特許第6564079号(P6564079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6564079フックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564079
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】フックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20190808BHJP
   D06C 23/04 20060101ALI20190808BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20190808BHJP
   D04H 3/007 20120101ALI20190808BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   A44B18/00
   D06C23/04 B
   B32B5/26
   D04H3/007
   D04H3/16
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-10925(P2018-10925)
(22)【出願日】2018年1月25日
(65)【公開番号】特開2019-85684(P2019-85684A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2018年1月25日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0145189
(32)【優先日】2017年11月2日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517022153
【氏名又は名称】ラーク インダストリーズ カンパニーリミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】金 鍾▲ヨプ▼
(72)【発明者】
【氏名】林 萬培
(72)【発明者】
【氏名】呂 光壽
(72)【発明者】
【氏名】朴 正仁
(72)【発明者】
【氏名】張 帝▲薫▼
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−065253(JP,A)
【文献】 特開2016−016184(JP,A)
【文献】 特開2011−135943(JP,A)
【文献】 特開2006−281545(JP,A)
【文献】 特開平09−195154(JP,A)
【文献】 特表2008−518649(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/108238(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B1/00−23/30
D06C3/00−29/00
D06G1/00−5/00
D06H1/00−7/24
D06J1/00−1/12
D04H1/00−18/04
B32B1/00−43/00
A44B18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複層のスパンボンド長繊維不織布シートからなる長繊維不織布ループ部材において、
下層は、繊度1〜2デニールの熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートであり、
上層は、繊度4〜6デニールの熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートであり、
前記下層と前記上層が貼り合わせられてなる長繊維不織布シートは、厚さが0.26〜0.37mmであり、目付が35〜50g/m2であり、通気度が270〜380cfmであり、
前記下層及び前記上層は、熱エンボスロールにより貼り合わせられ
前記熱エンボスロールにより前記下層と貼り合わせられる前記上層には、長手方向または横方向に連続する複数の波打ち状または直線状の融着部及び非融着部が形成されており、前記融着部は、0.5〜1.5mmの幅であり、且つ、3〜5mmおきに形成され、前記融着部が占める面積は、前記融着部が形成される面の面積を基準として10〜35%であること
を特徴とする、フックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材。
【請求項2】
前記下層及び前記上層は、ポリプロピレン(PP)原糸単独により、またはポリエチレン(PE)原糸を混合して形成された熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートであることを特徴とする、請求項1に記載のフックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、幼児用おむつ、成人用おむつ、ベッドカバーまたは手術用ガウンなど、使い捨てタイプの製品における結合部材として、フック(Hook)部材と機械的な係合を形成することができ、着脱が簡便であり、製造が容易であり、また費用が低廉な、ループ(Loop)不織布が幅広く用いられている。
