特許第6563930号(P6563930)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許65639301つ以上のカーボン系異方性熱層を含むクライオクーラー・リジェネレーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6563930
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むクライオクーラー・リジェネレーター
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/00 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
   F25B9/00 D
   F25B9/00 311
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-545897(P2016-545897)
(86)(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公表番号】特表2017-502248(P2017-502248A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】US2014064498
(87)【国際公開番号】WO2015105571
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2016年7月26日
【審判番号】不服2018-5355(P2018-5355/J1)
【審判請求日】2018年4月18日
(31)【優先権主張番号】14/151,408
(32)【優先日】2014年1月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503455363
【氏名又は名称】レイセオン カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】コンラッド,セオドア ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】エリス,マイケル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ベリス,ロウェル エー.
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,ジェイムズ アール.
(72)【発明者】
【氏名】シェファー,ブライアン アール.
(72)【発明者】
【氏名】マツオカ,トロイ ティー.
【合議体】
【審判長】 松下 聡
【審判官】 大屋 静男
【審判官】 紀本 孝
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−505638(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0186270(US,A1)
【文献】 特開平9−210483(JP,A)
【文献】 特開平6−101923(JP,A)
【文献】 特開昭61−228263(JP,A)
【文献】 特開2006−189245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00-9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体がクライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間を流れるときに、流体へ熱を移送し流体から熱を吸収するように構成されたリジェネレーターを含む装置であって、
前記リジェネレーターが、前記リジェネレーターの軸に垂直な長方形シート又は円形ディスク形状の複数の異方性熱層と、該異方性熱層の少なくとも1層を構造的に支持するように構成された一つ以上の支持層とを含み、
前記複数の異方性熱層の各層が、前記リジェネレーターの前記軸に沿った熱の流れを低減し、吸収した熱を当該異方性熱層の長方形シート又は円形ディスク内で径方向に拡散させるように構成された膜を含み
前記複数の異方性熱層の各層が、カーボンの少なくとも1つの同素体を含む、
装置。
【請求項2】
前記複数の異方性熱層の各層が軸方向熱伝導性よりも高い径方向熱伝導性を有する、請求項1に記載された装置。
【請求項3】
前記複数の異方性熱層の各層がカーボンナノチューブ及びカーボングラフェンのうち少なくとも1つを有する、請求項1に記載された装置。
【請求項4】
前記複数の異方性熱層が、前記リジェネレーターを複数のセグメントに分割し、
前記複数の異方性熱層の各層が、前記リジェネレーターの隣接するセグメント間での熱移送を低減するように構成されている、請求項1に記載された装置。
【請求項5】
前記一つ以上の支持層が、前記異方性熱層の少なくとも1層により大きい熱容量を与えるように構成されている、請求項1に記載された装置。
