)されるのか、等によって、その粒径φの好適値が変わることが想像されるが、このような用途にも、柔軟かつ適切に対応することができる。
【0057】
以上のように、本実施形態によれば、用途に応じてDLC粉末100の特性、特に水素含有率R,密度δ,比抵抗ρおよび摩擦係数μ、が適宜に制御されることで、当該用途に適したDLC粉末100が実現される。しかも、この制御は、パルス電力Epの大きさのみによって、言い換えれば極めて簡単な方法によって、実現される。従って、様々な用途への応用が期待できるDLC粉末100を極めて簡単に提供することができる。加えて、このDLC粉末100の粒径φを制御することも可能であるので、当該DLC粉末100の用途のさらなる展開が図られる。
【0058】
なお、本実施形態で説明した内容は、飽くまでも本発明を実現するための1つの具体例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0059】
例えば、放電用電力としてパルス電力Epが採用されたが、これに代えて、周波数が13.56MHzの正弦波の高周波電力が採用されてもよいし、これ以外の電力が採用されてもよい。いずれにしても、チャージアップを防止するために、当該放電用電力として交流電力が採用されることが、肝要である。ただし、高周波電力が採用される場合には、その供給源である放電用電力供給手段としての高周波電源装置と、ルツボ16を含む負荷側と、の間のインピーダンスを整合させるためのインピーダンス整合器が必要になる。
【0060】
そして、原料ガスとしてアセチレンガスが採用されたが、これに限らない。メタン(CH)ガスやエチレン(C)ガス,ベンゼン(C)ガス等の他の炭化水素系ガスが採用されてもよい。また、アルコールから気化された炭化水素系ガスが採用されてもよい。ただし、メタンガスについては、アセチレンガスよりもDLC粉末100の作製効率が低いこと、詳しくは作製速度Sの比較として当該アセチレンガスが採用された場合の1/5程度の効率しか得られないことが、実験により確認された。このことは、エチレンガスについても、同様である。そして、ベンゼンガスについては、当該ベンゼンが元々液体であるため、これを気化する必要があり、その分、気化設備を含めコストが掛かる。加えて、ベンゼンガスが採用された場合は、これが真空ポンプ中で再液化する恐れがあり、そうなると、当該真空ポンプによる排気効率が低下する。その上、ベンゼンガスは、毒性および発がん性を有するので、その弊害が大きい。アルコールもまた、液体であるので、その気化設備を含めコストが掛かる。これらを総合すると、DLC粉末100の作製効率、コスト、取り扱い易さ、調達容易性、安全性等の観点から、原料ガスとしてはアセチレンガスが最も好適である。
【0061】
また、電力制御装置26は、パルス電源装置24と一体化されたものでもよく、例えば当該パルス電源装置24に内蔵されてもよい。
【0062】
さらに、プラズマ200の励起法として、いわゆる自己放電型(または「冷陰極型」とも言う。)の励起法が採用されたが、これに限らない。即ち、高周波プラズマCVD法やマイクロ波プラズマCVD法、ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマCVD法、熱陰極PIG(Penning Ionization Gauge)プラズマCVD法等の他の励起法が採用されてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 DLC粉末作製装置
12 真空槽
16 ルツボ
18 パルス電源装置
22 ガス導入管
100 DLC粉末
200 プラズマ
図1
図2
図3
図4
図5