【0003】
上記使い捨てタイプの製品において、製品を着脱するためのフックアンドループ部材(Hook & Loop Fastener)は、鉤部と環状係止部が対となり、強く係合し、また容易に引き剥がされる。よって主に衣類用、履物用など、繰り返し着脱可能な形態で係合したい場合に広く用いられる。よく知られる商標としては、マジックテープ(Magic Tape)、ベルクロ(Velcro)がある。中でも、ループファスナーは多くの場合、複層の不織布繊維または不織布にフィルムを貼着して製作されており、当該不織布繊維またはフィルム一体品は、おむつなどの使い捨てタイプの製品を製作するのに用いられる。
【0004】
上記フック部材は、アーチ状、キノコ状、鉤状などを呈しており、ループ部材と向かい合うように、且つ、ループ部材と容易に係合されるように製作され、機械的な係合により、それぞれの構成要素が容易に分離されることを防ぐ。なお、フック部材とループ部材が係合される個所には、係合面に対し垂直方向の剥離強さ(peel strength)及び係合面に対し平行方向のせん断強さ(shear strength)が働くため、使用中に正常な係合が保持できるだけの係合力が求められる。
【0005】
従来、ループ部材に用いられる不織布の生産工程では、織物を織る工程または不織布に穿孔を行う工程などにおいて、接着剤方式または熱接着方式などにより、不織布同士を貼り合わせ、または不織布にフィルムを貼着していた。しかし、上記従来の生産方法は、生産工程が複雑化するため生産性に劣るだけではなく、製造コストが高いという課題があり、且つ、生産された製品をロール(roll)状に保存する際にかさばり、また熱による打ち抜き(パンチング)に起因して柔らかな肌触りが損なわれるという課題もあった。
【0006】
上記課題を補うため、凹凸付き一対のローラーに不織布繊維を通過させ、不織布繊維に波打ち状の模様(うねりまたは盛り上がり)を形成した後、一方の側から樹脂が押出される通常のTダイにより熱可塑性樹脂フィルムを不織布繊維に貼着する方法が提案されている。ところが同方法は、不織布の片面に単一の樹脂フィルムが貼着されるため、ループファスナー用にしか使えないという極めて制限的な用途を有する。この理由から、嵩を抑える目的で、または繊維の肌触りを向上させる目的で処理が行われ、上下にうねる波打ち状模様が形成されたラミネートループシートが用いられている。
【0007】
上記ループ部材の不織布は、主として、衣類及びその他の着用物、鞄などを含む身辺用品、スポーツ用品、保護衣服、成人用の使い捨てタイプのおむつ、乳児用の使い捨てタイプのおむつなど、使い捨てタイプの製品の留め具に用いられ、比較的に短い期間で使われて捨てられるため、製品を見栄えよくデザインするために全体の材料費を下げ、且つ、製造コストを削減することが重要である。あわせて、着脱容易であり、繰り返し使用でき、安定的な結合性能が得られる他、当然のことながら、引き剥がし(剥離)性にも優れている必要がある。
【0008】
しかしながら、従来の方法により製造されているループ部材の不織布は、フック部材と係合されて繰り返し使用される場合、上下にうねる波打ち状模様により多量の糸くずが発生し、安定的な係合力を有しないという課題があった。また、不織布に過度な波打ち状模様が形成されるが故に、他の不織布またはフィルム層とのラミネート(貼り合わせ)工程が困難であり、当該不織布を人体に触れる材料として用いる場合には、不織布表面に柔らかな質感が得られない結果、皮膚に損傷を与える恐れがあり、また通気性が大幅に低下するため、酷い場合は人体に障害を引き起こすという課題もある。
【0009】
上記述べたように、使い捨てタイプの衛生吸収性製品や保護用品などの分野では、ループ部材の不織布に、製造コストが安価であり、機械的な係合力が強いだけではなく、柔らかさ及び通気性などの諸性能に優れていることが求められ続けているのが現状である。
【0010】
上述した課題を改善するための代表的な従来技術について以下に述べる。
【0011】
特許文献1には、不織布を加熱加圧、または不織布を加熱加圧しながら穿孔し、形成された突起外表面の繊維密度を減少させることで不織繊維ループ層を形成する接着用ループシートを提供するために、不織布の表面に突出して接着用フックに対応するループ突起と、不織布の底面よりも密度を低く形成したループ突起の繊維密度と、接着用フックテープのレーキに対応するように突起に形成した結合面と、から構成された接着用不織布ループシートであって、接着用フックテープと良好な接着力を発揮し、接着安定性が良好で、繰り返し接着しても接着力の低下が少ない不織布ループシートが開示されているが、上記には突起の外表面の繊維密度を減少させようとする工程上の難点がある。
【0012】
