(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、従来の防音扉の一例を示した正面図および断面図である。
図1(a)が正面図であり、
図1(b)が切断線A-Aで切断した断面図である。防音扉10は、トンネル坑口を塞ぐように設置され、防音扉10の本体を構成する一般部材部11、風管が接続される円形の風管接続部12と、車両の通行を可能にする車両通行部13と、作業員等の人の通行を可能にする人用通行部14とを備える。
【0011】
一般部材部11の構造は、例えば
図2(a)〜(d)に示す構造とされる。
図2(a)は、2枚の遮音板20の間に吸音材21を介在させた構造で、遮音板20としては、鋼板やアルミニウム板等の金属板、ポリカーボネート等のプラスチック樹脂板等を用いることができる。吸音材21としては、グラスウールや軟質ウレタンフォーム等を用いることができる。
図2(b)は、
図2(a)に示す構造体とそれに離間して設けたプレート22との間に砂23を充填した構造である。プレートは、金属プレートであってもよいし、プラスチック樹脂製のプレートであってもよい。
【0012】
図2(c)は、
図2(b)のプレート22に代えてエキスパンドメタル24を使用し、
図2(a)に示す構造体とエキスパンドメタル24との間にコンクリート25を充填した構造である。
図2(d)は、
図2(c)と同様の構成であるが、構造体とエキスパンドメタル24との間隔が
図2(c)の構造に比較して広く、コンクリート25の厚さが厚くなっている。このため、
図2(a)の構造、
図2(b)の構造、
図2(c)の構造、
図2(d)の構造の順に、重く、硬くなっており、遮音性能が高くなる。
【0013】
再び
図1を参照して、風管は、トンネル内に空気を供給するための管で、送風機と接続される。風管接続部12は、風管を接続する風管接続金具を備える。風管接続金具は、例えばフランジとされ、ボルトおよびナット等の締結部材を使用して風管を接続することができる。
【0014】
車両通行部13は、重機の搬入や発破により発生した岩石や土砂等のずりの搬出のための車両の通行を可能にし、車両通行扉15と、車両通行扉15を一般部材部11に開閉可能に連結する開閉機構16とを備える。車両通行扉15は、左右のそれぞれの端部に取り付けられた開閉機構16により中央から左右に回転するように開く2枚の扉から構成され、各扉には、L字形の取手である閂鎹17が設けられる。また、左右の2枚の扉が一方向にしか開かないように、該一方向とは反対の方向への移動を抑止するための戸当りが設けられる。発破を行う際には、棒状の閂18を、左右の扉の閂鎹17に跨るように通し、左右の扉が開かないようにする。
図1に示す例では、3つの閂18により左右の扉が開かないようにしている。
【0015】
車両通行扉15も、
図2(a)〜(d)に示したような一般部材部11と同様の構造とすることができる。開閉機構16としては、例えば蝶番(ヒンジ)を用いることができる。
【0016】
人用通行部14は、作業員が作業を行うためにトンネル坑内への出入りを可能にし、人用扉19と、人用扉19を一般部材部11に開閉可能に連結する開閉機構とを備える。人用扉19の構造も、一般部材部11や車両通行扉15の構造と同様のものとし、開閉機構も、車両通行扉15に使用されるものと同様のヒンジ等を用いることができる。なお、人用扉19は、扉が重すぎると、作業員が開閉することができないので、所定の厚さの鋼板からなるものであってもよい。また、人用扉19も一方向にしか開かないように、戸当りが設けられる。
【0017】
図3は、
図1に示す防音扉10の切断線B-Bで切断した断面図である。防音扉10は、車両の通行を可能にするために開閉される車両通行扉15が設けられる。発破する際は、遮音のために、車両通行扉15の左右の扉を閉じる。一方、車両が通行する際は、車両通行扉15の左右の扉を開く。
【0018】
ところで、
