(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置G1の断面図、
図2は、その要部拡大断面図である。
【0014】
この偏心揺動型の減速装置G1は、負荷側および反負荷側に並んで2枚設けられた外歯歯車10と、該外歯歯車10が内接噛合する内歯歯車30と、外歯歯車10を偏心揺動させる入力軸32とを備える。つまり、本減速装置G1では、入力軸32が、外歯歯車10を偏心揺動させるクランク軸を兼用している。
【0015】
入力軸32は、中実の軸部材で構成され、減速装置G1の径方向中央(内歯歯車30の軸心C30上)に配置されている。入力軸32には、ファンカバー34で覆われた冷却ファン36が装着されている。
【0016】
入力軸32には、キー38を介して、入力軸32とは別部材で構成された偏心体40が外嵌されている。偏心体40は、反負荷側偏心部41および負荷側偏心部42を有している。反負荷側偏心部41および負荷側偏心部42の外周は、それぞれ入力軸32の軸心C32(=内歯歯車30の軸心C30)に対してeだけ偏心している。ただし、この例では、反負荷側偏心部41および負荷側偏心部42は、180度の偏心位相差を有して互いに離反する方向に偏心している。
【0017】
2枚の外歯歯車10は、ころで構成された偏心体軸受51を介して反負荷側偏心部41および負荷側偏心部42の外周に揺動可能に組み込まれている。したがって、各外歯歯車10の偏心位相差も180度である。
【0018】
図3は、外歯歯車10の単体の正面図である。2枚の外歯歯車10は、組み込まれたときの偏心位相が異なるだけで、単体の部材としては同一の部材である。各外歯歯車10は、外歯が形成された歯部11と、該外歯歯車10の軸心C10からオフセットした位置に設けられた貫通孔12と、外歯歯車10の軸方向両端面19、19における歯部11と貫通孔12との間に設けられた周方向溝13と、を有する。外歯歯車10の構成については、後に詳述する。
【0019】
外歯歯車10は、内歯歯車30に内接噛合している。内歯歯車30は、ケーシング60(の後述する第1ケーシング体61)と一体化された内歯歯車本体30Aと、該内歯歯車30の「内歯」を構成する円柱状の内歯ピン30Bと、を有している。内歯ピン30Bは、内歯歯車本体30Aに形成されたピン溝30Cに回転自在に組み込まれている。内歯歯車30の内歯の数(内歯ピン30Bの本数)は、外歯歯車10の歯部11に形成された外歯の数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0020】
なお、本減速装置G1におけるケーシング60は、第1〜第3ケーシング体61〜63によって主に構成されている。第1〜第3ケーシング体61〜63は、ケーシングボルト64によって共締めされている。
【0021】
第1ケーシング体61は、内歯歯車30の内歯歯車本体30Aと一体化され、減速機構55を収容している。第2ケーシング体62は、第1ケーシング体61の軸方向負荷側に連結されている。第2ケーシング体62は、一対のテーパローラ軸受82、83を介して出力軸80を支持している。第2ケーシング体62の負荷側には、カバー体66が装着されている。カバー体66と出力軸80との間には、出力側オイルシール84が配置されている。第2ケーシング体62には、取付脚部62Aが一体的に形成されている。減速装置G1は、この取付脚部62Aを介して、図示せぬ外部部材に固定される。第3ケーシング体63は、第1ケーシング体61の反負荷側に連結されている。第3ケーシング体63は、玉軸受86を介して入力軸32を支持している。第3ケーシング体63の内周と入力軸32との間には、入力側オイルシール88が配置されている。
【0022】
負荷側の外歯歯車10のさらに負荷側には、円板状のキャリヤ70が配置されている。キャリヤ70は、外歯歯車10の内歯歯車30に対する相対回転を取り出すもので、出力軸80と一体化されている。なお、入力軸32(クランク軸)は、第3ケーシング体63の内周において玉軸受86を介して支持されると共に、キャリヤ70の内周において、ころ軸受90を介して支持されている。