特許文献2には、剥離強さなど接合強さが良好であり、且つ、通気性に優れたフックアンドループ係合方式のループテープの製造方法、及び当該方法により製造されるループテープを提供するために、(a)所定の融点を有する第1の熱可塑性高分子を含む第1の繊維からなる地組織、及び前記第1の熱可塑性高分子の融点よりも高い融点または高い分解温度を有する第2の高分子を含む第2の繊維からなり、前記地組織に固定されて形成された複数のループを有するループ組織と、(b)前記ループ組織の下面に積層されており、前記第2の高分子の融点または分解温度よりも低い融点を有する第3の熱可塑性高分子を含む第3の繊維からなる不織布を備え、前記地組織及び不織布は、前記第1の繊維及び第3の繊維の溶融により互いに熱溶着されているループテープの製造方法、及び当該方法により製造されるループテープが開示されている。
【0013】
特許文献3には、スパンボンド不織布を最表層とし、内層は少なくとも1層のメルトブロー不織布層を有し、且つ、少なくとも1層以上のスパンボンド不織布層及びメルトブロー不織布層がさらに積層されてなるスパンボンド多層不織布の製造方法において、前記最表層をなすスパンボンド不織布層は、低融点重合体が高融点重合体を繊維の長手方向に取り囲む芯鞘型長繊維から構成され、前記芯鞘型長繊維から構成されたスパンボンド不織布層の間にメルトブロー不織布層を形成し、連続するベルト上に積層してウェブを形成し、熱圧着可能なカレンダーにより熱溶着(ボンディング)してシート状に製造した後に吸引ドラムにより熱処理温度80〜110℃で熱処理して製造することを特徴とする、複合スパンボンド長繊維多層不織布の製造方法が開示されている。
【0014】
特許文献4には、スパンボンド不織布を最外層とし、内層は1層のメルトブローン不織布層を有し、必要に応じて少なくとも1層以上のスパンボンド不織布層及びメルトブローン不織布層が付加的に積層されるか、あるいは、メルトブローン層が積層されなくてもよいスパンボンド多層不織布の製造方法において、前記製造方法として、芯部に鞘部を長手方向に取り囲ませるためにスピンビームと紡糸ノズルとの間に分配板を介装し、芯部に高融点重合体またはプロピレン重合体を、鞘部に低融点重合体またはエチレン系重合体をそれぞれのノズル孔側に誘導して紡糸することにより、芯鞘型複合長繊維を製造し、紡糸された複合長繊維を繊維ウェブとベルトとを容易に分離できるように、多孔質の連続ベルトの上に積層して複合長繊維のウェブを形成し、当該繊維ウェブとベルトとを容易に分離するためのエアー噴射装置を備え、この複合長繊維ウェブを部分的に熱圧着し、エンボシング結合により固定したシート状物を、吸引式ドラムにより熱処理ワインディングをすることにより製造するステップを含むことを特徴とする、改善された特性を有する複合スパンボンド長繊維多層不織布の製造方法が開示されている。
【0015】
一方、本発明は、スパンボンド不織布の製造技術を用いて形成した複層の長繊維不織布シートが、熱エンボスロールにより貼り合わせられることで、生産工程が単純化され、製造コストが節減され、且つ、下層ウェブは、低い繊度の繊維により製造された長繊維不織布シートを用いることから、密度が高く、通気度が低いのに対し、上層ウェブは、下層ウェブより高い繊度の繊維により製造された長繊維不織布シートを用いることから、ループ部材を用いた最終製品の生産性が向上し、フックとの安定的な係合力を確保しながら、繰り返し着脱しても耐久性に優れたフックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材を開発するため、鋭意努力した結果、完成するに至ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】韓国公開特許第10−2006−0008831号公報
【特許文献2】韓国公開特許第10−2010−0119107号公報
【特許文献3】韓国登録特許第10−1212426号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10−1319183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来技術において、ループ部材に用いられる不織布は、複層からなる不織布同士を貼り合わせる際に、接着剤方式または熱接着方式などを用いていたため、生産工程が複雑化するという問題があった。
【0018】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、生産工程が単純化された、新規かつ改良されたフックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、複層のスパンボンド長繊維不織布シートからなる長繊維不織布ループ部材において、下層は、繊度1〜2デニールの熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートであり、上層は、繊度4〜6デニールの熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートであり、前記下層及び前記上層は、熱エンボスロールにより貼り合わせられることを特徴とする、フックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材が提供される。
【0020】