【請求項6】
前記一つ以上の支持層の各層がスクリーン又はメッシュを有する、請求項1に記載された装置。
【請求項7】
温暖端部及び冷却端部を有するクライオクーラーを含むシステムであって、
前記クライオクーラーが、
当該クライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間に流体を移動させるように構成された圧縮機と、
前記流体に接触するように構成されたリジェネレーターであり、前記流体が当該クライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間を流れるときに、流体へ熱を移送し流体から熱を吸収するように構成されたリジェネレーターと、
を含み、
前記リジェネレーターが、前記リジェネレーターに沿った軸に垂直な長方形シート又は円形ディスク形状の複数の異方性熱層と、該異方性熱層の少なくとも1層を構造的に支持するように構成された一つ以上の支持層とを含み、
前記複数の異方性熱層の各層が、前記リジェネレーターの前記軸に沿った熱の流れを低減し、吸収した熱を当該異方性熱層の長方形シート又は円形ディスク内で径方向に拡散させるように構成された膜を含み
前記複数の異方性熱層の各層が、カーボンの少なくとも1つの同素体を含む、
システム。
【請求項8】
前記複数の異方性熱層の各層が軸方向熱伝導性よりも高い径方向熱伝導性を有する、請求項7に記載されたシステム。
【請求項9】
前記複数の異方性熱層の各層がカーボンナノチューブ及びカーボングラフェンのうち少なくとも1つを有する、請求項7に記載されたシステム。
【請求項10】
前記複数の異方性熱層が、前記リジェネレーターを複数のセグメントに分割し、
前記複数の異方性熱層の各層が、前記リジェネレーターの隣接するセグメント間での熱移送を低減するように構成されている、請求項7に記載されたシステム。
【請求項11】
前記一つ以上の支持層が、前記異方性熱層の少なくとも1層により大きい熱容量を与えるように構成されている、請求項7に記載されたシステム。
【請求項12】
前記一つ以上の支持層の各層がスクリーン又はメッシュを有する、請求項7に記載されたシステム。
【請求項13】
前記リジェネレーターが当該クライオクーラーのパルスチューブの周りに配置されている、請求項7に記載されたシステム。
【請求項14】
前記リジェネレーターが多段クライオクーラーの1つの段の内部に配置されている、請求項7に記載されたシステム。
【請求項15】
クライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間で流体の前進後退流れを作るステップと、
前記流体が当該クライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間を流れるときに、リジェネレーターを用いて流体へ熱を移送し流体から熱を吸収するステップと、
前記リジェネレーターの内部で、前記リジェネレーターに沿った軸に垂直な長方形シート又は円形ディスク形状の複数の異方性熱層を用いて、前記リジェネレーターの前記軸に沿った熱の流れを低減するステップであり、前記複数の異方性熱層の各層が、前記軸に沿った熱の流れを低減し、吸収した熱を当該異方性熱層の長方形シート又は円形ディスク内で径方向に拡散させる膜を含み、前記複数の異方性熱層の各層が、カーボンの少なくとも1つの同素体を含む、ところのステップと、
1つ以上の支持層を用いて、前記異方性熱層の少なくとも1層を構造的に支持するステップと、
を含む方法。
【請求項16】
前記複数の異方性熱層の各層が軸方向熱伝導性よりも高い径方向熱伝導性を有する、請求項15に記載された方法。
【請求項17】
前記複数の異方性熱層の各層がカーボンナノチューブ及びカーボングラフェンのうち少なくとも1つを有する、請求項15に記載された方法。
【請求項18】
前記複数の異方性熱層の各層が、前記リジェネレーターに亘る圧力降下の発生を減少させる制御可能な多孔性を有する、請求項15に記載された方法。
【請求項19】
前記複数の異方性熱層が、前記リジェネレーターを複数のセグメントに分割し、
前記複数の異方性熱層の各層が前記リジェネレーターの隣接するセグメント間での熱移送を低減するように構成されている、請求項15に記載された方法。
【請求項20】
前記1つ以上の支持層を用いて、前記異方性熱層の少なくとも1つにより大きい熱容量を与えるステップを、
