特許第6563742号(P6563742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6563742アーウィン系水硬性組成物およびその製造方法
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  • 特許6563742-アーウィン系水硬性組成物およびその製造方法 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563742
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】アーウィン系水硬性組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/345 20060101AFI20190808BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20190808BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20190808BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20190808BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20190808BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   C04B7/345
   C04B7/38
   C04B28/02
   C04B22/08 B
   C04B22/10
   C04B24/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-167572(P2015-167572)
(22)【出願日】2015年8月27日
(65)【公開番号】特開2017-43516(P2017-43516A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】林 建佑
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−295842(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02842923(EP,A1)
【文献】 特公平05−027583(JP,B2)
【文献】 特開2001−058856(JP,A)
【文献】 Hydration studies of calcium sulfoaluminate cement blended with fly ash,Cement and Concrete Research,2013年,54,PP.12-20
【文献】 Experimental Study of Sulfoaluminate Concrete based Materials,CONSEC'07,2007年,PP.909-916
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンをP換算で0.25〜2.0質量%含むリン含有アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し、ポルトランドセメントクリンカー粉末80〜150質量部、および無水石膏粉末20〜50質量部を少なくとも含む、アーウィン系水硬性組成物。
【請求項2】
前記リン含有アーウィン系クリンカーが、アーウィン(3CaO・3Al・CaSO)40〜80質量%、およびビーライト(2CaO・SiO)10〜40質量%を少なくとも含む、請求項1に記載のアーウィン系水硬性組成物。
【請求項3】
前記ポルトランドセメントクリンカー粉末が、早強ポルトランドセメントクリンカー粉末、または普通ポルトランドセメントクリンカー粉末である、請求項1または2に記載のアーウィン系水硬性組成物。
【請求項4】
クエン酸、ヘプトン酸、コハク酸、酒石酸、およびこれら塩の中から選ばれる1種以上の凝結遅延剤を、請求項1〜のいずれか1項に記載のアーウィン系水硬性組成物100質量部に対し0.5質量部以下含む、凝結遅延剤を含有したアーウィン系水硬性組成物。
【請求項5】
炭酸リチウム、亜硝酸カルシウム、および乳酸カルシウムから選ばれる1種以上の凝結促進剤を、請求項1〜のいずれか1項に記載のアーウィン系水硬性組成物100質量部に対し5質量部以下含む、凝結促進剤を含有したアーウィン系水硬性組成物。
【請求項6】
リン含有アーウィン系クリンカーのリン原料として、金属を含む汚泥類、下水汚泥、および畜産系廃棄物(家畜ふん尿)から選ばれる1種以上を用いて、請求項1〜のいずれか1項に記載のアーウィン系水硬性組成物を製造する、アーウィン系水硬性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可使時間が長く、かつ少量の凝結遅延剤の使用で可使時間を容易に延長できるアーウィン系水硬性組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