【0023】
以下、
図1〜
図4を参照して、外歯歯車10およびその近傍の構成をより詳細に説明する。
【0024】
外歯歯車10は、軸方向中央P10を対称面として負荷側および反負荷側が対称に構成されている。つまり、負荷側の周方向溝13と反負荷側の周方向溝13は、軸方向中央P10に対して鏡像構成を有している。したがって、以降では、図面に共通の符号を付して同時に説明してゆく。なお、外歯歯車10は、軸方向中央P10に対して対称でなくてもよい。また、周方向溝13も、左右で異なる形状であってもよい。
【0025】
外歯歯車10は、最外周部に、トロコイド歯形の外歯を有する歯部11を有している。
【0026】
また、外歯歯車10は、軸心C10からR12だけオフセットされた位置に複数(この例では10個:
図3参照)の貫通孔12を有している。貫通孔12には、内ピン72が貫通している。内ピン72は、外歯歯車10を貫通しているため、該外歯歯車10の自転と同期した動きをする。内ピン72はキャリヤ70に圧入され、該キャリヤ70と一体化されている。内ピン72には、摺動促進部材として、内ローラ74が摺動自在に外嵌されている。内ローラ74は、その一部が外歯歯車10の貫通孔12と当接している。内ローラ74の外径は、貫通孔12の内径よりも小さく、内ローラ74と貫通孔12との間には、反負荷側偏心部41および負荷側偏心部42の偏心量(共にe)の2倍に相当する隙間が確保されている。
【0027】
外歯歯車10は、軸方向両端面19、19(負荷側の軸方向端面19および反負荷側の軸方向端面19)に、それぞれ周方向溝13を有している。より具体的には、周方向溝13は、外歯歯車10の歯部11と貫通孔12との間の軸方向端面19に設けられている。
【0028】
なお、便宜上、以降、外歯歯車10の軸方向端面19のうち、周方向溝13と歯部11との間の軸方向端面を外側軸方向端面17、周方向溝13と貫通孔12との間の軸方向端面を内側軸方向端面18と称する。この外歯歯車10では、外側軸方向端面17と内側軸方向端面18は、面一である。つまり、外側軸方向両端面17、17間の外歯歯車10の厚みW17と、内側軸方向両端面18、18間の外歯歯車10の厚みW18は、同一である(W17=W18)。しかし、外側軸方向端面17と内側軸方向端面18は、必ずしも面一でなくてもよい。例えば、周方向溝を境にして、外側軸方向端面間の外歯歯車の厚みの方が、内側軸方向端面間の外歯歯車の厚みよりも厚い形状とされていてもよい。なお、以降、便宜上、「軸方向端面」は、以降、単に「軸端面」と称することがある。
【0029】
ここで、上述した「外歯歯車10の軸方向両端面19、19における歯部11と貫通孔12との間に」とは、「外歯歯車10が、周方向溝13と歯部11との間に、周方向溝13の最深部Mdでの厚み(軸方向幅)W15よりも大きな厚みW17を有する外側軸端面17を全周に亘って有し、かつ、該周方向溝13と貫通孔12との間にも、周方向溝13の最深部Mdでの厚みW15よりも大きな厚みW18を有する内側軸端面18を全周に亘って有する態様で」という構成を意味している。換言するならば、外歯歯車10の周方向溝13は、該外歯歯車10の歯部11、あるいは貫通孔12とは、全周において合体していない。
【0030】
別言するならば、周方向溝13は、歯部11との間に少なくとも径方向寸法L17の確保された外側軸端面17を有している。また、周方向溝13は、貫通孔12との間に少なくとも径方向寸法L18の確保された内側軸端面18を有している。
【0031】
周方向溝13は、この例では、単一の径方向寸法L13の幅を有して、リング状に、周方向に切れ目なく一周する態様で形成されている。
【0032】
周方向溝13は、外側壁面14、内側壁面16、および該外側壁面14および内側壁面16の間に位置する底面15(最深部Md)を有している。
