【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業/革新型蓄電池先端科学基礎研究開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
二種以上の正の価数を取り得る金属元素を含有する正極活物質を有する正極活物質層と、二価以上の価数を取り得る金属元素を含有する負極活物質を有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成され、アルカリ金属イオンおよびフッ化物アニオンを含有する電解質層とを備えるハイブリッドイオン電池と、
前記ハイブリッドイオン電池の充放電を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記正極活物質の電位が0.23V(vs.SHE)よりも高い電位範囲を含むように放電を制御することを特徴とする二次電池システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の二次電池システムについて、詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明におけるハイブリッドイオン電池の一例を示す概略断面図である。
図1に示されるハイブリッドイオン電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。ハイブリッドイオン電池10は、正極活物質層1が、アルカリ金属イオンおよびフッ化物アニオン(フッ化物イオン)が電極反応に寄与する正極活物質を含有することを一つの特徴とする。
【0014】
図2は、本発明の二次電池システムの一例を示す模式図である。
図2に示される二次電池システム20は、ハイブリッドイオン電池10と、ハイブリッドイオン電池10の充放電を制御する制御部11とを、少なくとも有する。制御部11は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)111と、PCU(Power Control Unit)112とを有する。ECU(Electronic Control Unit)111は、外部からの要求X(例えば、充電要求または放電要求)と、ハイブリッドイオン電池10の電圧Vおよび電流Aとに基づいて、PCU112に充放電の指示(例えば、開始指示または停止指示)を行う。PCU112は、放電時には、負荷12に対して電力を供給し、充電時には、電源13から電力を受給する。制御部11は、正極活物質の電位が所定の高い電位範囲を含むように放電を制御することを一つの特徴とする。
【0015】
本発明によれば、二種以上の正の価数を取り得る金属元素を含有する正極活物質を用い、アルカリ金属イオンおよびフッ化物アニオン(フッ化物イオン)の両方を電極反応に寄与させることにより、高電圧で動作する二次電池システムとすることができる。ここで、従来のフッ化物イオン電池では、通常、フッ化物アニオン(フッ化物イオン)を正極活物質と反応させる。典型的には、正極活物質(主に金属)のフッ化反応および脱フッ化反応を利用するが、その場合、反応電位が低い場合が多い。これに対して、フッ化物アニオン(フッ化物イオン)のみならず、アルカリ金属イオンが存在する環境では、正極の反応電位が高くなる。正極の反応電位が高くなる理由は、以下のように推測される。放電時には活物質中のフッ化物アニオン(フッ化物イオン)が周囲のアルカリ金属イオンと反応することで活物質の金属元素が電子を受け取り、価数変化を起こす反応が進行することで正極の反応電位が高くなると推測される。充電時にはフッ化物アニオン(フッ化物イオン)が活物質の金属元素と反応し、価数変化を起こす反応が進行していると推測される。その結果、従来のフッ化物イオン電池に比べて、高電圧化を図ることができると推測される。
【0016】
また、ハイブリッドイオン電池における反応は、高電圧領域および低電圧領域において、以下の反応式で表されると推測される。なお、M
+は正極活物質を表し、M
−は負極活物質を表し、Aはアルカリ金属元素を表す。
<高電圧領域>
正極 : M
+F
3+A
++e
- → M
+F
2+AF(溶出) → M
+F
2+A
++F
- (放電)
M
+F
2+A
++F
- → M
+F
3+A
++e
- (充電)
電解質層: AF ⇔ A
+ + F
-
負極 : xM
- + yF
- ⇔ zM
-F
y + (x-z)M
- + ye
-
<低電圧領域>
正極 : M
+F
2 + 2e
- ⇔ M
+ + 2F
-
電解質層: F
-輸送
負極 : (x-z)M
- + y(x-z)F
- ⇔ (x-z)M
-F
y + y(x-z)e
-
【0017】
低電圧領域では、通常のフッ化物イオン電池として機能し、高電圧領域では、コンバージョン型(価数変化反応型)電池として機能していると推測される。
【0018】