アーウィン系水硬性組成物は、主成分として、アーウィン(3CaO・3Al・CaSO)、ビーライト(2CaO・SiO)、フェライト相(4CaO・Al・Fe)、および無水石膏(CaSO)を含み、速硬性に優れ、低アルカリ性である。これらの特徴を生かして、アーウィン系水硬性組成物は、GRC(ガラス繊維強化コンクリート)用セメント、放射性廃棄物の固化埋設処理用セメント、泥炭等の高有機質土軟弱地盤の地盤改良用固化材などに使用されている。
また、アーウィン系水硬性組成物のクリンカーは、ポルトランドセメントのクリンカーと比べ焼成温度や石灰石原単位が低く、クリンカーの焼成に消費されるエネルギーが少ないため、省エネルギー型のセメントクリンカーとして注目されている。
【0003】
しかし、アーウィンは水和活性が高いため、アーウィン系水硬性組成物を使用したモルタルやコンクリートは、その可使時間の確保および調整が難しいという問題がある。すなわち、コンクリート等の凝結の調整には、通常、凝結遅延剤が用いられるが、一般に使用されているグルコン酸、クエン酸、酒石酸などのオキシカルボン酸系、リグニンスルホン酸、フミン酸などの高分子有機酸系、ケイフッ化マグネシウム、ホウ酸等の無機系等の凝結遅延剤は、アーウィン系水硬性組成物に対し、十分な凝結遅延効果が得られないばかりか、凝結遅延剤の種類によっては強度発現性が大きく低下する場合がある。例えば、凝結遅延剤として多用されているクエン酸は、添加量によっては凝結時間が短くなる。
【0004】
そこで、アーウィン系水硬性組成物の凝結遅延方法や凝結遅延剤が開発されている。例えば、特許文献1に記載の凝結遅延方法は、凝結遅延剤としてアルドン酸および/またはその塩を、アーウィン系水硬性組成物100重量部に対して0.1〜5重量部添加する方法である。また、特許文献2に記載の凝結遅延剤は、クエン酸およびその塩の中から選ばれる少なくとも一種の第1成分と、ヘプトン酸およびその塩の中から選ばれる少なくとも一種の第2成分とを含む凝結遅延剤であって、アーウィン系水硬性組成物100重量部に対して第1成分を0.01〜3.0重量部、第2成分を第1成分100重量部に対して40〜150重量部添加する凝結遅延剤である。しかし、これらの凝結遅延剤は有用ではあるが高価であり、この高コスト性がアーウィン系水硬性組成物の普及を阻害する要因の1つになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−255388号公報
【特許文献2】特開平09−295842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、可使時間が長く、かつ少量の凝結遅延剤の使用で可使時間を容易に延長できるアーウィン系水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定量のリンを含むアーウィン系クリンカーを含むアーウィン系水硬性組成物は、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の構成を有するアーウィン系水硬性組成物およびその製造方法である。
【0008】
[1]リンをP換算で0.25〜2.0質量%含むリン含有アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し、ポルトランドセメントクリンカー粉末80〜150質量部、および無水石膏粉末20〜50質量部を少なくとも含む、アーウィン系水硬性組成物。
[2]前記リン含有アーウィン系クリンカーが、アーウィン(3CaO・3Al・CaSO)40〜80質量%、およびビーライト(2CaO・SiO)10〜40質量%を少なくとも含む、前記[1]に記載のアーウィン系水硬性組成物。
[3]前記ポルトランドセメントクリンカー粉末が、早強ポルトランドセメントクリンカー粉末、または普通ポルトランドセメントクリンカー粉末である、前記[1]または[2]に記載のアーウィン系水硬性組成物。
[4]クエン酸、ヘプトン酸、コハク酸、酒石酸、およびこれら塩の中から選ばれる1種以上の凝結遅延剤を、前記[1]〜[]のいずれかに記載のアーウィン系水硬性組成物100質量部に対し0.5質量部以下含む、凝結遅延剤を含有したアーウィン系水硬性組成物。
[5]炭酸リチウム、亜硝酸カルシウム、および乳酸カルシウムから選ばれる1種以上の凝結促進剤を、前記[1]〜[]のいずれかに記載のアーウィン系水硬性組成物100質量部に対し5質量部以下含む、凝結促進剤を含有したアーウィン系水硬性組成物。