前記下層と前記上層が貼り合わせられてなる長繊維不織布シートは、厚さが0.2〜0.5mmであり、目付が30〜60g/m2であってもよい。
【0021】
前記下層及び前記上層は、ポリプロピレン(PP)原糸単独により、またはポリエチレン(PE)原糸を混合して形成された熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートであってもよい。
【0022】
前記熱エンボスロールにより前記下層と貼り合わせられる前記上層には、長手方向または横方向に連続する複数の波打ち状または直線状の融着部及び非融着部が形成されており、前記融着部は、0.5〜1.5mmの幅であり、且つ、3〜5mmおきに形成され、前記融着部が占める面積は、前記融着部が形成される面の面積を基準として10〜35%であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、生産工程が単純化されたフックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るフックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材とその周辺構成を示す斜視図である。
図2】本発明に係るフックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材を示す斜視図である。
図3図2におけるA−A’線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
図1から図3に示すように、本発明に係るフックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材10は、複層のスパンボンド(spunbond)長繊維不織布シートからなる長繊維不織布ループ部材であって、下層S1は、繊度1〜2デニール(denier)の熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートであり、上層S2は、繊度4〜6デニールの熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートであり、下層S1及び上層S2は、熱エンボスロールにより貼り合わせられる。
【0027】
一般に、不織布ウェブ(不織布シート)は、メルトブロー積層(meltblowing)、スパンボンド(spunbonding)、エアスルー接着(air−through bonding)、水流交絡(hydroentangling)、スパンレース(spunlacing)、エアレイ又は空気積層(airlaying)、カーディング(carding)、その他の様々な成形工程により生産可能である。不織布ウェブの目付は、ウェブの用途に応じて異なるが、ほとんどの場合、約300g/m2以下であり、目付は、不織布ウェブの単位面積当たりの全層の重量として算出される。
【0028】
本発明は、スパンボンド不織布の製造技術を用いてループ部材の垂直着脱力(引きはがし強さ)及び水平着脱力(せん断強さ)を向上させたものである。通常、スパンボンド不織布は、熱可塑性樹脂が溶融され、押出され、高速度空気による焼き入れ又は冷却がされ、及び延伸され、筋(繊維)が形成され、これが収集された後、たとえば熱及び圧力パターンを適用することにより結合される、フィラメントからなる不織布を意味する。
【0029】
本発明において用いられる長繊維不織布シートは、基本的にはポリプロピレン(PP)長繊維の低伸度、高強力の特性を用いるものであり、ポリエチレン(PE)長繊維を混合して柔軟性を補うこともできる。
【0030】
本発明では、複層の不織布を提供するために、コンベア上に下層S1及び上層S2を構成するスパンボンド長繊維不織布シートを積層し、熱エンボスロールにより貼り合わせる。
【0031】
すなわち、本発明は、複数のスパンボンド長繊維不織布シートを積層して貼り合わせられてなる長繊維不織布ループ部材であって、異種のメルトブローン不織布またはエアスルー接着不織布を含まず、また貼着されないので、下層S1及び上層S2により形成されるスパンボンド長繊維シート間の接着力が強く、生産工程が単純であるため品質の管理及び物性の制御を容易に行え、その結果、製造コストが節減されるというメリットを有する。
【0032】
積層されたスパンボンド長繊維不織布シートは、力学的特性及び形態安定性を備えさせるために熱的に結合される。具体的には、積層されたスパンボンド長繊維不織布シートは、熱キャリンダー(熱カレンダー)を介して熱及び圧力が与えられて熱融着されシート化される。このときキャリンダーロール(カレンダーロール)の凸部により上層S2には融着部11が形成され下層S1と貼り合わせられる。上層S2に融着部11を形成するキャリンダーロールは、長手方向または横方向に連続する、複数の波打ち状または直線状の凸部パターンを有する熱エンボスロールであり、下層S1と接触するキャリンダーロールは、表面が滑らかな平ロールであってもよい。
【0033】