さらに含む請求項15に記載された方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、冷却システムに関する。より詳細には、本開示は、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むクライオクーラー・リジェネレーター並びに関連するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な部品を極低温にまで冷却するために、クライオクーラーがしばしば用いられる。例えば、種々の航空宇宙画像システムにおける焦点面アレイ(focal plane arrays)を冷却するために、クライオクーラーを用いることができる。パルスチューブクライオクーラー、スターリングクライオクーラー(Stirling cryocoolers)及びギフォード−マクマホンクライオクーラー(Gifford-McMahon cryocoolers)などの、様々なタイプのクライオクーラーがある。これらのタイプのクライオクーラーは典型的にはリジェネレーターを含む。リジェネレーターは多孔性材料であり、そこを通って(液体又は気体などの)流体が前後に流れる。流体が前後に流れる際に、熱がリジェネレーターに蓄熱されたり放出されたりして、クライオクーラーの冷却動作を支持する。
【0003】
クライオクーラーは代表的に、温暖端部(“warm” end)及び冷却端部(“cold” end)を有する。両端部はクライオクーラーの異なる場所にあって、異なる温度にある。リジェネレーターはしばしば、クライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間に位置される。クライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間にあるリジェネレーター内部の如何なる熱流も、クライオクーラーの全体的な冷却容量及び効率を減少させてしまう。しかしながら、リジェネレーターに単に低い熱伝導性の材料を用いることはできないだろう。低い熱伝導性を有する多くの材料は、クライオクーラーの効率的なリジェネレーターを形成するのに必要な適切な体積熱容量を備えない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むクライオクーラー・リジェネレーター並びに関連するシステム及び方法をもたらす。
【0005】
第1の実施形態における装置がリジェネレーターを含み、リジェネレーターは、流体がクライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間を流れるときに、流体へ熱を移送し流体から熱を吸収するように構成される。リジェネレーターは、リジェネレーターに沿った軸方向の熱の流れを低減し、吸収した熱を異方性熱層の平面内で径方向又は横方向に拡散させるように構成される異方性熱層を含む。異方性熱層が、カーボンの少なくとも1つの同素体を含む。
【0006】
第2の実施形態におけるシステムが、温暖端部及び冷却端部を有するクライオクーラーを含む。クライオクーラーが、当該クライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間に流体を移動させるように構成された圧縮機と、流体に接触するように構成されたリジェネレーターとを含む。リジェネレーターは、流体が当該クライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間を流れるときに、流体へ熱を移送し流体から熱を吸収するように構成される。リジェネレーターが異方性熱層を含み、異方性熱層はリジェネレーターに沿った軸方向の熱の流れを低減し、吸収した熱を異方性熱層の平面内で径方向又は横方向に拡散させるように構成される。異方性熱層がカーボンの少なくとも1つの同素体を含む。
【0007】
第3の実施形態における方法が、クライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間で流体の前進後退流れを作るステップを含む。当該方法はまた、流体がクライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間を流れるときに、リジェネレーターを用いて流体へ熱を移送し流体から熱を吸収するステップを含む。当該方法はさらに、リジェネレーター内部で異方性熱層を用いて、リジェネレーターに沿った軸方向の熱の流れを低減するステップを含む。異方性熱層が、吸収した熱を異方性熱層の平面内で径方向又は横方向に拡散させる。異方性熱層は、カーボンの少なくとも1つの同素体を含む。
【0008】
他の技術的特徴は、以下の図面、詳細な説明及び特許請求の範囲から当業者に容易であり明らかである。
【0009】
本開示およびその特徴のより完全な理解のために、添付図面に関連しながら、以下の説明を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示に従った、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むリジェネレーターを備えたクライオクーラーの第1実施例を示す。
図2A】本開示に従った、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むリジェネレーターを備えたクライオクーラーの第2実施例を示す。
図2B】本開示に従った、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むリジェネレーターを備えたクライオクーラーの第2実施例の一部の拡大図である。