【0033】
周方向溝13の「外側壁面14」とは、周方向溝13の径方向外側に位置する面であって、外歯歯車10の外側軸端面17から最深部Mdに至るまでの面を指している。なお、「最深部」とは、周方向溝において外歯歯車の軸方向中央に最も近い部分(周方向溝において外歯歯車の厚みが最も小さくなる部分)を意味しており、この例では後述する底面15が最深部Mdに相当している。外歯歯車10の周方向溝13の外側壁面14は、外歯歯車10の軸方向中央P10に向かうに従って、該外歯歯車10の軸心C10に近づくように軸方向に対して傾斜している。具体的には、外歯歯車10の軸心C10に近づくように軸方向に対してθ14(この例では共に22.5度)の角度で傾斜している。
【0034】
周方向溝13の「内側壁面16」とは、周方向溝13の径方向内側に位置する面であって、外歯歯車10の内側軸端面18から最深部Mdに至るまでの面を指している。本外歯歯車10の周方向溝13の内側壁面16は、外歯歯車10の軸方向中央P10に向かうに従って、該外歯歯車10の軸心C10から遠ざかるように軸方向に対して傾斜している。具体的には、外歯歯車10の軸心C10から遠ざかるように軸方向に対してθ16(この例では50度)の角度で傾斜している。すなわち、内側壁面16が軸方向に対して傾斜している角度θ16(50度)は、外側壁面14が軸方向に対して傾斜している角度θ14(22.5度)よりも大きい。
【0035】
一方、周方向溝13の「底面15」とは、外側壁面14および内側壁面16の間に位置する面を指している。なお、この定義によれば、後述するように、例えば、外側壁面と内側壁面が直接当接している場合には、底面に相当する面が存在しない場合もある。本外歯歯車10では、外側壁面14と内側壁面16は直接当接しておらず、底面15が存在している。底面15の径方向寸法は、L15である。底面15は、共に軸方向と垂直な平面で構成されている。換言するならば、この外歯歯車10の周方向溝13は、軸方向と垂直な底面15で構成された径方向寸法L15の最深部Mdを有している。
【0036】
この例では、周方向溝13における外歯歯車10の底面15(最深部Md)での厚み(軸方向幅)W15は、外側軸端面17から底面15までの軸方向深さD17(=内側軸端面18から底面15までの軸方向深さD18)の2倍に設定されている(W15=2・D17=2・D18)。
【0037】
外側軸端面17、17間における外歯歯車10の厚み(軸方向幅)W17と、内側軸端面18、18間における外歯歯車10の厚みW18は同一である(W17=W18)。周方向溝13の外側軸端面17から底面15(最深部Md)までの軸方向深さD17は、内側軸端面18から底面15(最深部Md)までの軸方向深さD18と同一である(D17=D18)。
【0038】
周方向溝13の外側軸端面17から底面15(最深部Md)までの軸方向深さD17(=D18)は、周方向溝13の外側軸端面17、17間の外歯歯車10の厚み(軸方向幅)W17(=内側軸端面18、18間の外歯歯車10の厚みW18)の1/4に設定されている(D17=D18=(1/4)・W17=(1/4)・W18)。
【0039】
ただし、周方向溝13の形成は、必ずしもこれらの寸法例に拘束されるものではない。
【0040】
なお、
図2、
図3を参照して、本減速装置G1は、外歯歯車10を軸方向に(複数)有し、かつ外歯歯車10の間に、該外歯歯車10の軸方向位置を規制するリング状の差し輪76を備えている。つまり、外歯歯車10は、差し輪76を挟んでキャリヤ70の反負荷側端面70Aおよび第3ケーシング体63の負荷側突起面63Aの間に配置されることで、軸方向の位置決めがなされている。
【0041】