さらに、本発明によれば、二価以上の価数を取り得る金属元素を含有する負極活物質を用い、フッ化物アニオン(フッ化物イオン)を電極反応に寄与させることにより、安全性の高い二次電池システムとすることができる。ここで、従来のリチウムイオン電池では、通常、Liイオン(一価のカチオン)を負極活物質と反応させる。例えば高容量化を目的として、負極活物質としてLi金属(一価の金属)を用いた場合、Liデンドライトによりサイクル特性が低下するとともに、安全性が低くなる場合がある。これに対して、本発明によれば、二価以上の価数を取り得る金属元素を含有する負極活物質を用いることで、アルカリ金属のデンドライトの成長を抑制でき、安全性の向上を図ることができる。さらに、二価以上の価数を取り得る金属元素を含有する負極活物質を用いることで、例えばLi化合物を負極活物質に用いた場合に比べて、高価数まで反応が進むため、高エネルギー密度化を図ることができる。
【0019】
また、本発明によれば、正極活物質の電位範囲として、所定の高い電位を少なくとも含むように放電を制御する。このような高い電位を利用することで、高エネルギー密度化を図ることができる。
以下、本発明の二次電池システムについて、構成ごとに説明する。
【0020】
1.ハイブリッドイオン電池
本発明におけるハイブリッドイオン電池は、正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有する。
【0021】
(1)正極活物質層
本発明における正極活物質層は、二種以上の正の価数を取り得る金属元素を含有する正極活物質を有する層である。
【0022】
正極活物質は、二種以上の正の価数を取り得る金属元素を含有するが、この金属元素は、例えば、一価、二価、三価、四価、五価の少なくとも二種以上の正の価数を取り得ることが好ましく、二価、三価、四価の少なくとも二種以上の正の価数を取り得ることがより好ましい。
【0023】
上記金属元素としては、例えば、Fe、Co、V、Mn、Ti、Cr等を挙げることができる。
【0024】
上記正極活物質としては、例えば、金属フッ化物、金属酸フッ化物、金属単体等を挙げることができる。金属フッ化物としては、例えば、FeF
x(例えばFeF
3)、CoF
x(例えばCoF
3)、VF
x(例えばVF
3)、MnF
x(例えばMnF
3)、TiF
x(例えばTiF
3)、CrF
x(例えばCrF
3)等が挙げられる。なお、上記xは、0よりも大きい実数である。また、金属酸フッ化物としては、例えば、FeOF、VOF等が挙げられ、金属単体としては、例えば、Fe、Co、V、Mn、Ti、Cr等が挙げられる。
【0025】
上記正極活物質は、コンバージョン反応可能またはインサーション反応応可能な活物質であることが好ましい。コンバージョン反応可能な活物質とは、金属元素の価数変化(正の価数変化)を伴う反応により、活物質としての機能を発現する材料をいう。インサーション反応可能な活物質とは、アルカリ金属元素の挿入に伴う反応により、活物質としての機能を発現する材料をいう。
【0026】
正極活物質の形状は、特に限定されないが、例えば粒子状を挙げることができる。正極活物質の平均粒径(D
50)は、例えば、0.1μm〜50μmの範囲内であり、1μm〜20μmの範囲内であることが好ましい。正極活物質の平均粒径(D
50)は、例えば、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。
【0027】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば30重量%以上であり、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。
【0028】
正極活物質層は、正極活物質の他に、導電化材および結着材の少なくとも一方をさらに含有していても良い。導電化材としては、所望の電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料を挙げることができる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。また、結着材としては、化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系結着材を挙げることができる。正極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであり、特に限定されるものではない。
【0029】
(2)負極活物質層
本発明における負極活物質層は、二価以上の価数を取り得る金属元素を含有する負極活物質を有する層である。
【0030】
負極活物質は、二価以上の価数を取り得る金属元素を含有するが、この金属元素は、例えば、二価、三価、四価、五価の少なくともいずれかを取り得ることが好ましく、二価、三価、四価の少なくともいずれかを取り得ることがより好ましい。
【0031】