図3】本開示に従った、クライオクーラーリジェネレーターのためのカーボン系異方性熱層の例である。
図4】本開示に従った、クライオクーラーリジェネレーターのためのカーボン系異方性熱層の例である。
図5】本開示に従った、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むリジェネレーターを備えたクライオクーラーを用いて、ある構造体を冷却する方法の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に説明する図1乃至図5、及び本書面において本発明の原理を説明するために用いる種々の実施形態は、単に例示のためであり、本発明の範囲を如何なる方法により限定するために解釈されてはならない。当業者は、本発明の原理が適切にアレンジされたどのようなタイプの装置又はシステムにおいても実施できることを理解する。
【0012】
図1は、本開示に従った、1つ以上のカーボン系(carbon-based)異方性熱層(anisotropic thermal layers)を含むリジェネレーターを備えたクライオクーラー100の第1実施例を示す。より詳細には、図1は、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むリジェネレーターを備えたパルスチューブクライオクーラー(pulse tube cryocooler)を示す。
【0013】
図1に示すように、クライオクーラー100は、圧縮機102及び膨張機アッセンブリ(expander assembly)104を含む。圧縮機102は、膨張機アッセンブリ104内部での流体の流れを作る。例えば、圧縮機102は、各圧縮サイクル中に、前進後退ストロークするピストンを含み得る。多数の圧縮サイクルが、特定駆動周波数で生じる。圧縮機102の動作中に、ピストンは、流体を膨張機アッセンブリ104へと流体を押圧し、膨張機アッセンブリ104から流体を引くことができる。圧縮機102は、冷却システム内で少なくとも1つの気体又は流体を移動させるための適切な構造体を含む。
【0014】
圧縮機102によって、流体が膨張機アッセンブリ104へと押し込まれそしてそこから引き出される。制御された膨張及び収縮に伴う、流体のこの前進後退移動が、膨張機アッセンブリ104内に冷却を作る。本実施例では、膨張機アッセンブリ104は、温暖端部106及び冷却端部108を有する。それらの名前が示唆するように、膨張機アッセンブリ104の温暖端部106は、膨張機アッセンブリ104の冷却端部108よりも高温である。膨張機アッセンブリ104の冷却端部108は、約4ケルビン又は設計によってはそれ以下の温度などの、適切な如何なる低温にも達することができる。膨張機アッセンブリ104の冷却端部108はゆえに、例えば冷却すべき装置又はシステムに熱的に結合してもよい。
【0015】
膨張機アッセンブリ104は、リジェネレーター112に包囲されたパルスチューブ110を含む。パルスチューブ110は通路であって、その中を流体が前進後退移動又はパルス移動することができる。リジェネレーター112は、流体に接触して流体と熱交換する構造体である。例えば、流体が膨張機アッセンブリ104の温暖端部106から冷却端部108へと通過するときに、流体からの熱をリジェネレーター112により吸収できる。流体が膨張機アッセンブリ104の冷却端部108から温暖端部106から冷却端部108へと通過するときに、リジェネレーター112からの熱を流体により吸収できる。
【0016】
パルスチューブ110は、多重サイクル中に流体のパルス移動その他の移動を支持する、適切な如何なる構造体をも含む。パルスチューブ110は、適切な如何なる材料によっても形成され、適切な如何なるサイズ、形状、寸法を有しても良い。パルスチューブ110は、任意の好適な方式によって製造することができる。
【0017】
リジェネレーター112は、クライオクーラー内の流体へと及びそこから熱を移送するための任意の好適な構造を含むことができる。リジェネレーター112は代表的には、金属製メッシュ又は多孔性材料のマトリクス(matrix)などの多孔性構造体を有する。パルスチューブ110のための多孔性構造体を通して、孔が空けられ或いは他の方法で形成される。ある実施形態においては、リジェネレーター112は、各要素が多孔性である、多重積層要素から形成することができる。用いることのできる多孔性材料の例としては、グラスファイバー、金属フォーム、(ステンレススティールスクリーンなどの)積層金属スクリーン、(ステンレススティール、鉛又は希土類球体などの)パックした球体、エッチングしたフォイル及びフォトエッチングしたディスクを含む。図1に示す例では、パルスチューブ110及びリジェネレーター112は、同心である(必須ではないが)。
【0018】
膨張機アッセンブリ104の冷却端部108は、熱交換器114及びカップリングチャネル116を含む。熱交換器114は概して、膨張機アッセンブリ104の冷却端部108において熱を除去するよう動作する。カップリングチャネル116は、熱交換器114及びリジェネレーター112を流体結合する。