差し輪76は内ローラ74に外接することによって径方向に位置決めされている。差し輪76の外径(入力軸32の軸心C32からの径方向寸法)は、R76である。外歯歯車10の周方向溝13の内側壁面16の端部16aと該外歯歯車10の軸心C10との径方向寸法はR16aである。しかし、該内側壁面16の端部16aが、入力軸32の軸心C32に対して最も近づいたときの入力軸32の軸心C32からの径方向寸法はR16min、最も遠ざかったときの入力軸32の軸心C32からの径方向寸法はR16maxとなる。この最も近づいたときの径方向寸法R16minは、R76よりも大きい。つまり、周方向溝13の内側壁面16の端部16aは、外歯歯車10が揺動したときに、入力軸32の軸心C32からの径方向寸法がR16minからR16max迄の間で変化するが、いかなる揺動状態でも、該周方向溝13(の内側壁面16の端部16a)は、差し輪76と軸方向から見て重なることはない(R16max>R16min>R76)。
【0042】
次に、本減速装置G1の作用を説明する。始めに動力伝達系の作用から説明する。
【0043】
図示せぬモータの回転によって入力軸32(クランク軸)が回転すると、キー38を介して入力軸32と連結されている偏心体40が回転する。偏心体40が回転すると、該偏心体40の外周に形成された反負荷側偏心部41および負荷側偏心部42を介して外歯歯車10が偏心揺動する。外歯歯車10は、180度の偏心位相差を維持した状態で内歯歯車30に内接噛合している。このため、入力軸32が1回回転する毎に、反負荷側の外歯歯車10と内歯歯車30との噛合位置、および負荷側の外歯歯車10と内歯歯車30との噛合位置が、(互いに180度離れた状態で)順次ずれて行く現象が発生する。
【0044】
このとき内歯歯車30の内歯歯車本体30Aは、第1ケーシング体61と一体化されており、外歯歯車10は、内歯を構成する内歯ピン30Bに内接噛合している。したがって、外歯歯車10は、内歯ピン30Bを介して第1ケーシング体61側から噛合反力を受け、それぞれが入力軸32の回転と反対の方向に回転する。
【0045】
この結果、外歯歯車10は、入力軸32が1回回転する毎に、内歯歯車30との歯数差分、すなわち「1歯分」だけ、第1ケーシング体61に固定された状態にある内歯歯車30に対して相対回転する(自転する)。この自転成分が、内ローラ74および内ピン72を介して外歯歯車10の軸方向負荷側に配置されたキャリヤ70に伝達され、該キャリヤ70と一体化されている出力軸80が回転する。これにより、出力軸80に連結されている相手機械の被駆動軸を駆動することができる。
【0046】
外歯歯車10と、内歯歯車30との歯数差は、本減速装置G1では、「1」であるため、結局、1/(外歯歯車10の歯数)に相当する減速比の減速およびトルクの増大を実現することができる。
【0047】
このように、本減速装置G1においては、動力の伝達が各外歯歯車10と内歯歯車30の内歯ピン30Bとの噛合によって行われている。ここで、出力軸80が負荷側からのラジアル荷重によって傾くと、出力軸80と一体化されているキャリヤ70が傾き、その結果、内ピン72(および内ローラ74)が傾くため、該内ピン72(および内ローラ74)の傾きに倣って外歯歯車10が傾いてしまう。つまり、各外歯歯車10の歯部11は、それぞれ内歯歯車30の内歯ピン30Bに対して傾いてしまう(内歯ピン30Bと平行でなくなってしまう)。
【0048】
さらに、本減速装置G1のように、外歯歯車10が複数あって、かつ各外歯歯車10の偏心位相が異なっている場合には、内歯歯車30の内歯ピン30Bは、必ずしも単純に(特許文献1で言及されているように)軸方向の中間部を中心として揺動しながら回転しているわけではない。定性的には、内歯ピン30Bは、当該内歯ピン30Bに各外歯歯車10が現に当接している円周位置の軸方向部分が最も径方向外側に押し出されるように変形する。
【0049】
また、第2ケーシング体62の取付脚部62Aが固定されている外部部材自体が動くような用途にあっては、第2ケーシング体62および第1ケーシング体61を介して内歯ピン30Bにラジアル荷重が掛かることもある。
【0050】