このとき、キャリンダーロールの温度が所定のレベル以上になると、スパンボンド長繊維不織布シートが加熱ロール(キャリンダーロール)に熱融着され、スパンボンド長繊維不織布シートの生産が不可能となり、また温度が低すぎると、スパンボンド長繊維不織布シートの物性が低下してしまう。このため、キャリンダーロールの熱的温度、つまり表面温度は、樹脂の融点を考慮して、約130℃〜165℃とすることができる。
【0034】
ここで、本発明の説明において用いられる長手方向とは、機械方向(Machine Direction;MD)を指し示すものであり、機械の進行方向を意味する。また横方向とは、横機械方向(Cross−machineDirection;CD)を指し示すものであり、機械の進行方向と直交する方向を意味する。
【0035】
上記熱エンボスロールにより、下層S1と貼り合わせられる上層S2には、長手方向または横方向に連続する複数の波打ち状または直線状の融着部11及び非融着部12が形成される。融着部11は、0.5〜1.5mmの幅であり、且つ、3〜5mmおきに形成され、融着部11が占める面積は、融着部11が形成される面の面積を基準として10〜35%の範囲に設定されることにより、下層S1及び上層S2間の十分な接着力を確保することができるとともに、融着部11により減少する非融着部12の面積も最適な範囲内で確保することができる。
【0036】
フック部材との機械的な結合力が低下せず、下層S1及び上層S2間の分離現象も起こらなく、長期間に亘り繰り返し使用しても糸くずの発生が抑えられ、一般的なフック部材と係合する場合であっても垂直着脱力(peel strength)が1.0N/inch以上に、且つ、水平着脱力(shear strength)が35N/inch以上に保たれる、本発明に係る長繊維不織布ループ部材は、既存製品よりもはるかに優れた性能を発揮する。
【0037】
上述した特性を備えるための最も核心的な技術的特徴として、本発明に係る長繊維不織布ループ部材は、下層S1は繊度1〜2デニール(denier)の熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートにより形成され、上層S2は繊度4〜6デニールの熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートにより形成される。
【0038】
本発明者らは、多数回に亘り施行錯誤を重ねた結果、基材によって支持される層としての役割を果たす下層S1には、低い繊度の繊維により製造された長繊維不織布シートを用いることにより、密度が高く、通気度が低くなり、本発明に係る長繊維不織布ループ部材を真空吸着、搬送して最終製品を製造する際には、位置調節(ポジショニング)が容易に行え、最終製品の組立工程に有用であること、及びフック部との結合層としての役割を果たす上層S2には、下層S1よりも高い繊度の繊維により製造された長繊維不織布シートを用いることにより、垂直着脱力(引き剥がし強さ)及び水平着脱力(せん断強さ)などの性能が向上し、フック部との強い係合力はもとより、繰り返し着脱しても耐久性が良好になることを確認した。
【0039】
参考までに、デニール(denier;D)は、繊維や糸の繊度を表わす単位であり、9,000メートルの繊維または糸の重さをグラム(g)数で表わしたものである。主としてポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系繊維は、1デニールの直径が約0.0124716301cmであることが知られている。ループ部材として汎用されているスパンボンド長繊維不織布の繊維の太さは2.5デニール以下であるが、このような繊度であると、不織布が柔軟性を有することができるためである。一方、メルトブローン不織布を形成する繊維は、0.1〜0.5デニールの太さを有するが、これは繊維が太くなればなるほど、強さ及び肌触りが低下するという欠点があるためである。
【0040】
しかしながら、本発明においては、紡糸及びウェブの製造技術の開発を通して、下層S1は繊度1〜2デニールの熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートにより形成され、上層S2は繊度4〜6デニールの熱可塑性ポリオレフィン系長繊維不織布シートにより形成される。そして下層S1及び上層S2が熱エンボスロールにより熱融着されるが、下層S1と上層S2は同種材料であるため、スパンボンド長繊維不織布シート間の接着力が異種材料間の接着力よりも強く、生産工程が簡単であり、品質の管理及び物性の制御を行い易く、その結果、製造コストが節減される。
【0041】
また、本発明において、下層S1及び上層S2が貼り合わせられてなるスパンボンド長繊維不織布シートは、厚さが0.2〜0.5mmであり、目付が30〜60g/m2であるときに、特にフック部材との着脱性が良好であり、不織布シート表面の柔らかな質感が得られることを見出した。
【0042】
更に、本発明に係る長繊維不織布ループ部材は、各種の使い捨てタイプの製品を製造するときに製造コストが安価であるだけではなく、長時間に亘り繰り返し使用しても糸くずの発生が抑えられることが確認された。なお下層S1及び上層S2には、ポリプロピレン(PP)原糸単独により、またはポリエチレン(PE)原糸を混合した、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により製造される長繊維不織布シートを適用することにより、製品の特性に合ったループ部材を生産することができるということはいうまでもない。