【0019】
上述したように、クライオクーラーの温暖端部と冷却端部との間のリジェネレーター内部の如何なる熱流も、クライオクーラーの全体的冷却容量及び効率を減少させる。リジェネレーターはしばしば、クライオクーラーの全体的性能を決定する重要な要素であり、クライオクーラーの容量、効率及び到達温度に影響する。理想的なリジェネレーターは、良好な固体/流体熱交換特性、低圧力降下性及び低い端部間熱伝導性を有するものである。しかしながら、従来のリジェネレーターはしばしば、所望値よりも高い端部間熱伝導性を有する。
【0020】
リジェネレーター内の端部間熱伝導の低減を助けるために、リジェネレーター112は、1つまたはそれ以上の異方性熱層118を含む。各異方性熱層118は、材料の膜又は材料のその他の薄層であり、これらによって流体が膨張機アッセンブリ104の温暖端部106と冷却端部108との間のリジェネレーター112を通過することが可能となる。各異方性熱層118はまた、リジェネレーター112に沿って軸方向又は平面外方向(図1で上下方向)に熱が伝わる(travel)のを実質的に阻止するように構成される。各異方性熱層118はむしろ、熱層118の平面内径方向又は横方向(図1で左右方向)に熱が伝わる(travel)のを許す。結果として、各異方性熱層118は、平面方向には高い熱伝導性を有し、平面外方向には実質的に低い熱伝導性を有するということができる。本明細書において、用語「軸方法」は、リジェネレーターの長手寸法に沿ったリジェネレーターの軸線に実質的に平行な方向を意味する。用語「径方向」及び「横方向」は、軸方向に対して実質的に直角の方向を意味する。
【0021】
各異方性熱層118は、カーボンナノチューブやカーボングラフェン(graphene)の少なくとも1つの同素体(allotropic form)を含む。カーボンナノチューブ及びカーボングラフェンはともに、カーボンの同素体であり、カーボン原子を特定の配列で用いて形成されている。グラフェンの場合には、グラフェンは、通常の六角形パターンに配列された、1原子厚のカーボン原子層である。カーボンナノチューブの場合には、カーボンナノチューブは、3次元円筒形ナノ構造体を形成するようにカーボン原子が配列され、円筒の壁部がグラフェンから形成されている。これらの実施形態において、カーボンナノチューブ又はカーボングラフェンは、シート又は紙形式で用いることができる。これらのカーボンナノチューブ又はカーボングラフェンは、カーボンナノチューブ又はカーボングラフェン紙(すなわち、ミクロン厚のほぼ平坦な構造に配列された紙)に似た、より高次のシートアッセンブリ形式に濃縮されている。
【0022】
カーボンナノチューブは、チューブに沿った値よりもチューブを横切る方向の値が桁違いに低い、異方性熱伝導性を有する。同様に、グラフェンは、グラフェン平面内部の値よりもグラフェン平面に垂直な方向の値が桁違いに低い、異方性熱伝導性を有する。これらの特性のために、リジェネレーター112へカーボンナノチューブ又はグラフェンを1つ以上の異方性熱層118として追加することにより、リジェネレーター112の軸方向の熱伝導性を著しく低減することができる。効果的には、1つ以上の異方性熱層118がリジェネレーター112を多数のセグメント120に分割することができる。リジェネレーター112の各セグメント120内で、軸方向のいくらかの熱移送が依然として存在する。しかしながら、異方性熱層118が、リジェネレーター112の隣接セグメント120間での熱移送を実質的に低減するのを助け、全リジェネレーター112に沿った軸方向の熱移送を著しく低減することができ、一方で各異方性熱層118の平面内での熱拡散を増加させる。
【0023】
各異方性熱層118は、リジェネレーター112内部でのそれ自身の使用に際し、適切な構造的強度や熱容量を欠くかもしれない。結果として、リジェネレーター112内で1つ以上の支持層122を用いることができ、異方性熱層118を保持或いは他の方法で支持し、或いは異方性熱層118の熱容量を変更することができる。如何なる好適な支持層122をも用いることができ、異方性熱層118の構造的強度を維持し、熱容量を増大できる。ある実施形態においては、支持層122は、ステンレススティールその他の材料でできたスクリーン又はメッシュなどの、金属スクリーン又はメッシュを含み得る。図1では、1つの異方性熱層118のための支持層122が示されているが、任意の数の異方性熱層118が関連する支持層122を備えることができる。
【0024】
図2A及び図2Bが、本開示に従った1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むリジェネレーターを備えた、第2実施形態クライオクーラー200を示す。より詳細には、図2A及び図2Bは、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むリジェネレーターを備えた、二段のスターリングクライオクーラー(two-stage Stirling cryocooler)を示す。