要するに、内歯ピン30Bの変形は、軸方向においても周方向においても一様ではなく、必ずしも内歯ピン30Bの端部にのみ強い噛合荷重が発生しているわけではない。
【0051】
すなわち、外歯歯車10は、内歯ピン30Bとの当接(噛合)状態が平行な状態から傾くことによって、特定の瞬間に特定の周方向位置において内歯ピン30Bにより近づこうとした側の外歯歯車10の軸方向端部において噛合荷重が大きくなり、該外歯歯車10の歯部11の歯面がより損傷し易くなることになる。
【0052】
そこで、本減速装置G1では、外歯歯車10のいずれも、周方向溝13を該外歯歯車10の両方の軸端面19、19に形成するようにしている。
【0053】
このため、どのような原因でいずれの側の外歯歯車10が内歯歯車30の内歯ピン30Bに対して傾いて噛合する状態となったとしても、当該外歯歯車10の歯部11は、両方の軸端面19、19に形成された周方向溝13の中央を支点として傾くことができる。したがって、それぞれの外歯歯車10の歯部11の軸方向のほぼ全面がより均等に内歯ピン30Bと当接(噛合)することができ、当該外歯歯車10の歯部11の歯面が損傷するのをより抑制することができる。
【0054】
また、本減速装置G1では、周方向溝13は、「外歯歯車10の軸方向両端面19、19における歯部11と貫通孔12との間に」形成されている。つまり、外歯歯車10は、周方向溝13と歯部11との間に、周方向溝13の最深部Mdでの厚みW15よりも大きな厚みW17を有する軸と直角の外側軸端面17(19)を全周に亘って有し、かつ、該周方向溝13と貫通孔12との間にも、周方向溝13の最深部Mdでの厚みW15よりも大きな厚みを有する軸と直角の内側軸端面18(19)を全周に亘って有している。
【0055】
換言するならば、外歯歯車10の周方向溝13は、該外歯歯車10の歯部11および貫通孔12のいずれとも全周において合体していない。そのため、このような歯部11の傾きを許容しながら、外歯歯車10の強度が低下するのを効果的に抑制することができている。
【0056】
なお、本発明における減速装置の周方向溝の具体的形状、あるいは形成態様は、上記の例に限定されない。
図5の(A)〜(F)は、周方向溝の種々の形成例と外歯歯車の軸方向端部の面圧との関係を示したグラフである。
【0057】
図5の(A)が、上記実施形態で採用していた周方向溝13に相当している。
【0058】
(A)の周方向溝13は、既に詳細に説明したように外側壁面14を有し、該外側壁面14は、外歯歯車10の軸方向中央P10に向かうに従って、該外歯歯車10の軸心C10に近づくように軸方向に対して角度θ14だけ傾斜している。そのため、外歯歯車10に内部応力の集中が発生するのを効果的に抑制することができる。
【0059】
さらに、(A)の周方向溝13は、内側壁面16を有し、該内側壁面16は、外歯歯車10の軸方向中央P10に向かうに従って、該外歯歯車10の軸心C10から遠ざかるように軸方向に対して角度θ16だけ傾斜している。そのため、外歯歯車10に内部応力の集中が発生するのを相乗的に抑制することができる。
【0060】
また、(A)の周方向溝13は、内側壁面16が軸方向に対して傾斜している角度θ16が、外側壁面14が軸方向に対して傾斜している角度θ14よりも大きく、かつ(A)の周方向溝13は、軸方向と垂直な底面15を有している。そのため、外歯歯車10に同一の傾き荷重が掛かったときに、より効果的に歯部11を傾斜させることができる。
【0061】
グラフから、この(A)の周方向溝13が形成された外歯歯車10は、(X)の(周方向溝が形成されていない)外歯歯車10Xと比較して、エッジ面圧(軸方向端部での噛合面圧)がほぼ10%程度低減されていることが確認できる。そのため、(A)の周方向溝13は、エッジ面圧の低減、および内部応力の集中の低減の双方においてバランスの取れた周方向溝であると言える。また、例えば、後述する(E)のような形状と比較して、加工が容易である。
【0062】