図1に示したような1基の防音扉10で必要な遮音性能を得ようとすると、扉の一次固有周波数では、面外振動が大きくなるため、遮音性能が低下することが避けられない。防音扉10は、両端がトンネル側壁に固定されており、音圧がかかると、半波長の波のようにその中央部分が最も大きくトンネル軸方向に振動する。一次固有周波数は、両端が固定された扉を自由振動させた際の該扉に固有の周波数であり、面外振動は、トンネル軸方向の振動成分のことである。遮音性能は、防音扉10を挟んで坑内側と坑外側で計測した音圧波形をオクターブバンド解析(周波数解析)し、各周波数の差分(坑内音圧−坑外音圧)を、防音扉10による音の低減効果として評価する。
【0019】
1基の防音扉で必要な遮音性能が得られない場合、トンネル軸方向に2基以上の防音扉を設置し、その基数を増加することで対応することができる。
【0020】
ここで、2基の防音扉を設置し、防音扉の遮音性能を測定した結果を、
図5および
図6に示し、その測定位置を、
図4に示す。
図4に示すように、測定位置は、トンネルの坑外側の防音扉の一般部材部11a、坑外側の防音扉の車両通行部15a、坑内側の防音扉の一般部材部11b、坑内側の防音扉の車両通行部15bの4箇所とした。比較のために、坑内、坑外でも音圧を測定した。
【0021】
図4(a)は、トンネル坑外で音圧を測定する様子を示し、
図4(b)は、トンネル坑内で音圧を測定する様子を示す。
図4(c)は、2基の防音扉の間で、坑内側および坑外側の一般部材部および車両通行部の振動測定箇所を図中に×印で示す。なお、
図4(a)〜(c)には、風管26と、音圧を測定するためのマイクロフォン27が示されている。
【0022】
図5は、防音扉の振動特性を音響放射(音圧特性)に理論式を用いて変換し、切羽から伝播してくる音圧特性を示し、
図6は、扉を通過して坑外に伝播する音圧特性を示した図である。
【0023】
図5および
図6中、丸は、
図4(c)に示す車両通行部13a、13bにおける音圧特性を、四角は、
図4(c)に示す一般部材部11a、11bにおける音圧特性を、菱形は、
図4(a)および(b)に示す坑外および坑内における音圧特性を示す。
図5と
図6の結果を比較すると、高性能(高価)な扉であっても、車両通行部13a、13bの拘束が弱いため、1/3オクターブバンド中心周波数が8Hz以下の低周波数帯で扉が大きく振動し、低周波数成分の遮音性能が一般部材部11a、11bに比べて低下している。オクターブバンドは、ある周波数を中心として上限と下限の周波数の比率が1オクターブになる周波数の幅(帯域幅)で、その中心の周波数が中心周波数である。その結果、車両通行部13a、13bの遮音性能が、坑外に伝播する音圧特性に大きな影響を及ぼすことが分かる。
【0024】
本発明では、車両通行部13の遮音性能を向上させるべく、
図7に示すように、トンネル軸方向に延び、車両が通行するための通路30を設ける。
図7は、本発明の防音扉の一例を示した正面図および断面図である。
図7(a)が正面図であり、
図7(b)が切断線C-Cで切断した断面図である。
【0025】
通路30は、トンネル軸方向に平行に延びる2つの側壁部と、2つの側壁部に跨り、上部を覆う天井部とから構成され、側壁部や天井部は、一般部材部11や車両通行扉15と同様の構造とすることができる。また、車両通行部13には、
図7(b)に示すように、トンネル軸方向に離間して設けられ、通路30を開閉するための複数の通行扉31、32を設ける。その他の構成は、
図1に示した従来の防音扉と同様とすることができる。
【0026】
複数の通行扉31、32が、各扉の1次固有周波数が一致する、同じ剛性を有するものである場合、その間の空気とともに同じ方向、同じ振幅で振動する可能性がある。ここで、剛性は、曲げに対する変形のしづらさの度合いを示すものである。これでは、複数の通行扉31、32を設けても、振動が減衰しないため、遮音性能が1つの通行扉の場合と変わらなくなってしまう。
【0027】
そこで、本発明では、複数の通行扉31、32が、各扉の1次固有周波数が一致しないように異なる剛性を有するものとされる。剛性が異なれば、扉によって振動の仕方が変わるため、少なくとも同じ方向、同じ振幅で振動することはなくなり、確実に振動を減衰させることができる。以下、複数の通行扉31、32が、異なる剛性を有するものの例について、
図8〜
図11を参照して説明する。
【0028】