【0025】
図2A及び図2Bに示すように、圧縮機202が膨張機アッセンブリ204へと流体結合して、膨張機アッセンブリ204内部で流体を前進後退移動させる。任意の好適な圧縮機202をクライオクーラー200内で用いることができる。膨張機アッセンブリ204は、二段スターリング冷却システムの第一段206の一部をなす。スターリング冷却システムの第二段208は、パルスチューブを含む。
【0026】
第一段206の一部が図2Bに拡大して示されている。図2Bに示すように、第一段206はリジェネレーター212を含み、第一段及び第二段206、208内部を進む(travel)流体がリジェネレーター212を通過する。再度説明すると、リジェネレーター212は、流体に接触し、流体と熱交換する構造体である。例えば、流体が図2B内のリジェネレーター212を通って右から左へ通過するときに、流体からの熱がリジェネレーター212により吸収される。流体が図2B内のリジェネレーター212を通って左から右へ通過するときに、リジェネレーター212からの熱が流体により吸収される。
【0027】
リジェネレーター212は、リジェネレーター212を複数のセグメント220に分割する1つ以上の異方性熱層218を含む。各異方性熱層218は、カーボンナノチューブ又はカーボングラフェンなどの、カーボンの少なくとも1つの同素体を含む膜その他の薄層である。また、1つ以上の支持層22を用いることができ、構造的支持又は追加的熱容量を1つ以上の異方性熱層218にもたらす。これらの部材218〜222は、図1に示した部材とは異なる形状を有しているが、図1に示した対応部材118〜122と同一又は類似であってもよい。任意の数の異方性熱層218を用いることができる。1つの熱層218にのための支持層222のみを図2Bに示しているが、任意の数の熱層218が関連する支持層222を有してもよい。
【0028】
リジェネレーター112、212内に所望の熱移送特性、流体流れ特性その他の特性を達成するために、熱層118、218の多孔性を制御或いは変更することができる。例えば、1シートのカーボンナノチューブ又はカーボングラフェンを製作した後に、そのシートに1つ以上の製作後処理作用を施して、シート内に1つ以上の所望寸法の孔を設けることができる。この処理作用は、1つ以上のレーザーを用いるなどの如何なる好適な方法によっても達成することができる。ある実施形態において、膜多孔性を制御することができ、それによってリジェネレーター112、212内の流体の流れを実質的に妨げず、かつリジェネレーター112、212内部の実質的な圧力降下をもたらさない程度の十分な多孔性をもたせることができる。
【0029】
リジェネレーター112、212内で少なくとも1つのカーボン同素体を使用することにより、装置設計に依存して多様な利点がある。例えば、カーボンナノチューブ又はカーボングラフェンの異方性熱伝導性が、リジェネレーター112、212を通って径方向/横方向に熱を拡散させることを助ける一方で、軸方向の熱伝導性を低減し、クライオクーラーの効率を改善することができる。ステンレススティールスクリーンとともに層になっているカーボンナノチューブシートを含むリジェネレーターの熱力学モデリングは、カーボンナノチューブが占めるリジェネレーターの百分率体積に依存して、16%〜37%の間の性能改善を示す。カーボンナノチューブの体積百分率が約70%である場合において最大の性能改善を示す。しかしながら、このモデリングは詳細な設計に関連し、本開示を特定の性能改善又は特定のリジェネレーター設計に限定するわけではない。
【0030】
さらに、数シートのカーボンナノチューブ又はカーボングラフェンは、広範囲な密度で様々な薄さの層に製作することができる。結果として、当該シートは、リジェネレーター112、212内の非常に小さな空間を占め、リジェネレーターの体積熱容量(volumetric heat capacity)に与える影響を小さくできる。当該シートは、最適な体積熱容量を与えるのに用いられる特別クライオ材料のためのプラットフォームとして働くことができる。さらに、カーボンナノチューブ及びカーボングラフェンの所望の材料特性が、広範囲な極低温(cryogenic temperatures)に亘って適合する。制御可能な孔寸法との組合せにおいて、カーボンナノチューブ又はカーボングラフェンは、所定の温度及び応用のためのより適切なリジェネレーターを製造するために開発された或いは知られた多くの又は全ての他のリジェネレーター材料と組み合わせることが可能である。加えて、カーボンナノチューブ又はカーボングラフェンを使用するリジェネレーターを、在来のクライオクーラー内のリジェネレーターの置換として製作することができ、新しいクライオクーラーの製造を可能にし、かつ在来のクライオクーラーにカーボンナノチューブ又はカーボングラフェンを含むリジェネレーターを改造設置することも可能にする。
【0031】