上記金属元素としては、例えば、La、Ca、Al、Eu、Li、Si、Ge、Sn、In、V、Cd、Cr、Fe、Zn、Ga、Ti、Nb、Mn、Yb、Zr、Sm、Ce、Mg、Pb等を挙げることができる。
【0032】
上記負極活物質としては、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、および、これらのフッ化物を挙げることができる。中でも、上記負極活物質は、La、LaF
x、Ce、CeF
x、Mg、MgF
x、Ca、CaF
x、Al、AlF
xの少なくとも一つであることが好ましい。なお、上記xは、0よりも大きい実数である。
【0033】
負極活物質層は、負極活物質の他に、導電化材および結着材の少なくとも一方をさらに含有していても良い。導電化材および結着材については、上述した「(1)正極活物質層」に記載した材料と同様の材料を用いることができる。また、負極活物質層における負極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば30重量%以上であり、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。また、負極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであり、特に限定されるものではない。
【0034】
(3)電解質層
本発明における電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成され、アルカリ金属イオンおよびフッ化物アニオン(フッ化物イオン)を含有する層である。アルカリ金属イオンとしては、例えば、Liイオン、Naイオン、Kイオンを挙げることができ、中でも、電解質層は、アルカリ金属イオンとして、少なくともLiイオンを含有することが好ましい。また、電解質層を構成する電解質は、液体電解質(電解液)であっても良く、固体電解質であっても良い。
【0035】
電解液は、例えば、アルカリ金属塩、フッ化物塩および有機溶媒を含有する。アルカリ金属塩の典型例としてリチウム塩が挙げられるが、リチウム塩としては、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6等の無機リチウム塩、およびLiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3等の有機リチウム塩等を挙げることができる。このように、アルカリ金属塩のアニオンとしては、例えば、PF
6−、BF
4−、ClO
4−、AsF
6−等の無機アニオン、およびCF
3SO
3−、N(CF
3SO
2)
2−、N(C
2F
5SO
2)
2−、C(CF
3SO
2)
3−等の有機アニオンを挙げることができる。
【0036】
フッ化物塩としては、無機フッ化物塩、有機フッ化物塩、イオン液体等を挙げることができる。無機フッ化物塩の一例としては、例えば、XF(Xは、Li、Na、K、RbまたはCsである)を挙げることができる。有機フッ化物塩のカチオンの一例としては、テトラメチルアンモニウムカチオン等のアルキルアンモニウムカチオンを挙げることができる。
【0037】
電解液におけるアルカリ金属塩およびフッ化物塩の濃度は、それぞれ、例えば0.1mol%〜40mol%の範囲内であり、1mol%〜10mol%の範囲内であることが好ましい。電解液におけるフッ化物塩の量を1mol部とした場合、アルカリ金属塩の量は、例えば、0.25mol部〜20mol部の範囲内であり、1mol部〜15mol部の範囲内であることが好ましく、2mol部〜10mol部の範囲内であることがより好ましい。
【0038】
上記有機溶媒としては、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)等のグライム、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネート挙げることができる。また、有機溶媒として、イオン液体を用いても良い。
【0039】
本発明における電解質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであり、特に限定されるものではない。
【0040】
(4)その他の構成
本発明におけるハイブリッドイオン電池は、上述した正極活物質層、負極活物質層および電解質層を少なくとも有する。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および、負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状等を挙げることができる。また、ハイブリッドイオン電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に、セパレータを有していても良い。より安全性の高い電池を得ることができるからである。
【0041】