図8に示す例では、複数の通行扉31、32が、同じ材質、厚さ、構造とされ、通路30の両端にそれぞれ設けられるが、扉を開く方向が異なっている。通行扉31、32は、閂18を閂鎹17に通して閉鎖されるが、扉が反対方向へ開かないように戸当たりが設けられる結果、扉を開く方向に変形しやすい。したがって、扉を開く方向を変えることで、剛性を変えることができる。
【0029】
図9に示す例では、複数の通行扉31、32の厚さは同じであるが、材質が異なっている。材質が変われば、剛性が変わるからである。なお、材質に限らず、構造が異なっていてもよい。例えば、
図2(b)に示す構造のものと、
図2(c)に示す構造のものを採用することができる。この例では、扉の一部の構造は同じであるが、全体の構造が異なっていてもよい。また、構造は同じで、材質のみが異なっていてもよいし、材質は同じで、構造のみが異なっていてもよいし、その両方が異なっていてもよい。
図9に示す例では、材質の違いに加えて、扉を開く方向も変えているが、扉を開く方向は同じ方向であってもよい。
【0030】
図10に示す例では、複数の通行扉31、32の材質や構造は同じであるが、厚さが異なっている。厚さが変われば、剛性が変わるからである。例えば、
図2(c)に示す構造のものと、
図2(d)に示す構造のものを採用することができる。複数の通行扉31、32が異なる剛性を有すればよいので、厚さとともに材質や構造を変えてもよい。
図10に示す例では、厚さの違いに加えて、扉を開く方向も変えているが、扉を開く方向は同じ方向であってもよい。
【0031】
図11に示す例では、複数の通行扉31、32の材質、構造、厚さのいずれも同じであるが、表面の形状が異なっている。
図11に示す例では、通行扉31の表面は平坦であるが、通行扉32の表面(坑内側)には凹凸33が設けられている。表面に凹凸加工を施す等して凹凸33を設けることで、通行扉32の曲げ剛性を高めることができ、平板状の通行扉31とは異なる剛性を有するものとすることができる。ここでは、表面に凹凸33を設けることを一例として挙げたが、突起のみ、あるいは溝のみを設ける等して、異なる剛性を有するものとしてもよい。また、シート状物を貼付する等して、異なる剛性を有するものとしてもよい。この場合も、複数の通行扉31、32について、表面の形状を変えることに加えて、材質、構造、厚さ、扉を開く方向の少なくとも1つを変えてもよい。
【0032】
複数の通行扉31、32を離間して設置する場合、扉間の空間の共鳴に起因する性能低下が問題となる。扉間の間隔が入射した音波(入射波)の半波長と一致すると、通行扉32で反射した音波が通行扉31に戻り再度折り返す際、再度折り返した音波(再反射波)と通行扉31に入射された音波とが強め合うように重なり合う共鳴という現象が発生する。共鳴が発生すると、通行扉32に大きな振動をもたらし、より大きな音圧となって音波が坑外へ出射されることになる。
【0033】
しかしながら、低周波音は、波長が数十mと長く、その半波長と一致する扉間隔にするには、長い通路30が必要になり、コストや通路30の設置作業等を考慮すると、現実的ではない。数m程度の通路30では、共鳴が発生するにしても、わずかに強め合うだけであり、上述したように、通行扉31、32を異なる剛性を有するものとすることで、1つの通行扉のみの場合に比べて遮音性能を向上させることができる。
【0034】
なお、複数の通行扉31、32の扉間隔は、一定距離以上離間していればよく、例えば0.5m〜3mとすることができる。
【0035】
以上のようにして、防音扉10の車両通行部13に、通路30と、複数の通行扉31、32とを設け、複数の通行扉31、32の剛性を異ならせることにより、従来の1つの通行扉のみを有する防音扉に比較して、特に低周波数の音の遮音性能を向上させることができる。また、既存の防音扉が、通路30に相当するものが既に設けられ、1つの通行扉が取り付けられている場合、該1つの通行扉に離間して新たに通行扉を取り付けるだけで、遮音性能を向上させた防音扉を安価で提供することができる。さらに、人用通行部14も、車両通行部13と同様の通路と複数の通行扉とを備える構成とし、人用通行部14の遮音性能を向上させることもできる。
【0036】
これまで本発明の防音扉について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。