[6]リン含有アーウィン系クリンカーのリン原料として、金属を含む汚泥類、下水汚泥、および畜産系廃棄物(家畜ふん尿)から選ばれる1種以上を用いて、前記[1]〜[]のいずれかに記載のアーウィン系水硬性組成物を製造する、アーウィン系水硬性組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアーウィン系水硬性組成物は、可使時間が長く、かつ少量の凝結遅延剤の使用で可使時間を容易に延長できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アーウィン系水硬性組成物を含むモルタルの圧縮強さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記のとおり、リン含有アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し、ポルトランドセメントクリンカー粉末80〜150質量部、および無水石膏粉末20〜50質量部を少なくとも含む、アーウィン系水硬性組成物等である。
以下、本発明について、アーウィン系水硬性組成物の構成成分である、リン含有アーウィン系クリンカー粉末、ポルトランドセメントクリンカー粉末、および無水石膏粉末等と、アーウィン系水硬性組成物の製造方法に分けて詳細に説明する。
【0012】
1.リン含有アーウィン系クリンカー粉末
リン含有アーウィン系クリンカー粉末は、リンをP換算で0.25〜2.0質量%含む。リンの含有率が0.25質量%未満では、アーウィン系水硬性組成物の可使時間の延長効果が小さくなり、2.0質量%を超えるとアーウィン系水硬性組成物の強度発現性が低下する。なお、リンの含有率は、P換算で、好ましくは0.3〜2.0質量%、より好ましくは0.45〜2.0質量%、さらに好ましくは0.6〜1.8質量%である。
また、前記リン含有アーウィン系クリンカーは、アーウィン(3CaO・3Al・CaSO)40〜80質量%、およびビーライト(2CaO・SiO)10〜40質量%を少なくとも含む。アーウィンの含有率が40質量%未満ではアーウィン系水硬性組成物の速硬性が低下し、80質量%を超えるとアーウィン系水硬性組成物の長期強度発現性が低下する。また、ビーライトが10質量%未満ではアーウィン系水硬性組成物の長期強度発現性が低下し、40質量%を超えるとアーウィン系水硬性組成物の速硬性が低下する。
さらに、前記リン含有アーウィン系クリンカーは、アルミネート相(3CaO・Al)7質量%以下、フェライト相(4CaO・Al・Fe)3〜20質量%、無水石膏(CaSO)0.1〜10質量%を含んでもよい。これらの構成成分を含むことにより、アーウィン系水硬性組成物の可使時間の調整が容易で、強度発現性を低下させることなく、アーウィン系クリンカーの焼成に消費されるエネルギーを低減できる。
【0013】
2.ポルトランドセメントクリンカー粉末
本発明において、ポルトランドセメントクリンカ−粉末は、早強ポルトランドセメントクリンカー粉末、普通ポルトランドセメントクリンカー粉末、中庸熱ポルトランドセメントクリンカー粉末、および低熱ポルトランドセメントクリンカー粉末のいずれも使用できるが、アーウィン系水硬性組成物の強度発現性の観点から、好ましくは早強ポルトランドセメントクリンカー粉末、または普通ポルトランドセメントクリンカー粉末である。
ポルトランドセメントクリンカー粉末の混合割合は、リン含有アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し、ポルトランドセメントクリンカー粉末80〜150質量部である。該混合割合が80質量部未満では、アーウィン系水硬性組成物の長期強度発現性が低下するおそれがあり、150質量部を超えるとアーウィン系水硬性組成物の早期強度発現性が低下するおそれがある。なお、リン含有アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し、ポルトランドセメントクリンカー粉末は、好ましくは90〜140質量部、より好ましくは100〜130質量部である。
【0014】
3.無水石膏粉末
無水石膏粉末は、強度発現性の観点から、好ましくはII型無水石膏であり、そのブレーン比表面積は、好ましくは2500〜12000cm/g、より好ましくは3500〜8000cm/g、さらに好ましくは3700〜5000cm/gである。
ここで、無水石膏の全てが細かいと、水硬性組成物硬化体の膨張によるひび割れや反りが生じ易くなるため、一部の無水石膏は粗粒にすることが好ましい。この場合、無水石膏粉末100質量%中、好ましくはブレーン比表面積が4500〜12000cm/gである微粒分の含有率は50〜80質量%、およびブレーン比表面積が2500〜4000cm/gである粗粒分の含有率は20〜50質量%である。
アーウィン系水硬性組成物の製造において、ブレーン比表面積が異なる2種類の無水石膏を所定量混合することもできるが、後述するように、無水石膏(粗粒品)の一部をアーウィン系クリンカーの粉砕時に同時粉砕して微粉化し、残部を後添加する方法が簡便で好ましい。
また、アーウィン系水硬性組成物中の無水石膏粉末の混合割合は、リン含有アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し20〜50質量部である。無水石膏粉末の含有割合が、該範囲を外れるとアーウィン系水硬性組成物の長期強度発現性が低下するおそれがある。なお、無水石膏粉末の含有割合は、リン含有アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し、好ましくは25〜45質量部である。