(5)ハイブリッドイオン電池
本発明におけるハイブリッドイオン電池は、通常、二次電池である。そのため、繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用である。また、ハイブリッドイオン電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。
【0042】
2.制御部
本発明における制御部は、上記ハイブリッドイオン電池の充放電を制御する機能を有する。制御部としては、例えば
図2に示すように、ECU(Electronic Control Unit)111と、PCU(Power Control Unit)112とを有する制御部11を挙げることができる。ECUは、マイクロコントローラー(MCU)を有することが好ましい。また、PCUは、コンバータおよびインバーターを有することが好ましく、さらに冷却構造を有していても良い。
【0043】
制御部は、通常、正極活物質の電位が0.23V(vs.SHE)よりも高い電位範囲を含むように放電を制御する。すなわち、0.23V(vs.SHE)よりも高い電位範囲で放電反応を行うように制御する。また、この規定は、0.23V(vs.SHE)以下での放電を除外するものではなく、0.23V(vs.SHE)よりも高い電位範囲を少なくとも包含するように放電反応を行うことを意味する。なお、SHEは、標準水素電極(standard hydrogen electrode、SHE)を意味し、V(vs.SHE)とは、標準水素電極を基準とする電位をいう。制御部は、正極活物質の電位が0.3V(vs.SHE)以上の電位範囲を含むように放電を制御しても良く、正極活物質の電位が0.5V(vs.SHE)以上の電位範囲を含むように放電を制御しても良い。また、正極活物質の電位の下限は、例えば、−2.0V(vs.SHE)である。正極活物質の電位が低すぎると、アルカリ金属のデンドライトが析出する可能性があるからである。
【0044】
また、正極活物質の電位が所定の電位範囲を含むように放電を制御するためには、充電時に、正極活物質の電位を十分に高くする必要がある。そのため、制御部は、正極活物質の電位が0.23V(vs.SHE)よりも高くなるように充電を制御することが好ましく、正極活物質の電位が0.3V(vs.SHE)以上となるように充電を制御しても良く、正極活物質の電位が0.5V(vs.SHE)以上となるように充電を制御しても良い。正極活物質の電位の上限は、例えば、1.8V(vs.SHE)である。
【0045】
また、正極活物質の電位をV
Cとする。例えば、
図2に示すECU111には、正極活物質の所定電位範囲としてV
min〜V
maxが記憶されている。放電によりV
CがV
minに至った時点で放電を停止し、充電によりV
CがV
maxに至った時点で充電を停止する。
【0046】
3.二次電池システム
本発明の二次電池システムは、上述したハイブリッドイオン電池および制御部を有する。初回の充放電を行う前(電池組立て時)のハイブリッドイオン電池は、(i)正極活物質がF元素を含有し、負極活物質がF元素を含有しない態様、(ii)負極活物質がF元素を含有し、正極活物質がF元素を含有しない態様であっても良い。
【0047】
例えば充電前のハイブリッドイオン電池は、正極活物質が、金属単体、または、フッ化物アニオン(フッ化物イオン)と反応可能な金属フッ化物または金属酸フッ化物であることが好ましく、負極活物質は、金属フッ化物であることが好ましく、電解質層がアルカリ金属イオンおよびフッ化物アニオン(フッ化物イオン)を含有することが好ましい。また、例えば放電前のハイブリッドイオン電池は、正極活物質が、金属フッ化物または金属酸フッ化物であることが好ましく、負極活物質が、金属単体であることが好ましく、電解質層がアルカリ金属イオンおよびフッ化物アニオン(フッ化物イオン)を含有することが好ましい。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0050】
[実施例1]
まず、電解液を作製した。トリグライム(G3、関東化学製)とリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF
6、キシダ化学製)とフッ化リチウム(LiF、和光純薬製)とを、G3:LiPF
6:LiF=20:5:1のモル比となるよう秤量混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて30℃で撹拌した。これにより、電解液を得た。
【0051】
次に、正極としてFeF
3合材電極を作製した。FeF
3(レアメタリック製)とアセチレンブラック(AB、電気化学工業製)とポリビニリデンフルオライド(PVdF、クレハバッテリーマテリアルズジャパン)とを、FeF
3:AB:PVdF=6:2:1の重量比となるように秤量混合し、塗工した。これにより、FeF
3合材電極を得た。次に、負極としてCe金属板(AlFa Aesar製)を用意した。