なお、ここで、その他の(B)〜(F)の周方向溝13B〜13Fを簡単に説明しておく。それぞれの外歯歯車10B〜10Fの負荷側、反負荷側に、対称に周方向溝13B〜13Fが形成されている。
【0063】
(B)の周方向溝13Bは、外側壁面14Bが外歯歯車10Bの軸方向中央に向かうに従って、該外歯歯車10Bの軸心に近づくように軸方向に対して傾斜している。外側壁面14Bの傾斜の角度は、45度であり、(A)の周方向溝13の外側壁面14の傾斜の角度θ14(22.5度)よりも大きい。(B)の周方向溝13Bは底面15Bを有し、この底面15Bは、(A)の周方向溝13の底面15と比較して径方向により長く形成されている。また、(B)の周方向溝13Bの内側壁面16Bは、軸と平行に形成されている。この(B)の周方向溝13Bは、エッジ面圧の低減効果は(A)の周方向溝13と比較して若干劣っている(外歯歯車10Xと比較して7%から8%の低減)。ただし、グラフ化はしていないが、外歯歯車10Bの歯部11Bが傾斜したときの内部応力の集中が、(A)の周方向溝13と比較して、より小さい傾向があることが確認されている。
【0064】
(C)の周方向溝13Cは、外側壁面14Cと内側壁面16Cとの関係が(B)と逆になっている。つまり、外側壁面14Cは軸と平行であり、内側壁面16Cが外歯歯車10の軸方向中央に向かうに従って外歯歯車10Cの軸心から遠ざかるように軸方向に対して45度の角度で傾斜している。この(C)で示す周方向溝13Cは、エッジ面圧の低減効果が、(A)(B)の周方向溝13、13Bよりも大きい(外歯歯車10Xと比較して約15%の低減)。しかし、外歯歯車10Cの歯部11Cが傾いたときの内部応力の集中が、(A)(B)の周方向溝13、13Bと比較してより大きくなり易いことが確認されている。
【0065】
(D)の周方向溝13Dは、外側壁面14Dが、外歯歯車10Dの軸方向中央に向かうに従って該外歯歯車10Dの軸心に近づくように軸方向に対して45度の角度で傾斜している。また、(D)の周方向溝13Dの内側壁面16Dは、外歯歯車10Dの軸方向中央に向かうに従って、該外歯歯車10Dの軸心から遠ざかるように軸方向に対して45度の角度で傾斜している。外側壁面14Dと内側壁面16Dは最深部15DMdに到達した時点で合流している。つまり、この(D)の周方向溝13Dは、底面を有していない。この(D)の周方向溝13Dは、エッジ面圧の低減効果が比較的小さい(外歯歯車10Xと比較して約5%の低減)。しかし、底面がない分、より簡易に加工できる。
【0066】
(E)の周方向溝13Eは、外側壁面14Eおよび内側壁面16Eが、軸と平行の断面が円周の4分の1の円弧形状に形成されている。具体的には、(E)の周方向溝13Eの外側壁面14Eは、外歯歯車10Eの軸方向中央に向かうに従って該外歯歯車10Eの軸心に近づくように軸方向に対して傾斜する円弧断面で構成されている。内側壁面16Eは、外歯歯車10Eの軸方向中央に向かうに従って該外歯歯車10Eの軸心から遠ざかるように軸方向に対して傾斜する円弧断面で構成されている。この(E)の周方向溝13Eも、底面を有していない。(E)の周方向溝13Eは、エッジ面圧の低減および内部応力集中の低減の両面で、(D)の周方向溝13Dより、改善が認められる。
【0067】
(F)の周方向溝13Fは、外側壁面14Fおよび内側壁面16Fが共に軸と平行な面で構成されている。また、底面15Fは、軸と直角の面で構成されている。この(F)の周方向溝13Fは、(A)〜(F)の周方向溝13、13B〜13Fの中では、最も大きなエッジ面圧の低減効果が得られた。しかし、内部応力の集中という面では、(A)の周方向溝13よりも劣る傾向が認められた。
【0068】
これらを総合的に判断すると(エッジ面圧の低減、内部応力の集中回避、加工の容易性の観点等から判断すると)、この(A)〜(F)の周方向溝13、13B〜13Fの中では、(A)の周方向溝13が最も好ましい形状であると考えられたため、上記減速装置G1においては、(A)の周方向溝13を採用していたものである。