アーウィン系水硬性組成物中のSO/Alのモル比は、可使時間および強度発現性を確保する観点から、好ましくは1.0〜1.5、より好ましくは1.05〜1.3である。ただし、分子のSOは、リン含有アーウィン系クリンカーおよび無水石膏粉末の両方に含まれるSOの合計量である。
【0015】
4、凝結遅延剤
本発明は、さらに、クエン酸、ヘプトン酸、コハク酸、酒石酸、およびこれら塩の中から選ばれる1種以上の凝結遅延剤を、可使時間の調整のために、アーウィン系水硬性組成物100質量部に対し、0.5質量部以下含んでもよい。凝結遅延剤の含有割合が0.5質量部を超えると、アーウィン系水硬性組成物の強度発現性が低下するおそれがある。なお、前記凝結遅延剤の含有割合は、アーウィン系水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは0.01〜0.45質量部、より好ましくは0.05〜0.4質量部、さらに好ましくは0.1〜0.35質量部である。
また、前記凝結遅延剤の粒径は、凝結遅延剤の遅延効果の発現性の観点から、好ましくは0.1μm〜10mm、より好ましくは1μm〜5mm、さらに好ましくは3μm〜3mmである。
【0016】
5.凝結促進剤
本発明は、さらに、i)炭酸リチウム、ii)炭酸リチウムと亜硝酸カルシウムの混合物、または、iii)炭酸リチウムと乳酸カルシウムの混合物から選ばれる凝結促進剤を、早期強度発現性を増進させるために、アーウィン系水硬性組成物100質量部に対し、5質量部以下含んでもよい。5質量部を超えるとアーウィン系水硬性組成物の長期強度発現性が低下するおそれがある。なお、前記凝結促進剤の含有割合は、アーウィン系水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは0.1〜4.5質量部、より好ましくは0.5〜4質量部、さらに好ましくは1〜3.5質量部である。
また、強度発現性の観点から、
ii)炭酸リチウムと亜硝酸カルシウムの混合物の混合比(質量比)は、好ましくは、炭酸リチウム:亜硝酸カルシウム=50:50〜15:85であり、より好ましくは40:60〜20:80である。また、
iii)炭酸リチウムと乳酸カルシウムの混合物の混合比(質量比)は、好ましくは炭酸リチウム:乳酸カルシウム=50:50〜15:85であり、より好ましくは40:60〜20:80である。
前記凝結促進剤の粒径は、凝結促進剤の促進効果の発現性の観点から、好ましくは0.1μm〜10mm、より好ましくは1μm〜5mm、さらに好ましくは3μm〜3mmである。
【0017】
本発明のアーウィン系水硬性組成物のブレーン比表面積は、早期および長期の強度発現性の観点から、好ましくは4000〜5000cm/gである。リン含有アーウィン系クリンカー粉末、およびポルトランドセメントクリンカー粉末のブレーン比表面積も、該範囲内にあることが好ましい。
【0018】
5.アーウィン系水硬性組成物の製造方法
本発明のアーウィン系水硬性組成物の製造方法は、下記(A)のリン含有アーウィン系クリンカーの製造を経た後に、次の(a)〜(d)の粉砕・混合方法のいずれか一つを用いればよい。すなわち、
(A)前記リン含有アーウィン系クリンカーの製造に用いるリン源は、特に限定されず、原料および/または燃料に含まれていればよく、例えば、アルミスラッジ等の金属を含む汚泥類、下水汚泥、畜産系廃棄物(家畜ふん尿)等が挙げられる。これらの中でも、資源循環型社会構築の観点から、下水汚泥の使用が好ましい。
また、前記リン含有アーウィン系クリンカーの焼成には、ロータリーキルン等の、ポルトランドセメントクリンカーの焼成に使用される通常の焼成炉を用いることができ、その焼成温度(最高温度)は、1250〜1350℃である。焼成温度が1250℃未満ではクリンカーの焼成度が不足するため、また焼成温度が1350℃を超える場合は過焼成のため、共に凝結や強度発現性等の主要な品質特性が低下する場合がある。
そして、上記(A)工程で得られたリン含有アーウィン系クリンカーを用いて、
(a)リン含有アーウィン系クリンカー、ポルトランドセメントクリンカー、および無水石膏を、粉末全体のブレーン比表面積が4000〜5000cm/gとなるまで粉砕する方法、
(b)リン含有アーウィン系クリンカー、ポルトランドセメントクリンカー、および無水石膏の一部(無水石膏の50〜80質量%が好ましい。)を、ブレーン比表面積が4000〜5000cm/gになるまで粉砕した後、該粉砕物に残りの無水石膏を混合する方法、
(c)リン含有アーウィン系クリンカー、および無水石膏の一部(無水石膏の50〜80質量%が好ましい。)をブレーン比表面積が4000〜5000cm/gとする粉砕と、ポルトランドセメントクリンカー、および残りの無水石膏をブレーン比表面積が3000〜5000cm/gとする粉砕を別々に行った後、これら2種類のクリンカー粉砕物を混合する方法、
(d)リン含有アーウィン系クリンカーおよび無水石膏の一部(無水石膏の50〜80質量%が好ましい。)をブレーン比表面積が4000〜5000cm/gとする粉砕と、ポルトランドセメントクリンカーをブレーン比表面積が3000〜5000cm/gとする粉砕を別々に行った後、これら2種類のクリンカー粉砕物と残りの無水石膏を混合する方法、