【0052】
Ar雰囲気下グローブボックス内で、ディップ式3電極セルを作製した。作用極にはFeF
3合材電極を用い、対極にはCe金属板を用いた。また、基準極は、バイコールガラスを用いて電解液と隔離した。なお、基準極には、硝酸銀およびテトラブチルアンモニウムパークロレートがそれぞれ0.1Mで溶解したアセトニトリル溶液にAg線を浸漬させたものを用いた。このようにして、評価用セルを得た。
【0053】
[参考例1]
実施例1において負極として用いたCe金属板に対して、フッ化脱フッ化の挙動を調べた。作用極にCe金属板を用い、対極に、フッ化カーボン、アセチレンブラック(AB)、PTFEの合材電極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。なお、合材電極は、フッ化カーボン:AB:PTFE=7:2:1の重量比で含有する電極である。
【0054】
[評価]
実施例1で得られた評価用セルに対して、室温にて充放電試験(酸化還元試験)を行った。放電電流は6μAとし、充電電流は30μAとした。その結果を
図3に示す。
図3に示すように、実施例1では、1回目の放電時に0.6V(vs.SHE)〜0.2V(vs.SHE)で放電反応が生じており、2回目の放電時に0.8V(vs.SHE)〜0.2V(vs.SHE)で放電反応が生じていた。FeF
3+3e
−⇔Fe+3F
−の標準電極電位は−0.575V(vs.SHE)であることから、Feのフッ化脱フッ化の標準電極電位と比べて、1V以上高い電位から放電反応が進行することが確認された。そのため、高電圧化による高エネルギー密度化が図れることが示唆された。
【0055】
また、実施例1における充放電試験後の負極に対して、X線回折測定を行った。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、CeF
3のピークが確認され、Ce金属板のフッ化が生じていることが確認された。また、
図5は、参考例1で得られた評価用セルに対する充放電試験の結果である。
図5に示すように、参考例1では、Li
++e
−⇔Li(0V vs Li/Li
+)よりも高い電位において、充放電反応が生じていることから、Ce金属板のフッ化および脱フッ化が生じていることが確認された。
【0056】
[実施例2]
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを体積比1:1で含有する混合溶媒(キシダ化学製)と、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF
6、キシダ化学製)と、フッ化リチウム(LiF、和光純薬製)とを、混合溶媒:LiPF
6:LiF=20:5:1のモル比となるよう秤量混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて30℃で撹拌した。これにより、電解液を得た。
【0057】
Ar雰囲気下グローブボックス内で、評価用セルを作製した。得られた電解液を用い、正極にはFeF
3合材電極を用い、負極にはCe金属板を用いた。なお、FeF
3合材電極およびCe金属板は、実施例1と同じである。このようにして、評価用セルを得た。
【0058】
[評価]
実施例2で得られた評価用セルに対して、室温にて充放電試験(酸化還元試験)を行った。放電電流は2.5μAとし、充電電流は5μAとした。その結果を
図6に示す。実施例2は、実施例1とは電解液の種類が異なるが、
図6に示すように、充放電可能であった。
【0059】
[実施例3]
実施例2で作製した電解液を用い、負極としてMg金属板(ニラコ製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0060】
[参考例2]
実施例3において負極として用いたMg金属板に対して、フッ化脱フッ化の挙動を調べた。作用極および対極を互いに変更したこと以外(作用極にMg金属板、対極にFeF
3合材電極)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして評価用セルを得た。
【0061】
[評価]
実施例3で得られた評価用セルに対して、室温にて充放電試験(酸化還元試験)を行った。放電電流は1μAとし、充電電流は4μAとした。その結果を
図7に示す。実施例3は、実施例1とは電解液の種類が異なるが、
図7に示すように、実施例1と同様に、高い電位から放電反応が進行することが確認された。
【0062】
参考例2で得られた評価用セルに対して、室温にて充放電試験(酸化還元試験)を行った。放電電流は0.5μAとし、充電電流は1μAとした。その結果を
図8に示す。
図8に示すように、参考例2では、Li
++e
−⇔Li(0V vs Li/Li
+)よりも高い電位において、充放電反応が生じていることから、Mg金属板のフッ化および脱フッ化が生じていることが確認された。