図1図2Bは、1つ以上のカーボン系異方性熱層118、218を含むリジェネレーター112、212を備えたクライオクーラー100、200の例を示しているが、図1図2Bに対して様々な変更をすることができる。例えば、各リジェネレーター112、212が任意の数の異方性熱層118、218を含んでもよい。また、図1図2Bは、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むリジェネレーターを備えることができるクライオクーラーの例である。そのようなリジェネレーターは、単一段スターリングクライオクーラー、ギフォード−マクマホンクライオクーラーなどの、他のタイプのクライオクーラーにおいて用いることもできる。一般的に、リジェネレーターを含む如何なる単一段クライオクーラー又は複数段クライオクーラーも、リジェネレーター内部に1つ以上の異方性熱層を有することができる。
【0032】
図3及び図4は、本開示に従ったクライオクーラーリジェネレーターのための例示的なカーボン系異方性熱層を示す。より詳細には、図3及び図4は、図1図2Bのリジェネレーター112、212又は他の如何なる好適なクライオクーラーにも用いることのできる異方性熱層118、218の例を示す。
【0033】
図3は、カーボンナノチューブ302のシート300の一部の拡大図である。図3から分かるように、カーボンナノチューブ302は、概して平坦であり、シート300内部で実質的横方向に伝わる(travel)。カーボンナノチューブ302は、本例でシート300内部でランダムな通路を伝わる(travel)が、より整然とした通路を与えることもできる。
【0034】
カーボンナノチューブ302のこの配列によって、流体がシート300を通って流れることができ、流体がカーボンナノチューブ302に接触することができる。次に、流体とカーボンナノチューブ302との間で熱移送が生じ得る。例えば、シート300内部のカーボンナノチューブ302の品質及び寸法に基づき、同様に(シート300を通したレーザーエッチングなどの)製作後処理作用に基づいて、シート300の多孔性を制御することができる。また、シート300の全体的な寸法及び形状は、リジェネレーター112、212の所望の体積熱容量及び形状などの様々な要因に基づいても良い。
【0035】
熱輸送(heat transport)は概して、カーボンナノチューブ302に沿って生じる。図3から分かるように、カーボンナノチューブ302は、シート300内部で横方向(側部から側部へ(side to side))に伝わる(travel)。結果として、カーボンナノチューブ302を通って輸送される熱の大部分がシート300内部で横方向に輸送される。カーボンナノチューブ302はシート300内部で小さな程度軸方向(頂部から底部へ)に伝わる(travel)が、このことによるシート300内部の軸方向に輸送される熱の量は著しく小さい。これにより、シート300は、断熱層として効率的に機能し、リジェネレーター112、212に沿った軸方向の熱移送の低減を助ける。リジェネレーター112、212の体積熱容量を調節するための1つ以上の材料をもって、カーボンナノチューブ302をドープし或いは共析出(co-deposit)することが可能であることに注意すべきである。
【0036】
図4において、グラフェンのシート400(しばしば「グラフェン紙」(graphene paper)と呼ばれる。)を用いて異方性熱層118、218が形成される。図4から分かるように、シート400は、カーボン原子の濃縮された六角形マトリクス(condensed hexagonal matrix)402を用いて形成された薄い構造体である。ビアレーザーエッチングなどの任意の好適な方法で、グラフェンのシート400を通して、多孔を形成することができる。このことにより、流体がシート400を通って流れ、グラフェンに接触でき、流体とグラフェンとの間で熱移送が生じることができる。シート400は図4ではディスク形状で示されているが、シート400の全体的な寸法及び形状は、リジェネレーター112、212の所望の体積熱容量及び形状などの多様な要因に基づくことが可能であることに注意すべきである。
【0037】
再度説明するが、熱輸送は、主としてカーボン原子のマトリクス402に沿って、シート400内部で概して横方向に生じる。マトリクス402がシート400内部で横方向(側部から側部へ)に配列されているので、マトリクス402を通って輸送される熱の大部分がシート400内部で横方向に輸送される。マトリクス402はシート400内部で小さな程度軸方向(頂部から底部へ)に伝わる(travel)が、このことによるシート400内部の軸方向に輸送される熱の量は著しく小さい。これにより、シート400は、断熱層として効率的に機能し、リジェネレーター112、212に沿った軸方向の熱移送の低減を助ける。
【0038】
図3及び図4はクライオクーラーリジェネレーターのためのカーボン系異方性熱層の例を示しているが、図3及び図4に対して様々な変形が可能である。例えば、各異方性熱層118、218は、長方形シート、円形ディスク、環状ディスクその他の整然とした又は整然としていない形状などの如何なる好適な形状要因を有してもよい。また、異方性熱層118、218は、リジェネレーター内部の小さな空間を占める必要はなく、リジェネレーター内部のより大きな空間を占めても良い。