【0069】
ただし、既に述べた通り、本発明の周方向溝の形状は、特に限定されない(必ずしも(A)の形状のみが推奨されるものではない)。例えば、(A)〜(C)、あるいは(F)の形状をベースとして、外側壁面と底面との境界、および内側壁面と底面との境界の少なくとも一方に、小さなアール部を構成する(境界を小さな曲面で構成する)ようにしてもよい。これにより、内部応力の集中をより大きく低減できるようになる。
【0070】
発明者の上記(A)〜(F)以外の周方向溝の形状での検証をも含めて纏めると、定性的には、以下のような傾向が指摘できる。
【0071】
周方向溝の外側軸端面の径方向寸法(L17:外歯歯車の歯部の歯底から周方向溝の外側壁面の軸方向端部までの径方向寸法)は、短いほどエッジ面圧の低減効果が大きい。しかし、周方向溝の外側軸端面の径方向寸法が、短いと外歯歯車の歯部の強度は低下する傾向となる。外側軸端面の径方向寸法は、好ましくは、外歯歯車の歯部の歯幅(軸方向幅)の10%〜30%、より好ましくは15%〜25%程度が好ましい。
【0072】
周方向溝の外側壁面の傾斜の角度(θ14)は、小さいほどエッジ面圧の低減効果が大きい。しかし、周方向溝の外側壁面の傾斜の角度が小さいと、内部応力の集中は大きくなる傾向となる。外側壁面の傾斜の角度は、好ましくは10度〜45度、より好ましくは、15度〜30度程度が好ましい。
【0073】
周方向溝の内側壁面の傾斜の角度(θ16)は、大きいほど応力集中を低減できる効果は大きい。しかし、周方向溝の内側壁面の傾斜の角度は、エッジ面圧の低減にはあまり影響しない。このため、外歯歯車全体の内部応力の集中、あるいは強度等のバランスを考慮して適宜に設定してよい。
【0074】
周方向溝の最深部の深さ(D17、D18)は、深いほどエッジ面圧の低減効果が大きくなる。しかし、周方向溝の最深部の深さが、深くなると外歯歯車の強度(特に歯部の曲げ強度)は低下する傾向となる。最深部の深さは、外歯歯車の歯幅の15%〜40%が好ましく、より好ましくは、20%〜30%が好ましい。
【0075】
なお、上記実施形態においては、周方向溝は、周方向にリング状に切れ目なく一周する態様で形成されていた。しかし、周方向溝は、周方向の一部が切れていてもよい(周方向の一部に周方向溝が形成されていない部分があってもよい)。なお、この場合は、好ましくは、貫通孔が存在する周方向位置に対応して周方向溝が形成されないように構成するとよい。これにより、周方向溝が形成されていない部分が、補強リブの機能を有するため、貫通孔近傍の強度が低下するのを抑制できる。
【0076】
また、上記実施形態においては、外歯歯車は、内ピンおよび内ローラが貫通する貫通孔を有していた。しかし、例えば、外歯歯車の軸方向両側にキャリヤを有する偏心揺動型の減速装置にあっては、外歯歯車に形成される貫通孔として、該軸方向両側に設けられたキャリヤを連結するためのキャリヤピンが貫通する貫通孔が形成されている場合もある。本発明に係る貫通孔には、このような貫通孔も含まれる。
【0077】
また、上記実施形態においては、クランク軸を内歯歯車の軸心上に1本のみ有し、該一本のクランク軸に設けられた偏心体の偏心部を介して外歯歯車が揺動するタイプの減速装置が示されていた。しかし、偏心揺動型の減速装置には、クランク軸を内歯歯車の軸心からオフセットした位置に複数備え、該複数のクランク軸が同期して回転することによって外歯歯車を揺動させる減速装置も知られている。本発明は、このような(クランク軸を複数有するような)偏心揺動型の減速装置にも適用することができ、同様の作用効果を得ることができる。
【0078】
さらには、偏心揺動型の減速装置には、外歯歯車の軸心が固定され、内歯歯車の軸心が揺動するタイプの偏心揺動型の減速装置も知られている。本発明では、このような内歯歯車が揺動するタイプの偏心揺動型の減速装置にも適用することができ、同様の作用効果を得ることができる。