の、いずれか一つの粉砕・混合方法を採用する。
なお、凝結遅延剤および凝結促進剤は、粉砕が必要な場合には、前記いずれかのクリンカーの粉砕工程において同時に粉砕すればよく、また、十分に細かな粒径を有する場合には、クリンカー粉砕物に所定量を添加すればよい。
上記、粉砕・混合方法のうち、(a)の方法は一つの粉砕工程のみで完了するため、アーウィン系水硬性組成物を簡便に製造できる。一方、(b)〜(d)の方法は、ブレーン比表面積の異なる2種類の無水石膏を含むから、特に低温での早期強度発現性に優れるアーウィン系水硬性組成物を製造できる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.リン含有アーウィン系クリンカーの作製
II型無水石膏、ボーキサイト、石灰石、およびリン酸水素カルシウム二水和物(試薬特級、関東化学社製)を、表1のCP1〜5に示す化学組成になるように混合して圧密し、ペレットを作製した。次に、該ペレットを超高速昇温電気炉に入れ、1000℃で30分保持して脱水分および脱炭酸を行った後、昇温速度700℃/時間で1350℃まで昇温して、1350℃で20分間焼成した。その後、炉外で放冷して、表2のCP1〜5に示す鉱物組成を有するクリンカーを作製した。
また、比較のため、表1のCN1に示す化学組成になるように、II型無水石膏、ボーキサイト、および石灰石を混合して圧密し、CP1〜5と同様にして、表2のCN1に示す鉱物組成を有するクリンカーを作製した。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
2.アーウィン系水硬性組成物の製造
前記CP1〜5およびCN1のアーウィン系クリンカーと、表3に示す材料を用いて、前記(b)の方法でアーウィン系水硬性組成物を製造した。具体的には、表4の「粉砕」の列に示す配合に従って、アーウィン系クリンカー、ポルトランドセメントクリンカー、無水石膏(添加する無水石膏全体の74質量%)、および炭酸リチウム(凝結促進剤)を粉砕した後、表4の「混合」の列に示す配合に従って、残り(添加する無水石膏全体の26質量%)の無水石膏を前記粉砕物に添加して混合し、アーウィン系水硬性組成物を製造した。得られたアーウィン系水硬性組成物のブレーン比表面積を表5に示す。
【0023】
【表3】
【0024】
【表4】
【0025】
【表5】
【0026】
3.可使時間と圧縮強さの測定
(1)モルタルの作製
表6に示す配合に従い、凝結遅延剤の添加割合を3水準に設定したモルタルを作製した。なお、表6に示す材料は以下のものを用いた。
・水硬性組成物:前記アーウィン系水硬性組成物
・砂:セメント強さ試験用標準砂(一般社団法人セメント協会販売)
・水:千葉県佐倉市上水
・減水剤:ナフタレンスルホン酸系減水剤(商品名 マイテイ150[登録商標]、花王社製)
・凝結遅延剤:クエン酸(試薬1級、関東化学社製)
【0027】
【表6】
【0028】
(2)可使時間の測定
可使時間はモルタルの0打フローで評価した。具体的には、JIS R 5201「セメントの物理試験」に記載のフローテーブルを用い、φ51×26mmのプラスチック製円柱筒に、擦り切れまで前記作製したモルタルをつめ、該筒を引き抜いた後のフロー値(0打)を測定した。なお、本測定で100mm以上のフロー値を示すモルタルを、可使状態にあるモルタルとして判定した。測定結果を表7に示す。なお、100mm以上のフロー値は斜字で示す。
【0029】
【表7】
【0030】
表7に示すように、実施例1〜8の可使時間は、従来のアーウィン系水硬性組成物に相当する比較例1の可使時間とほぼ同等である。特に、実施例3と実施例5の凝結遅延剤の使用量は、比較例1の凝結遅延剤の使用量の半分で済み、さらに特筆すべきは、凝結遅延剤を使用しない実施例6の可使時間は、凝結遅延剤を含む比較例1の可使時間と同等である点である。このように、本発明のアーウィン系水硬性組成物は、凝結遅延剤の使用量を減らすか、または無添加でも、充分、実用にかなう可使時間を確保することができる。
【0031】
(3)圧縮強さの測定
実施例1〜8、比較例1、および比較例2のモルタルを用いて圧縮強さを測定した。具体的には、JIS R 5201「セメントの物理試験」に記載のテーブルバイブレーター上に設置した20×20×30mmの型枠にモルタルを1層詰めて、30秒間加振した後、表面を平滑に仕上げた。次に、材齢1日まで型枠内で封かん養生してモルタルを脱型した後、該モルタルを水中養生して、材齢が2時間、3時間、1日、および7日の時点でモルタルの圧縮強さを測定した。測定結果を表8と図1に示す。
【0032】
【表8】
【0033】
表8と図1に示すように、材齢7日において、凝結遅延剤の使用量が比較例1の半分である実施例3、および凝結遅延剤を使用しない実施例6の圧縮強さは、比較例1の圧縮強さと同等である。したがって、本発明のアーウィン系水硬性組成物は、凝結遅延剤を多量に使用しなくても、充分な可使時間を確保できるとともに、強度発現性に優れている。
図1