【0039】
図5は、本開示に従い、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むリジェネレーターを備えたクライオクーラーを用いて、ある構造体を冷却するための方法500を例示している。説明を簡単にするために、方法500は、異方性熱層118、218を含むリジェネレーター112、212とともに動作する、図1乃至2Bにクライオクーラーに関して記述している。しかしながら、方法500は、1つ以上の異方性熱層を有するリジェネレーターを備えた単一段又は多段のクライオクーラーとともに使用しても良い。
【0040】
図5に示すように、ステップ502において、クライオクーラー内部で前後の流れが作り出される。このことは、例えば、クライオクーラー100の膨張機アッセンブリ104内で前進後退流体流れを作る圧縮機102の動作を含んでもよい。このことは、また、クライオクーラー200の多段206〜208内で前進後退流体流れを作る圧縮機202の動作を含んでもよい。
【0041】
ステップ504において、流体がクライオクーラー内のリジェネレーターを通って流れる。このことは、例えば、リジェネレーター112、212を貫通する孔その他の通路を通って流体が流れることを含む。リジェネレーターは少なくとも1つの異方性熱層118、218を含み、異方性熱層118、218はリジェネレーター112、212を異なる複数のセグメント120、220に熱的にセグメント化して、リジェネレーター112、212に沿った軸方向の熱流の量を減少させる。
【0042】
この時間の間、ステップ506において、リジェネレーターを用いて流体の内外へ熱が移送される。このことは、例えば、流体がクライオクーラーの温暖端部から冷却端部へと移動する際に、流体からの熱がリジェネレーター112、212へと吸収されることを含む。このことはまた、流体がクライオクーラーの冷却端部から温暖端部へと移動する際に、リジェネレーター112、212からの熱が流体へと吸収されることを含む。さらに、ステップ508において、リジェネレーター内部の1つ以上のカーボン系異方性熱層を通って実質的に横方向に熱が輸送され、他方、ステップ510において、当該1つ以上のカーボン系異方性熱層が、リジェネレーターを通る軸方向への熱の輸送を実質的にブロックする。このことは、例えば、異方性熱層118、218内のカーボンナノチューブ又はカーボングラフェンが、熱層118、218内部で実質的横方向に熱を輸送することを含む。異方性熱層118、218は、リジェネレーター112、212内部の軸方向の熱移送を実質的にブロックする。
【0043】
これらの動作を介して、ステップ512において、デバイス又はシステムを冷却するためにクライオクーラーが用いられる。このことは、例えば、クライオクーラーの冷却端部が焦点面アレイ又は冷却が望まれ或いは要求されるデバイス又はシステムを冷却するように、クライオクーラー100、200が動作することを含む。当該クライオクーラーは、デバイス又はシステムを如何なる好適な低温にも冷却することができる。
【0044】
図5は、1つ以上のカーボン系異方性熱層を含むリジェネレーターを備えたクライオクーラーを用いて、ある構造体を冷却するための方法500の例を示しているが、図5に対して様々な変形が可能である。例えば、図5には一連のステップとして示されているが、これらのステップはオーバーラップしてもよく、並行に生じてもよく、数回生じてもよい。
【0045】
本書面を通じて用いる単語や句の定義を決めることが都合よい。用語「含む」、「有する」及び「備える」は、これらの派生語とともに、限定の無い包含を意味する。用語「又は」は、「及び」と「又は」の意味を含む。用語「関連する」は、その派生語とともに、「含む」、「含まれる」、「相互作用する」、「含有する」、「含有される」、「接続する」、「結合する」、「通信する」、「協働する」、「インターリービングする」、「並置する」、「近接する」、「拘束される」、「有する」、「所有する」、「関係を持つ」などの意味を有する。用語「少なくとも1つ」は、項目のリストともに用いられる場合、リストされた項目の1つ以上の項目の組合せも用いることができるが、リスト内の単一の項目のみが必要とされるという意味である。例えば、「A、B及びCのうち少なくとも1つ」は、「A」、「B」、「C」、「A及びB」、「A及びC」、「B及びC」及び「A及びB及びC」のうちの何れをも含む。
【0046】
本開示はある実施形態及び関連する方法を説明したが、これらの実施形態及び方法の変形及び置換が当業者に明白である。従って、実施形態の上述の説明は、本開示を定義したり制限したりするものではない。その他の変形、置換及び代替が、特許請求の範囲で定義される本開示の精神及び範囲から逸脱することなく可能である。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5