【0043】
以上述べたように、本発明は、複数回に亘っての実験を経て完成したが、以下では、当業者が容易に理解して実施できる最適な実施例を挙げて本発明について説明する。
【0044】
[実施例]
ポリプロピレン樹脂を溶融紡糸して、繊度が1〜2Dに形成された下層S1と、繊度が4〜6Dに形成された上層S2からなる長繊維不織布シートを、それぞれ幅1,000mmで形成し積層した。次に、積層された下層S1及び上層S2の長繊維不織布シートを、上層S2側のロールに波打ち状の模様(パターン)が形成された、熱エンボスロールに供給して熱融着し、厚さが0.26〜0.37mmであり、目付が35〜50g/m2である長繊維不織布ループを製造した。なお上記熱エンボスロールにより上層S2に長手方向に連続して形成される融着部の幅は1.0mmに、且つ、融着部同士の間隔は約4mmに設定し、融着部が占める面積は、融着部が形成される面の面積を基準として約20%、非融着部は約80%とした。下層S1及び上層S2により構成される長繊維不織布シートからなり、本実施例に係る長繊維不織布ループの繊度の組み合わせを表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
[比較例]
現在、市場占有率が最も高い同種の不織布ループ製品を選択し、これを基準として、実施例と比較した。
【0047】
[実験方法]
本実施例及び比較例の製品に対して、目付、厚さ、引きはがし強さ、せん断強さ、通気度などの性能指標を下記に示す方法で測定した。性能指標に対する実験結果の平均値を表2に示す。
−目付:KS K 0514[生地の質量の測定方法:小さな試験片法−試験片の質量(g)/試験片の面積(cm2)×10000]
−厚さ:KS K ISO 9073[テキスタイル−不織布の試験方法−第2部.厚さの測定]
−引きはがし強さ:LK−QC−T001剥離強さ[ループ部及びフック部の間に180°の方向に力を加えて両者間を拡開しながら着脱力を測定する]
−せん断強さ:LK−QC−T002引っ張りせん断強さ[ループ部及びフック部に一直線上の力を加えて着脱力を測定する]
−通気度:KS K ISO 9237[テキスタイル−生地の空気透過度の測定方法−所定の面積、圧力、時間の条件下で試験片に垂直に通過して流れる空気の流れの速度]
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、実施例1から実施例4及び比較例の実験結果を比較したところ、実施例はいずれも比較例よりも引きはがし強さ、せん断強さが高く、特に、実施例4は比較例と略同等体積を有するが、2倍近くに引きはがし強さ、せん断強さが向上していることが分かる。併せて、実施例における通気度は全て400未満に保たれており、最終的な開発目標を達成することが確認された。なお実施例1に比べて、実施例4の場合には、目付が高くなり密度が高くなるため、通気度は下がるが、引きはがし強さ及びせん断強さは向上することが確認できる。
【0050】
また、子供製品に関する安全基準第2017−0118号に準拠して安全性を測定したところ、クロロフェノール(Chlorophenols)0.5mg/kg以下[KS K 0733]、フタレート(Phthalates)0.1%以下[ガスクロマトグラフィ質量分析(GC−MS)方法]、ホルムアルデヒド(Formaldehydes)20mg/kg以下[KS K ISO 14184−1]、重金属(Heavy metals)0.1mg/kg以下、揮発性有機化合物(VOCs)未検出など、全ての測定項目において基準値以内であることが確認された。
【0051】
上述のとおり、本発明に係るフックアンドループ式係合用長繊維不織布ループ部材は、フック部材に繰り返し着脱しても、既存のエンボシング不織布に比べ、垂直着脱力(引き剥がし強さ)及び水平着脱力(せん断強さ)が向上しており、機械的な係合力が強く、糸くずの発生が大幅に低減される。また本発明は、生産工程が単純化され、低コストで製造可能であることに加え、接着剤を使用しないことから環境にも優しく、既存の不織布ループよりも品質が格段に向上し、安全性も確認された。このため本発明は、使い捨てタイプか否かを問わず、おむつはもとより、個人向けの衛生吸収性製品、衣類及びその他の着用物、鞄などを含めた身辺用品、スポーツ用品、保護衣服、成人用の使い捨てタイプのおむつ、乳児用の使い捨てタイプのおむつ、ベッドカバーまたは手術用ガウンなど本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において幅広い用途に使用可能である。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0053】
10 長繊維不織布ループ部材(Filament Non−woven Loop)
20 フック(Hook)
S1 下層
S2 上層
11 融着部
12 非融着部
図1
図2
図3